(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】減速機
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20220331BHJP
F16H 25/04 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
F16H1/32 A
F16H25/04
(21)【出願番号】P 2018000576
(22)【出願日】2018-01-05
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2017164568
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 日本機械学会2017年度年次大会,平成29年9月5日 一般社団法人日本機械学会,日本機械学会2017年度年次大会講演論文集(DVD),平成29年9月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】391002487
【氏名又は名称】学校法人大同学園
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【氏名又は名称】長谷 久生
(74)【代理人】
【識別番号】100126170
【氏名又は名称】水野 義之
(72)【発明者】
【氏名】林 秀行
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 和彦
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特表平06-508418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16H 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された動力を減速して出力する減速機であって、
ステーターと、
前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、
前記入力歯車と噛み合うことにより、
前記ステーターに対して固定的に配置されたK個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転する
ように構成されたK個の伝動歯車と、
前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状の
K個の伝動ピンと、
前記
K個の伝動ピン
を収容
する凹部が形成されたローターと、
を備え、
前記
K個の伝動ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、
前
記凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がM(Mは、2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記複数の伝動ピンが接触する伝動ピン接触面を有
する、幅が前記伝動ピンの外直径に等しい溝である、
減速機。
【請求項2】
入力された動力を減速して出力する減速機であって、
ステーターと、
前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、
前記入力歯車と噛み合うことにより、K個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転するとともに、前記自転軸の前記入力軸に対する公転が前記ステーターにより規制されたK個の伝動歯車と、
前記K個の伝動歯車のそれぞれに
2本取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状の複数の伝動ピンと、
前記複数の伝動ピンが収容される凹形状のローター凹部が形成されたローターと、
を備え、
前記複数の伝動ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、
前記ローター凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がM(Mは、2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記複数の伝動ピンが接触する伝動ピン接触面を有している、
減速機。
【請求項3】
前記ローター凹部は、幅が前記伝動ピンの外直径に等しい溝である、請求項2記載の減速機。
【請求項4】
前記K個の自転軸は、前記ステーターに対して固定的に配置されている、請求項
2または3記載の減速機。
【請求項5】
前記Kと、前記Mとは、互いに素である、請求項1
ないし4のいずれか記載の減速機。
【請求項6】
入力された動力を減速して出力する減速機であって、
ステーターと、
前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、
前記入力歯車と噛み合うことにより、K個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転するとともに、前記自転軸の前記入力軸に対する公転が前記ステーターにより規制されたK個の伝動歯車と、
前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状の複数の伝動ピンと、
前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーター側に伸びる外面が円筒形状の複数の規制ピンと、
前記複数の伝動ピンが収容される凹形状のローター凹部が形成されたローターと、
を備え、
前記複数の伝動ピン
および前記複数の規制ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、
前記ローター凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がM(Mは、2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記複数の伝動ピンが接触する伝動ピン接触面を有して
おり、
前記ステーターには、前記複数の規制ピンが収容される、前記入力軸を中心とする滑り倍率がN(Nは、Mと異なる2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記規制ピンの外半径に等しく、前記複数の規制ピンが接触する規制ピン接触面を有する凹形状のステーター凹部が形成されている、
減速機。
【請求項7】
請求項
6記載の減速機であって、さらに、
前記入力歯車と、前記K個の伝動歯車と、を回転可能に保持するキャリアを備え、
前記入力歯車は、前記キャリアの前記ステーター側に配置された入力側入力歯車と、前記キャリアの前記ローター側に配置され、前記入力側入力歯車と歯数が同一の出力側入力歯車と、から構成され、
前記K個の伝動歯車のそれぞれは、前記キャリアの前記ステーター側に配置された入力側伝動歯車と、前記キャリアの前記ローター側に配置され、前記入力側伝動歯車と歯数が同一の出力側伝動歯車と、から構成されている、
減速機。
【請求項8】
前記ローター凹部は、幅が前記伝動ピンの外直径に等しい溝である、請求項6または7記載の減速機。
【請求項9】
前記ステーター凹部は、幅が前記規制ピンの外直径に等しい溝である、請求項
6ないし8のいずれか記載の減速機。
【請求項10】
前記Kと前記M、および、前記K
と前記N
の少なくとも一方は、互いに素である、請求項
6ないし
9のいずれか記載の減速機。
【請求項11】
前記K個の伝動歯車のそれぞれの歯数は、前記Kが奇数の場合、前記Kの倍数であり、前記Kが偶数の場合、前記Kの1/2の倍数である、請求項1ないし
10のいずれか記載の減速機。
【請求項12】
前記K個の伝動歯車のそれぞれの歯数は、前記入力歯車の歯数と同数である、請求項1ないし
11のいずれか記載の減速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転動力を減速して伝達する減速機に関し、特に、薄型化が可能な減速機に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの関節を駆動する関節駆動装置においては、動力発生装置としてモーターが使用されるが、一般的に、モーターの回転速度は、関節の駆動に適した回転速度に対し、必要以上に速くなっている場合がある。そのため、関節駆動装置等においては、通常、回転動力を減速して伝達する減速機が用いられる。しかしながら、減速機が大型化すると関節駆動装置等も大型化するため、ロボット等に使用される減速機には、薄型化が要求される。このように薄型化が可能な減速機としては、従来、遊星歯車減速機が使用されてきたが、遊星歯車減速機では、減速比を十分に高くすることは困難であった。
【0003】
そこで、薄型化が可能であり、減速比を十分に高くすることが可能な減速機が種々開発されてきた。例えば、特許文献1には、円柱状の外ピンを歯形として用いた内歯車、および、外周がエピトロコイド平行曲線に形成された遊星歯車として機能する曲線板から構成され、曲線板を偏心揺動させて減速を行う内接式遊星歯車機構と、円柱状の内ピンを曲線板に形成された円形の内ピン穴に挿入して、曲線板の減速された自転のみを取り出す等速度内歯車機構との2つの機構を組み合わせた、サイクロイド減速機が記載されている。このようなサイクロイド減速機は、内歯車と遊星歯車の歯数の差を小さくすることが可能となるため、減速比を高くすることが可能となる。
【0004】
しかしながら、サイクロイド減速機において減速に使用される曲線板は、偏心揺動するように構成されている。そのため、サイクロイド減速機において動力を伝達する際には、曲線板が偏心揺動することで振動が発生する。このように振動が発生すると、位置精度が低下したり、騒音が発生したりする虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-201996号公報
【文献】特開2009-195002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、薄型化が可能な減速機において、減速比を十分に高くするとともに、動力伝達時に発生する振動を十分に小さくすることは困難である。なお、この問題は、ロボット等に使用される減速機に限らず、種々の分野で使用される減速機一般に共通する。
【0007】
本発明は、上述した従来の課題を解決するためになされたものであり、薄型化が可能な減速機において、減速比を十分に高くするとともに、動力伝達時に発生する振動を十分に小さくする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
本発明の第1の形態としての減速機は、入力された動力を減速して出力する減速機であって、ステーターと、前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、前記入力歯車と噛み合うことにより、前記ステーターに対して固定的に配置されたK個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転するように構成されたK個の伝動歯車と、前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状のK個の伝動ピンと、前記K個の伝動ピンを収容する凹部が形成されたローターと、を備え、前記K個の伝動ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、前記凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がM(Mは、2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記複数の伝動ピンが接触する伝動ピン接触面を有する、幅が前記伝動ピンの外直径に等しい溝であることを特徴とする。補正後の請求項1
第1の形態としての減速機によれば、入力軸の方向には、厚みを薄くすることが可能な、ステーターと、入力歯車および伝動歯車と、伝動ピンおよびローターとがこの順で配列されるので、減速機を十分に薄くすることができる。また、伝動ピンの自転軸に対する回転に対し、ローターの回転は、滑り円トロコイド曲線の滑り倍率で減速される。そのため、滑り倍率を適宜設定することにより、十分に減速比を高くすることができる。さらに、この適用例においては、回転の中心軸である入力軸や自転軸に対する重量の対称性が全体として高いので、回転動力を減速して伝達する際に、振動が発生することを抑制することができる。そして、凹部を幅が伝動ピンの外直径に等しい溝とすることにより、溝の内面となる2つの伝動ピン接触面のいずれかに伝動ピンからの応力が加われば、伝動ピンからローターへ動力が伝達されるので、伝動ピンからローターへの動力の伝達をより安定的にすることができる。
本発明の第2の形態としての減速機は、入力された動力を減速して出力する減速機であって、ステーターと、前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、前記入力歯車と噛み合うことにより、K個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転するとともに、前記自転軸の前記入力軸に対する公転が前記ステーターにより規制されたK個の伝動歯車と、前記K個の伝動歯車のそれぞれに2本取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状の複数の伝動ピンと、前記複数の伝動ピンが収容される凹形状のローター凹部が形成されたローターと、を備え、前記複数の伝動ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、前記ローター凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がM(Mは、2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記複数の伝動ピンが接触する伝動ピン接触面を有していることを特徴とする。
第2の形態としての減速機によれば、入力軸の方向には、厚みを薄くすることが可能な、ステーターと、入力歯車および伝動歯車と、伝動ピンおよびローターとがこの順で配列されるので、減速機を十分に薄くすることができる。また、伝動ピンの自転軸に対する回転に対し、ローターの回転は、滑り円トロコイド曲線の滑り倍率で減速される。そのため、滑り倍率を適宜設定することにより、十分に減速比を高くすることができる。さらに、この適用例においては、回転の中心軸である入力軸や自転軸に対する重量の対称性が全体として高いので、回転動力を減速して伝達する際に、振動が発生することを抑制することができる。そして、伝動歯車のそれぞれに2本の伝動ピンを設けることにより、出力されるトルクの変動をさらに抑制するとともに、バックラッシュをさらに低減することが可能となる。
本発明の第3の形態としての減速機は、入力された動力を減速して出力する減速機であって、ステーターと、前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、前記入力歯車と噛み合うことにより、K個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転するとともに、前記自転軸の前記入力軸に対する公転が前記ステーターにより規制されたK個の伝動歯車と、前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状の複数の伝動ピンと、前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーター側に伸びる外面が円筒形状の複数の規制ピンと、前記複数の伝動ピンが収容される凹形状のローター凹部が形成されたローターと、を備え、前記複数の伝動ピンおよび前記複数の規制ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、前記ローター凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がM(Mは、2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記複数の伝動ピンが接触する伝動ピン接触面を有しており、前記ステーターには、前記複数の規制ピンが収容される、前記入力軸を中心とする滑り倍率がN(Nは、Mと異なる2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記規制ピンの外半径に等しく、前記複数の規制ピンが接触する規制ピン接触面を有する凹形状のステーター凹部が形成されていることを特徴とする。
第3の形態としての減速機によれば、入力軸の方向には、厚みを薄くすることが可能な、ステーターと、入力歯車および伝動歯車と、伝動ピンおよびローターとがこの順で配列されるので、減速機を十分に薄くすることができる。また、伝動ピンの自転軸に対する回転に対し、ローターの回転は、滑り円トロコイド曲線の滑り倍率で減速される。そのため、滑り倍率を適宜設定することにより、十分に減速比を高くすることができる。さらに、この適用例においては、回転の中心軸である入力軸や自転軸に対する重量の対称性が全体として高いので、回転動力を減速して伝達する際に、振動が発生することを抑制することができる。そして、入力軸に対する伝動歯車の自転軸の公転方向を、ローターの回転方向と逆方向にして、ローターの回転をより遅くすることができるので、減速機の減速比をさらに大きくすることができる。
【0009】
[適用例1]
入力された動力を減速して出力する減速機であって、ステーターと、前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、前記入力歯車と噛み合うことにより、K個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転するとともに、前記自転軸の前記入力軸に対する公転が前記ステーターにより規制されたK個の伝動歯車と、前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状の複数の伝動ピンと、前記複数の伝動ピンが収容される凹形状のローター凹部が形成されたローターと、を備え、前記複数の伝動ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、前記ローター凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がM(Mは、2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記複数の伝動ピンが接触する伝動ピン接触面を有している、減速機。
【0010】
この適用例によれば、入力軸の方向には、厚みを薄くすることが可能な、ステーターと、入力歯車および伝動歯車と、伝動ピンおよびローターとがこの順で配列されるので、減速機を十分に薄くすることができる。また、伝動ピンの自転軸に対する回転に対し、ローターの回転は、滑り円トロコイド曲線の滑り倍率で減速される。そのため、滑り倍率を適宜設定することにより、十分に減速比を高くすることができる。さらに、この適用例においては、回転の中心軸である入力軸や自転軸に対する重量の対称性が全体として高いので、回転動力を減速して伝達する際に、振動が発生することを抑制することができる。
【0011】
[適用例2]
前記ローター凹部は、幅が前記伝動ピンの外直径に等しい溝である、適用例1記載の減速機。
【0012】
ローター凹部を幅が伝動ピンの外直径に等しい溝とすることにより、溝の内面となる2つの伝動ピン接触面のいずれかに伝動ピンからの応力が加われば、伝動ピンからローターへ動力が伝達される。そのため、伝動ピンからローターへの動力の伝達をより安定的にすることができる。
【0013】
[適用例3]
前記Kと、前記Mとは、互いに素である、適用例1または2記載の減速機。
【0014】
自転軸の数Kと、ローター凹部の形状を規定する滑り円トロコイド曲線の滑り倍率Mとが互いに素でない場合、当該滑り円トロコイド曲線と伝動ピンとの位置関係によっては、ローターの回転が開始する際の回転方向が一意に決定されない虞がある。この適用例によれば、このような問題が発生する虞を低減することができる。
【0015】
[適用例4]
前記K個の自転軸は、前記ステーターに対して固定的に配置されている、適用例1ないし3のいずれか記載の減速機。
【0016】
この適用例によれば、ステーターに入力歯車と伝動歯車とを回転可能に取り付けることで、減速機を構成することができるので、減速機をより容易に製造することができる。
【0017】
[適用例5]
適用例1ないし3のいずれか記載の減速機であって、さらに、前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーター側に伸びる外面が円筒形状の複数の規制ピンを備え、前記複数の規制ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、前記ステーターには、前記複数の規制ピンが収容される凹形状のステーター凹部が形成されており、前記ステーター凹部は、前記入力軸を中心とする滑り倍率がN(Nは、Mと異なる2以上の整数)の滑り円トロコイド曲線からの距離が前記規制ピンの外半径に等しく、前記複数の規制ピンが接触する規制ピン接触面を有している、減速機。
【0018】
この適用例によれば、入力軸に対する伝動歯車の自転軸の公転方向を、ローターの回転方向と逆方向にすることができる。そのため、ローターの回転をより遅くすることができるので、減速機の減速比をさらに大きくすることができる。
【0019】
[適用例6]
適用例5記載の減速機であって、さらに、前記入力歯車と、前記K個の伝動歯車と、を回転可能に保持するキャリアを備え、前記入力歯車は、前記キャリアの前記ステーター側に配置された入力側入力歯車と、前記キャリアの前記ローター側に配置され、前記入力側入力歯車と歯数が同一の出力側入力歯車と、から構成され、前記K個の伝動歯車のそれぞれは、前記キャリアの前記ステーター側に配置された入力側伝動歯車と、前記キャリアの前記ローター側に配置され、前記入力側伝動歯車と歯数が同一の出力側伝動歯車と、から構成されている、減速機。
【0020】
この適用例によれば、入力歯車と伝動歯車との間の接触面積を広くすることが容易となる。そのため、入力歯車から伝動歯車へのトルクの伝達をより良好にすることが容易となる。
【0021】
[適用例7]
前記ステーター凹部は、幅が前記規制ピンの外直径に等しい溝である、適用例5または6記載の減速機。
【0022】
ステーター凹部を幅が規制ピンの外直径に等しい溝とすることにより、溝の内面となる2つの規制ピン接触面により規制ピンが規制されるので、より安定的に入力軸に対して伝動歯車の自転軸を公転させることができる。
【0023】
[適用例8]
前記Kと、前記Nとは、互いに素である、適用例5ないし7のいずれか記載の減速機。
【0024】
自転軸の数Kと、ステーター凹部の形状を規定する滑り円トロコイド曲線の滑り倍率Nとが互いに素でない場合、当該滑り円トロコイド曲線と規制ピンとの位置関係によっては、入力軸に対する伝動歯車の自転軸の公転方向が一意に決定されない虞がある。この適用例によれば、このような問題が発生する虞を低減することができる。
【0025】
[適用例9]
前記K個の伝動歯車のそれぞれの歯数は、前記Kが奇数の場合、前記Kの倍数であり、前記Kが偶数の場合、前記Kの1/2の倍数である、適用例1ないし8のいずれか記載の減速機。
【0026】
この適用例によれば、K個の伝動歯車の全てにおいて、歯の位置と伝動ピンが取り付けられる位置との関係を同一にすることができる。そのため、同一形状の伝動歯車を用いて、K個の伝動歯車を準備することができるので、減速機をより容易に製造することができる。
【0027】
[適用例10]
前記K個の伝動歯車のそれぞれの歯数は、前記入力歯車の歯数と同数である、適用例1ないし9のいずれか記載の減速機。
【0028】
この適用例によれば、入力歯車の歯形と伝動歯車の歯形とを同一にすることができるので、入力歯車と伝動歯車とをより簡単に設計することができる。
【0029】
[適用例11]
入力された動力を減速して出力する減速機であって、ステーターと、前記ステーターに対して固定的に配置された入力軸を中心に回転するように構成され、動力が入力される入力歯車と、前記入力歯車と噛み合うことにより、前記ステーターに対して固定的に配置されたK個(Kは、2以上の整数)の自転軸のそれぞれを中心に自転するように構成されたK個の伝動歯車と、前記K個の伝動歯車のそれぞれに取り付けられ、前記伝動歯車から前記ステーターの反対側に伸びる外面が円筒形状のK個の伝動ピンと、前記K個の伝動ピンを収容する凹部が形成されたローターと、を備え、前記K個の伝動ピンのそれぞれは、前記伝動歯車の前記自転軸から離れた位置に取り付けられており、前記凹部は、前記入力軸を中心とする滑りエピトロコイド曲線からの距離が前記伝動ピンの外半径に等しく、前記滑りエピトロコイド曲線よりも外方に位置する滑りエピトロコイド外平行曲線形状の内面を有している、減速機。
【0030】
この適用例によれば、入力軸の方向には、厚みを薄くすることが可能な、ステーターと、入力歯車および伝動歯車と、伝動ピンおよびローターとがこの順で配列されるので、減速機を十分に薄くすることができる。また、伝動ピンの自転軸に対する回転に対し、ローターの回転は、滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率で減速される。そのため、滑り倍率を適宜設定することにより、十分に減速比を高くすることができる。さらに、この適用例においては、回転の中心軸である入力軸や自転軸に対する重量の対称性が全体として高いので、回転動力を減速して伝達する際に、振動が発生することを抑制することができる。
【0031】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能である。例えば、減速機、その減速機を用いた駆動機構、その減速機とモーター等の動力発生装置とを組み合わせた駆動装置等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の第1実施形態としての減速機の構成を示す分解斜視図。
【
図2】ローターに形成された溝の形状および溝と伝動ピンとの位置関係を説明する説明図。
【
図3】滑りエピトロコイド曲線の具体的形状を説明する説明図。
【
図4】滑りエピトロコイド曲線の具体的形状を説明する説明図。
【
図5】第1実施形態の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図6】第1実施形態の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図7】本発明の第2実施形態としての減速機の構成を示す分解斜視図。
【
図8】第2実施形態の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図9】第2実施形態の減速機の動作の様子を示す説明図。
【
図10】ローターに形成された溝の変形例を示す説明図。
【
図11】ローターに形成された溝の変形例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
A1.減速機の構成:
A2.溝の形状および伝動ピンとの位置関係:
A3.滑りエピトロコイド曲線の具体的形状:
A4.減速機の動作:
B.第2実施形態:
B1.減速機の構成:
B2.減速機の動作:
C.溝形状の変形例:
D.変形例:
【0034】
A.第1実施形態:
A1.減速機の構成:
図1は、本発明の第1実施形態としての減速機100の構成を示す分解斜視図である。この減速機100は、減速機100に入力され、減速機100の中心軸C1(以下、特に言及しない限り、減速機100の中心軸C1を単に「中心軸C1」と呼ぶ)を中心として回転する動力を減速して、中心軸C1を中心として回転する動力を出力する。
【0035】
図1に示すように、減速機100は、ステーター110と、入力シャフト120と、入力歯車130と、4つの伝動歯車140と、4つの伝動歯車140のそれぞれに取り付けられた4つの伝動ピン150と、ローター160と、出力シャフト170とを備えている。なお、減速機100は、4つの伝動歯車140と、4つの伝動ピン150とを備えているが、4つの伝動歯車140や4つの伝動ピン150の個々の構成および機能は、いずれも同様である。そのため、特に必要としない限り、伝動歯車140や伝動ピン150等の複数設けられた構成要素については、個々に区別しない。
【0036】
また、第1実施形態の減速機100において、中心軸C1を中心として回転する動力(回転動力)は、ステーター110側から入力され、ローター160側から出力される。そのため、ローター160からステーター110を見た方向を「入力側」とも呼び、ステーター110からローター160を見た方向を「出力側」とも呼ぶ。
【0037】
図1から分かるように、減速機100では、主要な構成要素として、ステーター110と、入力歯車130および伝動歯車140と、伝動ピン150およびローター160とがこの順で中心軸C1の方向に配列される。これらステーター110、入力歯車130、伝動歯車140、伝動ピン150およびローター160は、その厚みを薄くすることができるので、第1実施形態の減速機100は薄型化が可能となっている。
【0038】
ステーター110は、中心軸C1と直交する板状の部材であり、中心軸C1を中心とする円形の貫通穴119と、伝動歯車140の中心軸C2を中心とする4つの円形の貫通穴118とが設けられている。入力シャフト120は、中心軸C1を軸とする円柱状の部材であり、ステーター110の貫通穴119を通して、入力側に突出するように配置される。回転動力は、この入力シャフト120の入力側に突出した部分から、減速機100に入力される。
【0039】
入力歯車130は、20枚の歯132が形成された歯車であり、入力シャフト120が嵌め込まれるシャフト嵌入穴139が設けられている。シャフト嵌入穴139に嵌め込まれた入力シャフト120は、図示しない軸受を介して、ステーター110の中央に設けられた貫通穴119に固定される。これにより、入力歯車130は、入力シャフト120の回転、すなわち、減速機100に入力された回転動力に応じて、中心軸C1を中心に回転する。なお、以上の説明から明らかなように、中心軸C1は、減速機100に入力される回転動力の回転軸である。そのため、中心軸C1は、「入力軸」とも呼ぶことができる。
【0040】
伝動歯車140は、入力歯車130の歯132と噛み合う歯142が形成された歯車であり、歯142の数(歯数)は、入力歯車130と同数の20枚となっている。伝動歯車140には、その中心軸C2を中心とする円形のシャフト嵌入穴149が設けられており、当該シャフト嵌入穴149には、円柱状の保持シャフト144が嵌め込まれている。
【0041】
保持シャフト144は、入力シャフト120と同様に、図示しない軸受を介して、ステーター110に設けられた貫通穴118に固定される。これにより、伝動歯車140は、その中心軸C2を中心に回転可能となっている。そして、伝動歯車140は、入力歯車130と噛み合うことにより、入力歯車130と等速で逆方向に回転する。このような伝動歯車140の回転は、遊星歯車における自転に相当する。そのため、伝動歯車140の回転は、「自転」とも呼ぶことができ、伝動歯車140の回転軸である中心軸C2は、「自転軸」とも呼ぶことができる。
【0042】
このことから分かるように、入力歯車130および伝動歯車140は、それぞれ、遊星歯車機構における太陽歯車および遊星歯車に相当し、ステーター110は、太陽歯車および遊星歯車を保持するキャリアに相当する。そして、ステーター110は、伝動歯車140(自転軸C2)の入力歯車130(入力軸C1)に対する公転を止める機能、すなわち、自転軸C2の入力軸C1に対する公転を規制する機能を有していると謂うこともできる。
【0043】
伝動歯車140には、保持シャフト144が嵌め込まれるシャフト嵌入穴149のほか、伝動ピン150が取り付けられるピン取付穴148が設けられている。
図1に示すように、ピン取付穴148は、自転軸C2から外れた位置に設けられている。
【0044】
伝動ピン150は、中心軸C1および自転軸C2に沿った方向(軸方向)に伸びる円柱状の部材である。
図1に示すように、伝動ピン150は、伝動歯車140から出力側のローター160に向かって伸びるように伝動歯車140のピン取付穴148に嵌め込まれる。上述のように、ピン取付穴148は、自転軸C2から外れた位置に設けられているので、伝動ピン150は、自転軸C2から離れた位置において、伝動歯車140に取り付けられている。なお、伝動ピンは、その外面が円筒形状であればよく、円柱状の伝動ピン150に換えて、円筒状の部材を用いてもよく、また、円柱状の芯に回転自在な円筒部材を取り付けたローラーを用いても良い。
【0045】
ローター160は、中心軸C1と直交する略円盤状の部材であり、平板状の平板部162と、平板部162の外縁部から入力側に伸びる外壁部164と、平板部162の中央部から入力側に伸びる内壁部166とを有している。
図1に示すように、外壁部164と内壁部166とが設けられることにより、ローター160の入力側の面には、溝169が形成される。
【0046】
このようにローター160に設けられた溝169には、伝動ピン150が収容される。そして、溝169に収容された伝動ピン150が伝動歯車140の自転に伴って移動することにより、伝動歯車140からローター160に動力が伝達され、ローター160が中心軸C1を中心に回転する。このとき、ローター160は、伝動歯車140と逆方法(すなわち、入力歯車130と同方向)に、溝169の形状によって決定される減速比で減速されて回転する。なお、溝169の形状および溝169と伝動ピン150との位置関係、ならびに、伝動ピン150からローター160への動力の伝達等の減速機100の動作については、後述する。
【0047】
出力シャフト170は、中心軸C1を軸とする円柱状の部材であり、ローター160の出力側に取り付けられている。上述のようにローター160は、入力歯車130と同方向に、溝169の形状によって決定される減速比で減速されて回転する。そのため、出力シャフト170からは、当該減速比で減速された回転動力が出力される。
【0048】
A2:溝の形状および伝動ピンとの位置関係:
図2は、ローター160(
図1)に形成された溝169の形状および溝169と伝動ピン150との位置関係を説明する説明図である。
図2(a)は、ローター160の外壁部164および内壁部166と、伝動ピン150とを出力側から見た様子を示し、
図2(b)は、
図2(a)において点線で示した領域を拡大して示している。
【0049】
上述のように、外壁部164と内壁部166とを設けることにより、ローター160には、溝169が形成される。この溝169は、伝動ピン150の中心が
図2において二点鎖線で示す曲線ES7上を移動した際に、伝動ピン150が掃く領域に形成されている。そのため、
図2(b)に示すように、溝169は、幅が伝動ピン150の外直径dに等しい溝として形成されている。このように溝169の形状を規定する曲線ES7は、滑りエピトロコイド曲線と呼ばれる曲線であり、その具体的な形状については、後述する。
【0050】
なお、
図2の例においては、滑りエピトロコイド曲線ES7が小さなループを形成している部分ADにおいて、伝動ピン150が掃く領域に重なりが生じている。そのため、当該部分(重複部分)ADにおいては、溝169の幅が伝動ピン150の外直径dよりも広くなっているとも考えられる。しかしながら、この重複部分ADは、幅が伝動ピン150の外直径dに等しい溝が重なっているために幅が広くなっているものである。そのため、溝169は、重複部分ADを含めた全領域において、その幅が伝動ピン150の外直径dに等しいものと捉えるべきである。
【0051】
また、
図2(b)から分かるように、外壁部164の内面S164は、滑りエピトロコイド曲線ES7からの距離が伝動ピン150の外半径d/2に等しく、滑りエピトロコイド曲線ES7の外方に位置する曲線(「滑りエピトロコイド外平行曲線」と呼ぶ)の形状となっている。従って、溝169、すなわち、ローター160に設けられた凹部は、滑りエピトロコイド外平行曲線形状の内面を有していると謂うことができる。
【0052】
同様に、内壁部166の外面S166は、滑りエピトロコイド曲線ES7からの距離が伝動ピン150の外半径d/2に等しく、滑りエピトロコイド曲線ES7の内方に位置する曲線(「滑りエピトロコイド内平行曲線」と呼ぶ)の形状となっている。従って、溝169、すなわち、ローター160に設けられた凹部は、滑りエピトロコイド内平行曲線形状の内面を有していると謂うことができる。
【0053】
これら外壁部164の内面S164および内壁部166の外面S166は、いずれも伝動ピン150が接触するように構成されているので、伝動ピン接触面と謂うこともできる。上述の通り、これらの伝動ピン接触面S164,S166と、滑りエピトロコイド曲線ES7との距離は、伝動ピン150の外半径d/2に等しくなっている。
【0054】
A3.滑りエピトロコイド曲線の具体的形状:
図3および
図4は、滑りエピトロコイド曲線の具体的形状を説明する説明図である。
図3(a)は、一般的なトロコイド曲線TTを示し、
図3(b)は、一般的なエピトロコイド曲線ETを示している。また、
図4(a)は、滑りトロコイド曲線TS2を示し、
図4(b)は、滑りエピトロコイド曲線ES2を示している。
【0055】
図3(a)に示すトロコイド曲線TTは、白抜きの矢印に示すように、動円CRを直線LNに沿って滑らないように転がした際に、動円CR中の点Pが描く軌跡として規定される。具体的には、トロコイド曲線TTは、動円CRの半径r、動円CRの中心点からの点Pの距離a(0<a≦r)、および、動円CRの回転角度θを用いて、次の式(1)で表される。
【数1】
【0056】
このとき、動円CRを1回転(θ=0~2π)回転させると、動円CRは2πr進行し、一周期(x=0~2πr)内に山および谷が1つずつ存在するトロコイド曲線TTが描かれる。
【0057】
図3(b)に示すエピトロコイド曲線ETは、白抜きの矢印に示すように、動円CRを定円CFの外周に沿って滑らないように転がした際に、動円CR中の点Pが描く軌跡として規定される。具体的には、エピトロコイド曲線ETは、動円CRおよび定円CFの半径r、動円CRの中心点からの点Pの距離a(0<a≦r)、および、定円CFの中心点(すなわち、原点O)を中心とした動円CRの回転角度(公転角度)θを用いて、次の式(2)で表される。
【数2】
【0058】
このとき、動円CRを定円CFの周りで1回転(θ=0~2π)公転させると、動円CRが2回転自転し、一周内に定円CFの中心点に最も近い点(近点)と、定円CFの中心点から最も遠い点(遠点)とが1つずつ存在するエピトロコイド曲線ETが描かれる。このように描かれたエピトロコイド曲線ETは、
図3(a)に示すトロコイド曲線TTを規定する直線LNを定円CFの円周に巻き付け、直線LNの変形に応じてトロコイド曲線TTを変形させた状態に相当する。
【0059】
なお、
図3(b)に示すように、エピトロコイド曲線ETを描いた際には、定円CFを固定した系において、動円CRを定円CFの周りで1回転(θ=0~2π)公転させている。この場合、動円CRは、トロコイド曲線TTを描いた際の直線LN(
図3(a))に対応する定円CFの円周に対して1回転自転するとともに、動円CRの中心点から定円CFの中心点を見込む方向が1回転する。そのため、定円CFを固定した
図3(b)においては、動円CRを定円CFの周りで1回転公転させると、動円CRは、2回転自転することになる。
【0060】
しかしながら、第1実施形態の減速機100では、
図2に示すように、中心軸C1と自転軸C2とは固定されたものとして扱われる。このように、中心軸C1に相当する定円CFの中心点と、自転軸C2に相当する動円CRの中心点とを固定した系から見れば、動円CRが1回転するごとに、定円CFおよびエピトロコイド曲線ETが1回転する。
【0061】
なお、一般的に、エピトロコイド曲線を規定する動円CRと定円CFのそれぞれの半径は、必ずしも同一である必要はない。但し、本明細書および本発明においては、エピトロコイド曲線ETおよび滑りエピトロコイド曲線ES2(
図4)を規定する動円CRと定円CFの半径は、同一であるものとする。
【0062】
図4(a)に示す滑りトロコイド曲線TS2は、白抜きの矢印に示すように、周速が動円CRの進行速度の2倍となるように、動円CRを直線LNに沿って滑らせながら転がした際に、動円CR中の点Pが描く軌跡として規定される。具体的には、滑りトロコイド曲線TS2は、動円CRの半径r、動円CRの中心点からの点Pの距離a(0<a≦r)、および、動円CRの回転角度を表すパラメータθを用いて、次の式(3)で表される。
【数3】
【0063】
このとき、動円CRを2回転(θ=0~2π)回転させると、動円CRは2πr進行し、一周期(x=0~2πr)内に山および谷が2つずつ存在する滑りトロコイド曲線TS2が描かれる。言い換えれば、動円CRを1回転(θ=0~π)回転させると、動円CRはπr進行する。そのため、動円CRを一定の回転速度で回転させた場合の動円CRの進行速度は、
図3(a)に示すトロコイド曲線TTを描いた場合の1/2に減速される。
【0064】
なお、本明細書および本発明においては、この動円CRの進行速度に対する周速の倍率、すなわち、一周期(x=0~2πr)における動円CRの回転回数を滑り倍率M(
図4(a)の例では、M=2)と呼ぶ。従って、滑りトロコイド曲線TS2は、動円CRの半径r、動円CRの中心点からの点Pの距離a(0<a≦r)、滑り倍率M、および、動円CRの回転角度を表すパラメータθを用いて、次の式(4)で表される。
【数4】
【0065】
図4(b)に示す滑りエピトロコイド曲線ES2は、白抜きの矢印に示すように、動円CRを定円CFの外周に沿って滑り倍率Mを2として滑らせながら転がした際に、動円CR中の点Pが描く軌跡として規定される。具体的には、滑りエピトロコイド曲線ES2は、動円CRおよび定円CFの半径r、動円CRの中心点からの点Pの距離a(0<a≦r)、滑り倍率M(
図4(b)の例では、M=2)、および、動円CRの公転角度θを用いて、次の式(5)で表される。
【数5】
【0066】
このとき、動円CRを定円CFの周りで1回転(θ=0~2π)公転させると、動円CRが3回転(すなわち、(M+1)回転)自転し、一周内に近点および遠点が2つ(M個)ずつ存在する滑りエピトロコイド曲線ES2が描かれる。なお、滑り倍率Mは、エピトロコイド曲線が一周で閉じた曲線となるよう、2以上の整数に設定される。
【0067】
また、エピトロコイド曲線ET(
図3(b))を描いた場合と同様に、
図4(b)に示すように、滑りエピトロコイド曲線ES2を描いた際には、定円CFを固定した系において、動円CRを定円CFの周りで1回転(θ=0~2π)公転させている。そのため、動円CRは、定円CFの周りで1回転公転する間に、3回転((M+1)回転)自転する。一方、定円CFの中心点と、動円CRの中心点とを固定した系から見れば、動円CRが2回転(M回転)するごとに、定円CFおよび滑りエピトロコイド曲線ES2が1回転する。
【0068】
なお、第1実施形態の減速機100(
図1)において、溝169の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線ES7(
図2)の滑り倍率Mは、7となっている。このように、減速機100では、滑り倍率Mを7とした滑りエピトロコイド曲線ES7で形状が規定されている溝169に伝動ピン150を収容し、ローター160(溝169)に対する伝動ピン150の相対的な位置を規制している。そのため、伝動ピン150の中心が滑りエピトロコイド曲線ES7を描くようにローター160が回転する場合、ローター160が1回転する間に、伝動歯車140および伝動ピン150が7回転(M回転)自転する。従って、伝動ピン150からローター160に動力が伝達される際の減速比は、滑り倍率Mと同じ7となる。
【0069】
また、上述の滑りエピトロコイド曲線の生成方法を減速機100に適用する場合、動円CRおよび定円CFの半径rは、伝動歯車140の基準円(「ピッチ円」とも呼ばれる)の半径、すなわち、入力歯車130の基準円の半径に設定され、動円CRの中心点からの点Pの距離aは、自転軸C2からの伝動ピン150の中心の距離に設定される。
【0070】
なお、
図3および
図4においては、動円CRの中心点からの点Pの距離aを動円CRの半径rよりも短くし、トロコイド曲線TT、エピトロコイド曲線ET、滑りトロコイド曲線TS2、および、滑りエピトロコイド曲線ES2(トロコイド曲線群)を描いているが、動円CRの中心点からの点Pの距離aを動円CRの半径rと同じ長さ(a=r)にしても良い。この場合、一般的に上述のように描かれる曲線は、サイクロイド曲線、エピサイクロイド曲線、滑りサイクロイド曲線、および、滑りエピサイクロイド曲線(サイクロイド曲線群)と呼ばれる。しかしながら、サイクロイド曲線群は、動円CRの中心点からの点Pの距離aを動円CRの半径rと同じ長さにした特定のトロコイド曲線群であり、サイクロイド曲線群は、トロコイド曲線群に含まれると解釈される。
【0071】
A4.減速機の動作:
図5および
図6は、第1実施形態の減速機100(
図1)の動作の様子を示す説明図である。
図5(a)、
図5(b)、
図6(a)および
図6(b)は、この順に、入力シャフト120に動力を入力して入力歯車130を回転させた際の時間的な変化を示している。なお、
図5および
図6では、減速機100のうち、入力歯車130、伝動歯車140、伝動ピン150、ならびに、ローター160を構成する外壁部164および内壁部166を、出力側から見た様子を示している。また、
図5および
図6に示す減速機100の動作において、4つの伝動ピン150は、それぞれ別個に作用する。そのため、減速機100の動作の説明にあたって、個々の伝動ピン150を区別する必要がある場合には、伝動ピン150[1]のように、符号の後に個々の伝動ピン150を区別するための文字列を付加して説明する。
【0072】
入力シャフト120に動力を入力し、
図5および
図6において白抜きの矢印に示すように、入力歯車130を回転させると、入力歯車130と噛み合う伝動歯車140は、入力歯車130の回転方向と逆方向に回転する。この伝動歯車140の回転に伴い、伝動歯車140に取り付けられた伝動ピン150は、それぞれ、自転軸C2を中心に回転する。従って、特定の時点における伝動ピン150の移動方向(黒矢印で示す)は、自転軸C2を中心とする伝動ピン150の回転の接線方向、つまり、自転軸C2から伝動ピン150の中心を見た方向に直交する方向となる。
【0073】
このとき、伝動ピン150の移動方向が、伝動ピン150の中心における滑りエピトロコイド曲線ES7の接線(以下、単に「滑りエピトロコイド曲線ES7の接線」と呼ぶ)と平行である場合、伝動ピン150が移動しても、伝動ピン150から外壁部164あるいは内壁部166に応力が加わらない。従って、伝動ピン150の移動方向が滑りエピトロコイド曲線ES7の接線に平行となる位置に伝動ピン150が位置している場合、その伝動ピン150は、動力の伝達に寄与しない。
【0074】
しかしながら、伝動ピン150は、固定された自転軸C2を中心として回転しているため、伝動ピン150の中心の軌跡は自転軸C2を中心とした円を描き、滑りエピトロコイド曲線ES7を描かない。そのため、伝動ピン150の移動方向は、滑りエピトロコイド曲線ES7の接線に対して常に平行とはならず、伝動ピン150の移動方向と、滑りエピトロコイド曲線ES7の接線の方向との間にずれが生じる。
【0075】
滑りエピトロコイド曲線ES7の接線の方向と、伝動ピン150の移動方向との間にずれが生じた場合、接線方向に対して移動方向がずれている方向(移動ずれ方向)において、伝動ピン150にその移動を規制する部材(外壁部164あるいは内壁部166)が接触していれば、その部材(すなわち、ローター160)には、伝動ピン150から応力が加わる。そして、伝動ピン150からローター160に応力が加わることにより、伝動ピン150からローター160に動力が伝達される。
【0076】
上述のように、ローター160(溝169)に対する伝動ピン150の相対的な位置が規制されているので、ローター160から見ると、伝動ピン150の中心は、滑りエピトロコイド曲線ES7を描くように移動する。この状態で伝動ピン150を自転軸C2を中心とした円を描くように移動させると、ローター160は、伝動ピン150の移動に応じて、中心軸C1を中心に回転する。なお、このときのローター160の回転速度は、滑りエピトロコイド曲線ES7の滑り倍率Mが7に設定されているので、伝動ピン150および伝動ピン150が取り付けられた伝動歯車140の回転速度の1/7に減速される。
【0077】
このように、ローター160は、自転軸C2を中心とする伝動ピン150の回転に応じて、減速比7で減速された状態で、中心軸C1を中心として回転する。そして、ローター160に取り付けられた出力シャフト170(
図1)から、減速された回転動力が出力される。
【0078】
図5(a)は、入力歯車130をまだ回転させていない初期状態を示している。なお、入力歯車130およびローター160の回転角は、この初期状態における回転角を0°として説明する。
図5(a)に示す初期状態において、4つの伝動ピン150は、それぞれが取り付けられた伝動歯車140の自転軸C2の上方向に位置している。そのため、初期状態では、4つの伝動ピン150の移動方向は、いずれも左方向となっている。なお、上方向あるいは左方向とは、
図5(a)の紙面における上あるいは左の方向を謂う。同様に、以下では、上下左右の各方向は、図面の紙面における方向として規定する。
【0079】
この初期状態において、4つの伝動ピン150のうち、1番目、2番目および4番目の伝動ピン150[1],150[2],150[4]は、ローター160の外壁部164と内壁部166との双方に接触し、3番目の伝動ピン150[3]は、内壁部166にのみ接触している。
【0080】
1番目の伝動ピン150[1]は、外壁部164と内壁部166との双方に接触しているものの、その移動方向が滑りエピトロコイド曲線ES7の接線と平行であるため、動力の伝達に寄与しない。同様に、3番目の伝動ピン150[3]は、内壁部166に接触しているものの、その移動方向が滑りエピトロコイド曲線ES7の接線と平行であるため、動力の伝達に寄与しない。
【0081】
一方、2番目の伝動ピン150[2]の移動方向は、滑りエピトロコイド曲線ES7の接線から内壁部166側にずれている。そのため、伝動ピン150[2]から、その移動ずれ方向において接触する内壁部166には、応力が加わる。同様に、4番目の伝動ピン150[4]からは、その移動ずれ方向において接触する外壁部164に応力が加わる。
【0082】
このようにして、初期状態においては、2番目の伝動ピン150[2]から内壁部166へ応力が加わり、4番目の伝動ピン150[4]から外壁部164へ応力が加わるため、伝動ピン150からローター160への動力の伝達が行われる。
【0083】
図5(b)は、初期状態(
図5(a))から入力歯車130を回転させ、入力歯車130の回転角が70°、ローター160の回転角が10°となった第1の回転状態(回転状態1)を示している。このとき、伝動歯車140と伝動ピン150とは、入力歯車130が右回り(時計回り)に70°回転するのに伴って、左回り(反時計回り)に70°回転する。そのため、伝動ピン150の移動方向も、自転軸C2を中心として、左回りに70°回転している。
【0084】
このとき、第2の伝動ピン150[2]は、内壁部166と接触しているものの、その移動ずれ方向が内壁部166から離れる方向に向いているので、動力の伝達に寄与しない。また、第3の伝動ピン150[3]は、外壁部164と内壁部166とのいずれとも接触していないので、動力の伝達に寄与しない。一方、第1の伝動ピン150[1]からは、その移動ずれ方向において接触する内壁部166へ応力が加わり、第4の伝動ピン150[4]からは、その移動ずれ方向において接触する外壁部164へ応力が加わる。そのため、
図5(b)に示す第1の回転状態においても、伝動ピン150からローター160への動力の伝達が行われる。
【0085】
図6(a)は、入力歯車130の回転角が140°、ローター160の回転角が20°となった第2の回転状態(回転状態2)を示している。このとき、伝動ピン150の移動方向は、
図5(a)に示す初期状態から、自転軸C2を中心として、左回りに140°回転している。
【0086】
この第2の回転状態において、第1の伝動ピン150[1]は、内壁部166と接触しているものの、その移動ずれ方向が内壁部166から離れる方向に向いているので、動力の伝達に寄与しない。一方、第2の伝動ピン150[2]および第4の伝動ピン150[4]は、それぞれの移動ずれ方向において内壁部166に接触しているため、これらの伝動ピン150[2],150[4]から内壁部166に応力が加わる。また、第3の伝動ピン150[3]からは、その移動ずれ方向において接触する外壁部164へ応力が加わる。そのため、
図6(a)に示す第2の回転状態においても、伝動ピン150からローター160への動力の伝達が行われる。
【0087】
図6(b)は、入力歯車130の回転角が210°、ローター160の回転角が30°となった第3の回転状態(回転状態3)を示している。このとき、伝動ピン150の移動方向は、
図5(a)に示す初期状態から、自転軸C2を中心として、左回りに210°回転している。
【0088】
この第3の回転状態において、第4の伝動ピン150[4]は、内壁部166と接触しているものの、その移動ずれ方向が内壁部166から離れる方向に向いているので、動力の伝達に寄与しない。一方、第1の伝動ピン150[1]および第3の伝動ピン150[3]は、それぞれの移動ずれ方向において内壁部166に接触しているため、これらの伝動ピン150[1],150[3]から内壁部166に応力が加わる。また、第2の伝動ピン150[2]からは、その移動ずれ方向において接触する外壁部164へ応力が加わる。そのため、
図6(b)に示す第3の回転状態においても、伝動ピン150からローター160への動力の伝達が行われる。
【0089】
このように、減速機100では、ローター160の回転状態の如何に拘わらず、外壁部164と内壁部166との双方には、4つの伝動ピン150のうちのいずれかから応力が加わり、伝動ピン150からローター160へ動力が伝達される。そのため、第1実施形態の減速機100(
図1)によれば、入力された回転動力を減速しつつ、伝動ピンからローターへ安定的に動力を伝達し、減速された回転動力を安定的に出力すること(すなわち、出力のトルク変動を低減すること)が可能となる。
【0090】
図1に示すように、第1実施形態の減速機100において、回転の中心となる中心軸C1,C2に対して非対称となっているのは、伝動歯車140に形成されたピン取付穴148、伝動歯車140に取り付けられた伝動ピン150、および、ローター160に形成された溝169(あるいは、溝169を形成する外壁部164と内壁部166)となっている。これらの非対称な部分に関する重量は、減速機100において回転する部材全体の重量に対して十分に小さいため、減速機100は、回転の中心軸C1,C2に対する重量の対称性が全体として高くなっている。そのため、第1実施形態の減速機100によれば、回転動力を減速して伝達する際に、振動が発生することを抑制することができる。
【0091】
なお、第1実施形態の減速機100では、溝169の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線ES7の滑り倍率Mを7としているため、減速比が7となっているが、必要とする減速比に応じて、滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率Mを高くすれば、減速比をより高くすることができる。そのため、第1実施形態によれば、減速機の減速比を十分に高くすることができる。
【0092】
また、第1実施形態の減速機100では、入力歯車130の歯数と、伝動歯車140の歯数とを同数(20枚)としているが、入力歯車の歯数と伝動歯車の歯数とは、必ずしも同数である必要はない。入力歯車の歯数と伝動歯車の歯数とを同数としない場合、入力歯車から伝動歯車に動力が伝達される際に、歯数の比で決定される変速比で、減速あるいは増速される。そのため、減速機全体としての減速比をより細かく設定することができる。但し、入力歯車と伝動歯車との歯形を同一とすることができ、入力歯車と伝動歯車とをより簡単に設計することができる点で、入力歯車の歯数と伝動歯車の歯数とは、同数とするのが好ましい。
【0093】
また、減速比をより高くするという観点から云えば、伝動歯車の歯数を入力歯車の歯数よりも多くするのが好ましいが、後述するように、伝動歯車の歯数を入力歯車の歯数よりも多くした場合、伝動歯車の数の上限が低くなる。そのため、伝動歯車の歯数と入力歯車の歯数との比は、この点を考慮して決定するのが好ましい。
【0094】
入力歯車の歯数と伝動歯車の歯数とを同数としない場合、伝動歯車の基準円の半径と、入力歯車の基準円の半径とが異なっているため、これらの基準円の半径をそのまま用いて、
図4(b)に示すように滑りエピトロコイド曲線の生成を行うことはできない。しかしながら、滑りエピトロコイド曲線の生成に使用される、動円CRおよび定円CFの半径rおよび動円CRの中心点からの点Pの距離aとして、入力歯車の基準円の半径Rsと、伝動歯車の基準円の半径Rpと、伝動歯車の中心点(自転軸C2)からの伝動ピンの中心までの距離Dとを用いて、次の式(6)で与えられる値を用いれば、上述のように滑りエピトロコイド曲線を生成することができる。
【数6】
【0095】
このように、第1実施形態によれば、薄型化が可能な減速機において、減速比を十分に高くするとともに、動力伝達時の振動を抑制することが可能となる。また、ローター160の回転状態の如何に関わらず、外壁部164と内壁部166との双方には、4つの伝動ピン150のうちのいずれかから応力が加わるので、伝動ピン150とローター160との間でバックラッシュはほとんど発生しない。そのため、減速機100のバックラッシュは、一般的な遊星歯車減速機のバックラッシュと同程度あるいはそれ以下にすることができる。
【0096】
B.第2実施形態:
B1.減速機の構成:
図7は、本発明の第2実施形態としての減速機200の構成を示す分解斜視図である。この減速機200においても、第1実施形態の減速機100と同様に、中心軸C1を中心として回転する動力を減速して、中心軸C1を中心として回転する動力を出力する。
【0097】
図7に示すように、減速機200は、ステーター210と、入力シャフト120aと、入力側入力歯車220と、4つの入力側伝動歯車230と、4つの入力側伝動歯車230のそれぞれに取り付けられた4つの規制ピン240と、キャリア110aと、出力側入力歯車130aと、4つの出力側伝動歯車140aと、4つの出力側伝動歯車140aのそれぞれに取り付けられた4つの伝動ピン150aと、ローター160aと、出力シャフト170aとを備えている。
【0098】
減速機200の入力シャフト120a、キャリア110a、出力側入力歯車130a、出力側伝動歯車140a、伝動ピン150a、ローター160aおよび出力シャフト170aは、それぞれ、第1実施形態の減速機100(
図1)における、入力シャフト120、ステーター110、入力歯車130、伝動歯車140、伝動ピン150、ローター160および出力シャフト170と、構成および機能がほぼ同じである。そのため、以下では、これらにおいて共通する部分の説明を省略する。
【0099】
図7から分かるように、減速機200では、主要な構成要素として、ステーター210および規制ピン240と、入力側入力歯車220および入力側伝動歯車230と、キャリア110aと、出力側入力歯車130aおよび出力側伝動歯車140aと、伝動ピン150aおよびローター160aとがこの順で中心軸C1の方向に配列される。これらステーター210および規制ピン240、入力側入力歯車220、入力側伝動歯車230、キャリア110a、出力側入力歯車130a、出力側伝動歯車140a、伝動ピン150aおよびローター160aは、その厚みを薄くすることができるので、第1実施形態の減速機100と同様に、第2実施形態の減速機200は薄型化が可能となっている。
【0100】
ステーター210は、中心軸C1と直交する略円盤状の部材であり、平板状の平板部212と、平板部212の外縁部から出力側に伸びる外壁部214と、平板部212の中央部から出力側に伸びる内壁部216とを有している。ローター160aと同様に、ステーター210においても、外壁部214と内壁部216とが設けられることにより、出力側の面に溝219が形成される。ステーター210には、また、その中央部において中心軸C1方向に貫通する貫通穴218が設けられており、当該貫通穴218を通して入力シャフト120aが配置される。入力シャフト120aには、その出力側の端面に2つのねじ孔129aが設けられている。
【0101】
入力側入力歯車220および出力側入力歯車130aは、いずれも、歯数が20枚の歯車であり、その中心近傍に入力シャフト120aを固定するための2つの貫通孔229,139aが設けられている。この貫通孔229,139aに図示しないボルトを出力側から通し、当該ボルトを入力シャフト120aのねじ孔129aにねじ込むことにより、入力側入力歯車220および出力側入力歯車130aは、入力シャフト120aに固定される。
【0102】
また、図示しないが、入力側入力歯車220と出力側入力歯車130aとの間には、キャリア110aの貫通穴119aに固定された軸受が配置されている。この軸受を入力側入力歯車220と出力側入力歯車130aとが挟み込むことにより、入力側入力歯車220と出力側入力歯車130aとは、中心軸C1を中心に回転可能な状態で、キャリア110aに保持される。このとき、歯数が同一の入力側入力歯車220と出力側入力歯車130aとは、同期して回転する。そのため、入力側入力歯車220と出力側入力歯車130aとは、一体の歯車(入力歯車)として取り扱うことができる。
【0103】
入力側伝動歯車230は、入力側入力歯車220の歯222と噛み合う歯232が形成された歯車であり、出力側伝動歯車140aは、出力側入力歯車130aの歯132aと噛み合う歯142aが形成された歯車である。入力側伝動歯車230および出力側伝動歯車140aの歯数は、いずれも、入力歯車220,130aと同じ20枚となっている。
【0104】
入力側伝動歯車230の中心近傍には、2つのねじ孔239が設けられており、出力側伝動歯車140aの中心近傍には、入力側伝動歯車230を固定するための2つの貫通孔149aが設けられている。この貫通孔149aに図示しないボルトを出力側から通し、当該ボルトを入力側伝動歯車230のねじ孔239にねじ込むことにより、入力側伝動歯車230と、出力側伝動歯車140aとは、互いに固定される。
【0105】
また、図示しないが、入力側伝動歯車230と出力側伝動歯車140aとの間には、入力歯車220,130aと同様に、キャリア110aの貫通穴118aに固定された軸受が配置されている。この軸受を入力側伝動歯車230と出力側伝動歯車140aとが挟み込むことにより、入力側伝動歯車230と出力側伝動歯車140aとは、自転軸C3を中心に回転可能な状態で、キャリア110aに保持される。そのため、入力側伝動歯車230および出力側伝動歯車140aも、同期して回転する歯数が同一の歯車となるので、一体の歯車(伝動歯車)として取り扱うことができる。
【0106】
入力側伝動歯車230および出力側伝動歯車140aには、それぞれ、自転軸C3から離れた位置において、ピン取付穴238,148aが設けられている。入力側伝動歯車230のピン取付穴238には、入力側伝動歯車230から入力側のステーター210に向かって伸びるように、円柱状の規制ピン240が嵌め込まれている。また、出力側伝動歯車140aのピン取付穴148aには、出力側伝動歯車140aから出力側のロータ―160aに向かって伸びるように、円柱状の伝動ピン150aが嵌め込まれている。
【0107】
入力側伝動歯車230のピン取付穴238に嵌め込まれた規制ピン240は、ステーター210に形成された溝219に収容される。そのため、規制ピン240の移動は、ステーター210の溝219により規制される。このとき、入力歯車220,130aを回転させると、伝動歯車230,140aがその自転軸C3を中心に自転するとともに、キャリア110aおよび伝動歯車230,140aの自転軸C3は、後述するように、中心軸C1を中心に入力歯車220,130aと逆方向に回転する。従って、自転軸C3は、ステーター210により、中心軸C1を中心に公転するように規制されていると謂うことができる。
【0108】
一方、ローター160aは、入力歯車220,130aを回転させると、第1実施形態の減速機100と同様に、キャリア110aに対して、入力歯車220,130aと同方向、すなわち、キャリア110aと逆方向に回転する。このように、ローター160aがキャリア110aおよび伝動歯車230,140aの自転軸C3と逆方向に回転するため、第2実施形態の減速機200は、第1実施形態の減速機100よりも、より大きな減速比で動力を伝達することができる。
【0109】
なお、第2実施形態では、
図7に示すように、キャリア110aの入力側(ステーター210側)に入力側入力歯車220と入力側伝動歯車230とを配置し、キャリア110aの出力側(ローター160a側)に出力側入力歯車130aと出力側伝動歯車140aとを配置している。しかしながら、上述のように、入力側入力歯車220および出力側入力歯車130aと、入力側伝動歯車230および出力側伝動歯車140aとは、それぞれ同期して回転する。そのため、入力側と出力側とのいずれか一方について、入力歯車を省略し、伝動歯車に替えて規制ピン240あるいは伝動ピン150aが取り付け可能な部材(例えば、円盤状部材)を用いることも可能である。この場合、噛み合う歯車の数が減少するので、摩擦による動力の伝達効率の低下を抑制することができる。
【0110】
一方、第2実施形態に示すように、キャリア110aの入力側と出力側との双方に入力歯車220,130aおよび伝動歯車230,140aを配置すれば、入力歯車220,130aと伝動歯車230,140aとの間の接触面積を広くして、入力歯車220,130aから伝動歯車230,140aへのトルクの伝達をより良好にすることができる。また、このようにすることで、キャリア110aの入力側と出力側との双方に入力歯車220,130aおよび伝動歯車230,140aを配置しない場合よりも、バックラッシュをさらに低減することも可能となる。
【0111】
B2.減速機の動作:
図8および
図9は、第2実施形態の減速機200(
図7)の動作の様子を示す説明図である。
図8は、キャリア110aが回転する様子を示し、
図9は、キャリア110aおよびローター160aが回転する様子を示している。なお、
図8および
図9では、入力側から出力側に向かう方向を、丸の中に×を付けた記号(紙面の表から裏へ向かう紙面と垂直な方向)と、丸の中心に点を付けた記号(紙面の裏から表へ向かう紙面と垂直な方向)とで表している。また、各部の回転角度については、これらの記号を囲む矢印の方向、すなわち、出力側から見て右回り(時計回り)を正方向とし、出力側から見て左回り(反時計回り)を負方向として表記する。
【0112】
図8(a)および
図8(b)は、この順に、入力シャフト120aに動力を入力して入力歯車220を回転させた際の時間的な変化を示している。なお、
図8では、減速機200のうち、入力歯車220、伝動歯車230、規制ピン240、ならびに、ステーター210を構成する外壁部214および内壁部216を、入力側から見た様子を示している。また、
図8では、便宜上、キャリア110a自体の図示を省略し、キャリア110aの回転を伝動歯車230の自転軸C3の回転(公転)で表している。
【0113】
上述のように、外壁部214と内壁部216とを設けることにより、ステーター210には、溝219が形成される。この溝219は、規制ピン240の中心が滑り倍率Nが9の滑りエピトロコイド曲線ES9上を移動した際に、規制ピン240が掃く領域に形成されている。このように、溝219の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線ES9の滑り倍率Nを9とすることにより、キャリア110aを固定して、ステーター210を回転可能とした場合、入力歯車220を1回転させると、ステーター210は、入力歯車220と同方向に1/9回転(1/N回転)回転する。
【0114】
入力シャフト120aに動力を入力し、
図8において白抜きの矢印に示すように、入力歯車220を回転させると、入力歯車220と噛み合う伝動歯車230は、入力歯車220の回転方向と逆方向に回転する。この伝動歯車230の回転に伴い、伝動歯車230に取り付けられた規制ピン240は、それぞれ、自転軸C3を中心に回転する。そして、規制ピン240がステーター210の溝219により規制されることにより、キャリア110aおよび伝動歯車230の自転軸C3は、入力歯車220と逆方向に回転する。
【0115】
図8の例では、
図8(a)に示す初期状態から、入力歯車220を80°回転させると、
図8(b)に示すように、キャリア110aおよび伝動歯車230の自転軸C3は、-10°回転する。また、伝動歯車230は、キャリア110aを基準として-90°回転し、ステーター210を基準として-100°回転する。
【0116】
図9(a)は、
図8と同様に、入力歯車220、伝動歯車230、規制ピン240、ならびに、ステーター210を構成する外壁部214および内壁部216を、入力側から見た様子を示し、
図9(b)は、入力歯車130a、伝動歯車140a、伝動ピン150aおよびローター160aを出力側から見た様子を示している。なお、
図9においても、便宜上、キャリア110a自体の図示を省略し、キャリア110aの回転を伝動歯車230,140aの自転軸C3の回転(公転)で表している。
【0117】
図9の例では、
図8(a)に示す初期状態から、入力歯車220,130aを140°回転させている。そのため、
図9に示すように、キャリア110aおよび伝動歯車230,140aの自転軸C3は、-17.5°回転する。また、伝動歯車230,140aは、キャリア110aを基準として-157.5°回転し、ステーター210を基準として-175°回転する。
【0118】
一方、
図9(b)に示すように、ローター160aに形成された溝169aの形状が滑り倍率Mが7の滑りエピトロコイド曲線ES7により規定されている。そのため、キャリア110aを基準とすると、ローター160aの回転は、伝動歯車140aの回転に対して滑り倍率M(7)だけ減速されるので、22.5°回転する。そのため、ステーター210を基準としたローター160aの回転角は、キャリア110aの回転角(-17.5°)と、キャリア110aを基準とした場合のローター160aの回転角(22.5°)とを加算した5°となる。このことから分かるように、ローター160aは、入力歯車220,130aと同方向に、減速比28で減速されて回転する。
【0119】
このように、第2実施形態の減速機200(
図7)では、入力側伝動歯車230に取り付けられた規制ピン240をステーター210に設けられた溝219に収容することで、キャリア110aを入力歯車220,130aと逆方向に回転、すなわち、伝動歯車230,140aの自転軸C3を入力歯車220,130aと逆方向に公転させている。一方、ローター160aは、伝動歯車230,140aが自転軸C3を中心に自転することにより、伝動歯車230,140aと逆方向、すなわち、入力歯車220,130aと同方向に回転する。このとき、キャリア110a(自転軸C3)を基準としたローター160aの回転と、自転軸C3の公転とが相殺されるので、ステーター210を基準としたローター160aの回転をより遅くし、減速機200の減速比をより大きくすることができる。
【0120】
なお、
図7に示すように、第2実施形態の減速機200においても、回転の中心となる中心軸C1,C3に対して非対称となっているのは、伝動歯車230,140aに形成されたピン取付穴238,148a、規制ピン240、伝動ピン150a、および、ステーター210やローター160aに形成された溝219,169a(あるいは、溝219,169aを形成する外壁部214,164aと内壁部216,166a)となっている。これらの非対称な部分に関する重量は、減速機200において回転する部材全体の重量に対して十分に小さいため、減速機200は、回転の中心軸C1,C3に対する重量の対称性が全体として高くなっている。そのため、第2実施形態の減速機200によっても、回転動力を減速して伝達する際に、振動が発生することを抑制することができる。
【0121】
また、第2実施形態の減速機200では、ローター160aの溝169aの形状を規定する滑りエピトロコイド曲線ES7の滑り倍率Mを7とし、ステーター210の溝219の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線ES9の滑り倍率Nを9としているため、減速比が28となっているが、必要とする減速比に応じて、滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率M,N(≠M)を調整すれば、減速比をより的確に調整することができる。
【0122】
さらに、第2実施形態の減速機200では、入力歯車220,130aの歯数と伝動歯車230,140aの歯数とを同数(20枚)としているが、入力歯車の歯数と伝動歯車の歯数とは、必ずしも同数である必要はない。この場合においても、第1実施形態と同様に、入力歯車の歯数と伝動歯車の歯数とを適宜調整することにより、減速機全体としての減速比をより細かく設定することができる。
【0123】
このような減速機による減速比は、通常、作表法等を用いて算出することができる。具体的には、次の表1に示すように、キャリアを固定した状態で、入力歯車を1回転させた場合と、全体を糊付けした状態で、ステーターの回転を相殺するように入力歯車を回転させた場合とについて入力歯車、伝動歯車、キャリア、ステーターおよびローターの各部の回転数を算出する。次いで、これらの2条件での各部の回転数を加算することにより、減速機における各部の回転数を算出する。なお、表1において、M,N,s,pは、それぞれ、ローターの溝の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率、ステーターの溝の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率、入力歯車の歯数、および、伝動歯車の歯数を表している。
【表1】
【0124】
このようにして各部の回転数を算出した後、算出された入力歯車の回転数をローターの回転数で除することにより、減速機全体の減速比Zが得られる。このようにして得られた減速比Zは、次の式(7)で表される。
【数7】
【0125】
このように、第2実施形態によっても、第1実施形態と同様に、薄型化が可能な減速機において、減速比を十分に高くするとともに、動力伝達時の振動を抑制することが可能となる。また、ステーター210と4つの規制ピン240のうちのいずれかとが常時接触するとともに、ローター160aと4つの伝動ピン150aのうちのいずれかとが常時接触するので、ステーター210と規制ピン240との間、および、ローター160aと伝動ピン150aとの間でバックラッシュはほとんど発生しない。そのため、減速機200のバックラッシュは、一般的な遊星歯車減速機のバックラッシュと同程度あるいはそれ以下にすることができる。さらに、第2実施形態は、上述のように減速機200の減速比をより大きくすることが容易となる点で、第1実施形態よりも好ましい。一方、第1実施形態は、減速機100の構成がより簡単になる点で、第2実施形態よりも好ましい。
【0126】
C:溝形状の変形例:
図10および
図11は、ローターに形成された溝の変形例を示す説明図である。
図10および
図11の例では、第1実施形態で例示した減速機100を基とした溝形状の変形例を示しているが、第2実施形態においても同様の変形が可能である。なお、
図10および
図11では、入力歯車130b,130c,130d,130e、伝動歯車140b,140c,140d,140e、伝動ピン150b,150c,150d,150e、ならびに、ローター160b,160c,160d,160eを構成する外壁部164b,164c,164d,164eおよび内壁部166b,166c,166d,166eを、出力側から見た様子を示している。また、
図10および
図11では、ローターに形成された溝の変形例を示しているが、第2実施形態で例示した減速機200のように、ステーターに溝を形成する場合、ステーターに形成された溝についても同様の変形を行うことも可能である。
【0127】
図10(a)は、溝形状の第1の変形例(溝形状変形例1)として、ローター160bに滑り倍率Mを9とする滑りエピトロコイド曲線ES9により形状が規定された溝169bを形成した様子を示している。第1実施形態で例示した減速機100では、上述のように、溝の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率Mは、2以上の任意の整数であればよい。従って、
図10(a)に示すように、滑り倍率Mを9とする滑りエピトロコイド曲線ES9で規定された溝169bが形成されたローター160bを使用することも可能である。この場合、伝動ピン150b[1],150b[3]と、伝動ピン150b[2],150b[4]とは、それぞれが取り付けられた伝動歯車140bの自転軸C2に対する位置関係が反対となっている。このように、溝の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率Mを変更した場合等、溝の形状を変更した場合においては、自転軸C2に対する伝動ピンの位置は、適宜調整される。
【0128】
図10(b)は、溝形状の第2の変形例(溝形状変形例2)として、ローター160cに滑り倍率Mを9とする滑りハイポトロコイド曲線HS9により形状が規定された溝169cを形成した様子を示している。なお、滑りハイポトロコイド曲線は、一般的に、動円を定円の内周に沿って滑らせながら転がした際に、動円中の点が描く軌跡として規定されるが、本明細書においては、次の式(8)で表される閉曲線を滑り倍率Mの滑りハイポトロコイド曲線と謂う。
【数8】
【0129】
なお、式(8)における、rおよびaとしては、入力歯車130cの基準円の半径Rsと、伝動歯車140cの基準円の半径Rpと、伝動歯車140cの中心点(自転軸C2)からの伝動ピン150cの中心までの距離Dとを用いて、上記式(6)によって算出される値が使用される。
【0130】
この場合においても、ローター160cと4つの伝動ピン150cのうちのいずれかとが常時接触するので、ローター160cの回転状態の如何に拘わらず、外壁部164cと内壁部166cとの双方には、4つの伝動ピン150cのうちのいずれかから応力が加わり、伝動ピン150cからローター160cへ動力が伝達される。また、この場合において、伝動ピン150cからローター160cに動力が伝達される際の減速比は、滑り倍率Mと同じ9となる。
【0131】
このように、ローター160cに形成される溝169cの形状を、滑りハイポトロコイド曲線HS9により規定することにより、伝動ピン150cが掃く領域の重複部分を、滑りエピトロコイド曲線ES9で規定した場合よりも小さくすることができる。そのため、滑り倍率Mをより大きくし、あるいは、伝動ピンをより太くすることが可能となる。従って、滑りハイポトロコイド曲線HS9により形状が規定された溝169cを用いることにより、減速比をより大きくし、あるいは、伝達可能なトルクをより大きくすることが容易となる。
【0132】
なお、滑りエピトロコイド曲線と滑りハイポトロコイド曲線とは、いずれも、動円を定円の外周あるいは内周に沿って滑らせながら転がした際に、動円中の点が描く軌跡であるので、滑り円トロコイド曲線とも呼ぶことができる。また、軌跡を描く点の動円の中心点からの距離を、動円の半径と同じ長さとした場合に描かれる軌跡(滑りエピサイクロイド曲線および滑りハイポサイクロイド曲線)も、滑り円トロコイド曲線に含まれる。
【0133】
図11(a)は、溝形状の第3の変形例(溝形状変形例3)として、ローター160dに滑り倍率Mが9の二重滑りエピトロコイド曲線DES9によって形状が規定された溝169dを形成した様子を示している。ここで、二重滑りエピトロコイド曲線DES9とは、伝動ピン150dの回転角を0°とした状態に対応する滑りエピトロコイド曲線ES9[1]と、伝動ピン150dの回転角を180°とした状態に対応する滑りエピトロコイド曲線ES9[2]とを重ね合わせた曲線である。なお、これら2本の滑りエピトロコイド曲線ES9[1],ES9[2]に対応する伝動ピン150dの回転角の差を位相差と謂う。
【0134】
図11(a)に示すように、二重滑りエピトロコイド曲線DES9によって形状が規定された溝169dは、
図10(a)に示す滑りエピトロコイド曲線ES9によって形状が規定された溝169bに、位相差に応じた角度(180/M°)で回転させた溝169bを重ね合わせることで形成される。この場合、
図11(a)から分かるように、外壁部164dと二重滑りエピトロコイド曲線DES9との距離、および、内壁部166dと二重滑りエピトロコイド曲線DES9との距離は、いずれも、伝動ピン150dの外半径に等しくなる。
【0135】
溝169dの形状を二重滑りエピトロコイド曲線DES9で規定した場合、
図11(a)に示すように、伝動歯車140dに、
図10(a)と同位置の伝動ピン150d[1]~150d[4]と、位相差(180°)分回転させた位置に配置された伝動ピン150d[5]~150d[8]とを取り付けることが可能となる。このように、溝169dの形状を二重滑りエピトロコイド曲線DES9で規定することにより、回転動力の伝達に寄与する伝動ピン150dの本数を増やすことができるので、溝の形状を単一のエピトロコイド曲線で規定した場合よりも、出力されるトルクの変動をさらに抑制するとともに、バックラッシュをさらに低減することが可能となる。
【0136】
また、
図11(a)では、二重滑りエピトロコイド曲線DES9として、位相差が180°の2本の滑りエピトロコイド曲線ES9[1],ES9[2]を重ね合わせたものを用いているが、重ね合わせる2本の滑りエピトロコイド曲線の位相差は、必ずしも180°である必要はない。但し、出力されるトルクの変動を抑制するためには、位相差を180°とするのが好ましい。
【0137】
さらに、
図11(a)では、2本の滑りエピトロコイド曲線ES9[1],ES9[2]を重ね合わせた二重滑りエピトロコイド曲線DES9により溝169dの形状を規定しているが、重ね合わせる滑りエピトロコイド曲線の本数は、必ずしも2本でなくとも良い。但し、重ね合わせる滑りエピトロコイド曲線の本数と、伝動ピンの太さと、滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率Mとが増大すると、溝の重複部分(
図2の重複部分AD参照)が重なりあう。そのため、重ね合わせる滑りエピトロコイド曲線の本数は、伝動ピンの太さと、滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率Mとを考慮して適宜設定される。
【0138】
なお、第1の滑りエピトロコイド曲線ES9[1]について云えば、外壁部164dの内面は、全体としては、滑りエピトロコイド外平行曲線形状とはなっていないが、少なくとも第1の伝動ピン150d[1]の近傍においては、外壁部164dの内面は、滑りエピトロコイド外平行曲線形状となっている。従って、外壁部164dも滑りエピトロコイド外平行曲線形状の内面を有していると謂うことができる。同様に、内壁部166dの外面は、全体としては、滑りエピトロコイド内平行曲線形状とはなっていないが、少なくとも第3の伝動ピン150d[3]の近傍においては、内壁部166dの外面は、滑りエピトロコイド内平行曲線形状となっている。従って、内壁部166dも滑りエピトロコイド内平行曲線形状の外面を有していると謂うことができる。
【0139】
また、上述の通り、二重滑りエピトロコイド曲線DES9は、2本の滑りエピトロコイド曲線ES9[1],ES9[2]を重ね合わせた曲線である。そのため、二重滑りエピトロコイド曲線DES9も、滑りエピトロコイド曲線の一種であると謂うこともできる。従って、外壁部164dの内面と滑りエピトロコイド曲線との距離、および、内壁部166dの外面と滑りエピトロコイド曲線との距離は、いずれも、伝動ピン150dの外半径と等しくなっているとも謂うことができる。
【0140】
図11(b)は、溝形状の第4の変形例(溝形状変形例4)として、ローター160eに滑り倍率Mが9の二重滑りハイポトロコイド曲線DHS9によって形状が規定された溝169eを形成した様子を示している。
図11(b)に示す溝形状変形例4は、2本の滑りエピトロコイド曲線ES9[1],ES9[2]を重ね合わせた二重滑りエピトロコイド曲線DES9に替えて、2本の滑りハイポトロコイド曲線HS9[1],HS9[2]を重ね合わせた二重滑りハイポトロコイド曲線DHS9で溝169eの形状を規定している点のほかは、溝形状変形例3と同様である。そのため、ここでは詳細な説明を省略するが、溝形状変形例4においても、回転動力の伝達に寄与する伝動ピン150eの本数を増やすことができるので、溝の形状を単一のハイポトロコイド曲線で規定した場合よりも、出力されるトルクの変動をさらに抑制するとともに、バックラッシュをさらに低減することが可能となる。
【0141】
溝形状の他の変形例として、図示しないが、ローターを構成する外壁部と内壁部とのいずれか一方を省略することも可能である。この場合においても、残存する外壁部あるいは内壁部に対して、ローターの他の部分は、凹んだ形状となるので、外壁部あるいは内壁部を省略したローターには凹形状の凹部(ローター凹部)が形成されていると謂うこともできる。そして、中心軸C1方向においては、伝動ピンが凹部に入っている状態となるので、伝動ピンは凹部に収容されていると謂うことができる。
【0142】
但し、上記各実施形態や溝形状変形例1に示すように、滑りエピトロコイド曲線により溝の形状を規定した場合、滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率Mや、ローターの回転状態の如何に関わらず、4つの伝動ピンのうちのいずれかから外壁部に応力が加わるようにすることが容易となる。そのため、滑りエピトロコイド曲線により形状が規定された溝を形成したローターから、外壁部と内壁部とのいずれかを省略する場合、内壁部を省略し、外壁部を残すのが好ましい。
【0143】
一方、溝形状変形例3に示すように、二重滑りエピトロコイド曲線等により溝の形状を規定した場合、外壁部の内面は、その凹凸が小さくなる。そのため、二重滑りエピトロコイド曲線等により形状が規定された溝を形成したローターから、外壁部と内壁部とのいずれかを省略する場合、外壁部を省略し、内壁部を残すのが好ましい。
【0144】
また、溝形状変形例2に示すように、滑りハイポトロコイド曲線により溝の形状を規定した場合、滑りハイポトロコイド曲線の滑り倍率Mや、ローターの回転状態の如何に関わらず、4つの伝動ピンのうちのいずれかから内壁部に応力が加わるようにすることが容易となる。そのため、滑りハイポトロコイド曲線により形状が規定された溝を形成したローターから、外壁部と内壁部とのいずれかを省略する場合、外壁部を省略し、内壁部を残すのが好ましい。
【0145】
一方、溝形状変形例4に示すように、二重滑りハイポトロコイド曲線等により溝の形状を規定した場合、内壁部の外面は、その凹凸が小さくなる。そのため、二重滑りハイポトロコイド曲線等により形状が規定された溝を形成したローターから、外壁部と内壁部とのいずれかを省略する場合、内壁部を省略し、外壁部を残すのが好ましい。
【0146】
D.変形例:
本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0147】
D1.変形例1:
上記各実施形態では、円柱状の伝動ピン150,150aは、ピン取付穴148,148aに嵌め込まれることにより伝動歯車140,140aに取り付けられているが、伝動ピンと伝動歯車とを一体に形成することも可能である。この場合においても、伝動ピンは、伝動歯車に取り付けられていると謂うことができる。なお、上記各実施形態のように、伝動ピン150,150aと伝動歯車140,140aとを別個に形成した場合、伝動ピンの材質等を適宜選択して、ローター160,160aとの接触による摩耗を低減し、あるいは、ローター160,160aにかじりつくことを抑制することができる。この点において、伝動ピンと伝動歯車とは、別個に形成するのが好ましい。一方、伝動歯車の歯の位置に伝動ピンを取り付けることができ、伝動ピンの取付位置をより柔軟に変更することができる点で、伝動ピンと伝動歯車とは一体に形成するのが好ましい。また、第2実施形態における規制ピン240についても、同様の変形を行うことができる。
【0148】
D2.変形例2:
上記各実施形態では、入力シャフト120,120aに回転動力を入力し、出力シャフト170,170aから減速された回転動力を出力しているが、入力シャフト120,120aと出力シャフト170,170aとの少なくとも一方を省略することもできる。入力シャフト120,120aを省略する場合には、例えば、伝動歯車140,140aの位置に伝動ピン150,150aが取り付けられていない歯車を設け、当該歯車を介して入力歯車130,130aに動力を入力すれば良い。また、入力歯車をモーターの回転子として機能させ、入力歯車を直接電磁的に動かすことにより、入力歯車に動力を入力するものとしても良い。また、第2実施形態で例示した減速機200では、入力側の入力歯車220と伝動歯車230とについて、同様の変形を行うものとしても良い。一方、出力シャフト170,170aを省略する場合には、例えば、ローター160,160aを直接駆動対象に取り付ければ良い。
【0149】
D3.変形例3:
上記各実施形態では、平板状の平板部162,162aと、平板部162,162aから入力側に伸びる外壁部164,164aおよび内壁部166,166aとからローター160,160aを構成しているが、伝動ピン150,150aを収容する溝169,169aあるいは凹部が形成可能であれば、ローターの構成を適宜変更することも可能である。例えば、外壁部164,164aと内壁部166,166aとを棒状の部材で固定し、外壁部164,164aと内壁部166,166aとの位置関係を一定に保つようにすることもできる。この場合においても、外壁部164,164aと内壁部166,166aとにより溝169が形成されるので、減速機としての機能を実現することができる。また、第2実施形態の減速機200を構成するステーター210についても、同様の変形を行うことができる。
【0150】
D4.変形例4:
上記各実施形態では、自転軸C2,C3の数K(すなわち、伝動歯車140,140a,230の数)を4としているが、Kは、2以上の任意の整数とすることができる。但し、入力歯車と伝動歯車との大きさの関係によっては、隣接する伝動歯車が干渉する。そのため、Kの上限は、入力歯車と伝動歯車との大きさの関係、すなわち、入力歯車と伝動歯車とのそれぞれの歯数によって決定される。なお、上記各実施形態のように、入力歯車130,130a、220と伝動歯車140,140a,230との歯数が同じ場合、Kの上限は5となる。
【0151】
また、自転軸の数K(すなわち、伝動歯車の数)と、ローターやステーターに形成された溝の形状を規定する滑りエピトロコイド曲線の滑り倍率M,Nとが互いに素でない場合、伝動ピンと滑りエピトロコイド曲線の位置関係によっては、ローターやキャリアの回転が開始する際の回転方向が一意に決定されない虞がある。そのため、上記各実施形態と同様に、自転軸の数Kと、滑り倍率M,Nとは、互いに素となるように設定するのが好ましい。
【0152】
さらに、伝動歯車の歯数は、伝動歯車の数K(すなわち、自転軸の数)が奇数の場合、Kの倍数とするのが好ましく、上記各実施形態と同様に、伝動歯車の数Kが偶数の場合、Kの1/2の倍数とするのが好ましい。このようにすれば、K個の伝動歯車の全てにおいて、歯の位置と伝動ピンや規制ピンが取り付けられる位置との関係を同一にすることができる。そのため、同一形状の伝動歯車を用いて、K個の伝動歯車を準備することができるので、減速機をより容易に製造することができる。
【0153】
なお、変形例4として示したこれらの変形は、溝形状の変形例を適用した場合においても、同様に行うことが可能である。この場合においても、自転軸の数K(すなわち、伝動歯車の数)、滑り円トロコイド曲線の滑り倍率M,N、および、伝動歯車の歯数の好適な数的関係は、これらの変形態様と同様である。
【符号の説明】
【0154】
100,200…減速機
110,210…ステーター
110a…キャリア
118,118a,218…貫通穴
119,119a…貫通穴
120,120a…入力シャフト
129a…ねじ孔
130,130a,130b,130c,130d,130e,220…入力歯車
132,132a,222…歯
139…シャフト嵌入穴
139a,229…貫通孔
140,140a,140b,140c,140d,140e,230…伝動歯車
142,142a,232…歯
144…保持シャフト
148,148a,238…ピン取付穴
149…シャフト嵌入穴
149a…貫通孔
150,150a,150b,150c,150d,150e…伝動ピン
160,160a,160b,160c,160d,160e…ローター
162,162a,212…平板部
164,164a,164b,164c,164d,164e,214…外壁部
166,166a,166b,166c,166d,166e,216…内壁部
169,169a,169b,169c,169d,169e,219…溝
170,170a…出力シャフト
239…ねじ孔
240…規制ピン
C1,C2,C3…中心軸
CF…定円
CR…動円
DES9…二重滑りエピトロコイド曲線
DHS9…二重滑りハイポトロコイド曲線
ES2,ES7,ES9…滑りエピトロコイド曲線
HS9…滑りハイポトロコイド曲線
ET…エピトロコイド曲線
LN…直線
O…原点
P…点
S164…内面
S166…外面
TS2…滑りトロコイド曲線
TT…トロコイド曲線