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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】微生物培養用の寒天培地
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/00 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
C12N1/00 F
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018079574
(22)【出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2018183136
(43)【公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2017086509
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000120456
【氏名又は名称】栄研化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小松 理
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/167373(WO,A1)
【文献】特開2003-023977(JP,A)
【文献】特開2011-125263(JP,A)
【文献】特開2008-307028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 - 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも(a)および(b)を固化成分として含有することを特徴とする、微生物の培養に用いる固体培地。
(a)重量平均分子量が30万~45万である寒天、
(b)重量平均分子量が15万以下である低分子量寒天。
【請求項2】
前記低分子量寒天の重量平均分子量が2万~15万であることを特徴とする請求項1に記載の固体培地。
【請求項3】
前記重量平均分子量が30万~45万である寒天の含有量(A)に対する前記低分子量寒天の含有量(B)の比が0.05以上0.5以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の固体培地。
【請求項4】
微生物の培養に用いる固体培地の製造方法であって、固化成分として(a)および(b)を使用することを特徴とする固体培地の製造方法。
(a)重量平均分子量が30万~45万である寒天、
(b)重量平均分子量が15万以下である低分子量寒天。
【請求項5】
前記低分子量寒天の重量平均分子量が2万~15万であることを特徴とする請求項4に記載の固体培地の製造方法。
【請求項6】
前記重量平均分子量が30万~45万である寒天の含有量(A)に対する前記低分子量寒天の含有量(B)の比が0.05以上0.5以下であることを特徴とする請求項4または5に記載の固体培地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物を培養する寒天培地、すなわち固化成分として寒天を含有する固体培地およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
細菌、真菌などの微生物の検査は、臨床分野や獣医学分野における感染症診断の他、食品分野、環境分野における食中毒菌、衛生指標菌の検出などを目的として幅広い分野で実施されている。近年は、遺伝子法や免疫学的方法による迅速検査や自動分析機器が普及してきているものの、培養法により微生物の分離・同定を行うことは現在もなお微生物検査の基本である。
【0003】
固化成分として寒天を使用する固体培地は、微生物の単離、鑑別用培地として使用され、また、薬剤感受性試験のディスク拡散法においても使用される。さらに、遺伝子法や直接EIA法などのための試料調製を目的に、固体培地を使用する増菌培養が実施されることも多い。
【0004】
寒天は、ガラクトースを基本骨格とする直鎖の多糖類であり、紅藻のうちテングサ属やオゴノリ属の海藻を原料として得られる。熱可塑性であり、蒸留水を加えて加熱溶解すると100℃前後で液化(ゾル化)し、それを冷却すると35~45℃付近で固化(ゲル化)する。
【0005】
固体培地に含有されている寒天は、三次元の網目構造を形成してゲル状態で存在しているが、その網目構造中に多量の水分を蓄えていると考えられている。蓄えられた水は時間の経過によって、また、保存温度の変化に晒されることによって寒天から遊離する。遊離して出てきた水を一般に離水と呼び、容器内の固体培地の寒天ゲルの表面の離水が容器内で蒸発し、その水蒸気が凝結して容器の内壁や寒天ゲル表面に付着した水を凝水と呼ぶ。本明細書においては以下、特に断りの無い限り、離水と凝水を区別せずに凝水という。
【0006】
固体培地の寒天ゲルの表面の凝水が多いと、培地に生育した菌が流れてコロニーが形成されないことや、コロニーを形成したとしてもコロニーの拡散やコロニー同士の融合により菌の分離が困難になること、その他、雑菌の混入(コンタミネーション)などの問題が生じ得る。
【0007】
寒天培地の凝水の問題を回避する方法として、検体を接種する前に、平板培地の表面に付着している水滴を無菌的に乾燥させる方法がある。その場合、通常、35~37℃のインキュベーター中で、シャーレを倒置し、蓋の上に少し開くように本体の方を傾けて置いて培地表面を乾燥させる(非特許文献1)。乾燥時間は30~60分程度であるが、インキュベーターの棚の置き場所によって乾燥に要する時間が異なるため、複数の平板培地の表面を適度な乾燥状態にするためには、乾燥中にインキュベーターの棚の上のシャーレの位置を換える作業が必要になる。また、培地の種類によってはインキュベーター中に置いても乾燥しにくいものもある。そのため、凝水が出にくい寒天培地が望まれている。
【0008】
血液寒天培地の離水を抑制するために、血液寒天培地に高濃度(20~40%)のトレハロースを添加する方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、トレハロースは価格が高価なため、トレハロースを高濃度で含有する培地は高コストであるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2011-125263号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】微生物検査ナビ,第2版,p.8,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の現状に鑑みてなされたものであり、凝水が抑制され、調製が容易な微生物培養用の寒天培地およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、従来、微生物培養用の寒天培地で使用されている重量平均分子量が30万~45万である寒天(以下、従来の微生物培養用の寒天という。)を固化成分とする寒天培地に、重量平均分子量が15万以下、特に2万~15万である低分子量寒天を固化成分として添加することにより、4℃~25℃の保存温度の変化に晒した場合に培地表面に付着する凝水が抑制されることを新たに見出した。さらに、本発明者は、重量平均分子量が2万~15万である低分子量寒天の添加量を、重量平均分子量が30万~45万である従来の微生物培養用の寒天の含有量に対して5%~50%の割合とすることにより、凝水を抑制しつつ培地表面をコロニー形成に適切な状態に保ち、コロニーの微小化を抑えることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のような構成からなるものである。
(1)少なくとも(a)および(b)を固化成分として含有することを特徴とする、微生物の培養に用いる固体培地。
(a)重量平均分子量が30万~45万である寒天、
(b)重量平均分子量が15万以下である低分子量寒天。
(2)前記低分子量寒天の重量平均分子量が2万~15万であることを特徴とする(1)に記載の固体培地。
(3)前記重量平均分子量が30万~45万である寒天の含有量(A)に対する前記低分子量寒天の含有量(B)の比が0.05以上0.5以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の固体培地。
(4)微生物の培養に用いる固体培地の製造方法であって、固化成分として(a)および(b)を使用することを特徴とする固体培地の製造方法。
(a)重量平均分子量が30万~45万である寒天、
(b)重量平均分子量が15万以下である低分子量寒天。
(5)前記低分子量寒天の重量平均分子量が2万~15万であることを特徴とする(4)に記載の固体培地の製造方法。
(6)前記重量平均分子量が30万~45万である寒天の含有量(A)に対する前記低分子量寒天の含有量(B)の比が0.05以上0.5以下であることを特徴とする(4)または(5)に記載の固体培地の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、固化成分として従来の微生物培養用の寒天を使用する固体培地に、重量平均分子量が15万以下、特に2万~15万である低分子量寒天を固化成分として添加することによって、ゲル状態の寒天の三次元網目構造の中に低分子量の寒天が入り込んで網目構造を補強し、離水が抑制され、結果として凝水を抑制可能な寒天培地とすることができる。
【0015】
さらに、重量平均分子量が2万~15万である低分子量寒天の添加量を重量平均分子量が30万~45万である従来の微生物培養用の寒天の含有量に対して5%~50%の割合とすることにより、凝水を抑制しつつ培地表面をコロニー形成に適した状態とし、コロニーの微小化を抑えることができる。
【0016】
また、本発明によれば、従来の微生物培養用の寒天を固化成分として使用する固体培地に、重量平均分子量が2万~15万である低分子量寒天を固化成分として添加することにより固体培地を製造することができるため、特別な操作を要することなく、容易に培地を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の固体培地は、従来の微生物培養用の寒天に加えて、重量平均分子量が15万以下、特に2万~15万である低分子量寒天を固化成分として含有することを特徴とする。低分子量寒天を添加すると、ゲル状態において従来の微生物培養用の寒天が形成する三次元の網目構造の中に低分子量の寒天が入り込み、網目構造を複雑化して補強する。それにより、網目構造が保持できる水分量が増え、かつ、温度変化による網目構造の変化が起きにくくなることで離水が抑制され、結果として凝水を抑制可能になる。後に実施例で示す様に、重量平均分子量2万~15万の低分子量寒天を用いることで前記の効果が得られる。
実際に微生物を培養する際には、従来の微生物培養用の寒天を含有する基礎培地の成分に加えて重量平均分子量が15万以下、特に2万~15万である低分子量寒天を添加したものを本発明の培地として用いることができる。なお、寒天の重量平均分子量の測定方法は特に限定されないが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)により測定することができる。具体的には、国際公開第2016/167373号公報に記載されているように、寒天を0.15%濃度となるよう精製水に懸濁し、95℃~97℃で加温溶解後、50℃に冷却し、カラム(TOSOH TSK-GEL for HPLC,TSK-GEL GMPWXL等)を使用し、分子量既知のプルランを標準物質として測定することができる。
【0018】
本発明で使用する低分子量寒天の重量平均分子量は2万~15万であり、ゼリー強度(1.5%濃度のゲル。以下、濃度の記載は省略する。)は30~220g/cm程度である。凝水抑制効果を高めるために、添加する低分子量寒天の重量平均分子量を2万~12万とすることが好ましく、7万~12万とすることがより好ましく、8万~11万とすることがさらに好ましく、9万~10.5万とすることがよりさらに好ましく、9.5万~10.2万とすることが特に好ましい。また、低分子量寒天の重量平均分子量が2万~12万である場合は、ゼリー強度が30~180g/cmであることが好ましく、低分子量寒天の重量平均分子量が7万~12万である場合は、ゼリー強度が100~180g/cmであることが好ましく、低分子量寒天の重量平均分子量が8万~11万である場合は、ゼリー強度は120~170g/cmであることが好ましく、低分子量寒天の重量平均分子量が9万~10.5万である場合は、ゼリー強度が130~160g/cmであることが好ましく、低分子量寒天の重量平均分子量が9.5万~10.2万である場合は、ゼリー強度が140~150g/cmであることが好ましい。
【0019】
本発明で使用する低分子量寒天は、重量平均分子量2万~15万である。製造方法は特に限定されないが、特開平5-317008号公報や特開平10-146174号公報に記載されているように、重量平均分子量が約20万~約40万である市販の一般的な寒天の製造工程に酸処理や熱処理、酵素処理などにより寒天分子を切断する工程を追加することにより製造されたものであっても良い。使用する酸濃度、加熱温度などを調節することにより分子量やゼリー強度を適宜調節する技術も公知である(梅村澄夫ら,低分子量寒天の開発と利用に関する研究(第1報),岐阜県産業技術センター研究報告,2009)。
なお、本発明で使用できる市販の低分子量寒天としては、例えば、ウルトラ寒天AX-30(伊那食品工業株式会社、ゼリー強度:30~60g/cm)、ウルトラ寒天AX-100(伊那食品工業株式会社製、ゼリー強度:100~150g/cm)、ウルトラ寒天BX-30(伊那食品工業株式会社製、ゼリー強度:30~60g/cm)、ウルトラ寒天BX-100(伊那食品工業株式会社製、ゼリー強度:100~150g/cm)、ウルトラ寒天UX-30(伊那食品工業株式会社製、ゼリー強度:30~60g/cm)、ウルトラ寒天UX-100(伊那食品工業株式会社、ゼリー強度:100~150g/cm)などが挙げられる。
【0020】
従来の微生物培養用の寒天の重量平均分子量は約40万、より詳細には30万~45万程度であり、ゼリー強度は500~800g/cm程度である。本発明において寒天培地に固化成分として使用する従来の微生物培養用の寒天の量は、それぞれの培地に応じて適宜選択すれば良いが、例えば培地1L当たり8g~20gの範囲から適宜含有量を選択できる。
【0021】
後に実施例に示す様に、従来の微生物培養用の寒天の含有量を一定にし、重量平均分子量2万~15万の低分子量寒天の添加量を変化させると、低分子量寒天の添加量が増加するのに伴い、凝水量が減少する傾向がある。凝水量が減少すれば、発育したコロニーが流れてコロニーが形成されない問題が改善される。一方、低分子量寒天の添加によりゼリー強度が大きく上昇する(低分子量寒天を添加していない培地と比較したゼリー強度の上昇値が約100g/cmを超える)と、発育した微生物のコロニー形成状態(拡がり状態)に影響し、コロニーが微小化する傾向がある。
そのため、本発明の固体培地で使用する低分子量寒天の添加量は、凝水量およびゼリー強度の両面において培地表面をコロニー形成に適切な状態に保ち、コロニーの微小化を抑えつつ凝水を抑制できる範囲とすることが好ましい。当業者であれば本発明の実施例を参考にして低分子量寒天の添加量を設定することができる。例えば、培地1L当たりの低分子量寒天の添加量を0.8g以上とすることが好ましく、1g以上とすることがより好ましく、2g以上とすることがさらに好ましく、2.5g以上とすることがよりさらに好ましい。また、培地1L当たりの低分子量寒天の添加量を7.5g以下とすることが好ましく、6g以下とすることがより好ましく、5g以下とすることがさらに好ましいが、低分子量寒天の添加によるゼリー強度の上昇に起因するコロニーの微小化の状況に応じて、適宜、低分子量寒天の添加量を4g以下、3.5g以下などとすることができる。
【0022】
本発明の固体培地において使用する従来の微生物培養用の寒天の含有量(A)に対する低分子量寒天の添加量(B)の比(B/A)は、培地表面をコロニー形成に適切な状態に保ち、コロニーの微小化を抑えつつ凝水を抑制できる範囲とすることが好ましい。例えば、本発明の固体培地において使用する従来の微生物培養用の寒天の含有量(A)に対する低分子量寒天の添加量(B)の比(B/A)を、0.05以上(例えば0.8g/15g)とすることが好ましいが、0.1以上(例えば1.5g/15g)とすることがより好ましく、0.12以上(例えば1.8g/15g)とすることがさらに好ましく、0.14以上(例えば2.1g/15g)とすることがよりさらに好ましく、0.16以上(例えば2.5g/15g)とすることが特に好ましい。また、従来の微生物培養用の寒天の含有量(A)に対する低分子量寒天の添加量(B)の比(B/A)は、0.5以下(例えば7.5g/15g)とすることが好ましく、0.4以下(例えば6g/15g)とすることがより好ましく、0.34以下(例えば5g/15g)とすることがさらに好ましいが、低分子量寒天の添加によるゼリー強度の上昇に起因するコロニーの微小化の状況に応じて、適宜、0.3以下(例えば4.5g/15g)、0.27以下(例えば4g/15g)、0.25以下(例えば3.7g/15g)、0.23以下(例えば3.4g/15g)、0.2以下(例えば3.0g/15g)などとすることができる。
【0023】
本発明の固体培地において培養の対象となる微生物は、寒天培地に生育し得る細菌または真菌である。細菌の具体例として、Staphylococcus属菌、Streptococcus属菌、Enterococcus属菌、Bacillus属菌、Corynebacterium属菌、Listeria属菌、Peptococcus属菌、Clostridium属菌、Eubacterium属菌、Propionibacterium属菌、Lactobacillus属菌、Actinomyces属菌、Nocardia属菌、Mycobacterium属菌などのグラム陽性菌、Neisseria属菌、Branhamella属菌、Haemophilus属菌、Escherichia属菌、Salmonella属菌、Shigella属菌、Klebsiella属菌、Bordetella属菌、Enterobacter属菌、Serratia属菌、Campylobacter属菌、Vibrio属菌、Pseudomonas属菌、Aeromonas属菌、Acinetobacter属菌、Brucella属菌、Legionella属菌、Citrobacter属菌、Hafnia属菌、Proteus属菌、Morganella属菌、Providencia属菌、Yersinia属菌、Xanthomonas属菌、Flavobacterium属菌、Helicobacter属菌、Veillonella属菌、Bacteroides属菌、Fusobacterium属菌、Treponema属菌、Leptospira属菌、Mycoplasma属菌、Ureaplasma属菌などのグラム陰性菌が挙げられ、真菌の具体例として、Aspergillus属菌、Candida属菌、Cryptococcus属菌、Mucor属菌、Mortierella属菌、Trichophyton属菌、Histoplasma属菌などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
本発明の固体培地の基礎培地となる培地は、細菌、真菌が発育可能な寒天培地である。具体例として普通寒天培地、標準寒天培地、トリプトソイ寒天培地(SCD寒天培地)、血液寒天培地、チョコレート寒天培地、マンニット食塩培地、エッグヨーク食塩寒天培地、スタフィロコッカスNo.110培地、マッコンキー寒天培地、CT-SMAC寒天培地、ドリガルスキー寒天培地(DRIG培地)、ドリガルスキー改良培地(BTB乳糖寒天培地)、デスオキシコーレイト寒天培地、DHL寒天培地、ハートインフュジョン寒天培地、ブレインハートインフュジョン寒天培地、SSB寒天培地、サルモネラ・シゲラ寒天培地(SS寒天培地)、TCBS寒天培地、ビブリオ寒天培地、TSI寒天培地、クリグラー寒天培地、アルギニン・グリセロール・塩類寒天培地(AGS寒天培地)、ベアードパーカー寒天培地、NAC寒天培地、スキロー培地、NGKG寒天培地、ミュラーヒントン寒天培地、サブロー寒天培地、ポテトデキストロース寒天培地、カンジダ寒天培地などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
本発明の固体培地は、固化成分として従来の微生物培養用の寒天に加えて重量平均分子量2万~15万の低分子量寒天を使用することにより製造することができる。後に実施例に示す様に、固化成分として従来の微生物培養用の寒天に加えて重量平均分子量2万~15万の低分子量寒天を添加する以外は、基礎培地となる培地の製造方法と同様の工程を経て製造され得る。すなわち、固化成分として(a)重量平均分子量が30万から45万である寒天、および(b)重量平均分子量2万~15万の低分子量寒天、を使用して調製した培地成分溶液に滅菌処理を施した後、シャーレなどの容器に分注して固化することにより製造することができる。
【0026】
本発明に使用される試料は、細菌、真菌を含む可能性のある試料であれば特に限定されない。ヒト、他の動物の生体由来、食品、環境由来の検体、それらの培養液、さらには、医薬品、化粧品の成分などが試料として挙げられる。これらの試料は、抽出、濃縮などの前処理を行っても良い。
【0027】
本発明の固体培地は、必要に応じて、分離対象とする微生物に適した発色酵素基質、分離対象とする微生物以外の発育を抑制するための選択剤、その他の成分をさらに添加することもできる。通常、選択分離培地で使用され得る成分の種類、濃度における添加であれば、本発明の効果に影響することはない。
【0028】
本発明の固体培地は、微生物の単離、鑑別用培地としての使用の他に、薬剤感受性試験のディスク拡散法においても使用することができ、さらには、遺伝子法や直接EIA法などのための試料調製を目的にした、増菌培養用の培地としても使用することができる。
【0029】
本発明の固体培地の形態は特に限定されないが、優れた凝水抑制効果という観点から、平板固形培地の形態が最も好ましい。
【実施例
【0030】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
(血液寒天培地における凝水試験)
羊血液寒天培地を基礎培地とし、低分子量寒天SW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)を添加して凝水抑制効果を調べた。
【0032】
(1)培地の準備
以下の表1に示した培地成分1を秤量し、以下の(2)で羊血液を添加した後の培地量が2Lとなるように精製水に懸濁後、121℃で15分間高圧滅菌した。従来の微生物培養用の寒天と低分子量寒天を区別するため、表1において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SWを寒天Bと記載する。
【0033】
【表1】
【0034】
(2)羊血液の添加
高圧滅菌後、培地を50℃に冷却した後、予め無菌的に採取した羊脱繊維血液を、培地1L当たり50mLとなるように添加した。その後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。
【0035】
(3)凝水量の測定
(1)、(2)で調製した培地入りシャーレを4℃、倒置にて20時間保存した後、25℃、倒置にてシャーレを30分間放置し、その後、培地入りシャーレの重量を電子天秤にて測定した。続いてシャーレを縦置きにして30分間放置して培地表面に滲み出た水を濾紙によって拭き取った後、再び培地入りシャーレの重量を測定し、(滲み出た水の拭き取り前のシャーレの重量)-(滲み出た水を拭き取った後のシャーレの重量)を凝水量として算出した。
なお、低分子量寒天SWの各添加量につき10枚のシャーレを凝水試験対象とし、重量の測定はシャーレ1枚毎に行った。
【0036】
(4)培地のゼリー強度の測定
(1)、(2)で調製した培地を上記(3)の凝水量測定用のものとは別に用意し、20℃の恒温槽にて20時間保存した後、レオメーター(FUDOH RHEO METER RTC-3002D)(株式会社レイテック製)の測定部が培地に1mm侵入する強度をゼリー強度として測定した。なお、低分子量寒天SWの各添加量につきシャーレ1枚をゼリー強度測定の対象とし、1枚のシャーレの3箇所を測定して平均値をゼリー強度として算出した。
【0037】
(5)結果
培地の凝水量およびゼリー強度の測定結果を表2に示す。凝水量の測定結果は、低分子量寒天SWの各添加量における平均凝水量を、低分子量寒天SWを添加していない培地(No.1)の平均凝水量と比較した凝水削減量および凝水削減率とともに表示し、また、ゼリー強度は、低分子量寒天SWを添加していない培地(No.1)のゼリー強度からの上昇値とともに表示している。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示した様に、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が1gの培地(No.2)においても、低分子量寒天SWを添加していない培地(No.1)の凝水量と比較した削減率は64.6%という良好な値であった。また、凝水削減率は低分子量寒天SWの添加量の増加に伴い上昇し、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が3g以上の培地では76.0%以上という非常に良好な凝水削減率を示した。一方、ゼリー強度は、低分子量寒天SWの添加量の増加に伴い上昇し、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が4gの培地(No.5)では、低分子量寒天SWを添加していない培地(No.1)のゼリー強度よりも110g/cm高い値を示した。また、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が5gの培地(No.6)のゼリー強度は700g/cmを超えていた。
【実施例2】
【0040】
(血液寒天培地における培養試験)
羊血液寒天培地を基礎培地として低分子量寒天SW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)を添加した培地にStreptococcus pyogenesStreptococcus agalactiaeStreptococcus intermediusStreptococcus pneumoniaeStreptococcus Group G、Enterobacter cloacaeMoraxella catarrhalisStaphylococcus aureusを接種し、菌の発育状況を調べた。
【0041】
(1)培地の準備
以下の表3に示した培地成分2を秤量し、以下の(2)で羊血液を添加した後の培地量が3Lとなるように精製水に懸濁後、121℃で15分間高圧滅菌した。表3において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SWを寒天Bと記載する。
【0042】
【表3】
【0043】
(2)羊血液の添加
高圧滅菌後、培地を50℃に冷却した後、予め無菌的に採取した羊脱繊維血液を、培地1L当たり50mLとなるように添加した。その後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。
【0044】
(3)細菌の接種と培養
前培養した各菌株を滅菌生理食塩水に懸濁し、McFarland No. 1の菌液を作製した。その後、前記菌液を(1)、(2)で調製した培地に画線し、35℃で18時間、5%炭酸ガス環境下での培養または好気培養を行い、発育した細菌のコロニーサイズを測定した。なお、シャーレ1枚につき1菌株を接種して培養試験を行い、優勢に発育した1コロニーを代表としてサイズの測定を行った。
【0045】
(4)結果
5%炭酸ガス環境下での培養により発育したコロニーのサイズを表4に、また、好気培養により発育したコロニーのサイズを表5に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
【表5】
【0048】
表4および5に示した様に、5%炭酸ガス環境下での培養、好気培養のいずれにおいても、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が3gの培地では低分子量寒天SWを添加していない培地と同等のコロニーサイズであったが、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が4gの培地ではコロニーサイズが小さくなる傾向が見られ、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が5gの培地では、コロニーサイズがさらに小さくなっていた。
【0049】
実施例1の結果(表2)によると、培地1L当たりの低分子量寒天SWの添加量が4g、5gの培地では、低分子量寒天SWを添加していない培地と比較したゼリー強度の上昇値がそれぞれ110g/cm、150g/cmであることから、低分子量寒天を添加していない培地と比較してゼリー強度が約100g/cm以上上昇している培地(低分子量寒天SWの場合には、培地1L当たりの添加量が4g以上の培地)ではゼリー強度が上昇する程、コロニーが小さくなることが示唆された。
【実施例3】
【0050】
(低分子量寒天SWのゼリー強度測定)
低分子量寒天SW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万)の3種類のロットについて、ゼリー強度を調べた。
【0051】
(1)寒天ゲルの準備
各ロットの低分子量寒天SWを1.5%濃度となるように精製水に懸濁し、pHを7.0に調整した。寒天懸濁液を100℃で40分間加温溶解した。50℃に冷却した後、18mLずつシャーレに分注して固化した。
【0052】
(2)ゼリー強度の測定
(1)で調製した寒天ゲルを20℃の恒温槽にて20時間保存した後、レオメーター(FUDOH RHEO METER RTC-3002D)(株式会社レイテック製)の測定部が培地に1mm侵入する強度をゼリー強度として測定した。なお、低分子量寒天SWの各添加量につきシャーレ1枚をゼリー強度測定の対象とし、1枚のシャーレの3箇所を測定して平均値をゼリー強度として算出した。
【0053】
(3)結果
寒天ゲルのゼリー強度の測定結果を溶液のpH実測値とともに表6に示す。
【0054】
【表6】
【0055】
低分子量寒天SWのゼリー強度は、表6に示したとおり、140/cmまたは150g/cmであった。
【実施例4】
【0056】
(低分子量寒天添加培地の経時変化試験1)
羊血液寒天培地を基礎培地とし、低分子量寒天SW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)を添加して調製後、10℃、倒置にて3.5ヶ月保存した培地における凝水試験を行った。
【0057】
(1)培地の準備
以下の表7に示した培地成分3を秤量し、以下の(2)で羊血液を添加した後の培地量が1Lとなるように精製水に懸濁後、121℃で15分間高圧滅菌した。従来の微生物培養用の寒天と低分子量寒天を区別するため、表7において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SWを寒天Bと記載する。
【0058】
【表7】
【0059】
(2)羊血液の添加
高圧滅菌後、培地を50℃に冷却した後、予め無菌的に採取した羊脱繊維血液を、培地1L当たり50mLとなるように添加した。その後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。
【0060】
(3)凝水量の測定
(1)、(2)で調製した培地入りシャーレを10℃、倒置にて3.5ヶ月保存した(培地調製日、保存開始日とも2016年12月8日)。その後、4℃、倒置にて20時間保存した後、25℃、倒置にてシャーレを30分間放置し、その後、培地入りシャーレの重量を電子天秤にて測定した。続いてシャーレを縦置きにして30分間放置して培地表面に滲み出た水を濾紙によって拭き取った後、再び培地入りシャーレの重量を測定し、(滲み出た水の拭き取り前のシャーレの重量)-(滲み出た水を拭き取った後のシャーレの重量)を凝水量として算出した(凝水量測定日は2017年3月22日)。
なお、低分子量寒天SWの各添加量につき9枚のシャーレを凝水試験対象とし、重量の測定はシャーレ1枚毎に行った。
【0061】
(4)結果
培地の凝水量の測定結果を表8に示す。
【0062】
【表8】
【0063】
表8に示した様に、10℃にて3.5ヶ月保存後において、低分子量寒天SWの添加培地の凝水量は、良好に抑制されていた。
【実施例5】
【0064】
(ドリガルスキー改良培地における凝水試験)
ドリガルスキー改良培地(BTB乳糖寒天培地)を基礎培地とし、低分子量寒天SW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)を添加して凝水抑制効果を調べた。
【0065】
(1)培地の準備
以下の表9に示した培地成分4を秤量し、精製水に懸濁後、121℃で15分間高圧滅菌した。滅菌後、50℃に冷却した後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。なお、従来の微生物培養用の寒天と低分子量寒天を区別するため、表9において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SWを寒天Bと記載する。
【0066】
【表9】
【0067】
(2)凝水量の測定
(1)で調製した培地入りシャーレを4℃、倒置にて20時間保存した後、25℃、倒置にてシャーレを30分間放置し、その後、培地入りシャーレの重量を電子天秤にて測定した。続いてシャーレを縦置きにして30分間放置して培地表面に滲み出た水を濾紙によって拭き取った後、再び培地入りシャーレの重量を測定し、(滲み出た水の拭き取り前のシャーレの重量)-(滲み出た水を拭き取った後のシャーレの重量)を凝水量として算出した。
なお、低分子量寒天SWの各添加量につき10枚のシャーレを凝水試験対象とし、重量の測定はシャーレ1枚毎に行った。
【0068】
(3)結果
低分子量寒天SWを添加した培地の平均凝水量を、低分子量寒天SWを添加していない培地の平均凝水量と比較した凝水削減量および凝水削減率とともに表10に示す。
【0069】
【表10】
【0070】
表10に示した様に、ドリガルスキー改良培地(BTB乳糖寒天培地)を基礎培地とした場合も、低分子量寒天SWの添加による凝水抑制効果が認められた。
【実施例6】
【0071】
(カンジダ鑑別用寒天培地における凝水試験)
カンジダ鑑別用寒天培地を基礎培地とし、低分子量寒天SW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)を添加して凝水抑制効果を調べた。
【0072】
(1)培地の準備
以下の表11に示した培地成分5を秤量し、精製水に懸濁後、100℃で40分間加温溶解した。50℃に冷却した後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。なお、従来の微生物培養用の寒天と低分子量寒天を区別するため、表11において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SWを寒天Bと記載する。
【0073】
【表11】
【0074】
(2)凝水量の測定
(1)で調製した培地入りシャーレを4℃、倒置にて20時間保存した後、25℃、倒置にてシャーレを30分間放置し、その後、培地入りシャーレの重量を電子天秤にて測定した。続いてシャーレを縦置きにして30分間放置して培地表面に滲み出た水を濾紙によって拭き取った後、再び培地入りシャーレの重量を測定し、(滲み出た水の拭き取り前のシャーレの重量)-(滲み出た水を拭き取った後のシャーレの重量)を凝水量として算出した。
なお、低分子量寒天SWの各添加量につき10枚のシャーレを凝水試験対象とし、重量の測定はシャーレ1枚毎に行った。
【0075】
(3)結果
低分子量寒天SWを添加した培地の平均凝水量を、低分子量寒天SWを添加していない培地の平均凝水量と比較した凝水削減量および凝水削減率とともに表12に示す。
【0076】
【表12】
【0077】
表12に示した様に、カンジダ鑑別用寒天培地を基礎培地とした場合も、低分子量寒天SWの添加による凝水抑制効果が認められた。
【実施例7】
【0078】
(低分子量寒天の種類の検討1)
羊血液寒天培地を基礎培地とし、低分子量寒天であるSW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)またはウルトラ寒天BX-30(伊那食品工業株式会社製、重量平均分子量:2万~5万程度、ゼリー強度:30~60g/cm)を添加して凝水抑制効果を調べた。
【0079】
(1)培地の準備
以下の表13に示した培地成分6を秤量し、以下の(2)で羊血液を添加した後の培地量が1Lとなるように精製水に懸濁後、121℃で15分間高圧滅菌した。従来の微生物培養用の寒天と低分子量寒天を区別するため、表13において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SWまたはウルトラ寒天BX-30を寒天Bと記載する。
【0080】
【表13】
【0081】
(2)羊血液の添加
高圧滅菌後、培地を50℃に冷却した後、予め無菌的に採取した羊脱繊維血液を、培地1L当たり50mLとなるように添加した。その後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。
【0082】
(3)凝水量の測定
(1)、(2)で調製した培地入りシャーレを4℃、倒置にて20時間保存した後、25℃、倒置にてシャーレを30分間放置し、その後、培地入りシャーレの重量を電子天秤にて測定した。続いてシャーレを縦置きにして30分間放置して培地表面に滲み出た水を濾紙によって拭き取った後、再び培地入りシャーレの重量を測定し、(滲み出た水の拭き取り前のシャーレの重量)-(滲み出た水を拭き取った後のシャーレの重量)を凝水量として算出した。
なお、低分子量寒天の各添加量につき9枚のシャーレを凝水試験対象とし、重量の測定はシャーレ1枚毎に行った。
【0083】
(4)培地のゼリー強度の測定
(1)、(2)で調製した培地を上記(3)の凝水量測定用のものとは別に用意し、20℃の恒温槽にて20時間保存した後、レオメーター(FUDOH RHEO METER RTC-3002D)(株式会社レイテック製)の測定部が培地に1mm侵入する強度をゼリー強度として測定した。なお、低分子量寒天の各添加量につきシャーレ1枚をゼリー強度測定の対象とし、1枚のシャーレの3箇所を測定して平均値をゼリー強度として算出した。
【0084】
(5)結果
培地の凝水量およびゼリー強度の測定結果を表14に示す。凝水量の測定結果は、寒天B(低分子量寒天SWまたはウルトラ寒天BX-30)の各添加量における平均凝水量を、寒天Bを添加していない培地の平均凝水量と比較した凝水削減量および凝水削減率とともに表示し、また、ゼリー強度は、寒天Bを添加していない培地のゼリー強度からの上昇値とともに表示している。
【0085】
【表14】
【0086】
表14に示した様に、低分子量寒天SWを添加した場合、ウルトラ寒天BX-30を添加した場合ともに良好な凝水抑制効果が認められた。また、ウルトラ寒天BX-30は、培地1L当たりの添加量が4g、5gの場合もゼリー強度の上昇値が10g/cmと小さいため、この程度の添加濃度では発育した菌のコロニー形成状態(拡がり状態)には影響しないと考えられた。
【実施例8】
【0087】
(低分子量寒天の種類の検討2)
羊血液寒天培地を基礎培地とし、低分子量寒天であるSW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)、ウルトラ寒天BX-30(伊那食品工業株式会社製、重量平均分子量:2万~5万程度、ゼリー強度:30~60g/cm)またはウルトラ寒天BX-100(伊那食品工業株式会社製、重量平均分子量:7万~10万程度、ゼリー強度:100~150g/cm)を添加して凝水抑制効果を調べた。
【0088】
(1)培地の準備
以下の表15に示した培地成分7を秤量し、以下の(2)で羊血液を添加した後の培地量が2Lとなるように精製水に懸濁後、121℃で15分間高圧滅菌した。従来の微生物培養用の寒天と低分子量寒天を区別するため、表15において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SW、ウルトラ寒天BX-30またはウルトラ寒天BX-100を寒天Bと記載する。
【0089】
【表15】
【0090】
(2)羊血液の添加
高圧滅菌後、培地を50℃に冷却した後、予め無菌的に採取した羊脱繊維血液を、培地1L当たり50mLとなるように添加した。その後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。
【0091】
(3)凝水量の測定
(1)、(2)で調製した培地入りシャーレを4℃、倒置にて20時間保存した後、25℃、倒置にてシャーレを30分間放置し、その後、培地入りシャーレの重量を電子天秤にて測定した。続いてシャーレを縦置きにして30分間放置して培地表面に滲み出た水を濾紙によって拭き取った後、再び培地入りシャーレの重量を測定し、(滲み出た水の拭き取り前のシャーレの重量)-(滲み出た水を拭き取った後のシャーレの重量)を凝水量として算出した。
なお、低分子量寒天の各添加量につき10枚のシャーレを凝水試験対象とし、重量の測定はシャーレ1枚毎に行った。
【0092】
(4)培地のゼリー強度の測定
(1)、(2)で調製した培地を上記(3)の凝水量測定用のものとは別に用意し、20℃の恒温槽にて20時間保存した後、レオメーター(FUDOH RHEO METER RTC-3002D)(株式会社レイテック製)の測定部が培地に1mm侵入する強度をゼリー強度として測定した。なお、低分子量寒天の各添加量につきシャーレ1枚をゼリー強度測定の対象とし、1枚のシャーレの3箇所を測定して平均値をゼリー強度として算出した。
【0093】
(5)結果
培地の凝水量およびゼリー強度の測定結果を表16に示す。凝水量の測定結果は、寒天B(低分子量寒天SW、ウルトラ寒天BX-30またはウルトラ寒天BX-100)の各添加量における平均凝水量を、寒天Bを添加していない培地の平均凝水量と比較した凝水削減量および凝水削減率とともに表示し、また、ゼリー強度は、寒天Bを添加していない培地のゼリー強度からの上昇値とともに表示している。
【0094】
【表16】
【0095】
表16に示した様に、低分子量寒天SWを添加した場合、ウルトラ寒天BX-30を添加した場合、ウルトラ寒天BX-100を添加した場合ともに良好な凝水抑制効果が認められた。また、ウルトラ寒天BX-30、ウルトラ寒天BX-100は培地1L当たりの添加量が4gの場合もゼリー強度の上昇値がそれぞれ10g/cm、20g/cmと小さいため、この程度の添加濃度では発育した菌のコロニー形成状態(拡がり状態)には影響しないと考えられた。
【実施例9】
【0096】
(低分子量寒天添加培地の経時変化試験2)
羊血液寒天培地を基礎培地とし、低分子量寒天SW(SSKセールス株式会社製、重量平均分子量:約10万、ゼリー強度:140~150g/cm)を添加して調製後、10℃、倒置にて3.5ヶ月保存した培地における凝水試験を行った。
【0097】
(1)培地の準備
以下の表17に示した培地成分8を秤量し、以下の(2)で羊血液を添加した後の培地量が1Lとなるように精製水に懸濁後、121℃で15分間高圧滅菌した。従来の微生物培養用の寒天と低分子量寒天を区別するため、表17において、従来の微生物培養用の寒天を寒天A、低分子量寒天SWを寒天Bと記載する。
【0098】
【表17】
【0099】
(2)羊血液の添加
高圧滅菌後、培地を50℃に冷却した後、予め無菌的に採取した羊脱繊維血液を、培地1L当たり50mLとなるように添加した。その後、培地を18mLずつシャーレに分注して固化した。
【0100】
(3)凝水量の測定
(1)、(2)で調製した培地入りシャーレを10℃、倒置にて3.5ヶ月保存した(培地調製日、保存開始日とも2017年6月13日)。その後、4℃、倒置にて20時間保存した後、25℃、倒置にてシャーレを30分間放置し、その後、培地入りシャーレの重量を電子天秤にて測定した。続いてシャーレを縦置きにして30分間放置して培地表面に滲み出た水を濾紙によって拭き取った後、再び培地入りシャーレの重量を測定し、(滲み出た水の拭き取り前のシャーレの重量)-(滲み出た水を拭き取った後のシャーレの重量)を凝水量として算出した(凝水量測定日は2017年9月27日)。
なお、低分子量寒天SWの各添加量につき9枚のシャーレを凝水試験対象とし、重量の測定はシャーレ1枚毎に行った。
【0101】
(4)結果
培地の凝水量の測定結果を表18に示す。
【0102】
【表18】
【0103】
表18に示した様に、10℃にて3.5ヶ月保存後において、低分子量寒天SWの添加培地の凝水量は、良好に抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明による微生物培養用の固体培地は、固化成分として従来の微生物培養用の寒天に加えて、重量平均分子量が2万~15万である低分子量寒天を使用することにより培地表面をコロニー形成に適切な状態に保ち、凝水を抑制可能である。また、特別な操作を要することなく、容易に培地を製造することができる。そのため、本発明の固体培地は、臨床をはじめ、食品、環境などの幅広い領域において有用である。