(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
B60B 35/02 20060101AFI20220331BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
B60B35/02 L
F16C19/18
(21)【出願番号】P 2017184106
(22)【出願日】2017-09-25
【審査請求日】2020-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】特許業務法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬場 智子
【審査官】浅野 麻木
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-091404(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0292981(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102014208381(DE,A1)
【文献】特開2009-255751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 35/02
F16C 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、
外周に複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの転走面間に介装される複数の転動体と、を備え、
前記外方部材又は前記内方部材のいずれか一方に径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジが形成された車輪用軸受装置において、
前記車輪取り付けフランジが前記外方部材又は前記内方部材の回転軸を中心に放射状に延びる複数のプレート部で構成されており、それぞれの前記プレート部の前縁部分と後縁部分にインナー側へ突出したリブ部が設けられ、それぞれの前記プレート部にインナー側へ突出したボルトボス部が設けられ
、前記リブ部の高さ寸法が前記ボルトボス部の高さ寸法よりも小さいことを特徴とする車輪用軸受装置。
【請求項2】
更に前記ボルトボス部に車輪を取り付けるためのハブボルトが挿通するボルト穴が設けられており、当該ボルト穴のピッチ円よりも径方向外側まで前記リブ部が延びている、ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項3】
更に前記ボルトボス部に車輪を取り付けるためのハブボルトが挿通するボルト穴が設けられており、当該ボルト穴のピッチ円よりも径方向内側で前記リブ部と前記ボルトボス部がつながって一体化している、ことを特徴とする請求項1に記載の車輪用軸受装置。
【請求項4】
それぞれの前記プレート部の基端部における前記リブ部よりも前縁側と後縁側に周方向へ突出し、かつ径方向内側に向かうにつれて徐々に高くなるサイドリブ部が設けられている、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【請求項5】
全ての前記プレート部が前記回転軸を中心とする円板上に形成されて一体化している、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている(特許文献1参照)。かかる車輪用軸受装置は、車体に外方部材が固定される。また、外方部材の内側に内方部材が配置され、外方部材と内方部材のそれぞれの転走面間に複数の転動体が介装されている。こうして、車輪用軸受装置は、転がり軸受構造を構成し、内方部材に取り付けられた車輪を回転自在としているのである。
【0003】
ところで、車輪用軸受装置は、内方部材の外周に径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジが形成されている。車輪取り付けフランジは、内方部材の回転軸を中心に放射状に延びる複数のプレート部で構成されたものが存在している(特許文献2および特許文献3参照)。しかし、このような車輪取り付けフランジは、全体重量の軽量化を実現した一方で、プレート部の剛性や強度が不足してしまうという問題があった。そこで、全体重量を低減させつつ、車輪取り付けフランジを構成しているプレート部の剛性や強度を向上させた車輪用軸受装置が求められていたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-168860号公報
【文献】特開2008-114644号公報
【文献】特許第5365256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
全体重量を低減させつつ、車輪取り付けフランジを構成しているプレート部の剛性や強度を向上させた車輪用軸受装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一の発明は、
内周に複列の外側転走面が形成された外方部材と、
外周に複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材のそれぞれの転走面間に介装される複数の転動体と、を備え、
前記外方部材又は前記内方部材のいずれか一方に径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジが形成された車輪用軸受装置において、
前記車輪取り付けフランジが前記外方部材又は前記内方部材の回転軸を中心に放射状に延びる複数のプレート部で構成されており、それぞれの前記プレート部の前縁部分と後縁部分にインナー側へ突出したリブ部が設けられている、ものである。
【0007】
第二の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置において、
それぞれの前記プレート部にボルトボス部が設けられ、
更に前記ボルトボス部に車輪を取り付けるためのハブボルトが挿通するボルト穴が設けられており、当該ボルト穴のピッチ円よりも径方向外側まで前記リブ部が延びている、ものである。
【0008】
第三の発明は、第一の発明に係る車輪用軸受装置において、
それぞれの前記プレート部にボルトボス部が設けられ、
更に前記ボルトボス部に車輪を取り付けるためのハブボルトが挿通するボルト穴が設けられており、当該ボルト穴のピッチ円よりも径方向内側で前記リブ部と前記ボルトボス部がつながって一体化している、ものである。
【0009】
第四の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係る車輪用軸受装置において、
それぞれの前記プレート部の前縁部分と後縁部分に周方向へ突出し、かつ径方向内側に向かうにつれて徐々に高くなるサイドリブ部が設けられている、ものである。
【0010】
第五の発明は、第一から第三のいずれかの発明に係る車輪用軸受装置において、
全ての前記プレート部が前記回転軸を中心とする円板上に形成されて一体化している、ものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
第一の発明に係る車輪用軸受装置は、車輪取り付けフランジが外方部材又は内方部材の回転軸を中心に放射状に延びる複数のプレート部で構成されており、それぞれのプレート部の前縁部分と後縁部分にインナー側へ突出したリブ部が設けられている。かかる車輪用軸受装置によれば、全体重量を低減させつつ、車輪取り付けフランジを構成しているプレート部の剛性や強度を向上できる。
【0013】
第二の発明に係る車輪用軸受装置は、それぞれのプレート部にボルトボス部が設けられている。そして、更にボルトボス部に車輪を取り付けるためのハブボルトが挿通するボルト穴が設けられており、このボルト穴のピッチ円よりも径方向外側までリブ部が延びている。かかる車輪用軸受装置によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部の剛性や強度を向上できる。
【0014】
第三の発明に係る車輪用軸受装置は、それぞれのプレート部にボルトボス部が設けられている。そして、更にボルトボス部に車輪を取り付けるためのハブボルトが挿通するボルト穴が設けられており、このボルト穴のピッチ円よりも径方向内側でリブ部とボルトボス部がつながって一体化している。かかる車輪用軸受装置によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部の剛性や強度を向上できる。
【0015】
第四の発明に係る車輪用軸受装置は、それぞれのプレート部の前縁部分と後縁部分に周方向へ突出し、かつ径方向内側に向かうにつれて徐々に高くなるサイドリブ部が設けられている。かかる車輪用軸受装置によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部の剛性や強度を向上できる。
【0016】
第五の発明に係る車輪用軸受装置は、全てのプレート部が回転軸を中心とする円板上に形成されて一体化している。かかる車輪用軸受装置によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部の剛性や強度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図5】第一実施形態に係る車輪用軸受装置のハブ輪を示す図。
【
図6】ハブ輪における車輪取り付けフランジの一部構造を示す図。
【
図7】ハブ輪における車輪取り付けフランジの一部構造を示す図。
【
図8】ハブ輪の重量差と車輪取り付けフランジの剛性差及び強度差を示す図。
【
図10】第二実施形態に係る車輪用軸受装置のハブ輪を示す図。
【
図11】第三実施形態に係る車輪用軸受装置のハブ輪を示す図。
【
図12】他の実施形態に係る車輪用軸受装置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
まず、本発明に係る車輪用軸受装置1について説明する。
図1は、車輪用軸受装置1を示す図である。
図2は、車輪用軸受装置1の構造を示す図である。そして、
図3および
図4は、車輪用軸受装置1の一部構造を示す図である。
【0019】
車輪用軸受装置1は、車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材2と、内方部材3と、転動体列4と、を備えている。なお、本明細書において、「インナー側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、「アウター側」とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。また、「径方向外側」とは、内方部材3の回転軸Aから遠ざかる方向を表し、「径方向内側」とは、内方部材3の回転軸Aに近づく方向を表す。更に、「周方向」とは、内方部材3の回転軸Aを中心に旋回する方向を表す。
【0020】
外方部材2は、転がり軸受構造の外輪部分を構成するものである。外方部材2のインナー側端部における内周には、嵌合面2aが形成されている。また、外方部材2のアウター側端部における内周には、嵌合面2bが形成されている。更に、嵌合面2aと嵌合面2bに隣接する内周には、二つの外側転走面2c・2dが形成されている。外側転走面2cは、後述する内側転走面3cに対向する。外側転走面2dは、後述する内側転走面3dに対向する。加えて、外方部材2には、径方向外側へ広がる車体取り付けフランジ2eが形成されている。車体取り付けフランジ2eには、複数のボルト穴2fが設けられている。
【0021】
内方部材3は、転がり軸受構造の内輪部分を構成するものである。内方部材3は、ハブ輪31と内輪32で構成されている。
【0022】
ハブ輪31は、外方部材2の内側に挿通される。ハブ輪31のインナー側端部における外周には、軸方向中央部まで小径段部3aが形成されている。小径段部3aは、ハブ輪31の外径が小さくなった部分を指し、その外周面が回転軸Aを中心とする円筒形状となっている。また、ハブ輪31の外周には、内側転走面3dが形成されている。内側転走面3dは、ハブ輪31が外方部材2の内側に挿通された状態で、前述した外側転走面2dに対向する。加えて、ハブ輪31は、その外周に径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジ3eが形成されている。車輪取り付けフランジ3eには、回転軸Aを中心に複数のボルト穴3fが設けられており、それぞれのボルト穴3fにハブボルト33が圧入(挿通)されている。ハブ輪31には、軽量化のためにすり鉢状の凹部3tが形成されている。凹部3tの深さは、ハブ輪31のアウター側端面からアウター側の転動体列4を構成している保持器42のインナー側端部に対応する軸方向位置付近までとされている。なお、凹部3tの深さは、任意であって適宜に変更されてもよい。
【0023】
内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌される。内輪32のインナー側端部における外周には、嵌合面3gが形成されている。また、嵌合面3gに隣接する外周には、内側転走面3cが形成されている。内輪32は、ハブ輪31の小径段部3aに外嵌されることにより、ハブ輪31の外周に内側転走面3cを構成する。内側転走面3cは、ハブ輪31と一体化した内輪32が外方部材2の内側に挿通された状態で、前述した外側転走面2cに対向する。なお、内輪32は、小径段部3aに外嵌された状態で、この小径段部3aの先端を径方向外側へ押し広げて形成された加締部3hによって固定されている。
【0024】
転動体列4は、転がり軸受構造の転動部分を構成するものである。インナー側の転動体列4は、複数の転動体41と一つの保持器42で構成されている。同様に、アウター側の転動体列4も、複数の転動体41と一つの保持器42で構成されている。
【0025】
転動体41は、それぞれが保持器42によって円形にかつ等間隔にならべられている。そして、インナー側の転動体列4を構成している転動体41は、外方部材2の外側転走面2cと内方部材3(内輪32)の内側転走面3cの間に転動自在に介装されている。また、アウター側の転動体列4を構成している転動体41は、外方部材2の外側転走面2dと内方部材3(ハブ輪31)の内側転走面3dの間に転動自在に介装されている。
【0026】
保持器42は、転動体41を収めるための空洞が等間隔に形成された円環体となっている。保持器42は、互いに隣り合う転動体41と転動体41の間に球面壁が延びており、二つの球面壁によって一つの転動体41を挟み込むように保持している。このため、保持器42は、それぞれの転動体41の周方向の偏動(ズレ)を制限する。従って、隣り合う転動体41と転動体41が衝突したりそれぞれの転動体41がガタついたりするのを防ぐことができる。
【0027】
更に、本車輪用軸受装置1は、エンコーダ部材5を備えている。また、本車輪用軸受装置1は、外方部材2の内部空間Sを密封するためにシール部材6とキャップ部材7を備えている。
【0028】
エンコーダ部材5は、内方部材3(ハブ輪31および内輪32)のインナー側端部に装着されるものである。エンコーダ部材5は、芯金51と磁性部材52で構成されている。
【0029】
芯金51は、エンコーダ部材5の主体をなすものである。芯金51には、鋼板をプレス加工によって切り出し、かつ折り曲げることによって円筒状の嵌合部51aと、この嵌合部51aのインナー側端部から径方向外側へ延びる円板状の側板部51bと、が形成されている。そして、この嵌合部51aが内方部材3(ハブ輪31および内輪32)のインナー側端部に外嵌される。つまり、この嵌合部51aが内方部材3(ハブ輪31および内輪32)の嵌合面3gに沿うように押し込まれる。そのため、芯金51は、内方部材3(ハブ輪31および内輪32)と一体化し、側板部51bが回転軸Aを中心に回転することとなる。
【0030】
磁性部材52は、側板部51bのインナー側端面を覆うように加硫接着されている。磁性部材52は、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等に磁性粉を添加して構成されており、周方向に交互に磁極(N極・S極)が配列されている。そのため、図示しない磁気センサは、単位時間あたりの磁極の変化を検出することが可能となる。つまり、内方部材3の回転速度を検出し、ひいては車輪の回転速度を検出することが可能となる。
【0031】
シール部材6は、外方部材2のアウター側端部に装着されるものである。シール部材6は、芯金61と弾性部材62で構成されている。
【0032】
芯金61は、シール部材6の主体をなすものである。芯金61には、鋼板をプレス加工によって切り出し、かつ折り曲げることによって円筒状の嵌合部61aと、この嵌合部61aのアウター側端部から径方向内側へ延びる円板状の側板部61bと、が形成されている。そして、この嵌合部61aが外方部材2のアウター側端部に内嵌される。つまり、この嵌合部61aが外方部材2の嵌合面2bに沿うように押し込まれる。そのため、芯金61は、外方部材2と一体化し、側板部61bが内方部材3(ハブ輪31)に近接することとなる。
【0033】
弾性部材62は、側板部61bのアウター側端面を覆うように加硫接着されている。弾性部材62は、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等で構成されており、三つのシールリップ62a・62b・62cが形成されている。シールリップ62aは、その先端縁が車輪取り付けフランジ3eの基端部に設けられた平端面3iに接触している。また、シールリップ62bは、その先端縁が平端面3iにつながる円弧面3jに接触している。そして、シールリップ62cは、その先端縁が円弧面3jにつながる軸周面3kに接触又は近接している。なお、弾性部材62は、径方向外側へ突出した凸部が全周にわたって形成されており、外方部材2と芯金61の嵌合部分に水が浸入して腐食しないよう考慮されている。
【0034】
キャップ部材7は、外方部材2のインナー側端部に装着されるものである(
図1から
図3参照)。キャップ部材7は、蓋金71と弾性部材72で構成されている。
【0035】
蓋金71は、キャップ部材7の主体をなすものである。蓋金71には、鋼板をプレス加工によって切り出し、かつ折り曲げることによって円筒状の嵌合部71aと、この嵌合部71aのインナー側端部から径方向内側へ延びて開口端を塞ぐ円板状の蓋板部71bと、が形成されている。そして、この嵌合部71aが外方部材2のインナー側端部に内嵌される。つまり、この嵌合部71aが外方部材2の嵌合面2aに沿うように押し込まれる。そのため、蓋金71は、外方部材2と一体化し、蓋板部71bが外方部材2のインナー側開口端を塞ぐことができる。
【0036】
弾性部材72は、嵌合部71aのインナー側端部における外周面に加硫接着されている。弾性部材72は、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)等で構成されており、嵌合部71aが外方部材2の嵌合面2aに沿うように押し込まれると、この嵌合面2aを押圧する。なお、弾性部材72は、径方向外側へ突出した凸部が全周にわたって形成されており、外方部材2と蓋金71の嵌合部分に水が浸入して腐食しないよう考慮されている。
【0037】
次に、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳細に説明する。
図5は、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1のハブ輪31を示している。
図6は、ハブ輪31における車輪取り付けフランジ3eの一部構造を示している。なお、
図6の(A)は、プレート部3mの左側面図であり、
図6の(B)は、プレート部3mの右側面図である。そして、
図6の(C)は、X-X断面図である。
【0038】
上述したように、ハブ輪31は、その外周に径方向外側へ広がる車輪取り付けフランジ3eが形成されている。車輪取り付けフランジ3eは、ハブ輪31の回転軸Aを中心に放射状に延びる複数のプレート部3mで構成されている(後述する星型形状となっている)。具体的に説明すると、車輪取り付けフランジ3eは、ハブ輪31の回転軸Aを中心に位相角90°ごとに延びた計四本のプレート部3mで構成されている。但し、ハブ輪31の回転軸Aを中心に位相角72°ごとに延びた計五本のプレート部3mで構成されていてもよい。また、ハブ輪31の回転軸Aを中心に位相角60°ごとに延びた計六本のプレート部3mで構成されていてもよい。
【0039】
ところで、それぞれのプレート部3mは、従来よりも薄く設計されている。つまり、プレート部3mは、その厚さ寸法Tpが従来の厚さ寸法よりも小さくなっている。これは、全体重量を更に低減させるためである。また、それぞれのプレート部3mには、ボルト穴3fのボルトボス部3nが設けられている。ボルトボス部3nは、プレート部3mにおけるインナー側へ盛り上がった部分を指し、径方向内側へ延びて車輪取り付けフランジ3eの基端部につながっている(ハブ輪31の軸体部3rにつながっている)。なお、ボルトボス部3nにおけるボルト座面3sは、ハブ輪31を回転させながら刃物を当てることで削り取られ、その表面粗さや平面度、平行度等が管理される。但し、ハブ輪31を回転させることなく、ボルト穴3fの周囲のみをエンドミルで削り取るとしてもよい(ザグリ加工という)。
【0040】
ここで、それぞれのプレート部3mにおける回転方向前側部を「前縁部分」と定義し、それぞれのプレート部3mにおける回転方向後側部を「後縁部分」と定義する。すると、それぞれのプレート部3mには、その前縁部分に沿ってリブ部3pが設けられている(
図6におけるハッチング部分参照)。また、それぞれのプレート部3mには、その後縁部分に沿ってリブ部3qが設けられている(
図6におけるハッチング部分参照)。これらのリブ部3p・3qは、プレート部3mにおけるインナー側へ盛り上がった部分を指し、同じく径方向内側へ延びて車輪取り付けフランジ3eの基端部につながっている(ハブ輪31の軸体部3rにつながっている)。なお、これらのリブ部3p・3qは、その高さ寸法Hrがボルトボス部3nの高さ寸法Hbよりも僅かに小さくなっている。これは、ボルト座面3sを切削する際に、リブ部3p・3qも切削してしまうのを防ぐためである。
【0041】
このように、本車輪用軸受装置1は、車輪取り付けフランジ3eが内方部材3(ハブ輪31および内輪32)の回転軸Aを中心に放射状に延びる複数のプレート部3mで構成されており、それぞれのプレート部3mの前縁部分と後縁部分にインナー側へ突出したリブ部3p・3qが設けられている。かかる車輪用軸受装置1によれば、全体重量を低減させつつ、車輪取り付けフランジ3eを構成しているプレート部3mの剛性や強度を向上できる。
【0042】
以下に、リブ部3pとリブ部3qについて詳しく説明する。
【0043】
リブ部3pは、車輪取り付けフランジ3eの基端部から径方向外側に延びている(ハブ輪31の軸体部3rから径方向外側に延びている)。そして、リブ部3pの先端部は、ボルト穴3fのピッチ円Pよりも径方向外側まで延びている。他方で、リブ部3pの基端部は、ボルト穴3fのピッチ円Pよりも径方向内側でボルトボス部3nにつながって一体化している(リブ部3pとボルトボス部3nの間が厚く形成されて互いがつながっている:
図6における※印部参照)。なお、リブ部3pは、ボルトボス部3nに対して平行となっており、その幅寸法Wrや高さ寸法Hrが一定となっている。但し、径方向外側に向かうにつれて幅寸法Wrが徐々に小さくなるとしてもよいし、径方向外側に向かうにつれて高さ寸法Hrが徐々に小さくなるとしてもよい(
図7参照)。加えて、リブ部3pは、プレート部3mの前縁部分が周方向へ突き出るように、僅かにズラした位置に設けられるとしてもよい(
図7の(D)参照)。
【0044】
リブ部3qは、車輪取り付けフランジ3eの基端部から径方向外側に延びている(ハブ輪31の軸体部3rから径方向外側に延びている)。そして、リブ部3qの先端部は、ボルト穴3fのピッチ円Pよりも径方向外側まで延びている。他方で、リブ部3qの基端部は、ボルト穴3fのピッチ円Pよりも径方向内側でボルトボス部3nにつながって一体化している(リブ部3qとボルトボス部3nの間が厚く形成されて互いがつながっている:
図6における※印部参照)。なお、リブ部3qは、ボルトボス部3nに対して平行となっており、その幅寸法Wrや高さ寸法Hrが一定となっている。但し、径方向外側に向かうにつれて幅寸法Wrが徐々に小さくなるとしてもよいし、径方向外側に向かうにつれて高さ寸法Hrが徐々に小さくなるとしてもよい(
図7参照)。加えて、リブ部3qは、プレート部3mの後縁部分が周方向へ突き出るように、僅かにズラした位置に設けられるとしてもよい(
図7の(D)参照)。
【0045】
このように、本車輪用軸受装置1は、それぞれのプレート部3mにボルトボス部3nが設けられている。そして、更にボルトボス部3nに車輪を取り付けるためのハブボルト33が挿通するボルト穴3fが設けられており、このボルト穴3fのピッチ円Pよりも径方向外側までリブ部3p・3qが延びている。かかる車輪用軸受装置1によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部3mの剛性や強度を向上できる。
【0046】
また、本車輪用軸受装置1は、それぞれのプレート部3mにボルトボス部3nが設けられている。そして、更にボルトボス部3nに車輪を取り付けるためのハブボルト33が挿通するボルト穴3fが設けられており、このボルト穴3fのピッチ円Pよりも径方向内側でリブ部3p・3qとボルトボス部3nがつながって一体化している。かかる車輪用軸受装置1によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部3mの剛性や強度を向上できる。
【0047】
次に、従来の車輪用軸受装置1に対する改善効果について説明する。
図8は、ハブ輪31の重量差と車輪取り付けフランジ3eの剛性差及び強度差を示している。なお、
図8の(A)は、ハブ輪31の重量差を示す図であり、
図8の(B)は、車輪取り付けフランジ3eの剛性差を示す図である。そして、
図8の(C-1)から(C-3)は、車輪取り付けフランジ3eの強度差を示す図である。
【0048】
ここで、各図における「X」は、従来の車輪用軸受装置1を表している。「X」の車輪取り付けフランジ3eは、径方向外側へ広がった丸型形状となっている(
図9の(A)参照)。また、各図における「Y」も、従来の車輪用軸受装置1を表している。「Y」の車輪取り付けフランジ3eは、複数のプレート部3mが放射状に径方向外側へ広がった星型形状となっている。但し、上述したリブ部3p・3qは設けられていないものとする(
図9の(B)参照)。更に、各図における「Z」は、本願の車輪用軸受装置1を表している。「Z」の車輪取り付けフランジ3eは、複数のプレート部3mが放射状に径方向外側へ広がった星型形状となっている。そして、上述したようなリブ部3p・3qが設けられているものとする(
図9の(C)参照)。
【0049】
図8の(A)に示すように、ハブ輪31の重量については、従来の二つの車輪用軸受装置1よりも軽くなっている。具体的に説明すると、「Y」は、「X」に対して17%の軽量化を実現しているのに対し、「Z」は、「X」に対して19%の軽量化を実現している。つまり、「Z」は、「X」や「Y」よりも軽くなっている。
【0050】
図8の(B)に示すように、車輪取り付けフランジ3eの剛性については、従来の一の車輪用軸受装置1よりも低くなっているものの、従来の他の車輪用軸受装置1とほぼ等しくなっている。具体的に説明すると、「Y」は、「X」に対して12%の剛性の低下となっているのに対し、「Z」も、「X」に対して12%の剛性の低下となっている。つまり、「Z」は、「X」よりも低い剛性であるが、「Y」とほぼ同じ剛性といえる。
【0051】
図8の(C-1)は、プレート部3mのインナー側基端部における強度を示している(プレート部3mのインナー側端面が軸体部3rにつながる位置における強度を示している:
図2の○印部参照)。かかる箇所の強度については、従来の一の車輪用軸受装置1よりも低くなっているものの、従来の他の車輪用軸受装置1とほぼ等しくなっている。具体的に説明すると、「Y」は、「X」に対して27%の強度の低下となっているのに対し、「Z」も、「X」に対して28%の強度の低下となっている。つまり、「Z」は、「X」よりも低い強度であるが、「Y」とほぼ同じ強度といえる。
【0052】
図8の(C-2)は、プレート部3mのアウター側基端部における強度を示している(プレート部3mのアウター側端面が軸体部3rにつながる位置における強度を示している:
図2の△印部参照)。かかる箇所の強度については、従来の一の車輪用軸受装置1よりも低くなっているものの、従来の他の車輪用軸受装置1よりも高くなっている。具体的に説明すると、「Y」は、「X」に対して11%の強度の低下となっているのに対し、「Z」は、「X」に対して5%の強度の低下となっている。つまり、「Z」は、「X」よりも低い強度であるが、「Y」よりも高い強度になっている。
【0053】
図8の(C-3)は、いわゆるシールランド部における強度を示している(上述した平端面3iと円弧面3jと軸周面3kからなる曲面部分における強度を示している:
図2の□印部参照)。かかる箇所の強度については、従来の一の車輪用軸受装置1よりも低くなっているものの、従来の他の車輪用軸受装置1よりも高くなっている。具体的に説明すると、「Y」は、「X」に対して11%の強度の低下となっているのに対し、「Z」は、「X」に対して8%の強度の低下となっている。つまり、「Z」は、「X」よりも低い強度であるが、「Y」よりも高い強度になっている。
【0054】
このように、本願の車輪用軸受装置1は、全体重量を低減させつつ、車輪取り付けフランジ3eを構成しているプレート部3mの剛性や強度を向上させているのである。
【0055】
次に、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳細に説明する。
図10は、第二実施形態に係る車輪用軸受装置1のハブ輪31を示している。ここでは、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1のハブ輪31と比較して異なる部分のみを説明する。
【0056】
本車輪用軸受装置1のハブ輪31は、サイドリブ部3u・3vが設けられている点で異なる(
図10におけるハッチング部分参照)。サイドリブ部3uは、それぞれのプレート部3mの前縁部分に周方向へ突出している。そして、サイドリブ部3uは、径方向内側に向かうにつれて徐々に高くなっている(回転軸Aに沿って見ると幅が徐々に広くなっている)。また、サイドリブ部3vは、それぞれのプレート部3mの後縁部分に周方向へ突出している。そして、サイドリブ部3vは、径方向内側に向かうにつれて徐々に高くなっている(回転軸Aに沿って見ると幅が徐々に広くなっている)。
【0057】
このように、本車輪用軸受装置1は、それぞれのプレート部3mの前縁部分と後縁部分に周方向へ突出し、かつ径方向内側へ向かうにつれて徐々に高くなるサイドリブ部3u・3vが設けられている。かかる車輪用軸受装置1によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部の剛性や強度を向上できる。
【0058】
次に、第三実施形態に係る車輪用軸受装置1について詳細に説明する。
図11は、第三実施形態に係る車輪用軸受装置1のハブ輪31を示している。ここでは、第一実施形態に係る車輪用軸受装置1のハブ輪31と比較して異なる部分のみを説明する。
【0059】
本車輪用軸受装置1のハブ輪31は、全てのプレート部3mが回転軸Aを中心とする円板3w上に形成されて一体化している点で異なる。円板3wは、従来の車輪取り付けフランジ3eよりも大幅に薄くすることができる。
【0060】
このように、本車輪用軸受装置1は、全てのプレート部3mが回転軸Aを中心とする円板3w上に形成されて一体化している。かかる車輪用軸受装置1によれば、製造容易な形状でありながら、更にプレート部3mの剛性や強度を向上できる。
【0061】
本願における車輪用軸受装置1は、車体取り付けフランジ2eを有している外方部材2と、ハブ輪31に一つの内輪32が嵌合されている内方部材3と、で構成された内方部材回転仕様の第3世代構造としているが、これに限定するものではない。例えば、車輪取り付けフランジを有している外方部材と、車体取り付けフランジを有している支持軸に一つの内輪が嵌合されている内方部材と、で構成された外方部材回転仕様の第3世代構造であってもよい(
図12参照)。更に、車体取り付けフランジを有している外方部材と、一対の内方部材で構成され、この一対の内方部材がハブ輪の外周に嵌合される内方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。また、車輪取り付けフランジを有している外方部材と、一対の内方部材で構成され、この一対の内方部材が支持軸の外周に嵌合される外方部材回転仕様の第2世代構造であってもよい。更に、車体取り付けフランジを有しているハウジングに圧入される外方部材と、一対の内方部材で構成され、この一対の内方部材がハブ輪の外周に嵌合される第1世代構造であってもよい。更に、内方部材としてハブ輪と自在継手が連結されており、車体取り付けフランジを有している外方部材と、ハブ輪と自在継手の嵌合体である内方部材と、で構成された第4世代構造であってもよい。
【0062】
最後に、本願における発明は、各実施形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、更に特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
1 車輪用軸受装置
2 外方部材
2c 外側転走面
2d 外側転走面
3 内方部材
31 ハブ輪
32 内輪
3c 内側転走面
3d 内側転走面
3e 車輪取り付けフランジ
3f ボルト穴
3m プレート部
3n ボルトボス部
3p リブ部
3q リブ部
3u サイドリブ部
3v サイドリブ部
3w 円板
A 回転軸
P ピッチ円