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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】潤滑油供給構造
(51)【国際特許分類】
   F02M 59/44 20060101AFI20220331BHJP
   F02M 59/10 20060101ALI20220331BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20220331BHJP
   F01M 9/10 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
F02M59/44 J
F02M59/10 A
F02M59/10 C
F01M1/06 M
F01M9/10 L
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018015891
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019132210
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107238
【弁理士】
【氏名又は名称】米山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】小林 優介
(72)【発明者】
【氏名】大石 和貴
(72)【発明者】
【氏名】中西 良
(72)【発明者】
【氏名】山城 竜太郎
【審査官】二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-115825(JP,A)
【文献】特開2014-137058(JP,A)
【文献】特開平6-42322(JP,A)
【文献】特開2003-269296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 59/44
F02M 59/10
F01M 1/06
F01M 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に対して傾斜するポンプ軸に沿って延びるポンプ内空間と、前記ポンプ内空間に向かって開口するオイル供給開口と、前記オイル供給開口と連通して前記オイル供給開口から前記ポンプ内空間へ供給されるオイルが流通するオイル供給路とを有するポンプハ
ウジングと、
前記ポンプ内空間に収容され、前記ポンプ内空間の外周を区画するポンプ内周面のうち所定の摺動範囲を摺動して前記ポンプ軸に沿って往復する摺動部材と、を備え、
前記ポンプ内周面は、前記ポンプ軸を含む鉛直面に対して直交し且つ前記ポンプ軸を含む仮想の平面を境界として上下に分かれる上半分の領域と下半分の領域とを有し、
前記オイル供給開口の開口出口は、前記ポンプ内周面のうち前記所定の摺動範囲に、前記ポンプ内周面の前記上半分の領域と前記下半分の領域との前記境界に跨って、又は前記境界の近傍の前記上半分の領域内に形成され、
前記オイル供給開口は、前記ポンプ内周面の前記下半分の領域から離れる方向へ向かって前記開口出口からオイルが流出するように、前記開口出口を通って前記ポンプ軸と直交する方向に対して傾斜する
ことを特徴とする潤滑油供給構造。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑油供給構造であって、
前記ポンプ内周面の前記所定の摺動範囲は、前記ポンプ軸に沿って往復する前記摺動部
材の外周面と常に対向する重複領域を有し、
前記オイル供給開口は、前記重複領域に形成される
ことを特徴とする潤滑油供給構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の潤滑油供給構造であって、
エンジンのカムシャフトは、燃焼室への吸気用の吸気弁及び前記燃焼室からの排気用の
排気弁の少なくとも一方を駆動するための弁駆動カムと、ポンプ駆動カムとを有し、
前記ポンプ駆動カムは、前記カムシャフトの一端側に偏って配置され、
前記オイル供給開口は、前記ポンプ内周面の前記一端側で前記ポンプ内空間へ開口する
ことを特徴とする潤滑油供給構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、潤滑油供給構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ポンプハウジング部に潤滑油供給通路としてオイル供給通路が形成される高圧燃料ポンプが記載されている。ポンプハウジング部にはガイド孔が形成されている。ガイド孔にはタペットが昇降自在に設けられ、オイル供給通路の下流開口端からガイド孔へオイルが供給される。なお、同公報には、ガイド孔(ポンプ軸)が鉛直方向に対して傾斜し、オイル供給通路の下流開口端が、ガイド孔の周面のうち下半分の領域(ポンプ軸を含む鉛直面に対して直交し且つポンプ軸を含む分割面によって上下に2分割される上下2つの領域のうち下側の領域)に形成された状態が図示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-040492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている高圧燃料ポンプ(ポンプ装置)では、オイル供給通路の下流開口端がガイド孔(ポンプ内空間)の周面(ポンプ内周面)のうち下半分の領域に形成されている。ポンプ内周面の下半分の領域から上半分の領域へのオイルの流通は、重力に逆らった方向への流通となるため、ポンプ内周面の上半分の領域へオイルが行き届き難く、ポンプ内周面と摺動部材との間の全周域を好適に潤滑することができないおそれがある。
【0005】
そこで本開示は、ポンプ内周面と摺動部材との間の全周域を好適に潤滑することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、ポンプハウジングと摺動部材とを備える潤滑油供給構造であり、ポンプハウジングは、ポンプ内空間とオイル供給開口とオイル供給路とを有する。ポンプ内空間は、鉛直方向に対して傾斜するポンプ軸に沿って延びる。オイル供給開口は、ポンプ内空間に向かって開口し、オイル供給路は、オイル供給開口と連通する。オイルは、オイル供給路を流通してオイル供給開口からポンプ内空間へ供給される。摺動部材は、ポンプ内空間に収容され、ポンプ内空間の外周を区画するポンプ内周面のうち所定の摺動範囲を摺動してポンプ軸に沿って往復する。オイル供給開口は、ポンプ内周面のうち所定の摺動範囲の上半分の領域に形成される。
【0007】
ポンプ内周面の上半分の領域とは、ポンプ軸を含む鉛直面に対して直交し且つポンプ軸を含む分割面(仮想の平面)によって上下に2分割されるポンプ内周面の上下2つの領域のうち上側の領域である。
【0008】
また、ポンプ内周面の上半分の領域に形成されるオイル供給口には、その全域がポンプ内周面の上半分の領域に形成されるオイル供給口のほか、ポンプ内周面の上半分の領域と下半分の領域との境界に跨って形成されるオイル供給口も含まれる。
【0009】
上記構成では、オイル供給開口がポンプ内周面の所定の摺動範囲に形成されるので、ポンプ軸に沿って往復する摺動部材の外周面にオイルが直接供給される。また、ポンプ内周面の下半分の領域(上記ポンプ内周面の上下2つの領域のうち下側の領域)から上半分の領域へのオイルの移動(ポンプ内周面の周方向に沿った移動)は、重力に逆らった流れとなるため、オイルは、上半分の領域から下半分の領域へ移動し易く、下半分の領域から上半分の領域へ移動し難くなる。係るオイルの挙動を考慮して、オイル供給開口がポンプ内周面の上半分の領域に形成され、ポンプ内周面の上半分の領域にオイルが供給されるので、ポンプ内周面と摺動部材との間の全周域を好適に潤滑することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様の潤滑油供給構造であって、ポンプ内周面の所定の摺動範囲は、ポンプ軸に沿って往復する摺動部材の外周面と常に対向する重複領域を有し、オイル供給開口は、重複領域に形成される。
【0012】
上記構成では、摺動部材と常に対向する重複領域にオイル供給開口が形成されているので、オイルを摺動部材の外周面に向けて常時供給することができ、ポンプ内周面と摺動部材との間の全周域をさらに好適に潤滑することができる。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様の潤滑油供給構造であって、オイル供給開口の開口出口は、ポンプ内周面の上半分の領域と下半分の領域との境界に跨って、又は境界の近傍の上半分の領域内に形成される。オイル供給開口は、ポンプ内周面の下半分の領域から離れる方向へ向かって開口出口からオイルが流出するように、開口出口を通ってポンプ軸と直交する方向に対して傾斜する。
【0014】
上記構成では、オイルは、ポンプ内周面の下半分の領域から離れる方向へ向かって流出する。また、オイル供給開口は開口出口を通ってポンプ軸と直交する方向に対して傾斜するので、係る傾斜が無い場合(オイル供給開口がポンプ軸と直交する方向に延びる場合)に比べて、開口出口の面積(開口面積)を増大させることができる。従って、周囲のレイアウト等の理由から、ポンプ内周面の上半分の領域と下半分の領域との境界に跨って開口出口を形成する場合や、境界の近傍の上半分の領域内に開口出口を形成する場合であっても、ポンプ内周面と摺動部材との間の全周域を好適に潤滑することができる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1~第3の何れかの態様であって、エンジンのカムシャフトは、燃焼室への吸気用の吸気弁及び燃焼室からの排気用の排気弁の少なくとも一方を駆動するための弁駆動カムと、ポンプ駆動カムとを有する。ポンプ駆動カムは、カムシャフトの一端側に偏って配置され、オイル供給開口は、ポンプ内周面の上記一端側でポンプ内空間へ開口する。
【0016】
上記構成では、吸気弁または排気弁を駆動するための弁駆動カムを有するカムシャフトにポンプ駆動カムを設け、カムシャフトの回転を利用して燃料ポンプを駆動するので、燃料ポンプを駆動するためのポンプ専用の駆動装置(例えば、エンジンの回転を取り出すシャフトや歯車)を設ける必要がない。このため、エンジンの製造コストの抑制、車両重量の抑制、エンジンのコンパクト化、上記ポンプ専用の駆動装置が介在することに起因するエネルギー効率の低下の抑制を図ることができる。また、燃料ポンプを機械的な機構を用いて駆動するので、電力を用いて駆動する場合に比べて車両の電気負荷を低減することができる。
【0017】
また、ポンプ駆動カムがカムシャフトの一端側に偏って配置されるので、ポンプ内空間も一端側に偏って配置される。カムシャフトの一端部と他端部とがポンプハウジングの一側のハウジング壁部と他側のハウジング壁部とによってそれぞれ支持され、一側及び他側のハウジング壁部の壁厚を可能な範囲内で薄く形成する場合、ポンプ内空間と一側及び他側のハウジング壁部の各外面との距離は、一側の方が他側よりも短くなる。オイル供給開口は、ポンプ内周面の全周域のうちハウジング壁部の外面との距離が短い一端側でポンプ内空間へ開口するので、オイル供給開口に連通するオイル供給路を一側のハウジング壁部の外面に向かって形成することにより、オイル供給路の短縮化が可能となり、オイル供給応答性が向上して好適に潤滑することができる。また、オイル供給路の形成に要する時間が短縮化し、生産性が向上する。
【発明の効果】
【0018】
本開示によれば、ポンプ内周面と摺動部材との間の全周域を好適に潤滑することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係るポンプ装置を適用したエンジンの概略図である。
図2図1を矢印II方向から視た概略図である。
図3】ポンプ装置の概略断面図である。
図4】アダプタの外観斜視図である。
図5】サプライポンプのタペットの外観斜視図である。
図6】オイル供給穴の位置を模式的に示す斜視図である。
図7】オイル供給穴の位置を模式的に示す断面図である。
図8】ポンプ挿入孔の要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、上下方向は、図1図5の上下方向に対応する。また、各図において、CL1はクランクシャフト8の回転軸を、CL2はカムシャフト13の回転軸を、CL3はサプライポンプ50のタペットローラ51の回転軸をそれぞれ示す。
【0021】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係るポンプ装置は、例えば、コモンレール式燃料噴射システムを備えるディーゼルエンジン1(以下、単にエンジン1という)に適用され、エンジン1のサプライポンプ(高圧燃料ポンプ)50によって構成される。コモンレール式燃料噴射システムでは、燃料タンク2内の燃料をフィードポンプ3によってサプライポンプ50側へ供給し、サプライポンプ50によって燃料を加圧してコモンレール4へ供給し、サプライポンプ50によって加圧された高圧の燃料をコモンレール4に貯留し、コモンレール4に貯留された高圧の燃料を複数(本実施形態では、4つ)のインジェクタ5からエンジン1の複数(本実施形態では、4つ)の燃焼室6へ噴射する。インジェクタ5から燃焼室6へ噴射された燃料は、燃焼室6内でピストン7によって圧縮された高温の空気によって着火して燃焼し、この燃焼によって膨張したガスが、ピストン7を押し下げてエンジン1のクランクシャフト8を回転させる。なお、図2には、1つの燃焼室6のみが図示されている。
【0022】
エンジン1は、燃焼室6への吸気を制御する吸気弁11、燃焼室6からの排気を制御する排気弁12、フィードポンプ3、及びサプライポンプ50を駆動するためのカムシャフト13を有する。エンジン1のシリンダブロック1aの一側及び他側の壁部(ハウジング壁部)40,41は、カムシャフト13の一端部42及び他端部43を回転自在に支持する。シリンダブロック1aの内部には、カムシャフト13を収容するシャフト収容空間21(図3参照)が区画される。すなわち、シリンダブロック1aの一部は、シャフト収容空間21を区画するカムシャフトハウジング20(図3参照)として機能する。吸気弁11及び排気弁12は、アーム15を介してプッシュロッド16に連結され、カムシャフト13の回転によって駆動される。なお、図2では、吸気弁11側のアーム15及びプッシュロッド16を図示し、排気弁12側のアーム15及びプッシュロッド16の図示を省略している。
【0023】
図1図3に示すように、カムシャフト13は、棒状部材であって、複数のカムを一体的に有し、エンジン1のシリンダブロック1aに回転自在に支持される。複数のカムには、複数の吸気弁駆動カム(弁駆動カム)17と、複数の排気弁駆動カム(弁駆動カム)18(図3には、1つの排気弁駆動カム18のみが図示されている)と、フィードポンプ駆動カム19と、サプライポンプ駆動カム(ポンプ駆動カム)14とが含まれる。カムシャフト13は、カムシャフト13の軸方向(延設方向)に延びる回転軸CL2を有し、カムシャフト13の回転軸CL2がクランクシャフト8の回転軸CL1と略平行になるように配置される。カムシャフト13の軸方向におけるサプライポンプ駆動カム14の位置は、一端側(一端部42側)に偏った位置に設定され、カムシャフト13の一端部42には、入力ギア9が固定的に設けられる。カムシャフト13の入力ギア9は、クランクシャフト8に対してギアまたはチェーン等を介して連結される。この連結によって、カムシャフト13の入力ギア9には、カムシャフト13を回転させるための力がクランクシャフト8から入力し、カムシャフト13は、クランクシャフト8の回転に伴って回転する。吸気弁駆動カム17には、吸気弁11側のプッシュロッド16の先端が当接し、排気弁駆動カム18には、排気弁12側のプッシュロッド16の先端が当接し、フィードポンプ駆動カム19には、フィードポンプ3のタペットローラ(図示省略)が当接し、サプライポンプ駆動カム14には、サプライポンプ50の後述するタペットローラ51が当接する。吸気弁駆動カム17は吸気弁11を駆動し、排気弁駆動カム18は排気弁12を駆動し、フィードポンプ駆動カム19はフィードポンプ3を駆動し、サプライポンプ駆動カム14はサプライポンプ50を駆動する。
【0024】
カムシャフトハウジング20は、上下方向に貫通するアダプタ挿入孔22を有し、シャフト収容空間21を区画する。アダプタ挿入孔22は、シャフト収容空間21とカムシャフトハウジング20の外部とを連通する。アダプタ挿入孔22は、カムシャフト13の回転軸CL2と交叉する方向に延び、アダプタ挿入孔22にアダプタ30が装着される。シリンダブロック1a(カムシャフトハウジング20を含む)とアダプタ30とは、ポンプハウジングを構成する。なお、アダプタ30を設けず、シリンダブロック1a(カムシャフトハウジング20を含む)のみによってポンプハウジングを構成し、アダプタ30に形成される要素(後述するポンプ挿入孔35やオイル供給穴71など)をカムシャフトハウジング20に形成してもよい。アダプタ挿入孔22のシャフト収容空間21側の開口23(以下、内部開口23という)は、シャフト収容空間21に収容されたカムシャフト13のサプライポンプ駆動カム14から上方に離間した位置に配置され、サプライポンプ駆動カム14に向かって開口する。
【0025】
図3及び図4に示すように、アダプタ30は、上下方向に延びる筒状のシリンダ部31と、シリンダ部31の上端部から径方向外側へ拡がる鍔状のフランジ部32と、シリンダ部31に固定されるピン37とを有し、カムシャフトハウジング20に対して固定される。
【0026】
シリンダ部31は、カムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に上方から挿入される。シリンダ部31がカムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に上方から挿入された状態で、フランジ部32は、カムシャフトハウジング20の外部に配置され、アダプタ挿入孔22の周囲のカムシャフトハウジング20の上面に対して締結固定される。フランジ部32とアダプタ挿入孔22の周囲のカムシャフトハウジング20の上面との間には、ガスケット等のシール部材(図示省略)が介在する。シリンダ部31の下端は、カムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22の内部開口23よりも僅かに下方に配置される。シリンダ部31は、上端開口33と下端開口34とを連通して上下方向に直線状に延びるポンプ挿入孔(ポンプ内空間)35を有する。ポンプ挿入孔35の軸(ポンプ軸100)が延びる方向(上記所定方向)は、カムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向で、且つ鉛直方向101(図6参照)に対して傾斜する方向である。下端開口34は、シャフト収容空間21に収容されたカムシャフト13のサプライポンプ駆動カム14から上方に離間した位置に配置され、サプライポンプ駆動カム14に向かって開口する。シリンダ部31のうちカムシャフトハウジング20のアダプタ挿入孔22に挿入される領域36には、シリンダ部31を径方向(本実施形態では、シリンダ部31の軸と直交する方向)に貫通するピン挿入孔38が形成される。ピン挿入孔38は、上面視においてカムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向に沿って延びる。ピン挿入孔38が設けられる位置は、シリンダ部31の上記領域36のうち、アダプタ挿入孔22の内部開口23よりも上方の領域であって、サプライポンプ50の後述するタペット52が摺動する範囲に含まれる。
【0027】
ピン37は、シリンダ部31のピン挿入孔38に圧入されてシリンダ部31に対して固定される棒体である。ピン37がシリンダ部31に固定された状態で、シリンダ部31の径方向のピン37の外端は、シリンダ部31の外周面31aと略同一面上に配置され、シリンダ部31の径方向のピン37の内端は、シリンダ部31の内周面31bよりも径方向内側に配置される。すなわち、ピン37は、シリンダ部31に固定された状態でシリンダ部31の内周面31bよりも径方向内側に突出する突出部39を有する。ピン37の突出部39は、上面視においてカムシャフト13の回転軸CL2と直交する方向に沿って突出し、タペット52のスライド溝部61(図5参照)に係合する。
【0028】
図3及び図5に示すように、サプライポンプ50は、燃料を加圧してコモンレール4(図1参照)へ供給する高圧燃料ポンプであって、カムシャフトハウジング20に対してアダプタ30を介して固定される。サプライポンプ50は、ポンプ本体53とプランジャ54とタペット(摺動部材)52とタペットローラ51とを有する。
【0029】
タペット52は、略円筒状に形成され、ポンプ挿入孔35に収容される。タペット52は、その外周面52cがアダプタ30のシリンダ部31の内周面(ポンプ内周面)31bを摺動し、シリンダ部31内をポンプ軸100に沿って上下に往復移動する。タペット52の摺動範囲62(往復移動する範囲)は、上死点におけるタペット52の下端52aが、下死点におけるタペット52の上端52bよりも下方に位置するように設定される(図8参照)。このため、タペット52の摺動範囲62には、タペット52の往復移動時に常にタペット52が存在する領域(上死点におけるタペット52の下端52aと下死点におけるタペット52の上端52bとの間の重複領域63)が存在する。このように、タペット52は、ポンプ挿入孔35に収容され、ポンプ挿入孔35の外周を区画するシリンダ部31の内周面31bのうち所定の摺動範囲62を摺動してポンプ軸100に沿って往復する。
【0030】
タペット52の内径部の壁部60よりも下方の領域には、タペットローラ51が配置される。また、サプライポンプ50のタペット52の外周面52cやタペットローラ51には、後述するオイル流路70からオイル供給穴71を介してオイルが供給される。
【0031】
図4及び図5図8に示すように、アダプタ30にはオイル供給穴(オイル供給開口)71が形成され、カムシャフトハウジング20にはオイル流路(オイル供給路)70が形成されている。オイル供給穴71は、ポンプ挿入孔35に向かって開口し、オイル流路70は、オイル供給穴71と連通する。オイルは、カムシャフトハウジング20の外部からオイル流路70に供給され、オイル流路70を流通してオイル供給穴71からポンプ挿入孔35へ供給される。オイル供給穴71は、シリンダ部31の内周面31bのうちポンプ軸100に沿って往復するタペット52の外周面52cと常に対向する重複領域63に形成されている。なお、オイル供給穴71を、重複領域63以外の摺動範囲62に形成してもよい。
【0032】
図6図8に示すように、オイル供給穴71は、タペット52の摺動範囲62(本実施形態では重複領域63)の上半分の領域102に形成される。シリンダ部31の内周面31bの上半分の領域102とは、ポンプ軸100を含む鉛直面104に対して直交し且つポンプ軸100を含む分割面105によって上下に2分割される内周面31bの上下2つの領域のうち上側の領域であり、上半分の領域102以外が下半分の領域103となる。
【0033】
上半分の領域102にオイル供給穴71を形成するとは、オイル供給穴71の少なくとも一部が上半分の領域102に含まれようにオイル供給穴71を形成することを意味する。本実施形態では、オイル供給穴71を、内周面31bの上半分の領域102と下半分の領域103との境界106に跨って形成しているが、オイル供給穴71の全域を上半分の領域102に形成してもよい。また、図7及び図8に示すように、本実施形態のオイル流路70の下流端側(オイル供給穴71側)は、ポンプ軸100の直交方向に対して傾斜せず、ポンプ軸100に向かって延びている。
【0034】
また、シリンダ部31の内周面31bの周方向におけるオイル供給穴71の形成位置は、上記上半分の領域102であって、カムシャフト13の一端部42側である。カムシャフト13の軸方向におけるサプライポンプ駆動カム14の位置は、一端部42側に偏っており、この偏った側にオイル供給穴71が形成される。
【0035】
本実施形態によれば、シリンダ部31の内周面31bのうちタペット52が摺動する摺動範囲62にオイル供給穴71が形成されるので、ポンプ軸100に沿って往復するタペット52の外周面52cにオイルが直接供給される。また、内周面31bの下半分の領域103から上半分の領域102へのオイルの移動(内周面31bの周方向に沿った移動)は、重力に逆らった流れとなるため、オイルは、上半分の領域102から下半分の領域103へ移動し易く、下半分の領域103から上半分の領域102へ移動し難くなる。本実施形態では、係るオイルの挙動を考慮し、オイル供給穴71を内周面31bの上半分の領域102に形成し、内周面31bの上半分の領域102にオイルを供給するので、シリンダ部31の内周面31bとタペット52の外周面52cとの間の全周域を好適に潤滑することができる。
【0036】
また、タペット52と常に対向する重複領域63にオイル供給穴71を形成しているので、オイルをタペット52の外周面52cに向けて常時供給することができ、シリンダ部31の内周面31bとタペット52の外周面52cとの間の全周域をさらに好適に潤滑することができる。
【0037】
さらに、本実施形態のポンプ装置は、燃料を加圧してエンジン1の燃焼室6側へ供給するサプライポンプ50によって構成され、カムシャフト13は、吸気弁11及び排気弁12を駆動するための弁駆動カム17,18と、サプライポンプ50を駆動するためのサプライポンプ駆動カム14とを有する。サプライポンプ駆動カム14は、カムシャフト13の回転をタペット52のポンプ軸100に沿った直線移動に変換する。
【0038】
このように、弁駆動カム17,18を有するカムシャフト13にサプライポンプ駆動カム14を設け、カムシャフト13の回転を利用してサプライポンプ50を駆動するので、サプライポンプ50を駆動するためのポンプ専用の駆動装置(例えば、エンジンの回転を取り出すシャフトや歯車)を設ける必要がなく、部品点数を抑えることができる。このため、エンジン1の製造コストを抑えることができ、また車両重量を抑えることができる。
【0039】
また、サプライポンプ50を駆動するためのポンプ専用の駆動装置を設けなくてもよいので、エンジン1のコンパクト化を図ることができる。
【0040】
また、ポンプ専用の駆動装置を介することなくサプライポンプ50を駆動するので、その分だけエネルギー効率の低下を抑えることができる。
【0041】
また、サプライポンプ50を機械的な機構を用いて駆動するので、電力を用いて駆動する場合に比べて車両の電気負荷を低減することができる。
【0042】
さらに、サプライポンプ駆動カム14がカムシャフト13の一端側に偏って配置されるので、ポンプ挿入孔35も一端側に偏って配置される。カムシャフト13の一端部42と他端部43とが一側及び他側のハウジング壁部40,41によってそれぞれ支持され、一側及び他側のハウジング壁部40,41の壁厚は可能な範囲内で薄く形成されている。このため、ポンプ挿入孔35と一側及び他側のハウジング壁部40,41の各外面(カムシャフト13の軸方向外側を向く外面)44,45との距離は、一側の方が他側よりも短くなる。オイル供給穴71は、シリンダ部31の内周面31bの全周域のうちハウジング壁部40,41の外面44,45との距離が短い一端側でポンプ挿入孔35へ開口するので、オイル供給穴71に連通するオイル流路70を一側のハウジング壁部40の外面44から形成することにより、オイル流路70の短縮化が可能となり、オイル供給応答性が向上して好適に潤滑することができる。また、オイル流路70の形成に要する時間が短縮し、生産性が向上する。なお、一側のハウジング壁部40の外面44以外の面(他の外面)にオイルの供給口を設ける場合は、例えば、オイル供給穴71に連通するオイル流路70を一側のハウジング壁部40の外面44から形成し、形成したオイル流通路70の外部への開口(一端側の開口)を閉止部材(図示省略)によって閉止し、上記他の面からオイル流路70へ貫通する上流側のオイル流路(図示省略)を上記他の面から形成してもよい。
【0043】
以上、本発明について、上記実施形態に基づいて説明を行ったが、本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではなく、当然に本発明を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。すなわち、この実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【0044】
例えば、上半分の領域(半周域)102のうち最も高い位置(ポンプ軸100を含む鉛直面と交叉する線上)107(図7参照)にオイル供給穴71を形成してもよい。これにより、上半分の領域102全体へのオイルの供給性能を向上させることができる。換言すると、上半分の領域102のうち最も高い位置107に近付けるほど、オイルの供給性能が向上する。
【0045】
また、図7に二点鎖線で示すように、オイル流路70の少なくとも下流端側を、下半分の領域103から離れる方向へ向かってオイル供給穴71からオイルが流出するようにポンプ軸100の直交方向に対して傾斜させてもよい。この場合、オイルは、内周面31bの下半分の領域103から離れる方向へ向かって(図7の例では、上半分の領域102のうち最も高い位置107に向かうように)流出する。また、オイル流路70は、オイル供給穴71側でポンプ軸100の直交方向に対して傾斜するので、オイル流路70の流路断面の面積Saに対してオイル供給穴71の開口面積Sbが増大する。すなわち、傾斜が無い場合に比べてオイル供給穴71の開口面積Sbが増大する。従って、ポンプ装置の周囲のレイアウト等の理由から、内周面31bの上半分の領域102と下半分の領域103との境界106に跨ってオイル供給穴71を形成する場合や、境界106の近傍の上半分の領域102内にオイル供給穴71を形成する場合であっても、シリンダ部31の内周面31bとタペット52の外周面52cとの間の全周域を好適に潤滑することができる。
【0046】
また、上記実施形態では、本開示に係るポンプ装置をディーゼルエンジン1に適用したが、ガソリンエンジンに適用してもよい。また、コモンレール式燃料噴射システムを備えないエンジンに適用してもよい。さらに、車両用以外のエンジン(例えば産業用エンジン)に適用してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1:エンジン
1a:シリンダブロック(ポンプハウジング)
13:カムシャフト
14:サプライポンプ駆動カム(ポンプ駆動カム)
20:カムシャフトハウジング(ポンプハウジング)
30:アダプタ(ポンプハウジング)
31:シリンダ部
31b:シリンダ部の内周面(ポンプ内周面)
35:ポンプ挿入孔(ポンプ内空間)
40:一側のハウジング壁部
41:他側のハウジング壁部
42:カムシャフトの一端部
43:カムシャフトの他端部
50:サプライポンプ(高圧燃料ポンプ)
52:タペット(摺動部材)
52c:タペットの外周面
62:摺動範囲
63:重複領域
70:オイル流路(オイル供給路)
71:オイル供給穴(オイル供給開口)
100:ポンプ軸
101:鉛直方向
102:上半分の領域
103:下半分の領域
104:鉛直面
105:分割面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8