(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】気体の排気音低減装置及びマテリアルロック
(51)【国際特許分類】
E02D 23/06 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
E02D23/06 B
E02D23/06 C
(21)【出願番号】P 2018156123
(22)【出願日】2018-08-23
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000148346
【氏名又は名称】株式会社錢高組
(74)【代理人】
【識別番号】100095452
【氏名又は名称】石井 博樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】角田 晋相
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-70652(JP,A)
【文献】特開平7-208287(JP,A)
【文献】実開昭50-11104(JP,U)
【文献】実開昭52-41425(JP,U)
【文献】特開2015-169092(JP,A)
【文献】特開平9-42575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工事領域において使用される高圧気体を排気する場合における気体の排気音低減装置であって、
高圧気体を排出する排気本管と、
前記排気本管の軸線方向と交差する方向において、一端部が前記排気本管の内側と連通する開口部を形成した状態で前記排気本管に接続され、他端部は閉口しており、前記一端部から前記他端部までの経路長が低減対象となる周波数の1/4波長となる複数の管状部材と、
前記排気本管の内周面及び外周面のいずれか一方と前記管状部材との間に配置される通気抵抗体と、
を備え、
前記通気抵抗体の少なくとも一部は、前記管状部材の前記開口部を覆う、
ことを特徴とする排気音低減装置。
【請求項2】
請求項1に記載の排気音低減装置において、前記通気抵抗体は、前記排気本管の内周面を覆い、
前記排気本管の内周面に対して前記通気抵抗体を抑える抑え部材を備える、
ことを特徴とする排気音低減装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の排気音低減装置において、前記複数の管状部材は、前記排気本管の軸線を挟んで対向する対を成している、
ことを特徴とする排気音低減装置。
【請求項4】
請求項3に記載の排気音低減装置において、前記排気本管の軸線方向に間隔をおいて前記管状部材の対が複数設けられている、
ことを特徴とする排気音低減装置。
【請求項5】
地中に沈設された躯体と前記躯体に設けられた底版とを備えて構成されるニューマチックケーソンにおける前記底版の下方に位置する作業空間に送り込まれた高圧気体を前記作業空間の外側に排出するマテリアルロックであって、
前記マテリアルロックは、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載された排気音低減装置を備える、
ことを特徴とするマテリアルロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニューマチックケーソンに用いられるマテリアルロックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地中に立坑等を構築する場合にケーソン躯体すなわち筒形状の躯体が用いられている。ケーソンの設置工法の一例として、筒形状の躯体を地中に沈設する際、ケーソンの底版の下側に気密性の作業空間を設け、当該気密性の作業空間に圧縮された空気(気体)を送り込み、空気圧により湧水を防ぎながら掘削作業を行い、所定の深さまでケーソンを沈設するニューマチックケーソン工法がある。
【0003】
このニューマチックケーソン工法では、気密性の作業空間から掘削された土砂を排出するために開閉可能な隔壁を備えたマテリアルロックを使用する。マテリアルロックは、上下2枚の隔壁が設けられ、交互に開閉させることで前記気密性の作業空間の気圧を維持しながら前記掘削された土砂を作業空間の外側に排出するように構成されている。
【0004】
マテリアルロックにおいて、土砂を排出する際、上方側の隔壁を閉じた状態において下方側の隔壁を開き、土砂を運ぶバケットを上方側の隔壁と下方側の隔壁との間の空間に収容する。その後、下方側の隔壁を閉じた後、上方側の隔壁を開いて前記バケットを前記空間から運び出し、土砂を排出する。
【0005】
この際、前記バケットが収容された状態の空間内の気圧が大気圧よりも高いため、上方側の隔壁を開く前に、前記空間を減圧する必要がある。前記空間の減圧時には、前記マテリアルロックに設けられた排気管から高圧空気を排出することになる。高圧空気の気圧が高いほど、前記排気管からの高圧空気の排出時の排出音が大きくなり、工事騒音として問題になる。前記排出音を低減すべく、特許文献1にはマテリアルロックから高圧空気を排出する際の排出音を低減する消音装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の消音装置は、マテリアルロック6にパッシブ消音装置30を設けている。このパッシブ消音装置30は、多数の排気孔37が設けられ、排気孔37内には吸音材38が配置されている。パッシブ消音装置30では、吸音材38により消音しつつ、高圧空気を排出する。
【0008】
また、他の実施形態として、扉体31aに消音空間40と下部の複数の排気管41と上部の複数の排気管42と、消音空間40内に配置された吸音材48とが設けられ、ラビリンス型に構成されている。この消音装置では、下部の排気管41から送り込まれた高圧空気が消音空間40を介して上部の排気管42に送り込まれることで吸音材48により消音されつつ高圧空気が排出される。
【0009】
しかしながら、ニューマチックケーソン工事では、高圧空気を排出することから排気音における高音域での音圧が卓越する傾向がある。特許文献1等の消音装置では、1kHz以上の周波数帯を大幅に低減することができるが、500Hz前後の中音域周波数帯の騒音の低減まで考慮されていない。
【0010】
また、消音装置の他の形態としては、
図11に示すサイドブランチ構造(干渉型消音器)が知られている。この消音器では、音源に接続されている管路に干渉させる管や小穴を設け、音波の干渉により音を低減させる。
図11において、干渉型消音器100は、主管路102に管状部材104を設け、管状部材104の干渉により特定の周波数の音を効率よく低減するもので、管状部材104の入り口106で分かれた音波は管状部材104の往復で1/2波長位相が遅れて元の分岐点である入り口106に戻り、主管路102内の音源からの音波と逆位相で合成し、音圧を低減する。
【0011】
ところで、サイドブランチ構造(干渉型消音器)では、主管路102に沿って流れる高圧空気が管状部材104の入り口106近傍まで達すると、入り口106の周囲において高圧空気の流れが乱れ、乱流が生じることがある。その結果、入り口106の周囲に発生した乱流により、ある周波数帯においては共鳴により音圧増幅、いわゆる笛吹き現象が生じ、新たな騒音が発生してしまうことがある。
【0012】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、中音域の騒音及び共鳴による音圧増幅を低減させることができる排気音低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するため、本発明の第1の態様に係る排気音低減装置は、工事領域において使用される高圧気体を排気する場合における気体の排気音低減装置であって、高圧気体を排出する排気本管と、前記排気本管の軸線方向と交差する方向において、一端部が前記排気本管の内側と連通する開口部を形成した状態で前記排気本管に接続され、他端部は閉口しており、前記一端部から前記他端部までの経路長が低減対象となる周波数の1/4波長となる複数の管状部材と、前記排気本管の内周面及び外周面のいずれか一方と前記管状部材との間に配置される通気抵抗体と、を備え、前記通気抵抗体の少なくとも一部は、前記管状部材の前記開口部を覆う、ことを特徴とする。
【0014】
本態様によれば、前記管状部材の前記一端部から前記他端部までの経路長が低減対象となる周波数の1/4波長となるように構成されているので、前記一端部から前記管状部材内に入った音波が前記他端部で折り返して前記一端部まで戻ると、位相が周波数の1/2波長ずれて戻ることとなり、前記排気本管内の排気音と打ち消しあって排気音を低減できる。本態様において、例えば、低減対象とする周波数を500Hz前後の中音域とすることで、前記管状部材により前記排気本管を通る高圧気体の排出音のうち中央域の周波数の騒音を低減することができる。
【0015】
さらに、本実施形態では、前記排気本管の内周面及び外周面のいずれか一方と前記管状部材との間に配置される通気抵抗体の少なくとも一部は、前記管状部材の前記開口部を覆っているので、前記管状部材の前記開口部のエッジに前記排気本管を流れる高圧気体が当たることを減少でき、ひいては前記開口部近傍における高圧気体の流れを乱すことを抑制でき、前記乱流の発生を低減できるので、共鳴により、ある周波数帯において生じる音圧増幅、所謂、笛吹き現象を低減できる。
【0016】
本発明の第2の態様に係る排気音低減装置は、第1の態様において、前記通気抵抗体は、前記排気本管の内周面を覆い、前記排気本管の内周面に対して前記通気抵抗体を抑える抑え部材を備える、ことを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、前記通気抵抗体は、前記排気本管の内周面を覆い、前記排気本管の内周面に対して前記通気抵抗体を抑える抑え部材を備えるので、前記通気抵抗体が前記排気本管の内周面から浮き上がることを抑制し、前記排気本管内を通る高圧気体の流れを乱すことを抑制できる。加えて、前記管状部材の前記開口部に前記通気抵抗体が抑えつけられているので、前記開口部のエッジが前記排気本管の内周面側に露呈せず、高圧気体の乱流の発生を抑制でき、共鳴により、ある周波数帯において生じる音圧増幅、所謂、笛吹き現象の発生をより確実に低減できる。
【0018】
本発明の第3の態様に係る排気音低減装置は、第1の態様または第2の態様において、前記複数の管状部材は、前記排気本管の軸線を挟んで対向する対を成している、ことを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、前記複数の管状部材は、前記排気本管の軸線を挟んで対向する対を成している、つまり、前記管状部材が前記排気本管において対向配置されているので、対向配置された前記管状部材同士が相乗効果を起し、対向配置しない場合に比べてより大きな音圧低減効果を得ることができる。
【0020】
本発明の第4の態様に係る排気音低減装置は、第3の態様において、前記排気本管の軸線方向に間隔をおいて前記管状部材の対が複数設けられている、ことを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、前記排気本管の軸線方向に間隔をおいて前記管状部材の対が複数設けられているので、複数の対により、より大きな排気音の音圧低減効果を得ることができる。さらに、各対の前記一端部から前記他端部までの経路長を対毎にそれぞれ異なるものとし、低減対象となる周波数を変更することができる。これにより、高音域から低音域までの幅広い音域での音圧低減効果を得ることができる。
【0022】
本発明の第5の態様に係るマテリアルロックは、地中に沈設された躯体と前記躯体に設けられた底版とを備えて構成されるニューマチックケーソンにおける前記底版の下方に位置する作業空間に送り込まれた高圧気体を前記作業空間の外側に排出するマテリアルロックであって、前記マテリアルロックは、第1から第4のいずれか一の態様に記載された排気音低減装置を備える、ことを特徴とする。
本態様によれば、上述した第1の態様から第4の態様のいずれかの作用効果と同様の作用効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るマテリアルロック及び排気音低減装置を備えるニューマチックケーソンの断面図。
【
図2】本発明に係るマテリアルロックの排気マフラー及び排気音低減装置の外観斜視図。
【
図3】本発明に係るマテリアルロックの排気マフラー及び排気音低減装置の側断面図。
【
図4】排気音低減装置において軸線と交差する平面に沿った断面図。
【
図5】排気音低減装置における通気抵抗体の有無による音圧低減効果を示す図。
【
図6】排気音低減装置において通気抵抗体を設けた場合における気体の流れの状態を示す側断面図。
【
図7】排気音低減装置において管状部材を軸線に対して対向配置した場合と直角配置した場合における音圧低減効果を比較した図。
【
図8】排気音低減装置において軸線方向に沿って複数の管状部材の対を配置した形態を示す斜視図。
【
図9】排気音低減装置の第2の実施形態を示す側断面図。
【
図10】排気音低減装置の第3の実施形態を示す斜視図。
【
図11】排気音低減装置において通気抵抗体を設けない場合における気体の流れの状態を示す側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施例において同一の構成については、同一の符号を付し、最初の実施例においてのみ説明し、以後の実施例においてはその構成の説明を省略する。
【0025】
<<<ニューマチックケーソンの概要>>>
図1において、本実施形態におけるニューマチックケーソン10について説明する。
ニューマチックケーソン10は、地表面12から地中に沈設されるケーソン本体14と、ケーソン本体14の底部に設けられた底版16とを備えて構成されている。
【0026】
ケーソン本体14は、一例として複数のリング状部材を積み重ねて構成されている。底版16の下方には作業空間18が設けられている。作業空間18には、一例として地表に設けられたコンプレッサー20から送気管22を介して高圧の気体、例えば圧縮空気が送り込まれている。作業空間18は、ケーソン本体14の底版16とケーソン本体14の下方側の地中に囲まれた機密性の空間として構成されている。作業空間18に圧縮空気が送り込まれることで、作業空間18内の気圧が高まり、地中からの湧水を防いで、掘削作業を行うことができる。
【0027】
ニューマチックケーソン10は、マンロック24、マンシャフト26、マテリアルロック28及びマテリアルシャフト30を備えている。マンシャフト26は、底版16の下方側の作業空間18から底版16を貫通して上方に延びている。マンシャフト26の上部にはマンロック24が設けられている。一例として、マンロック24は、気圧を加減圧可能に構成されている。作業空間18で作業する作業員は、マンロック24で加減圧を行い、マンシャフト26を使用して地表面12と作業空間18とを往復する。
【0028】
マテリアルシャフト30は、底版16の下方側の作業空間18から底版16を貫通して上方に延びている。マテリアルシャフト30の上部にはマテリアルロック28が設けられている。マテリアルロック28には、不図示の隔壁が2つ設けられており、上側の隔壁と下側の隔壁の交互に開くことで、作業空間18の気圧を維持しながら、作業空間18からマテリアルシャフト30を介して掘削した土砂を搬出することが可能に構成されている。
【0029】
本実施形態におけるマテリアルロック28は、作業空間18から土砂を搬出する際、マテリアルロック28内の気圧を減圧するために、マテリアルロック28内の高圧の圧縮空気(気体)を排気可能に構成されている。
【0030】
本実施形態におけるマテリアルロック28は、排気マフラー32を備えている。排気マフラー32は、マテリアルロック28から排出される高圧の圧縮空気を大気中に排出するように構成されている。本実施形態において排気マフラー32には、排気音低減装置34が装着されている。
【0031】
<<<排気音低減装置について>>>
図2ないし
図4において排気音低減装置34の構成について説明する。本実施形態における排気音低減装置34は、一例として排気マフラー32の排出口32a(
図3)側に着脱可能に装着されている。
【0032】
本実施形態において排気音低減装置34は、排気本管36と、複数の管状部材38と、通気抵抗体40と、抑え部材42とを備えている。本実施形態において排気本管36は、両端が開口された管状部材として構成されており、一端が排気マフラー32の排出口32aに装着されている。排気本管36は、マテリアルロック28から排気マフラー32に送り込まれた圧縮空気を他端に開口された排出口36aから排出する。
【0033】
排気音低減装置34において、排気本管36の外周面36cには、排気本管36の軸線S1(
図2ないし
図4)と交差する方向に延びる管状部材38が軸線S1周りに適宜間隔をおいて配置されている。管状部材38は、軸線S1と交差する方向において一端部38aが排気本管36に接続されている。本実施形態において、管状部材38は軸線S1と直交するように排気本管36に接続されている。本実施形態において管状部材38の一端部38aは、排気本管36に溶接されている。尚、本実施形態において管状部材38を排気本管36に溶接したが、ボルトやネジ等の締結部材により取り付けてもよい。
【0034】
管状部材38の一端部38aは、開口されており、排気本管36の内側と連通している。管状部材38において、軸線S1と交差する方向における他端部38bは閉口されている。つまり管状部材38は閉管として構成されている。
【0035】
図4において、本実施形態における管状部材38の径寸法d1は、排気本管36の径寸法d2よりも小さく設定されている。これにより、排気本管36の外周面36cに沿って適宜間隔をおいて管状部材38を複数配置することができる。
【0036】
管状部材38において一端部38a、つまり開口部分から他端部38bまでの経路長(距離)が低減した周波数の波長の1/4波長(λ/4)に対応する長さとなるように設定されている。これにより、管状部材38の開口部分である一端部38aから管状部材38内に入り込んだ音波が一端部38aと他端部38bとの間を往復すると、音波の位相が1/2波長遅れて一端部38aに戻ることになる。その結果、マテリアルロック28から排気本管36を通る圧縮空気の排気音の音波と逆位相で合成することとなり、音圧が低減され、排気音を低減することができる。
【0037】
図3及び
図4において、排気本管36の内周面36bには、通気抵抗体40が配置されている。本実施形態において、通気抵抗体40は、一例として排気本管36の内周面36bの全周を覆うように配置されている。したがって、管状部材38の一端部38a、つまり開口部分も通気抵抗体40に覆われることになる。本実施形態において、通気抵抗体40は、気体を透過させることができる素材により形成されており、一例として不織布で構成されている。尚、通気抵抗体40は、一例として不織布で構成したが、布帛等により形成してもよい。
【0038】
加えて、本実施形態では、排気本管36の内周面36bを覆う通気抵抗体40を内周面36bに向けて抑えつける抑え部材42が設けられている。本実施形態では、抑え部材42は、一例として網状に形成されている。網状の抑え部材42は、管状部材38の開口部分を避けるように通気抵抗体40を抑えている。抑え部材42が通気抵抗体40を抑えることで、通気抵抗体40が内周面36bから浮き上がることを抑制する。これにより、排気本管36内において浮き上がった通気抵抗体40が排出される圧縮空気の流れを乱すことを防止でき、圧縮空気の流れが乱れることにおる排気音の増大を抑制できる。
【0039】
尚、本実施形態では、抑え部材42は一例として網状部材として構成したが、例えば、ゴム状のシート部材として形成し、管状部材38の開口部分を避けるように通気抵抗体40を抑える構成としてもよい。
【0040】
本実施形態において通気抵抗体40は、
図6に示すように管状部材38の一端部38aを覆うように配置されている。これにより、排気本管36の内周面36bと管状部材38の一端部38aとの境目、つまりエッジ部分38c(
図6)が通気抵抗体40に覆われて露出することが避けられる。これにより、排気本管36において圧縮空気が通る内周面36bを平滑にすることができる。
【0041】
その結果、排気本管36から排出される圧縮空気の流れR1(
図6における矢印参照)がエッジ部分38cに当たって乱されることがなく、圧縮空気の流れR1においてエッジ部分38cの近傍で乱流が発生することを防止できる。したがって、圧縮空気の流れR1が乱れることにより、管状部材38の一端部38aにおいて共鳴が発生して、ある周波数帯における音圧が増幅される現象、所謂、笛吹き現象が発生することを防止できる。
【0042】
図5において、管状部材38の一端部38aを覆う通気抵抗体40を設けた場合と設けない場合における圧縮空気の排気音の音圧低減量の比較データを示す。本実施形態において管状部材38の一端部38aと他端部38bとの経路長λ/4のλは低減したい周波数である500Hzに対応する長さに設定されている。したがって、管状部材38は周波数500Hz前後の周波数帯の音圧(dB)を最も低減するように設定されている。
【0043】
図5に示すグラフにおいて、管状部材38の一端部38aに通気抵抗体40を設けない構成に比べて、一端部38aに通気抵抗体40を設けた構成の方が、圧縮空気の排気音の音圧(dB)を低減できることがわかる。特に、通気抵抗体40を設けた場合、排気音の周波数320Hzから800Hzの領域で数dBから10dB以上の低減をすることができる。
【0044】
次いで、管状部材38の配置について説明する。
図4において、本実施形態における管状部材38は排気本管36に対して90度ずつずらして4つ配置されている。言い換えると2つの管状部材38が排気本管36の軸線S1を挟んで対向配置され、1対の管状部材38を形成している。本実施形態における排気音低減装置34は、管状部材38の対を2対備えている。
【0045】
図7において、管状部材38を排気本管36の軸線S1を挟んで対向配置した場合と、軸線S1周りに90度ずらした直角配置した場合における圧縮空気の排気音の音圧低減量の比較データを示す。
図7における管状部材38の一端部38aと他端部38bとの経路長λ/4のλも低減したい周波数である500Hzに設定されている。したがって、管状部材38は周波数500Hz前後、つまり中音域の周波数帯の音圧(dB)を最も低減するように設定されている。
【0046】
図7に示すように、管状部材38を軸線S1周りに90度ずらした直角配置も圧縮空気の排気音の音圧(dB)を低減できるが、軸線S1を挟んで管状部材38を対向配置した場合の方が、より顕著に圧縮空気の排気音の音圧(dB)を低減できる。特に、対向配置した管状部材38の対は、周波数400Hz前後の周波数帯の音圧(dB)を最も低減することができる。これは、対向配置した管状部材38の対が相乗効果を起すことで音圧を低減していると考えられる。
【0047】
本実施形態における排気音低減装置34において複数の管状部材38を排気本管36の軸線S1周りに対向配置せずに直角配置や等間隔、例えば、60度や120度毎に管状部材38を配置しても排気音の音圧低減効果を得ることができる。しかしながら、音圧低減効果を高めるために排気本管36の軸線S1を挟んで管状部材38を対向配置することが望ましい。
【0048】
<<<実施形態の変更形態>>>
本実施形態では、2対の管状部材38を軸線S1方向において略同じ位置に設ける構成としたが、
図8に示すように軸線S1方向にずらして複数対の管状部材38を設ける構成としてもよい。この構成において、軸線S1方向にずらした各対の管状部材38の一端部38aと他端部38bとの経路長λ/4の波長λをそれぞれ異なる周波数の波長に対応する長さとすることで、高音域から低音域まで任意の周波数帯の音圧を低減することができる。
【0049】
<<<第2実施形態>>>
次いで、
図9を参照して、排気音低減装置の第2実施形態について説明する。本実施形態における排気音低減装置44は、排気本管36の外周面36c側に通気抵抗体40を設けている点で第1実施形態と異なる。
【0050】
図9に示すように、本実施形態における排気音低減装置44は、排気本管36の外周面36cの外側、具体的には外周面36cの全面を通気抵抗体40で覆っている。本実施形態では、排気本管36に開口部36dを複数設け、開口部36dに対応する位置にそれぞれ管状部材38の一端部38aを接続している。
【0051】
本実施形態では、通気抵抗体40が管状部材38の一端部38aを覆っていることから、管状部材38において、
図5に示した音響低減効果を得ることができる。
【0052】
<<<第3実施形態>>>
次いで、
図10を参照して排気音低減装置の第3実施形態について説明する。本実施形態における排気音低減装置46は、排気本管36の内周面36bにおいて管状部材38の一端部38aの周囲にのみ、通気抵抗体48を設けた点で第1実施形態と異なる。
【0053】
本実施形態における排気音低減装置46では、排気本管36の内周面36bにおいて管状部材38の一端部38a、具体的には一端部38aの開口部分を覆うように通気抵抗体48を配置する。
【0054】
本実施形態における通気抵抗体48は、排気本管36の内周面36bの全面を覆う構成ではなく、管状部材38の一端部38aの開口部分を覆うだけのサイズに設定されている。この構成によれば、通気抵抗体48が必要な部分にだけ配置することができ、通気抵抗体48のサイズを小型化できるので、音響低減効果を得つつ、コストダウンを図ることができる。
【0055】
尚、本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で、種々の変形が可能であり、それらも本発明の範囲内に含まれるものであることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0056】
10 ニューマチックケーソン、12 地表面、14 ケーソン本体、16 底版、
18 作業空間、20 コンプレッサー、22 送気管、24 マンロック、
26 マンシャフト、28 マテリアルロック、30 マテリアルシャフト、
32 排気マフラー、32a 排出口、34、44、46 排気音低減装置、
36 排気本管、36a 排出口、36b 内周面、36c 外周面、36d 開口部、
38 管状部材、38a 一端部、38b 他端部、38c エッジ部分、
40、48 通気抵抗体、42 抑え部材、S1 軸線、d1 径寸法、d2 径寸法、
R1 圧縮空気の流れ