(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】土壌改良用のVOC分解促進剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/00 20060101AFI20220331BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20220331BHJP
B09C 1/10 20060101ALI20220331BHJP
C09K 17/14 20060101ALI20220331BHJP
A23L 19/00 20160101ALN20220331BHJP
【FI】
C09K3/00 S ZAB
C02F11/00 C
B09C1/10
C09K17/14 H
A23L19/00 Z
(21)【出願番号】P 2017028398
(22)【出願日】2017-02-17
【審査請求日】2019-11-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512220444
【氏名又は名称】シナプテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】590002482
【氏名又は名称】株式会社NIPPO
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 達昭
(72)【発明者】
【氏名】井上 潤一
(72)【発明者】
【氏名】関野 英男
(72)【発明者】
【氏名】大橋 貴志
(72)【発明者】
【氏名】三橋 秀一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 季之
(72)【発明者】
【氏名】山口 和昭
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-087980(JP,A)
【文献】特開2002-153257(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157556(WO,A1)
【文献】特開2002-143338(JP,A)
【文献】特表2009-530014(JP,A)
【文献】特開2006-320305(JP,A)
【文献】特開平10-212221(JP,A)
【文献】特開2001-252641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
C02F 11/00
B09C 1/00
C09K 17/00
A23L 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化物イオンの濃度が0.1モル毎リットル以上である水溶液を準備する工程と、
ブドウ残渣を含む、前記水溶液1リットルに対して400グラム以下の割合の食物残渣
を準備する工程と、
前記水溶液に前記食物残渣を浸漬して浸漬液を得る工程と、
前記浸漬液のpHを7以下に調整する工程と、
を有する、土壌改良用のVOC分解促進剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VOC分解促進剤、土壌改良方法、及びVOC分解促進剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品加工の工程では原料となる食材から廃棄物が生じることがある。例えば、ワインの製造工程では搾りかすが発生する。こういった食材由来の廃棄物は、産業廃棄物として取り扱わなければならないため、生産業者の負担となり、社会的にも問題となっている。特許文献1には、ワインの搾りかすを別の食品の原料として再利用する方法が記載されている。
【0003】
一方、テトラクロロエチレン等の揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)は人体への有害性が明らかとなり、現在では製造が禁止され使用が制限されている。しかし、過去にVOCを使用していた工場等ではVOCを原因とする土壌や地下水の汚染が顕在化している。
【0004】
VOCは比重が大きく、一旦漏洩すると地下深くまで浸透する。また、地下水とともに移動し、汚染源から1000メートル程度離れた地点まで到達する場合もある。さらに、VOCは難水溶性かつ難分解性であるため、数十年といった長期間にわたり地中に残留するといった特徴がある。
【0005】
VOCの一般的な浄化方法には、揚水ばっ気処理、化学分解処理(鉄粉法、化学酸化法)、微生物による分解処理(バイオレメディエーション)等がある。なかでもバイオレメディエーションは、低コストで環境負荷も低いことから多数の実績がある浄化方法の一つである。ただし、バイオレメディエーションは高濃度汚染の浄化や短期間の浄化に不向きであり、汚染が低濃度であって浄化期間に余裕がある場合に用いられる。
【0006】
土壌中の微生物による塩素系VOCの分解は、微生物がVOC内の塩素を水素に置換する脱塩素反応によるものである。したがって、この反応を進行・促進するためには、土壌中の微生物に水素を供給する必要がある。この水素を供給する物質を水素供与体と呼ぶ。例えば、易分解性の有機物は、水素供与体に成り得る。
【0007】
ただし、水素供与体として易分解性の有機物等を土壌に注入すると、水素が急激に大量発生してメタン発酵反応が進行し、上述した脱塩素反応を阻害する場合がある。したがって、バイオレメディエーションに用いる水素供与体は、単位重量あたりの水素供給量が多く、かつ、水素の供給速度が適切であることと、環境負荷が低いこと等の条件を満たすことが要求される。特許文献2には、柑橘から得られる抽出物を利用したVOC分解促進剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-183734号公報
【文献】国際公開第2013/157556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一説によるとワインの搾りかす等のブドウ残渣は山梨県だけで年間3000t発生すると言われており、その処理は大きな社会的課題となっている。一方で近年の環境意識の高まりから、土壌改良の需要も高まっている。本発明の目的の1つは、ブドウ残渣の有効な活用方法を開発するとともに、環境負荷の少ない土壌改良技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明は、水酸化物イオンの濃度が0.1モル毎リットル以上である水溶液に、ブドウ残渣を含む、前記水溶液1リットルに対して400グラム以下の割合の食物残渣を浸漬して得られた浸漬液のpHを7以下に調整した、土壌改良用のVOC分解促進剤を提供する。
【0011】
上述した態様において、前記ブドウ残渣は、ブドウの果実、果皮、及び種子の少なくとも1種であってもよい。
【0012】
上述した態様において、前記ブドウ残渣は、ワインの搾りかすであってもよい。
上述した態様において、前記ワインの搾りかすは、赤ワインの搾りかすであってもよい。
上述した態様において、前記ワインの搾りかすは、白ワインの搾りかすであってもよい。
【0013】
また本発明は、上述のVOC分解促進剤を土壌に供給する工程を有する土壌改良方法を提供する。
【0014】
上述した態様において、前記分解促進剤は液状であり、前記分解促進剤を土壌に供給した後で、pH調整剤を土壌に供給する工程を有していてもよい。
【0015】
また本発明は、水酸化物イオンの濃度が0.1モル毎リットル以上である水溶液を準備する工程と、ブドウ残渣を含む、前記水溶液1リットルに対して400グラム以下の割合の食物残渣を準備する工程と、前記水溶液に前記食物残渣を浸漬して浸漬液を得る工程と、前記浸漬液のpHを7以下に調整する工程と、を有する、土壌改良用のVOC分解促進剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ブドウ残渣を有効利用するとともに、環境負荷の少ない土壌改良技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る分解促進剤の作成の工程を示すフロー図。
【
図4】試験AにおけるVOC濃度の測定結果を示す図。
【
図5】試験BにおけるVOC濃度の測定結果を示す図。
【
図6】試験CにおけるVOC濃度の測定結果を示す図。
【
図7】比較試験におけるVOC濃度の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(1)分解促進剤の製造工程
本発明に係る分解促進剤は、VOCを分解する微生物を活性化することによって汚染された土壌や地下水を浄化するためのものである。本発明に係るVOC分解促進剤は、ブドウ由来溶解液、又はブドウ残渣を含む。ブドウ由来溶解液とは、ブドウ由来の物質、例えばブドウ残渣を所定の溶液に浸漬して、このブドウ残渣から所定の成分を抽出した液体、及びこのブドウ残渣を溶解して得られた液体、の少なくとも一方をいう。ブドウ残渣とは、ブドウの加工品を製造する工程において、ブドウをろ過又は溶解する際に残る不溶物をいう。ブドウ残渣の溶解液、又はブドウ残渣には、有機酸や糖類等の種々の有機物が含まれている。
【0020】
例えばブドウ類の果肉、果実、果皮、及び種子には、有機酸としてクエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸が、糖類としてショ糖、ブドウ糖、果糖が含まれる。つまり、ブドウ類の果皮や果肉は、1つの原料の中に多種類の有機物を含有する水素供与体であり、さらには窒素やリンといった微生物の増殖に必須の成分も含有されるため、バイオレメディエーションのための配合調整が簡便であるといった特徴を有する。
【0021】
図1は、本発明に係るVOC分解促進剤の製造工程を示すフロー図である。この例において、ブドウ残渣としてワインの搾りかすが用いられる。ワインの搾りかすは、ワインの原料に用いられるブドウを搾った後の固形物であり、ブドウの果肉、果実、果皮、及び種子の少なくとも1種を含むものである。本発明に係るVOCの分解促進剤には、固形のもの(以下「粉末状分解促進剤」という)及び液状のもの(以下「液体状分解促進剤」という)が含まれる。
図1においてはこれら両方の製造工程を合わせて図示する。
【0022】
図1(a)に粉末状分解促進剤の製造工程を示す。
図1(a)に示す通り、ワインの搾りかすは、乾燥室等に保管されることで乾燥させられる(ステップS101)。例えば風乾又は乾燥機の場合は1日から3日程度、凍結乾燥の場合は6時間から12時間程度乾燥した後、ワインの搾りかすはミルによって粉砕される(ステップS102)。なお、粉砕後の試料は篩等によって分級されてもよい(ステップS103)。篩を通過しなかった試料は再度、粉砕させられてもよい。これらの工程を経てワインの搾りかすから、粉末状の分解促進剤が得られる。
【0023】
図1(b)に液体状分解促進剤の製造工程を示す。
図1(b)に示すとおり、液体状分解促進剤を得るには、まず、アルカリ溶液を準備する(ステップS104)。このアルカリ溶液に、ワインの搾りかすを浸漬する(ステップS105)。例えば、ワインの搾りかすをアルカリ溶液に1ヶ月間浸漬すると、固形物が一部又は全部溶解し、液体状となる。こうして液体状分解促進剤が得られる。ワインの搾りかすをアルカリ溶液に浸漬する期間は1ヵ月間以上であることが望ましいが、例えば1時間以上であればよい。なお、こうして得られる液体状分解促進剤はアルカリ性であるので、液体状分解促進剤の腐敗を防ぐ観点から、液体状分解促進剤のpHを酸性側に調整する(ステップS106)。
【0024】
上述したワインの搾りかすを浸漬させるアルカリ溶液は、水酸化物イオンの濃度が0.1モル毎リットル以上である水溶液であることが望ましい。そして、このアルカリ溶液1リットルに対して浸漬させるワインの搾りかすは400グラム以下であることが望ましい。
【0025】
なお、アルカリ溶液に対して浸漬させる固体は、食物の残渣(食物残渣)であれば、上述したワインの搾りかすに限られない。この浸漬させる固体は、例えば、ブドウ以外の果物や穀物等の非可食部であってもよいし、サトウキビやテンサイ等、製糖作物の残渣であってもよい。
【0026】
また、本発明に係るVOC分解促進剤を製造する際に、乾燥・粉砕・分級等の前処理を経た後の食物残渣を浸漬してもよく、例えば、
図1(a)で示す工程で得られた粉末状分解促進剤をアルカリ溶液に浸漬させてもよい。
【0027】
すなわち、本発明に係るVOC分解促進剤の製造方法は、水酸化物イオンの濃度が0.1モル毎リットル以上である水溶液を準備する工程と、この水溶液1リットルに対して400グラム以下の割合の食物残渣を準備する工程と、この水溶液にこの食物残渣を浸漬して浸漬液を得る工程と、を有する。
【0028】
また、液体状分解促進剤のpHは、7以下に調整することが望ましい。
【0029】
ブドウ由来溶解液、又はブドウ残渣の有機物は、多糖類、脂質、タンパク質等を含んでおり、金属化合物等の様々な形態をなしている。そのため、このブドウ由来の有機物は、土壌中に注入されると、他の有機物に比べてゆっくりと土壌中の微生物により分解され、その過程で水素を発生する。この水素は、土壌中の微生物によって、VOCの塩素を水素で置換する脱塩素反応に用いられ、その結果、VOCが無害化されることとなる。
【0030】
なお、アルカリ性を示すpH調整剤には、例えば炭酸水素ナトリウム(重曹)、水酸化ナトリウム等が挙げられる。また、酸性を示すpH調整剤には、例えばクエン酸、硫酸等が挙げられる。
【0031】
また、VOCの分解効率又は分解速度を向上させるために、ブドウ以外の果実、米ぬか、酒粕、酵母エキス、廃糖蜜等の栄養分、又は嫌気性微生物を、本発明に係る分解促進剤とともに浄化の対象となる土壌中に添加してもよい。
【0032】
本発明で使用する微生物としてはAnaeromyxobacter属、Desulfomonile属、Desulfovibrio属、Desulfuromonas属、Geobacter属、Sulfurospirillum属、Dehalospirillum属、Desulfitobacterium属、Dehalobacter属、Dehalococcoides属細菌が挙げられるが、Dehalococcoides属細菌の使用が好ましい。
【0033】
(2)浄化施設の構成
図2は、浄化対象エリアの一例を示す平面図である。
図2には、幅10メートル、奥行き10メートルの浄化対象エリア10に、分解促進剤を注入するための井戸2を9本設置した場合が示されている。実施工では、現場条件に応じて1メートルから10メートル程度の間隔で井戸2を設置する。なお、井戸2の数は9本に限られず、1本以上であればよい。
【0034】
図3は、上述した浄化対象エリアを示す概略図である。
図3に示す概略図における紙面下方向は重力の作用する方向であって土壌1の深部に向かう方向である。希釈水槽4は、上述した分解促進剤41を水40によって希釈する水槽である。水40によって希釈された分解促進剤41は、ポンプ3によって複数の井戸2に送られる。
【0035】
井戸2は、土壌1に埋設されている。土壌1は、表面から深部に向けて順に表層11、地下水層12、不透水層13という複数の層が重なって構成されている。それぞれの井戸2には、地下水層12に相当する部分に複数の孔が設けられており、これらの孔から地下水層12へ、水40によって希釈された分解促進剤41が注入される。
【0036】
例えば、希釈水槽4に分解促進剤41として酸性の液体状分解促進剤を注入して井戸2へ送った後、重曹(炭酸水素ナトリウム)等のアルカリ剤を注入すると、液体状分解促進剤とアルカリ剤とが中和反応することにより溶解していた有機物が析出する。具体的には、pHを6以上8以下の範囲に調整することで、分解促進剤に含まれる有機物が析出する。析出した有機物は、土壌の間隙に捕捉されて、その場に滞留するので、流亡し難い。
【0037】
分解促進剤が粉体状の場合、水に懸濁させてスラリーにし土壌中へ注入するのが一般的であるが、溶解していない分解促進剤が土壌間隙で詰まるため、広がりにくくその影響範囲は限られる。一方、液体状の場合は、広がりやすいものの地下水流速が高いとすぐに流亡し、汚染エリアでの効果が持続しないことがある。
【0038】
上述した分解促進剤41は液体状であるため、土壌中に拡散させることができる。また、分解促進剤41を注入してからアルカリ剤を注入するまでの時間差、及び、それぞれの注入速度を調整することにより、上述した有機物を析出させる範囲を制御することが可能である。
【0039】
また、別の手法として予め浄化対象エリア10の外縁部に分解促進剤を析出させるためのpH調整剤を注入する方法が挙げられる。浄化対象となる領域の外縁部にこのpH調整剤が注入されていると、その外縁部に液体状の分解促進剤が到達した時点で、分解促進剤とpH調整剤とが接触し、有機物が析出するため、外縁部よりも外へ分解促進剤が拡散することが抑制される。
【実施例】
【0040】
(1)粉末状分解促進剤の試験
赤ワインの製造工程で発生するワインの搾りかすを乾燥、粉砕し、粉末状分解促進剤にした。123ミリリットルのガラス製バイアル瓶にリン酸緩衝液を98.2ミリリットル、土壌懸濁液を5.5ミリリットル、上述した粉末状分解促進剤を1500ミリグラム、8%炭酸水素ナトリウム溶液を2.2ミリリットル入れ、テフロン(登録商標)ライナーブチルゴム栓及びアルミキャップにて密栓した。その後、窒素ボンベより注射針を通してビン内を窒素置換し、嫌気状態を創出した。最後に、マイクロシリンジにて、テトラクロロエチレン(以下、PCEともいう)の飽和溶液を2.6ミリリットル入れて、PCE濃度が約6.5ミリグラム毎リットルになるようにした。
【0041】
なお、試験は、投入する粉末状分解促進剤の濃度が土壌1毎立方メートルあたり4キログラムとなるように想定した試験Aを行った。
【0042】
試験Aにおいて、バイアル瓶中のテトラクロロエチレン等の濃度の変化を測定した。測定は、ガスクロマトグラフを用いたヘッドスペースGC-DELCD法にて行った。
【0043】
図4は、上述した試験AにおけるVOC濃度の測定結果を示す図である。試験Aにおいては、試料中の粉末状分解促進剤の濃度が土壌1毎立方メートルあたり4キログラムとなるように、粉末状分解促進剤の投入量を調整した。
【0044】
図4に示す通り、VOCの濃度は、PCEで試験開始時に6.5ミリグラム毎リットルであったが、24日が経過した時点で5.1ミリグラム毎リットル未満まで減少し、さらに88日が経過した時点で2.1ミリグラム毎リットル未満まで減少した。
【0045】
(2)液体状分解促進剤の試験
赤ワイン及び白ワインの製造工程で発生するワインの搾りかすをアルカリ溶液に浸漬、pH調整して、液体状分解促進剤にした。123ミリリットルのガラス製バイアル瓶にリン酸緩衝液を98.2ミリリットル、土壌懸濁液を5.5ミリリットル、上述した液体状分解促進剤を1.5ミリリットル、8%炭酸水素ナトリウム溶液を2.2ミリリットル入れ、テフロンライナーブチルゴム栓及びアルミキャップにて密栓した。その後、窒素ボンベより注射針を通してビン内を3分間、窒素置換し、嫌気状態を創出した。最後に、マイクロシリンジにて、PCEの飽和溶液を2.6ミリリットル入れて、PCE濃度が約6.5ミリグラム毎リットルになるようにした。
【0046】
この試験は、投入する液体状分解促進剤の濃度が土壌1毎立方メートルあたり4キログラムとなるように投入量を調整した。また、液体状分解促進剤のpH調整は、pH1になるように行った。原料となるワインの搾りかすに赤ワイン由来のものを用いた試験を試験Bとし、白ワイン由来のものを用いた試験を試験Cとする。
【0047】
試験B及び試験Cのそれぞれにおいて、バイアル瓶中のテトラクロロエチレン等の濃度の変化を測定した。測定は、ガスクロマトグラフを用いたヘッドスペースGC-DELCD法にて行った。
【0048】
図5は、上述した試験BにおけるVOC濃度の測定結果を示す図である。試験Bにおいては、試料中の液体状分解促進剤の濃度が土壌1毎立方メートルあたり4キログラムとなるように、液体状分解促進剤の投入量を調整した。
【0049】
図5に示す通り、VOCの濃度は、PCEで試験開始時に6.5ミリグラム毎リットルであったが、28日が経過した時点で1.1ミリグラム毎リットルまで減少し、さらに49日が経過した時点で0.01ミリグラム毎リットルまで減少した。
【0050】
図6は、上述した試験CにおけるVOC濃度の測定結果を示す図である。試験Cにおいては、試料中の液体状分解促進剤の濃度が土壌1毎立方メートルあたり4キログラムとなるように、液体状分解促進剤の投入量を調整した。
【0051】
図6に示す通り、VOCの濃度は、PCEで試験開始時に6.5ミリグラム毎リットルであったが、31日が経過した時点で3.0ミリグラム毎リットルまで減少し、さらに66日が経過した時点で0.36ミリグラム毎リットルまで減少した。
【0052】
(3)比較試験
比較例(対照区)として酵母抽出物系水素供与体を用いた試験を行った。
図7は、この比較試験におけるVOC濃度の測定結果を示す図である。
図7に示す比較試験では、123ミリリットルのガラス製バイアル瓶にリン酸緩衝液を98.2ミリリットル、土壌懸濁液を5.5ミリリットル、上述した酵母抽出物系水素供与体を1500ミリグラム入れ、テフロンライナーブチルゴム栓及びアルミキャップにて密栓した。その後、窒素ボンベより注射針を通してビン内を3分間、窒素置換し、嫌気状態を創出した。最後に、マイクロシリンジにて、テトラクロロエチレン(以下、PCEともいう)の飽和溶液を2.6ミリリットル入れて、PCE濃度が約6.5ミリグラム毎リットルになるようにした。
【0053】
比較試験において、バイアル瓶中のテトラクロロエチレン等の濃度の変化を測定した。測定は、バイアル瓶を40℃の恒温槽に30分間にわたり静置した後のヘッドスペースガスをガスクロマトグラフ(C-PID)で計測することにより行った。
【0054】
図7に示す通り、比較試験においてVOCの濃度は、PCEで試験開始時に6.5ミリグラム毎リットルであったが、15日が経過した時点でも3.6ミリグラム毎リットルまでしか到達していなかった。さらに34日が経過した時点でも3.3ミリグラム毎リットルを下回ることはなかった。そして、86日が経過した時点でようやく0.28ミリグラム毎リットルに到達した。
【0055】
以上の結果により、本発明に係る粉末状分解促進剤(試験A)及び液体状分解促進剤(試験B及び試験C)によれば、ブドウ残渣を原料として、従来(試験D)と同等程度のVOC分解促進効果が得られることが分かった。すなわち本発明によれば、ブドウ残渣の有効活用及び環境負荷の少ない土壌改良を両立することができる。
【符号の説明】
【0056】
1…土壌、10…浄化対象エリア、11…表層、12…地下水層、13…不透水層、2…井戸、3…ポンプ、4…希釈水槽、40…水、41…分解促進剤。