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  • 特許-電磁緩衝器 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】電磁緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/03 20060101AFI20220330BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20220330BHJP
   F16F 9/02 20060101ALI20220330BHJP
   F16F 9/42 20060101ALI20220330BHJP
   H02K 41/03 20060101ALI20220330BHJP
   B60G 17/00 20060101ALI20220330BHJP
   B60G 17/015 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
F16F15/03 G
F16F15/023 Z
F16F9/02
F16F9/42
H02K41/03 A
B60G17/00
B60G17/015 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019017307
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020125781
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 功
(72)【発明者】
【氏名】近藤 卓宏
(72)【発明者】
【氏名】野間 達也
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-240984(JP,A)
【文献】特開2002-257189(JP,A)
【文献】特開昭63-287629(JP,A)
【文献】特開2008-062738(JP,A)
【文献】特開2008-286362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
F16F 9/00- 9/58
B60G 17/00
H02K 41/00- 41/06
B60G 17/015
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性体のシリンダと、
前記シリンダの内周に移動自在に挿入されるピストンロッドと、
前記シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともに前記ピストンロッドに設けられて前記シリンダ内に伸側室を区画する伸側ピストンと、
前記シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともに、前記伸側ピストンに対して軸方向に間隔を開けて前記ピストンロッドに設けられて前記シリンダ内に圧側室を区画する圧側ピストンと、
前記ピストンロッドの前記伸側ピストンと前記圧側ピストンとの間に装着される筒状の電機子と、前記シリンダの外周に設けられて前記電機子に対向する筒状の界磁とを有するリニアモータと、
前記伸側室と前記圧側室とに充填される気体と、
前記電機子に面する冷却通路と、
前記伸側室を前記冷却通路に連通するとともに前記伸側室から前記冷却通路に向かう気体の流れに抵抗を与える伸側制限部と、
前記伸側室を前記冷却通路に連通するとともに前記冷却通路から前記伸側室に向かう気体の流れのみを許容する伸側整流部と、
前記圧側室を前記冷却通路に連通するとともに前記圧側室から前記冷却通路に向かう気体の流れに抵抗を与える圧側制限部と、
前記圧側室を前記冷却通路に連通するとともに前記冷却通路から前記圧側室に向かう気体の流れのみを許容する圧側整流部とを備えた
ことを特徴とする電磁緩衝器。
【請求項2】
前記電機子は、筒状であって外周に複数の環状のスロットを有する筒状のコアと、前記スロットに装着される巻線とを有し、
前記冷却通路は、前記ピストンロッドの外周と前記コアの内周との間の環状の空隙により形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁緩衝器。
【請求項3】
前記コアは、内周に筒状の放熱板を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の電磁緩衝器。
【請求項4】
前記コアは、外周から開口して前記冷却通路に通じる通気孔を有する
ことを特徴とする請求項2または3に記載の電磁緩衝器。
【請求項5】
前記伸側制限部および前記伸側整流部は、前記伸側ピストンに設けた切欠を備えた環状のチェックバルブであって、
前記圧側制限部および前記圧側整流部は、前記圧側ピストンに設けた切欠を備えた環状のチェックバルブである
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の電磁緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁緩衝器は、たとえば、電機子と界磁とでなるリニアモータを備えており、リニアモータが発生する推力を自動車の車体の振動を抑制する減衰力として、或いは、車体の姿勢を制御する制御力として利用する。
【0003】
このような電磁緩衝器では、リニアモータの推力を減衰力或いは制御力として利用するが、リニアモータに推力を発生させるには、電機子に設けられた巻線への通電が必要であり、大きな減衰力を発生させるには巻線に供給する電流量も大きくなる。
【0004】
巻線に与える電流量が大きくなると巻線が発熱して高温となり、電磁緩衝器の内部の温度が高温となると、界磁側の永久磁石が熱減磁によって磁界が弱まってしまい、電磁緩衝器が発生可能な減衰力が低下してしまう恐れがある。
【0005】
そこで、従来の電磁緩衝器では、筒状の固定ヨークの外周に装着される界磁と、界磁の外周に設けた筒状の可動ヨークの内周に設けられた筒状の電機子と、固定ヨークに連結されるとともに可動ヨークの外周に摺接する筒状のケースとを備えており、固定ヨークに対して可動ヨークが相対移動する際に電機子の巻線の内周と外周とに通路を形成し、気体に前記通路を通過させて電機子を放熱させている(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-324934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の電磁緩衝器では、可動ヨークとケースとで閉鎖される空間内の気体が可動ヨークの固定ヨークに対する相対移動時において流動する際に、気体に電機子の巻線の内外周の通路を通過させることにより冷却効果を得ようとしているが、前記通路自体が圧力損失をもたらすものであるために、通路で熱が発生してしまうので、冷却効果が減殺してしまう。十分な冷却効果が得られなければ、巻線の電流量を小さくしなくてはならず、小さな電流でも大きな推力を得るには電磁緩衝器の大型化が避けられない。
【0008】
そこで、本発明は、大きな推力を得つつも、大型化を回避でき、重量およびコストを低減できる電磁緩衝器の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明の電磁緩衝器は、非磁性体のシリンダと、シリンダの内周に移動自在に挿入されるピストンロッドと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッドに設けられてシリンダ内に伸側室を区画する伸側ピストンと、シリンダ内に摺動自在に挿入されるとともに伸側ピストンに対して軸方向に間隔を開けてピストンロッドに設けられてシリンダ内に圧側室を区画する圧側ピストンと、ピストンロッドの伸側ピストンと圧側ピストンとの間に装着される筒状の電機子とシリンダの外周に設けられて電機子に対向する筒状の界磁とを有するリニアモータと、伸側室と圧側室とに充填される気体と、電機子に面する冷却通路と、伸側室を冷却通路に連通するとともに伸側室から冷却通路に向かう気体の流れに抵抗を与える伸側制限部と、伸側室を冷却通路に連通するとともに冷却通路から伸側室に向かう気体の流れのみを許容する伸側整流部と、圧側室を冷却通路に連通するとともに圧側室から冷却通路に向かう気体の流れに抵抗を与える圧側制限部と、圧側室を冷却通路に連通するとともに冷却通路から圧側室に向かう気体の流れのみを許容する圧側整流部とを備えている。
【0010】
このように構成された電磁緩衝器は、伸縮作動時に冷却通路を介して気体が伸側室と圧側室とを行き来する際に、冷却通路内の圧力は必ず伸側室と圧側室のうち低圧側の圧力と等しくなり、伸側室と圧側室のうち高圧側の室から冷却通路内に侵入した気体は膨張して温度が低下するため、冷却通路に面した電機子を効果的に冷却できる。
【0011】
また、電磁緩衝器は、電機子が筒状であって外周に複数の環状のスロットを有する筒状のコアと、スロットに装着される巻線とを有し、冷却通路がピストンロッドの外周とコアの内周との間の環状の空隙により形成されていてもよい。このように構成された電磁緩衝器によれば、コアの内周の全部を温度が低下した気体に暴露できるので、電機子を周方向で偏りなく満遍なく冷却できるとともにコアの構造が簡単となり冷却通路を設けるための加工が不要となる。
【0012】
さらに、電磁緩衝器は、コアが内周に筒状の放熱板を有していてもよく、このように構成されると、冷却通路を通過する気体に放熱板を暴露でき、効率よく巻線およびコアを冷却できる。
【0013】
また、電磁緩衝器は、コアに外周から開口して冷却通路に通じる通気孔が設けられていてもよく、このように構成されると、より効果的に電機子を冷却できるので大推力を得やすくなって、より一層電磁緩衝器の小型化が可能となる。
【0014】
さらに、電磁緩衝器は、伸側制限部および伸側整流部が伸側ピストンに設けた切欠を備えた環状のチェックバルブであって、圧側制限部および圧側整流部が圧側ピストンに設けた切欠を備えた環状のチェックバルブであってもよい。このように構成された電磁緩衝器によれば、伸側制限部および伸側整流部、圧側制限部および圧側整流部がそれぞれ軸方向長さの寸法が短い環状のチェックバルブで構成されるので、電磁緩衝器のストローク長の確保が容易となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の電磁緩衝器によれば、大きな推力を得つつも、大型化を回避でき、重量およびコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施の形態の電磁緩衝器の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。一実施の形態における電磁緩衝器Dは、図1に示すように、非磁性体のシリンダ1と、シリンダ1の内周に移動自在に挿入されるピストンロッド2と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッド2に設けられてシリンダ1内に伸側室R1を区画する伸側ピストン3と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともに伸側ピストン3に対して軸方向に間隔を開けてピストンロッド2に設けられてシリンダ1内に圧側室R2を区画する圧側ピストン4と、ピストンロッド2の伸側ピストン3と圧側ピストン4との間に装着される筒状の電機子Eとシリンダ1の外周に設けられて電機子Eに対向する筒状の界磁Fとを有するリニアモータLMと、伸側室R1と圧側室R2とに充填される気体と、電機子Eに面する冷却通路CPと、伸側制限部ERと、伸側整流部ECと、圧側制限部CRと、圧側整流部CCとを備えている。
【0018】
以下、電磁緩衝器Dの各部について詳細に説明する。シリンダ1は、筒状であって非磁性体で形成されており、シリンダ1の外周にはシリンダ1との間に環状隙間を形成する軟磁性体で形成された筒状のバックヨーク9が設けられている。バックヨーク9の図1中上端には、シリンダ1の図1中上端に嵌合する環状のロッドガイド5が装着されており、バックヨーク9の図1中下端にはシリンダ1の図1中下端に嵌合するキャップ6が装着されている。なお、キャップ6には、車両への装着を可能とするブラケット6aが設けられている。
【0019】
ピストンロッド2は、ロッドガイド5の内周に挿通されてシリンダ1内に移動自在に挿入されており、外周には伸側ピストン3、電機子Eおよび圧側ピストン4が装着されている。なお、図示はしないが、ピストンロッド2の基端である図1中上端には、車両への装着を可能とするブラケットが設けられる。また、ロッドガイド5の内周には、シール部材5aが設けられており、シリンダ1内が気密に密封されている。
【0020】
伸側ピストン3と圧側ピストン4は、ピストンロッド2の外周に軸方向に間隔を開けて取り付けられており、電機子Eは、ピストンロッド2の外周であって伸側ピストン3と圧側ピストン4との間に両者に当接した状態で取り付けられている。
【0021】
伸側ピストン3は、環状であって、前述のようにピストンロッド2に取付けられてシリンダ1内に摺動自在に挿入されており、シリンダ1内の図1中上方に伸側室R1を区画している。また、本実施の形態では、圧側ピストン4は、環状であって、前述のようにピストンロッド2に取付けられてシリンダ1内に摺動自在に挿入されており、シリンダ1内の図1中下方に圧側室R2を区画している。伸側室R1と圧側室R2には、気体が充填されている。気体は、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボンやパーフルオロカーボン等といった冷媒として利用される気体を利用するとよいが、それ以外の気体を利用してもよい。
【0022】
伸側ピストン3は、外周にシリンダ1に摺接するピストンリング3aと、電機子側端に設けられた環状凸部3bと、図1中上端である伸側室側端から開口して環状凸部3bの図1中下端である電機子側端へ通じる複数の貫通孔3cと、伸側室側端に設けられて貫通孔3cの出口端を取り囲む環状弁座3dとを備えている。そして、伸側ピストン3の伸側室側端には、環状弁座3dに離着座して貫通孔3cの出口端を開閉する環状板でなるチェックバルブ7が設けられている。チェックバルブ7は、外周にオリフィスとして機能する切欠7aを備えていて内周側が固定端とされて外周側の撓みが許容されており、環状弁座3dに着座する状態では貫通孔3cを閉じて切欠7aのみで伸側室R1と貫通孔3cとを連通させ、撓んで環状弁座3dから離座すると貫通孔3cの出口端を開くようになっている。よって、チェックバルブ7は、伸側室R1から貫通孔3c側へ向かう気体の流れに対しては、切欠7aを有効にして気体の流れに抵抗を与え、貫通孔3cから伸側室R1へ向かう気体の流れに対してはほとんど抵抗を与えずにこれを許容する。よって、本実施の形態では、伸側制限部ERは、チェックバルブ7の切欠7aによって構成されており、伸側整流部ECは、チェックバルブ7によって構成されている。伸側制限部ERと伸側整流部ECの構成は、前述したところに限定されるものではないが、一つの環状板でなり軸方向寸法の短いチェックバルブ7に伸側制限部ERと伸側整流部ECを集約すれば、電磁緩衝器Dのストローク長を確保するのが容易となる利点がある。
【0023】
圧側ピストン4は、外周にシリンダ1に摺接するピストンリング4aと、電機子側端に設けられた環状凸部4bと、図1中下端である圧側室側端から開口して環状凸部4bの図1中上端である電機子側端へ通じる複数の貫通孔4cと、圧側室側端に設けられて貫通孔4cの出口端を取り囲む環状弁座4dとを備えている。そして、圧側ピストン4の圧側室側端には、環状弁座4dに離着座して貫通孔4cの出口端を開閉する環状板でなるチェックバルブ8が設けられている。チェックバルブ8は、外周にオリフィスとして機能する切欠8aを備えていて内周側が固定端とされて外周側の撓みが許容されており、環状弁座4dに着座する状態では貫通孔4cを閉じて切欠8aのみで圧側室R2と貫通孔4cとを連通させ、撓んで環状弁座4dから離座すると貫通孔4cの出口端を開くようになっている。よって、チェックバルブ8は、圧側室R2から貫通孔4c側へ向かう気体の流れに対しては、切欠8aを有効にして気体の流れに抵抗を与え、貫通孔4cから圧側室R2へ向かう気体の流れに対してはほとんど抵抗を与えずにこれを許容する。よって、本実施の形態では、圧側制限部CRは、チェックバルブ8の切欠8aによって構成されており、圧側整流部CCは、チェックバルブ8によって構成されている。圧側制限部CRと圧側整流部CCの構成は、前述したところに限定されるものではないが、一つの環状板でなり軸方向寸法の短いチェックバルブ8に圧側制限部CRと圧側整流部CCを集約すれば、電磁緩衝器Dのストローク長を確保するのが容易となる利点がある。
【0024】
電機子Eは、ピストンロッド2の外周に配置される筒状の鉄製のコア11と、コア11の外周に軸方向に所定ピッチで並べて設けられた環状溝でなるスロット11a内に装着される巻線12とを備えて構成されている。なお、スロット11aに装着される巻線12は、U相、V相およびW相の三相巻線とされている。コア11の外周とシリンダ1の内周との間には、環状の空隙が設けられており、コア11とシリンダ1とが直接干渉しないように配慮されている。
【0025】
また、コア11は、内周に銅などの熱伝導率の高い金属で形成された筒状の放熱板11bを備えている。コア11の最小内径である放熱板11bの内径は、ピストンロッド2の外径よりも大径であって、コア11の内周とピストンロッド2の外周との間には環状の空隙が形成されており、この環状の空隙で冷却通路CPが設けられている。コア11は、伸側ピストン3の環状凸部3bと圧側ピストン4の環状凸部4bに嵌合して、伸側ピストン3と圧側ピストン4とで挟持されつつ径方向に位置決めされてピストンロッド2に固定される。貫通孔3cおよび貫通孔4cは、環状凸部3b,4bの電機子側端に開口しているので、それぞれ冷却通路CPに通じており、貫通孔3c,4cおよび冷却通路CPによって伸側室R1と圧側室R2とが連通されている。
【0026】
また、コア11は、外周から放熱板11bの内周にまで開口する複数の通気孔11cが設けられており、冷却通路CPとシリンダ1とコア11との間の空隙とが通気孔11cによって連通されている。
【0027】
つづいて、シリンダ1の外周には、複数の環状の永久磁石10a,10bが積層されて装着されており、これら永久磁石10a,10bは、シリンダ1とバックヨーク9との間の環状隙間内に収容されている。そして、本実施の形態では、永久磁石10a,10bとバックヨーク9とでシリンダ1の内周側に交互にS極とN極の磁界を作用させる界磁Fを構成している。シリンダ1は非磁性体で構成されているので、界磁Fが発生する磁界は、シリンダ1を透過してシリンダ1内へ作用できる。
【0028】
また、本実施の形態では、主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bは、ハルバッハ配列にてシリンダ1の内周側に軸方向でS極とN極が交互に現れるように積層されている。図1中で主磁極の永久磁石10aと副磁極の永久磁石10bに記載されている三角の印は、着磁方向を示しており、主磁極の永久磁石10aの着磁方向は径方向となっており、副磁極の永久磁石10bの着磁方向は軸方向となっている。なお、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さは、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さよりも長くなっており、電機子Eにおけるコア11と主磁極の永久磁石10aとの間の磁気抵抗を小さくできコア11へ作用させる磁界を大きくできるのでリニアモータLMの推力を向上できる。なお、永久磁石10a,10bは、シリンダ1の内周側に軸方向でS極とN極が交互に現れるように磁界を作用させればよいので、ハルバッハ配列で配列されていなくともよい。その場合には、永久磁石10a,10bは、ともに軸方向長さが等しく、互いに内周に異なる磁極を備えていればよく、交互に積層されればよい。
【0029】
バックヨーク9は、副磁極の永久磁石10bの軸方向長さを短くしても磁気抵抗の低い磁路を確保できるため、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さを長くする際のリニアモータLMの推力を効果的に向上できる。より詳しくは、永久磁石10a,10bの外周にバックヨーク9を設けると、磁気抵抗の低い磁路を確保できるので副磁極の永久磁石10bの軸方向長さの短縮に起因する磁気抵抗の増大が抑制される。よって、主磁極の永久磁石10aの軸方向長さを副磁極の永久磁石10bの軸方向長さよりも長くするとともに永久磁石10a,10bの外周に筒状のバックヨーク9を設けるとリニアモータLMの推力を大きく向上させ得る。バックヨーク9の肉厚は、主磁極の永久磁石10aの外部磁気抵抗の増大を抑制に適する肉厚に設定されればよい。バックヨーク9は、永久磁石10a,10bがハルバッハ配列とされていない場合でも磁気抵抗の低い磁路を確保できるのでリニアモータLMの推力を向上させ得る。
【0030】
本実施の形態では、バックヨーク9は、電磁緩衝器Dのアウターシェルとしても機能しており、永久磁石10a,10bの保護と軸力や横力を受ける強度部材としての役割も果たしている。バックヨーク9を設けると磁気抵抗の増大を抑制できるが、バックヨーク9の省略も可能であり、バックヨーク9を省略する場合、永久磁石10a,10bの外周にバックヨークとしては機能しないが永久磁石10a,10bの保護と強度部材としての機能を発揮する筒を設けると良い。
【0031】
電磁緩衝器Dは、以上のように構成され、以下、その作動について説明する。電磁緩衝器Dが伸長作動する場合、ピストンロッド2がシリンダ1に対して図1中上方へ移動して、伸側ピストン3の変位によって伸側室R1が縮小されるとともに圧側ピストン4の変位によって圧側室R2が拡大される。すると、伸側整流部ECであるチェックバルブ7が閉じて伸側制限部ERである切欠7aのみを介して伸側室R1と冷却通路CPとが連通される。よって、縮小される伸側室R1から切欠7aおよび冷却通路CPを通過して気体は、圧側整流部CCであるチェックバルブ8を開いて圧側室R2へ移動する。
【0032】
ここで、電磁緩衝器Dの伸長作動時には、伸側室R1内の圧力は、気体が伸側制限部ERである切欠7aを通過する際に発生する圧力損失によって上昇する。ところが、冷却通路CPは、圧側整流部CCを通じて圧側室R2に連通されており、冷却通路CP内の圧力は電磁緩衝器Dの伸長作動によって拡大する圧側室R2内の圧力と殆ど同じ圧力となる。よって、電磁緩衝器Dが伸長作動する際に、伸側制限部ERである切欠7aを通過するまでの気体の圧力は高圧となっており、伸側制限部ERである切欠7aを通過して冷却通路CPに至った気体の圧力は低圧となる。このように気体が伸側制限部ERを通過して冷却通路CPへ至ると、気体の圧力が一気に低下して気体の体積が膨張するために気体温度が低下する。よって、冷却通路CP内の温度が低下し、気体の温度低下によって冷却通路CPに面する電機子Eを冷却できる。
【0033】
また、電磁緩衝器が収縮作動する場合、ピストンロッド2がシリンダ1に対して図1中下方へ移動して、圧側ピストン4の変位によって圧側室R2が縮小されるとともに伸側ピストン3の変位によって伸側室R1が拡大される。すると、圧側整流部CCであるチェックバルブ8が閉じて圧側制限部CRである切欠8aのみを介して圧側室R2と冷却通路CPとが連通される。よって、縮小される圧側室R2から切欠8aおよび冷却通路CPを通過して気体は、伸側整流部ECであるチェックバルブ7を開いて伸側室R1へ移動する。ここで、電磁緩衝器Dの収縮作動時には、圧側室R2内の圧力は、気体が圧側制限部CRである切欠8aを通過する際に発生する圧力損失によって上昇する。ところが、冷却通路CPは、伸側整流部ECを通じて伸側室R1に連通されており、冷却通路CP内の圧力は電磁緩衝器Dの収縮作動によって拡大する伸側室R1内の圧力と殆ど同じ圧力となる。よって、電磁緩衝器Dが収縮作動する際に、圧側制限部CRである切欠8aを通過するまでの気体の圧力は高圧となっており、圧側制限部CRである切欠8aを通過して冷却通路CPに至った気体の圧力は低圧となる。このように気体が圧側制限部CRを通過して冷却通路CPへ至ると、気体の圧力が一気に低下して気体の体積が膨張するために気体温度が低下する。よって、冷却通路CP内の温度が低下し、気体の温度低下によって冷却通路CPに面する電機子Eを冷却できる。
【0034】
なお、電磁緩衝器Dの伸縮作動によって、伸側室R1内の圧力と圧側室R2の圧力に差が生じるので、電磁緩衝器Dの伸縮作動を妨げる減衰力が発生する。また、電磁緩衝器Dは、リニアモータLMを備えているので、リニアモータLMが発生する推力を伸縮作動を抑制する減衰力として利用してダンパとして機能できるとともに、リニアモータLMの推力で積極的に伸縮してクチュエータとしても機能できる。
【0035】
このように、本発明の電磁緩衝器Dは、非磁性体のシリンダ1と、シリンダ1の内周に移動自在に挿入されるピストンロッド2と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともにピストンロッド2に設けられてシリンダ1内に伸側室R1を区画する伸側ピストン3と、シリンダ1内に摺動自在に挿入されるとともに伸側ピストン3に対して軸方向に間隔を開けてピストンロッド2に設けられてシリンダ1内に圧側室R2を区画する圧側ピストン4と、ピストンロッド2の伸側ピストン3と圧側ピストン4との間に装着される筒状の電機子Eとシリンダ1の外周に設けられて電機子Eに対向する筒状の界磁Fとを有するリニアモータLMと、伸側室R1と圧側室R2とに充填される気体と、電機子Eに面する冷却通路CPと、伸側室R1を冷却通路CPに連通するとともに伸側室R1から冷却通路CPに向かう気体の流れに抵抗を与える伸側制限部ERと、伸側室R1を冷却通路CPに連通するとともに冷却通路CPから伸側室R1に向かう気体の流れのみを許容する伸側整流部ECと、圧側室R2を冷却通路CPに連通するとともに圧側室R2から冷却通路CPに向かう気体の流れに抵抗を与える圧側制限部CRと、圧側室R2を冷却通路CPに連通するとともに冷却通路CPから圧側室R2に向かう気体の流れのみを許容する圧側整流部CCとを備えている。
【0036】
このように構成された電磁緩衝器Dは、伸縮作動時に冷却通路CPを介して気体が伸側室R1と圧側室R2とを行き来する際に、冷却通路CP内の圧力は必ず伸側室R1と圧側室R2のうち低圧側の圧力と等しくなり、伸側室R1と圧側室R2のうち高圧側の室から冷却通路CP内に侵入した気体は膨張して温度が低下するため、冷却通路CPに面した電機子Eを効果的に冷却できる。
【0037】
このように本発明の電磁緩衝器Dでは、伸縮作動時に電機子Eを十分に冷却できるので、巻線12に与える電流量を小さく制限する必要がなくなり、小型でも大推力を発揮できるようになる。したがって、本発明の電磁緩衝器Dによれば、大きな推力を得つつも、大型化を回避でき、重量およびコストを低減できる。
【0038】
また、本実施の形態の電磁緩衝器Dでは、電機子Eは筒状であって外周に複数の環状のスロット11aを有する筒状のコア11と、スロット11aに装着される巻線12とを有し、冷却通路CPがピストンロッド2の外周とコア11の内周との間の環状の空隙により形成されている。このように構成された電磁緩衝器Dでは、冷却通路CPがコア11の内周の環状の空隙によって形成されるので、コア11の内周の全部を温度が低下した気体に暴露できるので、電機子Eを周方向で偏りなく満遍なく冷却できる。なお、冷却通路CPは、ピストンロッド2とコア11との間の環状の空隙で形成される以外にもコア11の内部に設けられてもよいが、冷却通路CPをピストンロッド2とコア11との間の環状の空隙で形成すると、電機子Eを偏りなく冷却できるとともにコア11の構造が簡単となり冷却通路CPを設けるための加工が不要となるという利点もある。
【0039】
さらに、本実施の形態の電磁緩衝器Dでは、コア11が内周に筒状の放熱板11bを有しているので、冷却通路CPを通過する気体に放熱板11bを暴露でき、効率よく巻線12およびコア11を冷却できる。
【0040】
また、本実施の形態の電磁緩衝器Dでは、コア11に外周から開口して冷却通路CPに通じる通気孔11cが設けられている。通気孔11cを介して冷却通路CPと電機子Eとシリンダ1との間の環状の空隙とが連通されるので、電機子Eの外周にも温度が低下した気体が回り込んで発熱する巻線12を直接に気体に暴露できる。よって、本実施の形態の電磁緩衝器Dによれば、より効果的に電機子Eを冷却できるので大推力を得やすくなって、より一層電磁緩衝器Dの小型化が可能となる。
【0041】
さらに、本実施の形態の電磁緩衝器Dでは、伸側制限部ERおよび伸側整流部ECは伸側ピストン3に設けた切欠7aを備えた環状のチェックバルブ7であって、圧側制限部CRおよび圧側整流部CCは、圧側ピストン4に設けた切欠8aを備えた環状のチェックバルブ8とされている。このように構成された電磁緩衝器Dによれば、伸側制限部ERおよび伸側整流部EC、圧側制限部CRおよび圧側整流部CCがそれぞれ軸方向長さの寸法が短い環状のチェックバルブ7,8で構成されるので、電磁緩衝器Dのストローク長の確保が容易となる。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形、および変更が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1・・・シリンダ、2・・・ピストンロッド、3・・・伸側ピストン、4・・・圧側ピストン、7・・・チェックバルブ(伸側整流部)、8・・・チェックバルブ(圧側整流部)、7a・・・切欠(伸側制限部)、8a・・・切欠(圧側制限部)、9・・・バックヨーク、10a,10b・・・永久磁石、11・・・コア、11a・・・スロット、11b・・・放熱板、11c・・・通気孔、12・・・巻線、CC・・・圧側整流部、CP・・・冷却通路、CR・・・圧側制限部、D・・・電磁緩衝器、E・・・電機子、EC・・・伸側整流部、ER・・・伸側制限部、F・・・界磁、LM・・・リニアモータ、R1・・・伸側室、R2・・・圧側室
図1