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  • 特許-水性貼付剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】水性貼付剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/192 20060101AFI20220330BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220330BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220330BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20220330BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20220330BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220330BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220330BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220330BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
A61K31/192
A61K9/70 405
A61K47/18
A61K47/32
A61K47/38
A61K47/24
A61K47/02
A61K47/10
A61K47/12
A61P29/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018545014
(86)(22)【出願日】2017-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2017036780
(87)【国際公開番号】W WO2018070406
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2016201134
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000215958
【氏名又は名称】帝國製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】白井 貞信
(72)【発明者】
【氏名】稲付 昌弘
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/092829(WO,A1)
【文献】特表平06-502174(JP,A)
【文献】米国特許第04927854(US,A)
【文献】特表2014-513132(JP,A)
【文献】特開2011-190194(JP,A)
【文献】国際公開第2009/075324(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/056356(WO,A1)
【文献】国際公開第01/002015(WO,A1)
【文献】特開平06-199701(JP,A)
【文献】特開平08-119859(JP,A)
【文献】特開2001-302501(JP,A)
【文献】特開2001-097852(JP,A)
【文献】国際公開第2010/103844(WO,A1)
【文献】SUGIMOTO, Masanori et al.,Analgesic effect of the newly developed S(+)-flurbiprofen plaster on inflammatory pain in a rat adju,Drug Development Research,2016年01月13日,Vol.77, No.1,pp.20-28,ISSN:1098-2299
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膏体中に薬物の光学異性体の一方のみを有効成分として含有する水性貼付剤であって、
膏体中に水溶性有機アミンをさらに含み、
水溶性有機アミンの配合量が膏体質量に対して0.2~5w/w%であり、
水溶性有機アミンの配合比率が、薬物の光学異性体に対し、質量比で0.25~5であり、
薬物がフルルビプロフェン、ケトプロフェン、およびイブプロフェンから選択される1種または2種以上であ
膏体pHが4~7の範囲である、貼付剤。
【請求項2】
薬物がフルルビプロフェンである、請求項1に記載の水性貼付剤。
【請求項3】
薬物の配合量が膏体質量に対して0.5~6w/w%である、請求項1~2のいずれか1項に記載の水性貼付剤。
【請求項4】
水溶性有機アミンが、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリイソプロピルアミンから選択される1種または2種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水性貼付剤。
【請求項5】
薬物の光学異性体がS体である、請求項1~4のいずれか1項に記載の水性貼付剤。
【請求項6】
膏体中に水、ポリアクリル酸またはその塩類、セルロース誘導体、架橋剤、保湿剤、およびpH調節剤から選択される1種または2種以上の成分をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の水性貼付剤。
【請求項7】
ポリアクリル酸またはその塩類がポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、およびポリアクリル酸部分中和物から選択される1種または2種以上であり;
セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロースから選択される1種または2種以上であり;
架橋剤がジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、および合成ヒドロタルサイトから選択される1種または2種以上であり;
保湿剤がグリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、D-ソルビトール、およびポリエチレングリコール400から選択される1種または2種以上であり;かつ
pH調節剤が酒石酸、乳酸、およびリンゴ酸から選択される1種または2種以上である、請求項6に記載の水性貼付剤。
【請求項8】
膏体質量に対して水の配合量が20~70w/w%であり、ポリアクリル酸またはその塩類の配合量が2~20w/w%であり、セルロース誘導体の配合量が2~20w/w%であり、架橋剤の配合量が0.02~3.5w/w%であり、保湿剤の配合量が5~60w/w%であり、かつpH調節剤の配合量が0.2~10w/w%である、請求項6または7に記載の水性貼付剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性を示す薬物を配合する水性貼付剤の治療効果を高めるために、光学活性を示す薬物を比較的高濃度で長期間安定的に配合し、かつ優れた薬物皮膚透過性を兼ね備えた水性貼付剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬物には光学異性体のS体とR体が存在するものがあり、例えば消炎鎮痛剤であるフルルビプロフェンには光学異性体の(+)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸(以下、Sフルルビプロフェン)と(-)-2-(2-フルオロ-4-ビフェニル)プロピオン酸(以下、Rフルルビプロフェン)がある。
フルルビプロフェンの場合、医薬分野では、通常、光学異性体であるSフルルビプロフェンとRフルルビプロフェンが等量となった安価なラセミ体(以下、ラセミフルルビプロフェン)が使用されている。
近年、S体の消炎鎮痛剤を含有した水性貼付剤(またはパップ剤)に関連する技術として、特許文献1及び特許文献2が開示されている。特許文献1にはSフルルビプロフェン及び多価アルコールを含有する外用製剤が記載され、その中に水性貼付剤も例示されている。また特許文献2にはカルボキシメチルセルロースナトリウム、及びポリアクリル酸ナトリウムを構成基剤とするSフルルビプロフェン含有水性貼付剤が記載されている。
各特許文献に記載の水性貼付剤は、薬理作用の強いS体を用いることで、治療効果改善の可能性が示されているものの、製剤安定性はほとんど検討されていなかった。特に薬物を比較的高濃度に配合した場合の薬物溶解性、或いは長期間保存した製剤の薬物溶解性、製剤物性の維持など、改善するべき点が多く、治療効果改善と製剤安定性を兼ね備えた水性貼付剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平06-199701号公報
【文献】特開平08-119859号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に薬物濃度が高いほど経皮吸収性が良好となり治療効果が期待できる。従って、治療効果を高めるには、薬物の配合量を増せばよいが、経皮吸収製剤に配合されてきた薬物については、脂溶性の高い物質が多く、水を主成分とする水性貼付剤には、高濃度、溶解状態で安定的に配合することは非常に困難であった。
例えば、従来の水性貼付剤では、Sフルルビプロフェンを膏体に高濃度に配合することは難しく、その濃度は膏体質量に対して、0.3w/w%程度と極めて低いものであった。
フルルビプロフェンの場合、S体の薬物であるSフルルビプロフェン自体は非常に強い消炎鎮痛作用を持つとはいえ、水性貼付剤にある程度高濃度で配合しなければ、さらなる治療効果を期待できない。従って、高濃度の薬物を製剤中で長期間安定的に維持させることが、実用化に向けての大きな問題点であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題点に鑑みて、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、光学異性体としてS体とR体が存在する薬物のその一方の光学異性体のみを、好ましくは水溶性有機アミンと組み合わせること、さらに好ましくは水、保湿剤、水溶性高分子、架橋剤、およびpH調節剤等を適切に組み合わせた膏体基剤と配合することにより、優れた粘着性、保形性を有しながら、薬物を比較的高濃度で長期間に渡って安定的に配合でき、さらに高い薬物皮膚透過性を示す水性貼付剤が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
膏体中に薬物の光学異性体の一方のみを有効成分として含有する水性貼付剤。
[2]
薬物が消炎剤もしくは鎮痛剤、またはその補助剤である、[1]に記載の水性貼付剤。
[3]
薬物がフルルビプロフェン、ケトプロフェン、およびイブプロフェンから選択される1種または2種以上である、[1]または[2]に記載の水性貼付剤。
[4]
薬物がフルルビプロフェンである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[5]
薬物の配合量が膏体質量に対して0.5~6w/w%である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[6]
膏体中に水溶性有機アミンをさらに含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[7]
水溶性有機アミンが、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリイソプロピルアミンから選択される1種または2種以上である、[6]に記載の水性貼付剤。
[8]
水溶性有機アミンの配合量が膏体質量に対して0.2~5w/w%である、[6]または[7]に記載の水性貼付剤。
[9]
水溶性有機アミンの配合比率が、薬物の光学異性体に対し、質量比で0.25~5である、[6]~[8]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[10]
薬物の光学異性体がS体である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[11]
膏体中に水、ポリアクリル酸またはその塩類、セルロース誘導体、架橋剤、保湿剤、およびpH調節剤から選択される1種または2種以上の成分をさらに含む、[1]~[10]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[12]
ポリアクリル酸またはその塩類がポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、およびポリアクリル酸部分中和物から選択される1種または2種以上であり;
セルロース誘導体がカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロースから選択される1種または2種以上であり;
架橋剤がジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、および合成ヒドロタルサイトから選択される1種または2種以上であり;
保湿剤がグリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、D-ソルビトール、およびポリエチレングリコール400から選択される1種または2種以上であり;かつ
pH調節剤が酒石酸、乳酸、およびリンゴ酸から選択される1種または2種以上である、[11]に記載の水性貼付剤。
[13]
膏体質量に対して水の配合量が20~70w/w%であり、ポリアクリル酸またはその塩類の配合量が2~20w/w%であり、セルロース誘導体の配合量が2~20w/w%であり、架橋剤の配合量が0.02~3.5w/w%であり、保湿剤の配合量が5~60w/w%であり、かつpH調節剤の配合量が0.2~10w/w%である、[11]または[12]に記載の水性貼付剤。
【0007】
また、本発明は以下にも関する。
[14]
薬物がSフルルビプロフェン、Sケトプロフェン、およびSイブプロフェンから選択される1種または2種以上である、[1]~[13]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[15]
薬物がSフルルビプロフェンである、[1]~[14]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[16]
水溶性有機アミンがジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、およびトリエチルアミンから選択される1種または2種以上である、[6]~[15]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[17]
膏体中にクロタミトンをさらに含む、[1]~[16]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[18]
膏体中にポリアクリル酸またはその塩類およびセルロース誘導体以外の水溶性高分子、賦形剤、安定化剤、および防腐剤から選択される1種または2種以上の成分をさらに含む、[1]~[17]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
[19]
膏体が薬物の光学異性体の一方、水溶性有機アミン、水、ポリアクリル酸またはその塩類、セルロース誘導体、架橋剤、保湿剤、およびpH調節剤、ならびに任意成分としてのクロタミトン、ポリアクリル酸またはその塩類およびセルロース誘導体以外の水溶性高分子、賦形剤、安定化剤、および防腐剤から選択される1種または2種以上の成分からなる、[1]~[18]のいずれか1つに記載の水性貼付剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薬物の光学異性体の一方のみを配合した水性貼付剤において、好ましくは光学異性体と水溶性有機アミンを組み合わせることで、製剤中に薬物を高濃度で安定的に配合・維持でき、かつ高い薬物皮膚透過性を示すとともに、優れた粘着性、保形性を有する水性貼付剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の水性貼付剤および比較例の水性貼付剤を用いてSフルルビプロフェンの皮膚累積透過量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の水性貼付剤に関して、さらに詳細に説明する。
本発明の水性貼付剤とは、高い治療効果を得るために、通常は膏体中に薬物を比較的高濃度で安定的に配合し、皮膚からの薬物透過量が良好であり、薬物の保存安定性に優れた水性貼付剤である。膏体は薬物を含有する粘着性のペースト状組成物である。また、膏体基剤とは膏体から薬物を除いたものを意味する。
【0011】
本発明の水性貼付剤に配合しうる薬物としては、光学異性体としてS体とR体が存在する薬物であれば限定されないが、例えば消炎剤もしくは鎮痛剤、またはその補助剤;抗高血圧剤;制吐剤;脳循環改善剤;抗うつ剤;性ホルモン;鎮咳薬;抗腫瘍剤;抗ヒスタミン剤;冠血管拡張剤;抗真菌剤;抗菌剤;全身麻酔薬;催眠鎮静剤;抗認知症薬;抗パーキンソン薬;精神安定剤;および殺菌消毒剤等が挙げられるが、水性貼付剤が示す冷感との総合作用が期待できる、消炎剤もしくは鎮痛剤、またはその補助剤が好ましい。本発明の水性貼付剤に使用しうる消炎剤もしくは鎮痛剤、またはその補助剤には、消炎鎮痛剤、局所麻酔剤、オピオイド、およびオピオイド拮抗薬等が挙げられ、具体的にはフルルビプロフェン、ケトプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ロキソプロフェン、ザルトプロフェン、ケトロラク、コルチゾール、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、モルヒネ、オキシコドン、メサドン、コデイン、ブプレノルフィン、トラマドール、タペンタドール、ペンタゾシン、ナロルフィン、ブトルファノール、レバロルファン、エプタゾシン、ナルブフィン、ナルフラフィン、ナロキソン、プリロカイン、メピバカイン、ブピバカイン、ロピバカイン、およびそれらの医薬的に許容できる塩またはエステル等が例示され、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。好ましい消炎剤もしくは鎮痛剤、またはその補助剤は消炎鎮痛剤であり、さらに好ましくはフルルビプロフェン、ケトプロフェン、およびイブプロフェンから選択される1種または2種以上であり、とりわけ好ましくはフルルビプロフェンである。これらの薬物には、光学異性体としてS体とR体が存在するが、配合する光学異性体は、その一方のみでなければならず、S体のみであってもR体のみであってもよいが、薬理効果が顕著であるS体を用いることが好ましい。ただし、原薬製造上、やむを得ず混入する他方の光学異性体、或いは原薬保管時の分解反応により生成する他方の光学異性体の量は微量であり実質的に問題とならない。
薬物の配合量は、好ましくは膏体質量に対して0.5~6w/w%、より好ましくは1~3w/w%、さらに好ましくは1~2w/w%である。配合量が0.5w/w%未満であると治療効果が乏しく、6w/w%を超えると、膏体中に薬物が析出し、水性貼付剤からの経皮吸収性が悪化する恐れがある。なお、本明細書において、薬物の配合量に関し、“比較的高濃度”という用語が使用される場合、上記範囲を示すものとする。
【0012】
1つの実施態様では、本発明の水性貼付剤は膏体中に水溶性有機アミンを含む。水溶性有機アミンは、薬物の一方の光学異性体を膏体中に安定的に溶解させる働きがある。
ここで水溶性有機アミンとは、1~3個の非置換のアルキル基(例えば、C-Cアルキル基)、または置換基、好ましくは1~3個の水酸基を有する1~3個のアルキル基(例えば、C-Cアルキル基)で置換されたアミンであって、さらに水に安定溶解するものから選ばれ、好ましくは、モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジイソブタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリブタノールアミン、トリイソブタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、およびトリイソプロピルアミンなどであり、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。より好ましくは、ジイソプロパノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、およびトリエチルアミンから選択される1種または2種以上の組み合わせである。
【0013】
水溶性有機アミンの配合量は、薬物の一方の光学異性体の配合量に応じた調節を行うが、好ましくは膏体質量に対して0.2~5w/w%、より好ましくは0.5~3w/w%、さらに好ましくは0.8~2w/w%である。配合量が0.2w/w%未満では、薬物が膏体中で溶解できず、5w/w%を超えて配合すると膏体の粘着力が悪化し好ましくない。
薬物の光学異性体に対する水溶性有機アミンの配合比率(質量比)は、好ましくは0.25~5、より好ましくは0.25~3、さらに好ましくは0.3~1である。0.25未満では、膏体中に薬物析出物が生じ、5を超えると膏体の粘着性、保形性が悪化し好ましくない。
【0014】
1つの実施態様では、本発明の水性貼付剤は膏体中に水、水溶性高分子、架橋剤、保湿剤、およびpH調節剤から選択される1種または2種以上の成分を含んでいてもよい。
【0015】
水は水溶性高分子を溶解するための媒体になり、配合量は、好ましくは膏体質量に対して20~70w/w%、より好ましくは30~60w/w%、より好ましくは30~50w/w%である。配合量が20w/w%未満であると水溶性高分子が十分に溶解されず不均一となり、膏体の粘着力、保形性が不十分となる。70w/w%を越えると、膏体の保形性が軟弱となり好ましくない。なお、当該配合量は貼付剤作成時に加える精製水および他の成分(ソルビトール液等)に含まれる水を含むすべての水の総量を意味する。
【0016】
水溶性高分子は、水に溶解する際の増粘機能と架橋体形成により、膏体の粘着力を高め、保形性を維持する働きがあり、通常はポリアクリル酸またはその塩類と、セルロース誘導体から選ばれる材料を組み合わせて使用する。
ポリアクリル酸またはその塩類は、水に溶解する際の増粘機能と架橋剤により架橋体を形成することにより、膏体の粘着力を高める。ポリアクリル酸またはその塩類としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、およびポリアクリル酸部分中和物などが挙げられ、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、ポリアクリル酸とポリアクリル酸ナトリウムの組み合わせが好ましい。
ポリアクリル酸またはその塩類の配合量は、好ましくは膏体質量に対して2~20w/w%、より好ましくは3~15w/w%、さらに好ましくは5~10w/w%である。2w/w%未満であると、膏体の粘着力が低下し、20w/w%を越えると、水に不溶となる部分が生じ、膏体は不均一となり粘着力が不十分となる。
【0017】
セルロース誘導体は、水に溶解する際の増粘機能により、膏体の保形性を調整する働きがある。セルロース誘導体としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、およびヒドロキシメチルセルロースなどが挙げられ、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、特にカルボキシメチルセルロースナトリウムを含む1種または2種以上の組み合わせが好ましい。
セルロース誘導体の配合量は、好ましくは膏体質量に対して2~20w/w%、より好ましくは、3~15w/w%、さらに好ましくは3~10w/w%である。2w/w%未満であると、粘性が低く膏体の保形性が維持できない。また20w/w%を越えると、水に不溶となる部分が生じ、膏体は不均一となり、保形性を一定に保てなくなる。
【0018】
架橋剤は、ポリアクリル酸またはその塩類の架橋体を形成させ、膏体の保形性を維持する働きがあり、難溶性多価金属塩から選ばれる。ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、および合成ヒドロタルサイトなどが挙げられ、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、ジヒドロキシアルミニウムアミノアセテート、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、および合成ヒドロタルサイトから選ばれる1種または2種以上が好ましい。
架橋剤の配合量は、好ましくは膏体質量に対して0.02~3.5w/w%、より好ましくは0.03~2w/w%、さらに好ましくは0.04~0.5w/w%である。0.02w/w%未満であると、架橋体形成が不十分であり、膏体の保形性が悪化する。3.5w/w%を越えると架橋体形成が多くなり製剤の粘着性が悪化する。
【0019】
保湿剤は、皮膚への保湿効果を高めることと、膏体の保形性を調整する働きがある。
これらの保湿剤は、水に溶解できる多価アルコールから選ばれ、好ましくは、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、D-ソルビトール、およびポリエチレングリコール400であり、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。特にグリセリン、プロピレングリコール、およびD-ソルビトールから選択される1種または2種以上の組み合わせが好ましい。
保湿剤の配合量は、好ましくは膏体質量に対して5~60w/w%、より好ましくは10~50w/w%、さらに好ましくは20~40w/w%である。5w/w%未満であると、膏体の保形性が不十分となり、60w/w%を越えると、他の配合材料、特に水が不足し、膏体の粘着性、保形性が不十分となり好ましくない。
【0020】
pH調節剤は、膏体のpHを調節する働きがあり、有機酸から選ばれ、酒石酸、乳酸、およびリンゴ酸などが挙げられ、それらの1種または2種以上を組み合わせて用いることができ、酒石酸が好ましい。
pH調節剤の配合量は、好ましくは膏体質量に対して0.2~10w/w%、より好ましくは0.3~7w/w%、より好ましくは、0.5~5w/w%であるが、膏体中で薬物を溶解状態に維持するためと、粘着力と保形性を維持するために、膏体pHを4~7の範囲に調整するのが好ましい。
【0021】
また冷所保管が非常に長期になるなどの環境条件に対し、薬物の溶解状態を安定化させる素材を検討したところ、水性基剤に配合できるものとしてクロタミトンが見つかった。その配合量は、好ましくは膏体質量に対して0.1~3w/w%、より好ましくは0.1~2w/w%、さらに好ましくは0.1~1w/w%である。
その他、本発明の水性貼付剤には、他の治療効果のある薬剤を配合してもよい。また一般的に水性貼付剤に使用される材料、例えば上記のポリアクリル酸またはその塩類およびセルロース誘導体以外の水溶性高分子(例えばポリビニルアルコール等であり、その配合量は膏体質量に対して0.1~3w/w%、より好ましくは0.1~2w/w%、さらに好ましくは0.1~1w/w%である)、賦形剤(例えばカオリン等であり、その配合量は膏体質量に対して0.1~10w/w%、より好ましくは0.3~5w/w%、さらに好ましくは0.5~3w/w%である)、安定化剤(例えばエデト酸ナトリウム等であり、その配合量は膏体質量に対して0.01~1w/w%、より好ましくは0.03~0.5w/w%、さらに好ましくは0.05~0.1w/w%である)、および防腐剤(例えばパラオキシ安息香酸エステル等であり、その配合量は膏体質量に対して0.1~3w/w%、より好ましくは0.1~2w/w%、さらに好ましくは0.1~1w/w%である)などは、長期保管また使用時に、その材料自体が揮散し、薬物が膏体中に析出したりするなどして、経皮吸収性の悪化、さらには治療効果を損じたりすることが無い限り、いずれも配合することができる。
【0022】
本発明の水性貼付剤では、膏体は支持体と剥離ライナーの間に展延または塗布される。支持体は、塗布した膏体を保持できるものであれば、特に限定されるものではない。
支持体としては、例えば不織布、織布などの布、布に薄いプラスチックフィルムを貼り合せたもの、布と布の間に薄いフィルムを挟み込んだ積層材などを挙げることができる。これらの支持体の材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリウレタン、レーヨン、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、およびポリエチレンナフタレート等が挙げられる。支持体に通気性の有無はどちらでもよいが、積層材の場合、フィルム自体に透湿性のあるものを選んでもよく、もしくはフィルムに貫通孔を設けるなどの処理を行ってもよい。
膏体の支持体への塗布方法は、特に限定されるものではなく、一般的な水性貼付剤の製造方法が採用される。なお、塗布する膏体の質量は、好ましくは、200~1500g/m、より好ましくは、300~1200g/mであり、完成した水性貼付剤は、疾患患部に応じ、適当な形状、サイズに切断して用いることができる。
【0023】
剥離ライナーは、例えばポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、または紙等を用いることができ、特にポリエステルが好ましい。剥離ライナーは剥離力を至適にするため必要に応じてシリコン処理してもよい。
【0024】
以下、本発明を実施例、比較例、および試験例により具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例
【0025】
実施例1
表1の製剤組成で以下手順によって水性貼付剤を作製した。
精製水に、Sフルルビプロフェンとジイソプロパノールアミンを加え溶解した(溶解液)。
濃グリセリンに、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸部分中和物、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、および合成ヒドロタルサイトを加え分散した(分散液)。
精製水、精製水にポリビニルアルコールを溶解した液、精製水にポリアクリル酸を溶解した液、ソルビトール液(70%D-ソルビトール)、カオリン、および酒石酸を混合し、この液を撹拌しながら分散液を徐々に加えた。次に溶解液を加え、撹拌し膏体を作製した。
膏体を不織布とポリエステルフィルムの間に展延し、適切な寸法に裁断し、水性貼付剤を作製した。
【0026】
実施例2
表1に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0027】
比較例1、2、および3
表1に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0028】
【表1】
【0029】
試験例1
偏光顕微鏡を使用して、作製した各製剤の膏体中の薬物の結晶析出の有無を観察した。
その結果を表2に示す。
表2に示したように、実施例1、実施例2は、膏体中に薬物の析出はなかったが、比較例はいずれも薬物の結晶析出が観察された。特に光学異性体比が1対1(ラセミ体)である比較例1では薬物の結晶が多量に析出した。配合する薬物を一方の光学異性体のみとした製剤は、薬物が良好に溶解するが、光学異性体が混在すると、著しく溶解性が悪化した。
【0030】
【表2】
【0031】
実施例3、4、5、および6
表3に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0032】
比較例4および5
表3に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0033】
【表3】
【0034】
試験例2
偏光顕微鏡を使用して、作製した各製剤の膏体中の薬物の結晶析出の有無を観察した。また、ゴムロールを各製剤の膏体上に押し転がし、膏体の粘着性と保形性を観察した。
それらの結果を表4に示す。
表4に示したように、実施例3~6では膏体中に薬物の析出は見られなかった。比較例4では薬物の析出が観察され、膏体の粘着力も悪化していた。比較例5では薬物の結晶析出が観察され、膏体の粘着性と保形性が悪く、水性貼付剤として使用できなかった。
比較例4は水溶性有機アミンが無添加であるためSフルルビプロフェンは膏体に溶解せず、比較例5は水溶性有機アミンの代わりに無機水溶性アルカリ金属塩である水酸化ナトリウムを用いたため、Sフルルビプロフェンが安定的に膏体に溶解しなかったものと考えられる。
【0035】
【表4】
【0036】
実施例7および8
表5に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0037】
比較例6および7
表5に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【表5】
【0038】
試験例3
偏光顕微鏡を使用して、作製した各製剤の膏体中の薬物の結晶析出の有無を観察した。また、ゴムロールを各製剤の膏体上に押し転がし、膏体の粘着性と保形性を観察した。
それらの結果を表6に示す。
表6に示したように、実施例7と8では膏体中に薬物の結晶析出はなく、膏体の粘着性と保形性も良好であった。比較例6では膏体に多量の薬物の析出があった。比較例7では、膏体に薬物析出物はなかったが、膏体が固まらず粘着性と保形性が悪く、水性貼付剤として使用できなかった。
【0039】
【表6】
【0040】
実施例9、10、11、12、および13
表7に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0041】
比較例8および9
表7に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【表7】
【0042】
試験例4
偏光顕微鏡を使用して、作製した各製剤の膏体中の薬物の結晶析出の有無を観察した。また、ゴムロールを各製剤の膏体上に押し転がし、膏体の粘着性と保形性を観察した。
それらの結果を表8に示す。
表8に示したように、実施例9~13では膏体中に薬物の析出はなく、膏体の粘着性と保形性も良好であった。比較例8では膏体に薬物の結晶析出があった。比較例9では、膏体に薬物の結晶析出はなかったが、膏体の固まりが弱く粘着性と保形性が悪く、水性貼付剤として使用できなかった。
実施例9~13のジイソプロパノールアミン/Sフルルビプロフェンの質量比は、0.25~5の範囲内であった。比較例8は、当該質量比が0.20と0.25を下回っており、薬物の配合量に対してジイソプロパノールアミンの配合量が少なく、その結果、膏体に薬物の析出が生じたと考えられる。比較例9は、ジイソプロパノールアミンの配合量が6w/w%であり、ジイソプロパノールアミン/Sフルルビプロフェンの質量比が6となり、この比率ではジイソプロパノールアミンの配合量が多すぎるため、膏体の粘着性、保形性が維持できなくなったと考えられる。
【0043】
【表8】
【0044】
実施例14、15、16、および17
表9に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0045】
比較例10および11
表9に示す製剤組成で、実施例1に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【表9】
【0046】
試験例5
偏光顕微鏡を使用して、作製した各製剤の膏体中の薬物の結晶析出の有無を観察した。また、ゴムロールを各製剤の膏体上に押し転がし、膏体の粘着性と保形性を観察した。さらに各製剤の膏体pHも測定した。
それらの結果を表10に示す。
表10に示したように、実施例14~17では膏体中に薬物の結晶析出はなく、膏体の粘着性と保形性も良好であった。比較例10では膏体に薬物の結晶が析出した。比較例11は、膏体に薬物の結晶析出はなかったが、膏体の固まりが弱く、粘着性と保形性が悪く、水性貼付剤として使用できなかった。
膏体pHは、各実施例が4~7の範囲内となり、比較例10はpH3.6、および比較例11はpH7.8であった。pHが4~7の範囲である実施例の製剤は、良好な薬物溶解性及び優れた粘着性、保形性を示したが、比較例10の製剤は薬物溶解性が低く、比較例11の製剤は粘着性、保形性が悪かった。比較例10の製剤はジイソプロパノールアミン/Sフルルビプロフェンの質量比が実施例14~16と同じく0.67であるにもかかわらず、膏体pHが低いために膏体に薬物の結晶が析出したものと考えられる。比較例11は膏体pHが高すぎるため、粘着性、及び保形性が維持できなかったと考えられる。
【0047】
【表10】
【0048】
実施例18
表11の製剤組成で以下手順によって水性貼付剤を作製した。
精製水に、Sフルルビプロフェンとジイソプロパノールアミンを加え溶解した(溶解液)。
濃グリセリンに、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジヒドロキシアルミニウムアミノアセテートを加え分散した(分散液)。
精製水、精製水にポリビニルアルコールを溶解した液、精製水にポリアクリル酸を溶解した液、ソルビトール液(70%D-ソルビトール)、カオリン、酒石酸、エデト酸ナトリウム、およびクロタミトンを加え、この液を撹拌しながら分散液を徐々に加えた。次に溶解液を加え、撹拌し膏体を作製した。
膏体をポリエステル不織布とポリエステルフィルムの間に展延し、適切な寸法に裁断し、水性貼付剤を作製した。
【0049】
実施例19、20、21、22、および23
表11に示す製剤組成で、実施例18に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【表11】
【0050】
試験例6
各試験製剤をアルミ積層フィルムで包み、周囲を熱シールし、密封した。密封品を4℃、25℃、または40℃の恒温槽に保存し、経時的に取出し、膏体中の薬物の結晶析出の有無を偏光顕微鏡で観察した。
観察結果を表12に示す。
表12に示したように、25℃、または40℃では、実施例18~23は、6ケ月保存後においても薬物の結晶析出はなく溶解状態を維持した。さらに、クロタミトンを配合した実施例18、及び20~23の製剤は、4℃の保存条件においても薬物の結晶が析出しなかった。以上より、本発明の水性貼付剤は、高い薬物安定性を示す製剤であることが判明した。さらにクロタミトンを配合した本発明の水性貼付剤は、苛酷な低温保存条件においても薬物溶解状態を長時間維持することができる非常に安定性の高い製剤であることが判明した。
【0051】
【表12】
【0052】
実施例24
表13の製剤組成で以下手順によって水性貼付剤を作製した。
精製水に、Sフルルビプロフェンとジイソプロパノールアミンを加え溶解した(溶解液)。
濃グリセリンに、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および合成ヒドロタルサイトを加え分散した(分散液)。
精製水、ソルビトール液(70%D-ソルビトール)、カオリン、酒石酸、およびクロタミトンを加え、この液を撹拌しながら分散液を徐々に加えた。次に溶解液を加え、撹拌し膏体を作製した。
膏体をポリエステル不織布とポリエステルフィルムの間に展延し、適切な寸法に裁断し、水性貼付剤を作製した。
【0053】
比較例12および13
比較例12は、特許文献1に記載の実施例6の「本発明品12」を再現し作製した。また、比較例13は、比較例12のSフルルビプロフェン濃度を0.3%から1.5%とし、その代わりに精製水濃度を49.05%から47.85%に減じ作製した。
【0054】
比較例14および15
比較例14は、特許文献2に記載の実施例パップ剤Aを再現し作製した。比較例15は、比較例14のSフルルビプロフェン濃度を0.2%から1.5%とし、その代わりに精製水濃度を49.2%から47.9%に減じ作製した。
【表13】
【0055】
試験例7
偏光顕微鏡を使用して、作製した各製剤の膏体中の薬物の結晶析出の有無を観察した。また、ゴムロールを各製剤の膏体上に押し転がし、膏体の粘着性と保形性を観察した。さらにJISZ0237タック試験方法(以下、ボールタック試験と称す)に基づき、各製剤の膏体のタック力を測定した。それらの結果を表14に示す。
表14に示したように、実施例24では膏体中に薬物の結晶析出はなく、粘着性と保形性も良好であった。また、膏体のタック力を測定したところ、直径23.8mmのスチールボールを保持し、水性貼付剤として好適なタック力を有することが分かった。
一方、比較例12は、膏体中に薬物の結晶析出はなく、膏体の粘着性と保形性も良好であったが、ボールタック試験では直径14.3mmとやや小さいスチールボールしか保持できず、粘着力の弱い製剤であることが判明した。また、比較例12と基剤構成が同様で、薬物濃度を1.5%に増した比較例13では、多量の薬物の結晶が生じ、粘着性及び保形性も悪いものであった。また、ボールタック試験においては直径9.5mmのスチールボールを保持するにとどまり、粘着力の非常に弱い製剤であることが判明した。
さらに、比較例14は、膏体中に薬物の結晶の析出はなかったものの、膏体は硬化せず、粘着性と保形性は著しく悪いものであった。比較例14と基剤構成が同様で、薬物濃度のみ1.5%に増した比較例15も同様に、膏体は硬化せず、多量の薬物の結晶が生じ、粘着性と保形性が著しく悪い製剤であった。比較例14および15はともに保持できるスチールボールは皆無であり、タック力も非常に悪い製剤であった。
【0056】
【表14】
【0057】
試験例8
実施例24ならびに比較例12、13、14、および15について、ヘアレスラット腹部摘出皮膚を使用した薬物のin vitro皮膚透過試験を行った。試験方法を以下に示し、試験結果を図1に示す。
(試験方法)
ヘアレスラット腹部皮膚を摘出し、フランツ型拡散セルに取り付けた。真皮側をレセプター側とし、その内側にはリン酸緩衝液を注入し、その温度を37℃に保ち撹拌した。各試験製剤を直径14mmの円にカットし、皮膚に貼付し、レセプター液をサンプリングし、試験製剤から皮膚を通過して緩衝液に移行した薬物量(透過量)を、液体クロマトグラフ装置を用い測定した。
試験結果は、試験開始後24時間目の累積薬物透過量(μg/cm・24hr)で評価した。
図1に示した結果より、実施例24は、最も高い透過量を示し、優れた治療効果を発揮する製剤であると考えられた。
一方、比較例12と14の透過量はかなり低かった。それぞれ比較例12及び14と基剤構成が同様で、薬物含量のみを高くした比較例13と15は、やや透過量が増加したが、同じ薬物含量の実施例24より透過量が低かった。これは比較例13或いは比較例15の膏体中に薬物の結晶析出が生じることが影響しているものと考えられる。
【0058】
試験例9
実施例24、及び実施例24と基剤構成が同様で、Sフルルビプロフェンの代わりにRフルルビプロフェンを配合した実施例25、並びに市販テープ製剤(ラセミフルルビプロフェン2.38%配合)を供試製剤とし、ラットを用いた抗炎症試験を行い、その効果を比較した。試験方法は以下に記載し、試験結果を表15に示す。
(試験方法)
ラットの足容積を測定後(初期容積)、各試験製剤(3×4cm)を同足に貼付固定した。貼付4時間後に試験製剤を除去し、1%カラゲニン懸濁液0.1mLを注射して足浮腫を惹起した。惹起2、3、及び4時間後に足容積を測定し、各動物の浮腫率((カラゲニン注射後足容積-初期容積)/初期容積×100)を算出した。
実施例24と25は、浮腫を抑え抗炎症作用があることが分かった。特にSフルルビプロフェンを配合した実施例24の効果は顕著で、その効果は市販テープ製剤より優れていた。
【0059】
【表15】
【0060】
実施例26
表16の製剤組成で以下手順によって水性貼付剤を作製した。
精製水に、有効成分とジイソプロパノールアミンを加え溶解した(溶解液)。
濃グリセリン、プロピレングリコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを加え分散した(分散液)。
精製水、精製水にポリアクリル酸を溶解した液、ソルビトール液(70%D-ソルビトール)、カオリン、および酒石酸を加え、この液を撹拌しながら分散液を徐々に加えた。次に溶解液を加え、撹拌し膏体を作製した。
膏体を不織布とポリエステルフィルムの間に展延し、適切な寸法に裁断し、水性貼付剤を作製した。
【0061】
実施例27
表16に示す製剤組成で、実施例26に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0062】
比較例16および17
表16に示す製剤組成で、実施例26に準じた手順に従い、所望の水性貼付剤を作製した。
【0063】
【表16】
【0064】
試験例10
偏光顕微鏡を使用して、作製した各製剤の膏体中の薬物状態を観察した。
その結果を表17に示す。
表17に示したように、実施例26および実施例27は、膏体中に薬物の析出はなかったが、光学異性体比が1対1(ラセミ体)である比較例16および比較例17では薬物が多量に析出した。
配合する薬物を一方の光学異性体のみとした製剤は、フルルビプロフェンと同様に、薬物が良好に溶解するが、光学異性体が混在すると、著しく溶解性が悪化した。
【0065】
【表17】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明によれば、光学異性体としてS体とR体が存在する薬物の一方の光学異性体のみを比較的高濃度で長期間に渡って安定的に配合でき、優れた粘着性および保形性を有しながら、高い薬物皮膚透過性を示す水性貼付剤を提供することができる。本発明の水性貼付剤は、例えば消炎鎮痛作用を有する水性貼付剤として有用である。
図1