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特許7049536金属被覆樹脂粒子及びその製造方法、金属被覆樹脂粒子を含む導電性ペースト並びに導電性フィルム
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  • 特許-金属被覆樹脂粒子及びその製造方法、金属被覆樹脂粒子を含む導電性ペースト並びに導電性フィルム 図1
  • 特許-金属被覆樹脂粒子及びその製造方法、金属被覆樹脂粒子を含む導電性ペースト並びに導電性フィルム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-29
(45)【発行日】2022-04-06
(54)【発明の名称】金属被覆樹脂粒子及びその製造方法、金属被覆樹脂粒子を含む導電性ペースト並びに導電性フィルム
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/52 20060101AFI20220330BHJP
   C23C 18/42 20060101ALI20220330BHJP
   B22F 1/18 20220101ALI20220330BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20220330BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20220330BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220330BHJP
   H01B 1/02 20060101ALI20220330BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220330BHJP
【FI】
C23C18/52 B
C23C18/42
B22F1/18
H01B5/00 C
H01B5/00 H
H01B1/00 C
H01B1/00 H
H01B1/00 E
H01B5/00 E
H01B1/22 A
H01B1/02 Z
H01B13/00 501Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021568739
(86)(22)【出願日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2021023899
【審査請求日】2021-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2020115826
(32)【優先日】2020-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】木之下 啓
(72)【発明者】
【氏名】坂谷 修
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/155924(WO,A1)
【文献】特開平02-118079(JP,A)
【文献】特開2003-197028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
B22F 1/00-9/30
H01B 1/00-1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状のコア樹脂粒子と、前記コア樹脂粒子の表面に設けられた金属被覆層を有する金属被覆樹脂粒子であって、
前記金属被覆層が、前記コア樹脂粒子の表面に形成された第1銀層と、前記第1銀層の表面に形成された錫(Sn)、酸化錫(Snxy)及び水酸化錫(Snx(OH)y)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属錫及び/又は錫化合物からなる錫中間層(ただし、0.1<x<4、0.1<y<5)と、前記錫中間層の表面に形成された第2銀層とにより構成されたことを特徴とする金属被覆樹脂粒子。
【請求項2】
前記第1銀層が10nm~100nmの平均厚さを有し、前記錫中間層が2nm~20nmの平均厚さを有し、前記第2銀層が50nm~150nmの平均厚さを有する、平均粒径が1μm~110μmである請求項1記載の金属被覆樹脂粒子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の金属被覆樹脂粒子を70質量%~90質量%、バインダ樹脂を10質量%~30質量%それぞれ含む導電性ペースト。
【請求項4】
導電性ペーストを100質量%とするとき、請求項1又は2記載の金属被覆樹脂粒子を10質量%~80質量%、球状又はアスペクト比(長径/短径)が5以下である扁平状の銀粒子を10質量%~70質量%、バインダ樹脂を10質量%~30質量%それぞれ含む導電性ペースト。
【請求項5】
請求項3記載の導電性ペーストを使用した導電性フィルム。
【請求項6】
請求項4記載の導電性ペーストを使用した導電性フィルム。
【請求項7】
球状のコア樹脂粒子を錫化合物の水溶液に混合して前記コア樹脂粒子の表面に錫を吸着させて錫吸着層を形成する工程と、
前記表面に錫吸着層が形成されたコア樹脂粒子を水に分散させたスラリーに、所定量の銀塩及び銀錯体化剤を含む水溶液の一部を、還元剤及びpH調整剤とともに滴下して混合し、この混合液中で前記コア樹脂粒子に無電解銀めっきを行って、前記錫吸着層を第1銀層に置換形成する工程と、
前記混合液を攪拌しながら所定時間保持して、前記第1銀層の表面に錫中間層を形成する工程と、
前記混合液に前記所定量の銀塩及び銀錯体化剤を含む水溶液の残部を、前記還元剤及び前記pH調整剤とともに更に滴下して混合し、この混合液中で前記コア樹脂粒子に無電解銀めっきを続けて行って、前記錫中間層の表面に第2銀層を形成する工程とを含む金属被覆樹脂粒子の製造方法。
【請求項8】
前記球状のコア樹脂粒子を錫化合物の水溶液に混合するときの前記錫化合物の水溶液の温度が45℃を超え90℃以下である請求項記載の金属被覆樹脂粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性材料に含まれる導電性フィラーとして好適な金属被覆樹脂粒子及びその製造方法に関する。また本発明は上記金属被覆樹脂粒子を含む導電性ペースト及び導電性フィルムに関するものである。なお、本願は、2020年7月3日に、日本に出願された特願2020-115826号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
鉛はんだ又は非鉛はんだを代替する導電性材料として、樹脂粒子に銀を被覆した銀被覆樹脂粒子と樹脂とを混合した導電性ペースト、導電性スペーサ、導電性フィルム、ダイアタッチフィルム等の導電性接着剤が知られている。導電性接着剤は、太陽電池パネル、液晶ディスプレイ、タッチパネル等の電子機器、電子表示機器又は半導体素子等が備える電極又は電気配線等の電子部品を形成する材料に使用されている。
【0003】
従来、球状樹脂粒子と、この球状樹脂粒子の表面に設けられた錫吸着層と、この錫吸着層の表面に被覆された銀を具備し、銀被覆球状樹脂粒子100質量部に対して、銀の量が2~80質量部であり、かつX線回折法により測定される銀の結晶子径が18~24nmであることを特徴とする銀被覆球状樹脂粒子が開示されている(例えば、特許文献1(請求項1、請求項6、段落[0011])、段落[0013]、段落[0026]参照。)。この銀被覆球状樹脂粒子は、球状樹脂粒子に、錫化合物の水溶液による前処理を行う工程と、 次いで、球状樹脂粒子に、還元剤を用いて無電解銀めっきを行う工程を有し、前処理において、錫化合物の水溶液の温度を20~45℃とすることにより製造される。特許文献1には、この方法によれば、導電性に優れ、かつ球状樹脂粒子と銀の密着性に優れ、導電性フィラーに適した銀被覆球状樹脂粒子を容易に製造できる旨が記載されている。
【0004】
特許文献1に示された銀被覆球状樹脂粒子では、この銀被覆球状樹脂粒子にバインダ樹脂を混合して導電性ペーストを調製し、この導電性ペーストを例えば銅等からなる回路層と半導体チップとの間に塗布し乾燥・硬化させることにより導電性膜を形成した場合、この導電性膜が回路層に半導体チップを積層接着するとともに回路層及び半導体チップ間の導電性を確保する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2012/023566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示された銀被覆球状樹脂粒子は、球状樹脂粒子と銀の密着性に優れるけれども、上記導電性膜に厳しいヒートサイクルが負荷されて熱応力が繰り返し作用するときには、樹脂粒子と銀の双方の熱膨張率の差から、熱応力を十分に緩和できずに球状樹脂粒子の表面から銀被覆層が剥離することがあり、その剥離した部分が導電性膜のクラックの起点となり導電性を低下させるため、球状樹脂粒子に対する銀被覆層のより一層高い密着性が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、導電性フィラーとして導電性膜に用いてこの導電性膜に厳しいヒートサイクルが負荷されたときにコア樹脂粒子に対する金属被覆層の密着性に優れた金属被覆樹脂粒子を提供することにある。本発明の別の目的は、導電性と熱伝導性が高い導電性フィルムを形成できる導電性ペースト及び導電性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、球状のコア樹脂粒子と、前記コア樹脂粒子の表面に設けられた金属被覆層を有する金属被覆樹脂粒子であって、前記金属被覆層が、前記コア樹脂粒子の表面に形成された第1銀層と、前記第1銀層の表面に形成された錫(Sn)、酸化錫(Snxy)及び水酸化錫(Snx(OH)y)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属錫及び/又は錫化合物からなる錫中間層(ただし、0.1<x<4、0.1<y<5)と、前記錫中間層の表面に形成された第2銀層とにより構成されたことを特徴とする金属被覆樹脂粒子である。
【0009】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記第1銀層が10nm~100nmの平均厚さを有し、前記錫中間層が2nm~20nmの平均厚さを有し、前記第2銀層が50nm~150nmの平均厚さを有する、平均粒径が1μm~110μmである金属被覆樹脂粒子である。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の金属被覆樹脂粒子を70質量%~90質量%、バインダ樹脂を10質量%~30質量%それぞれ含む導電性ペーストである。
【0011】
本発明の第4の観点は、導電性ペーストを100質量%とするとき、第1又は第2の観点の金属被覆樹脂粒子を10質量%~80質量%、球状又はアスペクト比(長径/短径)が5以下である扁平状の銀粒子を10質量%~70質量%、バインダ樹脂を10質量%~30質量%それぞれ含む導電性ペーストである。
【0012】
本発明の第5の観点は、第3の観点の導電性ペーストを使用した導電性フィルムである。
【0013】
本発明の第6の観点は、第4の観点の導電性ペーストを使用した導電性フィルムである。
【0014】
本発明の第7の観点は、球状のコア樹脂粒子を錫化合物の水溶液に混合して前記コア樹脂粒子の表面に錫を吸着させて錫吸着層を形成する工程と、前記表面に錫吸着層が形成されたコア樹脂粒子を水に分散させたスラリーに、所定量の銀塩及び銀錯体化剤を含む水溶液(以下、銀塩等ということもある。)の一部を、還元剤及びpH調整剤とともに滴下して混合し、この混合液中で前記コア樹脂粒子に無電解銀めっきを行って、前記錫吸着層を第1銀層に置換形成する工程と、前記混合液を攪拌しながら所定時間保持して、前記第1銀層の表面に錫中間層を形成する工程と、前記混合液に前記所定量の銀塩及び銀錯体化剤を含む水溶液(銀塩等)の残部を、前記還元剤及び前記pH調整剤とともに更に滴下して混合し、この混合液中で前記コア樹脂粒子に無電解銀めっきを続けて行って、前記錫中間層の表面に第2銀層を形成する工程とを含む金属被覆樹脂粒子の製造方法である。
【0016】
本発明の第の観点は、第7の観点に基づく発明であって、前記球状のコア樹脂粒子を錫化合物の水溶液に混合するときの前記錫化合物の水溶液の温度が45℃を超え90℃以下である金属被覆樹脂粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の観点の球状の金属被覆樹脂粒子は、球状のコア樹脂粒子と、このコア樹脂粒子の表面に設けられた金属被覆層を有する。そしてこの金属被覆層がコア樹脂粒子の表面に形成された第1銀層と、この第1銀層の表面に形成された錫中間層と、この錫中間層の表面に形成された第2銀層とにより構成される。第1銀層と第2銀層の間に錫中間層を有することにより、コア樹脂粒子表面に形成される銀層の厚さが二分される。金属被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして導電性膜に用いてこの導電性膜に厳しいヒートサイクルが負荷されたときに、錫中間層は熱応力を緩和する作用があるため、金属被覆層はコア樹脂粒子の表面から剥離しにくく、金属被覆層はコア樹脂粒子に対して密着性に優れ、これにより導電性と熱伝導性の高い導電性膜が得られる。
【0018】
本発明の第2の観点の球状の金属被覆樹脂粒子は、第1銀層、錫中間層、第2銀層がそれぞれ所定の厚さ範囲を有することにより、金属被覆層に厳しいヒートサイクルが負荷され、熱応力が繰り返しかかったときに、金属被覆層はコア樹脂粒子の表面からより一層剥離しにくく、金属被覆層はコア樹脂粒子に対してより密着性に優れ、これにより導電性と熱伝導性のより高い導電性膜が得られる。
【0019】
本発明の第3及び第4の観点の導電性ペーストは、上記金属被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして含有することにより、この導電性ペーストで第5及び第6の観点の導電性フィルムを形成し、この導電性フィルムにて厳しいヒートサイクルが負荷されたときに、従来の金属被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして含む導電性フィルムに比べて、電気抵抗や熱伝導度が劣化しない導電性フィルムを形成することができる。特に第4の観点の導電性ペーストは、球状又はアスペクト比(長径/短径)が5以下である扁平状の銀粒子を導電性フィラーとして更に含むため、金属被覆樹脂粒子と銀粒子の接触割合が増加することにより、導電性及び熱伝導性をより高める効果を有する。
【0020】
本発明の第7の観点の金属被覆樹脂粒子の製造方法では、先ず、コア樹脂粒子の表面に形成された錫吸着層を、所定量の銀塩等の一部を滴下し混合することにより、混合液中で錫を銀で置換して第1銀層を形成する。次いで混合液を撹拌しながら所定時間保持することにより第1銀層の表面に錫中間層を形成する。次に所定量の銀塩等の残部を混合液に滴下し混合することにより、錫中間層の表面に第2銀層を形成する。こうすることにより、コア樹脂粒子表面に第1銀層、錫中間層及び第2銀層の三層からなる金属被覆層が形成される。ここで錫中間層は、銀層の厚さを二分するため、金属被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして導電性膜に用いてこの導電性膜に厳しいヒートサイクルが負荷されたときに、熱応力を緩和する。この結果、金属被覆層がコア樹脂粒子の表面から剥離しにくく、金属被覆層がコア樹脂粒子に対して密着性に優れた金属被覆樹脂粒子を製造することができる。
【0022】
本発明の第の観点の金属被覆樹脂粒子の製造方法では、前記球状のコア樹脂粒子を錫化合物の水溶液に混合するときの前記錫化合物の水溶液の温度が45℃を超え90℃以下であるため、前記水溶液中の錫イオンのコア樹脂粒子表面への錫の吸着量が増加し、第1銀層の厚さを大きくすることができる。

【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る金属被覆樹脂粒子全体を示す断面模式図とその一部分を拡大して示す断面模式図である。
図2図2(a)は試験例1で得られた導電性ペーストを用いた接合体の冷熱サイクル試験後の導電性膜中の金属被覆樹脂粒子を走査型電子顕微鏡(3万倍)で撮影した写真図である。図2(b)は図2(a)に示した球状の金属被覆樹脂粒子の第1銀層、錫中間層及び第2銀層の部分を拡大して透過型電子顕微鏡(10万倍)で撮影した写真図である。
図3】本発明の実施形態に係る金属被覆樹脂粒子の製造方法を示すフロー図である。
図4】比較試験例1で得られた導電性ペーストを用いた接合体の冷熱サイクル試験後の導電性膜中の金属被覆樹脂粒子を走査型電子顕微鏡(3万倍)で撮影した写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0025】
〔金属被覆樹脂粒子〕
まず、本実施形態の球状の金属被覆樹脂粒子について説明する。図1に示すように、本実施形態の球状の金属被覆樹脂粒子10は、球状のコア樹脂粒子11と、この球状のコア樹脂粒子11を被覆する金属被覆層12とから構成される。金属被覆層12は、コア樹脂粒子11の表面に形成された第1銀層12aと、この第1銀層12aの表面に形成された錫中間層12bと、この錫中間層12bの表面に形成された第2銀層12cとにより構成される。
【0026】
(コア樹脂粒子)
コア樹脂粒子11は、平均粒径が1μm以上110μm以下であることが好ましく、1μm以上50μm以下であることが更に好ましい。平均粒径が1μm未満では樹脂粒子の表面積が大きくなり、導電性粒子として必要な導電性を得るための銀を多くする必要がある。平均粒径が110μmより大きいと銀被覆樹脂粒子を微細なパターンに適用することが困難になり易い。金属被覆樹脂粒子10は、コア樹脂粒子11の平均粒径と、次に述べる金属被覆層12の厚さを考慮すると、その平均粒径は1μm~50μm、好ましくは2μm~30μmである。この平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計(島津製作所社製 型式名:SDLD200VER)により測定した体積基準のメジアン径である。
【0027】
コア樹脂粒子11は、球形に近いほど好ましいが、楕円形の粒子や粒子の表面に粗面化の凹みより大きな若干の凹凸があってもかまわない。ただし鋭利な突起がある場合には、めっきした場合にめっき被膜の密着性の低下、樹脂であるバインダと混合した場合にバインダ内での分散性の低下によって、金属被覆樹脂粒子を等方性導電ペースト、異方性導電ペーストとして用いるときの導電性付与、絶縁性の再現を損ねる原因となるため好ましくない。コア樹脂粒子11は中実に限らず、中空であってもよい。樹脂粒子の長径と短径の比であるアスペクト比は、1~1.5の範囲が好ましく、1~1.3の範囲がより好ましく、1~1.1の範囲が更に好ましい。このアスペクト比は、10個の粒子について走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製 型式名:SU-1500)観察により一粒子の長径と短径の比(長径/短径)を計測し、これらを平均した値である。
【0028】
コア樹脂粒子11としては、例えば、シリコーン樹脂粒子、アラミド樹脂粒子、フッ素樹脂粒子、ポリスルホン樹脂粒子、ポリエーテル樹脂粒子、ポリイミド樹脂粒子、ポリアミドイミド樹脂粒子、エポキシ樹脂粒子、フェノール樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、アクリル-スチレン共重合体粒子、ポリウレタン粒子、ゴム粒子、スチレン樹脂粒子、コアシェル構造を有する樹脂粒子を用いることができる。シリコーン樹脂粒子の例としては、ポリシルセスキオキサン(PSQ)樹脂粒子、ポリメチルシルセスキオサキサン(PMSQ)樹脂粒子が挙げられる。アラミド樹脂粒子の例としては、ポリメタフェニレンイソフタラミド(MPIA)樹脂粒子、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)樹脂粒子が挙げられる。フッ素系粒子の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-ビニリデンフルオライド(THV)樹脂粒子、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)系樹脂粒子、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)系樹脂粒子、クロロトリフルオロエチレン-エチレン(ECTFE)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-エチレン(ETFE)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン(FEP)系樹脂粒子、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)系樹脂粒子等が挙げられる。ポリスルホン樹脂粒子の例としては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂粒子、ポリエーテル-スルホン(PES)樹脂粒子等が挙げられる。ポリエーテル樹脂粒子の例としては、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂粒子、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂粒子等が挙げられる。フェノール樹脂粒子の例としては、ノボラック型フェノール樹脂粒子、レゾール型フェノール樹脂粒子、またはそれらの一部を変性したフェノール樹脂粒子等が挙げられる。ポリウレタン粒子としては、ポリエステル系ポリウレタン粒子、ポリオール系ポリウレタン粒子等が挙げられる。ゴム粒子の例としては、シリコーンゴム粒子、フッ素ゴム粒子等が挙げられる。コアシェル構造を有する樹脂粒子の例としては、アクリル樹脂コア-シリコーン樹脂シェルの樹脂粒子が挙げられる。アクリル樹脂コア-シリコーン樹脂シェルの樹脂粒子は、アクリル樹脂粒子にシリコーン樹脂膜を被覆することにより作製される。
【0029】
(金属被覆層)
金属被覆層12のうち、内層である第1銀層12aは10nm~100nmの平均厚さを有し、錫中間層12bは2nm~20nmの平均厚さを有し、外層である第2銀層12cは50nm~150nmの平均厚さを有することが好ましい。より好ましい第1銀層12aの平均厚さは10nm~90nmであり、より好ましい錫中間層12bの平均厚さは3nm~15nmであり、より好ましい第2銀層12cの平均厚さは60nm~140nmである。第1銀層12aの平均厚さが10nm未満では、錫中間層12bが直接コア樹脂粒子11に接することがあり、従来の金属被覆樹脂粒子の特性と変わらなくなり、本発明の効果が得がたい。第1銀層12aの平均厚さが100nmを超えると、錫中間層と第2銀層の各厚さを加えた金属被覆層12の厚さが大きくなり、金属被覆層12がコア樹脂粒子11から剥離し易く、金属被覆樹脂粒子10の導電性が低くなり易い。
【0030】
錫中間層12bの平均厚さが2nm未満では、金属被覆樹脂粒子10に熱的負荷がかかったときの金属被覆層12に生じる熱応力を緩和する作用効果が低下して、従来の金属被覆樹脂粒子の特性と変わらなくなり、本発明の効果が得がたい。錫中間層12bの平均厚さが20nmを超えると、第1銀層と第2銀層の各厚さを加えた金属被覆層12の厚さが大きくなり、金属被覆樹脂粒子10の導電性が低くなり易い。金属被覆層12の厚さを大きくしないようにすると、第1及び第2銀層の厚さが相対的に小さくなり、金属被覆樹脂粒子10の導電性が低くなり易い。第2銀層12cの平均厚さが50nm未満では、錫中間層12bが金属被覆樹脂粒子10の外面に露出し易くなり、金属被覆樹脂粒子10の粉体体積抵抗率が高くなって、金属被覆樹脂粒子10の導電性が低くなり易い。第2銀層12cの平均厚さが150nmを超えると、第1銀層と錫中間層の各厚さを加えた金属被覆層12の厚さが大きくなり、金属被覆層12がコア樹脂粒子11から剥離し易くなる。
【0031】
第1銀層12a、錫中間層12b及び第2銀層12cの平均厚さは、以下のようにして求める。まずカーボン製試料台に振りかけた球状の金属被覆樹脂粒子10を、FIB(集束イオンビーム装置)を用いて約100nmの厚みまで断面露出加工した試料を作製する。次に、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面露出した試料中の金属被覆層とコア樹脂粒子界面における断面形状を、10個の金属被覆樹脂粒子10について、コア樹脂粒子11の表面5000nm平方の範囲で、金属被覆層12の全体を重複なく観察できるように、複数に分けて観察し、第1銀層12a、錫中間層12b及び第2銀層12cのそれぞれの厚さを測定し、10個の平均値を各層の平均厚さとする。
【0032】
金属被覆樹脂粒子10に対する第1銀層12aと第2銀層12cを合計した銀の被覆量(含有量)は、コア樹脂粒子11の平均粒径に依存するとともに、必要とされる導電性の程度により決まり、金属被覆樹脂粒子100質量部に対して、2質量部~90質量部であることが好ましい。金属被覆樹脂粒子100質量部に対して、銀の含有量が2質量部より少ないと導電性粒子として金属被覆樹脂粒子が分散したときに、銀同士の接点が取り難く十分な導電性を付与することが困難になるおそれがある。一方、銀の含有量が90質量部を超えると比重が大きくなりコストも高くなるとともに導電性が飽和し易くなる。この銀の含有量は28質量部~85質量部がより好ましく、28質量部~80質量部が更に好ましい。第1銀層12aの銀の量を1としたときの第2銀層12cの銀の量の比は、1:2~5であることが好ましい。
【0033】
金属被覆樹脂粒子10に対する錫中間層の錫の含有量は、錫中間層を構成する金属錫及び/又は錫化合物に含まれる錫の量である。この錫の含有量は、コア樹脂粒子11の平均粒径及び錫中間層の被覆量に依存し、金属被覆樹脂粒子100質量部に対して、1質量部~5質量部であることが好ましい。
【0034】
〔金属被覆樹脂粒子の製造方法〕
次に、本実施形態の金属被覆樹脂粒子の製造方法を図3を参照して説明する。図3に示すように、この製造方法は、コア樹脂粒子11の表面に錫吸着層を形成する工程S01と、錫吸着層の錫を銀に置換して第1銀層を形成する工程S02と、第1銀層の表面に錫中間層を形成する工程S03と、錫中間層の表面に第2銀層を形成する工程S04とを経て、金属被覆樹脂粒子10を得る方法である。
【0035】
(錫吸着層形成工程)
錫吸着層形成工程S01では、コア樹脂粒子11の表面に銀より卑な金属である錫を吸着させて錫吸着層を形成する。錫吸着処理は、予めコア樹脂粒子を水に分散させておき、この分散液に錫化合物の水溶液を添加し、撹拌する。錫化合物の水溶液にコア樹脂粒子11を添加し、撹拌してもよい。錫吸着処理では、コア樹脂粒子11の表面に錫の2価のイオンが吸着する。錫が吸着したコア樹脂粒子11を濾別して水洗する。上記撹拌時間は、以下の錫化合物の水溶液の温度及び錫化合物の含有量によって適宜決定されるが、好ましくは、0.5時間~24時間である。錫化合物の水溶液の温度は45℃を超え90℃以下の範囲で行うことが好ましい。45℃を超え80℃以下であることがより好ましい。45℃以下では、錫化合物の水溶液中の錫イオンが活性化しにくく、錫がコア樹脂粒子表面に吸着しにくい。上記範囲内で高温になるほど、錫化合物の水溶液中の錫イオンが活性化して、2価の錫イオンがコア樹脂粒子表面に吸着し易くなるとともに吸着しきれなかった2価の錫イオンが上記水溶液中に存在するようになる。この錫吸着処理方法によれば、密着性の悪かったアクリル系樹脂、フェノール系樹脂、スチレン系樹脂等の樹脂の微粒子に対しても、次に説明する無電解めっき処理に初期に十分に吸着した錫と銀が置換されるため、置換した銀が密着して樹脂の表面に密着することができる。しかし錫化合物の水溶液の温度が90℃を超える場合には、錫化合物が酸化するため水溶液が不安定となりコア樹脂粒子に錫化合物の水溶液中の錫が十分に付着しないおそれがある。
【0036】
錫吸着処理で使用する錫化合物としては、塩化第一錫、フッ化第一錫、臭化第一錫、ヨウ化第一錫等が挙げられる。塩化第一錫を用いる場合、錫化合物の水溶液中の塩化第一錫の含有量は10g/dm3~100g/dm3が好ましい。塩化第一錫の含有量が10g/dm3以上であれば樹脂粒子の表面に均一な錫の被覆が形成できる。また塩化第一錫の含有量が100g/dm3以下であると塩化第一錫中の不可避不純物の量を抑制しやすい。なお、塩化第一錫は飽和になるまで錫化合物の水溶液に含有することができる。
【0037】
錫化合物の水溶液は塩化第一錫1gに対して塩酸0.5cm3~2cm3含有することが好ましい。塩酸は濃度35質量%の塩酸として添加する。塩酸の量が0.5cm3以上であると塩化第一錫溶解性が向上するとともに錫の加水分解を抑制することができる。塩酸の量が2cm3以下であると錫化合物の水溶液のpHが低くなりすぎないので錫を樹脂粒子に効率良く吸着させることができる。
【0038】
(第1銀層形成工程)
第1銀層形成工程S02では、表面に錫吸着層が形成されたコア樹脂粒子11を水に分散させてスラリーを調製し、このスラリーに所定量の銀塩及び銀錯体化剤を含む水溶液(銀塩等)の一部を、還元剤及びpH調整剤とともに滴下して混合し、この混合液中でコア樹脂粒子に無電解銀めっきを行って、錫吸着層を第1銀層12a(図1参照。)に置換する。ここで、上記銀塩等の一部とは、上記所定量を100質量%とするとき、5質量%を超え70質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。形成しようとする第1銀層の厚さに応じてその多寡が決まる。後述する第2銀層形成工程S04で、上記銀塩等の残部として、30質量%以上95質量%未満であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。上記混合液の温度は15℃~30℃であることが好ましい。15℃未満では第1銀層12aの結晶子が粗大になり、30℃を超えると、急激なめっき皮膜である第1銀層の成長により銀膜の緻密さが失われ、第1銀層12aがコア樹脂粒子11から剥離し易くなる。
【0039】
この第1銀層形成工程では、前述した錫吸着処理でコア樹脂粒子11の表面に吸着した錫の2価のイオンが4価のイオンとなって溶解し2価の電子を放出する。そして、銀のイオンが電子を受け取り金属としてコア樹脂粒子11の錫が吸着していた部分に析出する。その後、すべての錫の2価のイオンが4価のイオンとなって水溶液中に溶解すると、錫と銀の置換反応は終了し、この置換反応で還元剤によって触媒が酸化され電子が放出し溶液中の銀イオンがその電子を受け取り銀が析出する。上記の置換反応と還元反応によって、コア樹脂粒子11の表面に第1銀層12aが被覆され形成される。吸着した錫の層は無電解めっきをする初期の段階では錫と銀の置換反応が起き、置換反応終了後には、還元剤による無電解めっき反応により銀が被覆される。上記置換反応では、錫化合物の水溶液中の一部の錫の2価イオンを銀と置換し、錫化合物の水溶液中の残部の錫2価イオンを次の錫中間層を形成するために使用する。
【0040】
上記銀塩としては、硝酸銀、又は銀を硝酸に溶解したもの等を用いることができる。銀錯体化剤はめっき液中で完全に溶解していることが好ましい。銀錯体化剤としては、アンモニア、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム、ニトロ三酢酸、トリエチレンテトラアンミン六酢酸、チオ硫酸ナトリウム、コハク酸塩、コハク酸イミド、クエン酸塩等の塩類を用いることができる。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ水溶液を用いることができる。還元剤としては、ホルマリン、ブドウ糖、ロッシェル塩(酒石酸ナトリウムカリウム)、ヒドラジン及びその誘導体、ヒドロキノン、L-アスコルビン酸又はギ酸等を用いることができる。特に、ホルムアルデヒドの水溶液であるホルマリンが好ましく、少なくともホルムアルデヒドを含む2種類以上の還元剤の混合物がより好ましく、更には、ホルムアルデヒドとブドウ糖を含む還元剤の混合物が最も好ましい。
【0041】
(錫中間層形成工程)
錫中間層形成工程S03では、余剰分として第1銀層12aの形成のために置換しきれなかった混合液中に遊離した錫を第1銀層12aの表面に堆積させて錫中間層12bを形成する。前記混合液中に遊離した錫の量は分析により求めることができ、必要に応じて別途錫化合物を添加して遊離錫の濃度を調製しておいても良い。錫中間層12bを形成するためには上記混合液を撹拌しながら所定時間保持する。上記所定の保持時間は、混合液の温度及び上記遊離した錫の量によって適宜決定されるが、好ましくは、0.5時間~1.5時間である。また保持時間が長い程、錫中間層12bの厚さが増大する。逆に保持時間が短い程、その厚さは小さくなる。上記混合液の温度は10℃~30℃の範囲にあることが好ましい。上記混合液を撹拌しながら保持すると、上記遊離した錫が2価イオンとなってpH調整剤のアルカリ水溶液により錫水酸化物(Sn(OH)2)になり、第1銀層12aの表面に堆積し、錫中間層12bになる。この錫中間層12bは、錫(Sn)、酸化錫(Snxy)及び水酸化錫(Snx(OH)y)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属錫及び/又は錫化合物からなる(ただし、0.1<x<4、0.1<y<5)。
【0042】
(第2銀層形成工程)
第2銀層形成工程S04では、上記混合液に上記所定量の銀塩及び銀錯体化剤を含む水溶液の残部(銀塩等)を、工程S02で用いた還元剤及びpH調整剤と同じ還元剤及びpH調整剤とともに更に滴下し混合することにより、この混合液中でコア樹脂粒子11に無電解銀めっきを続けて行って、錫中間層12bの表面に第2銀層12cを形成する。これにより金属被覆樹脂粒子10が得られる。前述したように、上記銀塩等の残部は、上記所定量を100質量%とするとき、30質量%以上95質量%未満であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。形成しようとする第2銀層の厚さに応じてその多寡が決まる。上記混合液の温度は、10℃~30℃であることが好ましい。この温度範囲が好ましい理由は、工程S02で述べた理由と同じである。
【0043】
[用途]
本実施形態の金属被覆樹脂粒子10は、導電性フィラーとして優れており、特に、導電性接着剤、導電性フィルム(シート)、導電性ゴム(エラストマー)、導電性粘着剤、放熱シートや放熱グリス等のTIM(Thermal Interface Material)、又は導電性スペーサなどの導電性材料の導電性フィラーとして最適に適用できる。
【0044】
(導電性接着剤)
導電性接着剤は、等方性の導電性接着剤(ICA:Isotropic Conductive Adhesive)と異方性の導電性接着剤(ACA:Anisotropic Conductive Adhesive)に区分される。また、バインダの形態によってペースト状、フィルム状、インク状の形態を有する。等方性の導電性接着剤は、バインダ硬化時にバインダが収縮することで、縦方向、横方向、斜方向ともにフィラーが互いに接触し、これにより接続したい導電物とフィラーが接触して導電性が得られる。等方性の導電性接着剤にてシートを形成することも可能である。異方性の導電性接着剤は、バインダ中にフィラーが分散していて接続したい導電物同士の間に異方性の導電性接着剤を挟み込む。これを縦方向に加圧することで、接続したい導電物の間のフィラーと接続したい導電物が縦方向に接触し導電性が得られる。一方、加圧されていない部分は絶縁物であるバインダを介してフィラー同士が横方向に配置され、互いに接触しないので導電性は得られない。
【0045】
導電性接着剤としては、例えば、異方性又は等方性の導電性ペースト、異方性又は等方性の導電性インキなどが挙げられる。導電性接着剤は、金属被覆樹脂粒子と絶縁性のバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。導電性接着剤では、絶縁性のバインダ樹脂中に金属被覆樹脂粒子が均一に分散する。金属被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定される。導電性ペーストを100質量%とするとき、金属被覆樹脂粒子を70質量%~90質量%、バインダ樹脂を10質量%~30質量%それぞれ含むことが導電性と熱伝導性を得るために好ましい。また導電性ペーストは、上述の金属被覆樹脂粒子を導電性フィラーとして含むほか、球状又はアスペクト比(長径/短径)が5以下である扁平状の銀粒子を導電性フィラーとして更に含有させることもできる。銀粒子の平均粒径は10μm以下であることが好ましい。この場合、導電性ペーストを100質量%とするとき、金属被覆樹脂粒子を10質量%~80質量%、銀粒子を10質量%~70質量%、バインダ樹脂を10質量%~30質量%それぞれ含むことが、より導電性と熱伝導性を高める観点から好ましい。
【0046】
導電性接着剤における絶縁性のバインダ樹脂としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂や、硬化性樹脂組成物などの熱や光によって硬化する組成物などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、アクリル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、フェノキシ樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂組成物としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂又はそれらの混合物を主成分として含む樹脂組成物が挙げられる。
【0047】
(導電性フィルム(シート))
導電性フィルムとしては、フィルム状に成形された異方性又は等方性の導電性フィルムがある。導電性フィルムは、先ず金属被覆樹脂粒子が絶縁性のバインダ樹脂中に分散された樹脂組成物を作製し、次いでこの樹脂組成物をPET等の支持フィルムの表面に塗布することにより作製される。この樹脂組成物は金属被覆樹脂粒子と絶縁性のバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。導電性フィルムでは、支持体フィルム上で絶縁性のバインダ樹脂中に金属被覆樹脂粒子が均一に分散する。導電性フィルムにおける絶縁性のバインダ樹脂としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂などの樹脂又はそれらの混合物を主成分として含む樹脂組成物が挙げられる。導電性フィルムにおける樹脂組成物中の金属被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダ樹脂100質量%に対して0.5質量%~90質量%の範囲内が好ましい。
【0048】
(導電性ゴム(エラストマー))
導電性ゴムとしては、シート状や直方体状に成形された導電性ゴムがあり、放熱シートや導電コネクタとして使用できる。導電性ゴムは、まずバインダゴムと、加硫剤と、金属被覆樹脂粒子とを二軸ロール等を用いて混練し、次いで加熱プレス機や乾燥機を用いて加熱や加圧を実施することにより加硫および成型することで作製される。導電性ゴムにおけるバインダゴムとしては、ニトリルゴム、アクリルゴム、スチレンブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。導電性ゴムにおける組成物中の金属被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダゴム100質量%に対して0.5質量%~90質量%の範囲内が好ましい。
【0049】
(導電性粘着剤)
導電性粘着剤としては、シート状や直方体状に成形された導電性粘着剤又は導電性ゲルがあり、電気接点材料、放熱シート及び電極として使用できる。導電性粘着剤は、先ず金属被覆樹脂粒子が絶縁性のバインダとなる粘着剤中に分散された粘着性組成物を作製し、次いでこの粘着性組成物をPET等の支持フィルムの表面に塗布することにより作製される。導電性粘着剤におけるバインダ粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが挙げられる。導電性粘着剤における組成物中の金属被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、粘着剤100質量%に対して0.5質量%~90質量%の範囲内が好ましい。
【0050】
(放熱グリス)
放熱グリスとしては、不揮発性の基油、金属被覆樹脂粒子を混合したものがあり、放熱材料として用いることができる。放熱グリスは基油と金属被覆樹脂粒子を遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して調製される。放熱グリスに用いられる基油としては、シリコーンオイル系基油、鉱油系基油、合成炭化水素系基油、エステル系基油、エーテル系基油及びグリコール系基油又はそれらの組合せなどを挙げることができる。放熱グリスにおける組成物中の金属被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、基油100質量%に対して0.5質量%~90質量%の範囲内が好ましい。
【0051】
(導電性スペーサ)
導電性スペーサは、液晶表示装置において、液晶物質を挟む上下2枚の基板の配線部分を電気的に上下に接続し、かつ基板の間隙を所定の寸法に保持して使用される。導電性スペーサは、先ず金属被覆樹脂粒子を熱硬化性樹脂や紫外光硬化型接着剤などの絶縁性のバインダ樹脂に添加した後、金属被覆樹脂粒子とバインダ樹脂とを遊星混合機や三本ロールミルのような混練機を用いて均一に混合して樹脂組成物を調製し、次いで上下2枚の基板の配線部分のいずれか一方又は双方に上記樹脂組成物を塗布して2枚の基板を貼り合わせることにより作製される。金属被覆樹脂粒子の含有量は、特に限定されず、用途などに応じて適宜決定されるが、バインダ樹脂100質量%に対して2質量%~10質量%の範囲内が好ましい。
【実施例
【0052】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0053】
<実施例1>
錫吸着処理用として塩化錫水溶液(SnCl2水溶液)を準備した。この塩化錫水溶液は、塩化第一錫15g、塩酸15cm3を容量1dm3のメスフラスコを用いて水で1dm3に稀釈(メスアップ)することにより調製した。この塩化錫水溶液を液温27℃で保存した。塩酸は濃度35質量%の塩酸を用いた。また、33gの硝酸銀(銀塩)、53cm3の25質量%アンモニア水、175cm3の水を混合し硝酸銀を含む銀アンモニア錯体水溶液(銀塩等)256gを作製した。
【0054】
コア樹脂粒子として、平均粒径が3μmのアクリル樹脂粒子(PMMA架橋ビーズ)を準備した。このコア樹脂粒子9gを水に分散して分散液を調製し、この分散液に上記塩化錫水溶液を添加し、60℃の温度に調整してこの温度で5時間撹拌した(錫吸着層形成工程)。その後、コア樹脂粒子を濾別して水洗した。次いで、このコア樹脂粒子を水に再度分散して液温が15℃のスラリーを調製し、このスラリーを撹拌しながらスラリーに還元剤(35質量%ホルムアルデヒド水溶液)とpH調整剤(水酸化ナトリウム水溶液)と銀塩等(銀アンモニア錯体水溶液)85gを順次滴下し混合液を調製した。この銀塩等の滴下量は、最初に作製した銀塩等(所定量の銀塩等)を100質量%とするとき、33.3質量%であった(第1銀層形成工程)。上記滴下後、液温が20℃の上記混合液を1時間撹拌しながら保持した(錫中間層形成工程)。続いて、最初に作製した所定量の銀塩等を100質量%とするとき、銀塩等(銀アンモニア錯体水溶液)の残部66.7質量%を、液温が20℃の混合液を撹拌しながら混合液に滴下した(第2銀層形成工程)。これによりコア樹脂粒子に金属被覆層を有する金属被覆樹脂粒子を得た。この金属被覆樹脂粒子の断面を走査型電子顕微鏡で観察したところ、三層構造となっており、EDX(エネルギー分散型X線分析)により組成分析したところ、一層目と三層目はそれぞれAgであり、中間層の二層目はSn及びO(酸素)が検出された。
【0055】
以下の表1に、(1)錫吸着層形成工程におけるSnCl2水溶液の液量、温度、攪拌時間、(2)所定量の銀塩等(銀アンモニア錯体水溶液)の液量、(3)第1銀層形成工程における銀塩等の温度、滴下時間、所定量の銀塩等に対する滴下量の割合、(4)錫中間層形成工程における混合液の温度、保持時間、(5)第2銀層形成工程における銀塩等の温度、滴下時間、所定量の銀塩等に対する滴下量の割合を、それぞれ示す。
【0056】
【表1】
【0057】
<実施例2~10>
実施例2~10では、第1銀層、錫中間層及び第2銀層のそれぞれの厚さを変化させるために、表1に示すように、各工程の製造条件を変更して金属被覆樹脂粒子を製造した。
【0058】
<比較例1>
銀塩等(銀アンモニア錯体水溶液)を連続して、全量を一度に滴下して錫中間層を形成しない例を比較例1とした。
【0059】
上記実施例1~10及び比較例1で得られた金属被覆樹脂粒子の原料であるコア樹脂粒子の種類と平均粒径、金属被覆樹脂粒子の金属被覆層を構成する各層の平均厚さ及び金属被覆樹脂粒子の平均粒径をそれぞれ以下の表2に示す。上記各層の平均厚さ及び粒子の平均粒径は、前述した方法で測定した。
【0060】
【表2】
【0061】
<試験例1>
試験例1では、導電性フィラーとしての実施例1の金属被覆樹脂粒子80質量%と、バインダ樹脂としての多官能型エポキシ樹脂(ADEKA社製、アデカレジンEP-3950S)20質量%とを混合して、導電性ペーストを調製した。この導電性ペーストの組成(金属被覆樹脂粒子の種類及び割合、銀粒子の平均粒径、形状及び割合、バインダ樹脂の種類及び割合)を以下の表3に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
<試験例2~13>
実施例2~実施例10の各金属被覆樹脂粒子の含有量を、上記表3に示すように、試験例1の含有量と同じにするか、又は変更して、試験例2~試験例13の導電性ペーストを調製した。試験例6、8~11は、金属被覆樹脂粒子と銀粒子を含有する例を示す。
【0064】
<比較試験例1>
上記表3に示すように、比較例1の金属被覆樹脂粒子を単独で用いて、比較試験例1の導電性ペーストを調製した。
【0065】
<比較試験及び評価>
試験例1~13及び比較試験例1で得られた14種類の導電性ペーストを用いて接合体をそれぞれ作製し、接合体について冷熱サイクル試験を行った。また上記導電性ペーストから成形体を作り、これを熱硬化させて硬化物の熱伝導度を測定した。
【0066】
(i) 冷熱サイクル試験
試験例1~13及び比較試験例1で得られた導電性ペーストを用いて接合体をそれぞれ作製し、これらの接合体について冷熱サイクル試験を行った。具体的には、先ず、各導電性ペーストを、縦及び横がそれぞれ20mm及び20mmである正方形の銅板上に、縦、横及び厚さがそれぞれ2mm、2mm及び30μmであるパターンで塗布して、塗布膜を形成した。次いで、この塗布膜上に縦及び横がそれぞれ2mm及び2mmである正方形のシリコンチップを静置した。次に、これを電気炉に入れて180℃の温度に30分間保持し、塗布膜を硬化させて導電性膜を形成することにより、シリコンチップを導電性膜により銅板に接合して、接合体をそれぞれ作製した。続いて、これらの接合体に冷熱サイクル試験を行った。この冷熱サイクル試験は、冷熱衝撃試験機(エスペック社製:TSB-51)を使用し、上記接合体に対して、液相(3M社製、フロリナートFC-43)で、-20℃に5分間保持した後に、150℃に5分間保持する操作を500サイクル繰返した。そして、冷熱サイクル試験を行う前と行った後の接合体の接合率をそれぞれ測定した。
【0067】
上記接合体の接合率の評価方法は次のようにして行った。先ず、接合体に対し、銅板とシリコンチップとの界面の接合率(%)について超音波探傷装置を用いて評価し、次の式(1)から算出した。
接合率 =(初期接合面積-剥離面積)/初期接合面積×100 ……(1)
ここで、初期接合面積とは、接合前における接合すべき面積、即ちシリコンチップの面積とした。超音波探傷像において剥離は接合部内の白色部で示されることから、この白色部の面積を剥離面積とした。また、接合層内部や、銅板及びシリコンチップの接合界面にクラックが生じた場合、このクラックは超音波探傷像において白色部で示され、クラックも剥離面積として評価されることになる。この結果を上記表3に示す。
【0068】
図2(a)に、試験例1で得られた導電性ペーストを用いた接合体の冷熱サイクル試験後の導電性膜中の金属被覆樹脂粒子を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、型式名:SU-1500)により3万倍で撮影した写真図を示し、図2(b)に、図2(a)に示した球状の金属被覆樹脂粒子の第1銀層、錫中間層及び第2銀層の部分を拡大して透過型電子顕微鏡(日本電子社製、型式名:JEM-2-1-F)により10万倍で撮影した写真図を示す。図2(a)及び図2(b)において示す各符号は、図1に示す各符号に相応する。
また図4に、比較試験例1で得られた導電性ペーストを用いた接合体の冷熱サイクル試験後の導電性膜中の金属被覆樹脂粒子を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ社製、型式名:SU-1500)により3万倍で撮影した写真図を示す。図4において、符号1はコア樹脂粒子、符号2は金属被覆層、符号3は隙間であり、符号5は金属被覆樹脂粒子である。
図4に示す金属被覆樹脂粒子5では、コア樹脂粒子1の表面から金属被覆層2が剥離して隙間3を形成していたが、図2(a)及び図2(b)に示す金属被覆樹脂粒子10では、コア樹脂粒子11の表面から金属被覆層12が剥離していなかった。
【0069】
(ii) 熱伝導率
試験例1~13及び比較試験例1で得られた導電性ペーストを用いて、直径10mm、厚さ1mmの成形体を作り、これを200℃で20分間硬化させて試験用サンプルを作製した。得られたサンプルをレーザーフラッシュ法(株式会社ULVAC製、TC-7000)により熱拡散率を測定し、比熱と密度から熱伝導率(W/m・K)を求めた。この結果を上記表3に示す。
【0070】
表3から明らかなように、比較試験例1の導電性ペーストでは、銀塩等(銀アンモニア錯体水溶液)を連続して、全量を一度に滴下し錫中間層を形成しない従来の方法で作製された比較例1の金属被覆樹脂粒子を用いたため、冷熱サイクル試験を行った後の接合体の接合率は、60%と低かった。またこの導電性ペーストを用いて作製したサンプルの熱伝導率は3W/m・Kと低く、熱伝導率が良好でないことが分かった。
【0071】
これに対して、本発明の第2の観点の要件は満たさないものの、錫中間層を有する金属被覆樹脂粒子を用いて導電性ペーストを作製した本発明の第1の観点の要件を満たした試験例12、13では、冷熱サイクル試験を行った後の接合体の接合率は、それぞれ75%、77%と、比較試験例1の接合率60%より高かった。またこれらの導電性ペーストを用いて作製したサンプルの試験例12、13の熱伝導率は、それぞれ比較試験例1の熱伝導率3W/m・Kより高い5W/m・K、6W/m・K であった。
【0072】
また、本発明の第2の観点の要件を満たした試験例1~11では、冷熱サイクル試験を行った後の接合体の接合率は、80%~100%であり、試験例12及び13と比較してより高い接合率を示した。また試験例1~11の導電性ペーストを用いて作製したサンプルの熱伝導率は、6W/m・K~15W/m・Kであり、試験例12及び13と比較してより高い熱伝導性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の球状の金属被覆樹脂粒子は、太陽電池パネル、液晶ディスプレイ、タッチパネル等の電子機器、電子表示機器又は半導体素子等が備える電極又は電気配線等の電子部品を形成する導電性材料である導電性接着剤の導電性フィラーとして利用することができる。
【要約】
球状のコア樹脂粒子(11)と、コア樹脂粒子(11)の表面に設けられた金属被覆層(12)を有し、金属被覆層(12)が、コア樹脂粒子(11)の表面に形成された第1銀層(12a)と、この第1銀層(11a)の表面に形成された錫(Sn)、酸化錫(Snxy)及び水酸化錫(Snx(OH)y)からなる群より選ばれた1種又は2種以上の金属錫及び/又は錫化合物からなる錫中間層(ただし、0.1<x<4、0.1<y<5)(12b)と、この錫中間層(12b)の表面に形成された第2銀層(12c)とにより構成された金属被覆樹脂粒子(10)である。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4