(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 3/007 20120101AFI20220331BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
D04H3/007
D01F8/06
(21)【出願番号】P 2021207676
(22)【出願日】2021-12-22
【審査請求日】2021-12-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】窪田 大二郎
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-173245(JP,A)
【文献】国際公開第2021/145049(WO,A1)
【文献】特開平10-88459(JP,A)
【文献】特開平6-116815(JP,A)
【文献】特開2000-226725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00-18/04
D01F1/00-13/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯鞘構造を有する繊維を含む不織布であって、
前記繊維の芯成分が、ポリプロピレン系樹脂、重質炭酸カルシウム粉末、及びエチレン系重合体ワックスを含む第1の樹脂組成物からなり、
前記繊維の鞘成分が、ポリエチレン系樹脂、及びエチレン系重合体ワックスを含む第2の樹脂組成物からなり、
前記第1の樹脂組成物における、前記ポリプロピレン系樹脂と前記重質炭酸カルシウム粉末との質量比が、50:50~10:90であり、
前記エチレン系重合体ワックスが、重量平均分子量400以上5000以下のエチレン系重合体ワックスであり、
前記エチレン系重合体ワックスの含有量が、前記繊維に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下である、
不織布。
【請求項2】
前記第2の樹脂組成物が、重質炭酸カルシウム粉末を含まない、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
前記重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径が、1.0μm以上5.0μm以下である、請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
前記重質炭酸カルシウム粉末のBET比表面積が、0.1m
2/g以上10.0m
2/g以下である請求項1から3の何れかに記載の不織布。
【請求項5】
前記重質炭酸カルシウム粉末の真円度が、0.50以上0.95以下である請求項1から4の何れかに記載の不織布。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂が、プロピレンの単独重合体を含む、請求項1から5の何れかに記載の不織布。
【請求項7】
前記プロピレンの単独重合体のメルトフローレートが、1g/10分以上40g/10分以下である、請求項6に記載の不織布。
【請求項8】
前記エチレン系重合体ワックスの密度が、0.890g/cm
3以上0.990g/cm
3以下である請求項1から7の何れかに記載の不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は、低コストで製造でき、幅広い用途に用いられている。その主原料として、各種樹脂(熱可塑性樹脂等)から得られる繊維が挙げられる。
【0003】
他方で、環境保護等の観点から、樹脂の配合量の低減が求められている。
このような要望に応える技術として、例えば、樹脂の配合量を低減する代わりに、無機物質粉末を配合する方法等が挙げられる(例えば、特許文献1乃至3)。
【0004】
無機物質粉末のうち、重質炭酸カルシウム粉末は、環境への負荷が少ないだけではなく、不織布に対して強度を付与できる等の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-212449号公報
【文献】特表2019-509406号公報
【文献】特開2019-90141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、不織布への重質炭酸カルシウム粉末の配合量が多い場合、不織布にごわつきが生じ、なめらかさが損なわれ得るという課題があった。本発明者は、重質炭酸カルシウム粉末の配合量を単に増加させても、不織布のなめらかさを損なうだけではなく、強度もかえって低下し得ることを見出した。
特に、芯鞘構造を有する繊維を含む不織布の場合、芯部への重質炭酸カルシウム粉末の配合量の上限は、せいぜい10質量%程度であった。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、芯部への重質炭酸カルシウム粉末の配合量が多くとも、良好な強度及びなめらかさを備えた、芯鞘構造を有する繊維を含む不織布の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、芯部及び鞘部の両方において、所定のエチレン系重合体ワックスを配合することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) 芯鞘構造を有する繊維を含む不織布であって、
前記繊維の芯成分が、ポリプロピレン系樹脂、重質炭酸カルシウム粉末、及びエチレン系重合体ワックスを含む第1の樹脂組成物からなり、
前記繊維の鞘成分が、ポリエチレン系樹脂、及びエチレン系重合体ワックスを含む第2の樹脂組成物からなり、
前記第1の樹脂組成物における、前記ポリプロピレン系樹脂と前記重質炭酸カルシウム粉末との質量比が、50:50~10:90であり、
前記エチレン系重合体ワックスが、重量平均分子量400以上5000以下のエチレン系重合体ワックスであり、
前記エチレン系重合体ワックスの含有量が、前記繊維に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下である、
不織布。
【0010】
(2) 前記第2の樹脂組成物が、重質炭酸カルシウム粉末を含まない、(1)に記載の不織布。
【0011】
(3) 前記重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径が、1.0μm以上5.0μm以下である、(1)又は(2)に記載の不織布。
【0012】
(4) 前記重質炭酸カルシウム粉末のBET比表面積が、0.1m2/g以上10.0m2/g以下である(1)から(3)の何れかに記載の不織布。
【0013】
(5) 前記重質炭酸カルシウム粉末の真円度が、0.50以上0.95以下である(1)から(4)の何れかに記載の不織布。
【0014】
(6) 前記ポリプロピレン系樹脂が、プロピレンの単独重合体を含む、(1)から(5)の何れかに記載の不織布。
【0015】
(7) 前記プロピレンの単独重合体のメルトフローレートが、1g/10分以上40g/10分以下である、(6)に記載の不織布。
【0016】
(8) 前記エチレン系重合体ワックスの密度が、0.890g/cm3以上0.990g/cm3以下である(1)から(7)の何れかに記載の不織布。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、芯部への重質炭酸カルシウム粉末の配合量が多くとも、良好な強度及びなめらかさを備えた、芯鞘構造を有する繊維を含む不織布が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0019】
<不織布>
本発明の不織布は、芯鞘構造を有する繊維を含み、以下の要件を全て満たす。
(要件1)繊維の芯成分が、ポリプロピレン系樹脂、重質炭酸カルシウム粉末、及びエチレン系重合体ワックスを含む第1の樹脂組成物からなる。
(要件2)繊維の鞘成分が、ポリエチレン系樹脂、及びエチレン系重合体ワックスを含む第2の樹脂組成物からなる。
(要件3)第1の樹脂組成物における、ポリプロピレン系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末との質量比が、50:50~10:90である。
(要件4)エチレン系重合体ワックスが、重量平均分子量400以上5000以下のエチレン系重合体ワックスである。
(要件5)エチレン系重合体ワックスの含有量が、繊維に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下である。
【0020】
「芯鞘構造を有する繊維」とは、芯部と、該芯部の表面を覆う鞘部とからなる、2層構造の糸状物質である。
本発明の不織布は、芯鞘構造を有する繊維を含む布状物質である。本発明の不織布は、好ましくは、本発明における芯鞘構造を有する繊維のみからなる。
【0021】
以下、芯部の構成成分を「芯成分」と称し、鞘部の構成成分を「鞘成分」と称する。
【0022】
従来、芯成分としてポリプロピレン系樹脂を含み、かつ、鞘成分としてポリエチレン系樹脂を含む、芯鞘構造を有する繊維は幅広く利用されてきた。
更に、上述のとおり、環境への配慮から、重質炭酸カルシウム粉末が高配合された繊維には多くのニーズがある。よって、芯鞘構造を有する繊維への重質炭酸カルシウム粉末の配合は容易であるとも思われる。
【0023】
しかし、芯鞘構造を有する繊維において、重質炭酸カルシウム粉末の配合量には限界があった。
本発明者は、例えば、重質炭酸カルシウム粉末の配合量が芯成分の過半であると、炭酸カルシウムの部分的な凝集や、炭酸カルシウムと樹脂との相溶性の低下、芯部と鞘部の剥離が生じることを見出した。その結果、このような繊維から得られる不織布においては、機械特性(強度等)や外観(なめらかさ等)が損なわれていた。かかる場合、添加剤(加工助剤等)を更に配合したとしても、充分な改善は認められなかった。
【0024】
そこで、本発明者が更に検討した結果、芯部に含まれる重質炭酸カルシウム粉末の配合量が多い場合であっても(上記「要件3」)、芯成分及び鞘成分の組成が上記「要件1」及び「要件2」を満たしつつ、上記「要件4」及び「要件5」を満たすようにエチレン系重合体ワックスを配合することで、意外にも、良好な強度、及びなめらかさを備える不織布が得られることを見出した。
エチレン系重合体ワックスは、滑剤や分散剤等としての用途が知られているが、芯鞘構造を有する繊維を有する不織布の強度やなめらかさを向上し得るという知見は極めて意外なものである。その理由は定かではないが、エチレン系重合体ワックスの作用により、芯部と鞘部との界面の凹凸が少なくなる結果、芯部と鞘部とが密着し易くなり、強度やなめらかさが向上するものと推察される。
【0025】
以下、本発明の不織布の詳細について説明する。
【0026】
(芯成分(第1の樹脂組成物))
芯成分は、ポリプロピレン系樹脂、重質炭酸カルシウム粉末、及びエチレン系重合体ワックスを含む樹脂組成物のみからなる。本発明において、該樹脂組成物を「第1の樹脂組成物」と称する。
【0027】
[ポリプロピレン系樹脂]
ポリプロピレン系樹脂としては、繊維の材料として使用され得る任意のものを採用できる。ポリプロピレン系樹脂は、1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0028】
本発明におけるポリプロピレン系樹脂は、プロピレン成分単位が50質量%以上である樹脂を包含する。このような樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。
「他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)」としては、炭素数4~10のα-オレフィン(エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等)が挙げられる。
【0029】
本発明におけるプロピレンの単独重合体は、種々の立体規則性(アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック等)を示すものを包含する。
【0030】
本発明におけるプロピレンの単独重合体は、直鎖状ポリプロピレン、分枝状ポリプロピレン等を包含する。
【0031】
本発明におけるプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、二元共重合体、三元共重合体等を包含する。このような共重合体としては、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0032】
本発明の効果が奏され易いという観点から、ポリプロピレン系樹脂は、好ましくはプロピレンの単独重合体を含み、より好ましくはプロピレンの単独重合体のみからなる。
【0033】
繊維の紡糸性を高め易いという観点から、プロピレンの単独重合体は、メルトフローレート(MFR)が、好ましくは1g/10分以上40g/10分以下、より好ましくは10g/10分以上30g/10分以下である。
【0034】
繊維の紡糸性を高め易いという観点から、プロピレンの単独重合体は、密度が、好ましくは0.86g/cm3以上0.95g/cm3以下、より好ましくは0.88g/cm3以上0.93g/cm3以下である。
【0035】
[重質炭酸カルシウム粉末]
「重質炭酸カルシウム」とは、CaCO3を主成分とする天然原料(石灰石等)に対して機械的処理(粉砕等)を行うことで得られるものである。重質炭酸カルシウムは、合成法(化学的沈殿反応等)によって製造される軽質炭酸カルシウムとは明確に区別される。
本発明において、重質炭酸カルシウム粉末とともに軽質炭酸カルシウム粉末が配合される態様は排除されないが、本発明の好ましい態様において、本発明の不織布に含まれるカルシウム成分は重質炭酸カルシウム粉末からなる。
【0036】
重質炭酸カルシウム粉末の形状としては、繊維の材料として配合し得るものであれば特に限定されない。例えば、粒子状(球状、不定形状等)、フレーク状、顆粒状、繊維状等が挙げられる。
【0037】
重質炭酸カルシウム粉末は、表面改質されていても良く、表面改質されていなくとも良い。表面改質法としては、目的(分散性の向上等)に応じて適宜選択でき、物理的方法(プラズマ処理等)、化学的方法(カップリング剤、界面活性剤等を用いた方法)が挙げられる。
【0038】
重質炭酸カルシウム粉末は、その製法に起因した、表面の不定形性や、比表面積の大きさを有する。このような特徴により、重質炭酸カルシウム粒子は、ポリプロピレン系樹脂に対してより多くの接触界面を有し、樹脂組成物中に均一に分散し得る。その結果、重質炭酸カルシウム粉末は、繊維に強度を付与することができる。
重質炭酸カルシウム粉末を特徴付ける物性値として、以下の平均粒子径、BET比表面積、真円度等が挙げられる。
【0039】
重質炭酸カルシウム粉末の平均粒子径は、紡糸性が良好となり易いという観点から、好ましくは1.0μm以上5.0μm以下、より好ましくは1.5μm以上4.5μm以下、更に好ましくは2.0μm以上4.0μm以下である。
紡糸性が良好となり易いという観点から、重質炭酸カルシウム粉末は、その粒径分布において、粒子径50.0μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。
【0040】
本発明において「平均粒子径」とは、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値を意味する。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置「SS-100型」等が挙げられる。
【0041】
重質炭酸カルシウム粉末のBET比表面積は、紡糸性が良好となり易いという観点から、好ましくは0.1m2/g以上10.0m2/g以下、より好ましくは0.5m2/g以上9.0m2/g以下、更に好ましくは1.0m2/g以上8.0m2/g以下である。
【0042】
本発明において「BET比表面積」とは、BET吸着法による比表面積を意味する。「BET吸着法」とは、窒素ガス吸着法に基づく方法である。
【0043】
重質炭酸カルシウム粉末の真円度は、紡糸性が良好となり易く、不織布に充分な強度を付与し易いという観点から、好ましくは0.50以上0.95以下、より好ましくは0.55以上0.90以下、更に好ましくは0.60以上0.85以下である。
【0044】
本発明において「真円度」とは、下式で表される値であり、重質炭酸カルシウム粉末の不定形性の度合いの指標である。真円度が「1」(最大値)に近いほど真円に近いことを意味し、数値が低いほど不定形の度合いが高いことを意味する。
「真円度」=(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)
【0045】
真円度の具体的な測定方法は特に限定されないが、例えば、顕微鏡写真から粒子の投影面積(A)、粒子の投影周囲長(PM)、粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の半径(r)、及び粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積(B)をそれぞれ算出し、下式に基づき特定できる。
「真円度」=A/B=A/πr2=A×4π/(PM)2
また、真円度は、顕微鏡写真(走査型顕微鏡や実体顕微鏡等で得られる各粒子の投影図)から、市販の画像解析ソフトによって特定しても良い。
【0046】
[エチレン系重合体ワックス]
本発明における「エチレン系重合体ワックス」とは、構成モノマーとしてエチレンを含むワックスである。
本発明における「ワックス」とは、常温(通常、15~25℃)で固体又は半固体であり、かつ、常温~160℃程度で溶融する重合体である。
【0047】
エチレン系重合体ワックスは、1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0048】
エチレン系重合体ワックスとしては、重量平均分子量400以上5000以下のものを用いる。
重量平均分子量が400以上であると、エチレン系重合体ワックスのブリードアウトを抑制することができる。重量平均分子量が5000以下であると、樹脂組成物中の成分の分散性が向上し、本発明の効果が得られ易くなる。
【0049】
エチレン系重合体ワックスの重量平均分子量の下限は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上である。
エチレン系重合体ワックスの重量平均分子量の上限は、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下である。
【0050】
本発明におけるエチレン系重合体ワックスは、エチレンの単独重合体、エチレンと他のα-オレフィン(エチレンと共重合可能なもの)との共重合体等を包含する。
「他のα-オレフィン(エチレンと共重合可能なもの)」としては、好ましくは炭素数3~20のα-オレフィン、より好ましくは炭素数3~8のα-オレフィン、更に好ましくは炭素数3~4のα-オレフィン、最も好ましくは炭素数3のα-オレフィンが挙げられる。
【0051】
エチレン系重合体ワックスの密度は、本発明の効果が得られ易いという観点から、好ましくは0.890g/cm3以上0.990g/cm3以下、より好ましくは0.900g/cm3以上0.980g/cm3以下である。
【0052】
エチレン系重合体ワックスの融点は、好ましくは90℃以上130℃以下、より好ましくは95℃以上125℃以下である。
【0053】
エチレン系重合体ワックスの軟化温度は、好ましくは95℃以上135℃以下、より好ましくは100℃以上130℃以下である。
【0054】
エチレン系重合体ワックスは、従来知られる方法で製造され得る。このような製造方法として、低分子量エチレン系重合体の重合、高分子量エチレン系重合体の加熱減成による分子量低減等が挙げられる。
得られた重合体は、適宜精製しても良い。精製方法として、溶媒分別(溶媒に対する溶解度の差によって分別する方法)、蒸留等が挙げられる。
【0055】
エチレン系重合体ワックスは、市販のものであっても良い。
具体的には、「ハイワックス(登録商標)」(三井化学株式会社製)、「エクセレックス(登録商標)」(三井化学株式会社製)、「サンワックス(登録商標)」(三洋化成工業製)、「エポレン(登録商標)」(Eastman Chemical社製)、「アライドワックス(登録商標)」(Allied Singnals社製)、「パラフリント(登録商標)」(SASOL社製)等が挙げられる。
【0056】
[その他の成分]
芯成分としては、必要に応じて、その他の添加剤を配合することもできる。
このような添加剤として、ポリプロピレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、可塑剤等が挙げられる。
添加剤の種類や配合量は、得ようとする効果等に応じて適宜選択できる。
【0057】
本発明の効果が得られ易いという観点から、芯成分に含まれる樹脂は、ポリプロピレン系樹脂のみからなる。
【0058】
(第1の樹脂組成物の組成)
第1の樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂と重質炭酸カルシウム粉末とを、質量比が、ポリプロピレン系樹脂:重質炭酸カルシウム粉末=50:50~10:90を満たすように調製する。
上記質量比(ポリプロピレン系樹脂:重質炭酸カルシウム粉末)は、好ましくは48:52~10:90、より好ましくは45:55~20:80、更に好ましくは40:60~25:75である。
本発明によれば、このように重質炭酸カルシウム粉末の配合割合が高い芯部を有していても、強度及びなめらかさに優れた不織布が得られる。
【0059】
第1の樹脂組成物において、ポリプロピレン系樹脂の配合量の下限は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
第1の樹脂組成物において、ポリプロピレン系樹脂の配合量の上限は、好ましくは48質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0060】
第1の樹脂組成物において、重質炭酸カルシウム粉末の配合量の下限は、好ましくは52質量%以上、より好ましくは55質量%以上である。
第1の樹脂組成物において、重質炭酸カルシウム粉末の配合量の上限は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0061】
第1の樹脂組成物において、エチレン系重合体ワックスの配合量の下限は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。
第1の樹脂組成物において、エチレン系重合体ワックスの配合量の上限は、好ましくは2.9質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下である。
【0062】
(鞘成分(第2の樹脂組成物))
鞘成分は、ポリエチレン系樹脂、及びエチレン系重合体ワックスを含む樹脂組成物のみからなる。本発明において、該樹脂組成物を「第2の樹脂組成物」と称する。
【0063】
[ポリエチレン系樹脂]
ポリエチレン系樹脂としては、繊維の材料として使用され得る任意のものを採用できる。ポリエチレン系樹脂は、1種又は2種以上の組み合わせを用いることができる。
【0064】
ポリエチレン系樹脂は、分子量の観点で、エチレン系重合体ワックスとは区別される物質であり、両者は異なる物質である。
通常、ポリエチレン系樹脂の重量平均分子量は、10000以上である。
【0065】
本発明におけるポリエチレン系樹脂は、エチレン成分単位が50質量%以上である樹脂を包含する。このような樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(ULDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。
【0066】
「高密度ポリエチレン(HDPE)」とは、0.942g/cm3以上の密度を有するポリエチレンを意味する。
「中密度ポリエチレン(MDPE)」とは、0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満の密度を有するポリエチレンを意味する。
「低密度ポリエチレン(LDPE)」とは、0.910g/cm3以上0.930g/cm3未満の密度を有するポリエチレンを意味する。
「超低密度ポリエチレン(ULDPE)」とは、0.910g/cm3未満の密度を有するポリエチレンを意味する。
「直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)」とは、0.911g/cm3以上0.940g/cm3未満の密度、好ましくは0.912g/cm3以上0.928g/cm3未満の密度を有するポリエチレンを意味する。
【0067】
本発明におけるポリエチレン系樹脂は、好ましくは高密度ポリエチレンを含み、より好ましくは高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンの混合物からなる。
【0068】
[エチレン系重合体ワックス]
鞘成分(第2の樹脂組成物)に含まれるエチレン系重合体ワックスは、芯成分(第1の樹脂組成物)に含まれるものと同様である。
【0069】
[その他の成分]
鞘成分としては、必要に応じて、その他の添加剤を配合することもできる。
このような添加剤として、ポリエチレン系樹脂以外の熱可塑性樹脂、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、可塑剤等が挙げられる。
添加剤の種類や配合量は、得ようとする効果等に応じて適宜選択できる。
【0070】
本発明の効果が奏され易いという観点から、鞘成分(第2の樹脂組成物)は、重質炭酸カルシウム粉末を含まないことが好ましい。
【0071】
本発明の効果が得られ易いという観点から、鞘成分に含まれる樹脂は、ポリエチレン系樹脂のみからなる。
【0072】
(第2の樹脂組成物の組成)
第2の樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂、及びエチレン系重合体ワックスを含む点以外は特に限定されない。
本発明の効果が奏され易いという観点から、第2の樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂、及びエチレン系重合体ワックスのみからなることが好ましい。
【0073】
第2の樹脂組成物において、ポリエチレン系樹脂の配合量の下限は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上である。
第2の樹脂組成物において、ポリエチレン系樹脂の配合量の上限は、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0074】
第2の樹脂組成物において、エチレン系重合体ワックスの配合量の下限は、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。
第2の樹脂組成物において、エチレン系重合体ワックスの配合量の上限は、好ましくは2.9質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下である。
【0075】
(芯鞘構造を有する繊維の組成)
上記の第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物を用いて紡糸を行うことで、芯鞘構造を有する繊維が得られる。換言すれば、本発明における芯鞘構造を有する繊維は、第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物のみからなる。
【0076】
繊維の組成は、第1の樹脂組成物及び第2の樹脂組成物の比率に応じて適宜設定できる。ただし、エチレン系重合体ワックスの含有量が、繊維全体に対して0.1質量%以上3.0質量%以下となるように調整することを要する。
【0077】
エチレン系重合体ワックスの含有量の下限は、繊維に対して、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上である。
エチレン系重合体ワックスの含有量の上限は、繊維に対して、好ましくは2.9質量%以下、より好ましくは2.8質量%以下である。
【0078】
第1の樹脂組成物と、第2の樹脂組成物との比率は、特に限定されないが、質量比(第1の樹脂組成物:第2の樹脂組成物)が、好ましくは2:8~8:2、より好ましくは3:7~7:3である。
【0079】
<不織布の製造方法>
本発明の不織布は、従来知られる方法で、芯鞘構造を有する繊維からウェブを形成し、得られたウェブを加工することで得られる。
【0080】
芯鞘構造を有する繊維の製造方法としては特に限定されず、従来知られる方法(溶融紡糸法等)を採用できる。
具体的には、各樹脂組成物を溶融混練し、複合紡糸用ノズルから紡糸する方法等が挙げられる。溶融混練と紡糸とは、それぞれ別の装置を用いて行っても良く、同じ装置で一体的に行っても良い。
【0081】
繊維の平均繊維径は、5μm以上30μm以下の範囲であり得る。
【0082】
繊維の鞘寸法について、外径の直径は、好ましくは2μm以上20μm以下、より好ましくは9μm以上16μm以下である。
繊維の鞘寸法について、内径の直径は、好ましくは1μm以上19μm以下、より好ましくは8μm以上14μm以下である。
【0083】
繊維の断面形状は、円や多角形であり得る。
【0084】
繊維の密度は、0.62g/cm3以上1.40g/cm3以下であり得る。
【0085】
芯鞘構造を有する繊維からウェブを形成する方法としては、メルトブローン法、スパンボンド法、乾式法、湿式法、サーマルボンド法、ケミカルボンド法等が挙げられる。
【0086】
ウェブの形成の際、本発明における芯鞘構造を有する繊維とともに、その他の繊維をブレンドしても良く、ブレンドしなくとも良い。その他の繊維としては、レーヨン繊維等の従来知られた繊維が挙げられる。
本発明の効果が奏され易いという観点から、ウェブ(不織布)に対する本発明における芯鞘構造を有する繊維の割合は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは100質量%である。
【0087】
ウェブの加工方法としては、絡合、乾燥、融着等が挙げられる。
強度が高い不織布が得られ易いという観点から、ウェブに対しては少なくとも絡合を行うことが好ましい。
【0088】
不織布に対して、必要に応じて加工(ラミネート加工、熱処理加工、親水加工、撥水加工、プレス加工等)を行っても良い。
【0089】
不織布の形状、大きさ、厚さは特に限定されず、用途等に応じて適宜設定できる。
例えば、不織布の目付は、10g/m2以上100g/m2以下であり得る。
【0090】
得られた不織布は任意の用途に使用できる。例えば、衛生マスク、吸収性物品(生理用ナプキン、紙オムツ等)、吸音材、バッグ等の用途が挙げられる。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0092】
<不織布の作製>
下記の方法に基づき、表1及び2の「芯成分」及び「鞘成分」に示す組成を有する芯鞘構造を有する繊維から、不織布を作製した。
【0093】
表中、「芯成分」及び「鞘成分」の項に示した数値は、それぞれ、芯成分又は鞘成分に対する各成分の割合(単位:質量%)である。例えば、「実施例1-1」における「芯成分」の「PP」における「49.8」とは、芯成分(第1の樹脂組成物)に対するポリプロピレン系樹脂の含有量が49.8質量%であることを意味する。本例において、芯成分の構成成分の総量は不織布(又は繊維)全体の50質量%を占めるので、不織布(又は繊維)全体に対する該ポリプロピレン系樹脂の含有量は24.9質量%である。
【0094】
表中、「繊維中のEt-Waの含有量」とは、不織布に配合されたエチレン系重合体ワックスの総量を意味する。
【0095】
(材料)
使用した材料は以下のとおりである。
【0096】
[芯成分(第1の樹脂組成物)]
ポリプロピレン系樹脂(PP):プロピレンの単独重合体、メルトフローレート30g/10分、密度0.90g/cm3
重質炭酸カルシウム粉末(重Ca):平均粒子径2.0μm、BET比表面積2.0m2/g、真円度0.75、表面改質無し
エチレン系重合体ワックス(Et-Wa):商品名「エクセレックス(登録商標)30200B」、三井化学株式会社製、重量平均分子量2900、密度0.913g/cm3、融点102℃、軟化点105℃
【0097】
[鞘成分(第2の樹脂組成物)]
ポリエチレン系樹脂(PE):エチレンの単独重合体、メルトフローレート7.5g/10分、密度0.94g/cm3
ポリプロピレン系樹脂(PP):プロピレンの単独重合体、メルトフローレート30g/10分、密度0.90g/cm3
エチレン系重合体ワックス(Et-Wa):ポリエチレンワックス、商品名「エクセレックス(登録商標)30200B」、三井化学株式会社製、重量平均分子量2900、密度0.913g/cm3、融点102℃、軟化点105℃
【0098】
(不織布の作製方法)
以下の方法で、メルトブローン法に基づき、市販の装置を用いて不織布を作製した。
芯成分の構成成分、及び、鞘成分の構成成分をそれぞれ溶融し、溶融物をノズルから紡出させた。なお、本例において、芯成分と鞘成分との質量比は、芯成分:鞘成分=1:1に設定した。
得られた紡出糸の平均繊維径は、16μmだった。
得られた紡出糸の密度は、0.95g/cm3だった。
得られた紡出糸の鞘寸法は、外径:φ16μm、内径:φ12μmだった。
紡出糸に対し、高温エアを吹きつけ、芯鞘構造を有する繊維からなるウェブを作製した。ウェブに対して絡合を行い、シート状の不織布(目付:約22g/m2)を得た。
【0099】
<不織布の評価>
得られた不織布の強度、及びなめらかさを以下の方法で評価した。その結果を表中の「評価」の項に示す。
【0100】
(強度)
JIS L 1096の引裂強さD法(ペンジュラム法)に基づき、不織布の強度を測定した。測定結果に基づき、以下の基準で不織布の強度を評価した。
A:強度が10N以上である。
B:強度が5N以上10N未満である。
C:強度が5N未満である。
【0101】
(なめらかさ)
不織布の表面を手で触り、以下の基準で不織布のなめらかさを評価した。
A:表面に凹凸がほぼ無く、なめらかである。
B:表面に凹凸がやや認められる。
C:表面に凹凸があり、ざらついている。
【0102】
【0103】
【0104】
表に示されるとおり、本発明の要件を満たす不織布は、良好な強度を有しつつ、なめらかさにも優れていた。
【0105】
他方で、エチレン系重合体ワックスが芯成分又は鞘成分の何れかにしか含まれていないか、又は、エチレン系重合体ワックスが全く含まれていない場合、不織布の強度及び/又はなめらかさが顕著に損なわれていた。
【0106】
エチレン系重合体ワックスについて、重量平均分子量が5000超のものを使用したところ、溶融物の粘度が顕著に増加し、紡糸が困難だった。
【0107】
データは示していないが、鞘成分(第2の樹脂組成物)に重質炭酸カルシウム粉末を配合したところ、強度は高まったものの、なめらかさが損なわれる傾向にあった。
【要約】
【課題】本発明の課題は、芯部への重質炭酸カルシウム粉末の配合量が多くとも、良好な強度及びなめらかさを備えた、芯鞘構造を有する繊維を含む不織布を提供することである。
【解決手段】本発明は、芯鞘構造を有する繊維を含む不織布であって、前記繊維の芯成分が、ポリプロピレン系樹脂、重質炭酸カルシウム粉末、及びエチレン系重合体ワックスを含む第1の樹脂組成物からなり、前記繊維の鞘成分が、ポリエチレン系樹脂、及びエチレン系重合体ワックスを含む第2の樹脂組成物からなり、前記第1の樹脂組成物における、前記ポリプロピレン系樹脂と前記重質炭酸カルシウム粉末との質量比が、50:50~10:90であり、前記エチレン系重合体ワックスが、重量平均分子量400以上5000以下のエチレン系重合体ワックスであり、前記エチレン系重合体ワックスの含有量が、前記繊維に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下である、不織布を提供する。
【選択図】なし