IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ベーイプシロンカー ヘミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフトゥングの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】層状ケイ酸塩の層剥離方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/44 20060101AFI20220330BHJP
【FI】
C01B33/44
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020542779
(86)(22)【出願日】2019-02-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-27
(86)【国際出願番号】 EP2019052625
(87)【国際公開番号】W WO2019154757
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-10-07
(31)【優先権主張番号】18155816.4
(32)【優先日】2018-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】598067245
【氏名又は名称】ベーイプシロンカー ヘミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクター ハフトゥング
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】特許業務法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ダーブ マティアス
(72)【発明者】
【氏名】ブロイ ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】エデンハーター アンドレアス
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-517215(JP,A)
【文献】特開2000-026655(JP,A)
【文献】特開2003-104719(JP,A)
【文献】特許第5024783(JP,B2)
【文献】特開2004-196654(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第1508194(CN,A)
【文献】XIAOYING Wang et al,Novel glucosamine hydrochloride-rectorite nanocomposites with antioxidant and anti-ultraviolet activity,Nanotechnology,2012年,23, 495706
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第1工程で
a.層状ケイ酸塩を、
b.層剥離剤
で処理し、
(B)第2工程で、
第1工程で得られたこうして処理された層状ケイ酸塩を水性媒体と接触させる、水性媒体中での層状ケイ酸塩の層剥離方法であって、
前記層剥離剤は、
i.確に1個の正に荷電した窒素原子を有する化合物であり、
ii.ヒドロキシル基、エーテル基およびカルボン酸エステル基からなる群から選択されるn個の官能基を含み、ここで、nは3~10の数であり、
iii.4個~12個である炭素原子の総数nを含み、
iv.1~2の比n/(1+n)を有し、ここで、nは前記層剥離剤の炭素原子の総数であり、nはii.で規定された前記層剥離剤における官能基の総数であり、
v.炭素、窒素、リン、酸素および硫黄からなる群から選択されるn個の原子を含み、ここで、nは9以上であり、かつ
前記層剥離剤は、前記層状ケイ酸塩を処理するために、前記層状ケイ酸塩のカチオン交換容量と少なくとも等しい量で使用されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記層状ケイ酸塩は、合成または天然に存在する2:1型粘土鉱物であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記層状ケイ酸塩は、スメクタイトまたはバーミキュライトであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記層状ケイ酸塩は、一般式(I)
[MLc/原子価inter[M II octa[MIII tetra10 (I)
(式中、
Mは、酸化状態1~3の金属カチオンであり、
は、酸化状態2または3の金属カチオンであり、
IIは、酸化状態1または2の金属カチオンであり、
IIIは、酸化状態4の原子であり、
Xは、二価アニオンであり、
Yは、一価アニオンであり、
mは、酸化状態3の金属原子Mの場合は2.0以下であり、
mは、酸化状態2の金属原子Mの場合は3.0以下であり、かつ
oは、1.0以下である)によって表されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
Mは、独立して、Li、NaおよびMg2+からなる群から選択され、
は、独立して、Mg2+、Al3+、Fe2+およびFe3+からなる群から選択され、
IIは、独立して、LiおよびMg2+からなる群から選択され、
IIIは、四価のケイ素カチオンであり、
Xは、O2-であり、
Yは、独立して、OHおよびFからなる群から選択され、かつ
層電荷L、0.28以上で0.95以下である
ことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記層剥離剤は、
ii.ヒドロキシル基、エーテル基およびカルボン酸エステル基からなる群から選択されるn個の官能基を含み、ここで、nは3~8の数であり、および/または
iii.4個~10個である炭素原子の総数nを含み、および/または
iv.1~1.8の比n/(1+n)を有し、ここで、nは前記層剥離剤の炭素原子の総数であり、nはii.で規定された前記層剥離剤における官能基の総数であり、および/または
v.炭素、窒素、リン、酸素および硫黄からなる群から選択されるn個の原子を含み、ここで、nは10以上であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記層剥離剤は、
i.正確に1個の正に荷電した窒素原子を有する化合物であり、および/または
ii.ヒドロキシル基およびエーテル基からなる群から選択されるn個の官能基を含み、ここで、nは3~6の数であり、および/または
iii.5個~9個である炭素原子の総数nを含み、および/または
iv.1~1.5の比n/(1+n)を有し、ここで、nは前記層剥離剤の炭素原子の総数であり、nはii.で規定された前記層剥離剤における官能基の総数であり、および/または
v.炭素、窒素、リン、酸素および硫黄からなる群から選択されるn個の原子を含み、ここで、nは11以上であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1工程において、前記層状ケイ酸塩は前記層剥離剤の水溶液で処理され、ここで、前記水溶液中の前記層剥離剤の濃度は、前記第1工程における前記層状ケイ酸塩の層剥離を防ぐのに十分に高いことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液中の前記層剥離剤の濃度は、0.2mol/L~2mol/Lの範囲内であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記層剥離剤を含む前記水溶液中の前記層状ケイ酸塩の濃度は、1g/L~50g/Lの範囲内であることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2工程において、前記水性媒体は、前記第1工程で処理される前記層状ケイ酸塩の層剥離を引き起こすのに十分に低いイオン強度を有することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第2工程における前記水性媒体は、水であることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の方法により得られる層剥離された層状ケイ酸塩。
【請求項14】
複合材料、コーティング材料の製造における、または耐炎性バリアもしくは拡散バリアとしての、請求項13に規定される層剥離された層状ケイ酸塩の使用。
【請求項15】
請求項13に規定される層剥離された層状ケイ酸塩を含む、コーティング材料および複合材料からなる群から選択される組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性環境における層状ケイ酸塩の層剥離方法、こうして生成された生成物、および様々な物品のための拡散バリア材料または耐炎性バリア材料等のバリア材料としての、特に複合材料におけるこれらの生成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
層状ケイ酸塩を表面コーティング組成物または複合材料に添加することは、先行技術において知られている。それにより、得られる系の機械的特性を改善することができる。特に、そうして、表面コーティング層または複合材料層のバリア作用を高めることが可能である。
【0003】
特性の改善の度合いは、層状ケイ酸塩からこうして生成された小板のアスペクト比に大きく依存することが分かっている。したがって、高いアスペクト比を有する小板を生成することが望ましい。それというのも、それにより、特に良好な機械的特性および高いバリア作用の点で卓越している表面コーティング層または複合材料層を得ることができるからである。アスペクト比は、小板の長さおよび小板の高さの商であると理解される。したがって、小板の長さの増加と小板の高さの減少の両方が、アスペクト比の増加をもたらす。層状ケイ酸塩の小板の高さの理論上の下限は単一のケイ酸塩ラメラであり、2:1型粘土材料の場合に、これは約1ナノメートルになる。
【0004】
一般に、層状ケイ酸塩は、数ナノメートルから数ミリメートルまでの高さを有するケイ酸塩ラメラの積層物、いわゆるタクトイドを有する。
【0005】
アスペクト比は、化学的処理および/または物理的処理によって、小板をその積層軸線に沿って劈開させることにより、或る特定の限界内で増加させることができる。
【0006】
剥離に付随するアスペクト比の増加は、例えば、向上した特性を有するポリマー-フィロケイ酸塩ナノ複合物を製造するための重要な条件とみなされている(非特許文献1および非特許文献2)。
【0007】
既知の層状ケイ酸塩の処理での不利点は、その相反し得る特性である。例えば、水熱的に製造されたスメクタイトは、極めて良好な膨潤挙動を示すことが知られており、そのおかげで、個々のケイ酸塩ラメラへの自発的な剥離が達成され得る。しかしながら、そのようなスメクタイトは、約50ナノメートルの小さな小板直径を有するため、アスペクト比は50の値を超えない。
【0008】
モンモリロナイト型またはバーミキュライト型の天然のフィロケイ酸塩は、数百ナノメートルから数マイクロメートルまでの小板の直径を示すものの、自発的な層剥離は生じない。しかしながら、アスペクト比は、複雑な剥離工程によって増加させることができる。
【0009】
特許文献および科学文献では、層状ケイ酸塩の層の分離の度合いに関して、「層剥離」および「剥離」という用語は一貫して使用されない。本明細書で使用される場合に、「層剥離」という用語は、層状ケイ酸塩の層を個々のケイ酸塩ラメラに分離することを指し、「剥離」は、主にケイ酸塩ラメラの積層物において層を分離することを指す。
【0010】
アスペクト比は、小板の直径を最大化することによって、またはその高さを最小化することによって、またはその両方で最大化することができる。個々のラメラの直径は層状ケイ酸塩の種類およびその層電荷に大きく依存するが、2:1型粘土材料の単一のケイ酸塩ラメラの高さは、それどころか一定であり、上述のように約1ナノメートルである。したがって、常に、小板の高さを最小化すること、すなわち、層剥離によって個々のケイ酸塩ラメラを得ることが目的であるべきである。
【0011】
したがって、本発明の目的は、層状ケイ酸塩を剥離してラメラの積層物にするのではなく、層状ケイ酸塩を層剥離して単一のラメラにすることを可能にする方法を提供することである。
【0012】
多くの既知の層剥離処置では、むしろ単一のラメラとラメラの積層物とを含む混合物が生成されることが問題である。したがって、層剥離されるべき特定の層状ケイ酸塩を考慮して、適切な層剥離剤の選択において単純な規則に従うことによって、層状ケイ酸塩を層剥離して主に単一のラメラにする目的にかなった方法を提供することが求められている。
【0013】
幾つかの天然に存在する層状ケイ酸塩の場合のように、不均一な層電荷分布を有するそのような層状ケイ酸塩を層剥離することは特に困難である。或る層剥離剤は、高い層電荷を有する層状ケイ酸塩を層剥離しやすい場合があるのに対して、低い層電荷の場合には同じ層剥離剤が作用しない場合がある。したがって、層状ケイ酸塩内に層電荷の異なる領域が存在する場合には、そのような層剥離剤は、層状ケイ酸塩を完全に層剥離することができない。
【0014】
したがって、高い層電荷から低い層電荷までの種々の層電荷を伴う領域を有する層状ケイ酸塩を好結果に層剥離する汎用的な層剥離剤を提供することが大きく求められている。
【0015】
層状ケイ酸塩が均一な層電荷分布を有する場合にも、そのような汎用的な層剥離剤は有利に使用することができる。それというのも、適切な層剥離剤を選択するために、層剥離されるべき層状ケイ酸塩の正確な層電荷を知る必要がないからである。
【0016】
さらに、そのような汎用的な層剥離剤は、かなり均一であるが、混合物中の他の層状ケイ酸塩の層電荷とは異なる層電荷分布をそれぞれ有する種々の層状ケイ酸塩の混合物で好結果に使用することができる。そのような場合にも、種々の層電荷を有する層状ケイ酸塩を含む混合物を、依然として同一の層剥離剤で処理することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【文献】H.A.シュトレッツ(H. A. Stretz),D.R.ポール(D. R. Paul),R.リー(R. Li),H.ケスクラ(H. Keskkula),P.E.キャシディー(P. E. Cassidy)著,ポリマー(Polymer)2005年,第46巻,第2621頁~第2637頁
【文献】L.A.ウトラッキ(L. A. Utracki),M.セファー(M. Sepehr),E.ボッカレーリ(E. Boccaleri)著,ポリマーズ・フォー・アドバンスト・テクノロジーズ(Polymers for Advanced Technologies)2007年,第18巻,第1頁~第37頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の課題は、汎用的な層剥離剤による層状ケイ酸塩の層剥離方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の課題は、
(A)第1工程で、
a.層状ケイ酸塩を、
b.層剥離剤
で処理し、
(B)第2工程で、
第1工程で得られたこうして処理された層状ケイ酸塩を水性媒体と接触させる、水性媒体中での層状ケイ酸塩の層剥離方法であって、
上記層剥離剤は、
i.窒素およびリンからなる群から選択される正確に1個の正に荷電した原子を有する化合物であり、
ii.ヒドロキシル基、エーテル基、スルホン酸エステル基およびカルボン酸エステル基からなる群から選択されるn個の官能基を含み、ここで、nは3~10の数であり、
iii.4個~12個である炭素原子の総数nを含み、
iv.1~2の比n/(1+n)を有し、ここで、nは層剥離剤の炭素原子の総数であり、nはii.で規定された層剥離剤における官能基の総数であり、
v.炭素、窒素、リン、酸素および硫黄からなる群から選択されるn個の原子を含み、ここで、nは9以上であり、かつ
上記層剥離剤は、層状ケイ酸塩を処理するために、層状ケイ酸塩のカチオン交換容量と少なくとも等しい量で使用されることを特徴とする方法を提供することによって解決され得る。
【0020】
「層状ケイ酸塩」という用語は、層状ケイ酸塩の混合物も包含する。
【0021】
適切な層剥離剤は、正に荷電した窒素またはリン原子の数、種々のかなり親水性の官能基の存在、炭素原子数によるそれらの分子サイズ、ならびに親水性官能基および正に荷電した窒素原子またはリン原子に対する炭素原子の比率による親水性の度合いに関する明確な構造的仕様を含む、それらの化学的特性i.~iv.によって記載される。
【0022】
上記の方法は、1つの層状ケイ酸塩内に種々の層電荷または種々の層電荷の領域を有する層状ケイ酸塩の場合でさえも、層状ケイ酸塩の確実な高い層剥離の度合いをどのように得るかの明確な指示を与える。
【0023】
層剥離の度合いは、好ましくは、処理された層状ケイ酸塩の総重量の80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上である。層剥離の度合いは、処理された粘土懸濁液の1重量%懸濁液を使用し、その粘土懸濁液を4000gで6分間遠心分離した後、剥離したゲルの乾燥質量m(上清中)および堆積物の乾燥質量mを求めることによって測定することができる。パーセントでのm/(m+m)の関係が層剥離の度合いである。乾燥質量は、重量変化が観察されなくなるまで試料を80℃で乾燥させることによって測定される。
【0024】
本発明による層状ケイ酸塩の層剥離方法はまた、層状ケイ酸塩から個々のケイ酸塩ラメラを生成する方法である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
詳細な説明
以下で、本発明を、特に具体的な特徴の更なる好ましい実施形態に関して、より詳細に説明する。
【0026】
層状ケイ酸塩
好ましくは、層状ケイ酸塩は、0.25以上で1.0以下の層電荷Lおよび電荷相当面積(charge equivalent area)A=47.6Å/(2L)を有する。層電荷が不均一である場合に、層状ケイ酸塩内の異なる層電荷の領域の層電荷が上記の範囲内にあることが好ましい。均一であるが異なる層電荷を有する種々の層状ケイ酸塩の混合物が層剥離される場合にも同じことが当てはまる。層電荷Lは、Si10の式単位当たり(p.f.u.)で示される。Aは、Å/電荷で示される。
【0027】
本発明で使用されるべき好ましい層状ケイ酸塩は、いわゆる2:1型粘土鉱物であり、スメクタイトおよびバーミキュライトが特に好ましい。
【0028】
本発明による方法で使用されるべき最も好ましい層状ケイ酸塩は、一般式(I)
[MLc/原子価inter[M II octa[MIII tetra10 (I)
(式中、
Mは、酸化状態1~3の金属カチオンであり、
は、酸化状態2または3の金属カチオンであり、
IIは、酸化状態1または2の金属カチオンであり、
IIIは、酸化状態4の原子であり、
Xは、二価アニオンであり、
Yは、一価アニオンであり、
mは、酸化状態3の金属原子Mの場合は2.0以下であり、
mは、酸化状態2の金属原子Mの場合は3.0以下であり、
oは、1.0以下であり、かつ
層電荷Lは、0.25以上で1.0以下である)によって記述され得る。
【0029】
一般的に使用されるように、「inter」という用語は、層間カチオンを含む中間層を指し、「tetra」は、酸化状態4を有する原子を含む四面体シートを指し、「octa」は、金属カチオンMおよび/またはMIIを含む八面体シートを指す。
【0030】
層電荷Lの範囲は、天然に存在する層状ケイ酸塩および合成層状ケイ酸塩、特にスメクタイト型(L<0.6)およびバーミキュライト型(L≧0.6)の層状ケイ酸塩を含む。
【0031】
好ましくは、合成層状ケイ酸塩が使用され、好ましくは、高温溶融合成に続いて、任意にアニール処置を行うことによって調製される。合成されたままの層状ケイ酸塩またはアニールされたままの層状ケイ酸塩の層電荷減少を行うことも可能である。
【0032】
Mは、好ましくは、酸化状態1または2を有する。Mは、特に好ましくは、Li、Na、Mg2+またはこれらのイオンの2つ以上の混合物である。
【0033】
は、好ましくは、Mg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+またはこれらのイオンの2つ以上の混合物である。
【0034】
IIは、好ましくは、Li、Mg2+またはこれらのカチオンの混合物である。
【0035】
IIIは、好ましくは、四価のケイ素カチオンである。
【0036】
Xは、好ましくはO2-であり、Yは、好ましくは、OHまたはF、特に好ましくはFである。
【0037】
層電荷Lは、好ましくは0.28以上で0.95以下、より好ましくは0.30以上で0.90以下、最も好ましくは0.35以上で0.75以下である。
【0038】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、Mは、Li、Na、Mg2+またはこれらのイオンの2つ以上の混合物であり、Mは、Mg2+、Al3+、Fe2+、Fe3+またはこれらのイオンの2つ以上の混合物であり、MIIは、Li、Mg2+またはこれらのイオンの混合物であり、MIIIは、四価のケイ素カチオンであり、Xは、O2-であり、かつYは、OHまたはFである。
【0039】
式[MLc/原子価inter[M II octa[MIII tetra10の合成層状ケイ酸塩は、所望の金属の化合物(塩、酸化物、ガラス)を、化学量論比で開放坩堝システムまたは密閉坩堝システムにおいて加熱して、均質な溶融物を形成した後に、該溶融物を再び冷却することによって調製され得る。
【0040】
密閉坩堝システムにおいて合成する場合に、出発化合物として、アルカリ金属塩/アルカリ土類金属塩、アルカリ土類金属酸化物および酸化ケイ素、好ましくは二元アルカリ金属フッ化物/アルカリ土類金属フッ化物、アルカリ土類金属酸化物および酸化ケイ素、特に好ましくはLiF、NaF、MgF、MgO、石英を使用することができる。
【0041】
そして、出発化合物の相対割合は、例えば、二酸化ケイ素1mol当たり0.4mol~0.6molのアルカリ金属フッ化物/アルカリ土類金属フッ化物の形のFおよび二酸化ケイ素1モル当たり0.4mol~0.6molのアルカリ土類金属酸化物であり、好ましくは、二酸化ケイ素1mol当たり0.45mol~0.55molのアルカリ金属フッ化物/アルカリ土類金属フッ化物の形のFおよび二酸化ケイ素1mol当たり0.45mol~0.55molのアルカリ土類金属酸化物であり、特に好ましくは、二酸化ケイ素1mol当たり0.5molのアルカリ金属フッ化物/アルカリ土類金属フッ化物の形のFおよび二酸化ケイ素1mol当たり0.5molのアルカリ土類金属酸化物である。
【0042】
坩堝への装入は、好ましくは、最初により揮発性の高い物質、次にアルカリ土類金属酸化物、そして最後に酸化ケイ素を量り入れるように行われる。
【0043】
典型的には、化学的に不活性な金属または反応が遅い金属、好ましくはモリブデンまたは白金でできた高融点坩堝が使用される。
【0044】
坩堝を密閉する前に、装入後のまだ開放されている坩堝を、好ましくは真空中で200℃~1100℃、好ましくは400℃~900℃の温度で加熱することで、残留水および揮発性不純物を除去する。実験的には、坩堝の上端部が赤熱しているが、坩堝の下方領域がより低い温度であるような処置が好ましい。
【0045】
任意に、反応混合物を均質化するために、密閉された耐圧坩堝内で1700℃~1900℃、特に好ましくは1750℃~1850℃で5分間~20分間にわたり予備合成が行われる。
【0046】
加熱および予備合成は、典型的に、高周波誘導炉内で行われる。坩堝は、保護雰囲気(例えば、アルゴン)、減圧または両方の措置の組合せによって酸化から保護される。
【0047】
主合成は、材料に合わせた温度プログラムで行われる。この合成工程は、好ましくは、水平方向の回転軸を有する回転式黒鉛製炉内で行われる。第1の加熱工程において、温度は、1℃/分~50℃/分、好ましくは10℃/分~20℃/分の加熱速度で、室温から1600℃~1900℃、好ましくは1700℃~1800℃まで高められる。第2工程では、加熱は、1600℃~1900℃、好ましくは1700℃~1800℃で行われる。第2工程の加熱段階は、好ましくは10分間~240分間、特に好ましくは30分間~120分間継続する。第3工程において、温度は、10℃/分~100℃/分、好ましくは30℃/分~80℃/分の冷却速度で、1100℃~1500℃、好ましくは1200℃~1400℃の値に下げられる。第4工程において、温度は、0.5℃/分~30℃/分、好ましくは1℃/分~20℃/分の冷却速度で、1200℃~900℃、好ましくは1100℃~1000℃の値に下げられる。第4工程後の室温までの加熱速度の減少は、例えば、0.1℃/分~100℃/分の速度で、好ましくは炉のスイッチを切ることによる非制御の様式で行われる。
【0048】
この処置は、典型的には、例えば、ArまたはN等の保護ガス下で行われる。
【0049】
層状ケイ酸塩は、坩堝をこじ開けた後に、結晶性の吸湿性固体の形で得られる。
【0050】
開放坩堝システムにおいて合成する場合に、好ましくは、一般組成wSiO・xM・yM・zM(式中、5<w<7、0<x<4、0≦y<2、0≦z<1.5、およびM、M、Mは金属酸化物であり、MとMとMとは異なる)のガラス塊(glass stage)が使用される。
【0051】
、M、Mは、互いに独立して、金属酸化物、好ましくはLiO、NaO、KO、RbO、MgO、特に好ましくはLiO、NaO、MgOであり得る。MとMとMとは異なる。
【0052】
ガラス塊は、所望の化学量論比で所望の塩、好ましくは炭酸塩、特に好ましくはLiCO、NaCO、および例えば酸化ケイ素、好ましくはシリカ等のケイ素源から調製される。粉末状の構成成分が、加熱および急冷によってガラス状態に変換される。変換は、好ましくは900℃~1500℃、特に好ましくは1000℃~1300℃で行われる。ガラス塊の調製における加熱段階は、10分間~360分間、好ましくは30分間~120分間、特に好ましくは40分間~90分間継続する。この処置は、典型的には、保護雰囲気下および/または減圧下で高周波誘導加熱によってガラス状炭素製坩堝内で行われる。室温までの温度低下は、炉のスイッチを切ることによって行われる。次いで、得られたガラス塊は微粉砕され、それは、例えばパウダーミルによって行うことができる。
【0053】
更なる反応物をガラス塊に10:1~1:10の重量比で添加することで、所望の化学量論比が達成される。5:1~1:5の比が好ましい。必要に応じて、10%までの過剰な易揮発性添加物を添加することができる。これらは、例えばアルカリ金属化合物もしくはアルカリ土類金属化合物および/またはケイ素化合物である。軽アルカリ金属フッ化物および/または軽アルカリ土類金属フッ化物、ならびにそれらの炭酸塩および酸化物、ならびに酸化ケイ素の使用が好ましい。NaF、MgF、LiFおよび/またはMgCOMg(OH)とシリカとのアニールされた混合物の使用が好ましい。
【0054】
次いで、該混合物は、使用される化合物の共晶の溶融温度を超えて、好ましくは900℃~1500℃、特に好ましくは1100℃~1400℃に加熱される。加熱段階は、好ましくは1分間~240分間、特に好ましくは5分間~30分間継続する。加熱は、50℃/分~500℃/分の加熱速度で、好ましくは炉の可能な最大加熱速度で行われる。加熱段階後の室温までの冷却は、1℃/分~500℃/分の速度で、好ましくは炉のスイッチを切ることによる非制御の様式で行われる。結晶性の吸湿性固体の形で生成物が得られる。
【0055】
合成は、典型的には、ガラス状炭素製坩堝または黒鉛製坩堝内で不活性雰囲気下で行われる。加熱は、典型的に高周波誘導によって行われる。
【0056】
記載された方法は、高周波誘導により加熱のエネルギー効率が良く、安価な出発化合物が使用され(高純度は必要とされず、出発材料の予備乾燥は必要とされず、例えば、有利な炭酸塩等のより広範囲の出発材料)、密閉坩堝システムにおける合成と比較して合成時間が大幅に短縮され、かつ坩堝を何度も使用可能であるため、実質的により経済的である。したがって、開放坩堝システムにおける高温溶融合成が特に好ましい。
【0057】
ケイ酸塩は、800℃から1200℃の間の温度で気密性坩堝内でアニールされ得る。1日間~100日間にわたって1000℃から1100℃の間の範囲内がより好ましい。
【0058】
合成されたままのケイ酸塩の層電荷減少は、Mg2+とイオン交換して、150℃~400℃で3時間~48時間、最も好ましくは250℃で24時間加熱することによって行われ得る。
【0059】
上記のように製造された層状ケイ酸塩および天然に存在する層状ケイ酸塩は、当業者に知られる一般的な手段によって特徴付けることができる。特に、本明細書の実験の節で更に詳述される以下の方法を使用した。
【0060】
上記説明のように、本発明による方法は、不均一な層電荷分布を有する層状ケイ酸塩または異なる層電荷を有する層状ケイ酸塩の混合物を層剥離するのに特に適している。処理されるべき層状ケイ酸塩または層状ケイ酸塩の混合物内の層電荷の差ΔLは、好ましくは最大0.7、または一般的に最大0.5、または特に最大0.3もしくは最大0.2である。
【0061】
層状ケイ酸塩の層電荷Lは、ラガリー(Lagaly)(A.R.メルムート(A. R. Mermut),G.ラガリー(G. Lagaly),クレイズ・アンド・クレイミネラルズ(Clays Clay Miner.)2001年,第49巻,第393頁~第397頁を参照)に準じて求めた。
【0062】
層電荷Lは、両者とも上記のように求められたカチオン交換容量および分子量から、以下の式(II):
=(CEC[mval/100g]×Mw[g/mol])/(100000[mval]) (II)
によって計算され得る。
【0063】
層状ケイ酸塩の電荷相当面積Aは、以下の式(III)
=47.6Å/(2L) (III)
(式中、Lは上記で求められた層電荷である)に従って求められ得る。
【0064】
層剥離剤
本発明による方法で使用される層剥離剤は、以下の要件を満たす化合物である。
【0065】
第1の化学的要件として、層剥離剤は、窒素およびリンからなる群から選択される正確に1個の正に荷電した原子を含む。好ましくは、正に荷電した原子は、プロトン化もしくは第四級化されたアミノ基の窒素原子、またはホスホニウム基中のリン原子であり、最も好ましくは、正に荷電した原子は窒素原子である。
【0066】
第2の化学的要件は、層剥離剤が、3個~10個、好ましくは3個~8個、より好ましくは3個~6個、最も好ましくは3個~5個のnの数の以下の4つの種類の基:ヒドロキシル基、エーテル基、スルホン酸エステル基およびカルボン酸エステル基からなる群から選択されるの官能基を含むことである。上記の基の中で、ヒドロキシル基、エーテル基およびカルボン酸エステル基が好ましく、その中でもヒドロキシル基およびエーテル基が更により好ましい。ヒドロキシル基が最も好ましい。1種類だけの基、2種類の基または3種類の基が層剥離剤中に存在する場合に、nのための全ての範囲がまた当てはまる。該官能基は、上記の第1の化学的要件の正に荷電した原子の他に、層剥離剤の最小限の程度の親水性を保証する。
【0067】
第3の化学的要件は、層剥離剤が4個~12個、好ましくは4個~10個、より好ましくは5個~9個、最も好ましくは5個~7個、特に好ましくは6個または7個である炭素原子の総数nを含むことである。炭素原子の総数には、カルボン酸エステル基の炭素原子のような、上記の官能基中に存在する炭素原子も含まれる。
【0068】
層剥離剤は、第4の化学的要件として、1~2、好ましくは1~1.8、より好ましくは1~1.5、なおも更に好ましくは1~1.3の比n/(1+n)を有し、ここで、nは層剥離剤の炭素原子の総数であり、nは上記で規定された層剥離剤における官能基の総数である。
【0069】
最後に、立体的要件(第5の要件)としては、層剥離剤は、炭素、窒素、リン、酸素および硫黄からなる群から選択されるn個の原子を含み、ここで、nは9以上であり、より好ましくはnは11以上であり、最も好ましくはnは12以上である。
【0070】
上述の4つの化学的要件および1つの立体的要件のそれぞれは、第4の要件および第5の要件が達成可能である限り、その他の要件とは独立して、その好ましい実施形態、より好ましい実施形態、最も好ましい実施形態、なおも更に好ましい実施形態の形で実現され得る。例えば、どの必須の要件も、好ましい要件、更に最も好ましい更なる要件と組み合わせることができる。
【0071】
上述の4つの化学的要件および1つの立体的要件を満たす層剥離剤の中で、30Å/電荷~90Å/電荷の電荷相当面積Aを有するそのような層剥離剤が本発明の方法において好ましく、それは、更なる好ましい立体的特徴である。
【0072】
より好ましくは、層剥離剤の電荷相当面積Aは、35Å~80Åまたは40Å~80Åの範囲内であり、最も好ましくは、45Å~70Åの範囲内である。Aは、Å/電荷で示される。
【0073】
本発明者らによって、層状ケイ酸塩がモンモリロナイト等の幾つかの天然に存在する層状ケイ酸塩の場合のように不均一な層電荷分布を有するとしても、上記範囲内のn値および/または電荷相当面積Aを有する層剥離剤が特に適切であることが見出された。
【0074】
層剥離剤の電荷相当面積Aは、ファンデルワールス半径に基づいて、最低エネルギーの配座異性体の最大投影面積である。電荷相当面積は、オンラインで(https://chemicalize.org)または例えばChemAxon Ltd.社(ハンガリー、ブダペスト)によって提供されるソフトウェアソリューション(MarvinSketch(バージョン6.2.2)、ChemAxon社によって開発された計算モジュール;ソフトウェアの幾何学記述子プラグインを使用して、実装されたMMFF94力場によって構造を最適化した;http://www.chemaxon.com/products/marvin/marvinsketch/、2014年)を用いて快適に求めることができる。
【0075】
層状ケイ酸塩または層状ケイ酸塩の混合物の層電荷範囲(L範囲)が既知である場合に、層剥離されるべき層状ケイ酸塩または層状ケイ酸塩の混合物の電荷相当面積Aを考慮して、層剥離剤を選択することによって、方法を更に最適化することが可能である。本発明者らによって、A/A比が0.9以上で3.0まで、より好ましくは0.92以上で2.5までの範囲内、更により好ましくは0.92以上で2.0までの範囲内である場合に特に好ましいことが見出された。
【0076】
適切な層剥離剤の中で、アニオンおよびカチオンからなるイオン性化合物(すなわち、塩)の群に属するそのような層剥離剤が最も適切であり、ここで、カチオンにはプロトン化または第四級化された窒素原子またはホスホニウム基が含まれる。
【0077】
カチオンがプロトン化または第四級化された窒素原子を含む場合に、プロトン化または第四級化された窒素原子は、好ましくは少なくとも3個のヒドロキシル基を有するアミノポリオールの窒素原子であることが好ましい。アミノポリオールは、更により好ましくは、C=O官能基がCH-OH官能基へと還元されたアミノ糖類、N-アルキルアミノ糖類等からなる群から選択される。アミノ糖類の適切な例は、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、フルクトサミンおよびマンノサミンであり、N-メチル化アミノ糖は、例えばN-メチル-D-グルカミンである。最も好ましいのは、プロトン化または第四級化された形のグルコサミンおよびN-メチル-D-グルカミンである。アニオンは、好ましくは、塩化物イオンまたはヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオンである。
【0078】
方法工程の詳細な説明
本発明の方法によれば、第1工程で、層状ケイ酸塩は層剥離剤で処理される。この処理工程では、層剥離剤は、層状ケイ酸塩のカチオン交換容量と少なくとも等しい量で使用される。
【0079】
処理工程を実施するために、好ましくは、層剥離剤の水溶液が調製され、層剥離剤の水溶液中に層状ケイ酸塩が懸濁される。水溶液中の層剥離剤の濃度は、好ましくは0.2mol/L~2mol/Lの範囲内、より好ましくは0.5mol/L~1.5mol/Lの範囲内である。一般的に、層剥離剤の濃度は、この段階で層状ケイ酸塩の早期の層剥離を防止するのに十分に高いように選択される。層状ケイ酸塩の量は、好ましくは1g/L~50g/L、より好ましくは5g/L~40g/L、最も好ましくは10g/L~30g/Lの範囲内である。
【0080】
好ましくは、こうして製造された懸濁液は、オーバーヘッド振盪(overhead shaking)または撹拌によって1℃~100℃の温度で5分間~48分間撹拌される。したがって、まだ層剥離されていないが、層剥離剤で処理された層状ケイ酸塩が懸濁液として得られる。場合によっては、完全に処理された層状ケイ酸塩を得るために、この手順を数回、例えば最大5回繰り返すことが必要となる場合がある。詳細は、本発明の実施例の節に示されている。
【0081】
最後に、第2工程で、第1工程で得られたこうして処理された層状ケイ酸塩を、好ましくは精製水等の低イオン強度の水性媒体と接触させることで、単一のケイ酸塩ラメラが生成される。
【0082】
第2工程を実施するために、好ましくは、上記のように製造されたゲルは、例えば、遠心分離(好ましくは14000gで40分間)によって濃縮され、濃縮されたゲルは、好ましくは精製水中に再懸濁され、再び遠心分離される。これは、ハロゲン化物イオンが検出不可能になるまで繰り返される。ハロゲン化物イオンは、硝酸銀試験によってモニターされ得る。あるいは、層剥離された粘土の濃縮が必要ない場合には、過剰なイオンを透析によって除去することができる。こうして得られた生成物は層剥離され、アセトンで洗浄され、約60℃で乾燥され得る、または水性媒体から凍結乾燥され得る。懸濁液の直接的な乾燥も同様に(好ましくは80℃)実現可能であるが、大幅により長い時間がかかる。
【0083】
あるいは、0.1mol/L未満の範囲内の層剥離剤の低イオン強度を使用することによって、試料を直接的に層剥離することができ、洗浄工程は必要とされない。
【0084】
本発明の更なる主題
本発明は更に、層剥離された層状ケイ酸塩、すなわち、本発明による方法により得られた層剥離生成物を提供する。
【0085】
本発明は同様に、複合材料、コーティング材料の製造における、または耐炎性バリアもしくは拡散バリアとしての、本発明による層剥離生成物の使用を提供する。
【0086】
例えば、層剥離生成物の、水等の極性溶剤中での分散液を使用することで、基材に耐炎性バリアまたは拡散バリアを適用することができる。そのために、分散液を基材に適用した後に、例えば乾燥によって溶剤を除去することができる。
【0087】
本発明は更に、本発明の方法に従って得られた層剥離生成物を含む複合材料、または該層剥離生成物を使用することによって得ることができる複合材料を提供する。
【0088】
複合材料がポリマーを含む場合に特に好ましい。ポリマー複合物を製造するために、層剥離生成物は、特に、重縮合、重付加、ラジカル重合、イオン重合および共重合によって製造された任意の慣用のポリマーへと導入され得る。そのようなポリマーの例は、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアミド、PMMA、ポリエステル、ポリオレフィン、ゴム、ポリシロキサン、EVOH、ポリラクチド、ポリスチレン、PEO、PPO、PAN、ポリエポキシドである。ポリマーへの導入は、ポリマーの粘度に依存して、例えば、押出、混練プロセス、ローター・ステータープロセス(Dispermat、Ultra-Turrax等)、粉砕プロセス、またはジェット分散等の慣用の技術によって実施することができる。
【0089】
以下で、本発明を実施例によって更に説明する。
【実施例
【0090】
溶融合成による合成層状ケイ酸塩の調製
[Na0.75inter[Mg2.25Li0.25octa[Sitetra10(Na075;バーミキュライト型)の調製
溶融合成のために、4.064gのNaF(99.995%、Alfa Aesar社)、2.511gのLiF(99.9%超、ChemPur社)、2.010gのMgF(99.9%超、ChemPur社)、10.402gのMgO(99.95%、Alfa Aesar社)および31.014gのSiO(Merck社、微粒状石英、purum)をモリブデン製坩堝中に量り入れる。
【0091】
坩堝を高真空(10-4mbar未満)下で溶接によって気密に密封した。坩堝を1750℃(15℃/分)まで昇温し、この温度で70分間保持し、1300℃(55℃/分)および1050℃(10℃/分)まで冷却した。最後に、坩堝を、電源を切ることによって急冷した。ミル粉砕された粉末(ミル:Retsch社のPM 100、毎分250回転を20分間)を250℃および10-1mbar未満で加熱し、モリブデン製坩堝へと移して、高真空(10-4mbar未満)下で溶接によって気密に密封した。Na075を得るために、坩堝を1045℃で6週間アニールした。
【0092】
[Na0.50inter[Mg2.5Li0.5octa[Sitetra10(Na050;ヘクトライト型)の調製
溶融合成のために、2.719gのNaF(99.995%、Alfa Aesar社)、1.680gのLiF(99.9%超、ChemPur社)、4.035gのMgF(99.9%超、ChemPur社)、10.440gのMgO(99.95%、Alfa Aesar社)および31.127gのSiO(Merck社、微粒状石英、purum)をモリブデン製坩堝中に量り入れる。
【0093】
坩堝を高真空(10-4mbar未満)下で溶接によって気密に密封した。坩堝を1750℃(15℃/分)まで昇温し、この温度で70分間保持し、1300℃(55℃/分)および1050℃(10℃/分)まで冷却した。最後に、坩堝を、電源を切ることによって急冷した。ミル粉砕された粉末(ミル:Retsch社のPM 100、毎分250回転を20分間)を250℃および10-1mbar未満で加熱し、モリブデン製坩堝へと移して、高真空(10-4mbar未満)下で溶接によって気密に密封した。Na050を得るために、坩堝を1045℃で6週間アニールした。
【0094】
電荷減少されたヘクトライト(LCR;ヘクトライト型)の調製
0.48p.f.u.未満の低層電荷の粘土は、非混和ギャップのため上記の溶融合成を介して取得することができない場合がある。低層電荷の粘土の合成は、いわゆる「電荷減少」によって以下のように行われる。
【0095】
5gのNa050を、400mLの2MのMgCl溶液で7回交換した。得られたMg交換されたヘクトライトを、上澄み液の塩化物試験(AgNO)が陰性になるまで水で洗浄した。スラリーを80℃で乾燥させた。乾燥させた粉末を250℃で24時間加熱した(ブロイら(Breu et. al.),ラングミュア(Langmuir)2012年,第28巻,第14713頁~第14719頁)。得られた試料はLCRと称される。
【0096】
更なる電荷減少されたヘクトライト(LCR’;ヘクトライト型)の調製
2gのLCRを、400mLの2MのMgCl溶液で7回交換した。得られたMg交換されたヘクトライトを、上澄み液の塩化物試験(AgNO)が陰性になるまで水で洗浄した。スラリーを80℃で乾燥させた。乾燥させた粉末を250℃で24時間加熱した(ブロイら(Breu et. al.),ラングミュア(Langmuir)2012年,第28巻,第14713頁~第14719頁)。得られた試料はLCR’と称される。
【0097】
合成層状ケイ酸塩の特性決定
カチオン交換容量(CEC)
CECを、DIN EN ISO 11260:2017-04に準じて塩化バリウムを使用して測定した。
【0098】
測定されたCECは、185meq/100g(Na075)、129meq/100g(Na050)、103meq/100g(LCR)、および75meq/100g(LCR’)である。
【0099】
ラガリー(Lagaly)による層電荷の測定(L
式単位Si10当たり(p.f.u.)の層電荷密度を、ラガリー(Lagaly)の方法(A.R.メルムート(A. R. Mermut),G.ラガリー(G. Lagaly),クレイズ・クレイミネラルズ(Clays Clay Miner.)2001年、第49巻,第393頁~第397頁を参照)によって、層間イオンをn-アルキルアンモニウム(C2n+1NH )と交換して実験的に測定した。得られた層間化合物のd間隔(d001)は、粉末X線回折(PANalytical社のX’Pert Pro、CuKα放射)によって計測される。
【0100】
これらの有機カチオンの場合に、電荷当たりの相当面積は、単層(d=13.3Å)または二重層(d=17.6Å)のいずれかの最密充填について知られている。鎖長の増加に伴う単層配置から二重層配置への遷移または二重層配置から疑似三重層配置への遷移の開始を、電荷密度(式単位Si10当たり(p.f.u.))の上限に変換した。
【0101】
高電荷のNa075の場合に、n=9は、二重層(d001=17.6Å)での電荷密度を依然として釣り合わせることができる最長のアルキルアンモニウム鎖を表し、最密充填された二重層の場合の0.73p.f.u.の層電荷に相当する。相当面積がn=10にわずかに高まると、最密充填された二重層の場合の0.67p.f.u.の層電荷に相当するd間隔(d=19.2Å)のシフトから明らかなように、幾つかの擬似三重層を混ぜて電荷の釣り合いを保証する必要がある。単純化するために、算術平均x=0.70p.f.u.が使用される。そのような高い層電荷の場合には、更に短い鎖を有する平面的な単層配置は実現不可能である。
【0102】
同様にして、低電荷の粘土について、電荷密度を、鎖長を限定して単層から二重層への遷移から導き出した。
【0103】
Na050:n=5(x=0.56p.f.u.に相当する)は、d001=13.4Åをもたらし、n=6(x=0.50p.f.u.に相当する)は、d001=14.2Åをもたらす。したがって、層電荷は、x=0.53p.f.u.である。
【0104】
LCR:n=8(x=0.40p.f.u.に相当する)は、d001=13.4Åをもたらし、n=9(x=0.36p.f.u.に相当する)は、d001=14.2Åをもたらす。したがって、層電荷は、x=0.385p.f.u.である。
【0105】
電荷相当面積(A)の計算
層状ケイ酸塩の電荷相当面積Aは、それらの層電荷Lから以下の式(III)
=47.6Å/(2L) (III)
(式中、Lは上記で測定された層電荷である)によって計算され得る。
【0106】
係数「2」は、LがSi10の式単位当たり(p.f.u.)で示され、各単位胞に2つの式単位が含まれているという状況によるものである。
【0107】
乗数47.6Åは、本明細書で使用される層状ケイ酸塩の単位胞の典型的な(a,b)寸法(a=5.24Åおよびb=9.08Å)から得られ、例えばガラスキャピラリー中に置かれた試料に対してCu Kαを使用してSTOE Stadi P粉末回折計で記録された粉末X線回折(PXRD)パターンによって決定され得る正確な単位胞寸法にかかわらず、全ての層状ケイ酸塩に使用される。計測前に、試料を飽和KCO溶液(43%相対湿度)で1週間平衡化させる。
【0108】
以下の表1は、上記で調製および特性決定された合成層状ケイ酸塩ならびに本発明において規定されたそれらの特性を示す。
【0109】
【表1】
【0110】
層剥離剤の特性決定
電荷相当面積(A)の計算
カチオン性層剥離剤の電荷相当面積(A)を、オンラインソフトウェア(https://chemicalize.org)の幾何学記述子プラグインを使用して求めた後に、実装されたMMFF94力場によって構造を最適化した。投影最適化によって、ファンデルワールス半径に基づいて、最低エネルギーの配座異性体の最大投影面積を得た。この値(オングストローム平方Å)が、Å/電荷としての層剥離剤のAであると選択された。これにより、使用された有機カチオンと共にそれらのアニオンは、平面的なコンフォメーションで描画された。ハロゲン化物イオンのような小さなアニオンが使用される場合に、アニオンは、得られるAに対してわずかしか寄与しないことに留意されたい。
【0111】
以下の表2は、使用された層剥離剤および本発明において規定されたそれらの特性を示す。
【0112】
【表2】
【0113】
電荷相当面積AとAとの間の関係
表3に、電荷相当面積AとAとの比を示す。
【0114】
【表3】
【0115】
本発明による層剥離方法
層剥離剤の水溶液の調製
ジエチルアミノエタノール(DEA、99.5%超、Aldrich社)、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール(TRIS、99%超、Aldrich社)、N-メチル-D-グルカミン(メグルミン、99.0%超、Aldrich社)を精製水に溶解させ、HCl(32重量%)を使用して約8のpHに滴定し、1MのHClを使用してpH=7に滴定した。その溶液を精製水で希釈して、1Mの溶液を得た。
【0116】
2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート(DMAEMA、98%、Aldrich社)をヨウ化メチルによりメチル化することで、ヨウ化トリメチルアンモニウムエチルメタクリレート(ヨウ化物TMAEMA)を得た:DMAEMA(10g)をアセトン(1L)に溶解させ、ヨウ化メチルをアミノ基に対して1.5のモル比で添加した。その混合物を一晩撹拌した。沈殿物をアセトンで数回洗浄し、最後に高真空を使用して乾燥させた。第四級化の完結をH-NMRによって検証した。ヨウ化TMAEMAを精製水に溶解させて、1Mの溶液を得た。
【0117】
グルコサミンは塩酸塩として簡単に購入された(99.0%超、Aldrich社)。グルコサミン塩酸塩を水に溶解させて、1Mの溶液を得た。
【0118】
水性媒体中の層剥離剤による層状ケイ酸塩の処理
層剥離剤の1M溶液10mLは、層状ケイ酸塩のカチオン交換容量に対する層剥離剤の以下のモル過剰に対応する:27倍(Na075)、39倍(Na050)、49倍(LCR)、67倍(LCR’)。それぞれの層状ケイ酸塩200mgを、水中の層剥離剤の1M溶液10mL中に懸濁させた。その手順を5回繰り返した。各5回後に固-液分離を行った。試料を遠心分離(8000g、10分)し、上澄み液を廃棄し、水中の層剥離剤の新たな1M溶液によって置き換えた。最後に、得られた有機粘土を、精製水で洗浄することによりハロゲン化物イオンがなくなるまで洗浄し、ハロゲン化物イオンの不存在を、分離された上澄み液を用いた十分に確立された硝酸銀試験により検査した。そのために、洗浄処置の間の固-液分離を遠心分離(14000g;40分)によって行った。このイオン強度の低下により、全ての適切な層剥離剤の浸透膨潤が可能となり、それによって単一のケイ酸塩ラメラの形成およびゲル形成が生ずる。
【0119】
より良好な更なる処理のために、こうして製造された生成物を分離し、アセトンで1回洗浄し、それを高められた温度で、例えば60℃で乾燥させることが可能である。得られた固体生成物は、より大きな重量パーセント範囲で精製水に再懸濁させることができる。
【0120】
層剥離剤で処理された層状ケイ酸塩の特性決定
層剥離されたゲルのSAXSによる特性決定
小角X線散乱(SAXS)を使用して、層剥離されたゲルのd間隔を求めることができる。典型的に、層剥離のため、これらのd間隔は100Å超である。SAXSデータは、「Double Ganesha AIR」システム(SAXSLAB社、デンマーク)を使用して計測した。この研究室ベースのシステムのX線源は、マイクロ集束ビームを提供する回転陽極(銅、MicroMax 007HF、株式会社リガク(日本))である。データは、位置検知形検出器(PILATUS 300K、Dectris社)によって記録される。規定量の超純水を乾燥処理された層状ケイ酸塩に添加することによって、層剥離された有機粘土の試料を調製することで、ゲル形成が生じた。1週間平衡化した後に、SAXSパターンを1mmのガラスキャピラリー中で記録した。それに対して、層剥離されていない試料はゲルを形成せず、水を添加すると、層剥離していない有機粘土は沈降物を形成する。その場合に、キャピラリーの位置を調整することで、沈降物が測定の間にビーム焦点内にあることを確実にした。層剥離されていない有機粘土のd間隔は、基本的に試料の固体含有量とは無関係であり、層剥離している有機粘土とは対照的に、そのようなゲル状懸濁液の固体含有量がd間隔を決定する。結果を表4に示す。丸括弧内に示されるパーセンテージ値は、それぞれの懸濁液中の処理された層状ケイ酸塩の量である。
【0121】
【表4】
【0122】
上記の表4に従う以下の表5(層剥離チャート)に示されるように、上記の全ての必須要件を満たす層剥離剤のみが、広範囲の層電荷にわたってそれぞれの層状ケイ酸塩の層剥離を示した(「+」)のに対して、他の層剥離剤は部分的に作用しなかった(「-」)。
【0123】
【表5】
【0124】
さらに、LCRを使用して、上記と同じようにイオン交換手順を繰り返すことによりMgClと更にイオン交換することによって、更なる電荷減少された層状ケイ酸塩LCR’を製造した。こうして得られたLCR’は、79.3Å/電荷の電荷相当面積Aに対応する0.30の層電荷Lを有していた。この層状ケイ酸塩さえもグルコサミン塩酸塩およびN-メチル-D-グルカミン塩酸塩によって層剥離され、これらは、先に示された汎用的な層剥離剤に対する必須要件を満たしている。
【0125】
この知見はまた、材料中に不均一な層電荷の分布を有する層状ケイ酸塩にとって特に興味深い。したがって、不均一な層電荷の分布を有することが知られている層状ケイ酸塩の場合に、上記で規定された層剥離剤を使用することが最も好ましい。異なる電荷密度の電荷が均一な層状ケイ酸塩の混合物にも同じことが当てはまる。