(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】建設機械の油圧回路
(51)【国際特許分類】
F15B 11/16 20060101AFI20220330BHJP
F15B 11/05 20060101ALI20220330BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20220330BHJP
B62D 11/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
F15B11/16 B
F15B11/05 A
E02F9/22 A
B62D11/04 G
(21)【出願番号】P 2018151070
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505236469
【氏名又は名称】キャタピラー エス エー アール エル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 誠司
(72)【発明者】
【氏名】東出 善之
(72)【発明者】
【氏名】大平 眞裕
(72)【発明者】
【氏名】中嶌 秀樹
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-064024(JP,A)
【文献】特開平04-261923(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0066038(KR,A)
【文献】特開2006-336731(JP,A)
【文献】米国特許第5950429(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00-15/28
E02F 9/22
B62D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプと、
建設機械の左走行モータおよび右走行モータとして設けられる左右の走行モータと、
前記左右の走行モータと対応する左右の圧力補償弁と、
前記左右の走行モータと対応する左右の走行操作器と、
前記左右の走行モータ、前記左右の圧力補償弁および前記左右の走行操作器と対応し、対応する走行操作器の操作量に応じてスプールの位置を変える左右の方向切換弁と、を備え、
前記方向切換弁は、前記ポンプと接続されるポンプポート、対応する圧力補償弁の上流側と接続される第1補償ポート、対応する圧力補償弁の下流側と接続される第2補償ポート、対応する走行モータと接続される一対の給排ポートを有し、
前記左右の走行操作器が操作された時に前記左右の方向切換弁の前記第
2補償ポート同士を連通させる連通ラインを更に備え、
前記左右の走行操作器の操作量に応じて、前記連通ラインの連通度合いが変更される、建設機械の油圧回路。
【請求項2】
ポンプと、
建設機械の左走行モータおよび右走行モータとして設けられる左右の走行モータと、
前記左右の走行モータと対応する左右の圧力補償弁と、
前記左右の走行モータと対応する左右の走行操作器と、
前記左右の走行モータ、前記左右の圧力補償弁および前記左右の走行操作器と対応し、対応する走行操作器の操作量に応じてスプールの位置を変える左右の方向切換弁と、を備え、
前記方向切換弁は、前記ポンプと接続されるポンプポート、対応する圧力補償弁の上流側と接続される第1補償ポート、対応する圧力補償弁の下流側と接続される第2補償ポート、対応する走行モータと接続される一対の給排ポート、および連通ポートを有し、
前記左右の方向切換弁の前記連通ポート同士が連通ラインを介して接続され、
前記走行操作器が操作されて前記スプールが中立位置から移動すると、前記ポンプポートが前記第1補償ポートと連通し、かつ、前記第2補償ポートが前記給排ポートの一方および前記連通ポートと連通し、
前記方向切換弁は、前記スプールの前記中立位置からの移動量が大きいほど前記第2補償ポートと前記連通ポートとの連通度合が大きくなるよう構成される、建設機械の油圧回路。
【請求項3】
前記走行操作器が非操作で前記スプールが中立位置にあれば、前記第2補償ポート同士を連通させる連通ラインがブロックされる、請求項1に記載の建設機械の油圧回路。
【請求項4】
前記走行操作器が非操作で前記スプールが前記中立位置にあれば、前記連通ポートがブロックされる、請求項
2に記載の建設機械の油圧回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に搭載される油圧回路に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械の走行駆動源には、左右の油圧モータが用いられる(例えば、特許文献1を参照)。なお、左右とは、建設機械の前進方向に対して左右を意味するものである。
図3を参照して、各走行モータ91,92とポンプ93との間には方向切換弁94,95および圧力補償弁96,97が設けられ、運転席には左右の方向切換弁94,95を操作するための左右の走行操作器が設けられる。作業員が走行操作器を操作すると、ポンプ93から吐出された圧油が、方向切換弁94,95および圧力補償弁96,97を介し、走行モータ91,92に供給される。左右の圧力補償弁96,97の下流側同士は、連通ライン98を介して常時連通している。これにより、両方の走行操作器を同方向に操作したときに、両走行モータ91,92の負荷圧あるいは回転速度の平準化が図られ、ひいては、建設機械の直進性能の向上が図られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本書では、旋回走行という場合、運転席や作業装置が取り付けられている上部車体フレームの旋回ではなく、走行モータが取り付けられている下部走行フレームによる走行時の直進走行の反義としての旋回走行を指す。建設機械の旋回走行方式として、緩旋回や信地旋回がある。信地旋回は、左右の走行操作器のうち片方の走行操作器のみ操作又は両方の走行操作器を逆操作することで、建設機械全体を旋回走行する方式である。なお、両方の走行操作器を逆方向に全量操作する超信地旋回という方式もある。緩旋回は、両方の走行操作器を同方向に異なる操作量で操作することで、弧を描くように前進または後退して進路を変える方式である。直進走行の場合は、両方の走行操作器を同方向に同量操作すればよい。
【0005】
特許文献1では、直進のための操作が「同一方向の操作」とされ、緩旋回との区別(操作量異同)を考慮していない。作業員が緩旋回のための操作を行うと、連通ライン98を介して走行モータ91,92のうち低速になるべき方に作動油が流れ込み、建設機械が直進しようとする。直進性能の向上が図られた結果として、旋回走行性能を損ねている。
【0006】
そこで本発明は、建設機械の直進性能も旋回走行性能も確保することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る建設機械の油圧回路は、ポンプと、建設機械の左走行モータおよび右走行モータとして設けられる左右の走行モータと、前記左右の走行モータと対応する左右の圧力補償弁と、前記左右の走行モータと対応する左右の走行操作器と、前記左右の走行モータ、前記左右の圧力補償弁および前記左右の走行操作器と対応し、対応する走行操作器の操作量に応じてスプールの位置を変える左右の方向切換弁と、を備え、前記方向切換弁は、前記ポンプと接続されるポンプポート、対応する圧力補償弁の上流側と接続される第1補償ポート、対応する圧力補償弁の下流側と接続される第2補償ポート、対応する走行モータと接続される一対の給排ポートを有し、前記左右の走行操作器が操作された時に前記左右の方向切換弁の前記第2圧力補償ポート同士を連通させる連通ラインを更に備え、前記左右の走行操作器の操作量に応じて、前記連通ラインの連通度合いが変更されるように構成される。
【0008】
前記構成によれば、作業員が左右の走行操作器を操作した場合、左右の走行モータ間の流体的な接続状態が走行操作器の操作量に応じて調整されることにより、直進性能の向上のみならず、旋回走行性能(回頭性能)の向上も得られる。
【0009】
また、本発明に係る建設機械の油圧回路は、ポンプと、建設機械の左走行モータおよび右走行モータとして設けられる左右の走行モータと、前記左右の走行モータと対応する左右の圧力補償弁と、前記左右の走行モータと対応する左右の走行操作器と、前記左右の走行モータ、前記左右の圧力補償弁および前記左右の走行操作器と対応し、対応する走行操作器の操作量に応じてスプールの位置を変える左右の方向切換弁と、を備え、前記方向切換弁は、前記ポンプと接続されるポンプポート、対応する圧力補償弁の上流側と接続される第1補償ポート、対応する圧力補償弁の下流側と接続される第2補償ポート、対応する走行モータと接続される一対の給排ポート、および連通ポートを有し、前記左右の方向切換弁の前記連通ポート同士が連通ラインを介して接続され、前記走行操作器が操作されて前記スプールが中立位置から移動すると、前記ポンプポートが前記第1補償ポートと連通し、かつ、前記第2補償ポートが前記給排ポートの一方および前記連通ポートと連通し、前記方向切換弁は、前記スプールの前記中立位置からの移動量が大きいほど前記第2補償ポートと前記連通ポートとの連通度合が大きくなるよう構成されてもよい。
【0010】
前記構成によれば、作業員が直進のため左右の走行操作器を同量操作した場合、ポンプからの圧油が、ポンプポート、第1補償ポート、圧力補償弁、第2補償ポートおよび給排ポートの一方を介し、左右の走行モータに供給される。また、第2補償ポートが連通ポートと連通する。そのため、左右の走行モータの負荷圧に差が生じても、左右の圧力補償弁の下流側同士が連通ラインを介して連通し、その差が補正される。よって、建設機械の直進操作時においては、左右の走行モータの負荷圧に差が生じても、負荷圧の差を十分に補正できるため、直進性能が十分に得られる。
【0011】
また、作業員が旋回走行のため左右の走行操作器を異なる操作量で操作した場合にも、直進時と同様、左右の圧力補償弁の下流側同士が連通ラインを介して連通する。ただし、操作量が小さい側の方向切換弁では、スプールの移動量が小さく、第2補償ポートと連通ポートとの連通度合が比較的に小さくなる。そのため、負荷圧の差は直進時と比べて補正されにくい。よって、建設機械の旋回走行操作時においては、左右の走行モータの負荷圧に差が生じても、負荷圧の差を補正しないようにすることができるため、旋回走行性能も十分に得られる。
【0012】
また、本発明に係る建設機械の油圧回路において、前記走行操作器が非操作で前記スプールが前記中立位置にあれば、前記連通ポートがブロックされるように構成されてもよい。
【0013】
前記構成によれば、作業員が信地旋回のため片方の走行操作器のみ操作している場合、非操作側の方向切換弁において連通ポートがブロックされる。圧力補償弁の下流側同士が常時連通することを回避でき、作動油は操作側から非操作側に流れない。よって、無効流量の発生を抑止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、建設機械の直進性能も旋回走行性能も確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態に係る油圧回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、実施形態に係る油圧回路10を示す回路図である。
図1に示す油圧回路10は、建設機械(特に、小型の建設機械)に搭載される。詳細図示を省略するが、建設機械は、車体フレームに取り付けられた作業装置を備え、作業装置を動作させて所要の作業が行われる。このような建設機械として、ショベルカー、クレーン車を例示できる。建設機械は自走可能であり、一例として、左右のクローラを備えた装軌車両である。左クローラは、左履板を回転駆動する左起動輪1を備える。右クローラは、右履板を回転駆動する右起動輪2を備える。ただし、建設機械は、クローラに代えて左右の車輪を備えた装輪車両でもよい。
【0017】
建設機械の運転席には、左右の走行操作器3,4と、1以上の作業装置操作器5とが設けられる。走行操作器3,4の形式は特に限定されず、レバーでもペダルでもよく、また、レバーおよびペダルを両方備えてもよい。左走行操作器3は左クローラの操作に用いられ、右走行操作器4は右クローラの操作に用いられる。左走行操作器3は、非操作の中立位置から第1操作方向および第2操作方向の2方向に操作できる。左走行操作器3が中立位置にあれば、左クローラは停止する。左走行操作器3が中立位置から第1操作方向に操作されれば、左クローラが前進方向(左側面視で反時計回り)に回転する。左走行操作器3が中立位置から第2操作方向に操作されれば、左クローラが後退方向(左側面視で時計回り)に回転する。左クローラの回転速度は、左走行操作器3の操作量に応じて調整される。右走行操作器4と右クローラとの関係も、これと同様である。
【0018】
油圧回路10は、建設機械の左走行モータおよび右走行モータとして設けられる左右の走行モータ11,12、ポンプ13、タンク14、作業装置アクチュエータ21、作業装置用方向切換弁22、左右の方向切換弁31,41、および、左右の圧力補償弁32,42を備えている。なお、左右とは、建設機械の前進方向に対して左右を意味するものである。
【0019】
左走行モータ11は、一対の給排ポート11a,11bを有し、左軌動輪1を前進方向または後退方向に回転駆動する。右走行モータ12は、一対の給排ポート12a,12bを有し、右軌動輪2を前進方向または後退方向に回転駆動する。ポンプ13は、タンク14に溜められている作動油を吸い込み、その吐出口13aより圧油を吐出する。ポンプ13は、左右の走行モータ11,12の圧油供給源である。ポンプ13から吐出された圧油は、吐出口13aに接続されたポンプライン15を介し、走行モータ11,12に供給される。
【0020】
一例として、ポンプ13は、作業装置アクチュエータ21の圧油供給源であってもよい。第2ポンプライン23がポンプライン15から分岐して作業装置用方向切換弁22のポンプポート22pに接続され、タンクライン16が当該弁22のタンクポート22tに接続され、一対の給排ポート22a,22bが一対の給排ライン24,25を介して作業装置アクチュエータ21の給排ポート21a,21bに接続されている。作業装置用方向切換弁22は、作業装置操作器5によって操作され、作業装置アクチュエータ21に対する圧油給排を制御する。
【0021】
左方向切換弁31は、左走行モータ11、左圧力補償弁32および左走行操作器3と対応している。右方向切換弁41は、右走行モータ12、右圧力補償弁42および右走行操作器4と対応している。左方向切換弁31は、左走行操作器3の操作方向および操作量に応じてスプールの位置を変えるように構成されている。右走行操作器4と右方向切換弁41のスプール位置との関係も、これと同様である。
【0022】
図2を参照して、左方向切換弁31は、ポンプポート31p、タンクポート31t、第1補償ポート31q、第2補償ポート31r、一対の給排ポート31a,31bおよび連通ポート31cを有している。右方向切換弁41も同様に、ポンプポート41p、タンクポート41t、第1補償ポート41q、第2補償ポート41r、一対の給排ポート41a,41bおよび連通ポート41cを有している。
【0023】
ポンプポート31p,41pは、ポンプライン15を介してポンプ13の吐出口13aと接続されている。ポンプライン15には、吐出口13aに接続された単一系統の共通部15cと、共通部15cから分岐してポンプポート31p,41pそれぞれに接続される2本の分岐部15a,15bとが含まれる。タンクポート31t,41tは、タンクライン16を介してタンク14と接続されている。左方向切換弁31の連通ポート31cは、連通ライン50を介し、右方向切換弁41の連通ポート41cに接続されている。
【0024】
左方向切換弁31に関し、給排ポート31aは、給排ライン33を介して左走行モータ11の給排ポート11aに接続され、給排ポート31bは、給排ライン34を介して左走行モータ11の給排ポート11bに接続されている。第1補償ポート31qは、一次補償ライン35を介して、左圧力補償弁32の上流ポート32aと接続されている。左圧力補償弁32の下流ポート32bは、二次補償ライン36を介して第2補償ポート31rと接続されている。補償ポート41q,41r、右圧力補償弁42、給排ポート41a,41bおよび右走行モータ12の間の接続関係も、これと同様である。
【0025】
左走行操作器3が非操作で中立位置にあるとき、左方向切換弁31のスプールは中立位置に位置づけられる(
図1および
図2の中央ファンクションを参照)。このとき、ポンプポート31p、第1補償ポート31q、第2補償ポート31rおよび連通ポート31cがブロックされる。給排ポート31a,31bはタンクポート31tと連通する。
【0026】
左走行操作器3が中立位置から第1操作方向に操作されると、左方向切換弁31のスプールは中立位置から第1移動方向に移動する(
図1および
図2の上ファンクションを参照)。このとき、ポンプポート31pが第1補償ポート31qと連通し、第2補償ポート31rが給排ポート31bおよび連通ポート31cと連通し、給排ポート31aがタンクポート31tと連通する。
【0027】
左走行操作器3が中立位置から第2操作方向に操作されると、左方向切換弁31のスプールは中立位置から第1移動方向とは反対の第2移動方向に移動する(
図1および
図2の下ファンクションを参照)。このとき、ポンプポート31pが第1補償ポート31qと連通し、第2補償ポート31rが給排ポート31aおよび連通ポート31cと連通し、給排ポート31bがタンクポート31tと連通する。
【0028】
左方向切換弁31のスプールが中立位置から移動すると、その移動方向に関わらず、ポンプポート31pが第1補償ポート31qと連通する。左走行操作器3の操作量が大きくスプールの中立位置からの移動量が大きいほど、これらポート31p,31qの連通度合も大きくなる。この点、
図2では、左方向切換弁31の上下ファンクションにて、ポート31p,31qが連通する旨示す矢印記号に、可変絞り31x1,31x2を表す記号を付している。
【0029】
左方向切換弁31のスプールが中立位置から移動すると、その移動方向に関わらず、第2補償ポート31rが連通ポート31cと連通する。左走行操作器3の操作量が大きくスプールの中立位置からの移動量が大きいほど、これらポート31r,31cの連通度合も大きくなる。この点、
図2では、左方向切換弁31の上下ファンクションにて、ポート31r,31cが連通する旨示す矢印記号に、可変絞り31y1,31y2を表す記号を付している。
【0030】
右方向切換弁31のスプール位置とポート連通状態との関係も、上記同様である。参照符号41x1,41x2は、右方向切換弁41のスプールが中立位置から移動したときに、スプールの移動量に応じてポンプポート31rと第1補償ポート31qとの連通度合が変わる旨示す可変絞りである。参照符号41y1,41y2は、右方向切換弁41のスプールが中立位置から移動したときに、スプールの移動量に応じて第2補償ポート41rと連通ポート41cとの連通度合が変わる旨示す可変絞りである。
【0031】
上記構成の油圧回路10の作用について説明する。
【0032】
前方直進に際し、作業員は、左右の走行操作器3,4を第1操作方向に同量操作すればよい。後方直進に際し、作業員は、左右の走行操作器3,4を第2操作方向に同量操作すればよい。通例、直進に際し、作業員は、左右の走行操作器3,4を全量操作する。すると、左方向切換弁31では、スプールが中立位置から第1または第2移動方向に大きく移動し、ポート31p,31qの連通度合が最大化される。右方向切換弁41でもこれと同様である。このため、左右の走行モータ11,12に概略等量の大流量を供給でき、比較的に高速で建設機械を直進走行させることができる。
【0033】
更に、左圧力補償弁32の下流側が、第2補償ポート31r、連通ポート31c、連通ライン50、連通ポート41cおよび第2補償ポート41rを介し、右圧力補償弁42の下流側と連通する。左方向切換弁31では第2補償ポート31rと連通ポート31cとの連通度合は最大化され、右方向切換弁41でも第2補償ポート41rと連通ポート41cとの連通度合は最大化される。そのため、仮に左右の走行モータ11,12の負荷圧に差が生じようとしても、その圧力差を補正できる。よって、走行モータ11,12の負荷圧ひいては回転速度が平準化され、建設機械の直進性を保つことができる。
【0034】
前進中の左方緩旋回に際し、作業員は、左右の走行操作器3,4を第1操作方向に操作する。右走行操作器4は全量操作され、左走行操作器3は、所望の旋回走行半径に応じて全量に満たない中間量だけ操作される。この場合、右方向切換弁41では、上記した直進時と同様に連通度合が最大化される。左方向切換弁31では、操作量が減じられているのでスプールの移動量も小さくなり、ポート31p,31rは連通するものの、その連通度合が小さくなる。そのため、左圧力補償弁32ひいては第2補償ポート31rへの供給流量も、右側と比べて小さくなる。
【0035】
左方向切換弁31では、第2補償ポート31rと連通ポート31cとの連通度合も小さくなる。そのため、左圧力補償弁32の下流側は、右圧力補償弁42の下流側と連通ライン50を介して連通するものの、直進時と比べれば連通度は絞られている。よって、左右の走行モータ11,12の負荷圧あるいは回転速度の差が、直進時と比べれば相殺されにくい。そのため、建設機械は、左走行モータ11の回転速度が右走行モータ12の回転速度よりも低い状態を維持できる。すなわち、建設機械は、前進しながら左方へ緩旋回できる。前進中の右方緩旋回、後進中の左方緩旋回および後進中の右方緩旋回も、これと同様である。
【0036】
左前回りの信地旋回に際し、作業員は、右走行操作器4を第1操作方向に全量操作する一方で、左走行操作器3を非操作とする。右方向切換弁41の挙動は上記した直進時と同様である。左方向切換弁31のスプールは中立位置に留まる。そのため、タンクポート31tは給排ポート31a,31bと連通し、その他のポート31p,31q,31r,31cはブロックされる。右走行モータ12は大流量の供給を受けて回転する一方で、左走行モータ11は停止する。そのため、建設機械は、停止している左クローラを軸として左前回りに信地旋回できる。連通ポート31cがブロックされているので、回転側である右圧力補償弁42の下流側は、停止側である左圧力補償弁32の下流側から遮断される。右圧力補償弁42を通過した作動油は、左方向切換弁31を通過できない。そのため、無効流量の発生を抑止できる。右前回り、左後回りおよび右後回りの信地旋回も、これと同様である。
【0037】
左前回りの超信地旋回に際し、作業員は、左走行操作器3を第2操作方向に全量操作する一方で、右走行操作器4を第1操作方向に全量操作する。左方向切換弁31の挙動も右方向切換弁41の挙動も概ね上記した直進時と同じであるが、左方向切換弁31ではスプールが第2移動方向に移動し、右方向切換弁41ではスプールが第1移動方向に移動する。左右の走行モータ11,12には概略等量の大流量が供給されるが、左右の走行モータ11,12は互いに逆方向に回転する。仮に左右の走行モータ11,12の負荷圧に差が生じようとしても、その圧力差を補正でき、走行モータ11,12の負荷圧ひいては回転速度が平準化される。そのため、建設機械は、その場から大きく移動することなく超信地旋回できる。右前回り、左後回りおよび右後回りの超信地旋回も、これと同様である。
【0038】
上記したとおり、本実施形態によれば、直進性能も旋回走行性能も確保できる。従前存在する方向切換弁31,41に連通ポート31c,41cを設け、第2補償ポート31r,41rと連通ポート31c,41cとの連通度合をスプールの移動量に応じて変えるという構成を採用することで、このような作用を実現している。弁数あるいは油路数が極力抑えられており、油圧回路10を簡素に構成できる。
【0039】
これまで本発明の実施形態について説明したが、上記構成は本発明の範囲内で適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態の「方向切換弁31,41に連通ポート31c,41cを設け、第2補償ポート31r,41rと連通ポート31c,41cとの連通度合をスプールの移動量に応じて変える」という構成に代えて、左右の走行操作器3,4が操作された時に左右の方向切換弁31,41の第2圧力補償ポート31r,41r同士を連通させる連通ラインを設け、その連通ライン上に左右の走行モータ11,12間の流体的な接続を走行操作器3,4の操作量に応じて調整する連通度合調整装置を設けるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0040】
3,4 走行操作器
10 油圧回路
11,12 走行モータ
13 ポンプ
31,41 方向切換弁
31p,41p ポンプポート
31q,41q 第1補償ポート
31r,41r 第2補償ポート
31a,31b,41a,41b 給排ポート
31c,41c 連通ポート
32,42 圧力補償弁
50 連通ライン