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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】温度補償回路及び温度補償増幅回路
(51)【国際特許分類】
   G05F 3/02 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
G05F3/02 B
【請求項の数】 16
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020100960
(22)【出願日】2020-06-10
(65)【公開番号】P2021026763
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】16/528,536
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504199127
【氏名又は名称】エヌエックスピー ユーエスエイ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】NXP USA,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ シュタウディンガー
(72)【発明者】
【氏名】ユ ヨウ
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド バーノン ヘイズ
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許第101394152(CN,B)
【文献】特開平04-167463(JP,A)
【文献】特開2014-209673(JP,A)
【文献】Wei-Ling Chang, Chinchun Meng, Shyh-Chyi Wong, Hwey Chien, Guo-Wei Huang,Temperature insensitive PA bias circuit with digital control interface using InGaP/GaAs HBT technology,Proceeding of the 10th European Microwave Integrated Circuits Conference,フランス,IEEE,2015年09月,p.432-435
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続された複数のトランジスタデバイスを具えたバイアス基準回路と、
前記バイアス基準回路に接続されたドライバ・トランジスタデバイスとを具えた温度補償回路であって、
前記直列に接続されたトランジスタデバイスのうちの少なくとも1つが、該少なくとも1つのトランジスタデバイスの2つの端子間に接続された抵抗器を具え、
前記ドライバ・トランジスタデバイスは、前記抵抗器の抵抗値に基づく駆動電流を発生するように構成され
前記直列に接続されたトランジスタデバイスが複数のバイポーラ接合トランジスタ(BJT)を具え、
前記BJTが、温度バイアス性電流源と固定電圧との間に直列に接続されている温度補償回路。
【請求項2】
前記少なくとも1つのトランジスタデバイスが前記BJTを具え、前記抵抗器が、前記BJTのベース端子と前記BJTのコレクタ端子との間に接続されている、請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項3】
前記バイアス基準回路がコントローラをさらに具え、該コントローラは、前記抵抗器の抵抗値を動作温度に基づいて制御するように構成されている、請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項4】
前記コントローラが、前記抵抗器の抵抗値を前記動作温度に基づいて制御して、温度変動によって生じる温度バイアス性電流の変化を補償するようにさらに構成されている、請求項3に記載の温度補償回路。
【請求項5】
前記固定電圧が接地である、請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項6】
前記ドライバ・トランジスタデバイスがバイポーラ接合トランジスタ(BJT)を具えている、請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項7】
前記ドライバ・トランジスタデバイスが、前記抵抗器の抵抗値に基づく駆動電流を増幅器用に発生するようにさらに構成されている、請求項1に記載の温度補償回路。
【請求項8】
基板をさらに具え、該基板内に前記温度補償回路及び前記増幅器が製造されている、請求項7に記載の温度補償回路。
【請求項9】
前記基板がガリウムヒ素(GaAs)基板を含む、請求項8に記載の温度補償回路。
【請求項10】
増幅器と、
温度補償回路と、
基板とを具えた温度補償増幅回路であって、
前記温度補償回路は、
直列に接続された複数のトランジスタデバイスを具えたバイアス基準回路と、
前記バイアス基準回路に接続されたドライバ・トランジスタデバイスとを具え、
前記直列に接続されたトランジスタデバイスのうちの少なくとも1つが、該少なくとも1つのトランジスタデバイスの2つの端子間に接続された抵抗器を具え、
前記ドライバ・トランジスタデバイスは、前記抵抗器の抵抗値に基づく駆動電流を発生するように構成され、
前記基板内に、前記温度補償回路及び前記増幅器が製造され、
前記直列に接続されたトランジスタデバイスが複数のバイポーラ接合トランジスタ(BJT)を具え、
前記BJTが、温度バイアス性電流源と固定電圧との間に直列に接続されている温度補償増幅回路。
【請求項11】
前記少なくとも1つのトランジスタデバイスが前記BJTを具え、前記抵抗器が、前記BJTのベース端子と前記BJTのコレクタ端子との間に接続され、前記増幅器が第2BJTを具えている、請求項10に記載の温度補償増幅回路。
【請求項12】
前記バイアス基準回路がコントローラをさらに具え、該コントローラは、前記温度補償増幅回路の動作温度に基づいて前記抵抗器の抵抗値を制御して、温度変動によって生じる温度バイアス性電流の変化を補償するように構成されている、請求項10に記載の温度補償増幅回路。
【請求項13】
前記ドライバ・トランジスタデバイスが第2BJTを具えている、請求項10に記載の温度補償増幅回路。
【請求項14】
直列に接続された第1トランジスタデバイス及び第2トランジスタデバイスを具えたバイアス基準回路と、
前記バイアス基準回路に接続されたドライバ・トランジスタデバイスとを具えた温度補償回路であって、
前記第1トランジスタデバイスは、第1バイポーラ接合トランジスタ(BJT)、及び該第1BJTのベース端子とコレクタ端子との間に接続された第1抵抗器を具え、
前記第2トランジスタデバイスは、第2BJT、及び該第2BJTのベース端子とコレクタ端子との間に接続された第2抵抗器を具えている温度補償回路。
【請求項15】
前記第1BJT及び前記第2BJTが、温度バイアス性の電流源と固定電圧との間に直列に接続されている、請求項14に記載の温度補償回路。
【請求項16】
前記バイアス基準回路がコントローラをさらに具え、該コントローラは、前記第1抵抗器の抵抗値及び前記第2抵抗器の抵抗値を動作温度に基づいて制御して、前記温度バイアス性電流源の温度変動によって生じる温度バイアス性電流の変化を補償するように構成されている、請求項15に記載の温度補償回路。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
温度変動は回路の動作に影響を与え得る。例えば、温度変動によって増幅器のゲイン(利得)変化が生じ得る。しかし、増幅が異なれば、異なる温度範囲内の温度変動によって生じる1つ以上の動作パラメータの変化を異なる補償レベルで補償する必要がある。従って、広い温度範囲にわたる種々の補償レベルでの温度補償用に用いることができる温度補償回路の必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
温度補償回路及び温度補償(温度補償付き、温度補償型、温度補償式)増幅回路の好適例を開示する。1つの好適例では、温度補償回路が、直列接続された複数のトランジスタデバイスを有するバイアス基準回路、及びこのバイアス基準回路に接続されたドライバ(駆動)トランジスタデバイスを含む。直列接続されたトランジスタデバイスのうちの少なくとも1つは抵抗器を含み、この抵抗器は上記少なくとも1つのトランジスタデバイスの2つの端子間に接続されている。上記ドライバ・トランジスタデバイスは、この抵抗器の抵抗値に基づく駆動電流を発生するように構成されている。他の好適例も説明する。
【0003】
1つの好適例では、上記直列接続されたトランジスタのうちの少なくとも1つがバイポーラ接合トランジスタ(BJT:bipolar junction transistor)を含み、上記抵抗器がこのBJTのベース端子とこのBJTのコレクタ端子との間に接続されている。
【0004】
1つの好適例では、上記バイアス基準回路がコントローラをさらに含み、このコントローラは、上記抵抗器の抵抗値を動作温度に基づいて制御するように構成されている。
【0005】
1つの好適例では、上記コントローラが、上記抵抗器の抵抗値を動作温度に基づいて制御して、温度変動によって生じる温度バイアス性(温度によりバイアスが生じる)電流の変化を補償するように構成されている。
【0006】
1つの好適例では、上記直列接続されたトランジスタデバイスが複数のBJTを含む。
【0007】
1つの好適例では、これらのBJTが温度バイアス性電流源と固定電圧との間に直列に接続されている。
【0008】
1つの好適例では、この固定電圧が接地である。
【0009】
1つの好適例では、上記ドライバ・トランジスタデバイスがBJTを含む。
【0010】
1つの好適例では、上記ドライバ・トランジスタデバイスが、上記抵抗器の抵抗器に基づいて増幅器用の駆動電流を発生するようにさらに構成されている。
【0011】
1つの好適例では、上記温度補償回路が基板をさらに含み、この基板内に上記温度補償回路及び上記増幅器が製造されている。
【0012】
1つの好適例では、上記基板がガリウムヒ素(GaAs:ヒ化ガリウム)基板を含む。
【0013】
1つの好適例では、上記温度補償増幅回路が増幅器及び温度補償回路を含む。この温度補償回路は、バイアス基準回路、このバイアス基準回路に接続されたドライバ・トランジスタデバイス、及び基板を含み、この基板内に温度補償回路及び増幅器が製造される。バイアス基準回路は、直列接続された複数のトランジスタデバイスを含み、これらの直列接続されたトランジスタデバイスのうちの少なくとも1つが抵抗器を含み、この抵抗器は上記少なくとも1つのトランジスタデバイスの2つの端子間に接続されている。上記ドライバ・トランジスタデバイスは、この抵抗器の抵抗値に基づく駆動電流を発生するように構成されている。
【0014】
1つの好適例では、上記直列接続されたトランジスタのうちの少なくとも1つが第1BJTを含み、上記抵抗器がこの第1BJTのベース端子とこの第1BJTのコレクタ端子との間に接続され、上記増幅器が第2BJTを含む。
【0015】
1つの好適例では、上記バイアス基準回路がコントローラをさらに含み、このコントローラは、上記温度補償増幅回路の動作温度に基づいて上記抵抗器の抵抗値を制御して、温度変動によって生じる温度にバイアス性電流の変化を補償するように構成されている。
【0016】
1つの好適例では、上記直列接続されたトランジスタデバイスが複数のBJTを含む。
【0017】
1つの好適例では、これらのBJTが温度バイアス性電流源と固定電圧との間に直列に接続されている。
【0018】
1つの好適例では、上記ドライバ・トランジスタデバイスが第2BJTを含む。
【0019】
1つの好適例では、温度補償回路が、バイアス基準回路、及びこのバイアス基準回路に接続されたドライバ・トランジスタデバイスを含む。バイアス基準回路は、直列に接続された第1及び第2トランジスタデバイスを含む。第1トランジスタデバイスは、第1BJT,及びこの第1BJTのベース端子とコレクタ端子との間に接続された第1抵抗器を含む。第2トランジスタデバイスは、第2BJT、及びこの第2BJTのベース端子とコレクタ端子との間に接続された第2抵抗器を含む。上記ドライバ・トランジスタデバイスは、第1抵抗器の抵抗値及び第2抵抗器の抵抗値に基づく駆動電流を発生するように構成されている。
【0020】
1つの好適例では、第1及び第2BJTが温度バイアス性電流源と固定電圧との間に直列に接続されている。
【0021】
1つの好適例では、上記バイアス基準回路がコントローラをさらに含み、このコントローラは、上記第1及び第2抵抗器の抵抗値を動作温度に基づいて制御して、上記温度バイアス性電流源の温度変動によって生じる温度バイアス性電流の変化を補償するように構成されている。
【0022】
本発明による他の態様は、以下の詳細な説明より、添付した図面と共に解釈すれば明らかになり、これらの図面は本発明の原理の一例として図示する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態による温度補償増幅回路の概略ブロック図である。
図2】本発明の一実施形態による温度補償三段増幅システムの概略ブロック図である。
図3図2に示す温度補償三段増幅システムについての温度対増幅器ゲインのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
説明全体を通して、同様な参照番号は同様な要素を識別するために用いることがある。
【0025】
詳細な説明
本明細書中に概略的に説明して添付した図面中に図示する実施形態の構成要素は、多種多様な異なる形態に構成し設計することができることは容易に理解される。従って、図面中に表す種々の実施形態の以下のより詳細な説明は、本発明の範囲を限定することは意図しておらず、種々の実施形態の表現に過ぎない。図面中には実施形態の種々の態様を提示するが、これらの図面は特に断りのない限り必ずしも現寸に比例して描いていない。
【0026】
本発明は、その精神及び本質的特徴から逸脱することなしに、他の具体的形態で具体化することができる。説明する実施形態はあらゆる点で例示に過ぎず限定的でないものと考えるべきである。従って、本発明の範囲は、この詳細な説明ではなく添付した特許請求の範囲によって示される。特許請求の範囲の等価物の意味及び範囲内に入るすべての変更が、特許請求の範囲内に含まれるべきものである。
【0027】
本明細書全体を通して、特徴、利点、または同様な文言への言及は、本発明により実現される特徴及び利点の全部が本発明のいずれかの単一の実施形態中に存在するべきであるか存在することを暗に意味しない。むしろ、特徴及び利点に言及する文言は、実施形態に関連して説明する特定の特徴、利点、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味するものと理解するべきである。従って、本明細書全体を通して、特徴及び利点の説明、及び同様な文言は、同じ実施形態を参照することがあるが、必ずしもそうではない。
【0028】
さらに、説明する本発明の特徴、利点、及び特性は、1つ以上の実施形態においてあらゆる適切な様式に組み合わせることができる。本明細書中の説明を考慮すれば、特定の実施形態の特定の特徴または利点のうちの1つ以上を有さずに本発明を実施することができることは、関連技術における当業者の認める所である。他の例では、本発明の全実施形態中に存在しないかもしれない追加的な特徴及び利点が、特定の実施形態において認識されることがある。
【0029】
明細書全体を通して、「一実施形態」、「実施形態」、または同様な文言への言及は、示される実施形態に関連して説明する特定の特徴、構造、または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体を通して、「一実施形態では」、「実施形態では」、または同様な文言への言及は、その全部が同じ実施形態を参照することがあるが、必ずしもそうではない。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態による温度補償増幅回路100の概略ブロック図である。温度補償増幅回路100を用いて、広範囲の(例えば、電気回路の代表的な動作温度範囲である-40℃から+105℃までの)温度にわたる信号増幅を実現することができる。例えば、温度補償増幅回路100は、広範囲の温度にわたって一定の増幅ゲイン(利得)を維持することができる。図1に示す実施形態では、温度補償増幅回路100が温度補償回路102及び増幅器104を含む。図1に示す実施形態では、温度補償回路102が温度バイアス性電流源106に電気接続され、温度バイアス性電流源106の出力電流IBAは温度に依存する。一部の実施形態では、温度バイアス性電流源106の代わりに、特定の電圧に接続された抵抗器を用いて、温度バイアス性/温度依存性の電流IBAを発生する。
【0031】
温度補償増幅回路100は、通信用途、自動車用途、産業用途、医療用途、コンピュータ用途、及び/またはコンシューマ(民生)または家電用途のような種々の用途において用いることができる。例えば、温度補償増幅回路100は、多入力多出力(MIMO:multiple-input, multiple output)通信装置内で用いることができる。一部の実施形態では、上記温度補償増幅回路がマッシブ(大規模)MIMO(mMIMO:massive MIMO)通信装置に内蔵されている。
【0032】
一部の実施形態では、温度補償増幅回路100が基板内に実現され、スタンドアロン(独立型)半導体集積回路(IC:Integrated Circuit)デバイスまたはチップとしてパッケージ化されている。これらの実施形態では、温度補償回路102及び増幅器104が同じ基板内に製造され(例えば、同じ半導体ダイ内にモノリシックに(一体化して)形成され)、スタンドアロンな半導体ICデバイスまたはチップとして一緒にパッケージ化される。基板の例は半導体ダイを含むがそれに限定されず、本発明の実施形態はその代わりにプリント回路基板(PCB:printed circuit board)上に実現することができる。一部の実施形態では、温度補償増幅回路100と温度バイアス性電流源106とが異なる基板内にあり、別個の半導体ICデバイスまたはチップ上に製造される。より具体的には、温度補償回路102及び(バイアスをかけられるRF(radio frequency:無線周波数)トランジスタを含む)増幅器104は第1の種類の半導体基板上に製造することができ、温度バイアス性電流源106は第2の異なる種類の半導体基板上に製造することができる。例えば、温度補償回路102及び増幅器104は単一のガリウムヒ素(GaAs)ダイ内に製造することができるのに対し、温度バイアス性電流源106は別個のシリコン・ゲルマニウム(SiGe)ダイ内に製造することができる。
【0033】
一部の実施形態では、温度補償増幅回路100が、スマートホン、タブレット・コンピュータ、ラップトップ・コンピュータ、等のようなコンピュータ装置内に含まれる。図1では、温度補償増幅回路100が特定の回路素子を含むように示しているが、他の実施形態では、温度補償増幅回路100が1つ以上の追加的な回路素子を含むことができる。例えば、温度補償増幅回路100は温度バイアス性電流源106を含むことができ、その出力電流IBAは温度依存性である。
【0034】
図1に示す実施形態では、温度補償回路102がバイアス基準回路108、及びバイアス基準回路に接続されたドライバ・トランジスタデバイスを含む。温度補償回路102は、温度補償増幅回路100の1つ以上のパラメータの変化を補償するように構成されている。温度補償回路102は、温度変動によって生じる温度補償増幅回路100の1つ以上の動作パラメータの変化を種々の補償レベルで、例えば温度補償無しから十分な温度補償までのレベルで(例えば、広範囲の温度(例えば、電子回路の代表的な動作温度範囲である-40℃から+105℃まで)にわたって一定の増幅器104の増幅ゲインを)補償することができる。図1に示す実施形態では、温度補償回路102が、温度変動によって生じる温度バイアス性電流源106の電流IBAの変化を補償するように構成されている。一部の実施形態では、温度バイアス性電流源106が絶対温度比例(PTAT:proportional to absolute temperature)電流源であり、特定温度におけるその出力電流IBAが基準温度における電流に比例する。例えば、温度バイアス性電流源106の特定温度Tにおける出力電流IBAは次式のように表現することができる:
【数1】
ここに、T=温度(℃) (2)
0=27℃における電流IBA (3)
である。一部の実施形態では、温度バイアス性電流源106がSiGe系電流源であるが、他の実施形態では、温度バイアス性電流源106を他の種類の電流源とすることができる。例えば、温度バイアス性電流源106はmMIMO通信デバイスの構成要素であるSiGe系電流源である。一部の実施形態では、温度バイアス性電流源106が時分割複信(TDD:time division duplex)シグナリング(信号伝達)によりオン状態またはオフ状態にされる。図1に示す実施形態では、温度補償回路102が増幅器の温度補償用に用いられるが、他の実施形態では、温度補償回路102を用いて他の回路の1つ以上の動作パラメータの温度ベースの変化を補償する。
【0035】
図1に示す実施形態では、バイアス基準回路108が、直列接続された2つのトランジスタデバイス112、114及び任意の抵抗器「RBias」を含む。図1に示すバイアス基準回路108では、トランジスタデバイス112が、バイポーラ接合トランジスタ(BJT)「QA」、及びBJT QAのベース端子「B」とBJT QAのコレクタ端子「C」との間に接続された抵抗器「R1」を含み、トランジスタデバイス114が、BJT「QB」、及びBJT QBのベース端子BとBJT QBのコレクタ端子との間に接続された抵抗器「R2」を含む。一部の実施形態では、トランジスタデバイス112、114の一方のみが、当該BJT QAまたはQBの2つの端子(例えば、ベース及びコレクタ端子)間に接続された抵抗器を含む。一例では、トランジスタデバイス112が抵抗器R1を含み、抵抗器R1はBJT QAのベース端子BとBJT QAのコレクタ端子Cとの間に接続され、BJT QBのベース端子BとBJT QBのコレクタ端子Cとの間に接続された抵抗器は存在しない。他の例では、BJT QAのベース端子BとBJT QAのコレクタ端子Cとの間に接続された抵抗器は存在せず、トランジスタデバイス114が抵抗器R2を含み、抵抗器R2はBJT QBのベース端子BとBJT QBのコレクタ端子Cとの間に接続されている。図1に示す実施形態では、BJT QAのエミッタ端子「E」がBJT QBのコレクタ端子Cに電気接続され、BJT QBのエミッタ端子Eが基準電圧、例えば接地に電気接続されている。図1に示す実施形態では、バイアス基準回路108のトランジスタデバイス112、114がNPNトランジスタを用いて実現される(即ち、BJT QA、QBはNPNトランジスタである)が、他の実施形態では、トランジスタデバイス112、114が、PNPトランジスタ、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT:heterojunction bipolar transistor)、及び/または1つ以上のNPNトランジスタ、PNPトランジスタ、及び/またはHBTの組合せを用いて実現される。
【0036】
図1に示す実施形態では、ドライバ・トランジスタデバイス110がバイアス基準回路108に電気接続され、これにより電流IBBがバイアス基準回路からドライバ・トランジスタデバイス内へ流れる。一部の実施形態では、ドライバ・トランジスタデバイス110が、抵抗器R1の抵抗値、抵抗器R2の抵抗値、及び電流IBAに基づく駆動電流「IB」を発生するように構成されている。トランジスタデバイス112、114の一方のみが当該BJT QAまたはQBの2つの端子間(例えば、ベース端子とコレクタ端子との間)に接続された抵抗器を含む実施形態では、ドライバ・トランジスタデバイス110が、抵抗器R1の抵抗値、抵抗器R2の抵抗値、及び電流IBAに基づく駆動電流を発生するように構成されている。ドライバ・トランジスタデバイス110は、1つ以上のBJT及び/または金属酸化物半導体(MOS:metal oxide semiconductor)トランジスタを用いて実現することができる。図1に示す温度補償増幅回路100では、ドライバ・トランジスタデバイス110がBJT「QC」を含む。図1に示す実施形態では、BJT QCのベース端子が、BJT QAのコレクタ端子C、抵抗器RBias、及び抵抗器R1に電気接続されている。BJT QCのコレクタ端子Cは正の電圧VCCに電気接続されている。一部の実施形態では、BJT QCがエミッタフォロワとして構成されて、駆動電流IBを増幅器104内へ送り込む。
【0037】
図1に示す実施形態では、増幅器104がドライバ・トランジスタデバイス110に電気接続されて、ドライバ・トランジスタデバイスが発生する電流IBによって駆動される。増幅器104はトランジスタQDを含むことができ、トランジスタQDは、NPNトランジスタ、PNPトランジスタ、及び/またはHBT、及び/またはMOSトランジスタのような1つ以上のBJTを用いて実現される。図1に示す実施形態では、増幅器104が、BJT「QD」、抵抗器「RB」、コンデンサ「CB」、及び任意のインダクタンス116を含み、これらは伝送線を含むこともできる。一部の実施形態では、任意のインダクタンス116の代わりに、増幅器104はドライバ・トランジスタデバイス110と当該増幅器104との間に電気接続された抵抗器またはトランジスタを含む。BJT QDはGaAsHBTまたは他の種類のBJTとすることができる。一部の実施形態では、増幅器104が入力電圧130を増幅して出力電圧140にし、入力電圧130はコンデンサCBを通してBJT QDのベース端子Bに供給され、出力電圧140はBJT QDのコレクタ端子Cから出力される。一部の実施形態では、抵抗器RBが一定の抵抗値を有するバラスト抵抗器であり、電流IBをBJT QDのベース端子Bに電気結合するための直流(DC:direct current)経路を提供し、BJT QDが複数のトランジスタセルで構成される際の熱暴走を防止するように機能する。一部の実施形態では、抵抗器RBの代わりに、インダクタをBJT QCのコレクタ端子CとBJT QDのベース端子Bとの間に接続する。一部の実施形態では、コンデンサCBが一定の静電容量(キャパシタンス)値を有するバラスト・コンデンサであり、入力電圧130がコンデンサCBを通ってBJT QDのベース端子Bに供給されることを可能にして、電流IBがこの入力電圧へ流入することを阻止する。図1に示す実施形態では、BJT QDのベース端子Bが抵抗器RB及びコンデンサCBに電気接続されている。BJT QDのコレクタ端子Cは正の電圧VCCに電気接続されている。BJT QDのエミッタ端子Eは基準電圧、例えば接地に電気接続されている。
【0038】
図1に示す実施形態では、バイアス基準回路108のトランジスタデバイス112の抵抗器R1の抵抗値及び/またはバイアス基準回路108のトランジスタデバイス114の抵抗器R2の抵抗値が、温度変動によって生じるBJT QDのゲイン変化を補償するように設定されている。一部の実施形態では、温度対電流IBのプロファイルを作成して温度補償回路102内に(例えば、ルックアップ・テーブル(早見表)として)記憶し、このプロファイルを用いてBJT QDの一定の増幅ゲインを得ることができる。抵抗器R1及び抵抗器R2は、現在技術において既知である任意の種類の可変抵抗器として実現することができる。一部の実施形態では、抵抗器R1及び抵抗器R2が抵抗ラダーである。一部の実施形態では、抵抗器R1の抵抗値及び/または抵抗器R2の抵抗値がデバイス製造後に固定である。
【0039】
一部の実施形態では、温度補償回路102(例えば、より具体的にはバイアス基準回路108)が少なくとも1つのコントローラ118を含み、コントローラ118は、抵抗器R1の抵抗値及び/または抵抗器R2の抵抗値を、温度補償増幅回路100の動作温度に基づいて設定及び/または調整するように構成されている。例えば、コントローラ118は、抵抗器R1の抵抗値及び/または抵抗器R2の抵抗値を、温度補償増幅回路100の現在の動作温度に基づいて設定及び/または調整して、温度変動によって生じる温度バイアス性電流源106の電流IBAの変化を補償するように構成されている。コントローラ118はプロセッサを用いて実現することができ、このプロセッサは、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、及び/またはハードウェア、ソフトウェア、ファームウェアの組合せを用いて実現することができる。コントローラ118の例は、マイクロコントローラ、中央演算装置(CPU:central processing unit)、及び特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)を含むが、それらに限定されない。一部の実施形態では、コントローラ118が温度センサを含み、あるいは温度センサにアクセスする。
【0040】
一部の実施形態では、特定の温度レベルにおける抵抗器R1の所定の抵抗値及び/または抵抗器R2の所定の抵抗値をコントローラ118内のルックアップ・テーブルに記憶する。例えば、抵抗器R1の抵抗値が増加するに連れて、BJT QAのコレクタ端子Cとベース端子Bとの間の電圧が増加する、というのは、より大きなベース電流がBJT QA内へ流れるからである。動作温度の関数として、抵抗器R1を通る電流が増加して、BJT QAのコレクタ電圧の増加をもたらし、これによりBJT QA内へ流れる電流IRを減少させてBJT QC内へ流れる電流IBBを増加させる。さらに、電流IBは電流IBBに比例し、温度の増加と共に電流IBBが増加するに連れて電流IBも増加し、このことはBJT QDにおけるゲインの増加をもたらす。抵抗器R1の抵抗値が大きいほど、BJT QC内へ流れる電流IBBが大きくなって、温度の増加と共に増加する。抵抗器R2及びBJT QBは、同様に、抵抗器R2の抵抗値が増加するに連れて増加する。一部の実施形態では、抵抗器R1の抵抗値及び抵抗器R2の抵抗値を、例えば、温度に対する増幅器ゲインの応答を観測することによる回路シミュレーションにより決定する。
【0041】
一実施形態では、コントローラ118がバイアス-温度プロファイルの連続を実現するためのフレキシビリティ(柔軟性)を有し、このバイアス-温度プロファイルを上記増幅器に適用して、例えば温度補償無しから十分な温度補償までの種々の補償レベル(即ち、例えば、ある温度範囲(例えば、-40℃から+105℃まで)全体にわたって一定の、増幅器の増幅ゲイン)を生じさせることができる。例えば、コントローラ118は、抵抗器R1の抵抗値及び抵抗器R2の抵抗値を、温度補償増幅回路100内の電流IR、IBB、IB、及びICについての所望の温度プロファイルを実現するように設定して、例えば動作温度の関数としての増幅器104のゲイン変化を低減するように増幅器104の性能を向上させることができる。
【0042】
一部の実施形態では、BJT QA内へ流れる電流IRの値が抵抗器R1及びR2の抵抗値に依存し、電流IRの温度依存性が抵抗器R1及びR2の抵抗値の関数である。図1に示す実施形態では、BJT QCのエミッタ端子Eから流れる電流IBが、温度バイアス性電流源106の電流IBAと電流IRとの差である。その結果、電流IRの温度依存性を用いて、BJT QDのコレクタ端子C内へ流れる電流ICの温度プロファイルを決定することができる。
【0043】
一部の実施形態では、複数の温度補償増幅器を増幅システム内で用いて、信号増幅を増加させる。図2は、本発明の一実施形態による温度補償三段増幅システム280の概略ブロック図である。図2に示す実施形態では、温度補償三段増幅システムが、第1段の増幅器としての温度補償増幅回路100を、第2段の温度補償増幅回路200、第3段の温度補償増幅回路250、及び温度バイアス性電流源206を含み、温度バイアス性電流源206は温度バイアス性電流IBA、IBA2、及びIBA3を発生するように構成され、これらの電流は一意的な電流値を有することができ、及び/またはある共通の電流値を共有することができる。図2に示す第2段の温度補償増幅回路200及び第3段の温度補償増幅回路250は、図1に示す温度補償増幅回路100と同様または同一である。
【0044】
温度補償増幅回路100、200、300は第1の種類の半導体基板上に製造することができ、温度バイアス性電流源206は第2の異なる種類の半導体基板上に製造することができる。例えば、温度補償増幅回路100、200、300は単一のGaAsダイまたは複数のGaAsダイ内に製造することができるのに対し、温度バイアス性電流源206は1つ以上の別個のSiGeダイ内に製造することができる。ここでも、温度バイアス型電流源206は複数のPTAT電流源を含むことができ、特定温度におけるその出力電流IBA、IBA2、及びIBA3が基準温度における電流に比例する。
【0045】
図2に示す実施形態では、第2段の温度補償増幅回路200が温度補償回路202及び増幅器204を含み、温度補償回路202はバイアス基準回路208及びドライバ・トランジスタデバイス210を含み、増幅器204は、BJT「QD2」、抵抗器「RB2」、コンデンサ「CB2」、及び任意のインダクタンス216を含む。バイアス基準回路208は、トランジスタデバイス212、トランジスタデバイス214、コントローラ218、及び任意の抵抗器RBias2を含み、トランジスタデバイス212はBJT「QA2」及び抵抗器「R21」を含み、トランジスタデバイス214はBJT「QB2」及び抵抗器「R22」を含む。ドライバ・トランジスタデバイス210はBJT「QC2」を含む。
【0046】
図2に示す例では、第3段の温度補償増幅回路250が温度補償回路252及び増幅器254を含み、温度補償回路252はバイアス基準回路258及びドライバ・トランジスタデバイス260を含み、増幅器254は、BJT「QD3」、抵抗器「RB3」、コンデンサ「CB3」、及び任意のインダクタンス266を含む。バイアス基準回路258は、トランジスタデバイス262、トランジスタデバイス264、コントローラ268、及び任意の抵抗器「RBias3」を含み、トランジスタデバイス262はBJT「QA3」及び抵抗器「R31」を含み、トランジスタデバイス264はBJT「QB3」及び抵抗器「R32」を含む。ドライバ・トランジスタデバイス260はBJT「QC3」を含む。
【0047】
図3は、図2に示す温度補償三段増幅システム280についての温度対増幅器ゲインのグラフであり、シミュレーション結果から生成したものである。図3では、曲線310は温度補償無しの温度補償三段増幅システムの増幅器ゲインを表し、曲線320は第1レベルの温度補償を有する温度補償三段増幅システムの増幅器ゲインを表し、曲線330は、第2レベルの温度補償を有する温度補償三段増幅システムの増幅器ゲインを表し、第2レベルの温度補償は、第1レベルの温度補償よりも良好に温度ベースの増幅器ゲイン変化を補償することができる。温度補償を適用しない場合、温度補償三段増幅システムの増幅器ゲインは温度が増加すると急速に減少する。第1レベルの温度補償を適用した場合、温度補償三段増幅システムの増幅器ゲインは温度が増加するとより低速に減少する。第2レベルの温度補償を適用した場合、温度補償三段増幅システムの増幅器ゲインは温度が増加した際にほぼ一定である。
【0048】
以上の説明では、種々の実施形態の具体的詳細を提供している。しかし、一部の実施形態はこれらの具体的詳細の全部が揃わなくても実施することができる。他の例では、簡単かつ明瞭にするために、特定の方法、手順、構成要素、構造、及び/または機能は、本発明の種々の実施形態を可能にする以上に詳細に説明していない。
【0049】
本明細書中の方法における動作は特定の順序で図示し説明しているが、各方法における動作の順序を変更して、特定の動作を逆の順序で実行すること、あるいは特定の動作を少なくとも部分的に他の動作と同時に実行することができる。他の実施形態では、個別の動作における命令または副次的動作を間欠的な、及び/または交互する様式で実現することができる。
【0050】
また、本明細書中に説明する方法における動作の少なくとも一部は、コンピュータが使用可能な記憶媒体上に記憶されている、コンピュータによる実行用の命令を用いて実現することができる。一例として、コンピュータプログラム製品の具体例は、コンピュータ可読のプログラムを記憶するための、コンピュータが使用可能な記憶媒体を含む。コンピュータが使用可能な、あるいはコンピュータ可読の記憶媒体は、電子、磁気、光学、電磁、赤外、または半導体システム(あるいは機器または装置)とすることができる。コンピュータが使用可能な、及びコンピュータ可読の非一時的な記憶媒体の例は、半導体または固体メモリ、磁気テープ、着脱可能なコンピュータ・ディスケット(登録商標)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出し専用メモリ(ROM)、硬質の磁気ディスク、及び光ディスクを含む。現在の光ディスクの例は、読出し専用メモリ型コンパクトディスク(CD-ROM:compact disk with read only memory)、読出し/書込み型コンパクトディスク(CD-W:compact disk with read/write)、及びデジタルビデオディスク(DVD:digital video disk)を含む。
【0051】
その代わりに、本発明の実施形態は、全体をハードウェアで、あるいはハードウェア及びソフトウェアを共に含む実現の形で実現することができる。ソフトウェアを用いる実施形態では、このソフトウェアは、ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコード、等を含むことができるが、それらに限定されない。
【0052】
本発明の特定の実施形態を説明し図示してきたが、本発明はそのように説明し図示した部分の特定の形態または構成に限定されない。本発明の範囲は、本明細書に添付する特許請求の範囲及びその等価物によって規定される。
図1
図2
図3