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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】体内潅流システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20220331BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61M1/00
A61F2/02
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019550624
(86)(22)【出願日】2018-05-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 EP2018061127
(87)【国際公開番号】W WO2018202671
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】17169158.7
(32)【優先日】2017-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518205014
【氏名又は名称】セライプ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】SERAIP AG
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】アンドレッタ、カルロ
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-503022(JP,A)
【文献】特表2011-528232(JP,A)
【文献】特表2003-521289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/00
A61F 2/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移植式潅流デバイス(2)において、
流入端(6)、流出端(8)及びそれらの間に位置する流量制限要素(10)を備えた管状送りライン(4)であって、該送りラインの流入区間(12)が流入端と流量制限要素との間に画成され、かつ送りラインの流出区間(14)が流量制限要素と流出端との間に画成される、管状送りラインと、
流体入口(18)、流体出口(20)及びそれらの間に形成されたチャンバ容積(22)を具備している、潅流チャンバ(16)であって、
該潅流チャンバは生物学的活性を有する細胞の装填物を内蔵しており、
流体入口は少なくとも1つの第1のマイクロチャネル小平板体(24)を具備し、かつ流体出口は少なくとも1つの第2のマイクロチャネル小平板体(26)を具備し、1つ1つのマイクロチャネル小平板体は、それぞれの外側及び内側の小平板体表面の間に流体流路を画成する少なくとも1列のマイクロチャネル(28)を具備しており、マイクロチャネルは0.2~10μmの開口部を有しており、
1つ1つのマイクロチャネル小平板体は、潅流チャンバの周方向に取り囲んでいる壁部(62)に密閉接続されている、潅流チャンバとを備え、
潅流チャンバの流体入口(18)は送りラインの流入区間(12)と流体連通しており;
かつ
流量制限要素(10)は、流入区間(12)において流出区間(14)に対して所定の圧力過剰を設けるように構成されている、潅流デバイス。
【請求項2】
潅流デバイスの流体出口(20)は、送りラインの流出区間(14)と流体連通している、請求項1に記載の潅流デバイス。
【請求項3】
潅流デバイスの流体出口(20)は、身体の間質領域への流体送達のために構成される、請求項1に記載の潅流デバイス。
【請求項4】
流量制限要素(10)の制限特性を制御するための手段をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項5】
制御手段は被駆動往復プラグ部材(54)を具備している、請求項4に記載の潅流デバイス。
【請求項6】
チャンバ容積(22)に液体作用薬を供給するための手段(38、40、42)をさらに具備している、請求項1~5のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項7】
前記供給手段は、1対の一方向バルブであって、該バルブ対を接続している流体ライン部分に対して作用する往復プラグ部材(54)と協働する、一方向バルブを具備している、請求項5及び6のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項8】
チャンバ容積(22)への細胞集団の装填及び抜取りを行うための手段(30、32、34、36)をさらに具備している、請求項1~7のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項9】
流体入口及び流体出口のうち少なくともいずれか一方(58)は複数のマイクロチャネル小平板体(60)を具備している、請求項1~8のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項10】
マイクロチャネル小平板体はSi及びSiのうち少なくともいずれか一方で作製される、請求項1~9のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項11】
マイクロチャネル小平板体は、潅流チャンバの周方向に取り囲んでいる壁部に、陽極接合により密閉接続されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項12】
管状送りライン(4)はその流入端及び流出端に、患者の動脈及び静脈それぞれに接続するための手段が設けられている、請求項1~11のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【請求項13】
潅流チャンバに装填される生物学的活性を有する細胞は、ランゲルハンス島細胞(LC)である、請求項1~11のいずれか1項に記載の潅流デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して体内潅流システムに関する。より具体的には、本発明は、生物学的活性を有する細胞の装填物を内蔵している移植式潅流デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
世界保健機関によれば、2014年の糖尿病の世界的有病率は18歳以上の成人の中で9%と推定された(非感染性疾患に関する世界状況報告2014年版。ジュネーブ、世界保健機関、2012年)。糖尿病の治療には、血糖、及び血管を損傷するその他の既知のリスク因子のレベルを、低下させることが含まれる。1型糖尿病の患者、のみならず進行した2型糖尿病の患者についても、必要な治療介入にはインスリンの投与が挙げられる。外部影響因子における必然的な変化が原因で、かつ多くの場合さらに自制心の欠如が原因で、血糖値は大幅に変動することが多く、これは血管系及び神経系の多くの合併症をもたらす可能性がある。そのような患者用に、インスリンポンプは人気を高めてきた。これらのポンプのほとんどはインスリンを低用量の基本流量で連続的に放出し、該流量は、特に食事の前には、要求に応じて増大させることが可能である。インスリンポンプの使用を最適化するために、血糖値の連続的又は周期的なモニタリングのためのシステムをさらに有することは非常に望ましい。
【0003】
インスリンポンプと、血糖モニタリングシステムからのフィードバック信号に依拠する適切な制御システムとの組み合わせは、人工膵臓という「医療技術」の一変型と見なすことが可能である。そのようなブドウ糖測定モジュールとインスリンポンプとの組み合わせは、例えば特許文献1に開示されている。そのようなデバイスの最適な制御は、例えば、1型糖尿病に適用するための人工膵臓のモデルに基づいた個人用設定スキームについて述べている特許文献2から認識されうるように、挑戦を意味するものである。
【0004】
本物の膵臓に構造的により類似している別の種類の人工膵臓は、ブドウ糖に応答して内分泌インスリンを送達する膵島細胞を内蔵している、移植型の生体工学処理された組織を基にしている。そのようなバイオ人工膵臓の1つの構想は、患者への外科的移植に適した膵島シートを形成している、カプセル封入された膵島細胞を利用する。膵島シートは、典型的には下記の構成要素すなわち(1)シート様構造を形成している支持繊維の内部メッシュ、(2)免疫反応の誘発を回避するためにカプセル封入され、かつメッシュ繊維に付着せしめられた複数の膵島細胞、(3)栄養素の拡散及び膵島細胞により分泌されたホルモンの拡散を可能にするシート周囲の半浸透性保護層、並びに(4)異物反応を防止するための保護用外側コーティング、を具備している。
【0005】
特許文献3は、寒天ゲルを含んでなる半浸透性の回転楕円状の膜内にカプセル封入された、インスリンを生産することのできる生存可能でありかつ生理活性を有する膵島細胞を含んでなる、バイオ人工膵臓を開示している。この人工膵臓は、中空繊維を内蔵している拡散チャンバ又は潅流チャンバの内側に組み込むことが可能である。典型的な潅流デバイスは、アクリル製ハウジング内部の膜で構成されており、血液はその膜を軸方向に通って流れ、かつインスリンはその膜を径方向に通って血中へと膵島によって分泌される。そのような潅流に基づくバイオ人工膵臓は、特許文献4に開示されている。
【0006】
上述された種類のバイオ人工膵臓を操作するときに直面する、よく知られた困難は、カプセル封入された膵島細胞を出入りする物質輸送速度が十分に大きくかつ永続的であるという要件に関係する。一方では、膵島細胞への栄養素の供給速度が十分であること、及び当然ながら膵島細胞により生産されたインスリンの除去速度が相応であることを、保証することが必要である。他方では、バイオ人工膵臓の構成要素は長期間にわたって一定の性能を有する必要がある。特に、半浸透性の保護層のあらゆる目詰まり又は崩壊は回避されるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2004/110256A2号
【文献】国際公開第2014/109898A1号
【文献】米国特許出願公開第2002/0151055A1号明細書
【文献】米国特許第5741334号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
よって本発明は、前述の不都合に悩まされることのない、バイオ人工膵臓としての働きに適した改善されたシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様によれば、移植式潅流デバイスであって:
流入端、流出端及びそれらの間に位置する流量制限要素を備えた、管状送りラインであって、この送りラインの流入区間は流入端と流量制限要素との間に画成され、かつ送りラインの流出区間は流量制限要素と流出端との間に画成される、管状送りライン、
流体入口、流体出口及びそれらの間に形成されたチャンバ容積を具備している、潅流チャンバであって;
該潅流チャンバは生物学的活性を有する細胞の装填物を内蔵しており:
流体入口は少なくとも1つの第1のマイクロチャネル小平板体を具備し、かつ流体出口は少なくとも1つの第2のマイクロチャネル小平板体を具備し、1つ1つのマイクロチャネル小平板体はそれぞれの外側及び内側の小平板体表面の間に流体流路を画成する少なくとも1列のマイクロチャネルを具備しており、マイクロチャネルは0.2~10μmの開口部を有しており;
1つ1つのマイクロチャネル小平板体は、周方向に取り囲んでいる潅流チャンバの壁部に密閉接続されている、潅流チャンバ
を具備しており、
潅流チャンバの流体入口は送りラインの流入区間と流体連通しており;
かつ
流量制限要素は、流入区間において流出区間に対して所定の圧力過剰を設けるように構成されている、潅流デバイスが提供される。
【0010】
目下の文脈において、ある特定の特徴を示すために用いられる単数形は、技術的に同等の効果を達成している複数の特徴を有している可能性を含むと了解されるものとする。特に、用語「潅流チャンバ」は、複数のチャンバが単一の機能単位として有効に協働する実施形態にも当てはまるものとする。
【0011】
潅流チャンバは、このチャンバを出入りする十分な物質輸送を保証すると同時に、生物学的活性を有する細胞を封じ込め環境で内蔵するように構成される。この目的のために、潅流チャンバの流体入口及び流体出口を形成しているマイクロチャネル小平板体は適切なフィルタ機能を提供する。従って、マイクロチャネルの最適な大きさは特定の用途に依存することになろう。一般に、それは0.2~10μmの範囲内で選択されることになろう。下限は、主として利用可能な成形加工技術によって決まるが、十分な処理能力を有するための必要性によっても決まる。上限は、マイクロチャネルの通過を妨げられるべき粒子の大きさによって決まる。数多くの用途について、マイクロチャネルは0.9~2.2μmの範囲、最も典型的には約1.6μmの開口部を有するべきである。用語「開口部」は、円形断面を備えたマイクロチャネルの場合は直径として理解されるものとし;非円形のマイクロチャネルについては、用語「開口部」は断面を横断する最も小さい寸法として理解されるものとする。前述の直径範囲を備えた開口部を形成するための現在利用可能な技術は、通常は最大で5までの高さと直径の比(「縦横比」)であることを必要とする。換言すれば、マイクロチャネルの周囲の領域におけるマイクロチャネル小平板体の厚さは、マイクロチャネルの直径に応じて十分に薄い、すなわち1~50μmの範囲にある必要がある。前面の小平板体の十分な剛性を提供するために、十分に厚みを増した強化領域がマイクロチャネルから離れた位置に設けられる。
【0012】
細胞封じ込めの基本的要件を満たすために、デバイスの1つ1つのマイクロチャネル小平板体は、周方向に取り囲んでいる潅流チャンバの壁部に密閉接続される。用語「周方向に」は円形形状を意味するものではなく、単に小平板体の縁に沿って途切れのない密封を形成するために必要とされるような閉じた輪状部を定義するように意図されている。
【0013】
該潅流デバイスは、管状送りラインが動脈と静脈とを接続するいわゆる動脈‐静脈(AV)シャントを形成するような方式でのヒト又は哺乳動物への移植を対象としている。例えば、該デバイスはヒト患者の前腕に移植可能である。動脈系と静脈系との間の大幅な圧力差は、送りラインに沿った圧力勾配を引き起こす。この圧力勾配は、動脈血を送りライン内へとその流入端において送り込み、かつ送りラインからその流出端において送り出すのに役立つ。管状送りラインと流体連通している潅流チャンバの存在は、血液の分岐を効率よく形成する。したがって、さらに以下においてより詳細に説明されるように、ごくわずかな血流が潅流チャンバを通して生じる、すなわち、血液が潅流チャンバ内へとその流体入口を通して流入し、かつ潅流チャンバからその流体出口を通して出る。潅流チャンバを出た後、血液は管状送りラインに戻されるか、又は他の身体領域に流入可能となるかのいずれかである。便宜上、送りラインを直接通り抜ける流路を今後「AVフロー」と呼ぶ一方、潅流チャンバを通って生じる血流を「潅流フロー」と呼ぶことにする。ほぼ非圧縮性の流体の流動力学に従い、潅流フローとAVフローとの間の分岐比は、その2つの経路のフローコンダクタンスの比によって決まる。
【0014】
数ミリメートル程度、すなわち約2~約10mmの範囲内くらい、特に約3~8mmの典型的な開口部を有する管状送りラインのフローコンダクタンスは、何ら実質的な流量制限のない状態では、潅流チャンバの流体入口及び流体出口を形成している1対のマイクロチャネル小平板体を通過する、潅流チャンバを通るフローコンダクタンスよりも大きい。したがって、十分な潅流フローを確立するために、適切な大きさの流量制限要素を提供することによりAVフローを縮小することが必要である。実際上、流量制限要素は、送りラインの流入区間において約10kPa(100mbar)の圧力上昇を達成することが可能である。
【0015】
本発明の移植式潅流デバイスは、概して、供給を受ける必要のある宿主生物体に供給されるべき1以上の有益物質(以後「細胞生成物」とも呼ばれる)を生産する生物学的活性を有する細胞を、内蔵するように意図される。この目的を果たすために、潅流セルは適度に多い数の細胞を内蔵するように十分な大きさの体積を有するべきである。さらに、適正な栄養素供給速度及び適切な細胞生成物除去速度を保証する役割を果たす潅流フローは、十分に大きい必要がある。典型的な構成では、潅流チャンバは、数ml、例えば約5~6mlのチャンバ容積を有すること、及び1ml当たり約5000万個の細胞を内蔵することが、可能である。最大で約10cmの長さの扁平かつ長尺状の寸法を有することにより、潅流チャンバは数百mmのマイクロチャネル合計面積を有することができる。
【0016】
本明細書中で使用されるように、用語「生物学的活性を有する細胞」は広い意味で理解されるものとする。特に、そのような生物学的活性を有する細胞は、ヒト幹細胞から出発して適切な遺伝的又は非遺伝的分化機構を働かせる、古典的に分化した細胞として得られてもよい。別例として、それらは移植細胞として提供されてもよく、すなわち場合に応じて細菌を含む異種移植細胞として、又は自家移植若しくは同種異系移植されるヒト細胞として提供されてもよい。
【0017】
好都合な実施形態は従属請求項に定義されており、かつ下記に記載されている。
1つの実施形態(請求項2)によれば、潅流デバイスの流体出口は、送りラインの流出区間と流体連通している。換言すれば、潅流フローは、流量制限要素の下流の位置でAVフローに戻るように誘導される。これは、細胞生成物が静脈の血流内に送達されることを意味する。
【0018】
企図されるのは、細胞生成物を特定の領域又は器官に送達可能であり、その場合は潅流フローを適切な手段によって誘導しなければならないことになる、ということである。
さらなる実施形態(請求項3)では、潅流デバイスの流体出口は、身体の間質領域への流体送達のために構成される。従って、デバイスは、流体出口を形成しているマイクロチャネル小平板体が周囲の組織と直接接触するような方式で移植される。この実施形態は、例えば試験動物での使用に、有用であると考えられる。
【0019】
好都合には(請求項4)、デバイスは、流量制限要素の制限特性を制御するための手段をさらに具備している。特に、これは、適切なステアリングユニットによって制御される可動部材を有している流量制限要素を具備することができる。このようにして、流量制限の変動の制御を実行して同時に潅流フロー及びAVフローの比率を変化させることが可能である。1つの実施形態では、流量制限は振動方式で操作され、該方式は全開位置及び全閉位置を伴うオン・オフ方式であることが考えられる。企図されるのは、オン・オフ方式がデューティサイクルを、すなわち1とは異なる「オン」時間と「オフ」時間との比率を、有しうるということである。流量制限を制御可能であることの重要な利点は、例えば手のしびれをもたらす可能性のある、動脈から静脈への間断なく制約のない血流により引き起こされる望ましからぬ副作用に関係している。
【0020】
1つの実施形態(請求項5)によれば、制御手段は、座として作用する適切に形成された相手部品とともに協働する、被駆動往復プラグ部材を具備している。例えば、プラグ部材は、チャネル様の相手部品の中で二方向に移動することが可能であり、かつ周期運動を行なう外部マグネットにより駆動される、棒磁石であってよい。
【0021】
多くの用途において、ヘパリン又はシトラートのようなある種類の血液凝固阻止剤を提供することは、好都合であるか又はまさに必要である。したがって、さらに別の実施形態(請求項6)によれば、デバイスは、チャンバ容積に液体作用薬を供給するための手段をさらに具備している。そのような手段は、皮下注射ポートとして構成可能な適切なコンテナ、該コンテナと潅流チャンバとを接続する供給ライン、及び適切なポンプデバイスを具備することができる。いくつかの実施形態では、移植式潅流デバイスの内表面には血液凝固阻止コーティング、例えばヘパリンコーティングが施される。
【0022】
特に好都合な実施形態(請求項7)によれば、供給手段は、1対の一方向バルブであって、該バルブ対を接続している流体ライン部分に対して作用する往復プラグ部材と協働する、一方向バルブを具備している。換言すれば、例えば外部マグネットによって駆動される往復プラグ部材が、潅流フローの断続的な変調をもたらすこと、及び潅流チャンバを通してシトラートのような液体作用薬をポンプ注入すること、の両方のために使用される。
【0023】
ある場合に、特に数日又は最大でも数週間の比較的短期間で試験動物に対して使用されるとき、潅流デバイスは初期装填の活性細胞で操作可能である。しかしながら、ほとんどの用途において、新たな活性細胞を供給することが必要であろう。したがって、好都合な実施形態(請求項8)によれば、潅流デバイスは、チャンバ容積への細胞集団の装填及び抜取りを行うための手段をさらに具備している。これは、潅流チャンバへの接続を形成する管材料が装備され、かつ更には適切なバルブが設けられた、皮下移植式注入ポートとして実装可能である。
【0024】
潅流デバイスの効率的な操作を達成するための重要な要因は、十分に大きなマイクロチャネル合計面積を有することである。しかしながら、非常に大型のマイクロチャネルプレートの生産は、大き過ぎるチャネルを時に生じさせる避けがたい生産の失敗を考えると非実用的である。疑いないことであるが、たった1つの大き過ぎるチャネルでも細胞封じ込めの喪失をもたらし、よって許容不可能である。したがって、好都合な実施形態(請求項9)によれば、流体入口及び流体出口のうち少なくともいずれか一方は複数のマイクロチャネル小平板体を具備する。単一の大きな小平板体の代わりにいくつかの小さな小平板体を利用するそのようなモジュール設計を用いると、1つのチャネルの失敗は全表面のうち比較的小さいユニットの廃棄を必要とするにすぎない。
【0025】
好都合には、マイクロチャネル小平板体は、明確に定義された形状を備えた狭小な構造物を形成するための非常に便利な技法であるフォトリソグラフィ加工に適した材料で作製される。したがって、好都合な実施形態(請求項10)によれば、マイクロチャネル小平板体はシリコン(Si)及び窒化ケイ素(Si)のうち少なくともいずれか一方で作製される。さらに、潅流チャンバの少なくとも周方向に取り囲んでいる壁部は、前面の小平板体の材料と両立可能であり、かつそこに取り付けるべき何らかの流体接続を考慮の上で好都合な特性を有する材料で作製される。Si及びSiの層で作製された適切なサンドイッチ構造は、マイクロテクノロジーの分野で一般に知られている。いくつかの実施形態では、マイクロチャネル小平板体は官能化される、すなわち適切なコーティングを施される。そのようなコーティングの種類及び厚さは特定用途に応じて変わることになろう。血液との接触については、血栓形成及び血液凝固の予防を目的とする既知の官能化が存在する。
【0026】
好都合な実施形態(請求項11)によれば、マイクロチャネル小平板体及び周方向に取り囲んでいる壁部は陽極接合により互いに接合される。特に、この方法は、Si構造物とガラス構造物との間の強力かつ中程度に密接な接続の形成を可能にする。別例として、接続は接着剤によって形成されることも可能である。
【0027】
移植式潅流デバイスのための適切な位置及び構成は、ストレート型で前腕(橈骨動脈から撓側皮静脈へ)、ループ型で前腕(上腕動脈から撓側皮静脈へ)及びストレート型で上腕(上腕動脈から尺側皮静脈又は腋窩静脈へ)である。さらなる可能性は、大腿部グラフト、ネックレス型グラフト(腋窩動脈から腋窩静脈へ)、及び腋窩‐心房グラフトである。したがって、好都合な実施形態によれば、管状送りラインはその流入端及び流出端に、患者の動脈及び静脈それぞれに接続するための手段が設けられている(請求項12)。好ましくは、これらは解除自在な接続手段である。この実施形態は、典型的には好都合な成形特性を備えた生体適合性の熱可塑性物質で作製されたデバイスの管状ラインを、患者の動脈又は静脈に接続された合成グラフト管材料で構成されている相手部品の上に、接続することを可能にするであろう。そのようなグラフト管材料は、典型的にはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で作製されている。
【0028】
既に言及したように、潅流デバイスは生物学的活性を有する細胞の装填物とともに使用するのに適しており、該細胞は、達成されるべき特定の課題に従って選択可能である。1つの実施形態によれば、潅流チャンバに装填される生物学的活性を有する細胞は、ランゲルハンス島細胞(LC)である。当然のことであるが、細胞生成物はこの場合インスリンとなり、よって潅流デバイスは人工膵臓デバイスの一部を形成するものとして実装可能である。
【0029】
本発明の様々な実施形態についての以降の説明を添付図面と併せて参照することにより、本発明の上述及びその他の特徴及び目的、並びにそれらを達成する方法はより明白となり、また本発明それ自体が一層よく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】流体インタフェースデバイスの第1の実施形態を示す断面図。
図2】流体インタフェースデバイスの第2の実施形態を示す断面図。
図3】流体インタフェースデバイスの第3の実施形態を示す断面図。
図4】流体インタフェースデバイスの第4の実施形態を示す断面図。
図5】第1の実施形態の中央部分を示す斜視図。
図6図6の部分を示す平面図。
図7図6の部分を示す横断面図。
図8図6の部分を示す長手方向断面図。
図9】第5の実施形態の中央部分を示す斜視図。
図10図9の部分を示す平面図。
図11図10の部分を示す長手方向断面図。
図12図10の部分を図10の断面A-Aによる横断面で示す図。
図13図10の部分を図10の断面B-Bによる横断面で示す図。
図14】5×4個のマイクロチャネル小平板体の配置構成を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
発明の詳細な説明
図面が必ずしも一定の縮尺で描かれていないことは理解されるであろう。いくつかの実例では、視覚化を容易にするために相対寸法がかなり歪曲されている。
【0032】
動脈Aと静脈Vとの間にシャントとして移植された、図1に示される潅流デバイス2は、流入端6、流出端8及びそれらの間に位置する流量制限要素10を備えた、管状送りライン4を具備している。図1から分かるように、流量制限要素10は、左側に、流入端6と流量制限要素との間に位置する流入区間12を画成し、かつ流量制限要素と流出端8との間に位置する流出区間14をさらに画成する。流量制限要素10は、流入区間12において流出区間14に対して所定の圧力過剰を設ける役割を果たす。
【0033】
デバイスは更に、流体入口18、流体出口20、及びそれらの間に形成されたチャンバ容積22を具備している、潅流チャンバ16を有する。図示された実施例では、潅流チャンバは実際には上側部分及び完全に同等な下側部分を具備しているが、簡略化のため参照数字は与えられず、かつここではさらに議論はされない。
【0034】
流体入口は第1のマイクロチャネル小平板体24を具備し、かつ流体出口は第2のマイクロチャネル小平板体26を具備しており、これらの1つ1つの小平板体は、それぞれの外側及び内側の小平板体表面の間に流体流路を画成するマイクロチャネル28の列を具備している。図1からさらに分かるように、潅流チャンバの流体入口18は、送りラインの流入区間12と流体連通している。
【0035】
図1に示された実施例では、潅流デバイスの流体出口20は、チャンバ容積22の中で形成された細胞生成物を、動脈Aと静脈Vとの間に位置する間質組織へと流体送達するために構成されている。
【0036】
図2に示された潅流デバイス2は、図1に関して既に議論されておりそれ以上議論の必要のない特徴の多くを有している。しかしながら、図1の実施形態とは対照的に、潅流デバイスの流体出口20は送りラインの流出区間14に通じている。従って、チャンバ容積22の中で形成された細胞生成物は流出区間14を通って静脈の血流へと導かれる。
【0037】
図3に示された潅流デバイス2は、図2に示された実施形態に相当し、さらに、チャンバ容積22への細胞集団の装填及び抜取りを行うための手段を具備している。これらの手段は、それぞれ34及び36として概略的に示された適切なバルブが各々備えられた、装填ライン30及び抜取りライン32を具備している。
【0038】
図4に示された潅流デバイス2もまた図2に示された実施形態に相当し、さらに、チャンバ容積22へシトラート溶液のような液体作用薬を供給するための手段を具備している。これらの手段は、コンテナ38、コンテナ38と潅流チャンバ22とを接続する供給ライン40、及び適切なポンプデバイス42を具備している。
【0039】
実際には、図3及び4の両方の実施形態が通常は一緒に実装されるが、ここでは単に図面を簡単にするために別々に示されている。
間質組織への送達を意図した実施形態は図5~8に一層詳細に示されている一方、静脈の血流への送達を意図した実施形態は図9~14に一層詳細に示されている。既に上記に説明されたいずれの特徴についても概して再度議論はなされず;いくつかの場合において、それぞれの参照数字によって示されるのみである。
【0040】
図5~8に示されたデバイス2は、流入区間12及び流出区間14を有する管状送りライン4の中央部分を形成している、長尺状でほぼ円筒状のハウジング44を特徴とする。ハウジング44は、送りライン4の両側に対称に位置する2つの潅流チャンバ16a及び16bを収容している。各潅流チャンバは、送りラインに隣接している第1のマイクロチャネル小平板体24と、第1のマイクロチャネル小平板体とほぼ平行であってそこから径方向に離れて配置された第2のマイクロチャネル26とを具備している。これにより、チャンバ容積22は2つの小平板体の間に形成される。さらに図7に明確に示されるように、各マイクロチャネル小平板体はハウジングの壁部に密閉接続される。特に、第1のマイクロチャネル小平板体24に接続される第1の壁部46及び第2のマイクロチャネル小平板体26に接続される第2の壁部48は、接続領域50においてサンドイッチ式に互いに接合される。
【0041】
図9~12に示されたデバイス2は、長尺状のほぼ楕円筒状のハウジング52を具備している。デバイス全体は、大きな流体交換表面を設けてそれに伴い大きな潅流フローを備えた比較的長いマイクロチャネル領域の構築を可能にする、比較的扁平な形状に構成されている。該デバイスは、扁平形状であって各々が適切なバルブ34及び36をそれぞれ備えている、細胞装填ライン30及び細胞抜取りライン32を有している。
【0042】
図12は、3区画方式で構成されたデバイスの流路を示す。管状送りライン4を介して供給された動脈血は最も内側の第一次区画に位置し、血液はそこから第1のマイクロチャネル小平板体24を通って、活性細胞集団を内蔵する第二次区画を形成している潅流チャンバ22の中へと流れ込むことができる。そこから、細胞生成物を含有する血液は、第2のマイクロチャネル小平板体24を通って、デバイスの流出区間14と連通している第三次区画を形成している出口区間20の中へと流れ込む。
【0043】
図13は、制御可能な流量制限要素10の操作原理を例証している。該要素は1対の往復プラグ部材54を具備し、各部材は永久磁石を内蔵している。プラグ部材はそれぞれ、退避位置(図に示されたとおり)と、プラグが内側に向かって押されて管状送りライン4のチューブ部分を圧縮する挿入位置(図示せず)との間を往復することができる。この往復運動は、軸Rのまわりを回動するディスク形状の外部マグネット56によって引き起こされる。図中の実施例では、プラグ部材54は更に、共通の押し出し方向を有する1対の一方向バルブ(図示せず)の間に位置する血液凝固阻止剤供給ライン40の可撓性部分のための、圧搾部材として働く。
【0044】
図14から分かるように、流体入口又は流体出口として作用するチャンバ壁58は、図中の実施例では4×5個の要素のマトリックスとして配列された複数のマイクロチャネル小平板体60によって形成される。小平板体はそれぞれ、チャンバ壁の周方向に取り囲んでいる壁部62に密閉接続されている。
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