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特許7049781導電性部材、電気化学反応単位、および、電気化学反応セルスタック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】導電性部材、電気化学反応単位、および、電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0247 20160101AFI20220331BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20220331BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20220331BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20220331BHJP
   H01M 8/2465 20160101ALI20220331BHJP
【FI】
H01M8/0247
H01M8/0206
H01M8/0228
H01M8/12 101
H01M8/2465
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017138965
(22)【出願日】2017-07-18
(65)【公開番号】P2019021502
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 千栄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】濱谷 正吾
(72)【発明者】
【氏名】江口 健太
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/123148(WO,A1)
【文献】特開2006-172742(JP,A)
【文献】特開2015-109534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含み、第1の方向に直交する略平板状であり、貫通孔が形成された第1の導電性部分と、金属を含み、前記第1の方向視における前記貫通孔を形成する前記第1の導電性部分の内周から前記第1の導電性部分の表面に交差する方向に曲げ起こされて延伸する第1の板状部分を含む第2の導電性部分と、を備える導電性部材において、
前記第2の導電性部分は、さらに、前記第1の方向に直交する略平板状の第2の板状部分であって、前記第1の導電性部分の前記内周から前記第1の導電性部分の表面に交差する方向に曲げ起こされて延伸する前記第1の板状部分の先端から、前記第1の方向視で前記第1の導電性部分と前記第2の導電性部分との境界線を基準として前記第1の導電性部分側から前記貫通孔側に向かう方向に曲げ起こされて延伸する第2の板状部分を含み、
前記貫通孔は、
前記第1の方向視で、
前記第1の導電性部分と前記第2の導電性部分との前記境界線に直交する第2の方向において、前記境界線を通る直線と前記第1の導電性部分の内周との2つの交点の間を結んだ仮想線分の全体に面する第1の孔部分と、
前記第2の方向において、前記仮想線分に対して前記第1の孔部分とは反対側に位置し、かつ、前記仮想線分に平行な第3の方向における前記境界線の一方側で、前記第1の孔部分に連続する第2の孔部分と、
前記第2の方向において、前記仮想線分に対して前記第1の孔部分とは反対側に位置し、かつ、前記第3の方向における前記境界線の他方側で、前記第1の孔部分に連続する第3の孔部分と、
を有することを特徴とする、導電性部材。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性部材において、
前記仮想線分上における前記第1の導電性部分の幅と前記第2の導電性部分の幅とは、互いに等しいことを特徴とする、導電性部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の導電性部材において、
前記第1の導電性部分と前記第2の導電性部分とのそれぞれは、
Crを含有する板状の金属部材と、
前記金属部材の表面に形成され、前記金属部材からのCrの拡散を抑制する被覆層と、
を有することを特徴とする、導電性部材。
【請求項4】
請求項3に記載の導電性部材において、
以下の式(1)を満たすことを特徴とする、導電性部材。
2×ta < ΔWa/2 < Wam/2 ・・・(1)
ただし、
Wam:前記境界線から前記境界線に直交する方向に前記第2の導電性部分の表面に沿って距離L1だけ離れた第1の位置における前記金属部材の幅
ΔWa:前記境界線から前記第2の方向に前記距離L1だけ離れた位置における前記金属部材の開口幅Waoから、前記幅Wamを差し引いた差分(Wao-Wam)
ta:前記第1の位置における前記被覆層の厚さ
【請求項5】
請求項3に記載の導電性部材において、
以下の式(2)および式(3)を満たすことを特徴とする、導電性部材。
ΔWb/2 < Wbm/2 ・・・(2)
Σtb < D ・・・(3)
ただし、
Wbm:前記第2の導電性部分を、前記境界線を基準として、前記第1の導電性部分に略平行な姿勢となるように回転させた仮想状態において、前記境界線から前記第2の方向に距離L2だけ離れた第2の位置における前記第2の導電性部分を構成する前記金属部材の幅
ΔWb:前記仮想状態において、前記第2の位置における前記第1の孔部分を構成する前記金属部材の開口幅Wboから、前記幅Wbmを差し引いた差分(Wbo-Wbm)
D:前記仮想状態において、前記第2の位置における前記第3の方向の前記第2の導電性部分を構成する前記金属部材の外周上の点から前記内周までの最短距離
Σtb:前記最短距離の両端の位置における前記被覆層の厚さの和
【請求項6】
請求項3から請求項5までのいずれか一項に記載の導電性部材において、
前記被覆層は、スピネル型酸化物とペロブスカイト型酸化物との少なくとも一方を含むことを特徴とする、導電性部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の導電性部材において、
前記第2の孔部分を形成する角部の内、前記第3の方向において前記第3の孔部分に最も近い角部と、前記第3の孔部分を形成する角部の内、前記第3の方向において前記第2の孔部分に最も近い角部と、の少なくとも一方は、R形状であることを特徴とする、導電性部材。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の導電性部材において、
前記導電性部材は、固体酸化物形の電気化学反応単位用の導電性部材であることを特徴とする、導電性部材。
【請求項9】
電気化学反応単位であって、
固体酸化物を含む電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、
前記電気化学反応単セルに対して前記第1の方向の一方側に配置され、前記空気極または前記燃料極に電気的に接続された集電部材として機能する請求項1から請求項8までのいずれか一項に記載の導電性部材と、
を備えることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項10】
請求項9に記載の電気化学反応単位において、
前記電気化学反応単位は、燃料電池発電単位であることを特徴とする、電気化学反応単位。
【請求項11】
前記第1の方向に並べて配置された複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単位の少なくとも1つは、請求項9または請求項10に記載の電気化学反応単位であることを特徴とする、電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、導電性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池発電単位(以下、「発電単位」という)は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という)と、導電性の集電部材とを備える。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む。集電部材は、単セルを構成する空気極または燃料極に電気的に接続される。
【0003】
発電単位を構成する集電部材として、1枚の金属板に孔開け加工や曲げ起こし加工を施すことによって製造された集電部材が知られている(例えば、特許文献1参照)。この集電部材において、上記金属板における曲げ起こされた部分以外の部分により構成される部分(以下、「第1の導電性部分」という)は、所定の方向(以下、「第1の方向」という)に直交する略平板状の部分である。第1の導電性部分には、貫通孔が形成される。また、上記金属板における曲げ起こされた部分により構成される第2の導電性部分は、第1の方向視における上記貫通孔を形成する第1の導電性部分の内周から、第1の導電性部分の表面に交差する方向に延伸する板状部分を含む部分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-55042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の集電部材では、例えば、SOFCの運転時等において、集電部材が熱膨張・熱収縮を繰り返すことに伴い生ずる応力が、集電部材の特定の箇所(例えば、集電部材において、第1の導電性部分と第2の導電性部分との境界線に直交する第2の方向(ただし、第2の導電性部分の先端側とは反対の方向)における貫通孔の端部に面する箇所の内、屈曲している部分を構成する箇所(すなわち、後述する孔端部対向部であり、孔端部対向部は集電部材の一部である)に集中する。その結果、集電部材における特定の箇所においてひび割れが発生するおそれがある、という課題がある。
【0006】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」ともいう)の構成単位である電解セル単位を構成する集電部材にも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池発電単位と電解セル単位とをまとめて電気化学反応単位と呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単位にも共通の課題である。また、このような課題は、1枚の金属板に孔開け加工や曲げ起こし加工を施すことによって製造された集電部材に限らず、他の方法により製造された集電部材にも共通の課題である。さらに、このような課題は、電気化学反応単位を構成する集電部材に限らず、金属を含み、第1の方向に直交する略平板状であり、貫通孔が形成された第1の導電性部分と、金属を含み、第1の方向視における上記貫通孔を形成する第1の導電性部分の内周から第1の導電性部分の表面に交差する方向に延伸する板状部分を含む第2の導電性部分と、を備える導電性部材一般に共通の課題である。
【0007】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される導電性部材は、金属を含み、第1の方向に直交する略平板状であり、貫通孔が形成された第1の導電性部分と、金属を含み、前記第1の方向視における前記貫通孔を形成する前記第1の導電性部分の内周から前記第1の導電性部分の表面に交差する方向に延伸する板状部分を含む第2の導電性部分と、を備える導電性部材において、前記貫通孔は、前記第1の方向視で、前記第1の導電性部分と前記第2の導電性部分との境界線に直交する第2の方向において、前記境界線を通る直線と前記第1の導電性部分の内周との2つの交点の間を結んだ仮想線分の全体に面する第1の孔部分と、前記第2の方向において、前記仮想線分に対して前記第1の孔部分とは反対側に位置し、かつ、前記仮想線分に平行な第3の方向における前記境界線の一方側で、前記第1の孔部分に連続する第2の孔部分と、前記第2の方向において、前記仮想線分に対して前記第1の孔部分とは反対側に位置し、かつ、前記第3の方向における前記境界線の他方側で、前記第1の孔部分に連続する第3の孔部分と、を有する。本導電性部材は、第1の導電性部分に形成された貫通孔が、上述した仮想線分によって、上述のような第1の孔部分と第2の孔部分と第3の孔部分とに分けられるような構成である。そのため、本導電性部材では、導電性部材における孔端部対向部が、第1の導電性部分と第2の導電性部分との境界線の位置に一致しない。すなわち、導電性部材における孔端部対向部は、第1の導電性部分と第2の導電性部分との境界線の位置のように、第1の導電性部分に略平行な表面に交差する方向に延伸した板状部分と連続しておらず(たとえば、折れ曲がってはおらず)、第1の導電性部分に略平行な略平板形状となる。ここで、導電性部材における孔端部対向部は、第1の導電性部分と第2の導電性部分との境界線に直交する第2の方向(ただし、第2の導電性部分の先端側とは反対の方向)における貫通孔の端部に面する箇所の内、屈曲している部分を構成する箇所である。従って、本導電性部材によれば、例えばSOFCの運転時等において、導電性部材が熱膨張・熱収縮を繰り返す際に、導電性部材の特定の箇所(例えば、孔端部対向部)に応力が集中することを抑制することができる。そのため、本導電性部材によれば、導電性部材の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0010】
(2)上記導電性部材において、前記仮想線分上における前記第1の導電性部分の幅と前記第2の導電性部分の幅とは、互いに等しい構成としてもよい。本導電性部材では、第1の導電性部分と第2の導電性部分との境界線の位置に、段差が存在しない。そのため、本導電性部材によれば、導電性部材の特定の箇所(例えば、孔端部対向部)に応力が集中することを効果的に抑制することができ、導電性部材の特定の箇所においてひび割れが発生することを効果的に抑制することができる。
【0011】
(3)上記導電性部材において、前記第1の導電性部分と前記第2の導電性部分とのそれぞれは、Crを含有する板状の金属部材と、前記金属部材の表面に形成され、前記金属部材からのCrの拡散を抑制する被覆層と、を有する構成としてもよい。本導電性部材によれば、金属部材の特定の箇所(例えば、孔端部対向部を構成する部分)において、被覆層にひび割れが発生することを抑制することができる。従って、本導電性部材によれば、被覆層によって金属部材からのCrの拡散を効果的に抑制することができる。
【0012】
(4)上記導電性部材において、以下の式(1)を満たす構成としてもよい。
2×ta < ΔWa/2 < Wam/2 ・・・(1)
ただし、
Wam:前記境界線から前記境界線に直交する方向に前記第2の導電性部分の表面に沿って距離L1だけ離れた第1の位置における前記第2の導電性部分を構成する前記金属部材の幅(以下、「距離L1の位置における幅Wam」という)
ΔWa:前記境界線から前記第2の方向に前記距離L1だけ離れた位置における前記金属部材の開口幅Waoから、前記幅(距離L1の位置における幅)Wamを差し引いた差分(Wao-Wam)
ta:前記第1の位置における前記被覆層の厚さ
本導電性部材によれば、第2の導電性部分を構成する金属部材の幅(距離L1の位置における幅)Wamを比較的大きくすることができ、かつ、金属部材の表面に被覆層を形成しても部材(部位)同士の干渉の発生を抑制することができる。従って、本導電性部材によれば、第2の導電性部分を構成する金属部材の幅(距離L1の位置における幅)Wamが小さくなることに伴って導電性部材による集電機能が低下することを回避しつつ、部材(部位)同士の干渉に起因する被覆層の剥離や部材の破損等の発生を抑制することができる。
【0013】
(5)上記導電性部材において、以下の式(2)および式(3)を満たす構成としてもよい。
ΔWb/2 < Wbm/2 ・・・(2)
Σtb < D ・・・(3)
ただし、
Wbm:前記第2の導電性部分を、前記境界線を基準として、前記第1の導電性部分に略平行な姿勢となるように回転させた仮想状態において、前記境界線から前記第2の方向に距離L2だけ離れた第2の位置における前記第2の導電性部分を構成する前記金属部材の幅(以下、「距離L2の位置における幅Wbm」という)
ΔWb:前記仮想状態において、前記第2の位置における前記第1の孔部分を構成する前記金属部材の開口幅Wboから、前記幅(距離L2の位置における幅)Wbmを差し引いた差分(Wbo-Wbm)
D:前記仮想状態において、前記第2の位置における前記第3の方向の前記第2の導電性部分を構成する前記金属部材の外周上の点から前記貫通孔を形成する前記第1の導電性部分の内周までの最短距離
Σtb:前記最短距離の両端の位置における前記被覆層の厚さの和
本導電性部材によれば、金属部材を曲げ加工により製造する場合において、第2の導電性部分232を構成する金属部材の幅(距離L2の位置における幅)Wbmを比較的大きくすることができ、かつ、金属部材の表面に被覆層を均一に形成することができる。従って、本導電性部材によれば、第2の導電性部分232を構成する金属部材の幅(距離L2の位置における幅)Wbmが小さくなることに伴って導電性部材による集電機能が低下することを回避しつつ、被覆層によって金属部材からのCrの拡散を効果的に抑制することができる。
【0014】
(6)上記導電性部材において、前記被覆層は、スピネル型酸化物とペロブスカイト型酸化物との少なくとも一方を含む構成としてもよい。本導電性部材によれば、被覆層によって金属部材からのCrの拡散を効果的に抑制することができる。
【0015】
(7)上記導電性部材において、前記第2の孔部分を形成する角部の内、前記第3の方向において前記第3の孔部分に最も近い角部と、前記第3の孔部分を形成する角部の内、前記第3の方向において前記第2の孔部分に最も近い角部と、の少なくとも一方は、R形状である構成としてもよい。第2の孔部分を形成する角部の内、第3の方向において第3の孔部分に最も近い角部、および、第3の孔部分を形成する角部の内、第3の方向において第2の孔部分に最も近い角部は、導電性部材における上記孔端部対向部である。本導電性部材では、導電性部材における上記孔端部対向部がR形状であるため、応力が集中することを極めて効果的に抑制することができ、ひび割れが発生することを極めて効果的に抑制することができる。
【0016】
(8)上記導電性部材において、前記導電性部材は、固体酸化物形の電気化学反応単位用の導電性部材である構成としてもよい。本導電性部材によれば、固体酸化物形の電気化学反応単位用の導電性部材の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0017】
(9)本明細書に開示される電気化学反応単位は、固体酸化物を含む電解質層と前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する空気極および燃料極とを含む電気化学反応単セルと、前記電気化学反応単セルに対して前記第1の方向の一方側に配置され、前記空気極または前記燃料極に電気的に接続された集電部材として機能する上記導電性部材と、を備える。本電気化学反応単位によれば、集電部材として機能する導電性部材の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0018】
(10)上記電気化学反応単位において、前記電気化学反応単位は、燃料電池発電単位である構成としてもよい。本電気化学反応単位によれば、燃料電池発電単位用の集電部材として機能する導電性部材の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0019】
(11)本明細書に開示される電気化学反応セルスタックにおいて、前記第1の方向に並べて配置された複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックにおいて、前記複数の電気化学反応単位の少なくとも1つは、上記電気化学反応単位である。本電気化学反応セルスタックによれば、電気化学反応セルスタックを構成する少なくとも1つの電気化学反応単位に含まれる導電性部材の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0020】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、導電性部材、導電性部材と電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)とを備える電気化学反応単位(燃料電池発電単位または電解セル単位)、複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図6図4および図5のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図7図4および図5のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
図8】空気極側集電部材200の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図9】空気極側集電部材200の製造方法の一例を示す説明図である。
図10】空気極側集電部材200の製造方法の一例を示す説明図である。
図11】空気極側集電部材200の製造方法の一例を示す説明図である。
図12】本実施形態における空気極側集電部材200の詳細構成を示す説明図である。
図13】本実施形態における空気極側集電部材200の詳細構成を示す説明図である。
図14】空気極側集電部材200の第2の導電性部分232を境界線BLを基準として第1の導電性部分231に略平行な姿勢となるように回転させた仮想状態を示す説明図である。
図15】比較例における空気極側集電部材200Xの構成を示す説明図である。
図16】本実施形態における燃料極側集電部材300の詳細構成を示す説明図である。
図17】変形例における空気極側集電部材200の詳細構成を示す説明図である。
図18】変形例における空気極側集電部材200の詳細構成を示す説明図である。
図19】変形例における空気極側集電部材200の第2の導電性部分232を境界線BLを基準として第1の導電性部分231に略平行な姿勢となるように回転させた仮想状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1(および後述する図6,7)のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1(および後述する図6,7)のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
【0023】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0024】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0025】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0026】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0027】
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0028】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0029】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0030】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における複数の発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における複数の発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。図5の上部には、発電単位102の一部分のYZ断面構成が拡大して示されている。また、図6は、図4および図5のVI-VIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図であり、図7は、図4および図5のVII-VIIの位置における発電単位102のXY断面構成を示す説明図である。
【0031】
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電部材200と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電部材300と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0032】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0033】
また、図5の部分拡大図に示すように、本実施形態では、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面は、導電性の被覆層152により覆われている。被覆層152は、例えば、スピネル型酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5やMnCo、ZnCo、ZnMn、ZnMnCoO、CuMn等)やペロブスカイト型酸化物(例えば、LaやSrを含有する複合酸化物)を含むように構成されている。以下の説明では、特記しない限り、インターコネクタ150は、「被覆層152に覆われたインターコネクタ150」を意味する。
【0034】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上下方向(第1の方向)の一方側(下側)に配置された燃料極(アノード)116と、電解質層112の上下方向の他方側(上側)に配置された空気極(カソード)114とを備える。なお、本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0035】
電解質層112は、Z方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等の固体酸化物により形成されている。すなわち、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0036】
空気極114は、Z方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。
【0037】
燃料極116は、Z方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。
【0038】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0039】
図4~6に示すように、空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0040】
図4,5,7に示すように、燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0041】
図4,5,7に示すように、燃料極側集電部材300は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電部材300は、例えば、ニッケルやニッケル合金等の導電性材料により形成されている。燃料極側集電部材300は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触すると共に、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における燃料極側集電部材300は、インターコネクタ150の代わりに下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電部材300は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。燃料極側集電部材300の構成については、後に詳述する。燃料極側集電部材300は、特許請求の範囲における導電性部材に相当する。
【0042】
図4~6に示すように、空気極側集電部材200は、空気室166内に配置されている。図5の部分拡大図に示すように、空気極側集電部材200は、金属部材210と、金属部材210の表面に形成された導電性の被覆層220とを備えている。金属部材210は、例えばフェライト系ステンレス等のCrを含有する金属により形成されている。また、金属部材210の最表面側は、Cr酸化物(例えば、Cr(クロミア))を含む酸化被膜層218により構成されている。
【0043】
また、被覆層220は、例えば、スピネル型酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5、MnCo、ZnCo、ZnMn、ZnMnCoO、CuMn等)やペロブスカイト型酸化物(例えば、LaやSrを含有する複合酸化物)を含むように構成されている。被覆層220は、金属部材210の表面に、略均一の厚さ(例えば、1μm~50μm、好ましくは5μm~30μm)で形成されている。被覆層220は、金属部材210からのCrの拡散を抑制する。これにより、例えば、空気極114のCr被毒の発生が抑制される。
【0044】
空気極側集電部材200は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電部材200は、インターコネクタ150の代わりに上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電部材200は、このような構成であり、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。空気極側集電部材200の構成については、後に詳述する。空気極側集電部材200は、特許請求の範囲における導電性部材に相当する。
【0045】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0046】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電部材200を介して上側のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電部材300を介して下側のインターコネクタ150に電気的に接続されている。すなわち、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0047】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0048】
A-3.空気極側集電部材200の詳細説明:
A-3-1.空気極側集電部材200の製造方法:
空気極側集電部材200について詳細に説明するにあたり、理解の容易のため、まず空気極側集電部材200の製造方法を説明する。図8は、空気極側集電部材200の製造方法の一例を示すフローチャートである。また、図9から図11は、空気極側集電部材200の製造方法の一例を示す説明図である。
【0049】
はじめに、金属部材210を用意し、該金属部材210に複数のスリットSLを形成する(S110、図9参照)。なお、ここで言う金属部材210は、加工前のものであり、以下に説明する加工が行われることによって、上述した空気極側集電部材200を構成する金属部材210(図5参照)とされるものである。金属部材210は、Crを含む金属(例えば、フェライト系ステンレス)製の略平板状部材であり、その厚さは、例えば、0.05mm~1mm、好ましくは、0.1mm~0.5mmである。金属部材210は、特許請求の範囲における金属板に相当する。
【0050】
また、金属部材210に形成される各スリットSLの平面視(Z軸方向視)での形状は、例えば、略U字状(すなわち、矩形を構成する4辺の内の3辺に沿って所定の幅を有するような形状)である。スリットSLは、金属部材210における所定の部分を打ち抜き等によって切除することにより形成された欠損部分であってもよいし、刃状の道具で形成された切り込みであってもよい。すなわち、本明細書において、用語「スリット(又は「孔」)」は切り込みも含む概念である。スリットSLの幅Wsは、例えば、2μm~3mm、好ましくは、0.5mm~2mmである。スリットSLの幅Wsは、スリットSLの全体を通じて略一定であってもよいし、スリットSLにおける各位置で互いに異なっていてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、金属部材210に、互いに同じ向きの複数のスリットSLが、上記3辺の内の2辺が対向する方向(図9のX軸方向)に沿って所定の間隔をあけて並ぶように配置され、その並べられた複数のスリットSLにより構成されるスリット群SLGが、上記2辺が対向する方向に直行する方向(図9のY軸方向)に沿って所定の間隔をあけて並ぶように配置される。すなわち、複数のスリットSLは、金属部材210上に略格子状に配置される。
【0052】
次に、直線状のエッジ部分を有する治具を用いて、金属部材210における複数のスリットSLのそれぞれに面する特定部分SPを、所定の位置で、所定の方向に垂直な方向に曲げ起こす(S120、図10参照)。この曲げ起こしの際の上記所定の位置における上記所定の方向は、図9および図10に示す第1の仮想直線VL1の位置における第1の仮想直線VL1に平行な方向(X軸方向)である。すなわち、特定部分SPは、第1の仮想直線VL1の位置で、第1の仮想直線VL1に垂直な方向(Y軸方向)に曲げ起こされる。このように、金属部材210におけるスリットSLに面する特定部分SPとは、スリットSLの全体に面する部分に限られず、スリットSLの一部分に面する部分であってもよい。なお、曲げ起こし前の状態における特定部分SPの平面視(Z軸方向視)での形状は、例えば矩形である。
【0053】
図9に示すように、第1の仮想直線VL1は、特定部分SPの曲げ起こし前の状態において、金属部材210に形成されたスリットSLを、Z軸方向視で、第1のスリット部分SLP1と、第2のスリット部分SLP2と、第3のスリット部分SLP3とに仮想的に分けるような直線である。ここで、第1のスリット部分SLP1は、スリットSLの延伸方向における両端部を除く部分であり、第2のスリット部分SLP2および第3のスリット部分SLP3は、上記両端部に相当する部分である。すなわち、第2のスリット部分SLP2は、第1の仮想直線VL1に対して第1のスリット部分SLP1とは反対側(Y軸正方向側)に位置し、かつ、上記所定の位置における上記所定の方向(第1の仮想直線VL1の位置における第1の仮想直線VL1に平行な方向)の一方側(X軸負方向側)において第1のスリット部分SLP1に連続する部分である。また、第3のスリット部分SLP3は、第1の仮想直線VL1に対して第1のスリット部分SLP1とは反対側(Y軸正方向側)に位置し、かつ、上記所定の位置における上記所定の方向(第1の仮想直線VL1の位置における第1の仮想直線VL1に平行な方向)の他方側(図9のX軸正方向側)において第1のスリット部分SLP1に連続する部分である。このように、本実施形態では、特定部分SPの曲げ起こしの際の上記所定の位置における上記所定の方向を規定する第1の仮想直線VL1が、図9に示すような比較仮想直線VL0(スリットSLを複数の部分に仮想的に分けないような直線)ではなく、スリットSLを上記3つの部分(SLP1、SLP2、SLP3)に仮想的に分けるような直線として設定される。
【0054】
本実施形態では、上述したスリット群SLGを構成する各スリットSLにおける第1の仮想直線VL1の位置に治具の直線状のエッジ部分が当てられた状態で、各特定部分SPが一度に(一工程で)曲げ起こされる。このようなスリット群SLG単位での特定部分SPの曲げ起こしが、順番に実行される。なお、特定部分SPの曲げ起こしは、必ずしもスリット群SLG単位で実行される必要はなく、個々の特定部分SP単位で順番に実行されてもよいし、同列に並ぶように配置されている特定部分SPについて一度に(一工程で)実行されるとしてもよいし、すべての特定部分SPについて一度に(一工程で)実行されるとしてもよい。また、特定部分SPの曲げ起こしの角度(すなわち、第1の金属部分211の表面(Z軸に略直交する表面)と第2の金属部分212(後述)の表面とのなす角)θ1は、例えば、5度以上、90度以下であり、好ましくは、5度以上、20度以下である。
【0055】
特定部分SPの曲げ起こし(S120)の完了時には、図10に示すように、金属部材210は、特定部分SP以外の部分により構成される略平板状の第1の金属部分211と、金属部材210における曲げ起こされた略平板状の特定部分SPにより構成される第2の金属部分212とを有する構成となる。この状態では、略平板状の第1の金属部分211に、特定部分SPの曲げ起こし前の状態におけるスリットSLと特定部分SPとが占める領域に相当する複数の貫通孔(以下、「金属部材貫通孔」という)HOmが形成されていることとなる。
【0056】
次に、直線状のエッジ部分を有する治具を用いて、金属部材210の複数の第2の金属部分212のそれぞれにおける先端部分EPを、所定の位置で、所定の方向に垂直な方向に折り曲げる(S130、図11参照)。この折り曲げの際の上記所定の位置における上記所定の方向は、図10および図11に示す第2の仮想直線VL2の位置における第2の仮想直線VL2に平行な方向(X軸方向)である。すなわち、先端部分EPは、第2の仮想直線VL2の位置で、第2の仮想直線VL2に垂直な方向(Y軸方向)に折り曲げられる。なお、折り曲げ後の状態における先端部分EPの平面視(Z軸方向視)での形状は、例えば矩形である。また、先端部分EPの曲げ方向(第2の仮想直線VL2を中心とした回転方向)は、上述した特定部分SPの曲げ方向(第1の仮想直線VL1を中心とした回転方向)とは反対方向である。なお、先端部分EPの折り曲げの角度(すなわち、後述する第3の金属部分213の表面と第4の金属部分214の表面とのなす角)θ2は、例えば、5度以上であり、好ましくは90度以下、より好ましくは30度以下である。
【0057】
本実施形態では、先端部分EPの折り曲げは、上述した特定部分SPの曲げ起こしと同様に、上述したスリット群SLGに対応する複数の第2の金属部分212の単位で、順番に実行される。なお、先端部分EPの折り曲げは、個々の先端部分EP単位で実行されてもよいし、同列に並ぶように配置されている先端部分EPについて一度に(一工程で)実行されるとしてもよいし、すべての先端部分EPについて一度に(一工程で)実行されるとしてもよい。
【0058】
先端部分EPの折り曲げ(S130)の完了時には、図11に示すように、各第2の金属部分212は、折り曲げられた特定部分SPにより構成され、Z軸方向に直交する略平板状の第4の金属部分214と、第2の金属部分212における第4の金属部分214以外の部分である略平板状の第3の金属部分213とを有する構成となる。すなわち、金属部材210は、第1の金属部分211と、第3の金属部分213および第4の金属部分214(すなわち、第2の金属部分212)とを有する構成となる。加工前の金属部材210に対する上述した加工を経て、上述した空気極側集電部材200を構成する金属部材210(図5参照)が製造される。
【0059】
次に、金属部材210に被覆層220を形成する(S140)。被覆層220の形成は、例えば、スプレーコート、インクジェット印刷、スピンコート、ディップコート、めっき、スパッタリング、溶射等の周知の方法により塗布され、その後必要に応じて熱処理が実行されることにより実現される。以上の工程により、空気極側集電部材200の製造が完了する。
【0060】
A-3-2.空気極側集電部材200の詳細構成:
図12および図13は、本実施形態における空気極側集電部材200の詳細構成を示す説明図である。図12には、図6のX1部のXY断面構成が拡大して示されている。また、図13には、図12のXIII-XIIIの位置における空気極側集電部材200のYZ断面構成が示されている。以下、主として図5図12および図13を参照して、空気極側集電部材200の詳細構成を説明する。
【0061】
図5図12および図13に示すように、空気極側集電部材200は、第1の導電性部分231と、第2の導電性部分232とを備えている。また、第2の導電性部分232は、第3の導電性部分233と、第4の導電性部分234とを有している。第1の導電性部分231は、金属部材210の内の第1の金属部分211(図11等参照)と、第1の金属部分211の表面を覆う被覆層220とから構成された部分である。また、第3の導電性部分233は、金属部材210の内の第3の金属部分213(図11等参照)と、第3の金属部分213の表面を覆う被覆層220とから構成された部分である。また、第4の導電性部分234は、金属部材210の内の第4の金属部分214(図11等参照)と、第4の金属部分214の表面を覆う被覆層220とから構成された部分である。
【0062】
本実施形態では、空気極側集電部材200の第1の導電性部分231は、インターコネクタ150(またはエンドプレート104)に接触しており、各第4の導電性部分234は、単セル110の空気極114に接触している。また、第3の導電性部分233は、第1の導電性部分231と各第4の導電性部分234とをつないでいる。空気極側集電部材200は、このような構成であるため、上述したように、単セル110の空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。
【0063】
なお、図5の部分拡大図に示すように、空気極側集電部材200の第1の導電性部分231と空気極114との間、および、第4の金属部分214とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー139が配置されている。これらのスペーサー139の存在により、空気極側集電部材200が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、空気極側集電部材200を介した空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)との電気的接続が良好に維持される。
【0064】
空気極側集電部材200の第1の導電性部分231は、Z軸方向に直交する略平板状である。ここで、Z軸方向に直交する略平板状とは、Z軸方向に直交する厳密な平板形状に限られず、Z軸方向に直交する仮想平面に対して5度未満の傾きを有する部分を備える形状を含む。例えば、第1の導電性部分231における後述する第2の孔部分HP2と第3の孔部分HP3とに挟まれた部分(図12および図13のY1部)が、Z軸方向に直交する仮想平面に対して5度未満の傾きを有しており、第1の導電性部分231における他の部分が、Z軸方向に直交する仮想平面に平行であるとしてもよい。
【0065】
また、空気極側集電部材200の第1の導電性部分231には、複数の貫通孔HOcが形成されている。第1の導電性部分231に形成された貫通孔HOcは、金属部材210に形成された金属部材貫通孔HOm(図11参照)に対応する孔である。すなわち、金属部材貫通孔HOmが形成された金属部材210の表面が被覆層220に覆われることによって製造された空気極側集電部材200において、金属部材貫通孔HOmに対応する位置に形成される孔が貫通孔HOcである。
【0066】
また、空気極側集電部材200の第2の導電性部分232は、Z軸方向視における貫通孔HOcを形成する第1の導電性部分231の内周(より具体的には、図12および図13のY1部の縁部)から、第1の導電性部分231の表面(Z軸に略平行な表面)に交差する方向に延伸する板状部分(すなわち、第3の導電性部分233)を含んでいる。第1の導電性部分231の表面と第3の導電性部分233の表面とのなす角は、上述した空気極側集電部材200の製造の際の特定部分SPの曲げ起こしの角度θ1(図10参照)に略一致する。また、第2の導電性部分232は、さらに、境界線BLとは反対側の先端側に、Z軸方向に直交する略平板状の部分(第4の導電性部分234)を含んでいる。第3の導電性部分233の表面と第4の導電性部分234の表面とのなす角は、上述した空気極側集電部材200の製造の際の先端部分EPの折り曲げの角度θ2(図11参照)に略一致する。
【0067】
図12に示すように、空気極側集電部材200の第1の導電性部分231に形成された貫通孔HOcは、第1の孔部分HP1と、第2の孔部分HP2と、第3の孔部分HP3とを有している。第1の孔部分HP1は、Z軸方向視で、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLに直交する方向(Y軸方向であり、特許請求の範囲における第2の方向に相当する)において、仮想線分VSの全体に面している。ここで、仮想線分VSは、境界線BLを通る直線(すなわち、第1の仮想直線VL1)と、第1の導電性部分231の貫通孔HOcを形成する内周と、の2つの交点P1,P2の間を結んだ仮想的な線分である。なお、ここで言う「第1の孔部分HP1が仮想線分VSの全体に面している」とは、第1の導電性部分231のみに注目して(すなわち、第2の導電性部分232の存在は考慮せずに)、Z軸方向視での第1の孔部分HP1と仮想線分VSとの関係を規定するものである。
【0068】
また、第2の孔部分HP2は、Z軸方向視で、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側(Y軸正方向側)に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向であり、特許請求の範囲における第3の方向に相当する)における境界線BLの一方側(X軸負方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。また、第3の孔部分HP3は、Z軸方向視で、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側(Y軸正方向側)に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向)における境界線BLの他方側(X軸正方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。
【0069】
また、本実施形態では、図12に示すように、上記仮想線分VS上における第1の導電性部分231の幅と、第2の導電性部分232の幅とは、互いに等しくなっている。すなわち、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置に、段差が存在しない。
【0070】
また、図14は、空気極側集電部材200の第2の導電性部分232を、境界線BL(第1の仮想直線VL1)を基準として、第1の導電性部分231に略平行な姿勢となるように、図13の矢印AR1の方向に回転させた仮想状態を示している。なお、本実施形態では、第3の導電性部分233と第4の導電性部分234との間にも角度θ2の傾きが存在するため、仮想状態は、第2の仮想直線VL2を基準として、第4の導電性部分234を第3の導電性部分233に略平行な姿勢となるように図13の矢印AR2の方向に回転させ、第1の導電性部分231と第3の導電性部分233と第4の導電性部分234とが略平行な姿勢となった状態である。すなわち、この仮想状態の空気極側集電部材200は、特定部分SPの曲げ起こし(図8のS120)が実行される前の状態の金属部材210(図9参照)に被覆層220が形成された構成に相当する。この仮想状態において、空気極側集電部材200は、以下の式(2)および(3)を満たしている。なお、本実施形態では、第2の導電性部分232や貫通孔HOcの形状が、境界線BLの垂直二等分線に対して左右対称である。
ΔWb/2 < Wbm/2 ・・・(2)
Σtb < D ・・・(3)
ただし、
・Wbm:
上記仮想状態において、境界線BLから境界線BLに直交する方向(Y軸方向)に距離L2だけ離れた第2の位置における、第2の導電性部分232を構成する金属部材210(第2の金属部分212)の幅(以下、「距離L2の位置における幅」という)
・ΔWb:
上記仮想状態において、上記第2の位置における第1の孔部分HP1を構成する金属部材210の開口幅Wbo(ただし、Wbo>Wbm)から、上記幅(距離L2の位置における幅)Wbmを差し引いた差分(Wbo-Wbm)
・D:
上記仮想状態において、上記第2の位置における、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向)の第2の導電性部分232を構成する金属部材210(第2の金属部分212)外周上の点から、貫通孔HOcを形成する第1の導電性部分231の内周までの最短距離
・Σtb:
上記最短距離の両端の位置における被覆層220の厚さの和
【0071】
図14に示すように、上記式(2)において、「ΔWb/2」は、上記仮想状態において、Z軸方向視における第1の金属部分211の縁(第1の金属部分211における金属部材貫通孔HOmを形成する内周)と、第2の金属部分212の縁(第2の金属部分212の外周)との間の距離を表している。この「ΔWb/2」が、第2の金属部分212の幅(距離L2の位置における幅)Wbmの2分の1(Wbm/2)より小さいことは、この位置における第2の金属部分212の幅(距離L2の位置における幅)Wbmが比較的大きいことを意味している。また、図14に示すように、本実施形態では、上記式(3)における「D」は、「ΔWb/2」に等しい。この「D(=ΔWb/2)」が、被覆層220の厚さの合計Σtbより大きいことは、この位置における第1の金属部分211と第2の金属部分212との両方の表面に被覆層220を均一に形成することができることを意味している。
【0072】
また、本実施形態の空気極側集電部材200は、上記仮想状態において上記式(2)および(3)を満たすように構成されているため、結果的に、以下の式(1)を満たしている(図12参照)。
2×ta < ΔWa/2 < Wam/2 ・・・(1)
ただし、
・Wam:
境界線BLから境界線BLに直交する方向(XY平面に対して角度θ1だけ傾いた方向(図5参照))に第2の導電性部分232の表面に沿って距離L1だけ離れた第1の位置における、第2の導電性部分232を構成する金属部材210(第2の金属部分212)の幅(以下、「距離L1の位置における幅Wam」という)
・ΔWa:
境界線BLから境界線BLに直交する方向(Y軸方向)に上記距離L1だけ離れた位置における、第1の導電性部分231を構成する金属部材210(第1の金属部分211)の開口幅Waoから、上記幅(距離L1の位置における幅)Wamを差し引いた差分(Wao-Wam)
・ta:
上記第1の位置における被覆層220の厚さ
【0073】
図12に示すように、上記式(1)において、「ΔWa/2」は、Z軸方向視における第1の金属部分211の縁(第1の金属部分211における金属部材貫通孔HOmを形成する内周)と、第2の金属部分212の縁(第2の金属部分212の外周)との間の距離を表している。この「ΔWa/2」が、被覆層220の厚さtaの2倍(2×ta)より大きいことは、この位置における第1の金属部分211と第2の金属部分212との表面に被覆層220を形成しても、部材同士の干渉が起こらないことを意味している。また、この「ΔWa/2」が、第2の金属部分212の幅(距離L1の位置における幅)Wamの2分の1(Wam/2)より小さいことは、この位置における第2の金属部分212の幅(距離L1の位置における幅)Wamが比較的大きいことを意味している。
【0074】
なお、本実施形態では、空気極側集電部材200が上述した製造方法により製造されるため、境界線BLを基準とした第1の孔部分HP1の長さ(Y軸方向の大きさ)は、境界線BLを基準とした第2の導電性部分232の表面の長さ(Y軸方向の大きさ)より長くなっている。
【0075】
A-3-3.本実施形態の空気極側集電部材200の構成から導かれる効果:
以上説明したように、本実施形態の空気極側集電部材200は、金属(第1の金属部分211)を含む第1の導電性部分231と、金属(第2の金属部分212)を含む第2の導電性部分232とを備える。第1の導電性部分231は、Z軸方向に直交する略平板状の部分である。第1の導電性部分231には、貫通孔HOcが形成されている。また、第2の導電性部分232は、Z軸方向視における貫通孔HOcを形成する第1の導電性部分231の内周から、第1の導電性部分231の表面に交差する方向に延伸する板状部分(第3の導電性部分233)を含んでいる。また、第1の導電性部分231に形成された貫通孔HOcは、第1の孔部分HP1と、第2の孔部分HP2と、第3の孔部分HP3とを有する。第1の孔部分HP1は、Z軸方向視で、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、境界線BLを通る直線(第1の仮想直線VL1)と第1の導電性部分231の内周との2つの交点P1,P2の間を結んだ仮想線分VSの全体に面している。第2の孔部分HP2は、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側(Y軸正方向側)に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向)における境界線BLの一方側(X軸負方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。また、第3の孔部分HP3は、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側(Y軸正方向側)に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向)における境界線BLの他方側(X軸正方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。本実施形態の空気極側集電部材200は、このような構成を有するため、以下に説明するように、応力集中に起因する空気極側集電部材200のひび割れの発生を抑制することができる。
【0076】
図15は、比較例における空気極側集電部材200Xの構成を示す説明図である。図15に示す比較例の空気極側集電部材200Xは、図12に示す本実施形態の空気極側集電部材200と比較して、第1の導電性部分231の形状が異なっている。具体的には、比較例の空気極側集電部材200Xでは、金属部材210の曲げ起こし加工(図8のS120)の際の曲げ起こし位置が、第1の仮想直線VL1の位置ではなく、比較仮想直線VL0(図9参照)の位置となっている。なお、比較仮想直線VL0は、第1の仮想直線VL1と異なり、スリットSLを複数の部分に仮想的に分けないような直線である。すなわち、比較例の空気極側集電部材200Xでは、貫通孔HOcが、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLを通る直線(比較仮想直線VL0)と第1の導電性部分231の内周との2つの交点P1,P2の間を結んだ仮想線分VSによって複数の部分に分けられることがない。その結果、比較例の空気極側集電部材200Xでは、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLに直交する第2の方向(Y軸方向(ただし、第2の導電性部分232の先端側とは反対の方向であるY軸正方向))における貫通孔HOcの端部に面する箇所の内、屈曲している部分を構成する箇所(以下、「孔端部対向部Y2」という)が、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置に一致する。そのため、比較例の空気極側集電部材200Xにおける孔端部対向部Y2は、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置で折れ曲がることとなる。比較例の空気極側集電部材200Xは、このような構成であるため、例えば、燃料電池スタック100の運転時等において空気極側集電部材200Xが熱膨張・熱収縮を繰り返すことに伴い生ずる応力が、空気極側集電部材200Xの特定の箇所(例えば、孔端部対向部Y2)に集中する。その結果、比較例の空気極側集電部材200Xでは、空気極側集電部材200Xにおける特定の箇所においてひび割れが発生するおそれがある。
【0077】
これに対し、本実施形態の空気極側集電部材200では、図12に示すように、第1の導電性部分231に形成された貫通孔HOcが、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLを通る直線(第1の仮想直線VL1)と第1の導電性部分231の内周との2つの交点P1,P2の間を結んだ仮想線分VSによって、上述した第1の孔部分HP1と第2の孔部分HP2と第3の孔部分HP3とに分けられる。そのため、本実施形態の空気極側集電部材200では、孔端部対向部Y2(すなわち、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLに直交する第2の方向(ただし、第2の導電性部分232の先端側とは反対の方向)における貫通孔HOcの端部に面する箇所の内、屈曲している部分を構成する箇所)が、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置に一致しない。そのため、本実施形態の空気極側集電部材200における孔端部対向部Y2は、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置のように折れ曲がってはおらず、略平板形状となる。本実施形態の空気極側集電部材200は、このような構成であるため、例えば、燃料電池スタック100の運転時等において空気極側集電部材200が熱膨張・熱収縮を繰り返すことに伴い生ずる応力が、空気極側集電部材200の特定の箇所(例えば、孔端部対向部Y2)に集中することを抑制することができる。そのため、本実施形態の空気極側集電部材200によれば、空気極側集電部材200の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0078】
また、本実施形態の空気極側集電部材200では、上記仮想線分VS上における第1の導電性部分231の幅と第2の導電性部分232の幅とが互いに等しい。すなわち、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置に、段差が存在しない。そのため、本実施形態の空気極側集電部材200によれば、空気極側集電部材200の特定の箇所(例えば、孔端部対向部Y2)に応力が集中することを効果的に抑制することができ、空気極側集電部材200の特定の箇所においてひび割れが発生することを効果的に抑制することができる。
【0079】
また、本実施形態の空気極側集電部材200では、第1の導電性部分231は、Crを含有する板状の金属部材210(第1の金属部分211)と、第1の金属部分211の表面に形成され、第1の金属部分211からのCrの拡散を抑制する被覆層220とを有する。同様に、第2の導電性部分232は、Crを含有する板状の金属部材210(第2の金属部分212)と、第2の金属部分212の表面に形成され、第2の金属部分212からのCrの拡散を抑制する被覆層220とを有する。すなわち、本実施形態の空気極側集電部材200では、貫通孔HOcが、仮想線分VSによって第1の孔部分HP1と第2の孔部分HP2と第3の孔部分HP3とに分けられる。そのため、本実施形態の空気極側集電部材200では、金属部材210の特定の箇所(例えば、孔端部対向部Y2を構成する部分)において、被覆層220にひび割れが発生することを抑制することができる。従って、本実施形態の空気極側集電部材200によれば、被覆層220によって金属部材210からのCrの拡散を効果的に抑制することができる。
【0080】
また、本実施形態の空気極側集電部材200は、上述したように、以下の式(1)を満たしている。
2×ta < ΔWa/2 < Wam/2 ・・・(1)
そのため、本実施形態の空気極側集電部材200では、第2の金属部分212の幅(距離L1の位置における幅)Wamを比較的大きくすることができ、かつ、第1の金属部分211と第2の金属部分212との表面に被覆層220を形成しても部材(部位)同士の干渉の発生を抑制することができる。従って、本実施形態の空気極側集電部材200によれば、第2の金属部分212の幅(距離L1の位置における幅)Wamが小さくなることに伴って空気極側集電部材200による集電機能が低下することを回避しつつ、部材(部位)同士の干渉に起因する被覆層220の剥離や部材の破損等の発生を抑制することができる。
【0081】
また、本実施形態の空気極側集電部材200は、上述したように、以下の式(2)および(3)を満たしている。
ΔWb/2 < Wbm/2 ・・・(2)
Σtb < D ・・・(3)
そのため、本実施形態の空気極側集電部材200では、第1の金属部分211と第2の金属部分212とを備える金属部材210を曲げ加工(図8のS120)により製造する場合において、第2の金属部分212の幅(距離L2の位置における幅)Wbmを比較的大きくすることができ、かつ、第1の金属部分211と第2の金属部分212との両方の表面に被覆層220を均一に形成することができる。従って、本実施形態の空気極側集電部材200によれば、第2の金属部分212の幅(距離L2の位置における幅)Wbmが小さくなることに伴って空気極側集電部材200による集電機能が低下することを回避しつつ、被覆層220によって金属部材210からのCrの拡散を効果的に抑制することができる。
【0082】
また、本実施形態の空気極側集電部材200では、被覆層220は、スピネル型酸化物とペロブスカイト型酸化物との少なくとも一方を含むように構成されている。そのため、本実施形態の空気極側集電部材200によれば、被覆層220によって金属部材210からのCrの拡散を効果的に抑制することができる。
【0083】
A-4.燃料極側集電部材300の詳細説明:
図16は、本実施形態における燃料極側集電部材300の詳細構成を示す説明図である。図16には、図7のX2部のXY断面構成が拡大して示されている。以下、主として図4図7および図16を参照して、燃料極側集電部材300の詳細構成を説明する。なお、燃料極側集電部材300の構成は、上述した空気極側集電部材200の構成と類似しているため、以下では、燃料極側集電部材300の構成の内、空気極側集電部材200の構成と相違する点を中心に説明する。
【0084】
図4図7および図16に示すように、燃料極側集電部材300は、第1の導電性部分301と、第2の導電性部分302とを備えている。また、第2の導電性部分302は、第3の導電性部分303と、第4の導電性部分304とを有している。なお、本実施形態では、燃料極側集電部材300は、例えば、ニッケルやニッケル合金等の導電性材料により形成されている。燃料極側集電部材300は、空気極側集電部材200のように被覆層に覆われてはいない。
【0085】
本実施形態では、燃料極側集電部材300の第1の導電性部分301は、インターコネクタ150(またはエンドプレート106)に接触しており、各第4の導電性部分304は、単セル110の燃料極116に接触している。また、第3の導電性部分303は、第1の導電性部分301と各第4の導電性部分304とをつないでいる。燃料極側集電部材300は、このような構成であるため、上述したように、単セル110の燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。
【0086】
なお、燃料極側集電部材300の第1の導電性部分301と第4の導電性部分304との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。スペーサー149の存在により、燃料極側集電部材300が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電部材300を介した単セル110の燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0087】
燃料極側集電部材300の第1の導電性部分301は、Z軸方向に直交する略平板状である。ここで、Z軸方向に直交する略平板状とは、Z軸方向に直交する厳密な平板形状に限られず、Z軸方向に直交する仮想平面に対して5度未満の傾きを有する部分を備える形状を含む。また、燃料極側集電部材300の第1の導電性部分301には、貫通孔HOaが形成されている。
【0088】
また、燃料極側集電部材300の第2の導電性部分302は、Z軸方向視における貫通孔HOaを形成する第1の導電性部分301の内周(より具体的には、図16のY3部の縁部)から、第1の導電性部分301の表面(Z軸に略平行な表面)に交差する方向に延伸する板状部分(すなわち、第3の導電性部分303)を含んでいる。本実施形態では、第1の導電性部分301の表面と第3の導電性部分303の表面とのなす角は、略90度である。また、第2の導電性部分302は、さらに、境界線BLとは反対側の先端側に、Z軸方向に直交する略平板状の部分(第4の導電性部分304)を含んでいる。本実施形態では、第3の導電性部分303の表面と第4の導電性部分304の表面とのなす角は、略90度である。
【0089】
燃料極側集電部材300の第1の導電性部分301に形成された貫通孔HOaは、第1の孔部分HP1と、第2の孔部分HP2と、第3の孔部分HP3とを有している。第1の孔部分HP1は、Z軸方向視で、第1の導電性部分301と第2の導電性部分302との境界線BLに直交する方向(Y軸方向であり、特許請求の範囲における第2の方向に相当する)において、仮想線分VSの全体に面している。ここで、仮想線分VSは、境界線BLを通る直線(すなわち、図16の第3の仮想直線VL3)と、第1の導電性部分301の貫通孔HOaを形成する内周と、の2つの交点P3,P4の間を結んだ仮想的な線分である。
【0090】
また、第2の孔部分HP2は、Z軸方向視で、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側(Y軸負方向側)に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向であり、特許請求の範囲における第3の方向に相当する)における境界線BLの一方側(X軸負方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。また、第3の孔部分HP3は、Z軸方向視で、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側(Y軸負方向側)に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向)における境界線BLの他方側(X軸正方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。
【0091】
また、本実施形態では、上記仮想線分VS上における第1の導電性部分301の幅と、第2の導電性部分302の幅とは、互いに等しくなっている。すなわち、第1の導電性部分301と第2の導電性部分302との境界線BLの位置に、段差が存在しない。
【0092】
上述した構成の燃料極側集電部材300は、図8を参照して上述した空気極側集電部材200の製造方法と同様の方法により製造することができる。ただし、燃料極側集電部材300の製造の際の曲げ起こし・折り曲げ加工の方向・角度は、空気極側集電部材200の製造の際のものとは異なる。また、燃料極側集電部材300は被覆層220を有していないため、空気極側集電部材200の製造の際に実行される被覆層220の形成工程は、燃料極側集電部材300の製造の際には実行されない。
【0093】
以上説明したように、本実施形態の燃料極側集電部材300は、金属製の第1の導電性部分301と、金属製の第2の導電性部分302とを備える。第1の導電性部分301は、Z軸方向に直交する略平板状の部分である。第1の導電性部分301には、貫通孔HOaが形成されている。また、第2の導電性部分302は、Z軸方向視における貫通孔HOaを形成する第1の導電性部分301の内周から、第1の導電性部分301の表面に交差する方向に延伸する板状部分(第3の導電性部分303)を含んでいる。また、第1の導電性部分301に形成された貫通孔HOaは、第1の孔部分HP1と、第2の孔部分HP2と、第3の孔部分HP3とを有する。第1の孔部分HP1は、Z軸方向視で、第1の導電性部分301と第2の導電性部分302との境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、境界線BLを通る直線(第3の仮想直線VL3)と第1の導電性部分301の内周との2つの交点P3,P4の間を結んだ仮想線分VSの全体に面している。第2の孔部分HP2は、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向)における境界線BLの一方側(X軸負方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。また、第3の孔部分HP3は、境界線BLに直交する方向(Y軸方向)において、仮想線分VSに対して第1の孔部分HP1とは反対側に位置し、かつ、仮想線分VSに平行な方向(X軸方向)における境界線BLの他方側(X軸正方向側)で、第1の孔部分HP1に連続している。従って、本実施形態の燃料極側集電部材300によれば、空気極側集電部材200について上述したのと同様に、燃料極側集電部材300の特定の箇所(例えば、第1の導電性部分301と第2の導電性部分302との境界線BLに直交する第2の方向(Y軸方向)における貫通孔HOaの端部に面する箇所の内、屈曲している部分を構成する箇所(図16に示す孔端部対向部Y4))に応力が集中することを抑制することができ、燃料極側集電部材300の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0094】
また、本実施形態の燃料極側集電部材300では、上記仮想線分VS上における第1の導電性部分301の幅と第2の導電性部分302の幅とが互いに等しい。すなわち、第1の導電性部分301と第2の導電性部分302との境界線BLの位置に、段差が存在しない。そのため、本実施形態の燃料極側集電部材300によれば、燃料極側集電部材300の特定の箇所(例えば、孔端部対向部Y4)に応力が集中することを効果的に抑制することができ、燃料極側集電部材300の特定の箇所においてひび割れが発生することを効果的に抑制することができる。
【0095】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0096】
上記実施形態における単セル110、空気極側集電部材200、燃料極側集電部材300、発電単位102または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態の空気極側集電部材200では、仮想線分VS上における第1の導電性部分231の幅と第2の導電性部分232の幅とが互いに等しいとしているが(図12参照)、図17に示す変形例の空気極側集電部材200のように、仮想線分VS上における第1の導電性部分231の幅が、第2の導電性部分232の幅より大きいとしてもよい。図17に示す変形例の空気極側集電部材200においても、上記実施形態の空気極側集電部材200と同様に、第1の導電性部分231に形成された貫通孔HOcが、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLを通る直線(第1の仮想直線VL1)と第1の導電性部分231の内周との2つの交点P1,P2の間を結んだ仮想線分VSによって、第1の孔部分HP1と第2の孔部分HP2と第3の孔部分HP3とに分けられている。そのため、図17に示す変形例の空気極側集電部材200では、孔端部対向部Y2(すなわち、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLに直交する第2の方向(ただし、第2の導電性部分232の先端側とは反対の方向)における貫通孔HOcの端部に面する箇所の内、屈曲している部分を構成する箇所)が、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置に一致しない。すなわち、図17に示す比較例の空気極側集電部材200における孔端部対向部Y2は、第1の導電性部分231と第2の導電性部分232との境界線BLの位置のように、第1の導電性部分231に略平行な表面に交差する方向に延伸した第3の導電性部分233と連続しておらず(たとえば、折れ曲がってはおらず)、第1の導電性部分231に略平行な略平板形状となる。そのため、図17に示す変形例の空気極側集電部材200においても、例えば、燃料電池スタック100の運転時等において空気極側集電部材200が熱膨張・熱収縮を繰り返すことに伴い生ずる応力が、空気極側集電部材200の特定の箇所(例えば、孔端部対向部Y2)に集中することを抑制することができる。従って、図17に示す変形例の空気極側集電部材200においても、空気極側集電部材200の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0097】
また、上記実施形態では、空気極側集電部材200の第2の導電性部分232を境界線BLを基準として第1の導電性部分231に略平行な姿勢となるように回転させた仮想状態(図14参照)において、第2の導電性部分232のZ軸方向視での形状が略矩形であるが、図18および図19に示す変形例の空気極側集電部材200のように、仮想状態(図19に示す状態)において、第2の導電性部分232のZ軸方向視での形状が他の形状(例えば、略台形)であるとしてもよい。
【0098】
なお、図18および図19に示す変形例の空気極側集電部材200では、上記実施形態の空気極側集電部材200と同様に、仮想状態(図19)において以下の式(2)および(3)を満たしている。
ΔWb/2 < Wbm/2 ・・・(2)
Σtb < D ・・・(3)
【0099】
また、図18および図19に示す変形例の空気極側集電部材200では、上記実施形態の空気極側集電部材200と同様に、仮想状態ではない通常の状態(図18)において以下の式(1)を満たしている。
2×ta < ΔWa/2 < Wam/2 ・・・(1)
【0100】
また、上記実施形態では、空気極側集電部材200の第2の導電性部分232が、第3の導電性部分233(すなわち、第1の導電性部分231の表面に交差する方向に延伸する板状部分)と、第4の導電性部分234(すなわち、Z軸方向に直交する略平板状の部分)とから構成されているが、第2の導電性部分232が、第4の導電性部分234を有さず、第3の導電性部分233のみから構成されるとしてもよい。このような構成では、第3の導電性部分233が空気極114に接続されることとなる。
【0101】
同様に、上記実施形態では、燃料極側集電部材300の第2の導電性部分302が、第3の導電性部分303(すなわち、第1の導電性部分301の表面に交差する方向に延伸する板状部分)と、第4の導電性部分304(すなわち、Z軸方向に直交する略平板状の部分)とから構成されているが、第2の導電性部分302が、第4の導電性部分304を有さず、第3の導電性部分303のみから構成されるとしてもよい。このような構成では、第3の導電性部分303が燃料極116に接続されることとなる。
【0102】
また、上記実施形態では、空気極側集電部材200の第1の導電性部分231がインターコネクタ150(またはエンドプレート104)に接触しており、第2の導電性部分232を構成する第4の導電性部分234が空気極114に接触しているが、反対に、第2の導電性部分232がインターコネクタ150(またはエンドプレート104)に接触しており、第1の導電性部分231が空気極114に接触しているとしてもよい。
【0103】
同様に、上記実施形態では、燃料極側集電部材300の第1の導電性部分301がインターコネクタ150(またはエンドプレート106)に接触しており、第2の導電性部分302を構成する第4の導電性部分304が燃料極116に接触しているが、反対に、第2の導電性部分302がインターコネクタ150(またはエンドプレート106)に接触しており、第1の導電性部分301が燃料極116に接触しているとしてもよい。
【0104】
また、上記実施形態において、空気極側集電部材200の形状が、燃料極側集電部材300の形状と同様の形状であるとしてもよい。すなわち、上記実施形態における空気極側集電部材200の形状は、第1の導電性部分231を基準とした第3の導電性部分233の曲げ方向(回転方向)と、第3の導電性部分233を基準とした第4の導電性部分234の曲げ方向(回転方向)とが反対方向である形状であるが、燃料極側集電部材300と同様に、両者の曲げ方向が同一方向である形状であるとしてもよい。
【0105】
同様に、上記実施形態において、燃料極側集電部材300の形状が、空気極側集電部材200の形状と同様の形状であるとしてもよい。すなわち、上記実施形態における燃料極側集電部材300の形状は、第1の導電性部分301を基準とした第3の導電性部分303の曲げ方向(回転方向)と、第3の導電性部分303を基準とした第4の導電性部分304の曲げ方向(回転方向)とが同一方向である形状であるが、空気極側集電部材200と同様に、両者の曲げ方向が反対方向である形状であるとしてもよい。
【0106】
また、上記実施形態では、空気極側集電部材200が、金属部材210と被覆層220とから構成されているが、空気極側集電部材200が、被覆層220を有さず、金属部材210のみから構成されるとしてもよい。また、上記実施形態では、燃料極側集電部材300が被覆層を有さないが、燃料極側集電部材300が、Crを含む金属(例えば、フェライト系ステンレス等)により形成された金属部材と、導電性材料(例えば、Ni等)により形成され、該金属部材を覆う被覆層とから構成されるとしてもよい。
【0107】
また、上記実施形態では、空気極側集電部材200が接合層を介さずに空気極114に接しているが、空気極側集電部材200が接合層を介して空気極114に接しているとしてもよい。また、上記実施形態では、燃料極側集電部材300が接合層を介さずに燃料極116に接しているが、燃料極側集電部材300が接合層を介して燃料極116に接するとしてもよい。
【0108】
また、上記実施形態では、空気極側集電部材200の第1の導電性部分231と空気極114との間、および、第4の金属部分214とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)との間に、スペーサー139が配置されているが、これらのスペーサー139の内の一方または両方が配置されないとしてもよい。
【0109】
また、上記実施形態において、第2の孔部分HP2を形成する角部の内、X軸方向(第3の方向)において第3の孔部分HP3に最も近い角部と、第3の孔部分HP3を形成する角部の内、X軸方向(第3の方向)において第2の孔部分HP2に最も近い角部と、の少なくとも一方は、R形状であるとしてもよい。図12等に示すように、第2の孔部分HP2を形成する角部の内、X軸方向(第3の方向)において第3の孔部分HP3に最も近い角部、および、第3の孔部分HP3を形成する角部の内、X軸方向(第3の方向)において第2の孔部分HP2に最も近い角部は、空気極側集電部材200における孔端部対向部Y2である。そのため、それらの角部の少なくとも一方をR形状とすれば、応力が集中することを極めて効果的に抑制することができ、ひび割れが発生することを極めて効果的に抑制することができる。なお、R形状の曲率は、0.1mm~1mm以上であることが好ましく、0.25mm~0.75mm以下であることが好ましい。
【0110】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる発電単位102の個数は、あくまで一例であり、発電単位102の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。また、燃料電池スタック100を構成する複数の発電単位102のすべてにおける空気極側集電部材200および燃料極側集電部材300の両方について、上記実施形態で説明した構成が採用されている必要はなく、燃料電池スタック100を構成する複数の発電単位102の少なくとも1つにおける空気極側集電部材200と燃料極側集電部材300との少なくとも一方について、上記実施形態で説明した構成が採用されていればよい。
【0111】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100に、ガスの供給または排出のための流路であるマニホールド161,162,171,172が形成されているが、これらのマニホールド161,162,171,172の内の少なくとも1つに関し、このような流路が形成されず、燃料電池スタック100の外部とガス室(空気室166または燃料室176)との間のガスのやりとりが直接行われるとしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。例えば、上記実施形態では、空気極側集電部材200を構成する金属部材210がフェライト系ステンレスにより形成されているが、金属部材210が他の材料により形成されてもよい。また、上記実施形態では、空気極側集電部材200を構成する被覆層220がスピネル型酸化物とペロブスカイト型酸化物との少なくとも一方を含むように構成されているが、被覆層220がスピネル型酸化物およびペロブスカイト型酸化物以外の他の材料により形成されてもよい。
【0113】
また、上記実施形態における燃料極側集電部材300および空気極側集電部材200の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、燃料極側集電部材300および/または空気極側集電部材200の製造の際に、上述した曲げ加工の代わりに、切削や鋳造、接合、エッチング等が行われるとしてもよい。
【0114】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は複数の略平板状の発電単位102(単セル110)が並べて配置された構成であるが、本発明は、他の形状(例えば円筒状)の発電単位(単セル)が複数並べて配置された燃料電池スタックにも同様に適用可能である。
【0115】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解セル単位や、複数の電解セル単位を備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解セル単位および電解セルスタックにおいても、上述した構成の空気極側集電部材200や燃料極側集電部材300を採用することにより、空気極側集電部材200や燃料極側集電部材300の特定の箇所においてひび割れが発生することを抑制することができる。
【0116】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。また、本発明は、電気化学反応単位を構成する集電部材に限らず、金属を含み、第1の方向に直交する略平板状であり、貫通孔が形成された第1の導電性部分と、金属を含み、前記第1の方向視における前記貫通孔を形成する前記第1の導電性部分の内周から前記第1の導電性部分の表面に交差する方向に延伸する板状部分を含む第2の導電性部分と、を備える導電性部材一般に適用可能である。
【符号の説明】
【0117】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:燃料電池発電単位 104:エンドプレート 106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 139:スペーサー 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 149:スペーサー 150:インターコネクタ 152:被覆層 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 200:空気極側集電部材 210:金属部材 211:第1の金属部分 212:第2の金属部分 213:第3の金属部分 214:第4の金属部分 218:酸化被膜層 220:被覆層 231:第1の導電性部分 232:第2の導電性部分 233:第3の導電性部分 234:第4の導電性部分 300:燃料極側集電部材 301:第1の導電性部分 302:第2の導電性部分 303:第3の導電性部分 304:第4の導電性部分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19