IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

特許7049320分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法
<>
  • 特許-分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法 図1
  • 特許-分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法 図2
  • 特許-分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法 図3
  • 特許-分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法 図4
  • 特許-分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法 図5
  • 特許-分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法 図6
  • 特許-分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 65/10 20060101AFI20220330BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20220330BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220330BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220330BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220330BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
B01D65/10
B01D63/06
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019508804
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2018006913
(87)【国際公開番号】W WO2018180095
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2017068961
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】清水 克哉
(72)【発明者】
【氏名】市川 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】谷島 健二
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-186776(JP,A)
【文献】特開2013-034994(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/33、61/00-71/82
G01N 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質基材とゼオライト膜とを有する分離膜構造体と、前記分離膜構造体が組み付けられたケーシングとを備える分離膜モジュールの検査方法であって、
前記ゼオライト膜の1次側に検査用ガスを封入する封入工程と、
前記封入工程の後、前記ゼオライト膜の2次側への前記検査用ガスの合計リーク量に基づいて、前記分離膜モジュールにおけるガスリークを評価する評価工程と、
を備え、
前記検査用ガスの動的分子径は、前記ゼオライト膜の細孔径の1.07倍より大きく、
前記検査用ガスは、25℃、0.1MPaGの前記検査用ガス中に前記分離膜構造体を60分間静置した場合、前記ゼオライト膜のCOガス透過速度低下率が10%未満となる特性を有
前記評価工程は、
前記ゼオライト膜の膜欠陥に由来する膜欠陥リーク量を下記式1に基づいて算出する工程と、
前記合計リーク量から前記膜欠陥リーク量を引くことによって、前記分離膜構造体のシール不良に由来するシールリーク量を算出する工程と、
前記シールリーク量に基づいて、前記分離膜構造体と前記ケーシングとの接合部分のシール性を評価する工程と、
を有する、
分離膜モジュールの検査方法。
Tb=A×(PH+PL)+B 式1
(ただし、式1において、Tbは前記ゼオライト膜の膜欠陥に由来するリーク量であり、PHは前記1次側の圧力であり、PLは前記2次側の圧力であり、A及びBは、それぞれ定数である。)
【請求項2】
前記封入工程において、前記検査用ガスは、蒸気圧100kPa以下の成分を含まない、
請求項1に記載の分離膜モジュールの検査方法。
【請求項3】
前記評価工程では、前記1次側における前記検査用ガスの圧力変化に基づいて前記合計リーク量を取得する、
請求項1又は2に記載の分離膜モジュールの検査方法。
【請求項4】
前記評価工程の後、前記検査用ガスを回収する回収工程を備える、
請求項1乃至のいずれかに記載の分離膜モジュールの検査方法。
【請求項5】
前記回収工程において、前記検査用ガスと同種のガスが封入された回収用タンクに前記検査用ガスを回収する、
請求項に記載の分離膜モジュールの検査方法。
【請求項6】
前記封入工程において、前記1次側における前記検査用ガスの圧力は1MPaG以上である、
請求項1乃至のいずれかに記載の分離膜モジュールの検査方法。
【請求項7】
前記多孔質基材は、複数のセルを有するモノリス型であり、
前記ゼオライト膜は、前記複数のセルそれぞれの内面に形成される、
請求項1乃至のいずれかに記載の分離膜モジュールの検査方法。
【請求項8】
前記ゼオライト膜の前記細孔径は、0.5nm以下である、
請求項1乃至のいずれかに記載の分離膜モジュールの検査方法。
【請求項9】
多孔質基材とゼオライト膜とを有する分離膜構造体をケーシングに組み付けることによって分離膜モジュールを形成する組み付け工程と、
前記ゼオライト膜の1次側に検査用ガスを封入する封入工程と、
前記封入工程の後、前記ゼオライト膜の2次側への前記検査用ガスの合計リーク量に基づいて、前記分離膜モジュールにおけるガスリークを評価する評価工程と、
を備え、
前記検査用ガスの動的分子径は、前記ゼオライト膜の細孔径の1.07倍より大きく、
前記検査用ガスは、25℃、0.1MPaGの前記検査用ガス中に前記分離膜構造体を60分間静置した場合、前記ゼオライト膜のCOガス透過速度低下率が10%未満となる特性を有
前記評価工程は、
前記ゼオライト膜の膜欠陥に由来する膜欠陥リーク量を下記式1に基づいて算出する工程と、
前記合計リーク量から前記膜欠陥リーク量を引くことによって、前記分離膜構造体のシール不良に由来するシールリーク量を算出する工程と、
前記シールリーク量に基づいて、前記分離膜構造体と前記ケーシングとの接合部分のシール性を評価する工程と、
を有する、
分離膜モジュールの製造方法。
Tb=A×(PH+PL)+B 式1
(ただし、式1において、Tbは前記ゼオライト膜の膜欠陥に由来するリーク量であり、PHは前記1次側の圧力であり、PLは前記2次側の圧力であり、A及びBは、それぞれ定数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、分離膜としての中空糸膜がケーシングに組み付けられた分離膜モジュールにおいて、分離膜の1次側に封入された検査用ガスの圧力変化に基づいて、分離膜モジュールにおけるガスリークを検査する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-216284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の手法では、検査用ガスの分子径と分離膜の細孔径と関係について検討されていないため、検査用ガスが分離膜の細孔を透過する場合があり、ガスリークを精度良く検査することができない。
【0005】
また、特許文献1の手法では、分離膜に対する検査用ガスの吸着性/凝縮性について検討されていないため、検査用ガスが分離膜に吸着/凝縮することによって細孔が閉塞する場合があり、検査後に分離膜の透過性能が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、分離膜の透過性能の低下を抑制しつつ精度良くガスリークを検査可能な分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る分離膜モジュールの検査方法は、多孔質基材とゼオライト膜とを有する分離膜構造体と、分離膜構造体が組み付けられたケーシングとを備える分離膜モジュールの検査方法であって、ゼオライト膜の1次側に検査用ガスを封入する封入工程を備える。検査用ガスの動的分子径は、ゼオライト膜の細孔径の1.07倍より大きい。検査用ガスは、25℃、0.1MPaGの検査用ガス中に分離膜構造体を60分間静置した場合、ゼオライト膜のCOガス透過速度低下率が10%未満となる特性を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、分離膜の透過性能の低下を抑制しつつ精度良くガスリークを検査可能な分離膜モジュールの検査方法及び分離膜モジュールの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】分離膜モジュールの断面図
図2】検査用ガスの選定方法を説明するための模式図
図3】検査用ガスの選定方法を説明するための模式図
図4】検査用ガスを用いた検査方法を説明するための模式図
図5】検査用ガスを用いた検査方法を説明するための模式図
図6】膜欠陥リーク量算出式の取得法について説明するための模式図
図7】膜欠陥リーク量算出式の取得法について説明するための模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(分離膜モジュール10)
図1は、分離膜モジュール10の断面図である。分離膜モジュール10は、分離膜構造体1とケーシング2とを備える。
【0011】
1.分離膜構造体1
分離膜構造体1は、モノリス型である。モノリス型とは、長手方向に貫通した複数のセルを有する形状を意味し、ハニカムを含む概念である。分離膜構造体1は、ケーシング2の内部に配置される。
【0012】
分離膜構造体1は、多孔質基材11と、分離膜としてのゼオライト膜12とを有する。
【0013】
(1)多孔質基材11
多孔質基材11は、長手方向に延びる円柱状に形成される。多孔質基材11の内部には、複数のセルCLが形成されている。各セルCLは、長手方向に延びる。各セルCLは、多孔質基材11の両端面に連なる。
【0014】
多孔質基材11は、骨材と結合材によって構成される。骨材としては、アルミナ、炭化珪素、チタニア、ムライト、セルベン、及びコージェライトなどを用いることができる。結合材としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の少なくとも一方と、ケイ素(Si)と、アルミニウム(Al)とを含むガラス材料を用いることができる。基材11における結合材の含有率は、20体積%以上40体積%以下とすることができ、25体積%以上35体積%以下が好ましい。
【0015】
多孔質基材11の気孔率は特に制限されないが、例えば25%~50%とすることができる。多孔質基材11の気孔率は、水銀圧入法によって測定できる。多孔質基材11の細孔径は特に制限されないが、0.1μm~50μmとすることができる。多孔質基材11の細孔径は、細孔径の大きさに応じて、水銀圧入法、ASTM F316に記載のエアフロー法、パームポロメトリー法によって測定できる。
【0016】
(2)ゼオライト膜12
ゼオライト膜12は、各セルCLの内表面に形成される。ゼオライト膜12は、筒状に形成される。ゼオライト膜12は、分離対象である混合流体に含まれる透過成分を透過させる。混合流体は、ゼオライト膜12の内表面側(以下、「1次側」という。)に供給され、透過成分は、ゼオライト膜12の外表面側(以下、「2次側」という。)から流出する。ゼオライト膜12の内表面は、セルCLの内表面でもある。ゼオライト膜12の外表面は、多孔質基材11との接続面である。本実施形態において、ゼオライト膜12の内表面及び外表面は、それぞれゼオライト膜12の主面である。
【0017】
なお、分離対象である混合流体は、混合気体であってもよいし、混合液体であってもよいが、本実施形態では特に混合気体が分離対象として想定されている。
【0018】
ゼオライト膜12を構成するゼオライトの結晶構造は特に限られるものではなく、例えばDDR、LTA、MFI、MOR、FER、FAU、CHA、BEA、AEIなどを用いることができる。ゼオライト膜12がDDR型のゼオライト膜である場合には、例えば天然ガスから二酸化炭素を選択的に分離するのに特に好適である。
【0019】
ゼオライト膜12の細孔径は、要求される濾過性能及び分離性能に基づいて適宜決定されればよいが、例えば0.2nm~1nmとすることができる。ゼオライト膜12の細孔径は、後述する検査用ガスの選定を考慮すると、0.5nm以下が好ましく、0.4nm以下が特に好ましい。
【0020】
ゼオライト膜12の細孔径は、ゼオライト膜12を構成するゼオライトの結晶構造によって一義的に決定される。ゼオライト膜12の細孔径は、The International Zeolite Association (IZA) “Database of Zeolite Structures” [online]、インターネット<URL:http://www.iza-structure.org/databases/>に開示されている値から求めることができる。
【0021】
また、本実施形態では、ゼオライト膜12の細孔径に短径と長径がある場合には、「短径」をゼオライト膜12の細孔径として用いるものとする。「短径」を細孔径とするのは、後述するガスリーク検査において、検査用ガスがゼオライト膜12の細孔を透過してしまうことを効果的に抑制するためである。
【0022】
2.ケーシング2
ケーシング2は、本体部20、供給路21、第1回収路22及び第2回収路23を有する。
【0023】
本体部20は、分離膜構造体1を収容する。本体部20は、金属部材(例えば、ステンレスなど)によって構成することができる。分離膜構造体1の両端部は、Oリング3を介して、本体部20の内部に組み付けられる。
【0024】
ただし、Oリング3周辺、すなわち分離膜構造体1とケーシング2との接合部分からリークが生じる場合があるため、検査用ガスを用いてガスリーク検査を行う必要がある。検査用ガスを用いたガスリーク検査については後述する。
【0025】
供給路21は、分離対象である混合流体を本体部20に供給するための配管である。供給路21は、金属部材(例えば、ステンレスなど)によって構成することができる。
【0026】
第1回収路22は、分離膜構造体1のセルCLを通過した、残りの混合流体を外部に排出するための配管である。第1回収路22は、金属部材(例えば、ステンレスなど)によって構成することができる。
【0027】
第2回収路23は、分離膜構造体1のゼオライト膜12を透過した透過成分を外部に排出するための配管である。第2回収路23は、金属部材(例えば、ステンレスなど)によって構成することができる。
【0028】
(分離膜モジュール10の作製方法)
分離膜モジュール10の作製方法の一例について説明する。
【0029】
1.多孔質基材11の作製
まず、骨材と結合材にメチルセルロースなどの有機バインダと分散材と水を加えて混練することによって坏土を調製する。
【0030】
次に、真空押出成形機を用いた押出成形法、プレス成型法、又は鋳込み成型法により、調製した坏土を用いてモノリス型成形体を形成する。
【0031】
次に、モノリス型成形体を焼成(例えば、500℃~1500℃、0.5時間~80時間)することによって、複数のセルCLを有する多孔質基材11を形成する。
【0032】
2.ゼオライト膜12の作製
次に、多孔質基材11の各セルCLの内表面にゼオライト膜12を形成する。これにより、分離膜構造体1が完成する。なお、ゼオライト膜12の形成には、ゼオライト膜12を構成する結晶構造に適した手法を用いればよい。
【0033】
3.分離膜モジュール10のガスリーク検査
次に、検査用ガスを用いて、以下のように分離膜モジュール10のガスリーク検査を実施する。
【0034】
(1)検査用ガスの選定
はじめに、ガスリーク検査に用いられる検査用ガスの選定手法について説明する。
【0035】
ガスリーク検査に用いられる検査用ガスは、ゼオライト膜12に吸着/凝縮しにくい特性、すなわち、ゼオライト膜12の細孔を閉塞しにくい特性を有していることが好ましい。そのため、検査用ガスがゼオライト膜12に吸着/凝縮しにくいものであることを、以下の手法で予め確認しておく必要がある。
【0036】
まず、図2に示すように、分離膜構造体1にOリング3を取り付けてケーシング2a内に封止する。ケーシング2aは、上述したケーシング2と同じ構造であってもよいが、ここでは検査用ガスの吸着性/凝縮性を確認できればよいため、ケーシング2より簡易的な構造であってもよい。
【0037】
次に、供給路21から0.1MPaGの二酸化炭素(CO)ガスをゼオライト膜12の1次側に供給する。この際、第1回収路22を封止弁で封止してもよい。
【0038】
次に、ゼオライト膜12の2次側に透過したCOガスの透過流量に基づいて、COガス透過速度[nmol/msPa]を測定する。
【0039】
次に、検査用ガスを準備する。検査用ガスとしては、動的分子径がゼオライト膜12の細孔径の1.07倍より大きいものを選択する。これにより、後述するガスリーク検査において、検査用ガスがゼオライト膜12の細孔を透過することを抑制できるため、ガスリークを精度良く検査することができる。
【0040】
なお、上述のとおり、ゼオライト膜12の細孔径に長径と短径がある場合には、検査用ガスの動的分子径をゼオライト膜12の「短径」の1.07倍より大きくする。これは、検査用ガスの動的分子径がゼオライト膜12の長径より小さかったとしても、短径の1.07倍より大きければ、検査用ガスは細孔に入り込みにくくなるからである。
【0041】
次に、分離膜構造体1をケーシング2から取り出して、図3に示すように、分離膜構造体1を検査用ガス(25℃、0.1MPaG)中で60分間静置することによって、ゼオライト膜12を検査用ガスに暴露させる。暴露は検査用ガスが分離膜12に接していればよく、セル内のみに充填する方法でもよい。
【0042】
次に、分離膜構造体1を検査用ガス中から取り出して、図2に示したように、ケーシング2aに再度組み付ける。
【0043】
次に、供給路21から0.1MPaGのCOガスをゼオライト膜12の1次側に供給する。この際、第1回収路22を封止弁で封止してもよい。
【0044】
次に、ゼオライト膜12の2次側に透過したCOガスの透過流量に基づいて、COガス透過速度[nmol/msPa]を再測定する。
【0045】
次に、検査用ガスへの暴露前に測定したCOガス透過速度から検査用ガスへの暴露後に測定したCOガス透過速度を引いた値を暴露前のCOガス透過速度で除すことによって、検査用ガスへの暴露後におけるCOガス透過速度低下率を算出する。
【0046】
そして、算出したCOガス透過速度低下率が10%未満であれば、この検査用ガスは、ゼオライト膜12に吸着/凝縮しにくいため、ガスリーク検査に好適であると判断される。一方、算出したCOガス透過速度低下率が10%以上である場合には、他の検査用ガスについてCOガス透過速度低下率を算出し、再度、10%未満であるか否かを判定する。
【0047】
このように選定される検査用ガスは、ゼオライト膜12の種類や組成などによって異なる。そのため、検査用ガスは、実際に使用されるゼオライト膜12に応じて選定されるべきものであり、検査用ガスの種類は特に制限されない。
【0048】
例えば、ゼオライト膜12としてDDR型のゼオライト膜を用いる場合には、検査用ガスとしてCF及びSFなどから選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0049】
なお、検査用ガスは、動的分子径がゼオライト膜12の細孔径の1.07倍より大きく、かつ、COガス透過速度低下率が10%未満になる特性を有する限り、複数種のガスが混合された混合ガスであってもよい。
【0050】
また、検査用ガスは、不燃性であることが好ましい。これにより、検査用ガスを用いたガスリーク検査を安全に実施することができる。
【0051】
また、検査用ガスは、分離膜構造体1及びケーシング2に対して不活性であることが好ましい。これにより、ゼオライト膜12が検査用ガスと反応して劣化したり、ケーシング2が検査用ガスと反応して腐蝕したりすることを抑制できる。
【0052】
(2)ガスリーク検査
次に、上記手法で選定した検査用ガスを用いたガスリーク検査の詳細を説明する。
【0053】
まず、図4に示すように、分離膜構造体1の両端部にOリング3を装着して、ケーシング2の内部に組み付ける(組み付け工程)。
【0054】
次に、第1回収路22を封止弁24で封止した後、上記手法で選定した検査用ガスを本体部20内に充填する。そして、図5に示すように、検査用ガスが所定圧力になった時点で、供給路21を封止弁25で封止する。これによって、ゼオライト膜12の1次側(内表面側)に検査用ガスが封入される(封入工程)。
【0055】
ゼオライト膜12の1次側における検査用ガスの所定圧力は特に制限されないが、実際のガス分離膜使用条件におけるリーク検査としての精度を更に向上することを考慮すると、1MPaG以上であることが好ましく、3MPaG以上であることがより好ましい。また、封入された検査用ガスの蒸気圧は特に制限されないが、ゼオライト膜12に対する検査用ガスの吸着性/凝縮性を更に抑制することを考慮すると、蒸気圧が100kPa以下である成分は検査用ガスに含まれないことが好ましく、蒸気圧が60kPa以下である成分は検査用ガスに含まれないことがより好ましい。検査用ガスの蒸気圧は、検査用ガスの温度の調整によって制御することができる。なお、図5に示すように、第2回収路23は閉塞されておらず、ゼオライト膜12の2次側(外表面側)は大気圧開放されている。
【0056】
次に、ゼオライト膜12の2次側への検査用ガスの合計リーク量Taを取得する。合計リーク量Taは、ゼオライト膜12の膜欠陥に由来する膜欠陥リーク量Tbと、分離膜構造体1のシール不良に由来するシールリーク量Tcとの合計である。合計リーク量Taは、ゼオライト膜12の1次側における検査用ガスの圧力変化(圧力低下幅)に基づいて算出することが好ましい。これにより、例えば風量計を用いる場合などに比べて、合計リーク量Taを精度良く取得することができる。
【0057】
次に、検査用ガスの合計リーク量Taに基づいて、分離膜モジュール10におけるガスリークを評価する(評価工程)。本実施形態では、合計リーク量Taから膜欠陥リーク量Tbを引いたシールリーク量Tcが所定閾値以下であるか否かを確認することによって、分離膜モジュール10におけるガスリークを評価する。シールリーク量Tcが所定閾値以下であれば、分離膜構造体1とケーシング2との接合部分のシール性は良好であると判断され、シールリーク量Tcが所定閾値より大きければ、分離膜構造体1とケーシング2との接合部分のシールは不良であると判断される。
【0058】
このように、シールリーク量Tcに基づいて分離膜モジュール10におけるガスリークを評価するには、合計リーク量Taに含まれる膜欠陥リーク量Tbを算出する必要がある。膜欠陥リーク量Tbを正確に算出するには、ゼオライト膜12に固有の膜欠陥リーク量算出式を予め取得しておく必要がある。以下、膜欠陥リーク量算出式の取得法について説明する。
【0059】
まず、図6に示すように、分離膜構造体1にOリング3を取り付けてケーシング2b内に封止する。ケーシング2bは、上述したケーシング2と同じ構造であってもよいが、ここではゼオライト膜12における膜欠陥の程度を確認できればよいため、ケーシング2より簡易的な構造であってもよい。
【0060】
次に、ゼオライト膜12の1次側に検査用ガスを封入する。この際、1次側の圧力をPH1とし、2次側の圧力をPL1とする。そして、ゼオライト膜12の膜欠陥を通って2次側にリークする検査用ガスの膜欠陥リーク流量に基づいて膜欠陥リーク速度Q1[nmol/msPa]を算出する。なお、圧力PH1は、ガスリーク検査時に検査用ガスに印加される所定圧力よりも小さいことが好ましい。これは、圧力PH1が大きすぎると、シールリークが生じてしまい、膜欠陥リークだけを検出することができなくなるからである。
【0061】
次に、ゼオライト膜12の1次側に検査用ガスを再び封入する。この際、1次側の圧力をPH2とし、2次側の圧力をPL2とする。圧力PH2は、圧力PH1とは異なる値にする必要があるが、圧力PL2は圧力PL1と同じであってもよい。そして、ゼオライト膜12の膜欠陥を通って2次側に透過する検査用ガスの膜欠陥リーク流量に基づいて膜欠陥リーク速度Q2[nmol/msPa]を算出する。
【0062】
次に、図7に示すように、1次側の圧力PHと2次側の圧力PLの和(PH+PL)をX軸とし、検査用ガスの膜欠陥リーク速度QをY軸とする二次元座標上に、点M(PH1+PL1、Q1)と点N(PH2+PL2、Q2)をプロットする。そして、これら2点を結ぶ直線Lを表す式が、膜欠陥リーク量算出式となる。
【0063】
具体的には、膜欠陥リーク量算出式は、次の式1によって表される。
【0064】
Tb=A×(PH+PL)+B ・・・式1
式1において、Tbはゼオライト膜12の膜欠陥に由来するリーク量であり、Aは直線Lの傾きであり、Bは直線Lのy切片である。
【0065】
なお、図7では、点Mと点Nの2点から膜欠陥リーク量算出式を求めたが、プロット数を増やすほど正確な膜欠陥リーク量算出式を求めることができる。プロット数が3つ以上である場合には、最小二乗法を用いた直線近似によって直線Lが得られる。
【0066】
このように得られた式1に、ガスリーク検査時の1次側の圧力PHと2次側の圧力PLを代入することによって、ガスリーク検査時の膜欠陥リーク量Tbが算出される。そして、上述のとおり、合計リーク量Taから膜欠陥リーク量Tbを引くことによって、シールリーク量Tcを算出することができる。
【0067】
(3)検査用ガスの回収
上述したガスシール検査の終了後、検査用ガスを第1回収路22から回収する(回収工程)。この回収工程では、検査用ガスと同種のガスが封入された回収用タンクを用いて、検査用ガスを回収することが好ましい。これによって、回収した検査用ガスを再利用しやすくすることができる。
【0068】
以上説明した組み付け工程、封入工程、評価工程及び回収工程を経て分離膜モジュール10が完成する。
【実施例
【0069】
(サンプルNo.1)
1.分離膜構造体の作製
まず、平均粒径12μmのアルミナ粒子(骨材)70体積%に対して無機結合材30体積%を添加し、更に有機バインダ等の成形助剤や造孔剤を添加して乾式混合した後、水、界面活性剤を加えて混合し混練することにより坏土を調製した。無機結合材としては、平均粒径が1~5μmであるタルク、カオリン、長石、粘土等をSiO(70質量%)、Al(16質量%)、アルカリ土類金属およびアルカリ金属(11質量%)の混合物を用いた。
【0070】
次に、坏土を押出成形して、モノリス型の多孔質基材の成形体を作成した。そして、多孔質基材の成形体を焼成(1250℃、1時間)して、多数のセルを有するアルミナ基体を得た。
【0071】
次に、アルミナ粉末にPVA(有機バインダ)を添加してスラリーを調製し、スラリーを用いた濾過法によってアルミナ基体のセルの内表面上に中間層の成形体を形成した。続いて、中間層の成形体を焼成(1250℃、1時間)することによって中間層を形成した。
【0072】
次に、アルミナ基体の両端面をガラスでシールした。以上により、モノリス型の多孔質基材が完成した。
【0073】
次に、国際公開番号WO2011105511に記載の方法に基づき、多孔質基材の各セルの内表面の中間層上にDDR型ゼオライト膜(細孔径:0.40nm)を分離膜として形成した。以上により、DDR型ゼオライト膜と、DDR型ゼオライト膜が形成された多孔質基材とによって構成されるサンプルNo.1に係る分離膜構造体が完成した。
【0074】
2.検査用ガスとしてのCFの評価
まず、Oリングを取り付けた分離膜構造体をケーシング内に組み付けた(図2参照)。
【0075】
次に、0.1MPaGの二酸化炭素(CO)ガスをDDR型ゼオライト膜の1次側に供給して、ゼオライト膜の2次側に透過したCOガスの透過流量に基づいてCOガス透過速度を測定した。COガス透過速度は、760[nmol/msPa]であった。
【0076】
次に、検査用ガスしてCFガスを準備した。CFガスの動的分子径は0.47nmであり、DDR型ゼオライトの細孔径(短径)は0.36nmである。従って、CFガスの動的分子径は、DDR型ゼオライトの細孔径の1.31倍であるので、CFガスはDDR型ゼオライト膜の細孔を透過しにくいガスであると判断した。
【0077】
次に、分離膜構造体をケーシングから取り出して、CFガス(25℃、0.1MPaG)中で60分間静置した(図3参照)。CFガスの臨界圧力は3.7MPaであるため、25℃でのCFガスの蒸気圧は100kPa以下ではない。
【0078】
次に、分離膜構造体をCFガス中から取り出して、ケーシングに再度組み付けた(図2参照)。
【0079】
次に、0.1MPaGのCOガスをDDR型ゼオライト膜の1次側に供給し、DDR型ゼオライト膜の2次側に透過したCOガスの透過流量に基づいてCOガス透過速度を測定した。COガス透過速度は、760[nmol/msPa]であった。
【0080】
このように、CFガスへの暴露前後でCOガス透過速度は変わらなかったため、暴露後におけるCOガス透過速度低下率は0%であった。このことから、CFガスは、DDR型ゼオライト膜に吸着/凝縮しにくいガスであると判断した。
【0081】
以上より、CFガスは、DDR型ゼオライト膜のガスリーク検査に好適であると評価できた。
【0082】
3.膜欠陥リーク量算出式の取得
後述するガスリーク検査において、合計リーク量から膜欠陥リーク量を差し引いてシールリーク量を求めるために、膜欠陥リーク量算出式を取得した。
【0083】
まず、Oリングを取り付けた分離膜構造体をケーシング内に組み付けた(図6参照)。
【0084】
次に、DDR型ゼオライト膜の1次側にCFガスを封入して、DDR型ゼオライト膜の2次側にリークするCFガスの膜欠陥リーク流量に基づいて膜欠陥リーク速度[nmol/msPa]を算出した。この際、1次側の圧力を0.1MPaG、0.2MPaG、0.3MPaG、0.35MPaGに変更し、2次側の圧力を0.0MPaGに維持した4水準について、膜欠陥リーク速度を取得した。
【0085】
そして、1次側の圧力と2次側の圧力の和をX軸とし、CFガスの膜欠陥リーク速度をY軸とする二次元座標上に4水準の測定結果をプロットし、最小二乗法を用いて直線近似することによって膜欠陥リーク量算出式を求めた。
【0086】
サンプルNo.1のDDR型ゼオライト膜についての膜欠陥リーク量算出式は、次の式2とおりであった。
【0087】
膜欠陥リーク量=0.207×(1次側の圧力と2次側の圧力の和)+0.163 ・・・式2
【0088】
4.ガスリーク検査
次に、検査用ガスとしてCFガスを用いたガスリーク検査を実施した。
【0089】
まず、Oリングを取り付けた分離膜構造体をケーシング内に組み付けた(図2参照)。
【0090】
次に、DDR型ゼオライト膜の1次側にCFガスを3MPaGで充填して、DDR型ゼオライト膜の2次側は大気圧開放した。
【0091】
次に、1次側におけるCFガスの圧力低下幅に基づいて、2次側へのCFガスの合計リーク量を取得した。
【0092】
次に、式2に、1次側の圧力3MPaGと2次側の圧力0MPaGを代入することによって、ガスリーク検査におけるCFガスの膜欠陥リーク量を算出した。
【0093】
次に、CFガスの合計リーク量からCFガスの膜欠陥リーク量を引くことによって、CFガスのシールリーク量を算出した。そして、CFガスのシールリーク量が所定の閾値以下であるか否かを評価した。
【0094】
その後、1次側のCFガスをステンレス製のタンクに回収して、ガスリーク検査を終了した。
【0095】
(サンプルNo.2)
サンプルNo.2では、サンプルNo.1と同じ分離膜モジュールを作製して、検査用ガスとしてSFガスを用いて分離膜モジュールのガスリーク検査を行った。
【0096】
SFガスの動的分子径は0.55nmであり、DDR型ゼオライトの細孔径の1.53倍であるので、SFガスはDDR型ゼオライト膜の細孔を透過しにくいガスであると判断した。
【0097】
また、表1に示すように、SFガスへの暴露前後でCOガス透過速度は変わらなかったため、暴露後におけるCOガス透過速度低下率は0%であった。このことから、SFガスは、DDR型ゼオライト膜に吸着/凝縮しにくいガスであると判断した。
【0098】
以上より、SFガスは、DDR型ゼオライト膜のガスリーク検査に好適であると評価できた。
【0099】
(サンプルNo.3)
サンプルNo.3では、国際公開番号WO2014/157324に記載の方法で作製したAEI型ゼオライト膜を備える分離膜モジュールを作製して、サンプルNo.1と同様、CFガスを用いてガスリーク検査を行った。
【0100】
CFガスの動的分子径は0.47nmであり、AEI型ゼオライトの細孔径は0.38である。従って、CFガスの動的分子径は、AEI型ゼオライトの細孔径の1.23倍であるので、CFガスはAEI型ゼオライト膜の細孔を透過しにくいガスであると判断した。
【0101】
また、表1に示すように、CFへの暴露前のCOガス透過速度は369[nmol/msPa]であり、CFガスへの暴露後のCOガス透過速度は368[nmol/msPa]であった。従って、暴露後におけるCOガス透過速度低下率は0.3%であった。このことから、CFガスは、AEI型ゼオライト膜に吸着/凝縮しにくいガスであると判断した。
【0102】
以上より、CFガスは、AEI型ゼオライト膜のガスリーク検査に好適であると評価できた。
【0103】
【表1】
【符号の説明】
【0104】
10 分離膜モジュール
1 分離膜構造体
11 多孔質基材
12 ゼオライト膜
2 ケーシング
21 供給路
22 第1回収路
23 第2回収路
CL セル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7