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特許7049864転舵機能付きハブユニット、転舵システム、および転舵機能付きハブユニットを備えた車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】転舵機能付きハブユニット、転舵システム、および転舵機能付きハブユニットを備えた車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 7/18 20060101AFI20220331BHJP
   B62D 7/14 20060101ALI20220331BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20220331BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20220331BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20220331BHJP
【FI】
B62D7/18 Z ZYW
B62D7/14 Z
B62D6/00
B62D113:00
B62D101:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018038208
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019151230
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(72)【発明者】
【氏名】大畑 佑介
(72)【発明者】
【氏名】大場 浩量
(72)【発明者】
【氏名】宇都宮 聡
(72)【発明者】
【氏名】石原 教雄
【審査官】村山 禎恒
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0217491(US,A1)
【文献】国際公開第2013/129090(WO,A1)
【文献】特開平10-311738(JP,A)
【文献】特開2017-001423(JP,A)
【文献】特開2000-190865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 7/00-7/22
B62D 6/00
B62D 101/00
B62D 113/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる転動用アクチュエータと、を備え、前記ハブユニット本体は、前記ハブベアリングの外周から上下に突出して設けられたトラニオン状の取付軸部を有し、且つ上下の取付軸部の外周に設けられた軸受を介して前記ユニット支持部材に支持され、
記ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転角度を検出する転舵角度検出手段を備えた転舵機能付きハブユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の転舵機能付きハブユニットにおいて、前記転舵角度検出手段は、転舵角度を直接検出する角度センサであり、この角度センサが転舵軸上に設けられている転舵機能付きハブユニット。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の転舵機能付きハブユニットと、この転舵機能付きハブユニットの前記転動用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた転舵システムであって、前記制御装置は、与えられた転舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する制御部と、この制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記転動用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する転舵システム。
【請求項4】
請求項3に記載の転舵システムにおいて、前記転舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転出力を往復直線動作に変換する直動機構とを備え、前記転舵角度検出手段は、転舵角度を直接検出する角度センサと、前記モータの回転角度から定められた条件に従って転舵角度を間接的に検出する回転センサと、前記直動機構における直動出力部の位置から定められた条件に従って転舵角度を間接的に検出する位置センサと、を備え、
前記制御部は、前記角度センサ、前記回転センサおよび前記位置センサのうち少なくともいずれか二つのセンサの出力信号を互いに比較し定められた判定基準に従って前記転舵角度検出手段の異常を判定する転舵システム。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の転舵機能付きハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持された車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ステアリング装置による転舵に付加する転舵、または後輪転舵等の補助的な転舵を行う機能を備えた転舵機能付きハブユニット、転舵システム、および転舵機能付きハブユニットを備えた車両に関し、燃費の改善、車両の走行性の安定と安全性の向上の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な自動車等の車両は、ハンドルとステアリング装置が機械的に接続され、また、ステアリング装置の両端はタイロッドによってそれぞれの左右輪につながっている。そのため、ハンドルの動きによる左右輪の切れ角度は初期の設定によって決まる。
車両のジオメトリには、(1) 左右輪の切れ角度が同じである「パラレルジオメトリ」、(2) 旋回中心を1か所にするために旋回内輪車輪角度を旋回外輪車輪角度よりも大きく切る「アッカーマンジオメトリ」が知られている。
【0003】
車両のジオメトリは、走行性の安定と安全性に影響する。
走行状況に応じてステアリングジオメトリを可変とした機構に関しては、例えば特許文献1,2が提案されている。特許文献1では、ナックルアームとジョイント位置を相対的に変化させて、ステアリングジオメトリを変化させる。特許文献2では、モータ2個を使い、トー角とキャンバー角の両方を任意の角度に傾けることを可能にしている。また、4輪独立転舵の機構につき、特許文献3で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-226972号公報
【文献】独国特許出願公開第102012206337号明細書
【文献】特開2014-061744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アッカーマンジオメトリは、車両に作用する遠心力を無視できるような低速域での旋回において、車輪にスムースに旋回させるために、各輪が共通の一点を中心として旋回するように左右輪の舵角差を設定している。しかし、遠心力を無視できない高速域の旋回においては、車輪は遠心力とつり合う方向にコーナリングフォースを発生させることが望ましいため、アッカーマンジオメトリよりもパラレルジオメトリとすることが好ましい。
【0006】
前述したように一般的な車両の操舵装置は機械的に車輪と接続されているため、一般的には固定された単一のステアリングジオメトリしか取ることができず、アッカーマンジオメトリとパラレルジオメトリとの中間的なジオメトリに設定されることが多い。しかし、この場合、低速域では左右輪の舵角差が不足して外輪の舵角が過大となり、高速域では内輪の舵角が過大となる。このように内外輪の車輪横力配分に不要な偏りがあると、走行抵抗の悪化による燃費悪化及び車輪の早期摩耗の原因となり、また内外輪を効率的に利用できないことによって、コーナリングのスムースさが損なわれるといった課題がある。
【0007】
特許文献1,2の提案によると、ステアリングジオメトリを変更させることができるが次の課題がある。
特許文献1では、前述のようにナックルアームとジョイント位置を相対的に変化させてステアリングジオメトリを変化させているが、このような部分で車両のジオメトリを変化させるほどの大きな力を得るモータアクチュエータを備えることは、空間の制約上、非常に困難である。また、この位置での変化による車輪角の変化が小さく、大きな効果を得るためには、大きく変化させる、つまり大きく動かす必要がある。
【0008】
特許文献2では、モータを2個使っているため、モータ個数の増大によるコスト増が生じるうえ、制御が複雑になる。
特許文献3は、4輪独立転舵の車両にしか適用出来ず、また転舵軸に対しハブベアリングを片持ち支持しているため、剛性が低下し、過大な走行Gの発生によってステアリングジオメトリが変化してしまう可能性がある。
また、転舵軸上に減速機を設けた場合、大きな動力が必要となる。このため、モータを大きくするが、モータを大きくすると車輪の内周部に全体を配置することが困難となる。
また、減速比の大きい減速機を設けた場合、応答性が悪化する。
【0009】
上記のように従来の補助的な転舵機能を備えた機構は、車両において車輪のトー角度またはキャンバー角度を任意に変更することを目的としているため、複雑な構成となっている。また、剛性を確保することが困難となり、剛性を確保するためには大型化する必要があり重量増となる。
【0010】
車両において、車輪のトー角度またはキャンバー角度を任意に変更するためには、複雑な構成が必要であり、構成部品が多くなる。
車両の操縦・安定性を向上させるためには、左右の車輪の転舵角度を正確に転舵させる必要がある。転舵用のアクチュエータ内にセンサを設けても、アクチュエータの剛性を含むため個体差があり、微小な角度(約±5deg)の範囲内で正確な転舵角度を採ることが難しい。前記剛性としては、例えば、歯車等のバックラッシ、直動機構のバックラッシ、アクチュエータのケース剛性等が挙げられる。
また、1つのセンサのみで転舵角度を制御している場合、そのセンサが異常となった場合に、車両の走行性等に支障をきたすおそれがある。
【0011】
この発明の目的は、車両の操縦・安定性を向上させることができる転舵機能付きハブユニット、転舵システム、および転舵機能付きハブユニットを備えた車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明の転舵機能付きハブユニットは、車輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる転動用アクチュエータと、を備え、
前記ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転角度を検出する転舵角度検出手段を備えた。
【0013】
この構成によると、車輪を支持するハブベアリングを含むハブユニット本体を、転舵用アクチュエータの駆動により、前記転舵軸心回りに自由に回転させることができる。このため、車輪毎に独立して転舵が行え、また車両の走行状況に応じて、車輪のトー角を任意に変更することができる。
そのため、前輪等の転舵輪および後輪等の非転舵輪のいずれに用いてもよい。転舵輪に用いる場合は、ステアリング装置により方向が変化させられる部材に設置されることにより、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、左右の車輪個別の、または左右輪連動した車輪の微小な転舵角度変化を行わせる機構となる。
【0014】
また、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとするなど、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪の転舵角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。さらに、左右の操舵輪の転舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。さらに直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角度の量を調整することで、燃費を悪化させることなく、走行安定性を確保するなど調整が可能である。
【0015】
このように車輪の転舵角度を変化させることで、車両の挙動を制御するためには、正確に車輪の転舵角度を制御する必要がある。
この構成によると、特に、ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転角度を検出する転舵角度検出手段を備えたため、例えば、転舵用アクチュエータ内に設けた転舵角度を検出するセンサに異常が発生した場合でも、前記転舵角度検出手段を用いて車輪の角度を所望の角度に正確に制御することが可能となる。また転舵用アクチュエータの剛性に起因する個体差があっても、例えば、複数の転舵角度検出手段の出力信号の関係を予め試験等により設定しておくことで、微小な転舵角度の範囲内で正確な転舵角度を採ることが可能となる。したがって、車両の操縦・安定性を向上させることができる。
【0016】
前記転舵角度検出手段は、転舵角度を直接検出する角度センサであり、この角度センサが転舵軸上に設けられていてもよい。このように角度センサが転舵軸上に設けられている場合、ハブベアリングの微小な角度変化を正確に出力することができる。これにより車輪の角度を所望の角度により正確に制御することが可能となる。
【0017】
この発明の転舵システムは、この発明の上記いずれかの構成の転舵機能付きハブユニットと、この転舵機能付きハブユニットの前記転動用アクチュエータを制御する制御装置とを備えた転舵システムであって、前記制御装置は、与えられた転舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する制御部と、この制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して前記転動用アクチュエータを駆動制御するアクチュエータ駆動制御部とを有する。
【0018】
この構成によると、制御部は、与えられた転舵角指令信号に応じた電流指令信号を出力する。アクチュエータ駆動制御部は、制御部から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して転動用アクチュエータを駆動制御する。したがって、運転者のハンドル操作による転舵に付加して車輪の転舵角度を任意に変更することができる。
【0019】
前記転舵用アクチュエータは、モータと、このモータの回転出力を往復直線動作に変換する直動機構とを備え、前記転舵角度検出手段は、転舵角度を直接検出する角度センサと、前記モータの回転角度から定められた条件に従って転舵角度を間接的に検出する回転センサと、前記直動機構における直動出力部の位置から定められた条件に従って転舵角度を間接的に検出する位置センサと、を備え、
前記制御部は、前記角度センサ、前記回転センサおよび前記位置センサのうち少なくともいずれか二つのセンサの出力信号を互いに比較し定められた判定基準に従って前記転舵角度検出手段の異常を判定してもよい。
前記各定められた条件、前記定められた判定基準は、それぞれ設計等によって任意に定める条件、判定基準であって、例えば、試験およびシミュレーションのいずれか一方または両方等により適切な条件、判定基準を求めて定められる。
【0020】
この構成によると、制御部は、複数のセンサの出力信号を車輪の転舵角度に変換して、全て一致している場合、前記転舵角度検出手段が正常状態と判定し制御を維持することができる。制御部は、前記車輪の転舵角度が不一致の場合、いずれかの転舵角度検出手段が異常状態と判定し得る。
【0021】
この発明の車両は、この発明の上記いずれかの構成の転舵機能付きハブユニットを用いて前輪および後輪のいずれか一方または両方が支持される。
そのため、この発明の転舵機能付ハブユニットにつき前述した各効果が得られる。前輪は一般的に転舵輪とされるが、転舵輪にこの発明の転舵機能付ハブユニットを適用した場合は、走行中におけるトー角調整に効果的である。また、後輪は一般的に非転舵輪とされるが、非転舵輪に適用した場合は、非転舵輪の若干の転舵によって低速走行時における最小回転半径の低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0022】
この発明の転舵機能付きハブユニットは、車輪を支持するハブベアリングを有するハブユニット本体と、懸架装置の足回りフレーム部品に設けられ、前記ハブユニット本体を上下方向に延びる転舵軸心回りに回転自在に支持するユニット支持部材と、前記ハブユニット本体を前記転舵軸心回りに回転駆動させる転動用アクチュエータと、を備え、前記ハブユニット本体の前記転舵軸心回りの回転角度を検出する転舵角度検出手段を備えた。このため、車両の操縦・安定性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】この発明の第1の実施形態に係る転舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す縦断面図である。
図2】同転舵機能付ハブユニットおよびその周辺の構成を示す水平断面図である。
図3】同転舵機能付ハブユニットの外観を示す斜視図である。
図4】同転舵機能付ハブユニットの側面図である。
図5】(A)は、同転舵機能付ハブユニットの平面図、(B)は、図5(A)の一部の部分拡大図である。
図6図4のVI - VI線断面図である。
図7】同転舵機能付ハブユニットの直動機構の水平断面図である。
図8】同転舵機能付ハブユニットの転舵用アクチュエータを制御する制御装置のブロック図である。
図9】実施形態の転舵機能付ハブユニットが適用される車両の一例の模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<第1の実施形態>
この発明の第1の実施形態に係る転舵機能付ハブユニットを図1ないし図8と共に説明する。
<転舵機能付ハブユニットの概略構造>
図1に示すように、この転舵機能付ハブユニット1は、ハブユニット本体2と、ユニット支持部材3と、回転許容支持部品4と、転舵用アクチュエータ5と、後述する複数の転舵角度検出手段とを備える。足回りフレーム部品であるナックル6に一体にユニット支持部材3が設けられている。このユニット支持部材3のインボード側に、転舵用アクチュエータ5のアクチュエータ本体7が設けられ、ユニット支持部材3のアウトボード側に、ハブユニット本体2が設けられる。転舵機能付ハブユニット1を車両に搭載した状態で、車両の車幅方向外側をアウトボード側といい、車両の車幅方向中央側をインボード側という。
【0025】
図2および図3に示すように、ハブユニット本体2とアクチュエータ本体7とはジョイント部8により連結されている。通常、このジョイント部8は、防水、防塵のために図示外のブーツが取り付けられている。
【0026】
図1に示すように、ハブユニット本体2は、上下方向に延びる転舵軸心A回りに回転自在なように、上下二箇所で回転許容支持部品4,4を介してユニット支持部材3に支持されている。転舵軸心Aは、車輪9の回転軸心Oとは異なる軸心であり、主な転舵を行うキングピン軸とも異なっている。通常の車両は、車両走行の直進安定性の向上を目的としてキングピン角度が10~20度で設定されているが、この実施形態の補助転舵機能付ハブユニット1は、前記キングピン角度とは別の角度(軸)の転舵軸を有する。車輪9は、ホイール9aとタイヤ9bとを備える。
【0027】
<転舵機能付ハブユニット1の設置箇所>
この転舵機能付ハブユニット1は、この実施形態では転舵輪、具体的には図9に示すように、車両10の前輪9のステアリング装置11による転舵に付加して左右輪個別に微小な角度(約±5deg)を転舵させる機構として、懸架装置12の足回りフレーム部品であるナックル6に一体に設けられる。
【0028】
図2に示すように、ステアリング装置11は、ハンドル(図示せず)の操作に応じて車輪9を転舵させる装置である。同図2は、足回りの様子を上方から見た図である。この転舵機能付ハブユニット1のステアリング結合部6d(後述する)には、通常の車両用のステアリング装置11がタイロッド14を介して連結されており、運転者のハンドル操作によって車輪9を操舵することを可能としている。この転舵機能付ハブユニット1は、この他に、前輪転舵に対する補助として後輪9図9)の転舵を行う機構として用いてもよい。懸架装置12(図9)としては、ストラット式サスペンション機構、マルチリンク式サスペンション機構、その他のサスペンション機構のいずれかが適用される。
【0029】
<ハブユニット本体2について>
図1に示すように、ハブユニット本体2は、車輪9の支持用のハブベアリング15と、アウターリング16と、後述の補助転舵力受け部17(図3)とを備える。
図6に示すように、ハブベアリング15は、内輪18と、外輪19と、これら内外輪18,19間に介在したボール等の転動体20とを有し、車体側の部材と車輪9(図1)とを繋ぐ役目をしている。
【0030】
このハブベアリング15は、図示の例では、外輪19が固定輪、内輪18が回転輪となり、転動体20が複列とされたアンギュラ玉軸受とされている。内輪18は、ハブフランジ18aaを有しアウトボード側の軌道面を構成するハブ輪部18aと、インボード側の軌道面を構成する内輪部18bとを有する。図1に示すように、ハブフランジ18aaに、車輪9のホイール9aがブレーキロータ21aと重なり状態でボルト固定されている。内輪18は、回転軸心O回りに回転する。
【0031】
図6に示すように、アウターリング16は、外輪19の外周面に嵌合された円環部16aと、この円環部16aの外周から上下に突出して設けられたトラニオン軸状の取付軸部16b,16bとを有する。各取付軸部16bは、転舵軸心Aに同軸に設けられる。
図2に示すように、ブレーキ21は、ブレーキロータ21aと、ブレーキキャリパ21bとを有する。ブレーキキャリパ21bは、外輪19に一体にアーム状に突出して形成された上下二箇所のブレーキキャリパ取付部22(図4)に取付けられる。
【0032】
<回転許容支持部品およびユニット支持部材について>
図6に示すように、各回転許容支持部品4は転がり軸受から成る。この例では、転がり軸受として、テーパころ軸受が適用されている。転がり軸受は、取付軸部16bの外周に嵌合された内輪4aと、ユニット支持部材3に後述するように嵌合された外輪4bと、内外輪4a,4b間に介在する複数の転動体4cとを有する。
【0033】
ユニット支持部材3は、ユニット支持部材本体3Aと、ユニット支持部材結合体3Bとを有する。ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端に、略リング形状のユニット支持部材結合体3Bが着脱自在に固定されている。ユニット支持部材結合体3Bのインボード側側面のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部3aがそれぞれ形成されている。
【0034】
図5(A)および図6に示すように、ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端のうち上下の部分には、部分的な凹球面状の嵌合孔形成部3Aaがそれぞれ形成されている。図3に示すように、ユニット支持部材本体3Aのアウトボード側端にユニット支持部材結合体3Bが固定され、各上下の部分につき、嵌合孔形成部3a,3Aa(図5(A))が互いに組み合わされることにより、全周に連なる嵌合孔が形成される。なお図3において、ユニット支持部材3を一点鎖線で表す。図6に示すように、この嵌合孔に外輪4bが嵌合されている。
【0035】
各取付軸部16bには、雌ねじ部が径方向に延びるように形成され、この雌ねじ部に螺合するボルト23が設けられている。内輪4aの端面に円板状の押圧部材24を介在させ、前記雌ねじ部に螺合するボルト23により、内輪4aの端面に押圧力を付与することで、各回転許容支持部品4にそれぞれ予圧を与えている。これにより各回転許容支持部品4の剛性を高め得る。なお、回転許容支持部品4の転がり軸受は、テーパころ軸受に代えてアンギュラ玉軸受または四点接触玉軸受を用いてもよい。その場合も、上記と同様に予圧を与えることができる。
【0036】
図2に示すように、補助転舵力受け部17は、ハブベアリング15の外輪19に補助転舵力を与える作用点となる部位であり、外輪19の外周の一部に一体に突出したアーム部として設けられている。この補助転舵力受け部17は、ジョイント部8を介して、転舵用アクチュエータ5の直動出力部25aに回転自在に連結されている。これにより、転舵用アクチュエータ5の直動出力部25aが進退することで、ハブユニット本体2が転舵軸心A(図1)回りに回転、つまり補助転舵させられる。
【0037】
<転舵用アクチュエータ5>
図3に示すように、転舵用アクチュエータ5は、ハブユニット本体2を転舵軸心A(図1)回りに回転駆動させるアクチュエータ本体7を有する。
図2に示すように、アクチュエータ本体7は、モータ26と、モータ26の回転を減速する減速機27と、この減速機27の正逆の回転出力を直動出力部25aの往復直線動作に変換する直動機構25とを備える。モータ26は、例えば永久磁石型同期モータとされるが、直流モータであっても、誘導モータであってもよい。
【0038】
減速機27は、ベルト伝達機構等の巻き掛け式伝達機構またはギヤ列等を用いることができ、図2の例ではベルト伝達機構が用いられている。減速機27は、ドライブプーリ27aと、ドリブンプーリ27bと、ベルト27cとを有する。モータ26のモータ軸にドライブプーリ27aが結合され、直動機構25にドリブンプーリ27bが設けられている。このドリブンプーリ27bは、前記モータ軸に平行に配置されている。モータ26の駆動力は、ドライブプーリ27aからベルト27cを介してドリブンプーリ27bに伝達される。前記ドライブプーリ27aとドリブンプーリ27bとベルト27cとで、巻き掛け式の減速機27が構成される。
【0039】
直動機構25は、滑りねじまたはボールねじ等の送りねじ機構、またはラック・ピニオン機構等を用いることができ、この例では台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構が用いられている。直動機構25は、前記台形ねじの滑りねじを用いた送りねじ機構を備えるため、タイヤ9bからの逆入力の防止効果を高め得る。モータ26、減速機27および直動機構25を備えたアクチュエータ本体7は、準組立品として組み立てられてケース6bにボルト等により着脱自在に取り付けられる。なおモータ26の駆動力を、減速機を介さず直接直動機構25へ伝達する機構も可能である。
【0040】
ケース6bは、ユニット支持部材3の一部として、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ケース6bは、有底筒状に形成され、モータ26を支持するモータ収容部と、直動機構25を支持する直動機構収容部が設けられている。前記モータ収容部には、モータ26をケース内所定位置に支持する嵌合孔が形成されている。前記直動機構収容部には、直動機構25をケース内所定位置に支持する嵌合孔、および、直動出力部25aの進退を許す貫通孔等が形成されている。
【0041】
図3に示すように、ユニット支持部材本体3Aは、前記ケース6b、ショックアブソーバの取り付け部となるショックアブソーバ取り付け部6c、およびステアリング装置11(図2)の結合部となるステアリング装置結合部6dを有する。これらショックアブソーバ取り付け部6cおよびステアリング装置結合部6dも、ユニット支持部材本体3Aに一体に形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における上部に、ショックアブソーバ取り付け部6cが突出するように形成されている。ユニット支持部材本体3Aの外表面部における側面部には、ステアリング装置結合部6dが突出するように形成されている。
【0042】
<転舵角度検出手段について>
図5図7に示すように、複数(この例では3つ)の転舵角度検出手段Sは、ハブユニット本体2の転舵軸心A回りの回転角度を検出する。図5(A),(B)に示すように、複数の転舵角度検出手段Sにおける一つは、転舵角度を直接検出する角度センサSaであり、転舵軸上に設けられている。この角度センサSaは、回転側の押圧部材24の上面に設けられたエンコーダSaaと、固定側のユニット支持部材3に設けられエンコーダSaaに対し隙間を空けて対峙する磁気センサ部Sabとを有する。
【0043】
図5(B)に示すように、この例のエンコーダSaaは、円周方向に沿ってN極とS極が交互に着磁された磁気トラックを有する磁気エンコーダである。なお押圧部材24自体にエンコーダSaaを形成してもよい。その他エンコーダSaaは、図示しないが円周方向に凹部と凸部が交互に並ぶ歯車形状とされた磁性体の金属材料から成るパルサーリングであってもよい。磁気センサ部Sabの出力信号は、後述する目標左右輪タイヤ角度計算部159(図8)に与えられる。目標左右輪タイヤ角度計算部159(図8)では、例えば、前記出力信号をパルス化しこのパルス数に基づいて転舵角度を演算する。
【0044】
図6および図7に示すように、複数の転舵角度検出手段Sは、転舵角度を間接的に検出する回転センサSbおよび位置センサScを有する。図6に示すように、回転センサSbは、モータ26のステータ,ロータ間の相対的な回転角度を表す信号を検出して出力する。この回転センサSbは、ロータの回転出力軸26aの外周面に設けられる被検出部Sbaと、ケース6b内のモータ収容部に設けられ被検出部Sbaに対し例えば径方向に対向して近接配置される検出部Sbbとを有する。回転センサSbの出力信号は、目標左右輪タイヤ角度計算部159(図8)に与えられる。このような回転センサSbとして例えばレゾルバ等が適用される。なお回転センサSbは、転舵角度を検出すると共にモータ26の回転制御に用いられる。
【0045】
図7に示すように、位置センサScは、直動機構25における直動出力部25aの位置から定められた条件に従って転舵角度を間接的に検出する。この位置センサScは、例えば、磁気式のセンサが適用される。位置センサScは、磁気ターゲットと、磁気センサ部Scaとを有する。前記磁気ターゲットは、直動する直動出力部25aに設けられた永久磁石からなる。ケース6b内の前記直動機構収容部に前記磁気センサ部Scaが設けられる。この磁気センサ部Scaは、所定位置の前記磁気ターゲットに対し半径方向に対向するように配置される。前記磁気センサ部Scaとして、例えば、ホールIC等が適用される。磁気センサ部Scaは、前記磁気ターゲットの磁力を読み取り、直動出力部25aの軸方向位置を検出する。この磁気センサ部Scaの出力信号は、目標左右輪タイヤ角度計算部159(図8)に与えられる。
【0046】
<転舵システムについて>
図3に示すように、この転舵システムは、この転舵機能付ハブユニット1と、この転舵機能付ハブユニット1の転舵用アクチュエータ5を制御する制御装置29とを備える。制御装置29は、制御部30と、アクチュエータ駆動制御部31とを有する。制御部30は、
角度センサSa、回転センサSb(図8)および位置センサSc(図8)のうち少なくともいずれか一つの出力、および上位制御部32から与えられた補助転舵角指令信号(転舵角指令信号)に応じた電流指令信号を出力する。
【0047】
前記上位制御部32は制御部30の上位の制御手段であり、この上位制御部32として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニット(Vehicle Control Unit,略称VCU)が適用される。アクチュエータ駆動制御部31は、制御部30から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して転舵用アクチュエータ5を駆動制御する。アクチュエータ駆動制御部31は、例えば、図示外のスイッチング素子を用いたハーフブリッジ回路を構成し、前記スイッチング素子のON-OFFデューティ比によりモータ印加電圧を決定するPWM制御を行う。これにより、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、車輪を微小に角度変化することができる。直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角度の量を調整し得る。
【0048】
<制御部30の詳細構成について>
図8に示すように、制御部30は、規範横加速度計算部152、右輪タイヤ角度計算部153、左輪タイヤ角度計算部154、右輪路面摩擦係数計算部155、目標ヨーレート計算部156、左輪路面摩擦係数計算部157、目標ヨーレート補正部158、目標左右輪タイヤ角度計算部159、右輪指令値計算部160、および左輪指令値計算部161を備える。
【0049】
右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154は、所定の周期で、上位制御部32から操舵角情報および車高情報を取得する。右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154は、取得した操舵角情報および車高情報に基づいて、この転舵システムが転舵を行うタイヤ(車輪)の現在の角度を算出する。右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154は、算出したタイヤ角度情報を規範横加速計算部152に出力する。
【0050】
規範横加速度計算部152は、上位制御部32から取得した車速情報、ならびに前記タイヤ角度情報に基づいて、規範横加速度の計算を行う。すなわち、規範横加速度計算部152は、右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154からタイヤ角度情報で表されるタイヤ角度、車速情報で表される車速に基づいて、規範横加速度の計算を行う。規範横加速度計算部152は、算出した規範横加速度を規範横加速度情報として右輪路面摩擦係数算出部155および左輪路面摩擦係数計算部157に出力する。
【0051】
右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157は、上位制御部32から取得する実横加速度情報および規範横加速度計算部152から入力される規範横加速度情報に基づいて、路面摩擦係数の計算を行う。具体的には、右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157は、規範横加速度計算部152から規範横加速度情報と、右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154からタイヤ角度情報を取得し、予め定められたマップに基づいて、実横加速度/規範横加速度とタイヤ角度とから、路面摩擦係数を算出する。前記マップには、実横加速度/規範横加速度と、タイヤ角度と、摩擦係数との関係が定められている。このマップは例えば試験またはシミュレーション等により定められる。
【0052】
右輪路面摩擦係数計算部155および左輪路面摩擦係数計算部157は、算出した右輪の路面摩擦係数である右輪路面摩擦係数情報と、左輪の路面摩擦係数である左輪路面摩擦係数情報を目標ヨーレート補正部158に出力する。
目標ヨーレート計算部156は、上位制御部32から取得する車速情報および操舵角情報に基づいて、目標ヨーレートを計算し、この算出した目標ヨーレートを目標ヨーレート情報として目標ヨーレート補正部158に出力する。
【0053】
目標ヨーレート補正部158は、前記右輪路面摩擦係数情報および前記左輪路面摩擦係数情報と、前記目標ヨーレート情報を取得し、前記右輪路面摩擦係数情報および前記左輪路面摩擦係数情報で表される路面摩擦係数に応じて目標ヨーレートの補正を行う。目標ヨーレート補正部158は、この補正後の目標ヨーレートを補正後ヨーレート情報として目標左右輪タイヤ角度計算部159へ出力する。
【0054】
目標左右輪タイヤ角度計算部159は、前記補正後ヨーレート情報と、上位制御部32から実ヨーレート情報θ アクセル指令値X よびブレーキ指令値X 、右輪路面摩擦係数計算部155から右輪路面摩擦係数情報、左輪路面摩擦係数計算部157から左輪路面摩擦係数情報を取得し、左右輪のタイヤ角度の目標値である目標左右輪タイヤ角度を計算する。目標左右輪タイヤ角度計算部159は、計算した左右輪それぞれの目標タイヤ角度を目標タイヤ角度情報として、右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161へ出力する。
【0055】
右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161は、目標左右輪タイヤ角度計算部159から目標タイヤ角度情報を、右輪タイヤ角度計算部153および左輪タイヤ角度計算部154から、現在のタイヤ角度を表すタイヤ角度情報を取得する。取得後、右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161は、目標タイヤ角度情報で表される目標タイヤ角度と、現在のタイヤ角度とを比較し、偏差量に応じて右輪の転舵機能付ハブユニット1および左輪の転舵機能付ハブユニット1のそれぞれを転舵させる量を表す右輪転舵量情報および左輪転舵量情報を生成する。右輪指令値計算部160は、生成した右輪転舵量情報(電流指令信号)を右輪用のアクチュエータ駆動制御部31へ出力する。左輪指令値計算部161は、生成した左輪転舵量情報(電流指令信号)を左輪用のアクチュエータ駆動制御部31へ出力する。
【0056】
各アクチュエータ駆動制御部31は、右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161から入力された電流指令信号に応じた電流を出力して転舵用アクチュエータ5(図3)を駆動制御する。具体的には、左右輪のアクチュエータ駆動制御部31,31は、右輪指令値計算部160および左輪指令値計算部161から右輪転舵量情報および左輪転舵量情報が入力されると、原則として(正常時には)、現在の左右輪の転舵角を表す各モータ26(図3)の位置情報である回転センサSbの出力信号を取得する。
【0057】
各アクチュエータ駆動制御部31は、前記右輪転舵量情報および前記左輪転舵量情報に基づいて、各モータ26(図3)の目標位置を決定し、各モータ26(図3)へ流す電流を出力し、左右輪の角度センサSa、位置センサScおよび回転センサSbの舵角情報を出力する。すなわち左右の転舵機能付きハブユニット1,1にそれぞれ設けられた回転センサSb、位置センサScおよび角度センサSaの出力信号は、目標左右輪タイヤ角度計算部159に返され左右輪の転舵角度に変換される。なお回転センサSbの出力信号は、減速機27の減速比等を考慮して転舵角度に変換される。
【0058】
目標左右輪タイヤ角度計算部159は、各輪において、変換された三つの転舵角度を互いに比較し全てが一致している場合、回転センサSb、位置センサScおよび角度センサSaが全て正常状態と判定し各転舵用アクチュエータ5(図3)の駆動制御を維持する。いずれかの転舵角度に不一致がある場合、目標左右輪タイヤ角度計算部159は、いずれかのセンサが異常状態と判断して、上位制御部32および各アクチュエータ駆動制御部31に異常発生情報を出力する。
【0059】
これにより上位制御部32は、例えば、警告灯、警告音等により運転者に異常状態を報知する制御を行う。これと共に各アクチュエータ駆動制御部31は、各転舵用アクチュエータ5(図3)の駆動制御を停止する。またいずれか一つのセンサから変換された転舵角度のみが、他の二つのセンサから変換された転舵角度に対し不一致となっている場合、不一致となったセンサの使用を中止し他のセンサを用いて各転舵用アクチュエータ5(図3)の駆動制御を維持することも可能である。
【0060】
<作用効果>
以上説明した転舵機能付きハブユニット1によれば、車輪9を支持するハブベアリング15を含むハブユニット本体2を、転舵用アクチュエータ5の駆動により、前記転舵軸心A回りに自由に回転させることができる。このため、車輪9毎に独立して転舵が行え、また車両の走行状況に応じて、車輪9のトー角を任意に変更することができる。
そのため、前輪等の転舵輪および後輪等の非転舵輪のいずれに用いてもよい。転舵輪に用いる場合は、ステアリング装置により方向が変化させられる部材に設置されることにより、運転者のハンドル操作による転舵に付加して、左右の車輪個別の、または左右輪連動した車輪の微小な転舵角度変化を行わせる機構となる。
【0061】
また、旋回走行時に、走行速度に応じて左右輪の舵角差を変えることができる。例えば高速域の旋回走行においてはパラレルジオメトリとし、低速域の旋回走行においてはアッカーマンジオメトリとするなど、走行中にステアリングジオメトリを変化させることができる。このように走行中に車輪の転舵角度を任意に変更することができるため、車両の運動性能を向上させ、安定・安全に走行することが可能となる。さらに、左右の操舵輪の転舵角度を適切に変えることで、旋回走行における車両の旋回半径を小さくし、小回り性能を向上させることもできる。さらに直線走行時にも、それぞれの場面に合わせてトー角度の量を調整することで、燃費を悪化させることなく、走行安定性を確保するなど調整が可能である。
【0062】
このように車輪9の転舵角度を変化させることで、車両の挙動を制御するためには、正確に車輪の転舵角度を制御する必要がある。
この構成によると、特に、ハブユニット本体2の前記転舵軸心A回りの回転角度を検出する複数の転舵角度検出手段Sを備えたため、複数の転舵角度検出手段Sのうちのいずれか1つに異常が発生した場合でも、他の転舵角度検出手段を用いて車輪9の角度を所望の角度に正確に制御することが可能となる。
【0063】
また転舵用アクチュエータ5の剛性に起因する個体差があっても、複数の転舵角度検出手段Sの出力信号の関係を予め試験等により設定しておくことで、微小な転舵角度の範囲内で正確な転舵角度を採ることが可能となる。したがって、車両の操縦・安定性を向上させることができる。
複数の転舵角度検出手段Sの一つとして、角度センサSaが転舵軸上に設けられているため、ハブベアリング15の微小な角度変化を正確に出力することができる。これにより車輪9の角度を所望の角度により正確に制御することが可能となる。
【0064】
<他の実施形態について>
第1の実施形態では、図2に示すように、アクチュエータ本体7の略全体がケース6bに覆われているが、この例に限定されるものではない。他の実施形態として、例えば、アクチュエータ本体7のうちモータ26が、ケース6bから露出して同ケース6bの外表面に取り付けられる所謂外付け構造であってもよい。この場合、既製品のモータを用いることができるうえ、モータを容易に交換することができる等、メンテナンス性を高めることが可能となる。
その他の実施形態として、ユニット支持部材3を、足回りフレーム部品に別体に構成し、この足回りフレーム部品にユニット支持部材3を着脱自在に設けてもよい。
【0065】
以上、実施形態に基づいてこの発明を実施するための形態を説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0066】
2…ハブユニット本体
3…ユニット支持部材
5…転舵用アクチュエータ
6…ナックル(足回りフレーム部品)
9…車輪
12…懸架装置
15…ハブベアリング
25…直動機構
26…モータ
29…制御装置
30…制御部
31…アクチュエータ駆動制御部
S…転舵角度検出手段
Sa…角度センサ,Sb…回転センサ,Sc…位置センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9