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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】振動制御装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 21/00 20060101AFI20220331BHJP
   A47C 7/62 20060101ALI20220331BHJP
   B60N 2/64 20060101ALI20220331BHJP
   G08B 21/06 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61M21/00 A
A47C7/62 Z
B60N2/64
G08B21/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018088180
(22)【出願日】2018-05-01
(65)【公開番号】P2019193699
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500403929
【氏名又は名称】パイオニアシステムテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】磯崎 賢太
(72)【発明者】
【氏名】森重 隆司
(72)【発明者】
【氏名】飯澤 高志
(72)【発明者】
【氏名】村上 尚希
(72)【発明者】
【氏名】福田 達也
(72)【発明者】
【氏名】安士 光男
(72)【発明者】
【氏名】竹内 吉和
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 和実
(72)【発明者】
【氏名】垣坂 皓太
【審査官】小原 一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/150649(WO,A1)
【文献】特開2017-213243(JP,A)
【文献】特開2018-052385(JP,A)
【文献】特開2014-123292(JP,A)
【文献】特開2018-055527(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 21/00
A47C 7/62
B60N 2/64
G08B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに伝達される振動を発生する振動ユニットを制御する振動制御装置であって、
前記振動ユニットの周囲で再生される楽曲に含まれる和音を抽出する和音抽出部と、
前記振動ユニットを駆動させるための複数の交流信号のそれぞれを順次出力する出力部を備え、
前記複数の交流信号のそれぞれの周波数の周波数比が、前記和音抽出部によって抽出された和音の構成音の周波数比とされていることを特徴とする振動制御装置。
【請求項2】
前記ユーザの眠気情報を取得する取得部をさらに備え、
前記出力部は、前記取得部によって前記眠気情報を取得した場合に、前記複数の交流信号を出力することを特徴とする請求項1に記載の振動制御装置。
【請求項3】
前記出力部は、前記複数の交流信号の周波数比を、前記和音抽出部によって抽出された和音の構成音の周波数比としつつ、それぞれの周波数が所定の周波数範囲に含まれるように生成することを特徴とする請求項1又は2に記載の振動制御装置。
【請求項4】
前記複数の交流信号のそれぞれは、周波数が40~120Hzであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の振動制御装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の振動制御装置と、少なくとも1つの前記振動ユニットと、を備えたことを特徴とする振動発生装置。
【請求項6】
前記振動ユニットは、前記ユーザが着座する座席の座面部又は背もたれ部に内蔵されていることを特徴とする請求項5に記載の振動発生装置。
【請求項7】
複数の前記振動ユニットを備え、
前記出力部は、前記複数の振動ユニットのそれぞれに対し、相関のある前記複数の交流信号を出力することを特徴とする請求項5又は6に記載の振動発生装置。
【請求項8】
ユーザに伝達される振動を発生する振動ユニットを制御する振動制御方法であって、
前記振動ユニットの周囲で再生される楽曲に含まれる和音を抽出する和音抽出工程と、
前記振動ユニットを駆動させるための複数の交流信号のそれぞれを順次出力する出力工程を含み、
前記複数の交流信号のそれぞれの周波数の周波数比が、前記和音抽出部によって抽出された和音の構成音の周波数比とされていることを特徴とする振動制御方法。
【請求項9】
請求項8に記載の振動制御方法を、コンピュータにより実行させることを特徴とする振動制御プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の振動制御プログラムを格納したことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動ユニットを制御する振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の移動体は、センサ及び警報器が設けられることにより、障害物(他車両や路上の設置物、歩行者等)の接近を検知した際に、搭乗者(特に運転者)に対して警報を発生するように構成されることがある。このように警報を発生する際に、振動を発生する振動体(振動ユニット)を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された報知システムでは、座席を構成する車両用シート装置のシートクッション(座面部)に2つ、シートバック(背もたれ部)に1つの振動体を配置し、これらの振動体を制御している。このとき、障害物が接近している方向に応じて振動させる振動体を選択することにより、どの方向から障害物が接近しているかを搭乗者に認識させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-225877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
座席等に設けられる振動ユニットの利用方法として、特許文献1に記載されたもの以外に、ユーザの眠気覚ましのために用いる方法が考えられる。即ち、振動による刺激をユーザ(運転者)に与えることにより、ユーザを覚醒させることができる。このようにユーザに刺激を与える場合、ランダム振動を発生させたり振幅を大きくしたりすることで刺激を強くすれば、覚醒効果は向上する。しかしながら、単に刺激を強くすると、ユーザに不快感を与えやすくなる。
【0006】
したがって、本発明の課題は、ユーザの覚醒効果を向上させつつ、ユーザに不快感を与えにくくすることができる振動制御装置を提供することが一例として挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載の本発明の振動制御装置は、ユーザに伝達される振動を発生する振動ユニットを制御する振動制御装置であって、前記振動ユニットの周囲で再生される楽曲に含まれる和音を抽出する和音抽出部と、前記振動ユニットを駆動させるための複数の交流信号のそれぞれを順次出力する出力部を備え、前記複数の交流信号のそれぞれの周波数の周波数比が、前記和音抽出部によって抽出された和音の構成音の周波数比とされていることを特徴としている。
【0008】
請求項8に記載の本発明の振動制御方法は、ユーザに伝達される振動を発生する振動ユニットを制御する振動制御方法であって、前記振動ユニットの周囲で再生される楽曲に含まれる和音を抽出する和音抽出工程と、前記振動ユニットを駆動させるための複数の交流信号のそれぞれを順次出力する出力工程を含み、前記複数の交流信号のそれぞれの周波数の周波数比が、前記和音抽出部によって抽出された和音の構成音の周波数比とされていることを特徴としている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施例に係る振動制御装置の概略を示すブロック図である。
図2】前記振動制御装置によって制御される振動ユニットを示す斜視図である。
図3】前記振動ユニットを示す断面図である。
図4】前記振動制御装置が実行する振動制御処理の一例を示すフローチャートである。
図5】前記振動制御装置の出力部が出力する複数の交流信号を楽譜上に示した図である。
図6】前記振動制御装置において用いられるミックス回路を示す回路図である。
図7】本発明の第2実施例に係る振動制御装置の概略を示すブロック図である。
図8】前記振動制御装置が実行する振動制御処理の一例を示すフローチャートである。
図9】振動によって得られる覚醒効果の実験結果を示すグラフである。
図10】振動によって得られる快適性の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明の実施形態に係る振動制御装置は、ユーザに伝達される振動を発生する振動ユニットを制御する振動制御装置であって、振動ユニットの周囲で再生される楽曲に含まれる和音を抽出する和音抽出部と、振動ユニットを駆動させるための複数の交流信号のそれぞれを順次出力する出力部を備える。複数の交流信号のそれぞれの周波数は、和音抽出部によって抽出された和音の構成音の周波数に対応する。
【0011】
このような本実施形態の振動制御装置によれば、順次出力される複数の交流信号のそれぞれの周波数が、和音の構成音の周波数に対応していることで、これらの複数の交流信号によって発生する振動は、ユーザを覚醒させやすく、且つ、ユーザに不快感を与えにくい。即ち、例えば単一周波数の正弦波信号のような規則的な信号によって振動ユニットを駆動させる場合と比較して、ユーザの覚醒効果を向上させることができ、完全にランダムな周波数の信号によって振動ユニットを駆動させる場合と比較して、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。
【0012】
振動制御装置は、ユーザの眠気情報を取得する取得部をさらに備え、出力部は、取得部によって眠気情報を取得した場合に、複数の交流信号を出力することが好ましい。これにより、必要に応じて振動を発生させ、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。また、ユーザが眠気を感じている場合にのみ振動を発生させれば、ユーザが振動に慣れてしまうことを抑制することができる。
【0013】
出力部は、複数の交流信号の周波数比を、和音抽出部によって抽出された和音の構成音の周波数比としつつ、それぞれの周波数が所定の周波数範囲に含まれるように生成することが好ましい。さらに、複数の交流信号のそれぞれは、周波数が40~120Hzであることが好ましい。これにより、ユーザの体内に伝達される振動の深度を適切なものとし、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。即ち、振動の周波数が低すぎると、振動がユーザの内蔵にまで伝達されて不快感を与える可能性があり、振動の周波数が高すぎると、ユーザの皮膚の表面を撫でるような振動となって不快感を与える可能性がある。
【0014】
本発明の実施形態に係る振動発生装置は、上記の振動制御装置と、少なくとも1つの振動ユニットと、を備える。
【0015】
振動ユニットは、ユーザが着座する座席の座面部又は背もたれ部に内蔵されていてもよいし、他の設置対象に設けられていてもよい。
【0016】
振動発生装置は、複数の振動ユニットを備え、出力部は、複数の振動ユニットのそれぞれに対し、相関のある複数の交流信号を出力してもよい。また、複数の振動ユニットのそれぞれに対して同一の複数の交流信号を出力してもよい。
【0017】
本発明の実施形態に係る振動制御方法は、ユーザに伝達される振動を発生する振動ユニットを制御する振動制御方法であって、振動ユニットの周囲で再生される楽曲に含まれる和音を抽出する和音抽出工程と、振動ユニットを駆動させるための複数の交流信号のそれぞれを順次出力する出力工程を含み、複数の交流信号のそれぞれの周波数は、和音抽出工程において抽出された和音の構成音の周波数に対応する。
【0018】
また、上述した振動制御方法をコンピュータにより実行させる振動制御プログラムとしてもよい。このようにすることにより、コンピュータを用いて、ユーザの覚醒効果を向上させつつ、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。
【0019】
また、上述した振動制御プログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納してもよい。このようにすることにより、当該プログラムを機器に組み込む以外に単体でも流通させることができ、バージョンアップ等も容易に行える。
【実施例
【0020】
以下、本発明の各実施例について具体的に説明する。尚、第2実施例においては、第1実施例で説明する構成部材と同じ構成部材及び同様な機能を有する構成部材には、第1実施例と同じ符号を付すとともに説明を省略する。
【0021】
[第1実施例]
本実施例の振動制御装置1Aは、図1に示すように、ハーモニック信号生成部2と、取得部としての眠気検出部3と、設定部4と、アンプ5と、を備え、移動体(車両)の座席10に設けられた2つの振動ユニット20A、20Bを制御する。振動制御装置1Aと2つの振動ユニット20A、20Bとによって振動発生装置100Aが構成される。
【0022】
ハーモニック信号生成部2は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などのメモリを備えたCPU(Central Processing Unit)で構成された制御部であって、振動制御装置1Aの全体制御を司る。即ち、ハーモニック信号生成部2は、後述するように、振動ユニット20A、20Bを駆動させるためのハーモニック信号を生成するとともに、ハーモニック信号を振動ユニット20A、20Bに送信する。
【0023】
眠気検出部3は、ユーザの生体情報等に基づいてユーザの眠気情報を取得するものであって、例えば、心拍数を測定したり、まばたきの回数を測定したり、視線の向きを検出したりするものであればよい。尚、本実施例におけるユーザとは座席10の着座者であり、座席10が運転席の場合には移動体の運転者がユーザとなる。
【0024】
設定部4は、ハーモニック信号に関する情報を記憶した記憶装置である。ハーモニック信号とは、複数の交流信号を含んでおり、複数の交流信号のそれぞれが順次出力されて成る信号である。尚、複数の交流信号の出力順序は適宜に設定されればよく、周波数の高い交流信号から順に出力してもよいし、周波数の低い交流信号から順に出力してもよいし、ランダムに出力してもよい。
【0025】
ハーモニック信号に含まれる複数の交流信号の周波数は、それぞれの交流信号同士で異なっており、それぞれの周波数同士の周波数比は所定の整数比で表される。ハーモニック信号によって仮に音響用のスピーカを駆動させると、協和音(分散和音)が放射される。即ち、複数の交流信号の周波数比は、協和音の構成音の周波数同士の比である。複数の交流信号の周波数比は、例えば、1:2や2:3、3:4、4:5、5:6、4:5:6、10:12:15等であればよく、単純な(例えば全て2桁以下の数字で構成されるような)整数比で表される。
【0026】
設定部4には、ハーモニック信号に関する各種のパラメータが記憶されている。ハーモニック信号のパラメータとしては、周波数の組み合わせや、交流信号の出力順序、出力テンポ(一群のハーモニック信号を構成する各交流信号の間の期間の長さ)、1つの交流信号の出力継続時間、交流信号の振幅等が例示される。尚、これらのパラメータは、ユーザが適宜調節可能なものであってもよいし、ランダムに変化するものであってもよいし、眠気情報に応じて変化するものであってもよい。
【0027】
アンプ5は、ハーモニック信号生成部2と振動ユニット20A、20Bとの間に設けられ、ハーモニック信号生成部2が出力したハーモニック信号を適宜増幅して振動ユニット20A、20Bに供給する。本実施例では、ハーモニック信号生成部2とアンプ5とが出力部として機能するが、アンプ5は省略されてもよい。
【0028】
本実施例では、2つの振動ユニット20A、20Bが、座席10の背もたれ部12に内蔵されるとともに、車幅方向(着座者にとっての左右方向)に並んでいる。尚、座席10の座面部11に振動ユニットを設けてもよいし、背もたれ部12と座面部11との両方に振動ユニットを設けてもよい。また、振動ユニットの数は2つに限定されず、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0029】
振動ユニット20A、20Bは、背もたれ部11の前面に略直交するような振動方向の振動を発生し、ユーザの背中に振動を伝達する。ここで、振動ユニット20A、20Bの詳細について、図2、3に基づいて説明する。尚、図3は、図2(A)中のV1-V1切断線に沿った断面を示す断面図である。
【0030】
振動ユニット20A、20Bは、ケース210内に磁気回路220が収容されたものである。ケース210は、背の低い円筒フレーム211の一端側の開口が、中央部に複数の貫通孔212が設けられた円形の第1板壁213で塞がれ、他端側の開口が円形の第2板壁214で塞がれたものである。図2(A)には貫通孔212が設けられた第1板壁213側から見た振動ユニット20A、20Bが示されており、図2(B)にはその反対側から見た振動ユニット20A、20Bが示されている。
【0031】
第1板壁213の略中央からは、複数の貫通孔212を囲むように円筒状のボビン215が第2板壁214に向かって立設されており、そのボビン215の外周にボイスコイル216が設けられている。このように、ボイスコイル216は、ボビン215を介して第1板壁213に固定されている。また、複数の貫通孔212は、第1板壁213と交差する方向から見たときの平面視でボイスコイル216の内側に相当する領域213aに設けられている。
【0032】
磁気回路220は、各々がリング状のプレート221及びマグネット222と円盤状のヨーク223とを備えている。プレート221及びマグネット222が、ボイスコイル216に対してギャップを開けて同軸に配置されている。プレート221、即ち磁気回路220は、ダンパ230を介して円筒フレーム211の内壁面に、第1板壁213に対する接離方向D1に振動可能に支持されている。
【0033】
ボイスコイル216に交流信号が通電されると、磁気回路220が、第1板壁213に対する接離方向D1に振動する。また、その振動のダンパ230を介した反作用でケース210も振動する。このように、振動ユニット20A、20Bでは、ボイスコイル216への通電によりケース210と磁気回路220との間に相対振動が生じる。この相対振動により、振動ユニット20A、20Bは、ケース210ごと振動する。また、ケース210においては、磁気回路220からの反作用を受けるボイスコイル216が固定されている第1板壁213が局部的に振動する。この第1板壁213の振動により音が発生する。このように、振動ユニット20A、20Bは、ケース210と磁気回路220との、ボイスコイル216への通電による相対振動によりケース210ごと振動して放音する。
【0034】
ここで、ハーモニック信号生成部2が実行する振動制御処理の一例について、図4のフローチャートを参照しつつ説明する。ハーモニック信号生成部2は、移動体が走行を開始した(あるいは、移動体の動力源であるエンジンやモータ等が起動された)際に、振動制御処理を開始する。振動制御処理において、ハーモニック信号生成部2は、まず走行開始から所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS1)。走行開始から所定時間が経過した場合(ステップS1でY)、ハーモニック信号生成部2は、眠気検出部3がユーザの眠気を検出したか否かを判定する(ステップS2)。
【0035】
眠気検出部3がユーザの眠気を検出した場合(ステップS2でY)、ハーモニック信号生成部2は、設定部4から情報を読み込み(ステップS3)、ハーモニック信号を生成し(ステップS4)、ハーモニック信号を出力する(ステップS5)。走行開始から所定時間が経過していない場合(ステップS1でN)、眠気検出部3がユーザの眠気を検出しない場合(ステップS2でN)、又は、ステップS5の後、ハーモニック信号生成部2は移動体が走行を終了したか否かを判定する(ステップS6)。移動体が走行を終了した場合(ステップS6でY)、ハーモニック信号生成部2は振動制御処理を終了し、移動体が走行を継続している場合(ステップS6でN)、ステップS1に戻る。
【0036】
ハーモニック信号生成部2は、ステップS4、S5において、眠気情報や振動継続時間に応じて、ハーモニック信号の各種パラメータを決定してもよい。即ち、ユーザの眠気が強い場合には、例えば振幅を大きくしたり周波数を低くしたりすることにより、強い刺激を与えられるようなハーモニック信号を生成すればよい。また、振動継続時間が長いとユーザが振動に慣れてしまうことから、出力するハーモニック信号の各パラメータを時間変化させればよい。
【0037】
ハーモニック信号の各パラメータを時間変化させる場合の一例を図5に示す。図5では、複数の交流信号を仮に音響用の信号とみなして五線譜上に表している。図示の例では、一群のハーモニック信号は、三和音に対応する3つの交流信号を含み、合計四群のハーモニック信号が、休止期間をあけつつ並んでいる。1番目のハーモニック信号と、2番目のハーモニック信号と、は複数の交流信号の周波数の組み合わせが互いに異なっており、以降も周波数の組み合わせが変化している。即ち、複数の交流信号の周波数の組み合わせをランダムに時間変化させている。
【0038】
また、1番目のハーモニック信号と2番目のハーモニック信号との間の休符と、2番目のハーモニック信号と3番目のハーモニック信号との間の休符と、は互いに異なっており、以降も休符が異なっている。即ち、ハーモニック信号同士の間の休止期間の長さをランダムに変化させている。
【0039】
ハーモニック信号を構成する複数の交流信号のそれぞれは、周波数が40~120Hzであり、且つ、継続時間が100~200msecとなっている。
【0040】
ハーモニック信号を構成する複数の交流信号のそれぞれは、振幅が略一定(即ち波形が正弦波状)であってもよいし、音の立ち上がり時に振幅が大きく、時間経過とともに減衰する波形を有していてもよい。
【0041】
また、2つの振動ユニット20A、20Bに対し、同一のハーモニック信号を出力してもよいし、以下に説明するように互いに異なるハーモニック信号を出力してもよい。2つの振動ユニット20A、20Bに対して互いに異なるハーモニック信号を出力する場合、例えば、図6に示すようなミックス回路を用い、互いに相関のあるハーモニック信号を生成すればよい。
【0042】
右側の振動ユニット20A用のメイン信号を示す関数をyr(t)とし、左側の振動ユニット20B用のメイン信号を示す関数をyl(t)とする。右側のメイン信号yr(t)に対し、左側のメイン信号yl(t)を時間bだけ遅延させて振幅をa倍(0<a1)にしたものを重畳することで、右側の合成信号Yr(t)を生成する。右側の合成信号Yr(t)が右側の振動ユニット20Aに出力される。また、左側のメイン信号yl(t)に対し、右側のメイン信号yr(t)を時間bだけ遅延させて振幅をa倍(0<a1)にしたものを重畳することで、左側の合成信号Yl(t)を生成する。左側の合成信号Yl(t)が左側の振動ユニット20Bに出力される。
【0043】
尚、互いに相関のあるハーモニック信号を生成する方法は、上記のようにミックス回路を利用する方法に限定されない。例えば、1つのハーモニック信号(モノラル信号)を擬似ステレオ化装置によって擬似ステレオ化し、2つのハーモニック信号を生成することで、互いに相関のあるハーモニック信号を生成してもよい。
【0044】
上記の構成により、順次出力される複数の交流信号の周波数を、周波数比が所定の整数比で表される周波数とすることで、これらの複数の交流信号によって発生する振動は、ユーザを覚醒させやすく、且つ、ユーザに不快感を与えにくい。
【0045】
また、眠気検出部3によって眠気情報を取得した場合にハーモニック信号を出力することで、必要に応じて振動を発生させ、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。また、ユーザが眠気を感じている場合にのみ振動を発生させることで、ユーザが振動に慣れてしまうことを抑制することができる。
【0046】
また、ハーモニック信号を構成する複数の交流信号のそれぞれが、周波数が40~120Hzであることで、ユーザの体内に伝達される振動の深度を適切なものとし、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。
【0047】
また、ハーモニック信号における周波数の組み合わせや休止期間の長さをランダムに変化させることで、ユーザが振動に慣れてしまうことを抑制し、覚醒効果を持続させることができる。
【0048】
[第2実施例]
本実施例の振動制御装置1Bは、図7に示すように、出力部としてのハーモニック信号生成部2と、取得部としての眠気検出部3と、アンプ5と、和音抽出部6と、を備え、移動体(車両)の座席10に設けられた2つの振動ユニット20A、20Bを制御する。振動制御装置1Bと2つの振動ユニット20A、20Bとによって振動発生装置100Bが構成される。尚、振動制御装置1Bは、設定部4を備えていてもよい。
【0049】
和音抽出部6は、移動体に搭載されたスピーカ30に対して信号を出力する再生部40から、再生中の楽曲についての情報を取得する。すなわち、和音抽出部6は、座席10に着座するユーザが聴取する楽曲(言い換えれば振動ユニット20A、20Bの周囲で再生中の楽曲)についての情報を取得する。さらに、和音抽出部6は、取得した情報から、楽曲に含まれる和音を抽出する。再生部40は例えばカーステレオであればよい。また、和音抽出部は、スピーカ30から放射された音を集音する集音部(マイク等)を有し、集音するとともに和音を抽出する構成であってもよい。
【0050】
ハーモニック信号生成部2は、和音抽出部6によって抽出された和音に基づき、ハーモニック信号を生成する。抽出した和音の構成音の全てが、所定の周波数範囲(本実施例では40~120Hz)に含まれる場合、これらの構成音のそれぞれと等しい周波数を有する複数の交流信号によって、ハーモニック信号を生成する。
【0051】
一方、抽出した和音が、所定の周波数範囲に含まれない構成音を有する場合、ハーモニック信号生成部2は、抽出した和音の構成音の全てについて、それぞれの周波数を同一割合で変換し、変換後の構成音が所定の周波数範囲に含まれるようにする。例えば、構成音の周波数が、130Hzと164Hzと196Hzとである場合、これらを全て2で除して、65Hzと82Hzと98Hzとに変換する。ハーモニック信号は、変換後の周波数をそれぞれ有する複数の交流信号によって構成される。このように、ハーモニック信号生成部2は、複数の交流信号を、和音抽出部6によって抽出された和音の構成音の周波数比を維持しつつ、それぞれの周波数が所定の周波数範囲に含まれるようにハーモニック信号を生成する。
【0052】
ハーモニック信号は、前記第1実施例と同様に、複数の交流信号のそれぞれが順次出力されるようになっており、出力順序は任意である。また、楽曲に含まれる和音が、分散和音により演奏されるものである場合、ハーモニック信号を構成する複数の交流信号は、演奏と同じ順序で出力されることが好ましいが、順序を変更してもよい。
【0053】
本実施例のハーモニック信号生成部2が実行する振動制御処理の一例について、図8のフローチャートを参照しつつ説明する。本実施例のハーモニック信号生成部2が実行する振動制御処理は、前記第1実施例における振動制御処理のステップS1、S2、S5、S6と共通の工程を含み、ステップS2とステップS5との間において、ステップS3、S4とは異なる工程を含む。尚、前記第1実施例と共通の工程であるステップS1、S2、S5、S6については説明を省略する。本実施例の振動制御処理では、上記のステップS3に代えて、和音抽出部6から和音を取得する工程(ステップS13)を有するとともに、上記のステップS4に代えて、取得した和音に基づいてハーモニック信号を生成する工程(ステップS14)を有する。即ち、前記第1実施例の振動制御処理では、設定部4に予め記憶又は設定された情報に基づいてハーモニック信号を生成するのに対し、本実施例の振動制御処理では、和音抽出部6が抽出した和音に基づいてハーモニック信号を生成する。
【0054】
また、前記第1実施例と同様に、2つの振動ユニット20A、20Bに対し、同一のハーモニック信号を出力してもよいし、例えばミックス回路を用いることで互いに異なるハーモニック信号を出力してもよい。または、再生部4からLチャンネルおよびRチャンネルのステレオ音声信号を取得できる場合は、Lチャンネルの音声信号に対応するハーモニック信号を振動ユニット20Bに、Rチャンネルの音声信号に対応するハーモニック信号を振動ユニット20Aに出力してもよい。
【0055】
上記の構成により、順次出力される複数の交流信号のそれぞれの周波数が、和音の構成音の周波数に対応していることで、これらの複数の交流信号によって発生する振動は、ユーザを覚醒させやすく、且つ、ユーザに不快感を与えにくい。また、楽曲に含まれる和音に基づいてハーモニック信号が生成されることで、振動を発生させても楽曲の趣を損ないにくい。さらに、楽曲に含まれる和音は、楽曲の進行に伴って変化することから、これに応じて振動パターンも変化する。振動パターンが変化することで、ユーザが振動に慣れてしまうことを抑制し、覚醒効果を持続させることができる。
【0056】
また、眠気検出部3によって眠気情報を取得した場合にハーモニック信号を出力することで、必要に応じて振動を発生させ、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。また、ユーザが眠気を感じている場合にのみ振動を発生させることで、ユーザが振動に慣れてしまうことを抑制することができる。
【0057】
また、ハーモニック信号を構成する複数の交流信号のそれぞれが、周波数が40~120Hzであることで、ユーザの体内に伝達される振動の深度を適切なものとし、ユーザに不快感を与えにくくすることができる。
【0058】
なお、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
【0059】
例えば、前記第1実施例及び前記第2実施例では、眠気検出部3によって眠気情報を取得した場合にハーモニック信号を出力して振動を発生させるものとしたが、他の場合に振動を発生させてもよい。例えば、ユーザが漫然運転を行っているか否かを判定して振動を発生させてもよいし、運転継続時間が所定の時間を超過した場合に振動を発生させてもよい。また、移動体が走行する道路情報に応じて振動を発生させてもよく、例えば、高速道路等の単調な道路を走行している場合や、渋滞が発生している場合に振動を発生させてもよい。
【0060】
また、前記第1実施例及び前記第2実施例では、ハーモニック信号を構成する複数の交流信号のそれぞれの周波数が40~120Hzであるものとしたが、複数の交流信号の周波数は、この範囲外の値であってもよい。複数の交流信号の周波数を40~120Hzの範囲外とすると、ユーザに不快感を与える可能性がある一方で、覚醒効果を向上させることができる。従って、例えばユーザの眠気が強い場合や、振動の継続時間が長くなった場合等、より強い刺激を必要とする場合には、複数の交流信号の周波数を40~120Hzの範囲外としてもよい。
【0061】
また、前記第1実施例では、複数の交流信号の周波数の組み合わせをランダムに時間変化させたり、休止期間の長さをランダムに変化させたりするものとしたが、これらのパラメータは時間変化せずに一定であってもよい。
【0062】
また、前記第1実施例及び前記第2実施例では、振動発生装置100A、100Bを構成する振動ユニット20A、20Bが座席10に設けられるものとしたが、振動ユニット20A、20Bは、ユーザに振動を伝達可能な場所に設けられればよく、例えばステアリングホイールに内蔵されてもよい。
【0063】
また、前記第2実施例では、抽出された和音の構成音が所定の周波数範囲に含まれない場合に、和音の構成音の全ての周波数を同一割合で変換してハーモニック信号を生成するものとしたが、ハーモニック信号生成部2は、抽出した和音の構成音を常に変換せずにハーモニック信号を生成してもよい。
【0064】
[各種信号を用いた実験結果]
座席に内蔵された振動ユニットを各種信号によって駆動させ、着座者の覚醒効果及び快適性を評価した。被験者は、平均年齢44.3歳の14名の成人男性である。実施例としてハーモニック信号を用いた場合と、従来例として単一周波数の正弦波信号を用いた場合と、比較例としてランダム信号を用いた場合と、のそれぞれについて評価した。なお、それぞれの場合において、単位時間当たりの平均振動量は一致させるようにした。
【0065】
実施例のハーモニック信号は、65Hz(ドの音に対応)の交流信号と、82Hz(ミの音に対応)の交流信号と、98Hz(ソの音に対応)の交流信号と、によって構成される。各交流信号は、継続時間が1秒であり、上記の順序で出力される。また、上記の3つの交流信号を順次出力した後、休止期間を3秒あけ、再び上記の3つの交流信号を順次出力し、これを120秒間繰り返した。
【0066】
従来例の正弦波信号は、82Hz(ミの音に対応)の正弦波によって構成される。3秒の継続時間と3秒の休止期間とを120秒間、交互に繰り返した。
【0067】
比較例のランダム信号は、実施例のハーモニック信号における82Hzの交流信号を92Hz(ファ♯)の交流信号に置き換えたものである。
【0068】
被験者は、各種の信号によって発生する振動について、覚醒効果及び快適性を7点満点で主観評価した。覚醒効果についての結果を図9に示し、快適性についての結果を図10に示す。
【0069】
覚醒効果は、従来例において4.48となり、比較例において4.61となり、実施例において4.59となった。即ち、比較例及び実施例において、従来例に対して覚醒効果の向上が見られた。快適性は、従来例において4.25となり、比較例において3.20となり、実施例において3.75となった。即ち、比較例及び実施例において、従来例に対して快適性の低下が見られたものの、実施例では比較例よりも快適性の低下度合いが小さかった。
【0070】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施例に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施例に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1A 振動制御装置
2 ハーモニック信号生成部(出力部)
3 眠気検出部(取得部)
5 アンプ(出力部)
20A、20B 振動ユニット
100A 振動発生装置
10 座席
11 座面部
12 背もたれ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10