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  • 特許-リアクトルの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】リアクトルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/12 20060101AFI20220330BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20220330BHJP
   B29C 45/14 20060101ALI20220330BHJP
   B29C 45/26 20060101ALI20220330BHJP
   B29C 33/12 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
H01F41/12 C
H01F37/00 M
H01F37/00 T
H01F37/00 J
H01F37/00 A
B29C45/14
B29C45/26
B29C33/12
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018143844
(22)【出願日】2018-07-31
(65)【公開番号】P2020021806
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】冨田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】飯島 遥
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌徳
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-005579(JP,A)
【文献】特開2014-220457(JP,A)
【文献】特開2009-218531(JP,A)
【文献】特開2009-090482(JP,A)
【文献】特開2017-037889(JP,A)
【文献】特公昭47-022730(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0230238(US,A1)
【文献】国際公開第2013/065183(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/12
H01F 37/00
H01F 41/04
B29C 45/14
B29C 45/26
B29C 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアに巻回されている巻線と、前記コアと前記巻線を覆う樹脂カバーであって上方または側方に突出する突起を有している樹脂カバーを備えたリアクトルの製造方法であり、
溶融樹脂を充填して前記樹脂カバーを形成するための金型が上型と下型を備えており、
前記上型は、前記下型に対して上下方向に相対的に移動が可能であり、前記突起の上部を形成する突起上部キャビティ部を備えており、
前記下型は、
前記コアの側面に対して進退可能に設けられており、前記溶融樹脂を充填する際に前記コアを押圧するコア押圧部と、
前記コア押圧部に連結されており、前記突起の下部を形成する突起下部キャビティ部であって当該突起下部キャビティ部の側面に溝が設けられている突起下部キャビティ部と、
を備えており、
前記金型内の前記溶融樹脂が固化した後、前記上型を開いた後に前記コア押圧部と前記突起下部キャビティ部を後退させる、リアクトルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、リアクトルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コアと、コアに巻回されている巻線と、コアと巻線を覆う樹脂カバーを備えているリアクトルが知られている(特許文献1)。特許文献1のリアクトルの樹脂カバーには、巻線の引き出し線と他の銅体を接続して固定する端子固定部が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-41919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、樹脂カバーは射出成形で作られる。より具体的には、樹脂カバーは、コアと巻線のアセンブリを入れた金型に溶融樹脂を充填して作られる。上記した端子固定部に相当する突起あるいは他の用途の突起は射出成形で樹脂カバーと同時に成形される。金型は下型と、下型に対して上下方向に移動可能に設けられている上型とで構成される。樹脂カバーから上方または側方に突出する突起を樹脂カバーに設ける場合、金型の上型に突起を形成するためのキャビティ部(突起キャビティ部)が設けられる。そのような上型を備えた金型で樹脂カバーを短いサイクルで連続生産すると、上型の突起キャビティ部の温度が十分に下がらず、上型を開いたときに突起が突起キャビティ部から離型せず樹脂カバーから引きちぎられてしまうことがある。本明細書は、上方または側方に突出する突起を有する樹脂カバーを備えたリアクトルの製造方法に関し、大きなコスト増を伴うことなく、上型を開く際に突起が引きちぎられることを防止する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、コアと、コアに巻回されている巻線と、コアと巻線を覆う樹脂カバーであって上方または側方に突出する突起を有している樹脂カバーを備えたリアクトルの製造方法に関する。突起は、例えば巻線の端(引き出し線)と他の導体を固定する端子台に利用される。溶融樹脂を充填して樹脂カバーを形成するための金型は、上型と下型を備えている。上型は、下型に対して上下方向に相対的に移動が可能である。上型は、突起の上部を形成する突起上部キャビティ部を備えている。下型は、コア押圧部と突起下部キャビティ部を備えている。コア押圧部は、金型に入れられたコアの側面に対して進退可能に設けられており、溶融樹脂を充填する際にコアを押圧する。突起下部キャビティ部は、コア押圧部に連結されており、コア押圧部とともに進退可能である。突起下部キャビティ部は、突起の下部を形成する部位である。その突起下部キャビティ部の側面には、コア押圧部の進退方向に沿って延びる溝が設けられている。樹脂カバーを成形する際、金型内の溶融樹脂が固化した後、上型を開いた後にコア押圧部と突起下部キャビティ部を後退させる。
【0006】
上記の製造方法によれば、突起下部キャビティ部の溝にも溶融樹脂が充填される。溝で形成された樹脂部分は、突起の側面から突出するリブとなる。上型を開く際、リブが下型に備えられた突起下部キャビティ部の溝に引っ掛かり、上昇する上型から突起が離れる。コアの側面に対して進退可能に支持されており溶融樹脂を充填する際にコアを固定するコア押圧部はもともと下型に備えられている。本明細書が開示する技術は、下型にもともと備えられているスライド式のコア押圧部を活用することで、上型を開く際に突起を押さえるとともに、その後に後退するスライド式の突起下部キャビティ部を低コストで追加することができる。すなわち、大きなコスト増を伴うことなく、上型を開く際に突起が引きちぎられることを防止することができる。本明細書が開示する技術によって、上方又は側方に突出する突起を備えた樹脂カバーを含むリアクトルを安価に製造できるようになる。
【0007】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】製造対象のリアクトルの斜視図である(樹脂カバーあり)。
図2】製造対象のリアクトルの斜視図である(樹脂カバーなし)。
図3】コアと巻線をセットした金型の断面図である(図2のIII-III断面に対応)。
図4】下型の一部断面図である。
図5】金型の断面図である(樹脂射出工程)。
図6】金型の断面図である(上型を開く工程)。
図7】金型の断面図である(スライドブロックを後退させる工程)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施例の製造方法を説明する前に、リアクトルを説明する。図1にリアクトル10の斜視図を示し、図2に、コアと巻線のアセンブリ10a(樹脂カバーなしのリアクトル)の斜視図を示す。リアクトル10は、インダクタを利用した受動素子である。リアクトル10は、例えば電圧変換回路に組み込まれる。リアクトル10の主要部品はコア14と巻線11である。巻線11は、リング状のコア14の2か所に巻回され、コイル11a、11bを構成する。即ち、2個のコイル11a、11bは1本の巻線11で作られており、電気的には一つのコイルを構成する。巻線11の端が引き出し線12a、12bに相当する。引き出し線12a、12bが他の導体に接続される。図1図2では、引き出し線12a、12bの途中から先の図示を省略してある。
【0010】
コア14と巻線11は樹脂カバー20に覆われている。コイル11a、11bの下部は樹脂カバー20から露出している。樹脂カバー20には窓25が設けられており、窓25からもコイル11a、11bが露出している。樹脂カバー20の4箇所からタブ29が延びている。タブ29にはリアクトル10を電圧変換器の筐体に固定するためのボルトを通す孔が設けられている。
【0011】
樹脂カバー20のコア14を覆う上面20aと側面20bにわたって突起21が設けられている。突起21は、樹脂カバー20の上面20aから上方に突出しているとともに、樹脂カバー20の側面20bから水平方向にも突出している。突起21は、引き出し線12aを他の導体と接続するための端子台の役割を果たす。突起21の上面にはネジを固定するネジ孔22が設けられている。突起21の側面には水平方向に延びるリブ23が設けられている。リブ23は、突起21を有する樹脂カバー20を射出成形する工程でその機能を果たす。樹脂カバー20の突起21の下方に孔24が設けられている。孔24からコア14が露出している。
【0012】
樹脂カバー20は射出成形工程で作られる。以下、リアクトル10の製造工程の一部である樹脂カバー形成過程を説明する。図3に、樹脂カバー20を形成するための金型30の一部断面図を示す。図3の断面は、図1のIII-III線に沿ったリアクトル10の断面に対応する。図3は、金型30の内部に、樹脂カバー形成前のリアクトル(即ち、コア14と巻線11のアセンブリ10a)をセットした状態を示している。金型30の内部のキャビティ空間CAに満たされた樹脂が樹脂カバー20を形成する。
【0013】
図3は、突起21を形成するための部位の断面図である。金型30は、上型31と下型32で構成されている。上型31は、下型32に対して上下方向に移動可能に支持されている。図中の座標系の+Z方向が上に相当する。図では上型31を支持する機構の図示は省略している。上型31は、突起21の上部を形成する突起上部キャビティ部311を備えている。
【0014】
下型32は、図中のX方向にスライドするスライドブロック33を備えている。図4に、スライドブロック33の斜視図を示す。図4では、スライドブロック33以外の下型部分を仮想線で描いてある。下型32は、コア14の側面に対向する側面キャビティ面321を備えている。スライドブロック33は、側面キャビティ面321と面一となるコア対向面331を備えている。スライドブロック33は、側面キャビティ面321から進退可能に下型32に支持されている。スライドブロック33を進退させる機構については図示を省略する。側面キャビティ面321には、樹脂カバー20のタブ29(図1参照)を形成するための窪み329も設けられている。
【0015】
コア対向面331からコア押圧部332が水平方向に突出している。コア押圧部332は、キャビティ内でコア14の側面に対向する(図3参照)。コア押圧部332は、キャビティ空間CAにセットされたコア14の側面に対向するとともに、コア14の側面に対して進退可能である。
【0016】
図示は省略するが、下型32は、コア14を挟んでスライドブロック33の反対側にも別のスライドブロックを備えており、そのスライドブロックもコア14に対向するコア押圧部を備えている。2個のスライドブロックは、コア14を挟持するように夫々がコア14に対して進退する。即ち、コア押圧部332(と反対側のコア押圧部)は、キャビティ内でコア14を挟み込んで固定する。
【0017】
スライドブロック33は、突起21の下部を形成するための部位(突起下部キャビティ部333)を備えている。一つのスライドブロック33にコア押圧部332と突起下部キャビティ部333が設けられている。従って別言すれば、突起下部キャビティ部333は、コア押圧部332に連結されており、コア押圧部332とともにコア14に対して進退する。突起下部キャビティ部333の側面には、前述したリブ23に対応する溝334が設けられている。溝334は、突起下部キャビティ部333の側面に沿って水平方向に延びている。溝334の一部は、スライドブロック33の進退方向(図中のX方向)に沿って延びている。
【0018】
以下、金型30を使った樹脂カバー成形過程を説明する。
【0019】
(樹脂射出工程)金型30の内部にアセンブリ10aをセットし、コア押圧部332(及び反対側のコア押圧部)でコア14を支持しつつキャビティ空間CAに溶融樹脂を射出する(図5)。なお、図5(A)は図3に対応する断面であり、図5(B)は、図5(A)のB-B線に沿った断面を示している。コア押圧部332(及び反対側のコア押圧部)でコア14を支持することで、キャビティ空間CAの内部でコア14の位置が定まり、コア14と樹脂カバー20の相対的な位置が定まる。溶融樹脂が固まると、樹脂カバー20となる。
【0020】
(上型を開く工程)溶融樹脂が固まったら上型31を上方へ移動する(図6)。別言すれば、上型31を開く。図6(A)は図3に対応する断面であり、図6(B)は、図6(A)のB-B線に沿った断面を示している。上型31を開くとき、下型32のスライドブロック33は動かさない。突起21のリブ23がスライドブロック33の溝334に嵌り込んでおり、突起21が上昇する上型31に固着して樹脂カバー20から引きちぎられることが防止される。
【0021】
(スライドブロックを後退させる工程)上型31を開いた後、スライドブロック33(コア押圧部332と突起下部キャビティ部333)を後退させる(図7)。そして、樹脂カバー20が形成されたリアクトル10を下型32から取り出す。コア押圧部332がコア14に当接していた部位が、図1の孔24に対応する。
【0022】
上記した製造方法の利点を述べる。樹脂カバー20の突起21を形成するのに上型31に突起上部キャビティ部311を設けるとともに、下型32に突起下部キャビティ部333を設ける。突起下部キャビティ部333には、水平方向に延びる溝334が設けられている。溝334に対応して突起21にはリブ23が形成される。キャビティ内で溶融樹脂が固化した後、上型31を開く際、突起21が上型31から離れないと突起21が樹脂カバー20から引きちぎられるおそれがある。特に、金型30を短いサイクルで繰り返し使うと、突起上部キャビティ部311の温度が下がりきらないうちに上型31が開かれる場合がある。突起上部キャビティ部311の温度が十分に下がっていないと突起21が十分に固化しないうちに上型31が開くことになる。充分に固化していない突起21は、上型31から離れ難くなる一方で樹脂カバー20から引きちぎれやすくなる。下型32の突起下部キャビティ部333に設けられた溝334は、上型31を開く際、突起21を押さえる役割を果たす。溝334とリブ23が係合し、上型31が上昇する際、突起21が上型31から離される。突起下部キャビティ部333の側面に設けられた溝334は、上型31を開く際に突起21が樹脂カバー20から引きちぎられることを防止する。
【0023】
水平方向に延びる溝334を有する突起下部キャビティ部333は、樹脂カバー20から離れる方向に後退しなければ、樹脂カバー20から外すことができない。突起下部キャビティ部333は、コア14を固定するために進退するコア押圧部332に連結している。即ち、突起下部キャビティ部333はコア押圧部332とともに進退する。別言すれば、実施例の製造方法では、金型がもともと有しているコア押圧部332の進退機構を使って突起下部キャビティ部333も進退させる。突起下部キャビティ部333を進退させる新たな機構を追加することなく、突起を押さえる機構を追加することができる。即ち、進退する突起下部キャビティ部333は安価で実現することができる。
【0024】
図6に示すように、上型31の突起上部キャビティ部311には、ネジ孔22(図1参照)の下穴を形成するための突起312が設けられている。突起312は上下方向に延びており、突起21の内部に位置することになる。上型31が突起312を有していると、金型30を連続使用したときに突起21が冷え難くなり、突起21が一層引きちぎられる可能性が高まる。突起下部キャビティ部333の溝334は、突起21の側面の周囲に延びるリブ23を押さえるように働くので、突起21をしっかりと押さえることができる。それゆえ、突起312が設けられている突起上部キャビティ部311(上型31)が上昇する際、突起21が上型31に引っ張られて樹脂カバー20から引きちぎられることが防止される。
【0025】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。本明細書が開示する製造方法は、リング状のコアを有するリアクトルの製造方法に限定されない。例えば、棒状のコアと単一のコイルを有するリアクトルの製造方法に適用することも可能である。樹脂カバー20が備える突起21は、引き出し線と導体を接続する端子台に限定されない。樹脂カバー20が備える突起は別の用途に利用されるものであってもよい。
【0026】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0027】
10:リアクトル
10a:アセンブリ
11:巻線
11a、11b:コイル
12a、12b:引き出し線
14:コア
20:樹脂カバー
21:突起
22:ネジ孔
23:リブ
30:金型
31:上型
32:下型
33:スライドブロック
311:突起上部キャビティ部
321:側面キャビティ面
331:コア対向面
332:コア押圧部
333:突起下部キャビティ部
334:溝
CA:キャビティ空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7