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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】油分測定装置および油分測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/59 20060101AFI20220331BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021172509
(22)【出願日】2021-10-21
【審査請求日】2021-10-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591282711
【氏名又は名称】アクア化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】特許業務法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出井 岳人
(72)【発明者】
【氏名】須磨 史和
(72)【発明者】
【氏名】仲野 真一
(72)【発明者】
【氏名】和田 龍一
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-270310(JP,A)
【文献】特開平07-012726(JP,A)
【文献】特開昭62-157536(JP,A)
【文献】特開2014-106160(JP,A)
【文献】特開2011-149965(JP,A)
【文献】特開2008-164487(JP,A)
【文献】特開平08-128952(JP,A)
【文献】特開平05-126720(JP,A)
【文献】特開昭53-110586(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0110632(US,A1)
【文献】実開平02-109237(JP,U)
【文献】実開平03-023346(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液体中に含まれる油分を検出するための第1検出部と第2検出部とを備えた油分測定装置であって、
前記第1検出部が、
第1透光性セルと、
該第1透光性セル内に光を照射する第1発光体と、
前記第1透光性セルを透過した光を受光して電気信号に変換する第1受光体と、を備え、
前記第2検出部が、
第2透光性セルと、
該第2透光性セル内に光を照射する第2発光体と、
前記第2透光性セルを透過した光を受光して電気信号に変換する第2受光体と、を備え、
前記第1発光体と前記第2発光体は電源に直列接続されており、
以下の演算を行って、油分の吸光度を演算する演算部を備える油分測定装置
(1)第1透光性セルにリファレンス液体を収容して測定した吸光度(B)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A)とを同時に取得し、前記吸光度(B)から前記吸光度(A)を差し引いた吸光度差(B-A)を求める。
(2)第1透光性セルに前記試料液体を収容して測定した吸光度(C)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A')とを同時に取得し、前記吸光度(C)から前記吸光度(A')を差し引いた吸光度差(C-A')を求める。
(3)前記吸光度差(C-A')から前記吸光度差(B-A)を差し引いて、油分の吸光度を算出する。
【請求項2】
ノイズ低減部をさらに備え、該ノイズ低減部が、
前記第1発光体に電流を流して発光させた状態で測定した測定信号Smから、前記第1発光体に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Szを除去して得られたノイズ低減信号Sdから、それぞれ、前記吸光度(B)および前記吸光度(C)を算出し、かつ
前記第2発光体に電流を流して発光させた状態で測定した測定信号Sm´から、前記第2発光体に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Sz´を除去して得られたノイズ低減信号Sd´から、それぞれ、前記吸光度(A)および前記吸光度(A') を算出する、請求項1に記載の油分測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の油分測定装置を使用して、試料液体中に含まれる油分を検出するための油分測定方法であって、
前記第1発光体と前記第2発光体とを電源に直列接続し、以下の(1)~(3)の工程により油分の吸光度を算出する、ことを特徴とする油分測定方法。
(1)第1透光性セルに前記リファレンス液体を収容して測定した吸光度(B)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A)とを同時に取得し、前記吸光度(B)から前記吸光度(A)を差し引いた吸光度差(B-A)を求める。
(2)第1透光性セルに油分を含む試料液体を収容して測定した吸光度(C)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A')とを同時に取得し、前記吸光度(C)から前記吸光度(A')を差し引いた吸光度差(C-A')を求める。
(3)前記吸光度差(C-A')から前記吸光度差(B-A)を差し引いて、油分の吸光度を算出する。
【請求項4】
前記吸光度(B)および前記吸光度(C)が、それぞれ、前記第1発光体に電流を流して発光させた状態で測定した測定信号Smから、前記第1発光体に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Szを除去して得られたノイズ低減信号Sdから算出され、かつ
前記吸光度(A)および前記吸光度(A') が、それぞれ、前記第2発光体に電流を流して発光させた状態で測定した測定信号Sm´から、前記第2発光体に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Sz´を除去して得られたノイズ低減信号Sd´から算出される、請求項3に記載の油分測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば洗浄後の機械部品等の抽出液や洗浄槽内の洗浄液等に含まれる油分の量を測定するための油分測定装置および油分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械部品等(以下、ワークということがある。)から加工時の油分を除去するために、ワークを有機溶剤等の洗浄液で洗浄することが行われている。その際、洗浄後のワークに油分が残留していないか確認するために、正常な洗浄液でワーク表面から油分を抽出し、抽出液に含まれる油分の量を測定することが行われる。また、ワークを洗浄する洗浄槽内の洗浄液の交換時期を知るために、洗浄槽内の洗浄液に含まれる油分の量を測定することが行われる。
上記抽出液や洗浄液に含まれる油分の濃度を測定する装置として、例えば特許文献1に記載のような油分濃度計が知られている。この油分濃度計は、洗浄液の交換時期を求めるために使用されるものであって、測定用検出器の光路中に、測定対象を収容したセルを配置し、そのセルに測定対象によって吸収される波長帯の赤外線を照射し、透過した赤外線の光度を検出することにより赤外線の吸収量を求め、その吸収量に基づき油分の濃度を算出する。
【0003】
赤外線は、油分で吸収される以外に、洗浄液自体や洗浄液に含まれる油分以外の吸収成分によっても吸収される。そのため、油分の測定に当たっては、油分を有しない洗浄液などのリファレンス液体を用いて同条件で測定したリファレンス値と比較する必要がある。特許文献1では光路中に、油分を吸収する波長の赤外線のみを透過させる第1干渉フィルタと、赤外線の吸収帯域が広い第2干渉フィルタとを介在させ、第1干渉フィルタおよび第2干渉フィルタを透過した光をそれぞれ測定用検出器および比較用検出器で検出し、両方の検出結果を特定の演算式で処理することにより、油分以外の吸収成分の影響を除去している。
【0004】
特許文献2は、油分による光吸収が認められる第1波長帯域での光吸収を測定する一方で、油分による光吸収が実質的になく、添加剤による光吸収がある第2波長帯域での光吸収を測定し、第1波長帯域での光吸収測定結果を第2波長帯域での光吸収測定結果によって補正して試料中の油分量または油分濃度を算出している。
【0005】
特許文献3は、計測対象液に280~300nm間の特定の測定波長(例えば290nm)の紫外線を照射し、透過した紫外線を検出して吸光度を算出し、算出した吸光度の値と、予め作成した油分の濃度と吸光度の関係を示す検量線とに基づいて計測対象液中の油分の濃度を求めている。特許文献3は、さらに油分を含まない洗浄液を封入したリファレンスセルを用いて測定し、その結果を油分の演算に参照している。
【0006】
特許文献1~3の装置では吸光度を検出するとき、検出した電流を増幅している。しかし測定対象の油分の濃度が低く吸光量が少ない場合は増幅度が大きくなり、ノイズの影響を大きくうけるため、正確な測定が困難になる。
また、油分を含む上記抽出液や洗浄槽内の洗浄液(以下、これらを試料液体ということがある。)を測定するときと、油分を含まない洗浄前の洗浄液(以下、リファレンス液体ということがある。)を測定するときとで、発光等の測定条件が微妙に異なり、測定値に誤差が生ずることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-270310号公報
【文献】特開2010-174106号公報
【文献】再表2018/025813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の主たる課題は、試料液体とリファレンス液体の測定条件をできるだけ一致させ、測定誤差が少ない油分測定装置および油分測定方法を提供することである。
本発明の他の課題は、測定時のノイズの影響を低減し、低濃度の油分を含む試料液体であっても、正確な測定ができる油分測定装置および油分測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の油分測定装置の第1の態様は、試料液体中に含まれる油分を検出するための第1検出部と第2検出部とを備えた油分測定装置であって、
第1検出部が、第1透光性セルと、該第1透光性セル内に光を照射する第1発光体と、第1透光性セルを透過した光を受光して電気信号に変換する第1受光体と、を備え、
第2検出部が、第2透光性セルと、該第2透光性セル内に光を照射する第2発光体と、第2透光性セルを透過した光を受光して電気信号に変換する第2受光体と、を備え、
前記第1発光体と前記第2発光体は電源に直列接続されており、
以下の演算を行って、油分の吸光度を演算する演算部を備えた、ことを特徴とする油分測定装置。
(1)第1透光性セルにリファレンス液体を収容して測定した吸光度(B)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A)とを同時に取得し、前記吸光度(B)から前記吸光度(A)を差し引いた吸光度差(B-A)を求める。
(2)第1透光性セルに油分を含む試料液体を収容して測定した吸光度(C)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A’)とを同時に取得し、前記吸光度(C)から前記吸光度(A’)を差し引いた吸光度差(C-A’)を求める。
(3)前記吸光度差(C-A’)から前記吸光度差(B-A)を差し引いて、油分の吸光度を算出する。
【0010】
本発明の油分測定方法の第1の態様は、上記の油分測定装置を使用して、試料液体中に含まれる油分を検出するための油分測定方法であって、
第1発光体と第2発光体とを電源に直列接続し、以下の(1)~(3)の工程により油分の吸光度を算出するものである。
(1)第1透光性セルにリファレンス液体を収容して測定した吸光度(B)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A)とを同時に取得し、吸光度(B)から吸光度(A)を差し引いた吸光度差(B-A)を求める。
(2)第1透光性セルに油分を含む試料液体を収容して測定した吸光度(C)と、第2透光性セルに基準媒体を収容して測定した吸光度(A’)とを同時に取得し、吸光度(C)から吸光度(A’)を差し引いた吸光度差(C-A’)を求める。
(3)吸光度差(C-A’)から吸光度差(B-A)を差し引いて、油分の吸光度を算出する。
【0011】
本発明の油分測定装置の第2の態様は、試料液体中に含まれる油分を検出するための油分測定装置であって、
試料液体を収容した第1透光性セルと、
該透光性セル内に光を照射する第1発光体と、
第1透光性セルを透過した光を受光して電気信号に変換する第1受光体と、
電気信号に基づき、試料液体の吸光度を計測する演算部と、を備え、
演算部が、第1発光体に電流を流して発光させた状態で測定した測定信号Smから、前記第1発光体に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Szを除去して、前記吸光度を計測するためのノイズ低減信号Sdを得るノイズ低減部を有する。
【0012】
本発明の油分測定方法の第2の態様は、試料液体中に含まれる油分を検出するための油分測定方法であって、
第1透光性セル内に試料液体を収容する工程と、
第1透光性セルに第1発光体から光を照射し、第1透光性セルを透過した光を第1受光体で受光して電気信号に変換する工程と、
得られた電気信号に基づき試料液体の吸光度を計測する工程と、を含み、
第1発光体に電流を流さない暗闇状態で暗闇ノイズ信号Szを測定し、第1発光体に電流を流して発光させた状態で測定信号Smを測定し、測定信号Smから暗闇ノイズ信号Szを除去してノイズ低減信号Sdを取得し、該ノイズ低減信号Sdから前記吸光度を計測する。
なお、本明細書において、吸光度とは、試料液体、リファレンス液体または基準媒体に入射する光の強さをI、透過した光の強さをIとしたとき、式:log(I/I)で定義される量をいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、基準媒体SSを用いて測定した吸光度(A)および吸光度(A’)を介することで、計測毎に生じる恐れのある発光量のばらつきが低減されるので、試料液体とリファレンス液体の測定条件を充分に一致させることができ、油分濃度の測定誤差を少なくすることができる。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、測定信号からノイズ信号を除去することにより、測定時のノイズの影響を低減することができる。そのため、低濃度の油分を含む試料液体であっても、油分濃度を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る油分測定装置の外観を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る油分測定装置の概要を示すブロック図(構成図)である。
図3】(a)は油分測定装置による油分測定の原理を示すフロー図、(b)は電気信号のノイズの説明図である。
図4】(a)および(b)は吸光度とノイズの関係を説明するための概略図である。
図5】(a)はノイズ低減部によるノイズ低減の方法を示す概略説明図、(b)はノイズ低減の原理を示す説明図、(c)は本発明の測定方法におけるノイズ除去後の油分が含まれている状態の電気信号Ssと油分が含まれていない状態の電気信号Srとの関係を示す説明図である。
図6】(a)および(b)は発光側の光量がばらつくときの透過光のばらつきを示す説明図である。
図7】(a)はリファレンス液体の吸光度測定おける基準点を明確化する方法を示す説明図、(b)は試料液体の吸光度測定おける基準点を明確化する方法を示す説明図である。
図8】(a)は本発明の方法によって得られた検量線の一例を示すグラフ、(b)は(a)のL部分を拡大したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る油分測定装置を図1~5に基づいて説明する。図1に示す油分測定装置1は、試料液体中に含まれる油分を検出するための装置であり、装置本体11と、その装置本体11に接続されているLED(発光ダイオード)ディスプレイ等の表示部7付きの操作装置12とを備えている。装置本体11は、試料液体等を注入する第1透光性セル21の収容部20と、リファレンス液体等を注入する第2透光性セル31の収容部30と、試料液体、リファレンス液体等の重量を測定する重量測定部8(天秤等)とを備えている。
第1透光性セル21および第2透光性セル31をそれぞれ収容した収容部20、30は、上部が開口しており、この開口から試料液体やリファレンス液体、後述の基準媒体SSの注入および排出を行うようになっており、測定時は、遮光蓋24、34で閉じて、外部からの光の侵入を遮断するように構成されている。
【0017】
図2は、油分測定装置1の構成を概略的に示すブロック図である。図2に示すように、油分測定装置1は、第1検出部2、第2検出部3およびデータ処理部4を備える。
第1検出部2は、例えば試料液体またはリファレンス液体を収容する第1透光性セル21と、該第1透光性セル21内に光を照射する第1発光体22と、第1透光性セル21を透過した光を受光して電気信号に変換する第1受光体23と、を備える。試料液体は、例えば、洗浄後のワークの抽出液や洗浄槽内の洗浄液等であるが、これに限定されるものではなく、油分濃度を計測する対象となるものである。リファレンス液体は、例えば、ワークの洗浄に使用する洗浄液であり、有機溶剤が一例として挙げられる。
【0018】
第2検出部3は、例えば基準媒体SSを収容する第2透光性セル31と、該第2透光性セル31内に光を照射する第2発光体32と、第2透光性セル31を透過した光を受光して電気信号に変換する第2受光体33と、を備える。
第1発光体22と第2発光体32はいずれも同じ光源を使用し、例えば275nmの波長の紫外光を照射するものが好ましい。第1発光体22と第2発光体32は電源5に直列で接続されている。光源としては、例えば、LED(発光ダイオード)やハロゲン発光体等が使用可能である。
【0019】
第1透光性セル21および第2透光性セル31はいずれも紫外線、可視光線、赤外線等の光に対して透光性を有する石英、ガラス、樹脂等から作成される。なお、以下の実施形態では、第1、第2透光性セル21、31に紫外光を照射しているが、可視光線、赤外線であってもよい。
第1透光性セル21には、主として試料液体およびリファレンス液体が収容される。一方、第2透光性セル31には、主として基準媒体SSが収容される。基準媒体SSは、試料液体およびリファレンス液体の吸光度を測定する際のベースとなるものであり、例えばリファレンス液体、またはその他の液体、あるいはセル内をブランクの状態、すなわち空気が収容された状態にしたり、酸素、不活性ガスなどの気体を充填した状態であってもよい。
【0020】
第1受光体23および第2受光体33は、それぞれ第1透光性セル21および第2透光性セル31を透過した透過光の強度を検出するものであり、フォトダイオードと信号変換部とアンプとを備える。フォトダイオードは上記透過光の光強度を検出して、光強度をアナログ信号として出力する。信号変換部は、フォトダイオードが出力したアナログ信号をデジタル信号(電気信号)に変換する。アンプは、電気信号を増幅する機能を有する。
【0021】
データ処理部4は、演算部41と、制御・処理部42を有する。演算部41は、第1受光体23および第2受光体33でそれぞれ得られた電気信号に基づき、例えば、試料液体の吸光度Ksおよび基準媒体の吸光度Krを測定する。
【0022】
制御・処理部42は、発光体7、12への電流の入り切りを指令する等の制御を行なう他、演算部41から得られた吸光度Ks、Krのデータを取得して記憶する機能を有する。この制御・処理部42は、制御プログラム、測定したデータや演算途中のデータおよび求めた油分濃度を記憶する記憶部、操作プログラムを有する操作部6との通信を行う通信部、記憶されているプログラムに基づき各部に操作を指令する中央処理装置などからなる。また、通信部は、操作部6の操作プログラムから吸光度等の測定命令を受けて、測定した吸光度等のデータを操作部6の操作プログラムに送る機能を有し、送られたデータは表示部7(液晶ディスプレイ等)に表示される。
なお、指令処理と制御とを別々のコンピュータで行うようにしてもよい。
【0023】
また、データ処理部4は、重量測定部8(天秤等)にも接続されている。制御・処理部42は、重量測定部8のゼロ点出しの処理を行い、試料液体およびリファレンス液体の測定に使用する溶液の重量を測定し、それらのデータを記憶する。測定された試料液体およびリファレンス液体の重量は、計測した吸光度Ks、Krから得られる油分濃度(g/mL)と組み合わせ、油分量(g)の演算に用いられる。
【0024】
表示部7は、使用者が直接操作内容をタッチ入力する操作装置(入力装置)であってもよい。表示部7は、測定結果である油分濃度(mg/L)、およびそれに関連する吸光度および残留油分量(μg)を表示する。表示部7が液晶ディスプレイである場合は、使用者が画面を指やタッチペンなどで操作することができるタッチ入力機能を有し、試料液体やリファレンス液体の重量および吸光度の測定命令を出すことができる。従って、この場合は、操作部6と表示部7は一体化したものとみなすことができる。
【0025】
つぎに図3(a)を参照して本実施形態における油分測定の流れを説明する。図3(a)は、第1、第2検出部2、3における油分測定の流れを示している。第1検出部2では、第1発光体22に電流iが流されると、紫外光が発光され、照射光S1として第1透光性セル21に照射される。照射光S1は試料液体中の油分によって一部(符号Nで示す)が吸収され、あるいは散乱される。液体(溶媒)自体によっても吸収・散乱は生ずる。そして吸収・散乱により減光した透過光S2が第1受光体23によって電気信号Sgに変換される。
第1検出部2では、試料液体と同様にして、リファレンス液体の吸光度も測定される。
【0026】
他方、第2検出部3でも同様に、第2発光体32に電流iが流されると、紫外光が発光され、照射光S1として第2透光性セル31に照射される。照射光S1は第2透光性セル31中の基準媒体SSによって一部が吸収され、あるいは散乱される。そして透過した照射光S2が第2受光体33によって電気信号に変換される。
なお、第1発光体22および第2発光体32は、ともに同じ光源(例えば波長275nmのLED光源)を使用している。
【0027】
油分の吸光度は、以下の(1)~(3)の工程を経て計測される。
(1)第1透光性セル21にリファレンス液体を収容して測定した吸光度(B)と、第2透光性セル31に基準媒体SSを収容して測定した吸光度(A)とを同時に取得し、吸光度(B)から吸光度(A)を差し引いた吸光度差(B-A)を求める。
(2)第1透光性セル21に油分を含む試料液体を収容して測定した吸光度(C)と、第2透光性セル31に基準媒体SSを収容して測定した吸光度(A’)とを同時に取得し、吸光度(C)から吸光度(A’)を差し引いた吸光度差(C-A’)を求める。
(3)吸光度差(C-A’)から吸光度差(B-A)を差し引いて、油分の吸光度を算出する。
なお、上記工程(1)と工程(2)は、順序が逆であってもよい。
【0028】
以下の説明では、まず、試料液体の吸光度(C)と、リファレンス液体の吸光度(B)とから油分濃度を求める方法を説明する。基準媒体SSの吸光度(A)、(A’)を用いる油分濃度の測定方法はその後に説明する。
試料液体を透過した紫外光S2による電気信号Sgとリファレンス液体を透過した紫外光S2による電気信号Sgは、それぞれアンプで増幅されて演算部41に送られる。また、第2透光性セル31に基準媒体SSを収容して測定した吸光度(A)、(A’)も同様にして演算部41に送られる。
試料液体を透過した透過光S2は、試料液体の油分により吸収・散乱されている。他方、リファレンス液体を透過した透過光S2は、油分による吸収、散乱による減少がないか、少ない。したがってリファレンス液体による電気信号Sgから試料液体による電気信号Sgを減じた値が、油分によって吸収・散乱された光Nの値に相当する。そのため、基本的には、油分濃度に相当する吸光度は、試料液体の吸光度(C)からリファレンス液体の吸光度(B)を差し引いて求めることができる。
【0029】
なお、吸光度(B)、(C)に変換した上で、両者の差(C-B)による吸光度値を求めるのに代えて、試料液体に基づく電気信号Sgとリファレンス液体に基づく電気信号Sgとから直接演算により吸光度値を求めてもよい。
【0030】
前述の油分測定方法では、図3(b)の(イ)で示すように、電気信号が時間的に変化しない理想的な直線形として扱っている。しかし実際には、図3(b)の(ロ)で示すように、第1、第2受光体23、33の出力から演算した吸光度の電気信号にはノイズが含まれており、直線状の理想の電気信号に比べるとかなり上下に変動している。また、変動幅や周波数もランダムに変動している。このようなノイズを含む電気信号は、アンプによる増幅によって変動幅が一層大きくなる。ただし図では増減を誇張して模式的に示している。
【0031】
このようなノイズを含む電気信号では、油分の濃度が高く、吸光量が多い場合は、図4(a)に示すように、油分が含まれている状態の吸光度(試料液体の吸光度)を表す電気信号Ssと、油分が含まれていない状態の吸光度(リファレンス液体の吸光度)を表す電気信号Srとの差(Ss-Sr)、すなわち油分による吸光がノイズによる電気信号の波の大きさに比してかなり大きくなる。そのため、ノイズの波を誤差レベルとして扱うことができ、高濃度の油分を含む試料液体の油分を比較的正確に行うことができる。
しかし油分の濃度が低く(例えば100mg/L以下、なかんずく10mg/L以下)、吸光量が少ない場合は、図4(b)に示すように、油分が含まれている状態の吸光度を表す電気信号Ssと油分が含まれていない状態の吸光度を表す電気信号Srとの差(Ss-Sr)が小さい。そのためノイズの波を誤差として考えることができず、低濃度の油分の正確な測定が困難になる。
【0032】
このようなノイズを低減するため、データ処理部4では、発光体に電流を流して発光させた状態で測定した電気信号Smから発光体に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Szを除去するノイズ低減部を有する(図5(b)参照)。このノイズ低減部は、演算部41、発光体のオンオフスイッチおよび制御プログラムを含む制御・処理部42などによって構成される。
【0033】
ノイズ低減部によるノイズ低減の方法は、図5(a)に示すように、時間Tで示す1回の吸光度測定において、まず、Tで示す時間で一旦、第1発光体22に電流を流さない暗闇の状態で第1受光体23が発する電気信号、すなわち暗闇ノイズ信号Szを測定して記憶する。ついで、Tで示す時間で、第1発光体22を発光させた状態で第1受光体23が検出した電気信号Smを測定して記憶する。なお、電気信号Smと暗闇ノイズ信号Szの測定順序および測定時間T、Tは、特に制限されない。
次に、図5(b)に示すように、演算部41において、電気信号Smから暗闇ノイズ信号Szの値を差し引く。それによりノイズを低減した測定データSdを得ることができる。
【0034】
例えば試料液体に含まれる油分が少なく、それによりリファレンス液体の電気信号Srと試料液体の電気信号Ssの差が小さい場合は、図4(b)に示すように、ノイズの影響が大きく正確な測定が得られない。これに対して、図5(a)、(b)に示すように測定時の電気信号Smから暗闇ノイズ信号Szを差し引いてノイズを小さくすることにより、図5(c)に示すように、リファレンス液体の電気信号Srと試料液体の電気信号Ssの差を明確に捉えることができ、測定の精度が向上する。したがって暗闇ノイズ信号Szを除去しない従来方法に比して、暗闇ノイズ信号を除去する方法(図5(c))の方が、リファレンス液体の測定データSrと、油分を含む試料液体の測定データSsとの差が明確になり、低濃度域(例えば100mg/L以下、なかんずく10mg/L以下)での測定精度が向上する。
【0035】
以上の説明では、試料液体およびリファレンス液体の吸光度を計測する第1検出部2でのみ電気信号Smから暗闇ノイズ信号Szを差し引いてノイズを小さくするようにしたが、第1検出部2と第2検出部3の双方で、測定時の電気信号Smから暗闇ノイズ信号Szを差し引いてノイズを小さくするのが、測定精度を高めるうえで好ましい。
【0036】
つぎに、本発明の他の実施形態を、図2図6、7を参照して説明する。本実施形態は、2つの透光性セル、すなわち図2に示すように、第1透光性セル21および第2透光性セル31を電源5に直列に接続するにあたり、いずれか一方の透光性セル21または31を基準として正確な吸光度測定を可能にしたものである。以下の説明では、便宜上、透光性セル31を基準としている。
なお、本実施形態で使用する油分測定装置は、図1、2に示す油分測定装置1と同じであるので、同一符号を付して、詳細な説明を省略する。
【0037】
通常の油分測定では、1つの発光体を用いているため、まず清浄なリファレンス液体(抽出溶媒等の洗浄前の洗浄液)の吸光度を測定してゼロ出しを行った後、透光性セル内のリファレンス液体を試料液体(油分を抽出した溶媒等)と入れ替え、試料液体の吸光度を測定していた。しかし、電源から流れる電流値は常に一定ではなく、ゼロ出し時の電流値と油分測定時の電流値の差が微妙に異なることが考えられる。電流値が異なると発光体の光量が変化するが、受光体側ではこの光量変化を検知できないことから電流値により吸光度が変化するという問題が発生する。
すなわち、図6に示すように、紫外光の吸収量が20と同一の試料液体の場合でも、発光体の発光量が100、95と差がある場合は、透過光が80、75と相違してしまう。
【0038】
これに対し、本実施形態では、図2に示すように、第1発光体22と第2発光体32の2つを準備し、それらを電源5に直列に接続している。これにより、両方の発光体22、32に流れる電流値を同一にして、発光量を同一にしている。
【0039】
そして、本実施形態では、演算部41が以下の演算を行って、油分の吸光度を計測する。
(1)図7(a)に示すように、第1透光性セル21にリファレンス液体Rを収容して吸光度(B)を測定し、一方、第2透光性セル31に基準媒体SSを収容して吸光度(A)を測定し、吸光度(B)から吸光度(A)を差し引いた吸光度差(B-A)を求める。なお、吸光度(B)と吸光度(A)は同時に測定する。
(2)図7(b)に示すように、第1透光性セル21に油分を含む試料液体Sを収容して吸光度(C)を測定し、一方、第2透光性セル31に基準媒体SSを収容して吸光度(A’)を測定し、前記吸光度(C)から前記吸光度(A’)を差し引いた吸光度差(C-A’)を求める。なお、吸光度(C)と吸光度(A’)は同時に測定する。
(3)前記吸光度差(C-A’)から前記吸光度差(B-A)を差し引いて、油分の吸光度を算出する。
【0040】
ここで、基準媒体SSを用いて測定された吸光度(A)および(A’)は、吸光度差(C-A’)と吸光度差(B-A)との吸光度差{(C-A’)-(B-A)}から油分の吸光度を算出する際の基準となる。そのため、リファレンス液体Rの吸光度と、試料液体Sの吸光度との正確な比較が可能となり、測定値のばらつきを小さくすることができる。
【0041】
すなわち、1回の測定で第1透光性セル21および第2透光性セル31に印加される電流値は直列接続のために同等と判断でき、第1透光性セル21の吸光度から第2透光性セル31の吸光度の値を差し引いた値(B-A)、(C-A’)は電流値にかかわらず常に一定にすることが可能である。その結果、正確な吸光度が測定可能となる。
なお、上記(1)と(2)の順序は特に制限されない。また、(1)と(2)では、共に第2透光性セル31に基準媒体SSを収容しているので、(1)と(2)の工程ごとに第2透光性セル31内の基準媒体SSを交換しなくてもよいが、第1透光性セル21に収容する試料液体Sが油分濃度の低いものである場合は、(1)と(2)の工程ごとに第2透光性セル31内の基準媒体SSも交換するのが測定精度を高めるうえで望ましい。
【0042】
本実施形態においても、前記したノイズ低減部を備えているのがよい。すなわち、ノイズ低減部は、図5(b)に示すように、第1発光体22に電流を流して発光させた状態で測定した測定信号Smから、第1発光体22に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Szを除去して得られたノイズ低減信号Sdから、それぞれ、前記吸光度(B)および前記吸光度(C)を算出する。
一方、ノイズ低減部は、図5(b)に示すように、第2発光体32に電流を流して発光させた状態で測定した測定信号Sm´から、第2発光体32に電流を流さない暗闇状態で測定した暗闇ノイズ信号Sz´を除去して得られたノイズ低減信号Sd´から、それぞれ、前記吸光度(A)および前記吸光度(A’) を算出する。
【0043】
図8(a)は本発明に係る第1の実施形態および第2の実施形態を含む油分測定装置で求めた、油分濃度と吸光度との関係を示す検量線を示している。図8(b)は図8(a)における低濃度域L(0~100mg/L)を拡大したグラフである。
図8(b)に示すように、本発明の油分測定装置および油分測定方法は、油分の低濃度域においても、誤差なく直線となっている。このことから、この検量線を用いた濃度測定は精度に優れていることがわかる。
【0044】
以上、本発明の実施形態に係る油分測定装置および測定方法について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の改良・改善が可能である。例えば、図1に示す装置本体11とディスプレイ付き操作装置12とを一体にすることもできる。また、装置本体11に設けた天秤等の重量測定部8は省略してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 油分測定装置
2 第1検出部
21 第1透光性セル
22 第1発光体
23 第1受光体
3 第2検出部
31 第2透光性セル
32 第2発光体
33 第2受光体
4 データ処理部
41 演算部
42 制御・処理部
Kr 基準媒体の吸光度
Ks 試料液体の吸光度
5 電源
6 操作部
8 重量測定部
11 装置本体
12 表示部付き操作装置
20、30 収容部
24、34 遮光蓋
R リファレンス液体
S 試料液体
SS 基準媒体
S1 照射光
S2 透過光
Sg、Sg 電気信号
Sm 電気信号
Sz 暗闇ノイズ信号
Sd ノイズ低減信号
N 油分によって吸収・散乱される光
Sz 暗闇ノイズ信号
Ss 油分が含まれている状態の電気信号
Sr 油分が含まれていない状態の電気信号
【要約】      (修正有)
【課題】試料液体とリファレンス液体の測定条件をできるだけ一致させ、測定誤差が少ない油分測定装置および油分測定方法を提供する。
【解決手段】試料液体中に含まれる油分を検出するための第1検出部2と第2検出部3とを備えた装置であって、第1検出部2が第1透光性セル21と第1発光体22と第1受光体23とを備え;第2検出部3が第2透光性セル31と第2発光体32と第2受光体33とを備え;以下の演算部を備える。
(1)第1透光性セル21にリファレンス液体を収容して測定した吸光度Bと、第2透光性セル31に基準媒体を収容して測定した吸光度Aとを同時に取得し吸光度差B-Aを求める。(2)第1透光性セル21に試料液体を収容して測定した吸光度Cと、第2透光性セル31に基準媒体を収容して測定した吸光度A’とを同時に取得し吸光度差C-A’を求める。(3)吸光度差C-A’から吸光度差B-Aを差し引いて油分の吸光度を算出する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8