(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】化学療法で誘導される末梢神経障害の治療に使用するためのIL-8阻害剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/165 20060101AFI20220330BHJP
A61K 31/18 20060101ALI20220330BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20220330BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220330BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
A61K31/165
A61K31/18
A61K31/426
A61P25/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018537469
(86)(22)【出願日】2017-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2017050637
(87)【国際公開番号】W WO2017121838
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2019-11-01
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2016-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516388388
【氏名又は名称】ドンペ ファーマスーチシ ソシエタ ペル アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローラ ブランドリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ピエル アデルキ ルフィーニ
(72)【発明者】
【氏名】マルチェッロ アレグレッティ
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-502957(JP,A)
【文献】国際公開第2000/024710(WO,A1)
【文献】特表2007-530505(JP,A)
【文献】国際公開第2016/016178(WO,A1)
【文献】特表2010-504996(JP,A)
【文献】国際公開第2015/181186(WO,A1)
【文献】LOPES ALEXANDRE H,DF2755A, A NOVEL NON-COMPETITIVE ALLOSTERIC INHIBITOR OF CXCR1/2, REDUCES INFLAMMATORY 以下備考,PHARMACOLOGICAL RESEARCH,英国,ACADEMIC PRESS,2015年11月28日,VOL:103,,PAGE(S):69 - 79,http://dx.doi.org/10.1016/j.phrs.2015.11.005,AND POST-OPERATIVE PAIN
【文献】BERTINI R,RECEPTOR BINDING MODE AND PHARMACOLOGICAL CHARACTERIZATION OF A POTENT AND SELECTIVE 以下備考,BRITISH JOURNAL OF PHARMACOLOGY,英国,2012年01月16日,VOL:165, NR:2,,PAGE(S):436 - 454,http://dx.doi.org/10.1111/j.1476-5381.2011.01566.x,DUAL CXCR1/CXCR2 NON-COMPETITIVE ALLOSTERIC INHIBITOR
【文献】BioData Mining,2015年,8:24
【文献】Cytokine,2012年,59,p.3-9
【文献】ARGYRIOU ANDREAS A,CHEMOTHERAPY-INDUCED PERIPHERAL NEUROTOXICITY (CIPN): AN UPDATE,CRITICAL REVIEWS IN ONCOLOGY/HEMATOLOGY,HEMATOLOGY ELSEVIER,2011年09月10日,VOL:82, NR:1,PAGE(S):51 - 77,http://dx.doi.org/10.1016/j.critrevonc.2011.04.012
【文献】ALESSIO MORICONI,TARGETING THE MINOR POCKET OF C5AR FOR THE RATIONAL DESIGN OF AN ORAL ALLOSTERIC INHIBITOR 以下備考,PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE UNITED STATES OF AMERICA,2014年,VOL:111, NR:52,47,PAGE(S):18799 CORRECTIONS+16937-16942,http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1417365111,FOR INFLAMMATORY AND NEUROPATHIC PAIN RELIEF
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 25/00-25/36
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学療法で誘導される神経障害の予防及び/又は治療における使用のための
、IL-8阻害剤を含む医薬組成物であって、前記化学療法で誘導される神経障害がタキサン類及び白金ベースの薬剤から選択される化学療法剤によって誘導され、前記IL-8阻害剤が、
式(I)の化合物
【化1】
[式中、
-R1は水素又はCH
3であり、
-R2は水素又は直鎖C
1~C
4アルキルであ
り、
-YはS、O及びNから選択されるヘテロ原子であ
り、
-Zはハロゲン、直鎖又は分岐鎖C
1~C
4アルキル、C
2~C
4アルケニル、C
2~C
4アルキニル、C
1~C
4アルコキシ、ヒドロキシル、カルボキシル、C
1~C
4アシロキシ、フェノキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、C
1~C
4アシルアミノ、ハロC
1~C
3アルキル、ハロC
1~C
3アルコキシ、ベンゾイル、直鎖又は分岐鎖C
1~C
8アルカンスルホネート、直鎖又は分岐鎖C
1~C
8アルカンスルホンアミド、直鎖又は分岐鎖C
1~C
8アルキルスルホニルメチルから選択さ
れ、
-XはOH又は式NHR
3の残基(式中、R
3は、
-水素、ヒドロキシル、直鎖又は分岐鎖C
1~C
6アルキル、C
3~C
6シクロアルキル、C
2~C
6アルケニル、C
1~C
5アルコキシ、又は、C
1~C
6フェニルアルキル(但し、アルキル、シクロアルキル又はアルケニル基はCOOH残基によって置換されうる)
-式SO
2R4の残基(但し、R4はC
1~C
2アルキル、C
3~C
6シクロアルキル、C
1~C
3ハロアルキルである。)から選択される。)
である。]
又は、
式(II)の化合物若しくはその薬学的に許容しうる塩
【化2】
[但し、
R
4は直鎖又は分岐鎖C
1~C
6アルキル、ベンゾイル、フェノキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシであ
り、
R
5はH、又は直鎖又は分岐鎖C
1~C
3アルキルであ
り、
R
6は直鎖又は分岐鎖C
1~C
6アルキル又はトリフルオロメチルで
ある。]
又は、
式(III)の化合物若しくはその薬学的に許容しうる塩
【化3】
[式中、
R’は水素であり、
Rは式SO
2Raの残基であり、Raは直鎖又は分岐鎖C
1~C
4アルキル、又はハロC
1~C
3アルキルで
ある。]
である
医薬組成物。
【請求項2】
化学療法で誘導される末梢神経障害又は化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療における使用のための請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
化学療法で誘導される末梢神経障害に関係する異痛の予防及び/又は治療における使用のための請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記IL-8阻害剤が、CXCR1受容体によって媒介されるIL-8の活性の阻害剤である、請求項1から3の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記IL-8阻害剤が、CXCR1受容体及びCXCR2受容体の両方によって媒介されるIL-8の活性の阻害剤である、請求項1から4の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記IL-8阻害剤が式(I)の化合物であり、
R1が水素又はCH
3であり、
XがOHであり、
R2が水素又は直鎖C
1~C
4アルキルであり、
YがS、O及びNから選択されるヘテロ原子であり、
Zが直鎖又は分岐鎖C
1~C
4アルキル、直鎖又は分岐鎖C
1~C
4アルコキシ、ハロC
1~C
3アルキル及びハロC
1~C
3アルコキシから選択されるものである、
請求項1
から5の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記IL-8阻害剤が式(I)の化合物であり、R1が水素であり、フェニルプロピオン酸基のキラル炭素原子がS配置である、請求項1
から6の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記IL-8阻害剤が2-メチル-2-(4-{[4-(トリフルオロメチル)-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ}フェニル)プロピオン酸
又はその薬学的に許容しうる
塩である、請求項1
から6の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記IL-8阻害剤が、(2S)-2-(4-{[4-(トリフルオロメチル)-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ}フェニル)プロピオン酸
又はその薬学的に許容しうる
塩である、請求項1から7の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記IL-8阻害剤が式(II)の化合物又は式(III)の化合物であり、フェニル-プロピオン酸基のキラル炭素原子がR配置である、請求項1
から5の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記IL-8阻害剤が、式(II)の化合物であり
、R
4は3-ベンゾイル、4-イソブチル又は4-トリフルオロメタンスルホニルオキシである、請求項1
から5又は10の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記IL-8阻害剤が、R-(-)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミド
又はその薬学的に許容しうる塩
である、請求項1
から5、10又は
11の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記IL-8阻害剤が、R(-)-2-(4-トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]-N-メタンスルホニルプロピオンアミド
又はその薬学的に許容しうる
塩である、請求項1
から5又は10
の何れか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
タキサン類がパクリタキセルであり、白金ベースの薬剤がオキサリプラチンである、請求項1~13の何れか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学療法で誘導される末梢神経障害(CIPN)、特にそれに関連する異痛症の予防及び治療のためのIL-8阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学療法は、しばしば、この治療に対する主要な用量規制因子を構成する神経毒副作用に関連付けられる。特に、化学療法は、末梢神経障害、並びに視神経障害のような眼科系合併症の両方の原因であると報告されている。
【0003】
「化学療法で誘導される末梢神経障害(CIPN)」は、末梢神経に対する化学療法の用量を制限する神経毒効果を指す。多くの異なる症状がCIPN、即ち、痛覚過敏、異痛、灼熱感(burning)、痛み、麻痺、痙攣、及びかゆみなどの自発性過敏症、に関連している。特に、化学療法剤の神経毒性によって誘導されるいくつかの症状は患者によって異なるが、痛い感覚異常に繋がる共通の感覚破壊が、影響を受けた全ての患者に共通する。
【0004】
CIPNは、癌患者の約60%で起こり(Windebank et al, J Peripher Nerv Syst 2008; 13:27-46(非特許文献1)、用量規制又は治療の中断にさえも繋がり、従って、最終的に患者の生存に影響する(Mielke et al, Eur J Cancer 2006; 42:24-30(非特許文献2))。
【0005】
細胞毒性化学療法によって誘導される眼科系合併症の広範なスペクトルには、可逆性及び非可逆性の急性及び慢性の障害が含まれる。軽い眼科系合併症から温和な眼科系合併症は、抗癌療法の休止後に非常にありふれたものであり、可逆性である。幾つかの主要な目に関する毒性は、視覚の減少を防ぐために、用量の減少又は細胞毒性化学療法の中断を必要としうる。目に関する合併症の中には、化学療法で誘導される視神経障害が、幾つかの化学療法剤の使用に関連した前部虚血性視神経症による頭蓋内圧上昇に関連して報告されている。
【0006】
特に、神経障害の兆候に最も一般的に関連する化学療法剤には、白金ベースの薬剤、例えばシスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチン;タキサン類、例えばパクリタキセル、カバジタキセル及びドセタキセル;エポチロン類、例えばイキサベピロン;植物性アルカロイド、例えばビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン及びエトポシド;サリドマイド、レナリドミド及びポマリドミド;カルフィルゾミブ及びボルテゾミブ;エリブリンが含まれる(Brewer et al, Gynecologic Oncology 2016; 140:176-83(非特許文献3))。
【0007】
様々な神経保護作用のアプローチが、実験的研究及び臨床試験の両方で調査されているが、これらの原因論がまだ完全に解明されていないこともあるので、CIPN又は化学療法で誘導される視神経障害に対して、利用可能な予防的戦略又は効果的な治療は、今のところない。
【0008】
複数のメカニズムが神経障害の発達及び維持の根底にあることが提案されている。
【0009】
幾つかの証拠が、炎症性サイトカイン/ケモカイン、特にTNF-α、IL-1β、IL-6及びCCL2が化学療法剤で誘導されるCIPNの痛みの兆候に役割を担っているであろうことを示唆している(Wang et al, Cytokine 2012; 59 (1): 3-9(非特許文献4))。しかし、強力な証拠が、感覚ニューロンに対する化学療法剤の直接的効果も示唆している(Argyriou et al, Crit Rev Onol Hematol 2012; 82(1): 51-77(非特許文献5), Boyette-Davis et al, Pain, 2011; 152: 308-13(非特許文献6); Pachman et al, Clin Pharmacol Ther 2011; 90: 377-387(非特許文献7))。特に、ほとんどの化学療法薬は、血液神経関門(BNB)を容易に通過し、後根神経節(DRG)及び末梢軸索に結合することが確立されている(Wang et al,上記(非特許文献4))。これらの薬剤は、続いて、表皮層における知覚線維の変性及び小神経線維の喪失を伴う、DRG細胞及び末梢神経の構造を直接損傷するという証拠もある(Argyriou et al, Cancer Manag Res. 2014; 6: 135-147(非特許文献8))。
【0010】
細胞レベルでは、神経毒性化学療法剤は、α-チューブリンのアセチル化を誘導すること、ミトコンドリアの機能を遮断すること、又はDNAを直接に標的にすることによって、微小管を損傷し、微小管ベースの軸索輸送を妨げ(LaPointe et al, Neurotoxicology 2013; 37: 231-9(非特許文献9))、微小管の動力学に影響を与える。パクリタキセル、オキサリプラチン又はビンクリスチンで治療された実験動物及び患者からの神経生検は、同一の形態学的変化を示し、根源的な共通する病因的メカニズムを示唆する。
【0011】
インターロイキン8(IL-8、CXCL8)は、PMN(多形核好中球)動員の主要メディエータであると考えられており、乾癬、関節リュウマチ、閉塞性肺疾患及び移植器官の再灌流障害を含む幾つかの病状に関与している(Griffin et al, Arch Dermatol 1988, 124: 216(非特許文献10); Fincham et al, J Immunol 1988, 140: 4294(非特許文献11); Takematsu et al, Arch Dermatol 1993, 129: 74(非特許文献12); Liu et al, 1997, 100:1256(非特許文献13); Jeffery, Thorax 1998, 53: 129(非特許文献14); Pesci et al, Eur Respir J. 1998, 12: 380(非特許文献15); Lafer et al, Br J Pharmacol. 1991, 103: 1153(非特許文献16); Romson et al, Circulation 1993, 67: 1016(非特許文献17); Welbourn et al, Br J Surg. 1991, 78: 651(非特許文献18); Sekido et al, Nature 1993, 365, 654(非特許文献19))。IL-8の生物学的活性は、7TM-GPCRファミリーに属し、ヒトPMNsの表面に発現する2種の受容体、CXCR1及びCXCR2との相互作用によって媒介される。CXCR1は選択的であり、2種のケモカイン、CXCL6及びIL-8のみに高い親和性で結合し、IL-8に対してより高い親和性を示す(Wolf et al, Eur J Immunol 1998, 28: 164(非特許文献20))が、ヒトCXCR2は、より無差別な受容体であり、多くの異なるサイトカイン及びケモカインに結合する。従って、CXCR2は多くの異なる生物学的分子の活性を媒介する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2010/031835号
【文献】国際公開第00/24710号
【文献】国際公開第2005/090295号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Windebank et al, J Peripher Nerv Syst 2008; 13:27-46
【文献】Mielke et al, Eur J Cancer 2006; 42:24-30
【文献】Brewer et al, Gynecologic Oncology 2016; 140:176-83
【文献】Wang et al, Cytokine 2012; 59 (1): 3-9
【文献】Argyriou et al, Crit Rev Onol Hematol 2012; 82(1): 51-77
【文献】Boyette-Davis et al, Pain, 2011; 152: 308-13
【文献】Pachman et al, Clin Pharmacol Ther 2011; 90: 377-387
【文献】Argyriou et al, Cancer Manag Res. 2014; 6: 135-147
【文献】LaPointe et al, Neurotoxicology 2013; 37: 231-9
【文献】Griffin et al, Arch Dermatol 1988, 124: 216
【文献】Fincham et al, J Immunol 1988, 140: 4294
【文献】Takematsu et al, Arch Dermatol 1993, 129: 74
【文献】Liu et al, 1997, 100:1256
【文献】Jeffery, Thorax 1998, 53: 129
【文献】Pesci et al, Eur Respir J. 1998, 12: 380
【文献】Lafer et al, Br J Pharmacol. 1991, 103: 1153
【文献】Romson et al, Circulation 1993, 67: 1016
【文献】Welbourn et al, Br J Surg. 1991, 78: 651
【文献】Sekido et al, Nature 1993, 365, 654
【文献】Wolf et al, Eur J Immunol 1998, 28: 164
【文献】Bertini R. et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA (2004), 101 (32), pp. 11791-11796
【文献】Bertini R. et al., Br. J. Pharm. (2012), 165, pp. 436-454
【文献】Polomano et al, Pain 2001, 94: 293-294
【文献】Cavaletti et al., Eur. J. Cancer, 2001 37, 2457-63
【文献】Cavalieri et al Int J Immunopathol Pharmacol, 2005, 18: 475-86
【文献】Ramesh G. 2014; Inflamm Cell Signal 1(3)
【文献】De Paola M et al, Neuroimmunomodulation 2007;14(6):310-6
【発明の概要】
【0014】
本発明者らは、驚くことに、IL-8の阻害が、化学療法で誘導される神経障害(CIPN)及び化学療法で誘導される視神経障害に繋がる全身性抗がん化学療法の毒性に関連した兆候の発生を低減又は防止できることを見出した。
【0015】
従って、本発明の第1の目的は、化学療法で誘導される神経障害の予防及び/又は治療に使用するためのIL-8阻害剤、好ましくは抗体又は小分子量分子、好ましくはCXCR1阻害剤、より好ましくはCXCR1/CXCR2両阻害剤である。本発明の第2の目的は、CIPN又は化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療のための医薬の調製のための、上述した前記IL-8阻害剤の使用である。
【0016】
本発明の第3の目的は、CIPN及び化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療の方法であって、それが必要な対象に、治療に有効な量の前記IL-8阻害剤を投与する工程を含む方法である。
【0017】
本発明の第4の目的は、CIPN及び化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療のための医薬組成物であって、本発明によるIL-8阻害剤及び薬学的に許容しうる賦形剤及び/又は希釈剤を含む医薬組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、機械刺激による異痛の誘導を示す足(paw)の逃避閾値を表し、これは、パクリタキセル及び/又はビヒクル/薬剤の何れの治療も受けていない動物(擬似(Sham))、パクリタキセル及びビヒクルで治療した動物(対照(Control))、又はパクリタキセル及びDF2726Aで治療した動物(DF2726Aで治療)において、対照及びDF2726Aのグループでパクリタキセル投与前(1日)又は後(5日、7日、10日、14日)に、グラム(g)として測定される。データは、1グループ当たり10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、#は対照グループに対するP<0.05を表す。
【
図2】
図2は、冷刺激によって誘導される異痛の誘導を示す足の逃避の数を表し、これは、パクリタキセル及び/又はビヒクル/薬剤の何れの治療も受けていない動物(擬似(Sham))、パクリタキセル及びビヒクルで治療した動物(対照(Control))、又はパクリタキセル及びDF2726Aで治療した動物(DF2726Aで治療)において、対照及びDF2726Aのグループでパクリタキセル投与前(1日)又は後(5日、7日、10日、14日)に評価された、5分間隔で足の背面にアセトンを適用した後の足の逃避応答の数として測定される。データは、1グループ当たり10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、#は対照グループに対するP<0.05を表す。
【
図3】
図3は、機械刺激による異痛の誘導を示す足の逃避閾値を表し、これは、パクリタキセル及び/又はビヒクル/薬剤の何れの治療も受けていない動物(擬似(Sham))、パクリタキセル及びビヒクルで治療した動物(対照(Control))、又はパクリタキセル及びDF1681Bで治療した動物(DF1681Bで治療)において、ビヒクル及び薬剤処理グループでパクリタキセル投与前(1日)又は後(5日、7日、10日、14日)に、グラム(g)として測定される。データは、1グループ当たり10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、**は擬似グループに対するP<0.01を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、##は対照グループに対するP<0.01を表す。
【
図4】
図4は、冷刺激によって誘導される異痛の誘導を示す足の逃避の数を表し、これは、パクリタキセル及び/又はビヒクル/薬剤の何れの治療も受けていない動物(擬似(Sham))、パクリタキセル及びビヒクルで治療した動物(対照(Control))、又はパクリタキセル及びDF1681Bで治療した動物(DF1681Bで治療)において、ビヒクル及び薬剤治療グループでパクリタキセル投与前(1日)又は後(5日、7日、10日、14日)に評価された、5分間隔で足の背面にアセトンを適用した後の足の逃避応答の数として測定される。データは、1グループ当たり10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、##は対照グループに対するP<0.01を表す。
【
図5】
図5は、オキサリプラチンで誘導される異痛について、in situ塩(DF1681B)を形成するために、リジンの水溶液に溶解されたレパリキシンの効果を表す。冷異痛(
図5)及び機械的異痛(
図6)を、0日、3日、5日、7日、10日、14日、21日に評価した。データは、1グループ当たり10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、**は擬似グループに対するP<0.01を表し、*は擬似グループに対するP<0.05を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、##は対照グループに対するP<0.01を表す。
【
図6】
図6は、オキサリプラチンで誘導される異痛について、in situ塩(DF1681B)を形成するために、リジンの水溶液に溶解されたレパリキシンの効果を表す。冷異痛(
図5)及び機械的異痛(
図6)を、0日、3日、5日、7日、10日、14日、21日に評価した。データは、1グループ当たり10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、**は擬似グループに対するP<0.01を表し、*は擬似グループに対するP<0.05を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、##は対照グループに対するP<0.01を表す。
【
図7】
図7は、オキサリプラチンで誘導される異痛について、DF2726Aの経口投与の効果を表す。冷異痛(
図7)及び機械的異痛(
図8)を、0日、3日、5日、7日、10日、14日、21日、経口投与後1時間に評価した。データは、1グループ当たり5~10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、**は擬似グループに対するP<0.01を表し、*は擬似グループに対するP<0.05を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、##は対照グループに対するP<0.01を表し、#は対照グループに対するP<0.05を表す。
【
図8】
図8は、オキサリプラチンで誘導される異痛について、DF2726Aの経口投与の効果を表す。冷異痛(
図7)及び機械的異痛(
図8)を、0日、3日、5日、7日、10日、14日、21日、経口投与後1時間に評価した。データは、1グループ当たり5~10匹の動物の平均±SEMとして示されている。***は擬似グループに対するP<0.001を表し、**は擬似グループに対するP<0.01を表し、*は擬似グループに対するP<0.05を表し、###は対照グループに対するP<0.001を表し、##は対照グループに対するP<0.01を表し、#は対照グループに対するP<0.05を表す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実験の部で詳細に開示されるように、本発明者らは、IL-8活性の阻害剤として作用する分子が、異なる化学療法剤によって誘導される神経障害性の痛みの動物モデルで治療効果を有することを見出した。更に、本発明者らは、IL-8阻害剤が、神経毒効果に寄与する細胞骨格成分及び組織についての化学療法剤の活性を中和することができることも見出した。
【0020】
従って、本発明の第1の目的は、化学療法で誘導される神経障害の治療及び/又は予防に使用するためのIL-8阻害剤である。
【0021】
好ましくは、前記IL-8阻害剤は、化学療法で誘導される末梢神経障害(CIPN)又は化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0022】
より好ましい実施形態によれば、前記IL-8阻害剤はCIPNに関連した異痛の予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0023】
本出願によれば、用語「IL-8阻害剤」は、IL-8の生物学的活性を部分的に又は完全に阻害することができる任意の化合物をいう。このような化合物は、IL-8の発現若しくは活性を低下させることによって、又は、IL-8受容体によって活性化される細胞内シグナル伝達のきっかけを阻害することによって作用する。前記IL-8阻害剤は、500nM以下、好ましくは100nMよりも低い濃度で、PMNs中のIL-8によって誘導される走化性を少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%阻害できることが好ましい。
【0024】
本発明の第2の目的は、化学療法で誘導される神経障害の治療及び/又は予防のための医薬の製造のための、IL-8の使用である。
【0025】
好ましくは、前記IL-8阻害剤は、化学療法で誘導される末梢神経障害(CIPN)又は化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0026】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記医薬は、化学療法で誘導される末梢神経障害に関連する異痛の治療及び/又は予防のためものである。
更に好ましい実施形態によれば、前記IL-8阻害剤は、視神経障害に関連した目の痛みの予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0027】
本発明の第3の目的は、化学療法で誘導される神経障害の治療及び/又は予防のための方法であって、それを必要とする対象に、治療に有効な量の上述のIL-8阻害剤を投与する工程を含む方法である。
【0028】
好ましくは、前記方法は、化学療法によって誘導される末梢神経障害(CIPN)又は化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療のためのものである。
【0029】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記方法は、化学療法で誘導される末梢神経障害に関連した異痛の治療及び/又は予防のためのものである。
【0030】
更に好ましい実施形態によれば、前記方法は、視神経障害に関連した目の痛みの治療及び/又は予防のためのものである。
【0031】
本明細書で使用される、「治療に有効な量」は、その疾患の治療又は予防を実現するのに十分な量をいう。有効な量の決定は、所望の効果の実現に基づいて、十分に当業者の能力の範囲内である。有効な量は、対象の体重及び/又は疾患の程度、又は対象が受ける望まない状態(但し、これらに限らない)を含む因子に依存する。本明細書で使用する、用語「治療(treatment)」及び「予防(prevention)」は、それぞれ、患者が、根底にある疾患に今でも悩まされているという事実にかかわらず、治療される疾患又はそれに関連する1以上の徴候の発症の根絶/改善又は予防/遅延をいう。
【0032】
本発明の第4の目的は、薬学的に適切な賦形剤と共に、化学療法で誘導される神経障害の治療及び/又は予防に使用するためのIL-8阻害剤を含む医薬組成物である。
【0033】
好ましくは、前記医薬組成物は、化学療法で誘導される末梢神経障害(CIPN)又は化学療法で誘導される視神経障害の予防及び/又は治療のためのものである。
【0034】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記医薬組成物は、化学療法で誘導される末梢神経障害に関連する異痛の治療及び/又は予防に使用するためのものである。
【0035】
更に好ましい実施形態によれば、前記医薬組成物は、化学療法で誘導される視神経障害に関連する目の痛みの予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0036】
好ましい実施形態によれば、本発明の全ての目的のIL-8阻害剤は、CXCR1受容体によって媒介されるか、又はCXCR1及びCXCR2の両受容体によって媒介されるIL-8活性を阻害する。
【0037】
好ましくは、この実施形態によれば、前記IL-8は、CXCR1受容体、又はCXCR1及びCXCR2両受容体のアロステリック阻害剤又はオルソステリック拮抗薬である。
【0038】
好ましくは、前記IL-8阻害剤は、CXCR1受容体に選択的であるか、又はCXCR1及びCXCR2受容体に対して等しく効力がある。
【0039】
本発明による「CXCR1に選択的」とは、CXCR2に対するよりもCXCR1に対して、対数で、少なくとも2、好ましくは3高いIC50値を示す化合物を意味する(Bertini R. et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA (2004), 101 (32), pp. 11791-11796(非特許文献21))。
【0040】
「CXCR1及びCXCR2に対して等しく効力がある」とは、CXCR1及びCXCR2に対して10ピコモル(10-11M)~1マイクロモル(10-6M)の範囲でIC50値を示す化合物を意味する(Bertini R. et al., Br. J. Pharm. (2012), 165, pp. 436-454(非特許文献22))。
【0041】
より好ましくは、本発明によるIL-8阻害剤は、低ナノモル範囲、好ましくは0.02~5ナノモルの範囲でCXCR1に対してIC50値を有する。
【0042】
好ましい実施形態によれば、前述の実施形態と組み合わせて、前記IL-8阻害剤はまた、小分子量分子及び抗体から選択され、より好ましくは、それは小分子量分子である。
【0043】
CXCR1受容体によって媒介されるIL-8、又はCXCR1及びCXCR2両受容体によって媒介されるIL-8の活性を阻害することができる、上記定義に従ったIL-8阻害剤は当分野において知られている。
【0044】
本発明による好ましいIL-8阻害剤は、1,3-チアゾール-2-イルアミノフェニルプロピオン酸誘導体、2-フェニル-プロピオン酸誘導体、及びこれらの薬学的に許容しうる塩である。
【0045】
上記化合物のうち、前記1,3-チアゾール-2-イルアミノフェニルプロピオン酸誘導体は、好ましくは、式(I)の化合物、又はそれらの薬学的に許容しうる塩である。
【0046】
【0047】
式中、
-R1は水素又はCH3であり、
-R2は水素又は直鎖C1~C4アルキルであり、好ましくはこれは水素であり、
-YはS、O及びNから選択されるヘテロ原子であり、好ましくはこれはSであり、
-Zはハロゲン、直鎖又は分岐鎖C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、C1~C4アルコキシ、ヒドロキシル、カルボキシル、C1~C4アシロキシ、フェノキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、C1~C4アシルアミノ、ハロC1~C3アルキル、ハロC1~C3アルコキシ、ベンゾイル、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルカンスルホネート、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルカンスルホンアミド、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルキルスルホニルメチルから選択され、好ましくはこれはトリフルオロメチルであり、
-XはOH又は式NHR3の残基である[ここで、R3は、
-水素、ヒドロキシル、直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C2~C6アルケニル、C1~C5アルコキシ、又は、C1~C6フェニルアルキル(但し、アルキル、シクロアルキル又はアルケニル基はCOOH残基によって置換されうる)
-式SO2R4の残基(但し、R4はC1~C2アルキル、C3~C6シクロアルキル、C1~C3ハロアルキルである。)から選択される。]。
【0048】
好ましくは、上記化合物において、XはOHである。
【0049】
上記化合物のうち、特に好ましいものは、
R1がCH3であり、
R2が水素又は直鎖C1~C4アルキルであり、好ましくはこれは水素であり、
YがS、O及びNから選択されるヘテロ原子であり、好ましくはこれはSであり、
Zがハロゲン、直鎖又は分岐鎖C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、C1~C4アルコキシ、ヒドロキシル、カルボキシル、C1~C4アシロキシ、フェノキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、C1~C4アシルアミノ、ハロC1~C3アルキル、ハロC1~C3アルコキシ、ベンゾイル、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルカンスルホネート、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルカンスルホンアミド、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルキルスルホニルメチルから選択され、好ましくはこれはトリフルオロメチルであり、
XがOH又は式NHR3の残基[ここで、R3は、
-水素、ヒドロキシル、直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C2~C6アルケニル、C1~C5アルコキシ、又は、C1~C6フェニルアルキル(但し、アルキル、シクロアルキル又はアルケニル基はCOOH残基によって置換されうる)
-式SO2R4の残基(但し、R4はC1~C2アルキル、C3~C6シクロアルキル、C1~C3ハロアルキルである。)から選択される。]である、前記式(I)の化合物、又はそれらの薬学的に許容しうる塩である。
【0050】
好ましくは、これらの化合物において、XはOHである。
【0051】
上記化合物のうち、特に好ましいものは、
R1が水素であり、
R2が水素又は直鎖C1~C4アルキルであり、好ましくはこれは水素であり、
YがS、O及びNから選択されるヘテロ原子であり、好ましくはこれはSであり、
Zがハロゲン、直鎖又は分岐鎖C1~C4アルキル、C2~C4アルケニル、C2~C4アルキニル、C1~C4アルコキシ、ヒドロキシル、カルボキシル、C1~C4アシロキシ、フェノキシ、シアノ、ニトロ、アミノ、C1~C4アシルアミノ、ハロC1~C3アルキル、ハロC1~C3アルコキシ、ベンゾイル、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルカンスルホネート、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルカンスルホンアミド、直鎖又は分岐鎖C1~C8アルキルスルホニルメチルから選択され、好ましくはこれはトリフルオロメチルから選択され、
XがOH又は式NHR3の残基[ここで、R3は、
-水素、ヒドロキシル、直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル、C3~C6シクロアルキル、C2~C6アルケニル、C1~C5アルコキシ、又は、C1~C6フェニルアルキル(但し、アルキル、シクロアルキル又はアルケニル基はCOOH残基によって置換されうる)
-式SO2R4の残基(但し、R4はC1~C2アルキル、C3~C6シクロアルキル、C1~C3ハロアルキルである。より好ましくはXはNH2である。)から選択される。]である、前記式(I)の化合物、又はそれらの薬学的に許容しうる塩である。
【0052】
好ましくは、上記化合物において、XはOHである。
【0053】
上記化合物のうち、特に好ましいものはまた、
R1が水素又はCH3であり、
R2が水素又は直鎖C1~C4アルキルであり、好ましくはこれは水素であり、
YがS、O及びNから選択されるヘテロ原子であり、好ましくはこれはSであり、
Zが直鎖又は分岐鎖C1~C4アルキル、直鎖又は分岐鎖C1~C4アルコキシ、ハロC1~C3アルキル及びハロC1~C3アルコキシから選択され、好ましくはこれはメチル、メトキシ、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルから選択され、より好ましくは、これはトリフルオロメチルであり、
XがOHである
前記式(I)の化合物、又はそれらの薬学的に許容しうる塩である。
【0054】
上記化合物のうち、特に好ましいものはまた、
R1がCH3であり、
R2が水素又は直鎖C1~C4アルキルであり、好ましくはこれは水素であり、
YがS、O及びNから選択されるヘテロ原子であり、好ましくはこれはSであり、
Zが直鎖又は分岐鎖C1~C4アルキル、直鎖又は分岐鎖C1~C4アルコキシ、ハロC1~C3アルキル及びハロC1~C3アルコキシから選択され、好ましくはこれはメチル、メトキシ、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルから選択され、より好ましくはこれはトリフルオロメチルである、前記式(I)の化合物、又はその薬学的に許容しうる塩である。
【0055】
上記化合物のうち、特に好ましいものはまた、
R1が水素であり、
R2が水素又は直鎖C1~C4アルキルであり、好ましくはこれは水素であり、
YがS、O及びNから選択されるヘテロ原子であり、好ましくはこれはSであり、
Zが直鎖又は分岐鎖C1~C4アルキル、直鎖又は分岐鎖C1~C4アルコキシ、ハロC1~C3アルキル及びハロC1~C3アルコキシから選択され、好ましくはこれはトリフルオロメチルである、前記式(I)の化合物、又はその薬学的に許容しうる塩である。
【0056】
好ましくは、上記式(I)の化合物の全てにおいて、R1は水素である。
【0057】
フェニルプロピオン酸基のキラル炭素原子はS配置である。
【0058】
特に好ましいものは、2-メチル-2-(4-{[4-(トリフルオロメチル)-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ}フェニル)プロピオン酸(本明細書において、DF2726Yとも表す。)及びその薬学的に許容しうる塩、好ましくはそのナトリウム塩(本明細書において、DF2726Aとも表す。)、並びに、2-(4-{[4-(トリフルオロメチル)-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ}フェニル)プロピオン酸及びその薬学的に許容しうる塩、好ましくは(2S)-2-(4-{[4-(トリフルオロメチル)-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ}フェニル)プロピオン酸(DF2755Yとしても知られる。)及びDF2755Aとしても知られるそのナトリウム塩から選択される、本発明による式(I)の化合物である。
【0059】
式(I)の化合物は、国際公開第2010/031835号(特許文献1)に開示されており、これにはまた、それらの合成方法、IL-8阻害剤としてのそれらの活性、並びに、一過性脳虚血、水疱性類天疱瘡、関節リュウマチ、突発性線維症、糸球体腎炎及び虚血再灌流によって起こる損傷などのIL-8依存性の病状の治療におけるそれらの使用も開示されている。
【0060】
上記IL-8阻害剤のうち、前記2-フェニル-プロピオン酸誘導体は、好ましくは、式(II)の化合物、又はそれらの薬学的に許容しうる塩である。
【0061】
【0062】
式中、
R4は直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル、ベンゾイル、フェノキシ、トリフルオロメタンスルホニルオキシであり、好ましくはこれはベンゾイル、イソブチル及びトリフルオロメタンスルホニルオキシから選択される。また、好ましい実施形態によれば、R4はフェニル基の3位又は4位にあり、より好ましくは、これは3-ベンゾイル、4-イソブチル又は4-トリフルオロメタンスルホニルオキシである。
【0063】
R5はH、又は直鎖又は分岐鎖C1~C3アルキル、好ましくはこれはHである。
【0064】
R6は直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル又はトリフルオロメチルであり、好ましくはこれは直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル、より好ましくはこれはCH3である。
【0065】
上記化合物のうち、好ましいものは、式(II)の化合物又はそれらの薬学的に許容しうる塩であり、
R4がC1~C6アルキル又はベンゾイルであり、好ましくはこれは3位及び4位にあり、より好ましくはこれは3-ベンゾイル又は4-イソブチルである。
【0066】
R5がH、又は直鎖又は分岐鎖C1~C3アルキル、好ましくはこれはHであり、
R6が直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル又はトリフルオロメチルであり、好ましくはこれは直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル、より好ましくはこれはCH3である。
【0067】
上記化合物のうち、好ましいものは、式(II)の化合物又はそれらの薬学的に許容しうる塩であって、
R4がトリフルオロメタンスルホニルオキシ、好ましくは4-トリフルオロメタンスルホニルオキシであり、
R5がH、又は直鎖又は分岐鎖C1~C3アルキル、好ましくはこれはHであり、
R6が直鎖又は分岐鎖C1~C6アルキル又はトリフルオロメチルであり、好ましくはこれは直鎖又は分岐鎖C1~C16アルキルであり、より好ましくはこれはCH3である、ものである。
【0068】
上記化合物のうち、好ましいものはまた、式(III)の化合物又はそれらの薬学的に許容しうる塩である。
【0069】
【0070】
式中、
R’は水素であり、
Rは式SO2Raの残基であり、Raは直鎖又は分岐鎖C1~C4アルキル、又はハロC1~C3アルキルであり、好ましくはこれはCH3である。好ましくは、式(II)又は式(III)の上記化合物において、フェニルプロピオン酸基のキラル炭素原子はR配置である。
【0071】
本発明による、特に好ましい式(II)の化合物は、R-(-)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミド(レパリキシンとしても知られる)及びその薬学的に許容しうる塩から選択される。好ましくは、前記化合物は、R-(-)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミドのリジンin situ塩(本明細書でDF1681Bとも表す。)である。更に、本発明による特に好ましい式(II)又は式(III)の化合物は、2-(4-トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]-N-メタンスルホニルプロピオンアミド及びその薬学的に許容しうる塩、好ましくはそのナトリウム塩、好ましくはR(-)-2-(4-トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]-N-メタンスルホニルプロピオンアミド(DF2156Yとしても知られる。)及びそのナトリウム塩(ラダリキシン又はDF2156Aとしても知られる。)である。
【0072】
式(II)及び(III)のIL-8阻害剤は、国際公開第00/24710号(特許文献2)及び国際公開第2005/090295号(特許文献3)に記載されており、これにはまた、それらの合成方法、IL-8阻害剤としてのそれらの活性、並びに、IL-8によって誘導される好中球走化性及び脱顆粒の阻害剤としてのそれらの使用、及び乾癬、潰瘍性大腸炎、メラノーマ、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、水疱性類天疱瘡、関節リュウマチ、突発性線維症、糸球体腎炎及び虚血再灌流によって起こる損傷などのIL-8依存性の病状の治療におけるそれらの使用も開示されている。
【0073】
本発明による化学療法で誘導される末梢神経障害は、神経毒副作用を有する任意の化学療法剤によって誘導されるものでありうる。
【0074】
好ましくは、前記化学療法剤は、白金ベースの薬剤、タキサン類、エポチロン類、植物性アルカロイド、サリドマイド、レナリドミド及びポマリドミド、カルフィルゾミブ、ボルテゾミブ、及びエリブリンから選択される。より好ましくは、前記化学療法剤は、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、パクリタキセル、カバジタキセル、ドセタキセル、イキサベピロン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、エトポシド、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド、カルフィルゾミブ、ボルテゾミブ及びエリブリンから選択される。好ましい実施形態によれば、化学療法で誘導される末梢神経障害は、タキサン、より好ましくはパクリタキセルによって誘導されるものである。
【実施例】
【0075】
方法
パクリタキセル又はオキサリプラチンによる神経障害の誘導のモデル
メスウィスターラット(Wistar rats)(200~250g、ハーラン、イタリア(Harlan Italy))を、制御した温度(22±1℃)、湿度(60±10%)及び照明(12時間/日)の室内に収容した。食料及び水は任意に利用可能であった。
【0076】
ラットに以下のものを与えた:
1- Polomano et al, Pain 2001, 94: 293-294(非特許文献23)に記載されているように、1日あたり1回を4度、一日おき(0、2、4及び6日)に、パクリタキセル(トクリス、イタリア(Tocris, Itary))(2mg/kg/日 i.p.、累積用量8mg/kg i.p.)、又は、ビヒクル(塩水、1ml/kg/日 i.p.)のいずれかを、腹腔内(i.p.)注射で投与した。パクリタキセル/ビヒクルの投与前(-1日)に行動試験を実施し、パクリタキセル/ビヒクルの注射後5、7、10、14日に再度行動試験を実施した。
或いは、
2- Cavaletti et al., Eur. J. Cancer, 2001 37, 2457-63(非特許文献24)に記載されているように、5%グルコース溶液に溶解したオキサリプラチン(2.4mg/kg)を、3週間にわたって、1週間あたり5日連続して0.5ml/ラットの体積で腹腔内(i.p.)で投与した。オキサリプラチン/ビヒクルの投与前(-1日)に行動試験を実施し、オキサリプラチン/ビヒクルの注射後3、5、7、10、14、21日に再度行動試験を実施した。
【0077】
上記モデルにおける薬剤治療
1. パクリタキセルモデルにおけるDF2726A及びDF1681Bの投与
2つの別々の試験において、(2-メチル-2-(4-{[4-(トリフルオロメチル)-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ}フェニル)プロピオン酸ナトリウム塩(本明細書で、DF2726Aとも表す)、又は、in situ塩を形成するためにリジンの水溶液に溶解したR-(-)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミド(レパリキシン、DF1681Y)(本明細書でDF1681Bと表す)を以下に記載するように投与した。
【0078】
DF2726A(30mg/kg)(5ml/ml;0.5ml/os/rat)を、10%SOLUTOL-HS15及びN-メチルピロリドン(NMP)(SOLUTOL:NMP 2:1w/v)及び90%PBS×1に溶解し、パクルタキセルの投与後-3日から11日まで、1日あたり1回投与した。抗異痛効果を、パクリタキセルの投与後5、7、10及び14日に評価した。対照の動物にはビヒクル(10%SOLUTOL-NMP 2:1w/v及び90%PBS 5ml/ml;0.5ml/os/rat)を与えた。
【0079】
DF1681BをALZET浸透ポンプ Model 2ML2(チャールズリバー)を用いて、連続皮下注入によって投与した。詳細には、DF1681B(9.37g)を滅菌の塩水(25ml)に、375mg/mlの濃度で溶解し、10分間ボルテックスした。肩甲骨間の外科的切開を通して、浸透ポンプを麻酔下(100mg/kgケタミン及び10mg/kgキシラジン I.P.)で移植した。ポンプを最初のパクリタキセルの注射前3日(-3日)に移植した。薬剤送達を+11日まで連続的に行った。対照の動物にはビヒクル(滅菌の塩水)を与えた。
【0080】
DF2726A(30mg/kg/os)を、PBSに溶解し、これをオキサリプラチン投与の前3日から初め、オキサリプラチンの最初の投与後他の21日間続けて、24日連続して投与した。この期間、化合物をオキサリプラチン治療の2時間後に与えた。DF2726Aはナトリウム塩であるので、30mg/kgの活性薬剤用量に達するために16mg/mlの濃度で溶解した。
【0081】
2, オキサリプラチンモデルにおけるDF2726A及びDF1681Bの投与
2つの別々の試験において、(2-メチル-2-(4-{[4-(トリフルオロメチル)-1,3-チアゾール-2-イル]アミノ}フェニル)プロピオン酸ナトリウム塩(本明細書で、DF2726Aとも表す)、又は、in situ塩を形成するためにリジンの水溶液に溶解したR-(-)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミド(レパリキシン、DF1681Y)(本明細書でDF1681Bと表す)を以下に記載するように投与した。
【0082】
DF1681BをALZET浸透ポンプ Model 2ML2(チャールズリバー)を用いて、連続皮下注入によって投与した。Cavalieri et al Int J Immunopathol Pharmacol, 2005, 18: 475-86(非特許文献25)に記載されているように、8mg/時間/kgの注入速度を得るために、DF1681B(9.37g)を滅菌の塩水(25ml)に、375mg/mlの濃度で溶解し、10分間ボルテックスした。浸透ポンプを麻酔下(100mg/kgケタミン及び10mg/kgキシラジン I.P.)で移植した。ポンプは、アルゼット(Alzet)の指示シートに従って調製した。手短には、無菌のシリンジを用いて、ポンプを2mlのDF1681B溶液又はビヒクルで満たした。最後に、ポンプを37℃のストーブ中で一夜水浴中に保持した。
【0083】
背中に作製した外科的切開を通して、浸透ポンプ(アルゼットモデル 2ML2(Alzet model 2ML2))を挿入した。手短には、小さな切開を肩甲骨間の皮膚に作り、皮下の結合組織の少し離れたところを広げることによってポケットを形成し、最後に切開を縫合し、縫合により閉じた。ポンプをオキサリプラチンの注射前3日(-3日)に移植し、移植の14日後に新しいものと置き換えた。
【0084】
機械的異痛の評価
機械的異痛の発生を評価するために、ダイナミックプランター・エステシオメータ(Dynamic Plantar Aesthesiometer)(DPA、ウゴバジレ社、イタリア(Ugo Basile, Italy))を用いて、触覚刺激に対する敏感度を測定した。動物が自由に歩くことができるがジャンプすることはできない、プラスチックドームによって覆われたメッシュ金属床を備えたチャンパーに動物を置いた。次に、機械刺激を、後ろ足の足裏中央の皮膚に伝えた。遮断を50gに固定した。試験を、パクリタキセル/ビヒクル投与の前(-1日)及び当該投与後の5、7、10及び14日に、又は、オキサリプラチン/ビヒクル投与の後の0、3、5、7、10、14及び21日に、両足裏に実施した。
【0085】
冷異痛の評価
足(2)の背面にアセトンを適用した後、足の逃避応答の数として冷感受性を測定した。ラットを金属メッシュ上に立たせている間、薄いポリエチレン管に接続されたシリンジによりアセトンの滴を足の背面に適用した。足の背面上のアセトンが広がった後、活発な足の逃避応答が冷異痛のサインとして考えられた。冷応答を、パクリタキセル/ビヒクル投与の前(-1日)及び当該投与の後5、7、10及び14日に、又は、オキサリプラチン/ビヒクル投与の後0、3、5、7、10、14及び21日に、両足で測定した。
【0086】
統計的分析
全てのデータを平均±SEMとして示した。グループ間の差の有意性は、二元配置分散分析(ANOVA)と、これに続く多重比較のためのボンフェローニポストホックテストによって決定した。有意性のレベルをP<0.05に設定した。
【0087】
実施例1
パクリタキセルで誘導される機械的異痛及び冷異痛におけるDF2726Aの効果
機械的異痛及び冷異痛を3つのグループの動物:パクリタキセルも他の何れの治療も受けていないSHAM(擬似)、パクリタキセル及びビヒクルを受けた対照、並びに、パクリタキセル及びDF2726Aを受けたDF2726A処理、で評価した。治療剤(treatment)の投与は、方法の欄で記載したプロトコルに従って実施した。
【0088】
パクリタキセルの投与に続いて、対照及びDF2726A処理の両グループの動物は、擬似ラットに比較して明白な機械的異痛及び冷異痛を示した(
図1及び
図2)。
【0089】
特に、対照グループでは、ダイナミックプランター・エステシオメータ試験において、足の逃避閾値は、神経障害の兆候を示す5、7、10及び14日で有意に低下した(
図1、黒色の柱)。
【0090】
同じグループで、冷異痛試験において、足の逃避閾値の数は、神経障害の兆候を示す5、7、10及び14日で有意に増加した(
図2、黒色の柱)。
【0091】
DF2726Aで長期にわたって治療された動物(DF2726A処理グループ)は、5日(P<0.05)、7日(P<0.001)、及び10日(P<0.001)で、ビヒクルで処理された動物と比較して機械的異痛の有意な減少を示した。追加の有意な抗異痛効果は、14日では全く観測されなかった(
図1)。
【0092】
同様に、DF2726A処理グループの動物は、5日(P<0.05)、7日(P<0.001)、及び10日(P<0.001)で、ビヒクルで処理された動物と比較して冷異痛の有意な減少を示した。追加の有意な抗異痛効果は、14日では全く観測されなかった(
図2)。
【0093】
得られた結果は、14日間のDF2726Aの長期経口投与が、パクリタキセルの投与後の5、7及び10日で機械的異痛及び冷異痛の有意な減少に繋がったことを明確に示した。
【0094】
パクリタキセルの投与後+12日から+14日までは、ラットは薬学的治療を受けなかった。
図1及び
図2で報告されているように、14日には追加の抗異痛効果は、DF2726A処理グループで観測されず、抗異痛活性は、化合物の投与と直接に相関していることを確認した。
【0095】
実施例2
パクリタキセルで誘導される機械的異痛及び冷異痛におけるDF1681Bの効果
機械的異痛及び冷異痛を3つのグループの動物:パクリタキセルも他の何れの治療も受けていないSham(擬似)、パクリタキセル及びビヒクルを受けた対照、並びに、パクリタキセル及びDF1681Bを受けたDF1681B処理、で評価した。治療剤(treatment)の投与は、方法の欄で記載したプロトコルに従って実施した。
【0096】
パクリタキセルの投与に続いて、対照及びDF1681B処理の両グループの動物は、Sham(擬似)ラットに比較して明白な機械的異痛及び冷異痛を示した(
図3及び
図4)。特に、対照グループでは、DPA試験において、足の逃避閾値は、神経障害の兆候を示す5、7、10及び14日で有意に低下した(
図3)。
【0097】
DF1681Bで治療された動物は、5日(P<0.01)、7日(P<0.001)、及び10日(P<0.001)で、ビヒクルで処理された動物と比較して機械的異痛の有意な減少を示した。追加の有意な抗異痛効果は、14日では全く観測されなかった(
図4)。冷異痛試験で、対照グループでは、足の逃避閾値の数は、神経障害の兆候を示す5、7、10及び14日で有意に増加した(
図3)。DF1681Bで処理された動物は、5日(P<0.01)、7日(P<0.001)、及び10日(P<0.001)で、ビヒクルで処理された動物と比較して冷異痛の有意な減少を示した。追加の有意な抗異痛効果は、14日では全く観測されなかった(
図4)。得られた結果は、14日間のDF1681Bが、パクリタキセルの投与後の5、7及び10日で機械的異痛及び冷異痛の有意な減少に繋がったことを明確に示した。パクリタキセル前-3日のポンプの移植は、10日まで有意な活性をもたらした。14日、即ちDF1681B投与の中断後3日には、効果は全く観測されず、抗異痛活性は、化合物の投与と直接に相関していることを確認した。
【0098】
実施例3
オキサリプラチンで誘導される機械的異痛及び冷異痛におけるDF1681Bの効果
機械的異痛及び冷異痛を3つのグループの動物:オキサリプラチンも他の何れの治療も受けていないSham(擬似)、オキサリプラチン及びビヒクルを受けた対照、並びに、オキサリプラチン及びDF1681Bを受けたDF1681B処理、で評価した。治療剤(treatment)の投与は、方法の欄で記載したプロトコルに従って実施した。
【0099】
冷異痛の実験において、ビヒクルで処理された動物は、神経障害のための全ての実験時間点(3、5、7、10、14、21日)で足の逃避の数の有意な増加を示した(
図5)。DF1681Bは、3日では抗異痛効果を示さなかった(
図5)が、5、7、10、14、21日で、冷異痛の有意な減少を示した(
図5)。
【0100】
機械的異痛実験では、足の逃避閾値は14日と21日でのみ有意に減少し(
図6)、これらの日でDF1681Bが有意な抗異痛効果を示した(
図6)。
【0101】
実施例4
オキサリプラチンで誘導される機械的異痛及び冷異痛におけるDF2726Aの効果
機械的異痛及び冷異痛を3つのグループの動物:オキサリプラチンも他の何れの治療も受けていないSham(擬似)、オキサリプラチン及びビヒクルを受けた対照、並びに、オキサリプラチン及びDF2726Aを受けたDF2726A処理、で評価した。治療剤(treatment)の投与は、上の方法の欄で記載したプロトコルに従って実施した。
【0102】
冷異痛の実験において、ビヒクルで処理された動物は、神経障害のための全ての実験時間点(3、5、7、10、14、21日)で足の逃避の数の有意な増加を示した(
図7)。DF2726Aは、3日では抗異痛効果を示さなかったが、5、7、10、14、21日で、冷異痛の有意な減少を示した(
図7)。機械的異痛実験では、足の逃避閾値は14日と21日でのみ有意に減少し(
図8)、これらの日でDF2726Aが有意な抗異痛効果を示した(
図8)。
【0103】
実施例5
パクリタキセルで誘導される細胞骨格修飾におけるレパリキシンの効果
この試験では、細胞骨格成分及び組織について、単独で投与されたパクリタキセル、又は、in situ塩を形成するために、リジンの水溶液に溶解されたレパリキシン(DF1681Y;R-(-)-2-(4-イソブチルフェニル)プロピオニルメタンスルホンアミド)と組み合わせて投与されたパクリタキセルの効果を実施した。実験モデルとして、F-11細胞系、即ちマウス神経芽細胞腫の細胞系N18TG-2細胞と胎児ラット後根神経節感覚ニューロンの融合産物を使用した。これらの細胞は、ニューロンマーカーが存在すること、及び、親ラットの感覚ニューロンに特有の特性が存在することにより、選択された。
【0104】
細胞培養と処理
F11(ECACC、ソールズベリー、UK(ECACC, Salisbury, UK))細胞を、10%FBS、USA起源、(シグマ-アルドリッチ、セントルイス、CO、USA(Sigma-Aldrich St. Louis, CO, USA)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(ユーロクローン(Euroclone))及び1%グルタミン(ユーロクローン)を補ったDMEM(ユーロクローン、MI、イタリア(Euroclone, MI, Italy))培地で培養した。後に、細胞を、1%ペニシリン/ストレプトマイシン及び1%グルタミン(FBSを含まない)を有するDMEMに溶解したマウスNGF(mNGF)を最終濃度50ng/mlで用いて分化させた。7日後に起こる分化の完了まで、培地を3日ごとに置き換えた。ニューロンは、処理しなかった(対照)か、又は、レパリキシン[10μMの最終濃度]、パクリタキセル(シグマ-アルドリッチ)[10nMの最終濃度]及びこれら2分子の組み合わせで24時間処理した。
【0105】
免疫蛍光法
細胞を、PBS中パラホルムアルデヒド4%に、20分間、室温で固定し、-20℃で5分間メタノール中で透過処理した。次に細胞を4%BSAを含有するPBSで30分間ブロックし、ブロッキング溶液で希釈した一次抗体と4℃で一夜インキュベートした:ウサギβ-チュービュリン(アブカム、ケンブリッジ、UK(Abcam, Cambridge, UK))1:500、マウスα-チュービュリン(アブカム)1:200、及びマウスα-チュービュリンアセチル化型(アブカム)1:1000。次に、細胞をPBSで数回すすぎ、次いで、2次抗体、Alexafluor633と複合体形成されたヤギ抗ウサギ抗体(1:2000)及びAlexafluor488と複合体形成されたヤギ抗マウス抗体(1:2000)(ライフテクノロジーズ、CA、USA(life Technologies, CA, USA))と、30分間室温でインキュベートした。大規模洗浄した後、カバーガラスを、DAPI(ベクターラボラトリーズ バーリンゲーム、CA、USA(Vector Laboratories Burlingame, CA, USA))を含むベクタシールドマウンティング媒体(Vectashield mounting medium)でマウントし、次いで共焦点レーザー顕微鏡で観測した。
【0106】
結果
抗-アセチル化されたα-チュービュリン(安定な微小管のマーカー)について調査された対照ニューロンでは、アセチル化されたチュービュリンは、中程度に存在するようであった。同じマーカーを、パクリタキセルで処理されたニューロンで評価した。文献と一致して、パクリタキセルは、アセチル化α-チュービュリンを増加し、微小管動力学に影響を与え、樹状突起棘を安定化及び成熟させた。実際に、神経突起における蛍光強度はより強く現れ、神経突起の直径及び細胞骨格組織の増加がはっきりと見られた。
【0107】
パクリタキセル及びレパリキシンの組み合わせを用いた実験では、アセチル化α-チュービュリンは対照と同じであると思われ、従って、レパリキシンの存在は、アセチル化α-チュービュリン及び神経突起の厚さを増加することによって微小管の安定性の増加を起こすパクリタキセルの効果を打ち消すことができることを示している。次に、細胞を、対照及び処理条件で、抗α-チュービュリン及びβ-チュービュリンの両方で評価し、二重及び一重の免疫蛍光を評価した。ニューロンをパクリタキセルで処理したとき、β-チュービュリンの蛍光強度の低下が観測された。また、α-及びβ-チュービュリンに関するこの実験で、パクリタキセルとレパリキシンの組み合わせは、二量体構造のパクリタキセル単独の効果を打ち消すことができ、細胞は対照細胞とよりいっそう同じであると思われた。
【0108】
この結果は、IL-8の阻害が、ラットモデルの異痛(機械的及び冷却の両方)についての化学療法の効果を防止できること、並びに、キメラニューロン細胞系において微小管の安定性及び細胞骨格組織についてのパクリタキセルの効果を打ち消すことを示している。
【0109】
一連の研究成果は、炎症性のサイトカイン及びケモカインが、急性及び慢性末梢痛の病因に関与するという証拠を提供する[Wang XM et al, Cytokine 2012; 59:3-9(非特許文献4); Ramesh G. 2014; Inflamm Cell Signal 1(3)(非特許文献26)]。化学療法で誘導される損傷に応答して、マクロファージの浸潤は、その後の過度なメディエータの産生を導き、このメディエータのなかでは、炎症性のサイトカイン(TNF-α、IL-1β、IL-6、IL-8)がCIPNの開始及び進行に基本的な役割を演じている。最も注目に値することは、ケモカインIL-8が、運動ニューロンの変性に直接寄与することに関係していることである[De Paola M et al, Neuroimmunomodulation 2007;14(6):310-6(非特許文献27)]。
【0110】
IL-8阻害剤によるCIPNの減弱のメカニズムに関して、in vitro試験は、レパリキシンが、パクリタキセルによって誘導される細胞骨格の成分及び組織についての効果を打ち消すことができることを示した。特に、この化合物は、α-チュービュリンのアセチル化の誘導、微小管の安定性のためのマーカー及びパクリタキセルでの処置により誘導される神経突起の厚さの増加を止め、生理学的な微小管の動力学を回復するのに寄与することができる。