(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】軸受部品及び転がり軸受
(51)【国際特許分類】
C23C 8/32 20060101AFI20220330BHJP
F16C 33/62 20060101ALI20220330BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20220330BHJP
C22C 38/44 20060101ALN20220330BHJP
C21D 9/40 20060101ALN20220330BHJP
C21D 9/36 20060101ALN20220330BHJP
C21D 1/06 20060101ALN20220330BHJP
【FI】
C23C8/32
F16C33/62
C22C38/00 301N
C22C38/44
C21D9/40 A
C21D9/36
C21D1/06 A
(21)【出願番号】P 2021006648
(22)【出願日】2021-01-19
(62)【分割の表示】P 2017241498の分割
【原出願日】2017-12-18
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】大木 力
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-285725(JP,A)
【文献】特開平10-176219(JP,A)
【文献】特開2011-184768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56;33/30-33/66
C23C 8/00-12/02
C21D 1/02-1/84
C21D 9/00-9/44;9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に拡散層を備えるクロムモリブデン鋼製の軸受部品であって、
前記クロムモリブデン鋼は、JIS規格に定めるSCM435であり、
前記拡散層は、複数の化合物粒と、複数のマルテンサイトブロックとを含み、
前記拡散層は、窒素及び炭素の濃度が前記クロムモリブデン鋼中の窒素及び炭素の濃度よりも高くなっており、
前記化合物粒の平均粒径は、0.3μm以下であり、
前記化合物粒は、鉄の炭化物、鉄の窒化物又は鉄の炭窒化物の結晶粒であり、
前記拡散層中における前記化合物粒の面積比率は3パーセント以上であり、
前記マルテンサイトブロックの最大粒径は、3.8μm以下であり、
前記マルテンサイトブロックは、第2群に属する前記マルテンサイトブロックと、第3群に属する前記マルテンサイトブロックとからなり、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値は、前記第2群に含まれる前記マルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値よりも大きく、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの総面積を前記マルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5以上であり、
前記第3群に属する最も結晶粒径が大きい前記マルテンサイトブロック以外の前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの総面積を前記マルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5未満であり、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの平均粒径は、0.7μm以上1.4μm以下であり、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、2.5以上2.8以下である、軸受部品。
【請求項2】
前記マルテンサイトブロックは、第4群に属する前記マルテンサイトブロックと、第5群に属する前記マルテンサイトブロックとからなり、
前記第5群に属する前記マルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値は、前記第4群に含まれる前記マルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値よりも大きく、
前記第5群に属する前記マルテンサイトブロックの総面積を前記マルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.7以上であり、
前記第5群に属する最も結晶粒径が大きい前記マルテンサイトブロック以外の前記第5群に属する前記マルテンサイトブロックの総面積を前記マルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.7未満であり、
前記第5群に属する前記マルテンサイトブロックの平均粒径は、0.6μm以上1.1μm以下であり、
前記第5群に属する前記マルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、2.4以上2.6以下である、請求項1に記載の軸受部品。
【請求項3】
結晶粒径が1.0μm以下の前記マルテンサイトブロックは、第1群を構成し、
前記第1群に属する前記マルテンサイトブロックの総面積を前記マルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.55以上0.75以下である、請求項1
又は請求項2に記載の軸受部品。
【請求項4】
前記拡散層中における旧オーステナイト粒の平均粒径は、8μm以下である、請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項5】
前記表面と前記表面から10μmの距離にある位置との間にある前記拡散層中における平均炭素濃度は、0.7質量パーセント以上であり、
前記表面と前記表面から10μmの距離にある位置との間にある前記拡散層中における
平均窒素濃度は、0.2質量パーセント以上である、請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の軸受部品。
【請求項6】
内周面に第1軌道面が設けられたクロムモリブデン鋼製の外輪と、
外周面に第2軌道面が設けられ、かつ、前記第2軌道面が前記第1軌道面に対向するように配置されるクロムモリブデン鋼製の内輪と、
前記第1軌道面と前記第2軌道面との間で転動自在に配置され、かつ、転動面を有するクロムモリブデン鋼製の転動体とを備え、
前記クロムモリブデン鋼は、SCM435であり、
前記第1軌道面、前記第2軌道面及び前記転動面の少なくとも1つには、拡散層が設けられ、
前記拡散層は、複数の化合物粒と、複数のマルテンサイトブロックとを含み、
前記拡散層は、窒素及び炭素の濃度が前記クロムモリブデン鋼中の窒素及び炭素の濃度よりも高くなっており、
前記化合物粒の平均粒径は、0.3μm以下であり、
前記化合物粒は、鉄の炭化物、鉄の窒化物又は鉄の炭窒化物の結晶粒であり、
前記拡散層中における前記化合物粒の面積比率は3パーセント以上であり、
前記マルテンサイトブロックの最大粒径は、3.8μm以下であり、
前記マルテンサイトブロックは、第2群に属する前記マルテンサイトブロックと、第3群に属する前記マルテンサイトブロックとからなり、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値は、前記第2群に含まれる前記マルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値よりも大きく、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの総面積を前記マルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5以上であり、
前記第3群に属する最も結晶粒径が大きい前記マルテンサイトブロック以外の前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの総面積を前記マルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5未満であり、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの平均粒径は、0.7μm以上1.4μm以下であり、
前記第3群に属する前記マルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、2.5以上2.8以下である、転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受部品及び転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、クロム(Cr)モリブデン(Mo)鋼製の軸受部品が知られている。従来のクロムモリブデン鋼製の軸受部品は、クロムモリブデン鋼製の加工対象部材の表面に浸炭窒化処理を行った後に、焼き入れ・焼き戻しを行うことにより製造されている。しかしながら、従来のクロムモリブデン鋼製の軸受部品は、耐表面損傷性に改善の余地があった。すなわち、従来のクロムモリブデン鋼製の軸受部品は、異物混入環境下において使用された場合に、早期破損に至る場合があった。耐表面損傷性の改善のためには、軸受部品の表面における耐摩耗性及び靱性の改善が望まれる。
【0003】
軸受部品の表面における耐摩耗性及び靱性を改善するためには、硬質かつ微細な化合物の析出及びそれに伴うマルテンサイトブロックの微細化が有効である。しかしながら、炭素の含有量及び合金元素の含有量が相対的に少ないクロムモリブデン鋼においては、浸炭窒化処理によって硬質かつ微細な化合物を析出させることは困難である。
【0004】
そのため、特開平2-277764号公報(特許文献1)、特開平3-64431号公報(特許文献2)、特開平8-49057号公報(特許文献3)、特開平8-311603号公報(特許文献4)、特開平11-201168号公報(特許文献5)、特開2001-323939号公報(特許文献6)、特開2007-232201号公報(特許文献7)及び特開2013-11010号公報(特許文献8)に記載の鋼材においては、シリコン(Si)、マンガン(Mn)、クロム、モリブデン、バナジウム(V)、チタン(Ti)等の炭化物・窒化物形成元素を数パーセント~十数パーセント添加することにより、硬質かつ微細な化合物の生成を促進させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平2-277764号公報
【文献】特開平3-64431号公報
【文献】特開平8-49057号公報
【文献】特開平8-311603号公報
【文献】特開平11-201168号公報
【文献】特開2001-323939号公報
【文献】特開2007-232201号公報
【文献】特開2013-11010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~特許文献8に記載の鋼材を用いる場合、合金元素含有率の上昇に伴い、鋼材コストが上昇する。また、特許文献1~特許文献8に記載の鋼材を用いる場合、合金元素含有率の上昇に伴い、靱性の低下並びに加工性(鍛造性、切削性、研削性など)低下及び浸炭性低下による加工コストの上昇を招くおそれがある。
【0007】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものである。より具体的には、本発明は、合金元素含有率の上昇に伴う鋼材コスト上昇及び加工コスト上昇を抑制しつつ、耐摩耗性及び靱性を確保することができる軸受部品及び転がり軸受を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る軸受部品は、表面に拡散層を備えるクロムモリブデン鋼製の軸受部品である。拡散層は、複数の化合物粒と、複数のマルテンサイトブロックとを含む。化合物粒の平均粒径は、0.3μm以下である。拡散層中における化合物粒の面積比率は3パーセント以上である。マルテンサイトブロックの最大粒径は、3.8μm以下である。
【0009】
上記の軸受部品において、結晶粒径が1.0μm以下のマルテンサイトブロックは、第1群を構成していてもよい。第1群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.55以上0.75以下であってもよい。
【0010】
上記の軸受部品において、マルテンサイトブロックは、第2群に属するマルテンサイトブロックと、第3群に属するマルテンサイトブロックとからなっていてもよい。第3群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値は、第2群に含まれるマルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値よりも大きくてもよい。第3群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5以上であってもよい。第3群に属する最も結晶粒径が大きいマルテンサイトブロック以外の第3群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5未満であってもよい。第3群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径は、0.7μm以上1.4μm以下であってもよい。
【0011】
上記の軸受部品において、マルテンサイトブロックは、第4群に属するマルテンサイトブロックと、第5群に属するマルテンサイトブロックとからなっていてもよい。第5群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値は、第4群に含まれるマルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値よりも大きくてもよい。第5群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.7以上であってもよい。第5群に属する最も結晶粒径が大きいマルテンサイトブロック以外の第5群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.7未満であってもよい。第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径は、0.6μm以上1.1μm以下であってもよい。
【0012】
上記の軸受部品において、マルテンサイトブロックは、第2群に属するマルテンサイトブロックと、第3群に属するマルテンサイトブロックとからなっていてもよい。第3群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値は、第2群に含まれるマルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値よりも大きくてもよい。第3群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5以上であってもよい。第3群に属する最も結晶粒径が大きいマルテンサイトブロックを除く第3群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.5未満であってもよい。第3群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、2.5以上2.8以下であってもよい。
【0013】
上記の軸受部品において、マルテンサイトブロックは、第4群に属するマルテンサイトブロックと、第5群に属するマルテンサイトブロックとからなっていてもよい。第5群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値は、第4群に含まれるマルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値よりも大きくてもよい。第5群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.7以上であってもよい。第5群に属する最も結晶粒径が大きいマルテンサイトブロックを除く第5群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.7未満であってもよい。第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、2.4以上2.6以下であってもよい。
【0014】
上記の軸受部品において、拡散層中における旧オーステナイト粒の平均粒径は、8μm以下であってもよい。
【0015】
上記の軸受部品において、表面と表面から10μmの距離にある位置との間にある拡散層中における平均炭素濃度は、0.7質量パーセント以上であってもよい。表面と表面から10μmの距離にある位置との間にある拡散層中における平均窒素濃度は、0.2質量パーセント以上であってもよい。
【0016】
上記の軸受部品において、クロムモリブデン鋼は、JIS規格に定めるSCM435であってもよい。
【0017】
本発明の一態様に係る転がり軸受は、内周面に第1軌道面が設けられたクロムモリブデン鋼製の外輪と、外周面に第2軌道面が設けられ、かつ、第2軌道面が第1軌道面に対向するように配置されるクロムモリブデン鋼製の内輪と、第1軌道面と第2軌道面との間で転動自在に配置され、かつ、転動面を有するクロムモリブデン鋼製の転動体とを備える。第1軌道面、第2軌道面及び転動面の少なくとも1つには、拡散層が設けられる。拡散層は、複数の化合物粒と、複数のマルテンサイトブロックとを含む。化合物粒の平均粒径は、0.3μm以下である。拡散層中における化合物粒の面積比率は3パーセント以上である。マルテンサイトブロックの最大粒径は、3.8μm以下である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様に係る軸受部品及び転がり軸受は、クロムモリブデン鋼製である。そのため、合金元素含有量が相対的に低く、鋼材コスト及び加工コストを抑制することが可能である。
【0019】
本発明の一態様に係る軸受部品及び転がり軸受の拡散層においては、化合物粒の平均粒径が0.3μm以下であり、かつ、化合物粒の面積比率が3パーセント以上である。すなわち、本発明の一態様に係る軸受部品及び転がり軸受の拡散層においては、相対的に硬質かつ微細な化合物が、表面近傍に多く分散している。また、本発明の一態様に係る軸受部品及び転がり軸受の拡散層においては、マルテンサイトブロックの最大粒径が3.8μm以下である。したがって、本発明の一態様に係る軸受部品及び転がり軸受においては、マルテンサイトブロックの微細化及び硬質かつ微細な化合物の分散に伴う強化により、表面における靱性を損なうことなく、耐摩耗性を改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図4】実施形態に係る軸受部品の製造方法を示す工程図である。
【
図5】実施形態に係る軸受部品の製造方法におけるヒートパターンを示すグラフである。
【
図6】実施形態に係る転がり軸受100の断面図である。
【
図7】試料1に対するEPMAによる炭素濃度及び窒素濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図8】試料3に対するEPMAによる炭素濃度及び窒素濃度の測定結果を示すグラフである。
【
図9】試料1の表面近傍における電子顕微鏡像である。
【
図10】試料2の表面近傍における電子顕微鏡像である。
【
図11】試料3の表面近傍における電子顕微鏡像である。
【
図12】試料4の表面近傍における電子顕微鏡像である。
【
図13】試料2の表面近傍におけるEBSD画像である。
【
図14】試料4の表面近傍におけるEBSD画像である。
【
図15】試料1の表面近傍における光学顕微鏡像である。
【
図16】試料3の表面近傍における光学顕微鏡像である。
【
図17】試料1及び試料3の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径を示すグラフである。
【
図18】試料2及び試料4の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径を示すグラフである。
【
図19】試料1及び試料3の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比を示すグラフである。
【
図20】試料2及び試料4の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比を示すグラフである。
【
図21】試料5及び試料6に対するシャルピ-衝撃試験結果を示すグラフである。
【
図22】シャルピ-衝撃試験が行われた後の試料5のノッチ側表面における電子顕微鏡像である。
【
図23】シャルピ-衝撃試験が行われた後の試料6のノッチ側表面における電子顕微鏡像である。
【
図24】試料7及び試料8に対する転動疲労試験結果を示すグラフである。
【
図25】試料9及び試料10に対する摩耗試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態の詳細を、図面を参照して説明する。なお、以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の符号を付するものとし、重複する説明は繰り返さない。
【0022】
(実施形態に係る軸受部品)
以下に、実施形態に係る軸受部品の構成を説明する。
【0023】
図1は、実施形態に係る軸受部品の上面図である。
図2は、
図1のII-IIにおける断面図である。
図1及び
図2に示すように、実施形態に係る軸受部品は、例えば深溝玉軸受の内輪10である。実施形態に係る軸受部品は、これに限られるものではない。実施形態に係る軸受部品は、例えば、深溝玉軸受の外輪であってもよく、深溝玉軸受の転動体であってもよい。
【0024】
内輪10は、クロムモリブデン鋼により形成されている。内輪10に用いられるクロムモリブデン鋼は、例えばJIS規格(JIS G 4053:2008)に規定されるSCM鋼種に属する鋼である。内輪10に用いられるクロムモリブデン鋼は、JIS規格に規定されるSCM435であってもよい。
【0025】
内輪10は、表面を有している。より具体的には、内輪10は、内周面10aと、外周面10bとを有している。内周面10aは、軸が取り付けられる側の面である。外周面10bは、内輪10の軌道面を構成する面である。
【0026】
図3は、
図2の領域IIIにおける拡大図である。
図3に示すように、内輪10は、表面(外周面10b)において、拡散層11を有している。拡散層11は、窒素及び炭素の濃度が、内輪10を構成するクロムモリブデン鋼中の窒素及び炭素の濃度よりも高くなっている部分である。拡散層11の深さDは、例えば1mm以上1.5mm以下である。
【0027】
拡散層11は、複数の化合物粒と、複数のマルテンサイトブロックとを含有している。化合物粒は、鉄(Fe)の炭化物、鉄の窒化物又は鉄の炭窒化物の結晶粒である。より具体的には、化合物粒は、セメンタイト(Fe3C)の鉄サイトの一部がクロムによって置換されており、炭素(C)サイトの一部が窒素(N)により置換されている化合物(すなわち、(Fe,Cr)3(C,N)により示される化合物)の結晶粒である。
【0028】
拡散層11中における化合物粒の平均粒径は、0.3μm以下である。拡散層11中における化合物粒の平均粒径は、0.25μm以下であることが好ましい。拡散層11中における化合物粒の面積比率は、3パーセント以上である。拡散層11中における化合物粒の面積比率は、8パーセント以上であることが好ましい。拡散層11中における化合物粒の面積比率は、例えば10パーセント以下である。
【0029】
なお、拡散層11中における化合物粒の平均粒径及び面積比率は、以下の方法で測定される。第1に、拡散層11の断面研磨が行われる。第2に、研磨面の腐食が行われる。第3に、腐食が行われた研磨面に対して、SEM(Scanning Electron Microscopy)撮影が行われる(以下においては、SEM撮影によって得られた画像を、「SEM画像」という)。なお、SEM画像は、十分な数(20個以上)の化合物粒が含まれるように撮影される。第4に、得られたSEM画像に対して画像処理を行うことにより、当該SEM画像中における各々の化合物粒の面積及び化合物粒の総面積が算出される。
【0030】
化合物粒の円相当径と化合物粒の面積との間には、π×(化合物粒の円相当径)2/4=化合物粒の面積との関係が成立する。そのため、当該SEM画像中に表示されている各々の化合物粒の面積を4/πで除した値の平方根を計算することにより、当該SEM画像中に表示されている各々の化合物粒の円相当径が算出される。当該SEM画像中に表示されている各々の化合物粒の円相当径の合計を当該SEM画像中に表示されている化合物粒の数で除した値が、拡散層11中における化合物粒の平均粒径とされる。当該SEM画像中に表示されている化合物粒の総面積を当該SEM画像の面積で除した値が、拡散層11中における化合物粒の面積比率とされる。
【0031】
マルテンサイトブロックは、結晶方位が揃った結晶により構成されているマルテンサイト相のブロックである。マルテンサイト相は、炭素が固溶した鉄のオーステナイト相を急冷することにより得られる非平衡相である。第1のマルテンサイト相のブロックの結晶方位と第1のマルテンサイト相のブロックに隣接する第2のマルテンサイト相のブロックの結晶方位とのずれが15°以上である場合、第1のマルテンサイト相のブロックと第2のマルテンサイト相のブロックとは、異なるマルテンサイトブロックである。他方、第1のマルテンサイト相のブロックの結晶方位と第1のマルテンサイト相のブロックに隣接する第2のマルテンサイト相のブロックの結晶方位とのずれが15°未満である場合、第1のマルテンサイト相のブロックと第2のマルテンサイト相のブロックとは、1つのマルテンサイトブロックを構成している。
【0032】
拡散層11中におけるマルテンサイトブロックの最大粒径は、3.8μm以下である。拡散層11中におけるマルテンサイトブロックの最大粒径は、例えば3.6μm以上である。
【0033】
結晶粒径が1μm以下の拡散層11中に含まれるマルテンサイトブロックは、第1群を構成している。拡散層11中に含まれているマルテンサイトブロックの総面積に対する第1群を構成しているマルテンサイトブロックの面積比率は、0.55以上0.75以下であることが好ましい。
【0034】
拡散層11に含まれるマルテンサイトブロックは、第2群と、第3群とに区分されていてもよい。第2群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値は、第3群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値よりも小さい。第3群に属するマルテンサイトブロックの総面積を拡散層11に含まれるマルテンサイトブロックの総面積で除した値は、0.5以上である。第3群に属する結晶粒径が最も大きいマルテンサイトブロックを除く第3群に属するマルテンサイトブロックの総面積を拡散層11に含まれるマルテンサイトブロックの総面積で除した値は、0.5未満である。
【0035】
このことを別の観点からいえば、第2群に含まれるマルテンサイトブロックと第3群に属するマルテンサイトブロックとは、以下の方法により区分される。すなわち、第1に、各々のマルテンサイトブロックを、結晶粒径が最も小さいものから順次第1群に割り当てていくとともに、マルテンサイトブロックの総面積に対する第2群に割り当てられたマルテンサイトブロックの総面積を順次計算していく。第2に、マルテンサイトブロックの総面積に対する第2群に割り当てられたマルテンサイトブロックの総面積の割合が50パーセントを超えない限界に達した時点で、第2群へのマルテンサイトブロックの割り当てを停止する。第3に、第2群に割り当てられていないマルテンサイトブロックを、第3群に割り当てる。
【0036】
好ましくは、第3群に含まれるマルテンサイトブロックの平均粒径は、0.7μm以上1.4μm以下である。好ましくは、第3群に含まれるマルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、2.5以上2.8以下である。
【0037】
拡散層11に含まれるマルテンサイトブロックは、第4群と、第5群とに区分されていてもよい。第4群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最大値は、第5群に属するマルテンサイトブロックの結晶粒径の最小値よりも小さい。第5群に属するマルテンサイトブロックの総面積を拡散層11に含まれるマルテンサイトブロックの総面積で除した値は、0.7以上である。第5群に属する結晶粒径が最も大きいマルテンサイトブロックを除く第5群に属するマルテンサイトブロックの総面積を拡散層11に含まれるマルテンサイトブロックの総面積で除した値は、0.7未満である。
【0038】
このことを別の観点からいえば、第4群に含まれるマルテンサイトブロックと第5群に属するマルテンサイトブロックとは、以下の方法により区分される。すなわち、第1に、各々のマルテンサイトブロックを、結晶粒径が最も小さいものから順次第4群に割り当てていくとともに、マルテンサイトブロックの総面積に対する第4群に割り当てられたマルテンサイトブロックの総面積を順次計算していく。第2に、マルテンサイトブロックの総面積に対する第4群に割り当てられたマルテンサイトブロックの総面積の割合が30パーセントを超えない限界に達した時点で、第4群へのマルテンサイトブロックの割り当てを停止する。第3に、第4群に割り当てられていないマルテンサイトブロックを、第5群に割り当てる。
【0039】
好ましくは、第5群に含まれるマルテンサイトブロックの平均粒径は、0.7μm以上1.1μm以下である。好ましくは、第5群に含まれるマルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、2.4以上2.6以下である。
【0040】
拡散層11中におけるマルテンサイトブロックの結晶粒径及びマルテンサイトブロックのアスペクト比は、EBSD(Electron Backscattered Diffraction)法を用いて測定される。
【0041】
第1に、EBSD法に基づいて、拡散層11における断面画像が撮影される(以下においては、「EBSD画像」という)。なお、EBSD画像は、十分な数(20個以上)のマルテンサイトブロックが含まれるように撮影される。EBSD画像に基づいて、隣接するマルテンサイト相のブロックの結晶方位のずれが特定される。これにより、各々のマルテンサイトブロックの境界が特定される。第2に、特定されたマルテンサイトブロックの境界に基づいて、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイトブロックの面積及び形状が算出される。
【0042】
より具体的には、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイトブロックの面積を4/πで除した値の平方根を計算することにより、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイトブロックの円相当径が算出される。EBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックの円相当径のうち、最も大きな値を、拡散層11中におけるマルテンサイトブロックの最大粒径とする。
【0043】
上記のように算出された各々のマルテンサイトブロックの円相当径に基づいて、EBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックのうち、第1群に属するマルテンサイトブロックが決定される。EBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックのうち第1群に属するマルテンサイトブロックの総面積を、EBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックの総面積で除した値は、第1群に属する拡散層11中のマルテンサイトブロックの総面積を拡散層11中のマルテンサイトブロックの総面積により除した値とされる。
【0044】
上記のように算出された各々のマルテンサイトブロックの円相当径に基づいて、EBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックは、第2群と第3群とに分類される(又は、第4群と第5群とに分類される)。第3群(又は第5群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックの円相当径の合計を第3群(又は第5群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックの個数で除した値が、第3群に属する(又は第5群に属する)拡散層11中のマルテンサイトブロックの平均粒径とされる。
【0045】
EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイトブロックの形状から、EBSD画像に表示されている各々のマルテンサイトブロックの形状を最小二乗法により楕円近似する。この最小二乗法による楕円近似は、S. Biggin and D. J. Dingley, Journal of Applied Crystallography, (1977)10, 376-378に記載の方法にしたがって行われる。この楕円形状において、長軸の寸法を短軸の寸法で除することにより、EBSD法画像に表示されている各々のマルテンサイトブロックのアスペクト比が算出される。第3群(又は第5群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックのアスペクト比の合計を第3群(又は第5群)に分類されたEBSD画像に表示されているマルテンサイトブロックの個数で除した値が、第3群に属する(又は第5群に属する)拡散層11中のマルテンサイトブロックの平均アスペクト比とされる。
【0046】
拡散層11中には、複数の旧オーステナイト粒が含まれている。なお、旧オーステナイト粒は、保持工程S41及び保持工程S51において形成されるオーステナイト粒の結晶粒界(旧オーステナイト粒界)により画される領域である。旧オーステナイト粒の平均粒径は、8μm以下であることが好ましい。旧オーステナイト粒の平均粒径は、6μm以下であることがさらに好ましい。
【0047】
なお、拡散層11中における旧オーステナイト粒の平均粒径は、以下の方法で測定される。第1に、拡散層11の断面研磨が行われる。第2に、研磨面の腐食が行われる。第3に、腐食が行われた研磨面に対して、光学顕微鏡撮影が行われる(以下においては、光学顕微鏡撮影によって得られた画像を、「光学顕微鏡画像」という)。なお、光学顕微鏡画像は、十分な数(20個以上)の旧オーステナイト粒が含まれるように撮影される。第4に、得られた光学顕微鏡画像に対して画像処理を行うことにより、当該光学顕微鏡画像中における各々の旧オーステナイト粒の面積が算出される。
【0048】
光学顕微鏡画像に表示されている各々の旧オーステナイト粒の面積を4/πで除した値の平方根を計算することにより、光学顕微鏡像に表示されている各々の旧オーステナイト粒の円相当径が算出される。光学顕微鏡像に表示されている各々の旧オーステナイト粒の円相当径の合計を光学顕微鏡像に表示されている旧オーステナイト粒の数で除した値が、拡散層11中における旧オーステナイト粒の平均粒径とされる。
【0049】
内輪10の表面(外周面10b)と内輪10の表面から10μmの距離にある位置との間にある拡散層11中における平均炭素濃度は、0.7質量パーセント以上であることが好ましい。内輪10の表面(外周面10b)と内輪10の表面から10μmの距離にある位置との間にある拡散層11中における平均炭素濃度は、1.2質量パーセント以下であることが好ましい。
【0050】
内輪10の表面(外周面10b)と内輪10の表面から10μmの距離にある位置との間にある拡散層11中における平均窒素濃度は、0.2質量パーセント以上であることが好ましい。内輪10の表面(外周面10b)と内輪10の表面から10μmの距離にある位置との間にある拡散層11中における平均窒素濃度は、0.4質量パーセント以下であることが好ましい。
【0051】
内輪10の表面(外周面10b)と内輪10の表面から10μmの距離にある位置との間にある拡散層11中における平均炭素濃度及び平均窒素濃度は、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて測定される。
【0052】
(実施形態に係る軸受部品の製造方法)
以下に、実施形態に係る軸受部品の製造方法を説明する。
【0053】
図4は、実施形態に係る軸受部品の製造方法を示す工程図である。
図4に示すように、実施形態に係る軸受部品の製造方法は、準備工程S1と、浸炭窒化工程S2と、拡散工程S3と、一次焼き入れ工程S4と、二次焼き入れ工程S5と、焼き戻し工程S6と、後処理工程S7とを有している。
【0054】
準備工程S1においては、浸炭窒化工程S2、拡散工程S3、一次焼き入れ工程S4、二次焼き入れ工程S5、焼き戻し工程S6及び後処理工程S7を経ることで内輪10となる加工対象部材が準備される。加工対象部材は、JIS規格に定められるSCM鋼種等のクロムモリブデン鋼製である。
【0055】
浸炭窒化工程S2においては、加工対象部材の表面に対する浸炭窒化が行われる。浸炭窒化工程S2は、加工対象部材を、所定の温度(以下においては、「第1保持温度」という)において、所定の時間(以下においては、「第1保持時間」という)炉内に保持することにより行われる。炉内雰囲気には、例えば、吸熱型変成ガス(Rガス)及びアンモニア(NH3)を含有するガスが用いられる。第1保持温度は、例えば930℃以上940℃以下である。第1保持時間は、例えば10時間以上15時間以下である。
【0056】
拡散工程S3においては、浸炭窒化工程S2において加工対象部材の表面から導入された炭素及び窒素が加工対象部材の内部へと拡散する。拡散工程S3は、所定の温度(以下においては、「第2保持温度」という)において、所定の時間(以下においては、「第2保持時間」という)炉内に保持することにより行われる。炉内雰囲気には、例えば、吸熱型変成ガス(Rガス)及びアンモニア(NH3)を含有するガスが用いられる。第2保持温度は、例えば930℃以上940℃以下である。第2保持時間は、例えば5時間以上10時間以下である。
【0057】
拡散工程S3においては、以下の式(1)及び式(2)により定義されるαが、浸炭窒化工程S2よりも低くなるように調整される。αの調整は、式(1)及び式(2)から明らかなとおり、雰囲気中の一酸化炭素の量、二酸化炭素の量及び未分解のアンモニアの量を調整することにより、行われる。なお、雰囲気中の未分解のアンモニアの量は、0.1体積パーセント以上であることが好ましい。
【0058】
【0059】
一次焼き入れ工程S4においては、加工対象部材に対する焼き入れが行われる。一次焼き入れ工程S4は、保持工程S41と、冷却工程S42とを有している。保持工程S41は、加工対象部材を所定の温度(以下においては、「第3保持温度」という)において所定の時間(以下においては「第2保持時間」という)炉内に保持することにより、行われる。なお、一次焼き入れ工程S4においては、炉内の雰囲気に、アンモニアは含まれていない。第3保持温度は、鋼のA1変態点以上の温度であって、第1保持温度及び第2保持温度よりも低い温度である。第3保持温度は、例えば850℃以上930℃未満である。好ましくは、第3保持温度は、860℃以上880℃以下である。第3保持時間は、例えば0.5時間以上2時間以下である。冷却工程S42においては、加工対象部材の冷却が行われる。冷却工程S42は、例えば油冷により行われる。
【0060】
二次焼き入れ工程S5においては、加工対象部材の焼き入れが行われる。二次焼き入れ工程S5は、保持工程S51と、冷却工程S52とを有している。保持工程S51は、加工対象部材を所定の温度(以下においては、「第4保持温度」という)において所定の時間(以下においては「第4保持時間」という)炉内に保持することにより、行われる。なお、二次焼き入れ工程S5においては、炉内の雰囲気にアンモニアは含まれていない。第4保持温度は、加工対象部材を構成する鋼のA1変態点以上の温度であって、第3保持温度よりも低い温度である。第4保持温度は、例えば加工対象部材を構成する鋼のA1変態点以上850℃以下である。第4保持温度は、820℃以上840℃以下であることが好ましい。第4保持時間は、例えば1時間以上2時間以下である。冷却工程S52においては、加工対象部材の冷却が行われる。冷却工程S52は、例えば油冷により行われる。
【0061】
拡散層11中の化合物粒は、主として保持工程S41及び保持工程S51において析出する。鋼中における炭素及び窒素の固溶限は、保持温度が高くなるほど大きくなる(保持温度が低くなるほど小さくなる)。第3保持温度は、保持工程S41における拡散層11中に化合物粒が過大に析出することを避けるため、通常の焼き入れ時の保持温度よりも高く設定されている(通常の焼き入れ時よりも鋼中における炭素及び窒素の固溶限が相対的に広くなるように設定されている)。
【0062】
保持工程S51においては、保持工程S41において既に化合物粒が析出している。つまり、保持工程S51においては、母材中の炭素濃度及び窒素濃度が低下しており、保持工程S41よりも相対的に化合物粒が析出しにくくなっている。そのため、第4保持温度は、鋼中における窒素及び炭素の固溶限を狭くして保持工程S51における化合物粒の析出を促進するため、第3保持温度よりも低く設定されている。これにより、拡散層11中における化合物粒の面積比率と3パーセント以上とすることができる。また、第4保持温度を第3保持温度よりも低く設定することにより、保持工程S41及び保持工程S51において析出した化合物粒の粗大化を抑制することができるため、拡散層11中における化合物粒の平均粒径を0.3μm以下とすることができる。
【0063】
保持工程S41及び保持工程S51においては、上記のようにして多量かつ微細に析出させた化合物粒のピン止め効果によりオーステナイト結晶粒の成長が抑制され、オーステナイト結晶粒が微細なままとされる。マルテンサイト変態に際しては、1つのオーステナイト結晶粒内に複数のマルテンサイトブロックが形成される。このことを別の観点からいえば、1つのマルテンサイトブロックは、複数のオーステナイト結晶粒に跨って形成されることはない。そのため、オーステナイト結晶粒が微細化されるほど、それに含まれるマルテンサイトブロックも微細化される。
【0064】
焼き戻し工程S6においては、加工対象部材に対する焼き戻しが行われる。焼き戻し工程S6は、加工対象部材を、所定の温度(以下においては、「第5保持温度」という)において所定の時間(以下においては、「第5保持時間」という)炉内に保持した後に冷却することにより行われる。第5保持温度は、加工対象部材を構成する鋼のA1変態点以下の温度である。第5保持温度は、例えば150℃以上350℃以下である。第4保持時間は、例えば0.5時間以上5時間である。焼き戻し工程S6における冷却は、例えば空冷により行われる。
【0065】
図5は、実施形態に係る軸受部品の製造方法におけるヒートパターンを示すグラフである。
図5には、上記の第1保持温度~第5保持温度及び第1保持時間~第5保持時間の関係が模式的に示されている。
【0066】
後処理工程S7においては、加工対象部材に対する後処理が行われる。後処理工程S7においては、例えば、加工対象部材の洗浄、加工対象部材に対する研削、研磨等の機械加工等が行われる。以上により、実施形態に係る軸受部品の製造が行われる。
【0067】
(実施形態に係る転がり軸受の構成)
以下に、実施形態に係る転がり軸受100の構成を説明する。
【0068】
図6は、実施形態に係る転がり軸受100の断面図である。
図6に示すように、転がり軸受100は、例えば深溝玉軸受である。但し、実施形態に係る転がり軸受100は、これに限られるものではない。実施形態に係る転がり軸受100は、例えば円錐ころ軸受であってもよい。実施形態に係る転がり軸受100は、内輪10と、外輪20と、転動体30と、保持器40とを有している。内輪10の構成は、上記のとおりである。なお、内輪10の外周面10bにある軌道面を、第1軌道面という。
【0069】
外輪20は、クロムモリブデン鋼製である、外輪20には、例えばJIS規格に定めるSCM鋼種が用いられる。外輪20に用いられるクロムモリブデン鋼は、例えばJIS規格に定めるSCM435である。外輪20は、内周面20aと、外周面20bとを有している。内周面20aは、外輪20の軌道面(第2軌道面)を構成している。内輪10及び外輪20は、外周面10bと内周面20aとが対向するように配置されている。外輪20の表面(内周面20a)には、拡散層21が設けられている。拡散層21は、拡散層11と同様の構成を有している。
【0070】
転動体30は、クロムモリブデン鋼製である、転動体30には、例えばJIS規格に定めるSCM鋼種が用いられる。転動体30に用いられるクロムモリブデン鋼は、例えばJIS規格に定めるSCM435である。転動体30は、外周面10bと内周面20aとの間において、転動自在に配置されている。転動体30は、球形状を有している。
【0071】
転動体30は、表面30aを有している。表面30aは、転動体30の転動面を構成している。転動体30の表面30aには、拡散層31が設けられている。拡散層31は、拡散層11と同様の構成を有している。
【0072】
なお、外周面10b、内周面20a及び表面30aの全てに拡散層が設けられている必要はない。拡散層は、外周面10b、内周面20a及び表面30aの少なくとも1つに設けられていればよい。
【0073】
保持器40は、例えば樹脂材料により構成されている。保持器40は、リング状の形状を有している。保持器40は、内輪10と外輪20との間に配置されている。保持器40には、複数の貫通穴が設けられている。貫通穴は、内周面から外周面に向かう方向に、保持器40を貫通している。貫通穴は、保持器40の周方向において、等間隔で配置されている。貫通穴には、転動体30が配置されている。これにより、隣接する転動体30の周方向における間隔が保持されている。
【0074】
(実施形態に係る軸受部品及び実施形態に係る転がり軸受の効果)
以下に、実施形態に係る軸受部品及び実施形態に係る転がり軸受100の効果を説明する。
【0075】
実施形態に係る軸受部品は、クロムモリブデン鋼製である。そのため、実施形態に係る軸受部品においては、合金元素の含有率が相対的に低く、鋼材コストの増加及び加工コストの増加が抑制されている。
【0076】
拡散層11中における化合物粒の平均粒径は、0.3μm以下であり、拡散層11中における化合物粒の面積比率が3パーセント以上であるため、拡散層11中には、相対的に微細かつ多量の化合物粒が分散している。そのため、化合物粒のピン止め効果により、拡散層11中における旧オーステナイト粒が微細化され、ひいては拡散層11中におけるマルテンサイトブロックも微細化される。相対的に硬度の高い化合物粒が微細かつ多量に分散するほど、またマルテンサイトブロックの結晶粒径が微細化されるほど、拡散層11の硬度及び靱性が改善される。したがって、実施形態に係る軸受部品によると、合金元素含有率の上昇に伴う鋼材コスト上昇及び加工コスト上昇を抑制しつつ、軸受部品の耐摩耗性及び靱性を確保することができる。
【0077】
拡散層11中において、第1群に属するマルテンサイトブロックの総面積をマルテンサイトブロックの総面積により除した値は、0.55以上0.75以下である場合、拡散層11中における1.0μm以下の結晶粒径を有する微細なマルテンサイトブロックの比率が相対的に高くなる。そのため、この場合、軸受部品の耐摩耗性及び靱性をさらに改善することができる。
【0078】
拡散層11中において、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径が0.7μm以上1.4μm以下である場合、拡散層11中における微細なマルテンサイトブロックの比率が相対的に高くなる。そのため、この場合、軸受部品の耐摩耗性及び靱性をさらに改善することができる。マルテンサイトブロックは、アスペクト比が小さいほど(1に近いほど)応力集中源となりにくい。そのため、拡散層11中において第3群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比が2.5以上2.8以下である場合、軸受部品の靱性をさらに改善することができる。
【0079】
拡散層11中において、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径が0.6μm以上1.1μm以下である場合、拡散層11中における微細なマルテンサイトブロックの比率が相対的に高くなる。そのため、この場合、軸受部品の耐摩耗性及び靱性をさらに改善することができる。拡散層11中において第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比が2.4以上2.6以下である場合、軸受部品の靱性をさらに改善することができる。
【0080】
1つのオーステナイト粒からは、複数のマルテンサイトブロックが生じ、また1つのマルテンサイトブロックは、複数のオーステナイト粒に跨って形成されない。そのため、旧オーステナイト粒の結晶粒径が小さくなるほど、その粒内に形成されるマルテンサイトブロックの結晶粒径は小さくなる。したがって、拡散層11中における旧オーステナイト粒の平均粒径が8μm以下である場合、拡散層11中におけるマルテンサイトブロックの粒径をさらに微細化することができ、軸受部品の耐摩耗性及び靱性をさらに改善することができる。
【0081】
実施形態に係る転がり軸受100においては、外周面10b、内周面20a及び表面30aの少なくとも1つには、拡散層11と同様の構成の拡散層が設けられている。そのため、実施形態に係る転がり軸受100によると、合金元素含有率の上昇に伴う鋼材コスト上昇及び加工コスト上昇を抑制しつつ、転がり軸受の耐摩耗性及び靱性を確保することができる。
【実施例】
【0082】
以下に、実施形態に係る軸受部品及び実施形態に係る転がり軸受100の効果を確認するために行った実験(以下において「本実験」という)を説明する。
【0083】
<試料>
本実験には、試料1~試料4が用いられた。試料1~試料4に用いられた鋼は、表1に示されるようにSCM435である。試料1及び試料3は、円錐ころ軸受の内輪であり、試料2及び試料4は、円錐ころ軸受の円錐ころである。
【0084】
【0085】
表2に示すように、試料1~試料4に対しては、第1保持温度が930℃以上940℃以下、第1保持時間が13時間の条件で浸炭窒化工程S2が行われた。試料1~試料4に対しては、第2保持温度が930℃以上940℃以下、第2保持時間が6時間の条件で拡散工程S3が行われた。なお、浸炭窒化工程S2及び拡散工程S3における雰囲気中の一酸化炭素量、二酸化炭素量、及びアンモニア量は、それぞれ11体積パーセント以上17体積パーセント以下、0.05体積パーセント以上0.15体積パーセント以下、0.1体積パーセント以上0.3体積パーセント以下とされた。
【0086】
試料1~試料4に対しては、第3保持温度が870℃、第3保持時間が1時間の条件で一次焼き入れ工程S4が行われた。試料1及び試料2に対しては、第4保持温度が830℃、第4保持時間が1.5時間の条件で二次焼き入れ工程S5が行われた。また、試料1~試料4に対しては、第5保持温度が180℃、第5保持時間が3時間の条件で焼き戻し工程S6が行われた。試料1~試料4に対しては、後処理工程S7として、研磨量が150μmの機械研磨が行われた。
【0087】
【0088】
<炭素濃度及び窒素濃度の測定>
図7は、試料1に対するEPMAによる炭素濃度及び窒素濃度の測定結果を示すグラフである。
図8は、試料3に対するEPMAによる炭素濃度及び窒素濃度の測定結果を示すグラフである。なお、
図7及び
図8においては、横軸は試料1及び試料3の表面からの距離(単位:mm)であり、縦軸は炭素濃度及び窒素濃度(単位:質量パーセント濃度)である。
【0089】
図7に示されるように、試料1の表面近傍においては、炭素濃度及び窒素濃度に、鋭いピークが多数確認された。この結果から、試料1においては、表面近傍に炭化物、窒化物及び炭窒化物等の微細な化合物粒が析出していることが実験的に確認された。また、試料1においては、表面と表面から10μmの距離にある位置との間の領域における平均炭素濃度が0.7パーセント以上1.2パーセント以下の範囲内にあり、当該領域における平均窒素濃度が0.2質量パーセント以上0.4質量パーセント以下の範囲内にあった。他方、
図8に示されるように、試料2の表面近傍において、炭素濃度及び窒素濃度に、鋭いピークが多数確認されなかった。この結果から、試料3においては、表面近傍に炭化物、窒化物及び炭窒化物等の微細な化合物粒が析出していないことが実験的に確認された。
【0090】
<組織観察>
図9は、試料1の表面近傍における電子顕微鏡像である。
図10は、試料2の表面近傍における電子顕微鏡像である。
図9及び
図10に示すように、試料1及び試料2の表面近傍においては、0.2μm以上3.0μm以下の化合物粒が多数析出していることが確認された。また、試料1及び試料2の表面近傍においては、化合物粒の平均粒径が約0.25μmであることが確認された。さらに、試料1及び試料2の表面近傍においては、化合物粒の面積比率が約8パーセントであることが確認された。
【0091】
図11は、試料3の表面近傍における電子顕微鏡像である。
図12は、試料4の表面近傍における電子顕微鏡像である。
図11及び
図12に示すように、試料3及び試料4の表面近傍においては、化合物粒の面積比率が約1パーセントであることが確認された。
【0092】
図13は、試料2の表面近傍におけるEBSD画像である。
図13に示すように、試料2の表面近傍においては、マルテンサイトブロックの最大粒径が3.6μm以上3.8μm以下の範囲内にあることが確認された。また、試料2の表面近傍においては、マルテンサイトブロックの面積の90パーセント以上を結晶粒径が2μm以下のマルテンサイトブロックが占めていることが確認された。さらに、試料2の表面近傍においては、マルテンサイトブロックの面積の55パーセント以上75パーセント以下を結晶粒径が1μm以下のマルテンサイトブロックが占めていることが確認された。
【0093】
図14は、試料4の表面近傍におけるEBSD画像である。
図14に示すように、試料4の表面近傍においては、マルテンサイトブロックの最大粒径が5.1μm以上7.3μm以下の範囲内にあることが確認された。また、試料4の表面近傍においては、マルテンサイトブロックの面積の65パーセント以上80パーセント以下を結晶粒径が2μm以下のマルテンサイトブロックが占めていることが確認された。さらに、試料4の表面近傍においては、マルテンサイトブロックの面積の35パーセント以上45パーセント以下を結晶粒径が1μm以下のマルテンサイトブロックが占めていることが確認された。
【0094】
図15は、試料1の表面近傍における光学顕微鏡像である。
図15に示すように、試料1の表面近傍においては、旧オーステナイト粒の平均粒径が4μm以上8μm以下の範囲にあり、旧オーステナイト粒の結晶粒径は1μm以上10μm以下の範囲で分布していることが確認された。
図16は、試料3の表面近傍における光学顕微鏡像である。
図16に示すように、試料3の表面近傍においては、旧オーステナイト粒の平均粒径が12μm以上25μm以下の範囲にあり、旧オーステナイト粒の結晶粒径は5μm以上100μm以下の広い範囲で分布していることが確認された。
【0095】
図17は、試料1及び試料3の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径を示すグラフである。なお、
図17においては、縦軸は平均粒径(単位:μm)を示している。
図18は、試料2及び試料4の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径を示すグラフである。なお、
図18においては、縦軸は平均粒径(単位:μm)を示している。
【0096】
図17に示すように、試料1の表面近傍においては、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径が約1.0μmであった。
図18に示すように、試料2の表面近傍においては、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径は約0.9μmであった。このことから、試料1及び試料2においては、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径が、0.7μm以上1.4μm以下の範囲内にあることが確認された。
【0097】
図17に示すように、試料1の表面近傍においては、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径が約0.8μmであった。
図18に示すように、試料2の表面近傍においては、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径は約0.7μmであった。このことから、試料1及び試料2においては、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径が、0.6μm以上1.1μmの範囲内にあることが確認された。
【0098】
他方で、試料3及び試料4の表面近傍においては、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径が、それぞれ約1.7μm、約2.2μmであった。また、試料3及び試料4の近傍においては、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均粒径は、それぞれ約1.3μm、約1.5μmであった。
【0099】
図19は、試料1及び試料3の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比を示すグラフである。なお、
図19においては、縦軸は平均アスペクト比を示している。
図20は、試料2及び試料4の表面近傍における第3群及び第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比を示すグラフである。なお、
図20においては、縦軸はアスペクト比を示している。
【0100】
図19に示すように、試料1の表面近傍においては、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比が、約2.8であった。
図20に示すように、試料2の表面近傍において、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、約2.8であった。このことから、試料1及び試料2においては、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比が2.5以上2.8以下の範囲内にあることが確認された。
【0101】
図19に示すように、試料1の表面近傍においては、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比が、約2.6であった。
図20に示すように、試料2の表面近傍において、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、約2.6であった。このことから、試料1及び試料2においては、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比が2.4以上2.6以下の範囲内にあることが確認された。
【0102】
他方で、試料3及び試料4の表面近傍においては、第3群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比が、それぞれ約3.2、約3.5であった。また、試料3及び試料4の近傍においては、第5群に属するマルテンサイトブロックの平均アスペクト比は、それぞれ約3.0、約3.1であった。
【0103】
<シャルピ-衝撃試験>
上記の試料1及び試料2と同様の方法にしたがって準備された試料5並びに上記の試料3及び試料4と同様の方法にしたがって準備された試料6に対して、シャルピ-衝撃試験が行われた。シャルピ-衝撃試験は、JIS規格(JIS Z 2242:2005)にしたがって行われた。試料5及び試料6には、ノッチ深さが2mm、ノッチ底曲率半径が1mmのUノッチが形成された。
【0104】
図21は、試料5及び試料6に対するシャルピ-衝撃試験結果を示すグラフである。なお、
図21においては、縦軸はシャルピ-衝撃値(単位:J/cm2)である。
図21に示すように、試料5のシャルピ-衝撃値は、試料6のシャルピ-衝撃値の1.5倍以上であることが確認された。
【0105】
図22は、シャルピ-衝撃試験が行われた後の試料5のノッチ側表面における電子顕微鏡像である。
図23は、シャルピ-衝撃試験が行われた後の試料6のノッチ側表面における電子顕微鏡像である。なお、
図22及び
図23においては、上側がノッチ側に対応している。
図22に示すように、試料5のシャルピ-衝撃試験後の破面においては、延性的な破壊であったことを示すディンプルが多数観察された。他方、
図23に示すように、試料6のシャルピ-衝撃試験後の破面においては、ディンプルが減少し、脆性破壊的な破面を呈していることが確認された。
【0106】
<異物混入潤滑下における転動疲労寿命試験>
試料7及び試料8に対して、異物混入潤滑下における転動疲労試験(以下においては、「転動疲労試験」という)が行われた。試料7及び試料8は、JIS規格30206型番の円錐ころ軸受である。
【0107】
試料7に用いられた内輪、外輪及び円錐ころは、上記の試料1及び試料2と同様の方法により準備された。試料8に用いられた内輪、外輪及び円錐ころは、上記の試料1及び試料2と同様の方法により準備された。転動疲労試験における潤滑は、タービン油VG56を用いた油浴潤滑とされた。転動疲労試験における荷重は17kN、外輪温度は65℃とされた。転動疲労試験においては、外輪を固定した状態で、内輪を2000rpmの回転速度で回転させた。
【0108】
転動疲労試験においては、L10寿命(試験開始から剥離が発生するまでの時間を統計的に解析し、累積破損確率が10パーセントとなるときの試験時間)、L50寿命(試験開始から剥離が発生するまでの時間を統計的に解析し、累積破損確率が50パーセントとなるときの試験時間)で評価を行った。
【0109】
図24は、試料7及び試料8に対する転動疲労試験結果を示すグラフである。なお、
図24において、横軸は寿命(単位:時間)、縦軸は累積破損確率(単位:パーセント)である。
図24に示すように、試料7においては、L
10寿命は89時間、L
50寿命は152時間であった。他方、試料8においては、L
10寿命は38時間、L
50寿命は76時間であった。このように、試料7は、試料8よりも2倍以上転動疲労寿命が長いことが確認された。
【0110】
<摩耗試験>
上記の試料1及び試料2と同様の方法にしたがって準備された試料9並びに上記の試料3及び試料4と同様の方法にしたがって準備された試料10に対して、摩耗試験が行われた。摩耗試験は、サバン型摩耗試験機を用いて行われた。試料9及び試料10の形状は、平板状であり、表面粗さ(算術平均粗さ)Raは、0.010μmとされた。試験時の荷重は50Nとされ、相手材に対する相対速度は0.05m/sとされた。試験時間は60分とされ、潤滑油にはモービルベロシティオイルNo.3(登録商標)(VG2)が用いられた。摩耗試験においては、試験後における各試料の摩耗量から比摩耗量を算出することにより、耐摩耗性を評価した。
【0111】
図25は、試料9及び試料10に対する摩耗試験結果を示すグラフである。
図25において、縦軸は比摩耗量(単位:10×10-10mm3/N・m)である。
図25に示すように、試料9における比摩耗量は、試料10における比摩耗量の20パーセント程度であった。
【0112】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0113】
上記の実施形態は、クロムモリブデン鋼製の軸受部品及びそれを用いた転がり軸受に特に有利に適用される。
【符号の説明】
【0114】
10 内輪、10a 内周面、10b 外周面、11 拡散層、20 外輪、20a 内周面、20b 外周面、21 拡散層、30 転動体、30a 表面、40 保持器、100 転がり軸受、S1 準備工程、S2 浸炭窒化工程、S3 拡散工程、S4 一次焼き入れ工程、S41 保持工程、S42 冷却工程、S5 二次焼き入れ工程、S51 保持工程、S52 冷却工程、S6 焼き戻し工程、S7 後処理工程、D 深さ。