(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】増感色素、光電変換用増感色素組成物およびそれを用いた光電変換素子ならびに色素増感太陽電池
(51)【国際特許分類】
C09B 23/14 20060101AFI20220330BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20220330BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20220330BHJP
H01G 9/20 20060101ALI20220330BHJP
C09B 23/04 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C09B23/14 CSP
C09B23/14 500
C09B57/00 N
C09K3/00 T
H01G9/20 113A
C09B23/04
(21)【出願番号】P 2019509014
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2018007128
(87)【国際公開番号】W WO2018180112
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】P 2017064952
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】岡地 誠
(72)【発明者】
【氏名】木村 育夫
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 直朗
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-164851(JP,A)
【文献】特開2013-060581(JP,A)
【文献】特表2012-530796(JP,A)
【文献】特開2016-006811(JP,A)
【文献】CHEM.EUR.J.,2011年,17,pp.6415-6424
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B23
C09B57
C09K3
H01G9
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される増感色素。
【化1】
[式中、Arは置換基を有していてもよい炭素原子数6~36のアリール基を表す。
R
1~R
4は同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~36のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~36のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~36のアリール基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数0~36のアミノ基を表し、
R
1~R
4は隣り合う基同士で互いに結合して環を形成していてもよい。
Xは硫黄原子、酸素原子またはCR
5R
6を表す。
R
5、R
6は同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6~36のアリール基を表す。
Ar、及びR
1
~R
6
で表される「炭素原子数6~36のアリール基」、並びに、R
1
~R
4
で表される「炭素原子数3~36のシクロアルキル基」、「炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」、「炭素原子数3~36のシクロアルコキシ基」及び「炭素原子数0~36のアミノ基」が置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲン原子;シアノ基;水酸基;ニトロ基;ニトロソ基;チオール基;炭素原子数1~30の直鎖状のアルキル基;炭素原子数3~30の分岐状のアルキル基;炭素原子数3~30のシクロアルキル基;炭素原子数1~30の直鎖状のアルコキシ基;炭素原子数3~30の分岐状のアルコキシ基;炭素原子数3~30のシクロアルコキシ基;炭素原子数2~30の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基;炭素原子数6~30のアリール基;無置換アミノ基;炭素原子数1~16の置換基を有するアミノ基;及びカルボン酸エステル基からなる群より選択される1つ、又は複数の基であり、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
R
1
~R
6
で表される「炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、及びR
1
~R
4
で表される「炭素原子数2~36の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」が置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲン原子;シアノ基;水酸基;ニトロ基;ニトロソ基;チオール基;炭素原子数3~34のシクロアルキル基;炭素原子数1~34の直鎖状のアルコキシ基;炭素原子数3~34の分岐状のアルコキシ基;炭素原子数3~34のシクロアルコキシ基;炭素原子数6~34のアリール基;無置換アミノ基;炭素原子数1~16の置換基を有するアミノ基;カルボキシル基;及びカルボン酸エステル基からなる群より選択される1つ、又は複数の基であり、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
Zは、
下記一般式(2)で表される1価基を表す。]
【化2】
[式中、R
7
~R
12
は同一でも異なっていてもよく、水素原子、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数2~18の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基を表し、
R
7
とR
8
、R
9
とR
10
、R
11
とR
12
は、それぞれ互いに結合し、環を形成していてもよい。
mは0~2の整数、nは0~4の整数を表し、mが2である場合、またはnが2~4の整数である場合、複数存在するR
7
~R
12
は、そのR
7
同士、R
8
同士、R
9
同士、R
10
同士、R
11
同士、R
12
同士がそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
R
7
~R
12
で表される「炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」、及び「炭素原子数2~18の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」が置換基を有する場合、当該置換基は、ハロゲン原子;シアノ基;水酸基;ニトロ基;ニトロソ基;チオール基;炭素原子数3~16のシクロアルキル基;炭素原子数1~16の直鎖状のアルコキシ基;炭素原子数3~16の分岐状のアルコキシ基;炭素原子数3~16のシクロアルコキシ基;炭素原子数6~34のアリール基;無置換アミノ基;炭素原子数1~16の置換基を有するアミノ基;カルボキシル基;及びカルボン酸エステル基からなる群より選択される1つ、又は複数の基であり、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。
R
13およびR
14は水素原子または
カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキサム酸基、ホスホン酸基、ホウ酸基、ホスフィン酸基、及びシラノール基からなる群より選択される酸性基を表し、少なくともR
13またはR
14のいずれか1個は酸性基であるものとする。]
【請求項2】
前記一般式(2)において、R
7
~R
12
が水素原子または無置換の炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である、請求項1に記載の増感色素。
【請求項3】
前記一般式(2)において、mが0、かつ、nが0である、請求項1または2に記載の増感色素。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の増感色素を含む光電変換用増感色素組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の光電変換用増感色素組成物を用いた光電変換素子。
【請求項6】
請求項5に記載の光電変換素子を用いた色素増感太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は増感色素、色素増感型の光電変換素子に用いられる光電変換用増感色素組成物と、該光電変換用増感色素組成物を用いた光電変換素子ならびに色素増感太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料から生じる二酸化炭素が温室効果ガスとして地球温暖化や、地球温暖化による環境破壊を引き起こしており、人口増加に伴う世界的なエネルギー消費の増大により、地球規模での環境破壊がますます進行することが懸念されている。このような状況において、化石燃料とは異なり枯渇する恐れの少ない再生可能エネルギーの利用が精力的に検討されている。化石燃料を消費する火力発電や原子力発電に替わって、地球温暖化防止に貢献できる次世代の主要な再生可能エネルギーによる発電方式として、太陽光発電を中心とする太陽エネルギーの利用は、その重要性がますます高まっており、腕時計や携帯小型電子機器の発電・充電用から、光熱費の節約可能な住宅、ビルや休耕地での小規模発電施設に至るまで、様々な分野での開発や応用が進んでいる。
【0003】
太陽光発電の手段としては、太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子が太陽電池に使用されており、太陽電池としては、単結晶、多結晶、アモルファスのシリコン系、ガリウムヒ素、硫化カドミウム、セレン化インジウム銅などの化合物半導体系といった無機系太陽電池が主に研究され、現在、住宅や小規模発電施設で広く実用化されている。しかし、これらの無機系太陽電池は製造コストが高いことや、原材料の確保が困難であることなどの問題点を抱えている。
【0004】
その一方で、無機系太陽電池と比べると光電変換効率や耐久性はまだ格段に低いものの、様々な有機材料を用いた有機薄膜太陽電池や色素増感太陽電池などの有機系太陽電池も開発されている。有機系太陽電池は、製造コスト、大面積化、軽量化、薄膜化、透光性、吸収波長の広範囲化、フレキシブル化、原材料確保などの点で、無機系太陽電池より有利と言われている。
【0005】
その中でも、グレッツェルらにより提案された色素増感太陽電池(非特許文献1参照)は、半導体として酸化チタン多孔質からなる薄膜電極、感光波長域を広げるために半導体表面に吸着させたルテニウム錯体色素、ヨウ素を含む電解液から構成される湿式太陽電池であり、アモルファスシリコン太陽電池に匹敵する高い光電変換効率が期待されている。色素増感太陽電池は、他の太陽電池に比べて素子構造が簡単で、大型の製造設備がなくても製造できることから、次世代型太陽電池として注目を集めている。
【0006】
色素増感太陽電池に用いられる増感色素としては、光電変換効率の点からは、ルテニウム錯体が最も優位と考えられているが、ルテニウムは貴金属であるため製造コスト面で不利であり、かつ、実用化されて大量のルテニウム錯体が必要になった場合には、資源的な制約も問題となる。そのため、増感色素として、ルテニウムなどの貴金属を含まない有機色素を用いた色素増感太陽電池の研究が盛んに行われている。貴金属を含まない有機色素としては、クマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、キサンテン系色素などが報告されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0007】
また、酸化チタンなどの半導体粒子表面に吸着し、かつ、増感色素で発生した励起電子を効率よく半導体に運搬するための電子吸引部として、インダノン構造を有する化合物も提案されている(例えば、特許文献4~6参照)。しかしながら、これらの有機色素は、安価で吸光係数が大きく、かつ構造の多様性により吸収特性の制御が可能といった長所を有するものの、光電変換効率および経時安定性の面で、要求される特性を充分に満足するものが得られていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平11-214730号公報
【文献】特開平11-238905号公報
【文献】特開2011-26376号公報
【文献】特開2011-207784号公報
【文献】特開2012-51854号公報
【文献】特開2016-6811号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】「Nature」、(イギリス)、1991年、第353巻、p.737―740
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、感光波長域を広げることができる新規構造の増感色素を提供し、さらに該増感色素を効率よく電流を取り出すことができる光電変換用増感色素組成物として用いた、光電変換特性が良好な光電変換素子ならびに色素増感太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、発明者らは増感色素の光電変換特性向上について鋭意検討した結果、特定の構造を有する増感色素を光電変換用増感色素として用いることにより、高効率かつ高耐久性の光電変換素子が得られることを見出した。すなわち本発明は、以下の内容で構成されている。
【0012】
1.下記一般式(1)で表される増感色素。
【0013】
【0014】
[式中、Arは置換基を有していてもよい炭素原子数6~36のアリール基を表す。
R1~R4は同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、水酸基、ニトロ基、ニトロソ基、チオール基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~36のシクロアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数3~36のシクロアルコキシ基、
置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数6~36のアリール基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数0~36のアミノ基を表し、
R1~R4は隣り合う基同士で互いに結合して環を形成していてもよい。
Xは硫黄原子、酸素原子またはCR5R6を表す。R5、R6は同一でも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素原子数6~36のアリール基を表す。
Zは、1価基を表す。]
【0015】
2.前記一般式(1)において、Zが下記一般式(2)で表される1価基である増感色素。
【0016】
【0017】
[式中、R7~R12は同一でも異なっていてもよく、水素原子、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、
置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、
または置換基を有していてもよい炭素原子数2~18の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基を表し、
R7とR8、R9とR10、R11とR12は、それぞれ互いに結合し、環を形成していてもよい。
mは0~2の整数、nは0~4の整数を表し、mが2である場合またはnが2~4の整数である場合、複数存在するR7~R12は、そのR7同士、R8同士、R9同士、R10同士、R11同士、R12同士がそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
R13およびR14は水素原子または酸性基を表し、少なくともR13またはR14のいずれか1個は酸性基であるものとする。]
【0018】
3.前記一般式(2)において、R7~R12が水素原子または無置換の炭素原子数1~6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である、前記2に記載の増感色素。
【0019】
4.前記一般式(2)において、mが0、かつ、nが0である、前記2または3に記載の増感色素。
【0020】
5.前記増感色素を含む光電変換用増感色素組成物。
【0021】
6.前記光電変換用増感色素組成物を用いた光電変換素子。
【0022】
7.前記光電変換素子を用いた色素増感太陽電池。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る増感色素によれば、効率よく電流を取り出すことが可能な光電変換用増感色素組成物を得ることができる。また、該光電変換用増感色素組成物を用いることにより、高効率かつ高耐久性の光電変換素子および色素増感太陽電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明実施例および比較例の光電変換素子の構成を表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明の増感色素からなる光電変換用増感色素組成物は、色素増感型の光電変換素子において増感剤として用いられる。なお、本願明細書において、「増感色素」とは一般式(1)で表される化合物をいい、「光電変換用増感色素組成物」とは、一般式(1)で表される化合物の1種または2種以上を含み、任意選択的に本発明に属さない他の増感色素を含む組成物をいう。本発明の光電変換素子は、典型的には導電性支持体上の半導体層に色素を吸着させてなる光電極と対極とを電解質層を介して対向配置させたものである。
【0026】
以下に、前記一般式(1)で表される増感色素について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
一般式(1)において、ArまたはR1~R6で表される「置換基を有していてもよい炭素原子数6~36のアリール基」における「炭素原子数6~36のアリール基」としては具体的に、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などのアリール基があげられる。ここで、本発明における「アリール基」とは、芳香族炭化水素基および縮合多環芳香族基を表すものとし、これらの中でも、フェニル基またはナフチル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0028】
一般式(1)において、R1~R4で表される「ハロゲン原子」としては、具体的に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などがあげられる。
【0029】
一般式(1)において、R1~R6で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソオクチル基などの分岐状のアルキル基があげられる。
【0030】
一般式(1)において、R1~R4で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数3~36のシクロアルキル基」における「炭素原子数3~36のシクロアルキル基」としては具体的に、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基などのシクロアルキル基があげられる。
【0031】
一般式(1)において、R1~R4で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」における「炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」としては具体的に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基などの分岐状のアルコキシ基があげられる。
【0032】
一般式(1)において、R1~R4で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数3~36のシクロアルコキシ基」における「炭素原子数3~36のシクロアルコキシ基」としては具体的に、シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などのシクロアルコキシ基があげられる。
【0033】
一般式(1)において、R1~R4で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数2~36の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては具体的に、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1-ヘキセニル基などのアルケニル基、または、これらのアルケニル基が複数結合した、直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基があげられる。
【0034】
一般式(1)において、R1~R4で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数0~36のアミノ基」としては具体的に、無置換アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジ-t-ブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの、炭素原子数0~36の置換基を有するアミノ基があげられる。
【0035】
一般式(1)において、ArもしくはR1~R6で表される「置換基を有する炭素原子数6~36のアリール基」における「置換基」、または、
R1~R4で表される「置換基を有する炭素原子数3~36のシクロアルキル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」、
「置換基を有する炭素原子数3~36のシクロアルコキシ基」もしくは
「置換基を有する炭素原子数0~36のアミノ基」における「置換基」としては、
具体的に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;
シアノ基;水酸基;ニトロ基;ニトロソ基;チオール基;
メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの炭素原子数1~30の直鎖状のアルキル基;
イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソオクチル基などの炭素原子数3~30の分岐状のアルキル基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などの炭素原子数3~30のシクロアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などの炭素原子数1~30の直鎖状のアルコキシ基;
イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基などの炭素原子数3~30の分岐状のアルコキシ基;
シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの炭素原子数3~30のシクロアルコキシ基;
ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1-ヘキセニル基、または、これらのアルケニル基が複数結合した、炭素原子数2~30の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基;
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などの炭素原子数6~30のアリール基;
無置換アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジ-t-ブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの、炭素原子数1~30の置換基を有するアミノ基;
カルボキシル基;メチルエステル基、エチルエステル基などのカルボン酸エステル基;などをあげることができる。これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」はさらに前記例示した置換基を有していてもよい。
【0036】
一般式(1)において、R1~R6で表される
「置換基を有する炭素原子数1~36の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、または、
R1~R4で表される「置換基を有する炭素原子数2~36の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「置換基」としては、
具体的に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;
シアノ基;水酸基;ニトロ基;ニトロソ基;チオール基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などの炭素原子数3~34のシクロアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などの炭素原子数1~34の直鎖状のアルコキシ基;
イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基などの炭素原子数3~34の分岐状のアルコキシ基;
シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの炭素原子数3~34のシクロアルコキシ基;
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などの炭素原子数6~34のアリール基;
無置換アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジ-t-ブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの、炭素原子数1~34の置換基を有するアミノ基;
カルボキシル基;メチルエステル基、エチルエステル基などのカルボン酸エステル基;などをあげることができる。これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」はさらに前記例示した置換基を有していてもよい。
【0037】
一般式(1)において、R1~R4は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素原子数1~24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリール基、または置換基を有していてもよい炭素原子数0~24のアミノ基が好ましく、水素原子または置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリール基がより好ましい。
【0038】
一般式(1)において、R1~R4は上記で述べたとおりの置換基を表すが、隣り合う基同士で互いに結合して環を形成してもよく、それらの環は、単結合、または、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子のいずれかの原子を介した結合によって、互いに結合して環を形成してもよい。これらの環は、ベンゼン環が好ましい。
【0039】
一般式(1)において、XがCR5R6である場合におけるR5およびR6は、置換基を有していてもよい炭素原子数1~24の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または、置換基を有していてもよい炭素原子数6~24のアリール基が好ましく、置換基を有していてもよい炭素原子数1~12の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基がより好ましい。
【0040】
一般式(1)において、Zは、1価基を表し、一般式(2)で表される1価基であるのが好ましい。
【0041】
一般式(2)において、R7~R12で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」における「炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」としては具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などの直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソオクチル基などの分岐状のアルキル基があげられる。
【0042】
一般式(2)において、R7~R12で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」における「炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」としては具体的に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などの直鎖状のアルコキシ基;イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基などの分岐状のアルコキシ基があげられる。
【0043】
一般式(2)において、R7~R12で表される、「置換基を有していてもよい炭素原子数2~36の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数2~18の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては具体的に、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1-ヘキセニル基などのアルケニル基、または、これらのアルケニル基が複数個結合した、直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基があげられる。
【0044】
一般式(2)において、R7~R12で表される
「置換基を有する炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、
「置換基を有する炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基」または
「置換基を有する炭素原子数2~18の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「置換基」としては、
具体的に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;
シアノ基;水酸基;ニトロ基;ニトロソ基;チオール基;
シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などの炭素原子数3~16のシクロアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基などの炭素原子数1~16の直鎖状のアルコキシ基;
イソプロポキシ基、イソブトキシ基、s-ブトキシ基、t-ブトキシ基、イソオクチルオキシ基などの炭素原子数3~16の分岐状のアルコキシ基;
シクロプロポキシ基、シクロブトキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基などの炭素原子数3~16のシクロアルコキシ基;
フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基、トリフェニレニル基、インデニル基、フルオレニル基などの炭素原子数6~34のアリール基;
無置換アミノ基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ジ-t-ブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などの、炭素原子数1~16の置換基を有するアミノ基;
カルボキシル基;メチルエステル基、エチルエステル基などのカルボン酸エステル基;などをあげることができる。これらの「置換基」は、1つのみ含まれてもよく、複数含まれてもよく、複数含まれる場合は互いに同一でも異なっていてもよい。また、これら「置換基」はさらに前記例示した置換基を有していてもよい。
【0045】
一般式(2)において、R7~R12は、水素原子または置換基を有していてもよい炭素原子数1~18の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0046】
一般式(2)において、R7~R12は上記で述べたとおりの置換基を表すが、隣り合う基同士で互いに結合して環を形成してもよく、それらの環は、単結合、または、窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子のいずれかの原子を介した結合によって、互いに結合して環を形成してもよい。
【0047】
一般式(2)において、mおよびnはそれぞれ、色素部分で励起された電子を、電子吸引部であるインダノン基に運搬する連結基の役割を有する、アリール基およびチオフェン基の数を表す。mは0~2の整数を表し、0または1が好ましく、また、nは0~2が好ましく、0または1がより好ましい。
【0048】
一般式(2)において、R13およびR14は、水素原子または酸性基を表すが、少なくともR13またはR14のいずれか1個は酸性基であるものとする。R13およびR14で表される酸性基としては具体例に、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、ヒドロキサム酸基、ホスホン酸基、ホウ酸基、ホスフィン酸基、シラノール基などをあげることができる。これらの酸性基の中でも、増感色素を半導体層の表面上に容易に吸着させることができ、光電変換特性の向上につながることから、カルボキシル基またはホスホン酸基が好ましく、カルボキシル基がより好ましい。
【0049】
本発明において、一般式(1)で表される増感色素は、存在し得るすべての立体異性体を包含するものとする。いずれの立体異性体も本発明における増感色素として好適に使用することができる。例えば、一般式(1)において、Zが一般式(2)で表される1価基であり、かつ、R13が水素原子、R14がカルボキシル基である場合、本発明の増感色素は、下記一般式(3)および(4)で表される化合物を包含するものとする。また、これらの立体異性体から選ばれる2種以上の混合物であってもよい。
【0050】
【0051】
【0052】
一般式(1)で表される本発明の増感色素の化合物の具体例を以下の式に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、一般式(1)で表される増感色素におけるXは、硫黄原子、酸素原子またはCR5CR6を表すが、以下の例示化合物のXの部分にそれらのいずれかを有する化合物のみが示されていても、例示化合物としては、その他のXを有する化合物であってもよい。また、以下の例示化合物は、存在し得る立体異性体のうちの一例を示したものであり、その他すべての立体異性体を包含するものとする。また、それぞれ2種以上の立体異性体の混合物であってもよい。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
一般式(1)で表される本発明の増感色素は、公知の方法によって合成することができる。以下に、一般式(1)において、Zが一般式(2)で表される1価基である場合の合成例を示す。一般式(2)において、mが0、かつ、nが0(m=n=0)の場合を除き、下記一般式(5)で表され、相当する置換基を有するブロモ体と、下記一般式(6)または下記一般式(7)で表され、それぞれ相当する置換基およびホルミル基を有するボロン酸との、Suzukiカップリングなどのクロスカップリング反応を行うことにより、下記一般式(8)で表されるホルミル体を合成することができる。
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
上記一般式(8)で表されるホルミル体の合成例において、mが1または2、かつ、nが0の場合、一般式(6)で表されるホルミル基を有するボロン酸としては、4-ホルミルフェニルボロン酸や4-(4-ホルミルフェニル)フェニルボロン酸などがあげられる。また、上記合成例において、mが0、かつ、nが1~4の場合、一般式(7)で表されるホルミル基を有するボロン酸としては、5-ホルミル-2-チオフェンボロン酸または5’-ホルミル-2,2’-ビチオフェン-5-ボロン酸などがあげられる。さらに、mが1または2、かつ、nが1~4の場合は、一般式(5)で表されるブロモ体と、上記同様の一般式(7)で表されるホルミル基を有するボロン酸を用いて、上記合成例と同様のクロスカップリング反応を行うことにより、一般式(8)で表されるホルミル体を合成することができる。
【0121】
上記一般式(8)で表されるホルミル体の合成例において、mが0、かつ、nが0(m=n=0)の場合は、一般式(5)で表されるブロモ体と、ブチルリチウムなどとの金属ハロゲン交換により得られたアリールリチウムを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)で捕捉することにより、一般式(8)で表されるホルミル体(m=n=0)を合成することができる。
【0122】
続いて、上記のように得られた、一般式(8)で表されるホルミル体と、下記一般式(9)で表されるインデノン化合物との縮合反応を行うことにより、本発明の増感色素を合成することができる。ただし、上記合成例における一般式(5)~(9)中のArおよびR1~R14は、本発明における一般式(1)および一般式(2)におけるArおよびR1~R14と同じ意味を表す。したがって、一般式(5)~(9)において、mまたはnが複数の場合に複数存在するR7~R12は、そのR7同士、R8同士、R9同士、R10同士、R11同士、R12同士がそれぞれ互いに同一でも異なっていてもよく、R13およびR14は水素原子または酸性基を表し、少なくともR13またはR14のいずれか1個は酸性基であるものとする。
【0123】
【0124】
なお、出発原料となる上記式(5)などについては、市販のものを用いてもよいし、公知の方法により合成したものを用いてもよい。上記一般式(9)で表されるインデノン化合物は、前述した特許文献4~6に記載の方法で容易に合成することができる。
【0125】
一般式(1)で表される本発明の増感色素の化合物の精製方法としては、カラムクロマトグラフィーによる精製;シリカゲル、活性炭、活性白土などによる吸着精製;溶媒による再結晶や晶析法などの公知の方法があげられる。また、これらの化合物の同定は、核磁気共鳴分析(NMR)などにより行うことができる。
【0126】
本発明の増感色素は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、本発明の増感色素は、本発明に属さない他の増感色素と併用することができる。他の増感色素の具体例としては、ルテニウム錯体、クマリン系色素、シアニン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、フタロシアニン系色素、ポルフィリン系色素、キサンテン系色素などの前記一般式(1)で表される増感色素以外の増感色素をあげることができる。本発明の増感色素と、これら他の増感色素とを組み合わせて光電変換用増感色素組成物として用いる場合は、本発明の増感色素に対する他の増感色素の使用量を10~200重量%とするのが好ましく、20~100重量%とするのがより好ましい。
【0127】
本発明の増感色素は、ハロゲン化銀、酸化亜鉛、酸化チタンなど、各種イメージング材料用の感光体、光触媒、光機能性材料などの分光増感色素として応用でき、色素増感型の光電変換素子などに用いられる光電変換用増感色素組成物などとしても応用できる。本発明において色素増感型の光電変換素子を作製する方法は特に限定されないが、導電性支持体(電極)上に半導体層を形成し、該半導体層に本発明の光電変換用増感色素組成物を吸着(担持)させて、光電極を作製する方法が好ましい(
図1参照。なお、言うまでもなく、図は理解に資することを優先とするため、実際の素子の忠実な縮尺ではない)。色素を吸着させる方法としては、色素を溶媒に溶解して得られた溶液中に半導体層を長時間浸漬する方法が一般的である。本発明の増感色素を2種以上併用する場合、あるいは本発明の増感色素を他の増感色素と併用する場合は、使用するすべての色素の混合溶液を調製して半導体層を浸漬してもよく、また、それぞれの色素について別々の溶液を調製し、各溶液に半導体層を順に浸漬してもよい。
【0128】
本発明では、導電性支持体として金属板の他に、表面に導電性材料を有する導電層を設けたガラス基板やプラスチック基板を用いることができる。導電性材料の具体例としては、金、銀、銅、アルミニウム、白金などの金属、フッ素ドープの酸化スズ、インジウム-スズ複合酸化物などの導電性透明酸化物半導体、炭素などをあげることができるが、フッ素ドープの酸化スズ薄膜をコートしたガラス基板を用いるのが好ましい。
【0129】
本発明において半導体層を形成する半導体の具体例としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化鉄、酸化ガリウム、酸化ニッケル、酸化イットリウムなどの金属酸化物;硫化チタン、硫化亜鉛、硫化ジルコニウム、硫化銅、硫化スズ、硫化インジウム、硫化タングステン、硫化カドミウム、硫化銀などの金属硫化物;セレン化チタン、セレン化ジルコニウム、セレン化インジウム、セレン化タングステンなどの金属セレン化物;シリコン、ゲルマニウムなどの単体半導体などをあげることができる。これらの半導体は単独で用いるだけでなく、2種類以上を混合して用いることもできる。本発明においては、半導体として酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズから選択される1種または2種以上を用いるのが好ましい。
【0130】
本発明における半導体層の態様は特に限定されないが、微粒子からなる多孔質構造を有する薄膜が好ましい。多孔質構造などにより、半導体層の実質的な表面積が大きくなり、半導体層への色素吸着量が増大すると、高効率の光電変換素子を得ることができる。半導体粒子径は5~500nmが好ましく、10~100nmがより好ましい。半導体層の膜厚は通常2~100μmであるが、5~20μmがより好ましい。半導体層の作製方法としては、半導体微粒子を含むペーストをスピンコート法、ドクターブレード法、スキージ法、スクリーン印刷法などの湿式塗布法で導電性基板上に塗布した後、焼成により溶媒や添加物を除去して製膜する方法や、スパッタリング法、蒸着法、電着法、電析法、マイクロ波照射法などにより製膜する方法などがあげられるが、これらに限定されない。
【0131】
本発明において、半導体微粒子を含むペーストは市販品を用いてもよく、市販の半導体微粉末を溶媒中に分散させることによって調製したペーストなどを用いてもよい。ペーストを調製する際に使用する溶媒の具体例としては、水;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒をあげることができるが、これらに限定されない。また、これらの溶媒は単独あるいは2種以上の混合溶媒として使用することができる。
【0132】
本発明において半導体微粉末を溶媒中に分散させる方法としては、粉末を乳鉢などですりつぶしてから行ってもよく、ボールミル、ペイントコンディショナー、縦型ビーズミル、水平型ビーズミル、アトライターなどの分散機を用いてもよい。ペーストを調製する際には、半導体微粒子の凝集を防ぐために界面活性剤などを添加するのが好ましく、増粘させるためにポリエチレングリコールなどの増粘剤を添加するのが好ましい。
【0133】
本発明の光電変換用増感色素組成物の半導体層表面上への吸着は、例えば、該色素溶液中に半導体層を浸し、室温で30分~100時間あるいは加熱条件下で10分~24時間放置することにより行うことができる。その場合には、室温で10~20時間放置するのが好ましく、該色素溶液中の色素濃度は10~2000μMが好ましく、50~500μMがより好ましい。
【0134】
本発明の光電変換用増感色素組成物を、半導体層表面上に吸着させる際に用いる溶媒としては、具体的に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコールなどのアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどのエステル系溶媒;ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソランなどのエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどのアミド系溶媒;アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、ブロモホルム、o-ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素系溶媒などがあげられるが、これらに限定されない。これらの溶媒は単独あるいは2種以上の混合溶媒として使用される。これらの溶媒の中でも、メタノール、エタノール、t-ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、アセトニトリルから選択される1種または2種以上を用いるのが好ましい。
【0135】
本発明の光電変換用増感色素組成物を半導体層表面上に吸着する際には、コール酸またはデオキシコール酸、ケノデオキシコール酸、リソコール酸、デヒドロコール酸などのコール酸誘導体を色素溶液中に溶解し、色素と共吸着させてもよい。コール酸またはコール酸誘導体を用いることにより色素同士の会合が抑制され、光電変換素子において色素から半導体層へ効率よく電子注入できるようになる。コール酸またはコール酸誘導体を用いる場合、色素溶液中におけるそれらの濃度は0.1~100mMが好ましく、0.5~10mMがより好ましい。
【0136】
本発明の光電変換素子に用いる対極(電極)としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、レドックスイオンの酸化還元反応を促進するために、触媒能を持った導電性材料を使用するのが好ましい。該導電性材料の具体例としては、白金、ロジウム、ルテニウム、炭素などがあげられるが、これらに限定されない。本発明においては、導電性支持体上に白金の薄膜を形成したものを対極として用いるのが特に好ましい。また、導電性薄膜の作製方法としては、導電性材料を含むペーストをスピンコート法、ドクターブレード法、スキージ法、スクリーン印刷法などの湿式塗布法により導電性基板上に塗布した後、焼成により溶媒や添加物を除去して製膜する方法や、スパッタリング法、蒸着法、電着法、電析法、マイクロ波照射法などにより製膜する方法などがあげられるが、これらに限定されない。
【0137】
本発明の光電変換素子においては、一対の対向する電極間に電解質が充填され、電解質層が形成されている。用いる電解質としてはレドックス電解質が好ましい。レドックス電解質としては、ヨウ素、臭素、スズ、鉄、クロム、アントラキノンなどのレドックスイオン対があげられるが、これらに限定されない。これらの中ではヨウ素系電解質、臭素系電解質が好ましい。ヨウ素系電解質の場合は、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウムなどとヨウ素の混合物が用いられる。本発明では、これらの電解質を溶媒に溶解させて得られた電解液を用いるのが好ましい。電解液中の電解質の濃度は、0.05~5Mが好ましく、0.2~1Mがより好ましい。
【0138】
電解質を溶解させる溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル系溶媒;ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどのラクトン系溶媒などがあげられるが、これらに限定されない。これらの溶媒は、単独あるいは2種以上の混合溶媒として使用される。これらの溶媒の中でも、ニトリル系溶媒が好ましい。
【0139】
本発明においては、色素増感型光電変換素子の開放電圧およびフィルファクターのさらなる向上のため、前記電解液中にアミン系化合物を含有させてもよい。アミン系化合物としては、4-t-ブチルピリジン、4-メチルピリジン、2-ビニルピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルベンズイミダゾールなどがあげられる。電解液中のアミン系化合物の濃度は、0.05~5Mが好ましく、0.2~1Mがより好ましい。
【0140】
本発明の光電変換素子における電解質としては、ゲル化剤やポリマーなどを添加させて得られたゲル状電解質やポリエチレンオキシド誘導体などのポリマーを用いた固体電解質を用いてもよい。ゲル状電解質、固体電解質を用いることにより、電解液の揮発を低減させることができる。
【0141】
本発明の光電変換素子においては、一対の対向する電極間に電解質の代わりに固体電荷輸送層を形成してもよい。固体電荷輸送層に含まれる電荷輸送物質は、正孔輸送物質であることが好ましい。電荷輸送物質の具体例としては、ヨウ化銅、臭化銅、チオシアン化銅などの無機正孔輸送物質、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリビニルカルバゾール、ポリアニリン、オキサジアゾール誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ピラゾリン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン化合物、スチルベン化合物などの有機正孔輸送物質があげられるが、これらに限定されない。
【0142】
本発明において有機正孔輸送物質を用いて固体電荷輸送層を形成する場合、フィルム形成性結着剤樹脂を併用してもよい。フィルム形成性結着剤樹脂の具体例としては、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリレート樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂などがあげられるが、これらに限定されない。これらの樹脂は、単独あるいは共重合体として1種または2種以上を混合して用いることができる。これらの結着剤樹脂の有機正孔輸送物質に対する使用量は、20~1000重量%が好ましく、50~500重量%がより好ましい。
【0143】
本発明の光電変換素子においては、光電変換用増感色素組成物が吸着した半導体層が設けられた電極(光電極)が陰極となり、対極が陽極となる。太陽光などの光は光電極側、対極側のどちらから照射してもよいが、光電極側から照射する方が好ましい。太陽光などの照射により、色素が光を吸収して励起状態となって電子を放出する。この電子が半導体層を経由して外部に流れて対極へ移動する。一方、電子を放出して酸化状態になった色素は、対極から供給される電子を電解質中のイオンを経由して受け取ることにより、基底状態に戻る。このサイクルにより電流が流れ、光電変換素子として機能するようになる。
【0144】
本発明の光電変換素子の性能(特性)を評価する際には、短絡電流、開放電圧、フィルファクター、光電変換効率の測定を行う。短絡電流とは、出力端子を短絡させたときの両端子間に流れる1cm2あたりの電流を表し、開放電圧とは、出力端子を開放させたときの両端子間の電圧を表す。また、フィルファクターとは最大出力(電流と電圧の積)を、短絡電流と開放電圧の積で割った値であり、主に内部抵抗に左右される。光電変換効率は、最大出力(W)を1cm2あたりの光強度(W)で割った値に100を乗じてパーセント表示した値として求められる。
【0145】
本発明の光電変換素子は、色素増感太陽電池や各種光センサーなどに応用できる。本発明の色素増感太陽電池は、前記一般式(1)で表される増感色素を含む光電変換用増感色素組成物を含有する光電変換素子がセルとなり、そのセルを必要枚数配列してモジュール化し、所定の電気配線を設けることによって得られる。
【実施例】
【0146】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、合成実施例において化合物の同定は、1H-NMR分析(日本電子株式会社製核磁気共鳴装置、JNM-ECA-600)により行った。
【0147】
[合成実施例1] 増感色素(A-4)の合成
窒素置換した反応容器に、下記式(10)で表されるブロモ体1.20g、脱水テトラヒドロフラン16mLを入れ、-72℃で撹拌しながら、1.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液1.5mLを滴下し、1時間反応を行った。反応後、反応液に脱水ジメチルホルムアルデヒド0.3mLを滴下し、2時間反応を行った。反応液を氷水50mLに空けて、塩化メチレンで有機層を抽出した。有機層を水洗した後、分離し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶離液:ヘキサン/トルエン=9/1(体積比))精製し、下記式(11)で表されるホルミル体化合物の黄色固体(0.78g)を得た。
【0148】
【0149】
【0150】
窒素置換した反応容器に、上記式(11)で表されるホルミル体化合物0.300g、下記式(12)で表されるインデノン化合物0.179g、酢酸/トルエン=5/2(体積比)混合液13.5mLを入れ、90℃で3時間撹拌した。反応液を25℃まで放冷後、水50mLを加えて撹拌し、有機層を抽出した。有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄し、乾燥し、目的の増感色素を濃紫色固体として得た(0.294g、収率75%)。
【0151】
【0152】
得られた濃紫色固体のNMR分析を行い、以下の26個の水素のシグナルを検出し、下記式(A-4)で表される構造と同定した(カルボキシル基の水素は観測されなかった)。
【0153】
1H-NMR(600MHz、CDCl3):δ(ppm)=6.01-6.05(2H)、6.90-6.95(2H)、7.05-7.08(1H)、7.23-7.27(5H)、7.30-7.40(8H)、7.42-7.50(2H)、7.55-7.65(1H)、7.94-8.01(2H)、8.28-8.32(1H)、8.36-8.40(1H)、8.50-8.55(1H).
【0154】
【0155】
[合成実施例2] 増感色素(A-10)の合成
窒素置換した反応容器に、上記式(10)で表されるブロモ体1.50g、トルエン30mL、エタノール8mL、水8mL、5’-ホルミル-2,2’-ビチオフェン-5-ボロン酸0.81g、炭酸カリウム0.62gを入れて5時間撹拌し、撹拌後、反応容器内の減圧、脱気、窒素置換を3回繰り返した。次に、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム0.18gを加え、80℃で5時間撹拌した。反応液を25℃まで放冷後、酢酸エチル10mL、水30mLを加えて撹拌し、有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶離液:クロロホルム/ヘキサン=3/1(体積比))精製し、乾燥し、下記式(13)で表されるホルミル体化合物の黄褐色固体(1.20g)を得た。
【0156】
【0157】
窒素置換した反応容器に、上記式(13)で表されるホルミル体化合物0.64g、酢酸/トルエン=5/2(体積比)混合液13.5mL、上記式(12)で表されるインデノン化合物0.29gを入れ、90℃で3時間撹拌した。反応液を25℃まで放冷後、水80mLを加えて撹拌し、有機層を抽出した。有機層を水および飽和食塩水で順次洗浄し、乾燥し、目的の増感色素を黒色固体として得た(0.53g、収率65%)。
【0158】
得られた黒色固体のNMR分析を行い、以下の30個の水素のシグナルを検出し、下記式(A-10)で表される構造と同定した(カルボキシル基の水素は観測されなかった)。
【0159】
1H-NMR(600MHz、CDCl3):δ(ppm)=5.96-6.06(1H)、6.08-6.18(1H)、6.85-6.95(3H)、6.94-7.04(1H)、7.04-7.14(4H)、7.15-7.25(3H)、7.32-7.42(2H)、7.46-7.56(9H)、7.66-7.76(1H)、7.78-7.88(2H)、8.06-8.16(1H)、8.57-8.67(2H).
【0160】
【0161】
[合成実施例3] 増感色素(A-51)の合成
窒素置換した反応容器に、下記式(14)で表されるブロモ体2.0g、脱水テトラヒドロフラン30mLを入れ、-72℃で撹拌しながら、1.6Mのn-ブチルリチウムヘキサン溶液3.0mLを滴下し、1時間反応を行った。反応後、反応液に脱水ジメチルホルムアルデヒド0.6mLを滴下して2時間反応を行った。その後、反応液を氷水150mLに空けて、塩化メチレンで有機層を抽出した。有機層を水洗し、分離し、硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶媒:ヘキサン/トルエン=9/1(体積比))精製し、下記式(15)で表されるホルミル体化合物の黄白色固体(0.99g)を得た。
【0162】
【0163】
【0164】
窒素置換した反応容器に、上記式(15)で表されるホルミル体化合物0.300g、上記式(12)で表されるインデノン化合物0.150g、酢酸/トルエン=5/2(体積比)混合液13.5mLを入れ、90℃で4時間撹拌した。反応液を25℃まで放冷後、トルエン30mLを加えて撹拌し、有機層を抽出した。水および飽和食塩水で順次洗浄し、得られた有機層を乾燥し、目的の増感色素を黒褐色固体として得た(0.286g、収率74%)。
【0165】
得られた黒褐色固体のNMR分析を行い、以下の30個の水素のシグナルを検出し、下記式(A-51)で表される構造と同定した(カルボキシル基の水素は観測されなかった)。
【0166】
1H-NMR(600MHz、CDCl3):δ(ppm)=1.87-1.90(6H)、6.34-6.39(2H)、7.33-7.36(1H)、7.39-7.42(1H)、7.44-7.48(3H)、7.54-7.60(4H)、7.66-7.69(2H)、7.82-7.86(4H)、7.99-8.02(3H)、8.03-8.08(1H)、8.12-8.20(1H)、8.30-8.40(2H).
【0167】
【0168】
[合成実施例4] 増感色素(A-60)の合成
窒素置換した反応容器に、上記式(14)で表されるブロモ体0.55g、5-ホルミル-2-チオフェンボロン酸0.197g、ジメチルスルホキシド20mL、炭酸カリウム0.124gを入れて5時間撹拌し、撹拌後、反応容器内の減圧、脱気、窒素置換を5回繰り返した。次に、酢酸パラジウム0.012g、ブチルビス(1-アダマンチル)ホスフィン0.038gを加え、反応容器内の減圧、脱気、窒素置換を5回繰り返した。その後、75℃で3時間撹拌した。反応液を25℃まで放冷後、クロロホルム150mL、水60mLを加えて撹拌し、有機層を抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮し、粗生成物を得た。粗生成物をカラムクロマトグラフィー(担体:シリカゲル、溶離液:ヘキサン/トルエン=1/4(体積比))精製し、乾燥し、下記式(16)で表されるホルミル体化合物の黄色固体(0.543g)を得た。
【0169】
【0170】
窒素置換した反応容器に、上記式(16)で表されるホルミル体化合物0.542g、式(12)で表されるインデノン化合物0.256g、酢酸/トルエン=5/2(体積比)混合液28mLを入れ、90℃で10時間撹拌した。反応液を25℃まで放冷後、トルエン50mLを加えて撹拌し、有機層を抽出した。水および飽和食塩水で順次洗浄し、得られた有機層を乾燥し、目的の増感色素を赤褐色固体として得た(0.453g、収率67%)。
【0171】
得られた赤褐色固体のNMR分析を行い、以下の32個の水素のシグナルを検出し、式(A-60)で表される構造と同定した(カルボキシル基の水素は観測されなかった)。
【0172】
1H-NMR(600MHz、CDCl3):δ(ppm)=1.82-1.86(6H)、6.32-6.40(2H)、7.30-7.35(1H)、7.35-7.40(1H)、7.41-7.49(3H)、7.53-7.59(5H)、7.64-7.69(2H)、7.80-7.88(4H)、8.00-8.10(5H)、8.27-8.34(2H)、8.36-8.40(1H)。
【0173】
【0174】
[合成実施例5] 増感色素(A-48)の合成
合成実施例4における原料5-ホルミル-2-チオフェンボロン酸の代わりに、4-ホルミルフェニルボロン酸を用いた以外は合成実施例4と同様に合成し、目的の増感色素を赤褐色固体として得た(0.486g、収率75%)。
【0175】
得られた赤褐色固体のNMR分析を行い、以下の34個の水素のシグナルを検出し、式(A-48)で表される構造と同定した(カルボキシル基の水素は観測されなかった)。
【0176】
1H-NMR(600MHz、CDCl3):δ(ppm)=1.83-1.87(6H)、6.31-6.39(2H)、7.28-7.34(1H)、7.33-7.39(1H)、7.41-7.49(3H)、7.53-7.60(5H)、7.63-7.68(2H)、7.81-7.88(3H)、7.92-7.99(3H)、8.01-8.08(4H)、8.34-8.41(1H)、8.41-8.45(1H)、8.63-8.69(2H)。
【0177】
【0178】
[合成実施例6] 増感色素(A-61)の合成
窒素置換した反応容器に、下記式(17)で表されるホルミル体化合物0.251g、式(12)で表されるインデノン化合物0.124g、酢酸/トルエン=5/2(体積比)混合液15mLを入れ、90℃で6時間撹拌した。反応液を25℃まで放冷後、トルエン30mLを加えて撹拌し、有機層を抽出した。水および飽和食塩水で順次洗浄し、得られた有機層を乾燥し、目的の増感色素を赤紫色固体として得た(0.268g、収率87%)。
【0179】
【0180】
得られた赤紫色固体のNMR分析を行い、以下の34個の水素のシグナルを検出し、式(A-61)で表される構造と同定した(カルボキシル基の水素は観測されなかった)。
【0181】
1H-NMR(600MHz、CDCl3):δ(ppm)=1.50-1.54(6H)、1.76-1.80(6H)、6.31-6.40(2H)、7.31-7.36(1H)、7.38-7.48(6H)、7.62-7.67(1H)、7.65-7.70(2H)、7.71-7.76(1H)、7.80-7.84(1H)、7.87-7.92(1H)、7.96-8.08(2H)、8.12-8.23(2H)、8.28-8.37(1H)、8.35-8.41(1H)、9.22-9.28(1H)。
【0182】
【0183】
[合成実施例7] 増感色素(A-62)の合成
合成実施例4における上記式(14)で表されるブロモ体の代わりに、下記式(18)で表されるブロモ体を用いた以外は合成実施例4と同様に合成し、下記式(19)で表されるホルミル体を得た。
【0184】
【0185】
【0186】
窒素置換した反応容器に、上記式(19)で表されるホルミル体化合物を、合成実施例4と同様に上記式(12)で表されるインデノン化合物と反応させ、目的の増感色素を紫色固体として得た(0.37g、収率73%)。
【0187】
得られた紫色固体のNMR分析を行い、以下の36個の水素のシグナルを検出し、式(A-62)で表される構造と同定した(カルボキシル基の水素は観測されなかった)。
【0188】
1H-NMR(600MHz、CDCl3):δ(ppm)=1.50-1.54(6H)、1.83-1.87(6H)、6.32-6.38(2H)、7.28-7.34(1H)、7.33-7.38(1H)、7.38-7.47(5H)、7.50-7.56(1H)、7.61-7.71(4H)、7.77-7.82(1H)、7.83-7.87(1H)、7.94-8.02(3H)、8.03-8.07(1H)、8.16-8.21(1H)、8.25-8.32(2H)、8.33-8.40(1H)。
【0189】
【0190】
[実施例1]
フッ素ドープの酸化スズ薄膜をコートしたガラス基板上に、酸化チタンペースト(日揮触媒化成株式会社製、PST-18NR)をスキージ法により塗布した。110℃で1時間乾燥後、450℃で30分間焼成し、膜厚6μmの酸化チタン薄膜を得た。次に、合成実施例1で得られた増感色素(A-4)をアセトニトリル/t-ブチルアルコール=1/1(体積比)混合液に溶解して濃度100μMの溶液50mLを調製し、この溶液中に、酸化チタンを塗布焼結したガラス基板を、25±2℃で15時間浸漬して色素を吸着させ、光電極とした。
【0191】
フッ素ドープの酸化スズ薄膜をコートしたガラス基板上にオートファインコータ(日本電子株式会社製JFC-1600)を用いてスパッタリング法により膜厚15nmの白金薄膜を形成し、対極とした。
【0192】
次に、光電極と対極との間に厚さ60μmのスペーサ(熱融着フィルム)を挟んで熱融着により貼り合わせ、対極の孔から電解液(0.1M ヨウ化リチウム、0.6M ヨウ化ジメチルプロピルイミダゾリウム、0.05M ヨウ素、0.5M 4-t-ブチルピリジン)/3-メトキシプロピオニトリル溶液)を注入した後に孔を封止し、光電変換素子を作製した。
【0193】
前記光電変換素子の光電極側から、擬似太陽光照射装置(分光計器株式会社製OTENTO-SUN III型)で発生させた光を照射し、ソースメータ(KEITHLEY製、Model 2400 General-Purpose SourceMeter)を用いて電流-電圧特性を測定した。光の強度は100mW/cm2に調整した。得られた測定結果と初期光電変換効率を表1に示す。また、光を20時間照射した後の特性変化についても同様に測定した光電変換効率の結果を表1にまとめて示す。
【0194】
[実施例2~実施例11]
光電変換用増感色素として、(A-4)の代わりにそれぞれ表1に示す増感色素を用いた以外は実施例1と同様に作製した光電変換素子についての、電流-電圧特性、初期および20時間光照射後の光電変換効率を表1にまとめて示す。
【0195】
[比較例1~比較例5]
光電変換用増感色素として、(A-4)の代わりに本発明に属さない以下の(B-1)~(B-5)に示す増感色素を用いた以外は実施例1と同様に作製した光電変換素子についての、電流-電圧特性、初期および20時間光照射後の光電変換効率を表1に示す。
【0196】
【0197】
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
【0202】
表1の結果から、本発明の増感色素を含む光電変換用増感色素組成物を用いることにより、光電変換効率が高く、かつ光照射を長時間続けても高い光電変換効率が維持される光電変換素子が得られることが判明した。一方、比較例の光電変換用増感色素を用いた光電変換素子の光電変換効率は不十分なものであった。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明の増感色素からなる光電変換用増感色素組成物は、高効率かつ高耐久性の光電変換素子ならびに色素増感太陽電池に有用であり、太陽光エネルギーを電気エネルギーに効率よく変換できる太陽電池として、クリーンエネルギーを提供することができる。
【符号の説明】
【0204】
1 導電性支持体
2 色素担持半導体層
3 電解質層
4 対極
5 導電性支持体