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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】チップ抵抗器
(51)【国際特許分類】
   H01C 1/032 20060101AFI20220331BHJP
   H01C 7/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
H01C1/032
H01C7/00 110
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017231904
(22)【出願日】2017-12-01
(65)【公開番号】P2019102641
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100186749
【弁理士】
【氏名又は名称】金沢 充博
(74)【代理人】
【識別番号】100174089
【弁理士】
【氏名又は名称】郷戸 学
(74)【代理人】
【識別番号】100092406
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】江藤 航児
(72)【発明者】
【氏名】窪田 道雄
【審査官】北原 昂
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-022935(JP,A)
【文献】特開平11-204312(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0131068(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 1/032
H01C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗体と、該抵抗体と接続した一対の電極と、無機系材料からなる絶縁基板と、を備え、
前記絶縁基板には、厚み方向に貫通し、前記電極の配置方向に直交する方向に形成した少なくとも一つのスリットを有する、チップ抵抗器。
【請求項2】
前記チップ抵抗器は、平面視において、長辺と短辺を有する長方形であり、前記電極はその長辺側に形成されている、請求項1に記載のチップ抵抗器。
【請求項3】
前記スリットには、樹脂が充填されている、請求項1または2に記載のチップ抵抗器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機系材料からなる絶縁基板上に、電極を備えた抵抗体を固定したチップ抵抗器に関する。
【背景技術】
【0002】
チップ抵抗器にも様々な形状のものがあるが、電流検出用等の大電流用途のチップ抵抗器として、図7に示すチップ抵抗器10が知られている。このチップ抵抗器10は、アルミナ等の無機材料基板11に、ニッケルクロム合金等の抵抗合金材料からなる金属箔の抵抗体12の両端に銅等の高導電性材料からなる電極13,13が接合されたものが貼付て固定されている。電極13,13間には、エポキシ系あるいはシリコン系の樹脂14が埋め込まれ、電極13,13間および抵抗体12を絶縁保護している。
【0003】
図7は、従来例の上記チップ抵抗器10をプリント基板15に実装した状態を示す。プリント基板15には、回路配線パターン16,16を備え、チップ抵抗器10の電極13,13がハンダ17を介してプリント基板15の回路配線パターン16,16に接続されている。
【0004】
チップ抵抗器10には、一方の回路配線パターン16からハンダ17および電極13を介して抵抗体12に電流が流入し、抵抗体12から流出した電流は、電極13およびハンダ17を介して他方の回路配線パターン16に流出する。そして、抵抗体12を流れる電流によって生じる電圧が図示しない電圧検出装置で検出され、既知の抵抗体の抵抗値から電流値が検出される。
【0005】
しかしながら、係るチップ抵抗器では、電流が流れた時に抵抗体12が発熱し、電流が停止した時に抵抗体12の発熱が停止する。そうすると、チップ抵抗器10は、発熱した時に図中実線矢印で示す方向に膨張し、発熱が停止し冷却した時に図中破線矢印で示す方向に収縮する。
【0006】
チップ抵抗器10の発熱および冷却はハンダ17を介してプリント基板15に伝熱し、プリント基板15も、発熱した時に図中実線矢印で示す方向に膨張し、冷却した時に図中破線矢印で示す方向に収縮する。ところが、チップ抵抗器10とプリント基板15の構成材料の熱膨張・収縮は、同じ温度変化に対して、プリント基板15の方が大きい。
【0007】
そうすると、パワーサイクル試験や熱衝撃試験など熱応力が発生する熱印加および冷却を繰り返す試験において、チップ抵抗器10とプリント基板15の界面のハンダ17では、内部に熱膨張・収縮による応力の発生が繰り返され、ハンダ17の内部で疲労が発生する。その結果、ハンダ17部分に疲労破壊でクラックCが生じ、断線に到る場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-289770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の事情に基づいてなされたもので、大電流用途のチップ抵抗器のパワーサイクル試験や熱衝撃試験などにおいて、実装状態での熱膨張・収縮に伴うハンダの疲労破壊が生じないようにしたチップ抵抗器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のチップ抵抗器は、抵抗体と、該抵抗体と接続した一対の電極と、無機系材料からなる絶縁基板と、を備え、前記絶縁基板には、厚み方向に貫通し、前記電極の配置方向に直交する方向に形成した少なくとも一つのスリットを有する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、無機系材料からなる絶縁基板には、厚み方向に貫通した少なくとも一つのスリットを有するので、チップ抵抗器とプリント基板の熱膨張・収縮を合わせることが可能となる。これにより、パワーサイクル試験や熱衝撃試験などにおいて、チップ抵抗器とプリント基板を接続するハンダ内部に生じる応力を緩和し、疲労破壊の耐性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例のチップ抵抗器のプリント基板への実装状態を示す断面図である。
図2】(a)は従来のチップ抵抗器のプリント基板への実装状態の要部を示す断面図であり、(b)はその内部の応力分布を示す図である。
図3】(a)は本発明のチップ抵抗器のプリント基板への実装状態の要部を示す断面図であり、(b)はその内部の応力分布を示す図である。
図4】本発明の他の実施例のチップ抵抗器のプリント基板への実装状態を示す斜視図である。
図5】本発明のさらに他の実施例のチップ抵抗器のプリント基板への実装状態を示す斜視図である。
図6】本発明のさらに他の実施例のチップ抵抗器のプリント基板への実装状態を示す斜視図である。
図7】従来のチップ抵抗器のプリント基板への実装状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図1乃至図6を参照して説明する。なお、各図中、同一または相当する部材または要素には、同一の符号を付して説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施例のチップ抵抗器21をプリント基板15に実装した状態を示す。このチップ抵抗器21は、低抵抗値の電流検出用のチップ抵抗器であり、ニッケル・クロム合金等の薄い抵抗合金材料からなる抵抗体12と、該抵抗体と接続した一対の銅等の高導電性材料からなる電極13、13と、アルミナ等の無機系材料からなる絶縁基板11Aと、を備える点で、従来技術のチップ抵抗器10と異なるものではない。
【0015】
しかしながら、本発明のチップ抵抗器21では、アルミナ等の無機系材料からなる絶縁基板11Aには、厚み方向に貫通した少なくとも一つのスリット11Bを有する。このスリット11Bには、エポキシ系樹脂またはシリコン系樹脂等の熱伝導性が良好な樹脂が充填され、絶縁基板11Aとの一体性が保たれている。
【0016】
このスリット11B部分は、樹脂であるため、絶縁基板11Aの線膨張係数がプリント基板15に近く、チップ抵抗器21とプリント基板15の熱膨張・収縮を合わせることができる。これにより、パワーサイクル試験や熱衝撃試験などにおいて、チップ抵抗器21とプリント基板17を接続するハンダ17の内部に生じる応力を緩和し、疲労破壊の耐性を向上させることができる。
【0017】
なお、チップ抵抗器21の形態を保つことができれば、スリット11Bに樹脂等を充填せずに、空間にしておいてもよい。これによっても、チップ抵抗器21とプリント基板15の熱膨張・収縮を合わせることができる。
【0018】
このチップ抵抗器21は、平面視において、長辺と短辺を有する長方形であり、電極13はその長辺側に形成されている。これにより、抵抗体の電流が流れる方向の長さを短くすると共に、断面積を大きくし、低抵抗値で大電流の検出が可能な電流検出用チップ抵抗器とすることができる。
【0019】
スリット11Bは、一対の電極13、13の配置方向、すなわち、抵抗体12において電流が流れる方向に直交する方向に形成されている。抵抗体12に大電流が流れると、発熱の中心は抵抗体12の一対の電極13、13間の中央部となり、発熱はプリント基板15に伝熱し、チップ抵抗器21とプリント基板15は、それぞれ電流が流れる方向に膨張・収縮する。
【0020】
これにより、スリット21は、プリント基板の線膨張係数と略等しいので、チップ抵抗器21の伸縮と、プリント基板15の伸縮を合わせることができる。それ故、電極13を回路配線パターン16に接合するハンダ17の内部に生じる応力を低減でき、疲労破壊の耐性を向上させることができる。
【0021】
図2および図3は、上述したパワーサイクル試験においてハンダ内部等に生じる応力の低減をシミュレーションで検討した結果を示す。図2は従来例についてのものであり、(a)はシミュレーションモデルとして採用した構造例を示し、(b)はその構造例における25℃/155℃の温度変化時に生じる大きな応力の分布を示す図である。
【0022】
図2(b)に示すように、ハンダ17内部のプリント基板15上の回路配線パターン16に接する部分の近傍に、大きな応力の分布S1の存在が認められる。同様に、絶縁基体11内部のハンダ17に接する部分の近傍に、大きな応力の分布S2の存在が認められる。
【0023】
これは、温度変化時に、プリント基板15の熱膨張・収縮が大きく、絶縁基体11の熱膨張・収縮が小さいため、ハンダ17が回路配線パターン16の熱膨張・収縮に引っ張られ、回路配線パターン16の近傍に大きな応力の分布S1が生じたことと思われる。この大きな応力の分布S1の存在により、図7に示すクラックCが生じたことと認められる。同様に、大きな応力の分布S2の存在はハンダ17の熱膨張・収縮に絶縁基板11の端面が引っ張られて、生じたことと思われる。
【0024】
図3は本発明例についてのものであり、(a)はシミュレーションモデルとして採用した構造例を示し、(b)はその構造例における25℃/155℃の温度変化時に生じる大きな応力の分布S3を示す図である。本発明例は、(a)に示すように、絶縁基板11Aに貫通するスリット11Bを設け、該スリット11Bに樹脂を充填したものである。
【0025】
図3(b)に示すように、従来技術におけるハンダ17内部のプリント基板15上の回路配線パターン16に接する部分の近傍に生じていた大きな応力の分布S1は大幅に縮小され、応力分布S3となった。同様に、絶縁基体11内部のハンダ17に接する部分に生じていた大きな応力分布S2も大幅に縮小し、絶縁基板11Aの隅部に残るもののみとなっている。
【0026】
図3(a)に示すシミュレーションモデルによれば、図2(a)に示す従来例のシミュレーションモデルに対し、25℃/155℃の温度変化試験において、全体として、約25%応力が緩和されるというシミュレーション結果が得られた。よって、本発明のチップ抵抗器21を用いることで、従来例に対して、パワーサイクル試験や熱衝撃試験などにおいてハンダ17内部に生じる応力を緩和し、疲労破壊の耐性を向上させることが確認できた。
【0027】
図4ないし図6は、本発明のチップ抵抗器の変形実施例を示す。図4は、二本の樹脂を充填したスリット11Bをチップ抵抗器21の絶縁基板11Aの電極配置方向の両端に配置したものである。図5は、一本の樹脂を充填したスリット11Bをチップ抵抗器21の絶縁基板11Aにたすき掛け状に斜めに配置したものである。図6は、二本の樹脂を充填したスリット11Bをチップ抵抗器21の絶縁基板11Aの両端に互い違いに配置したものである。
【0028】
これらの変形実施例においても、パワーサイクル試験や熱衝撃試験などにおいてハンダ17内部に生じる応力を緩和し、疲労破壊の耐性を向上させることができることは、前述した実施例と同様である。
【0029】
これまで本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術的思想の範囲内において種々異なる形態にて実施されてよいことは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、電流検出用等の大電流用途のチップ抵抗器に好適に利用可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7