(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】選挙投票用紙及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B42D 25/20 20140101AFI20220331BHJP
【FI】
B42D25/20
(21)【出願番号】P 2022023810
(22)【出願日】2022-02-18
【審査請求日】2022-02-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】出井 晃治
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-23091(JP,A)
【文献】特開平2-269099(JP,A)
【文献】特開平1-196399(JP,A)
【文献】特開2020-189417(JP,A)
【文献】特開2014-152405(JP,A)
【文献】国際公開第2020/138090(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/20
B42D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面又は両面に設けられたコート層と、を含む選挙投票用紙であって、
前記コート層の表面の少なくとも一部に、オフセットインキによる網点印刷部が設けられ、
前記コート層が、アクリル系ポリマーからなる連続相、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、35質量%以上65質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、5質量%以上30質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した静摩擦係数が、0.45以上0.55以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した動摩擦係数が、0.25以上0.35以下であり、
前記網点印刷部のJIS B0601:2001に準拠した算術平均高さが、0.6μm以上0.9μm以下であり、
前記基材及び前記コート層に含まれる色素の含有量の総量が、前記基材及び前記コート層に対して、0.1質量%以下である、
選挙投票用紙。
【請求項2】
前記網点印刷部の網点パーセントが、10%以上30%以下である、請求項1に記載の選挙投票用紙。
【請求項3】
前記基材が、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む、請求項1又は2に記載の選挙投票用紙。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である、請求項3に記載の選挙投票用紙。
【請求項5】
前記重質炭酸カルシウムが、表面処理された重質炭酸カルシウムである、請求項1から4の何れかに記載の選挙投票用紙。
【請求項6】
前記クレイの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である、請求項1から5の何れかに記載の選挙投票用紙。
【請求項7】
前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体である、請求項1から6の何れかに記載の選挙投票用紙。
【請求項8】
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-ヒドロキシメチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルからなる群から選択される1以上である、請求項7に記載の選挙投票用紙。
【請求項9】
ポリオレフィン系樹脂と、無機物質粉末と、を質量比50:50~10:90の割合で含む樹脂組成物を押出成形することで基材を得る工程と、
前記基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマー、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを含む水性エマルジョンを塗工及び乾燥することでコート層を設ける工程と、
前記コート層の表面の少なくとも一部に、オフセットインキによる網点印刷部を設ける工程と、
を含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、35質量%以上65質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、5質量%以上30質量%以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した静摩擦係数が、0.45以上0.55以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した動摩擦係数が、0.25以上0.35以下であり、
前記網点印刷部のJIS B0601:2001に準拠した算術平均高さが、0.6μm以上0.9μm以下であり、
前記基材及び前記コート層に含まれる色素の含有量の総量が、前記基材及び前記コート層に対して、0.1質量%以下である、
選挙投票用紙の製造方法。
【請求項10】
前記基材は、押出成形後に二軸延伸されたものである、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選挙投票用紙及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
選挙投票用紙は、その目的上、計数機による集計のし易さ、筆記具による記入のし易さ、折れ癖の付きにくさ等の諸特性が要求される。
このような要求に応えるべく、様々な特性を備えた用紙(合成紙等)が提案されている(例えば、特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-176185号公報
【文献】特開2008-307835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、近年、環境への配慮から、上記のような特性を損なわずに、リサイクルも可能な用紙へのニーズがある。
【0005】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、通紙性、筆記性、折り復元性、及びリサイクル性に優れた選挙投票用紙の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定の網点印刷部が設けられたコート層を備える選挙投票用紙によれば上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成させた。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0007】
(1) 基材と、前記基材の片面又は両面に設けられたコート層と、を含む選挙投票用紙であって、
前記コート層の表面の少なくとも一部に、オフセットインキによる網点印刷部が設けられ、
前記コート層が、アクリル系ポリマーからなる連続相、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、35質量%以上65質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、5質量%以上30質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した静摩擦係数が、0.45以上0.55以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した動摩擦係数が、0.25以上0.35以下であり、
前記網点印刷部のJIS B0601:2001に準拠した算術平均高さが、0.6μm以上0.9μm以下であり、
前記基材及び前記コート層に含まれる色素の含有量の総量が、前記基材及び前記コート層に対して、0.1質量%以下である、
選挙投票用紙。
【0008】
(2) 前記網点印刷部の網点パーセントが、10%以上30%以下である、(1)に記載の選挙投票用紙。
【0009】
(3) 前記基材が、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む、(1)又は(2)に記載の選挙投票用紙。
【0010】
(4) 前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である、(3)に記載の選挙投票用紙。
【0011】
(5) 前記重質炭酸カルシウムが、表面処理された重質炭酸カルシウムである、(1)から(4)の何れかに記載の選挙投票用紙。
【0012】
(6) 前記クレイの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である、(1)から(5)の何れかに記載の選挙投票用紙。
【0013】
(7) 前記アクリル系ポリマーが、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体である、(1)から(6)の何れかに記載の選挙投票用紙。
【0014】
(8) 前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-ヒドロキシメチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルからなる群から選択される1以上である、(7)に記載の選挙投票用紙。
【0015】
(9) ポリオレフィン系樹脂と、無機物質粉末と、を質量比50:50~10:90の割合で含む樹脂組成物を押出成形することで基材を得る工程と、
前記基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマー、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを含む水性エマルジョンを塗工及び乾燥することでコート層を設ける工程と、
前記コート層の表面の少なくとも一部に、オフセットインキによる網点印刷部を設ける工程と、
を含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、35質量%以上65質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、5質量%以上30質量%以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した静摩擦係数が、0.45以上0.55以下であり、
前記網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した動摩擦係数が、0.25以上0.35以下であり、
前記網点印刷部のJIS B0601:2001に準拠した算術平均高さが、0.6μm以上0.9μm以下であり、
前記基材及び前記コート層に含まれる色素の含有量の総量が、前記基材及び前記コート層に対して、0.1質量%以下である、
選挙投票用紙の製造方法。
【0016】
(10) 前記基材は、押出成形後に二軸延伸されたものである、(9)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、通紙性、筆記性、折り復元性、及びリサイクル性に優れた選挙投票用紙が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに特に限定されない。
【0019】
<選挙投票用紙>
本発明に係る選挙投票用紙は、基材と、該基材の片面又は両面に設けられたコート層と、を含む。
【0020】
本発明者は、コート層の組成、及び該コート層の表面に設けた網点印刷部の物性を、所定の条件を満たすように調整することで、通紙性、筆記性、及び折り復元性に優れた選挙投票用紙が得られることを見出した。
【0021】
また、従来の選挙投票用紙は、着色を要する場合、色素を、基材やコート層の材料として他の成分とともに配合することが一般的に行われてきた。
しかし、本発明者は、基材及びコート層へ色素を配合せず、着色を要する場合はコート層の表面を着色することで、リサイクル性にも優れた選挙投票用紙が得られることを見出した。
このような構成を採用することで、選挙投票用紙の着色が容易になり、急な選挙の要請に対しても速やかに対応することが出来る。
【0022】
本発明において「選挙投票用紙」とは、任意の選挙に用いられ、投票者が選択した代表者等を記入するための用紙である。
本発明における選挙投票用紙は、「投票用紙等に関する規程」(平成16年11月1日 選挙管理委員会告示第3号)を満たす投票用紙を包含する。
【0023】
本発明において「通紙性」とは、計数機等による、選挙投票用紙の紙送りのし易さを意味する。
例えば、「通紙性が高い」及び「通紙性が良好である」とは、選挙投票用紙が紙送りし易く、計数機等による正確な計数を行えること(計数漏れが少ないか、計数漏れが無いこと)を包含する。
【0024】
通紙性は、実施例に示した方法で評価できる。
【0025】
本発明において「筆記性」とは、選挙投票用紙への筆記具による記入のし易さを意味する。
例えば、「筆記性が高い」及び「筆記性が良好である」とは、書き味(用紙表面への顔料等の載り具合、筆記具の滑り具合等)が良好であること、カスレ等が少なく用紙表面へ明瞭に記入できること、計数機等による誤認識が少ないことを包含する。
なお、筆記具としては、鉛筆、ペン(水性又は油性)、万年筆等が挙げられる。
【0026】
筆記性は、実施例に示した方法で評価できる。
【0027】
本発明において「折り復元性」とは、選挙投票用紙を折ったり、丸めたりした場合における、元の状態への戻り易さを意味する。
例えば、「折り復元性が高い」及び「折り復元性が良好である」とは、二つ折り(折り角0°)にした用紙において、折り角が120°になるまでの時間が3秒以下となることを包含する。
【0028】
折り復元性は、実施例に示した方法で評価できる。
【0029】
本発明において「リサイクル性」とは、用紙のリサイクルのし易さを意味する。
例えば、「リサイクル性が高い」及び「リサイクル性が良好である」とは、用紙のリサイクルの際に、色残りが少ないか、又は色残りが無いことを包含する。
【0030】
リサイクル性は、実施例に示した方法で評価できる。
【0031】
本発明において「色素」とは、製紙分野において着色を目的に配合される任意の成分を包含する。色素としては、例えば、ジスアゾイエロー、ブリリアントカーミン6B、フタロシアニンブルー、レーキッドレッドC、カーボンブラック、チタンホワイト等が挙げられる。
【0032】
以下、本発明の選挙投票用紙の構成について詳述する。
なお、以下、質量に関する規定は、特段の言及が無い限り、乾燥質量を意味する。
【0033】
(1)基材
本発明の選挙投票用紙の基材の構成は特に限定されず、製紙分野において従来知られる任意の構成を採用できる。
【0034】
基材としては、樹脂系材料を主成分とするプラスチックシート、パルプ系材料から構成されるシート(グラシン紙、コート紙、上質紙、無塵紙、含浸紙等の紙基材)、合成紙等や、これらの組み合わせ(ラミネート紙)等が挙げられる。
【0035】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、基材は、熱可塑性樹脂と、無機物質粉末との質量比(熱可塑性樹脂:無機物質粉末)が、好ましくは50:50~10:90、より好ましくは40:60~20:80、更に好ましくは40:60~25:75であるものを使用し得る。
基材の構成が上記要件を満たしていると、耐衝撃性や成形加工性により優れる。
【0036】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、熱可塑性樹脂の含有量の下限は、基材に対して、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0037】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、熱可塑性樹脂の含有量の上限は、基材に対して、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0038】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、無機物質粉末の含有量の下限は、基材に対して、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0039】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、無機物質粉末の含有量の上限は、基材に対して、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0040】
以下、基材層の構成成分の例につき詳述する。
【0041】
(熱可塑性樹脂)
基材を構成する熱可塑性樹脂としては特に限定されず、製紙分野において使用し得る任意の樹脂を採用できる。熱可塑性樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0042】
熱可塑性樹脂としては以下が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリメチル-1-ペンテン、エチレン-環状オレフィン共重合体等);
官能基含有ポリオレフィン系樹脂(エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体の金属塩(アイオノマー)、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体、マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等);
熱可塑性ポリエステル系樹脂(芳香族ポリエステル系樹脂(ナイロン-6、ナイロン-6,6、ナイロン-6,10、ナイロン-6,12等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、脂肪族ポリエステル系樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸等)等);
ポリカーボネート樹脂(芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート等);
ポリスチレン系樹脂(アタクティックポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン(AS)共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)共重合体等);
ポリ塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等);
ポリフェニレンスルフィド;
ポリエーテル系樹脂等(ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等)。
【0043】
熱可塑性樹脂のうち、その成形容易性、性能面及び経済面等から、ポリオレフィン系樹脂、芳香族ポリエステル系樹脂、又は脂肪族ポリエステル系樹脂を用いることが好ましく、ポリオレフィン系樹脂を用いることが特に好ましい。
【0044】
本発明において「ポリオレフィン系樹脂」とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂を意味する。
「オレフィン成分単位を主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上(好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上)含まれることを意味する。
なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定されず、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、ラジカル開始剤(酸素、過酸化物等)等を用いる方法等の何れでも良い。
【0045】
基材には、機械的強度と耐熱性とのバランスの観点等から、ポリオレフィン系樹脂のうち、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂が含まれていることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂が含まれていることがより好ましく、樹脂成分としてポリプロピレン系樹脂のみが含まれていることが最も好ましい。
【0046】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げらる。
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。「他のα-オレフィン」としては、例えば、炭素数4~10のα-オレフィン(エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等)が挙げられる。
これらのうち、プロピレン単独重合体が特に好ましい。
【0047】
プロピレン単独重合体としては、種々の立体規則性(アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック等)を示す、直鎖状又は分枝状のポリプロピレン等が包含される。
【0048】
プロピレンの共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、二元共重合体、三元共重合体等の何れであっても良い。具体的には、例えば、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0049】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられ、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。
【0050】
(無機物質粉末)
基材を構成する無機物質粉末としては特に限定されず、製紙分野において使用し得る任意の樹脂を採用できる。無機物質粉末は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0051】
無機物質粉末としては、合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良く、金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、又はこれらの水和物の粉末が挙げられる。
より具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。
これらのうち、炭酸カルシウム粉末が好ましい。
【0052】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムの何れでも良い。良好な筆記性を実現し易いという観点から、基材には重質炭酸カルシウムが含まれていることが好ましく、基材に含まれる無機物質粉末は重質炭酸カルシウムからなることがより好ましい。
【0053】
なお、「重質炭酸カルシウム」とは、CaCO3を主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕(乾式法、湿式法等)して得られる炭酸カルシウムである。
「軽質炭酸カルシウム」とは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。
したがって、両者は明確に区別される。
【0054】
無機物質粉末の形状は特に限定されず、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。また、これらの形状は、合成法等により得られる均一な形状であっても良く、天然鉱物の粉砕等により得られる不定形状であっても良い。
【0055】
無機物質粉末は、粒子状、又は繊維状であることが好ましい。
【0056】
無機物質粉末が粒子状である場合、その平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上50.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上10.0μm以下、更に好ましくは1.0μm以上5.0μm以下である。特に、その粒子径分布において、粒子径50.0μmを超える粒子を含有しないことが好ましい。
平均粒子径の要件が上記を満たしていると、熱可塑性樹脂との混練時における粘度上昇を抑制し易く、成形加工性が良好となり易い。
【0057】
本発明において「平均粒子径」とは、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値を意味する。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることが出来る。
【0058】
無機物質粉末が繊維状である場合、その平均繊維長は、好ましくは3.0μm以上20.0μm以下、より好ましくは0.2μm以上1.5μm以下である。アスペクト比は、通常、10以上30以下である。
【0059】
本発明において「平均繊維長」及び「平均繊維径」は、電子顕微鏡で測定した値を意味する。アスペクト比は、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)を意味する。
【0060】
無機物質粉末は、その分散性や反応性を高めるために、無機物質粉末の表面が予め表面処理されたものであっても良い。表面処理の方法としては、物理的方法(プラズマ処理等)、化学的方法(カップリング剤や界面活性剤を用いた方法)が挙げられる。
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0061】
(その他の添加剤)
基材には、上述の成分に加えて、必要に応じて、その他の添加剤を配合しても良く、配合しなくても良い。その他の添加剤としては、例えば、色素、滑剤、可塑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
これらの添加剤の種類や含有量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0062】
ただし、基材に色素を配合する場合、基材及びコート層に含まれる色素の含有量の総量を、基材及びコート層に対して、0.1質量%以下に調整する。
例えば、色素の含有量は、基材に対して、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である(つまり、基材が色素を全く含まない)。
【0063】
(その他の構成)
基材についてその他の各種構成は特に限定されない。
【0064】
基材の層構成は、一層でも多層でも良い。
基材が多層である場合、任意の目的に応じた層(基材とコート層との密着性を向上させるためのシーラント層、コート層を設けていない基材表面上への保護層、遮蔽層、粘着層等)を設け得る。
ただし、基材が多層である場合、層のうち少なくとも一層が本発明における基材の要件を満たすことを要し、好ましくは全ての層が本発明における基材の要件を満たす。
【0065】
基材は、延伸シートであっても良く、未延伸シートであっても良い。
延伸シートである場合、縦又は横等の一軸方向又は二軸方向に延伸されたものであっても良い。
【0066】
基材の大きさは特に限定されず、選挙投票用紙としての適切な大きさであり得る。
例えば、通常の選挙投票用紙のサイズは、縦128mm×横80mmである。
【0067】
基材の厚さは特に限定されず、通常10μm以上300μm以下、好ましくは25μm以上200μm以下である。
【0068】
基材は、必要に応じて、その片面又は両面に表面処理が施されていても良い。表面処理は、基材の表面の全体又は一部に施されていても良い。
好ましい表面処理としては、基材表面に設けられるコート層との密着性を向上させる観点から、酸化法による処理、凹凸化法による処理、ライマー処理等が挙げられる。
酸化法としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。
凹凸化法としては、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。
【0069】
(2)コート層
コート層は、基材の片面又は両面に設けられる。
コート層は、基材の表面全体に設けても良く、表面の一部に設けても良い。ただし、本発明の効果が奏され易いという観点から、コート層は、基材の表面全体に設けることが好ましい。
本発明の選挙投票用紙のコート層は、投票者が筆記具を用いて記入を行う箇所に相当し得る。
【0070】
コート層おいて、アクリル系ポリマーからなる連続相中に、本発明における要件を満たすように、クレイ及び重質炭酸カルシウムが存在することで、用紙表面の平滑性を損なわずに、微細な凹凸が形成される。
本発明者は、このようなコート層を備える選挙投票用紙が、良好な筆記性及び折り復元性を有すること、更に、良好な耐候性、低い表面抵抗率(印刷のし易さ)、白色度の向上、速乾性の向上等をも実現し得ることを見出した。
また、このようなコート層が、上記基材(特に、ポリプロピレン系樹脂を含むもの)との密着性や接着性が良好であることもあわせて見出した。
【0071】
本発明が上記効果を奏する理由は定かではないが、所定の体積平均粒子径を有する重質炭酸カルシウムに起因する、アンカー効果の発現が一因として考えられる。
重質炭酸カルシウムは、天然の石灰石等を機械的に粉砕及び加工して得られるため、同等の粒子径の軽質炭酸カルシウムに比べて、凹凸の多い不定形状の粒子からなる。
このように不揃いな重質炭酸カルシウム粒子を、体積平均粒子径が所定範囲となるように調整し、クレイと共に配合することにより、コート層表面に、物理的かつ適度な凹凸が形成される。該凹凸は、アンカー効果によって、基材との接合界面における接着性を向上させ得る。
そして、コート層中におけるクレイ及び重質炭酸カルシウムの配合バランスの良さから、得られる用紙のオフセット印刷適性や、LBP印刷適性が向上し得る。なお、「印刷適性」とは、定着性及び転写性を包含する。
更に、該凹凸に起因した入射光散乱による耐候性向上効果、クレイ及び重質炭酸カルシウムの特性による耐水性向上効果、クレイの特性による良好な帯電防止効果が得られることも期待できる。
【0072】
コート層の厚さ(乾燥状態における厚さ)は特に限定されず、通常1μm以上10μm以下、好ましくは2μm以上8μm以下、より好ましくは3μm以上5μm以下である。
コート層の厚さが上記範囲内であると、コート層がインキの受容層として充分に機能し、インキ受容特性(良好な着色性、発色性等)を発揮し易くなる。更に、選挙投票用紙の耐水性、表面の帯電防止性、インキとの密着性等の特性も良好となり易い。
【0073】
コート層の厚さ(乾燥状態における厚さ)は、例えば、基材の厚さに対して1%以上15%以下であり得る。
【0074】
以下、コート層の構成成分につき詳述する。
【0075】
(連続相を形成するアクリル系ポリマー)
コート層のアクリル系ポリマーは、連続相、換言すればマトリックスとなるものである。
アクリル系ポリマーとしては、製紙分野において従来使用されるものを採用できる。アクリル系ポリマーは、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0076】
アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物等が挙げられる。
本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」との双方を含む意味で用いる。
【0077】
アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分は、単独、又は複数の組み合わせでも良い。
すなわち、アクリル系ポリマーは、1種類のモノマー成分のみから構成されるホモポリマーであっても良く、モノマー成分を複数組み合わせたコポリマー(共重合体)であっても良い。
【0078】
アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分としては、例えば、下記の成分(アクリル酸、メタクリル酸)からなる群から選択される1以上が挙げられる。
アルキル基の炭素数が1~18のアクリル酸アルキルエステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸パルミチル又はアクリル酸シクロヘキシル等);
アルキル基の炭素数が1~18のメタクリル酸アルキルエステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸パルミチル及びメタクリル酸シクロヘキシル等);
(メタ)アクリル酸の側鎖に水酸基を有するアルキルエステル(アクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート等);
エチレングリコール単位を分子内に持つポリエチレングリコール(nは3以上20以下が望ましい。)ジアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)トリアクリレート、フェノールEO変性(nは3以上20以下が望ましい。)アクリレート;
(メタ)アクリル酸のアルケニルオキシアルキルエステル(アリルオキシエチルアクリレートやアリルオキシエチルメタクリレート等);
(メタ)アクリル酸の側鎖にアルコキシル基を有するアルキルエステル(アクリル酸メトキシブチル、メタクリル酸メトキシブチル、アクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシブチル、メタクリル酸エトキシブチル等);
(メタ)アクリル酸のアルケニルエステル(アクリル酸アリルやメタクリル酸アリル等);
アクリル酸の側鎖にエポキシ基を有するアルキルエステル(例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、並びにアクリル酸メチルグリシジルやメタクリル酸メチルグリシジル等);
(メタ)アクリル酸のモノ-又はジ-アルキルアミノアルキルエステル(アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸メチルアミノエチル、メタクリル酸メチルアミノエチル等);
側鎖としてシリル基、アルコキシシリル基又は加水分解性アルコキシシリル基等を有するシリコーン変性(メタ)アクリル酸エステル;
アクリルアミド、メタクリルアミド;
メチロール基を有する(メタ)アクリルアミド(N-メチロールアクリルアミド及びN-メチロールメタクリルアミド等);
アルコキシメチロール基を有する(メタ)アクリルアミド(N-アルコキシメチロールアクリルアミド(例えば、N-イソブトキシメチロールアクリルアミド等)、及びN-アルコキシメチロールメタクリルアミド(例えば、N-イソブトキシメチロールメタクリルアミド等)等);
アルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリルアミド(N-ブトキシメチルアクリルアミドやN-ブトキシメチルメタクリルアミド等);及び、
各種アクリル系単量体(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)。
【0079】
アクリル系ポリマーは、光硬化反応等により架橋構造が導入されたものでも良い。このようなアクリル系ポリマーによれば、コート層の皮膜強度を高め易い。
架橋構造を導入する観点から、2官能乃至は多官能のアクリル系モノマー、具体的には、多官能(メタ)アクリレートをモノマー成分として用いても良い。
多官能(メタ)アクリレートとしては、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、上記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0080】
その他のモノマー成分として、上記モノマー成分と共重合体を形成するものが挙げられる。このようなモノマー成分として、ビニル系単量体(酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、乳酸ビニル、酪酸ビニル、バーサティック酸ビニル及び安息香酸ビニル等)、エチレン、ブタジエン、スチレン等が挙げられる。
【0081】
アクリル系ポリマーの特に好ましい例として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等が挙げられる。
【0082】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体の好ましい例として、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ノニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-オクチル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸イソオクチル、アクリル酸2-ヒドロキシメチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピルからなる群から選択される1以上が挙げられる。
【0083】
アクリル系ポリマーの含有量は、アクリル系ポリマーからなる連続相を充分に形成でき、かつ、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを充分配合できれば特に限定されない。
アクリル系ポリマーの含有量の下限は、コート層に対して、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。
アクリル系ポリマーの含有量の上限は、コート層に対して、好ましくは57質量%以下、より好ましくは52質量%以下である。
【0084】
(クレイ)
クレイの含有量は、コート層に対して、35質量%以上65質量%以下である。
【0085】
クレイの含有量の下限は、コート層の印刷適性を向上させ易く、更に上記のアンカー効果が奏し易いという観点から、コート層に対して、好ましくは38質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。
【0086】
クレイの含有量の上限は、アクリル系ポリマーからなる連続相を充分に形成し易く、更に、コート層に充分な耐水性を付与し、良好な外観を得易いという観点から、コート層に対して、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下である。
【0087】
本発明において「クレイ」とは、層状構造を有する粘土鉱物、及び層状構造を有しない粘土鉱物(イモゴライトやアロフェン等)を包含する。クレイは、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0088】
層状構造を有する粘土鉱物としては、膨潤性鉱物(スメクタイト、バーミキュライト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライト、ヘクトライト、ハロイサイト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、スメクタイト、雲母、脆雲母、セリサイト(絹雲母)、イライト、グローコナイト(海緑石)、ハイドロタルサイト等)、非膨潤性鉱物(カオリン鉱物(カオリナイト、高陵石)、サーペンティン、パイロフィライト、タルク(滑石)、クロライト(緑泥石)、ゼオライト(沸石)等)が挙げられる。
【0089】
クレイは、天然クレイ、合成クレイ、及び有機化クレイの何れであっても良い。
【0090】
有機化クレイとしては特に限定されないが、クレイ(天然物、合成物等)が有機化剤により有機化されたものが好ましい。
【0091】
有機化剤としては、クレイを有機化できる任意の有機化剤を利用できる。例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクタデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0092】
本発明の効果を奏し易いという観点から、クレイは、カオリンクレイ(カオリナイトを主成分とする粘)を含むことが好ましく、カオリンクレイからなることがより好ましい。
【0093】
クレイの粒子径は、特に限定されず、形成しようとするコート層の厚さ等に応じて適宜設定できる。
本発明の効果が奏され易く、更に、コート層内の分散性、基材接着性、印刷適性、帯電防止性が良好となり易いという観点から、クレイの体積平均粒子径は、好ましくは0.05μm以上2.00μm以下、より好ましくは0.10μm以上1.70μm以下、更に好ましくは0.20μm以上1.50μm以下、更に好ましくは1.00μm以下である。
【0094】
本発明において「体積平均粒子径」(MV)とは、レーザ回折散乱法に基づく粒子径分布測定の体積基準の積算分率における50%径(D50)を意味する。
【0095】
クレイの粒度は、均一に近いほど、コート層の面内特性が均一となり易いため好ましい。
【0096】
クレイの形状は、特に限定されず、球状、楕円球状、扁平状、不定形状等の何れでも良い。
ただし、コート層中における分散性の観点から、球状に近いもの(例えば、アスペクト比(長径/短径)が好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下であるもの)が好ましい。
【0097】
クレイの比重は、特に限定されないが、コート層内での分散性の観点から、好ましくは1.5以上3.0以下、より好ましくは2.0以上2.8以下である。
【0098】
(重質炭酸カルシウム)
コート層に含まれる重質炭酸カルシウムとしては、上記(無機物質粉末)の項で説明したものと同様のものを使用できる。
ただし、コート層に含まれる重質炭酸カルシウムは、体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下であるものを用いる。
【0099】
本発明者の検討の結果、重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が2.00μmを超えると、同量の軽質炭酸カルシウムを用いた場合と比べ、基材とコート層との接着性が低下することが見出された。これは、体積平均粒子径が2.00μm超の重質炭酸カルシウムでは、粒子表面の凹凸に起因するアンカー効果が発現し難く、粒子の脱落等に起因する接着性の低下が生じるためであると推察される。
他方で、重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下の範囲であると、同等の粒子径の軽質炭酸カルシウムを用いた場合と比べて、接着性が向上することも見出された。このような体積平均粒子径の重質炭酸カルシウムでは、粒子が脱落し難く、粒子が不定形状であることによるアンカー効果を良好に発現できるためであると考えられる。
【0100】
重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径の下限は、上述のアンカー効果を充分に発現させ、更に、コート層の平滑性やシートの光沢性を向上させ易いという観点から、好ましくは0.07μm以上、より好ましくは0.10μm以上、更に好ましくは0.20μm以上である。
【0101】
重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径の上限は、基材とコート層との接着性を向上させ易いという観点から、好ましくは1.50μm以下、より好ましくは1.00μm以下、更に好ましくは0.50μm以下である。
【0102】
重質炭酸カルシウムの含有量は、コート層に対して、5質量%以上30質量%以下である。
【0103】
重質炭酸カルシウムの含有量の下限は、コート層上のインキの速乾性や、オフセット印刷適性を向上させ易く、更に白色度を改善し易いという観点から、コート層に対して、好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上、更に好ましくは9質量%以上である。
【0104】
重質炭酸カルシウムの含有量の上限は、アクリル系ポリマーからなる連続相を充分に形成し易く、更に、コート層の表面を平滑化し得易いという観点から、コート層に対して、好ましくは29質量%以下、より好ましくは27質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0105】
重質炭酸カルシウムは、その分散性や反応性を高めるために、重質炭酸カルシウムの表面が予め表面処理されたものであっても良い。表面処理の方法としては、上記(無機物質粉末)の項で説明したものと同様のものを使用できる。
本発明の効果が奏され易いという観点から、表面処理の方法としては脂肪酸表面処理が好ましい。
【0106】
(その他の添加剤)
コート層には、上述の成分に加えて、必要に応じて、その他の添加剤を配合しても良く、配合しなくても良い。その他の添加剤としては、例えば、界面活性剤、架橋剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、色素、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、インキ定着剤、硬化剤、耐候材料等が挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
これらの添加剤の種類や含有量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0107】
架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、ホウ酸塩、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。
【0108】
ただし、コート層に色素を配合する場合、基材及びコート層に含まれる色素の含有量の総量を、基材及びコート層に対して、0.1質量%以下に調整する。
例えば、色素の含有量は、コート層に対して、好ましくは0.1質量%以下であり、より好ましくは0質量%である(つまり、コート層が色素を全く含まない)。
【0109】
本発明の効果が奏され易いという観点から、コート層は、クレイ、及び重質炭酸カルシウム以外の微粒子(特に、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下である微粒子)を実質的に含まないか、又は全く含まないことが好ましい。このような微粒子としては、ポリマー微粒子(ポリメチルメタクリレート粒子に代表される(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子等)、ジンクピリチオン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0110】
(3)網点印刷部
網点印刷部は、コート層の表面の一部又は全体に、オフセットインキを用いてオフセット印刷された網点からなる部分である。
【0111】
本発明において「オフセット印刷」とは、版に付けられたインキを、中間転写体(ブランケット等)に転写した後、被印刷体(本発明においてはコート層)に印刷する印刷方式である。
【0112】
本発明において「オフセットインキ」とは、オフセット印刷において用いられるインキである。
【0113】
網点印刷部を設ける際に採用するオフセット印刷の条件は特に限定されず、従来知られる任意のオフセット印刷機、剤(下地処理剤等)、各種工程(下地処理工程、印刷工程、乾燥工程等)を採用できる。
ただし、網点印刷部は、静摩擦係数、動摩擦係数、及び算術平均高さが、それぞれ所定範囲に調整される。本発明者は、これらの値を調整することで、重なり合った選挙投票用紙同士の摩擦や書き味を適度に調整でき、通紙性や筆記性を向上させることが出来ることを見出した。
【0114】
(静摩擦係数)
網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した静摩擦係数は、0.45以上0.55以下である。
静摩擦係数が高すぎると、選挙投票用紙の通紙性を損ない得る。他方で、静摩擦係数が低すぎると、選挙投票用紙への筆記性を損ない得る。本発明によれば、静摩擦係数を上記範囲に調整することで、良好な通紙性及び筆記性を実現できる。
【0115】
静摩擦係数の下限は、好ましくは0.46以上、より好ましくは0.47以上である。
【0116】
静摩擦係数の上限は、好ましくは0.54以下、より好ましくは0.53以下である。
【0117】
網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した静摩擦係数を上記範囲に調整する方法は特に限定されないが、コート層に印刷するオフセットインキの量及び密度等を調整する方法が挙げられる。
【0118】
(動摩擦係数)
網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した動摩擦係数は、0.25以上0.35以下である。
動摩擦係数が高すぎると、選挙投票用紙の通紙性を損ない得る。他方で、動摩擦係数が低すぎると、選挙投票用紙への筆記性を損ない得る。本発明によれば、動摩擦係数を上記範囲に調整することで、良好な通紙性及び筆記性を実現できる。
【0119】
動摩擦係数の下限は、好ましくは0.26以上、より好ましくは0.27以上である。
【0120】
動摩擦係数の上限は、好ましくは0.34以下、より好ましくは0.33以下である。
【0121】
網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した動摩擦係数を上記範囲に調整する方法は特に限定されないが、コート層に印刷するオフセットインキの量及び密度等を調整する方法が挙げられる。
【0122】
(算術平均高さ)
網点印刷部のJIS B0601:2001に準拠した算術平均高さは、0.6μm以上0.9μm以下である。該算術平均高さは、網点の表面粗さに対応し得る。
算術平均高さが高すぎると、選挙投票用紙の通紙性を損ない得る。他方で、算術平均高さが低すぎると、選挙投票用紙への筆記性を損ない得る。本発明によれば、算術平均高さを上記範囲に調整することで、良好な通紙性及び筆記性を実現できる。
【0123】
算術平均高さの下限は、好ましくは0.65μm以上、より好ましくは0.7μm以上である。
【0124】
算術平均高さの上限は、好ましくは0.85μm以下、より好ましくは0.8μm以下である。
【0125】
網点印刷部のJIS B0601:2001に準拠した算術平均高さを上記範囲に調整する方法は特に限定されないが、コート層に印刷するオフセットインキの量及び密度等を調整する方法が挙げられる。
【0126】
(その他の条件)
網点印刷部のその他の条件は特に限定されず、目的に応じて適宜設定できる。
【0127】
本発明の効果が奏され易いという観点から、網点印刷部の網点パーセントは、好ましくは10%以上30%以下、より好ましくは15%以上25%以下である。
本発明において「網点パーセント」とは、「網点面積率」としても知られ、単位面積あたりの網点の面積(単位%)を意味する。網点印刷部の網点パーセントが100%であることは、網点印刷部が全てインキで覆われていること(いわゆるベタ塗り)を意味する。
【0128】
本発明の効果が奏され易いという観点から、網点印刷部がコート層の表面において占める面積(印刷面積)の下限は、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。
該面積の上限は、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下である。
【0129】
網点印刷部を構成する網点の径は、均一であっても良く、不均一であっても良い。ただし、本発明の効果が奏され易いという観点や、印刷効率の観点から、網点印刷部を構成する網点の径は均一であることが好ましい。
【0130】
網点印刷部を構成する網点の径は、通常0.5μm以上5μm以下である。
【0131】
<選挙投票用紙の製造方法>
本発明の選挙投票用紙の製造方法は特に限定されず、任意の方法を採用できるが、好ましい態様においては、以下の3工程を少なくとも含む。
(工程1)ポリオレフィン系樹脂と、無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む樹脂組成物を押出成形することで基材を得る工程
(工程2)基材の片面又は両面に、アクリル系ポリマー、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを含む水性エマルジョンを塗工及び乾燥することでコート層を設ける工程
(工程3)コート層の表面の少なくとも一部に、オフセットインキによる網点印刷部を設ける工程
【0132】
(工程1について)
基材の成形方法としては特に限定されず、基材を構成する各成分を成形機(押出成形機等)によってシート状に成形し、基材を得る方法が挙げられる。
【0133】
基材を構成する各成分の混合は、ホッパーから成形機に投入する前に行っても良く、成形機による成形と同時に行っても良い。
【0134】
基材を構成する各成分の溶融混練は、均一な分散性や、高い剪断応力の作用を実現できる観点から、二軸混練機を用いることが好ましい。
【0135】
工程1における成形温度は、高温となるほど臭気が発生し易い傾向にあるため、好ましくはポリオレフィン系樹脂の融点+55℃以下、より好ましくはポリオレフィン系樹脂の融点以上かつ融点+55℃以下、更に好ましくはポリオレフィン系樹脂の融点+10℃以上かつポリオレフィン系樹脂の融点+45℃以下である。
【0136】
基材は、延伸(縦及び/又は横延伸)されたものであっても良い。延伸により基材の密度が低下し、白色度が良好な基材が得られる。
延伸は、一軸延伸、二軸延伸(逐次二軸延伸、同時二軸延伸等)、多軸延伸(チューブラー法による延伸等)の何れであっても良い。これらのうち、本発明の効果が奏され易いという観点から、二軸延伸が好ましい。
【0137】
(工程2について)
基材の片面又は両面にコート層を設ける方法としては、コート層を構成する各成分を含む塗工液を基材表面に塗工し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0138】
塗工液の形態は特に限定されないが、コート層を構成する各成分を、溶媒に分散又は溶解させたものが挙げられる。溶媒としては、水、有機溶剤等が挙げられる。
本発明における塗工液は、好ましくは、コート層を構成する各成分を水に分散させた水性エマルジョンである。
【0139】
水性エマルジョンの製造方法は特に限定されず、従来知られる乳化重合等の方法を採用できる。
【0140】
乳化重合において任意に用いられる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等を1種単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。これらのうち、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤が好ましい。
【0141】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等が挙げられる。これらのうちポリオキシエチレンアルキルフエニルエーテルが好ましい。
【0142】
カチオン性界面活性剤としては、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、N-2-エチルヘキシルピリジニウムクロライド等が挙げられる。
【0143】
水性エマルジョン中の界面活性剤の量は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(総量)に対して、1質量%以上5質量%以下であっても良い。
【0144】
乳化重合において任意に用いられる重合開始剤としては、過硫酸塩(過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等)、水溶性タイプ(過酸化水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾビスアミジノプロパンの塩酸塩等)、油溶性タイプ(ベンゾイルパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、クミルパーオキシオクトエート、アゾビスイソブチロニトリル等)等が挙げられる。これらのうち、水溶性タイプが好ましい。
【0145】
水性エマルジョン中の重合開始剤の量は、例えば、ポリオレフィン系樹脂(総量)に対して、0.01質量%以上0.50質量%以下であっても良い。
【0146】
乳化重合反応の条件は特に限定されず、通常35~90℃の温度で、3~40時間にわたって、攪拌しながら行われる。
【0147】
乳化重合の開始時又は終了時には、塩基性物質を加えてpH5~9に調整し、エマルジョンの放置安定性、凍結安定性、化学的安定性等を向上させても良い。塩基性物質としては、アンモニア、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、苛性ソーダ、苛性カリ等が挙げられる。
【0148】
水性エマルジョンには、保護コロイド剤(ゼラチン、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー)を配合しても良い。
【0149】
塗工液の調製方法としては、各成分を溶媒とともに攪拌機又は分散機(例えば、湿式コロイドミル、エッジドタービン、パドル翼等)を用いて、500~3000rpmの回転条件で、1~5分間分散させる方法が挙げられる。
ただし、クレイ及び重質炭酸カルシウムは凝集する可能性があるため、必要に応じて分散剤を配合しても良い。なお、クレイと重質炭酸カルシウムとは、それぞれ比重がほぼ等しいため、塗工液中でクレイと重質炭酸カルシウムとが偏在しにくく、均一に分散させ易い。
【0150】
塗工の方法としては、塗工液を、適当な手法(マイクログラビア、ロールコート、ブレードコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ディッピング等)により塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化する方法が挙げられる。コート層の乾燥又は硬化の温度は、例えば90℃以上120℃以上であっても良い。
【0151】
(工程3について)
コート層の表面の少なくとも一部に網点印刷部を設ける方法としては、オフセット印刷において採用される任意の装置及び条件を採用できる。
ただし、上述のとおり、網点印刷部は、静摩擦係数、動摩擦係数、及び算術平均高さが、それぞれ所定範囲に調整される。
【0152】
(その他の工程)
工程3後、得られた用紙を選挙投票用紙として利用できる。選挙投票用紙は、必要に応じて、品質確認工程、梱包工程等に供しても良い。
【実施例】
【0153】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0154】
<選挙投票用紙の作製>
以下の方法で選挙投票用紙を作製した。
【0155】
(1)材料の準備
基材、及びコート層の材料を以下のとおり準備した。
【0156】
(基材の材料)
ポリオレフィン系樹脂:ポリプロピレン単独重合体(融点160℃)
無機物質粉末:重質炭酸カルシウム粉末(JIS M-1511に準じた空気透過法による平均粒子径:2.2μm)
【0157】
(コート層の材料)
アクリル系ポリマー-1:アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸、酢酸ビニル、及びロジン誘導体を、26:16:44:8:6:3の割合(質量比)で含む(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体
アクリル系ポリマー-2:スチレン、ベンジルアクリレート、ブチルアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、及び2-ヒドロキシエチルメタクリレートを、84.0:26.0:32.0:0.1:0.9(質量比)で含むスチレン-アクリル酸エステル共重合体
クレイ-1:カオリンクレイ(体積平均粒子径0.29μm、比重2.5)
クレイ-2:カオリンクレイ(体積平均粒子径1.50μm、比重2.6)
炭酸カルシウム-1:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.01μm、比重2.6)
炭酸カルシウム-2:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.15μm、比重2.6)
炭酸カルシウム-3:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径3.00μm、比重2.6)
炭酸カルシウム-4:軽質炭酸カルシウム(体積平均粒子径1.00μm、比重2.6)
【0158】
(2)基材の作製
表1及び2に示す割合で、基材の材料を押出成形機(二軸スクリューを備えるTダイ押出成形装置、φ20mm、L/D=25)に投入し、220℃以下の温度で混練後、成形温度220℃でTダイによりシート成形し、引き取り機で巻き取りながら二軸延伸(縦3.5倍×横5倍)することで、シート状の基材(縦128mm×横80mm、厚さ200μm)を得た。
【0159】
(3)コート層の塗工
表1及び2に示す割合で、分散媒(水)とともに、アクリル系ポリマー、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを、エッジドタービンを用いて3000rpmで3分間攪拌混合し、水性エマルジョンを得た。
得られた水性エマルジョンを、各基材の片側表面の全体に、マイクログラビア法によって塗工した後、110℃で乾燥させ、コート層(膜厚4μm)が設けられた基材を得た。
なお、表中の「コート層」の組成の数値は、乾燥質量の値である。
【0160】
(4)網点印刷
コート層の表面全体に、オフセット印刷により、オフセットインキ(油性、青色)による網点印刷部を設けた。なお、オフセット印刷機として、「RMGT920」(リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社製)を用いた。
得られた着色用紙(選挙投票用紙に相当する。)を、以下の評価に供した。
【0161】
また、「参考」として、「(3)コート層の塗工」の工程において、コート層に対して0.1質量%の色素(青色)を配合した点、及び、「(4)網点印刷」の工程を行わなかった点以外は上記同様に作製した着色用紙を作製し、あわせて以下の評価に供した。この着色用紙は、従来の選挙投票用紙に相当する。
【0162】
<網点特性>
各選挙投票用紙の網点印刷部の以下の数値を、表中の「網点特性」の項に示す。
(1)網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した静摩擦係数
(2)網点印刷部のJIS P8147:2010に準拠した動摩擦係数
(3)網点印刷部のJIS B0601:2001に準拠した算術平均高さ
(4)網点印刷部の網点パーセント
【0163】
<選挙投票用紙の評価>
以下の方法で、選挙投票用紙について、通紙性、筆記性、折り復元性、及びリサイクル性を評価した。その結果を表中の「用紙評価」の項に示す。
【0164】
(通紙性)
市販の投票用紙計数機を用いて、特開2008-307835号公報に記載された方法を参考に、選挙投票用紙の通紙性を評価した。
具体的には、選挙投票用紙の中央部にのりをごく軽く付着させ、その上に更に選挙投票用紙を重ねることで、2枚重ねの選挙投票用紙を5組作成した。
これらの2枚重ねの選挙投票用紙を含む選挙投票用紙(合計500枚)について、上記計数機を用いて計数を行い、正常に計数できなかった選挙投票用紙の枚数を特定し、以下の基準で通紙性を評価した。
[通紙性の評価基準]
A:正常に計数できなかった選挙投票用紙の枚数が、0枚だった(全ての選挙投票用紙を計数できた)。
B:正常に計数できなかった選挙投票用紙の枚数が、1枚以上2枚以下だった。
C:正常に計数できなかった選挙投票用紙の枚数が、3枚以上だった。
【0165】
(筆記性)
10名のモニターに、各選挙投票用紙へHBの鉛筆で記名、及び、市販コピー用紙と比較した書き味の回答をさせ、以下の基準で筆記性を評価した。
なお、本例において「書き味」とは、用紙表面への顔料の載り具合、鉛筆の滑り具合を包含する。
[筆記性の評価基準]
A:10名が、書き味が良好であると回答した。
B:8名以上9名以下が、書き味が良好であると回答した。
C:7名以下が、書き味が良好であると回答した。
【0166】
(折り復元性)
各選挙投票用紙を手で二つ折りにし(折り角0°)、平板な台の上に静置し、折り角が120°になるまでの時間を計測し、以下の基準で折り復元性を評価した。
[折り復元性の評価基準]
A:折り角が120°になるまでの時間が3秒以下だった。
B:折り角が120°になるまでの時間が3秒超4秒以下だった。
C:折り角が120°になるまでの時間が4秒超だった。
【0167】
(リサイクル性)
選挙投票用紙のリサイクルの際に、界面活性剤による脱色作業の容易性を評価した。
【0168】
【0169】
【0170】
表に示されるとおり、本発明の要件を満たす選挙投票用紙は、通紙性、筆記性、折り復元性、及びリサイクル性の何れもが良好だった。
【0171】
なお、上記各実施例において、脂肪酸によって表面処理された重質炭酸カルシウムを用いると、より良好な効果が奏される傾向にあった。
【要約】
【課題】本発明の課題は、通紙性、筆記性、折り復元性、及びリサイクル性に優れた選挙投票用紙を提供することである。
【解決手段】本発明は、基材と、所定の網点印刷部が設けられたコート層と、を含む選挙投票用紙を提供する。
【選択図】なし