(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】内装用モケット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 27/00 20060101AFI20220331BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20220331BHJP
【FI】
D03D27/00 B
D03D15/283
(21)【出願番号】P 2018016794
(22)【出願日】2018-02-01
【審査請求日】2020-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】306012695
【氏名又は名称】株式会社龍村美術織物
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100153268
【氏名又は名称】吉原 朋重
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 忠
(72)【発明者】
【氏名】伊東 隼
(72)【発明者】
【氏名】吹田 壽男
(72)【発明者】
【氏名】龍村 育
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6285583(JP,B1)
【文献】特開2017-077764(JP,A)
【文献】特開平07-324250(JP,A)
【文献】実開昭61-206693(JP,U)
【文献】特開昭63-012754(JP,A)
【文献】特開2007-307142(JP,A)
【文献】特開2018-123460(JP,A)
【文献】特開2018-123461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
B60N2/00-2/90
D06B1/00-23/30
D06C3/00-29/00
D06G1/00-5/00
D06H1/00-7/24
D06J1/00-1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布と、該基布上にパイル糸を用いて形成されるパイル部と、を含む内装用モケットであって、
前記パイル糸が、個別に使用される合成繊維糸及び
縮絨加工ポリエステル糸であり、
当該内装用モケット表面の前記パイル部において、前記合成繊維糸で形成される領域と、前記
縮絨加工ポリエステル糸で形成される領域と、が形成され、
前記
縮絨加工ポリエステル糸の部位に当該内装用モケット上の液体が浸透・保持された場合、前記パイル部において、前記液体が浸透・保持された部位の色が他の部位の色と違って見える視覚的現象を利用して、当該内装用モケットが前記液体によって濡れているか否かを視覚的に確認するために、前記パイル糸として、前記
縮絨加工ポリエステル糸を使用することを特徴とする内装用モケット。
【請求項2】
前記
縮絨加工ポリエステル糸の縮絨加工部位に当該内装用モケット上の液体が浸透・保持された場合、前記パイル部において、前記液体が浸透・保持された部位の色が他の部位の色と違って見える視覚的現象を利用して、当該内装用モケットが前記液体によって濡れているか否かを視覚的に確認するために、前記パイル糸として、前記
縮絨加工ポリエステル糸を使用することを特徴とする請求項1に記載の内装用モケット。
【請求項3】
当該内装用モケット表面の前記パイル部において、前記
縮絨加工ポリエステル糸を特定の柄に配置させ、濡れている箇所において前記特定の柄を発現させることによって、前記濡れている箇所を視認可能にすることを特徴とする請求項1
又は請求項2に記載の内装用モケット。
【請求項4】
前記合成繊維糸が、縮絨加工の施されてない合成繊維製糸であることを特徴とする請求項1乃至
3の何れか一に記載の内装用モケット。
【請求項5】
前記縮絨加工の施されてない合成繊維製糸が、縮絨加工の施されてないポリエステル糸であることを特徴とする請求項
4に記載の内装用モケット。
【請求項6】
前記パイル部が、カットされた前記パイル糸によって形成されることを特徴とする請求項1乃至
5の何れか一に記載の内装用モケット。
【請求項7】
請求項1乃至
6の何れか一に記載の前記内装用モケットを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車輌の座席用表皮材等として使用される内装用モケットの技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モケット生地は、柔らかいパイルの風合いと高い摩耗強度とを兼ね備えた特殊な織物であり、鉄道車輌、自動車及び航空機等の座席用表皮材として使用されている。
【0003】
上記のような用途でモケット生地は広く利用されているが、利用環境に応じ要求される機能は多岐に渡るため、そういった利用環境に応じ発生する個々の課題を解決するために、モケット生地に関する研究開発が盛んに行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、「表面のパイル毛羽の密度やパイル抜糸強度、耐磨耗性、伸縮率、引張強度等の品質特性を変えることなく内装用モケットの耐グリニング性を改善する」技術が提案され、特許文献2では、「縫い合わせ部の形成等で折り曲げて用いられる場合であっても該折り曲げ部位においてパイル間から地組織が外観されることがなく外観品位に優れると共に、パイル毛立ちの良好な車輌の座席シート用表皮材を提供する」技術が提案されている。その他、モケット生地に関する技術的提案の例として特許文献3、特許文献4等が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-154952号公報
【文献】特開2002-13046号公報
【文献】特開平10-280247号公報
【文献】特開平8-60554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来技術においては、モケット生地が設置された座面上に飲食物等の液体が零れた場合、座席利用者に対し当該座面が濡れていて使用上注意すべきことを視覚的に知らせる機能が十分でないという問題点がある。
【0007】
そこで本発明では、上記問題点に鑑み、零れた液体等で座面が濡れた状態であることを座席利用者が視覚的に確認することができる内装用モケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
開示する内装用モケットの一形態は、基布と、該基布上にパイル糸を用いて形成されるパイル部と、を含む内装用モケットであって、前記パイル糸が、個別に使用される合成繊維糸及び液体保持性能糸であり、当該内装用モケット表面の前記パイル部において、前記合成繊維糸で形成される領域と、前記液体保持性能糸で形成される領域と、が形成され、前記液体保持性能糸の部位に当該内装用モケット上の液体が浸透・保持された場合、前記パイル部において、前記液体が浸透・保持された部位の色が他の部位の色と違って見える視覚的現象を利用して、当該内装用モケットが前記液体によって濡れているか否かを視覚的に確認するために、前記パイル糸として、前記液体保持性能糸を使用することを特徴とする。
【0009】
開示する内装用モケットの一形態は、上記構成に加え、前記液体保持性能糸が、ウール糸であり、前記ウール糸のコルテックス部位に当該内装用モケット上の液体が浸透・保持された場合、前記パイル部において、前記液体が浸透・保持された部位の色が他の部位の色と違って見える視覚的現象を利用して、当該内装用モケットが前記液体によって濡れているか否かを視覚的に確認するために、前記パイル糸として、前記ウール糸を使用することを特徴とする。
【0010】
開示する内装用モケットの一形態は、上記構成に加え、前記液体保持性能糸が、縮絨加工の施された合成繊維製糸であり、前記縮絨加工の施された合成繊維製糸の縮絨加工部位に当該内装用モケット上の液体が浸透・保持された場合、前記パイル部において、前記液体が浸透・保持された部位の色が他の部位の色と違って見える視覚的現象を利用して、当該内装用モケットが前記液体によって濡れているか否かを視覚的に確認するために、前記パイル糸として、前記縮絨加工の施された合成繊維製糸を使用することを特徴とする。
開示する内装用モケットの一形態は、上記構成に加え、前記縮絨加工の施された合成繊維製糸が、縮絨加工ポリエステル糸であることを特徴とする。
【0011】
開示する内装用モケットの一形態は、上記構成に加え、当該内装用モケット表面の前記パイル部において、前記液体保持性能糸を特定の柄に配置させ、濡れている箇所において前記特定の柄を発現させることによって、前記濡れている箇所を視認可能にすることを特徴とする。
開示する内装用モケットの一形態は、上記構成に加え、前記合成繊維糸が、縮絨加工の施されてない合成繊維製糸であることを特徴とする。
【0012】
開示する内装用モケットの一形態は、上記構成に加え、前記縮絨加工の施されてない合成繊維製糸が、縮絨加工の施されてないポリエステル糸であることを特徴とする。
開示する内装用モケットの一形態は、上記構成に加え、前記パイル部が、カットされた前記パイル糸によって形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
開示する内装用モケットは、零れた液体等で座面が濡れた状態であることを座席利用者が視覚的に確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本実施の形態に係る座席座部の模式断面図である。
【
図3】本実施の形態に係る内装用モケットの模式断面図である。
【
図4】本実施の形態に係る内装用モケットの製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について説明する。
(本実施の形態に係る内装用モケットの構造)
【0016】
図1乃至4を用いて、本実施の形態に係る内装用モケット(以下、単に「モケット」という。)1の構造について説明する。
図1及び2は、モケット1の適用例を示す図であり、
図3は、モケット1の構造を示すと共に、表面に飲食物・水等の液体22が零れたときのモケット1の状態を説明する図であり、
図4は、モケット1の製造過程を説明する図である。
【0017】
図1で示すように、モケット1は、鉄道車輌、航空機、自動車等に設置される座席14が備える座面16の表皮材として使用される織物である。
図2で示すように、座席14は、人が座るときに臀部と接触する部位である座部を有し、当該座部においては、外側表面にモケット1で形成される座面16が配置される。そして、モケット1の内側にはウレタン等の詰物18が配置され、その下にはフレーム及びバネ20が配置される。つまり、座席14において、モケット1で形成される座面16は、座席14に座る人と直接接する部位である。
【0018】
図3で示すように、モケット1は、基布2、パイル部4を有する。その他、モケット1は、毛抜け防止等の目的で、裏面にバッキング層を有する形態としても良い。
【0019】
基布2は、例えば、エステルレーヨンを使用した平織りの繊維であっても良く、従来公知の内装用モケットの構成要素である基布と同様のもので良い。なお、基布2は、経糸・緯糸によって作られた地組織を含む概念である。
【0020】
パイル部4は、基布2上にパイル糸6を用いて形成される部位であり、モケット1表面に位置し、柔らかい風合いを出す部位である。ここで、パイル糸6は、パイル部4(モケット1)における一の部位(領域)では合成繊維製の糸8が使用され、他の部位(領域)では液体保持性能糸12が使用される。
【0021】
液体保持性能糸12は、飲食物・水等の液体22を浸透・保持する機能を有し、“液体22が浸透・保持された部位の色”が“他の部位の色”とは違うように視認させる。液体保持性能糸12において、液体22が保持された部位とその他の部位とでは光の屈折率が異なり、外観上、これらの部位では色がそれぞれ異なって見える。
【0022】
ここで、天然繊維を使用した液体保持性能糸12の一例であるウール糸は、その1本1本の内部にコルテックス(皮膚質部位)が存在するため、水等の液体22をコルテックス部位に浸透させ、内部に保持させる性質を有する。そして、ウール糸においては、液体22がコルテックスに保持された部位とその他の部位とでは光の屈折率が異なり、外観上、これらの部位では色がそれぞれ異なって見える。なお、ウール糸では、外側に疎水性のスケール(表皮)が配置される一方、その内側に覆われるように親水性のコルテックス(皮膚質)が配置され、液体22は、当初スケールにて撥水されるが、徐々にコルテックスに浸み込み、ウール糸に保持される。
【0023】
また、合成繊維を使用した液体保持性能糸12の一例である縮絨加工ポリエステル糸は、繊維自体が縮絨しているため、水等の液体22を表面(縮絨加工された部位)に保持させる性質を有する。そして、縮絨加工ポリエステル糸においては、液体22が保持された部位とその他の部位とでは光の屈折率が異なり、外観上、これらの部位では色がそれぞれ異なって見える。なお、液体保持性能糸12は、縮絨加工ポリエステル糸と同様の原理に基づいて、縮絨加工された、ポリエステル糸以外の合成繊維製糸であっても良い。
【0024】
そこで、モケット1では、液体保持性能糸12の部位にモケット1上の液体22が浸透・保持された場合、パイル部4において“液体22が浸透・保持された部位の色”が“他の部位の色”と違って見える視覚的現象を利用して、座席14の利用者に対し、モケット1が液体22によって濡れているか否かについて容易に視覚的に確認ができるようにする。
【0025】
例えば、合成繊維糸8は、モケット1上、柄の輪郭をはっきり出したい箇所や発色性を上げたい箇所に使用される。例えば、液体保持性能糸12は、面積の広い箇所等に使用される。また、液体保持性能糸12は、モケット1の色柄とは無関係に、特定の柄(模様)に配置させることによって、濡れている箇所において特定の柄を発現させ、濡れている箇所を視認可能にすることもできる。
【0026】
パイル部4における“合成繊維糸8によって形成される部位”及び“液体保持性能糸12によって形成される部位”それぞれは、座面16(モケット1)上の浸水による色変化を目立たせる意図を持って適宜配置される。これは、モケット1表面のパイル部4において、相対的に柄の変化が大きい箇所に合成繊維糸8が使用され、相対的に柄の変化が小さい箇所に液体保持性能糸12が使用されると捉えることもできる。座面16が濡れた状態か否かを人が視覚的に検知できる機能をモケット1に発揮させるために好適な条件である。
【0027】
モケット1表面のパイル部4において、水濡れ(浸水)していることを表したい部分に液体保持性能糸12を使用し、その他の部分に合成繊維糸8を使用することも、上記機能をモケット1に発揮させるためには好適である。
なお、合成繊維製の糸8は、縮絨加工が成されていない合成繊維製の糸であって、ポリエステル製糸(ポリエステル100%の糸)であることが好適である。
【0028】
一般的に、液体保持性能糸12は相対的に高価であるため、モケット1が上記機能を発揮できる範囲内において、パイル糸6を形成する液体保持性能糸12の使用量を抑えることによって、モケット1の製造コストを抑制し、モケット1をリーズナブルな製造原価で製造することができる。
【0029】
なお、パイル部4には、鉄道車輌、航空機、自動車等の座席用表皮材として使用される一般的なモケット生地と同様に、フッ素による撥水加工が施されていても良い。そうすることによって、座面16(モケット1)上に飲食物等の液体22が零れた直後であれば、液体22を拭きとることができる。
【0030】
図4で示すように、モケット1は、従来公知のモケットの製造方法と同様にして、上下に基布2、2’を織成しつつ、その上基布2と下基布2’をパイル糸6によって連結した二重織物として織成される。そして、モケット1は、その織成後において上基布2と下基布2’の間で連結しているパイル糸6をカッター等の切断手段によってセンターカットして上下二重に二枚同時に製造される。
(本実施の形態に係る内装用モケットの使用方法)
【0031】
図1乃至3を用いて、モケット1の使用方法について説明する。
図1及び2で示すように、モケット1は、鉄道車輌、航空機、自動車等の座席用表皮材として使用することができる。そのとき、座席14に着席しようとする人は、座席14の座面16に張られたモケット1上に座ることになるので、その人の臀部とモケット1は直接接することになる。
【0032】
そこで、座席14に着席しようとする人は、座面16に飲食物等の液体22が零れ、座面16が濡れた状態のとき、パイル部4における“液体22が浸透・保持された部位の色”が“他の部位の色”と違って見える視覚的現象を利用して、座面16が濡れていることを検知することができる。座席14に着席しようとする人は、座面16から液体22を除去した後着席するか、又は、着席することを中止することができる。
【0033】
一方、座席14に着席しようとする人は、座面16が濡れていないとき、すなわち、パイル部4における色の変化が見られないとき、一般的な座席の使用方法に従い、座席14に着席する。
【0034】
以上、本発明の実施の形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 内装用モケット
2 基布(地組織)
4 パイル部
6 パイル糸
8 合成繊維糸
10 ポリエステル糸
12 液体保持性能糸
14 座席
16 座面
18 詰物(ウレタン)
20 フレーム+バネ
22 液体