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特許7049604ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 381/00 20060101AFI20220331BHJP
   C07D 213/71 20060101ALI20220331BHJP
   C07D 239/38 20060101ALI20220331BHJP
   C07D 277/76 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
C07C381/00
C07D213/71
C07D239/38
C07D277/76
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019502968
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2018006884
(87)【国際公開番号】W WO2018159515
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017037356
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】柴田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 記庸
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/090746(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/111839(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/014665(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/033930(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/118787(WO,A1)
【文献】CUI, Benqiang, et al., Chem. Commun., 2017, 53, 5997-6000, DOI:10.1039/c7cc02802d
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 381/00
C07D 213/71
C07D 239/38
C07D 277/76
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(2):
Ar-(SF4Hal)k (2)
(式中、Arは置換または非置換のアリール基またはヘテロアリール基であり、
HalはCl基、Br基、またはI基であり、
kは1~3の整数であり)
で表されるハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物とIF5を反応させることを含む、
一般式(3):
Ar-(SF5k (3)
(式中、Ar、kは前述のとおり定義される)
で表されるペンタフルオロスルファニル芳香族化合物の製造方法。
【請求項2】
前記アリール基またはヘテロアリール基が、ハロゲン基、ハロゲン基を除く電子吸引基、およびハロゲン基を除く電子供与基からなる群から選択される置換基を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物およびペンタフルオロスルファニル芳香族化合物が、それぞれ一般式(2’)および(3’)で表される、
【化1】
(式中、HalはCl基、Br基、またはI基であり、
XはCまたはNであり、
YはCまたはNであり、
Rは独立に、ハロゲン基、ハロゲン基を除く電子吸引基、またはハロゲン基を除く電子供与基であり、
kは1~3の整数であり、
mは0~(5-k-n)で表される整数であり、
nは前記Nの個数である)
請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記置換基がハロゲン基を除く電子吸引基であり、前記反応を50℃以上において行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記置換基がハロゲン基を除く電子吸引基であり、一般式(2)で表されるハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物中のSF4Hal基に対して1当量以上のIF5を用いる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記XおよびYの少なくとも1つがNであり、
前記Rのうち少なくとも1つは、環上の3位に存在するハロゲン基を除く電子吸引基である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項7】
前記ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物およびペンタフルオロスルファニル芳香族化合物が、それぞれ一般式(2”)および(3”)で表される、
【化2】
(式中、HalはCl基、Br基、またはI基でありであり、
ZはNまたはSであり、
pは0~2の整数であり、
R’は独立に、ハロゲン基、ハロゲン基を除く電子吸引基、またはハロゲン基を除く電子供与基であり、
qは0~(4-p)で表される整数である)
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペンタフルオロスルファニル基(以下SF5基)は将来が期待される材料として注目を集めいている。SF5基はその独特の物理化学的特性から特に製薬分野において注目されている。SF5基はよく知られているCF3基としばしば比較されるが、SF5基の電気陰性度は3.65でありニトロ基の電気陰性度に近いが、CF3基の電気陰性度は3.36である。またSF5基の大きさはCF3基とt-ブチル基の中間程度である。SF5基とCF3基は高い電気陰性度と疎水性(Hansh疎水性定数はπ(CF3)が1.09、π(SF5)は1.51)を有するが、概して異なる性質を有する。SF5基は水溶性、膜透過性、代謝安定性を示す。これらの特性から、SF5基は新薬候補化合物、除草剤、殺虫剤、抗うつ病剤、抗マラリア剤等として有用である可能性がある。非特許文献1にはアリールジスルフィドを酸化的に塩素フッ素化し、次いでAr-SF4Clを、ZnF2、HF、Sb(III/V)フッ化物等のフッ素化剤と反応させてCl-F交換反応(SN反応)させてAr-SF5を得る二段階反応(スキーム1a)が開示されている。この方法は現在、実用化されている。
【0003】
またSF5基を有するピリジン(Py)について、非特許文献2は、ピリジンジスルフィドを酸化的に塩素フッ素化し、次いでo-Py-SF4ClをAgFと反応させてCl-F交換反応によりo-Py-SF5を得る方法を開示する(スキーム1b)。非特許文献2においては、5-NO2または5-CF3基を有するo-Py-SF4ClのAgFを用いたフッ素化が試みられたが、Py-SF5はほとんどあるいはまったく合成されなかった。
【0004】
非特許文献3は、m-Py-SF5およびp-Py-SF5の合成方法を開示する(スキーム1c)。o-Py-SF4ClにおいてCl-F交換反応が進行しない原因は、競争的求核芳香族置換(SNAr)反応によるC-S結合開裂(スキーム1cの経路a)が、SN反応を経由するCl-F交換反応(スキーム1cの経路b)よりも優先して起こるためと考えられる。電子が不足しているSF4Cl基含有芳香族化合物におけるCl-F交換反応は困難であることが知られており、非特許文献1は、p-NO2-フェニル-SF4Clを高温でZnF2と反応させてもCl-F交換反応があまり進行せず、p-NO2-フェニル-SF5の収率が36%であったことを開示する。
【0005】
【化1】
【0006】
非特許文献4は置換基としてClを有するチオピリジンとIF5を反応させることを開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】T. Umemoto, L. Garrick, N. Saito, Beilstein J. Org. Chem.,2012, 8, 461.
【文献】O. S. Kanishchev, W. R. Dolbier, Jr., Angew.Chem. Int. Ed., 2015, 54, 280.
【文献】M. Kosobokov, B. Cui, A. Balia,K. Matsuzaki, E. Tokunaga, N. Saito, N. Shibata, Angew. Chem.Int. Ed., 2016, 55, 10781
【文献】A. Sipyagin, I. Pomytkin, S. Paltsun, N. Aleinikov and V. Kartsev, J. Fluorine Chem., 1991, 54, 115.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の方法では効率よくペンタフルオロスルファニル芳香族化合物を製造する場合には置換基等の制約があった。非特許文献4は、ピリジンチオールとIF5を反応させてペンタフルオロスルファニルピリジンを製造するスキームを開示するが、後述するとおり発明者らが実際にこの反応を試みたところ反応が進行しないことを確認した。かかる事情を鑑み、本発明は置換基によらずにSF5基を有する芳香族化合物を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らはIF5が前記反応を円滑に進行させることを見出した。すなわち前記課題は以下の本発明によって解決される。
[1]一般式(2)で表されるハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物とIF5を反応させることを含む、
一般式(3)で表されるペンタフルオロスルファニル芳香族化合物の製造方法。
[2]前記アリール基またはヘテロアリール基が、ハロゲン基、ハロゲン基を除く電子吸引基、およびハロゲン基を除く電子供与基からなる群から選択される置換基を有する、[1]に記載の製造方法。
[3]前記ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物およびペンタフルオロスルファニル芳香族化合物が、それぞれ一般式(2’)および(3’)で表される、[1]に記載の製造方法。
[4]前記置換基がハロゲン基を除く電子吸引基であり、前記反応を50℃以上において行う、[1]に記載の製造方法。
[5]前記置換基がハロゲン基を除く電子吸引基であり、一般式(2)で表されるハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物中のSF4Hal基に対して1当量以上のIF5を用いる、[1]に記載の製造方法。
[6]前記XおよびYの少なくとも1つがNであり、
前記Rのうち少なくとも1つは、環上の3位に存在するハロゲン基を除く電子吸引基である、[3]に記載の製造方法。
[7]前記ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物およびペンタフルオロスルファニル芳香族化合物が、それぞれ一般式(2”)および(3”)で表される、[1]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「X~Y」はその端値であるXおよびYを含む。また、「XまたはY」はX、Yのいずれかあるいはその両方を含む。以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
1.本発明の製造方法
本発明は以下の反応工程を含む。
Ar-(SF4Hal)k+IF5 → Ar-(SF5k
【0013】
(1)ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物
ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物は一般式(2):Ar-(SF4Hal)kで表される。Arは置換または非置換のアリール基あるいは置換または非置換のヘテロアリール基である。アリール基とは芳香族炭化水素基であり、例えばフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ヘテロアリール基とは複素芳香族炭化水素基であり、例えばピリジル基、ピリミジル基、インドリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。
【0014】
アリール基およびヘテロアリール基(以下まとめて「Ar基」ともいう)における置換基としては、(i)ハロゲン基、(ii)ハロゲン基を除く電子吸引基、および(iii)ハロゲン基を除く電子供与基が挙げられる。ハロゲン基としてはF基、Cl基、Br基、I基が挙げられるが、入手容易性の観点からF基、Cl基、Br基が好ましい。
【0015】
電子吸引基とは水素に比べて電子をひきつけやすい性質を有する基であり、本発明においては、好ましくはHammett則にしたがって決定される置換基定数σが正の値となる基をいう。電子吸引基としては、CF3基、CCl3基、CBr3基、CI3基、ニトロ基(NO2基)、シアノ基(CN基)、COOH基、COOR1基(R1は炭素数1~3のアルキル基)、SO3H基、SO32基(R2は炭素数1~3のアルキル基、または炭素数1~3のパーフルオロアルキル基)が挙げられる。これらの中でもフッ素含有基が好ましい。フッ素含有基としては、CF3基、SO3CF3基が挙げられる。これらの中でも、ニトロ基、CF3基、またはシアノ基が好ましい。一般にハロゲン基も電子吸引基に分類されるが、ハロゲン基はメソメリー効果等によって電子供与基的にふるまう場合があるので、本発明おいて電子吸引基はハロゲン基を除く。以下、ハロゲン基を除く電子吸引基を単に「電子吸引基」ともいう。
【0016】
電子供与基とは水素に比べて電子を与えやすい性質を有する基であり、本発明においては、好ましくはHammett則にしたがって決定される置換基定数σが負の値となる基をいう。電子供与基としてはアルキル基、アルコキシル基、水酸基、アミノ基等が挙げられる。アルキル基は直鎖状、分岐状、または環状の炭素数1~18であるアルキル基が好ましく、炭素数1~5のアルキル基が好ましい。アルコシキル基におけるアルキル基についても同様である。前記理由と同様に、本発明おいて電子供与基はハロゲン基を除く。以下、ハロゲン基を除く電子供与基を単に「電子供与基」ともいう。
【0017】
置換基(i)、(ii)、(iii)は化合物内に併存していてもよい。しかしながら後述するとおり、置換基の特性によって好ましい反応条件は異なるので、一態様において化合物内にこれらの置換基は併存しない。ただし、置換基(i)と(iii)は類似の特性を有するので他の態様において、化合物内に置換基は(i)と(iii)は併存する。
【0018】
HalはCl基、Br基、またはI基であり、入手容易性の観点からはCl基が好ましい。
【0019】
kはSF4Hal基の個数を表し、1~3の整数であり、好ましくは1または2、より好ましくは1である。
【0020】
ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物は好ましくは、一般式(2’)で表される。
【0021】
【化2】
【0022】
XはCまたはNであり、YはCまたはNである。環上のNの個数をnとする。nは0~2の整数である。kは前述のとおり定義される。
【0023】
Rは環上の置換基であり、mはその個数を表す。Rは、前述の置換基(i)、(ii)、または(iii)であることが好ましい。mが0でない場合、複数のRは同じであってもよいし異なっていてもよい。mは0~(5-k-n)で表される。すなわちmは0~5の値をとりうる。
【0024】
式(2’)においてNが存在する場合、Nを基準として3位に電子吸引基が存在すると本発明の効果がより顕著となる。
【0025】
別の態様において、ハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物は、好ましくは一般式(2”)で表される。
【0026】
【化3】
【0027】
ZはNまたはSであり、Halは前述のとおり定義される。pは6員環上のSF4Hal基の個数を表し、0~2の整数であり、好ましくは0または1、より好ましくは0である。
【0028】
R’は6員環上の置換基であり、qはその個数を表す。R’は、前述の置換基(i)、(ii)、または(iii)であることが好ましい。qが0でない場合、複数のR’は同じであってもよいし異なっていてもよい。qは0~(4-p)で表される整数であり、0~4をとりうる。
【0029】
(2)IF5
五フッ化ヨウ素(IF5)はハロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物のSF4Hal基をF基に変換する。IF5の使用量は、目的化合物が得られる量であれば限定されないが、SF4Hal基に対して好ましくは0.1当量以上、より好ましくは2当量以上である。使用量の上限は、コスト等の観点から10当量以下であることが好ましい。
【0030】
(3)ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物
本発明の製造方法で得られるペンタフルオロスルファニル芳香族化合物は一般式(3):Ar-(SF5kで表される。Arは一般式(2)におけるArと同じである。kはSF5基の個数を示し、1~3の整数であり、好ましくは1または2、より好ましくは1である。ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物は好ましくは一般式(3’)で表される。
【0031】
【化4】
【0032】
X、Y、R、m、kは、一般式(2’)のとおり定義される。
【0033】
別の態様において、ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物は好ましくは一般式(3”)で表される。
【0034】
【化5】
【0035】
Z、R’、p、qは一般式(2”)のとおり定義される。
【0036】
ペンタフルオロスルファニル芳香族化合物の具体例を以下に示す。
【0037】
【化6】
【0038】
【化7】
【0039】
【化8】
【0040】
(4)反応条件
反応条件は所望の収率を達成するために適宜調整できる。以下に好ましい条件を説明する。
【0041】
1)Ar基が置換基を持たない、あるいは、(i)ハロゲン基または(iii)前記電子供与基を置換基として有する場合
反応温度は特に限定されず、室温(20℃)以上とすることが好ましい。温度の上限も限定されないが、100℃以下とすることが好ましい。
【0042】
IF5の使用量も限定されないが、SF4Hal基に対して0.1当量以上であることが好ましく、1当量以上であることがより好ましく、2当量以上であることがより好ましい。上限も限定されないが、経済性等の観点から10当量以下が好ましく、8当量以下がより好ましい。
【0043】
反応は無溶媒で実施してもよいし、溶媒を用いて実施してもよい。IF5は液体であるので無溶媒で反応を行うことができる。溶媒としては、非ハロゲン溶媒が好ましく、ヘキサン等の非極性溶媒がより好ましい。
【0044】
2)Ar基が(ii)前記電子吸引基を置換基として有する場合
反応温度は50℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましい。反応温度の上限は100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。
【0045】
IF5の使用量も限定されないが、SF4Hal基に対して2当量以上であることが好ましく、3当量以上であることがより好ましく、5当量以上であることがより好ましい。上限も限定されないが、コスト等の観点から10当量以下が好ましく、8当量以下がより好ましい。
【0046】
反応は無溶媒で実施してもよいし、溶媒を用いて実施してもよい。IF5は液体であるので無溶媒で反応を行うことができる。溶媒としては、非極性溶媒が好ましく、その例としては非ハロゲン溶媒やヘキサン等の炭化水素溶媒が挙げられる。
【実施例
【0047】
[実施例1および比較例1]置換基として電子吸引基を有する化合物
フッ素化剤を用いて以下の反応を行った。
【0048】
【化9】
【0049】
具体的には、公知の方法で合成した5-ニトロ-o-クロロテトラフルオロスルファニルピリジン(0.72mmol)を、グローブボックス内でフッ素樹脂製容器に仕込んだ。窒素ガス気流下において、表1に示す量のIF5をシリンダーに仕込み、テフロン(登録商標)チューブを介して前記フッ素樹脂製容器に仕込んだ。混合物を撹拌して、表1に示す条件で反応を行った。反応終了後、反応混合物を冷水中に注ぎ、炭酸水素ナトリウム水溶液を用いて中和した。当該反応液を3mLのヘキサンを用いた抽出に3回供し、有機相を得て、硫酸ナトリウムで乾燥した。続いて有機相をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮して溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ペンタン/ジクロロメタン)で精製して目的化合物を得た。19F-NMR分析(内部標準としてフルオロベンゼンを使用)によって収率を求めた。
【0050】
【表1】
【0051】
[実施例2]置換基として電子吸引基を有する化合物
種々のクロロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物(0.72mmol)を原料に用い、実施例1と同様にして以下の反応を行った。ただしneatにて、すなわち溶媒は用いずに反応を行った。スキームと結果を表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
単離後の収率を示す。かっこ内の数値は19F-NMR分析(内部標準としてフルオロベンゼンを使用)により求めた収率を示す。表2から高収率で目的化合物を得られることが明らかである。
【0054】
[実施例3]置換基としてハロゲン基を有する化合物
種々のクロロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物を原料に用い、実施例2と同様にして以下の反応を行った。スキームと結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
単離後の収率を示す。かっこ内の数値は19F-NMR分析(内部標準としてフルオロベンゼンを使用)により求めた収率を示す。表3から高収率で目的化合物を得られることが明らかである。
【0057】
[実施例4]置換基としてハロゲン基を有する化合物
種々のクロロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物を原料に用い、実施例1と同様にして以下の反応を行った。スキームと結果を表4以下に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
単離後の収率を示す。かっこ内の数値は19F-NMR分析(内部標準としてフルオロベンゼンを使用)により求めた収率を示す。表4から高収率で目的化合物を得られることが明らかである。
【0060】
[実施例5]置換基として電子供与基を有する化合物
種々のクロロテトラフルオロスルファニル芳香族化合物を原料に用い、実施例4と同様にして以下の反応を行った。スキームと結果を表5以下に示す。
【0061】
【表5】
【0062】
単離後の収率を示す。かっこ内の数値は19F-NMR分析(内部標準としてフルオロベンゼンを使用)により求めた収率を示す。表5から高収率で目的化合物を得られることが明らかである。化合物3lの合成においては、0.5当量の炭酸銀の存在下でも反応を行ったところ、副反応が抑制でき収率が向上した。
【0063】
[実施例6]
以下の反応を行った。条件等は実施例2と同様とした。スキームおよび結果を表6に示す。
【0064】
【表6】
【0065】
[比較例2]
非特許文献4に記載の反応を試みた。具体的には、99.6mgの下記に示すピリジンチオールと10当量のIF5を無溶媒にて70℃で1晩撹拌した。しかしながらSH基がSF5基に変換された化合物はほとんど確認できなかった。
【0066】
【化10】
【0067】
本発明の製造方法により、効率よくペンタフルオロスルファニル芳香族化合物を製造できる。