(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】高強度耐食性アルミニウム合金からのリボン及び粉末
(51)【国際特許分類】
C22C 21/06 20060101AFI20220330BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220330BHJP
B22F 3/16 20060101ALI20220330BHJP
B22F 3/105 20060101ALI20220330BHJP
C22C 1/04 20060101ALI20220330BHJP
C23C 24/04 20060101ALI20220330BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220330BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220330BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220330BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20220330BHJP
【FI】
C22C21/06
B22F1/00 N
B22F3/16
B22F3/105
C22C1/04 C
C23C24/04
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y40/00
(21)【出願番号】P 2019500396
(86)(22)【出願日】2017-06-26
(86)【国際出願番号】 US2017039211
(87)【国際公開番号】W WO2018009359
(87)【国際公開日】2018-01-11
【審査請求日】2019-02-26
(32)【優先日】2016-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516270717
【氏名又は名称】ナノアル エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ボ,ノン,キュー.
(72)【発明者】
【氏名】クロトー,ジョセフ,アール.
(72)【発明者】
【氏名】バヤンサン,ダワードルジ
(72)【発明者】
【氏名】サナティ-ザデー,アミルレザ
(72)【発明者】
【氏名】ラモス,エバンダー
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-320809(JP,A)
【文献】特開2008-202134(JP,A)
【文献】特開平10-060554(JP,A)
【文献】特開昭60-248862(JP,A)
【文献】特開平01-143791(JP,A)
【文献】特開昭60-033333(JP,A)
【文献】特開2004-197170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1から5重量%のマグネシウムと、
1から3重量%のジルコニウムと、
任意に、合計の含有量が0.3から1.5重量%の、チタニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオビウム、及びタンタルのうちの少なくとも1つと、
残りのアルミニウムとからなるアルミニウム合金であり、
前記合金は、0.05μmから1.5μmの範囲の平均直径を有するAl
3Zr粒子の分散を含み、
前記合金は、亜鉛、銅、マンガン、クロム、シリコン、及び鉄のうちの少なくとも1つを含む、不可避の不純物を更に含み、
前記合金は、スカンジウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムのうちのいずれも意図的に加えられることはない、
アルミニウム合金。
【請求項2】
前記合金は、アルミニウム母材内に、3nmから50nmの範囲の平均直径を有し、Ll
2結晶構造を有するAl
3Zrナノ粒子の分散を含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項3】
合計の含有量が0.3から1.5重量%で、チタニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオビウム、及びタンタルのうちの少なくとも1つを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項4】
前記合金は、4重量%のMgと1.7重量%のZr、又は3.6重量%のMgと1.2重量%のZrを含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項5】
前記合金は、意図せずに添加された、スカンジウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムのうちのいずれかを0.05重量%以下で含む、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項6】
前記合金は、450℃までの作業温度範囲での押し出しに適する、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項7】
前記合金は、積層造形法の使用に適した粉末である、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項8】
前記合金は、200nmから2μmの間の平均粒子直径を備える微粒子構造を有する、請求項2に記載のアルミニウム合金。
【請求項9】
リボンの形態にある、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項10】
前記リボンは、チップに切断された後、熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は、任意の他の圧力支援法によって圧縮され、最終的に押し出されてコンポーネントとされることに適する、請求項9に記載のアルミニウム合金。
【請求項11】
粉末の形態にある、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項12】
前記粉末は、熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は、任意の他の圧力支援法によって圧縮され、最終的に押し出されてコンポーネントとされることに適する、請求項11に記載のアルミニウム合金。
【請求項13】
前記粉末は、マグネシウム又はアルミニウムコンポーネントのための保護コーティングを形成するために、コールドスプレー法によって用いられることに適する、請求項11に記載のアルミニウム合金。
【請求項14】
チップ、ワイヤ、シート、プレート、又はホイルの形態にある、請求項1に記載のアルミニウム合金。
【請求項15】
コンポーネントを製造するための方法であって、
(a)急速凝固プロセスによってアルミニウム合金の粉末を製作することであって、前記合金は、
1から10重量%のマグネシウムと、
0.45から3重量%のジルコニウムと、
任意に、合計の含有量が0.3から1.5重量%の、チタニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオビウム、及びタンタルのうちの少なくとも1つと、
残りのアルミニウムとからなり、
前記急速凝固プロセスは、0.05μmから1.5μmの範囲の平均直径を有するAl
3Zr粒子の分散を提供し、前記合金は、亜鉛、銅、マンガン、クロム、シリコン、及び鉄のうちの少なくとも1つを含む、不可避の不純物を更に含み、前記合金は、スカンジウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムのうちのいずれも意図的に加えられることはないことと、
(b)前記コンポーネントを製造するために、積層造形プロセスを実行する際に(a)の前記粉末を利用することと、
を含む、方法。
【請求項16】
前記急速凝固プロセスは、ガス噴霧法、噴霧堆積法、溶融紡糸、溶融抽出、及びビーム艶出しからなるグループから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記積層造形プロセスは、粉末床法、粉末供給有向エネルギー堆積、選択的レーザ溶融、選択的レーザ焼結、直接金属レーザ焼結、及びレーザ工学ネット形状化からなるグループから選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
350℃から450℃の温度で、0.5時間から24時間の持続期間の間、前記コンポーネントを熱処理することを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
コンポーネントを製造するための方法であって、
請求項1に記載のアルミニウム合金からリボンを製作することと、
前記リボンをチップに切断することと、
熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は任意の他の圧力支援法によって、前記チップを圧縮することと、
前記コンポーネントを製造するために前記圧縮されたチップを押し出すことと、
を含む、方法。
【請求項20】
コンポーネントを製造する方法であって、
請求項1に記載のアルミニウム合金から粉末を製作することと、
熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は任意の他の圧力支援法によって、前記粉末を圧縮することと、
前記コンポーネントを製造するために前記圧縮された粉末を押し出すことと、
を含む、方法。
【請求項21】
請求項1に記載のアルミニウム合金から粉末を製作することと、
熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は任意の他の圧力支援法によって、前記粉末をニアネットシェイプに圧縮することと、
前記圧縮された粉末をその最終形状に機械加工することと、
を含む、コンポーネントを製造する方法。
【請求項22】
マグネシウム又はアルミニウムコンポーネントのための保護コーティングを形成する方法であって、
請求項1に記載のアルミニウム合金から粉末を製作することと、
前記粉末を用いるコールドスプレー法によって、前記マグネシウム又はアルミニウムコンポーネントをコーティングすることと、
を含む、方法。
【請求項23】
(a)の前記粉末を熱処理して、アルミニウム母材内に
、3nmから50nmの範囲の平均直径を有し、Ll
2結晶構造を有するAl
3Zrナノ粒子の分散を提供することをさらに含む、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本願は、2016年7月5日出願の米国特許出願第62/358,400号及び2017年3月28日出願の米国特許出願第62/477,838号の利益を主張する。本発明は、PTEノースイースタン大学を介してDOD/米国陸軍によって与えられた、PTE連邦賞第W911NF-15-2-0026号、副賞第504062-78050号の下で、政府支援によって行われた。政府は本発明におけるいくつかの権利を有する。
【0002】
[0002] 本願は、高い強度及び延性、優れた耐食性、及び溶接性を備えるアルミニウム合金族に関する。開示される合金は、航空宇宙、自動車、及び近年開発された積層造形又はいわゆる「3D印刷」コンポーネントの性能を向上させるため、並びに、マグネシウム又はアルミニウムコンポーネント向けの保護コーティングを形成するために、特に有利である。
【背景技術】
【0003】
[0003] アルミニウム合金は、航空宇宙、自動車、船舶、ワイヤ及びケーブル、エレクトロニクス、原子力、及び消費者向け製品の産業における軽量構造物において、幅広い適用例を有する。典型的には、アルミニウム合金は、溶かした後に鋳型に流し込むという従来の鋳造プロセスによって製造される。注型品は、ニアネットシェイプ(near net-shape)か或いはスラブ又はビレット形であり得、実質的にシート及びプレート製品を形成するために圧延されるか、又は外形を製造するために押し出される。したがって最終製品の特性は、アルミニウム合金の化学的性質、鋳造凝固速度、及びその後の熱機械プロセスに依存する。従来の鋳造プロセスの間のアルミニウム合金の凝固速度は、相対的に低い(<50℃/s)。したがって、従来の鋳造プロセスでは、アルミニウム合金の或る一定の鋳造微細構造物のみが得られる。
【0004】
[0004] 過去数十年の間に開発された急速凝固プロセス(RSP)は、微細な粒径及び拡張された固体溶解度の合金化元素を達成すること、及び非平衡準安定相を形成することが可能である。これらにより、従来の鋳造法によって製造される合金に比べて、合金の特性が強化される。RSPは、凝固速度を1,000℃/sよりも高くする必要がある。融解アルミニウムと焼き入れ剤との間の接触時間は、数千分の一秒に制限されている。銅、水、又は液体窒素などの焼き入れ剤は、融解アルミニウムの温度をその固相線温度よりも短時間で大幅に低くし、したがって急速凝固は、非常に速い冷却速度によって達成される。米国特許出願第4,347,076号を参照されたい。
【0005】
[0005] ガス噴霧法、噴霧堆積法、溶融紡糸、溶融抽出、及びビーム艶出しを含む、多数の異なるRSPが開発されている。製作される製品は、リボン、繊維、フレーク、スプラット、顆粒、及び粉末の形であり得る。典型的には、これらの小さな個々の断片が処理(冷間静水圧縮、高温圧縮、及び押し出し)され、最終製品が製作される。RSPによって製作されるアルミニウム合金の適用例は、レーシング、自動車、航空宇宙、スポーツ、医療用部品、エレクトロニクス、及び光学産業におけるものである。
【0006】
[0006] 従来技術では、近年、RSPによってアルミニウム・マグネシウム・スカンジウム合金を製造するための努力が行われてきた。これらの合金は、典型的には高濃度のマグネシウム(3から5wt.%)及びスカンジウム(0.7~1.4wt.%)を含む。合金は、Al3ScLl2構造のナノ沈殿物とアルミニウム及びマグネシウムを含むアルミニウム母材固溶体との組み合わせによって強化される。Al3Scナノ沈殿物は、凝固及びそれに続く250から350℃の温度範囲内での時効の間に形成される。ナノ沈殿物は、良好な溶接性にも関与している。米国特許出願第5,624,632号を参照されたい。
【0007】
[0007] しかしながら、RSPによって製造されるAl-Mg-Sc合金にはいくつかの欠点が存在する。スカンジウムは非常に高価(銀の10倍)である。したがって、Al-Mg-Sc合金のコストは非常に高く、商業的応用を著しく制限している。この合金は、制限付き温度作業範囲(<375℃)も有する。この温度を超えると、Al3Scナノ沈殿物は急速に粗大化されて効果がなくなるため、その有利な強化は永続的に失われる。そのため、押し出し温度は、十分に緻密な押し出しコンポーネントを得るには望ましくない温度である375℃未満に制限される。
【発明の概要】
【0008】
[0008] したがって、RSPによって製造されるAl-Mg-Sc合金の欠点を改良する一方で、同じ組み合わせの他の特性を維持することが望ましい。これらには、室温及び高温での高強度、高い耐クリープ性、良好な溶接性、及び高い耐食性が含まれる。
【0009】
[0009] 本明細書で説明する実施形態は、任意の急速凝固プロセスによって製作され、析出及び分散硬化を達成するために熱処理(時効)可能な、アルミニウム合金に関する。それらは、高い強度及び延性、高い耐クリープ性、優れた耐食性、及び溶接性を有する。いくつかの実施形態において、合金は、400℃の高温で耐熱性及び耐クリープ性である。これらの合金は、1から10%重量のマグネシウム、0.3~3%重量のジルコニウム及び好ましくは0.45~3%重量のジルコニウム、任意選択で0.3~1.5%重量のバナジウム、残りとしてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、0.05から1.5μmの範囲の平均直径を有するAl3Zr主要沈殿物の同時分散と、3から50nmの範囲の平均直径を有する、アルミニウム母材内にLl2結晶構造を有するAl3Zrのナノ沈殿物の分散とを含む。
【0010】
[00010] 熱的に安定なAl3Zr主要沈殿物はRSPの間に形成され、熱的に安定なAl3Zrナノ沈殿物はAl-Mg-Zr合金内で後続の時効プロセスの間に形成されることがわかっている。Al3Zr主要沈殿物及びナノ沈殿物は、どちらも、アルミニウム中のジルコニウムの低い拡散率に起因して、425℃の動作温度まで安定し、耐粗大化性である。結果として、長期間、室温及び高温の両方で高強度を備えるアルミニウム合金が生じる。合金は、完全にスカンジウムを含まないか、又は少なくとも意図的にスカンジウムが加えられることはなく、不純物としてスカンジウムが存在するとしても0.05wt.%を超えることはない。その結果、材料のコストは低くなる。非常に高い熱安定性に起因して、開示される材料は、Al-Mg-Sc合金に比べて高い温度作業範囲(最高450℃)で押し出し可能である。上述の内容から、結果として押し出し力が低くなり、したがって押し出しコストも低くなる。また、結果として、より密度の高い(多孔質でない)押し出し材料となり、したがって開示される合金を利用するより高品質の押し出し部品となる。
【0011】
[00011] いくつかの実施形態において、アルミニウム合金は、マグネシウムと、第4族元素のTi、Zr、及びHf、第5族元素のV、Nb、及びTa、並びに第6族元素のCr、Mo、及びWから選択される少なくとも1つの元素と、を含む。これらの合金は、室温及び高温での高い強度、高い耐クリープ性、高い耐食性、及び良好な溶接性を有する。
【0012】
[00012] 積層造形、噴霧堆積、又は圧縮などの方法を利用して急速凝固された粉末又はリボンから製作されるコンポーネントは、固溶体内に捕捉された有意な濃度の合金化元素を有する。製造されたコンポーネントが下記で考察するような単一段階熱処理を施されるとき、ナノスケールのアルミニウム遷移金属沈殿物が形成される。これは、約450℃を超える温度での「溶液化」又は「均質化」熱処理と、それに続く、約100℃から200℃の間の温度での析出熱処理からなる、2段階熱処理をしばしば必要とする、従来の合金とは異なる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】[00013] 溶融紡糸によって製造されるリボンの形の、ベースラインAl-4.5Mg、Al-4.5Mg-0.5Sc、及び開示される実施形態Al-4.5Mg-0.5Zr at.%合金(それぞれ、Al-4Mg、Al-4Mg-0.8Sc、及び、Al-4Mg-1.7Zr wt.%)の、最高時効温度の関数としての、ヌープ微小硬度進化である。熱処理は、25℃/2h増分での等時性時効の形で実施される。
【
図2】[00014] 異なるホイール速度12m/s及び40m/sでの溶融紡糸によって製造される、ベースラインAl-4.5Mg及び開示される実施形態Al-4.5Mg-0.5Zr at.%合金(それぞれ、Al-4Mg及び、Al-4Mg-1.7Zr wt.%)の、最高時効温度の関数としての、ヌープ微小硬度進化である。熱処理は、25℃/2h増分での等時性時効の形で実施される。
【
図3】[00015] 溶融紡糸プロセスによって製作される、例示の合金Al-4Mg-1.7Zr wt.%合金の微細構造の走査電子顕微鏡イメージを示す。
【
図4】[00016] 25℃/2h増分での等時性時効の間に、12m/sでの溶融紡糸によって製造される、開示される実施形態Al-4.5Mg-0.5TM at.%合金のピーク微小硬度を示し、TMは、示される遷移金属(第4族元素のTi、Zr、及びHf、第5族元素のV、Nb、及びTa、並びに第6族元素のCr及びMo)である。
【
図5】[00017] 25℃/1h増分での等時性時効の間に、12m/sでの溶融紡糸によって製造される、開示される実施形態Al-4Mg-0.5Zr-0.1TM at.%合金のピーク微小硬度を示し、TMは、示される遷移金属(第4族元素のTi及びHf、並びに第5族元素のV、Nb、及びTa)である。
【
図6】[00018] 同じ合金組成を有するが、異なるパラメータを用いて3D印刷された、印刷時状態及びピーク時効状態の両方における、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からのいくつかの3D印刷コンポーネントについての、ビッカース微小硬度のプロットを示す。
【
図7】[00019] Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図8】[00020] 400℃で8時間時効された後の、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図9】[00021] 400℃で144時間時効された後の、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図10】[00022] 400℃で144時間時効された後の、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の広視野走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図11】[00023] Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの粗粒子領域と微粒子領域との間の境界の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図12】[00024] Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、3D印刷コンポーネントの印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微粒子領域の高倍率走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図13】[00025] 400℃で8時間時効された後、続いて300℃で144時間延長露光された、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。
【
図14】[00026] 引張降伏強度、最大抗張力(UTS)、及び、商用に3D印刷されたアルミニウム合金と比較した開示される合金(Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からのピーク時効状態における3D印刷コンポーネント)の伸びを比較する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[00027] 本明細書で説明する実施形態は、高い強度及び延性、高い耐クリープ性、並びに優れた耐食性及び溶接性を備える、急速凝固プロセスによって製作されるアルミニウム合金に関する。合金は、400℃の高温で耐熱性及び耐クリープ性である。
【0015】
[00028] いくつかの実施形態において、これらの合金は、1から10%重量のマグネシウム、0.3~3%重量のジルコニウム及び好ましくは0.45~3%重量のジルコニウム、任意選択で0.3~1.5%重量のバナジウム、並びに残りとしてアルミニウムを含む。アルミニウム合金は、0.05から1.5μmの範囲の平均直径を有するAl3Zr主要沈殿物の同時分散と、3から50nmの範囲の平均直径を有する、アルミニウム母材内にLl2結晶構造を有するAl3Zrのナノ沈殿物の分散とを含む。開示される実施形態の合金は、ガス噴霧法(例えば、アルミニウム粉末を製造するため)、噴霧堆積法、溶融紡糸(例えば、アルミニウムリボンを製造するため)、溶融抽出、及びビーム艶出しを含む、任意の急速凝固プロセスによって製造され得る。加えて、これらの合金は、機械的合金化などの他の非平衡プロセスによって製作され得る。合金は、析出硬化を達成するために熱処理(時効)され得る。
【0016】
[00029] Al-Sc合金は、ナノメートルスケール、コヒーレント、Ll2順のAl3Sc沈殿物(構造的及び化学的に、ニッケル基超合金におけるNi3Al γ’相と類似している)を形成し、結果として有意な析出硬化を生じさせる(米国特許出願第5,597,529号を参照されたい)。しかしながら、スカンジウムは非常に高価であり希少である。更に、Al3Sc沈殿物は、アルミニウム母材においてScの拡散性は中程度であることから、単に325℃に対して耐粗大化である。耐粗大化を400℃まで向上させることは、Al-Sc合金を、ScよりもAlにおいて大幅に遅い拡散物である隣接VIA属遷移金属(Ti、Zr、Hf)と共に合金化することによって達成可能である。この3つの遷移金属の中で、Zrは、アルミニウム母材における有利な熱力学的及び力学的特性に起因して、最良の耐粗大化特徴を提供する。マグネシウムは一般に、固溶体強化を提供するために、Al-Sc合金に添加される。これは、合金の耐食性も向上させる。
【0017】
[00030] 開示される実施形態において、Zrは、RSPによって製造されるAl-Mg-Sc合金において完全にScに取って代わることができる。溶融紡糸を利用して、RSP:Al-4.5Mg-0.2Zr及びAl-4.5Mg-0.5Zr at.%、又はAl-4Mg-0.7Zr及びAl-4Mg-1.7Zr wt.%の合金組成物が製造された。これら2つの合金の強度は、溶融紡糸によって製造されるAl-4.5Mg-0.2Sc及びAl-4.5Mg-0.5Sc(at.%)合金の強度に相当する。これは
図1に実証されている。425℃で得られるAl-4.5Mg-0.5Zr at.%のピーク強度は、等時性時効の間に325℃で得られるAl-4.5Mg-0.5Sc at.%のピーク強度に相当する。この発見は、ZrのコストがScの約千分の一未満であり、したがって、Al-Mg-Zr合金の材料コストが低くなることから重要である。更に、非常に高い熱安定性に起因して、Al-Mg-Zr合金は、Al-Mg-Sc合金(最高350℃のみ)に比べて高い温度作業範囲(最高450℃)で押し出し可能である。この結果、押し出し力は低くなり、したがって押し出しコストも低くなる。また、結果としてより高密度の材料となり、したがって、Al-Mg-Zr合金を利用するより高品質の押し出し部品となる。
【0018】
[00031] バナジウムが、Ll2構造化Al3Zr相においてZrに代わり得ることは既知である。したがって、Vは熱時効の間、Zrと共沈する。V及びZrの共沈により、Al3(Zr、V)ナノ沈殿物の堆積分率は増加することになり、したがってAl-Mg-Zr-V合金の強度が上昇する。バナジウムは、Al-Zr合金の融点を低下させることも既知であり、これによって粉末製作プロセスがより容易になる。更に、Ti及びHfなどの第4B族内の元素、並びに、Nb及びTaなどの第5B族内の元素が、Ll2構造化Al3(Zr、X)ナノ堆積物を形成することも既知であり、XはTi、Hf、Nb、又はTaであり得る。
【0019】
[00032] ジルコニウムは、アルミニウムの溶融温度(~660℃)で低い液体溶解度(~0.11wt.%)を有し、アルミニウムの室温で低い固体溶解度(<0.01wt.%)を有する。したがって、液相での冷却の間、及び従来の鋳造プロセスにおける凝固の間に、Al3Zr主要相を沈殿及び形成する傾向がある。したがって、析出強化によってアルミニウム母材を強化するため、及び/又は、結晶成長抑制剤として作用するために利用される、最大Zr濃度は、従来の方法について約0.3wt.%に制限される。この濃度を超える鋳造材料は、強化に寄与しない大きなAl3Zr主要相を含む。しかしながら、RSPの間、凝固速度は1,000℃/sよりも高くなり得る。鋳造からの融解アルミニウムを室温に凝固させるのにかかる時間は、1秒よりも大幅に少ない。したがって、Al母材におけるZr溶質原子は、大きな主要沈殿物を沈殿及び形成するのに十分な時間を有さない。1,100℃を超える鋳造温度での溶融紡糸プロセスの間、アルミニウム母材における高濃度のZr溶質原子と共に、Zrは0.05から1.5μmの範囲の平均直径を有する、微細なAl3Zr主要沈殿物の分散を形成することがわかった。微細なAl3Zr主要沈殿物は、補強強化剤として作用する一方で、後続の熱処理の間、Zr溶質原子は、析出強化剤として作用する、Al3Zrナノ沈殿物を形成する。どちらの強化メカニズムも、Al-4Mg-1.7Zr wt.%合金において観察される高い強度に関与している。RSPの間の微細な主要沈殿物の分散は、Zrを除く第4B族元素(Ti又はHf)、第5B族元素(V、Nb、又はTa)、及び第6B族元素(Cr、Mo、又はW)を含む、アルミニウム合金においても予期される。加えて、微細なAl3Zr主要沈殿物は、結晶成長抑制剤としても作用し、Al母材において小さな粒径サイズを生成し、これも強化に寄与する。
【0020】
[00033] 開示される実施形態において、溶融紡糸の間に鋳造ホイール速度を40から12m/sに低下させることにより、Al-4Mg-1.7Zr wt.%合金の最大強度がほんのわずか低下することが示されている。鋳造ホイール速度の低下は、凝固速度の低下と等価である。しかしながら、12m/sの低い鋳造ホイール速度の場合、凝固速度は、依然として1,000℃/sよりも高いことが予期される。この高凝固速度レジームにおいて、Al-4Mg-1.7Zr wt.%合金の最大強度は、実際の冷却速度には反応しにくいことが示されている。これは
図2に実証されている。
【0021】
[00034] 開示された合金におけるマグネシウムは、固溶体強化剤として作用する。マグネシウムは、すべての温度でアルミニウムにおける高固体溶解度を有する。したがって、4wt.%Mgは、RSP及び後続の熱処理の間、固溶体のままである。これは、アルミニウム合金が融解した後に再凝固する、アーク溶接の間、又は、アルミニウム合金が加熱された後に室温まで冷却される、摩擦かくはん溶接の間にも当てはまる。したがって、Al-Mg基合金は、典型的には良好な溶接性を有するものと見なされる。マグネシウムは、アルミニウム合金の耐食性を向上させることも既知である。したがって、Al-Mg基合金は、一般に、船舶適用例で利用される。
【0022】
[00035] Al-4.5Mg-0.5Sc合金に比べて、Al-4.5Mg-0.5Zr at.%合金も、より高い動作温度範囲を有する。後続の加熱処理の間、Ll
2構造化Al
3Scナノ沈殿物の析出は、250~350℃の温度範囲で発生し、一方で、Ll
2構造化Al
3Zrナノ沈殿物の析出は、350~450℃の温度範囲で発生する。これは、
図1に実証されている。時効の後、Al-4.5Mg-0.5Sc及びAl-4.5Mg-0.5Zr at.%合金の動作温度は、それぞれ、350℃及び450℃未満である必要があり、これは、これらの温度を超えると急速な粗大化及び強度の損失につながることを意味している。このことは、より高い温度作業範囲が結果としてより高い濃度及びより高い品質の押し出し部品を生じさせる、熱間押し出しプロセスにとって重要である。これはまた、結果として押し出し力をより低くするため、低機能の押し出し機が利用可能である。現在、Al-4.5Mg-0.5Sc合金の押し出し温度は約350℃に制限されている。開示されたAl-Mg-Zr合金の場合、圧縮された粉末又はリボンを最高450℃の温度で押し出すことが可能であり、温度作業範囲に関して大きく改良されている。
【0023】
[00036]
図3は、溶融紡糸プロセスによって製作される、例示の合金Al-4Mg-1.7Zr wt.%合金の微細構造の走査電子顕微鏡イメージを示す。微細構造は、主要Al
3Zrの微細均一分布と同質である。
【0024】
[00037]
図4は、25℃/2h増分での等時性時効の間に、12m/sでの溶融紡糸によって製造される、開示される実施形態Al-4.5Mg-0.5TM at.%合金のピーク微小硬度を示し、TMは、示される遷移金属(第4族元素のTi、Zr、及びHf、第5族元素のV、Nb、及びTa、並びに第6族元素のCr及びMo)である。これは、ベースAl-4.5Mg at.%合金内に遷移元素を添加すると、合金の強度が劇的に増加することを示す。ジルコニウムは、調査した他の元素に比べて最も効果的であると思われる。
【0025】
[00038]
図5は、25℃/1h増分での等時性時効の間に、12m/sでの溶融紡糸によって製造される、開示される実施形態Al-4Mg-0.5Zr-0.1TM at.%合金のピーク微小硬度を示し、TMは、示される遷移金属(第4族元素のTi及びHf、並びに第5族元素のV、Nb、及びTa)である。これは、ベースAl-4Mg at.%合金内にジルコニウムを他の遷移金属と組み合わせて添加すると、合金の強度が劇的に増加することを示す。
【0026】
[00039]
図6は、同じ合金組成を有するが、異なるパラメータを用いて3D印刷された、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からのいくつかの3D印刷コンポーネントについての、ビッカース微小硬度のプロットを示す。試行1~5では平均サイズ37μmの粉末が用いられ、試行7~9では平均サイズ13μmの粉末が用いられた。印刷時状態及び加熱処理後最大達成可能硬度のどちらも、サンプルt試験について統計的に等価であり、合金化学及び時効硬化のポテンシャルが、印刷パラメータによって影響されないことを示している。エラーバーは、同じサンプルについて行われた10回の測定のうちの1つの標準偏差を表す。
【0027】
[00040]
図7は、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。粗粒子、柱状粒子、及び微粒子の混合が明白であり、微粒子領域内の主要沈殿物が明白である。
【0028】
[00041]
図8は、400℃で8時間時効された後の、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。粗粒子、柱状粒子は再結晶されているため、ここでは等軸晶である。析出は微粒子領域内で明白であり、時効の間、粒子の成長を禁止する。
【0029】
[00042]
図9は、400℃で144時間時効された後の、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。沈殿物は粗大化されており、微粒子領域内での粒子成長がそれに続いていることが明白である。
【0030】
[00043]
図10は、400℃で144時間時効された後の、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の広視野走査電子顕微鏡写真を示す。沈殿物及び粒子粗大化の両方が結果として本質的に同質の微細構造を生じさせ、これが等方性力学特性を促進させる。
【0031】
[00044]
図11は、粗粒子領域と微粒子領域との間の境界の走査電子顕微鏡写真を示す。立方体のLl
2沈殿物が、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、3D印刷コンポーネントにおけるナノ粒子の形成を促進するための種晶として作用する。
【0032】
[00045]
図12は、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微粒子領域の高倍率走査電子顕微鏡写真を示す。立方体のLl2沈殿物が粒子の中央にあり、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、3D印刷コンポーネント内のナノ粒子を促進するための種晶として作用する。
【0033】
[00046]
図13は、400℃で8時間時効された後、続いて300℃で144時間延長露光された、Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からの、印刷時状態における3D印刷コンポーネントの微細構造の走査電子顕微鏡写真を示す。約1マイクロメートルの粗粒子及び微粒子、等軸粒子の混合からなる熱的に安定した微細構造が、立方体Ll
2 Al
3Zr沈殿物によってピン止めされている。
【0034】
[00047]
図14は、引張降伏強度、最大抗張力(UTS)、及び、商用に3D印刷されたアルミニウム合金と比較した開示される合金(Al-3.6Mg-1.2Zr wt.%粉末からのピーク時効状態における3D印刷コンポーネント)の伸びを比較する。開示される合金は、商用に3D印刷されたアルミニウム合金と比べて、最高の降伏強度、並びに、降伏強度と延性との最良の組み合わせを達成する。
【0035】
[00048] 開示されたアルミニウム合金のいくつかの実施形態は、約1から10%重量のマグネシウム、及び約0.3から約3%重量のジルコニウム、及び好ましくは約0.45から約3%重量のジルコニウム、残りとしてアルミニウムを含み、合金は室温及び高温での高い強度及び延性、高い耐クリープ性、高い耐食性、及び良好な溶接性を持つ。いくつかの実施形態は、約0.3から約1.5%重量の、チタニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオビウム、及びタンタルのうちの少なくとも1つを更に含む。いくつかの実施形態において、合金は、約0.05から約1.5μmの範囲の平均直径を有するAl3Zr主要沈殿物の分散を含む。いくつかの実施形態において、合金は、約3から約50nmの範囲の平均直径を有する、アルミニウム母材内にLl2結晶構造を有するAl3Zrのナノ沈殿物の分散を含む。いくつかの実施形態において、合金は、アルミニウム固溶体母材、及び、約0.05から約1.5μmの範囲の平均直径を有する、Al3Zr主要沈殿物の同時分散と、約3から約50nmの範囲の平均直径を有する、アルミニウム母材内にLl2結晶構造を有するAl3Zrのナノ沈殿物の分散と、を含む。いくつかの実施形態は、亜鉛、銅、マンガン、クロム、シリコン、及び鉄のうちの少なくとも1つを含む、不可避の不純物を更に含む。いくつかの実施形態は、完全にスカンジウムを含まない。少なくとも意図的にスカンジウムが加えられることはないが、いくつかの実施形態は、約0.05wt.%を超えない不純物としてスカンジウムを更に含む。いくつかの実施形態は、完全に、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウムを含まない。それらの元素のうちのいずれも意図的に加えられることはないが、いくつかの実施形態は、約0.05wt.%を超えない不純物として、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムのうちのいずれか1つを更に含む。
【0036】
[00049] 開示されるアルミニウム合金のいくつかの実施形態は、マグネシウムと、第4B族元素のTi、Zr、及びHf、第5族元素のV、Nb、及びTa、並びに第6族元素のCr、Mo、及びWから選択される少なくとも1つの元素と、残りとしてアルミニウムと、を含み、合金は、室温及び高温での高い強度及び延性、高い耐クリープ性、高い耐食性、及び良好な溶接性を有する。いくつかの実施形態において、合金には、完全に、スカンジウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムが意図的に加えられることはない。いくつかの実施形態において、合金は、約3nmから約50nmの範囲の平均直径を有する、アルミニウム母材内にナノスケールのアルミニウム遷移金属沈殿物の分散を含み、遷移金属は、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、及びWからなるグループから選択される。
【0037】
[00050] 開示されるアルミニウム合金のいくつかの実施形態は、最高約425℃の動作温度まで熱的に安定している。いくつかの実施形態の場合、合金は最高約450℃までの温度作業範囲で押し出し可能である。
【0038】
[00051] 開示されるアルミニウム合金のいくつかの実施形態は、急速凝固プロセスによって製造される。いくつかの実施形態において、急速凝固される合金は、約200nmから約2μmまでの間の平均粒子直径を備える微粒子構造を有する。平均粒子直径は、合金化学による影響を受け、合金化コンポーネントの濃度によって制御可能である。
【0039】
[00052] 開示されるアルミニウム合金は、粉末、チップ、リボン、ワイヤ、シート、板、又はホイールなどの、様々な形で製作され得る。開示される合金から製作される粉末は、例えば、熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は、任意の他の圧力支援法によって圧縮され、最終的に任意選択として、押し出されてコンポーネントとなり得る。開示される合金から製作されるリボンは、例えば、チップに切断された後、熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は、任意の他の圧力支援法によって圧縮され、最終的に任意選択として、押し出されてコンポーネントとなり得る。
【0040】
[00053] 開示されるアルミニウム合金から形成される押し出しコンポーネントには、例えば、航空宇宙、自動車、及び船舶適用例などの、多くの適用例がある。
【0041】
[00054] 開示される合金は、例えば、粉末として製作され、マグネシウム又はアルミニウムコンポーネントのための保護コーティングを形成するために、コールドスプレー法(cold spray process)によって用いられ得る。コールドスプレー法は、新しい材料層を堆積させることによって、コンポーネントの摩耗面を復元するためにも使用され得る。
【0042】
[00055] 開示される合金から製作される粉末は、例えば、積層造形法において利用され得る。高い強度及び溶接性を含む、開示されるアルミニウム合金の特徴は、粉末床法、選択的レーザ溶融、直接金属レーザ焼結、レーザ工学ネット形状化、及び特に粉末供給有向エネルギー堆積などの、積層造形プロセス、又はいわゆる3D印刷にとって、特に重要である。粉末供給有向エネルギー堆積プロセスの間、アルミニウム粉末は、レーザエネルギーによって完全又は部分的に溶融され、より大きな部品を形成するために共に溶接される。再凝固の時点で、凝固速度は、周囲の冷却粉末、及び焼き入れ剤として作用する下にある材料に起因して、非常に高速である。したがって、積層造形プロセスは、一般にRSPと見なされる。粉末の良好な溶接性は、空隙のない溶接又は3D印刷部品を作成するために重要である。
【0043】
[00056] 開示される合金のガス噴霧粉末によって積層造形されたコンポーネントは、析出及び分散強化を達成するために、約350から約450℃の間の温度で約0.5から約24時間の間、製造した後、熱処理可能である。このようにピーク時効され、積層造形されたコンポーネントの微細構造は、熱的に安定しており、長期間高温に曝すことで変化しない。このようにピーク時効され、積層造形されたコンポーネントは、約0.05から約1.5μmの範囲の平均直径を有する、Al3Zr主要沈殿物の固溶体強化、約3から約50nmの範囲の平均直径を有する、アルミニウム母材におけるLl2結晶構造を有する、Al3Zrのナノ沈殿物の分散、及び、微粒子から結果として生じる粒子境界強化などの、メカニズムによって強化される。
【0044】
[00057] 高強度及び低密度(すなわち、高い特定強度)を含む、積層造形されたコンポーネントの特性は、コンポーネントを室温又は室温以下での高強度を必要とする適用例に好適なものとする。こうした適用例は、限定されないが、陸空海用船向けの車両シャーシ及びサスペンションの構成コンポーネント、衛星及び宇宙船の構成コンポーネント、兵器及び防衛システム、補装具、レクリエーション及びレジャー設備、芸術及びノベルティ品を含む。
【0045】
[00058] 良好な耐食性と組み合わされた高強度及び低密度(すなわち、高い特定強度)を含む、積層造形されたコンポーネントの特性は、コンポーネントを、過酷な環境において室温又は室温以下での高強度を必要とする適用例に好適なものとする。こうした適用例は、限定されないが、海洋船の構成コンポーネント、レクリエーション及びレジャー設備、芸術及びノベルティ品を含む。
【0046】
[00059] 高強度、熱安定性、及び耐クリープ性を含む、積層造形されたコンポーネントの特性は、コンポーネントを、高温での高強度を必要とする適用例に好適なものとする。こうした適用例は、限定されないが、燃焼機関、ジェットエンジン、及びロケットエンジン又は電動機の、内部又は近隣の構成コンポーネント、ホイール及びブレーキロータなどの熱を発生させる回転部品の近隣の構成コンポーネント、空対空熱交換器、並びに、輸送及びエレクトロニクス適用例における熱管理コンポーネントを含む。
【0047】
[00060] 高強度、熱安定性、耐クリープ性、及び耐食性を含む、積層造形されたコンポーネントの特性は、コンポーネントを、過酷な環境において高温での高強度を必要とする適用例に好適なものとする。こうした適用例は、限定されないが、自動車、航空宇宙、及び船舶適用例における液対空熱交換器、並びに、電子コンポーネントにおける熱交換器を含む。
【0048】
[00061] 開示される粉末のガス噴霧によって作られる積層造形されたコンポーネントも、約200nmから約2μmの範囲の平均粒子直径を備える、微粒子構造を有する。加えて、積層造形されたコンポーネントの微細構造は、サブミクロン粒子の連続網を備える粒子サイズのバイモーダル分布、並びに、幅約1μm及び長さ約2μmから約10μmの伸長粒子の領域を有する。平均粒子直径は、合金化学の影響を受け、合金化コンポーネントの濃度によって制御可能である。
【0049】
[00062] そのピーク時効状態において、開示される合金のガス噴霧粉末によって作られる積層造形されたコンポーネントはその微細構造を保持するため、コンポーネントは、約0.5から約1.5μmの範囲の微細粒子の連続網と、約2μmから約10μmの範囲のより粗な粒子の領域とを有する。ピーク時効され、積層造形されたコンポーネントにおける平均粒子直径は、合金化学の影響を受け、合金化コンポーネントの濃度を調節することによって制御可能である。
【0050】
[00063] その時効超過状態において、開示される合金のガス噴霧粉末によって作られる積層造形されたコンポーネントは、沈殿物及び粒子の粗大化を受けるため、微細構造は本質的に同質の微細構造によって特徴付けられる。時効超過し、積層造形されたコンポーネントにおける平均粒子直径は、合金化学の影響を受け、合金化コンポーネントの濃度を調節することによって制御可能である。加えて、立方体のLl2構造化沈殿物の一部はプレートレットD023構造化沈殿物に変換され、時効超過材料内の粒子境界に配置される。
【0051】
[00064] 開示されるアルミニウム合金を製造する方法は、例えば、急速凝固プロセスによってアルミニウム合金を製造することを含む。急速凝固プロセスは、例えば、ガス噴霧法、噴霧堆積法、溶融紡糸、溶融抽出、又はビーム艶出しなどのグループから選択され得る。
【0052】
[00065] 開示されるアルミニウム合金を製造する方法は、例えば、任意の非平衡プロセスによってアルミニウム合金を製造することを含む。非平衡プロセスは、例えば、機械的合金化とすることができる。
【0053】
[00066] 積層造形を実施する方法は、例えば、粉末形式の開示されるアルミニウム合金を製作すること、及び、積層造形プロセスを実行する際に粉末形式を利用することを含み得る。積層造形プロセスは、例えば、粉末床法、粉末供給有向エネルギー堆積、選択的レーザ溶融、選択的レーザ焼結、直接金属レーザ焼結、又はレーザ工学ネット形状化などのグループから選択され得る。
【0054】
[00067] コンポーネントを製造するための方法は、例えば、開示されるアルミニウム合金からリボンを製作すること、リボンをチップに切断すること、熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は任意の他の圧力支援法によってチップを圧縮すること、並びに、コンポーネントを製造するために圧縮されたチップを押し出すこと、を含み得る。
【0055】
[00068] コンポーネントを製造する方法は、例えば、開示されるアルミニウム合金から粉末を製作すること、熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は任意の他の圧力支援法によって粉末を圧縮すること、並びに、コンポーネントを製造するために圧縮された粉末を押し出すこと、を含み得る。
【0056】
[00069] コンポーネントを製造する方法は、例えば、開示されるアルミニウム合金から粉末を製作すること、熱間等静圧圧縮成形、一軸高温圧縮、又は任意の他の圧力支援法によって粉末をニアネットシェイプに圧縮すること、並びに、圧縮物をその最終形状に機械加工すること、を含み得る。
【0057】
[00070] マグネシウム又はアルミニウムコンポーネントのための保護コーティングを形成する方法は、例えば、開示されるアルミニウム合金から粉末を製作すること、及び、粉末を用いるコールドスプレー法によって、マグネシウム又はアルミニウムコンポーネントをコーティングすること、を含み得る。
【0058】
[00071] 上記の記述から、本発明の新規な概念の真の趣旨及び範囲を逸脱することなく、多数の修正及び変形が実行可能であることを理解されよう。図示及び説明される特定の実施形態に関して、いかなる制限も意図されないこと、又は推論すべきではないことを理解されたい。