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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20220331BHJP
   B60K 35/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
G02B27/01
B60K35/00 A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018140777
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020016799
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 充広
(72)【発明者】
【氏名】中村 健太郎
【審査官】山本 貴一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-133773(JP,A)
【文献】特開2018-106136(JP,A)
【文献】特開2017-015806(JP,A)
【文献】特開2018-041849(JP,A)
【文献】特開2013-025205(JP,A)
【文献】特開2012-252269(JP,A)
【文献】特開2008-076524(JP,A)
【文献】特開2009-210853(JP,A)
【文献】特開平08-286278(JP,A)
【文献】特開2004-151675(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0247433(US,A1)
【文献】特開2000-187434(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0024361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01
B60K 35/00
G03B 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示素子によって形成された画像を投影光学系によって投影して中間スクリーン上に中間像を形成し、前記中間像を虚像生成光学系によって虚像表示させるヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記虚像生成光学系は、単一の自由曲面ミラーを有し、
前記中間スクリーンは、拡散特性を有する反射面であり、
前記虚像生成光学系の光軸と前記投影光学系の光軸は、前記中間スクリーンにおいて非正反射の関係にあることを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項2】
前記中間スクリーンは、自由曲面形状を有することを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記中間スクリーンは、シリンドリカル形状を有することを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記中間スクリーンは、球面形状を有することを特徴とする請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
前記中間スクリーンの位置を変える駆動装置を備えることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項6】
前記駆動装置は、前記中間スクリーンを前記投影光学系の中間像形成位置の近傍における焦点深度内で移動させることを特徴とする請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項7】
前記投影光学系は、変倍光学系であり、前記中間スクリーンの移動と同期して、前記投影光学系のピント位置を前記中間スクリーン位置に追従させることを特徴とする請求項5及び6のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項8】
前記投影光学系において、光射出側に光学的パワーを有さないミラーが配置されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項9】
前記光学的パワーを有さないミラーは、前記中間スクリーンの移動と同期して動くことを特徴とする請求項8に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、投影光学系によって形成した中間像を虚像生成光学系によって虚像表示させるタイプのヘッドアップディスプレイ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のヘッドアップディスプレイ(HUD)装置は、例えば自動車に搭載され、かかるHUD装置では、虚像を運転者からある一定の距離離れた位置に生成するのが一般的である。そもそもHUDを自動車に搭載する目的は、運転者の視線やピント移動を最小限に抑えることで、より安全な運転を支援するものであるが、車速の低速時及び高速時でドライバーの眼のピント位置が異なるため、虚像の距離が固定されたままであると、ピント合わせの時間が必要となり、わずかな時間ではあるが前方に注意が向かない時間が生じる。高速走行時にはわずかな時間でも移動距離としては大きいため危険な状況に陥りかねない。また、従来はスピードメーター、ナビ等の簡素な表示に限られていたHUDであるが、昨今は拡張現実(AR)を利用したAR HUDが注目を集めつつある。これは例えばスピードメーターやナビに加え、前方の対向車、歩行者等の危険因子に対して虚像のマーキングを表示し、ドライバーに事前に危険を察知させるようなシステムが実現されつつある。AR HUDは、その用途を鑑みるに、広い視野を必要とされるのが一般的と言えるが、広い視野角と大きいアイボックスとを両立しようとすると、原理的に光学ミラーが大きくなるため、車のダッシュボード下の限りあるスペースに光学系が収まらないといった不具合を生じやすい。
【0003】
特許文献1には、広い視野角を実現したAR HUDに好適な光学系が開示されている。しかしながら、自由曲面ミラーを2枚使用しているため、装置としては大きくなりがちであると考えられる。
【0004】
特許文献2には、MEMSを組み込んだ走査光学系と、中間像を形成するマイクロレンズアレイと、1枚の自由曲面ミラーとを備えるヘッドアップディプレイが開示されているが、この光学系はマイクロレンズアレイが透過性を有する光学素子であるため、車の進行方向に大型化するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/098075号
【文献】特開2017-97296号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、簡素な構成かつ小型でありながら良好な光学性能を有するヘッドアップディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置は、表示素子によって形成された画像を投影光学系によって投影して中間スクリーン上に中間像を形成し、中間像を虚像生成光学系によって虚像表示させるヘッドアップディスプレイ装置であって、虚像生成光学系は、単一の自由曲面ミラーを有し、中間スクリーンは、拡散特性を有する反射面であり、虚像生成光学系の光軸と投影光学系の光軸は、中間スクリーンにおいて非正反射の関係にある。
【0008】
上記ヘッドアップディスプレイ装置によれば、虚像生成光学系を単一の自由曲面ミラーを有するものとすることで、虚像生成光学系を簡単な構成として小型化することができる。また、中間スクリーンを反射面とすることで、虚像生成光学系の自由曲面ミラーと中間スクリーンとを結ぶ方向に対応する前後方向に関する光学系サイズの増加を抑えることができる。結果的に、投影光学系の配置の自由度が増え、所定のパッケージ形状に収めることが容易になる。なお、中間スクリーンの拡散度については、本来必要な拡散度に加え、中間スクリーン前後の光学系における光軸角度ズレを見込んで広げておけばよい。
【0009】
本発明の具体的な1つの側面では、上記ヘッドアップディスプレイ装置において、本発明のさらに別の側面では、中間スクリーンは、自由曲面形状を有する。この場合、虚像生成光学系が単一の自由曲面ミラーを有するものであっても、中間スクリーンでの収差補正によって光学性能を確保したまま小型化を達成することが容易になる。
【0010】
本発明の別の側面では、中間スクリーンは、シリンドリカル形状を有する。この場合、中間スクリーンは、作製が容易で安価なものとなる。
【0011】
本発明のさらに別の側面では、中間スクリーンは、球面形状を有する。この場合、中間スクリーンは、作製が容易で安価なものとなる。
【0012】
本発明のさらに別の側面では、中間スクリーンの位置を変える駆動装置を備える。この場合、虚像投影距離を変えることができ、ドライバーのピント移動の負担を減らすことができる。
【0013】
本発明のさらに別の側面では、駆動装置は、中間スクリーンを投影光学系の中間像形成位置の近傍における焦点深度内で移動させる。この場合、投影光学系を簡素な構成とできるため、光学系の駆動機構をシステムとしての複雑化を回避して装置のコストを下げることができる。
【0014】
本発明のさらに別の側面では、投影光学系は、変倍光学系であり、中間スクリーンの移動と同期して、投影光学系のピント位置を中間スクリーン位置に追従させる。この場合、投影光学系のFナンバーを小さくできるので輝度の高い虚像を投影することができる。
【0015】
本発明のさらに別の側面では、投影光学系において、光射出側に光学的なパワーを有さないミラーが配置されている。この場合、投影光学系の配置の自由度が増えるため、所定のパッケージ形状に収めることが容易となる。
【0016】
本発明のさらに別の側面では、光学的なパワーを有さないミラーは、中間スクリーンの移動と同期して動く。この場合、投影光学系の配置の自由度が増えるのみならず、投影光学系を変倍光学系としなくてもピント位置を中間スクリーンに追従させられるため、簡素な構成とでき装置のコストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(A)は、第1実施形態のヘッドアップディスプレイ装置を車体に搭載した状態を示す側方断面図であり、(B)は、ヘッドアップディスプレイ装置を説明する車内側からの正面図である。
図2】ヘッドアップディスプレイ装置の具体的な構成例を説明する拡大側方断面図である。
図3】(A)及び(B)は、中間スクリーンに入射する光線と中間スクリーンから射出される光線との具体例を説明する図である。
図4】中間スクリーンの湾曲量に関する条件式中のパラメーターを説明する概念的断面図である。
図5】(A)及び(B)は、具体的実施例の光学系を説明する側断面図である。
図6】(A)及び(B)は、具体的実施例の光学系を説明する平面図である。
図7図2に示すヘッドアップディスプレイ装置を含む移動体用表示システムを説明する概念的なブロック図である。
図8】移動体用表示システムによる具体的な表示状態を説明する斜視図である。
図9】第2実施形態のヘッドアップディスプレイ装置を説明する図である。
図10】第3実施形態のヘッドアップディスプレイ装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置の第1実施形態について説明する。
【0019】
図1(A)及び1(B)を参照して、本実施形態のヘッドアップディスプレイ装置100は、車体2内に搭載される表示装置であり、描画ユニット10と表示スクリーン20とを備える。ヘッドアップディスプレイ(HUD:Head-Up Display)装置100は、描画ユニット10中の後述する表示素子11(図2参照)に表示されている画像情報を、表示スクリーン20を介して運転者(観察者)UN向けに虚像表示するものである。
【0020】
HUD装置100のうち描画ユニット10は、車体2のダッシュボード4内に埋め込むように設置されており、運転関連情報や危険信号等を含む画像に対応する表示光HKを表示スクリーン20に向けて出射する。表示スクリーン20は、コンバイナーとも呼ばれるハーフミラーであり、半透過性を有する凹面鏡又は平面鏡である。表示スクリーン20は、下端の支持によってダッシュボード4上に立設され、描画ユニット10からの表示光HKを車体2の後方に向けて反射する。つまり、図示の場合、表示スクリーン20は、フロントガラス(ウインドシールド)8とは別体で設置される独立型のものとなっているが、表示スクリーン20はウインドシールドそのものであってもよい。
【0021】
図1(A)及び図2に示すように、ハーフミラーである表示スクリーン20で反射された表示光HKは、運転席6に座った運転者UNの瞳HT及びその周辺位置に対応するアイボックスEBに導かれる。運転者UNは、表示スクリーン20で反射された表示光HK、つまり車体2の前方にある虚像としての表示像IMを観察することができる。一方、運転者UNは、ハーフミラーである表示スクリーン20を透過した外界光、つまり前方景色、自動車等の実像を観察することができる。結果的に、運転者UNは、表示スクリーン20の背後の外界像に重ねて、表示スクリーン20での表示光HKの反射によって形成される運転関連情報や危険信号等を含む表示像(虚像)IMを観察することができる。
【0022】
図2に示すように、描画ユニット10は、本体光学系13と、本体光学系13を動作させる表示制御部18と、本体光学系13等を収納するハウジング14とを備える。これらのうち本体光学系13と表示スクリーン(コンバイナー)20とを組み合わせたものは、虚像表示光学系30を構成する。虚像表示光学系30は、横方向の視野角が7°以上となっている。なお、図2等において座標軸XYZは、一般的な運転者UNの瞳HT間の位置に対応するアイボックスEBの中心を原点とするが、便宜上原点をシフトさせた状態で表示されている。
【0023】
本体光学系13は、表示素子(表示デバイス)11と、表示素子11に形成された画像を拡大した中間像TIを形成可能な投影光学系15と、中間像TIの結像位置に近接して光路後段に配置される反射型拡散部材16と、中間像TIを虚像に変換する虚像生成光学系17とを備える。詳細は後述するが、本体光学系13によって、虚像投影距離が可変となっている。本体光学系13のうち虚像生成光学系17と、本体光学系13の上方に配置された表示スクリーン20とを組み合わせたものは、射出側合成光学系30bを構成する。
【0024】
本体光学系13において、表示素子11は、2次元的な表示面11aを有する描画デバイス(表示部)である。表示素子11の表示面11aに形成された像は、本体光学系13のうち投影光学系15で拡大されて中間像TIを反射型拡散部材16上に形成し、虚像生成光学系17等へ導かれる。この際、2次元表示が可能な表示素子11を用いることで、中間像TI又は表示像(虚像)IMの切換えを比較的高速とできる。表示素子11には、デジタルミラーデバイス(DMD:Digital Mirror Device)や反射型液晶デバイス(LCOS:Liquid crystal on silicon)を用いることができる。表示素子11としてDMDやLCOSを用いると、明るさを維持しつつ画像を高速で切り替えること(高速の間欠表示を含む)が容易になり、虚像距離又は投影距離を変化させる表示に有利である。応用例として、表示素子11は、虚像を複数距離に同時投影する場合には虚像1距離あたり例えば30fps以上、好ましくは60fps以上のフレームレートで表示させる。これにより、異なる投影距離に複数の表示像(虚像)IMを運転者UNに対して同時に表示されているように見せる際に虚像のちらつきを改善できる。
【0025】
投影光学系15は、本体レンズ15aと、折曲げミラー15bとを有する。本体レンズ15aは、固定焦点のレンズ系であり、図示を省略するが、複数のレンズを有する。投影光学系15のF値は、1.8以上となっている。投影光学系15は、表示素子11の表示面11aに形成された画像を適当な倍率に拡大投影し、反射型拡散部材16の表面に設けた中間スクリーン16mに近接した位置に中間像TI(又は中間スクリーン16mの位置に強制中間像TI’)を形成する。強制中間像TI’は、中間像TIそのものの他、中間像TIから位置ずれして僅かにピントがボケたものも含み、広義に中間像TIと呼ぶこともある。なお、折曲げミラー15bは、平面ミラーであり、光学的パワーを有しない。
【0026】
反射型拡散部材16は、表面に中間スクリーン16mを設けた反射型の拡散部材である。中間スクリーン16mは、拡散特性を有する反射面である。中間スクリーン16mは、全体に亘って反射率90%以上を確保することが望ましい。中間スクリーン16mは、結像位置(つまり中間像TIの結像予定位置又はその近傍)において強制中間像TI’を形成する。中間スクリーン16mは、反射拡散角を所望の角度に制御することができる。後述するように反射型拡散部材16又は中間スクリーン16mを光軸AX方向に移動させることにより、強制中間像TI’の位置も光軸AX方向に移動させることができる。中間スクリーン16mに強制中間像TI’が形成されるため、ここが新たな2次光源となって光が拡散するので、虚像生成光学系17で拡大投影してもアイボックスEBを広く確保することができる。反射型拡散部材16又は中間スクリーン16mとしては、例えば拡散板、拡散スクリーン、マイクロレンズアレイ等を用いることができる。
【0027】
反射型拡散部材16は、配置変更用の駆動装置62に駆動されて例えば一定速度又は周期的な運動で光軸AXに沿って移動する。本例の場合、光軸AXとは、表示デバイス(描画デバイス)である表示素子11の中心と、アイボックスEBの中心と、HUD装置100によって作られる表示素子11の中心に対応する像点(虚像)とを通るものである。ただし、反射型拡散部材16又は中間スクリーン16mの移動は、アイボックスEBの確保等を考慮して、中間スクリーン16mの光入射側ではなく光射出側において光軸AXに沿ったものとする。駆動装置62によって反射型拡散部材16又は中間スクリーン16mを光軸AXに沿って移動させることで、虚像生成光学系17によって表示スクリーン(コンバイナー)20の背後に形成される虚像としての表示像IMと観察者である運転者UNとの距離を長く、または短くすることができる。つまり、駆動装置62は、本体光学系13の構成配置を変化させて投影距離を変化させる。このように、投影される表示像IMの位置を前後に変化させるとともに、表示内容をその位置に応じたものとすることで、表示像IMまでの虚像距離又は投影距離を変化させつつ表示像IMを変化させることになり、一連の投影像としての表示像IMを3次元的なものとすることができる。反射型拡散部材16又は中間スクリーン16mの光軸AXに沿った移動範囲は、中間像TIの結像予定位置又はその近傍に相当するものであるが、投影光学系15の反射型拡散部材16側の焦点深度の範囲内とすることが望ましい。これにより、強制中間像TI’の状態と虚像としての表示像IMの結像状態とを、いずれもほぼピントが合った良好な状態とすることができる。反射型拡散部材16の光軸AX方向の移動量は、例えば20mm以下となっている。これにより、反射型拡散部材16の移動を効率良く行うことができ、反射型拡散部材16の応答性を向上させることができる。反射型拡散部材16の移動速度は、虚像としての表示像IMが複数個所又は複数虚像距離に同時に表示されているかのように見せることができる速度であることが望ましい。駆動装置62は、例えば15Hz以上の速度で反射型拡散部材16を移動させる。この場合、観察者(運転者UN)の知覚を超える速さのため、観察者は投影距離の異なる虚像をほぼ同時に認識することができる。
【0028】
反射型拡散部材16は、支持部材62aに支持されている。支持部材62aは、駆動装置62の台座62bに光軸AX方向に沿った所定の範囲内で移動可能に取り付けられている。反射型拡散部材16又は中間スクリーン16mが移動範囲の最も上流側(つまり、自由曲面ミラー17aに最も近い左下側)に配置されたタイミングでは、この時点で中間スクリーン16mに表示されている画像が、ハーフミラーである表示スクリーン(コンバイナー)20の背後の最も近くに虚像として表示される。また、反射型拡散部材16又は中間スクリーン16mが移動範囲の最も下流側(つまり、自由曲面ミラー17aから最も遠い右上側)に配置されたタイミングでは、この時点で中間スクリーン16mに表示されている画像が、ハーフミラーである表示スクリーン(コンバイナー)20の背後の最も遠くに虚像として表示される。
【0029】
虚像生成光学系17は、反射型拡散部材16の中間スクリーン16mに形成された強制中間像TI’を表示スクリーン20と協働して拡大する拡大光学系であり、運転者UNの前方に虚像としての表示像IMを形成する。虚像生成光学系17は、単一の自由曲面ミラー17aのみで構成される。ここで、自由曲面ミラー17aは、全体として凹形状を有し、光学的なパワーを有している。自由曲面ミラー17aは、アイボックスEBの縦方向に関して、射出方向を入射方向に対して傾けた偏芯タイプ又は非正面反射型の光学素子となっている。
【0030】
射出側合成光学系30bにおいて、反射型拡散部材16の中間スクリーン16mは、画角に対応して矩形の輪郭を有する。中間スクリーン16mは、例えば自由曲面形状又はシリンドリカル形状を有し、短辺方向及び長辺方向で湾曲形状が異なるものとなっている。これにより、短辺方向及び長辺方向で光学倍率が異なる構成である場合に光学性能を効率良く改善することができる。ここで、自由曲面形状は、非球面も含むものである。また、短辺方向及び長辺方向は、中間スクリーン16m上の中間像TIの形から定義され、例えば横長の虚像を表示させるケースを考えると、短辺方向は、虚像の垂直方向(Y方向)に対応し、長辺方向は、虚像の水平方向(X方向)に対応する。中間スクリーン16mをシリンドリカル形状とする場合、中間像TIの長辺方向におおよそ沿った凸形状を有する。
【0031】
広い視野角を有するHUD装置100を小型化するためには、虚像生成光学系17を構成する自由曲面ミラー17aは、1枚であることが好ましく、また高い光学倍率を有することが望ましいが、倍率が高くなればなるほど、像面湾曲が大きくなり、原理的に1枚の自由曲面ミラー17aでは補正が困難になくなる。そのため中間スクリーン16mを湾曲させることで小型かつ良好に収差の補正された虚像表示光学系30を実現できる。一方、中間スクリーン16mの最適な湾曲量は、虚像生成光学系17の光学倍率により決定されるが、光学系全体を所定のパッケージ形状に収める都合上、投影光学系15の焦点距離には設計の自由度がほとんど無いと言ってよい状態であるため、虚像生成光学系17と投影光学系15の光線角度がマッチングできず、特に長辺方向に大きな輝度分布が生じる可能性がある。このため、中間スクリーン16mの長辺方向の湾曲量は、表示像(虚像)IMの像品質と輝度分布の両性能を鑑みたうえで設定することが望ましい。
【0032】
なお、以上の説明では、中間スクリーン16mが短辺方向に平坦性を有する拡散性の反射面である場合を基本として説明したが、中間スクリーン16mは、短辺方向にも凸形状に湾曲した拡散性の反射面とすることができる。一般的に、横方向(長辺方向に対応)の視野角に対して縦方向(短辺方向に対応)の視野角は半分近く小さく設定されるため、中間スクリーン16mの短辺方向の像面湾曲量はそれほど目立つものではないが、中間スクリーン16mにおいて短辺方向にも曲率を持たせることで光学性能を向上させることができる。さらに、中間スクリーン16mの湾曲率又は湾曲形状を長辺方向と短辺方向とで異なるものにすることで、虚像生成光学系17の光学倍率が横方向と縦方向とで異なる場合に光学性能を全体で向上させることができる。
【0033】
中間スクリーン16mの湾曲量は下記条件式を満たす。
0.5*h/sin[|θH-θP|/2]<R<1.5*h/sin[|θH-θP|/2] … (1)
R:中間スクリーン16mの湾曲半径
h:中間スクリーン16m上の中間像TIの長辺方向長さの半値
θH:虚像生成光学系17の中間像TIの横端における光線角度
θP:投影光学系15の中間像TIの横端における光線角度
【0034】
条件式(1)の範囲を満たすことにより、光学性能を担保しつつ、虚像の輝度分布を小さくすることができる。条件式(1)の値Rが上限値を下回ることで、中間スクリーン16mの湾曲量が適切なものとなり虚像に生じうる像面湾曲を低減することができる。一方、条件式(1)の値Rが下限値を上回ることで、長辺方向の輝度分布が適切なものとなる。
【0035】
図4は、光線角度θH,θPを説明する図である。光線角度θPは、投影光学系15から中間スクリーン16mに入射する表示光HKの正面方向又はZ方向を基準とする光線角度であり、光線角度θHは、中間スクリーン16mから虚像生成光学系17へ射出される表示光HKの正面方向又はZ方向を基準とする光線角度である。なお、正反射の場合、虚像生成光学系17側の光線角度θHと投影光学系15側の光線角度θPとの間には、以下の関係
θP=θ1
θH=θ1+2θ0
が成り立つので、
R=h/sin[|θH-θP|/2]
となる。
【0036】
なお、中間スクリーン16mの左右両端で光線角度θH,θPが異なる場合、中間スクリーン16mの左右両端で条件式(1)が満たされることが望ましい。
【0037】
中間スクリーン16mは、短辺方向に対応する縦方向と長辺方向に対応する横方向とで拡散特性が異なるものとなっている。ここでも、短辺方向及び長辺方向は、中間スクリーン16m上の中間像TIの形から定義され、例えば横長の虚像を表示させるケースを考えると、短辺方向は、虚像の垂直方向又は縦方向に対応し、長辺方向は、虚像の水平方向又は横方向に対応する。中間スクリーン16mは、アイボックスEBの横方向又はX方向に対応し中間スクリーン16m上での第1方向である長辺方向と、それに直交するアイボックスEBの縦方向又はY方向に対応し中間スクリーン16m上での第2方向である短辺方向とで、拡散度が異なるものとなっている。また、中間スクリーン16mは、非正反射型の拡散特性を有する。この結果、虚像生成光学系17の光軸AX2と投影光学系15の光軸AX1とは、中間スクリーン16mとの交差点において正反射の関係を満たさない非正反射の関係にあり、入射した表示光HKを正反射の方向に対してずれた方向に拡散しつつ反射する偏向特性を有する。中間スクリーン16mは、短辺方向に対応する縦方向だけでなく長辺方向に対応する横方向にも偏向特性を有していてもよい。これにより、投影光学系15の配置自由度をより増やすことができる。また、表示像(虚像)IMの輝度分布を改善することができる。中間スクリーン16mの拡散度については、虚像生成光学系17の入射NAに対する投影光学系15の射出NAの相対差又は不足を補う観点で基本的拡散度を設定する。しかしながら、本実施形態の光学系のように、虚像生成光学系17の光軸AX2と投影光学系15の光軸AX1とが中間スクリーン16mにおいて非正反射の関係にある場合、光量ロスを低減して光利用効率を高める観点で、中間スクリーン16mは、拡散度を単純に大きくするのではなく、拡散度に偏向特性を持たせたものとなっている。中間スクリーン16mが反射や拡散に関して偏向特性を有する場合、基本的拡散度に対して光軸AX1,AX2の対称性のずれに相当する偏角又は角度ズレを加味して方向性を持たせた拡散度を設定する。
【0038】
なお、中間スクリーン16mの拡散度については、本来必要な拡散度に加え、中間スクリーン16m前後の光学系における光軸角度ズレを見込んで広げてもよい。
【0039】
図3(A)は、中間スクリーン16mの縦断面に関する拡散特性を説明する図である。この場合、光軸AX1上の表示光HKの中間スクリーン16mへの入射角はα10であり、表示光HKの中間スクリーン16mからの光軸AX2に沿った射出角はα20であり、α10≠α20となっている。また、光軸AX1外の表示光HKの中間スクリーン16mへの入射角はα11,α12であり、表示光HKの中間スクリーン16mからの光軸AX2に沿った射出角はα21,α22であり、α11≠α21、かつ、α12≠α22となっている。このように、中間スクリーン16mは、位置に応じて偏向特性が異なっている。これにより、表示像(虚像)IMの輝度分布を最適化することができる。つまり、中間スクリーン16mは、短辺方向に対応する縦断面において偏向特性を有するだけでなく、中間スクリーン16m上の各点で偏向特性が異なっており、短辺方向に偏向特性の線形又は非線形的な分布を有する。具体的実施例に則して説明すると、入射角α10,α11,α12は、例えば18°、21°、及び15°に設定される。この場合、射出角α20,α21,α22は、光線の結合効率を確保する観点で、例えば-6°、-13°、及び0°に設定される。つまり、偏角は、+12°、+8°、及び+15°となっており、全体として正の値であるが光軸AX2から外れるほど大きくなっている。
【0040】
図3(B)は、中間スクリーン16mの横断面に関する拡散特性を説明する図である。この場合、光軸AX1上の表示光HKの中間スクリーン16mへの入射角はβ10であり、表示光HKの中間スクリーン16mからの光軸AX2に沿った射出角はβ20であり、β10=β20となっている。また、光軸AX1外の表示光HKの中間スクリーン16mへの入射角はβ11,β12であり、表示光HKの中間スクリーン16mからの光軸AX2に沿った射出角はβ21,β22であり、β11≠β21、かつ、β12≠β22となっている。このように、中間スクリーン16mは、位置に応じて偏向特性が異なっている。つまり、中間スクリーン16mは、長辺方向に対応する横断面において偏向特性を有するだけでなく、中間スクリーン16m上の各点で偏向特性が異なっており、長辺方向に偏向特性の線形又は非線形的な分布を有する。具体的実施例に則して説明すると、入射角β10,β11,β12は、例えば6°、11.5°、及び0.5°に設定される。この場合、射出角β20,β21,β22は、光線の結合効率を確保する観点で、例えば-6°、23°、及び11°に設定される。
【0041】
反射型拡散部材16の拡散特性は、公知の手法で調整することができる。基板の表面に偏向特性に合わせて傾斜した微小な斜面を設けるとともに、この斜面上に使用波長以下のサイズを有する微少凹凸を形成したり、使用波長以下の幅を有するライン状の凹凸を形成したりすることにより、反射型拡散部材16の拡散特性に所望の方向性を持たせるよう調整することができる。
【0042】
以上のように、中間スクリーン16mは、短辺方向に対応する縦方向と長辺方向に対応する横方向とで拡散特性が異なるものとなっており、短辺方向の位置と長辺方向の位置とに応じて偏向特性が変化するといった偏向特性の分布を有するものとなっている。この結果、縦横の拡散度を光学仕様に合わせて最適化することができ、光量ロスを減らすことができるため、さらなる光利用効率の向上が可能となっている。
【0043】
また、太陽光ゴーストの発生回避という観点から、投影光学系15の光軸AX1と虚像生成光学系17の光軸AX2との中間スクリーン16mにおけるズレを敢えて大きく設定することで、正規光と同じルート(表示光HKが通るルート)でウインドシールドを通過してHUD内部に入ってきた太陽光のうち中間スクリーン16mで反射・拡散した光が、アイボックスEBに到達するのを防止することができる。好ましくは中間スクリーン16mにおける短辺方向の偏光角を短辺方向の拡散度よりも大きく設定することが望ましい。
【0044】
以上の説明では、中間スクリーン16m上の各点で、最大拡散度の方向(例えば射出角α20,α21,α22の方向)に関して表示光HKの反射率が同じであることを前提として説明を行ったが、反射率に分布を持たせることもできる。つまり、中間スクリーン16mは、位置に応じて反射率の分布が異なる。これにより、虚像生成光学系17等に起因する表示像IMの輝度分布の偏りを低減することができ、輝度分布を改善することができる。
【0045】
図5(A)は、具体的実施例の光学系を説明する側断面図であり、中間スクリーン16mから射出側合成光学系30bにかけての光学面及び光線を示している。図5(B)は、具体的実施例の光学系を説明する拡大側断面であり、表示素子11から虚像生成光学系17にかけての光学面及び光線を示している。
【0046】
図6(A)は、具体的実施例の光学系を説明する平面図であって、図5(A)に対応し、中間スクリーン16mから射出側合成光学系30bにかけての光学面及び光線を示している。図6(B)は、具体的実施例の光学系を説明する拡大平面図であって、図5(B)に対応し、表示素子11から虚像生成光学系17にかけての光学面及び光線を示している。
【0047】
図2に戻って、ハウジング14は、表示光HKを通過させる開口14aを有し、この開口14aには、フィルム又は薄板状の光透過部材14bを配置することができる。
【0048】
図7は、移動体用表示システム200を説明するブロック図であり、移動体用表示システム200は、その一部としてヘッドアップディスプレイ装置100を含む。このヘッドアップディスプレイ装置100は、図2に示す構造を有するものであり、ここでは説明を省略する。図7に示す移動体用表示システム200は、移動体である自動車等に組み込まれるものである。
【0049】
移動体用表示システム200は、ヘッドアップディスプレイ装置100のほかに、運転者検出部71と、環境監視部72と、主制御装置90とを備える。
【0050】
運転者検出部71は、運転者UNの存在や視点位置を検出する部分であり、運転席用カメラ71aと、運転席用画像処理部71bと、運転席画像判断部71cとを備える。運転席用カメラ71aは、車体2内のダッシュボード4の運転席正面に設置されており(図1(B)参照)、運転者UNの頭部及びその周辺の画像を撮影する。運転席用画像処理部71bは、運転席用カメラ71aで撮影した画像に対して明るさ補正等の各種画像処理を行って運転席画像判断部71cでの処理を容易にする。運転席画像判断部71cは、運転席用画像処理部71bを経た運転席画像からオブジェクトの抽出又は切り出しを行うことによって運転者UNの頭部や目を検出するとともに、運転席画像に付随する奥行情報から車体2内における運転者UNの頭部の存否とともに運転者UNの目の空間的な位置(結果的に視線の方向)を算出する。
【0051】
環境監視部72は、前方に近接する自動車、自転車、歩行者等を識別する部分であり、外部用カメラ72aと、外部用画像処理部72bと、外部画像判断部72cとを備える。外部用カメラ72aは、車体2内外の適所に設置されており、運転者UN又はフロントガラス8の前方、側方等の外部画像を撮影する。外部用画像処理部72bは、外部用カメラ72aで撮影した画像に対して明るさ補正等の各種画像処理を行って外部画像判断部72cでの処理を容易にする。外部画像判断部72cは、外部用画像処理部72bを経た外部画像からオブジェクトの抽出又は切り出しを行うことによって自動車、自転車、歩行者等の対象物(例えば図8に示すオブジェクトOB参照)の存否を検出するとともに、外部画像に付随する奥行情報から車体2前方における対象物の空間的な位置を算出する。
【0052】
なお、運転席用カメラ71aや外部用カメラ72a、特に外部用カメラ72aは、図示を省略しているが、例えば複眼型の3次元カメラである。つまり、両カメラ71a,72aは、結像用のレンズと、CMOSその他の撮像素子とを一組とするカメラ素子をマトリックス状に配列したものであり、撮像素子用の駆動回路をそれぞれ有する。各カメラ71a,72aを構成する複数のカメラ素子は、例えば奥行方向の異なる位置にピントを合わせるようになっており、或いは相対的な視差を検出できるようになっており、各カメラ素子から得た画像の状態(フォーカス状態、オブジェクトの位置等)を解析することで、画像内の各領域又はオブジェクトまでの距離を判定できる。
【0053】
なお、上記のような複眼型のカメラ71a,72aに代えて、2次元カメラと赤外距離センサーとを組み合わせたものを用いても、撮影した画面内の各部(領域又はオブジェクト)に関して奥行方向の距離情報を得ることができる。また、複眼型のカメラ71a,72aに代えて、2つの2次元カメラを分離配置したステレオカメラによって、撮影した画面内の各部(領域又はオブジェクト)に関して奥行方向の距離情報を得ることができる。その他、単一の2次元カメラにおいて、焦点距離を高速で変化させながら撮像を行うことによっても、撮影した画面内の各部に関して奥行方向の距離情報を得ることができる。
【0054】
表示制御部18は、主制御装置90の制御下で虚像表示光学系30を動作させて、表示スクリーン20の背後に虚像距離又は投影距離が変化する3次元的な表示像IMを表示させる。表示制御部18は、主制御装置90を介して環境監視部72から受信した表示形状や表示距離を含む表示情報から、虚像表示光学系30に表示させる表示像IMを生成する。表示像IMは、例えば表示スクリーン20の背後に存在する自動車、自転車、歩行者その他の対象物に対してその奥行き位置方向に関して周辺に位置する表示枠のような標識とすることができる。
【0055】
表示制御部18は、主制御装置90を介して運転者検出部71から運転者UNの存在や目の位置に関する検出出力を受け取る。これにより、虚像表示光学系30による表示像IMの投影の自動的な開始や停止が可能になる。また、運転者UNの視線の方向のみに表示像IMの投影を行うこともできる。さらに、運転者UNの視線の方向の表示像IMのみを明るくする、点滅する等の強調を行った投影を行うこともできる。
【0056】
主制御装置90は、ヘッドアップディスプレイ装置100、環境監視部72等の動作を調和させる役割を有し、環境監視部72によって検出した対象物の空間的な位置に対応するように、虚像表示光学系30によって投影される表示枠の空間的な配置を調整する。
【0057】
図8は、具体的な表示状態を説明する斜視図である。観察者である運転者UNの前方は観察視野に相当する検出領域VFとなっている。検出領域VF内、つまり道路及びその周辺に、歩行者等である人のオブジェクトOB1や、自動車等である移動体のオブジェクトOB2が存在すると考える。この場合、主制御装置90は、ヘッドアップディスプレイ装置100によって3次元的な表示像(虚像)IMを投影させ、各オブジェクトOB1,OB2,OB3に対して関連情報像としての表示枠HW1,HW2,HW3を付加する。この際、運転者UNから各オブジェクトOB1,OB2,OB3までの距離が異なるので、表示枠HW1,HW2,HW3を表示させる表示像IM1,IM2,IM3までの投影距離は、運転者UNから各オブジェクトOB1,OB2,OB3までの距離に相当するものとなっている。なお、表示像IM1,IM2,IM3の投影距離は、離散的であり、オブジェクトOB1,OB2,OB3までの現実の距離に対して正確に一致させることはできない。ただし、表示像IM1,IM2,IM3の投影距離と、オブジェクトOB1,OB2,OB3までの現実の距離との差が大きくなければ、運転者UNの視点が動いても視差が生じにくく、オブジェクトOB1,OB2,OB3と表示枠HW1,HW2,HW3との配置関係をほぼ維持することができる。
【0058】
以上で説明したヘッドアップディスプレイ装置100によれば、虚像生成光学系17を単一の自由曲面ミラー17aを有するものとすることで、虚像生成光学系17を簡単な構成として小型化することができる。また、中間スクリーン16mを反射面とすることで、虚像生成光学系17の自由曲面ミラー17aと中間スクリーン16mとを結ぶ方向に対応する前後方向又はZ方向に関する光学系サイズの増加を抑えることができる。結果的に、投影光学系15の配置の自由度が増え、所定のパッケージ形状に収めることが容易になる。なお、中間スクリーン16mを反射面とした場合、投影光学系15が虚像生成光学系17の光路に干渉しないように配置する必要があるため、投影光学系15の光軸AX1と虚像生成光学系17の光軸AX2とが中間スクリーン16mにおいて正反射の関係になるとは限らない。そのため、通常の拡散板では正反射方向が最も強度が強くなるため、虚像の短辺方向に輝度分布の偏りが生じるおそれがある。しかしながら、少なくとも短辺方向に偏向特性を有する中間スクリーン16mを用いることで、投影光学系15の光軸AX1と虚像生成光学系17の光軸AX2とが中間スクリーン16mにおいて正反射の関係でない場合でも、短辺方向の輝度分布の偏りを抑えることができる。また、中間スクリーン16mの拡散度については、中間スクリーン16m前後の光学系における光軸角度ズレを見込んで広げる必要がなく最適な拡散度に設定できるため、光量のロスが少なく光利用効率の良い装置を実現することができる。
【0059】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置について説明する。なお、第2実施形態のヘッドアップディスプレイ装置は第1実施形態のヘッドアップディスプレイ装置を変形したものであり、特に説明しない事項は第1実施形態と同様である。
【0060】
図9に示すように、投影光学系15の本体レンズ15aを構成する一部の光学素子15dを本体レンズ15a内で変位させることにより、投影光学系15の結像状態を結像駆動部65によって調整することができる。これにより、中間スクリーン16mの移動に同期させて本体レンズ15a又は投影光学系15のフォーカス状態を調整でき、投影光学系15の焦点深度を狭くしながら中間像TIの結像状態を良好に保つことができる。
【0061】
〔第3実施形態〕
以下、第3実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置について説明する。なお、第3実施形態のヘッドアップディスプレイ装置は第1実施形態のヘッドアップディスプレイ装置を変形したものであり、特に説明しない事項は第1実施形態と同様である。
【0062】
図10に示すように、結像駆動部165によって投影光学系15の折曲げミラー(平面ミラー)15bを光軸AXに沿って変位させることにより、投影光学系15の結像状態を調整することができる。これにより、中間スクリーン16mの移動に同期させて本体レンズ15a又は投影光学系15のフォーカス状態を調整でき、投影光学系15の焦点深度を狭くしながら中間像TIの結像状態を良好に保つことができる。
【0063】
以上では、具体的な実施形態としてのヘッドアップディスプレイ装置について説明したが、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置は、上記のものには限られない。例えば、上記実施形態において、ヘッドアップディスプレイ装置100の配置を上下反転させて、フロントガラス8の上部又はサンバイザー位置に表示スクリーン20を配置することもできる。この場合、描画ユニット10の斜め下方前方に表示スクリーン20が配置される。上記実施形態では表示スクリーン20を平面又は凹面としたが、対称性をもたない自由曲面であってもよい。
【0064】
上記実施形態において、表示スクリーン20の輪郭は、矩形に限らず、様々な形状とすることができる。
【0065】
図2等に示す本体光学系13は、単なる例示であり、これら本体光学系13の光学的構成については適宜変更することができる。例えば、虚像生成光学系17又は投影光学系15の光路中において、光学的なパワーを持たない1つ以上のミラーを配置してもよい。
【0066】
また、上記実施形態において、描画デバイスである表示素子11として、DMDやLCOS等を用いたが、液晶ディスプレイ(LCD:liquid crystal display)や、他の種類の表示デバイス、例えば有機ELを用いてもよい。また、表示素子11は、反射型の素子の代わりに、MEMSを利用した走査型の映像デバイスを用いてもよい。
【0067】
また、上記実施形態において、表示スクリーン20としてコンバイナーを設けずに、図1(A)に示すフロントガラス(ウインドシールド)8に設けてもよい(図2参照)。具体的には、例えばフロントウインドウを形成するフロントガラス(ウインドシールド)8の運転席正面に設けた矩形の反射領域の内側に表示スクリーン20を貼り付けてもよい。なお、表示スクリーン20は、フロントガラス8内に埋め込むこともできる。
【0068】
また、上記実施形態では、反射型拡散部材16を光軸AXに沿って移動させる構成としたが、反射型拡散部材16を光軸AX方向に移動させないで固定することもできる。
【0069】
また、上記実施形態において、中間スクリーン16mの構成は、HUD装置100の仕様に応じて適宜変更することができる。例えば、中間スクリーン16mは、縦方向又は短辺方向のみ偏向特性を有する構成としてもよい。また、中間スクリーン16mは、横方向又は長辺方向に凸形状に湾曲していなくてもよい。また、中間スクリーン16mの位置に応じて反射率の分布や偏向特性が異なっていなくてもよい。
【0070】
また、上記実施形態において、中間スクリーン16mは、短辺において長辺と異なる凸の湾曲形状を有してもよい、つまり、縦方向において横方向と異なる凸の湾曲形状を有してもよいとしたが、例えば球面のように縦方向に横方向と同じ凸の湾曲形状を有してもよい。中間スクリーン16mは、球面形状を有していても、近似的に目標とする結像を実現でき、このような中間スクリーン16mは、作製が容易で安価なものとなる。
【0071】
以上で説明したヘッドアップディスプレイ装置100は、自動車やその他移動体に搭載される投影装置に限らず、例えばデジタルサイネージ等に組み込むことができるが、これら以外の用途に適用することもできる。
【符号の説明】
【0072】
2…車体、 8…フロントガラス、 10…描画ユニット、 11…表示素子、 13…本体光学系、 15…投影光学系、 16…反射型拡散部材、 16m…中間スクリーン、 17…虚像生成光学系、 17a…自由曲面ミラー、 18…表示制御部、 20…表示スクリーン、 30…虚像表示光学系、 30b…射出側合成光学系、 62…駆動装置、 71…運転者検出部、 72…環境監視部、 90…主制御装置、 100…ヘッドアップディスプレイ装置、 200…移動体用表示システム、 AX,AX1,AX2…光軸、 EB…アイボックス、 HK…表示光、 HT…瞳、 HW1,HW2,HW3…表示枠、 IM…表示像、 TI…中間像、 UN…運転者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10