(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置の予圧検査方法
(51)【国際特許分類】
G01M 13/04 20190101AFI20220330BHJP
B60B 35/14 20060101ALI20220330BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20220330BHJP
F16C 25/08 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
G01M13/04
B60B35/14 V
F16C19/18
F16C25/08 Z
(21)【出願番号】P 2019175939
(22)【出願日】2019-09-26
【審査請求日】2021-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田窪 孝康
(72)【発明者】
【氏名】小畑 卓也
(72)【発明者】
【氏名】小和田 貴之
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-044319(JP,A)
【文献】特開2017-106520(JP,A)
【文献】特開2011-112184(JP,A)
【文献】特開2007-211946(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0177509(US,A1)
【文献】米国特許第06343420(US,B1)
【文献】米国特許第04165636(US,A)
【文献】特開2018-165566(JP,A)
【文献】特許第6551634(JP,B1)
【文献】中国特許出願公開第1948775(CN,A)
【文献】独国実用新案第202014104737(DE,U1)
【文献】特開2006-300086(JP,A)
【文献】特開平10-185717(JP,A)
【文献】特開2000-009562(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56
G01M 13/04-13/045
G01L 5/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複列の外側軌道面を有する外方部材と、
ハブ輪及び当該ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなる複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置の予圧検査方法であって、
前記外方部材又は前記内方部材を相対的に回転させて
複数の回転速度における仕事率を算出する仕事率算出工程と、
前記仕事率算出工程で算出された仕事率
のうちの二つの仕事率の差分に基づいて予圧荷重値を算出する予圧荷重値算出工程と、
前記予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値が許容範囲内に収まるか否かによって合否を判定する合否判定工程と、を備えている、ことを特徴とする車輪用軸受装置の予圧検査方法。
【請求項2】
前記予圧荷重値算出工程は、予め定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」に対して仕事率の差分を当てはめて相当する予圧荷重値を算出する、ことを特徴とする請求項
1に記載の車輪用軸受装置の予圧検査方法。
【請求項3】
前記予圧荷重値算出工程は、予め定めた「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」に対して仕事率の差分に対する逆数を当てはめて相当する予圧荷重値を算出する、ことを特徴とする請求項
1に記載の車輪用軸受装置の予圧検査方法。
【請求項4】
前記車輪用軸受装置の内部隙間に基づいて予圧荷重値を算出する別途の予圧荷重値算出工程を備え、
前記合否判定工程は、前記予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値が前記別途の予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値を
中心とした許容範囲内に収まるか否かによって合否を判定する、ことを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置の予圧検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置の予圧検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている(特許文献1参照)。車輪用軸受装置は、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの軌道面間に転動体が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としている。
【0003】
このような転がり軸受構造は、ガタつきを抑えつつも滑らかな回転を可能とすべく内部隙間が許容範囲内に収められている。内部隙間とは、外方部材と内方部材の相対的な軸方向可動量と定義できる。この点、車輪用軸受装置においては、内部隙間がマイナスの値とされ、転動体に予圧荷重が掛かった状態となっている。そのため、車輪の回転に対して抵抗を生じるのである。
【0004】
ところで、特許文献1には、車輪用軸受装置の予圧検査方法が記載されている。かかる予圧検査方法によれば、転動体に掛かっている予圧荷重値を算出することができる。しかしながら、近年においては、車両に対する低燃費化の要求が高まっており、より高精度に予圧荷重値を算出できる予圧検査方法が求められていた。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定が可能となる予圧検査方法が求められていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
より高精度に予圧荷重値を算出できる予圧検査方法を提供する。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定が可能となる予圧検査方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、
複列の外側軌道面を有する外方部材と、
ハブ輪及び当該ハブ輪の小径段部に圧入された内輪からなる複列の内側軌道面を有する内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの軌道面間に介装される複列の転動体と、を備えた車輪用軸受装置の予圧検査方法であって、
前記外方部材又は前記内方部材を相対的に回転させて仕事率を算出する仕事率算出工程と、
前記仕事率算出工程で算出された仕事率に基づいて予圧荷重値を算出する予圧荷重値算出工程と、
前記予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値が許容範囲内に収まるか否かによって合否を判定する合否判定工程と、を備えている、ものである。
【0008】
第二の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、
前記仕事率算出工程は、複数の回転速度における仕事率を算出し、
前記予圧荷重値算出工程は、そのうちの二つの仕事率の差分に基づいて予圧荷重値を算出する、ものである。
【0009】
第三の発明は、第二の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、
前記予圧荷重値算出工程は、予め定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」に対して仕事率の差分を当てはめて相当する予圧荷重値を算出する、ものである。
【0010】
第四の発明は、第二の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、
前記予圧荷重値算出工程は、予め定めた「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」に対して仕事率の差分に対する逆数を当てはめて相当する予圧荷重値を算出する、ものである。
【0011】
第五の発明は、第一から第四の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、
前記車輪用軸受装置の内部隙間に基づいて予圧荷重値を算出する別途の予圧荷重値算出工程を備え、
前記合否判定工程は、前記予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値が前記別途の予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値を含む許容範囲内に収まるか否かによって合否を判定する、ものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
第一の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法は、外方部材又は内方部材を相対的に回転させて仕事率を算出する仕事率算出工程と、仕事率算出工程で算出された仕事率に基づいて予圧荷重値を算出する予圧荷重値算出工程と、予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値が許容範囲内に収まるか否かによって合否を判定する合否判定工程と、を備えている。かかる車輪用軸受装置の予圧検査方法によれば、組立過程における各工程を跨がずに予圧荷重値を算出することができるので、組立過程の進捗や環境の変化などによる影響を受けにくくなり、より高精度に予圧荷重値を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0014】
第二の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、仕事率算出工程は、複数の回転速度における仕事率を算出する。また、予圧荷重値算出工程は、そのうちの二つの仕事率の差分に基づいて予圧荷重値を算出する。かかる車輪用軸受装置の予圧検査方法によれば、グリース量などによる個体差の影響を受けにくくなり、より高精度に予圧荷重値を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0015】
第三の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、予圧荷重値算出工程は、予め定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」に対して仕事率の差分を当てはめて相当する予圧荷重値を算出する。かかる車輪用軸受装置の予圧検査方法によれば、実績と経験に基づいて定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」を利用するので、より高精度に予圧荷重値を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0016】
第四の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、予圧荷重値算出工程は、予め定めた「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」に対して仕事率の差分に対する逆数を当てはめて相当する予圧荷重値を算出する。かかる車輪用軸受装置の予圧検査方法によれば、実績と経験に基づいて定めた「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」を利用するので、より高精度に予圧荷重値を算出することが可能となる。また、仕事率を算出する際の回転速度差が小さい場合であっても、より高精度に予圧荷重値を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0017】
第五の発明に係る車輪用軸受装置の予圧検査方法において、合否判定工程は、予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値が別途の予圧荷重値算出工程で算出された予圧荷重値を含む許容範囲内に収まるか否かによって合否を判定する。かかる車輪用軸受装置の予圧検査方法によれば、仕事率を用いる新たな手法で算出された予圧荷重値が内部隙間を用いる従来からあって信頼のおける手法で算出された予圧荷重値を含む許容範囲内に収まるか否かによって合否を判定するので、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図3】ハブ輪の小径段部に内輪を圧入する状況を示す図。
【
図4】小径段部の先端部分を押し広げて内輪を加締める状況を示す図。
【
図5】内輪と車輪取付フランジの対向距離を測定する状況を示す図。
【
図7】外方部材又は内方部材を相対的に回転させて仕事率を算出する状況を示す図。
【
図9】仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係を示す図。
【
図10】環状空間の開口端にインナー側シール部材を圧入する状況を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
まず、
図1を用いて、車輪用軸受装置1の構造について説明する。
【0020】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動体4・5と、を備えている。なお、本願において、「インナー側」とは、車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、「径方向外側」とは、内方部材3の回転軸Aから遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材3の回転軸Aに近づく方向を表す。更に、「軸方向」とは、回転軸Aに沿う方向を表す。
【0021】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における内周には、嵌合面2bが形成されている。更に、外方部材2の軸方向中央部における内周には、二つの外側軌道面2c・2dが形成されている。加えて、外方部材2には、その外周面から径方向外側へ広がる車体取付フランジ2eが形成されている。車体取付フランジ2eには、複数のボルト穴2fが設けられている。
【0022】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
【0023】
ハブ輪31は、外方部材2の内側に配置される。ハブ輪31のインナー側端部における外周には、軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周面が回転軸Aを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31には、そのインナー側端部からアウター側端部まで貫かれたスプライン穴3bが形成されている。更に、ハブ輪31の軸方向中央部における外周には、内側軌道面3dが形成されている。加えて、ハブ輪31には、その外周面から径方向外側へ広がる車輪取付フランジ3eが形成されている。車輪取付フランジ3eには、回転軸Aを中心に複数のボルト穴3fが設けられており、それぞれのボルト穴3fにハブボルト33が圧入されている。
【0024】
内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに圧入される。内輪32のインナー側端部における外周には、嵌合面3gが形成されている。また、嵌合面3gに隣接する外周には、内側軌道面3cが形成されている。これにより、ハブ輪31の外周に内側軌道面3cを構成している。なお、内輪32は、小径段部3aの先端部分を押し広げた加締部3hによって固定される。また、加締部3hを有しないものも存在する。
【0025】
転動体4・5は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。転動体4・5は、いわゆる鋼球であって、それぞれが保持器によって円周上に等間隔にならべられている。インナー側の転動体4は、外方部材2の外側軌道面2cと内輪32の内側軌道面3cの間に介装されている。また、アウター側の転動体5は、外方部材2の外側軌道面2dとハブ輪31の内側軌道面3dの間に介装されている。なお、本車輪用軸受装置1において、転動体4・5は、それぞれ球形状であるが、円錐形状であってもよい。
【0026】
ところで、本車輪用軸受装置1は、インナー側シール部材6とアウター側シール部材7を備えている。インナー側シール部材6は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪31及び内輪32)の間に形成された環状空間Sのインナー側開口端を密封する。アウター側シール部材7は、外方部材2と内方部材3(ハブ輪31及び内輪32)の間に形成された環状空間Sのアウター側開口端を密封する。なお、これらのシール部材6・7は、様々な仕様が存在しており、これらの仕様について限定するものではない。また、インナー側シール部材6の代わりにキャップが圧入されるものも存在する。
【0027】
次に、
図2から
図10を用いて、車輪用軸受装置1の組立過程について説明する。
【0028】
以下においては、車輪用軸受装置1が基台8に載置されているものとする。基台8には、ハブ輪31のパイロット部を収容する凹部8aが形成されており、その周囲に複数のノックピン8bが打ち込まれている。そのため、車輪用軸受装置1は、車輪取付フランジ3eの各ボルト穴3fにノックピン8bが挿通された状態で上向きに支持・固定される。
【0029】
内輪圧入工程S1は、ハブ輪31の小径段部3aに内輪32を圧入する工程である(
図3参照)。内輪圧入工程S1においては、圧入装置9を用いて荷重を掛けることにより、内輪32を小径段部3aの所定位置まで圧入する(仮圧入)。そして、外方部材2と内方部材3の相対的な軸方向可動量を測定する。最後に、この軸方向可動量に基づいて内輪32を小径段部3aの所定位置まで圧入する(本圧入)。こうすることで、内部隙間が適宜な値となり、転動体4・5に適宜な予圧荷重が掛かった状態となるのである。
【0030】
内輪加締工程S2は、小径段部3aの先端部分を押し広げて内輪32を加締める工程である(
図4参照)。内輪加締工程S2においては、加締装置10を用いて荷重を掛けることにより、小径段部3aの先端部分を押し広げる。加締装置10は、傾倒角αを維持したままで回転するので、小径段部3aの先端部分を周方向に移動しながら連続的に押圧することができる。また、加締装置10は、その押圧面10aが湾曲しているので、かかる押圧面10aが転写されたような形の加締部3hを形成することができる。
【0031】
内部隙間測定工程S3は、車輪用軸受装置1の外観形状に基づいて内部隙間を測定する工程である(
図5参照)。内部隙間測定工程S3においては、測定装置(図示せず)を用いて内輪32のインナー側端面3iから車輪取付フランジ3eのアウター側端面3jまでを挟み込むことにより、両端面3i・3jの対向距離Dを測定する。対向距離Dは、当然に内部隙間と相関性があることから、対向距離Dを測定することは、内部隙間を測定することに等しい。こうして、結果的に内部隙間Cを測定することができる(
図6参照)。
【0032】
第一の予圧荷重値算出工程S4は、内部隙間に基づいて予圧荷重値F1を算出する工程である。予圧荷重値算出工程S4においては、実績と経験に基づいて定めた「内部隙間と予圧荷重値の関係」を利用する(
図6参照)。「内部隙間と予圧荷重値の関係」は、縦軸が内部隙間に相当し、横軸が予圧荷重値に相当するグラフによって表されている。そして、かかるグラフに対して内部隙間測定工程S3にて得られた内部隙間Cを当てはめることにより、相当する予圧荷重値F1を算出するのである。なお、「内部隙間と予圧荷重値の関係」は、車輪用軸受装置1の仕様などにより、それぞれ異なるものとなる。
【0033】
仕事率算出工程S5は、外方部材2又は内方部材3を相対的に回転させて仕事率を算出する工程である(
図7参照)。仕事率算出工程S5においては、支持装置11を用いて外方部材2を止めた状態で内方部材3を回転させることにより、環状空間Sに封入されているグリースをなじませる。そして、所定の回転速度とした状態で仕事Lを算出する(下記の数式1参照)。最後に、この仕事Lに基づいて仕事率Pを算出する(下記の数式2参照)。なお、本実施形態においては、任意に定めた1rpmと10rpmの二つの回転速度でそれぞれの仕事率P1・P2を算出する。これは、グリース量などによる個体差の影響を低減すべく変化量(仕事率P1・P2の差分ΔP)を利用するためである。
数式1:仕事L=F×S=F×2πRN=2πRFN=2πTN
数式2:仕事率P=2πTN/60
(F:接線荷重 S:移動距離 R:回転半径 N:回転速度 T:回転トルク)
【0034】
第二の予圧荷重値算出工程S6は、仕事率P1・P2の差分ΔPに基づいて予圧荷重値F2を算出する工程である。予圧荷重値算出工程S6においては、実績と経験に基づいて定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」を利用する(
図8参照)。「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」は、縦軸が仕事率の差分に相当し、横軸が予圧荷重値に相当するグラフによって表されている。そして、かかるグラフに対して仕事率算出工程S5にて得られた仕事率P1・P2の差分ΔPを当てはめることにより、相当する予圧荷重値F2を算出するのである。なお、「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」は、車輪用軸受装置1の仕様などにより、それぞれ異なるものとなる。また、三つ以上の回転速度における仕事率P1・P2・・・を算出し、組み合わせごとの差分ΔP・・・に基づいて予圧荷重値F2・・・を算出するとしてもよい。この場合は、予圧荷重値F2・・・の平均値をとることで、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。
【0035】
この点、第二の予圧荷重値算出工程S6は、以下のようにすることも可能である。即ち、予圧荷重値算出工程S6においては、実績と経験に基づいて定めた「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」を利用する(
図9参照)。そして、かかるグラフに対して仕事率算出工程S5にて得られた仕事率P1・P2の差分ΔPに対する逆数を当てはめることにより、相当する予圧荷重値F2を算出するのである。このようにすれば、仕事率P1・P2を算出する際の回転速度差が小さい場合に(差分ΔPが小さい場合に)曲線の傾きが大きくなるので、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。なお、「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」も、車輪用軸受装置1の仕様などにより、それぞれ異なるものとなる。また、三つ以上の回転速度における仕事率P1・P2・・・を算出し、組み合わせごとの差分ΔP・・・に対する逆数に基づいて予圧荷重値F2・・・を算出するとしてもよい。この場合は、予圧荷重値F2・・・の平均値をとることで、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。
【0036】
合否判定工程S7は、予圧荷重値F1及び予圧荷重値F2を利用して合否を判定する工程である。合否判定工程S7においては、実績と経験に基づいて定めた許容差から予圧荷重値F1を含む許容範囲Rを決定する(
図8及び
図9参照)。本実施形態においては、予圧荷重値F1を中心とした許容下限値R1と許容上限値R2の間を許容範囲Rとしている。そして、予圧荷重値F2が許容範囲Rに収まる場合は、車輪用軸受装置1の予圧状態について合格であると判定する。反対に、予圧荷重値F2が許容範囲Rに収まらない場合は、車輪用軸受装置1の予圧状態について不合格であると判定する。
【0037】
インナー側シール部材圧入工程S8は、環状空間Sの開口端にインナー側シール部材6を圧入する工程である(
図10参照)。インナー側シール部材圧入工程S8においては、圧入装置12を用いて荷重を掛けることにより、インナー側シール部材6をインナー側開口端の入口部分に圧入する。このように、仕事率算出工程S5などの後にインナー側シール部材圧入工程S8を設けたのは、仕事率P1・P2を算出する際にインナー側シール部材6による抵抗が付加されないよう考慮したものである。仮に仕事率算出工程S5などの前にインナー側シール部材圧入工程S8を設ける場合は、インナー側シール部材6による抵抗を差し引いて仕事率P1・P2を算出しなければならない。
【0038】
この点、本実施形態のように、仕事率算出工程S5などの後にインナー側シール部材圧入工程S8を設けた場合は、インナー側シール部材6による抵抗を付加することで、完成状態における車輪用軸受装置1(インナー側シール部材6が圧入された車輪用軸受装置1)の仕事率P1・P2を算出することができる。これは、前述した「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」或いは「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」に対し、インナー側シール部材6のみの「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」或いは「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」を足し合わせて補正することで、同様に算出できる。なお、インナー側シール部材6のみの「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」或いは「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」は、インナー側シール部材6の仕様などにより、それぞれ異なるものとなる。
【0039】
以下に、本願に開示した技術的思想とその効果についてまとめる。
【0040】
本実施形態に係る車輪用軸受装置1の予圧検査方法は、外方部材2又は内方部材3を相対的に回転させて仕事率P1・P2を算出する仕事率算出工程S5と、仕事率算出工程S5で算出された仕事率P1・P2に基づいて予圧荷重値F2を算出する予圧荷重値算出工程S6と、予圧荷重値算出工程S6で算出された予圧荷重値F2が許容範囲R内に収まるか否かによって合否を判定する合否判定工程S7と、を備えている。かかる車輪用軸受装置1の予圧検査方法によれば、組立過程における各工程を跨がずに予圧荷重値F2を算出することができるので、組立過程の進捗や環境の変化などによる影響を受けにくくなり、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0041】
更に、本実施形態に係る車輪用軸受装置1の予圧検査方法において、仕事率算出工程S5は、複数の回転速度における仕事率P1・P2を算出する。また、予圧荷重値算出工程S6は、そのうちの二つの仕事率P1・P2の差分ΔPに基づいて予圧荷重値F2を算出する。かかる車輪用軸受装置1の予圧検査方法によれば、グリース量などによる個体差の影響を受けにくくなり、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0042】
更に、本実施形態に係る車輪用軸受装置1の予圧検査方法において、予圧荷重値算出工程S6は、予め定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」に対して仕事率P1・P2の差分ΔPを当てはめて相当する予圧荷重値F2を算出する。かかる車輪用軸受装置1の予圧検査方法によれば、実績と経験に基づいて定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」を利用するので、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0043】
更に、本実施形態に係る車輪用軸受装置1の予圧検査方法において、予圧荷重値算出工程S6は、予め定めた「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」に対して仕事率P1・P2の差分ΔPに対する逆数を当てはめて相当する予圧荷重値F2を算出する。かかる車輪用軸受装置1の予圧検査方法によれば、実績と経験に基づいて定めた「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」を利用するので、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。また、仕事率P1・P2を算出する際の回転速度差が小さい場合であっても、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。ひいては、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0044】
更に、本実施形態に係る車輪用軸受装置1の予圧検査方法において、合否判定工程S7は、予圧荷重値算出工程S6で算出された予圧荷重値F2が別途の予圧荷重値算出工程S4で算出された予圧荷重値F1を含む許容範囲R内に収まるか否かによって合否を判定する。かかる車輪用軸受装置1の予圧検査方法によれば、仕事率P1・P2を用いる新たな手法で算出された予圧荷重値F2が内部隙間Cを用いる従来からあって信頼のおける手法で算出された予圧荷重値F1を含む許容範囲R内に収まるか否かによって合否を判定するので、より高精度に予圧状態の合否判定を行うことが可能となる。
【0045】
以上のように、本願に開示した技術的思想における最大の特徴は、仕事率Pを用いて予圧荷重値F2を算出するとした点である。そして、このような技術的思想の上で、仕事率P1・P2の差分ΔPを利用するとしたことも特筆すべき点である。また、実績と経験に基づいて定めた「仕事率の差分と予圧荷重値の関係」或いは「仕事率の差分に対する逆数と予圧荷重値の関係」を利用することは、結果の信頼性を向上させるものである。更に、予圧荷重値F2が内部隙間Cを用いる手法で算出された予圧荷重値F1を含む許容範囲R内に収まるか否かによって合否を判定することも、結果の信頼性を向上させるものである。
【0046】
本実施形態に係る車輪用軸受装置1の予圧検査方法によれば、例えば車輪用軸受装置1の出荷検査で用いられる回転トルク測定設備を利用して予圧荷重値F2を算出することが可能となる。そして、車輪用軸受装置1の組立過程や組立完了後の状態に関わらず、一度に二つの仕事率P1・P2を算出してその差分ΔPに基づいて予圧荷重値F2を算出するので、より高精度に予圧荷重値F2を算出することが可能となる。そのため、管理が困難な誤差要因(温度・グリースの攪拌抵抗・インナー側シール部材6の摺動抵抗など)を抑制できる。
【0047】
最後に、本願に開示した車輪用軸受装置1は、駆動輪用の車輪用軸受装置であるが、従動輪用の車輪用軸受装置であってもよい。加えて、本願に開示した車輪用軸受装置1は、外方部材2に車体取付フランジ2eを有し、内方部材3が車輪取付フランジ3eを有するハブ輪31と内輪32で構成された第三世代構造であるが、これに限定するものではない。例えば外方部材に車体取付フランジを有し、内方部材である内輪に対して車輪取付フランジを有するハブ輪を挿通できる第二世代構造であってもよい。また、外方部材に車体取付フランジを有し、内方部材が車輪取付フランジを有するハブ輪と自在継手の嵌合体である第四世代構造であってもよい。なお、第二世代構造から第四世代構造における、いわゆる外輪回転仕様の車輪用軸受装置にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
2c 外側軌道面
2d 外側軌道面
3 内方部材
3a 小径段部
3b スプライン穴
3c 内側軌道面
3d 内側軌道面
31 ハブ輪
32 内輪
4 転動体
5 転動体
6 インナー側シール部材
7 アウター側シール部材
F1 予圧荷重値
F2 予圧荷重値
P1 仕事率
P2 仕事率
ΔP 仕事率の差分
S1 内輪圧入工程
S2 内輪加締工程
S3 内部隙間測定工程
S4 予圧荷重値算出工程
S5 仕事率算出工程
S6 予圧荷重値算出工程
S7 合否判定工程
S8 インナー側シール部材圧入工程