(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】昇温抑制用組成物および昇温抑制用シート
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20220331BHJP
F25D 7/00 20060101ALI20220331BHJP
F16L 59/00 20060101ALN20220331BHJP
【FI】
C09K5/04 Z
F25D7/00 Z
F16L59/00
(21)【出願番号】P 2017129637
(22)【出願日】2017-06-30
【審査請求日】2020-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】592116763
【氏名又は名称】株式会社ワンウィル
(73)【特許権者】
【識別番号】391004676
【氏名又は名称】サンロック工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 倍章
(72)【発明者】
【氏名】竹中 洋二
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昭次
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇紀
(72)【発明者】
【氏名】大滝 幹
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008185(JP,A)
【文献】特開2003-246244(JP,A)
【文献】特開2006-241803(JP,A)
【文献】特開2004-051449(JP,A)
【文献】国際公開第2004/060985(WO,A1)
【文献】特許第3115722(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
F25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機多孔質体と、植物体またはその加工物とを含有
し、
前記無機多孔質体の乾燥速度(D
A
)と前記植物体またはその加工物の乾燥速度(D
B
)との比率(D
A
/D
B
)が0.5以上1.0未満であることを特徴とする昇温抑制用組成物。
【請求項2】
前記無機多孔質体の吸水率が45~70%であり、前記植物体またはその加工物の吸水率が65~85%であることを特徴とする請求項1
に記載の昇温抑制用組成物。
【請求項3】
前記無機多孔質体の含有量(C
A)と前記植物体またはその加工物の含有量(C
B)との比率(C
A/C
B)が0.15~50であることを特徴とする請求項1
または2に記載の昇温抑制用組成物。
【請求項4】
前記植物体またはその加工物の含有量(C
B)が2.5~42質量%であることを特徴とする請求項1~
3のいずれか一項に記載の昇温抑制用組成物。
【請求項5】
前記無機多孔質体が珪藻土であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の昇温抑制用組成物。
【請求項6】
前記植物体またはその加工物が茶殻であることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の昇温抑制用組成物。
【請求項7】
バインダーを含有することを特徴とする請求項1~
6のいずれか一項に記載の昇温抑制用組成物。
【請求項8】
請求項
7に記載の昇温抑制用組成物をシート状に成型した昇温抑制用シート。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の昇温抑制用組成物が外装に塗布された構造体。
【請求項10】
請求項
8に記載の昇温抑制用シートが外装に貼付された構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機多孔質体からなる吸湿材と、植物体またはその加工物からなる吸湿材とを含有する組成物であって、当該組成物を構造体表面に塗布・貼付等の手段で積層することで構造体の昇温を抑制することのできる昇温抑制用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
屋外に配置される構造体は太陽光の日射を受けて熱を帯び、その機能が低下することがある。例えば、エアコンの室外機は夏季に本体に日射が当たり本体の温度が高まると、排熱効率が下がりエアコンの能力が低下してしまうばかりか、能力低下を補うために過度の負担をかけ続けると機械寿命が短くなることが知られている。また、低温倉庫、冷蔵車のように内部に収納される物品を冷却しなければならない構造体は、本体への日射の影響で内部の温度が高まり、効率的な冷却が行えない場合がある。
環境面から見ると、屋外に配置された構造体が日射を受けて熱を帯びることによるヒートアイランド現象が都市部で問題となっており、官民合わせてその抑止と緩和への努力がなされ、地球規模で温度上昇阻止・消費電力の上昇阻止に向けさまざまな提案がなされている。
【0003】
また、構造体の昇温は、その構造体が配置された環境や構造体内部に配置された機関による発熱など様々な影響でも生じるため、構造体の周囲で勤務する人間の労働環境に大きな影響を及ぼす。
【0004】
このような、日射などによる構造体の昇温を抑制するため、種々の技術が提案されており、例えば、特許文献1には、保冷庫、保冷車に適した「保冷板」に係るものであるが、シリカ、アルミナ、ゼオライトなどの吸湿剤と光触媒とを金属板の上に塗って皮膜形成することで、太陽光の照射による表面温度の上昇を抑制し、保冷庫内の温度を保つ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、シリカ、ゼオライト、珪藻土等の吸放湿性能の高い多孔質鉱物のみを用いているため、強い日射により構造体の表面温度が急に高まった場合や構造体の温度が高い場合は、吸湿した水分が短時間で蒸発してしまい、十分に昇温を抑制することが出来なかった。
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、強い光が長時間照射される等により構造体の表面温度が上昇し続ける場合であっても、昇温を抑制することのできる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意検討した結果、無機多孔質体と、植物体またはその加工物とを併用することで、構造体の昇温を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
〔1〕 無機多孔質体と、植物体またはその加工物とを含有することを特徴とする昇温抑制用組成物。
〔2〕 前記無機多孔質体の乾燥速度(DA)と前記植物体またはその加工物の乾燥速度(DB)との比率(DA/DB)が0.5~1.0であることを特徴とする〔1〕に記載の昇温抑制用組成物。
〔3〕 前記無機多孔質体の吸水率が45~70%であり、前記植物体またはその加工物の吸水率が65~85%であることを特徴とする〔1〕〔2〕に記載の昇温抑制用組成物。
〔4〕 前記無機多孔質体の含有量(CA)と前記植物体またはその加工物の含有量(CB)との比率(CA/CB)が0.15~50であることを特徴とする〔1〕~〔3〕に記載の昇温抑制用組成物。
〔5〕 前記植物体またはその加工物の含有量(CB)が2.5~42質量%であることを特徴とする〔1〕~〔4〕に記載の昇温抑制用組成物。
〔6〕 前記無機多孔質体が珪藻土であることを特徴とする〔1〕~〔5〕に記載の昇温抑制用組成物。
〔7〕 前記植物体またはその加工物が茶殻であることを特徴とする〔1〕~〔6〕に記載の昇温抑制用組成物。
〔8〕 バインダーを含有することを特徴とする〔1〕~〔7〕に記載の昇温抑制用組成物。
〔9〕 〔8〕に記載の昇温抑制用組成物をシート状に成型した昇温抑制用シート。
〔10〕 〔1〕~〔8〕に記載の昇温抑制用組成物が外装に塗布された構造体。
〔11〕 〔9〕に記載の昇温抑制用シートが外装に貼付された構造体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の昇温抑制用組成物によれば、強い光が長時間照射される等により構造体の表面温度が上昇し続ける場合であっても、構造体の昇温を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】人工気象機を用いて昇温抑制用作用を試験した結果を表すグラフである。
【
図2】人工気象機を用いて昇温抑制用作用を試験した結果(散水あり)を表すグラフである。
【
図3】白熱電球を用いて昇温抑制用作用を試験した結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔昇温抑制用組成物〕
本発明の一実施形態に係る昇温抑制用組成物は、無機多孔質体と、植物体またはその加工物とを含有するものである。
【0013】
本実施形態に係る昇温抑制用組成物は、無機多孔質体と、植物体またはその加工物(以下「植物体等」と称することがある)との双方が備える吸放湿性、すなわち大気中に含まれる水や組成物表面に接した水を吸湿または吸水し、日射等により組成物温度が上昇するにつれ、無機多孔質体や植物体等が保持する水を蒸発させ、その蒸発潜熱により、昇温抑制用組成物の積層対象とされた構造体を冷却するものである。
ここで、無機多孔質体は、吸湿材として優れた吸放湿特性を有するものではあるが、吸湿した水分が短時間で蒸発してしまうものでもあるため、これを単独で昇温抑制用組成物に用いたときに、例えば強い光が長時間照射される等により構造体の表面温度が上昇し続ける場合にはその昇温を十分に抑制することが出来なかった。これに対し、本実施形態においては、植物体またはその加工物が、無機多孔質体よりも多くの水分を保持し、かつ吸湿した水分を緩やかに放湿することから、これを無機多孔質体と併用することで、無機多孔質体での効率的な蒸発に基づく蒸発潜熱により構造体が冷却(昇温抑制)されるとともに、植物体またはその加工物が保持した水が無機多孔質体に供給されることで昇温抑制効果が持続され、構造体の昇温を長時間にわたり効果的に抑制することができるものと考えられる。ただし、本実施形態の作用はこれに限定されるものではない。
【0014】
(無機多孔質体)
本実施形態で用いる無機多孔質体は、水蒸気の吸放湿を行うことができる材料であれば特に限定されないが、例えば、珪藻土、ゼオライト、多孔質シリカ、アルミナ-シリカキセロゲル多孔質体、シリカゲル、活性アルミナ、多孔質ガラス、アパタイト、セピオライト、アロフェン、イモゴライト、活性白土、活性炭をはじめとする炭化物などの多種の材料が選択でき、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、珪藻土、ゼオライトが好ましく、特に珪藻土が好ましい。珪藻土を用いると、速やかに大気中の水や組成物に接触する雨や朝露を吸湿または吸水できるだけでなく、日射等で組成物や構造体の表面温度が上昇すると珪藻土内に保持された水を速やかに気化し、蒸発潜熱で構造体を冷却することができる。また、吸水による膨潤が少ないため組成物の劣化を防止することが出来る。
【0015】
また、本実施形態においては、上記無機多孔質体として、茶やコーヒー等の植物体抽出液をろ過するのに使用した無機多孔質体を用いることも好ましい。このような無機多孔質体には、茶殻やコーヒー滓等の植物体抽出残渣が濾滓として付着しているが、かかる植物体抽出残渣が後述する植物体の加工物と同様の作用を発揮するため、より優れた昇温抑制効果を発揮することがある。
【0016】
上記無機多孔質体の吸水率は、45~70質量%であることが好ましく、中でも50~70質量%が好ましく、特に55~68質量%であることが好ましい。45質量%以上であることで、無機多孔質体が水を十分に保持することができ、その水が蒸発したときの蒸発潜熱により構造体の昇温を効果的に抑制することができる。一方、70質量%以下であることで、後述する植物体等から水の供給を受けることができ、これにより高い蒸発効率を長時間維持することができる。かかる吸水率は、無機多孔質体の材料、粒径、比表面積などを調整することにより制御することができる。なお、本明細書において、無機多孔質体の吸水率(および後述する植物体等の吸水率)は、被験試料を十分量の水と混合し吸水させた後に水分計を用いて測定した水分率であり、測定方法の詳細は後述する実施例のとおりである。
【0017】
上記無機多孔質体の乾燥速度(DA)は、5~17分であることが好ましく、特に10~16分であることが好ましい。乾燥速度(DA)が17分以下であることで、無機多孔質体が保持する水が構造体の昇温により遅延なく蒸発され、その蒸発潜熱により構造体の昇温を効果的に抑制することができる。一方、乾燥速度(DA)が5分以上であると、無機多孔質体が一定時間水を保持し続けるため、水の蒸発も一定時間持続し、結果として構造体の昇温抑制効果に優れたものとなる。乾燥速度(DA)は、無機多孔質体の材料、粒径、比表面積などを調整することにより制御することができる。なお、本明細書において、無機多孔質体の乾燥速度(および後述する植物体等の乾燥速度)は、十分に水を含んだサンプル2.0gを赤外線水分計を用いて70℃で乾燥させ、測定サンプルからの水の蒸発量が0.20%/min以下になった時点までの所要時間を表し、測定方法の詳細は後述する実施例のとおりである。
【0018】
上記無機多孔質体の平均粒径は、5~150μmであることが好ましく、中でも5~100μmであることが好ましく、特に10~50μmであることが好ましく、とりわけ10~20μmであることが好ましい。無機多孔質体の平均粒径を上記範囲に調整することで、無機多孔質体の吸水率や乾燥速度(DA)を前述した好ましい範囲に収めることが容易となる。また、平均粒径が上記範囲にあると、長期間屋外で用いられた場合であっても雨等による無機多孔質体の流亡を抑えることやひび割れ等による損傷を防止することが容易になる。なお、本明細書において、無機多孔質体の平均粒径(および後述する植物体等の平均粒径)は、レーザー回析法により測定した値である。
【0019】
上記無機多孔質体の比表面積は、0.5~10m2/gであることが好ましく、中でも0.7~7m2/gであることが好ましく、特に1~4m2/gであることが好ましい。比表面積がかかる範囲にある無機多孔質体は、優れた吸湿特性を示すため、好ましい。なお、ここでいう無機多孔質体の比表面積は、BET法で測定した値である。
【0020】
本実施形態に係る昇温抑制用組成物において、上記無機多孔質体の含有量(CA)は、10~65質量%であることが好ましく、中でも12~50質量%であることが好ましく、特に14~47質量%であることが好ましい。ここで、本実施形態に係る昇温抑制用組成物を、自動販売機などの構造体に用いる場合、かかる屋外の構造体は雨などに晒されることも多いので、日射による昇温抑制に係る吸湿剤の吸放湿性を担保する他に、耐候性を高めることが望ましい。無機多孔質体の含有量(CA)を上記範囲に調整することで、水を効果的に保持することができるほか、長期間屋外で用いられた場合であっても無機多孔質体の雨等による流亡を抑えることやひび割れ等による損傷を防止することが出来る。
【0021】
(植物体等)
本実施形態においては、植物体またはその加工物(植物体等)が、上記無機多孔質体と併用される。植物体の種類は特に限定されず、植物由来の幹、枝、茎、葉、種子、花または根などのいずれであってもよい。また、植物体の加工物としては、上記植物体を水等により抽出した抽出残渣、植物体を蒸解して得られる植物繊維の加工物などが挙げられる。上記植物体としては、茶、コーヒー、麦等の飲料原料;木粉、竹粉、籾殻粉砕品等の植物体粉砕物等が例示され、植物体の抽出残渣としては、茶殻(緑茶、烏龍茶、紅茶等)、コーヒー滓、麦茶滓等の飲料抽出残渣等が例示される。植物繊維の加工物としては、紙粉、ファイバーボード粉砕物等が例示される。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、茶、コーヒー等の飲料原料、茶殻、コーヒー滓等の飲料抽出残渣であると、高い吸水率を得ることができるため好ましく、特に茶殻またはコーヒー滓を用いると組成物が保持する水を効率的に増やすことができるため特に好ましい。
【0022】
上記植物体等の吸水率は、65~85質量%であることが好ましく、中でも68~80質量%が好ましく、特に70~75質量%であることが好ましい。65質量%以上であることで、多量の水を組成物内に保持することができ、長時間の昇温抑制効果を得ることができる。一方、85質量%以下であることで、植物体等が吸水しても過度に膨潤せず組成物内での植物体の変形が抑制され、かつ組成物から植物体等の流亡が抑制されるため、耐久性(耐候性)に優れるものとなり好ましい。かかる吸水率は、植物体等の材料、粒径、繊維量、空隙率などを調整することにより制御することができる。
【0023】
上記植物体等の乾燥速度(DB)は、前述した無機多孔質体の乾燥速度(DA)の値以上であることが好ましく、具体的には15~30分であることが好ましく、中でも16~25分であることが好ましく、特に17~22分であることが好ましい。植物体等の乾燥速度(DB)を上記範囲に調整することで、保持する水を無機多孔質体よりもゆっくりと放出するため、長時間にわたって構造体の昇温を抑制することができる。特に乾燥速度(DB)を17分以上に調整した場合、乾燥が進む上記無機多孔質体に植物体等から水を供給することが出来るため、高い蒸発効率を長時間維持することが出来る。乾燥速度(DB)は、植物体等の材料、粒径、繊維量、形状などを調整することにより制御することができる。
【0024】
上記植物体等の平均粒径は、1~500μmであることが好ましく、中でも3~200μmであることが好ましく、特に5~100μmであることが好ましい。植物体等の平均粒径を上記範囲に調整することで、植物体等の吸水率や乾燥速度(DB)を前述した好ましい範囲に収めることが容易となる。また、平均粒径が500μm以下であると、昇温抑制用組成物から成形される昇温抑制用シート等において表面を滑らかにすることができ、また長期間屋外で用いられた場合であっても雨等による植物体等やこれに含まれる成分の流亡を抑えることができる。
【0025】
本実施形態に係る昇温抑制用組成物において、上記植物体等の含有量(CB)は、2.5~42質量%であることが好ましく、中でも5~40%質量%であることが好ましく、特に10~37質量%であることが好ましい。植物体等の含有量(CB)を上記範囲に調整することで、多くの水を保持し長時間にわたって昇温抑制効果を奏することができるほか、長期間屋外で用いられた場合であっても、膨潤等に起因したひび割れ等による損傷を防止することができ、また植物体等やこれに含まれる成分、さらには無機多孔質体などが雨等により流亡してしまうのを抑えることができる。
【0026】
(無機多孔質体と植物体等との関係)
本実施形態において、上記無機多孔質体の乾燥速度(DA)と上記植物体等の乾燥速度(DB)との比率(DA/DB)は、0.5~1.0であることが好ましく、中でも0.55~0.95であることが好ましく、特に0.6~0.9であることが好ましい。乾燥速度の比率(DA/DB)を上記範囲に調整することで、植物体等は保持する水を無機多孔質体よりもゆっくりと放出するため、長時間にわたって構造体の昇温を抑制することができ、さらに、乾燥が進む上記無機多孔質体に植物体等から水を供給することが出来るため、高い蒸発効率を長時間維持することが出来る。
【0027】
本実施形態において、上記無機多孔質体の含有量(CA)と上記植物体等の含有量(CB)との比率(CA/CB)は、0.15~50であることが好ましく、中でも0.2~20であることが好ましく、特に0.3~10であることが好ましい。CA/CBを上記範囲に調整することで、無機多孔質体からの効率的な水分蒸発による昇温抑制作用と、植物体等の水分保持および無機多孔質体への水分供給による昇温抑制の維持作用とが相乗的に作用し、構造体に対する昇温抑制効果がより優れたものとなる。
【0028】
(バインダー)
本実施形態に係る昇温抑制用組成物は、上記無機多孔質体および植物体等に加えて、さらにバインダーを含有することが好ましい。バインダーを含有することで、本実施形態の組成物をシート状等の任意の形状に加工することが容易になるとともに、上記無機多孔質体および植物体等の流亡を抑制し、本実施形態に係る組成物の耐候性をより優れたものとすることができる。
【0029】
本実施形態にて用いることのできるバインダーの種類は特に制限されず、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン酢ビ系樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ゴム系樹脂;アクリル系樹脂;ビニルアルキルエーテル系樹脂;シリコーン系樹脂;ポリエステル系樹脂;ポリアミド系樹脂;ウレタン系樹脂;フッ素系樹脂;スチレン-ブタジエンブロック共重合体などが挙げられ、これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、耐水性、耐久性、耐候性など観点から、エチレン酢ビ系樹脂をはじめとするポリオレフィン系樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、エチレン酢ビ系樹脂が特に好ましい。
【0030】
バインダーとして用いられる樹脂の形態は、特に限定されず、溶液型でもエマルション型でもよいが、水との親和性を有し無機多孔質体および植物体等による吸湿性を効果的に発現させる観点から、水溶液型またはエマルション型であることが好ましい。エマルション型である場合は、最低造膜温度が10℃以下であることが好ましく、特に最低造膜温度が0℃以下であることが好ましい。
【0031】
本実施形態に係る昇温抑制用組成物において、上記バインダーの含有量は、20~80質量%であることが好ましく、中でも25~70質量%であることが好ましく、特に30~65質量%であることが好ましい。植物体等の含有量を上記範囲に調整することで、上記無機多孔質体および植物体等による吸湿性を担保しながら、これらの流亡を抑制することができ、耐候性にさらに優れた組成物とすることができる。
【0032】
(その他の成分)
本実施形態に係る昇温抑制用組成物においては、上記の無機多孔質体、植物体等およびバインダーに加えて、分散剤、顔料、難燃剤、可塑剤、抗菌剤、防腐剤、増粘剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
【0033】
(昇温抑制用組成物の製造方法)
本実施形態に係る昇温抑制用組成物は、上述した無機多孔質体、植物体等、および所望によりバインダーその他の成分を混合することで製造することができる。なお、混合の方法は特に限定されず従来公知の方法を採用することができ、例えば、水等の溶媒に上記成分を添加し、混合・懸濁する方法が挙げられる。また、後述するように昇温抑制用組成物をシート状に成型する場合は、シート状の基材等を別途用意し、上記水等に懸濁した組成物を塗工液として、基材等の一の面上に、ナイフコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーター、スリットコーター等によりその塗工液を塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥させることにより、基材等との積層体の一部として昇温抑制用シートを得ることができる。
【0034】
(昇温抑制用組成物の使用方法)
本実施形態に係る昇温抑制用組成物は、構造体の外層に塗装して積層することができ、例えばパテあるいはスプレーなどにより塗布することが出来る。また、本実施形態の昇温抑制用組成物は、シート状に成型することができ、当該シート状に成型した昇温抑制用シートを構造体の外層に貼り付けることにより、容易に構造体に積層することが出来る。
【0035】
ここで、上記組成物をシート状に成型し昇温抑制用シートとする場合、かかる昇温抑制用シートの厚みは特に制限されないが、例えば30~1500μmであることが好ましく、中でも100~800μmであることが好ましく、特に150~500μmであることが好ましい。
【0036】
(構造体)
本実施形態の構造体は、上記実施形態に係る昇温抑制用組成物を外装に塗布し、または上述した昇温抑制用シートを貼付した構造体である。かかる構造体としては、例えば、自動販売機、エアコンの室外機、トラックの荷台、ビルの壁やアスファルト、コンクリート、屋根などの各種の機械、建築物等が挙げられる。
【0037】
以上述べた実施形態に係る昇温抑制用組成物によれば、強い光の照射等により構造体の表面温度が急に高まった場合であっても、構造体の昇温を効果的に抑制することができる。
【0038】
(語句の説明)
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【0039】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例等に何ら限定されるものではない。
【0041】
<試験例1>無機多孔質体・植物体等の吸水率・乾燥速度の測定
表1に示す無機多孔質体および植物体等について、吸水率および乾燥速度を測定した。吸水率は、測定サンプル1gと水15gとを混合しよく撹拌し、30分間放置したのち、吸引濾過機を用いて余分な水分を除去し、得られたサンプルについて、赤外線水分計(ケット科学研究所社製,製品名:FD-620)を用いて測定した。測定時は105℃で加熱を行い、水の蒸発量が0.20%/min以下になった時点で測定終了とした。
また、乾燥速度は、測定サンプル1.5gと水0.9gを混合し得られたサンプル2.4gのうち2.0gを上記赤外線水分計に投入し、70℃で加熱を行い、投入から水の蒸発量が0.20%/min以下になった時点で測定終了までの所要時間を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
なお、ここで用いた無機多孔質体は以下のとおりである。
珪藻土1:中央シリカ社製,平均粒径7.6μm,比表面積5.0m2/g
珪藻土2:中央シリカ社製,平均粒径59.4μm,比表面積1.0m2/g
珪藻土3:中央シリカ社製,平均粒径14.7μm,比表面積2.5m2/g
珪藻土4:中央シリカ社製,平均粒径17.8μm,比表面積1.5m2/g
珪藻土5:珪藻土1を緑茶飲料のろ過に使用した後に乾燥したもの,茶殻17質量%含有
ゼオライト:日東粉化工業社製,平均粒径1.25μm,比表面積2.3m2/g
活性炭:大阪ガスケミカル社製,粒径106μm以下に篩い分け
【0043】
また、ここで用いた植物体等は以下のとおりである。
茶殻1:国産ヤブキタ種茶葉の抽出残渣,粒径106μm以下に篩い分け
茶殻2:国産ヤブキタ種茶葉の抽出残渣,粒径150μm以下に篩い分け
緑茶:国産ヤブキタ種
コーヒー豆:ブラジル産アラビカ種
【0044】
【0045】
〔製造例1〕試験区1の昇温抑制用シートの製造
無機多孔質体と、植物体等と、バインダーとしてのエチレン酢ビ系樹脂(クラレ社製,製品名:パンフレックス、製品番号:OM-4200NT(最低造膜温度0℃以下))とを、表2に示す含有量(固形分換算,以下同様)となるように撹拌機(浅田鉄工社製,製品名「デスパ」)にて混合し、得られた組成物をダイコーター(古川製作所社製,製品名「コーティングマシン」)にて、裏打紙からなる基材上にコーティングし、138℃でスピード17m/minで50~55秒乾燥させてシート状に成型し昇温抑制用シートを得た。得られた昇温抑制用シートは、マイクロメーターを用いて厚みを計測したところ400μmであった。
【0046】
〔製造例2〕試験区2~11の昇温抑制用シートの製造
無機多孔質体および植物体等の含有量を表2に示すように変更する以外は、試験区1と同様にして昇温抑制用シートを製造した。
【0047】
【0048】
<試験例2>昇温抑制用組成物の吸水率・乾燥速度の測定
上記製造例で得られた試験区1~11の昇温抑制用シートを、一辺2.5cmの正方形に形成し、16時間吸水させた。かかるサンプルについて、吸水前質量、吸水後質量を測定し、下記式により吸水率を算出した。
【0049】
吸水率(質量%)=(吸水後質量-吸水前質量)/吸水前質量×100
【0050】
また、以下のようにして乾燥速度を算出した。すなわち、上記試験により16時間吸水させたサンプルについて、赤外線水分計(ケット科学研究所社製,製品名:FD-620)に投入して70℃で加熱を行い、投入から水の蒸発量が0.20%/min以下になった時点で測定終了までの所要時間を測定した。
結果を表3に示す。
【0051】
<試験例3>昇温抑制用シートの昇温抑制作用
上記製造例で得られた試験区1~11の昇温抑制用シートについて、以下のようにして昇温抑制作用を試験した。20℃の恒温室内に試験装置を設置し、「鉄板」(150mm×70mm)並びに「鉄板の裏面にシートを貼り付けたサンプル」(150mm×70mm)に、表面(鉄板面)から白熱電球(100V,60W)を照射し、経過時間後の「各鉄板」の裏面(シート面)の温度上昇を熱電対にて測定した。
結果を表3に示す。
【0052】
【0053】
表3に示すように、無機多孔質体としての珪藻土1のみを配合した試験区1と比べて、植物体等としての茶殻1を合わせて配合した試験区2~9においては、吸水率が増加するとともに、それ以上に乾燥速度(乾燥終了時間)が大幅に延長されており、シートサンプルの表面温度の上昇も抑制されていた。
特に、試験区2~8について、茶殻1の量が増えるにつれてシートの色が白色から、黒に近い色へと変化していく傾向にあったが、黒色は表面温度が高くなりやすいにもかかわらず、表面温度の上昇を抑えることができた。
さらに、無機多孔質体としてゼオライトを用いた試験区10~11においても、珪藻土1と同様の昇温抑制作用が確認された。
【0054】
〔製造例3〕試験区12~20の昇温抑制用シートの製造
無機多孔質体、植物体等の種類および含有量を表4に示すように変更する以外は、試験区1と同様にして昇温抑制用シートを製造した。
【0055】
【0056】
得られた昇温抑制用シートについて、試験例2と同様にして吸水率および乾燥速度を測定した。結果を表5に示す。
【0057】
【0058】
表5に示すように、本発明の要件を満たす試験区12~18では、乾燥速度が延長され昇温抑制効果が確認された。また、珪藻土3及び珪藻土4を用いた試験区13、14、16、18はより昇温抑制効果が認められ、平均粒子径が10~20μmの珪藻土を用いることで好ましい結果が得られることが分かった。また、植物体等に替えて、無機多孔質体である活性炭を用いた試験区19、20は、乾燥速度が速いため十分な昇温抑制効果を得られなかった。このことより植物体等は高い吸水率だけでなく、併用する無機多孔質体よりも長い乾燥速度を有することが、昇温抑制効果の発揮に重要であると考えられる。
【0059】
〔製造例4〕試験区21~26の昇温抑制用シートの製造
無機多孔質体、および植物体等の種類および含有量ならびにバインダーの含有量を表6に示すように変更する以外は、試験区1と同様にして昇温抑制用シートを製造した。
【0060】
【0061】
得られた昇温抑制用シートについて、試験例2と同様にして吸水率および乾燥速度を測定した。結果を表7に示す。
【0062】
【0063】
表7に示すように、茶殻を17質量%含有する珪藻土5を用いた試験区24~26は、珪藻土1を用いた試験区21~23に比べて乾燥速度の延長効果により優れていることが示された。
また、バインダーの含有量を変更することにより、吸水率および乾燥速度を種々に調整できることが確認された。
【0064】
〔製造例5〕昇温抑制用シートの製造
表8に示す成分を、製造例1と同様の方法により、撹拌機(浅田鉄工社製,製品名「デスパ」)にて混合し、得られた組成物をダイコーター(古川製作所社製,製品名「コーティングマシン」)にてシート状に成型して、厚み400μmの昇温抑制用シートを得た。
【0065】
【0066】
<試験例4>人工気象機を用いた昇温抑制作用試験
製造例5で得られた昇温抑制用シートを、赤、青、茶、クリーム、緑の各色にそれぞれ着色し、溶融亜鉛めっき鋼板(150mm×70mm×1mm)に貼付し、それぞれ実施例サンプルとした。
また、比較例として、上記シートと同じ色に着色された溶融亜鉛めっき鋼板(150mm×70mm×1mm)を用意した。
【0067】
上記実施例および比較例の鋼板サンプルの塗装面(実施例:鋼板に貼付されたシートの塗装面,比較例:鋼板の塗装面)の中心部に熱電対を貼付した。
人工気象機(スガ試験機社製,製品名「スーパーキセノンウェザーメーター」)に、熱電対が光源側になるように上記鋼板サンプルを設置した。光源に7.5kWキセノンランプを用いて放射照度120W/m
2の光を70分間照射し、表面温度を測定した(
図1)。なお、120W/m
2で70分間照射したときの露光量は、夏至における日の出~日の入りの平均日照時間14.5時間での太陽光による露光量に相当する。
また、降雨を想定した試験として、純水を鋼板サンプルに満遍なく吹きかけた後、照射照度120W/m
2の光を一定時間照射し表面温度を測定した(
図2)。
サンプルの温度は、サンプルの光源側の中心部に熱電対を貼付し、熱電対が光源から照射される熱で温度が上昇しないようにカバーを付して設置した。
結果を
図1および
図2に示す。
【0068】
図1に示すように、放射照度が120W/m
2の光を照射した際、「シート貼付鋼板」は「塗装鋼板」と比べて、全ての色で光照射時の温度上昇が抑えられた。また、降雨を想定して「鋼板サンプル」に散水し、放射照度が120W/m
2の光を照射した場合も、
図2に示すように「シート貼付鋼板」は「塗装鋼板」と比べて、全ての色で光照射時の温度上昇が抑えられた。
【0069】
<試験例5>白熱電球を用いた昇温抑制作用試験
製造例5で得られた昇温抑制用シートを、白色に着色し、自動販売機に用いられる鉄板(150mm×70mm×1mm)に貼付して実施例サンプルとした。また、比較例として、上記シートを貼付しない鉄板(150mm×70mm×1mm,白色に着色塗装済み)を用意した。
【0070】
37℃の恒温室内に、実施例および比較例の鉄板を設置し、鉄板から10cm離して白熱電球(100V,60W)を設置した。白熱電球より光照射し、経過時間ごとの各鉄板の温度上昇を熱電対にて測定した。
また、各鉄板の打ち水効果を検討するため、試験開始20分後に、霧吹きを用いて水20mLを加え、さらに20分間の温度上昇も測定した。
結果を
図3に示す。
【0071】
図3に示されるとおり、本発明の昇温抑制用シートを貼付した実施例の鉄板は、比較例の鉄板に比べて、表面温度が低くなることが確認された。さらに、霧吹きによる加水試験により、実施例の鉄板は比較例の鉄板に比べて打ち水効果があることも確認された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、特に、自動販売機等の屋外の構造体の昇温抑制用シートとして好適であり、例えば都市部のヒートアイランド現象を抑制できることが期待される。