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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】生物組織の癒着の予防
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/06 20060101AFI20220331BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220331BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61L31/06
A61L31/14 300
A61L31/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018548904
(86)(22)【出願日】2017-03-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 IB2017000312
(87)【国際公開番号】W WO2017158420
(87)【国際公開日】2017-09-21
【審査請求日】2020-03-16
(31)【優先権主張番号】62/310,121
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/310,131
(32)【優先日】2016-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505043041
【氏名又は名称】株式会社スリー・ディー・マトリックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107489
【弁理士】
【氏名又は名称】大塩 竹志
(72)【発明者】
【氏名】小林 智
(72)【発明者】
【氏名】ギル, ウン ソク
(72)【発明者】
【氏名】スピリオ, リサ
【審査官】古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-526779(JP,A)
【文献】特表2008-539257(JP,A)
【文献】特表2008-505919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/00-31/18
A61P 1/00-43/00
C07K 1/00- 1/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己集合性ペプチドを含む、被験体の生物組織への癒着または生物組織間の癒着を軽減するための自己集合性ペプチド溶液であって、該自己集合性ペプチド溶液の有効量で該生物組織に投与されることを特徴とし、該自己集合性ペプチドが(RADA)であり、生理的条件下でヒドロゲルを形成し、該ヒドロゲルが該生物組織への癒着または生物組織間の癒着を軽減し;
該自己集合性ペプチドは該自己集合性ペプチド溶液の2.5w/v%であり;
該自己集合性ペプチドの末端残基は保護されており;
該有効量は該生物組織の標的区域の1cmあたり0.3mLから1cmあたりmLであり;
該自己集合性ペプチドの投与後に、該標的区域における癒着の発生の有無が、未処置の対照標的区域と比較して少なくとも72%軽減されており、
該生物組織が、腹部内膜、盲腸、腸、および/または結腸を含むものである、溶液。
【請求項2】
前記有効量が、前記生物組織の前記標的区域の1cmあたり1mLである、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記ヒドロゲルが、標的区域への前記自己集合性ペプチド溶液の投与の前に形成される、請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
前記ヒドロゲルが、標的区域への前記自己集合性ペプチド溶液の投与の後に形成される、請求項1に記載の溶液。
【請求項5】
前記溶液が生物活性剤をさらに含む、請求項1に記載の溶液。
【請求項6】
前記溶液が細胞および/または薬物を実質的に含まない、請求項1に記載の溶液。
【請求項7】
前記生物組織がヒト組織である、請求項1に記載の溶液。
【請求項8】
前記ヒドロゲルが腹部内の癒着形成を処置、予防および/または軽減する、請求項1に記載の溶液。
【請求項9】
前記(RADA)の前記末端残基のカルボキシル基およびアミノ基が保護されている、請求項1に記載の溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療、研究、および産業上の用途において使用され得る材料および方法に関する。より具体的には、本開示は、例えば生物組織の癒着を予防または軽減することにより、抗癒着を促進するために使用され得る材料および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
術後の組織癒着は、神経系外科手術、胸部手術、泌尿器科、産科、婦人科、消化器系の手術、および整形外科手術などにおける様々な手技と関連して起こる。一般に、癒着は生理学的および生物学的修復反応に関係する。癒着の性質は異なる組織毎に様々であり得るが、そのような癒着を完全に予防することは難しいと考えられている。
【0003】
現在、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、酸化再生セルロース、および延伸ポリテトラフルオルエチレン(ePTFE)が抗癒着材料として臨床的に使用されている。しかしながら、これらの材料は、効力が限られ得、かつ/または副作用があり得、かつ/または使用が困難である。例えば、そのような材料は、通常、シート状で提供されるが、これは適用部位での固定化が困難であり得る。これらはまた、内視鏡手術の間の使用が困難であり得、また、出血部位に必ずしも有効に適用できない。
【0004】
したがって、生物組織の癒着を予防または軽減するための改善された処置の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ある特定の両親媒性ペプチド溶液が、驚くべきことにかつ有利なことに、生物組織の癒着を予防または軽減するために使用できるという発見に少なくとも部分的に基づく。
【0006】
様々な態様では、本発明は、生物組織への癒着を軽減するための方法であって、有効量の自己集合性ペプチド溶液を生物組織に投与することを含み、自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、ヒドロゲルが生物組織への癒着を軽減する、方法を提供する。
【0007】
様々な態様では、本発明は、生物組織間の癒着を軽減するための方法であって、有効量の自己集合性ペプチド溶液を手術部位の生物組織に投与することを含み、自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、ヒドロゲルが手術部位の生物組織への別の生物組織の癒着を軽減する、方法を提供する。
【0008】
様々な態様では、本発明は、生物組織への癒着を軽減するための有効量の自己集合性ペプチド溶液の使用であって、自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、ヒドロゲルが生物組織への癒着を軽減する、使用を提供する。
【0009】
様々な態様では、本発明は、生物組織への癒着を軽減するための有効量の自己集合性ペプチド溶液の使用であって、自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、ヒドロゲルが手術部位の生物組織への別の生物組織の癒着を軽減する、使用を提供する。
【0010】
様々な態様では、本発明は、抗癒着を促進する方法であって、標的区域に送達デバイスを導入すること、抗癒着が所望される標的区域に送達デバイスの端部を配置すること、標的区域の生理的条件下でヒドロゲルを形成して抗癒着を促進するために、有効量で、および有効な濃度で約7アミノ酸から32アミノ酸を含む自己集合性ペプチドを含む溶液を、送達デバイスを通じて標的区域に投与すること、および標的区域から送達デバイスを取り除くことを含む、方法を提供する。
【0011】
様々な態様では、本発明は、生理的条件下でヒドロゲルを形成して抗癒着を促進するために使用するために、有効量で、および有効な濃度で約7アミノ酸から32アミノ酸を含む自己集合性ペプチドを含む組成物を提供する。
【0012】
様々な態様では、本発明は、抗癒着を促進するためのキットであって、生理的条件下でヒドロゲルを形成して抗癒着を促進するために有効量で、約7アミノ酸から約32アミノ酸を含む自己集合性ペプチド、および標的区域に自己集合性ペプチドを投与するための指示を含む、キットを提供する。
【0013】
様々な態様では、本発明は、心外膜アブレーションにおいて抗癒着を促進する方法であって、心外膜アブレーションに関連する標的区域に送達デバイスを導入すること、抗癒着が所望される標的区域に送達デバイスの端部を配置すること、標的区域の生理的条件下でヒドロゲルを形成して抗癒着を促進するために、有効量で、および有効な濃度で約7アミノ酸から32アミノ酸を含む自己集合性ペプチドを含む溶液を、送達デバイスを通じて標的区域に投与すること、および標的区域から送達デバイスを取り除くことを含む、方法を提供する。
【0014】
様々な態様では、本発明は、心外膜アブレーションにおいて抗癒着を促進するためのキットであって、生理的条件下でヒドロゲルを形成して抗癒着を促進するために有効量で約7アミノ酸から約32アミノ酸を含む自己集合性ペプチド、および心外膜アブレーションに関連する標的区域に自己集合性ペプチドを投与するための指示を含む、キットを提供する。
【0015】
様々な態様では、本発明は、心外膜アブレーションにおける抗癒着の促進を容易にする方法であって、生理的条件下で心外膜アブレーションに関連する標的区域でヒドロゲルを形成して抗癒着を促進するために、有効量で、および有効な濃度で約7アミノ酸から約32アミノ酸を含む自己集合性ペプチドを含む溶液を提供すること、および標的区域に配置された送達デバイスを通じた溶液の導入を通じて標的区域に溶液を投与するための指示を提供することを含む、方法を提供する。
【0016】
様々な態様では、本発明は、複数の自己集合性ペプチドから本質的になる肉眼的スキャフォールド(macroscopic scaffold)であって、自己集合性ペプチドのそれぞれが、心外膜アブレーションに関連する標的区域に配置されて抗癒着を促進することができる有効量で約7アミノ酸から約32アミノ酸を含む、肉眼的スキャフォールドを提供する。
【0017】
当業者によって理解されるように、上記の態様のいずれかを下記の特徴のいずれか1つまたは複数と組み合わせることができる。
【0018】
様々な実施形態では、生物組織は心外膜を含む。
【0019】
様々な実施形態では、生物組織はアブレーション、好ましくは心室頻拍アブレーションに供される心外膜を含む。
【0020】
様々な実施形態では、自己集合性ペプチドは、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互に現れる約12個から約16個のアミノ酸を含む。
【0021】
様々な実施形態では、自己集合性ペプチドは、RADA、IEIK、TTTT、ATAT、TVTV、ASAS、SSSS、VVVTTTT、およびこれらの組合せから選択される配列を含む。
【0022】
様々な実施形態では、自己集合性ペプチドは、(RADA)、(IEIK)I、および(KLDL)から選択される配列を含む。
【0023】
様々な実施形態では、自己集合性ペプチドは、溶液の約0.1から約10w/v%または溶液の約0.1から約3.5w/v%である。
【0024】
様々な実施形態では、自己集合性ペプチドは、溶液の約1、約2.5、または約3w/v%である。
【0025】
様々な実施形態では、有効量は、標的区域の1cmあたりおよそ0.1mLから1cmあたりおよそ5mLである。
【0026】
様々な実施形態では、有効量は、標的区域の1cmあたりおよそ1mLである。
【0027】
様々な実施形態では、ヒドロゲルは、標的区域に自己集合性ペプチド溶液を投与する前に形成される。
【0028】
様々な実施形態では、ヒドロゲルは、標的区域に自己集合性ペプチド溶液を投与した後に形成される。
【0029】
様々な実施形態では、溶液は生物活性剤をさらに含む。
【0030】
様々な実施形態では、溶液は細胞および/または薬物を実質的に含まない。
【0031】
様々な実施形態では、自己集合性ペプチド溶液は、in vivoで投与される。
【0032】
様々な実施形態では、生物組織はヒト組織である。
【0033】
様々な実施形態では、溶液は水溶液であり、水溶液中のペプチド濃度は約0.1重量/体積(w/v)パーセントから約3w/vパーセントである。
【0034】
様々な実施形態では、方法は、送達デバイスを導入する前、および/または標的区域から送達デバイスを取り除いた後に、標的区域を可視化することをさらに含む。
【0035】
様々な実施形態では、方法は、送達デバイスを取り除いた後に標的区域をモニタリングすることをさらに含む。
【0036】
様々な実施形態では、方法は、自己集合性ペプチドを含む溶液を調製することをさらに含む。
【0037】
様々な実施形態では、標的部位は、心外膜アブレーションへのカテーテルアプローチに関する。
【0038】
様々な実施形態では、標的部位は手術部位である。
【0039】
様々な実施形態では、ヒドロゲルは、腹部内の癒着形成を処置、予防および/または軽減する。
【0040】
様々な実施形態では、生物組織は、腹膜内部、盲腸、腸、優先的には大腸、および/または結腸を含む。
【0041】
様々な実施形態では、ヒドロゲルは、骨盤の癒着形成を処置、予防および/または軽減する。
【0042】
様々な実施形態では、ヒドロゲルは、産科または婦人科の手技(proceedure)における癒着形成を処置、予防および/または軽減する。
【0043】
様々な実施形態では、産科または婦人科の手技は、帝王切開分娩、腹式子宮摘出術、優先的には筋腫摘出術、卵巣嚢胞摘出術、または侵襲性婦人科悪性腫瘍の手術を含む。
【0044】
様々な実施形態では、癒着形成を処置、予防および/または軽減することは、小腸閉塞、不妊症、慢性疼痛、および性交疼痛を処置、予防および/または軽減する。
【0045】
本技術のこれらおよびその他の利点は、以下の記載を参照したときに明らかとなる。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
生物組織への癒着を軽減するための方法であって、有効量の自己集合性ペプチド溶液を該生物組織に投与することを含み、該自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、該自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、該ヒドロゲルが該生物組織への癒着を軽減する、方法。
(項目2)
生物組織間の癒着を軽減するための方法であって、有効量の自己集合性ペプチド溶液を手術部位の生物組織に投与することを含み、該自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、該自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、該ヒドロゲルが該手術部位の該生物組織への別の生物組織の癒着を軽減する、方法。
(項目3)
前記生物組織が心外膜を含む、項目1または2に記載の方法。
(項目4)
前記生物組織がアブレーション、好ましくは心室頻拍アブレーションに供される心外膜を含む、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記自己集合性ペプチドが、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互に現れる約12個から約16個のアミノ酸を含む、項目1~4のいずれかに記載の方法。
(項目6)
前記自己集合性ペプチドが、RADA、IEIK、TTTT、ATAT、TVTV、ASAS、SSSS、VVVTTTT、およびこれらの組合せから選択される配列を含む、項目1~4のいずれかに記載の方法。
(項目7)
前記自己集合性ペプチドが、(RADA) 、(IEIK) I、および(KLDL) から選択される配列を含む、項目1~4のいずれかに記載の方法。
(項目8)
前記自己集合性ペプチドが、前記溶液の約0.1から約10w/v%または前記溶液の約0.1から約3.5w/v%である、項目1~7のいずれかに記載の方法。
(項目9)
前記自己集合性ペプチドが、前記溶液の約1、約2.5、または約3w/v%である、項目1~7のいずれかに記載の方法。
(項目10)
前記有効量が、標的区域の1cm あたりおよそ0.1mLから1cm あたりおよそ5mLである、項目1~9のいずれかに記載の方法。
(項目11)
前記有効量が、標的区域の1cm あたりおよそ1mLである、項目1~9のいずれかに記載の方法。
(項目12)
前記ヒドロゲルが、標的区域に前記自己集合性ペプチド溶液を投与する前に形成される、項目1~11のいずれかに記載の方法。
(項目13)
前記ヒドロゲルが、標的区域に前記自己集合性ペプチド溶液を投与した後に形成される、項目1~11のいずれかに記載の方法。
(項目14)
前記溶液が生物活性剤をさらに含む、項目1~13のいずれかに記載の方法。
(項目15)
前記溶液が細胞および/または薬物を実質的に含まない、項目1~13のいずれかに記載の方法。
(項目16)
前記自己集合性ペプチド溶液がin vivoで投与される、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目17)
前記生物組織がヒト組織である、項目1~15のいずれか一項に記載の方法。
(項目18)
生物組織への癒着を軽減するための有効量の自己集合性ペプチド溶液の使用であって、該自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、該自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、該ヒドロゲルが該生物組織への癒着を軽減する、使用。
(項目19)
生物組織への癒着を軽減するための有効量の自己集合性ペプチド溶液の使用であって、該自己集合性ペプチドが約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、該自己集合性ペプチド溶液が生理的条件下でヒドロゲルを形成し、該ヒドロゲルが手術部位の該生物組織への別の生物組織の癒着を軽減する、使用。
(項目20)
前記生物組織が心外膜を含む、項目16または17に記載の使用。
(項目21)
前記生物組織がアブレーション、好ましくは心室頻拍アブレーションに供される心外膜を含む、項目16または17に記載の使用。
(項目22)
前記自己集合性ペプチドが、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互に現れる約12個から約16個のアミノ酸を含む、項目16~21のいずれかに記載の使用。
(項目23)
前記自己集合性ペプチドが、RADA、IEIK、TTTT、ATAT、TVTV、ASAS、SSSS、VVVTTTT、およびこれらの組合せから選択される配列を含む、項目16~21のいずれかに記載の使用。
(項目24)
前記自己集合性ペプチドが、(RADA) 、(IEIK) I、および(KLDL) から選択される配列を含む、項目16~21のいずれかに記載の使用。
(項目25)
前記自己集合性ペプチドが、前記溶液の約0.1から約10w/v%または前記溶液の約0.1から約3.5w/v%である、項目16~24のいずれかに記載の使用。
(項目26)
前記自己集合性ペプチドが、前記溶液の約1、約2.5、または約3w/v%である、項目16~24のいずれかに記載の使用。
(項目27)
前記有効量が、標的区域の1cm あたりおよそ0.1mLから1cm あたりおよそ5mLである、項目16~26のいずれかに記載の使用。
(項目28)
前記有効量が、標的区域の1cm あたりおよそ1mLである、項目16~26のいずれかに記載の使用。
(項目29)
前記ヒドロゲルが、標的区域に前記自己集合性ペプチド溶液を投与する前に形成される、項目16~28のいずれかに記載の使用。
(項目30)
前記ヒドロゲルが、標的区域に前記自己集合性ペプチド溶液を投与した後に形成される、項目16~28のいずれかに記載の使用。
(項目31)
前記溶液が生物活性剤をさらに含む、項目16~30のいずれかに記載の使用。
(項目32)
前記溶液が細胞および/または薬物を実質的に含まない、項目16~30のいずれかに記載の使用。
(項目33)
前記自己集合性ペプチド溶液がin vivoで投与される、項目16~32のいずれか一項に記載の使用。
(項目34)
前記生物組織がヒト組織である、項目16~32のいずれか一項に記載の使用。
(項目35)
前記ヒドロゲルが腹部内の癒着形成を処置、予防および/または軽減する、項目1、2、5~17のいずれかに記載の方法または項目18、19、22~34のいずれかに記載の使用。
(項目36)
前記生物組織が、腹膜内部、盲腸、腸、優先的には大腸、および/または結腸を含む、項目1、2、5~17のいずれかに記載の方法または項目18、19、22~34のいずれかに記載の使用。
(項目37)
前記ヒドロゲルが骨盤の癒着形成を処置、予防および/または軽減する、項目1、2、5~17のいずれかに記載の方法または項目18、19、22~34のいずれかに記載の使用。
(項目38)
前記ヒドロゲルが産科または婦人科の手技における癒着形成を処置、予防および/または軽減する、項目1、2、5~17のいずれかに記載の方法または項目18、19、22~34のいずれかに記載の使用。
(項目39)
前記産科または婦人科の手技が、帝王切開分娩、腹式子宮摘出術、優先的には筋腫摘出術、卵巣嚢胞摘出術、または侵襲性婦人科悪性腫瘍のための手術を含む、項目38に記載の方法。
(項目40)
癒着形成を処置、予防および/または軽減することが、小腸閉塞、不妊症、慢性疼痛、および性交疼痛を処置、予防および/または軽減する、項目37~39のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、ある特定の両親媒性ペプチド溶液が、驚くべきことにかつ有利なことに、生物組織の癒着を軽減するために使用できるという発見に少なくとも部分的に基づく。
【0047】
概括的に言えば、方法および材料は、生物組織の癒着を予防または軽減するためにヒドロゲル障壁を用い得る。軽減は部分的または完全であり得る。材料および方法は、所定のまたは所望の標的区域に、自己集合性ペプチド、または自己集合性ペプチドを含む溶液、または自己集合性ペプチドを含む組成物を投与し、適用し、または注射することにより、生物組織の癒着を予防または軽減することを含み得る。
【0048】
例えば、様々な態様および実施形態では、本発明は、生物組織への癒着を軽減するための方法および材料を提供する。方法は、有効量の自己集合性ペプチド溶液を生物組織に投与することを含み、自己集合性ペプチドは約7アミノ酸から32アミノ酸の間の長さであり、自己集合性ペプチド溶液は生理的条件下でヒドロゲルを形成する。ある特定の実施形態では、癒着は2つの生体組織間のものである。他のある特定の実施形態では、生物組織は心外膜を含み得る。さらに他のある特定の実施形態では、生物組織は、アブレーションに供される心外膜を含み得る。さらなる他のある特定の実施形態では、生物組織は、心室頻拍アブレーションに供される心外膜を含み得る。
【0049】
自己集合性ペプチドを含む溶液の投与を通じて、ヒドロゲル障壁が形成され得る。ヒドロゲル障壁は、標的区域に形成されて抗癒着を促進し得る。本開示の自己組織化性または自己集合性ペプチドは、所定のまたは所望の標的への自己組織化性または自己集合性ペプチドの適用を含み得る。自己組織化性または自己集合性ペプチドは、ペプチド溶液、ヒドロゲル、膜の形態、またはその他の形態で標的部位に適用または導入され得る。標的部位は、特定の処置を必要とする被験体の所定の区域であり得る。一部の実施形態では、標的部位は、内視鏡手術の部位などの手術部位に関するものであり得る。他の実施形態では、標的部位は出血部位であり得る。
【0050】
本発明の様々な特徴を以下に順次論じる。
【0051】
本明細書中で使用する場合、「被験体」という用語は、ヒトおよび非ヒト動物、例えば、脊椎動物、大型動物、および霊長目動物を含むことを意図する。ある特定の実施形態では、被験体は哺乳動物被験体であり、特定の実施形態では、被験体はヒト被験体である。ヒトでの用途が明らかに予見されるが、例えば非ヒト動物での獣医学的用途もまた本明細書中で想定される。本発明の「非ヒト動物」という用語には、全ての脊椎動物、例えば非哺乳動物(例えばニワトリといった鳥類、両生類、爬虫類など)、および哺乳動物、例えば非ヒト霊長目動物、飼育動物、および農業に有用な動物(例えば、中でもヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ラット)が含まれる。
【0052】
「自己集合性ペプチド」という用語は、自己集合性モチーフを含むペプチドを指し得る。自己集合性ペプチドは、肉眼的な膜またはナノ構造が挙げられるが、これらに限定されない構造に自己集合できるペプチドである。例えば、自己集合性ペプチドは、ベータシート構造を誘導する特定条件の存在下、水溶液中でベータシート構造を呈し得る。これらの特定条件は、自己集合性ペプチド溶液のpHを調整することを含み得る。調整は、自己集合性ペプチド溶液のpHの増加または減少であり得る。pHの増加は、生理的pHへのpHの増加であり得る。特定条件はまた、一価の陽イオンなどの陽イオンを自己集合性ペプチド溶液に加えることを含み得る。特定条件は、膵臓に関する条件を含み得る。自己集合性ペプチドは、組成物、ペプチド溶液、ペプチド粉末、ヒドロゲル、またはスキャフォールドと称され得る、またはこれらの一部分であり得る。自己集合性ペプチドは、ペプチド溶液、組成物、ヒドロゲル、膜、スキャフォールドの形態で、またはその他の形態で標的区域に投与され得る。
【0053】
自己組織化または自己集合の間に、ペプチドはナノファイバーを形成し得る。自己組織化または自己集合は、溶液中のペプチドのゲル化を引き起こし得る。ゲル化は、ヒドロゲルを提供し得る、またはヒドロゲルを形成させ得る。ペプチドは、生理的pHレベルの下、溶液中で自発的にベータシートを形成し得る。ペプチドは、生理的条件下および/または陽イオンの存在下、溶液中で自発的にベータシートを形成し得る。
【0054】
「ヒドロゲル」という用語は、ポリマーおよび高パーセンテージの水(例えば、少なくとも90%の水)から構成される材料を指し得る。
【0055】
自己集合性ペプチドは、両親媒性の自己集合性ペプチドであり得る。「両親媒性」とは、ペプチドが疎水性部分および親水性部分を含むことを意味する。一部の実施形態では、両親媒性ペプチドは、交互に現れる疎水性アミノ酸および親水性アミノ酸を含み得る、それらから本質的になり得る、またはそれらからなり得る。交互に現れるとは、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互に現れる、一続きの3つまたはそれよりも多くのアミノ酸を含むことを意味し、ペプチド配列中に含まれるありとあらゆるアミノ酸が疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互に現れるものである必要はない。ある特定の実施形態では、ペプチドは、両親媒性である第1の部分および両親媒性ではない第2の部分を含み得る。
【0056】
自己集合性ペプチドは、本明細書中で「ペプチド」または「自己集合性オリゴペプチド」とも称されるが、これは自己集合性ペプチド溶液、組成物、ヒドロゲル、膜、スキャフォールドの形態で、またはその他の形態で、所定のまたは所望の標的区域に投与され得る。ヒドロゲルは、本開示を通じて膜またはスキャフォールドとも称され得る。
【0057】
所定のまたは所望の標的区域は、生物組織であり得る。所定のまたは所望の標的区域は、手術の位置またはその近くであり得る。所定のまたは所望の標的区域は、外科的手技または非意図的もしくは意図的な外傷の部位、またはこれらを経験したものであり得る他の区域に基づいて確立され得る。一部の実施形態では、標的部位は心外膜であり得る。一部の他の実施形態では、標的部位は、アブレーションに供される心外膜であり得る。さらなる一部の他の実施形態では、標的部位は、心室頻拍アブレーションに供される心外膜であり得る。様々な実施形態では、標的部位は、腹膜内部、盲腸、腸、優先的には大腸、および/または結腸を含む。様々な実施形態では、標的部位は、帝王切開分娩、腹式子宮摘出術、優先的には筋腫摘出術、卵巣嚢胞摘出術、または侵襲性婦人科悪性腫瘍のための手術に供される生物組織を含む。
【0058】
自己集合性ペプチド溶液は、自己集合性ペプチド水溶液であり得る。自己集合性ペプチドは、実質的に細胞フリーまたは細胞を含まない溶液で投与、適用、または注射され得る。ある特定の実施形態では、自己集合性ペプチドは、細胞フリーまたは細胞を含まない溶液で投与、適用、または注射され得る。
【0059】
自己集合性ペプチドはまた、実質的に薬物フリーまたは薬物を含まない溶液で投与、適用、または注射され得る。ある特定の実施形態では、自己集合性ペプチドは、薬物フリーまたは薬物を含まない溶液で投与、適用、または注射され得る。ある特定の他の実施形態では、自己集合性ペプチドは、実質的に細胞フリーかつ実質的に薬物フリーの溶液で投与、適用、または注射され得る。またさらなるある特定の他の実施形態では、自己集合性ペプチドは、細胞フリーかつ薬物フリーの溶液で投与、適用、または注射され得る。
【0060】
自己集合性ペプチド溶液は、自己集合性ペプチドを含み得る、自己集合性ペプチドからなり得る、または自己集合性ペプチドから本質的になり得る。自己集合性ペプチドは、改変または未改変の形態であり得る。改変とは、溶液中に単独で提供されたときに自己集合しない1つまたは複数のアミノ酸を含む1つまたは複数のドメインを自己集合性ペプチドが有し得ることを意味する。未改変とは、ペプチドの自己集合を提供するドメイン以外のいかなるその他のドメインも自己集合性ペプチドが有しなくてよいことを意味する。すなわち、未改変ペプチドは、ベータシート、またはヒドロゲルなどの肉眼的構造に自己集合し得る交互に現れる疎水性アミノ酸および親水性アミノ酸からなる。
【0061】
自己集合性ペプチドは、少なくとも約7アミノ酸、約7から32アミノ酸の間、または約12から16アミノ酸の間のものであり得る。少なくとも約7アミノ酸を含まない、少なくとも約7アミノ酸からならない、または少なくとも約7アミノ酸から本質的にならないその他のペプチドが、本開示によって想定され得る。自己集合性ペプチドは、約6から約200アミノ酸残基から構成され得る。ある特定の実施形態では、約8から約32残基が自己集合性ペプチドにおいて使用され得るが、他の実施形態では、自己集合性ペプチドは、約7から約17残基を有し得る。ある特定のその他の例では、自己集合性ペプチドは、少なくとも8アミノ酸、少なくとも約12アミノ酸、または少なくとも約16アミノ酸のペプチドであり得る。
【0062】
材料および方法は、所定のまたは所望の標的に自己集合性ペプチドを投与することを含み得る。ペプチドは、ヒドロゲルとして投与され得るか、または投与されてヒドロゲルを形成し得る。ヒドロゲルは、水中に分散するコロイド状ゲルを指し得る用語である。ヒドロゲルはまた、本開示を通じて膜またはスキャフォールドとも称され得る。システムおよび方法はまた、ペプチド水溶液などの溶液として、所定のまたは所望の標的に自己集合性ペプチドを適用することを含み得る。
【0063】
「投与する」という用語は、追加の構成成分と共にまたは追加の構成成分を伴わずに、単独の形態、水溶液などの溶液による形態、または組成物、ヒドロゲル、もしくはスキャフォールドによる形態を非限定的に含む様々な形態の1つまたは複数において、自己集合性ペプチドを適用し、導入し、または注射することを非限定的に含むことを意図する。
【0064】
方法は、被験体の所定のまたは所望の標的区域にまたはその近くに送達デバイスを導入することを含み得る。方法は、注射器、チューブ、ピペット、カテーテル、カテーテル注射器、またはその他の針に基づくデバイスのうちの少なくとも1つを含む送達デバイスを被験体の所定のまたは所望の標的区域に導入することを含み得る。自己集合性ペプチドは、注射器、チューブ、ピペット、カテーテル、カテーテル注射器、またはその他の針に基づくデバイスによって、被験体の所定のまたは所望の標的区域に投与され得る。注射針のゲージは、注射器からの組成物、溶液、ヒドロゲル、または液体の十分な流れを標的区域に提供するように選択され得る。一部の実施形態では、これは、投与されている組成物、ペプチド溶液、またはヒドロゲル中の自己集合性ペプチドの量、ペプチド溶液の、組成物中の、またはヒドロゲル中の濃度、およびペプチド溶液、組成物、またはヒドロゲルの粘度のうちの少なくとも1つに基づき得る。送達デバイスは、従来式のデバイスであり得るか、または、特定の標的区域への到達、特定の投与レジメンの達成、目標の特定の体積、量、または濃度の送達、および標的区域への正確な送達のうちの少なくとも1つを達成するように設計され得る。
【0065】
生物組織の癒着を軽減する方法は、被験体内に送達デバイスを導入すること、および手術部位の一部分などの所定のまたは標的区域に送達デバイスの端部を配置することを含み得る。自己集合性ペプチドは、少なくとも所望される標的区域へと送達デバイスによって投与され得る。送達デバイスの使用は、ペプチドのより選択的な投与を提供して、標的区域へのより正確な送達を提供し得る。ペプチドの選択的な投与は、成功裡の、かつ所望の位置に正確に配置されるような、ペプチド溶液、組成物、またはヒドロゲルの、強化され、かつより標的化された送達を可能とし得る。選択的な投与は、別の送達デバイスの使用に対して、配置、および処置の有効性が著しく改善された、強化および標的化された送達を提供し得る。本開示のシステム、方法、およびキットにおいて使用され得る送達デバイスとしては、注射器、チューブ、針、ピペット、シリンジカテーテル、その他の針に基づくデバイス、またはカテーテルを挙げることができる。
【0066】
カテーテルなどの送達デバイスの使用は、カテーテルを所定の場所にガイドするために使用されるガイドワイヤ、あるいはカテーテルの正しい配置、ならびに標的区域および/または標的区域への経路の可視化を可能とし得る内視鏡などの付属のデバイスの使用を含み得る。内視鏡は、光およびカメラまたは被験体の身体の像を見ることを可能にするその他の可視化デバイスのうちの少なくとも1つを含み得るチューブであり得る。ガイドワイヤまたは内視鏡は、例えば皮膚の切開によって被験体内に導入され得る。内視鏡は、標的区域へ送達デバイスを導入する前に標的区域に導入され得る。
【0067】
注射器、チューブ、針、ピペット、シリンジカテーテル、その他の針に基づくデバイス、カテーテルなどの送達デバイスまたは内視鏡の使用は、標的区域がある開口部の直径またはサイズの決定を必要とし得るため、注射器、チューブ、針、ピペット、シリンジカテーテル、その他の針型デバイス、カテーテル、または内視鏡の少なくとも一部分は、標的区域にペプチド、ペプチド溶液、組成物、またはヒドロゲルを投与するために開口部へと入り得る。
【0068】
ある特定の実施形態では、ヒドロゲルは、in vitroで形成されてin vivoの所望の位置に投与され得る。ある特定の例では、この位置は標的区域であり得る。その他の例では、この位置は、その区域の上流、下流、またはその区域の実質的に近くであり得る。ヒドロゲルの、それが所望される区域への移動を可能とすることが所望され得る。あるいは、別の手技により、ヒドロゲルを、それが所望される区域に配置し得る。所望の位置または標的区域は、被験体内での抗癒着の提供または促進(例えば、生物組織の癒着の予防または軽減)が所望される区域の少なくとも一部分であり得る。
【0069】
本開示のある特定の態様では、ヒドロゲルはin vivoで形成され得る。自己集合性ペプチドを含む水溶液などの溶液は、被験体のin vivoの位置または区域に挿入されて被験体において抗癒着を提供または促進し得る(例えば、生物組織の癒着を予防または軽減し得る)。ある特定の例では、ヒドロゲルは、1つの位置においてin vivoで形成されて、被験体内での抗癒着の提供または促進(例えば、生物組織の癒着の予防または軽減)が所望される区域へ移動し得る。あるいは、別の手技により、被験体において抗癒着の提供または促進(例えば、生物組織の癒着の予防または軽減)が所望される区域にヒドロゲルを配置し得る。本開示のペプチドは、粉末、溶液、ゲルなどの形態であり得る。自己集合性ペプチドは溶液のpHおよび塩濃度の変化に応答してゲル化するので、適用または投与の際の被験体との接触によりゲル化する液体として流通され得る。
【0070】
ある特定の環境では、ペプチド溶液は、脆いヒドロゲルであり得、その結果として、本明細書中に記載するような送達デバイスによって投与され得る。
【0071】
一部の実施形態によれば、自己集合性ペプチドは、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互に現れる両親媒性であり得る。
【0072】
1つまたは複数の実施形態によれば、被験体は、被験体において抗癒着の提供または促進(例えば、生物組織の癒着の予防または軽減)の必要性を決定するために評価され得る。評価が完了したら、被験体に投与するためのペプチド溶液が調製され得る。
【0073】
一部の実施形態では、生物活性剤が、本開示の材料および方法と共に使用され得る。生物活性剤は、被験体内または実験室環境において何らかの活性、制御、モジュレーション、または状態もしくはその他の活性の調整を付与し得る、ペプチド、DNA配列、化学化合物、または無機もしくは有機化合物などの化合物を含み得る。生物活性剤は、そのような活性を提供するために別の構成成分と相互作用し得る。生物活性剤は、本明細書中の一部の実施形態によれば薬物と称され得る。ある特定の実施形態では、1つまたは複数の生物活性剤は、ペプチドシステムの外に徐放され得る。例えば、1つまたは複数の生物活性剤は、ヒドロゲルから徐放され得る。in vitroおよびin vivoの両方の試験は、生物活性剤のこの徐放を実証している。生物活性剤は、被験体への投与前にペプチド溶液に加えられ得るか、または溶液とは別々に被験体に投与され得る。1つまたは複数の生物活性剤は、システム内に封入され得、例えば、ヒドロゲル、溶液、またはナノファイバー中に封入され得る。
【0074】
自己集合性ペプチドは、生理的pHおよび/または一価の陽イオンなどの陽イオン、または手術部位に適用され得るその他の条件の存在下、水溶液中でベータシート構造を呈し得る。
【0075】
ペプチドは、水溶液中で一般に安定であり得、生理的条件、生理的pH、または生理的レベルの塩に曝露されたときに、大きい、肉眼的構造、スキャフォールド、またはマトリックスに自己集合し得る。ヒドロゲルが形成されたら、それは分解し得ないか、またはある期間後に分解もしくは生物分解し得る。分解速度は、アミノ酸配列およびその周囲の条件のうちの少なくとも1つに少なくとも部分的に基づき得る。
【0076】
「肉眼的」とは、10倍またはそれ未満の倍率の下で目に見えるほど十分に大きな寸法を有することを意味する。好ましい実施形態では、肉眼的構造は、裸眼で見えるものである。肉眼的構造は、透明であり得、また、二次元または三次元であり得る。通常、各次元は、少なくとも10μmの大きさである。ある特定の実施形態では、少なくとも2つの次元は、少なくとも100μm、または少なくとも1000μmの大きさである。頻繁には、少なくとも2つの次元は、少なくとも1~10mmの大きさ、10~100mmの大きさ、またはそれよりも大きい。ある特定の実施形態では、フィラメントの大きさは、約10ナノメートル(nm)から約20nmであり得る。フィラメント間の距離は約50nmから約80nmであり得る。本開示の自己集合性ペプチドは、約5nmの長さを有し得る。本開示の自己集合性ペプチドは、約10nmから約20nmの範囲のナノファイバーの直径、および約5nmから約200nmの範囲の平均孔径を有し得る。ある特定の実施形態では、ナノファイバーの直径、孔径、およびナノファイバーの密度は、使用されるペプチド溶液の濃度、およびペプチド溶液の体積などの使用されるペプチド溶液の量のうちの少なくとも1つによって調節され得る。そのため、抗癒着を十分に提供するための所望のナノファイバーの直径、孔径、および密度のうちの少なくとも1つを提供するために、溶液中のペプチドの特定の濃度およびペプチド溶液の特定の量のうちの少なくとも1つが選択され得る。
【0077】
「生理的条件」は、特定の生物体、細胞系、または被験体にとって自然に起こり得、それは人工的な実験室条件とは対照的であり得る。条件は、1つもしくは複数の特定の特性または1つもしくは複数の範囲の特性などの1つまたは複数の特性を含み得る。例えば、生理的条件は、温度または温度範囲、pHまたはpH範囲、圧力または圧力範囲、ならびに特定の化合物、塩、および他の構成成分の1つまたは複数の濃度を含み得る。例えば、一部の例では、生理的条件は、約20から約40℃の範囲の温度を含み得る。一部の例では、大気圧は約1atmであり得る。pHは、生理的pHの範囲内であり得る。例えば、pHは約6から約8の範囲内であり得る。生理的条件は、膜またはヒドロゲルの形成を誘発し得る一価の金属陽イオンなどの陽イオンを含み得る。これらは、塩化ナトリウム(NaCl)を含み得る。生理的条件は、約1mMから約20mMの間のグルコース濃度、スクロース濃度、またはその他の糖濃度も含み得る。
【0078】
ペプチドは、相補的かつ構造適合的(structurally compatible)でもあり得る。相補的とは、ペプチドの親水性側鎖間に形成されるイオン化対(ionized pair)および/または水素結合を通じて相互作用する、それらのペプチドの能力を指し、構造適合的とは、相補的ペプチドのペプチド骨格間に一定の距離を維持する、それらの相補的ペプチドの能力を指す。これらの特性を有するペプチドは、二次構造レベルでベータシートならびに三次構造レベルで絡み合ったフィラメントの形成および安定化を生じる分子間相互作用に参加する。
【0079】
上記の特性によって特徴付けられるペプチドの同種混合物および異種混合物の両方は、安定した肉眼的な膜、フィラメント、およびヒドロゲルを形成し得る。自己相補的および自己適合的なペプチドは、同種混合物において膜、フィラメント、およびヒドロゲルを形成し得る。同種の溶液中で膜、フィラメント、およびヒドロゲルを形成し得ないものなどの、互いに相補的かつ/または構造適合的な異種ペプチドもまた、肉眼的な膜、フィラメント、およびヒドロゲルに自己集合し得る。
【0080】
膜、フィラメント、およびヒドロゲルは、非細胞毒性であり得る。本開示のヒドロゲルは、被験体において消化および代謝され得る。ヒドロゲルは、30日またはそれ未満で生物分解され得る。それらは単純な組成を有し、透過性で、大量生産が容易かつ比較的安価である。膜およびフィラメント、ヒドロゲル、またはスキャフォールドはまた、滅菌条件下で生産および貯蔵され得る。膜形成のための最適な長さは、アミノ酸の組成、溶液条件、および標的部位の条件のうちの少なくとも1つに対して様々であり得る。
【0081】
自己集合性または両親媒性ペプチドのアミノ酸は、d-アミノ酸、l-アミノ酸、またはこれらの組合せから選択され得る。疎水性アミノ酸としては、Ala、Val、Ile、Met、Phe、Tyr、Trp、Ser、Thr、およびGlyを挙げることができる。親水性アミノ酸は、塩基性アミノ酸(例えば、Lys、Arg、His、Orn)、酸性アミノ酸(例えば、Glu、Asp)、または水素結合を形成するアミノ酸(例えば、Asn、Gln)であり得る。酸性アミノ酸および塩基性アミノ酸は、ペプチド上でクラスター化され得る。末端残基のカルボキシル基およびアミノ基は、保護されていてもよいし、保護されていなくてもよい。膜またはヒドロゲルは、自己相補的かつ自己適合的ペプチドの同種混合物中で、または互いに相補的かつ構造適合的なペプチドの異種混合物中で形成され得る。上記基準を満たすペプチドは、本明細書中に記載する好適な条件下で肉眼的な膜に自己集合し得る。
【0082】
ペプチドは、RADA、IEIK、TTTT、ATAT、TVTV、ASAS、SSSS、VVVTTTT、およびこれらの組合せからなる群から選択される配列を含み得る、またはこれから本質的になり得る。その他のペプチド配列が想定され、本開示の範囲内である。ある特定の実施形態では、ペプチドは、アルギニン、アラニン、およびアスパラギン酸の反復配列を含み得る、またはこれから本質的になり得る。
【0083】
本開示のペプチドは、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、およびアラニン(Arg-Ala-Asp-Ala(RADA))の反復配列を有するペプチドを含み得、そのようなペプチド配列は、(RADA)(ここで、p=2~50)と表され得る。
【0084】
その他のペプチド配列は、イソロイシン、グルタミン酸、イソロイシン、およびリシン(Ile-Glu-Ile-Lys(IEIK))の反復配列を有する自己集合性ペプチドによって表され得、そのようなペプチド配列は、(IEIK)(ここで、p=2~50)と表される。その他のペプチド配列は、イソロイシン、グルタミン酸、イソロイシン、およびリシン(Ile-Glu-Ile-Lys(IEIK))の反復配列を有する自己集合性ペプチドによって表され得、そのようなペプチド配列は、(IEIK)I(ここで、p=2~50)と表される。
【0085】
その他のペプチド配列は、リシン、ロイシン、アスパラギン酸、およびロイシン(Lys-Leu-Asp-Leu(KLDL))の反復配列を有する自己集合性ペプチドによって表され得、そのようなペプチド配列は、(KLDL)(ここで、p=2~50)と表される。その他のペプチド配列は、リシン、ロイシン、およびアスパラギン酸(Lys-Leu-Asp(KLD))の反復配列を有する自己集合性ペプチドによって表され得、そのようなペプチド配列は、(KLD)(ここで、p=2~50)と表される。本発明による自己集合性ペプチドの具体例として、配列Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala-Arg-Ala-Asp-Ala(RADA)を有する自己集合性ペプチドRADA16、配列Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile(IEIK)Iを有する自己集合性ペプチドIEIK13、配列Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile-Glu-Ile-Lys-Ile(IEIK)Iを有する自己集合性ペプチドIEIK17、または配列Lys-Leu-Asp-Leu-Lys-Leu-Asp-Leu-Lys-Leu-Asp-Leu(KLDL)を有する自己集合性ペプチドKLDL12があり得る。
【0086】
両親媒性配列、長さ、相補性、および構造適合性の基準は、ペプチドの異種混合物に当てはまる。例えば、2つの異なるペプチドを使用して膜を形成し得る:ペプチドA、Val-Arg-Val-Arg-Val-Asp-Val-Asp-Val-Arg-Val-Arg-Val-Asp-Val-Asp(VRVRVDVDVRVRVDVD)は親水性残基としてArgおよびAspを有し、ペプチドB、Ala-Asp-Ala-Asp-Ala-Lys-Ala-Lys-Ala-Asp-Ala-Asp-Ala-Lys-Ala-Lys ADADAKAKADADAKAKはLysおよびAspを有する。ペプチドAおよびペプチドBは相補的であり、AのArgはBのAspとイオン化対を形成することができ、AのAspはBのLysとイオン化対を形成することができる。よって、ペプチドAとペプチドBの異種混合物において、膜が恐らく形成されるが、それはペプチドAまたはペプチドBのいずれかから同種的に構成される。
【0087】
膜およびヒドロゲルは、ペプチドが互いに相補的かつ構造適合的であれば、それぞれ単独では膜を形成しないペプチドの異種混合物からも形成され得る。例えば、(Lys-Ala-Lys-Ala)(KAKA)と(Glu-Ala-Glu-Ala)4(EAEA)の混合物または(Lys-Ala-Lys-Ala)(KAKA)と(Ala-Asp-Ala-Asp)(ADAD)の混合物は、膜を形成することが期待されるが、これらのペプチドのいずれも、相補性がないことから単独では膜を形成しない。
【0088】
完全には相補的または構造適合的でないペプチドは、核酸のハイブリダイゼーションにおけるミスマッチの塩基対と類似のミスマッチを含有すると考えることができる。ミスマッチを含有するペプチドは、ミスマッチの対の破壊的な力よりもペプチド間相互作用の全体的安定性が優位であれば、膜を形成することができる。機能的に、そのようなペプチドも相補的または構造適合的であると考えることができる。例えば、ミスマッチのアミノ酸対は、両側にある数個の完全にマッチした対によって囲まれていれば、許容され得る。
【0089】
本明細書中に開示するペプチド配列のそれぞれは、記載するアミノ酸配列を含む、これから本質的になる、およびこれからなるペプチドを提供し得る。
【0090】
本開示は、本明細書中に記載するペプチドを含む、これから本質的になる、またはこれからなる溶液、ヒドロゲル、およびスキャフォールドのための材料、方法、およびキットを提供する。
【0091】
1重量/体積(w/v)パーセントの水性(水)溶液および2.5w/vパーセントの(RADA)は、3-D Matrix Co.,Ltd.による製品PuraMatrix(商標)peptide hydrogelとして利用できる。
【0092】
ある特定のペプチドは、細胞接着リガンドRGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)に類似する配列を含有し得る。in vitroでの細胞成長を支持するためのこれらのペプチドの適合性は、Ala-Glu-Ala-Glu-Ala-Lys-Ala-Lys-Ala-Glu-Ala-Glu-Ala-Lys-Ala-Lys(AEAEAKAKAEAEAKAK(EAK16))、RAD16、RADA16のホモポリマーシート、およびRAD16およびEAK16のヘテロポリマーへ様々な培養初代細胞および形質転換細胞を導入することによって試験された。RADに基づくペプチドは、RGDへのこの配列の類似性から、特に興味深いものであり得る。RAD配列は、細胞外マトリックスタンパク質テネイシン中に存在する高親和性リガンドであり、インテグリン受容体によって認識される。EAK16ペプチドおよび本明細書中に開示するその他のペプチドは、酵母タンパク質ズオチン(zuotin)の一領域に由来するものであった。
【0093】
同種または異種混合物において膜、ヒドロゲル、またはスキャフォールドを形成し得るペプチドの一覧を表1に列挙する。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【0094】
いかなる特定の理論にも縛られることを望まないが、ペプチドの自己集合は、ペプチドを構成するアミノ酸によるペプチド分子間の水素結合および疎水性結合に帰せられ得ると考えられる。
【0095】
本明細書中で使用する場合、「有効量」または「治療有効量」は、被験体において生物組織の癒着を予防または軽減するために有効なペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルの量を指す。ある特定の実施形態では、そのような「有効量」または「治療有効量」は、被験体への単回または複数回の投与(適用または注射)で、そのような処置なしで期待されるものにまさって、障害を有する被験体を処置し、または治癒させ、緩和し、軽減し、または改善するのに有効なペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルの量を指し得る。これは、ペプチド溶液またはヒドロゲル中のペプチドの特定の濃度またはそれの濃度の範囲、および追加的または代替的に、ペプチド溶液またはヒドロゲルの特定の体積またはそれの体積の範囲を含み得る。容易にする方法は、有効量および有効な濃度のうちの少なくとも1つを調製するための指示を提供することを含み得る。
【0096】
RADA16などの本開示の自己集合性ペプチドは、識別可能な生理学的または生物学的に活性のモチーフまたは配列を欠くペプチド配列であり得、したがって本来の細胞機能を損なわないものであり得る。生理学的に活性のモチーフは、転写などの多数の細胞内の現象を調節し得、そして生理学的に活性のモチーフの存在は、そのモチーフを認識する酵素による細胞質内タンパク質または細胞表面タンパク質のリン酸化をもたらし得る。生理学的に活性のモチーフがペプチド組織抗癒着剤(peptide tissue anti-adhesion agent)中に存在する場合、様々な機能を有するタンパク質の転写が活性化または抑制され得る。本開示の自己集合性ペプチドは、そのような生理学的に活性のモチーフを欠くものであり得、したがってこの危険性を持たない。
【0097】
膜形成のために最適な長さは、アミノ酸組成によって様々であり得る。本開示のペプチドによって想定される安定化因子は、相補的ペプチドによりペプチド骨格間の一定距離を維持することである。対形成のときに一定距離を維持することができるペプチドは、本明細書中で構造適合的と称される。ペプチド間の距離は、各イオン化対または水素結合対について、対の各アミノ酸の側鎖上の非分岐原子の数を合計することによって算出できる。例えば、リシンは5つ、グルタミン酸は4つの非分岐原子をその側鎖上にそれぞれ有する。
【0098】
投与量、例えば、投与(例えば適用または注射)される体積または濃度は、ペプチドの形態(例えば、ペプチド溶液の、ヒドロゲルの、または凍結乾燥形態などの乾燥形態)および利用される投与経路に応じて様々であり得る。正確な処方、投与経路、体積、および濃度は、被験体の状態を考慮して、およびペプチド溶液、ヒドロゲル、またはその他の形態のペプチドが投与される特定の標的区域または位置を考慮して、選択され得る。本明細書中に記載するものよりも少ないまたは多い用量が使用され得るまたは必要とされ得る。任意の特定の被験体に対する具体的な投与量および処置レジメンは、様々な要因に依存し得、要因としては、用いられる特定の1または複数のペプチド、処置されている区域の寸法、所望の標的区域に配置され得る生じるヒドロゲルの所望の厚さ、および処置時間の長さを挙げることができる。具体的な投与量および処置レジメンに影響し得るその他の要因としては、年齢、体重、全身の健康状態、性別、投与時間、分解速度、疾患、状態、または症状の重篤度および経過、ならびに治療医の判断が挙げられる。ある特定の実施形態では、ペプチド溶液は、単回用量で投与され得る。他の実施形態では、ペプチド溶液は、2回以上の用量で、または複数回用量で投与され得る。ペプチド溶液は、少なくとも2回用量で投与され得る。
【0099】
ペプチド溶液の有効量および有効な濃度は、抗癒着を少なくとも部分的に提供または促進する(例えば、生物組織の癒着を予防または軽減する)ように選択され得る。一部の実施形態では、有効量および有効な濃度のうちの少なくとも1つは、標的区域の寸法または直径に部分的に基づき得る。他の実施形態では、有効量および有効な濃度のうちの少なくとも1つは、標的区域におけるまたはその近くにおける1つまたは複数の流体の流量に部分的に基づく。
【0100】
有効量は、約0.1ミリリットル(mL)から約100mLのペプチド溶液の体積を含み得る。有効量は、約0.1mLから約10mLのペプチド溶液の体積を含み得る。ある特定の実施形態では、有効量は約0.5mLであり得る。他の実施形態では、有効量は約1.0mLであり得る。さらに他の実施形態では、有効量は約1.5mLであり得る。またさらに他の実施形態では、有効量は約2.0mLであり得る。一部の他の実施形態では、有効量は約3.0mLであり得る。
【0101】
ある特定の実施形態では、有効量は標的区域の1cmあたりおよそ0.1mLから1cmあたりおよそ5mLであり得る。ある特定の実施形態では、有効量は標的区域の1cmあたりおよそ1mLであり得る。この有効量は、2.5重量/体積パーセントなど、本開示のペプチド溶液の濃度に関して使用され得る。
【0102】
有効な濃度は、本明細書中に記載するように、抗癒着を提供または促進し得る(例えば、生物組織の癒着を予防または軽減し得る)量であり得る。標的区域の寸法または直径、および標的区域におけるまたはその近くにおける1つまたは複数の流体の流量のうちの少なくとも1つなどの、標的部位におけるまたはその近くにおける様々な特性は、有効な濃度の選択または決定に寄与し得る。
【0103】
有効な濃度は、約0.1重量/体積(w/v)パーセントから約10w/vパーセントの範囲内溶液中のペプチド濃度を含み得る。有効な濃度は、約0.1w/vパーセントから約3.5w/vパーセントの範囲の溶液中のペプチド濃度を含み得る。ある特定の実施形態では、有効な濃度は約1w/vパーセントであり得る。他の実施形態では、有効な濃度は約2.5w/vパーセントであり得る。さらに他の実施形態では、有効な濃度は約3.0w/vパーセントであり得る。
【0104】
ある特定の実施形態では、より高いペプチド濃度を有するペプチド溶液は、しかるべき場所に留まり、有効な抗癒着を提供または抗癒着を促進する(provide effective, or promote anti-adhesion)(例えば、生物組織の癒着を予防または軽減する)能力を有するより有効なヒドロゲルを提供し得る。ペプチド溶液の送達の目的のために、より高い濃度のペプチド溶液は、粘性が高過ぎて、有効かつ選択的な溶液の投与ができないものであり得る。十分に高い濃度が選択されない場合、ヒドロゲルは所望の期間にわたって標的区域で有効となり得ない可能性がある。
【0105】
有効な濃度は、特定の直径もしくはゲージのカテーテルまたは針を使用する注射またはその他の手段によって投与され得る溶液を提供するように選択され得る。
【0106】
本開示の方法は、本明細書中に記載する治療有効量のペプチド、組成物、ペプチド溶液、膜、フィラメント、およびヒドロゲルの単回ならびに複数回の投与を想定する。本明細書中に記載するペプチドは、被験体の状態の性質、重篤度、および程度に応じて、定期的な間隔で投与され得る。一部の実施形態では、ペプチド、組成物、ペプチド溶液、膜、フィラメント、またはヒドロゲルは、単回投与で投与され得る。一部の実施形態では、本明細書中に記載するペプチド、組成物、ペプチド溶液、またはヒドロゲルは、複数回投与で投与される。一部の実施形態では、治療有効量のペプチド、組成物、ペプチド溶液、膜、フィラメント、またはヒドロゲルは、定期的な間隔で繰返し投与され得る。選択される定期的な間隔は、投与される溶液の初期ペプチド濃度、投与される量、および形成されるヒドロゲルの分解速度のうちのいずれか1つまたは複数に基づき得る。例えば、最初の投与後、例えば、1週間後、2週間後、4週間後、6週間後、または8週間後に後続の投与が為され得る。後続の投与は、最初の投与と同じペプチド濃度および体積を有する溶液の投与を含み得るか、または、より低いもしくは高いペプチド濃度および体積の溶液の投与を含み得る。ペプチド溶液の適切な後続の投与の選択は、標的区域および標的区域周囲の区域を画像化すること、および被験体の状態に基づいて必要性を確認することに基づき得る。所定の間隔は、各後続の投与について同じであってもよいし、異なっていてもよい。一部の実施形態では、ペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルは、被験体の生涯にわたって被験体内で少なくとも部分的な抗癒着を維持する(例えば、生物組織の癒着を予防または軽減する)ために、所定の間隔で長期にわたって投与され得る。所定の間隔は、各後続の投与について同じであってもよいし、異なっていてもよい。これは、以前の投与により形成されたヒドロゲルが部分的または完全に崩壊または分解したかどうかに依存し得る。後続の投与は、最初の投与と同じペプチド濃度および体積を有する溶液の投与を含み得るか、または、より低いもしくは高いペプチド濃度および体積の溶液の投与を含み得る。ペプチド溶液の適切な後続の投与の選択は、標的区域および標的区域周囲の区域を画像化すること、および被験体の状態に基づいて必要性を確認することに基づき得る。
【0107】
ペプチドは、化学合成することもできるし、または天然および組換えの供給源から精製することもできる。化学合成されたペプチドの使用は、別の動物の細胞外マトリックスに由来する未確認の構成成分などの未確認の構成成分をペプチド溶液が含まないようにし得る。したがって、この特性は、従来の組織由来生体用材料と比べて、ウイルス感染の危険性などの感染の懸念を取り除き得る。これは、牛海綿状脳症(BSE)などの感染症などの感染の懸念を取り除いて、ペプチドを医療使用のために高度に安全なものにし得る。
【0108】
ペプチドの初期濃度は、形成される膜、ヒドロゲル、またはスキャフォールドの大きさおよび厚さにおける因子であり得る。一般に、ペプチド濃度が高くなるほど、膜またはヒドロゲル形成の程度がより大きくなる。より高い初期ペプチド濃度(約10mg/ml)(約1.0w/vパーセント)で形成されるヒドロゲルまたはスキャフォールドは、より厚くなり得、よってより強くなる可能性がある。
【0109】
膜、ヒドロゲル、またはスキャフォールドの形成は、数分のオーダーの、非常に迅速なものであり得る。膜またはヒドロゲルの形成は、非可逆的なものであり得る。ある特定の実施形態では、形成は可逆的なものであり得、他の実施形態では、形成は非可逆的なものであり得る。ヒドロゲルは、標的区域に投与されると瞬時に形成され得る。ヒドロゲルの形成は、投与の約1~2分以内に起こり得る。その他の例では、ヒドロゲルの形成は、投与の約3~4分以内に起こり得る。ある特定の実施形態では、ヒドロゲルを形成するのに要する時間は、ペプチド溶液の濃度、適用されるペプチド溶液の体積、および適用または注射する区域の状態(例えば、適用する区域の一価の金属陽イオン濃度、区域のpH、および区域におけるまたはその近くにおける1つまたは複数の流体の存在)のうちの1つまたは複数に少なくとも部分的に基づき得る。プロセスは、12未満または12に等しいpH、および温度によって影響されないものであり得る。膜またはヒドロゲルは、1~99℃の範囲の温度で形成され得る。
【0110】
ヒドロゲルは、本開示の方法およびキットを使用して所望する効果を提供するのに十分な期間にわたって、標的区域の所定の場所に留まり得る。本開示の方法およびキットを使用しての所望する効果は、手術部位におけるまたはその近くにおける外科的手技が行われた区域を処置するため、またはこの区域の治癒を助けるためのものであり得る。例えば、本開示の方法およびキットを使用しての所望する効果は、内視鏡手術が行われる区域を処置するため、またはこの区域の治癒を助けるためのものであり得る。
【0111】
膜またはヒドロゲルが所望の区域に留まり得る期間は、約10分であり得る。ある特定の例では、それは約35分間、所望の区域に留まり得る。ある特定のさらなる例では、それは1日または複数の日数の間、1週またはそれより多くの週まで、所望の区域に留まり得る。他の例では、それは30日間またはそれよりも後まで、所望の区域に留まり得る。それは無期限に所望の区域に留まり得る。その他の例では、それは、自然に分解するかまたは意図的に取り除かれるまで、より長い期間、所望の区域に留まり得る。ヒドロゲルがある期間にわたって自然に分解する場合、同じまたは異なる位置へのヒドロゲルのその後の適用または注射が行われ得る。
【0112】
ある特定の実施形態では、自己集合性ペプチドは、自己集合性ペプチドの強化された有効性を提供し得るか、または別の作用、処置、治療を提供し得るか、または他の方法で被験体の1つもしくは複数の構成成分と相互作用し得る、1つまたは複数の構成成分を用いて調製され得る。例えば、1つまたは複数の生物学的または生理学的に活性のアミノ酸配列またはモチーフを含む追加のペプチドが、自己集合性ペプチドと一緒に、構成成分の1つとして含まれ得る。他の構成成分としては、薬物などの生物学的に活性の化合物、または被験体に対して何らかの利益を提供し得るその他の処置を挙げることができる。例えば、がんを処置する薬物または抗がん薬物は、自己集合性ペプチドと共に投与され得るか、または別々に投与され得る。
【0113】
ペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルは、被験体を処置するため、または溶血、炎症、および感染を予防するための小分子薬物を含み得る。小分子薬物は、グルコース、サッカロース、精製サッカロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、デキストラン(destran)、ヨウ素、塩化リゾチーム、ジメチルイソプロピルアズレン(dimethylisoprpylazulene)、トレチノイントコフェリル、ポビドンヨード、アルプロスタジルアルファデクス、アニスアルコール、サリチル酸イソアミル、α,α-ジメチルフェニルエチルアルコール、バクダノール、ヘリオナール、スルファジアジン銀(sulfazin silver)、ブクラデシンナトリウム、アルプロスタジルアルファデクス、硫酸ゲンタマイシン、テトラサイクリン塩酸塩、フシジン酸ナトリウム、ムピロシンカルシウム水和物、および安息香酸イソアミルからなる群から選択され得る。その他の小分子薬物が想定され得る。タンパク質ベースの薬物は、投与される構成成分として含まれ得、また、エリスロポエチン、組織型プラスミノーゲン活性化因子、合成ヘモグロビン、およびインスリンを含み得る。
【0114】
迅速なまたは即時のヒドロゲルの形成からペプチド溶液を保護するための構成成分が含まれ得る。これは、経時的に分解して標的区域へのペプチド溶液の時間調節放出(controlled time release)を可能とすることにより、所望の所定の期間にわたってヒドロゲルを形成し得る、封入された送達システムを含み得る。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などの生分解性の生体適合性ポリマーが使用され得る。
【0115】
一部の実施形態では、組織抗癒着効果を減少させることなく溶液の浸透圧を低張から等張に改善することによって生物学的安全性を増加させるために、糖が自己集合性ペプチド溶液に加えられ得る。ある特定の例では、糖は、スクロースまたはグルコースであり得る。
【0116】
本明細書中に記載する構成成分のいずれかは、ペプチド溶液中に含まれ得るか、またはペプチド溶液とは別に投与され得る。さらに、本明細書中に提供する方法および容易にする方法のいずれかは、1または複数の関係者によって行われ得る。
【0117】
本開示のペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルは、キット中に提供され得る。被験体の標的区域に溶液を投与するための指示もまた、キット中に提供され得る。ペプチド溶液は、ヒドロゲルを形成して生物組織への癒着を少なくとも部分的に軽減するために、有効量で、および有効な濃度で少なくとも約7アミノ酸を含む自己集合性ペプチドを含み得る。ペプチド溶液は、ヒドロゲルを形成して生物組織への癒着を少なくとも部分的に軽減するために、有効量で、および有効な濃度で約7アミノ酸から約32アミノ酸を含む自己集合性ペプチドを含み得る。溶液を投与するための指示は、例えば、本明細書中に記載する投与経路によって、用量、体積、もしくは濃度、または投与スケジュールで、本明細書中で提供するペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルを投与するための方法を含み得る。ペプチドは、両親媒性であり得、ペプチドの少なくとも一部分は、疎水性アミノ酸と親水性アミノ酸とが交互に現れ得る。
【0118】
キットは、情報資料も含み得る。情報資料は、本明細書中に記載する方法に関する、説明的な、指示的な、マーケティングの、またはその他の資料であり得る。一実施形態では、情報資料は、本明細書中に開示するペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルの生産、ペプチド、組成物、ペプチド溶液、またはヒドロゲルの物理的特性、濃度、体積、大きさ、寸法、有効期限、およびバッチ、または生産場所に関する情報を含み得る。
【0119】
キットは、所望の区域へのペプチドまたはペプチド溶液の投与を可能とするためのデバイスまたは材料も任意選択で含み得る。例えば、注射器、ピペット、カテーテル、またはその他の針に基づくデバイスがキット中に含まれ得る。追加的または代替的に、キットは、ガイドワイヤ、内視鏡、または標的区域へのペプチド溶液の選択的な投与を提供するためのその他の付属器材を含み得る。
【0120】
キットは、追加的または代替的に、ペプチド溶液、ヒドロゲル、またはスキャフォールドの配置を助け得る構成成分などの、その他の構成成分または成分を含み得る。十分な量または体積のペプチド溶液をスクロース溶液(これはキットと共に提供されてもよいし、そうでなくてもよい)と組み合わせるための指示がキット中に提供され得る。標的区域に有効な濃度の溶液を投与するためにペプチド溶液を希釈するための指示が提供され得る。指示は、希釈剤または溶媒でのペプチド溶液の希釈を記載し得る。希釈剤または溶媒は水であり得る。標的区域への溶液の有効な濃度および溶液の有効量のうちの少なくとも1つを決定するための指示がさらに提供され得る。これは、本明細書中で論じる様々なパラメーターに基づき得、また、標的区域にある病変または創傷の直径を含み得る。
【0121】
その他の構成成分または成分が、ペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルと同一または異なる組成物または容器において、キット中に含まれ得る。1つまたは複数の構成成分は、自己集合性ペプチドの強化された有効性を提供し得るか、または別の作用、処置、治療を提供し得るか、または他の方法で被験体の1つまたは複数の構成成分と相互作用し得る構成成分を含み得る。例えば、1つまたは複数の生物学的または生理学的に活性の配列またはモチーフを含む追加のペプチドが、自己集合性ペプチドと一緒に構成成分の1つとして含まれ得る。その他の構成要素は、薬物などの生物学的に活性の化合物、または被験体に対して何らかの利益を提供し得るその他の処置を含み得る。例えば、がんを処置する薬物または抗がん薬物は、自己集合性ペプチドと共に投与され得るか、または別々に投与され得る。ペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルは、本明細書中に開示するように、被験体を処置するため、または溶血、炎症、および感染を予防するための小分子薬物を含み得る。スクロース溶液などの糖溶液がキットと共に提供され得る。スクロース溶液は、20%スクロース溶液であり得る。
【0122】
本明細書中に開示する他の構成成分もまた、キット中に含まれ得る。
【0123】
一部の実施形態では、キットの構成成分は、例えば、ゴムまたはシリコーンのふた(例えば、ポリブタジエンまたはポリイソプレンのふた)を有する、密封したバイアル中に貯蔵される。一部の実施形態では、キットの構成成分は、不活性条件下(例えば、窒素下またはアルゴンなどの別の不活性ガス下)で貯蔵される。一部の実施形態では、キットの構成成分は、無水条件下(例えば、乾燥剤と共に)で貯蔵される。一部の実施形態では、キットの構成成分は、アンバーバイアルなどの遮光容器中に貯蔵される。
【0124】
キットの一部分としてまたはキットとは別に、注射器またはピペットは、本明細書中に開示するペプチド、ペプチド溶液、またはヒドロゲルで予め充填され得る。その他のデバイスを使用してまたは使用せずに注射器またはピペットに自己集合性ペプチド溶液を供給し、その他のデバイスを使用してまたは使用せずに注射器またはピペットを通じて標的区域にそれを投与するための指示を使用者に与える方法が提供される。その他のデバイスは、例えば、ガイドワイヤを有するまたは有しないカテーテルを含み得る。
【0125】
本開示の一部の実施形態では、自己集合性ペプチドは、体液の漏出を抑制するための、ステントまたはカテーテルなどのデバイスまたは器具に対するコーティングとして使用され得る。自己集合性ペプチドはまた、ガーゼまたは包帯などの支持物、あるいは、被験体への処置効果を提供し得る、または標的区域内に適用され得るライニングに組み込まれ得るまたは固定され得る。自己集合性ペプチドはまた、使用のためにスポンジに吸収され得る。
【0126】
膜は、細胞単層の培養にも有用であり得る。細胞は、不均一の、荷電表面への粘着を好む。タンパク質膜の荷電残基およびコンホメーションは、細胞の粘着および移動を促進する。ペプチド膜に線維芽細胞成長因子などの成長因子を加えることで、接着、細胞成長、および神経突起伸長がさらに改善され得る。
【0127】
ペプチド溶液は酸性pHで液体であり得るが、ペプチドは、中性または生理的pHレベルへの溶液のpHレベルの調整によって、自己組織化または自己集合を経験し得る。溶液は、水性または非水性であり得る。
【0128】
以下の実施例は、実例を挙げるものであり、限定的なものではない。本開示を吟味することにより、本技術の多くの変形が当業者に明らかとなる。したがって、本技術の範囲は、実施例を参照して決定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲を参照して、そしてそれと共に均等物の範囲全体を以って、決定されるべきである。
【実施例
【0129】
腹部内の癒着形成、およびより一般には抗癒着能力を評価するために使用されるウサギ盲腸側壁モデルにおいて、本発明の自己集合性ペプチド溶液を利用する抗癒着方法を評価した。
【0130】
本実施例において使用する自己集合性ペプチド溶液は、市販のRADA16ペプチド2.5%溶液であるPURASTAT(登録商標)(3D Matrix,Inc.)であった。試験の系は、以下の通りのウサギであった:
種:ウサギ(Oryctolagus cuniculus)
系統:ニュージーランドホワイト
供給元:USDA認証の供給業者
性別:雌、未経産、および非妊娠
体重範囲:選択時に4.0~6.0kg
年齢:この試験には特定の年齢を定めていない
順応期間:最低5日
動物の数:21(+4羽の予備)
識別方法:耳のタグ
【0131】
ウサギは、多数の文献において、術後の癒着の減少を評価するための適切なモデルである。ウサギは、側壁の欠損および移植した物品の大きさを受け入れるのに十分な物理的大きさの、知覚力のある最も下等の種である。動物の数は、解釈可能な結果を与える最小の数を表す。飼育、ハウジング、および環境条件は、「実験動物の管理と使用に関する指針」に基づくNAMSAの標準作業手順書に従った。術後の癒着形成についてのウサギモデルの複雑性を模倣できる、利用可能な検証されたin vitroのアッセイまたはコンピューターシミュレーションモデルは存在しない。
【0132】
方法。術前の手技:最初の手術日前の2日以内に、動物の体重を測定し、表2に示すように体重によって無作為に処置群に割り当てた。
【表2】
【0133】
手術の日に、各動物に0.05mg/kgの鎮痛剤ブプレノルフィンを皮下注射し、フェンタニルパッチ(鎮痛剤;25μg/時間)を耳に適用した。0.6mL/kgの投薬の塩酸ケタミンとキシラジンとの組合せ(34mg/kg+5mg/kg)の全身麻酔薬を各動物に筋肉内注射した。動物用眼科軟膏を動物の両眼に適用し、乾燥から角膜を保護した。5.0mg/kgの予防用量のエンロフロキサシン(抗生物質)を各動物の筋肉内に与えた。各動物について腹部の毛を刈り取った。腹部を殺菌用石鹸で洗浄し、70%イソプロピルアルコールを用いて拭い落とした。ポビドンヨウ素などの防腐薬を手術部位に塗り、動物をドレーピングした。全身麻酔を継続するために、各動物をイソフルラン吸入麻酔薬上に置いた。手技の間、各動物のバイタルサイン(体温、心拍数、SPO2)をモニタリングした。
【0134】
手術手技。腹側腹部の正中線に沿って、剣状突起のおよそ6cm尾側から始まる約12cmの長さの皮膚切開部を作った。白線に沿って切開することにより、腹壁を開いた。盲腸全体を体外に出し、点状出血が達成されるまで滅菌乾燥ガーゼスポンジで漿膜表面全体を拭くことによって擦過した。盲腸壁の完全性が損なわれたら、動物を安楽死させ、交換した。盲腸を腹部内に戻した。およそ2×4.5cmの左右両側の欠損を腹部側壁上の腹膜に作った。欠損は、正中線の切開部のおよそ4cm側方、剣状突起のおよそ7~9cm尾側に作った。鋭的剥離を使用して腹膜の約2×4.5cmの窓を切除し、メスの刃で区域を擦り落とすことによって筋肉を破壊し、出血させた。認められる出血が望ましいものより少ない場合、欠損の区域を通過して伸びる小血管を切開することによって追加の出血を誘発する。側壁の欠損部位の代表的な写真を撮った。試験動物に対して、試験品を腹膜壁に適用して、側壁の欠損部位をカバーし、被覆した。陰性対照群については欠損部位を未処置のままとした。側壁および盲腸を正常な配置に戻し、適切な吸収性縫合糸を使用して単純な連続的縫合パターンで腹壁を閉じた。同じ種類の縫合糸を使用して単純な連続的縫合パターンで皮下組織を閉じた。4-0非吸収性縫合糸、ステンレス鋼創傷クリップ、またはこれらの材料の組合せを用いて皮膚を閉じた。手術の日を0日目とした。
【0135】
手術後の観察。動物をリカバリーエリアに移し、熱源上に置いた。麻酔薬からの回復について動物をモニタリングした。胸骨臥位を達成したら、各動物にエリザベスカラーを取り付け、ケージに戻した。初期投与のおよそ6時間後にブプレノルフィン(SQ、0.05mg/kg)を投与した。手術の日の最後、そして手術後の最初の2日間に1日2回、エンロフロキサシン(IM、5.0mg/kg)を投与した。
【0136】
手術後14(±1)日に、動物の体重を測定し、ペントバルビタールナトリウムベースの安楽死用の溶液の静脈注射により安楽死させた。職員の獣医が腹膜腔を開き内臓を検査した。グレード付けの一貫性を維持するために、同じ獣医が全ての評価を実行した。各動物の欠損部位の写真を撮った。癒着形成について各部位を検査した。表3および4に示す基準にしたがって、程度および強度について癒着をグレード付けした。
【表3】
【表4】
【0137】
癒着の概略位置および癒着に関与する組織または器官を書き留めた。腹部切開部への癒着を書き留め、記述し、さらに腹腔内に存在するあらゆるその他の癒着もそうしたが、それらはスコア付けしなかった。
【0138】
スコア付けの後、創傷および盲腸を切除し、10%の中性緩衝ホルマリン(NBF)中に置いた。動物番号、創傷識別(wound identification)、終了日で組織を表示した。試験責任者の指摘がない限り、顕微鏡による評価は実行しなかった。
【0139】
評価および統計解析。癒着の程度および強度についての平均スコア、ならびに癒着の発生率を計算した。盲腸側壁モデルの各動物についてトータル癒着スコア(各欠損の程度+強度)を計算した。癒着の程度、癒着の強度のスコア、およびトータル癒着スコアを統計的に比較した。各パラメーターについて平均および標準偏差を計算した。記述統計および群比較のデータは、検証された統計プログラムを使用して達成した。正規性および等分散についてデータをスクリーニングした後、適切なパラメトリック検定またはノンパラメトリック検定を行った。等分散を持つ正規分布データをパラメトリックと考え、対応のないt検定を使用して比較した。データがノンパラメトリックの場合、不等分散の二標本t検定(ウェルチの検定)を実行した。0.05未満の確率(p)値を生じる計算を統計的に有意と考え、適切な事後検定を行った。体重について、平均および標準偏差を各処置群について計算した。
【0140】
結論。結果を下記の表5Aおよび5Bに示す。盲腸側壁モデルにおいて、9/10の部位(合計5羽の動物)が手術対照において癒着を形成し(表5Aを参照)、自己集合性ペプチド溶液で処置した場合、4/16の部位(合計8羽の動物)のみが癒着を形成した(表5Bを参照)。予備的統計計算により、対照とPuraStat処置動物との間の有意差(p値=0.00126;結果はp<0.05で有意である)が実証される。結論として、自己集合性ペプチド溶液はウサギ盲腸側壁モデルにおいて抗癒着特性を実証した。
【表5A】
【表5B】
【配列表】
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