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  • 特許-複合繊維及び布帛の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】複合繊維及び布帛の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20220331BHJP
【FI】
D01F8/14 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018014020
(22)【出願日】2018-01-30
(65)【公開番号】P2019131913
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 祐輝
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-070826(JP,A)
【文献】特開2014-114511(JP,A)
【文献】特開2014-133955(JP,A)
【文献】特開平05-247725(JP,A)
【文献】特開平06-093530(JP,A)
【文献】特開平08-284034(JP,A)
【文献】特開平08-291437(JP,A)
【文献】特開平07-126919(JP,A)
【文献】特開平09-279418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる酸成分がテレフタル酸であって、全酸成分中に20~40モル%のイソフタル酸と8~15モル%のスルホイソフタル酸塩を含み、かつ主たるジオール成分がエチレングリコールであって、全ジオール成分中にジエチレングリコールを13~25モル%含む、70℃以上の熱水に溶解する共重合ポリエステル成分(A)と、100℃以下の常圧環境下でカチオン染色可能な共重合ポリエステル成分(B)とからなる複合繊維であって、繊維横断面において共重合ポリエステル成分(A)が表面から内部に向かって凸状に配され、表面から内部に向かって広がりを持ち、内部は楕円状の形状を持ち、かつ、共重合ポリエステル成分(B)が一体で存在し、繊維横断面の表面の50~99%に露出してなり、共重合ポリエステル成分(A)と共重合ポリエステル成分(B)の複合体積比率(A)/(B)が10/90~35/65であることを特徴とする複合繊維。
【請求項2】
主たる酸成分がテレフタル酸であって、全酸成分中に20~40モル%のイソフタル酸と8~15モル%のスルホイソフタル酸塩を含み、かつ主たるジオール成分がエチレングリコールであって、全ジオール成分中にジエチレングリコールを13~25モル%含む、70℃以上の熱水に溶解する共重合ポリエステル成分(A)と、100℃以下の常圧環境下でカチオン染色可能な共重合ポリエステル成分(B)とからなる複合繊維であって、繊維横断面において共重合ポリエステル成分(A)が表面から内部に向かって凸状に配され、かつ、共重合ポリエステル成分(B)が一体で存在し、繊維横断面の表面の50~99%に露出してなり、共重合ポリエステル成分(A)と共重合ポリエステル成分(B)の複合体積比率(A)/(B)が10/90~35/65である複合繊維を布帛とした後に、熱水処理することにより、共重合ポリエステル成分(A)を溶解し、吸水性及び軽量性に優れた布帛を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱水可溶成分と常圧カチオン可染成分とからなる複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は衣料用途で幅広く使用されている。ポリエステル繊維を用いた布帛の風合い改善や機能性付与のために、繊維の異形断面化や極細化などが行われている。ポリエステル繊維の異形断面化や極細化には、ホモポリエステル成分とアルカリにより溶解可能なポリエステル成分(以下、アルカリ溶解成分と記す)との複合繊維技術が使用される。すなわち、溶融紡出時は両成分が別々に合わさった丸型の形状とし、後工程のアルカリ処理によりアルカリ溶解成分を溶解し、異形断面型繊維を得ることや、海島型繊維の海部に配されたアルカリ溶解成分を溶解し、島部のみの極細繊維を得ることが行われている。
【0003】
一方、ポリエステル繊維を、天然繊維やアクリル繊維、ポリウレタン繊維等、ポリエステル以外の繊維と組合せることにより、ポリエステル繊維の特徴である耐摩擦性や速乾性等の性能を、上記繊維に付与することも行われている。ポリエステル繊維は通常130℃の高温で染色されるが、ポリエステル繊維と天然繊維やポリウレタン繊維等他の繊維との交編織をし、130℃の高温で染色した場合、ポリエステル繊維と組合せた繊維が劣化してしまうため、100℃以下の常圧環境下で染色可能なポリエステル繊維の開発がなされている。具体的にはポリエステル成分中に金属スルホネート基含有のイソフタル酸成分とポリアルキレングリコール成分とを共重合させたポリエステル成分(以下、常圧カチオン可染成分と記す)が提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、かかる常圧カチオン可染成分と、アルカリ溶解成分との組合せにより異形断面や極細等の複合繊維を製造する場合、常圧カチオン可染成分は、ホモポリエステル成分と比べアルカリにより減量され易いため、アルカリ減量加工により一部分解、溶出してしまい、得られる繊維の強伸度の低下や糸切れを引き起こす。また、アルカリ処理によるポリエステル繊維の異形断面化や極細化はアルカリ溶液を使用するため作業環境が良くない、またアルカリによる溶解のコントロールが難しい等の問題がある。
【0004】
そこで、アルカリ処理をすることなく、熱水処理のみで100℃以下の常圧環境下で染色可能なポリエステル成分からなる極細繊維を得る方法として、一方の成分が8~15mol%の5-ナトリウムスルホイソフタル酸、および5~40mol%のイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステル成分であり、もう一方の成分は主たる酸成分がテレフタル酸であって、1.7~5.5mol%の5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合してなる共重合ポリエステル成分で構成されていることを特徴とする可細化性複合繊維を得て、後工程で熱水にて処理することにより極細繊維を得ることが提案されている(特許文献2参照)。
また、全酸成分に対してスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸を6~12モル%含み、全ジオール成分に対してエチレングリコールを70~90モル%、ジエチレングリコールを10~30モル%含む共重合ポリエステル成分と融点が160℃以上のポリエステル成分とからなる複合繊維であり、共重合ポリエステル成分が繊維表面の一部を占めるように配される複合繊維とすることにより、50~65℃程度の温水で処理することで融点が160℃以上のポリエステル成分のみの繊維を得ることが提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/095627号
【文献】特開平5-247725号公報
【文献】特開2014-114511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載されている複合繊維は細化を目的とするものであり、吸水性や軽量性等の機能性を与えるものではない。また、上記の常圧カチオン可染成分からなる共重合ポリエステル繊維はホモポリエステル成分のみからなる繊維よりも強度が低いものになり、温水により得られる共重合ポリエステル繊維からなる細化繊維は耐久性に乏しいものとなる。
また、特許文献3に記載されている複合繊維は、短繊維として用い、不織布とした後、温水下で不織布を良好に崩壊させることを主な目的としており、吸水性や軽量性等の機能を与えるものではない。
【0007】
本発明の目的は、熱水処理後、常圧カチオン染色可能で、吸水性及び軽量性のあるポリエステル繊維を得ることができる複合繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、主たる酸成分がテレフタル酸であって、全酸成分中に20~40モル%のイソフタル酸と8~15モル%のスルホイソフタル酸を含み、かつ主たるジオール成分がエチレングリコールであって、全ジオール成分中にジエチレングリコールを13~25モル%含む、70℃以上の熱水に溶解する共重合ポリエステル成分(A)と、100℃以下の常圧環境下でカチオン染色可能な共重合ポリエステル成分(B)とからなる複合繊維であって、繊維横断面において共重合ポリエステル成分(A)が表面から内部に向かって凸状に配され、かつ、共重合ポリエステル成分(B)が一体で存在し、繊維横断面の表面の50~99%に露出してなり、共重合ポリエステル成分(A)と共重合ポリエステル成分(B)の複合体積比率(A)/(B)が10/90~35/65である複合繊維によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合繊維によれば、70℃以上の熱水に可溶な共重合ポリエステル成分(A)(熱水可溶成分)を用いることにより、共重合ポリエステル成分(A)を熱水のみで溶解除去することができ、100℃以下の常圧環境下で染色可能な共重合ポリエステル成分(B)(常圧カチオン可染成分)からなる、吸水性及び軽量性のあるポリエステル繊維を容易に得ることができる。また、本発明は繊維の細化を目的としていないため、得られる繊維は、熱水処理後の強度低下がなく、耐久性に優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の複合繊維の繊維横断面の一例を示す説明図である。
図2】本発明の複合繊維の繊維横断面の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の複合繊維は、共重合ポリエステル成分(A)と共重合ポリエステル成分(B)とからなり、共重合ポリエステル成分(B)が繊維横断面において一体で存在し、かつ、繊維横断面の表面の50~99%に露出してなる。また、共重合ポリエステル成分(A)を70℃以上の熱水に溶解させるために、熱水と接するよう、共重合ポリエステル成分(A)が繊維表面に一部露出してなる。
【0013】
本発明において用いられる共重合ポリエステル成分(A)は、主たる酸成分がテレフタル酸であって、共重合ポリエステル成分(A)の全酸成分中にイソフタル酸を20~40モル%含む必要があり、好ましくは20~35モル%である。イソフタル酸が20モル%未満では熱水への溶解性が乏しいものとなり、一方40モル%を越えると軟化点が低くなり、扱いにくくなる。
【0014】
また、共重合ポリエステル成分(A)は、共重合ポリエステル成分(A)の全酸成分中にスルホイソフタル酸塩を8~15モル%含む必要がある。スルホイソフタル酸塩が8モル%未満では熱水への溶解性が乏しいものとなり、一方、15モル%を超えると冷水への耐水性が低下すると共に溶融粘度が増大して重合度が上がらず、脆くなり好ましくない。
本発明に用いるスルホイソフタル酸塩としては、具体的には、4-スルホイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸、5-〔4-スルホフェノキシ〕イソフタル酸等のアルカリ金属塩又はそのエステル形成性誘導体等が挙げられる。中でも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸塩又はそのエステル形成性誘導体を用いることが特に好ましい。
【0015】
さらに、本発明の共重合ポリエステル成分(A)は、主たるジオール成分がエチレングリコールであって、共重合ポリエステル成分(A)の全ジオール成分中にジエチレングリコールを13~25モル%含むことが必要であり、好ましくは13~20モル%である。通常のポリエステルの重合において、ジエチレングリコールは反応の副生成物であり、低くすることが好ましいとされるが、本発明においては、熱水可溶成分中のジエチレングリコールの量を一定量にコントロールすることにより、熱水への溶解性に優れたものとなる。
【0016】
共重合ポリエステル成分(A)を構成する共重合成分がそれぞれ上記特定の範囲にあるとき、共重合ポリエステル成分(A)は70℃以上の熱水に溶解する性質を示す。すなわち、共重合ポリエステル成分(A)は、冷水に不溶で70℃以上の熱水に可溶である。そのため、複合繊維編織する工程で冷水を使用する場合においては、冷水中に溶解することがなく、交編織した後に70℃以上の熱水で処理することにより熱水中に溶解し、取扱い易い。
【0017】
本発明において用いられる共重合ポリエステル成分(B)は100℃以下の常圧環境下でカチオン染色可能な主たる酸成分がテレフタル酸である共重合ポリエステルである。具体的には、主たる酸成分がテレフタル酸であって、スルホイソフタル酸塩、ポリアルキレングルコール、直鎖型のジカルボン酸、シクロヘキサンジメタノール等を共重合したポリエステルである。
【0018】
共重合ポリエステル成分(B)中のスルホイソフタル酸塩としては、具体的には、4-スルホイソフタル酸、5-スルホイソフタル酸、5-〔4-スルホフェノキシ〕イソフタル酸等のアルカリ金属塩又はそのエステル形成性誘導体等が挙げられ、中でも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸塩又はそのエステル形成性誘導体を用いることが特に好ましい。スルホイソフタル酸塩は共重合ポリエステル成分(B)の全酸成分中に2.0~3.0モル%含まれることが好ましい。スルホイソフタル酸塩が2.0モル%未満であると十分な常圧カチオン染色性を示さず、3.0モル%を超えると増粘し、紡糸操業性が低下する傾向にある。
【0019】
共重合ポリエステル成分(B)中のポリアルキレングルコールの平均分子量は150~400が好ましい。また、ポリアルキレングリコールの中でも汎用性のあるポリエチレングリコールが好ましい。
ポリアルキレングリコールの含有量は共重合ポリエステル成分(B)中2~3質量%が好ましい。ポリアルキレングリコールの含有量が2重量%未満であると常圧カチオン可染性が十分でなく、3重量%を超えるとガラス転移点の低下による融着やポリエステルの耐熱性が低下する等の問題が生じることがある。
【0020】
また、本発明の複合繊維を構成する共重合ポリエステル成分(A)と共重合ポリエステル成分(B)の複合体積比率(A)/(B)は、10/90~35/65であり、好ましくは20/80~30/70である。共重合ポリエステル成分(A)が10%未満であると熱水へ溶解した後に得られる繊維横断面における溝が浅くなり十分な吸水性を発揮できなくなる。また、共重合ポリエステル成分(A)が35%を超えると、紡糸操業性が不良となり、得られる複合繊維は力学的物性の低いものとなる。さらに、熱水処理後の繊維の力学的物性も低いものとなり、編織時に糸切れを起こす可能性が高くなるため工程通過性が低くなり、また得られる布帛が使用により毛羽立ち易くなる虞がある。更に、熱水へ溶解する共重合ポリエステル成分(A)の割合が多くなるため、コストアップに繋がる。
【0021】
本発明の複合繊維は、繊維横断面において、共重合ポリエステル成分(A)が繊維表面から内部に向かって凸状に配されている。凸状の形状は特に限定されず、例えば、図1のように表面から内部に向かって広がりを持ち、内部は楕円状の形状を持つものや、図2のように表面から内部に向かって狭くなる楔形状のもの等が挙げられる。
また、繊維横断面において、共重合ポリエステル成分(B)が一体で存在し、かつ、繊維横断面の表面の50~99%に露出していることが必要であり、共重合ポリエステル成分(A)も繊維表面の一部に露出している。
かかる形状の繊維横断面とすることにより、熱水処理後の繊維横断面において繊維内部に空隙を有することとなり、毛細管現象による吸水性が発現し、且つ、外周を元の複合繊維の断面形状と同等とすることができ、見た目の嵩は同じであっても軽量性を持ったものとなる。
【0022】
共重合ポリエステル成分(A)が繊維横断面の表面に露出する数は繊維形成性の点から1~50が好ましく、1~20がより好ましい。
繊維横断面の表面に共重合ポリエステル成分(A)が1ヶ所露出する場合としては、例えば、図1に示すような繊維横断面である複合繊維が挙げられる。図1に示すように、共重合ポリエステル成分(A)が繊維内部に楕円状に広がりのある形状のものであれば、熱水処理後の繊維断面形状はC型の断面を形成し、繊維横断面の外周は元の複合繊維の丸断面形状と同等であるため、見た目の嵩は同じであっても軽量性を持ったものとなる。
このような繊維断面形状とする場合、共重合ポリエステル成分(A)は、繊維横断面の表面の1~20%に露出するようにすることが好ましい。
1%未満の露出では複合繊維を熱水で処理した際に共重合ポリエステル成分(A)が内部に留まる、または溶出時間が長くなる虞がある。20%を超える露出になると熱水で処理した際に溝の入口部が広がり、毛細管現象が生じ難くなるため、吸水性に乏しいものとなる傾向にある。
【0023】
また、繊維横断面の表面に共重合ポリエステル成分(A)が2ヶ所以上露出する場合としては、例えば、図2のような繊維横断面である複合繊維が挙げられる。図2に示すように、繊維横断面の表面に共重合ポリエステル成分(A)が8ヶ所露出する形状のものであれば、熱水処理後の繊維断面形状は歯車型の断面を形成する。
上記のような複合繊維を熱水処理することにより得られる繊維は、繊維軸方向に連続した溝を有するため、毛細管現象により優れた吸水性を示す。また、得られる繊維は、繊維横断面の外周は元の複合繊維の丸断面形状と同等であるため、見た目の嵩は同じであっても軽量性を持ったものとなる。
【0024】
本発明の複合繊維は、その総繊度は、20~200dtexであることが好ましく、また、その単糸繊度は、0.5~5.0dtexであることが好ましい。かかる範囲であると、繊維断面形成性に優れ、良好な紡糸操業性になる。
【0025】
本発明の複合繊維を構成する成分は、両成分共にテレフタル酸を主体とした共重合ポリエステル成分であり、溶融紡糸温度を通常のポリエチレンテレフタレートと同様の290℃前後に設定することができる。このように、本発明の複合繊維を作製する際、溶融紡糸する温度を高く設定することができるため、汎用性が高く、また得られる複合繊維の物性、品質ともに優れたものとなる。
【0026】
本発明の複合繊維を溶融紡糸する方法については特に制限は無く、公知の複合紡糸方法を使用すればよい。繊維の形態としてはフィラメントやステープルなどいずれの形態でもよく、用途に応じて製造すればよい。
【0027】
本発明の複合繊維を熱水溶解させるのは、通常、布帛とした後が好適である。
本発明の複合繊維から製造される布帛の形態は、編物であれば、編組織は、緯編、経編、またはそれぞれの変化組織でも構わない。織物であれば、織組織は、平織(プレーン)、綾織(ツイル)、朱子織(サテン)等、またはそれぞれの変化組織、さらにはドビーやジャガード等でも構わない。また、レースや不織布、フェルトとして利用することも可能である。
【0028】
また、上記各布帛は、常法により製造すればよく、得られた布帛を、70℃以上の熱水で処理することにより、共重合ポリエステル成分(A)(熱水可溶成分)を溶解し、共重合ポリエステル成分(B)(常圧カチオン可染成分)のみからなる、吸水性及び軽量性のあるポリエステル繊維からなる布帛が得られ、ひいては、吸水性及び軽量性に優れた布帛が得られる。
【実施例
【0029】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の処理方法、測定方法及び評価方法は以下の通りである。
【0030】
A.紡糸操業性
紡糸の工程通過性が良好であれば○、工程通過性が若干悪いものを△、製糸不可であれば×とした。
B.筒編地の作製及び熱水溶解性
複合繊維を2本双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作製した。この筒編地を、イオン交換水、温度75±5℃、浴比1:20の下で10分間処理し、共重合ポリエステル成分(A)を溶解した。熱水処理後の筒編地を脱水、風乾した。熱水処理前後の筒編地の重量を秤量することにより、共重合ポリエステル成分(A)の熱水溶解性を確認した。複合繊維に使用した共重合ポリエステル成分(A)の重量分減少しているものを○、共重合ポリエステル成分(A)の重量分減少していないものを×とした。
C.熱水溶解またはアルカリ減量後の繊維断面形状の確認
日本電子(株)製の走査型電子顕微鏡JSM-5300(以下、SEMと略す)にて観察し、繊維断面形状を確認した。
D.軽量性
JIS L1018に従って厚さ測定器を用い熱水溶解前後の筒編地の厚みを測定した。また、熱水溶解後の筒編地を10cmに切り取り秤量し、かさ密度を算出した。
熱水溶解前後の筒編地の厚みの差が±0.3mmの範囲内であり、かつかさ密度が0.30g/cm以下のものを軽量性○、それ以外のものを×とした。
E.カチオン染色性
熱水溶解又はアルカリ減量した筒編地を、Kayacryl Blue GSL-ED(日本化薬株式会社製)3.0%owf、酢酸0.2g/l、浴比1:20にて常圧沸騰温度(98℃)で60分間、ミニカラー染色試験機にて染色した。染色後の筒編地について目視にて評価し、鮮明に染色されているものを○、くすんでいるまたは染色が不十分であるものを×とした。
F.耐久性
耐久性はJIS L1013に準じて繊維の強度および伸度を測定することにより判断した。島津製作所製オートグラフAGSを用いた引張試験を行い、測定長:200mm、引張り速度:200mm/分の条件下にて、繊維が破断したときの破断強度、および破断伸度をそれぞれ5回測定し、その平均値を求めた。熱水溶解後の繊維の強度が2.8cN/dtex以上、かつ伸度が35%以上のものを○、強度が2.8cN/dtex未満、かつ伸度が35%未満のものを×とした。
G.吸水性
JIS L1907(2010年、バイレック法)に準じて評価した。吸水高さが40mm以上のものを○、40mm未満のものを×とした。
【0031】
〔実施例1〕
酸成分が5-ナトリウムスルホイソフタル酸(SIP)10モル%、イソフタル酸(IPA)30モル%、それ以外の成分がテレフタル酸(TPA)であり、ジオール成分がジエチレングリコール(DEG)15モル%、それ以外の成分がエチレングリコール(EG)である共重合ポリエステル成分(A)のチップを270℃で溶融し、酸成分がSIP2.5モル%、それ以外の成分がTPAであり、ジオール成分が分子量200のポリエチレングリコール(PEG)3.0重量%含み、それ以外の成分がEGであるポリエステル成分(B)のチップを290℃で溶融し、(A)/(B)の体積比=30/70で複合紡糸口金より押し出し、冷却後油剤を付与し、第1ゴデッドローラー(GR1)の周速800m/分(85℃)で引取り、次いで第2ゴデッドローラー(GR2)の周速度3100m/分(150℃)に導きGR1とGR2の間で延伸する通常のSPD法にて84デシテックス/24フィラメントの図1記載の複合繊維を得た。紡糸操業性は良好であった。
得られた複合繊維を用い、筒編み試料を作製後、熱水溶解性を確認したところ、良好であった。また、熱水溶解前の筒編地の厚さは0.29mm、熱水溶解後の筒編地の厚さ0.28mmとなり、かつかさ密度が0.24g/cmであったため、軽量性ありと判断した。また、筒編地のカチオン染色性も良好であった。染色後の筒編地から抜き糸をし、強度および伸度を測定したところ、強度が3.1cN/dtex、伸度が40%となり、耐久性ありと判断した。
また、得られた複合繊維を緯糸に、経糸に50デシテックス、24フィラメントのセミダルのレギュラーポリエステルを用いた平織のタフタを作製し、熱水処理して得られた布帛の緯糸方向の吸水性を評価したところ、良好であった。
結果を表1及び表2に示す。
【0032】
〔実施例2~7〕
共重合ポリエステル成分(A)のIPA、SIP、DEGの含有量、共重合ポリエステル成分(B)のSIP、PEGの含有量および複合繊維の複合比率を表1に記載した通りに変更する以外は実施例1と同様に複合繊維を作製し、筒編試料を作製後、熱水溶解性、軽量性、カチオン染色性および耐久性を評価した。また、平織のタフタを作製後、吸水性を評価した。
結果を表1及び表2に併せて示す。
【0033】
〔比較例1~3〕
共重合ポリエステル成分(A)のIPA、SIP、DEGの含有量を表1に記載した通りに変更する以外は実施例1と同様に複合繊維を作製し、筒編試料を作製後、熱水溶解性、軽量性、カチオン染色性及び耐久性を評価した。また、平織のタフタを作製後、吸水性を評価した。
結果を表1及び表2に併せて示す。
比較例1はIPAの含有量が少なかったため、熱水溶解性が不十分であり、軽量性も不十分であった。
比較例2はSIPの含有量が少なかったため、熱水溶解性が不十分であり、軽量性も不十分であった。
比較例3はDEGの含有量が少なかったため、熱水溶解性が不十分であり、軽量性も不十分であった。
【0034】
〔比較例4〕
共重合ポリエステル成分(A)のSIPの量を16モル%、DEGの量を20モル%とした以外は実施例1と同様複合繊維の紡糸をしたところ、糸切れが発生し、紡糸時に巻付けができないものであった。
【0035】
〔比較例5〕
共重合ポリエステル成分(A)のSIPの量を8モル%、DEGの量を28モル%とした以外は実施例1と同様複合繊維の紡糸をしたところ、糸切れが発生し、紡糸時に巻付けができないものであった。
〔比較例6〕
複合繊維の複合比率を(A)/(B)の体積比=5/95と変更した以外は実施例1と同様複合繊維の紡糸をしたところ、紡糸操業性、熱水溶解性、カチオン染色性及び耐久性は良好であったが、軽量性、吸水性に乏しいものであった。
〔比較例7〕
複合繊維の複合比率を(A)/(B)の体積比=40/60と変更した以外は実施例1と同様複合繊維の紡糸をしたところ、紡糸時に糸切れがあった。また、熱水溶解性、カチオン染色性、軽量性及び吸水性は良好であったが、耐久性に乏しいものであった。
【0036】
〔比較例8〕
共重合ポリエステル成分(A)の代わりとして、SIPを2.0モル%、分子量6000のPEGを10.0重量%含み、それ以外の成分がTPAからなるアルカリ水溶液に可溶なチップを290℃で溶融した以外は実施例1と同様の条件で複合繊維を得た。紡糸操業性は良好であった。
得られた複合繊維の筒編み試料を作製後、90±5℃の2wt%NaOH水溶液中で15分処理し、アルカリ水溶液に可溶な成分を溶解した。アルカリ水溶液処理後の筒編の重量を秤量したところ、用いた常圧環境下で染色可能なポリエステル成分(B)よりも重量が減少していた。カチオン染色性は良好であったが、染色後の筒編から抜き糸をし、繊維断面および側面を観察したところ、実施例1では確認されなかった割れが確認された。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
〔実施例8〕
実施例1と同様の樹脂チップ、複合比率、溶融温度および巻取り条件にて110デシテックス/50フィラメントの図2記載の複合繊維を得た。得られた複合繊維を用い、筒編み試料を作製後、熱水溶解性を確認したところ、全て良好であり、得られた繊維の断面形状は歯車型であった。また、筒編地は軽量性のあるものであり、カチオン染色性及び耐久性は良好であった。また、平織のタフタの吸水性も良好であった。
結果を表3及び表4に示す。
【0040】
〔実施例9~12〕
共重合ポリエステル成分(A)のIPA、SIP、DEGの含有量、共重合ポリエステル成分(B)のSIPの含有量、複合繊維の複合比率を表3に記載した通りに変更する以外は実施例9と同様に複合繊維を作製し、筒編試料を作製後、熱水溶解性、軽量性、カチオン染色性及び耐久性を評価した。また、平織のタフタを作製後、吸水性を評価した。
結果を表3及び表4に併せて示す。
【0041】
〔比較例9~11〕
共重合ポリエステル成分(A)のIPA、SIP、DEGの含有量を表3に記載した通りに変更する以外は実施例8と同様に複合繊維を作製し、筒編試料を作製後、熱水溶解性、軽量性、カチオン染色性及び耐久性を評価した。また、平織のタフタを作製後、吸水性を評価した。
結果を表3及び表4に併せて示す。
比較例9はIPAの含有量が少なかったため、熱水溶解性が不十分であり、軽量性も不十分であった。
比較例10はSIPの含有量が少なかったため、熱水溶解性が不十分であり、軽量性も不十分であった。
比較例11はDEGの含有量が少なかったため、熱水溶解性が不十分であり、軽量性も不十分であった。
【0042】
〔比較例12〕
実施例1に用いた共重合ポリエステル成分(A)を海部に、ポリエステル成分(B)を島部になるような島数が36島の口金を用い、(A)/(B)=30/70、110デシテックス/50フィラメントの複合繊維を得た。得られた複合繊維を用い、筒編み試料を作製後、熱水溶解性を確認したところ、良好であった。しかしながら、熱水溶解前の筒編地の厚さは0.36mm、熱水溶解後の筒編地の厚さ0.25mmとなり、かつかさ密度が0.33g/cmであったため、軽量性なしと判断した。また、筒編地のカチオン染色性は良好であったが、抜き糸の強度が2.6[cN/dtex]と低く、筒編地は毛羽が目立つものであり、耐久性なしと判断した。
また、得られた複合繊維を緯糸に、経糸に50デシテックス、24フィラメントのセミダルのレギュラーポリエステルを用いた平織のタフタを作製し、緯糸方向の吸水性を評価したところ、十分な吸水性を示さないものであった。
【0043】
【表3】
【0044】
【表4】
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の複合繊維は、吸水性及び軽量性が求められる衣料用途に好適に使用される。
【符号の説明】
【0046】
(A):共重合ポリエステル成分(A)
(B):共重合ポリエステル成分(B)
図1
図2