(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】翼の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 3/10 20060101AFI20220330BHJP
B22F 3/15 20060101ALI20220330BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20220330BHJP
B22F 3/02 20060101ALI20220330BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20220330BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20220330BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
B22F3/10 M
B22F3/15 M
B22F3/14 D
B22F3/02 S
F01D25/00 X
F01D5/28
F02C7/00 D
(21)【出願番号】P 2018062544
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研二
(72)【発明者】
【氏名】蘇武 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】花田 忠之
【審査官】▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-270645(JP,A)
【文献】特開2013-148050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F1/00-12/90
F02B39/00-39/16
F02C1/00-9/58
F01D1/00-25/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼根部と翼部とを有する翼の製造方法であって、
金属粒子を型に向けて噴射し金属射出成形で翼を造形する成形工程と、
少なくとも2つに分割され
、前記翼部の背側に取り付けられる背側治具と、前記翼部の腹側に取り付けられる腹側治具と、を含み、前記翼の形状が内部に形成された型である治具の前記型が形成された面で前記翼を挟み、前記治具を前記翼に取り付ける治具取付工程と、
前記治具を取り付けた前記翼に熱処理を施す熱処理工程と、を備えることを特徴とする翼の製造方法。
【請求項2】
前記治具取付工程は、前記治具が前記翼を挟んだ状態で、前記翼を挟む向きに前記治具を押える押さえ部を前記治具に取り付け、
前記熱処理工程は、前記押さえ部が前記治具に取り付けられた状態で前記熱処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の翼の製造方法。
【請求項3】
前記金属粒子は、チタンアルミ合金で形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の翼の製造方法。
【請求項4】
前記治具は、前記翼と接触する面に絶縁体層が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の翼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、翼の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粉末射出成型法(Metal Injection Molding:以下、適宜MIMと称する)は、生産性及び寸法精度が高いことから、機械部品の製造に広く利用されている。MIMは、金属及び合金の粉末と有機バインダとを混練し、混練したコンパウンドを金型に射出することにより所望の形状の成形体を作成し、成形体から有機バインダを除去し、焼結することで所定形状の焼結体を得る加工方法である。
【0003】
特許文献1には、MIMを適用したタービンホイールの製造方法が記載されている。特許文献1記載のタービンホイールの製造方法は、MIMにより焼結体を得た後に、熱間静水圧加圧処理(Hot Isostatic Pressing:以下、適宜HIP処理と称する)、切削加工及びプレス加工を施すことで、所望の焼結密度および寸法精度のタービンホイールを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、MIMにおける焼結及びHIP処理は、1000℃を超える熱負荷を製品に加えるプロセスであるため、製品が温度変化によって変形してしまう恐れがあった。また、厚みが薄い部材を製造する場合には、熱ひずみによる変形が特に起こり易いという問題があった。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、寸法精度の高い翼を製造することができる翼の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属粒子を型に向けて噴射し金属射出成形で翼を造形する成形工程と、少なくとも2つに分割され、前記翼の形状が内部に形成された型である治具の前記型が形成された面で前記翼を挟み、前記治具を前記翼に取り付ける治具取付工程と、前記治具を取り付けた前記翼に熱処理を施す熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、治具が翼を覆うことで薄肉部の温度低下を防ぐことができ、熱処理工程において熱処理を行う場合に翼に温度差が発生することを抑制でき、翼に発生する熱応力を緩和することができ、熱応力による翼の変形を抑制することができ、寸法精度の高い翼を製造することができる。
【0009】
また、前記治具取付工程は、前記治具が前記翼を挟んだ状態で、前記翼を挟む向きに前記治具を押える押さえ部を前記治具に取り付け、前記熱処理工程は、前記押さえ部が前記治具に取り付けられた状態で前記熱処理を施すことが好ましい。
【0010】
この構成によれば、翼が成形工程において変形した場合でも治具を翼に取り付けることができ、翼が設計寸法の形状に戻るように力を加えた状態で翼に熱処理を施すことができ、翼を設計寸法に矯正することができ、翼の寸法精度を高くすることができる。
【0011】
また、前記金属粒子は、ステンレス鋼、Ni基合金、チタン合金およびチタンアルミ合金で形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、寸法精度の高い翼を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る翼の製造方法により製造されるターボ機械の動翼を示す外形図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る翼の製造方法を示すフローチャートの一例である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る翼の製造方法の治具取付工程の治具と動翼を示す横断面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る翼の製造方法の治具取付工程の治具と動翼を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせることも可能である。
【0015】
図1は、本実施形態に係る翼の製造方法により製造されるターボ機械の動翼10を示す外形図である。
図2は、本実施形態に係る翼の製造方法を示すフローチャートの一例である。
図3及び
図4は、それぞれ本実施形態に係る翼の製造方法の治具取付工程の治具と動翼を示す横断面図である。
【0016】
本実施形態の翼の製造方法により製造される翼は、例えば、ターボ機械の動翼10に適用される。なお、本実施形態では、ターボ機械の動翼10に適用したが、特に限定されず、他のあらゆる翼に適用してもよい。例えば、航空エンジンの動翼・静翼、産業用ガスタービンの動翼および蒸気タービンの動翼に本実施形態の翼の製造方法を適用してもよい。先ず、動翼10の製造方法の説明に先立ち、
図1及び
図3を参照して、動翼10及び動翼10の製造に用いる治具20について説明する。
【0017】
動翼10は、翼根部12と、翼部14と、シュラウド16とを備える。動翼10は、ターボ機械の回転軸にロータディスクを介して固定される翼である。動翼10は、材料がチタン合金であるがこれに限定されない。動翼10の材料は、例えば、ニッケル合金でもよい。
【0018】
翼根部12は、動翼10の回転軸側18の端部に形成される。ここで、回転軸側18とは、動翼10の回転軸が設置される側である。翼根部12は、
図1に示すように、複数の凹凸が形成された形状を有する。翼根部12は、例えば、ロータディスク外周に形成された翼根部12の凹凸形状と一致する開口にはめ込まれる。つまり、翼根部12は、ロータディスクに固定される。
【0019】
翼部14は、回転軸側18の一端部が翼根部12に接続し、他端部がシュラウド16に接続している。翼部14は、薄い板形状を有する。
【0020】
シュラウド16は、動翼10の回転軸側18とは反対方向の端部に形成される。シュラウド16は、隣接する動翼のシュラウドと接触して、動翼10を固定し、動翼10の振動を抑制する部材である。
【0021】
治具20は、背側治具22と、腹側治具24とを有する。治具20は、
図3に示すように、翼部14の設計寸法の形状が内部に形成された型である。治具20は、背側治具22と腹側治具24とが分割可能である。なお、治具20は、背側治具22と腹側治具24とが分割可能であるとしたが、これに限定されない。治具20は、3つ以上の部材に分割可能であるとしてもよい。なお、
図3に示した治具20の断面の外形は、長方形であるが、これに限定されない。治具20の断面の外形は、多角形、円形及び楕円形でもよい。
【0022】
背側治具22は、翼部14の背側の面に取り付けられる型である。ここで、翼部14の背側の面とは、翼部14の負圧面である。背側治具22は、材料がアルミナセラミックスであるがこれに限定されない。背側治具22は、少なくとも翼の製造方法の熱処理工程で適用される温度帯において、硬度が動翼10よりも高い材料で形成されていればよい。背側治具22は、動翼10と接する面にコーティング26が形成されている。コーティング層26は、例えば、イットリアセラミックの溶射膜であるがこれに限定されない。コーティング層26は、少なくとも翼の製造方法の熱処理工程で適用される温度帯において、強度が動翼10よりも高く動翼との反応性が低い材料で形成されていればよい。
【0023】
腹側治具24は、翼部14の腹側の面に取り付けられる型である。ここで、翼部14の腹側の面とは、翼部14が風を受ける側の面である。腹側治具24は、材料がニッケル合金であるがこれに限定されない。腹側治具24は、少なくとも翼の製造方法の熱処理工程で適用される温度帯において、硬度が動翼10よりも高い材料で形成されていればよい。腹側治具24は、動翼10と接する面に絶縁体層28が形成されている。絶縁体層28は、例えば、セラミックの溶射膜であるがこれに限定されない。絶縁体層28は、少なくとも翼の製造方法の熱処理工程で適用される温度帯において、硬度が動翼10よりも高い絶縁性の材料で形成されていればよい。
【0024】
ここで、背側治具22、腹側治具24及びは、線膨張係数が動翼10に用いる材料であるチタンアルミ合金に近い材料で形成されていることが好ましい。ここで、線膨張係数が近いとは、インコネル903であり、その数値を表1に示す。製品形状によっては線膨張係数が異なっていても成形が可能であることから、治具に用いる材料は、セラミックス材料やカーボンでもよい。
【0025】
【0026】
次に、
図2、
図3及び
図4を参照して、上記の動翼10の製造方法について説明する。本実施形態における翼の製造方法は、
図2に示すように、成形工程S1と、治具取付工程S2と、熱処理工程S3と、を順に行っている。
【0027】
成形工程S1では、MIMを用いて、動翼10を造形する。具体的には、金属粒子とバインダとを十分に混練し、コンパウンドを作成する。ここで、金属粒子とは、例えば、チタンアルミ合金粉末である。ここで、バインダとは、例えば、パラフィンワックスである。次に、金型を備える射出成形機を用いて、コンパウンドを金型に向けて噴出し、静携帯を射出成形する。次に、成形体をバインダが揮発する温度域まで加熱し、成形体からバインダを除御する(以下、バインダを除去することを適宜脱脂と称する)。なお、脱脂は、バインダが溶解可能な溶媒に成形体を浸漬することで行ってもよい。次に、所定の焼結温度で成形体を加熱し、成形体を焼結させる。なお、成形体の脱脂を行う前に、射出成形によって生じた線状凸痕跡(パーティングライン)を除去する作業を実行してもよい。ここで、動翼10は、例えば、チタンアルミ合金で形成する。なお、動翼10は、ステンレス鋼、Ni基合金、チタン合金で形成してもよい。
【0028】
治具取付工程S2では、
図3に示すように、動翼10の翼部14に治具20を取り付ける。具体的には、背側治具22及び腹側治具24で翼部14を挟み、治具20を翼部14に取り付ける。つまり、翼部14の周囲を治具20の内部の空間で覆う。内部の空間は、翼部14の設計形状に沿った形状である。ここで、成形工程S1において翼部14が変形し、治具20の形状と翼部14の形状とに所定以上のずれが生じている場合、
図4に示すように、翼部14に治具20を取り付けた後、押さえ部30で治具20を押える。具体的には、背側治具22と腹側治具24との間に翼部14を挟み、背側治具22と腹側治具24とを押さえ部30で押え、腹側及び背側から動翼10を押えるように治具20に力を加え、翼部14に治具20を取り付ける。ここで、押さえ部30とは、例えば、クランプ及び万力である。このように翼部14の変形が大きい場合は、押さえ部30で治具20に力を加え、
図3に示すように、治具20に翼部14が収納された状態とする。
【0029】
熱処理工程S3では、治具20が取り付けられた動翼10に熱処理を行う。熱処理とは、例えば、HIP処理である。ここで、HIP処理は、アルゴン雰囲気下で10MPaから200MPaの圧力及び1000℃を超える熱負荷を被処理物に加える熱処理である。なお、熱処理工程S3における熱処理はHIP処理としたが、これに限定されない。熱処理工程における熱処理は、真空熱処理、常圧熱処理、不活性ガス雰囲気で加熱を行う雰囲気熱処理及び1方向から加圧した状態で加熱を行うホットプレス熱処理でもよい。ここで、熱処理は、成形工程S1の焼結処理よりも低い温度で実行する。所望の機械的特性を得るため種々の条件から熱処理条件を選定する必要があるが、代表的な熱処理としては800℃以上1200℃以下の温度で10時間から100時間の保持を行うことが好ましい。
【0030】
本実施形態に係る翼の製造方法は、治具取付工程S2において翼部14の形状が内部に形成された型である治具20を翼部14に取り付け、熱処理工程S3において熱処理を行う。これにより、治具20が翼部14を覆うことを可能にし、治具20を用いることで熱処理工程S3において翼部14の位置による冷却される速度の差を小さくすることができ、熱処理工程S3において翼部14に温度差が発生することを抑制できる。具体的には、治具20の外側が外部の空間となり、翼部14の厚い部分も薄い部分も治具20を介して放熱することになり、平均的に温度を低下させることができる。これにより、翼部14に発生する熱応力を緩和することができ、熱応力による翼の変形を抑制することができる。このように、翼の変形を抑制でき、冷却も平均化できることで、寸法精度の高い翼を製造することができる。
【0031】
また、翼を、温度変化による変形が起こり易いチタンアルミ合金で形成する場合に特に精度の高い翼を製造することができる。チタンアルミ合金で翼を形成することで、ニッケル合金を翼の材料に適用した場合よりも重量が軽くかつ強度が高い翼を製造することができる。
【0032】
また、本実施形態の翼の製造方法は、成形工程S1において翼部14が変形した場合に、治具取付工程S2において、背側治具22と腹側治具24との間に翼部14を挟み、背側治具22と腹側治具24とを押さえ部30で押え、腹側及び背側から動翼10を押えるように治具20に力を加え、翼部14に治具20を取り付け、熱処理工程S3において、治具20が取り付けられた翼部14に熱処理を行う。これにより、翼部14が成形工程S1において変形した場合でも、翼部14を設計寸法により近い形状に戻した状態で翼部14に熱処理を施すことができ、翼部14を設計寸法に矯正することができ、翼部14の寸法精度を高くすることができる。
【0033】
また、本実施形態の翼の製造方法は、治具取付工程S2において、翼部14と接触する部分に絶縁体層26、28が形成されている治具20を翼部14に取り付ける。これにより、翼部14と治具20との間に絶縁体を介在させることを可能にし、翼部14と治具20とを電気的に絶縁させることができ、翼部14と治具20との間に生じる電蝕を防ぐことができ、より高い品質の翼を製造することができる。
【0034】
また、本実施形態の翼の製造方法は、成形工程S1において、MIMを用いて、動翼10を造形する。これにより、鋳造による製造に比べて高い寸法精度で動翼10を製造することを可能にし、生産性を向上させることができ、製造コストを低減させることができる。
【符号の説明】
【0035】
10 動翼
12 根翼部
14 翼部
16 シュラウド
18 回転軸側
20 治具
22 背側治具
24 腹側治具
26、28 絶縁体層
30 押さえ部