(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】大型ディーゼルエンジン用の潤滑装置、大型ディーゼルエンジンのシリンダ潤滑方法、及び大型ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
F01M 1/06 20060101AFI20220330BHJP
F01M 1/02 20060101ALI20220330BHJP
F01M 1/16 20060101ALI20220330BHJP
F01M 11/00 20060101ALI20220330BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20220330BHJP
F02D 19/06 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
F01M1/06 E
F01M1/02 A
F01M1/16 E
F01M11/00 S
F02M37/00 341D
F02M37/00 341A
F02D19/06 B
F02D19/06 G
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018085602
(22)【出願日】2018-04-26
【審査請求日】2021-04-22
(32)【優先日】2017-05-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515111358
【氏名又は名称】ヴィンタートゥール ガス アンド ディーゼル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ペイツ
(72)【発明者】
【氏名】コンラート レース
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-025457(JP,A)
【文献】特表2016-508538(JP,A)
【文献】特開昭62-111109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/06
F01M 1/02
F01M 1/16
F01M 11/00
F02M 37/00
F02D 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン(3)が走行面(21)に沿って往復移動可能に配置された少なくとも1つのシリンダ(2)を有する大型ディーゼルエンジン用の潤滑装置であって、前記シリンダ(2)を潤滑するための第1の潤滑剤のための第1のリザーバ(41)と、前記シリンダ(2)を潤滑するための第2の潤滑剤のための第2のリザーバ(42)と、前記第1又は第2の潤滑剤を前記シリンダ(2)内に導入するための潤滑剤供給部(9)と、前記第1又は第2の潤滑剤を前記潤滑剤供給部(9)に搬送することができる潤滑剤ポンプ(8)と、前記第1又は第2の潤滑剤を任意選択的に前記潤滑剤ポンプ(8)に供給することができる切り換え要素(7)とを有する潤滑装置において、
前記切り換え要素(7)と前記リザーバ(41、42)との間に第1の中間リザーバ(51)及び第2の中間リザーバ(52)が設けられ、前記第1の中間リザーバ(51)は、第1の供給ライン(61)を介して前記第1のリザーバ(41)に接続され、且つ第1の給油ライン(71)を介して前記切り換え要素(7)に接続され、また前記第2の中間リザーバ(52)は、第2の供給ライン(62)を介して前記第2のリザーバ(42)に接続され、且つ第2の給油ライン(72)を介して前記切り換え要素(7)に接続されることを特徴とする、潤滑装置。
【請求項2】
前記切り換え要素(7)が前記潤滑剤ポンプ(8)と一体化されている、請求項1に記載の潤滑装置。
【請求項3】
複数の潤滑剤ポンプ(8)及び複数の潤滑剤供給部(9)を有し、各潤滑剤ポンプ(8)は、その都度第1の中間リザーバ(51)及び第2の中間リザーバ(52)に接続可能であり、また各潤滑剤ポンプ(8)は、ただ1つの潤滑剤供給部(9)に接続されている、請求項1又は2に記載の潤滑装置。
【請求項4】
各潤滑剤供給部(9)は、複数のオリフィス(91)を有し、前記複数のオリフィス(91)を通して、それぞれの潤滑剤が前記シリンダ(2)の異なる点に導入され得る、請求項1から3までのいずれか1項に記載の潤滑装置。
【請求項5】
各潤滑剤ポンプ(8)は、容積式ポンプとして、特に定量ポンプとして設計されている、請求項1から4までのいずれか1項に記載の潤滑装置。
【請求項6】
前記第1又は第2のリザーバ(41、42)から前記第1又は第2の中間リザーバ(51、52)までそれぞれの潤滑剤を搬送するためにコンベヤポンプが、前記第1の供給ライン(61)及び前記第2の供給ライン(62)のいずれにも設けられている、請求項1から5までのいずれか1項に記載の潤滑装置。
【請求項7】
前記第1及び第2の中間リザーバ(51、52)はそれぞれ、管状の実質的に円筒形の貯蔵部として設計されている、請求項1から6までのいずれか1項に記載の潤滑装置。
【請求項8】
前記第1の中間リザーバ(51)の内径及び前記第2の中間リザーバ(52)の内径は、それぞれの中間リザーバ(51、52)に接続された前記第1又は第2の供給ライン(61、62)の内径の少なくとも1.5倍、好ましくは少なくとも2倍である、請求項7に記載の潤滑装置。
【請求項9】
ピストン(3)が走行面(21)に沿って往復移動可能に配置された少なくとも1つのシリンダ(2)を有する大型ディーゼルエンジンのシリンダ潤滑方法であって、第1のリザーバ(41)からの第1の潤滑剤、又は第2のリザーバ(42)からの第2の潤滑剤が、潤滑剤供給部(9)によって前記シリンダ(2)内に任意選択的に導入され、前記第1又は第2の潤滑剤は、潤滑剤ポンプ(8)によって前記潤滑剤供給部(9)内に運ばれ、また前記第1又は第2の潤滑剤は、任意選択的に切り換え要素(7)を介して前記潤滑剤ポンプ(8)に供給される方法において、
前記第1又は第2の潤滑剤は、第1の中間リザーバ(51)又は第2の中間リザーバ(52)から前記潤滑剤ポンプ(8)によってその都度供給され、前記第1の中間リザーバ(51)は、第1の供給ライン(61)を介して前記第1のリザーバ(41)に接続され、且つ第1の給油ライン(71)を介して前記切り換え要素(7)に接続され、また前記第2の中間リザーバ(52)は、第2の供給ライン(62)を介して前記第2のリザーバ(42)に接続され、且つ第2の給油ライン(72)を介して前記切り換え要素(7)に接続されることを特徴とする方法。
【請求項10】
前記2つの潤滑剤のうちのただ1つが、作業サイクル中に前記シリンダ(2)内に導入される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1及び第2の潤滑剤の混合物が前記シリンダ(2)内で生成される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の潤滑剤が前記シリンダ(2)に導入される作業サイクル数と、前記第2の潤滑剤が前記シリンダ(2)に導入される作業サイクル数とによって前記混合物の組成が調整される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の潤滑装置を有する、又は請求項9から12までのいずれか1項に記載の方法によって運転される大型ディーゼルエンジン。
【請求項14】
気体燃料の燃焼用及び液体燃料の燃焼用の二元燃料エンジンとして設計された、請求項13に記載の大型ディーゼルエンジン。
【請求項15】
長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計された、請求項13から14までのいずれか1項に記載の大型ディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型ディーゼルエンジン用の潤滑装置、大型ディーゼルエンジンのシリンダ潤滑方法、及びそれぞれのカテゴリーの独立請求項の前文(プリアンブル)に係る大型ディーゼルエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジンのような、2ストローク又は4ストロークエンジンとして設計され得る大型ディーゼルエンジンが、船舶用の駆動ユニットとして、又は静止運転中でさえ、電気エネルギーを生成するための大型発電機を駆動するために、しばしば使用される。エンジンは通常、連続運転ではかなりの期間稼働し、運転の安全性と可用性に対する高い要求がある。結果として、特に長いメンテナンス間隔、作動材料の低い摩耗及び経済的な取り扱い(ハンドリング)が、操作者にとって中心的基準である。
【0003】
ここ数年間、排気ガスの質(特に排気ガス中の窒素酸化物濃度)は、重要性が増している別の重要な問題である。ここで、対応する排出閾値(emission threshold)の法的要件及び限界値がますます厳しくなっている。その結果、特に2ストローク大型ディーゼルエンジンでは、排出閾値の遵守がますます困難になり、技術的により複雑になり、したがってより高価になってきているので、汚染物質によって非常に汚染されている古典的な重油の燃焼だけでなく、ディーゼル油又は他の燃料の燃焼もまた、より問題になっている。
【0004】
経済的な運転及び排出閾値の遵守の側面は、大型ディーゼルエンジンで使用される燃料の代替物の探求へと至っている。2つの異なる燃料によって大型ディーゼルエンジンを運転することが知られており、エンジンは、運転状況又は環境に応じて、一方の燃料又は他方の燃料又は2つの燃料の混合物のいずれかで運転される。
【0005】
2つの異なる燃料によって運転することができる大型ディーゼルエンジンの既知の一実施形態は、今日「二元燃料エンジン」という用語が使用されるタイプのエンジンである。一方では、これらのエンジンは、ガス(例えば、天然ガス(例えば、LNG(液化天然ガス))又は内燃機関を駆動するのに適した別のガス)又はガス混合物を燃焼させる気体モードで運転することができ、他方では、好適な液体燃料(例えば、メタノール、ガソリン、ディーゼル油、重油、又は他の好適な液体燃料)を同じエンジンで燃焼させることができる液体モードで運転することができる。大型ディーゼルエンジンは、2ストロークエンジン及び4ストロークエンジンの両方、特に長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとすることができる。
【0006】
「大型ディーゼルエンジン」という用語はまた、燃料の自己点火を特徴とするディーゼル運転だけでなく、燃料の確実な点火を特徴とするオットー運転、又はこれらの2つの混合形態でも動作可能な大型エンジンを指す。更に、大型ディーゼルエンジンという用語はまた、特に、上述した二元燃料エンジンと、燃料の自己点火が別の燃料の確実な点火に使用される大型エンジンとを含む。
【0007】
液体モードでは、通常、燃料はシリンダの燃焼室内に直接導入され、そこで自己点火の原理に従って燃焼する。気体モードでは、オットー原理に従って気体状態のガスを掃気と混合して、シリンダの燃焼室内で点火可能な混合物を生成することが知られている。この低圧法では、シリンダ内の混合物の点火は、通常、少量の液体燃料をまさにその瞬間にシリンダの燃焼室又はプレチャンバに噴射することによって実行され、その後、空気-ガス混合物の点火につながる。このような二元燃料エンジンは、運転中に気体モードから液体モードに切り換えることができ、その逆も可能である。
【0008】
2つの異なる液体燃料で運転することができ、通常は両方の燃料が貯蔵されているので、運転中であってもエンジンを第1又は第2の燃料のいずれかで運転することができる大型のディーゼルエンジンもまた既知である。大型ディーゼルエンジンの好ましくは効率的かつ経済的な運転を可能にするために、いくつかの異なる液体燃料が知られ、又は開発されている。大型ディーゼルエンジン用の古典的な液体燃料であって、特に精油所の残留物として残っている液体燃料(例えば、ディーゼル油、メタノール、重油、又は他の重質炭化水素)に加えて、エマルジョン又は懸濁液もまた、大型ディーゼルエンジン用の燃料として使用される。
【0009】
一例として、ここではMSAR(Multiphase Superfine Atomised Residue(多相超微細アトマイズ化残留物))と呼ばれるエマルジョンを挙げることができる。これらは、本質的に重質炭化水素(例えば、ビチューメン、重油等)と水とのエマルションであり、特殊工程で製造される。別の一例は、例えば、大型ディーゼルエンジン用の燃料としても使用されている石炭の塵及び水からの懸濁液である。
【0010】
しかしながら、これらの異なる燃料を同一の大型ディーゼルエンジンに使用すると、これらの燃料は、その化学的及び物理的特性が大きく異なるため、問題を引き起こす。現代の電子制御の大型ディーゼルエンジンでは、運転中に(例えば、噴射の開始、噴射の持続時間、又はガス交換システムを作動のような)いくつかのパラメータを変更して、それをそれぞれの燃料に適合させるようにすることが可能であるが、これは他のコンポーネントに対してはほとんど又はまったく不可能であるので、ここで妥協が必要である。例えば、トライボロジーシステムのピストン/ピストンリング/シリンダ走行面は、非常に限定された範囲、すなわち潤滑を変えることによってのみ適合させることができる。
【0011】
シリンダ潤滑は、大型ディーゼルエンジンにとって非常に重要である。作動中、ピストンリングを有するピストンが、シリンダライナの形態で設計されたシリンダの内壁に沿って摺動し、これは走行面として作用する。一方、ピストンは、シリンダ内でできるだけ滑らかに、すなわち、妨げにならないように摺動しなければならない。他方、ピストンは、可能な限り良好にシリンダ内の燃焼室を密閉して、燃焼プロセス中に放出されたエネルギーを機械的な仕事に効率的に変換しなければならない。
【0012】
このため、通常、大型ディーゼルエンジンの運転中に潤滑剤として潤滑油がシリンダ内に導入され、シリンダ又はシリンダライナの走行面とピストンリングとの間に潤滑膜が形成される。ここで、導入された潤滑剤の一部はまた、ピストンリング溝内又はシリンダライナ内の溝内に存在してもよい。潤滑膜は、シリンダ内のピストンリングの良好な移動を可能にし、シリンダ走行面又はシリンダライナ及びピストンリングの走行面の摩耗を可能な限り小さく保つためにも使用される。更に、潤滑油は、攻撃的な燃焼生成物を中和し、腐食を防止するために使用される。これらの多くの要求のために、非常に高級で高価な物質がしばしば潤滑油として使用される。
【0013】
現在、大型のディーゼルエンジンに使用されている潤滑装置は、シリンダ壁を通って走行面上に、又はピストンのピストンリングパッケージ内に直接、潤滑(通常は潤滑油)を運ぶので、ピストンリングは移動中に走行面上に潤滑剤を広げる。潤滑剤は、ノズルの出口オリフィス、潤滑パイプ、又はいわゆるクイルを典型的に形成する潤滑点を通して導入される。
【0014】
個々の潤滑点を供給するために、通常、シリンダ毎に1つの潤滑剤ポンプが使用され、これは、このシリンダのすべての潤滑点に潤滑剤を供給する。通常、潤滑剤の投与がシリンダ内で行われるべきであるので、潤滑剤ポンプは、通常、シリンダに直接又はシリンダに近接して配置され、それゆえ潤滑剤ポンプによって運ばれる潤滑剤の量は、シリンダ内に実際に導入される量にできるだけよく一致する。
【0015】
特に、異なる燃料で作動可能な大型ディーゼルエンジンでは、大型ディーゼルエンジンの経済的で効率的で低摩耗な運転を保証するために、シリンダ潤滑がそれぞれの燃料に適合しなければならないという問題がある。異なる燃料はトライボロジーシステムのピストンリング/シリンダ走行面の変化をもたらすので、潤滑剤はこれらの変化に適合しなければならない。
【0016】
この問題に対処するために、大型ディーゼルエンジンが別の燃料に切り換えられたときに潤滑剤もまた交換することができるように、異なる潤滑剤が貯蔵されている潤滑装置が知られている。大型ディーゼルエンジン用の潤滑装置は、通常、コモンレールの原理に従って設計された潤滑剤用の貯蔵部を備え、そこからシリンダ用のすべての潤滑剤ポンプが供給される。この貯蔵部は、第1又は第2の潤滑剤で充填することができる。
【0017】
しかしながら、潤滑剤タンクから貯蔵部及び貯蔵部自体に至る接続ラインは、第1の潤滑剤から第2の潤滑剤に切り換える際に完全に交換されなければならない非常に大きな体積を示す。この交換は、ライン及び貯蔵部の体積に関連して小さい流速のために、数時間又は丸一日もかかる可能性がある。第1の潤滑剤から第2の潤滑剤に(又はその逆に)交換するときのこの大きな慣性は、大型ディーゼルエンジンに適切な潤滑剤を供給するためには交換を前もって予想しなければならないことを要求する。あるいはまた、ラインを洗い流すことは可能であるが、これは、制御されない混合比のためにもはや正確に使用することができなく、したがって捨てなければならない、結果として生じる大量の洗浄油のために経済的に魅力的ではない。しかしながら、これまでのところ、燃料の変更を事前に計画することはしばしば不可能である。また、大型ディーゼルエンジンを運転するために両方の燃料が同時に使用される、いわゆる燃料シェアモードで大型ディーゼルエンジンが運転される運転状態も存在する。しかしながら、潤滑剤を変更するには、その慣性が大きすぎるため、潤滑剤装置は、これによって生じる短期間の変化に反応することができない。これは、最適ではないシリンダ潤滑をもたらし、ピストン、ピストンリング、又はシリンダ内の走行面に対して重大な有害な結果をもたらす可能性がある。例えば、現在の潤滑剤の不十分なBN(塩基価)は、シリンダ内に腐食をもたらす可能性があり、ピストンが傷つく可能性があり、高価で時間のかかる修理が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
従って、最先端技術から出発して、本発明の目的は、大型ディーゼルエンジンのそれぞれの作動状態に(特に現在使用されている燃料に)非常に迅速かつ確実にシリンダ潤滑を適合させることができる大型ディーゼルエンジンの潤滑装置を提案することである。本発明の更なる目的は、大型ディーゼルエンジンのシリンダ潤滑のための対応する方法を提案することである。本発明の別の目的は、対応する大型ディーゼルエンジンを提案することである。
【0019】
この問題を解決する本発明の目的は、それぞれのカテゴリーの独立請求項の構成によって特徴付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明によれば、ピストンが走行面に沿って往復移動可能に配置された少なくとも1つのシリンダを有する大型ディーゼルエンジン用の潤滑装置であって、シリンダを潤滑するための第1の潤滑剤のための第1のリザーバと、シリンダを潤滑するための第2の潤滑剤のための第2のリザーバと、第1又は第2の潤滑剤をシリンダ内に導入するための潤滑剤供給部と、第1又は第2の潤滑剤を潤滑剤供給部に搬送することができる潤滑剤ポンプと、第1又は第2の潤滑剤を任意選択的に潤滑剤ポンプに供給することができる切り換え要素とを有する潤滑装置において、切り換え要素とリザーバとの間に第1の中間リザーバ及び第2の中間リザーバが設けられ、第1の中間リザーバは、第1の供給ラインを介して第1のリザーバに接続され、且つ第1の給油ラインを介して切り換え要素に接続され、また第2の中間リザーバは、第2の供給ラインを介して第2のリザーバに接続され、且つ第2の給油ラインを介して切り換え要素に接続される、潤滑装置が提案される。
【0021】
切り換え要素を介して潤滑剤ポンプに接続することができる2つの潤滑剤のそれぞれのために中間リザーバを設けることにより、両潤滑剤は、潤滑剤ポンプの近傍に、したがって潤滑されるシリンダの近傍に、互いに分離して案内される。したがって、第1の潤滑剤から第2の潤滑剤に切り換える際には、第2の潤滑剤がシリンダに入る前に交換されなければならないデッドボリュームは事実上存在しない。したがって、第1の潤滑剤から第2の潤滑剤に(又はその逆に)本質的に遅延無しに切り換えることが可能である。したがって、第2の潤滑剤は、シリンダ内で直ちに利用可能である。このように、大型ディーゼルエンジンの潤滑は、1つの潤滑剤から別の潤滑剤に遅延無しに切り換えることができる。これにより、シリンダ内の潤滑剤が常にエンジンのそれぞれの作動状態、特に現在使用されている燃料に最適に適合されることが保証される。
【0022】
更に、本発明に係る潤滑装置は、2つの潤滑剤の正確に制御可能な比を有する混合物をシリンダ内で生成することができ、2つの潤滑剤の混合物はシリンダ自体の中でのみ発生するというかなりの利点を有する。例えば、現在使用している燃料又は現在使用している燃料混合物が、第1の潤滑剤の特性と第2の潤滑剤の特性との間の特性を有する潤滑剤を必要とする場合、2つの潤滑剤の適切な混合物は、シリンダ内に第1及び第2の潤滑剤を交互に供給することによって生成することができ、この混合物は現在の燃料に対して最適である。したがって、第1及び第2の潤滑剤のいずれもがシリンダ内で現在必要とされる潤滑に最適でない動作条件であっても、2つの潤滑剤をシリンダ内で混合することによって、最適な潤滑を保証することができる。2つの潤滑剤は、ピストン又はピストンリングの移動によってシリンダ内で混合される。混合された潤滑剤の体積は、本質的に、走行面上の潤滑剤膜の体積と、ピストンリング溝内に存在する潤滑剤の体積である。これにより、シリンダに供給される潤滑剤又はシリンダに供給する2つの潤滑剤の割合を変えることにより、潤滑剤又は潤滑剤組成の所望の変更を瞬時に実現することができる。
【0023】
切り換え要素によって第1又は第2の潤滑剤を任意選択的に潤滑剤ポンプに供給することができる切り換え要素は、例えば、制御可能な3/2方向弁として設計される。切り換え要素は、潤滑剤ポンプの上流に配置された別個の構成要素とすることができる。別の好ましい一実施形態によれば、切り換え要素は、潤滑剤ポンプ内に組み込まれる。
【0024】
もちろん、切り換え要素の他の実施形態もまた可能であり、例えば、実施形態は自由に調節可能な弁とすることができ、それは例えば、比例弁又はサーボ弁として形成することができる。
【0025】
潤滑装置は、好ましくは、複数の潤滑剤ポンプと複数の潤滑剤供給部とを有し、各潤滑剤ポンプは、それぞれ第1の中間リザーバと第2の中間リザーバに接続することができ、各潤滑剤ポンプは、ちょうど1つの潤滑剤供給部に接続される。潤滑剤ポンプの数及び潤滑剤供給部の数は、特に好ましくは、大型ディーゼルエンジンのシリンダの数にそれぞれ対応し、その結果、各シリンダに対してちょうど1つの別個の潤滑剤ポンプが設けられ、それぞれ潤滑剤供給部を備える。
【0026】
また、各潤滑剤供給部が複数のオリフィスを有し、オリフィスを通ってそれぞれの潤滑剤がシリンダの異なる点に導入されることが好ましい。これにより、シリンダ内に潤滑剤ができるだけ広がることが保証される。これらのオリフィスは、それぞれの潤滑剤を(例えば、ジェットとして)シリンダ内又は走行面上に噴射するノズルの出口オリフィスとして、又は潤滑剤がシリンダ内にミストの形態で導入される噴霧器のオリフィスとして、又は潤滑剤が走行面に塗布される、いわゆるクイル(quill)の出口オリフィスとして、設計することができる。
【0027】
各潤滑剤ポンプは、好ましくは容積式ポンプとして、特に潤滑プロセス毎に運ばれる潤滑剤の量を決定可能な定量ポンプとして設計される。また、潤滑剤ポンプをダイアフラムポンプとして設計することも可能である。
【0028】
リザーバからの第1又は第2の潤滑剤による2つの中間リザーバの供給は、例えば重力によってのみ行うことができる。次いで、2つのリザーバは、リザーバ内のそれぞれの潤滑剤の静水圧が、それぞれの中間リザーバ内にそれぞれの潤滑剤を運ぶのに十分に高くなるように配置される。別の好ましい一実施形態は、第1又は第2のリザーバから第1又は第2の中間リザーバにそれぞれの潤滑剤を運ぶために、第1の供給ライン及び第2の供給ラインのそれぞれにコンベヤポンプを設けるものである。
【0029】
好ましい一実施形態によれば、第1及び第2の中間リザーバは、それぞれ、管状の実質的に円筒形のリザーバとして設計される。この実施形態は、大型ディーゼルエンジンで頻繁に使用されるコモンレールの原理に対応する。
【0030】
第1の中間リザーバの内径及び第2の中間リザーバの内径が、それぞれの中間リザーバに接続されている第1又は第2の供給ラインの内径の少なくとも1.5倍(好ましくは、少なくとも2倍)の大きさであることが特に好ましい。これにより、2つの中間リザーバが、(特に、潤滑剤ポンプの入口での)圧力ショック又は圧力変動を回避できる緩衝装置又は減衰要素として作用することが可能となる。
【0031】
本発明はまた、ピストンが走行面に沿って往復移動可能に配置された少なくとも1つのシリンダを有する大型ディーゼルエンジンのシリンダ潤滑法を提案し、この方法では、第1のリザーバからの第1の潤滑剤又は第2のリザーバからの第2の潤滑剤が、必要に応じて、潤滑剤供給部によってシリンダ内に導入され、第1又は第2の潤滑剤は、潤滑剤ポンプによって潤滑剤供給部内に運ばれ、第1又は第2の潤滑剤は、必要に応じて、切り換え要素を介して潤滑剤ポンプに供給され、第1又は第2の潤滑剤は、それぞれ第1の中間リザーバ又は第2の中間リザーバから潤滑剤ポンプに供給され、第1の中間リザーバは、第1の供給ラインを介して第1のリザーバに接続され、且つ第1の給油ラインを介して切り換え要素に接続され、また第2の中間リザーバは、第2の供給ラインを介して第2のリザーバに接続され、且つ第2の給油ラインを介して切り換え要素に接続される。
【0032】
本装置に関連して既に説明したように、本発明に係る方法はまた、シリンダ潤滑を現在の作動条件に(特に、現在使用されている燃料に)最適に適合させるために、シリンダ内に現在存在する潤滑剤又はその組成物を実質的に瞬時に変えることができる。
【0033】
好ましくは、2つの潤滑剤のうちのまさに1つが作業サイクルの間にシリンダ内に導入される。
【0034】
好ましい一実施形態によれば、第1及び第2の潤滑剤からの混合物が、シリンダ内で生成される。その結果、第1及び第2の潤滑剤のいずれも最適でない大型ディーゼルエンジンの運転状態に対してさえも、最適なシリンダ潤滑を達成することができる。
【0035】
この場合、混合物の組成は、好ましくは、第1の潤滑剤がシリンダ内に導入される作業サイクル数及び第2の潤滑剤がシリンダ内に導入される作業サイクル数によって調整される。例えば、最適なシリンダ潤滑のために第1及び第2の潤滑剤の混合物が2:1の比率で必要とされる場合、大型ディーゼルエンジンの2つの作業サイクルの間に第1の潤滑剤がシリンダ内に導入され、第3の作業サイクルでシリンダ内に第2の潤滑剤が導入され、第4及び第5の作業サイクルで第1の潤滑剤が再び導入され、第6の作業サイクルで第2潤滑剤が再び導入される。
【0036】
本発明はまた、本発明に係る潤滑装置を備えるか、又は本発明に係るシリンダ潤滑方法で操作される大型ディーゼルエンジンを提案する。
【0037】
好ましい一実施形態では、大型ディーゼルエンジンは、気体燃料の燃焼用及び液体燃料の燃焼用の二元燃料エンジンとして設計される。
【0038】
特に好ましい一実施形態によれば、大型ディーゼルエンジンは、長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計される。
【0039】
本発明の更なる有利な手段及び実施形態は、従属請求項から生じる。
【0040】
以下において、本発明は、実施形態を参照して、及び図面を参照して、器械的及び手順的な観点の両方から、より詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】本発明に係る潤滑装置の第1の実施形態を備えた本発明に係る大型ディーゼルエンジンの第1の実施形態の概略図である。
【
図2】シリンダ内の潤滑剤の容量を説明するための概略図である。
【
図3】シリンダ内に2つの潤滑剤の混合物を生成するための第1の実施形態を示す概略図である。
【
図4】シリンダ内に2つの潤滑剤の混合物を生成するための第2の実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本発明の以下の説明では、例示的なものとして、特に実用上重要な大型ディーゼルエンジンの場合に言及しており、これは、長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジンとして設計され、船の主駆動ユニットとして使用される。もちろん、本発明は、このタイプの大型ディーゼルエンジン及びこの用途に限定されるものではなく、一般にあらゆる大型ディーゼルエンジンを指す。例えば、大型ディーゼルエンジンは、4ストロークエンジンとして設計することもできる。既に上記で説明したように、この出願の枠組みの中で、「大型ディーゼルエンジン」という用語はまた、燃料の自己点火を特徴とするディーゼル運転だけでなく、燃料の確実な点火を特徴とするオットー運転、又はこれらの2つの混合形態でも動作可能な大型エンジンを指す。
【0043】
本発明は、少なくとも2つの異なる燃料で運転可能なこのような大型ディーゼルエンジンに特に適している。この場合、両方の燃料が液体燃料であり、又は燃料の一方が液体であり、他方の燃料が気体であることが特に可能である。
【0044】
特に、以下では、2つの異なる燃料又はこれらの2つの異なる燃料の混合物で運転することができる、このような長手方向に掃気される2ストロークの大型ディーゼルエンジンを例示的に説明する。例えば、大型ディーゼルエンジンは、一方では、ガス(例えば、天然ガス)が燃焼される気体モードで運転することができ、他方では、適切な燃料(例えば、メタノール、ガソリン、ディーゼル油、重油又は他の好適な液体燃料)が燃焼される液体モードで運転することができる上記の二元燃料エンジンである。
【0045】
好適な気体燃料は、大型ディーゼルエンジン内で燃料として使用されるそれ自体既知の全ての気体(特に、天然ガス(例えば、LNG(液化天然ガス)))である。好適な液体燃料は、大型ディーゼルエンジンの運転用に使用されるそれ自体既知の全ての液体燃料(特に、重油、ディーゼル油、メタノール、エマルジョン(例えば、MSAR(Multiphase Superfine Atomised Residue)など)又は懸濁液(例えば、石炭粉塵・水懸濁液など))である。MSARは、本質的に重質炭化水素(例えば、ビチューメン、重油など)と水とからからなるエマルジョンを指す。
【0046】
図1は、本発明に係る潤滑装置の第1の実施形態を備えた本発明に係る大型ディーゼルエンジンの第1の実施形態の概略図を示す。大型ディーゼルエンジンは、参照符号100で全体として参照され、長手方向に掃気される二元燃料2ストローク大型ディーゼルエンジンとして設計されている。潤滑システムは、参照符号1で全体として参照される。
【0047】
大型ディーゼルエンジン100は、それ自体既知の方法で複数のシリンダ2(例えば、6~12のシリンダ又はそれ以上)を備え、そのうちの5つのシリンダ2が
図1の例示的なものとして示されている。ピストン3が、各シリンダ2内に設けられ、そのピストンは、シリンダ2の走行面21に沿って上死点と下死点との間で往復動可能に配置され、その上端側は、シリンダカバーと共に燃焼室を制限する。燃料は、図示されていない噴射装置によって、それ自体既知の方法で燃焼室に噴射される。
【0048】
この目的のために、噴射装置は、各シリンダ2に対して、燃焼室に燃料を噴射するための少なくとも1つ、通常は数個の噴射ノズルを備える。特に、液体燃料を使用する場合、噴射ノズルは、通常、シリンダカバー内に配置される。気体燃料の場合、噴射ノズルを側方シリンダ壁に(例えば、ピストン3の上死点と下死点との間のほぼ中間の高さに)設けることもまた知られている。
【0049】
例えば、掃気又は充填空気を供給するための噴射システム、ガス交換システム、排気システム、又はターボチャージャシステム、及び大型ディーゼルエンジン100の点検システム及び制御システムの詳細のような大型ディーゼルエンジン100の構造及び個々の構成要素は、2ストロークエンジンとしての設計及び4ストロークエンジンとしての設計の両方において当業者には周知であるので、ここではこれ以上の説明は必要ない。
【0050】
本明細書に記載されている長手方向に掃気される2ストローク大型ディーゼルエンジン100の第1の実施形態では、掃気スロット(図示せず)が、通常、各シリンダ2又はシリンダライナの下部領域に設けられ、シリンダ内のピストン3の動きにより周期的に開閉され、これによって、それらが開いている限り、ターボチャージャによってチャージ圧で供給された掃気は、掃気スロットを通ってシリンダ2内に流入することができる。殆どの場合、中央に配置された出口バルブ(図示せず)がシリンダカバーに設けられ、出口バルブを介して燃焼ガスがシリンダ2から燃焼プロセス後に排出され、排気システムに供給することができる。
【0051】
現代の大型ディーゼルエンジンでは、点検システム及び制御システムは電子システムであり、これによって通常、エンジン又はシリンダのすべての機能(特に、噴射(噴射の開始及び終了)及び排気バルブの作動)が制御又は調整される。
【0052】
二元燃料大型ディーゼルエンジン100には、通常、2つの異なる噴射システム(すなわち、液体燃料用の噴射システムと気体燃料用の噴射システム)が設けられている。液体燃料用の噴射システムは、シリンダのシリンダカバー内に配置された少なくとも1つ、典型的には数個の噴射ノズルを含む。気体燃料用の噴射システムは、それ自体既知の方法でガス噴射システムとして設計されている。好ましくは、気体燃料用にそれらに属する噴射装置又は噴射ノズルが、それぞれのシリンダ2の横方向にあり、すなわち、シリンダのシェル表面に(例えば、ピストン3の上部と下部のデッドセンタの間のほぼ中間の高さに)配置される。特に、これは低圧ガスシステムに関する場合である。
【0053】
大型ディーゼルエンジン100の他の実施形態では、1つの噴射システムのみを提供できることは明らかである。特に、大型ディーゼルエンジン100が2つの異なる液体燃料で作動可能な実施形態では、一方又は他方の燃料は、同じ噴射システムを用いてシリンダ2の燃焼室に任意に導入することができる。
【0054】
潤滑装置1は、大型ディーゼルエンジン100のシリンダ2を潤滑するために設けられている。潤滑装置1は、第1の供給ライン61を介して第1の中間リザーバ51に接続された第1の潤滑剤用の第1のリザーバ41と、第2の供給ライン62を介して第2の中間リザーバ52に接続された第2の潤滑剤用の第2のリザーバ42とを備える。
【0055】
潤滑装置1は、それぞれのシリンダ2に第1又は第2の潤滑剤を供給するために、各シリンダ2用に潤滑剤ポンプ8を更に備えている。この場合、各シリンダ2用に別個の潤滑剤ポンプ8を設けることが好ましいので、潤滑剤ポンプ8の数は、大型ディーゼルエンジン100のシリンダ2の数に等しい。各潤滑剤ポンプ8は、容積式ポンプとして、特に定量ポンプとして設計されており、いずれの場合も、大型ディーゼルエンジン100の作業サイクルごとに、定められた量の潤滑剤をそれぞれのシリンダに導入することができる。例えば、各潤滑剤ポンプ8は、シリンダ内に配置された作動ピストンを備えた容積式ポンプとして設計されており、このピストンは、ストロークごとに所定量の潤滑剤を運ぶ。しかしながら、それぞれの場合において、ダイアフラムポンプ又は他の搬送装置として潤滑剤ポンプ8を設計することも可能である。
【0056】
各潤滑剤ポンプ8は、シリンダ2又はシリンダ2のすぐ近くにそれぞれの場合に配置され、潤滑剤ポンプによって運ばれる潤滑剤の量が、実際にシリンダ内に導入される量と可能な限り一致するように潤滑剤ポンプ8によって供給される。
【0057】
各潤滑剤ポンプ8の下流には、それぞれの場合において、潤滑剤供給部(潤滑剤サプライ)9が設けられており、これによって潤滑剤ポンプ8によって運ばれた潤滑剤は、それぞれのシリンダ2に導入されるか、又はそれぞれのシリンダ2の走行面21上に塗布される。各潤滑剤供給部9は、好ましくは、複数のオリフィス91を含み、複数のオリフィス91を通してシリンダ2の異なる点にそれぞれの潤滑剤を塗布することができるので、潤滑剤はシリンダ2の走行面21全体にわたってできるだけ均一に広がる。
【0058】
図1に示される実施形態では、各潤滑剤供給部9は、例えば、シリンダ2の円周上に等距離に分布された合計8つのオリフィス91を含む。潤滑剤ポンプ8の出口に接続された潤滑剤供給源9のラインは、潤滑剤ポンプ8の下流を8つの流路92に分岐し、それぞれがオリフィス91のうちの1つに通じている。例えば、オリフィス91はノズルとして設計することができ、そこを通って潤滑剤が走行面21上にジェットの形で、又はクイル(quill)として噴射され、そこから潤滑剤が走行面21上に滴下又は流出する。
【0059】
それぞれの潤滑剤ポンプ8の上流には、潤滑剤ポンプ8の入口を第1又は第2の中間リザーバ51、52に任意に接続する切り換え要素(スイッチ要素)7が設けられている。例えば、切り換え要素7は、制御可能な3/2方弁として設計される。切り換え要素7は、出口側において潤滑剤ポンプ8の入口に接続される。入口側では、切り換え要素7は、第1の給油ライン71を介して第1の中間リザーバ51に、かつ第2の給油ライン72を介して第2の中間リザーバに接続される。対応する作動によって、切り換え要素はこうして、第1の供給ライン71を介して第1の中間リザーバ51と潤滑剤ポンプ8との間の流体連通、又は第2の供給ライン71を介して第2の中間リザーバ52と潤滑剤ポンプ8との間の流体連通のいずれかを開く。したがって、潤滑剤ポンプ8には、第1又は第2の潤滑剤のいずれかを任意に供給することができる。
【0060】
もちろん、各切り換え要素7を、自由に調整可能な弁(例えば、比例弁又はサーボ弁)として設計することも可能であり、これによって、第1の潤滑剤の調整可能な部分及び第2の潤滑剤の調整可能な部分が、それぞれの潤滑剤ポンプ8に供給される。
【0061】
第1の中間リザーバ51及び第2の中間リザーバ52はそれぞれ、コモンレールの原理に従って設計されている。両方の中間リザーバ52、52は、それぞれ、運転中に第1又は第2の潤滑剤で完全に満たされた管状の実質的に円筒形のリザーバ又は蓄圧器として設計されている。このようなリザーバ51、52は、アキュムレータとも呼ばれる。設計に応じて、中間リザーバ51、52内のそれぞれの潤滑剤の圧力は、例えば、1~20バールである。
【0062】
中間リザーバ51、52は、運転中に第1又は第2の潤滑剤で完全に満たされ、(特に、潤滑剤ポンプ8の入口での)圧力変動又は圧力ショックを回避するためのバッファとして主に作用する。中間リザーバ51、52の各々の内径は、それぞれの中間リザーバ51、52をそれぞれのリザーバ41、42に接続するそれぞれの供給ライン61、62の内径よりも大きい方が有利である。第1及び第2の中間リザーバ51、52の内径は、好ましくは、第1又は第2の供給ライン61又は62の内径の少なくとも1.5倍、特に好ましくは少なくとも2倍である。
【0063】
既に述べたように、潤滑装置1は、好ましくは、各シリンダ用の別個の潤滑剤ポンプ8を備える。それぞれの場合における各潤滑剤ポンプ8は、第1の中間リザーバ51にそれに割り当てられた切り換え要素7及びそれぞれの第1の供給ライン71を介して接続すること、又は切り換え要素7及びそれぞれの第2の供給ライン72を介して第2の中間リザーバ72に接続することができる。
【0064】
切り換え要素7は、それぞれの潤滑剤ポンプ8の入口の上流に配置された、関連する潤滑剤ポンプ8から分離された構成要素としてそれぞれ設計することができる。あるいはまた、切り換え要素7は、それぞれの潤滑剤ポンプ8に統合する(すなわち、それぞれの場合において潤滑剤ポンプ8の一体部分とする)こともできる。
【0065】
第1の実施形態では、第1の中間リザーバ51内の第1のリザーバ41からの第1の潤滑剤の搬送と、第2のリザーバ42から第1の中間リザーバ52への第2の潤滑剤の搬送は、重力によってのみ行われる。すなわち、リザーバ41、42は、リザーバ41、42内の潤滑剤の静水圧が、リザーバ41、42からの潤滑剤を中間リザーバ51、52に運ぶのに十分となるように、中間リザーバ51、52に対して配置される。これは、それぞれの場合において、リザーバ41、42を関連する中間リザーバ51、52よりも高く配置することによって達成することができる。
【0066】
原則として、全ての潤滑剤(特に、潤滑油)が、大型ディーゼルエンジン用に通常使用される潤滑剤として適している。2つの異なる燃料で運転可能な本明細書に記載の大型ディーゼルエンジン100の実施形態に対しては、好ましくは、第1の潤滑剤として潤滑油が使用され、これにより第1の燃料で運転されるシリンダ2内で最適な潤滑が保証され、第2の潤滑剤として潤滑油が使用され、これにより第2の燃料で運転されるシリンダ2内で最適な潤滑が保証される。二元燃料大型ディーゼルエンジンに関しては、例えば、第1の潤滑剤は、液体燃料(例えば、重油)で大型ディーゼルエンジン100を運転させるように最適化されており、一方、第2の潤滑剤は、気体モードで大型ディーゼルエンジン100を運転させるように最適化されている。
【0067】
そこで大型ディーゼルエンジン100が液体モードで(すなわち、例えば、重油)で運転される場合、各切り換え要素7は、第1の供給ライン71を介して第1の中間リザーバ51とそれぞれの潤滑剤ポンプ8との間の流体連通を開くように制御されるので、潤滑剤ポンプ8から潤滑剤供給部9を介して第1の潤滑剤がシリンダ2内に導入される。
【0068】
大型ディーゼルエンジン100が気体モードに切り換えられると、第1の給油ラインによって流体連通が遮断され、第2の中間リザーバ52とそれぞれの潤滑剤ポンプ8との間の流体連通が、それぞれの第2の給油ライン72を介して開放されるので、潤滑剤供給部9を介して潤滑剤ポンプ8によって第2の潤滑剤がシリンダ2内に導入されるように、切り換え要素7は作動される。
【0069】
第1の潤滑剤から第2の潤滑剤への変化は、両方の潤滑剤が第1又は第2の給油ライン71、72を介して切り換え要素7に当接しているため実質的に瞬間的に起こるので、一方から他方への潤滑剤の交換時に、デッドボリュームは全く交換される必要が無く、又は無視できるデッドボリュームのみが交換される必要がある。
【0070】
本発明に係る解決法の別の利点は、2つの潤滑剤の混合物をシリンダ2内で生成可能であることである。これは、例えば、シリンダ2内の両方の燃料を同時に燃焼させることによっていわゆる「共用燃料」モードで大型ディーゼルエンジンを運転する運転状態で利点があるかもしれない。2つの既存の潤滑剤のいずれもシリンダ内の現在の潤滑に最適ではないこれらの又は他の運転状態では、2つの潤滑剤のシリンダ2内での容量的な混合が、こうしてこの運転条件に対してシリンダ2内で最適な潤滑を保証する混合物を生成することができる。
【0071】
理解を容易にするために、
図2は、シリンダ内の潤滑剤の量(容量)を例示するための概略図を示している。シリンダ2の走行面21には、1つ又は複数の潤滑剤が導入されてピストン運動することにより潤滑膜Fが形成され、この膜は第1の潤滑剤と第2の潤滑剤の混合物を含むことができる。
【0072】
第1の潤滑剤と第2の潤滑剤の混合物である潤滑膜Fをシリンダ2内に生成する場合、第1の潤滑剤と第2の潤滑剤との混合物の組成は、シリンダ2内に第1の潤滑剤が導入される作業サイクル数と、シリンダ2内に第2の潤滑剤が導入される作業サイクル数によって好ましく調整される。例えば、シリンダ内に2つの潤滑剤を1:1の割合で混合する必要がある場合には、第1及び第2の潤滑剤を交互にシリンダ2内に導入することができる。つまり、大型ディーゼルエンジン100又はそれぞれのシリンダ2の作業サイクル中にシリンダ2に第1の潤滑剤が導入され、次の作業サイクル中に第2の潤滑剤がシリンダ2に導入され、次の作業サイクルで再び第1の潤滑剤が導入されるなどである。
【0073】
これは、2つの実施形態と
図3及び
図4を参照して以下により詳細に説明される。
【0074】
図3及び
図4において、横軸tは時間軸であり、縦軸Vは容量(volume)軸である。潤滑剤がシリンダ2に供給される6つの連続的な潤滑プロセスがそれぞれの場合に示されている。これらの6つの潤滑プロセスは、例えば、大型ディーゼルエンジン100の6つの連続する作業サイクル内で行われる。各潤滑プロセスは、
図3又は
図4において矩形によって表されている。それぞれの矩形の高さ(すなわち、V軸方向のその伸び)は、それぞれの潤滑プロセス中にシリンダ2に導入される潤滑剤の容量を示す。見て分かるように、
図3の第1の例及び
図4の第2の例の両方において、各潤滑プロセス中に同じ容量の潤滑剤がシリンダ内に導入される。
【0075】
図3及び
図4の両図において、点線で表される矩形は、第1の潤滑剤のみがシリンダ2に導入される潤滑プロセスS1を表し、ドットで表される矩形は、第2の潤滑剤のみがシリンダに導入される潤滑プロセスS2を表す。
【0076】
図3に示す第1の実施形態では、第1の潤滑剤は、BN値(BN:塩基価)が140であり、第2潤滑剤はBN値が40である。走行面21上の潤滑剤膜Fの所望の目標値は、BN値90である。潤滑剤膜F内のこのBN値90は、ここで第1の潤滑剤と第2の潤滑剤とをシリンダ2内に常に交互に導入することによって実現され、これによって各潤滑プロセスによって変化が生じる。したがって、第1及び第2の潤滑剤は、1:1の比率で混合される。
【0077】
図4に示す第2の実施形態では、第1の潤滑剤のBN値は100であり、第2の潤滑剤のBN値は40である。走行面21上の潤滑剤膜Fの所望の目標値は、BN値60である。潤滑剤膜F内のこのBN値60は、ここで第1の潤滑剤による潤滑プロセスと第2の潤滑剤による次の2つの潤滑プロセスとを最初に行うことによって実現される。次いで、再び第1の潤滑剤を用いて1つの潤滑プロセスを実行し、第2の潤滑剤を用いて2つの潤滑プロセスを実行する。したがって、第1及び第2の潤滑剤は、1:2の比率で混合される。
【0078】
適切な第1又は第2の潤滑剤の選択は、とりわけ、大型ディーゼルエンジン100が作動する燃料に依存する。適切な潤滑剤の選択のための重要な基準は、例えば、それぞれの燃料の硫黄含有量である。これは、それぞれの燃料に対して知ることができ、又はそれはまた、大型ディーゼルエンジン100の運転中に測定によって測定され、又は監視される。硫黄含有量(又は他の代表的なサイズ)の変化が検出された場合、上述した2つの潤滑剤の混合によって、この硫黄の含有量が変化してもシリンダ潤滑が最適であることを達成することができる。
【0079】
本発明に係る方法の枠組み内の別の可能性は、使用される第1又は第2の潤滑剤の一部又はそれらの混合物がシリンダから排出され、又はシリンダから除去され、次いで、シリンダ内の潤滑が依然として最適であるかどうかを確かめるために分析によって調べることである。そうでない場合には、例えば、2つの潤滑剤の混合比を変えることによってシリンダ潤滑を改善することができる。使用される潤滑剤の評価のための典型的なパラメータは、例えば、使用される潤滑剤の鉄含有量又は潤滑剤の量当たりの水酸化カリウム当量で測定されるその塩基価(BN数)の変化である。
【0080】
本発明に係る潤滑装置1の第2の実施形態を有する本発明に係る大型ディーゼルエンジン100の第2の実施形態では、コンベヤポンプが、第1のリザーバ41と第1の中間リザーバ51との間の第1の供給ライン61に設けられ、第1のリザーバ41から第1の中間リザーバ51内へ第1の潤滑剤を運ぶ。更に、コンベヤポンプが、第2のリザーバ42と第2の中間リザーバ52との間の第2の供給ライン62に設けられ、第2のリザーバ42から第2の中間リザーバ52内へ第2の潤滑剤を運ぶ。
【0081】
コンベヤポンプを用いたこの実施形態は、中間リザーバ51、52内の2つの潤滑剤が、リザーバ内の静水圧によってのみでは生成できない圧力に保たれる場合に特に有利である。