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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】赤血球の産生及び使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/18 20150101AFI20220330BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20220330BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220330BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20220330BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALN20220330BHJP
   C07K 14/82 20060101ALN20220330BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220330BHJP
【FI】
A61K35/18 Z
A61K38/17 ZNA
A61P7/00
A61P7/06
A61P43/00 121
C12N5/078
C12N5/0789
C07K14/82
C12N15/12
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020119610
(22)【出願日】2020-07-13
(62)【分割の表示】P 2018153567の分割
【原出願日】2014-03-11
(65)【公開番号】P2020188781
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】61/776,732
(32)【優先日】2013-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】13/797,648
(32)【優先日】2013-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511017508
【氏名又は名称】タイガ バイオテクノロジーズ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ターナー ブライアン カーティス
(72)【発明者】
【氏名】ラファエリ ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】バード グレゴリー エイ.
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-528567(JP,A)
【文献】BioMed Res. Int.,2013年01月30日,Vol. 2013, Article ID 807863,pp.1-12
【文献】Blood,1996年,Vol.88, No.5,pp.1576-1582
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/18
C12N 5/078
A61P 7/00
A61P 7/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団と、TAT-Bcl-2またはTAT-Bcl-2Δから選択される外因性ポリペプチドと、1つ又は2つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤とを含む、医薬組成物であって、前記1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団が、以下の段階を含む方法によって産生される、前記医薬組成物:
造血幹細胞の成熟赤血球への分化を誘発し、それによって1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団を産生する条件において、EPOと、細胞の生存及び/又は増殖を促進するMYCポリペプチド又はその生物学的に活性な断片とを含む培地で、造血幹細胞を培養する段階、ならびに、
TAT-Bcl-2またはTAT-Bcl-2Δから選択される外因性ポリペプチドを含む培地中で前記1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団を培養する段階であって、該培養によりインビトロで前記1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団が維持される前記段階
【請求項2】
前記MYCポリペプチド又はその生物学的に活性な断片が、タンパク質形質導入ドメインを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記MYCポリペプチドが、TAT-MYCである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記造血幹細胞が、成長因子、ホルモン、又は、1つ若しくは2つ以上の疾患若しくは病気の診断若しくは治療に有用なその他ポリペプチドから選択される、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記造血幹細胞が、成長因子、ホルモン、又は、1つ若しくは2つ以上の疾患若しくは病気の診断若しくは治療に有用なその他ポリペプチドから選択される1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質をコードする、1つ若しくは2つ以上の導入遺伝子を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質の発現又は機能が、制御可能又は誘導可能である、請求項4又は5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記成熟赤血球の集団が7~14日間で産生される、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記成熟赤血球の集団が、40%~100%の細胞が無核化されている成熟赤血球の集団;40%~100%の細胞がGPAを発現している成熟赤血球の集団;40%~100%の細胞が成人型ヘモグロビンを発現している成熟赤血球の集団;40%~100%の細胞がCD71の発現レベルの低下を呈している成熟赤血球の集団;40%~100%の細胞が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している成熟赤血球の集団からなる群から選択される1つ又は2つ以上の特徴を呈する、請求項1~7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
無核赤血球の欠乏を特徴とする疾病又は疾患の、治療、予防、又は診断において使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記無核赤血球の欠乏を特徴とする疾病又は疾患が、以下からなる群より選択される、請求項に記載の医薬組成物:
貧血、先天性貧血、再生不良性貧血、悪性貧血、鉄欠乏性貧血、鎌状赤血球性貧血、球状赤血球症、溶血性貧血、無セルロプラスミン血症、アデノシンデアミナーゼ活性上昇-ADA-、アデニル酸キナーゼ欠損症、アルドラーゼ欠損症、α-サラセミア-形質型又は保有者、無トランスフェリン血症、常染色体優性鉄芽球性貧血、常染色体劣性鉄芽球性貧血、β-サラセミア-形質型又は保有者、β-重症型サラセミア、β-重症型サラセミアの中間型、血小板減少症を伴うCDA(GATA I突然変異)、複合ヘテロ接合体性鎌状化疾患、先天性有棘赤血球増加症、先天性赤血球異形成貧血I型、先天性赤血球異形成貧血II型、先天性赤血球異形成貧血III型、δ β-サラセミア、Diamond-Blackfan貧血、DMT1-欠乏性貧血、家族性再生不良性貧血、ファンコーニ貧血、γ-グルタミル-システイン合成酵素欠損症、GLRX5関連鉄芽球性貧血、グルコースリン酸イソメラーゼ欠損症、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、グルタチオンレダクターゼ欠損症、グルタチオン合成酵素欠損症、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、ヘモグロビンH症、ヘモグロビンレポア、貧血を伴うヘモグロビンM、遺伝性楕円赤血球症、遺伝性高胎児ヘモグロビン血症、遺伝性球状赤血球症、遺伝性有口赤血球症、ヘキソキナーゼ欠損症、胎児水腫、Imerslund-Grasbeck症候群、鉄不応性鉄欠乏性貧血、Kearns-Sayre症候群、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症、ミトコンドリアミオパチー鉄芽球性貧血、サラセミア、先天性赤血球異形成貧血、形成異常を伴う汎血球減少症、発作性夜間血色素尿症、ピアソン症候群、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ピリミジン5ヌクレオチダーゼ欠損症、ピルビン酸キナーゼ欠損症、鎌状赤血球性貧血、鎌状赤血球形質型、運動失調を伴う鉄芽球性貧血、SLC25A38関連鉄芽球性貧血、チアミン応答性巨赤芽球性貧血、トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症、不安定ヘモグロビン、ウルフラム症候群、及びX連鎖鉄芽球性貧血、ゴーシェ病、溶血、好中球減少症、血小板減少症、顆粒球減少症、血友病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、B細胞性慢性リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性様リンパ腫、びまん性大B細胞性リンパ腫、多発性骨髄腫、急性骨髄系白血病、前駆B細胞性急性リンパ球性白血病、前駆T細胞性急性リンパ球性白血病、急性前骨髄球性白血病、不応性白血病、およびこれらの組み合わせ。
【請求項11】
1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団を維持することが、
1つ若しくは2つ以上の成熟赤血球の機能的特徴のインビトロでの損失が、対応する成熟赤血球の集団を前記外因性ポリペプチドの非存在下で培養した場合と比較して低下すること
を含む、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記1つ若しくは2つ以上の成熟赤血球の機能的特徴が、酸素運搬能、ヘモグロビン量、発現されるヘモグロビンの種類(成人型対胎児型)、表面に発現されるトランスフェリン受容体のレベル、又は、1つ若しくは2つ以上の成熟赤血球マーカーのうちから選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団が、赤血球(RBC)濃縮物である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記1つ又は2つ以上の成熟赤血球の集団が、臨床用のRBC生成物である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記臨床用のRBC生成物を維持することが、
該臨床用のRBC生成物の貯蔵寿命が、前記外因性ポリペプチドの非存在下で維持された対応する成熟赤血球の集団と比較して延長されること
を含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記外因性ポリペプチドが、培地に単回ボーラスで供給されるか、または培地に間欠的に供給される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記外因性ポリペプチドが、培地に24時間毎、48時間毎、72時間毎、または96時間毎に供給される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記外因性ポリペプチドが、培地に0.5μg/mL~100μg/mLの濃度で供給される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記外因性ポリペプチドが、培地に、1μg/mL、5μg/mL、10μg/mL、25μg/mL、又は50μg/mLの濃度で供給される、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記外因性ポリペプチドが、TAT-Bcl-2である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
インビトロで成熟赤血球の集団が維持されるように該成熟赤血球の集団を培養する方法において使用するための組成物であって、前記組成物が、TAT-Bcl-2またはTAT-Bcl-2Δから選択される外因性ポリペプチドを含む、前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2013年3月11日出願の米国特許仮出願第61/776,732号及び2013年3月12日出願の米国実用特許出願第13/797,648号の利益と優先権を主張するものであり、これらの全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0002】
ASCIIテキストファイルによる配列表の提出
ASCIIテキストファイルによる以下の提出内容、すなわち、コンピュータ読み取り可能な形式(CRF)の配列表(ファイル名:106417-0181_Seq_List.txt、記録日:2013年3月10日、サイズ:9KB)は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。
【0003】
分野
本開示は、インビトロにおいて造血幹細胞から成熟赤血球を産生させる新規方法、並びにインビボにおけるその治療的かつ診断的使用に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
赤血球(RBC)の輸血は、多くの臨床的及び外科的適用に日常的に使用されている。平均して、毎日39,000単位の血液が必要とされ、2004年のデータから、年間29百万単位の血液が輸血されていることがわかる(American Association of Blood Banksウェブサイト(非特許文献1))。この処置単独で、過去60年にわたって多くの命を救っている。かかる輸血に対する需要は、治療法の進歩及び高齢化人口の増加に伴って増え続けている。
【0005】
赤血球輸血の存在によって恩恵を受けている従来の臨床状況、例えば手術及び外傷患者の処置に加え、赤血球輸血が標準的治療を変え得る多くの特有の例がある。例えば、アフロカリビアン系患者では、多くのまれなRBCの表現型がある(Douay et al.,Transfusion Medicine Reviews 21,91~100,2007(非特許文献2))。H又はABO式血液型などの抗原を欠くことによる。まれな表現型であると考えられている。このような患者は、ABO式血液型抗原に応答する中和抗体を産生できるため、RBC輸血に不適格となる。実際に、このような患者は、中和抗体応答を避けるために同一源から輸血を受けなくてはならず、繰り返して赤血球輸血を必要とする症例(例えば、鎌状血球患者など)では非常に困難である。
【0006】
更に、様々な抗体系自己免疫疾患を患い、自己免疫性溶血性貧血を経験している患者も、赤血球輸血の恩恵を受ける場合がある。しかしながら、ドナーを見つけるのが困難であったり、RBCが患者の自己抗体に適合するドナーが限られたりする。基本的には、これら患者は、まれな血液表現型を有するものと同じ困難に直面する。
【0007】
更に、異常ヘモグロビン症及びサラセミアを患っている患者は、RBCの寿命が短くなる、遺伝的背景が同一の突然変異を有する。これら患者の生命及び健康状態を輸血によって改善する考え方は古いものであるが、必要な輸血頻度が主な問題となる。健康なドナーのRBCの平均寿命は28日間である。これら患者に必要とされる輸血回数は多く、頻回であり、医原性感染のリスクを顕著に高める。インビトロでRBCを産出し、120日間の平均寿命を有する同調RBCを輸血することができると、これら患者が必要とする輸血回数を大きく減少させ、生活の質を真に改善し得る。
【0008】
ドナーから採取したRBCの寿命の問題は、外傷及び外科的処置に対するRBCの従来の臨床使用という意味でも重要である。RBC濃縮物を最大1ヶ月保管すると、酸素の輸送能の回復に少なくとも24時間を要するRBC集団をもたらす場合がある。加えて、これら濃縮物中の多くの壊死RBCが、レシピエント中で炎症反応と、同時にかかる炎症反応に起因する合併症を引き起こす場合がある。インビトロにおいてRBCの安定供給をもたらす能力によって、医療従事者は新鮮RBCの必要量を予測し、それに応じることができ、RBC濃縮物を長期間保管する必要もなくなる。
【0009】
赤血球輸血に関連する別の問題点は、赤血球輸血の難しさが増していることである。この難しさが増している理由として、輸血を介して感染することがわかっている感染因子の数の増加によって、輸血に適する献血の供給が着実に低下していること、ヘモグロビン及び酸素運搬体(パーフルオロカーボン)が、臨床現場でRBC代用物として有効であると示せなかったこと、最近のエリスロポエチン(EPO)の使用に伴う合併症が挙げられる。輸血のために限定したRBC生成物を産出できる、RBC前駆細胞の継続的供給が利用しやすくなれば、医療施設での診療を変え、輸血をより安全に、かつより幅広く使用される処置になるであろう。しかしながら、このような取り組みは、安全で、有効で、かつ、汎用的なRBCの供給が可能でなくてはならない。
【0010】
初期の試みの一部は、初代造血幹細胞(骨髄、臍帯血、又は末梢血由来)又は胚性幹細胞から、インビトロでRBCを誘導させて行われているが、今まで、費用、手順の長さ、複数工程、フィーダー細胞若しくは血清の使用、労働力の大きさ、低収率、又は、成熟した無核赤血球に完全に分化しなかったことなど、1つ又は2つ以上の様々な理由によって成功していない。インビトロでRBCを算出させる試みとして、初代造血幹細胞(Neildez-Nguyen et al.,Nat Biotech 20,467~72,2002(非特許文献3))及び胚性幹細胞(Lu et al.,Blood.2008 Dec 1;112(12):4475~84(非特許文献4);Lu et al.,Regen Med 3,693~704,2008(非特許文献5))から出発する方法が挙げられる。またこれらの方法は、一般的には、限定した継続的RBC前駆細胞源を可能にしない。
【0011】
上記文書及び試験の引用は、上記のうち任意のものが適切な従来技術であると認めることを意図しない。これら文書の内容に関する全ての記載は、出願人が利用できる情報に基づいており、これら文書の内容の正確さをなんら認めることにはならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】American Association of Blood Banksウェブサイト
【文献】Douay et al.,Transfusion Medicine Reviews 21,91~100,2007
【文献】Neildez-Nguyen et al.,Nat Biotech 20,467~72,2002
【文献】Lu et al.,Blood.2008 Dec 1;112(12):4475~84
【文献】Lu et al.,Regen Med 3,693~704,2008
【発明の概要】
【0013】
概要
したがって、完全に成熟したヒト赤血球のインビトロ生成に対する、改良された方法が必要である。本開示は、細胞の生存又は増殖の一方または両方を誘導する、外因性タンパク質などの1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質と、EPOと、任意でIL-3との存在下で造血幹細胞(HSC)を培養することによって、赤血球(RBC)集団を産生する新たな方法を提供する。有利には、これらの方法は、約10日間で、グリコホリンA(Glycophrin A)(GPA)の発現、成人型ヘモグロビンレベルの上昇、CD71(トランスフェリン受容体)レベルの減少、及び胎児型ヘモグロビンレベルの減少を非限定的に含む、成人型赤血球の表現型を呈する成熟無核赤血球を産生する。更に、インビトロで無期限に継代し、凍結保存し、その後戻すことができる条件的不死化ヒト長期HSCからのRBCの産生は、確定され、特徴がはっきりした供給源からの、完全に分化した赤血球の継続的生産を可能にする。更に、本開示の新規方法によって産生されたRBCは、必要とする対象の治療に使用できる、1つ又は2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質を含有及び/又は発現することもできる。
【0014】
したがって、本開示の特定の態様は、造血幹細胞の成熟赤血球への分化を誘発しそれによって成熟赤血球の集団を産生する条件において、EPOと、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質又はこれらの生物学的に活性な断片との存在下で造血幹細胞を培養し、造血幹細胞から成熟赤血球の集団を産生する方法に関する。いくつかの実施形態では、造血幹細胞は、条件的不死化造血幹細胞である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、造血幹細胞は、タンパク質を形質導入した造血幹細胞であり、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、外因性タンパク質である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、造血幹細胞はトランスジェニック造血幹細胞である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、MYCポリペプチド、ICN-1ポリペプチド、これらのホモログ、及びこれらの生物学的に活性な断片から選択される1つ又は2つ以上のポリペプチドである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、MYCポリペプチドは、n-Myc、c-Myc、l-Myc、v-Myc、及びs-Mycから選択される、1つ又は2つ以上のMYCポリペプチドである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片のうち1つ又は2つ以上は、タンパク質形質導入ドメインを含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、タンパク質形質導入ドメインは、TAT、VPR、及びEPTDから選択される1つ又は2つ以上のタンパク質形質導入ドメインである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、TAT-MYCである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片はボーラスで提供される。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質は、約24時間毎、約48時間毎、又は約72時間毎にボーラスで提供される。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、この方法は、造血幹細胞をIL-3の存在下で培養することを更に含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、この方法は、造血幹細胞をフィーダー細胞及び血清の非存在下で培養することを更に含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、この方法は、成熟赤血球の集団を、アポトーシスを阻害する1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片の存在下で培養することを更に含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインを含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインは、BH1、BH2、BH3、及びBH4から選択される1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の第2組み換えタンパク質は、Bcl-2、Bcl-w、Bcl-X、Bcl-XL、又はMcl-1のうち1つ又は2つ以上である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片はBcl-2である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片のうち1つ又は2つ以上は、タンパク質形質導入ドメインを含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、タンパク質形質導入ドメインは、TAT、VPR、及びEPTDから選択される1つ又は2つ以上のタンパク質形質導入ドメインである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、TAT-Bcl-2である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、造血幹細胞は、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片を更に含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、外因性タンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、造血幹細胞は、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;及び、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片から選択される、1つ又は2つ以上のタンパク質をコードする1つ又は2つ以上の導入遺伝子を含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;又は、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片のうち、1つ又は2つ以上の発現又は機能は制御可能である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;又は、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片のうち、1つ又は2つ以上の発現又は機能は誘導可能である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の導入遺伝子のうち1つ又は2つ以上は、抗生物質応答配列又はホルモン応答配列をコードする。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、抗生物質応答配列又はホルモン応答配列は、エストロゲン応答配列、ゴナドトロピン応答配列、又はテトラサイクリン応答配列、及び糖質コルチコイド応答配列から選択される、1つ又は2つ以上の応答配列である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の導入遺伝子は、1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片;及び、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片から選択される、1つ又は2つ以上のタンパク質を過剰発現する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団の産生は、IL-3及びEPOの存在下で8日間、その後、フィーダー細胞及びEPOの存在下で3日間、最後にフィーダー細胞単独の存在下で10日間培養した初代幹細胞からの赤血球の集団の産生と比べて、少なくとも45%速められる。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団は約7~14日間で産生される。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団は、約40%~約100%の細胞が無核化されている成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞がGPAを発現している成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞が成人型ヘモグロビンを発現している成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞がCD71の発現レベルの低下を呈している成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している成熟赤血球の集団、から選択される、1つ又は2つ以上の特徴を呈する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、造血幹細胞はヒト造血幹細胞である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、造血幹細胞は、まれな血液型を有する患者から単離された。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、患者は自己免疫性状態を有する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、造血幹細胞は胚性幹細胞から産生され、又は多能性幹細胞から誘導された。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団はヒト細胞の集団である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団は、A、A、B、B、AB、AB、O、及びOから選択される、1つ又は2つ以上の血液型を有する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団はまれな血液型である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団は非ヒト動物細胞の集団である。
【0015】
本開示の他の態様は、GPAを発現し、成人型ヘモグロビンを発現し、CD71の発現レベルの低下を呈し、かつ、胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈する無核赤血球を含み、インビトロで分化した成熟赤血球の集団に関し、このとき、集団中の約40%~約100%の赤血球が無核化されており;集団中の約40%~約100%の赤血球がGPAを発現しており;集団中の約40%~約100%の赤血球が成人型ヘモグロビンを発現しており;集団中の約40%~約100%の赤血球がCD71の発現レベルの低下を呈しており;かつ、集団中の約40%~約100%の赤血球が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球は1つ又は2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質を含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球はまれな血液型を有する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球はヒト赤血球である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球は非ヒト動物赤血球である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、インビトロで分化した成熟赤血球の集団は、上記任意の実施形態の造血幹細胞から成熟赤血球の集団を産生する任意の方法によって産生される。
【0016】
本開示の他の態様は、集団中の約40%~約100%の赤血球が無核化されており、集団中の約40%~約100%の赤血球がGPAを発現しており、集団中の約40%~約100%の赤血球が成人型ヘモグロビンを発現しており、集団中の約40%~約100%の赤血球がCD71の発現レベルの低下を呈しており、かつ、集団中の約40%~約100%の赤血球が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している、インビトロで分化した成熟赤血球の集団と、1つ又は2つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、組成物は、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片を更に含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球の集団は、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片を含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、外因性タンパク質である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球はまれな血液型を有する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球はヒト赤血球である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球は非ヒト動物赤血球である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、インビトロで分化した成熟赤血球の集団は、上記任意の実施形態の造血幹細胞から成熟赤血球の集団を産生する任意の方法によって産生される。
【0017】
本開示の他の態様は、インビトロで分化した成熟赤血球の集団が必要な対象にこれらを提供することによる、無核赤血球の欠乏を特徴とする疾病又は疾患の治療、予防、又は診断方法に関し、このとき、集団中の約40%~約100%の赤血球が無核化されており、集団中の約40%~約100%の赤血球がGPAを発現しており、集団中の約40%~約100%の赤血球が成人型ヘモグロビンを発現しており、集団中の約40%~約100%の赤血球がCD71の発現レベルの低下を呈しており、かつ、集団中の約40%~約100%の赤血球が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、対象はヒトである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、対象は非ヒト動物である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、赤血球の集団は、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片を含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片は、外因性タンパク質である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、インビトロで分化した成熟赤血球の集団は、上記任意の実施形態の造血幹細胞から成熟赤血球の集団を産生する任意の方法によって産生される。
【0018】
本開示の他の態様は、アポトーシスを阻害する、1つ又は2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ又はこれらの生物学的に活性な断片を含有する培地中で、赤血球の集団を維持することによって、成熟赤血球の集団のインビトロでの半減期を延長する方法に関する。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ又はこれらの生物学的に活性な断片は、1つ又は2つ以上のBcl2ホモロジードメインを含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインは、BH1、BH2、BH3、及びBH4から選択される1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ又はこれらの生物学的に活性な断片は、Bcl-2、Bcl-w、Bcl-X、Bcl-XL、又はMcl-1のうち1つ又は2つ以上である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ又はこれらの生物学的に活性な断片はBcl-2である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ又はこれらの生物学的に活性な断片のうち1つ又は2つ以上は、タンパク質形質導入ドメインを含む。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、タンパク質形質導入ドメインは、TAT、VPR、及びEPTDから選択される1つ又は2つ以上のタンパク質形質導入ドメインである。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ又はこれらの生物学的に活性な断片は、TAT-Bcl-2である。上記任意の実施形態と組み合わせ得るいくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団は、上記任意の実施形態の造血幹細胞から成熟赤血球の集団を産生する任意の方法によって産生される。
[本発明1001]
造血幹細胞から成熟赤血球の集団を産生する方法であって、以下の段階を含む、方法:
前記造血幹細胞の成熟赤血球への分化を誘発し、それによって成熟赤血球の集団を産生する条件において、
EPOと、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質又はこれらの生物学的に活性な断片との存在下で、造血幹細胞を培養する段階。
[本発明1002]
前記1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片が、外因的に供給される、内因性発現の誘導によって産生される、又は、遺伝子導入で発現される、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片が、MYCポリペプチド、ICN-1ポリペプチド、これらのホモログ、及びこれらの生物学的に活性な断片からなる群から選択される1つ又は2つ以上のポリペプチドである、本発明1001又は1002のいずれかの方法。
[本発明1004]
前記1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片のうち1つ又は2つ以上が、タンパク質形質導入ドメインを含む、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
前記タンパク質形質導入ドメインが、TAT、VPR、及びEPTDからなる群から選択される1つ又は2つ以上のタンパク質形質導入ドメインである、本発明1004の方法。
[本発明1006]
前記1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片が、TAT-MYCである、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
前記1つ若しくは2つ以上の第1組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片が、約24時間毎、約48時間毎、又は約72時間毎にボーラスで提供される、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記造血幹細胞を培養する段階が、前記造血幹細胞をIL-3の存在下で培養することを含む、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記造血幹細胞を培養する段階が、前記造血幹細胞をフィーダー細胞及び血清の非存在下で培養することを含む、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記成熟赤血球の集団を、アポトーシスを阻害する1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片の存在下で培養することを更に含む、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
前記1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片が、1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインを含む、本発明1010の方法。
[本発明1012]
前記1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインが、BH1、BH2、BH3、及びBH4からなる群から選択される1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインである、本発明1011の方法。
[本発明1013]
前記1つ又は2つ以上の第2組み換えタンパク質が、Bcl-2、Bcl-w、Bcl-X、Bcl-XL、又はMcl-1のうち1つ又は2つ以上である、本発明1011又は1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片が、Bcl-2である、本発明1011~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片のうち1つ又は2つ以上が、タンパク質形質導入ドメインを含む、本発明1011~1014のいずれかの方法。
[本発明1016]
前記タンパク質形質導入ドメインが、TAT、VPR、及びEPTDからなる群から選択される1つ又は2つ以上のタンパク質形質導入ドメインである、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記1つ若しくは2つ以上の第2組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片が、TAT-Bcl-2である、本発明1011~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記造血幹細胞が、1つ若しくは2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片を更に含む、本発明1001~1017のいずれかの方法。
[本発明1019]
前記成熟赤血球の集団が約7~14日間で産生される、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記成熟赤血球の集団が、約40%~約100%の細胞が無核化されている成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞がGPAを発現している成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞が成人型ヘモグロビンを発現している成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞がCD71の発現レベルの低下を呈している成熟赤血球の集団;約40%~約100%の細胞が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している成熟赤血球の集団からなる群から選択される1つ又は2つ以上の特徴を呈する、本発明1001~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
前記造血幹細胞がヒト造血幹細胞である、本発明1001~1020のいずれかの方法。
[本発明1022]
前記成熟赤血球の集団がヒト細胞の集団である、本発明1001~1021のいずれかの方法。
[本発明1023]
前記成熟赤血球の集団が非ヒト動物細胞の集団である、本発明1001~1020のいずれかの方法。
[本発明1024]
インビトロで分化した成熟赤血球の集団であって、GPAを発現している、成人型ヘモグロビンを発現している、CD71の発現レベルの低下を呈している、及び胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している、無核赤血球を含み、
前記集団中の約40%~約100%の赤血球が無核化されており、
前記集団中の約40%~約100%の赤血球がGPAを発現しており、
前記集団中の約40%~約100%の赤血球が成人型ヘモグロビンを発現しており、
前記集団中の約40%~約100%の赤血球がCD71の発現レベルの低下を呈しており、
前記集団中の約40%~約100%の赤血球が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を呈している、集団。
[本発明1025]
前記赤血球が、1つ又は2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質を含む、本発明1024の集団。
[本発明1026]
前記赤血球がヒト赤血球である、本発明1024又は1025のいずれかの集団。
[本発明1027]
前記赤血球が非ヒト動物赤血球である、本発明1024又は1025のいずれかの集団。
[本発明1028]
本発明1024~1027のいずれかのインビトロで分化した成熟赤血球の集団と、1つ又は2つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤とを含む、医薬組成物。
[本発明1029]
本発明1024~1027のいずれかのインビトロで分化した成熟赤血球の集団を必要とする対象に、それらを提供する段階を含む、無核赤血球の欠乏を特徴とする疾病又は疾患の、治療、予防、又は診断の方法。
[本発明1030]
前記対象がヒトである、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記対象が非ヒト動物である、本発明1029の方法。
[本発明1032]
アポトーシスを阻害する1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片を含む培地中で前記赤血球の集団を維持する段階を含む、インビトロでの成熟赤血球の集団の半減期を延長する方法。
[本発明1033]
前記1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片が、1つ又は2つ以上のBcl2ホモロジードメインを含む、本発明1032の方法。
[本発明1034]
前記1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインが、BH1、BH2、BH3、及びBH4からなる群から選択される1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインである、本発明1033の方法。
[本発明1035]
前記1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片が、Bcl-2、Bcl-w、Bcl-X、Bcl-XL、又はMcl-1のうち1つ又は2つ以上である、本発明1032~1034のいずれかの方法。
[本発明1036]
前記1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片が、Bcl-2である、本発明1032~1034のいずれかの方法。
[本発明1037]
前記1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片のうち1つ又は2つ以上が、タンパク質形質導入ドメインを含む、本発明1032~1036のいずれかの方法。
[本発明1038]
前記タンパク質形質導入ドメインが、TAT、VPR、及びEPTDからなる群から選択される1つ又は2つ以上のタンパク質形質導入ドメインである、本発明1037の方法。
[本発明1039]
前記1つ若しくは2つ以上の外因性ポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片が、TAT-Bcl-2である、本発明1032~1038のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ctlt-HSC細胞株を作る一般的な手法を示す。図1Aは、初代マウスHSC細胞にMYC-ER及びBcl-2を形質導入するのに用いられる、レトロウイルス構築物の模式図を示す。図1Bは、pMIG-MYC-ER及びpMIG-Bcl-2の形質導入後、5-フルオロウラシルで処理したドナーから得られたHSCのフローサイトメトリー分析を示す。図1Cは、図1Bに示される形質導入されたHSCを移植したマウスにおける、白血病誘発の速度を示す。図1Dは、白血病マウスの骨髄から回収した直後のctlt-HSCのFACS分析を示す。図1Eは、樹立されたctlt-HSC細胞株のFACS分析を示す。図1Fは、野生型C57/BL6マウスの骨髄からの正常で操作されていないLt-HSC中の、幹細胞マーカーのFACS分析を示す。
図2A】ctlt-HSCの移植後に生じた成熟免疫細胞の特徴を示す。図2Aは、移植後のリンパ組織中ctlt-HSC由来の細胞の発生頻度を示す。
図2B】ctlt-HSCの移植後に生じた成熟免疫細胞の特徴を示す。図2Bは、骨髄中のGFP骨髄系細胞の検出を示す。
図2C】ctlt-HSCの移植後に生じた成熟免疫細胞の特徴を示す。図2Cは、脾臓中の末梢成熟リンパ球の分析を示す。
図2D】ctlt-HSCの移植後に生じた成熟免疫細胞の特徴を示す。図2Dは、ctlt-HSCの2回目の連続継代後の移植レシピエントマウス中の、末梢成熟リンパ球の分析を示す。
図3】3種類のヒトctlt-HSC細胞株の表面表現型を示す。図3A図3B、及び図3Cは、3種類の樹立されたヒトctlt-HSC細胞株から形質導入された(すなわち、GFP)HSCの、CD34画分を示す。図3D図3E、及び図3Fは、3種類の樹立されたヒトctlt-HSC細胞株から形質導入された(すなわち、GFP)HSCの、c-kit画分を示す。図3Gは、樹立されたヒトctlt-HSC細胞株から形質導入された(すなわち、GFP)HSCがCD45を発現していないことを示す。図3Hは、樹立されたヒトctlt-HSC細胞株から形質導入された(すなわち、GFP)HSCがFlk-2を発現していないことを示す。図3Iは、樹立されたヒトctlt-HSC細胞株から形質導入された(すなわち、GFP)HSCがCD150を発現していないことを示す。
図4】NOD/SCID/β2M-/-マウスにおける、ヒトctlt-HSC細胞株の成熟リンパ系細胞への分化を示す。図4Aは、対照マウス(移植なし)から得られたデータを示す。図4B図4C、及び図4Dは、末梢血中に成熟ヒトリンパ系細胞が存在する移植レシピエントマウスから得られたデータを示す。
図5】ヒトctlt-HSCを供給源として用いてインビトロで産生されたヒト赤血球を示す。図5Aは、マウス末梢血のHE染色を示す。図5Bは、初代ヒト胎児臍帯血のHE染色を示す。図5C図5D、及び図5Eは、12日間、IL-3及びEPOで処理した、3種類の条件的に形質転換された胎児臍帯血細胞株のHE染色を示す。図5Fは、赤血球の形態を示すため、図5Eの細胞の拡大図を示す。
図6】インビトロで産生したヒトRBCが、マウスを化学的に誘発した致死的貧血から救出できることを示す。
図7】インビトロで産生したヒトRBCが、マウスを出血性ショックから救出できることを示す。
図8】細胞へのタンパク質の直接形質導入のための、組み換えTAT-MYC及びTAT-Bcl-2タンパク質の発現及び精製を示す。図8Aは、TAT-MYCを示す。図8Bは、TAT-Bcl-2を示す。
図9】マウスタンパク質を形質導入した長期HSC細胞株(ptlt-HSC)の発達を示している、FACS分析を示す。図9Aは、非染色細胞を示す。図9Bは、Sca1及びc-Kitに対する抗体による染色を示す。図9Cは、B220及びCD3に対する抗体による染色を示す。図9Dは、得られたptlt-HSC株の表面表現型を示す。
図10】Rag-1-/-マウスにおける、マウスptlt-HSC細胞株によるリンパ系区画の再構成を示している、FACS分析を示す。図10Aは、非染色細胞を示す。図10Bは、B細胞のマーカーであるB220及びIgMの染色を示す。図10Cは、T細胞のマーカーであるCD4及びTCRβの染色を示す。図10Dは、T細胞のマーカーであるCD8及びTCRβの染色を示す。
図11】ptlt-HSCからのインビトロでの成熟マウス赤血球の発達を示す。図11Aは、40倍の対物レンズ下での、未分化マウスptlt-HSCのHE染色を示す。図11Bは、40倍の対物レンズ下での、マウスptlt-HSC由来赤血球のHE染色を示す。図11Cは、100倍の対物レンズ下での、マウスptlt-HSC由来赤血球のHE染色を示す。
図12】インビトロでの臍帯血由来HSCの増殖を示す。図12Aは、TAT-MYC及びTAT-Bcl-2を含有する培地中で3日間HSCを培養した後の、CD38及びCD34に対する抗体による染色を示す。図12Bは、TAT-MYC及びTAT-Bcl-2を含有する培地中で14日間HSCを培養した後の、CD38及びCD34に対する抗体による染色を示す。
図13】インビトロでの赤血球分化の誘導を示す。図13Aは、IL-3及びEPOを含有する培地中で4日間培養した後の、図12の非染色HSC細胞を示す。図13Bは、図12のHSC細胞を中性培地中で4日間培養した後の、GPA及びCD71に対する抗体による染色を示す。図13Cは、図12のHSC細胞をIL-3及びEPOを含有する培地中で4日間培養した後の、GPA及びCD71に対する抗体による染色を示す。
図14】インビトロでの赤血球分化マーカーの動的解析を示す。図14Aは、成熟ヒトRBC細胞のGPA、CD71、及び胎児型ヘモグロビンに対する抗体による染色を示す(+対照)。図14Bは、図12のHSC細胞をIL-3及びEPOを含有する培地中で5日間培養した後の、GPA、CD71、及び胎児型ヘモグロビンに対する抗体による染色を示す。図14Cは、図12のHSC細胞をIL-3及びEPOを含有する培地中で9日間培養した後の、GPA、CD71、及び胎児型ヘモグロビンに対する抗体による染色を示す。
図15】培養中の除核の組織学的分析を示す。図15Aは、IL-3及びEPOを含有する培地中で3日間培養した後の、図12の細胞のHE染色を示す。図15Bは、IL-3及びEPOを含有する培地中で7日間培養した後の、図12の細胞のHE染色を示す。
図16】ガス透過性バッグ中でのヒト赤血球の産生を示す。図16Aは、IL-3及びEPOを含有する培地中で4日間培養した後の、条件的不死化ptlt-HSCから分化した赤血球を示す。図16Bは、赤血球の成熟及び除核を示している、赤血球のHE染色を示す。
図17A】骨髄細胞からのマウス赤血球の産生を示す。図17Aは、骨髄の未処理(対照)マウス造血幹細胞のHE染色を示す。
図17B】骨髄細胞からのマウス赤血球の産生を示す。図17Bは、IL3及びEPOで処理し、Tat-Myc又はTat-Bcl-2で処理していない、骨髄のマウス造血幹細胞のHE染色を示す。
図17C】骨髄細胞からのマウス赤血球の産生を示す。図17Cは、IL3、EPO及びTat-Mycで処理し、Tat-Bcl-2で処理していない、骨髄のマウス造血幹細胞のHE染色を示す。
図17D】骨髄細胞からのマウス赤血球の産生を示す。図17Dは、IL3、EPO、及びTat-Bcl-2で処理し、Tat-Mycで処理していない、骨髄のマウス造血幹細胞のHE染色を示す。
図17E】骨髄細胞からのマウス赤血球の産生を示す。図17Eは、IL3、EPO、Tat-Bcl-2、及びTat-Mycで処理した骨髄のマウス造血幹細胞のHE染色を示す。
図18A】Tat融合タンパク質の産生とインビトロでの特徴確認を示す。図18Aは、HIV-1 Tat及びV5及び6×Hisタグのインフレームタンパク質形質導入ドメインの位置を含む、Tat-Myc及びTat-Bcl-2融合タンパク質の図を示す。
図18B】Tat融合タンパク質の産生とインビトロでの特徴確認を示す。図18Bは、SDS-PAGEで分離し、クマシーで染色した、E.coliから精製した後の組み換えタンパク質を示す。
図18C】Tat融合タンパク質の産生とインビトロでの特徴確認を示す。図18Cは、精製した組み換えTat-Myc、Tat-Bcl-2に2時間曝露し、又は未処理のまま(NT)とし、固定後、V5に対するモノクローナル抗体と、Hoechst 9934核染色液で染色したコンフルエントな3T3細胞の叢を示す。この時間では、Tat-Mycタンパク質のほとんどは核領域に局在しているが、Tat-Bcl-2は細胞質及び核周囲空間に留まっている。
図18D】Tat融合タンパク質の産生とインビトロでの特徴確認を示す。図18Dは、1時間Tat-Mycに1度曝露して、洗浄し、その後溶解して(示した時点において)、核画分から細胞膜及び細胞質画分を分離したヒト臍帯血由来HSCのSDS-PAGE及びウエスタンブロット分析(V5及びβ-アクチンに対するモノクローナル抗体)を示す。
図18E】Tat融合タンパク質の産生とインビトロでの特徴確認を示す。図18Eは、2時間Tat-Mycに1度曝露して、洗浄し、その後溶解して(示した時点において)、核画分から細胞膜及び細胞質画分を分離したヒト臍帯血由来HSCの核画分のSDS-PAGE及びウエスタンブロット分析(V5及びβ-アクチンに対するモノクローナル抗体)を示す。タンパク質の大部分は24時間と48時間との間になくなっている。72時間後のいずれのポイントにおいて、検出可能なタンパク質は残っていない。
図19A】Tat-Myc及びTat-Bcl-2を有するヒト臍帯血細胞由来HSCの増殖の図を示す。図19Aは、インビトロで14日間増殖させた、ヒト臍帯血細胞の表面表現型(上図はサイトカイン混合物のみ;下図はTat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物)のFACS分析の図を示す。
図19B】Tat-Myc及びTat-Bcl-2を有するヒト臍帯血細胞由来HSCの増殖の図を示す。図19Bは、両条件下インビトロでのCD34+細胞の増殖速度のグラフを示す。
図19C】Tat-Myc及びTat-Bcl-2を有するヒト臍帯血細胞由来HSCの増殖の図を示す。図19Cは、骨髄赤血球分化を補助する条件下でのメチルセルロースアッセイで現像された、ヒトptlt-HSC由来の3つの異なるコロニータイプの画像を示す。
図19D】Tat-Myc及びTat-Bcl-2を有するヒト臍帯血細胞由来HSCの増殖の図を示す。図19Dは、サイトカイン混合物と共に培養された10個の臍帯血細胞(黒色)、Tat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物と共に培養された10個の臍帯血細胞(濃灰色)、又は10個の新鮮な未操作の臍帯血細胞(明灰色)のいずれかを播種した、メチルセルロース培養で観察された各コロニータイプを定量したグラフを示す。
図19E】Tat-Myc及びTat-Bcl-2を有するヒト臍帯血細胞由来HSCの増殖の図を示す。図19Eは、図19Dに示す細胞を再プレーティングして、メチルロース培養で観察されたコロニー数を定量したグラフを示す。
図20A】インビボでのヒト臍帯血由来タンパク質を形質導入された長期(ptlt)-HSCの機能解析の図を示す。図20Aは、サイトカイン混合物中において、インビトロで増殖(1つ目の図;FCB)、若しくはTat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物中で増殖(2つ目の図;FCB TMTB)された10個の臍帯血細胞、又は5×10個の新鮮な未操作の臍帯血細胞(3つ目の図;新鮮FCB)を移植した、致死量以下で照射されたNSGマウスの骨髄コホートのFACS分析の図を示す。
図20B】インビボでのヒト臍帯血由来タンパク質を形質導入された長期(ptlt)-HSCの機能解析の図を示す。図20Bは、異種キメラマウスの骨髄、脾臓、及び胸腺細胞のFACS分析の図を示す。細胞は全てヒトCD45で染色した。CD45+細胞に対するゲーティングにより、骨髄中にヒトCD34+CD38lo細胞(1つ目の図;BM);脾臓中にヒトCD19+及びヒトCD3+リンパ球(2つ目の図;脾臓);並びに、胸腺中にヒトCD3+細胞(3つ目の図;胸腺)が示された。
図20C】インビボでのヒト臍帯血由来タンパク質を形質導入された長期(ptlt)-HSCの機能解析の図を示す。図20Cは、CFSEで標識され、ヒトCD40及びIgMに対するモノクローナル抗体の存在下で培養された、ヒト膵臓B細胞のFACS分析の図を示す。NSG異種キメラマウスで発生したヒトB細胞は、抗原受容体の刺激後増殖した。
図20D】インビボでのヒト臍帯血由来タンパク質を形質導入された長期(ptlt)-HSCの機能解析の図を示す。図20Dは、NSG異種キメラマウスの骨髄から得られ、メチルセルロース上にプレーティングされた、ヒトCD34+CD38lo細胞由来の骨髄赤血球コロニーを定量したグラフを示す。
図20E】インビボでのヒト臍帯血由来タンパク質を形質導入された長期(ptlt)-HSCの機能解析の図を示す。図20Eは、再プレーティング後の骨髄赤血球コロニーの発育を定量したグラフを示す。
図20F】インビボでのヒト臍帯血由来タンパク質を形質導入された長期(ptlt)-HSCの機能解析の図を示す。図20Fは、インビトロでサイトカイン混合物(白丸)又はTat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物(黒四角)中で増殖された骨髄細胞のCD45陽性集団における、骨髄系リンパ系細胞分化(CD11b、CD33、CD3、及びCD19の発現)を定量したグラフを示す。
図20G】インビボでのヒト臍帯血由来タンパク質を形質導入された長期(ptlt)-HSCの機能解析の図を示す。図20Gは、インビトロでサイトカイン混合物(白丸)又はTat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物(黒四角)中で増殖された脾臓細胞のCD45陽性集団における、骨髄系リンパ系細胞分化(CD11b、CD33、CD3、及びCD19の発現)を定量したグラフを示す。
図21A】成人型ヒトG-CSFで動員したHSCをインビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2と共に増殖させた図を示す。図21Aは、ヒトCD34+及びCD38+画分の濃縮を示すヒトCD45+細胞の表面表現型の図を示す。
図21B】成人型ヒトG-CSFで動員したHSCをインビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2と共に増殖させた図を示す。図21Bは、Tat-Myc及びTat-Bcl-2が存在する培養液中における、インビトロでの18日間にわたる細胞増殖速度のグラフを示す。
図21C】成人型ヒトG-CSFで動員したHSCをインビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2と共に増殖させた図を示す。図21Cは、5×10個のヒト成人型G-CSF HSC(Tat-Myc及びTat-Bcl-2と共にインビトロで増殖)が、メチルセルロース中で4種類の形態学的に異なるコロニータイプを生じさせることを示しているグラフを示す。
図21D】成人型ヒトG-CSFで動員したHSCをインビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2と共に増殖させた図を示す。図21Dは、ヒト成人型G-CSF HSC(Tat-Myc及びTat-Bcl-2と共にインビトロで増殖)が、異種キメラNSGマウスにおいてヒト造血性系統を生じさせることを示しているFACS分析の図を示す。骨髄は、Tat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物(1つ目の図;G-CSF+TMTB)又は新鮮な未操作の臍帯血細胞(2つ目の図;新鮮FCB)と共に増殖させたptlt-HSCを移植したNSGマウス由来のものであった。
図21E】成人型ヒトG-CSFで動員したHSCをインビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2と共に増殖させた図を示す。図21Eは、骨髄、脾臓、及び胸腺由来細胞のFACS分析の図を示す。骨髄細胞は、ヒトCD34+及びCD38+でもあるヒトCD45細胞を含み(1つ目の図)、脾臓細胞はヒトCD3でも染色されるヒトCD45細胞を含み(2つ目の図)、胸腺細胞はヒトCD45細胞並びにCD3を含んでいた(3つ目の図)。
図21F】成人型ヒトG-CSFで動員したHSCをインビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2と共に増殖させた図を示す。図21F及び図21Gは、異種キメラマウスコホートに、インビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物と共に増殖させた10個のG-CSF動員細胞(黒四角)を移植し、骨髄系リンパ系細胞分化について評価したグラフを示す。骨髄細胞(図21F)及び脾臓細胞(図21G)のCD45陽性集団を、CD11b、CD33、CD3、及びCD19の発現について解析した。
図21G】成人型ヒトG-CSFで動員したHSCをインビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2と共に増殖させた図を示す。図21F及び図21Gは、異種キメラマウスコホートに、インビトロでTat-Myc及びTat-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物と共に増殖させた10個のG-CSF動員細胞(黒四角)を移植し、骨髄系リンパ系細胞分化について評価したグラフを示す。骨髄細胞(図21F)及び脾臓細胞(図21G)のCD45陽性集団を、CD11b、CD33、CD3、及びCD19の発現について解析した。
図22】活性化T細胞の生死判別アッセイにおける、様々なMyc融合タンパク質構築物の活性を示す。図22Aは、Myc融合タンパク質構築物の一部の代表例の配列図を示す。図22Bは、代表的なMyc融合タンパク質構築物による処理48時間後の生存T細胞の割合のグラフを示す。
図23】活性化T細胞生死判別アッセイにおける、様々なTat-融合タンパク質(それぞれ50μg/mL)の活性を示す。図23Aは、未処理細胞(処理なし)のFACS分析のライブゲート(前方×側方散乱)の図を示す。図23Bは、Tat-Cre処理細胞(Tat-Cre対照)のFACS分析のライブゲート(前方×側方散乱)の図を示す。図23Cは、Tat-Bcl-2処理細胞(Tat-Bcl-2)のFACS分析のライブゲート(前方×側方散乱)の図を示す。図23Dは、Tat-Myc処理細胞(Tat-Myc)のFACS分析のライブゲート(前方×側方散乱)の図を示す。
図24】Tat-Mycポリペプチドのいくつかの実施形態のアミノ酸(配列番号1)及び核酸(配列番号2)の配列を示す。
図25】Bcl-2ドメインポリペプチドのいくつかの実施形態のアミノ酸(配列番号3)及び核酸(配列番号4)の配列を示す。
図26A】Tat-Mycを含む分化培地を用いて、初代HSCが成熟赤血球にも分化することを示す。図26Aは、フローサイトメトリーによって、6日目、11日目において、細胞をGPA×CD71赤血球系表面マーカーについて評価し、11日目において、細胞を成人型及び胎児型ヘモグロビンの発現について評価したものを示す。
図26B】Tat-Mycを含む分化培地を用いて、初代HSCが成熟赤血球にも分化することを示す。図26Bは、10日目において、HE染色のため、分化培養からのサンプルをカバーガラス上にサイトスピンしたものを示す。画像の倍率は10倍及び20倍である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本開示は、特に、造血幹細胞(HSC)を、エリスロポエチン(EPO)と、任意でIL-3と、細胞の生存又は増殖の一方または両方を促進する1つ若しくは2つ以上の組み換えタンパク質又はこれらの生物学的に活性な断片とを共に培養することによる、HSCからの赤血球のインビトロ産生に関する。本明細書に記載する分化プロセスは、フィーダー細胞(例えば、線維芽細胞)及び/又は血清を必要とせず、約7~14日間で成熟無核赤血球の産生をもたらす。
【0021】
本明細書に記載する成熟赤血球の産生方法は、骨髄、末梢血、動員済み末梢血、臍帯血、及び胎盤を非限定的に含む任意の供給源由来のHSC、並びに、胚性幹細胞及び誘導済み多能性幹細胞から生成されるHSCによって利用できる。任意の供給源から単離されたHSCを用いて、非限定的に、万能ドナーの赤血球、まれな血液型の赤血球、オーダーメイド医療用の赤血球(例えば、自家輸血、任意に負荷又は遺伝子操作を行う)、及び1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含むように操作された赤血球を産生できる。
【0022】
本開示の方法を用いるインビトロでのHSCからの成熟赤血球の産生は、条件的不死化HSCを使用することによって増強できる。増強として、出発HSC当たりの成熟赤血球数の増加、成熟赤血球集団の1つ若しくは2つ以上の特徴の改善、又は成熟赤血球を産生するまでの日数の減少のうち、1つ又は2つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。条件的不死化HSCは、当該技術分野において既知である、1つ若しくは2つ以上の任意の遺伝子導入法及び/又はタンパク質形質導入法を用いて、細胞増殖及び/又は細胞の生存を促進する第1タンパク質、並びに、アポトーシスを阻害する第2タンパク質にHSCを曝露することによって生成することができる。
【0023】
本開示は更に、特に、本開示の方法のうち1つ又は2つ以上によって産生される成熟赤血球集団に関する。成熟赤血球集団は、集団中の少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、又は100%の細胞が、無核細胞である、GPAレベルの増加、成人型ヘモグロビン(FACSによる第2対数以上)レベルの増加、CD71(例えば、GPA/CD71)レベルの低下、及び胎児型ヘモグロビン(FACSによる第1対数;0~10)レベルの低下を呈していることが挙げられるが、これらに限定されない、1つ又は2つ以上の特徴によって特徴付けることができる。成熟赤血球集団は、1つ又は2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質も含んでよい。これらの関心対象のタンパク質は、1つ又は2つ以上の疾病若しくは疾患の予防、治療、又は診断に有用であり得る。
【0024】
本開示は更に、特に、本明細書に記載する方法のうち1つ又は2つ以上によって産生される成熟赤血球集団を含む、医薬組成物に関する。これらの医薬組成物は、1つ又は2つ以上の疾病若しくは疾患の予防、治療、又は診断に有用な1つ又は2つ以上の関心対象の外因性タンパク質を含んでもよい。
【0025】
本開示は更に、特に、本開示の成熟赤血球の集団を必要とする対象にそれらを提供することによって、赤血球の欠乏を特徴とする疾病又は疾患を治療、予防、又は診断する方法に関する。本開示は更に、特に、1つ若しくは2つ以上の赤血球の集団又は1つ若しくは2つ以上の関心対象のタンパク質を含む本開示の医薬組成物を対象に投与することによって、疾病又は疾患を治療又は予防する方法に関し、このとき、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質は疾病又は疾患の治療又は予防に有用である。
【0026】
本開示は更に、特に、赤血球又は赤血球集団のインビトロでの生存期間、つまり半減期を延長する方法に関する。インビトロでの赤血球半減期が延長によって、必要としている患者(例えば、一般市民及び武装部隊)に対して、血液を保管及び供給するための血液銀行の能力が拡大される。本明細書に記載されるように、アポトーシスを阻害する1つ又は2つ以上の外因性ポリペプチドを含有する培地中で赤血球を維持すると、赤血球の集団のインビトロでの半減期が延長する。
【0027】
本開示のタンパク質
本開示の特定の態様は、細胞の生存及び/若しくは増殖を促進し、並びに/又はアポトーシスを阻害する、1つ若しくは2つ以上の組み換えタンパク質(例えば、外因性タンパク質)、又はこれらの生物学的に活性な断片を含有する培地の存在下で、造血幹細胞(HSC)及び/又は赤血球を培養することによる、HSCから赤血球の集団をインビトロで産生すること、赤血球の集団を維持することに関する。本開示の更なる態様は、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含有する、含む、及び/又は発現する本開示のHSC及び/又は赤血球に関する。
【0028】
本明細書で使用されるとき、「細胞の生存及び/又は増殖を促進する」タンパク質は、その生物学的活性が、直接的又は間接的に、細胞の生存及び/又は細胞の増殖を活性化する、誘導する、増強する、刺激する、可能にする、又は増加するタンパク質を指す。本明細書で使用されるとき、細胞の生存及び/若しくは増殖を促進するタンパク質、又はアポトーシスを阻害するタンパク質などの、本開示のタンパク質の「生物学的に活性な断片」は、全長タンパク質の少なくとも1つの活性及び/又は機能を保持している、本開示の全長タンパク質の断片である。
【0029】
本明細書で使用されるとき、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーを指す。この用語は、自然発生型アミノ酸ポリマー、並びに、1つ又は2つ以上のアミノ酸残基が非自然発生型アミノ酸、例えば、アミノ酸アナログであるアミノ酸ポリマーに適用する。本明細書で使用されるとき、この用語は、アミノ酸残基が共有結合性ペプチド結合によって連結されている、全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含する。
【0030】
細胞の生存及び/又は細胞増殖を促進する組み換えタンパク質
本開示の特定の態様は、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ若しくは2つ以上の組み換えタンパク質、又はこれらの生物学的に活性な断片を含有する培地の存在下で、造血幹細胞(HSC)を培養することによる、HSCから赤血球の集団をインビトロで産生することに関する。
【0031】
細胞の生存及び/又は増殖を促進する当該技術分野において既知の任意の好適なタンパク質を使用してよい。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、癌ペプチド(例えば、癌原遺伝子及び/又は癌遺伝子によってコードされるポリペプチド)である。好適な癌ペプチドは、不死細胞を誘発する任意の好適なクラスであってよい。細胞の生存及び/又は増殖を促進する好適な癌ペプチドの例として、成長因子及び/若しくは分裂促進因子(例えば、c-SisなどのPDGF由来成長因子);受容体型チロシンキナーゼ、特に常時活性型受容体型チロシンキナーゼ(例えば、上皮成長因子受容体(EGFR)、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)、及びHER2/neu);細胞質型チロシンキナーゼ(例えば、Srcファミリー、Syk-ZAP-70ファミリー、及びBTKファミリーのチロシンキナーゼ);細胞質型セリン/スレオニンキナーゼ及びそれらの調節サブユニット(例えば、Rafキナーゼ、サイクリン依存性キナーゼ、Aktファミリーのメンバー);調節性GTPアーゼ(例えば、Rasタンパク質);転写因子(例えば、MYC及びHIF-1a);テロメラーゼ逆転写酵素(例えば、TERT若しくはhTERT);並びに/又は、別の癌ペプチドを活性化する因子(例えば、サイクリンA、B、D、及び/若しくはEを含むサイクリン、サイクリンD1及びD3など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質は、非限定として、MYC、mTOR、サイクリンD1、サイクリンD3、STAT3、STAT5、AML-ETO、AKT、ICN-1、hTERT、PDK-1、MLL-ENL、IL3受容体β鎖、β-カテニン、ヘッジホッグファミリー(Shh、Ihh、Dhh)、Bmi-1、c-Jun、Wnt、Bcl-2、Bcl-6、Bcl-10、上皮成長因子受容体(EGFR、ErbB-1、HER1)、ErbB-2(HER2/neu)、ErbB-3/HER3、ErbB-4/HER4、EGFRリガンドファミリー;インスリン様成長因子受容体(IGFR)ファミリー、IGF結合タンパク質(IGFBP)、IGFRリガンドファミリー;血小板由来成長因子受容体(PDGFR)ファミリー、PDGFRリガンドファミリー;線維芽細胞成長因子受容体(FGFR)ファミリー、FGFRリガンドファミリー、血管内皮成長因子受容体(VEGFR)ファミリー、VEGFファミリー;HGF受容体ファミリー;TRK受容体ファミリー;エフリン(EPH)受容体ファミリー;AXL受容体ファミリー;白血球チロシンキナーゼ(LTK)受容体ファミリー;TIE受容体ファミリー、アンジオポエチン1、2;受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体(ROR)受容体ファミリー;ジスコイジンドメイン受容体(DDR)ファミリー;RET受容体ファミリー;KLG受容体ファミリー;RYK受容体ファミリー;MuSK受容体ファミリー;形質転換成長因子β(TGF-β)受容体、TGF-β;サイトカイン受容体、クラスI(ヘマトポイエチンファミリー)及びクラスII(インターフェロン/IL-10ファミリー)受容体、腫瘍壊死因子(TNF)受容体スーパーファミリー(TNFRSF)、細胞死受容体ファミリー;癌-精巣(CT)抗原、系統特異的抗原、分化抗原、α-アクチニン-4、ARTC1、切断点クラスター領域-Abelson(Bcr-abl)融合生成物、B-RAF、カスパーゼ-5(CASP-5)、カスパーゼ-8(CASP-8)、β-カテニン(CTNNB1)、細胞分裂周期27(CDC27)、サイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)、CDKN2A、COA-1、dek-can融合タンパク質、EFTUD-2、伸長因子2(ELF2)、Ets変異体遺伝子6/急性骨髄性白血病1遺伝子ETS(ETC6-AML1)融合タンパク質、フィブロネクチン(FN)、GPNMB、低密度脂質受容体/GDP-Lフコース:β-Dガラクトース2-α-Lフコシルトランスフェラーゼ(LDLR/FUT)融合タンパク質、HLA-A2.HLA-A2遺伝子中α2-ドメインのα-ヘリックスの170番目の残基のアルギニンのイソロイシンへの変換(HLA-A*201-R170I)、HLA-A11、ヒートショックタンパク質70-2変異体(HSP70-2M)、KIAA0205、MART2、メラノーマ遍在性変異体1、2、3(MUM-1、2、3)、前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)、ネオ-PAP、ミオシンクラスI、NFYC、OGT、OS-9、pml-RARα融合タンパク質、PRDX5、PTPRK、K-ras(KRAS2)、N-ras(NRAS)、HRAS、RBAF600、SIRT2、SNRPD1、SYT-SSX1若しくは-SSX2融合タンパク質、トリオースリン酸イソメラーゼ、BAGE、BAGE-1、BAGE-2、3、4、5、GAGE-1、2、3、4、5、6、7、8、GnT-V(異常性N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV、MGAT5)、HERV-K-MEL、KK-LC、KM-HN-1、LAGE、LAGE-1、メラノーマ上のCTL認識抗原(CAMEL)、MAGE-A1(MAGE-1)、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、MAGE-A12、MAGE-3、MAGE-B1、MAGE-B2、MAGE-B5、MAGE-B6、MAGE-C1、MAGE-C2、ムチン1(MUC1)、MART-1/Melan-A(MLANA)、gp100、gp100/Pmell7(SILV)、チロシナーゼ(TYR)、TRP-1、HAGE、NA-88、NY-ESO-1、NY-ESO-1/LAGE-2、SAGE、Sp17、SSX-1,2,3,4、TRP2-INT2、癌胎児性抗原(CEA)、カリクレイン4、マンマグロビン-A、OA1、前立腺特異的抗原(PSA)、TRP-1/gp75、TRP-2、アディポフィリン、メラノーマ2には含まれないインターフェロン誘導性タンパク質(AIM-2)、BING-4、CPSF、サイクリンD1、上皮細胞接着分子(Ep-CAM)、EphA3、線維芽細胞成長因子-5(FGF-5)、糖タンパク質250(gp250)、EGFR(ERBB1)、HER-2/neu(ERBB2)、インターロイキン13受容体α2鎖(ILI 3Rα2)、IL-6受容体、腸カルボキシエステラーゼ(すなわち、α-胎児タンパク質(AFP)、M-CSF、mdm-2、MUC1、p53(TP53)、PBF、PRAME、PSMA、RAGE-1、RNF43、RU2AS、SOX10、STEAP1、サバイビン(BIRC5)、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、テロメラーゼ、ウィルムス腫瘍遺伝子(WT1)、SYCP1、BRDT、SPANX、XAGE、ADAM2、PAGE-5、LIP1、CTAGE-1、CSAGE、MMA1、CAGE、BORIS、HOM-TES-85、AF15q14、HCA661、LDHC、MORC、SGY-1、SPO11、TPX1、NY-SAR-35、FTHL17、NXF2、TDRD1、TEX15、FATE、TPTE、免疫グロブリンイディオタイプ、ベンス-ジョーンズタンパク質、エストロゲン受容体(ER)、アンドロゲン受容体(AR)、CD40、CD30、CD20、CD19、CD33、癌抗原72-4(CA72-4)、癌抗原15-3(CA15-3)、癌抗原27-29(CA27-29)、癌抗原125(CA125)、癌抗原19-9(CA19-9)、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン、扁平細胞癌関連抗原、神経細胞特異的エノラーゼ、ヒートショックタンパク質gp96、GM2、サルグラモスチム、CTLA-4、707アラニンプロリン(707-AP)、T細胞によって認識される腺癌抗原4(ART-4)、癌胚形成性抗原ペプチド-1(CAP-1)、カルシウム活性化型クロライドチャネル-2(CLCA2)、シクロフィリンB(Cyp-B)、ヒト印環腫瘍-2(HST-2)、シミアンウイルス40(SV40)由来形質転換遺伝子及びタンパク質、ヒトパピローマウイルス(HPV)タンパク質(HPV-E6、HPV-E7、主若しくは副カプシド抗原、その他)、エプスタイン-バーウイルス(EBV)タンパク質(EBV潜伏膜タンパク質-LMP1、LMP2;その他)、B型肝炎若しくはC型肝炎ウイルスタンパク質、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)タンパク質、機能的ホモログ、機能的アナログ、又はこれらの生物学的に活性な断片である。
【0033】
いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質は、細胞の生存及び/又は増殖の内因性拮抗物質(例えば、タンパク質及び/又は遺伝子)を阻害するタンパク質である。例えば、このタンパク質は、細胞の生存及び/又は増殖を促進する遺伝子の発現を抑える転写抑制因子の阻害物質であってよい。特定の実施形態では、転写抑制因子は、細胞の生存及び/又は増殖を促進する遺伝子の発現を制御する、本開示の癌ペプチド、例えばMYCを拮抗できる。例えば、いくつかの実施形態では、このタンパク質は、MADファミリーである転写抑制因子の少なくとも1つのメンバー、例えば、MAD-1;又は、サイクリン依存性キナーゼ阻害物質(例えば、p16、p19、p21、又はp27)を阻害する。
【0034】
別の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖は、細胞の生存及び/又は増殖の内因性拮抗物質(例えば、タンパク質及び/又は遺伝子)を阻害する因子によって促進される。例えば、この因子は、遺伝的阻害物質又は小分子阻害物質(例えば、拮抗物質)であってよい。いくつかの実施形態では、この因子は、細胞の生存及び/又は増殖を促進する遺伝子の発現を抑える転写抑制因子の阻害物質を含んでよい。特定の実施形態では、転写抑制因子は、細胞の生存及び/又は増殖を促進する遺伝子の発現を制御する、本開示の癌ペプチド、例えばMYCを拮抗する。例えば、いくつかの実施形態では、この因子は、MADファミリーである転写抑制因子の少なくとも1つのメンバー、例えば、MAD-1を阻害する。特定の別の実施形態では、この因子は、サイクリン依存性キナーゼ阻害物質(例えば、p16、p19、p21、又はp27)の阻害物質である。
【0035】
同種の野生型細胞に対して、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質の内因性拮抗物質を阻害する任意の因子が、本開示の方法での使用に好適である。細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質の内因性拮抗物質の阻害物質である因子は、任意の段階で、又は任意の機構によって、拮抗物質の活性又は濃度を低下させる、阻害する、又は減少させる。例えば、場合によっては、かかる因子は、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質の活性を拮抗する因子の発現を、例えば、翻訳レベルで、又は転写レベルで妨げる。特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質の活性を拮抗する因子の発現を妨げる因子は、RNA干渉可能な因子(RNAi分子)である。いくつかの実施形態では、RNAi分子は、あるポリペプチドをコードしているmRNAの切断、又はmRNAへの結合によって生成される。RNAi分子は、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、又は低分子ヘアピン型RNA(shRNA)などの、任意の好適な手段によって生成される。特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質の活性を拮抗する因子の発現を妨げる因子は、低分子、例えば有機小分子である。
【0036】
別の実施形態では、この因子は、細胞の生存及び/又は増殖を拮抗するタンパク質の活性又は濃度を阻害する。いくつかの実施形態では、この因子は、細胞の生存及び/又は増殖を拮抗するタンパク質に直接作用する。例えば、この因子は、細胞の生存及び/又は増殖を拮抗するタンパク質に結合し、活性を阻害できる。したがって、特定の実施形態では、この因子は、細胞の生存及び/又は増殖を拮抗するタンパク質に結合し、元々の機能を妨害する抗体又は低分子である。
【0037】
別の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質は、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を更に含む。
【0038】
いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質はボーラス量として提供される。本明細書で使用されるとき、「ボーラス量」は、対象の血中タンパク質濃度を有効濃度まで上昇させる、対象に投与されるタンパク質の量又は濃度を指す。ボーラス量は、当該技術分野において既知の任意の好適な方法で投与されてよい。いくつかの実施形態では、ボーラス量は、約12時間毎、約24時間毎、約36時間毎、約48時間毎、約60時間毎、又は約72時間毎に提供される。
【0039】
いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は細胞増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、MYCポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片である。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は細胞増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、ICN-1ポリペプチド、これらのホモログ、又はこれらの生物学的に活性な断片である。特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は細胞増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、PTD-MYC融合タンパク質である。特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は細胞増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、PTD-ICN-1融合タンパク質である。
【0040】
MYC
本開示のMYCポリペプチドとして、MYCタンパク質の活性を有する任意のポリペプチド、又はこれらの断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本明細書で使用されるとき、「MYC」及び「MYCタンパク質」は互換的に使用され、bHLH(塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス)を持つMYCファミリー転写因子のメンバーである、タンパク質を指す。本開示のMYCタンパク質は、MYC応答遺伝子の発現を制御し、そのため細胞の核内に入って機能する転写因子である。MYC活性は、別のMYC応答遺伝子の発現を抑制しながら、特定のMYC応答遺伝子の発現を活性化できる。MYC活性は、細胞増殖、細胞成長、細胞の生存、及びアポトーシスを非限定的に含む、様々な細胞機能を制御できる。
【0042】
本明細書に記載する様に、HSCから赤血球の産生中に、外因性又は内因性源によってもたらされるMYCの一過性発現によって、成熟赤血球の産生量を増加でき、成熟赤血球の産生時間を短縮でき、集団中の成熟赤血球の割合を増加でき、及び/又は、MYC非存在下での産生と比較して、成熟赤血球の産生率を増加できる。理論に束縛されるものではないが、胚性幹細胞中でのMYCの遷延発現が、分化を阻害することによる自己複製を促進することが示されている(例えば、Cartwright et al.,Development.2005 Mar;132(5):885~96)ことから、HSCの成熟赤血球への分化を促進するのは、低レベルMYCの一過性発現であると考えられる。更に、驚くべきことに、低レベルMYCの一過性発現が、HSCからの成熟赤血球の産生を増強する能力は、異所的な高レベルMYC発現が、赤血球系前駆細胞の無核赤血球への分化を阻害するという最近の発見(Jayapal et al.,J Biol Chem.2010 Dec 17;285(51):40252~65)によって与えられている。
【0043】
本開示のPTD-MYC融合タンパク質は、HSC中の内因性MYCの過剰発現、又は、HSCの遺伝子操作によるMYCの組み換え発現の必要がなく、MYCを外から追加することによってHSC中のMYC活性の増加を可能にする。
【0044】
本開示のMYCポリペプチドとして、全長MYCタンパク質、全長MYCタンパク質の活性を保持する断片、これらのホモログ、及びこれらのアナログが挙げられるが、これらに限定されない。本開示のMYCポリペプチドは、当該技術分野において既知の任意の好適な方法によって作製できる。例えば、MYCポリペプチドを天然源から精製してよく、組み換え的に発現させてよく、又は、化学的に合成してもよい。
【0045】
MYCタンパク質
本開示の任意の方法で使用するのに好適な全長MYCタンパク質の例として、c-Myc、N-Myc、L-Myc、v-MYC、及びS-Mycが挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
特定の好ましい実施形態では、MYCポリペプチドは、全長c-Mycポリペプチドである。c-Mycポリペプチドは、ポリペプチドが439個のアミノ酸のポリマーであり得る、ポリペプチドが48.804kDaの分子量を有し得る、ポリペプチドが塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス、ロイシンジッパー(bHLH/LZ)ドメインを含有し得る、又は、ポリペプチドがCACGTG(すなわち、Eボックス配列)を含む配列に結合し得る、のうち、1つ又は2つ以上の特徴を有し得る。好ましくは、c-Mycポリペプチドは、NCBI受入番号NP_002458.2を有するヒトc-Mycポリペプチドである。更に、本開示のc-MYCポリペプチドは、翻訳後修飾を全く受けていないc-Mycポリペプチドであってよい。あるいは、本開示のc-MYCポリペプチドは、翻訳後修飾を受けたc-Mycポリペプチドであってよい。
【0047】
生物学的に活性なMYC断片
別の実施形態では、本開示のMYCポリペプチドは、全長MYCタンパク質の少なくとも1つの活性を保持している、全長MYCタンパク質の生物学的に活性な断片である。MYCポリペプチドは、c-Myc、N-Myc、L-Myc、又はS-Mycの断片であってよい。
【0048】
本開示のMYC断片は、MYCタンパク質のアミノ酸配列の、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも55、少なくとも60、少なくとも65、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも80、少なくとも85、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも100、少なくとも150、少なくとも200、少なくとも250、少なくとも300、少なくとも350、少なくとも400、又はそれ以上の連続アミノ酸残基を含み得る。
【0049】
MYCホモログ及びアナログ
別の実施形態では、本開示のMYCポリペプチドは、全長MYCタンパク質の少なくとも1つの活性を保持している、MYCタンパク質のホモログ又はアナログ、又はこれらの断片である。
【0050】
例えば、本開示のMYCポリペプチドは、MYCタンパク質又はその断片に、少なくとも40%~100%同一である、例えば、少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、90%、91%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は、約40%~約100%の任意のその他パーセンテージで同一であるアミノ酸配列を含んでよい。特定の実施形態では、MYCポリペプチドは、c-Myc、N-Myc、L-Myc、S-Myc、又はこれらの断片のホモログ又はアナログである。
【0051】
本開示のMYCポリペプチドは、NCBI受入番号NP_002458.2を有するヒトc-Mycポリペプチド、又はこの断片の機能的ホモログ又はアナログも含む。特定の実施形態では、c-Mycホモログ又はアナログは、NCBI受入番号NP_002458.2のc-Mycポリペプチド配列又はその断片に、少なくとも40%~100%同一である、例えば、少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、90%、91%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は、約40%~約100%の任意のその他パーセンテージで同一であるアミノ酸配列を含む。
【0052】
別の実施形態では、c-Mycホモログ又はアナログは、NCBI受入番号NP_002458.2のc-Mycポリペプチド配列又はその断片に、少なくとも50%~100%同一である、例えば、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、90%、91%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は、約50%~約100%の任意のその他パーセンテージで同一である、少なくとも10個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも40個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、少なくとも60個のアミノ酸、少なくとも70個のアミノ酸、少なくとも80個のアミノ酸、少なくとも90個のアミノ酸、少なくとも100個のアミノ酸、少なくとも150個のアミノ酸、少なくとも200個のアミノ酸、少なくとも250個のアミノ酸、少なくとも300個のアミノ酸、少なくとも350個のアミノ酸、少なくとも400個のアミノ酸、又はそれ以上の長さのポリペプチド配列を含む。
【0053】
本明細書で使用されるとき、「ホモログ」は、参照配列と第2配列の少なくとも断片との間に、アミノ酸配列の類似性を有するタンパク質又はポリペプチドを指す。ホモログは、当該技術分野において既知の任意の方法によって、好ましくは、単一の第2配列若しくは配列の断片、又は配列データベースと参照配列を比較するための、BLASTツールを用いることによって同定できる。以下に記載するように、BLASTは、同一性及び類似性パーセントに基づいて配列を比較する。
【0054】
2つ以上の配列(例えば、アミノ酸配列)に関連する用語、「同一」又は「同一性」パーセントは、同じである2つ以上の配列又は部分配列を指す。以下の配列比較アルゴリズムのうち1つを用いて、又は、手動で整列させて目視で調べることによって測定する際、比較ウィンドウ、つまり、指定領域にわたって最大に一致するように比較し、整列させるとき、2つの配列が、同じ(すなわち、特定の領域にわたって、又は、特定されない場合は全配列にわたって、29%同一、任意に30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、又は100%同一)である、特定の割合のアミノ酸残基又はヌクレオチドを有する場合、2つの配列は実質的に同一である。所望により、長さが少なくとも約10個のアミノ酸の領域にわたって、又はより好ましくは長さが20個、50個、200個、又はそれ以上のアミノ酸の領域にわたって同一性が存在する。
【0055】
配列比較において、典型的には1つの配列が、試験配列を比較するための参照配列として働く。配列比較アルゴリズムを用いるとき、試験配列及び参照配列をコンピュータに入力し、必要に応じて部分配列座標を指定し、配列アルゴリズムのプログラムパラメータを指定する。デフォルトのプログラムパラメータを使用してよく、又は、別のパラメータを指定してもよい。配列比較アルゴリズムは、続いて、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列の配列同一性パーセントを計算する。同一性について2つの配列を比較するとき、配列が近接している必要はないが、ギャップがあると、全体的な同一性パーセントを低下し得るペナルティをもたらす。blastpでは、デフォルトパラメータは、開始ギャップペナルティ=11、伸長ギャップペナルティ=1である。blastnでは、デフォルトパラメータは、開始ギャップペナルティ=5、伸長ギャップペナルティ=2である。
【0056】
本明細書で使用されるとき、「比較ウィンドウ」は、非限定的に20~600、多くは約50~約200、更に多くは約100~約150の連続位置数のうち任意の1つのセグメントに対する参照を含み、ここである配列は、2つの配列を最も適切に整列させた後に、同じ数の連続位置の参照配列と比較され得る。比較のための配列のアライメント法は、当該技術分野において周知である。比較のための配列の最適なアライメントは、例えば、Smith and Watermanによる局所ホモロジーアルゴリズム(1981)、Needleman and Wunsch(1970)J Mol Biol 48(3):443~453によるホモロジーアライメントアルゴリズム、Pearson and Lipman(1988)Proc Natl Acad Sci USA 85(8):2444~2448による類似性検索法、これらアルゴリズムのコンピュータ実装(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group(575 Science Dr.,Madison,WI))中のGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)、又は手動アライメント及び目視[例えば、Brent et al.,(2003)Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,Inc.(Ringbou Ed)参照]によって実施できる。
【0057】
配列同一性パーセント及び配列類似性を判定するのに好適なアルゴリズムの例の2つは、BLAST及びBLAST 2.0アルゴリズムであり、これらは、Altschul et al.(1997)Nucleic Acids Res 25(17):3389~3402及びAltschul et al.(1990)J.Mol Biol 215(3)-403~410にそれぞれ記載されている。BLAST解析を実行するソフトウェアは、National Center for Biotechnology Informationから公開されている。このアルゴリズムは、まず、クエリ配列中の長さWの短いワードを同定することによって、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させたとき、一致するか、又は、一定の正の閾値スコアTを満たすかのいずれかである、高スコア配列ペア(HSP)を同定することを含む。Tを、隣接ワードスコア閾値と称する(Altschul et al.上記参照)。これらの初期隣接ワードヒットは、これらを含むより長いHSPを見つけるための初期検索シードの役割をする。累積アライメントスコアが増加可能である限り、ワードヒットを各配列に沿って両方向に延ばす。ヌクレオチド配列において、累積スコアは、パラメータM(一致する残基ペアのリワードスコア、常に>0)及びN(一致しない残基のペナルティスコア、常に<0)を用いて計算される。アミノ酸配列では、スコアマトリックスを用いて累積スコアを計算する。各方向へのワードヒットの延長は、累積アライメントスコアが最大達成値から量X減少したとき、1つ若しくは2つ以上の負のスコアの残基アライメントの蓄積によって、累積スコアがゼロ以下になったとき、又は、いずれかの配列の末端に到達したときに、停止する。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、及びXは、アライメントの感度及び速度を決定する。アミノ酸配列において、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、ワード長は3、期待値(E)は10、及びBLOSUM62スコアマトリックス[Henikoff and Henikoff,(1992)Proc Natl Acad Sci USA 89(22):10915~10919参照]アライメント(B)は50、期待値(E)は10、M=5、N=-4、及び両鎖の比較を使用する。ヌクレオチド配列において、BLASTNプログラムは、デフォルトとして、ワード長(W)は11、期待値(E)は10、M=5、N=-4、及び両鎖の比較を使用する。
【0058】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性解析も行う(例えば、Karlin and Altschul,(1993)Proc Natl Acad Sci USA 90(12):5873~5877参照)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は最小合計可能性値(P(N))であり、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間の一致が偶然に起こる可能性の指標を提供する。例えば、試験核酸を参照核酸と比較する際の最小合計可能性値が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、及び最も好ましくは約0.001の場合、核酸は参照配列と類似するとみなされる。
【0059】
上記の配列同一性パーセント以外の、2つのポリペプチドが実質的に同一であることの別の指標は、第1のポリペプチドが、第2のポリペプチドに対して産生された抗体と、免疫学的交差反応性を有することである。したがって、例えば2つのペプチドが保存的置換によってのみ異なるとき、ポリペプチドは、第2のポリペプチドと典型的には実質的に同一である。
【0060】
本明細書で開示されるように、好適なMYCポリペプチドは、本開示のMYCポリペプチドの保存的に修飾された変異体も含む。本明細書で使用するとき、「保存的に修飾された変異体」は、あるアミノ酸の化学的に類似するアミノ酸への置換をもたらすコード化アミノ酸配列への、個々の置換、欠失、又は付加を含む。機能的に類似するアミノ酸をもたらす保存的置換表は当該技術分野において周知である。次の8つのグループ、すなわち、1)アラニン(A)、グリシン(G);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リジン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);7)セリン(S)、スレオニン(T);及び8)システイン(C)、メチオニン(M)は、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む(例えば、Creighton,Proteins(1984)参照)。
【0061】
MYCの下流のタンパク質
別の実施形態では、本開示の細胞の生存及び/又は増殖を促進する好適なタンパク質は、MYC経路においてMYCの下流にある細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質である。当該技術分野において既知の任意の下流タンパク質が、本開示の方法で使用するのに好適である。細胞の生存及び/又は増殖を促進し、MYCの下流にある好適なタンパク質の例として、AKT及びAKT関連タンパク質、例えば、PDK-1、mTORC2、PI3K-δが挙げられるが、これらに限定されない。細胞の生存及び/又は増殖を促進するMYCの下流タンパク質は更に、PTD-融合タンパク質であってよい。したがって、特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するMYCの下流タンパク質は、AKT-PTD融合タンパク質、PTD-PDK-1融合タンパク質、PTD-mTORC2融合タンパク質、又はPTD-PI3K-δ融合タンパク質である。
【0062】
別の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を拮抗し、MYC経路においてMYCの下流にあるタンパク質を阻害することによって、本開示のHSCにおいて細胞の生存及び/又は増殖が促進される。細胞の生存及び/又は増殖を拮抗し、MYCの下流にあるタンパク質の例として、pTEN、PP2A、PHLPP、CTMPが挙げられるが、これらに限定されない。したがって、特定の実施形態では、pTEN、PP2A、PHLPP、及び/又はCTMPを阻害することによって、本開示のHSCにおいて細胞の生存及び/又は増殖が促進される。本明細書に開示される方法を非限定的に含む、タンパク質及び/又は遺伝子の発現、活性、及び/又は機能を阻害する任意の当該技術分野において既知の方法を用いてよい。非限定例として、遺伝的阻害物質、小分子阻害物質、RNA干渉、及び抗体が挙げられる。
【0063】
全長MYCタンパク質の活性
別の実施形態では、本開示のMYCタンパク質又はPTD-MYC融合タンパク質は、少なくとも1つのMYC活性を有する全長MYCポリペプチド、全長MYCタンパク質の少なくとも1つの活性を保持するMYCタンパク質の断片、全長MYCタンパク質の少なくとも1つの活性を保持するMYCタンパク質のホモログ、又は、全長MYCタンパク質の少なくとも1つの活性を保持するMYCタンパク質のアナログを含む。
【0064】
本開示の全長MYCタンパク質は多くの活性を有する。かかる活性の例として、転写因子活性、タンパク質結合活性、核酸結合活性、細胞増殖制御活性、細胞成長制御活性、アポトーシス制御活性、形態形成制御活性、発達制御活性、及び増強された造血性区画再構成活性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
いくつかの実施形態では、本開示のMYCタンパク質又はPTD-MYC融合タンパク質は、EPO、及び所望により、IL-3と共に、HSCから成熟赤血球を産生するMYC活性を有する。別の実施形態では、本開示のMYCタンパク質又はPTD-MYC融合タンパク質は、HSCを条件的に不死化するMYC活性を有する。有利には、PTD-MYC融合タンパク質の形態のMYCを投与することで、HSC中に一過性のMYC活性をもたらす。いくつかの実施形態では、一過性MYC活性のレベルは、HSCの成熟赤血球への分化を増強するのに十分である。更に、本開示のPTD-MYC融合タンパク質は、HSC中の細胞内MYCレベルを増加させることができ、HSCの増殖をもたらす。この一過性のMYC活性によって、細胞中の長引くMYC活性による潜在的な悪影響、例えば、制御されない細胞成長及び癌化が避けられる。更に、PTD-MYC融合タンパク質を使用することによって、細胞の遺伝子操作を行わずに、HSC中のMYC活性を誘導できる。
【0066】
アポトーシスを阻害する外因性タンパク質
本開示の特定の態様は、アポトーシスを阻害する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質(例えば、外因性タンパク質)を含む培地の存在下で赤血球又は赤血球の集団を培養することによる、本開示の赤血球又は赤血球の集団のインビトロでの維持に関する。本開示の他の態様は、アポトーシスを阻害する1つ又は2つ以上の外因性タンパク質を含む培地の存在下で本開示のHSCを更に培養することにも関する。本明細書で使用されるとき、「アポトーシスを阻害する」タンパク質又はポリペプチドは、その機能が、直接的又は間接的に、アポトーシス(すなわち、プログラム細胞死)に関連するプロセスを低下させる、阻害する、又は減らす、タンパク質又はポリペプチドを指す。
【0067】
アポトーシスを阻害する当該技術分野において既知の任意の好適なタンパク質を使用してよい。いくつかの実施形態では、アポトーシスを阻害するタンパク質は、1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインを含むタンパク質である。1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインを含むタンパク質の例として、Bcl-2、Bcl-x、Bcl-XL、Mcl-1、CED-9、A1、Bfl-1、及びBcl-wが挙げられるが、これらに限定されない。
【0068】
いくつかの実施形態では、アポトーシスを阻害するタンパク質は、アポトーシスを促進する当該技術分野において既知の任意の内因性タンパク質及び/又は遺伝子を阻害するタンパク質である。アポトーシスを促進するタンパク質の例として、Bcl-2ファミリーメンバー、カスパーゼ、TNFファミリーの受容体であるタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0069】
別の実施形態では、アポトーシスの阻害は、アポトーシスを促進する当該技術分野において既知の内因性タンパク質及び/又は遺伝子を阻害する因子によって達成される。例えば、この因子は、遺伝的阻害物質又は小分子阻害物質(例えば、拮抗物質)であってよい。アポトーシスを阻害するため、当該技術分野において既知の任意の遺伝的阻害物質又は小分子阻害物質を使用してよい。いくつかの実施形態では、この因子は、アポトーシスを促進するタンパク質の発現を妨げる。例えば、この因子は、アポトーシスを促進するタンパク質の発現を、翻訳レベルで、又は転写レベルで妨げることができる。いくつかの実施形態では、RNA干渉を用いて、アポトーシスを促進するタンパク質の発現を妨げる。別の実施形態では、この因子は、アポトーシスを促進するタンパク質の活性又はレベルを阻害する。いくつかの実施形態では、この因子は、アポトーシスを促進するタンパク質に直接作用する。例えば、この因子は、アポトーシスを促進するタンパク質に結合し、活性を阻害できる。したがって、特定の実施形態では、この因子は、アポトーシスを阻害するタンパク質に結合し、元々の機能を妨害する抗体又は低分子である。
【0070】
いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質は、1つ又は2つ以上のBcl-2ホモロジードメインを含む1つ又は2つ以上のタンパク質である。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質は、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を更に含む。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質は、PTD-Bcl-2融合タンパク質である。
【0071】
Bcl-2
本開示のBcl-2ポリペプチドとして、Bcl-2タンパク質の活性を有する任意のポリペプチド、又はこれらの断片が挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
本明細書で使用されるとき、「Bcl-2」、「Bcl-2ポリペプチド」、及び「Bcl-2タンパク質」は互換的に用いられ、BH1、BH2、BH3、及びBH4などであるがこれらに限定されない、1つ若しくは2つ以上の、及び/又は全てのBcl-2ホモロジー(BH)ドメインを有する、Bcl-2タンパク質ファミリーのメンバーであるタンパク質を指す。bcl-2タンパク質ファミリーのメンバーは、典型的にはヘテロ二量体又はホモ二量体を形成し、アポトーシスの制御因子として働く。特定の好ましい実施形態では、本開示のBcl-2ポリペプチドは、抗アポトーシス活性及び/又はHSCの条件的不死化プロセスにおいて有用な活性を有する。
【0073】
本明細書に記載されるように、外因性Bcl-2を赤血球の集団に追加すると、Bcl-2の非存在下で維持された対応する赤血球の集団と比較して、赤血球がインビトロで生存する時間を延長でき、時間と共に生存する赤血球の割合を増加でき、並びに/又は、時間と共に1つ若しくは2つ以上の赤血球の機能的特徴のインビトロでの損失を遅延、及び/若しくは低下できる。いくつかの実施形態では、外因性Bcl-2の追加は、赤血球保存培地に対してである。1つ又は2つ以上の機能的特徴として、酸素運搬能、ヘモグロビン量、発現されるヘモグロビンの種類(成人型対胎児型)、表面に発現されるトランスフェリン受容体のレベル、又は、1つ若しくは2つ以上の成熟赤血球マーカーのうち、1つ又は2つ以上を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0074】
別の実施形態では、Bcl-2非存在下での維持と比較して、HSCからの赤血球産生の最終段階中に外因性又は内因性源によってもたらされるBcl-2の一過性上方制御は、赤血球がインビトロで生存する時間を延長でき、時間と共に生存する赤血球の割合を増加でき、並びに/又は、時間と共に1つ若しくは2つ以上の赤血球の機能的特徴のインビトロでの損失を遅延、及び/若しくは低下できる。いくつかの実施形態では、HSCからの赤血球産生の最終段階中に外因性又は内因性源によってもたらされるBcl-2の一過性上方制御は、赤血球保存培地中でのRBC維持を増強するように設計される。
【0075】
別の実施形態では、本開示は、Bcl-2を含む赤血球保存培地に関心が寄せられる。
【0076】
本開示のPTD-Bcl-2融合タンパク質は、HSC中の内因性Bcl-2の過剰発現、又は、HSCの遺伝子操作によるBcl-2の組み換え発現の必要がなく、Bcl-2を外から追加することによってHSC中のBcl-2活性の増加を可能にする。
【0077】
本開示のBcl-2ポリペプチドとして、全長Bcl-2タンパク質、全長Bcl-2タンパク質の活性を保持する断片、これらのホモログ、及びこれらのアナログが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、全長Bcl-2タンパク質の活性を保持するBcl-2断片として、非構造化ループドメインが除去されている切断型Bcl-2が挙げられる(Anderson,M.,et al.(1999).Refolding,purification and characterization of a loop deletion mutant of human Bcl-2 from bacterial inclusion bodies.Prot Expr.Purif.15,162~70)。本開示のBcl-2ポリペプチドは、当該技術分野において既知の任意の好適な方法によって作製できる。例えば、Bcl-2ポリペプチドを天然源から精製してよく、組み換え的に発現させてよく、又は、化学的に合成してもよい。
【0078】
Bcl-2タンパク質
本開示の任意の方法で使用するのに好適な全長Bcl-2タンパク質の例として、Bcl-2、Bcl-x、Bcl-XL、Mcl-1、CED-9、Bcl-2関連タンパク質A1、Bfl-1、及びBcl-wが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
特定の好ましい実施形態では、Bcl-2ポリペプチドは、非構造化ループドメインが除去されている全長ヒトBcl-2ポリペプチドである。ヒトBcl-2ポリペプチドは、以下の特徴、すなわち、ポリペプチドが239個のアミノ酸のポリマーであり得る、ポリペプチドが約26.3kDaの分子量を有し得る、又は、ポリペプチドが少なくとも1つのBcl-2ホモロジー(BH)ドメイン、例えばBH1、BH2、BH3、及びBH4を含み得る、のうち、1つ又は2つ以上を有してよい。好ましくは、ヒトBcl-2ポリペプチドは、NCBI受入番号NP_000624.2を有するBcl-2ポリペプチドである。更に、本開示のBcl-2ポリペプチドは、翻訳後修飾を全く受けていないBcl-2ポリペプチドであってよい。あるいは、本開示のBcl-2ポリペプチドは、翻訳後修飾を受けたBcl-2ポリペプチドであってよい。
【0080】
生物学的に活性なBcl-2断片
別の実施形態では、本開示のBcl-2ポリペプチドは、全長Bcl-2タンパク質の少なくとも1つの活性を保持している、全長Bcl-2タンパク質の生物学的に活性な断片である。Bcl-2ポリペプチドは、Bcl-2、Bcl-x、Bcl-XL、Mcl-1、CED-9、Bcl-2関連タンパク質A1、Bfl-1、又はBcl-wの断片であってよい。
【0081】
本開示のBcl-2断片は、Bcl-2タンパク質のアミノ酸配列の、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも35、少なくとも40、少なくとも45、少なくとも50、少なくとも55、少なくとも60、少なくとも65、少なくとも70、少なくとも75、少なくとも80、少なくとも85、少なくとも90、少なくとも95、少なくとも100、少なくとも110、少なくとも120、少なくとも130、少なくとも140、少なくとも150、少なくとも160、少なくとも170、少なくとも180、少なくとも190、少なくとも200、少なくとも210、少なくとも220、少なくとも230、又はそれ以上の連続アミノ酸残基を含み得る。
【0082】
Bcl-2ホモログ及びアナログ
別の実施形態では、本開示のBcl-2ポリペプチドは、Bcl-2タンパク質又はこれらの断片のホモログ又はアナログである。例えば、本開示のBcl-2ポリペプチドは、Bcl-2タンパク質又はその断片に、少なくとも40%~100%同一である、例えば、少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、90%、91%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は、約40%~約100%の任意のその他パーセンテージで同一であるアミノ酸配列を含んでよい。特定の実施形態では、Bcl-2ポリペプチドは、Bcl-2、Bcl-x、Bcl-XL、Mcl-1、CED-9、Bcl-2関連タンパク質A1、Bfl-1、Bcl-w、又はその断片の、ホモログ又はアナログである。
【0083】
本開示のBcl-2ポリペプチドは、NCBI受入番号NP_00624.2を有するヒトBcl-2ポリペプチド、又はこの断片の機能的ホモログ又はアナログも含む。特定の実施形態では、Bcl-2ホモログ又はアナログは、NCBI受入番号NP_00624.2のBcl-2ポリペプチド配列又はその断片に、少なくとも40%~100%同一である、例えば、少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、90%、91%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は、約40%~約100%の任意のその他パーセンテージで同一であるアミノ酸配列を含む。
【0084】
別の実施形態では、Bcl-2ホモログ又はアナログは、NCBI受入番号NP_00624.2のBcl-2ポリペプチド配列又はその断片に、少なくとも50%~100%同一である、例えば、少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、90%、91%、92%、94%、95%、96%、97%、98%、又は、約50%~約100%の任意のその他パーセンテージで同一である、少なくとも10個のアミノ酸、少なくとも20個のアミノ酸、少なくとも30個のアミノ酸、少なくとも40個のアミノ酸、少なくとも50個のアミノ酸、少なくとも60個のアミノ酸、少なくとも70個のアミノ酸、少なくとも80個のアミノ酸、少なくとも90個のアミノ酸、少なくとも100個のアミノ酸、少なくとも110個のアミノ酸、少なくとも120個のアミノ酸、少なくとも130個のアミノ酸、少なくとも140個のアミノ酸、少なくとも150個のアミノ酸、少なくとも160個のアミノ酸、少なくとも170個のアミノ酸、少なくとも180個のアミノ酸、少なくとも190個のアミノ酸、少なくとも200個のアミノ酸、少なくとも210個のアミノ酸、少なくとも220個のアミノ酸、少なくとも230個のアミノ酸、又はそれ以上の長さのポリペプチド配列を含む。
【0085】
本明細書で開示されるように、好適なBcl-2ポリペプチドは、本開示のBcl-2ポリペプチドの保存的に修飾された変異体も含む。
【0086】
アポトーシスを促進するBcl-2ホモログ
いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のBHドメインを含み、アポトーシスを促進するタンパク質を阻害することによって、アポトーシスが阻害される。アポトーシスを促進するBHドメイン含有タンパク質の例として、Bcl-Xs、BIM、PUMA、NOXA、NOXA-2、DIVA、BAK、BAX、BIK、BAD、BID、及びEGL-1が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、特定の実施形態では、Bcl-Xs、BIM、PUMA、NOXA、NOXA-2、DIVA、BAK、BAX、BIK、BAD、BID、及び/又はEGL-1を阻害することによって、アポトーシスが阻害される。本明細書に開示される方法を非限定的に含む、タンパク質及び/又は遺伝子の発現、活性、及び/又は機能を阻害する任意の当該技術分野において既知の方法を用いてよい。非限定例として、遺伝的阻害物質、小分子阻害物質、RNA干渉、及び抗体が挙げられる。
【0087】
全長Bcl-2タンパク質の活性
別の実施形態では、本開示のBcl-2タンパク質又はPTD-Bcl-2融合タンパク質は、少なくとも1つのBcl-2活性を有する全長Bcl-2ポリペプチド、全長Bcl-2タンパク質の少なくとも1つの活性を保持するBcl-2タンパク質の断片、全長Bcl-2タンパク質の少なくとも1つの活性を保持するBcl-2タンパク質のホモログ、又は、全長Bcl-2タンパク質の少なくとも1つの活性を保持するBcl-2タンパク質のアナログを含む。
【0088】
本開示の全長Bcl-2タンパク質は多くの活性を有する。かかる活性の例として、アポトーシス制御活性、細胞の生存制御活性、タンパク質結合活性、ミトコンドリア膜透過性制御活性、カスパーゼ制御活性、電位依存性アニオンチャネル制御活性、G2チェックポイント制御活性、ミトコンドリア外膜チャネル(VDAC)制御活性、ミトコンドリア膜電位制御活性、タンパク質チャネル活性、及びシトクロムC制御活性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
いくつかの実施形態では、本開示のBcl-2タンパク質又はPTD-Bcl-2融合タンパク質は、HSCからの成熟赤血球の産生、赤血球若しくは赤血球の集団の維持、及び/又は、HSCの不死化を助けるBcl-2活性を有する。有利には、PTD-Bcl-2融合タンパク質の形態のBcl-2を投与することで、HSC中に一過性のBcl-2活性をもたらす。この一過性のBcl-2活性によって、細胞中の長引くBcl-2活性による潜在的な悪影響が避けられる。更に、PTD-Bcl-2融合タンパク質を使用することによって、細胞の遺伝子操作を行わずに、赤血球及び/又はHSC中のBcl-2活性を誘導でき、インビトロで無核の成熟赤血球を維持できる。
【0090】
関心対象のタンパク質
本開示の特定の態様は、HSCから赤血球の集団のインビトロ産生;赤血球若しくは赤血球の集団インビトロ維持、及び/又は、赤血球のそれを必要とする対象への投与に関し、このとき赤血球又は赤血球の集団は1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含む。本開示の態様は、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含む赤血球の集団と、かかる赤血球の集団を含む医薬組成物と、も含む。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質は、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を更に含む。いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、PTDと関心対象のタンパク質との融合タンパク質である。
【0091】
関心対象のタンパク質として、1つ若しくは2つ以上の成長因子、ホルモン、又は、1つ若しくは2つ以上の疾病若しくは疾患の予防、診断及び/若しくは治療に有用なその他ポリペプチドを挙げてよいが、これらに限定されない1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含む本開示の赤血球又は赤血球の集団を使用すると、赤血球及びそれらが運ぶコード化タンパク質の1つ又は2つ以上の一過性の性質、完全に成熟した無核細胞の中の遺伝物質の欠如、並びに、個体発生からリンパ系区画によって許容されている「自己」血管の使用を非限定的に含む、様々な理由によって有利である。
【0092】
いくつかの実施形態では、例えば輸血による対象内への投与に先立ち、関心対象のタンパク質は、インビトロで赤血球膜に結合する。いくつかの実施形態では、かかる結合は、共有結合又は非共有結合によって媒介される。かかる結合の非限定例として、特に、スルフヒドリル結合及び抗体-エピトープ結合を挙げることができる。
【0093】
いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、インビトロ産生赤血球の外膜内に組み込まれることによって、投与されるように構成される。いくつかの実施形態では、赤血球産生プロセスで使用されるHSCは、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を発現及び/又は過剰発現するように操作される。所望により、関心対象のタンパク質は、輸送配列、細胞膜保留エレメント、又はプロテアーゼ切断部位のうち、1つ又は2つ以上によって操作されてよい。
【0094】
いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、タンパク質形質導入ドメインを含む融合タンパク質を用いて、本開示の赤血球又はHSC内に組み込まれることによって、投与されるように構成される。かかるPTDと関心対象のタンパク質との融合タンパク質の作製及び使用方法は、当該技術分野において既知であって、本明細書に記載されており、特に、Myc及びBcl-2で使用したものに類似の方法が挙げられる。
【0095】
いくつかの実施形態では、HSCは条件的不死化HSCである。いくつかの実施形態では、条件的不死化HSCは、タンパク質を形質導入したHSCであり、誘導性導入遺伝子の利用によって条件的に不死化されており、並びに/又は、不死化を促進する1つ若しくは2つ以上の内因性及び/若しくは外因性遺伝子の一過性過剰発現によって不死化されている。不死化を促進する遺伝子は、当該技術分野において周知である(例えば、米国特許出願公開第2007/0116691号)。
【0096】
いくつかの実施形態では、条件的不死化HSCは万能ドナーHSCである。いくつかの実施形態では、条件的不死化HSCは、まれな血液型由来、又は、治療を必要とする個体由来である。いくつかの実施形態では、個体は、まれな疾患を患っている、まれな血液表現型又は一致するアロタイプを見つけるのが困難な血液表現型を有している場合がある。
【0097】
関心対象のタンパク質をコードするベクターの構築
本開示のいくつかの態様では、関心対象のタンパク質は、本明細書に開示される方法を非限定的に含む、当該技術分野において既知の、HSCを遺伝子組み換えによって改変する任意の好適な方法を用いて、本開示のHSC内に組み込まれる(例えば、Riviere et al.,Blood.2012 Feb 2;119(5):1107~16)。例えば、本明細書に記載するものに類似の方法を利用して、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質をHSC内に組み込み、遺伝子組み換え条件的不死化HSCを生成できる(例えば、以下の「HSC細胞株」及び実施例参照)。
【0098】
いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、ウイルスベクターなどのベクター構成中でcDNAによってコードされる。関心対象のタンパク質をコードするcDNAをウイルスベクター内に組み込む方法は、当該技術分野において既知であり、本明細書の開示される方法を非限定的に含む。
【0099】
いくつかの実施形態では、本開示の赤血球の集団は、輸血後にインビボで赤血球の表面から放出されるように設計される、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、ベクターは、関心対象のタンパク質と連結及び/若しくは融合されている、輸送配列、細胞膜保留エレメント、又はプロテアーゼ切断部位のうち、1つ又は2つ以上を更に含む。
【0100】
タンパク質輸送配列は、当該技術分野において周知である。いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、任意にN末端において、小胞体シグナル配列を更に含む。いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質はBcl-2である。
【0101】
細胞膜保留エレメントは当該技術分野において周知であり、GPI結合タンパク質、又は任意に1つ若しくは2つ以上の赤血球膜貫通型タンパク質、例えばCD40、CD25、IgG、FcRN、CD8及び/若しくはCD16などの、細胞質領域の1つ又は2つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0102】
プロテアーゼ切断部位は、当該技術分野において周知である。いくつかの実施形態では、プラズマ保留エレメントは、関心対象のタンパク質に結合したIgGの膜貫通部分を含んでよく、このときIgGの膜貫通及び/又はリンカー部分は、任意に哺乳類プロテアーゼによって認識される1つ又は2つ以上のIgG切断部位を含む。プロテアーゼ切断部位は、任意に正常な(内因性)血清プロテアーゼの基質の選択を通じて、インビボでの関心対象のタンパク質の放出しやすさについて選択されてよい。
【0103】
いくつかの実施形態では、赤血球の集団は、輸血後にインビボで赤血球の表面に維持されるように設計される、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含む。したがって、いくつかの実施形態では、ベクターは、輸送配列及び細胞膜保留エレメントのうち1つ又は2つ以上を含む。いくつかの実施形態では、融合タンパク質の細胞質及び/又は膜貫通部分は、特に、CD40、CD25、IgG、FcRN、CD8及び/又はCD16などであるがこれらに限定されない1つ又は2つ以上の赤血球膜貫通型タンパク質をコードするcDNAなどであるがこれらに限定されない供給源由来であってよい。
【0104】
いくつかの実施形態では、赤血球の集団は、赤血球の表面に維持されるように設計され、インビボへの輸血前のペイロード中にタンパク質又は他の化合物を結合するように構成される、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含む。これによって、ペイロードが、毒性的問題の可能性を避けること、及び/又は、赤血球の産生に使用されるHSCの遺伝子操作が困難であることなどの選択肢を赤血球に与える限り、より柔軟性を持たせることができる。いくつかの実施形態では、ベクターは、輸送配列、細胞膜保留エレメント、又は結合部位、つまり連結部分のうち1つ又は2つ以上を更に含む。いくつかの実施形態では、結合部位、つまり連結部分として、スルフヒドリル部分、ビオチン-アビジン結合の一部、並びに、可逆性及び非可逆性架橋剤(例えば、DSS、DSST、PEGなど)を挙げてよいが、これらに限定されない。
【0105】
いくつかの実施形態では、本開示の赤血球又は赤血球の集団中に1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含めることが、はっきりと意図される。例えば、HSCを改変して、特に、標的分子、デコイ受容体、及び/又はタンパク質ペイロードを組み込むことができる。
【0106】
代表的な関心対象のタンパク質
限定することを意図しないが、関心対象のタンパク質の様々な例とその利用が提供される。いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質によって、EPO、TPO、及びGM-CSFを非限定的に含む造血性成長因子及び分化因子;又は、G-CSFなどのHSCの誘導に利用され得る因子の一過性送達を可能にする。いくつかの実施形態では、造血性区画中の標的を有する関心対象のタンパク質を、遺伝子組み換え法を用いて赤血球内に組み込むことができ、これにより、関心対象のタンパク質を赤血球の表面に維持することによって、関心対象のタンパク質の別の組織区画内への取り込みを制限し、系からのより迅速なクリアランスを可能にする。
【0107】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、IL-R-Fc、IL6R-Fc、TNFaR-FC、IFNaR-Fc、及びBAFFR-Fcを非限定的に含む急性炎症性状態の患者における炎症性経路に影響するデコイ受容体の送達を可能にする。赤血球は、細胞膜中に1つ又は2つ以上のこれらの受容体を組み込んで設計されてよい。いかなる理論に束縛されることを意図しないが、受容体は、それらの同族リガンドを結合し、循環からリガンドを除去することができることによって、これらの循環している炎症性メディエーターを減少させ、急性炎症性状態を回復させる。いくつかの実施形態では、同様のデコイ受容体によるアプローチを用いて、例えば、ウイルス粒子などの別の部分を血液から除去できる。
【0108】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、サイトカインストームに関連する、IL-R-Fc、IL6R-Fc、TNFaR-FC、IFNaR-Fc、及びBAFFR-Fcを非限定的に含む受容体に競合的に結合できるデコイリガンドの送達を可能にし、同様のアプローチを用いて、サイトカインストームに関連する臨床症状を緩和する。
【0109】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、コレラトキシン、シゲラトキシン、リシン、及びジフテリアトキシンを非限定的に含むタンパク質コード化トキシンの送達を可能にする。かかるトキシン性ペイロードは、高度に血管新生されている固形腫瘍などの癌の治療のために設計されてよい。いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質を操作して、これらの赤血球に発現させることができる。いくつかの実施形態では、HSCを操作して、共有性又は非共有性結合部位を伴って構成される外部部分を有する膜貫通型タンパク質を発現させる。例えば、外部部分は、ジスルフィド結合を形成するように設計されるスルフヒドリル部分、アビジン-ビオチン結合、又は任意のその他結合を有してよく、所望のペイロード(例えば、タンパク質コード化トキシン、及び任意にその他所望のペイロード)のその後の会合を可能にする。例えば、1つ又は2つ以上のこれらのアプローチを用いて赤血球を操作し、膜結合型血管新生阻害物質を腫瘍部位に送達してもよい。
【0110】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、赤血球の対象とする組織及び/又は細胞へのターゲティングを可能にする。例えば、ターゲティングは、数ある用途の中でも特に、赤血球を腫瘍に、つまり腫瘍細胞に導くのに有用であり得る。いくつかの実施形態では、ターゲティングは、マーカー、受容体、リガンド、及び抗体の赤血球の表面での発現、又は、1つ若しくは2つ以上のこれら部分の赤血球の表面への結合を非限定的に含む、様々な方法によって達成できる。
【0111】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、凍傷、癌関連血管収縮、又はリウマチ性関節などであるがこれらに限定されない血管調節異常の影響を受けた組織への、血管新生促進及び/又はリンパ脈管新生因子の送達が可能である。
【0112】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、特に、急性心筋梗塞中の血管収縮、分娩中の産科的用途、並びに、急性及び/又は持続性片頭痛を非限定的に含む血管収縮に関連する急性症例に対して、血管拡張性ペプチドの送達が可能である。
【0113】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、生涯にわたる免疫性を高めるための抗原の送達が可能である。この抗原は、対象とする抗原(タンパク質)を、TLRリガンドと共に赤血球上に呈示するよう設計される、遺伝子操作された赤血球によって送達できる。
【0114】
いくつかの実施形態では、関心対象の赤血球結合タンパク質は、血栓のリスクが高い患者において血栓形成を軽減する、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質の送達が可能である。いくつかの実施形態では、血栓のリスクが高い患者への輸血は、栓子中の線維性組織に特異的な膜結合プロテアーゼを有し、任意にかかる場所への標的分子を有する赤血球を含んでよい。同様のアプローチが、肺塞栓症のリスクが高い患者にも有用であり得る。
【0115】
いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質はMyc又はBcl-2を含まない。
【0116】
タンパク質形質導入ドメイン
本明細書で使用されるとき、用語「ペプチド形質導入ドメイン」、「タンパク質形質導入ドメイン」、及び「PTD」は、互換的に使用され、哺乳類細胞内及び/又は哺乳類細胞内の区画内へのタンパク質の透過を促進する、タンパク質のペプチド配列又はドメインを指す。1つの非限定例では、PTDは、結合したペプチド及び/又はタンパク質の細胞の核内への透過を促進する。
【0117】
本開示のPTDは、標準的な分子生物学的生化学的手法などの当該技術分野において既知のタンパク質ドメインを単離する任意の方法によって、PTDを含むタンパク質から単離できる。あるいは、本開示のPTDを合成してよい。好適な本開示のPTDは、約8~約30個の長さのアミノ酸残基であって、アルギニン(argentine)(Arg)及びリジン(Lys)などの塩基性アミノ酸残基が豊富であってよい。いくつかの実施形態では、PTDは、塩基性アミノ酸(アルギニン及びリジン)が豊富で、任意にα-らせん構造に配列されている、短いペプチド配列を有してよい。
【0118】
本明細書で開示されるように、本開示のPTDは、ペプチド及び/又はタンパク質の哺乳類細胞及び/又は哺乳類細胞内の区画への透過を促進するために、ペプチド及び/又はタンパク質に結合される(例えば、融合、抱合、架橋など)。例えば、特定の実施形態では、本開示のPTDは、MYCタンパク質及び/又はBcl-2タンパク質及び/又は関心対象のタンパク質に結合される。
【0119】
本開示の任意の方法での使用に好適なタンパク質形質導入ドメインとして、当該技術分野において既知の任意のPTDが挙げられる(例えば、米国特許出願公開第2007/0116691号及び同第2010/0055129号)。例えば、好適なPTDは、レンチウイルスTAT(Trans-Activator of Transcription)タンパク質、レンチウイルスVPRタンパク質、ヘルペスウイルスVP22タンパク質、及びホメオタンパク質を非限定的に含むタンパク質から得られてよく、又は由来であってよい。
【0120】
レンチウイルスTATタンパク質から得られる、又は由来である好適なPTD例として、TATタンパク質含有ウイルスのTATタンパク質のPTD、TATタンパク質含有レンチウイルスのTATタンパク質のPTD、HIV-1TATタンパク質のPTD、HIV-2 TATタンパク質のPTD、SIV TATタンパク質のPTD、霊長類レンチウイルスTATタンパク質のPTD、ヒツジレンチウイルスTATタンパク質のPTD、ウシレンチウイルスTATタンパク質のPTD、ウマレンチウイルスTATタンパク質のPTD、ネコレンチウイルスTATタンパク質のPTD、HIV、SIV、霊長類レンチウイルス、ヒツジレンチウイルス、ウシレンチウイルス、ウマレンチウイルス、又はネコレンチウイルスの変異体サブタイプのTATタンパク質のPTD、及びこれらのホモログが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、PTDは、HIV TATタンパク質のアミノ酸残基48~57(TAT[48~57])である。別の実施形態では、PTDは、HIV TATタンパク質のアミノ酸残基57~48(TAT[57~48])である。
【0121】
レンチウイルスVPRタンパク質から得られる、又は由来である好適なPTD例として、VPRタンパク質含有ウイルスのVPRタンパク質のPTD、VPRタンパク質含有レンチウイルスのVPRタンパク質のPTD、HIV-1 VPRタンパク質のPTD、HIV-2 VPRタンパク質のPTD、SIV VPRタンパク質のPTD、霊長類レンチウイルスVPRタンパク質のPTD、ヒツジレンチウイルスVPRタンパク質のPTD、ウシレンチウイルスVPRタンパク質のPTD、ウマレンチウイルスVPRタンパク質のPTD、ネコレンチウイルスVPRタンパク質のPTD、HIV、SIV、霊長類レンチウイルス、ヒツジレンチウイルス、ウシレンチウイルス、ウマレンチウイルス、又はネコレンチウイルスの変異体サブタイプのVPRタンパク質のPTD、及びこれらのホモログが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
ヘルペスウイルスVP22タンパク質から得られる、又は由来である好適なPTD例として、ヒトヘルペスウイルス1(HSV-1)VP22タンパク質のPTD、ヒトヘルペスウイルス2(HSV-2)VP22タンパク質のPTD、BHV-1 VP22タンパク質のPTD、オウム科ヘルペスウイルス1VP22タンパク質のPTD、ウマヘルペスウイルス1 VP22タンパク質のPTD、ウマヘルペスウイルス4 VP22タンパク質のPTD、七面鳥ヘルペスウイルス2 VP22タンパク質のPTD、水痘帯状疱疹ウイルスVP22タンパク質のPTD、及びこれらのホモログが挙げられるが、これらに限定されない。
【0123】
ホメオドメイン転写因子から得られる、又は由来である好適なPTD例として、ドロソフィラアンテナペディア(Antp)タンパク質のホメオドメイン(HD)、ドロソフィラフシタラズ(Ftz)タンパク質のHD、ドロソフィラEngrailed(En)タンパク質のHD、ニワトリEngrailed-2タンパク質のHD、哺乳類ホメオタンパク質のHD、ヒトホメオタンパク質のHD、ヒトHox-A5ホメオタンパク質のHD、ヒトHox-A4ホメオタンパク質のHD、ヒトHox-B5ホメオタンパク質のHD、ヒトHox-B6ホメオタンパク質のHD、ヒトHox-B7ホメオタンパク質のHD、ヒトHOX-D3ホメオタンパク質のHD、ヒトGOXホメオタンパク質のHD、ヒトMOX-2ホメオタンパク質のHD、ヒトHoxc-8ホメオタンパク質のHD、ヒトIslet-1(Isl-1)ホメオタンパク質のHD、及びこれらのホモログが挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
更に、好適なPTDとして、カポジ-FGF(K-FGF又はFGF-4)由来のPTD、FGF-2由来のPTD、FGF-1由来のPTD、FGFファミリーの別のメンバーのタンパク質のPTDが挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
その他好適なPTDとして、合成PTD(例えば、Beerens,AMJ et al.Curr Gene Ther.2003 Oct;3(5):486~94)が挙げられる。いくつかの実施形態では、合成PTDとして、EPTDという、最適化タンパク質形質導入ドメイン(YARAAARQARA)を挙げてよい(Ho,A.et al.,Cancer Res.(2001)61:474~477)。
【0126】
更に好適なPTDとして、CHARIOT(商標)ペプチド(Active Motif(Carlsbad,CA))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
いくつかの実施形態では、本開示のPTDは組み換えで産生されるが、一方他の実施形態では、PTDは、合成で産生され、又は天然源から精製される。
【0128】
PTD融合タンパク質の改変
いくつかの実施形態では、本開示のPTD融合タンパク質は、ポリペプチド、例えば、細胞の生存及び/又は増殖を促進する本開示の組み換えタンパク質、アポトーシスを阻害する本開示の外因性タンパク質、又は本開示の関心対象のタンパク質に、PTDを結合する1つ又は2つ以上の分子を含む。更なる実施形態では、1つ又は2つ以上のリンカー分子はアミノ酸ペプチドである。
【0129】
本開示のPTD融合タンパク質は更に、融合タンパク質の精製を促進する少なくとも1つのアミノ酸配列を含んでよい。例えば、PTD融合タンパク質は、タンパク質タグ、例えばポリヒスチジンタグを含んでよい。あるいは、又は加えて、PTD-MYC融合タンパク質は、エピトープタグ、例えばV5エピトープタグを含んでよい。
【0130】
したがって、特定の実施形態では、本開示のPTD融合タンパク質は更に、ポリヒスチジンタグを含む。いくつかの実施形態では、ポリヒスチジンタグは6-ヒスチジンタグである。いくつかの実施形態では、ヒスチジンタグはHHHHHHの配列を含む。更に、ヒスチジンタグは、当該技術分野において既知の任意の好適な方法によって、本開示のPTD融合タンパク質に追加することができる。例えば、PTD融合タンパク質配列を、ポリヒスチジンタグをコードする発現ベクターにクローニングしてよい。あるいは、ポリヒスチジンタグを、PCRによって(すなわち、PCRプライマーがポリヒスチジン配列を含む)追加してよい。
【0131】
更に、本開示のPTD融合タンパク質は、少なくとも1つのタンパク質タグも含んでよい。いくつかの実施形態では、少なくとも1つのタンパク質タグはエピトープタグである。好ましくは、エピトープタグはV5エピトープタグである。いくつかの実施形態では、V5エピトープタグはアミノ酸配列:GKPIPNPLLGLDSTを含み、一方他の実施形態では、V5エピトープタグはアミノ酸配列:IPNPLLGLDを含む。アミノ酸は、D体又はL体のいずれであってもよい。いくつかの実施形態では、第1の複数のアミノ酸はD体であり、第2の複数のアミノ酸はL体である。更に、本開示のV5エピトープタグは、当該技術分野において既知の任意の好適な方法によって、本開示のPTD融合タンパク質に追加することができる。例えば、PTD融合タンパク質配列を、V5エピトープタグをコードする発現ベクターにクローニングしてよい。あるいは、V5エピトープタグを、PCRによって(すなわち、PCRプライマーがV5エピトープ配列を含む)追加してよい。
【0132】
特定の好ましい実施形態では、本開示のPTD融合タンパク質は更に、ポリヒスチジンタグ及びエピトープタグを含む。好ましくは、PTD融合タンパク質は、6-ヒスチジンタグ及びV5エピトープタグを含む。
【0133】
PTD融合タンパク質の構築
いくつかの実施形態では、本開示のPTD融合タンパク質は、当該技術分野において既知の任意の好適な方法(例えば、米国特許出願公開第2010/0055129号)によって構築されてよい。
【0134】
1つの非限定例では、細胞の生存及び/又は増殖を促進する本開示のPTD-組み換えタンパク質(例えば、PTD-MYC融合タンパク質、PTD-ICN-1融合タンパク質など)をコードする核酸配列をPCRによって産生させてよい。特定の実施形態では、PTD-MYC融合タンパク質をコードする核酸配列は、PCRによって産生される。これは、インフレームPTD配列、例えば、TATのRKKRRQRRRの9つのアミノ酸配列を含むMYC配列に対するフォワードプライマー、及び、終止コドンを除くように設計されるMYC配列に対するリバースプライマーを設計することによって達成され得る。かかるプライマーを用いるPCR反応によるPCR産物を、続いて、当該技術分野において既知の任意の好適な発現ベクターにクローニングしてよい。
【0135】
1つの非限定例では、アポトーシスを阻害する本開示のPTD-外因性タンパク質(例えば、PTD-Bcl-2融合タンパク質、PTD-Bcl-w融合タンパク質、PTD-Bcl-X融合タンパク質、PTD-Bcl-Xl融合タンパク質、PTD-Mcl-1融合タンパク質など)をコードする核酸配列を、PCRによって産生させてよい。特定の実施形態では、PTD-Bcl-2融合タンパク質をコードする核酸配列は、PCRによって産生される。これは、インフレームPTD配列、例えば、TATのRKKRRQRRRの9つのアミノ酸配列を含むBcl-2配列に対するフォワードプライマー、及び、終止コドンを除くように設計されるBcl-2配列に対するリバースプライマーを設計することによって達成され得る。かかるプライマーを用いるPCR反応によるPCR産物を、続いて、当該技術分野において既知の任意の好適な発現ベクターにクローニングしてよい。Bcl-2非構造化ループは、部位特異的突然変異誘発キットを用いてBCL-2コード配列から除去されてよい。
【0136】
1つの非限定例では、本開示のPTDと関心対象のタンパク質との融合タンパク質をコードする核酸配列をPCRによって産生させてよい。これは、インフレームPTD配列、例えば、TATのRKKRRQRRRの9つのアミノ酸配列を含む関心対象のタンパク質配列に対するフォワードプライマー、及び、終止コドンを除くように設計される関心対象のタンパク質配列に対するリバースプライマーを設計することによって達成され得る。かかるプライマーを用いるPCR反応によるPCR産物を、続いて、当該技術分野において既知の任意の好適な発現ベクターにクローニングしてよい。
【0137】
造血幹細胞
本開示の他の態様は、任意に条件的に不死化され、及び/又は、1つ若しくは2つ以上の関心対象のタンパク質を含むように遺伝的に操作された、造血幹細胞(HSC)を、EPOと、任意でIL-3と、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ若しくは2つ以上の組み換えタンパク質又はこれらの生物学的に活性な断片とを共に培養することによる、赤血球の集団のインビトロ産生に関する。このプロセスは、フィーダー細胞及び血清の存在下、又は非存在下で行われてよい。特定の好ましい実施形態では、このプロセスは、フィーダー細胞及び/又は血清の非存在下で行われる。
【0138】
本開示の方法と共に使用するのに好適なHSCは、胚性幹(ES)細胞及び/又は人工多能性幹(iPS)細胞から産生されてよい。当該技術分野において既知のES細胞及び/又はiPS細胞からHSCを産生するには、任意の方法を使用してよい(例えば、Keller,G.Genes Dev.2005 19:1129~1155;及びPapapetrou Sadelain,F1000 Med Rep.2010 Jun 16;2)。例えば、初期胚中の造血性決定においてES細胞培養の造血細胞の発達をパターニングすることによって、HSCをES細胞から産生できる(例えば、Keller,G.Genes Dev.2005 19:1129~1155)。
【0139】
更に、本開示の方法と共に使用するのに好適なHSCは、当該技術分野において既知の任意の好適な手法によって得ることができる。例えば、大腿骨、寛骨、肋骨、胸骨、及びその他の骨を含む、ドナーの骨髄中にHSCを見出してよい。骨髄細胞を抽出し、回収するための当該技術分野において既知の任意の方法を使用してよい。1つの非限定例では、髄腔から細胞を吸引する針及び注射器を用いて、寛骨の髄腔から直接的にHSCを得てもよい。少量の吸引を複数回行うことによって、寛骨から豊富な骨髄を得ることができる。
【0140】
あるいは、好適なHSCは、任意に、ドナーの骨髄区画から放出されるようにHSCを誘導するG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)などのサイトカインで前処理した後の、ドナーの血液中にある末梢血細胞から得ることができる。HSCはまた、HSCを濃縮するためにアフェレーシスを受けた末梢血から得ることもできる。当該技術分野において既知の任意のアフェレーシス法を使用してよい。特定の実施形態では、アフェレーシス法は白血球除去法である。
【0141】
更に、好適なHSCは、臍帯血、胎盤、及び動員済み末梢血から得ることができる。実験目的で、胎児肝臓、胎児脾臓、及び動物のAGM(大動脈・性腺・中腎)も有用なHSC源である。更に、ドナーの骨髄、末梢血、臍帯、又は胎児組織のHSCから得られた供給源より、HSCを獲得してよい。
【0142】
いくつかの実施形態では、HSCは、ヒト臍帯又は胎盤から得られる。使用可能なHSCの別の供給源は、胎生期動物の発達中の血液産生組織である。ヒトでは、HSCは、約12~18週齢までのヒト胎児の循環血中に見出され得る。いくつかの実施形態では、ヒトHSCは、任意の供給源、例えば、骨髄、臍帯、末梢血、又は胎児組織のA+、A-、B+、B-、O+、O-、AB+、及びAB-型のドナーの血液から得られる。別の実施形態では、ヒトHSCは、任意の供給源、例えば、骨髄、臍帯、末梢血、又は胎児組織の万能ドナーの血液、若しくはまれな血液型を有するドナーの血液から得られる。まれな血液型は、当該技術分野において既知であり、Oh、CDE/CDE、CdE/CdE、CD-/CD-、-D-/-D-、Rhnull、Rh:-51、LW(a-b+)、LW(a-b-)、S-s-U-、S-s-U(+)、pp、Pk、Lu(a+b-)、Lu(a-b-)、Kp(a+b-)、Kp(a-b-)、Js(a+b-)、Ko、K:-11、Fy(a-b-)、Jk(a-b-)、Di(b-)、I-、Yt(a-)、Sc:-1、Co(a-)、Co(a-b-)、Do(a-)、Vel-、Ge-、Lan-、Lan(+)、Gy(a-)、Hy-、At(a-)、Jr(a-)、In(b-)、Tc(a-)、Cr(a-)、Er(a-)、Ok(a-)、JMH-、及びEn(a-)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0143】
別の実施形態では、ヒトHSCは、任意の供給源、例えば、骨髄、臍帯、末梢血、又は胎児組織の自己免疫疾患、免疫不全症、又はHSC移植及び/若しくは輸血の恩恵を受け得る任意のその他疾病若しくは疾患を有するドナーの血液から得られる。かかるドナーはレシピエントでもあり得る。有利には、かかるドナーから得られたHSCを、オーダーメイドHSC及び/又は血液療法に使用できる。
【0144】
1つの非限定例では、幹細胞ドナーに麻酔をかけ、上後腸骨稜を針で穿刺し、注射器で骨髄細胞の吸引を行うことによって、ヒトHSCを得ることができる。別の非限定例では、幹細胞を末梢血に動員するために、末梢血から幹細胞を回収する数日前にG-CSFが注入されたたドナーの末梢血から、HSCを得ることができる。
【0145】
したがって、いくつかの実施形態では、HSCは、ドナーがHSC及び/又はかかるHSC由来の赤血球のレシピエントでもある、自家ドナーから得られる。当該技術分野において既知であり、本明細書に記載される任意の方法を用いて、自家ドナーからHSCを得ることができる。HSC及び/又はそれら由来の、若しくはそれらから産生される任意の治療用生成物、例えば赤血球を、続いて元のドナーに移植、投与、及び又は輸血して戻す。同様に、HSCを、HSC移植及び/又は輸血を必要とする対象の同胞、親、又はその他親類など、同種ドナーから得てもよい。1つの非限定例では、同種HSCは、異なる血液型又は主要組織適合遺伝子複合体(MHC)又はヒト白血球抗原(HLA)の適合源からHSCを採取することによって得られる。自家及び/又は同種HSCの移植及び/又は輸血は、献血後の任意の時期に、例えば数日後、数ヶ月後、又は更に数年後に行ってよい。自家献血は、HSC及び/又は血液の移植及び/又は輸血を必要とする対象が、同種及び/又は万能ドナーなど、任意の他のドナーからのHSC及び/又は血液の移植及び/又は輸血に対して、陰性反応、有害反応、又は中毒反応を示す症例において、特に有用であり得る。自家及び/又は同種献血から利益を得る患者の例は、当該技術分野において周知であり、自己免疫疾患、血液病又は疾患、免疫病又は疾患、又は他の関連疾患若しくは病気を患っている患者が挙げられるが、これらに限定されない。
【0146】
例えば、骨髄、末梢血、又は臍帯血から得られる細胞は、典型的には抽出又は回収後処理される。抽出された又は回収された細胞を処理するための任意の当該技術分野において既知の方法を使用してよい。処理工程の例として、濾過、遠心分離、血液病理学的スクリーニング、ウイルス及び/又は微生物感染に関するスクリーニング、赤血球枯渇、同種幹細胞の移植レシピエントにおける移植片対宿主病の発生率を減少させるT細胞枯渇、体積減少、細胞分離、後続の処理に好適な培養培地又は緩衝液への細胞の再懸濁、非幹細胞からの幹細胞の分離(例えば、幹細胞濃縮)、成長因子、サイトカイン及び/又はホルモンによるエクスビボ又はインビトロでの幹細胞増殖、並びに、凍結保存が挙げられるが、これらに限定されない。
【0147】
当該技術分野において既知の任意の好適な幹細胞濃縮法を使用してよい。幹細胞濃縮法の例として、蛍光活性化細胞選別法(FACS)及び磁気活性化細胞選別法(MACS)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0148】
したがって、特定の実施形態では、本開示の方法での使用に好適なHSCはヒトHSCである。
【0149】
ドナーから得られるHSCは、当該技術分野において既知の任意の好適な幹細胞同定及び濃縮法、例えば、特定の表現型又は遺伝子型マーカーを利用することによって、同定及び/又は濃縮されてよい。例えば、いくつかの実施形態では、HSCの同定は、HSCと関連する、又は、その系の高度分化細胞に特に関連する細胞表面マーカーを使用することを含む。好適な表面マーカーとして、c-kit、Sca-1、CD4、CD34、CD38、Thy1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、CD43、CD45、CD59、CD90、CD105、CD133、CD135、ABCG2、NK1.1、B220、Ter-119、Flk-2、CDCP1、Endomucin、Gr-1、CD46、Mac-1、Thy1.1、及びsignaling lymphocyte activation molecule(SLAM)ファミリーの受容体のうち、1つ又は2つ以上を挙げてよいが、これらに限定されない。SLAM受容体の例として、CD150、CD48、及びCD244が挙げられるが、これらに限定されない。
【0150】
更に、ドナーから得られるHSCは、蛍光活性化細胞選別法(FACS)及び磁気活性化細胞選別法(MACS)を非限定的に含む、当該技術分野において既知の任意の好適な方法によって非幹細胞から分離されてよい。
【0151】
1つの非限定例では、ヒト末梢血細胞は、c-kit、Sca-1、CD34、CD38、Thy1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、CD43、CD45、CD59、CD90、CD105、CD133、ABCG2、NK1.1、B220、Ter-119、Flk-2、CDCP1、Endomucin、又はGr-1を認識する抗体とインキュベートされる。CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、Ter-119、及びGr-1の抗体を、磁気ビーズと結合する。CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、Ter-119、又はGr-1を発現している細胞は、磁気ビーズ、及び磁気ビーズ結合抗体に付着した細胞を捕捉するように準備されたカラム内に保持される。MACSカラムに捕捉されない細胞は、FACS分析にかけられる。c-kit、Sca-1、CD34、CD38、Thy1の抗体は、当該技術分野において既知の蛍光物質と結合する。CD34、CD38low/-、c-kit-/low、Thy1の細胞は、細胞と結合する蛍光抗体の種類によって、残りのサンプルから分離される。これらの細胞は、本開示の任意の方法での使用に好適なヒト長期HSCとして提供される。
【0152】
別の非限定例では、対象から得られる細胞を、上記と同じセットの磁気ビーズ結合抗体(CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、Ter-119、又はGr-1のうち1つ又は2つ以上に対する抗体)、並びに、蛍光物質を結合したCD150、CD244及び/又はCD48抗体で標識する。サンプルから磁気ビーズ結合抗体によって捕捉された細胞を除去した後、サンプルをFACSによって分析し、CD150、CD244及びCD48細胞を長期HSCとして保存する。
【0153】
いくつかの実施形態では、本開示の方法で使用されるHSCは、c-kit、Sca-1、CD34low/-、CD38、Thy1+/low、CD34、CD38low/-、c-kit-/low、及び/又はThy1のうち、1つ又は2つ以上のマーカーを含む。いくつかの実施形態では、本開示の方法で使用されるHSCは、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、Ter-119、及び/又はGr-1のうち、1つ又は2つ以上のマーカーを欠く。特定の実施形態では、本開示の方法で使用されるHSCは、A+、A-、B+、B-、O+、O-、AB+、又はAB-型のものである。
【0154】
あるいは、好適なHSCは、非ヒト源から得られてよい。好適な非ヒトHSCは、実験室/実験用動物、げっ歯類、愛玩動物、家畜、畜産動物、労働用動物、運送用動物、希少又は絶滅危惧種、競技用動物、及び動物園の動物を非限定的に含む、非ヒト動物の大腿骨、寛骨、肋骨、胸骨、及びその他骨から単離されてよい。好適な非ヒト動物の更なる例として、サル、霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、及びニワトリが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、HSCを、細胞表面分子、例えば、c-kit、Sca-1、CD34、CD38、Thy1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、CD43、CD45、CD59、CD90、CD105、CD133、ABCG2、NK1.1、B220、Ter-119、Flk-2、CDCP1、Endomucin、又はGr-1のうち1つ又は2つ以上を認識する抗体と骨髄細胞をインキュベートすることによって、マウス骨髄細胞から得ることができる。CD2、CD3、CD4、CD5、CDS、NK1.1、B220、Ter-119、及びGr-1の抗体を、磁気ビーズと結合する。MACS装置では、CD2、CD3、CD4、CD5、CD8、NK1.1、B220、Ter-119、又はGr-1をその表面に持っている細胞は、磁気ビーズ、及び磁気ビーズ結合抗体に付着した細胞を捕捉するように準備されたカラム内に保持される。MACSカラムに捕捉されない細胞は、FACS分析にかけられる。FACS分析では、c-kit、Sca-1、CD34、CD38、Thy1などの表面分子の抗体を、蛍光物質と結合する。c-kit、Sca-1、CD34low/-、CD38、Thy1+/lowの細胞は、細胞と結合する蛍光抗体の種類によって、残りのサンプルから分離される。これらの細胞は、本開示の任意の方法での使用に好適なマウス長期HSCとして提供される。別の実施形態では、異なるセットのマーカーを用いて、骨髄、臍帯血、胎児組織、及び末梢血の細胞からマウス長期HSCを分離する。
【0155】
いくつかの実施形態では、骨髄からのHSCの獲得は、最初に、マウス又は他の非ヒト動物などのHSCドナーに、5-フルオロウラシル(5-FU)を注射し、ドナーの骨髄中のHSCを濃縮するために、HSCの増殖を誘発させることを含む。
【0156】
更に、本開示の任意の方法で使用するのに好適なHSC(臍帯血、骨髄、末梢血、又はその他の供給源から得るもの又は存在するものいずれでも)は、任意の好適な市販又は特別に合成した培地で成長又は増殖させてよい(例えば、Hartshorn et al.,Cell Technology for Cell Products,pages 221~224,R.Smith,Editor;Springer Netherlands,2007)。例えば、血清を含まない培地は、アルブミン及び/又はトランスフェリンを利用する場合があり、これらは、血清を含まない培地中でCD34+細胞を成長及び増殖させるのに有用であることが分かっている。また、特に、Flt-3リガンド、幹細胞因子(SCF)、及びトロンボポエチン(TPO)などのサイトカインを含めてよい。HSCは、バイオリアクターなどの容器中でも成長できる(例えば、Liu et al.,Journal of Biotechnology 124:592~601,2006)。HSCのエクスビボ増殖に好適な培地は、間質細胞(例えば、リンパ細網間質細胞)などのHSC支持細胞を含有することもできるが、この細胞は、例えば、リンパ組織の脱凝集体由来であってよく、HSC、並びにそれらの子孫のインビトロ、エクスビボ、及びインビボでの維持、成長、及び分化を支持することが示されている。
【0157】
HSCの成長又は増殖は、当該技術分野において既知の所定の手技によってインビトロ又はインビボで測定できる。例えば、国際公開第2008/073748号は、HSCのインビボ及びインビトロ増殖を測定し、例えば中間前駆細胞を含む潜在的に不均一な集団(例えば、骨髄)において、HSCの成長/増殖と他の細胞の成長/増殖との間を区別する方法について記載している。
【0158】
HSC細胞株
別の実施形態では、本開示の任意の方法で使用するのに好適なHSCは、HSC細胞株由来であってもよい。好適なHSC細胞株として、当該技術分野において既知の任意の培養造血性幹細胞株が挙げられる。非限定例として、米国特許出願公開第2007/0116691号及び同第2010/0047217号に記載される条件的不死化長期幹細胞株が挙げられる。
【0159】
特定の実施形態では、本開示の方法で使用するのに好適なHSCは、赤血球に分化される前に条件的に不死化されている。いくつかの実施形態では、本開示の方法で使用するのに好適なHSCは、赤血球に分化される前に、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含むように改変することもできる。いくつかの実施形態では、条件的不死化及び/又は1つ若しくは2つ以上の関心対象のタンパク質の包含は、当該技術分野において既知であり本明細書に記載される任意の方法、例えば、遺伝子導入法、タンパク質形質導入法、又は内因性タンパク質の発現増強法のうち1つ又は2つ以上によって達成できる。
【0160】
HSCの条件的不死化に有用なタンパク質
いくつかの実施形態では、赤血球の産生に対する本開示の方法で使用されるHSCは、HSCを、細胞の生存及び/又は細胞増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質、及び所望により、1つ又は2つ以上のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質を含有する組成物と接触させることにより、条件的に不死化された。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、任意にアポトーシスも阻害する。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、本開示のMYCポリペプチド、その生物学的に活性な断片、又はそのホモログである。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を更に含む。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ又は2つ以上の組み換えタンパク質は、PTD-MYC融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質は、Bcl-2ホモロジードメインを含むタンパク質である。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質は、タンパク質形質導入ドメイン(PTD)を更に含む。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質は、PTD-Bcl-2融合タンパク質である。
【0161】
本開示のPTD-MYC及びPTD-Bcl-2融合タンパク質は、MYC及びBcl-2をコードする内因性遺伝子の過剰発現、又は、遺伝子操作によるMYC及びBcl-2の組み換え発現の必要がなく、MYC及びBcl-2を外から追加することによってHSC中のMYC及びBcl-2活性の増加を可能にする。しかしながら、所望により、遺伝子組み換えHSCの作製、並びに条件的不死化幹細胞を作製するその他の手技による、かかる内因性遺伝子の過剰発現を誘導するためのHSCの操作は、本明細書で明らかに想定される。
【0162】
いくつかの実施形態では、赤血球に分化されるHSC(及び/又は赤血球)は、1つ又は2つ以上の開示される関心対象のタンパク質を更に形質導入される。いくつかの実施形態では、これら1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質は、Myc又はBcl-2以外のものである。いくつかの実施形態では、関心対象のタンパク質は、本開示のPTDドメインを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、PTDドメインはTATである。
【0163】
遺伝子導入法
いくつかの実施形態では、本発明の方法で使用するための条件的不死化HSCは、当該技術分野において既知の任意の遺伝子導入法(例えば、米国特許出願公開第2007/0116691号及び同第2010/0047217号)を用いて確立されている。例えば、増殖させたHSC集団を得て、HSCに、調節可能な(例えば、誘導可能及び/又は制御可能な)、細胞の生存及び/又は増殖を促進する組み換えタンパク質をコードするベクターを形質移入(形質導入)し、HSCに、アポトーシスを阻害する組み換えタンパク質をコードするベクターを形質移入(形質導入)し、細胞の生存及び/又は増殖を促進する組み換えタンパク質が誘導される及び/又は活性である条件において、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で形質移入したHSCを増殖させることによって、不死化できる。
【0164】
細胞の生存及び/又は増殖を促進する組み換えタンパク質は、調節可能(例えば、誘導可能又は制御可能)であり、組み換え(precombinant)タンパク質が、所望に応じて活性化及び非活性化(すなわち、スイッチオン又はオフ)されて、HSCを不死化状態に維持するか、又は、所望の細胞型、例えば赤血球に分化可能にできる。細胞の生存及び/又は増殖を促進する組み換えタンパク質は、任意の本開示の細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質であってよい。特定の好ましい実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質はMYCである。同様に、アポトーシスを阻害する組み換えタンパク質は、任意の本開示のアポトーシスを阻害するタンパク質であってよい。特定の好ましい実施形態では、アポトーシスを阻害するタンパク質はBcl-2である。
【0165】
いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/若しくは増殖を促進する組み換えタンパク質、並びに/又は、アポトーシスを阻害する組み換えタンパク質は、活性が誘導可能又は抑制可能であるように改変されている。例えば、組み換えタンパク質は、誘導性受容体を更に含んでよい。特定の実施形態では、組み換えタンパク質はエストロゲン受容体(ER)を含む。特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進し、エストロゲン受容体を含む組み換えタンパク質は、MYC-ERポリペプチドである。特定の実施形態では、アポトーシスを阻害し、エストロゲン受容体を含む組み換えタンパク質は、Bcl-2-ERポリペプチドである。特定の実施形態では、エストロゲン受容体を含む組み換えタンパク質は、4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)によって誘導される。あるいは、組み換えタンパク質は、糖質コルチコイド受容体(GR)、例えば、ミフェプリストン(MIFEPREX)感受性の糖質コルチコイド受容体を含んでよい。特定の実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進し、糖質コルチコイド受容体を含む組み換えタンパク質は、MYC-GRポリペプチドである。特定の実施形態では、アポトーシスを阻害し、糖質コルチコイド受容体を含む組み換えタンパク質は、Bcl-2-GRポリペプチドである。
【0166】
当該技術分野において既知の増殖したHSCの集団を得るための当該技術分野において既知の任意の方法を使用してよい。例えば、HSCを、細胞増殖及び/又は細胞分裂を促進する1つ又は2つ以上の成長因子と共に培養してよい。
【0167】
好ましくは、ベクターは、細胞のゲノム内に組み込む能力を有する組み込みベクター(例えば、レトロウイルスベクター)である。HSCは、細胞、特に哺乳類細胞に形質移入する任意の好適な方法(これらの手法の組み合わせを用いることによるものを含む)を用いて、ベクターによって形質移入及び/又は形質導入されてよい。好適なベクターとして、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、パルボウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、コロナウイルスベクター、カリシウイルスベクター、パピローマウイルスベクター、フラビウイルスベクター、オルトミクソウイルスベクター、トガウイルスベクター、ピコルナウイルスベクター、アデノウイルスベクター、並びに、変異及び弱毒化ヘルペスウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定されない。任意のかかるウイルスベクターは、これらをHSCに標的化させる、膜結合型SCF、又はその他幹細胞特異的成長因子のリガンドなどの特定の表面発現分子によって更に修飾されてよい。哺乳類細胞の他の形質移入法として、例えばNUCLEOFECTOR(商標)技術(AMAXA Biosystems)を用いる、哺乳類発現ベクターの直接的エレクトロポレーション法が挙げられるが、これらに限定されない。この技術は、ほとんどの初代細胞及び形質移入しにくい細胞株に対する、非常に効率的な非ウイルス遺伝子の導入法であり、ポリアニオン性巨大分子を核内に直接移入させるために、細胞型特異的な電流と溶液の組み合わせの使用をベースとする、長く知られているエレクトロポレーション法を改良したものである。更に、好適な形質移入法として、当該技術分野において既知である、任意の細菌、酵母、又はその他人工的な遺伝子送達法を挙げてよい。
【0168】
いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質は、条件的不死化HSCの産生について記載したものと類似の方法を用いて、本開示の方法における使用に好適な1つ又は2つ以上のHSC(例えば、初代細胞株又は条件的不死化細胞株)内に取り込まれる。
【0169】
内因性発現の増強
いくつかの実施形態では、本開示の方法で使用するための条件的不死化HSCは、任意の本開示の細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質を非限定的に含む、細胞の生存及び/又は増殖を促進する内因性タンパク質の発現を増強することによって樹立できる。例えば、本開示の内因性癌ペプチド、MYCポリペプチド、ICN-1ポリペプチド、これらのホモログ、及び/又はこれらのアナログの発現を、増強してよい。更に、本開示の方法で使用するための条件的不死化HSCは、任意の本開示のアポトーシスを阻害するタンパク質を非限定的に含む、アポトーシスを阻害する内因性タンパク質の発現を増強することによっても樹立できる。例えば、本開示のBcl-2ホモロジードメイン、Bcl-2ポリペプチド、Bcl-xポリペプチド、Bcl-XLポリペプチド、Mcl-1ポリペプチド、CED-9ポリペプチド、Bcl-2関連タンパク質A1ポリペプチド、Bfl-1ポリペプチド、Bcl-wポリペプチド、これらのホモログ、及び/又はこれらのアナログのうち1つ又は2つ以上を含む本開示の内因性タンパク質の発現を、増強してよい。
【0170】
いくつかの実施形態では、例えば、MYC及び/又はBcl-2の産生増強について記載されたものと類似の方法を用いて、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質の発現が、本開示の方法における使用に好適な1つ又は2つ以上のHSC(例えば、初代細胞株又は条件的不死化細胞株)において増加する。
【0171】
タンパク質形質導入法
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される任意の方法によって得られた及び/又は産生されたHSCを、本開示の細胞の生存及び/若しくは増殖を促進する任意の組み換えタンパク質(例えば、癌ペプチド、MYC、ICN-1、これらのホモログ、これらのアナログ、及びこれらの生物学的に活性な断片)を非限定的に含む、細胞の生存及び/若しくは増殖を促進する遺伝子産物、並びに/又は、本開示のHSCのアポトーシスを阻害するタンパク質(例えば、Bcl-2ホモロジードメイン、Bcl-2、Bcl-x、Bcl-XL、Mcl-1、CED-9、Bcl-2関連タンパク質A1、Bfl-1、Bcl-w、これらのホモログ、これらのアナログ、及びこれらの生物学的に活性な断片のうち1つ又は2つ以上を含むタンパク質)(例えば、米国特許出願公開第2007/0116691号)によって処理してもよい。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質は、PTDを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、アポトーシスを阻害するタンパク質は、PTDを含む融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、本明細書に開示される任意の方法によって得られた及び/又は産生されたHSCを、細胞中の本開示の細胞の生存及び/又は増殖を促進する組み換えタンパク質の少なくとも1つの機能の一過性上方調節が可能な、1つ又は2つ以上の化合物(任意に外因性タンパク質)によって処理してもよい。いくつかの実施形態では、細胞の生存及び/又は増殖を促進する組み換えタンパク質タンパク質は、PTD-MYC及び/又はICN-1融合タンパク質である。特定の実施形態では、PTD-MYC融合タンパク質は、TAT-MYC及び/又はICN-1融合タンパク質である。
【0172】
いくつかの実施形態では、本明細書に開示される任意の方法で得られたHSCを、細胞中の本開示のアポトーシスを阻害する組み換えタンパク質の少なくとも1つの機能の一過性上方調節が可能な、1つ又は2つ以上の化合物(任意に外因性タンパク質)によって処理してもよい。いくつかの実施形態では、HSCのアポトーシスを阻害する外因性タンパク質は、PTD-Bcl-2融合タンパク質である。いくつかの実施形態では、PTD-Bcl-2融合タンパク質はTAT-Bcl-2融合タンパク質である。
【0173】
いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質は、PTD-融合タンパク質を用いる条件的不死化HSCの産生について記載したものと類似の方法を用いて、本開示の方法における使用に好適な1つ又は2つ以上のHSC(例えば、初代細胞株又は条件的不死化細胞株)内に取り込まれる。
【0174】
別の実施形態では、本開示の任意の方法で使用するのに好適なHSCは、PTDに融合された本開示の細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質(例えば、PTD-MYC及び/又はPTD-ICN-1融合タンパク質)を含む、融合タンパク質を含有する組成物と接触する。更なる実施形態では、組成物は、PTDに融合された本開示のアポトーシスを阻害するタンパク質(例えば、PTD-Bcl-2融合タンパク質)を含む、融合タンパク質を更に含有する。いくつかの実施形態では、HSCは、PTD-MYC及び/又はPTD-ICN-1融合タンパク質を含有する組成物と、PTD-Bcl-2融合タンパク質を含有する第2の組成物に接触する。
【0175】
別の実施形態では、本開示の任意の方法で使用するのに好適なHSCは、赤血球への分化に先立ち、PTDに融合された本開示の細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質(例えば、TAT-MYCタンパク質及び/又はTAT-ICN-1タンパク質融合体)を含む、融合タンパク質の存在下で増殖される。更なる実施形態では、HSCは、PTDに融合された本開示のアポトーシスを阻害するタンパク質(例えば、TAT-Bcl-2融合タンパク質)を含む、融合タンパク質の存在下でも増殖される。例えば、HSCを、PTD-MYC及び/又はPTD-ICN-1融合タンパク質の存在下で、並びに任意にPTD-Bcl-2融合タンパク質及び追加的サイトカイン及び/又は成長因子の存在下で、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間、又はそれ以上の期間、細胞を培養することによって増殖できる。
【0176】
したがって、本開示の任意の方法で使用するのに好適なHSCは、胚性幹細胞(ES細胞)、胎生幹細胞、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、骨髄より、アフェレーシス法によって、末梢血細胞より、白血球除去を受けた末梢血細胞より、臍帯血より、羊水より、胎盤より、培養HSC細胞より、不死化HSC細胞株より、又は条件的不死化HSC細胞株より得ることができる。
【0177】
赤血球の産生
本開示の特定の態様は、HSCの成熟赤血球への分化を誘発する条件において、EPOと、任意でIL-3と、細胞の生存及び/又は増殖を促進する1つ又は2つ以上の本開示の組み換えタンパク質との存在下でHSCを培養し、それによって成熟赤血球の集団を産生することによる、HSCから成熟赤血球の集団を産生する方法に関する。組み換えタンパク質は、外因的に提供されても、又は、HSCの遺伝子組み換え操作によって提供されてもよい。あるいは、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質は、過剰発現するように誘発される内因性タンパク質であってもよい。いくつかの実施形態では、組み換えられた、誘発された、及び/又は外因性のタンパク質は、本開示の癌ペプチド、MYC、ICN-1、これらのホモログ、これらのアナログ、及び/又はこれらの生物学的に活性な断片である。任意に、細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質は、融合タンパク質の一部を形成してよい。いくつかの実施形態では、融合タンパク質は、PTD、エピトープタグ、又はタンパク質精製タグのうち、1つ又は2つ以上を含む。いくつかの実施形態では、HSCは、赤血球に分化される前に、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を含むように改変される。いくつかの実施形態では、条件的不死化及び/又は1つ若しくは2つ以上の関心対象のタンパク質の包含は、当該技術分野において既知であり本明細書に記載される任意の方法、例えば、遺伝子導入法、タンパク質形質導入法、又は内因性タンパク質の発現増強法のうち、1つ又は2つ以上によって達成できる。
【0178】
いくつかの本開示の方法の実施形態では、PTDに融合された本開示の細胞の生存及び/又は増殖を促進するタンパク質(例えば、PTD-MYCタンパク質及び/又はPTD-ICN-1タンパク質融合体)を含む、融合タンパク質を含有する組成物を、EPO、任意にIL-3及びその他成分の存在下での条件的不死化HSCの培養工程中に投与する。いくつかの実施形態では、HSCは、フィーダー細胞及び/又は血清の存在下又は非存在下で培養される。特定の好ましい実施形態では、HSCは、フィーダー細胞及び/又は血清の非存在下で培養される。
【0179】
いくつかの実施形態では、HSCは、少なくとも0.5μ/mL、少なくとも0.6μ/mL、少なくとも0.7μ/mL、少なくとも0.8μ/mL、少なくとも0.9μ/mL、少なくとも1μ/mL、少なくとも2μ/mL、少なくとも3μ/mL、少なくとも4μ/mL、少なくとも5μ/mL、少なくとも6μ/mL、少なくとも7μ/mL、少なくとも8μ/mL、少なくとも9μ/mL、少なくとも10μ/mL、少なくとも15μ/mL、少なくとも20μ/mL、少なくとも25μ/mL、少なくとも30μ/mL、少なくとも35μ/mL、少なくとも40μ/mL、少なくとも45μ/mL、少なくとも50μ/mL、少なくとも55μ/mL、少なくとも60μ/mL、少なくとも65μ/mL、少なくとも70μ/mL、少なくとも75μ/mL、少なくとも80μ/mL、少なくとも85μ/mL、少なくとも90μ/mL、少なくとも95μ/mL、又は少なくとも100μ/mLの、細胞の生存及び/又は増殖を促進する組み換えタンパク質(例えば、MYC、ICN-1、これらのホモログ、これらのアナログ、及び/又はこれらの生物学的に活性な断片)の存在下で培養される。
【0180】
いくつかの実施形態では、HSCは、少なくとも0.5μ/mL、少なくとも0.6μ/mL、少なくとも0.7μ/mL、少なくとも0.8μ/mL、少なくとも0.9μ/mL、少なくとも1μ/mL、少なくとも2μ/mL、少なくとも3μ/mL、少なくとも4μ/mL、少なくとも5μ/mL、少なくとも6μ/mL、少なくとも7μ/mL、少なくとも8μ/mL、少なくとも9μ/mL、少なくとも10μ/mL、少なくとも15μ/mL、少なくとも20μ/mL、少なくとも25μ/mL、少なくとも30μ/mL、少なくとも35μ/mL、少なくとも40μ/mL、少なくとも45μ/mL、少なくとも50μ/mL、少なくとも55μ/mL、少なくとも60μ/mL、少なくとも65μ/mL、少なくとも70μ/mL、少なくとも75μ/mL、少なくとも80μ/mL、少なくとも85μ/mL、少なくとも90μ/mL、少なくとも95μ/mL、又は少なくとも100μ/mLの、MYCの存在下で培養される。
【0181】
特定の実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、少なくとも0.5μ/mL、少なくとも0.6μ/mL、少なくとも0.7μ/mL、少なくとも0.8μ/mL、少なくとも0.9μ/mL、少なくとも1μ/mL、少なくとも2μ/mL、少なくとも3μ/mL、少なくとも4μ/mL、少なくとも5μ/mL、少なくとも6μ/mL、少なくとも7μ/mL、少なくとも8μ/mL、少なくとも9μ/mL、少なくとも10μ/mL、少なくとも15μ/mL、少なくとも20μ/mL、少なくとも25μ/mL、少なくとも30μ/mL、少なくとも35μ/mL、少なくとも40μ/mL、少なくとも45μ/mL、少なくとも50μ/mL、少なくとも55μ/mL、少なくとも60μ/mL、少なくとも65μ/mL、少なくとも70μ/mL、少なくとも75μ/mL、少なくとも80μ/mL、少なくとも85μ/mL、少なくとも90μ/mL、少なくとも95μ/mL、又は少なくとも100μ/mLの、ICN-1の存在下で培養される。
【0182】
特定の実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、少なくとも1.0単位/mLのEPO、少なくとも1.2単位/mLのEPO、少なくとも1.4単位/mLのEPO、少なくとも1.6単位/mLのEPO、少なくとも1.8単位/mLのEPO、少なくとも2.0単位/mLのEPO、少なくとも2.2単位/mLのEPO、少なくとも2.4単位/mLのEPO、少なくとも2.6単位/mLのEPO、少なくとも2.8単位/mLのEPO、少なくとも3.0単位/mLのEPO、少なくとも3.2単位/mLのEPO、少なくとも3.4単位/mLのEPO、少なくとも3.6単位/mLのEPO、少なくとも3.8単位/mLのEPO、少なくとも4.0単位/mLのEPO、又はそれ以上のEPOの存在下で培養される。
【0183】
特定の実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、少なくとも1ng/mLのIL-3、少なくとも2ng/mLのIL-3、少なくとも3ng/mLのIL-3、少なくとも4ng/mLのIL-3、少なくとも5ng/mLのIL-3、少なくとも6ng/mLのIL-3、少なくとも7ng/mLのIL-3、少なくとも8ng/mLのIL-3、少なくとも9ng/mLのIL-3、少なくとも10ng/mLのIL-3、少なくとも11ng/mLのIL-3、少なくとも12ng/mLのIL-3、少なくとも13ng/mLのIL-3、少なくとも14ng/mLのIL-3、少なくとも15ng/mLのIL-3、少なくとも16ng/mLのIL-3、少なくとも17ng/mLのIL-3、少なくとも18ng/mLのIL-3、少なくとも19ng/mLのIL-3、少なくとも20ng/mLのIL-3、少なくとも21ng/mLのIL-3、少なくとも22ng/mLのIL-3、少なくとも23ng/mLのIL-3、少なくとも24ng/mLのIL-3、少なくとも25ng/mLのIL-3、又はそれ以上のIL-3の存在下で更に培養される。
【0184】
特定の実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、少なくとも1ng/mLのIL-3、少なくとも2ng/mLのIL-3、少なくとも3ng/mLのIL-3、少なくとも4ng/mLのIL-3、少なくとも5ng/mLのIL-3、少なくとも6ng/mLのIL-3、少なくとも7ng/mLのIL-3、少なくとも8ng/mLのIL-3、少なくとも9ng/mLのIL-3、少なくとも10ng/mLのIL-3、少なくとも11ng/mLのIL-3、少なくとも12ng/mLのIL-3、少なくとも13ng/mLのIL-3、少なくとも14ng/mLのIL-3、少なくとも15ng/mLのIL-3、少なくとも16ng/mLのIL-3、少なくとも17ng/mLのIL-3、少なくとも18ng/mLのIL-3、少なくとも19ng/mLのIL-3、少なくとも20ng/mLのIL-3、少なくとも21ng/mLのIL-3、少なくとも22ng/mLのIL-3、少なくとも23ng/mLのIL-3、少なくとも24ng/mLのIL-3、少なくとも25ng/mLのIL-3、又はそれ以上のIL-3;及び、少なくとも1.0単位/mLのEPO、少なくとも1.2単位/mLのEPO、少なくとも1.4単位/mLのEPO、少なくとも1.6単位/mLのEPO、少なくとも1.8単位/mLのEPO、少なくとも2.0単位/mLのEPO、少なくとも2.2単位/mLのEPO、少なくとも2.4単位/mLのEPO、少なくとも2.6単位/mLのEPO、少なくとも2.8単位/mLのEPO、少なくとも3.0単位/mLのEPO、少なくとも3.2単位/mLのEPO、少なくとも3.4単位/mLのEPO、少なくとも3.6単位/mLのEPO、少なくとも3.8単位/mLのEPO、少なくとも4.0単位/mLのEPO、又はそれ以上のEPOの存在下で培養される。
【0185】
更なる実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、EPO、及び任意にIL-3の存在下で、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、又はそれ以上の期間培養される。
【0186】
更なる実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、約1~500ng/mLのFLT-3、約1~500ng/mLのSCF、約1~500ng/mLのGM-CSF、及び/又は約1~500ng/mLのTPOの存在下で更に培養される。HSC、任意に条件的不死化HSCは、FLT-3、SCF、GM-CSF、及び/又はTPOの存在下で、少なくとも1日間、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、又はそれ以上の期間更に培養されてよい。FLT-3、SCF、GM-CSF、及び/又はTPOは、HSCが成熟赤血球に分化しているとき、及び/又は成熟赤血球が産生された後の期間中任意の時点で培地に加えてよい。
【0187】
更なる実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、少なくとも1ng/mLのFLT-3、少なくとも2ng/mLのFLT-3、少なくとも3ng/mLのFLT-3、少なくとも4ng/mLのFLT-3、少なくとも5ng/mLのFLT-3、少なくとも6ng/mLのFLT-3、少なくとも7ng/mLのFLT-3、少なくとも8ng/mLのFLT-3、少なくとも9ng/mLのFLT-3、少なくとも10ng/mLのFLT-3、少なくとも15ng/mLのFLT-3、少なくとも20ng/mLのFLT-3、少なくとも25ng/mLのFLT-3、少なくとも30ng/mLのFLT-3、少なくとも35ng/mLのFLT-3、少なくとも40ng/mLのFLT-3、少なくとも45ng/mLのFLT-3、少なくとも50ng/mLのFLT-3、少なくとも55ng/mLのFLT-3、少なくとも60ng/mLのFLT-3、少なくとも65ng/mLのFLT-3、少なくとも70ng/mLのFLT-3、少なくとも75ng/mLのFLT-3、少なくとも80ng/mLのFLT-3、少なくとも85ng/mLのFLT-3、少なくとも90ng/mLのFLT-3、少なくとも95ng/mLのFLT-3、少なくとも100ng/mLのFLT-3、少なくとも150ng/mLのFLT-3、少なくとも200ng/mLのFLT-3、少なくとも250ng/mLのFLT-3、少なくとも300ng/mLのFLT-3、少なくとも350ng/mLのFLT-3、少なくとも400ng/mLのFLT-3、少なくとも450ng/mLのFLT-3、少なくとも500ng/mLのFLT-3、又はそれ以上のFLT-3の存在下で更に培養される。
【0188】
更なる実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、少なくとも1ng/mLのSCF、少なくとも2ng/mLのSCF、少なくとも3ng/mLのSCF、少なくとも4ng/mLのSCF、少なくとも5ng/mLのSCF、少なくとも6ng/mLのSCF、少なくとも7ng/mLのSCF、少なくとも8ng/mLのSCF、少なくとも9ng/mLのSCF、少なくとも10ng/mLのSCF、少なくとも15ng/mLのSCF、少なくとも20ng/mLのSCF、少なくとも25ng/mLのSCF、少なくとも30ng/mLのSCF、少なくとも35ng/mLのSCF、少なくとも40ng/mLのSCF、少なくとも45ng/mLのSCF、少なくとも50ng/mLのSCF、少なくとも55ng/mLのSCF、少なくとも60ng/mLのSCF、少なくとも65ng/mLのSCF、少なくとも70ng/mLのSCF、少なくとも75ng/mLのSCF、少なくとも80ng/mLのSCF、少なくとも85ng/mLのSCF、少なくとも90ng/mLのSCF、少なくとも95ng/mLのSCF、少なくとも100ng/mLのSCF、少なくとも150ng/mLのSCF、少なくとも200ng/mLのSCF、少なくとも250ng/mLのSCF、少なくとも300ng/mLのSCF、少なくとも350ng/mLのSCF、少なくとも400ng/mLのSCF、少なくとも450ng/mLのSCF、少なくとも500ng/mLのSCF、又はそれ以上のSCFの存在下で更に培養される。
【0189】
更なる実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSC、少なくとも1ng/mLのGM-CSF、少なくとも2ng/mLのGM-CSF、少なくとも3ng/mLのGM-CSF、少なくとも4ng/mLのGM-CSF、少なくとも5ng/mLのGM-CSF、少なくとも6ng/mLのGM-CSF、少なくとも7ng/mLのGM-CSF、少なくとも8ng/mLのGM-CSF、少なくとも9ng/mLのGM-CSF、少なくとも10ng/mLのGM-CSF、少なくとも15ng/mLのGM-CSF、少なくとも20ng/mLのGM-CSF、少なくとも25ng/mLのGM-CSF、少なくとも30ng/mLのGM-CSF、少なくとも35ng/mLのGM-CSF、少なくとも40ng/mLのGM-CSF、少なくとも45ng/mLのGM-CSF、少なくとも50ng/mLのGM-CSF、少なくとも55ng/mLのGM-CSF、少なくとも60ng/mLのGM-CSF、少なくとも65ng/mLのGM-CSF、少なくとも70ng/mLのGM-CSF、少なくとも75ng/mLのGM-CSF、少なくとも80ng/mLのGM-CSF、少なくとも85ng/mLのGM-CSF、少なくとも90ng/mLのGM-CSF、少なくとも95ng/mLのGM-CSF、少なくとも100ng/mLのGM-CSF、少なくとも150ng/mLのGM-CSF、少なくとも200ng/mLのGM-CSF、少なくとも250ng/mLのGM-CSF、少なくとも300ng/mLのGM-CSF、少なくとも350ng/mLのGM-CSF、少なくとも400ng/mLのGM-CSF、少なくとも450ng/mLのGM-CSF、少なくとも500ng/mLのGM-CSF、又はそれ以上のGM-CSFの存在下で更に培養される。
【0190】
更なる実施形態では、HSC、任意に条件的不死化HSCは、少なくとも1ng/mLのTPO、少なくとも2ng/mLのTPO、少なくとも3ng/mLのTPO、少なくとも4ng/mLのTPO、少なくとも5ng/mLのTPO、少なくとも6ng/mLのTPO、少なくとも7ng/mLのTPO、少なくとも8ng/mLのTPO、少なくとも9ng/mLのTPO、少なくとも10ng/mLのTPO、少なくとも15ng/mLのTPO、少なくとも20ng/mLのTPO、少なくとも25ng/mLのTPO、少なくとも30ng/mLのTPO、少なくとも35ng/mLのTPO、少なくとも40ng/mLのTPO、少なくとも45ng/mLのTPO、少なくとも50ng/mLのTPO、少なくとも55ng/mLのTPO、少なくとも60ng/mLのTPO、少なくとも65ng/mLのTPO、少なくとも70ng/mLのTPO、少なくとも75ng/mLのTPO、少なくとも80ng/mLのTPO、少なくとも85ng/mLのTPO、少なくとも90ng/mLのTPO、少なくとも95ng/mLのTPO、少なくとも100ng/mLのTPO、少なくとも150ng/mLのTPO、少なくとも200ng/mLのTPO、少なくとも250ng/mLのTPO、少なくとも300ng/mLのTPO、少なくとも350ng/mLのTPO、少なくとも400ng/mLのTPO、少なくとも450ng/mLのTPO、少なくとも500ng/mLのTPO、又はそれ以上のTPOの存在下で更に培養される。
【0191】
初代HSCから赤血球を産生する現在の方法は、例えばGiarratana et al.,(2005)Nat Biotech 23,69~74などが参照され、赤血球の産生に少なくとも3週間(21日間)を要する。しかしながら、本開示の条件的不死化HSCから赤血球の集団を産生する方法は、約10日間で赤血球を産生する。現在の方法の少なくとも21日間と比べて、本開示の方法の10日間は、約52%の促進を意味する。したがって、いくつかの実施形態では、成熟赤血球の集団の産生は、IL-3及びEPOの存在下で8日間、その後フィーダー細胞及びEPOの存在下で3日間、最後にフィーダー細胞のみの存在下で10日間培養された初代幹細胞から赤血球の集団を産生する(Giarratana et al.,(2005)Nat Biotech 23,69~74参照)のと比較して、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも51%、少なくとも52%、少なくとも53%、少なくとも54%、少なくとも55%、少なくとも56%、少なくとも57%、少なくとも58%、少なくとも59%、少なくとも60%、少なくとも61%、少なくとも62%、少なくとも63%、少なくとも64%、少なくとも65%、少なくとも66%、少なくとも67%、少なくとも68%、少なくとも69%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又はそれ以上促進される。
【0192】
別の実施形態では、成熟赤血球の集団は約7~14日間で産生される。別の実施形態では、成熟赤血球の集団は、約3日間、約4、約5日間、約6日間、約7日間、約8日間、約9日間、約10日間、約11日間、約12日間、約13日間、又は約14日間で産生される。
【0193】
本開示の方法の他の実施形態では、産生された赤血球の集団は、完全成熟赤血球の集団である。更に別の実施形態では、成熟赤血球の集団中の少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%の細胞が無核化されている。なお更に別の実施形態では、成熟赤血球の集団は、条件的不死化HSCから連続的に産生される。
【0194】
本開示の方法の他の実施形態では、成熟赤血球の集団中の少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%の細胞がグリコホリンA(GPA)を発現する。更なる実施形態では、成熟赤血球の集団中の少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%の細胞が、CD71(トランスフェリン受容体)の発現レベルの減少を示す。更なる実施形態では、成熟赤血球の集団中の少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%の細胞が、胎児型ヘモグロビンの発現レベルの減少を示す。更なる実施形態では、成熟赤血球の集団中の少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも100%の細胞が、成人型ヘモグロビンを発現する。
【0195】
別の実施形態では、産生された成熟赤血球の集団はヒト細胞集団である。更なる実施形態では、産生された成熟赤血球の集団は、実験室/実験用動物、げっ歯類、愛玩動物、家畜、畜産動物、労働用動物、運送用動物、希少又は絶滅危惧種、競技用動物、動物園の動物、サル、霊長類、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、及びニワトリの細胞集団を非限定的に含む、非ヒト動物細胞の集団である。
【0196】
本開示の方法は、A+、A-、B+、B-、O+、O-、AB+、又はAB-の血液型を有するドナーから得られたヒトHSC由来の、HSC、任意の条件的不死化HSCも利用できる。したがって、HSCから産生された赤血球の血液型はA+、A-、B+、B-、O+、O-、AB+、又はAB-となる。
【0197】
更に、本開示の方法は、Oh、CDE/CDE、CdE/CdE、CD-/CD-、-D-/-D-、Rhnull、Rh:-51、LW(a-b+)、LW(a-b-)、S-s-U-、S-s-U(+)、pp、Pk、Lu(a+b-)、Lu(a-b-)、Kp(a+b-)、Kp(a-b-)、Js(a+b-)、Ko、K:-11、Fy(a-b-)、Jk(a-b-)、Di(b-)、I-、Yt(a-)、Sc:-1、Co(a-)、Co(a-b-)、Do(a-)、Vel-、Ge-、Lan-、Lan(+)、Gy(a-)、Hy-、At(a-)、Jr(a-)、In(b-)、Tc(a-)、Cr(a-)、Er(a-)、Ok(a-)、JMH-、及びEn(a-)を非限定的に含む、まれな血液型を有するドナーから得られたヒトHSC由来の、HSC、任意の条件的不死化HSCも利用できる。したがって、いくつかの実施形態では、HSCから産生された赤血球の集団は、Oh、CDE/CDE、CdE/CdE、CD-/CD-、-D-/-D-、Rhnull、Rh:-51、LW(a-b+)、LW(a-b-)、S-s-U-、S-s-U(+)、pp、Pk、Lu(a+b-)、Lu(a-b-)、Kp(a+b-)、Kp(a-b-)、Js(a+b-)、Ko、K:-11、Fy(a-b-)、Jk(a-b-)、Di(b-)、I-、Yt(a-)、Sc:-1、Co(a-)、Co(a-b-)、Do(a-)、Vel-、Ge-、Lan-、Lan(+)、Gy(a-)、Hy-、At(a-)、Jr(a-)、In(b-)、Tc(a-)、Cr(a-)、Er(a-)、Ok(a-)、JMH-、及びEn(a-)を非限定的に含む、まれな血液型となる。
【0198】
更に、本開示の方法は、自己免疫疾患、免疫不全症、又はHSC移植及び/若しくは輸血の恩恵を受け得る任意のその他疾病若しくは疾患を有するドナー由来のHSC、任意に条件的不死化HSCをも利用して、オーダーメイド療法に使用可能な成熟赤血球の集団を産生できる。例えば、成熟赤血球の集団は、自家又は同種ドナーから得られたHSCから産生できる。有利には、自家赤血球は、輸血及び/又は赤血球による治療を必要とする対象が、同種及び/又は万能ドナーなど、任意の他のドナー由来の、又はこれらドナーから得られた赤血球による治療に対して、陰性反応、有害反応、又は中毒反応を有し得る症例において、特に有用であり得る。自家及び/又は同種ドナー由来のHSCから産生された赤血球による治療から利益を得る患者の例は、当該技術分野において周知であり、自己免疫疾患、血液病又は疾患、免疫病又は疾患、又は他の関連疾患若しくは病気を患っている患者が挙げられるが、これらに限定されない。
【0199】
特定の実施形態では、赤血球の集団は、インビトロで無期限に継代でき、凍結保存でき、かつ回復できる条件的不死化HSCから産生される。したがって、かかる条件的不死化HSCは、一定の特徴がはっきりした供給源から、完全に分化した赤血球の継続的生産を可能にする。
【0200】
本開示の方法は、臍帯血、胎盤、末梢血、骨髄、又は動員された血液からの初代造血幹細胞を非限定的に含む、任意の供給源からのHSCを利用できる。胚性幹細胞、胎児血液細胞又は人工多能性幹細胞、並びに条件的不死化造血幹細胞、例えば遺伝子組み換えかつタンパク質導入された条件的不死化細胞由来の造血幹細胞が、特に意図される。
【0201】
赤血球の集団
本開示の特定の態様は、任意に1つ又は2つ以上の本開示の方法によって産生された赤血球の集団、例えば、成熟赤血球に関する。赤血球の集団は、1つ又は2つ以上の本開示の関心対象のタンパク質も含んでよい。本明細書に開示されるように、これらの関心対象のタンパク質は、1つ又は2つ以上の疾病若しくは疾患の予防、治療、又は診断に有用であり得る。
【0202】
いくつかの態様では、赤血球の集団は、集団中の少なくとも約40%、少なくとも45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約99%、若しくは約100%の細胞が無核化されている、GPAを発現している、成人型ヘモグロビン(FACSによる第2対数以上)を発現している、CD71の発現レベル(例えば、GPA/CD71)の減少を示す、及び/又は、胎児型ヘモグロビン(FACSによる第1対数;0~10)レベルの減少を示す、を非限定的に含む、1つ又は2つ以上の特徴によって特徴付けることができる。赤血球の集団は、1つ又は2つ以上の関心対象の組み換えタンパク質も含んでよい。本明細書に開示されるように、これらの関心対象のタンパク質は、1つ又は2つ以上の疾病若しくは疾患の予防、治療、又は診断に有用であり得る。
【0203】
いくつかの実施形態では、赤血球の集団は、本開示のアポトーシスを阻害する外因性タンパク質、例えばBcl-2ホモロジードメインを含むタンパク質を更に含んでよい。外因性タンパク質は、PTDを含む融合タンパク質であってもよい。いくつかの実施形態では、外因性タンパク質は、Bcl-2、これらのホモログ、これらのアナログ、及び/又はこれらの生物学的に活性な断片である。特定の実施形態では、外因性タンパク質はBcl-2、任意にPTD-Bcl-2である。いくつかの実施形態では、赤血球の集団は、本開示のアポトーシスを阻害するタンパク質、例えばBcl-2ホモロジードメインを含むタンパク質を含む、保存培地中で維持される。いくつかの実施形態では、保存培地中の外因性タンパク質は、Bcl-2、これらのホモログ、これらのアナログ、及び/又はこれらの生物学的に活性な断片である。特定の実施形態では、保存培地中の外因性タンパク質は、Bcl-2、任意にPTD-Bcl-2Bcl-2である。
【0204】
医薬組成物
本開示の特定の態様は、1つ又は2つ以上の本開示の赤血球の集団と、1つ又は2つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤とを含む、医薬組成物に関する。赤血球と共に使用するのに好適な、当該技術分野において既知の任意の薬学的に許容可能な賦形剤を使用してよい。1つの非限定例では、薬学的に許容可能な賦形剤は、pH調整された生理食塩水溶液である。
【0205】
いくつかの実施形態では、組成物は、1つ又は2つ以上の本開示の関心対象のタンパク質を更に含む。
【0206】
赤血球の集団は、1つ若しくは2つ以上の本開示の方法によって任意に産生され、並びに/又は、集団中の約40%~約100%の赤血球が無核化されている、集団中の約40%~約100%の赤血球が成人型ヘモグロビンを発現している、集団中の約40%~約100%の赤血球が成人型ヘモグロビンの発現上昇を示す、集団中の約40%~約100%の赤血球がCD71の発現レベルの低下を示す、及び集団中の約40%~約100%の赤血球が胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を示す、を非限定的に含む、本開示の1つ又は2つ以上の特徴を呈する。更に、赤血球の集団はまれな血液型を有してよい。いくつかの実施形態では、赤血球はヒト赤血球である。あるいは、赤血球は、本開示の任意の非ヒト動物由来の非ヒト赤血球である。
【0207】
赤血球の集団は、1つ又は2つ以上の本開示の関心対象のタンパク質も含んでよい。いくつかの実施形態では、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質は、赤血球の表面上に結合する。
【0208】
1つ又は2つ以上の本開示の赤血球の集団と、1つ又は2つ以上の薬学的に許容可能な賦形剤とを含み、赤血球が1つ又は2つ以上の本開示の関心対象のタンパク質を任意に含有する本開示の医薬組成物は、輸血などによってインビボに投与されるために配合されてよい。赤血球の集団を含む医薬組成物をインビボに投与するための、当該技術分野において既知の任意の配合物を使用してよい。
【0209】
治療的利用
本明細書に記載される、及び/又は、HSC、任意に条件的不死化HSCから成熟赤血球の集団を産生するための本開示の任意の方法に従って産生される赤血球は、治療用途においても利用法が見つかる。
【0210】
様々な理由及び疾患のため、かかる治療を必要とする患者への赤血球輸血の利用は、当該技術分野において周知であり、その方法は標準的な医療行為である。本明細書に記載され、及び/又は、本開示の方法に従って産生される赤血球を使用して、現在輸血に使用されているのと同じ方法と条件を用いて患者を治療することができる。
【0211】
特定の実施形態では、本開示は、本開示の、つまり本開示の任意の方法に従って調製された赤血球の集団を、赤血球の欠乏を特徴とする疾患を有する対象に投与することによる、赤血球の欠乏を特徴とする疾病又は疾患の治療、予防、又は診断方法に関する。いくつかの実施形態では、集団中の約40%~約100%の赤血球は無核化されており、集団中の約40%~約100%の赤血球は成人型ヘモグロビンを発現しており、集団中の約40%~約100%の赤血球は成人型ヘモグロビンの発現増加を示しており、集団中の約40%~約100%の赤血球はCD71の発現レベルの低下を示しており、集団中の約40%~約100%の赤血球は胎児型ヘモグロビンの発現レベルの低下を示している。
【0212】
本明細書で使用されるとき、「赤血球の欠乏」は、正常量の赤血球を有する対象の赤血球量よりも、約20%~約900%低い赤血球量を有する;又は、正常量の赤血球を有する対象の赤血球量よりも、約10倍~約1,000倍低い赤血球量を有する対象を指す。
【0213】
赤血球の欠乏を特徴とする疾患として、貧血(例えば、先天性貧血、再生不良性貧血、悪性貧血、鉄欠乏性貧血、鎌状赤血球性貧血、球状赤血球症、溶血性貧血、無セルロプラスミン血症、アデノシンデアミナーゼ活性上昇-ADA-、アデニル酸キナーゼ欠損症、アルドラーゼ欠損症、α-サラセミア-形質型又は保有者、無トランスフェリン血症、常染色体優性鉄芽球性貧血、常染色体劣性鉄芽球性貧血、β-サラセミア-形質型又は保有者、β-重症型サラセミア(及び中間型)、血小板減少症を伴うCDA(GATA I突然変異)、複合ヘテロ接合体性鎌状化疾患、先天性有棘赤血球増加症、先天性赤血球異形成貧血I型、先天性赤血球異形成貧血II型、先天性赤血球異形成貧血III型、δ β-サラセミア、Diamond-Blackfan貧血、DMT1-欠乏性貧血、家族性再生不良性貧血、ファンコーニ貧血、γ-グルタミル-システイン合成酵素欠損症、GLRX5関連鉄芽球性貧血、グルコースリン酸イソメラーゼ欠損症、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ欠損症、グルタチオンレダクターゼ欠損症、グルタチオン合成酵素欠損症、ヘモグロビンC症、ヘモグロビンD症、ヘモグロビンE症、ヘモグロビンH症、ヘモグロビンレポア、貧血を伴うヘモグロビンM、遺伝性楕円赤血球症、遺伝性高胎児ヘモグロビン血症、遺伝性球状赤血球症、遺伝性有口赤血球症、ヘキソキナーゼ欠損症、胎児水腫、Imerslund-Grasbeck症候群、鉄不応性鉄欠乏性貧血、Kearns-Sayre症候群、レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症、ミトコンドリアミオパチー鉄芽球性貧血、サラセミア、先天性赤血球異形成貧血、形成異常を伴う汎血球減少症、発作性夜間血色素尿症、ピアソン症候群、ホスホフルクトキナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ピリミジン5ヌクレオチダーゼ欠損症、ピルビン酸キナーゼ欠損症、鎌状赤血球性貧血、鎌状赤血球形質型、運動失調を伴う鉄芽球性貧血、SLC25A38関連鉄芽球性貧血、チアミン応答性巨赤芽球性貧血、トリオースリン酸イソメラーゼ欠損症、不安定ヘモグロビン、ウルフラム症候群、及びX連鎖鉄芽球性貧血)、ゴーシェ病、溶血、好中球減少症、血小板減少症、顆粒球減少症、血友病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、B細胞性慢性リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性様リンパ腫、びまん性大B細胞性リンパ腫、多発性骨髄腫、急性骨髄系白血病、前駆B細胞性急性リンパ球性白血病、前駆T細胞性急性リンパ球性白血病、急性前骨髄球性白血病、不応性白血病、又はこれらの組み合わせを挙げてよいが、これらに限定されない。
【0214】
特定の場合では、赤血球の欠乏を特徴とする疾患は、化学療法、化学物質への曝露、放射線療法、及び/又は放射線への曝露のうち、1つ又は2つ以上によって(部分的に又は完全に)起こる。いくつかの実施形態では、本開示の任意の方法によって産生される赤血球の集団は、化学療法及び/若しくは放射線療法、又は1つ若しくは2つ以上の関心対象のタンパク質と併用投与される。
【0215】
いくつかの実施形態では、本開示の、及び/又は、本開示の任意の方法に従って産生される赤血球の集団は、それらを必要とする、例えば、失血状態の対象に投与又は輸血される。失血は、例えば、特に内出血若しくは外出血、出血、外傷、又は手術の結果であり得る。
【0216】
1つ又は2つ以上の本開示の赤血球の集団による治療は、ウイルス性出血熱と関連するRNAウイルス科(アレナウイルス、ブンヤウイルス、フィロウイルス、及びフラビウイルス)などであるがこれらに限定されない出血を伴う一部の感染症に有用である場合もある。ウイルス性出血熱の例は、ラッサ熱、エボラ、マールブルグ、リフトバレー熱、デング熱、及び黄熱が挙げられるが、これらに限定されない。
【0217】
迅速な輸血が必要とされる実施形態では、本明細書に記載される、及び/又は本開示の任意の方法に従って調製される大量の赤血球を、固体に投与する。別の実施形態では、産生される赤血球の集団の長時間輸血が固体に行われる。
【0218】
いくつかの疾病、疾患、及び/又は状態の治療において、1つ又は2つ以上の本開示の関心対象のタンパク質のデリバリーシステムに適する、赤血球の投与が有用である。赤血球を、当該技術分野において既知であり、本明細書に開示されるタンパク質のデリバリーシステムとして適合させる任意の方法を使用してよい。造血性成長因子を必要とする対象、急性炎症性状態、サイトカインストーム状態、サイトカインストームを伴う臨床症状、癌、血管調節異常(例えば、凍傷、癌関連血管収縮、又はリウマチ性関節など)、急性心筋梗塞、分娩中の産科的使用、急性及び/又は持続性片頭痛、追加免疫を必要とする対象、血栓のリスクが高い対象、肺塞栓症のリスクが増加している対象、循環器疾患、免疫病及び/又は疾患、並びに、自己免疫疾患及び/又は疾患を非限定的に含む、開示される関心対象のタンパク質による治療の恩恵を受け得る、当該技術分野において既知であり、本明細書に開示される任意の疾病、疾患、及び/又は状態を、本開示の方法で治療できる。
【0219】
本開示の任意の方法によって治療される「対象」、「患者」、又は「宿主」は、かかる治療を必要とする、任意のヒト又は非ヒト動物、例えば、任意の本明細書に開示される非ヒト動物であってよい。例えば、対象は、赤血球の欠乏を有していてよく、本開示の赤血球及び/又は1つ若しくは2つ以上の本開示の関心対象のタンパク質によって治療できる、自己免疫性不全症、貧血、癌、又は、当該技術分野において既知であり、本明細書に開示される任意のその他疾病、疾患、若しくは状態を有する。
【0220】
本明細書に参照される文書及び試験の引用は、上記のうち任意のものが適切な従来技術であると認めることを意図しない。これら文書の内容に関する全ての記載は、出願人が利用できる情報に基づいており、これら文書の内容の正確さをなんら認めることにはならない。
【0221】
以下の実施例は例示にすぎず、任意の本開示の態様をいかなる方法でも制限することを意味しない。
【実施例
【0222】
以下の実施例は、マウス及びヒトの条件的に形質転換された長期造血性幹細胞株(clt-HSC)及びタンパク質を形質導入した長期造血幹細胞(ptlt-HSC)を、インビトロで赤血球(RBC)に分化した結果を記す。
【0223】
記載の方法により、1つ又は2つ以上の関心対象のタンパク質を任意にペイロードした、成熟除核赤血球の集団の迅速産生を促進する。加えて、出発材料として条件的不死化HSCを得ると、万能ドナー血液、又は様々な主要血液型、並びにまれな血液型、並びに更にはオーダーメイド血液の産生及び維持を可能にし、まれな血液型の患者が長年直面してきた継続的な血液不足の問題を解決できる。更に、この技術は、病原体を含まないことを保証でき、RBCの十分な在庫供給の確立を可能にするよう貯蔵寿命を延長できる、一定の供給源由来の輸血用RBCの一定で予測可能な供給を行うために使用できる。
【0224】
実施例1:条件的に形質転換された長期的に再構成する造血性幹細胞株の作製
増殖性細胞を除去するために、マウスを5-フルオロウラシル(5FU)で処理することによって、HSCが濃縮されている骨髄(BM)細胞を作製した。処理マウスのエクスビボBM細胞を、以前に説明されている(Van Parijs et al.,Immunity 11,763~770,1999)ように、IL-3、IL-6、及びSCFを含む培地で培養することによって、HSCを更に濃縮した。その後、細胞に、腫瘍性タンパク質並びに緑色蛍光タンパク質をコードするpMIG-MYC-ER及びpMIG-Bcl-2ウイルス(図1A)を3回spin infectionした(Refaeli et al.,J.Exp.Med.196,999~1005,2002)。ヒトMYC-ER又はBcl-2、並びにIRESエレメント及びレポーター遺伝子(EGFP)のcDNAをコードさせるため、pMSCV骨格の変異体を作製した。得られたウイルスは、レポーター遺伝子の発現レベルが第1cDNAの発現レベルと相関するように、バイシストロン性転写物を生成した。
【0225】
初期培養樹立96時間後に細胞を表す緑色蛍光タンパク質(GFP)の頻度によって測定するとき、この処理によるレトロウイルスの形質導入率は約33.7%であった(図1B)。形質導入された10個のHSCを、若年の致死的に照射された雄性C57/BL6マウスコホートに移植し、移植10日後に、これらのマウスへの1mg/マウス/週の量の4-ヒドロキシタモキシフェン(4-OHT)の毎週投与を開始した。4週間の一定の潜伏期間を経て、これらのマウスの90%以上が白血病を発症した(図1C)。図1Cの曲線は、4-OHTの投与を開始(グラフ中の0日)後の一定の時点における、生存マウスの割合を示す。約40日間後、全てのマウスが一様にAML様白血病で死亡した(図1C)。図1に示すデータは、4回の独立した実験のうち、代表的な1回の実験からのものである。白血病の発症には、4-OHTの連続投与を必要とした。
【0226】
提供される特定例は、Myc及びBcl-2を用いるHSCの条件的不死化を目的としているが、同様の方法を用いて、別の関心対象のタンパク質をHSC内に組み込み、任意に関心対象のタンパク質の発現を制御し得る。いくつかの実施形態では、HSCは、条件的不死化HSC又はタンパク質を形質導入したHSCを含む。
【0227】
実施例2:Lt-HSC表面表現型を呈する条件的に形質転換されたHSC細胞株
実施例1で発生させた細胞株の表現型及び均一性を評価するため、様々な表面マーカーの細胞発現を分析した。細胞を、c-kit、Sca-1、CD34、及びFlk-2に対する抗体で染色した。更に、細胞を、特定の系統(B系統細胞はCD19及びB220、T系統細胞はThy1.2、骨髄系細胞はMac-1、好中球はGr-1、赤血球前駆細胞はTer-119)について染色した。図1D~1Fに示すように、一貫して見られる表現型は、系統陰性(CD19、B220)であったが、Sca-1、c-kit、CD34、Flk-2であった。このマーカー発現パターンは、以前に報告されたマウス初代Lt-HSC(Cheshier et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 96,3120~3125,1999)と一致している。ctlt-HSC細胞株を長期間培養下で維持すると、細胞内c-kit発現が減少することも示された(図1E)。この変化は、インビボ又はインビトロ機能の検出可能な変化を伴わない。更に、SCFを含めずに細胞を一晩培養するとc-Kitレベルが回復したことから、SCFが、この受容体の調節を推進することが示唆されることも見出された。
【0228】
特に、図1Dは、回復直後の白血病マウスの骨髄から得られたctlt-HSCを示す。これらのサンプルでは、約42.2%の細胞がSca-1かつc-kitであり、約100%の細胞がCD34かつFlk-2であり、約99.8%の細胞がB220かつCD19であった(図1D)。
【0229】
図1Eは、長期間培養下で維持されたctlt-HSC細胞株を示す。これらのサンプルでは、約7.79%の細胞がSca-1かつc-kitであり、約51.2%の細胞がSca-1であるがc-kitであり、約100%の細胞がCD34かつFlk-2であり、約99.4%の細胞がB220かつCD19であった(図1E)。
【0230】
図1Fは、野生型C57/BL6マウスの骨髄から得られた、正常の未操作Lt-HSCを示す。これらのサンプルでは、約1.84%のみの細胞がSca-1かつc-kitであり、約8.03%の細胞がSca-1かつc-kitであるが、大部分の細胞(約88.5%)は、Sca-1及びc-kitの両方に陰性であった(図1F)。更に、約100%の細胞がCD34である一方で、全ての細胞がFlk-2ではなかった(図1F)。
【0231】
更に、図1Dに示すように、ctlt-HSC細胞株の樹立プロセスの初期段階では、細胞は、高レベルのc-kit及びSca-1を主に発現し、Flk-2、CD34、又はCD19及びB220などの系統マーカーを発現しない。樹立したctlt-HSC細胞株のFACS分析は、ctlt-HSC細胞株が増殖して凍結保存されると、安定な表面表現型を保持していたことを示す。これらの細胞は、高レベルのSca-1を発現したが、c-Kitの表面レベルは低下しており、Flk-2、CD34、B220、CD19、及び他の系統マーカーは陰性のままであった(図1E)。表面からのc-kitレベルの低下は、HSC様表現型の維持にSCFを必要とするため、連続的なシグナル伝達の結果であると思われる。ctlt-HSC細胞株の結果を、野生型C57/BL6マウスの骨髄からの正常の未操作長期HSCと比較した。図1Fに示すように、正常HSC及びctlt-HSC細胞株のマーカータンパク質の発現レベルを比較するため、細胞を、c-kit、sca-1、Flk-2、及びCD34に対する抗体で染色した。
【0232】
実施例3:ctlt-HSCの移植によるマウスの致死的照射からの救出
この実験は、ctlt-HSC細胞株の、分化した赤血球(RBC)を生じさせる能力を証明する。この能力、並びに活性HSC区画を長期間維持する能力は、ctlt-HSCのLt-HSCとしての同一性の確立に重要である。ctlt-HSC細胞株の、致死的照射動物の造血性区画を再構成する能力を、2つの方法で調べた。第1には、10個のctlt-HSC細胞を、3×10個のRag-1-/-マウスの全骨髄細胞と共に、致死的照射された若年C57/BL6マウスに移植した。「キャリア」Rag-1-/-細胞を追加することで、移植されたHSCの赤血球産生の再確立に必要な期間、レシピエントによる赤血球の産生を確実にした。全「キャリア」骨髄細胞の補充は、移植レシピエントが、照射後の現存赤血球の減少を生き抜くことができるように、HSC再構成と共に通常用いられる(Uchida et al.,J.Exp.Med.175,175~184,1992)。したがって、この実験は、成熟リンパ系細胞の唯一の可能な供給源が移植されたctlt-HSC細胞となるように設計された。この方法の変法では、10個のctlt-HSC細胞を、キャリア骨髄を含めずに致死量以下で照射されたRag-1-/-マウスに移植した。ctlt-HSCを移植されたマウスを移植6又は12週間後に安楽死させ、再構成の分析のため、リンパ節、脾臓、胸腺、及び骨髄組織を回収した。得られた細胞懸濁液を系統特異的抗体で染色し、再構成の程度を確認した。ctlt-HSCから発生した細胞は、レトロウイルスがコードするレポーター遺伝子であるGFPによって、インビボで追跡された。
【0233】
ctlt-HSC細胞株は、骨髄、胸腺、脾臓、及びリンパ節中に、高頻度のGFP細胞(回収された生存細胞の70~80%)を有する骨髄、胸腺、脾臓、及びリンパ節組織を生じさせた(図2A)。これらのヒストグラムは、それぞれ5例のコホートのうち、典型的な1例のマウスの臓器由来のものであった。具体的には、約78%の骨髄細胞がGFP、約72%の胸腺細胞がGFP、約80%の脾臓細胞がGFP、約79%のリンパ節(LN)細胞がGFPであった(図2A)。
【0234】
図2Bに示すように、骨髄から得られた細胞をMac-1及びGr-1に対して染色した。骨髄中の全ての骨髄系細胞がGFPを発現しなかったものの、かなりの部分がGFPであり、したがって、ctlt-HSC由来であった。具体的には、約14.8%の細胞がMac-1であり、約24%の細胞がGFPかつMac-1であった。したがって、Mac-1細胞のうち約61.8%がctlt-HSC由来であった(図2B)。更に、約32%の細胞がGr-1であり、約18.7%の細胞がGFPかつGr-1であった。したがって、Mac-1細胞のうち約58.4%が、ctlt-HSC由来であった(図2B)。
【0235】
図2Cに示すように、キメラRag-1-/-マウスの脾臓組織から得られた細胞を、成熟T及びB細胞の存在について、フローサイトメトリーによって分析した。Rag-1-/-マウス及び野生型マウスを対照として用いた。CD4又はCD8のいずれかが単一陽性である、TCRαβ T細胞の存在について、細胞を染色した。加えて、CD19B細胞(IgM及びIgDを表面に発現している)の存在について、細胞を染色した。
【0236】
具体的には、キメラRag-1-/-マウスの脾臓細胞サンプルは、約25.8%のTCRαβかつCD4細胞、約16.8%のTCRαβかつCD8細胞、約7.8%のIgMかつCD19細胞を有していた(図2C)。これは、対照Rag-1-/-マウス(TCRαβかつCD4+細胞、TCRαβかつCD8細胞、又はIgMかつCD19細胞を含まない)の脾臓細胞サンプル;及び、野生型マウス(約24%がTCRαβかつCD4+細胞、約16.1%がTCRαβかつCD8細胞、約28.7%がIgMかつCD19細胞を有する)の脾臓細胞サンプルと比較される(図2C)。
【0237】
図2Cに見られるように、脾臓中の成熟T細胞の頻度は、野生型の未操作C57/BL6マウスで見られるものと同等であったが、B細胞の発生は遅れていた。
【0238】
続いて、ctlt-HSCが移植後に自己複製が可能かどうかについて、判定した。第1群のctlt-HSC移植レシピエントマウスから得られた骨髄細胞を、致死的照射されたRag-1-/-マウスの第2コホートに連続的に移植した。6又は12週間後に再構成について分析した。
【0239】
図2Dに示すように、二次移植も成熟系統を生じさせることができた。脾臓を、キメラマウスのコホートから回収し、単一細胞懸濁液を調製してFACS分析に用いた。レシピエント、対照Rag-1-/-マウス、及び対照野生型C57/BL6マウスで見られる成熟T及びB細胞の頻度を比較した。この分析は、脾臓中の成熟CD4及びCD8単一陽性TCRαβ T細胞が、野生型マウスの頻度と同様に存在していることを示した。野生型マウスより低頻度であったが、CD19、IgM、及びIgDB細胞も存在していた。
【0240】
具体的には、二次移植レシピエントのRag-1-/-マウスの脾臓細胞サンプルは、約41.3%のTCRαβかつCD4+細胞、約34.3%のTCRαβかつCD8細胞、約10.2%のIgMかつCD19細胞を有していた(図2D)。これは、対照Rag-1-/-マウス(約0.7%のTCRαβかつCD4細胞、約0.4%のTCRαβかつCD8細胞、0.5%のIgMかつCD19細胞を有する)の脾臓細胞サンプル;及び、野生型マウス(約36.9%のTCRαβかつCD4+細胞、約37.7%のTCRαβかつCD8細胞、約16.9%のIgMかつCD19細胞を有する)の脾臓細胞サンプルと比較される(図2D)。
【0241】
引き続き、連続的に7回移植を実施して、当初10個であったctlt-HSCからの成熟系統の再構成を観察したが、腫瘍の発生の証拠は見られなかった(表1)。この実験では、百万個の全骨髄細胞を致死的照射されたRag-1-/-マウスに移植した。Rag1-/-マウス(Jackson Laboratory)への移植は、Rag1-/-マウスが、BM細胞を尾静脈から注入される直前に、450ラドの放射線を2回連続して照射(2~3時間離して)された以外は、NSGマウスについて記載された方法で行った。
【0242】
【表1】
【0243】
実施例4:ヒトctlt-HSC細胞株及びヒト造血性区画を有するキメラマウスの作製
マウス長期HSCを条件的に不死化する方法は、以前に開発されている。この方法を、マウスHSCの条件的不死化の原因となるメカニズムが、いかなるHSCに対しても一般的に適用可能かどうか、又は、それらがマウス細胞のみに特異的なのかどうかを特定するために、ヒト長期HSCの条件的不死化に広げた。この考えを確認するため、ヒト成人骨髄又は臍帯血のCD34画分を入手した(最初はStem Cell Technologies(Vancouver,BC)から、その後UCHSC臍帯血バンクから)。細胞を、ヒト組み換えIL-3、IL-6、及びSCFを補充した、ヒトHSCに特化して開発された培地(Stemline II培地(Sigma,St.Louis,MO))中で培養した。その後、ヒトHSCに、GFPレポーターと共にMYC-ER又はBcl-2をコードするレトロウイルスを形質導入した。レトロウイルスは、実施例1で使用したpMSCV変異体と同じである。しかしながら、これらのレトロウイルスを、ヒト細胞への形質導入を可能にするために、両種指向性エンベロープで包まれるように改変した。形質導入されたヒトHSCを、致死量以下で照射されたNOD/SCID/β2M-/-マウス内に移植するか、又は、IL-3、IL-6、及びSCFサイトカイン混合物、並びに4-OHTの存在下においてインビトロで長期培養して維持した。この2つの異なる方法で、ヒトctlt-HSC細胞株を得た。完全にインビトロで生じさせた一連のヒトctlt-HSC細胞株を、14ヶ月間、連続培養して維持している。3種類のレトロウイルスで形質導入された細胞株の初期表面表現型は、CD34画分が顕著に豊富であることを示した。この細胞は、HSCの初期頻度よりも10,000倍、CD34画分が豊富であった(図3A~3C)。
【0244】
FACS分析を行って、3種類の樹立されたヒトctlt-HSC細胞株の表面表現型を特定した。図3に示すように、増殖され、凍結保存されたヒトctlt-HSC細胞株は、提示された安定な表面表現型を保持していた。形質導入された(すなわち、GFP)細胞は、高レベルのCD34の発現を示した(図3A~3C)。特に、3種類の異なるctlt-HCSは、5.23%、5.09%、及び4.03%のGFP×CD34の二重陽性細胞に揃っている。これら3種類のctlt-HSC株は、25.3%、94.7、及び92.1のcKit×GFPの二重陽性でもあった(図3D~3F)。これらの同じ3種類のctlt-HSC株は、系統マーカーCD45、Flk-2、及びCD150も非常に低いまま保たれていた。示されるのは、12.3%のCD45×GFP二重陽性細胞(図3G)、0.77%のFlk-2×GFP二重陽性細胞(図3H)、及び0.55%のCD150×GFP二重陽性細胞(図3I);並びに、B220、CD19、及び他の系統マーカー(thy1.2、Gr-1、Mac-1、及びTer-119)を有する、ctlt-HSC株のうち1つのフローサイトメトリー評価である。3種類の樹立された異なるヒトctlt-HSC細胞株の中で、表面マーカー発現レベルについていくらかの不均一性がある場合があるが、この不均一性は、成人HSC区画において以前に報告される固有の不均一性の結果であると考えられる(McKenzie et al.,Nat Immunol 7,1225~33,2006)。
【0245】
樹立されたヒトctlt-HSC細胞株の多能性を調べるため、既知の異種移植モデルを使用した(Dick et al.,Stem Cells 15 Suppl 1,199~203,1997)。このモデルは、NOD/SCID/β2M-/-マウスの照射と、ctlt-HSCの照射したマウスへの移植を含む。NOD/SCID/β2M-/-マウスのコホートを、致死量以下で照射し(300ラド)、10個のCD34+ヒトctlt-HSC細胞をマウスに移植した。移植前に、細胞は、10週間培養下で維持された。移植6又は12週間後のいずれかにおいて、マウスを放血させた。ヒト化キメラNOD/SCID/β2M-/-マウスの末梢血中に存在するリンパ球を、ヒト白血球抗原に特異的な抗体で染色した。具体的には、サンプルを、CD19、CD20及びCD3に対する抗体で染色した。
【0246】
図4に示すように、幹細胞移植を受けなかった対照マウスと比較すると、ヒトB細胞(hIgM細胞)及びヒトCD45T細胞が、キメラNOD/SCID/β2M-/-マウスの末梢血中に検出された。具体的には、対照マウスの末梢血は、0.075%のhIgM/hCD45細胞を有し(図4A)、第1キメラマウスの末梢血は、31%のhIgM/hCD45細胞を有し(図4B)、第2キメラマウスの末梢血は、77.1%のhIgM/hCD45細胞を有し(図4C)、第3キメラマウスの末梢血は、49.5%のhIgM/hCD45細胞を有していた(図4B)。
【0247】
実施例5:ヒトctlt-HSCからの成熟RBCのインビトロ産生
ヒトctlt-HSCのインビトロでの成熟RBC産生能を、既知の赤血球系統の表面マーカーを用いて示した。ヒトctlt-HSCを、液体培地(Stemline II培地)中でインキュベートし、EPO及びIL-3で12日間処理した。図5に示すように、EPO及びIL-3を含む培養液の播種10日後にHE染色で分析すると、培養液中に多数の除核細胞が見られた。フローサイトメトリーで除核細胞集団を調べると、赤血球系細胞表面マーカーであるグリコホリンA、CD71、及びCD41を発現している細胞集団が見られた。更に、これらの細胞は、CD45の発現又はその他非赤血球系統マーカーの発現を欠いていた。
【0248】
具体的には、図5Aは、対照マウス末梢血のHE染色を示す。図5Bは、初代ヒト胎児臍帯血のHE染色を示す。図5C、5D、及び5Eは、IL-3及びEPOで12日間処理された3種類の条件的に形質転換された胎児臍帯血細胞株のHE染色を示し、図5Fは、赤血球の形態を示す図5Eの細胞の拡大図を示す。
【0249】
実施例6:ctlt-HSC由来ヒトRBCのインビボ機能解析
インビトロでctlt-HSCから産生されたRBCの機能を、マウスの致死的貧血からの救出能について検査することによって判定した。ヒトRBCを用いたため、これらの実験用に選択されたマウスは、免疫無防備状態のマウスとした。これらの試験には、2種類の系統の免疫無防備状態のマウスを用いた。これら2種類のマウス系統は、このような試験で一般的に使用されている(Hogan et al.,Biol Blood Marrow Transplant 3,236~46,1997)。2種類の系統は、NOD/SCIDマウス及びRag-1-/-/γc-/-マウスである。インビボ機能試験の操作原理は、機能的RBC集団が提供されない場合は、マウスにとって致命的である何らかの貧血状態を誘導することとした。
【0250】
使用したプロトコールの1つは、Hiroyamaのものを適応した(Hiroyama,PloS One 2,e1544,2008参照)。このプロトコールは、インビボで溶血による貧血を誘発するため、フェニルヒドラジンを用いる。その後、処理マウスにRBCを翌日に与えるか、又は、更なる治療は行わない。薬剤の2回目の投与は、4日後に続ける。最初の化学的誘発溶血後に機能的RBCが提供されない場合、2回目の致死的曝露後すぐに動物は死亡する。機能的RBCが提供される場合、マウスは、致死的貧血への曝露から救出される。
【0251】
最初の播種の10日後、本明細書に記載する方法を用いて、10個のヒトRBCをヒトctlt-HSCの集団からインビトロで誘導した。NOD/SCIDマウスのコホートを入手し、0日目に80mg/kgのフェニルヒドラジンで処理した。1日目に、10個のヒトRBCを、尾静脈注入によって処理マウスコホートの半数に移植した。2回目のフェニルヒドラジン曝露は6日目に行った。続いて、2回目のフェニルヒドラジン曝露後9日間、マウスの生存率を観察した。
【0252】
図6に示すように、ctlt-HSC由来ヒトRBCは、化学的に誘発した致死的貧血からマウスを救出することができた。具体的には、フェニルヒドラジン(フェニル)で処理し、ヒトctlt-HSC由来RBCで処理しなかった(ATなし)マウスは約20%のみが生存したが、フェニルヒドラジン(フェニル)及びヒトctlt-HSC由来RBC(AT)の両方で処理したマウスの100%が生存した(図6)。これは、フェニルヒドラジンで処理しなかった野生型マウス(WT)と匹敵した。
【0253】
ctlt-HSC由来ヒトRBCのインビボ機能の検査に使用した別の方法には、RBCのホメオスタシスの評価に通常用いられるプロトコールを含めた。この場合、マウスを十分に出血させた(500μL、又は全血液量の約17%)後、観察のため飼育器内に放置した。しかしながら、正常マウスは、更なる介入がなくてもこの傷害から回復することがわかった。そのため、出血性ショックからのRBC区画の回復を遅らせるため、赤血球系前駆細胞を無能力にする必要があるのは妥当であった。
【0254】
したがって、RBCの回復速度に影響を及ぼすため、免疫無防備状態のマウスを尾から400μL出血させる前に、450ラドの致死量以下で照射した。この場合、1×10個の赤血球系細胞による輸血が尾静脈注入によって提供されない場合、マウスは48時間以内に死亡した。この形態の致死的貧血を、Rag-1-/-/γc-/-マウスコホートにおいて誘発させ、コホートの半数に、1×10個の、本明細書に記載する方法を用いてヒトctlt-HSCの集団からインビトロで誘導された赤血球系細胞を投与した。急性貧血の誘発及び赤血球系細胞の移植後、9日間マウスの生存率を観察した。図7に示すように、インビトロctlt-HSC由来ヒトRBCは、複合的傷害誘発性致死的貧血からRag-1-/-/γc-/-マウスを救出することができた。特に、複合的傷害誘発性致死的貧血を生存したRag-1-/-/γc-/-マウス(外傷ATなし)は約10%のみであったが、ヒトctlt-HSC由来RBCで救出されたマウス(外傷AT)の100%が生存した(図7)。これは、複合的傷害誘発性致死的貧血を受けなった野生型マウス(WT)に匹敵した。
【0255】
実施例7:HSCへのTAT-Myc及びTAT-Bcl-2融合タンパク質の直接的タンパク質形質導入
ctlt-HSC細胞株作製にMYC-ER及び/又はBcl-2-ERを利用する方法に伴うリスクの1つは、宿主細胞のゲノム内へのウイルス配列の不規則な組み込みである。これは、輸血用のRBC調製物中に何らかの有核ctlt-HSCが残り、これらの細胞が投与される患者に望まれないリスクをもたらし得るため、懸念事項である。この実施例に記載する実験は、宿主細胞のゲノム中にウイルス配列を組み込まずに、ctlt-HSC細胞株を作製するための代替方法を示す。
【0256】
遺伝子操作(すなわち、ウイルス形質導入)を行わずに細胞内にタンパク質を導入するため、この代替方法は、HIV-1のTAT(TAT)タンパク質が生体膜を通過し、タンパク質カーゴを細胞内に送達させる能力に依存する(Schwarze et al.,Trend Pharmacol Sci 21,45~8,2000)。MYC又はBcl-2のいずれかと融合したTATフラグメントをコードする、多数のプラスミドを作製した。続いて、プラスミドを細菌細胞内に形質転換し、細胞を対数増殖期中にIPTGで誘導した。この誘導した細胞を3時間後に回収し、タンパク質をニッケルカラムで精製した。続いて、ブラッドフォード法でタンパク質含量について画分を分析し、SDS-PAGEゲルで泳動させてクマシーブルーで染色した(図8)。図8Aに示すように、画分E2~E11はTAT-MYCを含有し、このとき画分E3~E5は最もTAT-MYCを含んでいた。図8Bに示すように、画分E1~E6はTAT-Bcl-2を含有し、このとき画分E2は最もTAT-Bcl-2を含んでいた。
【0257】
MYC-ER及びBcl-2をレトロウイルスによって遺伝子形質導入されていないptlt-HSC細胞株を作製するために、マウスLt-HSCへ直接的に形質導入するTAT-Myc及びTAT-Bcl-2を用いるという考えを検証した。5FUで濃縮したHSCをC57/BL6マウスの骨髄から回収し、組み換えIL-3、IL-6、及びSCFを補充した培地中でインキュベートした。更に、細胞を、低エンドトキシン条件下で調製された、5μg/mLのTAT-MYC及び10μg/mLのTAT-Bcl-2タンパク質の精製組み換え体と共にインキュベートした。培地及びTAT-融合タンパク質を48時間毎に交換し、細胞を21日間培養下で維持した。続いて、一定分量のptlt-HSC細胞株を用いて、フローサイトメトリーによってマウスptlt-HSC細胞株の表現型の特徴を明らかにした。細胞を、幹細胞マーカーであるc-kit及びsca-1、並びに系統マーカーであるCD3、B220、及びTer119に対する抗体で染色した。図9に示すように、これらの培養液中ではc-kit、sca-1、linの細胞集団が優先的に増殖した。これは、初代マウスLt-HSCに見られる表現型(Cheshier et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 96,3120~3125,1999)と類似している。具体的には、77.5%の細胞がc-kitかつsca-1図9B)であり、98.1%がCD3かつB220図9C)であり、99.4%の細胞がTer119図9D)であった。
【0258】
TAT-Myc及びTAT-Bcl-2由来ptlt-HSC細胞株のインビボにおける多能性の特徴を確認するため、致死量以下で照射されたRag-1-/-マウスに10個の細胞を移植した。移植4週間後、静脈穿刺によってレシピエントマウスから末梢血を回収した。続いて、B細胞マーカーであるB220及びIgM、T細胞マーカーであるCD4、CD8、及びTCRβについて、PBMCをフローサイトメトリーによって評価した。染色された細胞を非染色細胞と比較した。図10に示すように、マウスptlt-HSC細胞株を致死量以下で照射されたRag-1-/-マウスに移植すると、リンパ系区画の再構成を引き起こした。具体的には、約10.7%のPBMCがB220かつIgMであり、対して、対照Rag-1-/-マウスでは0%であり(図10B)、約13.5%のPBMCがCD4+かつTCRβであり、対して、対照Rag-1-/-マウスでは約0.09%であり(図10C)、約6.8%のPBMCがCD8かつTCRβであり、対して、対照Rag-1-/-マウスでは約0.011%であった(図10D)。
【0259】
実施例8:TAT-Myc及びTAT-Bcl-2融合タンパク質を形質導入したマウスptlt-HSCからのRBCの発生
ヒトctlt-HSCで観察されたもの(図5)と同様に、TAT-Myc及びTAT-Bcl-2融合タンパク質を形質導入することによって作製されたマウスptlt-HSC細胞株から、成熟した無核のRBCも誘導された。この実験では、IL-3、EPO、及びTAT-MYCの存在下及び非存在下で、マウスptlt-HSCを培養した。培養10日後、細胞分化をHE染色によって評価した(図11)。IL-3、EPO、及びTAT-MYCで処理したマウスptlt-HSCから、高頻度で完全に除核されたマウスRBCが得られ(図11B及び11C)、一方、対照細胞はRBCに分化しない(図11A)ことがわかった。加えて、マウスRBCの特徴をフローサイトメトリーによって明らかにし、グリコホリンAレベルが上昇し、CD71レベルが減少して発現していることがわかった。
【0260】
実施例9:ヒトptlt-HSC由来赤血球の産生
以下の実施例は、ヒトタンパク質を形質導入した長期HSC(ptlt-HSC)細胞株由来のヒトの成熟した除核赤血球のインビトロ産生と特徴を説明する。有利には、ヒト赤血球を、遺伝子操作されたHSC、動物血清、又は動物フィーダー細胞の使用を必要としない培養条件下で、10日間で確実に産生できる。更に、産生された赤血球は完全に分化され、除核された成熟ヒト赤血球は、グリコホリンA(GPA)、並びに減少レベルのCD71及び胎児型ヘモグロビンを発現している。CD71マーカーはトランスフェリン受容体であり、通常は、赤血球(すなわち、赤色血液細胞)の前駆細胞において高レベルで発現しているが、成熟赤血球では下方制御されている。GPAマーカーは、一般に膜成熟の指標として、成熟赤血球において高レベルで発現している。
【0261】
ptlt-HSC細胞株のインビトロ産生及び増殖
遺伝子組み換えされタンパク質を形質導入された条件的不死化造血幹細胞は、以前に説明されている(参考文献)。この実験では、以前に説明されているように、TAT-Myc及びTAT-Bcl-2融合タンパク質によるタンパク質形質導入を用いて、ptlt-HSC細胞株を産生させた。これらの融合タンパク質は、HIV-1のTAT(TAT)タンパク質由来のTATペプチドを含む。
【0262】
地元の臍帯血バンクから1単位のヒト臍帯血を入手した。続いて、細胞をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)で1:1で希釈して、臍帯血から有核細胞集団を単離した。20mLの希釈臍帯血細胞を、20mLのFicoll-Paque Plus(Amersham Biosciences)上にゆっくりと重層する。続いて、細胞を900×gで60分間遠心した。遠心後、ガラス製ピペットでバフィーコートを除去し、PBSで2回洗浄した。続いて、細胞を再懸濁し、15%のヒト血漿、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mLのIL-3、50ng/mLのIL-6、50ng/mLの幹細胞因子、20ng/mLのGM-CSF、20ng/mLのTPO、20ng/mLのFlt3-L、5μg/mLのTAT-MYC、及び5μg/mLのTAT-Bcl-2を補充した、イスコフ改変ダルベッコ培地で培養した。
【0263】
最初の細胞集団(0日)は、0.12%のCD34/CD38loであった。培養3日後、CD34/CD38lo細胞の頻度は1.24%に上昇した(図12A)。培養14日後、45.2%の細胞集団がCD34/CD38loであった(図12B)。更に、培養14日後、細胞の正味の総数が増加した。HSCは、Tat-Myc及びTAT-Bcl-2の存在下で21日間培養して増殖させた後、ある細胞株を形成した。この細胞株を、タンパク質を形質導入した長期HSC(ptlt-HSC)細胞株と表した。続けてこの細胞株を、赤血球(RBC)分化と特徴確認のための細胞源として用いた。
【0264】
インビトロにおけるptlt-HSC由来RBCの産生
続いて、インビトロで産生されたヒトptlt-HSCを用いて、ヒトの除核された成熟RBCを産生させた。このptlt-HSC由来ヒトRBCの特徴を、その後明らかにした。FACS分析を用いて、ヒトグリコホリンA(GPA)、ヒトCD71(トランスフェリン受容体)、及びヒト胎児型ヘモグロビンの発現レベルとパターンを測定した。
【0265】
赤血球分化は、3.2ng/mLのIL-3及び100単位/mLのEPO、並びに15%のヒト血漿及び100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM培地中で、臍帯血由来ptlt-HSCを培養することによって誘導した。続いて、細胞を少なくとも9日間培養した。
【0266】
図13に示すように、ptlt-HSC培養液をRBC分化条件(IL-3及びEPO)に移すと、4日後、細胞はGPA及びCD71を高レベルで発現し始めた。TAT-Myc及びTat-Bcl2を含むが、IL-3及びEPOを欠く培地中で維持された細胞は、これらの変化を示さなかった(図12)。培養液のサンプルを、グリコホリンA(GPA)及びCD71(トランスフェリン受容体)の細胞表面発現のFACS分析に用いた。図13に示すように、IL-3及びEPOの存在下で培養することによってRBC分化プログラムに誘導されたptlt-HSCを、GPA及びCD71の発現について染色し、非染色細胞、並びに、TAT-Myc及びTat-Bcl2を含むが、IL-3及びEPOを欠く中性培地中で培養されたptlt-HSCと比較した。この結果は、IL-3及びEPOと共に培養すると4日目までに、約42%の細胞がCD71/GPA図13C)であり、対して、非染色対照中の細胞では約0.366%がCD71/GPAであり(図13A)、中性培地中で4日間培養された細胞では約0.222%がCD71/GPAであった(図13B)ことを示す。
【0267】
更に、ptlt-HSCを分化培養に移してから9日後、発生したRBCがトランスフェリン受容体(CD71)の発現を低下し始める一方で、表面上のGPAは高レベルのまま保たれていた(図14)。このCD71の発現変化は、培養液中の除核ヒトRBCの頻度上昇と同時に起こった(図14及び15)。細胞を、胎児型ヘモグロビンについても染色した。
【0268】
図14は、発生したRBCがGPA/CD71二重陽性からGPA/CD71loに移行すると、高レベルのヒト胎児型ヘモグロビンから低レベルの胎児型ヘモグロビンの発現に切り替わることも示す。理論に束縛されるものではないが、低レベルの胎児型ヘモグロビンを有するGPA/CD71lo細胞は、対応して高レベルの成人型ヘモグロビンを有すると考えられる。
【0269】
誘導後3つの時点(7日、12日、及び22日)において、RBC分化培養からの細胞のFACS分析を行った。FACS分析では、GPA及びCD71の細胞表面発現を測定した。胎児型及び成人型ヘモグロビンの発現についても細胞を観察した。末梢血から得られた初代ヒトRBCを、陽性対照として用いた(図14;対照上列)。結果は、7日目において、多くのGPA/CD71二重陽性細胞があったことを示す(図14;最初の図、上部)。結果は更に、12日目までに、細胞のほとんどがGPA+/CD71loに変化したことを示す(図14;2番目の図、上部)。12日目の細胞は、高レベルの胎児型ヘモグロビンも発現していた(図14;2番目の図、下部)。分化培地中で22日までに、細胞はGPA+/CD71loのままであるが、胎児型ヘモグロビンの発現レベルは下方制御され、成人型ヘモグロビンの発現は増加していた(図14;3番目の図、上下)。成熟マーカー発現のこれら動的変化は、ヒト及びマウスにおける標準的なRBC分化中に骨髄で見られる変化と一致した。具体的には、誘導培養(IL-3及びEPO)におけるptlt-HSC細胞の培養7日後、約60.9%の細胞がGPA/CD71であり、約1%の細胞がGPA/CD71であり、71.4%の細胞が胎児型ヘモグロビンを発現していた(図14B)。誘導培養(IL-3及びEPO)におけるptlt-HSC細胞の培養22日後、GPA/CD71はGPA/CD71に移行した。対照血液と同様に、76%のGPA陽性細胞が成人型ヘモグロビンを発現し、20.3%のみの細胞が胎児型ヘモグロビンを発現した(図14;2番目及び3番目の図、下列)。
【0270】
更に、培養中の除核(anucleation)組織学的分析を、3日目及び7日目のRBC分化培養サンプルをHEで染色することによって行った(図15)。サイトスピン装置を用いて細胞をスライド上に広げた。次に、スライドをHEで染色し、倒立顕微鏡と光写真を用いて写真を撮った。小さい除核細胞の外観が早くも3日目に観察され(図15A)、7日目までに数が増えた(図15B)。
【0271】
実施例10:ptlt-HSC由来赤血球のスケールアップ産生
以下の実施例は、ヒトptlt-HSC由来RBCのインビトロ産生を、臨床的に意義のある産生レベルにまでスケールアップすることについて説明する。
【0272】
ガス透過性バッグ中でのptlt-HSC由来RBCの産生
ガス透過性バッグを更に用いて、ヒトptlt-HSC由来RBCのインビトロで産生をスケールアップした(図16)。
【0273】
細胞が接する側にテフロン系コーティングを有するガス透過性バッグを、ptlt-HSC由来RBCのインビトロ産生のために最適化した(図16A)。中性条件でインキュベートしたヒトptlt-HSCを、TAT-Myc及びTAT-Bcl-2と共に用いて、ガス透過性バッグ(Origene)中で5日間の培養を開始した。続いて、RBC分化を誘導するために、培養をIL-3及びEPOを含む培地に切り換えた。図16Aに示す写真は、RBC分化培地におけるインキュベート4日後に撮った。図16Bは、ガス透過性培養バッグ中でのRBCの成熟及び除核を示す。図16Aに示すバッグから細胞をサンプリングし、サイトスピン装置を用いてスライドガラスに固定した。次に、スライドをHEで染色し、倒立顕微鏡と光写真を用いて写真を撮った。
【0274】
インビトロptlt-HSC分化培養の連続継代
この実施例は、ptlt-HSCがRBC分化培地中で培養された時間の長さが、RBCをインビトロ産生し続けられる点について説明する。これは、ヒト輸血にとって臨床的に意義のある量のRBC(1011個/単位)を産生するプロセスの開発には、重要な要素である。
【0275】
最初の一連の実験は、インビトロにおける赤血球系分化条件下(すなわち、IL-3及びEPOを含む培養)でのptlt-HSCの連続継代を含む。6ウェルのプレートに、3×10、10、3×10、及び10個の密度でctlt-HSCをプレーティングする。細胞を、10%のヒト血漿、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mLのIL-3、50ng/mLのIL-6、50ng/mLの幹細胞因子、20ng/mLのGM-CSF、20ng/mLのTPO、及び20ng/mLのFlt3-Lを補充した、イスコフ改変ダルベッコ培地で培養する。最初のptlt-HSC集団を、次に、ヒトHSC及び赤血球系マーカー(GPA、CD71、及び胎児型ヘモグロビン)について染色する。成熟RBCの発生について、培養を目視及びFACS分析で観察する。初期培養が樹立して10日後に一定分量の細胞を取り出し、RBCから有核生細胞を分離するため、Ficoll勾配によって遠心する。HSC及び赤血球系統の細胞表面マーカーの発現について、両画分の細胞をFACSで分析する。各10日のサイクルの終了時点で、培養液の分析についても同様の方法を使用する。
【0276】
Ficoll勾配の中間相に存在する有核細胞を、新しいPBS及び培地で洗浄し、同じ条件で再度プレーティングする。一濃度のctlt-HSCから始めて3回連続継代した後に、少なくとも1つのctlt-HSC細胞株が成熟RBCを産生できたことが示された。いくつかの実施形態では、ctlt-HSC株を増殖させ、その後、PTD-Myc存在下で赤血球分化培地に曝露する。約9~28日間で赤血球を分離した後、残存する非赤血球を再度分化培地に入れ、約9~28日間で赤血球を分離する。このプロセスを少なくとも3回繰り返してよく、無期限に継続することが予想される。
【0277】
この結果は、ptlt-HSC由来赤血球系前駆細胞が、2~4回の継代中にRBCを産生し続けることができることを示唆する。
【0278】
培養バイオリアクターシステムにおけるptlt-HSC由来RBCの大規模産生
この実施例は、ptlt-HSCからの成熟した除核ヒトRBCの大規模インビトロ産生に対する、4種類のシステムの検証について説明する。
【0279】
最初に2つのシステムを検証した(細胞培養用に設計された可撓性プラスチック容器及びガス透過性バッグ)。これらのシステムでの結果は、大規模ヒトRBC産生は、組織培養容器の設計変更と、培養条件の修正を行うことにより、最適化できることを示した。
【0280】
多数のRBCの産生においてより効率的な方法を考えるため、ヒトptlt-HSCからのRBCのインビトロ産生について先に記載した一工程プロトコールを、スピナーフラスコ型バイオリアクター(例えば、TAP BiosystemsのAmbrマイクロバイオリアクター、及びATMIのIntegrity PadReactor)、ガス透過性バッグ(Origene system)、ガス透過性組織培養フラスコ(Wilson Wolf G-rex酸素透過性フラスコ)、又は細胞培養用に設計された可撓性プラスチック容器(GE Wave system)に適応させる。これらの実験は、インビトロにおけるptlt-HSCからのヒトRBC大規模産生の実現可能性を判定する。
【0281】
インビトロでヒトptlt-HSCからRBCを産生させるのに用いる基本的なプロトコールは、臍帯血由来HSCを入手することから始まる。細胞をリン酸緩衝生理食塩液(PBS)で1:1で希釈して、臍帯血から有核細胞集団を単離した。20mLの希釈臍帯血細胞を、20mLのFicoll-Paque Plus(Amersham Biosciences)上にゆっくりと重層する。続いて、細胞を900×gで60分間遠心する。遠心後、ガラス製ピペットでバフィーコートを除去し、PBSで2回洗浄する。続いて細胞を、10%のヒトアルブミン、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mLのIL-3、50ng/mLのIL-6、50ng/mLの幹細胞因子、20ng/mLのGM-CSF、20ng/mLのTPO、20ng/mLのFlt3-L、5μg/mLのTAT-MYC、及び5μg/mLのTAT-Bcl2を補充した、イスコフ改変ダルベッコ培地に再懸濁する。細胞を、これらの培養条件下で、CD34+/CD38-集団の所望の濃縮程度、並びに、必要とする総細胞数に応じて12~30日間維持する。培地を15%のヒトアルブミン、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mLのIL-3、及び3.2単位/mLのEPOを補充したDMEMに変更すると、赤血球分化が誘導される。細胞を更に11日間培養する。次に、GPA、CD71、及び胎児型ヘモグロビンに対する抗体を用いて、FACSによって細胞のRBC分化を観察する。HEでの組織染色も行う。
【0282】
インビトロRBC産生用プロトコールを、臍帯血単位由来のヒト造血性細胞を大量に増やすのに以前使用されたスピナーフラスコ系バイオリアクターにおける大規模産生用に適応させる。このシステムは、2種類のスピナーフラスコ型バイオリアクターシステムの使用を含む。まず、Ambrマイクロバイオリアクターシステム(TAP Biosystems)を用いる。これは、古典的なバイオリアクターの特徴を小規模で模倣する、スピナーフラスコ条件下で10~15mLの培養液を持つ装置である。この器具は、ディスポーサブルのマイクロリアクターチャンバを使用し、自動的に制御される。主な利点の1つは、24種類の異なる条件で同時培養が可能なことである(Genetic Engineering and Biotechnology News,Nov 1,2010,Vol.30,N.19)。この方法は、RBC発生のインビボ条件を、バイオリアクター系の構成に素早く最適化かつ適合化させることができる。条件が最適化されると、プロセスが大規模システム(Integrity PadReactor,ATMI)に移される。PadReactorシステムは、ユーザーが異なる容量のバッグ中で細胞を同時に増殖できるドライブユニットと、細胞が増殖しているバッグを支持し、モジュール式の製造スペース内に移動できるモバイルタンクと、並びに、羽根を含み、羽根がバッグ内で回転すると非侵襲的混合が可能な使い捨て細胞用バッグであるバイオリアクター容器と、からなる、使い捨てのバイオリアクターである。このシステムは、剪断力が低い改善された混合をもたらし、懸濁細胞に適用でき、低容量で細胞を増殖できる。
【0283】
ガス透過性バッグ
上記のように、簡素なガス透過性バッグ(Origene)を用いて、RBCをインビトロで産生させた。これらのバッグは、内面にテフロンコーティングを有し、容器の表面積全体からガス交換することもできる。しかしながら、このシステムは、細胞の密度が限界に達すると、継続的に培地交換するように最適化できる。したがって、新たなシステムを、2室型ガス透過性バッグシステムにおいて、培地を連続的に流すことが可能なように設計できる。細胞損失を最小限にすることに加え、このシステムは、培地と廃棄物が外側チャンバを通って流れる連続フローシステムも提供することができる。このシステムは、ptlt-HSCの培養液を、HSC増殖条件からRBC分化条件へ切り換えることもできる。
【0284】
ptlt-HSCを評価し、細胞がデュアルバッグシステムで増殖できるかどうかについて判定する。バッグに、10個のヒトptlt-HSCを播種し、10%のヒトアルブミン、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mLのIL-3、50ng/mLのIL-6、50ng/mLの幹細胞因子、20ng/mLのGM-CSF、20ng/mLのTPO、及び20ng/mLのFlt3-LをTAT-Myc及びTAT-Bcl-2と共に補充したイスコフ改変ダルベッコ培地で維持する。これらは、ptlt-HSC細胞が増殖し、その多能性の維持が可能な中性条件である。続いて10日後、開始ptlt-HSCをヒト幹細胞表面マーカーに対する抗体で染色し、これらの条件下でのptlt-HSCの増殖の程度を判定する。
【0285】
中性条件下でのptlt-HSCの増殖の支持という状況でデュアルバッグを検査した後、デュアルバッグシステムに、RBC産生のためのptlt-HSCを播種する。培地の循環中にRBCが流れ出るのを防ぐため、使用する孔径は、5kDa程度のカットオフとする。デュアルバッグシステムに10個のctlt-HSCを播種し、細胞を、10%のヒトアルブミン、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mLのIL-3、50ng/mLのIL-6、50ng/mLの幹細胞因子、20ng/mLのGM-CSF、20ng/mLのTPO、及び20ng/mLのFlt3-LをTAT-Myc及びTAT-Bcl-2と共に補充したイスコフ改変ダルベッコ培地で培養する。培養3日後、培地を、10%のヒトアルブミン、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、20ng/mLのIL-3、及び50ng/mLのEPOを補充したイスコフ改変ダルベッコ培地に切り替える。3日毎にバイオリアクターからサンプルを採取する。この期間は、サイトカイン含有培地を含む培地の一部を再度満たす必要性によるものである。次に、採取した細胞を、計数、並びに、上記実施例に記載したFACS及び顕微鏡検査によって分析する。RBCの総産出量は、デュアルバッグシステムが細胞増殖を支持すると報告されている期間全体(10~12日間)で判定される。加えて、1日目にカートリッジの播種に使用されたptlt-HSCの最終結末についても判定する。理想的には、RBCを回収でき、更にRBCを産生するために残ったptlt-HSCを新しい培地に再播種できるように、ptlt-HSCは、デュアルバッグシステム中で2~4回の培養サイクルにわたって活性を維持する。患者から得た末梢血からRBCを分離するために現在使用されている連続的遠心分離法を、デュアルバッグシステムで産生したRBCの回収に使用する。
【0286】
可撓性プラスチックバッグ容器
上記のように、細胞培養用に設計された可撓性プラスチックバッグ容器(GE Wave)を用いて、RBCをインビトロで産生させることもできた。しかしながら、最初のptlt-HSC集団の未熟で制御されない分化を減らすために、このシステムを最適化できる。
【0287】
標準的な通気式組織培養フラスコでの静置培養で得られた大量のptlt-HSCを、可撓性プラスチックバッグ容器内に設置されるときにRBC分化培地に移す。除核の割合及びRBC成熟の速度をFACS分析を用いて調べ、CD71、GPA、及び胎児型ヘモグロビンの発現レベルを測定する。更に組織学的分析を用いて、成熟状態を確認する。続いて、可撓性プラスチック容器の内部を、同じ容器内で増殖させRBC分化培地に切り替えた、少量のptlt-HSCでコーティングする。
【0288】
ガス透過性組織培養フラスコ
2種類のバッグ系バイオリアクターシステム、及びスピナーフラスコ装置での実験に加え、ptlt-HSC及びRBCのスケールアップ産生に対してガス透過性組織培養フラスコを検証する。
【0289】
少量のptlt-HSCの臨床的に意義のある量の細胞への拡大産生と、ptlt-HSCのRBCへの制御された分化の両方について、ガス透過性フラスコ(Wilson Wolf)を調べる。全手順を1つのフラスコ内で実施する。フラスコは、既存の装置よりも、細胞を、はるかに酸素及び栄養素に到達しやすくする。更に、フラスコは非常に使いやすい。フラスコは、標準的なインキュベーターにおいて働き、標準的な実験室用装置を使用する。フラスコの底部は、独自のジメチルシリコーンガス透過性膜で作られており、既存のいかなるガス透過性装置よりも良好な酸素透過性をもたらす(Lapteva and ad Ver,Stem Cells Int,Epub 2011,Sep11)。細胞はこのガス透過性膜に引き寄せられ、そこで、既存の装置において可能な深さよりも、非常に深い培地下に沈む。これらの条件下において、細胞は、頻回の栄養供給や培地混合機器による撹乱を受けることなく、酸素及び栄養素を必要に応じて与えられる。
【0290】
実施例11:ヒトptlt-HSC細胞株のインビトロ及びインビボでの特徴
以下の実施例は、実施例9で産生されたヒトptlt-HSC細胞株の表面表現型、並びに、インビトロ及びインビボでの多能性の特徴について説明する。この項で記載される実験は、インビトロでは標準的なメチルセルロース分化アッセイを用いて、インビボでは異種移植マウスモデルを用いて、系統の潜在能を特定する。
【0291】
最低4種のヒトptlt-HSC細胞株を、この実施例で記載の試験に使用する。選択されるヒトptlt-HSC細胞株は、以下の4つの基準をベースに選択される。第1に、細胞株が、初代ヒトLt-HSC(CD34、CD133、CD48、CD150、lin)に似た表面表現型を有していること。第2に、ヒトptlt-HSCが、実施例9に記載の条件下での培養において活発に増殖し、インビトロ増殖において外から追加されるTAT-MYCへの依存性を保持していること。第3に、ヒトptlt-HSCが、凍結保存から素早く回復でき、その一方で表面表現型と増殖特性を維持していること。第4に、1つの細胞株が、臨床的に使用される主な形態のRBCを生じるヒトptlt-HSCパネルを産生するために、A rh-、B rh-、AB rh-、O rh-の遺伝子型のそれぞれから選択されること。
【0292】
以前に説明されているように、10個、10個、又は10個のヒトptlt-HSC細胞株をメチルセルロース分化培地に播種する(Dick et al.,Stem Cells 15 Suppl 1,199~203,1997)。骨髄系統(Dick et al.,Stem Cells 15 Suppl 1,199~203,1997)、骨髄-赤血球系統、又は前B細胞系統(Cheshier et al.,Proc.Natl Acad.Sci.USA 96,3120~3125,1999;及びHogan et al.,Biol Blood Marrow Transplant 3,236~46,1997)に向かってHSC分化を進ませる目的でサイトカインを補充した培地を、特異的に使用する。次に、前駆体頻度の測定値として、コロニー数、形態、及びコロニー発生速度に関してプレートでのコロニー形成を評価する。様々な試験条件のそれぞれにおいて特定のコロニーを生じさせる能力で判定されるとき、多能性であるptlt-HSC細胞株を続いて同定する。
【0293】
問題のptlt-HSC細胞株がインビトロで複数の造血性系統を生じさせる能力があることが証明されると、その多能性をインビボで調べる。続いて、これらのptlt-HSC細胞を、初代ヒトLt-HSCを用いて実施されたように、致死量以下で照射された10例のNOD/SCIDマウスコホートへの移植に使用する(Dick et al.,Stem Cells 15 Suppl 1,199~203,1997;及びHogan et al.,Biol Blood Marrow Transplant 3,236~46,1997)。照射マウスに、実施例9に記載の培養条件で維持された10個のptlt-HSCを移植する。続いて、分析用末梢血サンプルを採取するために、マウスを静脈穿刺によって出血させる。赤血球を溶解し、ヒトCD3及びCD19についてPBMCを染色する。末梢血中にヒトリンパ系細胞が検出されると、マウスをCOによる仮死化と頸椎脱臼により安楽死させる。続いて、マウスからリンパ節、脾臓、胸腺、及び骨髄を回収する。臓器から単一細胞の懸濁液を作り、細胞を、ヒトCD3、CD19、CD4、CD8、Mac-1、Gr-1、及びTer-119に特異的な抗体で染色する。複数系統のヒト造血性細胞の検出によって、ヒトptlt-HSC細胞株の多能性を確認する。2種類の対照を含める。陰性対照には、非操作マウス、つまり、致死量以下で照射され、ヒトptlt-HSC細胞の移植を受けなかったマウスを用いる。陽性対照として、致死量以下で照射され、実施例4で作製したヒトctlt-HSC細胞株を移植されたマウスコホートを用いる。
【0294】
実施例12:ctlt-HSC由来ヒトRBCにおいて発現するヘモグロビンの種類の分析
以下の実施例は、RBCのヘモグロビンの特定の種類(胎児型、成人型など)を決定することによる、実施例9で産生されたヒト赤血球(RBC)の分化状態(例えば、赤血球系統への分化の程度及び発生状態)について説明する。
【0295】
本明細書に記載する方法を用いて実施例11で産生させたヒトRBC中で発現するヘモグロビンの性質を、2つの同様の方法で判定する。まず、ヒトRBCの産生に用いる培養液中に存在するRBC前駆体から、mRNAを得る。加えて、健康な匿名ボランティアから得られた初代ヒトRBCについても、陽性対照として使用する。実施例7に記載するように、IL-3及びEPOを補充したStemline II培地中で、ヒトctlt-HSCをインキュベートする。細胞画分を、48時間毎に10日間採取する。細胞表面表現型及び赤血球系分化マーカーのフローサイトメトリーによる分析に、1つの細胞画分を用いる。細胞をヒトCD71及びGPAについて染色する。サンプル中の残りの細胞を用いて、cDNAを作るためのmRNAを得る。得られたcDNAを、3つのグロビン遺伝子(ヘモグロビンα、β、及びγ)、及び2つのハウスキーピング遺伝子(β-アクチン及びGAPDH)の半定量的RT-PCR(Q-PCR)に対するテンプレートとして用いる。プライマーセットを用いて、胎児型RBC中で通常発現しているヘモグロビン転写物を増幅する。陽性対照からのmRNAも単離する。インビトロでctlt-HSCから産生されたヒトRBC及びその前駆細胞は、成人型グロビン遺伝子を発現していることが期待される。mRNAの結果は、モノクローナル抗体及びFACS分析を用いることによって確認する。
【0296】
以前に説明されているように、ctlt-HSC由来ヒトRBC中のヘモグロビンタンパク質の存在を、パーフュージョンクロマトグラフィ及びHPLCで確認する(Honig et al.,J Biol Chem 265,126~32,1990)。上記のインビトロ培養により得られたRBCを回収し、0.9% NaClで3回洗浄し、その後、9倍量の水に懸濁してサポニンで溶解し、600×gの遠心分離によって清浄化する。以前に説明されているように、MALDI-TOF(マトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法)質量分析計(Bruker Omniflex)を用いてグロビンの質量スペクトルを得る(Honig et al.,Am.J.Hematol 34,199~203,1990)。ZipTipsをMilliporeから購入し、C18及びC4樹脂を充填して、それぞれペプチド及びタンパク質のMS分析のために溶液を調製する。シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸(CHCA)及びシナピン酸(SA)を、それぞれペプチド及びタンパク質のマトリックスとして用いる。一定分量(1.3mL)のマトリックス溶液(0.1% TFAを含む50%アセトニトリル水溶液1mL中、3~10mgのCHCA又はSA)を用いて、ZipTipsからペプチド/タンパク質を溶出し、MALDI-TOFターゲットにスポットする。337nmの窒素レーザーパルスを備える、LC/MS/MSシステム(Agilentシリーズ1200 HPLCモジュール、Agilent HPLC Chipインターフェース、Agilent 6510 Quadrupole飛行時間型質量分析計)を用いて、サンプルを分析する。m/z12362のハトシトクロムc(cyctochrome c)、m/z16952のアポミオグロビン、及びm/z39212のアルドラーゼ(adolase)(ウサギ筋肉)の混合ピークを使用して、外部校正を実施する。
【0297】
胎児型RBCで通常発現しているグロビン遺伝子のmRNAレベルについても調べ、ctlt-HSC由来ヒトRBCで発現しているグロビン遺伝子と比較する。
【0298】
実施例13:ctlt-HSC由来ヒトRBCの酸素結合特性の解析
以下の実施例は、RBCの酸素平衡曲線を測定することによる、実施例9で産生されたヒト赤血球(RBC)で発現しているヘモグロビンタンパク質の機能特性について記載する。
【0299】
酸素平衡曲線は、以前に記載されているようなものである(Honig et al.,Am.J.Hematol 34,199~203,1990;Maurer et al.,Nature 227,388~90,1970;及びLee et al.,Rapid Commun Mass Spectrom 19,2629~35,2005)。使用される方法は、二重波長分光光度計(Hemox analyzed、TCS)を用いる連続法である。RBCを、140mM NaClを含む50mMビス-トリス緩衝液(37℃でpH 7.4)中に懸濁する。1mmの光学セル中の溶液の閃光光分解によって、ヘモグロビンの結合特性を調べる。簡潔にいえば、以前に記載されているように、532nmにおいて10nsのパルスで光分解後、436nmにおいてCOの細胞内ヘモグロビンテトラマーへの再結合速度を解析する(Honig et al.,Am.J.Hematol 34,199~203,1990;Maurer et al.,Nature 227,388~90,1970;及びLee et al.,Rapid Commun Mass Spectrom 19,2629~35,2005)。
【0300】
ctlt-HSC由来ヒトRBCの酸素結合特性も解析する。
【0301】
実施例14:ctlt-HSC由来ヒトRBCの細胞形状と柔軟性の解析
以下の実施例は、RBCの柔軟性を測定することによって、実施例9で産生されたヒト赤血球(RBC)が伸長でき、インビボの微小血管系において機能できるかどうかの判定について記載する。
【0302】
以前に記載されているように、ctlt-HSC由来ヒトRBC及び末梢血から得られた初代RBCの変形性を調べる(Kaul et al.,Am J Physiol Heart Circ Physiol 295,2008)。簡潔にいえば、実施例9に記載のインビトロctlt-HSC培養液、及び健康成人の末梢血から得られたRBC調製物を、白血球除去フィルター(Leucolab LCG2、Macopharma)に通す。次に、除核細胞をektacytometry(ekacytometry)で調べる。RBCを4%ポリビニルピロリドン溶液に懸濁し、続いて、ektacytometer(ektocytometer)(Technicon,Bayer)中で増加する浸透勾配(60~450mosM)に曝す。この設定でのRBCのレーザー回折の変化を記録する。光度測定により、変形性指数(DI)と称されるシグナルが生じる。DI曲線を解析すると、一定で加えられた17Pa(170ダイン/cm2)の剪断応力における、モル浸透圧濃度に応じた細胞膜の動的変形性の測定値が得られる。DIの最大値は細胞の平均表面積に関係する。
【0303】
実施例15:ctlt-HSC由来ヒトRBCの寿命の解析
以下の実施例は、実施例9で産生されたヒト赤血球(RBC)が初代ヒトRBCに相当するかを確認するため、それらの平均未損傷寿命について記載する。初代ヒトRBCの平均寿命は120日間と推定されている。末梢血から採取されたRBCの世代にばらつきがあるため、臨床用途におけるRBC濃縮物の貯蔵寿命は通常28日間である。インビトロでのRBCの同調産生能は、臨床用途においてRBC濃縮物の貯蔵寿命を著しく延長できると考えられる。
【0304】
いくつかの実施形態では、赤血球は、本明細書に記載する方法を用いて7~30日間にわたって産生される。いくつかの実施形態では、本明細書に記載する方法を用いて産生される赤血球は、同日又は同日付近に、例えば、9日、10日、11日、12日、13日、14日、15日、16日、17日、18日、19日、20日、21日、22日、23日、24日、25日、26日、27日、若しくは28日目、又はその付近に回収される。その後、本明細書に記載するものを含む既知の方法を用いて、赤血球の長期間の生存率について評価する。
【0305】
いくつかの実施形態では、赤血球は赤血球保存培地で維持される。いくつかの実施形態では、赤血球保存培地は、Bcl-2、任意にPTD-Bcl-2を更に含む。Bcl-2(任意にPTD-Bcl-2)は、最初にボーラスで供給されてもよく、持続的に供給されてもよく、又は、間欠的に(例えば、24時間毎、48時間毎、72時間毎、96時間毎など)供給されてもよい。供給されるBcl-2の濃度は、0.5μg/mL~100μg/mL、又はそれ以上を含んでよい。いくつかの実施形態では、1μg/mL、5μg/mL、10μg/mL、25μg/mL、又は50μg/mLのBcl-2(任意にTAT-Bcl-2)を保存培地に供給してよい。その後、本明細書に記載するものを含む既知の方法を用いて、赤血球の長期間の生存率について評価する。
【0306】
ctlt-HSC由来ヒトRBCの平均未損傷寿命を判定するため、フローサイトメトリーで定量化でき、測定できる、3つの基準を用いる。第1には、既知の初期数からの減少率を測定するため、ある時間において培養液中に存在する生存RBC数を計数する。第2には、ctlt-HSC由来ヒトRBCの表面上のCD47レベルを測定する。第3には、ctlt-HSC由来ヒトRBCの表面上に露出しているホスファチジルセリン(PS)レベルを測定する。フローサイトメトリーによる方法を用いて3つの基準全てを測定する。ある特定の時点における培養液中に存在する生存除核RBC数を確認するため、前方及び側方錯乱特性を生体染料(LDS-751)と組み合わせて使用する。RBC表面上に存在するCD47レベルは、蛍光色素APCと結合させたモノクローナル抗体を用いて測定する。RBCの表面上に露出しているPSレベルは、以前に記載されるようにアネキシンV-FITCを用いて測定する(Holovati et al.,Transfusion 48,1658~68,2008)。
【0307】
実施例9に記載されるように、IL-3及びEPOの存在下でctlt-HSCの培養液を作る。RBCは、培養8~10日目にまず出現する。ctlt-HSC培養液からRBCを回収し、白血球除去フィルター(Leucolab LCG2、Macopharma)を通す。健康な匿名ドナーから初代ヒトRBCを得る。両細胞をStemline II培地中で培養液とし、培養液を37℃で維持する。一定分量の細胞を更に、RBC濃縮物の保存に通常使用されるクエン酸緩衝液中で4℃にて保存する(Lagerberg et al.,Transfusion 47,2242~9,2007)。各条件を、1010個の細胞を用いて証明する。
【0308】
いずれの供給源からのRBCの未損傷生存率を決定するため、4日毎に一定分量を取り出し、細胞を生体染料(LDS-751)、抗ヒトCD47-APC、及びアネキシンV FITCで染色する。次に、BD FACSCaliburフローサイトメーターを用いて細胞を分析する。特定の条件において生存細胞が残らなくなるか、120日間のうち、最初に来る日まで、継続的に一定分量について分析する。Stemline II培地中37℃にて維持されるRBC培養液は、7日毎に培地を再補充する。
【0309】
実施例16:5-FU処理した骨髄からのRBC分化法の比較
以下の実施例は、マウス骨髄からの赤血球産生について記載する。
【0310】
C57BL/6(Jackson labs # 003548)マウスに、200μLのダルベッコPBS中5mgの5-フルオロウラシル(Genera Medix Cat # NDC10139-063-11)を静脈内投与する。5日後、C57BL/6マウスの脛骨及び大腿骨から骨髄細胞を回収する。
【0311】
回収した骨髄細胞を沈殿させ、5mLの無菌TAC緩衝液(135mM NHCL、17mMトリスpH 7.65)に再懸濁して、赤血球を溶解する。TAC緩衝液中で1~2分間細胞を静置し、続いて、1200RPMで5分間細胞を遠心沈殿する。細胞を25mLのD10培地で洗浄する。細胞ペレットを、10mLのBM培地(90mLの熱失活済みFBS、6mLのペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco Cat# 15140)、6mLのMEM NEAA(Gibco Cat# 11140)、6mLのL-グルタミン(Gibco Cat# 25030)、6mLのHepes(Gibco Cat# 15630)、及び60mLのサイトカイン混合物(IL3、IL6、及びSCF)を含む500mLのDMEMボトル)に再懸濁する。
【0312】
これら再懸濁した細胞を計数し、1ウェル当たり細胞1×10個/培地1mLの密度で24ウェル多穴ディッシュのウェルに播種する。5FU処理がうまくいった場合、未処理マウスでは10×10^6個であるのに対して、各マウスのBM細胞の収率は1~1.2×10^6個であることに留意されたい。
【0313】
培地1mLを含む各ウェルを、20μLのヒト血清アルブミン(Grifols NDC 68516-5216-2)で希釈した5単位のTAT-MYC及び5単位のTAT-Bcl2で処理をする。培地を2日毎に交換し、サイトカイン及びTAT-融合タンパク質を新しくする。14~17日辺りから、Sca-1×cKit集団が培養液中で優勢になり始める。
【0314】
6穴プレートの1ウェル当たり、2×10個のSca-1×cKit細胞を播種する。BM培地をRBC分化培地#1(15%の熱失活済みFBS、10%のIL3含有培地、及び100単位/mLのEPO、100mMのデキサメタゾン、及び25μg/mLのホロトランスフェリン(Holo-Tranferrin)を補充したIMDM)に交換する。検査ウェルを区別するため、次の検査用融合タンパク質、すなわち、5単位/mLのTAT-MYC、5単位/mLのTAT-Bcl-2、又は、5単位/mLのTAT-MYC及び5単位/mLのTAT-Bcl-2の両方を添加する。
【0315】
最初の6日間は、RBC分化培地#1及び融合タンパク質を2日毎に新しくする。次に、RBC培地#1をRBC培地#2(15%の熱失活済みFBS、10%のIL3含有培地、及び100単位/mLのEPO、及び25μg/mLのホロトランスフェリンを補充したIMDM)に交換する。RBCが出現するまで約9~12日間、2日毎にRBC培地#2及び融合タンパク質を交換し続ける。
【0316】
図17に示すように、赤血球分化中のTAT-Mycの添加は(図17C)、未処理対照(図17A)、IL3及びEPOだけでの分化(図17B)、又はIL3及びEPOとTAT-Bcl-2添加(図17D)、又はTAT-Bcl-2とTAT-Mycの組み合わせ(図17E)と比較して、赤血球の産生数と割合の増加につながる。
【0317】
実施例17:マウス赤血球のペイロード
5FU濃縮化骨髄由来HSCを上記のように回収する。マウスを5FUで処理した5日後に細胞を回収し、IL-3、IL-6、SCF、並びにTAT-Myc及びTAT-Bcl-2を含む培養液に入れる。培養の最初の2日間、pMSCV-hCD122-IRES-GFP又はpMSCV-IRES-GFPのうち1つ又は2つ以上を用いて、レトロウイルスによって細胞に形質導入を行う。形質導入後、細胞を、IL-3、IL-6、SCF、TAT-Myc及びTAT-Bcl-2を含む培地中で更に14日間増殖させる。
【0318】
表面のc-kit、sca-1、系統マーカー(B220、CD3、ter-119、Mac-1、Gr-1)レベル、並びにGFP発現及び表面hCD122について、FACSによって細胞の特徴を明らかにする。以前に記載されるように、GFP及びhCD122も発現している増殖したマウスLSK集団を、次に、IL-3、EPO、及び低濃度のTAT-MYCを含む培地を用いるRBC分化条件に切り替える。14~28日後、培養液を連続して観察し、以前に記載されるように、CD71、GPA、成人型及び胎児型ヘモグロビン、並びにGFP及びhCD122の発現の特徴を明らかにする。
【0319】
実施例18:生物学的に活性なTAT-Myc及びTAT-Bcl-2融合タンパク質の作製
非構造化ループドメインを欠いている(Anderson,M.,et al.(1999).Prot Expr.Purif.15,162~70)、HIV-1 TATタンパク質形質導入ドメイン(PTD)と、ヒトMYCのORF又は切断型ヒトBcl-2のいずれかを有する融合タンパク質を作製した。組み換えタンパク質は、V5ペプチドタグ及び6-Hisタグもコードしており、検出及び精製を促進した(図18A)。TAT-MYC融合タンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を、図24に示す。TAT-Bcl-2Δ融合タンパク質のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列を、図25に示す。
【0320】
pTAT-Myc-V5-6×His(Amp)及びpTAT-Bcl2Δ-V5-6×His(Amp):HIVのインフレームTATタンパク質形質導入ドメイン(RKKRRQRRR)をコードするフォワードプライマーを用いて、ヒトcMyc又はヒトBcl2をコードするcDNAのPCR増幅によって、プラスミドを作製した。PCR産物をpET101/D-Topo(Invitrogen)ベクターにクローニングした。Quick Change部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene# 200521-5)を用いて、BCL-2コード配列から非構造化ループ(A.A.#27~80)を取り出した。
【0321】
タンパク質をE.coli内で合成し、均一になるまで精製した。SDS-PAGE電気泳動及びクマシー染色により、我々の実験で用いた最終産物の純度が明らかとなった(図18B)。pTAT-Myc-V5-6×HisでBL21-STAR(DE3)細胞(Invitrogen)を形質転換し、0.5mM IPTGを用いて37℃において3時間、タンパク質を誘導した。細胞を、溶解用緩衝液(8M尿素、100mM NaH2PO4、10mMトリスpH 7.0まで、10mMイミダゾール、pH 7.2)中で溶解した。溶解物を6M尿素で希釈し、450mM NaCl、50mM NaHPO、5mMトリスpH 7.0にした。溶解物を、室温にて1時間、Benzonase(500単位)で処理し、12,000RPMで60分間、遠心分離によって清浄化し、22μMのフィルターを通した。Myc-V5-6×Hisを、GE AKTA purifier 10 FPLCを用いてニッケルアフィニティカラム(GE)で精製した。Myc-V5-6×Hisを、透析用緩衝液(450mM NaCl、50mM NaHPO、5mMトリスpH 7.0、5%グリセロール、1mM DTT)に透析することによってリフォールディングした。精製タンパク質をActiclean Etoxカラム(Sterogen)に通すことによって、エンドトキシンを減少させた。
【0322】
Bcl2Δ-V5-6×Hisタンパク質を上記のように誘導した。細胞を、1Lの誘導タンパク質当たり、500単位のBenzonase、1mMのPMSF、2μg/mLのロイペプチン、0.015単位/mLのアプロチニン、5μMの鶏卵リゾチーム(HEL)を補充した、50mLの溶解用緩衝液(200mM NaCl、200mM KCL、50mM NaHPO、5mMトリスpH 7.0、5%グリセロール、1mM DTT)に溶解し、直ちに氷上に1時間置いた。細胞を、2分間ずつ2回、氷上で超音波処理した(デューティー比=50%、出力=5)。溶解物を、12,000RPMで60分間、遠心分離によって澄明にし、0.22μMのフィルターを通した。Bcl2Δ-V5-6×Hisをニッケルアフィニティカラム(GE)で精製し、上述のようにエンドトキシンを除去した。
【0323】
実施例19:TAT-融合タンパク質の適切な局在性の確認
融合タンパク質は、適切な細胞内区画(図18C)に局在した。NIH 3T3細胞を、6ウェルプレート中でカバーガラス上に播種し、30~40%のコンフルエンスまで増殖した。各ウェルを、10μg/mLのTAT-Myc若しくはTAT-Bcl-2で形質導入し、又は陰性対照として処理しなかった。タンパク質形質導入の2時間後、細胞を、4%パラホルムアルデヒド-PBS中で10分間室温(RT)にて固定した。細胞を、1%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.1% Triton X-100を補充したPBS中で、RTにて3分間透過処理した。V5マウスモノクローナル抗血清(Invitrogen)をPBS-1% BSAで希釈したもの(1:1,000)で、細胞を45分間インキュベートした。細胞を洗浄し、ヤギ抗マウスAlexa 488二次抗体(Invitrogen A21121)と共に30分間インキュベートした。カバーガラスを、50%グリセロールの10μLの液滴と、1μg/mLのHoechstと共に、スライドガラス上に乗せた。Zeiss Imager Z1蛍光顕微鏡で画像を得た。
【0324】
TAT-Mycは、迅速に初代ヒトHSCの核に局在した(図18D)。TAT-融合タンパク質は、HSC中で72時間後に完全に分解される(図18E)。胎児臍帯血細胞に、TAT-Myc及びTat-Bcl2Δを1時間形質導入し、その後3回PBSで洗浄した。形質導入2時間後、5×10個の細胞を回収し、核及び細胞質画分を単離した。続く5日間、24時間毎に細胞(5×10個)を回収した。核及び細胞質タンパク質を、10mM HEPES(pH7.6)、10mM NaCl、3mM CaCl、及び0.5% NP40に細胞を溶解することによって調製した。核を沈殿させ、細胞質を含有する上清画分をトリクロロ酢酸(TCA)と共に沈殿させた。SDS-PAGEに続き、抗V5抗体(Invitrogen)、抗ヒトβ-アクチン(abcam)、及びヤギ抗ウサギIgG-HRP又はヤギ抗マウスIgG-HRP(Santa Cruz Biotechnology)を用いるウエスタンブロットによって検査した。
【0325】
実施例20:ヒト臍帯血由来HSCのTAT-Myc及びTAT-Bcl-2との増殖
地元の臍帯血バンクが廃棄したサンプルから、新鮮な臍帯血細胞を入手した。ヒト細胞を全て匿名化し、IRBの監視を免除した。臍帯血は、O+、O-、A+、A-、B+、B-、及びAB+を含んでおり、これらの全てはほぼ同じ増殖特性を示した。
【0326】
総臍帯量を20mLの一定分量に分け、PBSで1:1に希釈した。希釈した臍帯血(20mL)を、20mLのFicoll-Paque Plus(Amersham Biosciences Cat# 17-1440-03)に静かに重層した。細胞を900×gで60分間遠心した。ガラス製ピペットでバフィーコートを除去し、PBSで2回洗浄した。細胞を、FCB培地(10%のヒト血漿、100単位/mLのペニシリン/ストレプトマイシン、30mLのSCF、IL3及びIL6を含有する培地、並びに、30mLのTPO、FLT3-L、及び上記GM-CSFを含有する培地を補充したイスコフ培地(Gibco))に再懸濁した。胎児臍帯血(FCB)細胞に添加する直前、FCB培地に、5μg/mLの組み換えTAT-Myc、及び10μg/mLの組み換えTAT-Bcl-2を更に補充した。増殖期間中、3日毎に培地を交換した。
【0327】
サイトカイン混合物は、IL3、IL6、TPO、Flt3-L、SCF、及びGM-CSFを含んでおり、これら6つのサイトカインを組み合わせる以前に報告された培地(Suzuki,T.,et al.(2006)Stem Cells 24,2456-65)と、並びに、組み換えTAT-Myc及びTAT-Bcl-2を添加することによって異なっている。インビトロで増殖させたヒトHSCの表面表現型を評価すると、Tat-Myc及びTAT-Bcl-2の存在下で長期間培養した後に、ヒトHSCがその表面特性を維持していることがわかった(図19A)。この条件群は、培養14日間でCD34+細胞の数が86.4倍に上昇し、培養21日間で未分画臍帯血由来のヒトCD34+細胞の数が103.8倍に上昇する結果をもたらした(図19B)。
【0328】
実施例21:TAT-Myc及びTAT-Bcl-2で増殖させたヒトCB HSCは、インビトロ及びインビボで生物学的に活性である
インビトロで増殖させたヒトHSCを、MethoCult Optimum(StemCell Technologies)にプレーティングし、特定のコロニータイプを生じさせる能力について調べた。インビトロで増殖させたヒトHSCは、CFU-G、CFU-M、CFU-GM及びBFU-Eコロニーを生じさせることができる(図19C及び19D)。加えて、Tat-Myc及びTAT-Bcl-2の存在下で増殖したHSCの表面表現型は、培養中保存されていたが、これらの条件下では、コロニー形成単位の量が顕著に濃縮された(図19D)。Tat-Myc及びTAT-Bcl-2の存在下で増殖したCD34+細胞は、新たなBFU-E、CFU-M、CFU-G及びCFU-GMコロニーを生じさせることもできたが、一方、培地のみで培養されたCD34+細胞は新たなコロニーを生じさせなかった(図19E)。
【0329】
インビトロで増殖したヒトCD34+細胞の、インビボで成熟ヒト造血性系統を生じさせる能力を検査する実験のため、レシピエントとしてNOD/SCID/gc-/-マウス(NSG)マウスを使用した。これは、この目的で有用な、確認されたマウスモデルである(Tanaka,S.,et al.(2012).Development of mature and functional human myeloid subsets in hematopoietic stem cell-engrafted NOD/SCID/IL2rgKO mice.J Immunol 188,6145~55.)。
【0330】
胎児臍帯血細胞(FCB)を、投与直前に180ラドの照射を受けたNOD/SCID/gc-/-マウス(NSG)マウス(Jackson Laboratory)に投与した。増殖したFCBをPBSで3回洗浄し、200μLのPBSにおいて尾静脈から投与した。移植8週間後、マウスの尾静脈から出血させ、抗ヒトCD3(hCD3)(Biolegend Cat# 300312)、抗ヒトCD19(hCD19)(Biolegend Cat# 302208)、及び抗ヒトCD45(hCD45)(Biolegend Cat# 304028)を用いて、フローサイトメトリーによって再構成について評価した。
【0331】
1×107個の未分画臍帯血細胞を用いて、NSGキメラマウス中で産生されたヒトCD45+を発現するT及びB細胞が、短時間で成長することが観察された。しかしながら、TAT-Myc及びTAT-Bcl-2と共に14日間培養することによってインビトロで産生された、1×106個のタンパク質を形質導入した長期(ptlt)-HSCを誘導すると、異種キメラNSGマウスにおいてヒトCD45+細胞がより高頻度であるという結果となった。加えて、ヒトCD45+細胞は、移植後20週間までマウスの末梢血中に観察できた(図20A)。ヒトCD45+、CD34+CD38lo HSCは骨髄中に見られ(図20B)、ヒトCD45+/CD3+及びヒトCD45+/CD19+リンパ系細胞は脾臓中に見られ、ヒトCD45+、CD3+リンパ系細胞は異種キメラマウスの胸腺中に見られた。
【0332】
異種キメラNSGマウスの脾臓由来のヒトCD45+CD19+細胞を、CFSEで標識し、ヒトCD40及びIgMに対するモノクローナル抗体で活性化した。72時間目に、フローサイトメトリーでCFSEの希釈について細胞を分析した。図20Cは、異種キメラNSGマウスにおいてインビボで発生したヒトB細胞の増殖特性を示す。
【0333】
異種キメラNSGマウスの骨髄由来のヒトCD45+、CD34+CD38lo HSCを用いて、MethoCult Optimumに播種した。これらの細胞は、MethoCultプレートにおいてコロニーを生じ(図20D)、一部のコロニーは、連続して再プレーティングした後でも観察できた(図20E)。両方の場合においてコロニー数は、TAT-Myc及びTAT-Bcl-2と共に14日間培養されたヒト臍帯血細胞で再構成されたNSGマウスの方が、新鮮な未操作のヒト臍帯血細胞で再構成されたNSGマウスで観察された細胞よりも顕著に高かった。
【0334】
加えて、Tat-Myc及びTAT-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物中において、インビトロで予め増殖させた106個の臍帯血細胞(黒四角)を移植された異種キメラマウスコホートを、骨髄系リンパ系細胞分化について評価した。骨髄細胞(図20F)及び脾臓細胞(図20G)のCD45陽性集団を、CD11b、CD33、CD3、及びCD19の発現について解析した。これら異種キメラマウスの骨髄及び脾臓中で、骨髄系及びリンパ系の両方の細胞において分化が観察された。
【0335】
実施例22:TAT-Myc及びTAT-Bcl-2によるヒトG-CSF動員済み末梢血HSCの増殖
自家HSC移植のためにG-CSF動員を受けた5人の患者の浄化血液1mLから、G-CSF動員細胞を入手した。全てのG-CSFサンプルを再識別し、これらの試験に用いた細胞に関する更なる識別情報を関連付けなかった。10mLのFCB培地に細胞を滴下した。この細胞をFCB培地で2回洗浄し、10mL量中、5μg/mLの組み換えTAT-Myc及び10μg/mLの組み換えTAT-Bcl-2で処理した。細胞(5×10個)を、G-Rex 100細胞増殖用容器(Wilson Wolf Manufacturing)に、製造業者の推奨に従って播種した。
【0336】
この細胞を、サイトカインにTAT-Myc及びTat-Bcl2を加えた培地中で14日間増殖させた。増殖したHSCのFACS特性は、hCD45+、CD34+、CD38hi、CD133+の、異なった細胞集団を示す(図21A)。細胞の増殖速度を図21Bに示す。
【0337】
成人型GCS-Fで動員したHSCの増殖したものを、MethoCult Optimumにプレーティングし、インビトロでの分化能の特徴を確認した。骨髄赤血球分化を支持する培地において通常見られる4種類のコロニータイプが観察され(図21C)、これらのコロニータイプのうち一部は、連続して再プレーティングしても見られた。
【0338】
増殖した成人HSCは、致死量以下で照射されたNSGマウスを再構成することができた。図21Dは、骨髄12週間前に、106個の増殖したG-CSF及びTAT-Myc/TAT-Bcl-2動員HSC(1つ目の図)、又は5×106個の新鮮な未操作臍帯血細胞(2つ目の図)のいずれかを移植されたNSGマウスの骨髄における、CD45+染色のFACS分析を示す。
【0339】
TAT-Myc及びTAT-Bcl-2と共に培養されたG-CSF動員細胞によって作製されたNSG異種キメラマウスを安楽死させ、更なる分析のために骨髄、脾臓及び胸腺を採取した。増殖させた成人HSCで再構成した異種キメラNSGマウス由来のリンパ系器官を分析すると、これらマウスの骨髄(図21E;1つ目の図)中にヒトCD45+、CD34+CD38lo細胞があり、脾臓(図21E;2つ目の図)及び胸腺(図21E;3つ目の図)中にヒトCD45+、CD3+リンパ系細胞があることを示した。これらのデータを合わせると、ヒトG-CSFで動員した成人の血液から得られたHSC集団の増殖に成功できることが示される。
【0340】
Tat-Myc及びTAT-Bcl-2を加えたサイトカイン混合物中においてインビトロで増殖させた、増殖済みの10個のG-CSF動員細胞(黒四角)を移植した異種キメラマウスのコホートを、骨髄系リンパ系細胞分化について評価した。骨髄細胞(図21F)及び脾臓細胞(図21G)のCD45陽性集団を、CD11b、CD33、CD3、及びCD19の発現について解析した。これら異種キメラマウスの骨髄及び脾臓中で、骨髄系及びリンパ系の両方の細胞において分化が観察された。
【0341】
この方法は、現状の方法(Sideri,A.,et al.(2011).Hematologica 96,1213~20.)による平均的な大きさの成人の移植に必要な、十分な数のHSCを産生できる。
【0342】
実施例23:生物学的に活性なMyc融合タンパク質の作製
実施例18に記載されるTAT-Myc融合タンパク質に加え、5種類のMyc融合タンパク質を作製し、同実施例に記載のものと同じ方法を使用して精製した。インフレームN末端PTD-アミノ酸配列を含むフォワードプライマー及び終止コドンを除去したリバースプライマーを用いて、コード領域をPCR増幅することによって、プラスミドを作製した。その後、C末端V5エピトープ及び6×-ヒスチジン精製タグを含む、pET101/D-Topo(Invitrogen)ベクターに、PCR産物をクローニングした。図22Aは、実施例18のTAT-Mycと比較した、Myc融合タンパク質の図式表示を示す。それぞれにおいて、タンパク質形質導入(PTD)を、Mycポリペプチドの前又は後にインフレームで融合する。
【0343】
タンパク質形質導入ドメインは、TAT、EPTD、及びVPRを含んだ。EPTDは、Ho,A.ら(Synthetic protein transduction domains:enhanced transduction potential in vitro and in vivo.Cancer Res.(2001)61:474~477)が選び取った最適化タンパク質形質導入ドメイン(YARAAARQARA)である。VPR形質導入ドメインは、Taguchi,T.ら(Nuclear trafficking of macromolecules by an oligopeptide derived from VPR of human immunodeficiency virus type-1.Biochem.Biophys.Res.Commun.(2004)320(1):18~26)によって同定された。
【0344】
Mycは、実施例1に記載されるポリペプチドのORF、又は、以前Huang,Z.ら(Negative control of the Myc protein by the stress-responsive kinase Pak-2.Mol Cell Biol(2004)24(4):1582~94)によって説明された3AMyc配列のいずれかとした。組み換えタンパク質は、V5ペプチドタグ及び6-Hisタグもコードしており、検出及び精製を促進した(図22A)。
【0345】
実施例24:活性化T細胞の生存アッセイ
実施例23に記載されるMyc融合タンパク質(TAT-Myc、TAT-3AMyc、EPTD-Myc、VPR-Myc、及びMyc-VPR)を、活性化T細胞生死判別アッセイにおいてMycの生物学的活性について調べた(図22B)。C57BL.6j(Jackson)マウスから脾臓を回収し、ワイヤーメッシュを通して機械的に分離した。赤血球を除去し、1μg/mLの抗CD3(2c11)でT細胞を活性化した。細胞を、24ウェル多穴ディッシュに、1mLの培地中1ウェル当たり3×10^6個の細胞をプレーティングした。48時間後、生細胞をFicolクッション上に捕捉して洗浄し、24ウェル多穴ディッシュに、1ウェル当たり1~1.5×10^6個の細胞をプレーティングした。PTD-Mycタンパク質を、T細胞に対して、0.5、1、5、10、25、又は50μg/mLでタイトレーションした。PTD-Mycタンパク質処理48時間後、細胞をフローサイトメトリーによって生存率について評価した(前方×側方錯乱)。図22Bにおいて示されるデータは、25μg/mLタンパク質処理のものである。
【0346】
図22Bに示されるように、TAT-3AMyc以外の調べた構築物は全て、未処理対照よりも48時間後のT細胞の生存率が高かった。しかしながら、実施例1に記載したTAT-MycよりもT細胞の生存率が高い構築物は得られなかった。
【0347】
同様の実験における、様々な濃度におけるTAT-Myc及びTAT-Bcl-2の活性を、以下の表5に示す。C57BL.6j(Jackson)マウスの脾臓由来のT細胞を、1μg/mLの抗CD3(2c11)で活性化する。活性化後(48時間後)、細胞を洗浄して約1~1.5×10個の細胞/ウェルでプレーティングし、融合タンパク質(TAT-Myc又はTAT-Bcl-2)を様々な濃度(0.5、1、5、10、25、又は50μg/mL)で加えた。48時間後、以下の表5に示すように、生細胞の割合をフローサイトメトリー(前方×側方散乱)で決定した。
【0348】
【表5】
【0349】
TAT-Myc及びTAT-Bcl-2の両方で、並びに調べた全ての濃度において、いずれの融合タンパク質も含まずにインキュベートした細胞と比較して、細胞生存率及び/又は増殖が上昇する。
【0350】
同じ方法を用いた別の実験において、図23は、50μg/mLの融合タンパク質で処理した活性化T細胞に関するライブゲートのFACSデータを示し、TAT-Bcl-2及びTAT-Mycを対照(TAT-Cre又は未処理)と比較する。示されるように、TAT-Myc及びTAT-Bcl-2の処理両方によって、T細胞の生存及び/又は増殖を顕著に改善する結果が得られる。
【0351】
実施例25:Bcl-2の評価
3T3細胞に、TAT-Bcl2を1時間形質導入し、その後3回PBSで洗浄した。形質導入2時間後、細胞をトリプシン処理し、数えてから、5×10個を回収した。核及び細胞質画分を単離した。続く5日間、24時間毎に5×10個の細胞を回収した。核及び細胞質タンパク質を、10mM HEPES(pH 7.6)、10mM NaCl、3mM CaCl、及び0.5% NP40に細胞を溶解することによって調製した。核を沈殿させ、細胞質を含有する上清画分をトリクロロ酢酸(TCA)と共に沈殿させた。抗V5抗体(Invitrogen)及びヤギ抗マウスIgG-HRP(Santa Cruz Biotechnology)を用いてウエスタンブロットを調べた。
【0352】
24及び48時間において、細胞質画分中にTAT-Bcl2が観察された。そのシグナルは、形質導入72時間後までに減少し始め、96時間時点では見られなかった。
【0353】
TAT-Bcl2、TAT-Bcl2Δ、EPTD-Bcl2、VPR-Bcl2、VPR-Bcl2Δ、及びVPR-BclXLを発現するプラスミドを作製した。pPTD-Bcl2-V5-6×His(Amp):インフレームPTD(TAT、EPTD又はVPR)タンパク質形質導入ドメインをコードするフォワードプライマーを用いて、ヒトBcl2をコードするcDNAのPCR増幅することによって、プラスミドを作製した。PCR産物をpET101/D-Topo(Invitrogen)ベクターにクローニングした。Bcl2を産生するため、ΔQuick Change部位特異的突然変異誘発キット(Stratagene#200521-5)を用いて、BCL-2コード配列から非構造化ループ(A.A.#27-80)を取り出した。上記PTD-Bcl2と同様の方法であるが、Bcl2ではなくヒトBclXLのcDNAを用いて、VPR-BclXLを作製した。
【0354】
TAT-Bcl-2Δのアミノ酸配列及び核酸配列を図25に示す。
【0355】
実施例26:HSCからの成熟RBCの産生
Dynal CD34陽性選択ビーズを製造業者のプロトコールに従って用いて、CD34+細胞を動員済み末梢血から精製した。CD34+細胞を、15%のヒト血漿、及び100単位/mLのペニシリンストレプトマイシンを補充したイスコフ培地中で、5μg/mLのTAT-MYC及び5μg/mLのTAT-Bcl2と共に37℃で1時間処理した。TAT-Myc及びTat-Bcl2で処理した後、細胞を1200rpmで5分間遠心し、細胞ペレットから培地を除去する。処理した初代CD34+細胞を、RBC培地中にIL3及びEPOサイトカインが存在することによって、HSCから赤血球系細胞に向けて細胞プログラムを転換する、赤血球系分化培地(15%のヒト血漿、100単位/mLのペニシリンストレプトマイシン、100単位/mLのEPO、及び3.2ng/mLのIL3を補充したイスコフ培地)に播種する。
【0356】
精製CD34+細胞をこのような単回ボーラスTAT-Myc及びTat-Bcl2で処理することによって、これらの分化培養を2つの方法で改善する。第1には、TAT-融合タンパク質で処理された初代CD34+細胞は、分化中の生存率の改善を示し、より多くの成熟赤血球の産生をもたらす。第2には、TAT-Myc及びTat-Bcl2で処理され、RBC分化培地に播種された初代CD34+細胞は、別の骨髄系細胞に分化するよりも、赤血球系統に分化することへの傾倒をより示す。
【0357】
TAT-Myc及びTat-Bcl2処理後、CD34+細胞を、24ウェル多穴ディッシュのウェルにおいて、上記RBC分化培地中にウェル当たり5×10^4個の細胞を播種した。細胞を11日間分化させた。6日目及び11日目において、GPA×CD71赤血球系表面マーカーについて細胞を評価した(図26A)。TAT-Myc及びTat-Bcl2処理細胞は、74%及び87.6%のGPA×CD71二重陽性細胞(図26A;それぞれ6日及び11日)によって示されるように、赤血球系細胞に分化する。更に、これらの赤血球系細胞は、78.8%の成人型ヘモグロビンのみを発現する細胞に対して、19.8%の胎児型ヘモグロビンを発現する細胞(図26A;11日、hB×fhBの図)によって示されるように、胎児型ヘモグロビンよりも成人型ヘモグロビンを発現し続ける。
【0358】
10日目において、HE染色のため、分化培養からのサンプルをカバーガラス上にサイトスピンしたものを示す。画像は、10X及び20Xの倍率である(図26B)。中央部に暗く染色される核を欠く、赤く染色された細胞で示される、無核になったヘモグロビンを発現する細胞が見られた(図26B)。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
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図5
図6
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図8
図9
図10
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図15
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図17B
図17C
図17D
図17E
図18A
図18B
図18C
図18D
図18E
図19A
図19B
図19C
図19D
図19E
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図20G
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図21B
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図21D
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図21F
図21G
図22
図23
図24
図25
図26A
図26B
【配列表】
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