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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】有機無機金属化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 209/00 20060101AFI20220330BHJP
   C07C 211/65 20060101ALI20220330BHJP
   C07F 7/24 20060101ALN20220330BHJP
【FI】
C07C209/00
C07C211/65
C07F7/24
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020147235
(22)【出願日】2020-09-02
(62)【分割の表示】P 2017171379の分割
【原出願日】2017-09-06
(65)【公開番号】P2020193226
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2020-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2016173720
(32)【優先日】2016-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】西村 直之
(72)【発明者】
【氏名】東條 正弘
(72)【発明者】
【氏名】竹岡 裕子
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-92294(JP,A)
【文献】特開2015-46582(JP,A)
【文献】特表2015-529982(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121700(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 209/00
C07C 211/65
C07F 7/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオンとアニオンとを含む化合物の製造方法であって、
前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、
前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、
前記有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであって、1以上3以下のアンモニウム基を有し、炭素鎖が直鎖のみである有機分子カチオンAであり、
前記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素アニオンであり、
前記化合物は、層間距離が8Å以上40Å以下であり、式A 2 BX 4 で表される層状ペロブスカイト構造を有する結晶を含み、
前記製造方法は、少なくとも有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化物とを沸点が70℃以下の非プロトン性溶剤に溶解させた溶液から、前記溶剤を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記溶剤の誘電率が30以下である、請求項1に記載の化合物の製造方法。
【請求項3】
カチオンとアニオンとを含む化合物の製造方法であって、
前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、
前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、
前記有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであって、1以上3以下のアンモニウム基を有し、炭素鎖が直鎖のみである有機分子カチオンAであり、
前記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素アニオンであり、
前記化合物は、層間距離が8Å以上40Å以下であり、式A 2 BX 4 で表される層状ペロブスカイト構造を有する結晶を含み、
前記製造方法は、少なくとも有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化物とを沸点が100℃以下、かつ誘電率が30以下である非プロトン性溶剤に溶解させた溶液から、前記溶剤を除去する工程を含む、製造方法。
【請求項4】
前記溶剤がケトンである、請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項5】
前記溶剤がアセトンである、請求項1~4のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項6】
カチオンとアニオンとを含む化合物の製造方法であって、
前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、
前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、
前記有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであって、1以上3以下のアンモニウム基を有し、炭素鎖が直鎖のみである有機分子カチオンAであり、
前記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素アニオンであり、
前記化合物は、層間距離が8Å以上40Å以下であり、式A 2 BX 4 で表される層状ペロブスカイト構造を有する結晶を含み、
前記製造方法は、
前記化合物を形成するための基板を加熱する工程と、
前記加熱した基板に、少なくとも有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化物とを非プロトン性溶剤に溶解させた溶液を塗付する工程と、
前記溶液から前記溶剤を除去する工程と、を含む、製造方法。
【請求項7】
前記基板を加熱する工程における、前記基板の加熱温度が70℃以上110℃以下である、請求項6に記載の化合物の製造方法。
【請求項8】
前記溶剤を除去する工程における前記溶液の温度が、0℃以上110℃以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項9】
前記有機分子カチオンAは、アンモニウム基を有し、前記アンモニウム基と結合する炭素原子以外の炭素原子がパーフルオロアルキル基を構成する有機分子アンモニウムカチオンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、その製造方法、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト構造を有する金属ハロゲン化物が、様々な用途で注目されている
。ペロブスカイト構造を有する化合物は、Aサイト及びBサイトのカチオンと、Xサイト
のアニオンとから構成される。そのような化合物の例として、CH3NH3PbI3を挙げ
ることができ、この例において、AサイトのカチオンはCH3NH3 +に、Bサイトのカチ
オン:Pb2+、XサイトのアニオンはI-に、それぞれ対応する。Bサイトのカチオンは
、Xサイトのアニオンに6配位で結合しており、対称又は非対称な八面体を形成している
。3次元構造のみからなるペロブスカイト構造は、一般式としてABX3等で表される。
また、層構造を有するペロブスカイト構造の化合物、例えば、層構造のみから構成される
ペロブスカイト構造の化合物は、一般式としてA2BX4等で表される。ペロブスカイト構
造を有することで、材料中での電荷の移動や、光などによる励起キャリア(電子や正孔な
ど)の長寿命化に有利であることが知られている。
【0003】
非特許文献1には、CH3NH2・HIと、PbI2とを、沸点が153℃、誘電率が38であるN,N-ジメチルホルムアミド(以降、「DMF」と記す。)溶剤に溶解させた溶液を用いて、不純物が少なく、ペロブスカイト構造のCH3NH3PbI3を調製できることが開示されている。
【0004】
非特許文献2には、アルキルアンモニウムカチオンと、鉛カチオンと、臭素アニオン、又は塩素アニオンから構成される層状ペロブスカイト材料に対して、沸点が57℃、誘電率が21であるアセトンが、溶解度の低い貧溶媒となることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Science 2012, 338, 644.
【文献】Bull. Chem. Soc. Jpn. 2006, 79, 1607.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペロブスカイト構造を有する金属ハロゲン化物は励起子吸収を有することができ、例え
ば室温程度で励起子吸収を有することができると、励起子寿命が比較的長いことを示して
おり、例えば発光材料として有利になる。特に、この励起子吸収がより急峻であると、励
起子寿命がより長いこと、及び/又は、よりエネルギー分布の小さな励起子を有すること
、といった励起子特性に優れていることを示しており、例えば発光材料としてより優れる
ようになる。
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載のCH3NH3PbI3の製造には、沸点の高い溶剤
が用いられている。そこで、低沸点で容易に除去できる溶剤を用いて製造できる化合物が
求められている。
【0008】
非特許文献2に記載の化合物は、アセトンのような沸点の低い溶剤には溶解することが
できない。そこで、容易に除去できる溶剤を用いて製造できる化合物の開発が求められて
いる。
【0009】
さらには、例えば、発光材料として優れる観点から、金属ハロゲン化物の中でも、より
励起子特性に優れる材料の開発が望まれている。
【0010】
本発明は、上記の従来技術が有する課題に鑑みてなされたものであり、容易に除去でき
る溶剤を用いて製造できる、及び/又は、励起子特性に優れる化合物、その製造方法、及
びその使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意研究し実験を重ねた結果、所定の
カチオンと所定のアニオンとを含む化合物とすることにより上記課題が解決できることを
見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0012】
すなわち、本発明は下記のとおりのものである。
[1]カチオンとアニオンとを含む化合物の製造方法であって、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、前記有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであって、1以上3以下のアンモニウム基を有し、炭素鎖が直鎖のみである有機分子カチオンAであり、前記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素アニオンであり、前記化合物は、層間距離が8Å以上40Å以下であり、式A 2 BX 4 で表される層状ペロブスカイト構造を有する結晶を含み、前記製造方法は、少なくとも有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化物とを沸点が70℃以下の非プロトン性溶剤に溶解させた溶液から、前記溶剤を除去する工程を含む、製造方法。
[2]前記溶剤の誘電率が30以下である、[1]に記載の化合物の製造方法。
[3]カチオンとアニオンとを含む化合物の製造方法であって、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、前記有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであって、1以上3以下のアンモニウム基を有し、炭素鎖が直鎖のみである有機分子カチオンAであり、前記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素アニオンであり、前記化合物は、層間距離が8Å以上40Å以下であり、式A 2 BX 4 で表される層状ペロブスカイト構造を有する結晶を含み、前記製造方法は、少なくとも有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化物とを沸点が100℃以下、かつ誘電率が30以下である非プロトン性溶剤に溶解させた溶液から、前記溶剤を除去する工程を含む、製造方法。
[4]前記溶剤がケトンである、[1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
[5]前記溶剤がアセトンである、[1]~[4]のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
[6]カチオンとアニオンとを含む化合物の製造方法であって、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、前記有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであって、1以上3以下のアンモニウム基を有し、炭素鎖が直鎖のみである有機分子カチオンAであり、前記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素アニオンであり、前記化合物は、層間距離が8Å以上40Å以下であり、式A 2 BX 4 で表される層状ペロブスカイト構造を有する結晶を含み、前記製造方法は、前記化合物を形成するための基板を加熱する工程と、前記加熱した基板に、少なくとも有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化物とを非プロトン性溶剤に溶解させた溶液を塗付する工程と、前記溶液から前記溶剤を除去する工程と、を含む、製造方法。
[7]前記基板を加熱する工程における、前記基板の加熱温度が70℃以上110℃以下である、[6]に記載の化合物の製造方法。
[8]前記溶剤を除去する工程における前記溶液の温度が、0℃以上110℃以下である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
[9]前記有機分子カチオンAは、アンモニウム基を有し、前記アンモニウム基と結合する炭素原子以外の炭素原子がパーフルオロアルキル基を構成する有機分子アンモニウムカチオンである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、容易に除去できる溶剤を用いて製造できる、及び/又は、励起子特性
に優れる化合物、その製造方法、及びその使用を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、
詳細に説明する。以下の本実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明を以下
の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる
【0015】
本実施形態の化合物は、カチオンとアニオンとを含む化合物であって、上記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、上記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、その有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであり、上記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素のアニオンである化合物である。このように構成されているため、本実施形態の化合物は、容易に除去できる溶剤を用いて製造でき、及び/又は、励起子特性に優れる。なお、本実施形態における「容易に除去できる溶剤」とは、例えば、該溶剤の沸点が低温(例えば150℃以下。)であることを意味する。これに加えて、該化合物は比較的イオン性の強いカチオンとアニオンとから構成されるために、誘電率の小さい溶剤も、該化合物から容易に除去できる。そのため、誘電率の小さい溶剤は、「容易に除去できる溶剤」として、有利に使用することができる。比較的誘電率の小さな、例えば、30以下の溶剤を用いた際にも、好適に該化合物を製造することができる。容易に除去できる溶剤を該化合物の原料に対する溶剤として用いると、化合物の製造に有利であるだけでなく、化合物のパターニングなどのためのエッチングにも有利とすることができる。また、該化合物は、該溶剤を用いることで、より不純物が少ない、及び/又は、より結晶性が高い化合物とすることもできる。なお、「結晶性が高い」とは、該化合物の結晶子径が大きいこと、及び/又は、該化合物が層状化合物である場合、励起子吸収があることを意味する。特に、その化合物が励起子吸収を有する場合は、その吸収の急峻さが大きいことからも結晶性が高いことを評価することができる。さらに、「励起子特性に優れる」とは、励起子寿命がより長いこと、及び/又は、よりエネルギー分布の小さな励起子を有することなどを示しており、励起子吸収の急峻さが大きいこと(例えば、励起子吸収ピークの半値幅が狭いこと)などから、励起子特性に優れるか否かを判定することができる。
【0016】
(化合物)
本実施形態における化合物は、カチオンとアニオンとを含む化合物であって、上記カチ
オンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンである。該化合物を形成す
るために有利となる観点から、化合物における第14族元素カチオンの含有量は20モル
%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。
また、層状構造の形成に有利となる観点から、上記化合物における第14族元素カチオン
の含有量は80モル%以下が好ましく、75モル%以下がより好ましく、70モル%以下
がさらに好ましく、65モル%以下が特に好ましい。
【0017】
上記第14族元素カチオンとしては、特に限定されないが、例えば、Si4+、Ge2+
Ge4+、Sn2+、Sn4+、及びPb2+が挙げられる。第14族元素カチオンと第17族元
素アニオンとの八面体構造の形成により有利である観点から、第14族元素カチオンは2
価のカチオンであることが好ましく、具体的には、Ge2+、Sn2+又はPb2+が好ましい
。また、酸化に対して比較的安定である観点から、第14族元素カチオンは、Sn2+、又
はPb2+がより好ましく、Pb2+がさらに好ましい。本実施形態においては、第14族元
素カチオンが、錫カチオン及び鉛カチオンの少なくとも一方を含むことが特に好ましく、
錫カチオン又は鉛カチオンであることが極めて好ましい。第14族元素カチオンは1種を
単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0018】
本実施形態における化合物において、カチオンの10モル%以上90モル%以下が、有
機分子カチオンである。なお、本実施形態における「有機分子カチオン」とは、炭素原子
を有する分子カチオンを意味する。容易に除去できる溶剤への溶解度を高めた化合物を形
成する観点から、その化合物に含まれるカチオンの10モル%以上90モル%以下が有機
分子カチオンであることが重要である。同様の観点から、該化合物に含まれる有機分子カ
チオンの量は、化合物に含まれるカチオンの全量に対して、20モル%以上であると好ま
しく、25モル%以上であるとより好ましい、一方、該化合物の形成に有利である観点か
ら、その化合物に含まれる有機分子カチオンの量は、化合物に含まれるカチオンの全量に
対して、80モル%以下であると好ましく、70モル%以下であるとより好ましい。
【0019】
有機分子カチオンは、容易に除去できる溶剤への溶解度を更に高めることのできる化合
物を形成することに有利となる観点から、アンモニウム基を有することが好ましい。該化
合物を形成することにさらに有利となる観点、及び、化合物の結晶性向上にさらに有利と
なる観点から、上記化合物が有するアンモニウム基の数は、1以上3以下であることが好
ましく、1以上2以下であることがより好ましく、1であることが最も好ましい。
【0020】
本実施形態において、有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が
2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAである。
【0021】
有機分子カチオンAのフッ素数が3以上50以下であることにより、化合物調製時に容
易に除去できる溶剤への溶解度を一層高め、該化合物を有利に形成することができる。さ
らに加えて、化合物について、半導体特性の向上、蛍光波長の短波長化、バンドギャップ
の拡大、及び自由電荷生成の促進をさらに有利にすることもできる。容易に除去できる溶
剤への化合物の溶解度をさらに高めることができる観点、半導体特性が向上する観点、バ
ンドギャップを一層大きくできる観点、蛍光波長をより短波長化できる観点、及び自由電
荷生成をさらに促進する観点から、有機分子カチオンAのフッ素数は、5以上であると好
ましく、7以上であるとより好ましい。該化合物の形成にさらに有利である観点から、有
機分子カチオンAのフッ素数は35以下であると好ましく、25以下であるとより好まし
く、15以下であるとさらに好ましい。
【0022】
本実施形態において、有機分子カチオンAの炭素数が2以上30以下であることにより
、有機分子カチオンAが安定となり、容易に除去できる溶剤への化合物の溶解度を一層高
め、該化合物を有利に形成することができる。さらに加えて、化合物について、半導体特
性の向上、蛍光波長の短波長化、バンドギャップの拡大、及び自由電荷生成の促進をさら
に有利にすることもできる。有機分子カチオンA中の正に帯電している部位、特にプロト
ンを生成しやすい官能基、より具体的にはアンモニウム基など、と結合している炭素原子
にフッ素原子が結合している分子は安定に存在することが難しい。そこで、その帯電して
いる部位に結合している炭素原子には、フッ素原子が結合していないことが重要である。
そのために、有機分子カチオンAの炭素数は、特に、炭素数が2以上であることが重要で
ある。より多くフッ素原意を含むことができる観点、容易に除去できる溶剤への化合物の
溶解度をさらに高めることができる観点、半導体特性が向上する観点、バンドギャップを
一層大きくできる観点、蛍光波長をより短波長化できる観点、及び自由電荷生成をさらに
促進する観点から、有機分子カチオンAの炭素数は、3以上であると好ましく、4以上で
あるとより好ましい。
【0023】
また、該化合物の形成に有利である観点から、有機分子カチオンAの炭素数は、20以
下であると好ましく、16以下であるとより好ましく、10以下であるとさらに好ましく
、8以下であるとなおもさらに好ましく、6以下であると特に好ましい。
【0024】
より多くのフッ素原子を含むことができる観点、容易に除去できる溶剤への化合物の溶
解度をさらに高めることができる観点、半導体特性が向上する観点、バンドギャップを一
層大きくできる観点、蛍光波長をより短波長化できる観点、及び自由電荷生成をさらに促
進する観点から、有機分子カチオンの炭素鎖は、環状の構造を有さない(すなわち、炭素
鎖が非環状である。)ことが好ましく、直鎖のみであることがさらに好ましい。ここで、
「直鎖」とは、分岐鎖のない炭素鎖などを含み、芳香環は含まない。より多くのフッ素原
子を含むことができる観点、容易に除去できる溶剤への化合物の溶解度をさらに高めるこ
とができる観点、半導体特性が向上する観点、バンドギャップを一層大きくできる観点、
蛍光波長をより短波長化できる観点、及び自由電荷生成をさらに促進する観点から、有機
分子カチオンは、アンモニウム基と結合する炭素原子以外の炭素原子がパーフルオロアル
キル基を構成する有機分子アンモニウムカチオンであることが好ましい。
【0025】
具体的な有機分子カチオンとしては、特に限定されないが、例えば、エチルアンモニウ
ムカチオン、プロピルアンモニウムカチオン、ブチルアンモニウムカチオン、ペンチルア
ンモニウムカチオン、ヘキシルアンモニウムカチオン、ヘプチルアンモニウムカチオン、
オクチルアンモニウムカチオン、ノニルアンモニウムカチオン、デシルアンモニウムカチ
オン、ジエチルアンモニウムカチオン、ジプロピルアンモニウムカチオン、及びトリエチ
ルアンモニウムカチオン、並びに、これらのカチオンの異性体、における3つ以上の水素
原子をフッ素原子に置換したものが挙げられる。より具体的には、2,2,2-トリフル
オロエチルアンモニウム、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルアンモニウム、
2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアンモニウム、2,2,3,3,4
,4,5,5,5-ノナフルオロペンタアンモニウム、及び2,2,3,3,4,4,5
,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアンモニウムが挙げられ、2,2,3,3
,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアンモニウム、2,2,3,3,4,4,5,5,
5-ノナフルオロペンタアンモニウム、及び2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,
6-ウンデカフルオロヘキサンアンモニウムが好ましい。
【0026】
本実施形態の化合物は、第14族元素カチオン及び有機分子カチオン以外のカチオンを
含んでもよい。そのようなカチオンとしては、例えば、炭素数と窒素数との和が1以上5
以下の有機分子カチオン、及び単一元素カチオンが挙げられ、これらを含むことは、第1
4族元素カチオンに後述のアニオンが6配位することで形成される八面体ネットワーク構
造を、複数層有するペロブスカイト構造を形成することに有利となる。炭素数と窒素数と
の和が1以上5以下の有機分子カチオンとしては、より具体的には、炭素数と窒素との和
が1以上5以下の有機アンモニウムカチオンが挙げられ、さらに具体的には、メチルアン
モニウムカチオン及びホルムアミジウムカチオンが挙げられる。単一元素カチオンの具体
例には、第1族元素カチオンが挙げられ、より具体的には、セシウムカチオンが挙げられ
る。
【0027】
化合物は、そこに含まれるアニオンの全量(100モル%)に対して、第17族元素ア
ニオンを30モル%以上100モル%以下含む。化合物が第17族元素アニオンを30モ
ル%以上100モル%以下含むことは、容易に除去できる溶剤への化合物の溶解度を高め
、該化合物を有利に形成するために重要である。化合物に含まれるアニオンの全量に対す
る第17族元素の含有量は、化合物が異なる種類の第17族元素アニオンを含む場合は、
それらのモル比率の総和である。容易に除去できる溶剤への化合物の溶解度を高め、該化
合物を有利に形成するのにより有利となる観点から、化合物に含まれるアニオンの全量に
対する第17族元素アニオンの含有量は、55モル%以上であることが好ましく、65%
以上であることがより好ましく、80モル%以上であることがさらに好ましい。具体的な
第17族元素アニオンとしては、特に限定されないが、例えば、ヨウ素アニオン、臭素ア
ニオン、及び塩素アニオンが挙げられる。結晶化に有利である観点から、第17族元素ア
ニオンは、ヨウ素アニオン又は臭素アニオンを含むことが好ましい。バンドギャップをよ
り小さくする観点から、第17族元素アニオンは、ヨウ素アニオンを含むことがより好ま
しい。結晶性を向上させる観点から、第17族元素アニオンは、臭素アニオンを含むこと
がより好ましい。第17族元素は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0028】
本実施形態において、化合物は、層構造を有する結晶を含むと好ましく、また、結晶構
造として複数層連なるペロブスカイト構造を含むことが好ましい。本実施形態のペロブス
カイト構造とは、後述の八面体ネットワークの層数が複数であるペロブスカイト構造、及
び層状ペロブスカイト構造、並びにその両方を含む構造を意味する。なお、層状ペロブス
カイト構造とは、結晶構造において層構造を有するペロブスカイト構造を意味する。ペロ
ブスカイト構造を有することで、電荷の移動により有利になる。本実施形態におけるペロ
ブスカイト構造の化合物、例えば層状ペロブスカイト構造とは、A2BX4という一般式で
表され、Aサイト及びBサイトのカチオンと、Xサイトのアニオンとから構成される。そ
のような化合物としては、例えば、(C511CH2NH32PbI4が挙げられる。この
化合物において、AサイトのカチオンはC511CH2NH3 +に、BサイトのカチオンはP
2+に、XサイトのカチオンはI-に、それぞれ対応する。Bサイトのカチオンは、Xサ
イトのアニオンに6配位で結合しており、八面体を形成している。この八面体構造の少な
くとも一部は、隣り合う八面体構造と頂点共有をしている。本実施形態における層状構造
とは、層構造を有する構造を意味し、層構造とは、BサイトのカチオンとXサイトのアニ
オンによる八面体構造が頂点共有していない面を有する構造を指す。化合物は層構造を有
することで、励起子の束縛エネルギーを大きくすることにより有利になる。なお、本実施
形態において、励起子の束縛エネルギーが大きいことは、その化合物について、室温での
励起子吸収が観察されるか否かにより判定することができる。また、本実施形態の化合物
は、励起子の束縛エネルギーが大きいことにより、後述の発光材料などとして、より好適
に利用できる。化合物の励起子の束縛エネルギーについて、化合物の結晶性が高いことに
より、層構造を形成するバリア層による量子閉じ込め効果を顕著にすることができる。よ
って、層構造を有する化合物が室温にて励起子吸収を有すること、すなわち励起子の束縛
エネルギーが大きくなることは、化合物の結晶性が比較的高いことを意味する。また、層
状ペロブスカイト構造とは、層構造を有し、かつ八面体が連なった平面構造(以下、「八
面体平面構造」という。)を有する構造を意味する。さらに、八面体ネットワークとは、
上記八面体平面構造が2層以上重なった構造を意味し、例えば各八面体の5つ以上が頂点
共有している構造である。第14族元素カチオンとアニオンとによる八面体ネットワーク
は、八面体平面構造が2層以上重なった構造であり、例えば各八面体の5つ以上が頂点共
有している構造である。この結晶構造は、X線結晶構造解析や透過型電子顕微鏡像の格子
像などの種々公知の手法により評価することができる。特に、ペロブスカイト構造である
か否かは、PbカチオンとBrアニオンによる八面体が頂点共有している構造において、
Pbカチオンと臭素アニオンとによる面間の回折に由来する、2θ=14~15°の回折
ピークを薄膜のin-planeXRD測定などから検出することで判定できる。
【0029】
本実施形態の化合物がペロブスカイト構造を有する場合、Aサイトは有機分子カチオン
、Bサイトは第14族元素カチオン、Xサイトは第17族元素アニオンであることが好ま
しい。化合物が層構造を有する結晶である場合(例えば層状ペロブスカイト構造を有する
場合)、その層間距離は、層状構造(例えば層状ペロブスカイト構造)の形成により有利
である観点から、8Å以上40Å以下であることが好ましい。本実施形態において、層状
ペロブスカイト構造に含まれる八面体ネットワークの層数が複数層である構造は、八面体
平面構造が2層以上5層以下重なった構造であると好ましい。八面体平面構造が2層以上
5層以下重なった構造を有することで、励起子の束縛エネルギーがより大きく、かつバン
ドギャップがさらに小さく、キャリアの移動に一層有利とすることができる。
【0030】
光励起をさせるための光の発生がより容易である観点から、化合物のバンドギャップは
、5.0eV以下であると好ましく、4.0eV以下であるとより好ましい。一方、光の
透過により有利である観点から、化合物のバンドギャップは、1.0eV以上であると好
ましく、1.5eV以上であるとより好ましい。
【0031】
本実施形態の化合物は、様々な形態をとりうるが、取り扱いがより容易である観点から
、固体粉末や薄膜の形態であることが好ましく、積層構造により有利である観点から、薄
膜の形態であることがより好ましい。
【0032】
化合物の結晶子径は、1nm以上500nm以下であることが好ましい。結晶性向上に
より有利である観点から、結晶子径は5nm以上がより好ましく、10nm以上がさらに
好ましい。凹凸の小さな薄膜とするためにより有利である観点から、結晶子径は200n
m以下が好ましく、100nm以下が好ましい。
【0033】
(化合物の製造方法)
本実施形態の化合物の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、後述する所定
の原料及び溶剤を用い、所定の工程を経るものとすることができる。特に、組成がより均
一な化合物を調製するためには、溶剤を用いて化合物を調製することが望ましく、この溶
剤は容易に除去できる、例えば沸点が低い溶剤であることが望ましい。そのため、本実施
形態の化合物の製造方法は、有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化
物と、沸点が150℃以下の非プロトン性溶剤とを少なくとも含む溶液から、上記溶剤を
除去する工程を含むことが好ましい。容易に除去できる溶剤を化合物の製造方法に適用す
ることで、溶剤除去の工程を簡便にできる観点から、化合物が上述の構成を有することが
重要である。また、該化合物の製造の際に、沸点が150℃以下の非プロトン性溶剤を用
いることにより、該化合物について、不純物をより少なくしたり、結晶性をより高めたり
、束縛エネルギーをより大きくしたりすることができる。
【0034】
本実施形態の化合物は、溶剤を用いない方法、あるいは、溶剤を用いる方法により製造することもできる。溶剤を用いない方法として、以下に限定されないが、例えば、蒸着法及び固相法が挙げられる。組成がより均一な化合物を製造する観点から、本実施形態の化合物は、溶剤を用いる方法、すなわち、化合物の原料を溶剤に溶解させた溶液から、溶剤を除去することで結晶化させる方法で製造することが好ましい。すなわち、本実施形態に係る化合物の製造方法は、上述の所定のカチオンとアニオンとを含む物質を、非プロトン性溶剤に溶解させて溶液を得る工程と、当該溶液から溶剤を除去する工程とを含むことが好ましい。また、溶剤除去の工程を簡便にできる観点から、容易に除去できる溶剤を化合物の製造方法に用いることが好ましい。溶剤の除去がより容易になる観点から、溶剤の沸点は低いことが好ましく、具体的には、150℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることがさらに好ましい。該化合物は比較的イオン性の強いカチオンとアニオンとから構成されるので、より容易に溶剤を除去できる観点から、化合物の製造に用いる溶剤の誘電率は小さいことが好ましく、具体的には、37以下であると好ましく、30以下であるとより好ましく、25以下であるとさらに好ましい。該化合物の前駆体の溶解性に優れる観点から、その溶剤はケトンであることが好ましく、より具体的にはアセトンであると好ましい。
【0035】
本実施形態の化合物の原料としては、該化合物を構成するカチオン元素を含む物質、及
び構成するアニオン元素を含む物質が好ましい。特に、非プロトン性溶剤と、有機分子カ
チオンと、第14族元素カチオンと、第17族元素アニオンとを含む溶液であって、第1
7族元素アニオンと第14族元素カチオンとのモル比(第17族元素アニオン/第14族
元素カチオン)が0.1以上10以下である溶液を調製する工程と、その溶液から溶剤を
除去する工程とを含むことが好ましい。
【0036】
上記化合物は、具体的には、ハロゲン化金属、及び塩基とハロゲン化水素との塩などを
原料とすることが好ましい。上記ハロゲン化金属を構成するハロゲン種は、新IUPAC
の周期表における第17族元素が好ましい。具体的な第17族元素としては、特に限定さ
れないが、例えば、ヨウ素、臭素、及び塩素が挙げられ、化合物の結晶化に有利である観
点から、ヨウ素及び臭素が好ましい。化合物のバンドギャップを小さくするために好まし
い観点から、第17族元素はヨウ素であるとより好ましい。また、結晶性を向上させる観
点から、第17族元素は臭素であるとより好ましい。同様の観点から、ハロゲン化金属は
、第14族元素ハロゲン化物であると好ましく、具体的には、ゲルマニウムハロゲン化物
、錫ハロゲン化物、及び鉛ハロゲン化物が挙げられ、2価の第14族カチオンが安定であ
る観点から、錫ハロゲン化物、及び鉛ハロゲン化物が好ましく、鉛ハロゲン化物がより好
ましい。より具体的には、上記と同様の観点から、ヨウ化鉛及び臭化鉛が好ましい。ハロ
ゲン化金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0037】
上記塩基とハロゲン化水素との塩としては、有機アミン・ハロゲン化水素塩が好ましい
。その具体例としては、以下に限定されないが、2,2,2-トリフルオロエチルアミン
・ヨウ化水素塩、2,2,2-トリフルオロエチルアミン・臭化水素塩、2,2,3,3
,3-ペンタフルオロプロピルアミン・ヨウ化水素塩、2,2,3,3,3-ペンタフル
オロプロピルアミン・臭化水素塩、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルアミン
・塩化水素塩、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアンミン・ヨウ化水
素塩、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアンミン・臭化水素塩、2,
2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアンミン・塩化水素塩、2,2,3,3
,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタアミン・ヨウ化水素塩、2,2,3,3,4
,4,5,5,5-ノナフルオロペンタアミン・臭化水素塩、2,2,3,3,4,4,
5,5,5-ノナフルオロペンタアミン・塩化水素塩、2,2,3,3,4,4,5,5
,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミン・ヨウ化水素塩、2,2,3,3,4,
4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミン・臭化水素塩、及び、2,2
,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミン・塩化水素塩
が挙げられる。これらの中では、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルア
ミン・ヨウ化水素塩、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアミン・臭化
水素塩、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアンミン・塩化水素塩、2
,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタアミン・ヨウ化水素塩、2,2
,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタアミン・臭化水素塩、2,2,3,
3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタアミン・塩化水素塩、2,2,3,3,4
,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミン・ヨウ化水素塩、2,2,
3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミン・臭化水素塩、
及び2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミン・
塩化水素塩が好ましく、2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアミン・臭
化水素塩、2,2,3,3,4,4,5,5,5-ノナフルオロペンタアミン・臭化水素
塩、及び2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミ
ン・臭化水素塩がより好ましい。塩基とハロゲン化水素との塩は1種を単独で又は2種以
上を組み合わせて用いられる。
【0038】
上記溶液には、化合物に含まれる有機分子カチオンと、第14族元素カチオンと、第1
7族元素アニオンとが含まれることが好ましい。第17族元素アニオンと、第14族元素
カチオンとのモル比(第17族元素カチオン/第14族元素カチオン)は、0.1以上1
0以下であると好ましく、0.5以上8以下であるとより好ましく、1以上5以下である
とさらに好ましい。本実施形態の化合物の製造方法は、上記のように調製された溶液から
溶剤を除去する工程をさらに有することがとりわけ好ましい。上記溶液から溶剤を除去す
る工程としては、特に限定されないが、例えば、室温にて若しくは加熱により溶剤を蒸発
除去する工程、並びに、貧溶媒との接触や混合により、良溶媒である溶剤を除去する工程
が挙げられる。
【0039】
該化合物を製造するための原料の固定化、例えば薄膜の形態の化合物の製造方法として
は、以下に限定されないが、例えば、溶液を基板に塗布するスピンコート法及びスプレー
法が挙げられる。また、塗布した後の塗膜において液相反応をさせる液相反応法を採用し
てもよい。溶液の引火などの危険性がより少ない、及び/又は、調製方法の調整がより容
易である観点から、スピンコート法が好ましい。また、貧溶媒を用いて、過剰な溶媒の除
去や、核生成を促進することもできる。
【0040】
該化合物を製造するときの温度、特に溶剤を除去する工程における溶液の温度は、0℃
以上110℃以下であると好ましい。この温度が0℃以上であると、溶剤の除去がより容
易となり、110℃以下であると、加熱により消費されるエネルギーをより少なくするこ
とができる。より小さなエネルギーで該化合物を製造できる観点から、該化合物を製造す
るときの温度、特に溶剤を除去する工程における温度は、80℃以下であるとより好まし
く、50℃以下であるとさらに好ましい。一方、本実施形態の化合物をより高い収率で得
る観点から、溶媒を除去する工程における温度は、室温以上であると好ましく、具体的に
は20℃以上であると好ましく、40℃を超えるとより好ましく、45℃以上であるとさ
らに好ましい。上記温度の調整方法としては、例えば、溶液を基板に塗布する場合に、塗
布前に予め基板を加熱しておく方法、並びに、塗布した後の塗膜を加熱する方法(基板を
加熱することによって塗膜を加熱する方法、塗膜に直接温風を当てる方法、塗膜を輻射熱
により加熱する方法など)が挙げられる。
【0041】
該化合物を製造するときの雰囲気は、特に限定されず、例えば、大気中や不活性雰囲気
中であってもよいが、より簡便に化合物を調製できる観点から、大気中で化合物を調製す
ることが好ましい。また、化合物の純度を更に高くできる観点から、不活性雰囲気中で化
合物を調製することが好ましい。
【0042】
(用途)
本実施形態の化合物は、半導体材料として利用することができる。本実施形態における
半導体材料としては、例えば、バンドギャップが2eV以下である材料が挙げられる。
【0043】
本実施形態の化合物は、他の用途に用いることもできる。具体的には、電子若しくは正
孔又はイオンを伝導する材料、光吸収による光励起キャリアの生成を利用する材料、及び
その再結合による発光を利用する材料が挙げられる。より具体的には、発光材料、太陽電
池材料、太陽電池の光吸収層、光センサー、光触媒、イオン伝導材料、導電性材料、圧電
素子、及びパワーデバイスが挙げられる。本実施形態でのイオンとは、該材料を構成する
カチオン又はアニオンのことを指す。該化合物は、励起子の束縛エネルギーがより大きい
観点から、発光材料としての使用が好ましい。化合物は太陽光に含まれる波長の光を吸収
できる観点から、太陽電池の光吸収層用の化合物であることが好ましい。さらに、特定波
長の光を利用できる観点から、化合物は、光センサーとして利用することが好ましい。
【0044】
本実施形態の化合物は、優れた発光特性を有するため、該化合物を含む発光素子などに
適用することが好ましい。本実施形態の化合物は、発光のストークスシフトを小さくでき
る、発光量子収率を大きくできるなどの特徴と相俟って、好適に発光材料として使用でき
る。
【0045】
本実施形態の化合物は、優れた光吸収特性を有するため、太陽電池セルに含ませると好ましく、特に、太陽電池セルに備えられる光吸収層が該化合物を含むと好まし。このような化合物の使用によると、さらに、光電流密度、開放電圧、及びフィルファクターの少なくとも一つを向上させることで、当該化合物が有する光吸収特性と相俟って太陽光変換効率を向上させることができる。
以上本願明細書で開示する発明は下記のとおりのものである。
[1]カチオンとアニオンとを含む化合物であって、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が第14族元素カチオンであり、前記カチオンの10モル%以上90モル%以下が有機分子カチオンであり、前記有機分子カチオンの1モル%以上100モル%以下が、炭素数が2以上30以下、かつフッ素数が3以上50以下の有機分子カチオンAであり、前記アニオンの30モル%以上100モル%以下が第17族元素アニオンである、化合物。
[2]前記カチオンの20モル%以上70モル%以下が、前記有機分子カチオンである、[1]に記載の化合物。
[3]前記有機分子カチオンAのフッ素数が3以上20以下である、[1]又は[2]に記載の化合物。
[4]前記有機分子カチオンAの炭素数が2以上16以下である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の化合物。
[5]前記有機分子カチオンがアンモニウム基を有する、[1]~[4]のいずれか1つに記載の化合物。
[6]前記有機分子カチオンの前記アンモニウム基の数が1以上3以下である、[5]に記載の化合物。
[7]前記有機分子カチオンは、前記アンモニウム基と結合する炭素原子以外の炭素原子がパーフルオロアルキル基を構成する有機分子アンモニウムカチオンである、[5]又は[6]に記載の化合物。
[8]前記有機分子カチオンの炭素鎖が非環状である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の化合物。
[9]前記有機分子カチオンの炭素鎖が直鎖のみである、[1]~[8]のいずれか1つに記載の化合物。
[10]前記カチオンの20モル%以上70モル%以下が、前記第14族元素カチオンである、[1]~[9]のいずれか1つに記載の化合物。
[11]前記第14族元素カチオンが、錫カチオン又は鉛カチオンである、[1]~[10]のいずれか1つに記載の化合物。
[12]前記アニオンの55モル%以上100モル%以下が、前記第17族元素アニオンである、[1]~[11]のいずれか1つに記載の化合物。
[13]前記アニオンが、塩素アニオン、臭素アニオン及びヨウ素アニオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアニオンを含む、[1]~[12]のいずれか1つに記載の化合物。
[14]層構造を有する結晶を含む、[1]~[13]のいずれか1つに記載の化合物。
[15]前記層構造の層間距離が8Å以上40Å以下である、[1]~[14]のいずれか1つに記載の化合物。
[16]結晶構造がペロブスカイト構造である結晶を含む、[15]に記載の化合物。
[17]薄膜の形態である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の化合物。
[18]固体粉体の形態である、[1]~[16]のいずれか1つに記載の化合物。
[19][1]~[18]のいずれか1つに記載の化合物の製造方法であって、有機アミン・ハロゲン化水素塩と、第14族元素ハロゲン化物と、沸点が150℃以下の非プロトン性溶剤と、を少なくとも含む溶液から、前記溶剤を除去する工程を含む、製造方法。
[20]前記溶剤の誘電率が30以下である、[19]に記載の化合物の製造方法。
[21]前記溶剤がケトンである、[19]又は[20]に記載の化合物の製造方法。
[22]前記溶剤がアセトンである、[19]~[21]のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
[23]前記溶剤を除去する工程における前記溶液の温度が、0℃以上110℃以下である、[19]~[22]のいずれか1つに記載の化合物の製造方法。
[24][1]~[18]のいずれか1つに記載の化合物の半導体材料としての使用。
[25][1]~[18]のいずれか1つに記載の化合物の発光材料としての使用。
[26][1]~[18]のいずれか1つに記載の化合物の太陽電池材料としての使用。
[27][1]~[18]のいずれか1つに記載の化合物の太陽電池の光吸収層としての使用。
[28][1]~[18]のいずれか1つに記載の化合物の光センサーとしての使用。
【実施例1】
【0046】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本実施形態をさらに具体的に説明するが、本
実施形態はその要旨を超えない限り、これらの実施例と比較例によって何ら限定されるも
のではない。後述する実施例及び比較例における各種物性及び反応条件は、以下に示す方
法により測定及び設定した。
【0047】
(結晶構造)
化合物の結晶構造は、X線回折装置(製品名「SmartLab」、リガク社製)を用
いて測定したCuα線によるX線回折(XRD)パターンから評価した。層構造を有する
か否かの判定は、該化合物のXRDパターンに、2θ=11°(d=8Å)よりも低角度
の回折ピークを有する場合は層構造が存在するとして「○」と判定し、そのような回折ピ
ークを有しない場合は層構造が存在しないとして「×」と判定し、その低角度のピークの
回折角から層間距離を求めた。結晶子径は、層構造に由来する回折ピークの半値幅からシ
ェラー式により算出することで求めた。
【0048】
(化合物の組成)
溶剤に原料が目視で完全に溶解した場合は、薄膜を調製し、その薄膜のXRDから化合
物の組成を同定した。溶剤に原料が完全に溶解しなかった場合は、化合物を×と表記した
【0049】
(生成物)
化合物のXRDパターンにおける、回折ピークの一番大きな材料を主生成物と判断して
その組成を表記し、該化合物と異なる材料が回折ピークの一番大きな材料である場合は、
「混合物」と表記した。
【0050】
(励起子吸収)
励起子吸収の評価は、該化合物の室温における吸収スペクトルを紫外可視近赤外分光計
(製品名「UV-PC3100」、SHIMADZU社製)を用いて測定し、その吸収ス
ペクトルが励起子吸収を有するか否かにより、判定した。励起子吸収を有する場合を「○
」、有しない場合を「×」とした。室温にて励起子吸収を有する場合は励起子の束縛エネ
ルギーが大きく、有しない場合は励起子の束縛エネルギーが小さいことを意味する。また
、一部の実施例及び比較例では、この励起子吸収の半値幅も算出し、励起子特性の指標と
した。
【0051】
(加熱温度)
一部の実施例及び比較例では、スピンコートの前の基板又はスピンコート後の塗膜を加
熱することがあり、以下、スピンコート後の塗膜を加熱することを「後加熱」、後加熱時
に塗膜に加えた最も高い温度を「後加熱温度」、スピンコート前に基板を加熱した際の基
板の温度を、「基板加熱温度」とした。
【0052】
下記に示すとおり、実施例1~2、参考例3~5及び比較例1~2に係る薄膜を調製し、その物性を評価した。
【0053】
(実施例1)
溶剤としてアセトンを用い、これに2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチ
ルアミン・臭化水素塩と、臭化鉛とを、それぞれ0.266M及び0.133Mとなるよ
うに溶解させて、溶液1を得た。基板として石英板を用い、溶液1をその基板に100μ
L滴下した。その後、2000rpmで30秒間スピンコートし、25℃にて60分間乾
燥させて溶剤を除去することで基板上に薄膜サンプルを得た。サンプルの結晶構造及び吸
収スペクトルを評価した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例2)
溶剤としてアセトンを用い、これに2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウ
ンデカフルオロヘキサンアミン・臭化水素塩と、臭化鉛とを、それぞれ0.266M及び
0.133Mとなるように溶解させて、溶液2を得た。溶液1に代えて溶液2を用いた以
外は実施例1と同様に操作を行い、薄膜サンプルを得た。評価した結果を表1に示す。
【0055】
参考例3)
溶剤としてDMFを用い、これに2,2,3,3,4,4,4-ヘプタフルオロブチルアミン・臭化水素塩と、臭化鉛とを、それぞれ0.266M及び0.133Mとなるように溶解させて、溶液3を得た。溶液1に代えて溶液3を用い、スピンコート後の塗膜の乾燥条件(後加熱条件)を、25℃にて60分間から40℃の後加熱温度(基板を加熱した際の塗膜の温度)にて5分間に変更した以外は実施例1と同様に操作を行い、薄膜サンプルを得た。評価した結果を表1に示す。
【0056】
参考例4)
スピンコート後の塗膜の後加熱温度を40℃から120℃に変更した以外は参考例3と同様に操作を行い、薄膜サンプルを得た。評価した結果を表1に示す。
【0057】
参考例5)
溶剤としてDMFを用い、これに2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6-ウンデカフルオロヘキサンアミン・臭化水素塩と、臭化鉛とを、それぞれ0.266M及び0.133Mとなるように溶解させて、溶液4を得た。溶液1に代えて溶液4を用いた以外は実施例1と同様に操作を行い、薄膜サンプルを得た。評価した結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
溶剤としてアセトンを用い、これにノルマルブチルアニオン・臭化水素塩と、臭化鉛と
を、それぞれ0.266M及び0.133Mとなるように混合して試料5を得た。原料は
溶剤に完全には溶解しなかった。評価した結果を表1に示す。
【0059】
(比較例2)
溶剤としてアセトンを用い、これにノルマルヘキシルアニオン・臭化水素塩と、臭化鉛
とを、それぞれ0.266M及び0.133Mとなるように混合して試料6を得た。原料
は溶剤に完全には溶解しなかった。評価した結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例1~2及び参考例3~5の結果から、本実施形態の化合物は、層間距離が8Å以上の層構造を有する化合物であることが分かった。
【0062】
実施例1及び2と比較例1及び2とを比較すると、沸点が低く誘電率の小さなアセトン
を溶剤として試料を調製した際に、比較例1及び2における原料は溶解せず、溶液を調製
できなかった。この結果から、本実施形態の化合物は、除去が容易な溶剤を用いて調製で
きる化合物であることが分かった。
【0063】
参考例3~5の結果から、沸点が高く誘電率の大きなDMF溶剤を用いても、本実施形態の化合物の調製が可能であることが分かった。また、試料の加熱温度が40℃以下の参考例3及び5では、主生成物が不純物となり、試料の後加熱温度が120℃の参考例4では、本実施形態の化合物が主生成物となった。これらのことから、沸点が高く誘電率の大きな溶剤を用いる場合、主生成物として本実施形態の化合物を製造するためには、比較的高温での加熱を必要とすることが分かった。
【0064】
実施例1及び2と参考例3~5とを比較すると、実施例1及び2のみに励起子吸収がみられたことから、沸点が低く誘電率の小さな溶剤を用いることで、量子閉じ込めに十分な結晶性の層状化合物を得ることができ、特に、発光材料などとして好適に用いることが可能であることが示された。
【0065】
(実施例6)
溶剤としてDMFを用い、2,2,3,3,3-テトラフルオロプロピルアミン・臭化
水素塩と、臭化鉛とを、それぞれ0.266M及び0.133Mとなるように溶解させて
、溶液7を得た。溶液1に代えて溶液7を用い、基板をスピンコート前に70℃に加熱し
た以外は実施例1と同様に操作を行い、薄膜サンプルを得た。評価した結果を表2に示す
【0066】
(比較例3)
溶剤としてDMFを用い、ノルマルプロピルアミン・臭化水素塩と、臭化鉛とを、それ
ぞれ0.266M及び0.133Mとなるように溶解させて、溶液8を得た。溶液1に代
えて溶液8を用いた以外は実施例6と同様に操作を行い、薄膜サンプルを得た。評価した
結果を表2に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
実施例6の結果から、本実施形態の化合物は、層間距離が8Å以上の層構造を有する化
合物であることが分かった。
【0069】
実施例6と比較例3の結果を比較すると、実施例6の方が比較例3よりも、小さな励起
子吸収の半値幅を示した。このことから、本実施形態の化合物は、優れた励起子特性、す
なわち励起子寿命がより長い、及び/又は、よりエネルギー分布の小さな励起子を有する
ことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によると、容易に除去できる溶剤を用いて製造できる化合物を提供でき、その化
合物は、半導体材料、より具体的には、発光材料、太陽電池の光吸収層などの太陽電池材
料等の分野に産業上の利用可能性がある。