(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】インパクト工具
(51)【国際特許分類】
B25B 21/02 20060101AFI20220331BHJP
【FI】
B25B21/02 A
(21)【出願番号】P 2018121100
(22)【出願日】2018-06-26
【審査請求日】2021-03-16
(31)【優先権主張番号】P 2018038906
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000137292
【氏名又は名称】株式会社マキタ
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】高萩 耕司
(72)【発明者】
【氏名】田渕 嵩登
(72)【発明者】
【氏名】楠本 貴大
(72)【発明者】
【氏名】平林 徳夫
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-068873(JP,A)
【文献】実公昭47-024397(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0325509(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0152848(US,A1)
【文献】特開2006-110647(JP,A)
【文献】特開平03-264275(JP,A)
【文献】実開平03-041468(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B1/00-33/00
B25D1/00-17/32
B25F1/00-5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
前記モータにより回転するハンマと、
前記ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、
前記アンビルは、外形円筒状の基端部と、前記基端部と連続する外形角筒状の先端部とを有すると共に、前記基端部と前記先端部とに跨がって前記アンビル内で軸線方向に形成される孔を有し、
前記先端部には、装着したソケットの抜け止めに用いる貫通孔が、前記アンビルの軸線方向と直交方向に形成され、前記孔は、前記貫通孔を挟んで前記アンビルの軸心を中心とした点対称位置に一対設けられて、各前記孔にピンが
それぞれ挿入されていることを特徴とするインパクト工具。
【請求項2】
前記基端部側で前記孔と前記ピンとの間には、前記ピンの抜け止め手段が設けられていることを特徴とする請求項
1に記載のインパクト工具。
【請求項3】
モータと、
前記モータにより回転するハンマと、
前記ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、
前記アンビルは、外形円筒状の基端部と、前記基端部と連続する外形角筒状の先端部と、前記基端部からその径方向外側へ突出する一対のアームとを有すると共に、前記基端部と前記先端部とに跨がって前記アンビル内の軸心で軸線方向に形成される孔を有し、
前記孔に、前記先端部の面取部分の幅に対して25%以下の直径となるピンが挿入されて、前記孔及び前記ピンの前記基端部側の端部は、前記アームにおける前記先端部側の面の位置まで延びており、
前記基端部側で前記孔と前記ピンとの間には、前記ピンの抜け止め手段が設けられている
と共に、前記抜け止め手段は、前記ピンに外装されて前記孔の内面を押圧するリングスプリングであることを特徴とするインパクト工具。
【請求項4】
モータと、
前記モータにより回転するハンマと、
前記ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、
前記アンビルは、外形円筒状の基端部と、前記基端部と連続する外形角筒状の先端部と、前記基端部からその径方向外側へ突出する一対のアームとを有すると共に、前記基端部と前記先端部とに跨がって前記アンビル内の軸心で軸線方向に形成される孔を有し、
前記孔に、前記先端部の面取部分の幅に対して25%以下の直径となるピンが挿入されて、前記孔及び前記ピンの前記基端部側の端部は、前記アームにおける前記先端部側の面の位置まで延びており、
前記基端部側で前記孔と前記ピンとの間には、前記ピンの抜け止め手段が設けられている
と共に、前記抜け止め手段は、前記孔に対する前記ピンの少なくとも一部の圧入であることを特徴とするインパクト工具。
【請求項5】
前記ピンは、前記アンビルよりも強度の高い材料で形成されていることを特徴とする請求項1乃至
4の何れかに記載のインパクト工具。
【請求項6】
前記ピンに、前記先端部の端面に係合する係合部が設けられていることを特徴とする請求項
1乃至5の何れかに記載のインパクト工具。
【請求項7】
モータと、
前記モータにより回転するハンマと、
前記ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、
前記アンビルは、外形円筒状の基端部と、前記基端部と連続する外形角筒状の先端部とを有すると共に、前記基端部と前記先端部とに跨がって前記アンビル内で軸線方向に形成される孔を有し、
前記孔の内部に、前記基端部と前記先端部とに跨がって前記軸線方向に延びる連結部材が設けられていると共に、前記連結部材における前記基端部側の端部と前記先端部側の端部とに、前記孔の直径よりも大きい拡径部がそれぞれ一体的に設けられていることを特徴とするインパクト工具。
【請求項8】
前記先端部には、装着したソケットの抜け止めに用いる貫通孔が、前記アンビルの軸線方向と直交方向に形成され、前記先端部側に設けられる前記拡径部は、前記貫通孔内で同軸のリング状に形成されて、前記貫通孔の内径と前記リング状の拡径部の内径とは同径となっていることを特徴とする請求項
7に記載のインパクト工具。
【請求項9】
前記ソケットの抜け止めのために前記貫通孔に挿通される抜け止めピンは、前記リング状の拡径部を貫通することを特徴とする請求項
8に記載のインパクト工具。
【請求項10】
前記連結部材はワイヤであり、前記リング状の拡径部は、前記ワイヤの端部が係止するOリングであることを特徴とする請求項
8又は9に記載のインパクト工具。
【請求項11】
前記連結部材はワイヤであり、前記リング状の拡径部は、前記ワイヤの端部を折り曲げて形成されることを特徴とする請求項
8又は9に記載のインパクト工具。
【請求項12】
前記基端部には、前記孔と同軸で連通する有底孔が形成され、前記基端部側に設けられる前記拡径部は、前記有底孔内で前記連結部材に連結されるスチールボールであることを特徴とする請求項
7乃至11の何れかに記載のインパクト工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インパクトレンチやインパクトドライバ等のインパクト工具に関する。
【背景技術】
【0002】
インパクトレンチ等のインパクト工具は、モータと、モータの駆動に伴って回転するスピンドルと、スピンドルにカム結合されるハンマを含む打撃機構とを備え、打撃機構をハンマケースに収容して、ハンマを、ハンマケースの前端で軸支されるアンビルに係合させてなるものが知られている(例えば特許文献1参照)。ここではアンビルのトルクが増加すると、スピンドルの回転をハンマの間欠的な回転打撃力(インパクト)に変換してアンビルに付与でき、アンビルに装着したソケットやビット等でボルトやネジの締め外しが行えるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなインパクト工具において、例えばアンビルに装着したソケットによってボルトやナットの締め付けを行う際、ねじれ方向に大きなトルクが加わると、アンビルが折損して先端がソケットごと分離してしまうおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、アンビルが折損することがあっても、先端が分離することがないインパクト工具を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、モータと、モータにより回転するハンマと、ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、アンビルは、外形円筒状の基端部と、基端部と連続する外形角筒状の先端部とを有すると共に、基端部と先端部とに跨がってアンビル内で軸線方向に形成される孔を有し、
先端部には、装着したソケットの抜け止めに用いる貫通孔が、アンビルの軸線方向と直交方向に形成され、孔は、貫通孔を挟んでアンビルの軸心を中心とした点対称位置に一対設けられて、各孔にピンがそれぞれ挿入されていることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、基端部側で孔とピンとの間には、ピンの抜け止め手段が設けられていることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、モータと、モータにより回転するハンマと、ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、アンビルは、外形円筒状の基端部と、基端部と連続する外形角筒状の先端部と、基端部からその径方向外側へ突出する一対のアームとを有すると共に、基端部と先端部とに跨がってアンビル内の軸心で軸線方向に形成される孔を有し、
孔に、先端部の面取部分の幅に対して25%以下の直径となるピンが挿入されて、孔及びピンの基端部側の端部は、アームにおける先端部側の面の位置まで延びており、
基端部側で孔とピンとの間には、ピンの抜け止め手段が設けられていると共に、抜け止め手段は、ピンに外装されて孔の内面を押圧するリングスプリングであることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、モータと、モータにより回転するハンマと、ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、アンビルは、外形円筒状の基端部と、基端部と連続する外形角筒状の先端部と、基端部からその径方向外側へ突出する一対のアームとを有すると共に、基端部と先端部とに跨がってアンビル内の軸心で軸線方向に形成される孔を有し、
孔に、先端部の面取部分の幅に対して25%以下の直径となるピンが挿入されて、孔及びピンの基端部側の端部は、アームにおける先端部側の面の位置まで延びており、
基端部側で孔とピンとの間には、ピンの抜け止め手段が設けられていると共に、抜け止め手段は、孔に対するピンの少なくとも一部の圧入であることを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかの構成において、ピンは、アンビルよりも強度の高い材料で形成されていることを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至5の何れかの構成において、ピンに、先端部の端面に係合する係合部が設けられていることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、モータと、モータにより回転するハンマと、ハンマにより回転方向に打撃される軸状のアンビルと、を含んでなり、アンビルは、外形円筒状の基端部と、基端部と連続する外形角筒状の先端部とを有すると共に、基端部と先端部とに跨がってアンビル内で軸線方向に形成される孔を有し、孔の内部に、基端部と先端部とに跨がって軸線方向に延びる連結部材が設けられていると共に、連結部材における基端部側の端部と先端部側の端部とに、孔の直径よりも大きい拡径部がそれぞれ一体的に設けられていることを特徴とする。
請求項8に記載の発明は、請求項7の構成において、先端部には、装着したソケットの抜け止めに用いる貫通孔が、アンビルの軸線方向と直交方向に形成され、先端部側に設けられる拡径部は、貫通孔内で同軸のリング状に形成されて、貫通孔の内径とリング状の拡径部の内径とは同径となっていることを特徴とする。なお、ここでの「同径」は多少の誤差も含む。
請求項9に記載の発明は、請求項8の構成において、ソケットの抜け止めのために貫通孔に挿通される抜け止めピンは、リング状の拡径部を貫通することを特徴とする。
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9の構成において、連結部材はワイヤであり、リング状の拡径部は、ワイヤの端部が係止するOリングであることを特徴とする。
請求項11に記載の発明は、請求項8又は9の構成において、連結部材はワイヤであり、リング状の拡径部は、ワイヤの端部を折り曲げて形成されることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項7乃至11の何れかの構成において、基端部には、孔と同軸で連通する有底孔が形成され、基端部側に設けられる拡径部は、有底孔内で連結部材に連結されるスチールボールであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、アンビルが折損することがあっても、先端部が分離することがない。よって、ソケットの工具本体からの分離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】ソケットを装着したアンビルの説明図で、(A)は側面、(B)は正面、(C)はA-A線断面、(D)はアンビルが折損した状態の断面、(E)はピンを長くした変更例の断面をそれぞれ示す。
【
図6】ピンの先端のみを圧入したアンビルの変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図7】ピン全体を圧入したアンビルの変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図8】有底孔を有するアンビルにソケットを装着した変更例の説明図で、(A)は側面、(B)はB-B線断面、(C)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図9】有底孔を有するアンビルにピンの先端のみを圧入した変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図10】有底孔を有するアンビルにピン全体を圧入した変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図11】ピンを2本設けた変更例のアンビルを有するインパクトレンチの一部正面図である。
【
図12】ピンを2本設けた変更例のアンビルを有するインパクトレンチの本体部の拡大図である。
【
図13】ピンを2本設けた変更例のアンビルにソケットを装着した説明図で、(A)は側面、(B)は正面、(C)はC-C線断面、(D)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図14】2本のピンの先端のみを圧入したアンビルの変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図15】2本のピンを遊挿したアンビルの変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はアンビルが折損した状態の断面をそれぞれ示す。
【
図16】ワイヤを用いたアンビルの変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はD-D線断面、(C)はE-E線断面をそれぞれ示す。
【
図18】ワイヤを用いた変更例のアンビルにソケットを装着した説明図で、(A)は縦断面、(B)はF-F線断面、(C)はG-G線断面をそれぞれ示す。
【
図20】ワイヤを用いたアンビルの他の変更例の説明図で、(A)は縦断面、(B)はH-H線断面、(C)はI-I線断面をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、インパクト工具の一例であるインパクトレンチの斜視図、
図2は正面図、
図3は中央縦断面図である。このインパクトレンチ1は、前後方向に延びる本体部2に、ハンドル3を下向きに形成した側面視T字状の工具本体を有し、本体部2の先端からはアンビル4が前方へ突出している。ハンドル3の下端に設けたバッテリー装着部5には、電源となる複数の充電池を収容したバッテリーパック6が装着されている。
本体部2のハウジングは、下部にハンドル3を延設した合成樹脂製の本体ハウジング7と、本体ハウジング7の前方に組み付けられて打撃機構14を収容する金属製のハンマケース8とからなる。本体ハウジング7は、左右一対の半割ハウジング7a,7bを左右方向のネジ9,9・・によって組み付けて形成される。本体ハウジング7内でハンマケース8の後方には、ハンマケース8の後端を閉塞するギヤハウジング10が、各半割ハウジング7a,7bの内面に突設された保持リブ11によって保持されている。
【0010】
本体部2には、
図4にも示すように、後方から、ブラシレスモータ12、スピンドル13、打撃機構14、アンビル4が順番に配置されて、ブラシレスモータ12が本体ハウジング7に収容され、スピンドル13と打撃機構14とアンビル4とがハンマケース8に収容されている。
まず、ブラシレスモータ12は、ステータ15とその内側のロータ16とからなるインナロータ型で、ステータ15は、複数の積層鋼板から形成される筒状の固定子鉄心17と、固定子鉄心17の軸方向前後の端面にそれぞれ設けられる前絶縁部材18及び後絶縁部材19と、前後絶縁部材18,19を介して固定子鉄心17に巻回されるコイル20,20・・と、を有する。前絶縁部材18には、ロータ16に設けた永久磁石24の位置を検出して回転検出信号を出力する回転検出素子(図示略)を搭載したセンサ回路基板21が取り付けられている。
【0011】
ロータ16は、軸心に位置する回転軸22と、回転軸22の周囲に配置され、複数の鋼板を積層してなる略円筒状の回転子鉄心23と、回転子鉄心23の内部に固定される板状の永久磁石24,24・・とを有する。回転軸22の後端は、本体ハウジング7の後部に保持された軸受25に軸支され、前端は、ギヤハウジング10に保持された軸受26に軸支されて、ピニオン27が形成された前端をギヤハウジング10の前方へ突出している。回転軸22における軸受25の前方部位には、遠心ファン28が取り付けられて、遠心ファン28の外側で本体ハウジング7の左右の側面には、周方向に並ぶ複数の排気口29,29・・が形成され、センサ回路基板21の外側で本体ハウジング7の左右の側面には、前後方向に並ぶ複数の吸気口30,30・・が形成されている。
【0012】
スピンドル13は、後部に遊星歯車32,32・・を保持するキャリア部31を一体に有し、後端軸心には有底孔33が形成されて、有底孔33内に突出した回転軸22のピニオン27が遊星歯車32に噛合している。ハンマケース8の後端内面とギヤハウジング10との間には、遊星歯車32が噛合するインターナルギヤ34が保持されている。ハンマケース8内でスピンドル13の後端は、ギヤハウジング10に保持される軸受35によって軸支されている。スピンドル13の前端軸心には凹部36が形成されている。
打撃機構14は、スピンドル13の前部に外装されたハンマ37と、そのハンマ37を前方へ付勢するコイルバネ38とを含んで構成される。ハンマ37は、前面に図示しない一対の爪を備え、内周面に設けた外側カム溝39と、スピンドル13の外周面に設けた内側カム溝40とに跨がって嵌合するボール41,41を介してスピンドル13と回転方向で係合している。コイルバネ38は、スピンドル13に外装されて前端をハンマ37の後面に設けたリング溝42に挿入させる一方、後端をキャリア部31の前面に当接させて、常態ではハンマ37を前進位置に付勢している。
【0013】
ハンマケース8は、前方へ先細りとなるテーパ筒状で、前端には内面が等径となる小径の軸受部43が形成されて、軸受部43の前端にバンパ44が外装されている。
アンビル4は鉄製の軸状で、軸受部43に軸受メタル45によってスピンドル13と同軸で軸支される外形円筒状の基端部46と、基端部46に同軸で連続して前方へ突出し、外周四面を面取して後述するソケット60を装着する外形角筒状(ここでは正方形筒状)の先端部47とを有する。基端部46の後端には、ハンマ37の爪と回転方向で係合する一対のアーム48,48が形成されると共に、後端軸心には、スピンドル13の凹部36に嵌合する凸部49が形成されている。軸受メタル45は、軸受部43の後端内面より後方へ突出して保持されており、その後端には、アーム48,48の前側を受けるワッシャ50が外装されている。
【0014】
また、先端部47の前端外周には、
図5にも示すように、リング溝51が形成されて、リング溝51に、ソケット60の内面に押圧して抜け抵抗を付与するバネリング52が外装されている。
さらに、アンビル4の軸心には、先端部47の前面から先端部47を越えて後方へ延びる本発明の孔としての横断面円形の軸心孔53が、前面側の開口部54を大径として形成されており、この軸心孔53に、開口部54に嵌合する係合部としての大径の頭部56を有する分離防止手段としての横断面円形のピン55が、略全長に亘って遊挿されている。ピン55の後端部には、抜け止め手段(弾性体)としてのリングスプリング57が外装されて、リングスプリング57が軸心孔53の内面と当接することにより、ピン55の抜けを防止している。このピン55は、アンビル4と同じ鉄製である。
【0015】
先端部47に装着されるソケット60は、六角ボルト等の頭部が嵌合可能な正面視正六角形の六角孔62を開口させた大径部61と、大径部61と同軸で連結されて先端部47に嵌合する正面視正方形状の四角孔64を形成した小径部63とからなる筒状となっている。小径部63には、図示しないOリングが外装される凹溝65が形成され、凹溝65の位置には、小径部63の軸線と直交する直交孔66が貫通形成されている。先端部47に装着した状態での軸心孔53及びピン55の後端は、アンビル4のアーム48の前面よりも前方で、ソケット60の後端よりも後方に位置している。
【0016】
一方、ハンドル3の上部では、トリガ71を前方へ突出させたトリガスイッチ70が設けられると共に、ブラシレスモータ12の正逆切替ボタン72が設けられている。トリガ71の上方で本体ハウジング7には、ハンマケース8の下面を覆ってトリガ71よりも前方へ突出する延設部73が形成されて、延設部73の先端に、アンビル4の前方を照射するLED75を有するライトユニット74が設けられている。
バッテリー装着部5には、ブラシレスモータ12の制御用のスイッチング素子やマイコン等を搭載した制御回路基板77を備えるコントローラ76と、装着されたバッテリーパック6の端子と電気的に接続される端子台78とが収容されている。また、バッテリー装着部5には、打撃力の切替ボタンと表示ランプ等を有して制御回路基板77へ電気的に接続されるスイッチパネル79が設けられている。さらに、バッテリー装着部5の左側面には、正面視がU字状の吊り下げフック80の一端がネジ固定されている。
【0017】
以上の如く構成されたインパクトレンチ1においては、トリガ71を押し込み操作すると、トリガスイッチ70がONしてバッテリーパック6の電源によってブラシレスモータ12が駆動する。すなわち、制御回路基板77のマイコンが、センサ回路基板21の回転検出素子から出力されるロータ16の永久磁石24の位置を示す回転検出信号を得てロータ16の回転状態を取得し、取得した回転状態に応じて各スイッチング素子のON/OFFを制御し、ステータ15の各コイル20に対し順番に電流を流すことでロータ16を回転させる。よって、回転軸22が回転してキャリア部31の遊星歯車32を遊星運動させることでスピンドル13が減速回転し、ボール41を介してハンマ37を回転させるため、ハンマ37が係合するアンビル4が回転してソケット60によるボルト等の締付が可能となる。また、スイッチパネル79の操作でライトON状態とすれば、トリガスイッチ70のONによってLED75が点灯してソケット60の前方を照射する。
【0018】
締付が進んでアンビル4のトルクが高まると、ハンマ37がコイルバネ38の付勢に抗してボール41を内側カム溝40に沿って後方へ転動させながら後退し、爪がアーム48から外れると、コイルバネ38の付勢によってボール41を内側カム溝40に沿って前方へ転動させることでハンマ37は回転しながら前進し、爪をアーム48に再係合させてアンビル4に回転打撃力(インパクト)を発生させる。このインパクトを間欠的に繰り返すことでさらなる締付が行われる。
【0019】
そして、アンビル4に大きなトルクが加わってアンビル4が
図5(D)に示すように先端部47の位置Pで折損することがあっても、軸心孔53に遊挿されるピン55はねじり応力を受けにくいため、ピン55は折損を免れる。よって、折損した先端部47の一部は、ピン55によって分離することなくソケット60と共に元の位置で保持され、落下を防止することができる。特にピン55は、頭部56が大径となっているので、頭部56が開口部54に係合することで折損した先端部分の分離が効果的に防止される。
【0020】
このように、上記形態のインパクトレンチ1によれば、アンビル4は、外形円筒状の基端部46と、基端部46と連続する外形角筒状の先端部47とを有すると共に、基端部46と先端部47とに跨がってアンビル4内で軸線方向に形成される軸心孔53を有し、軸心孔53に、ピン55が挿入されているので、アンビル4が折損することがあっても、ピン55の存在により、先端部47が分離することがないため、ソケット60の本体部2からの分離及び落下を防止することができる。
特にここでは、軸心孔53を、アンビル4の軸心に形成しているので、ねじり応力が加わりにくい位置にピン55を配置でき、ピン55が折損するおそれが低減される。
【0021】
また、基端部46側で軸心孔53とピン55との間に、ピン55の抜け止め手段を設けているので、先端部47が折損した際にピン55が基端部46から外れることが阻止され、先端部47の分離を確実に防止できる。
さらに、抜け止め手段を、ピン55に外装されて軸心孔53の内面を押圧するリングスプリング57としているので、ピン55の抜け止めが簡単に行える。
そして、ピン55に、先端部47の端面に係合する頭部56が設けられているので、抜け止めされたピン55による先端部47の分離防止が効果的に行える。
【0022】
なお、軸心孔53及びピン55の後端は、
図5(E)に示すようにアーム48の前面位置まで後方へ長くしてもよい。これは以下の変更例においても同様である。また、抜け止め手段である弾性体もリングスプリング以外にOリング等も採用できる。
但し、ピン55の抜け止め手段は、リングスプリング57に限らず、
図6に示すように、軸心孔53の後端部分53aのみをピン55の外径と略同径として、ピン55の後端を後端部分53aに圧入させる構造としてもよい。
また、抜け止め手段として、
図7に示すように、軸心孔53の全長をピン55の外径と略同径として、ピン55全体を軸心孔53に圧入させる構造としてもよい。この場合、ピン55全体で抜け止めが行われるため、大径の開口部54や頭部56は不要となる。但し、全体でねじり応力を受けることになるため、先端部47と同時に折損しないように、同じ鉄製でもピン55の方の強度を高くしている。
【0023】
このように、抜け止め手段を、軸心孔53に対するピン55の少なくとも一部の圧入としても、ピン55の抜け止めが簡単に行える。
また、ピン55をアンビル4よりも強度の高い材料で形成すれば、アンビル4と共にピン55が折損するおそれが一層少なくなる。但し、ピンはアンビルと同じ鉄製に限らず、靱性のある樹脂や合金等の他の材料で作製することもできる。
【0024】
加えて、アンビル4の形状も上記形態に限らず、例えば
図8に示すように、アンビル4の後端軸心に、スピンドル13の先端が挿入される前有底孔58が形成される場合は、軸心孔53を前有底孔58と連通するまで貫通形成して、リングスプリング57を備えたピン55を遊挿するようにしてもよい。この構造であってもピン55によるソケット60の落下防止は可能である。
また、この構造の場合も、
図9に示すように、軸心孔53の後端部分53aをピン55と略同径として部分的に圧入したり、
図10に示すように、軸心孔53の全体をピン55と略同径として全体を圧入したりして抜け止め手段を構成しても差し支えない。
そして、上記形態や各変更例において、ピン55の径は、先端部47の面取部分の幅(
図4に示す幅H)に対して25%以下とするのが望ましい。これを越えると先端部47の欠損部分が大きくなりすぎて先端部47の有効断面積が小さくなり、強度低下に繋がるからである。また、トルクが大きくなるとピン55に加わるねじり応力も大きくなるため、25%以下であってもトルクが大きくなるに従ってピン55の径の割合を小さく設定するのが望ましい。
【0025】
一方、ピン55は1本に限らず、2本設けることもできる。
図11,12はその一例を示すもので、インパクトレンチ1自体の構成は先の形態と略同じであるため、重複する説明は省略する。
ここでのアンビル4は、
図8と同様に、後端軸心に、スピンドル13の先端に設けた凸部81が挿入される前有底孔58が形成されている。アンビル4の先端部47には、
図13にも示すように、軸線を中心とした上下の点対称位置に、一対の孔82,82が、後端が前有底孔58の前端よりやや前方となる位置まで形成されている。孔82,82の間で先端部47には、装着されたソケット60の直交孔66に跨がって抜け止め用ピンを貫通させるための貫通孔83が貫通形成されている。そして、各孔82には、孔82の内径と略同径で、アンビル4よりも強度が高い鉄製のピン55がそれぞれ全体を圧入させることで固定されている。
【0026】
このように、孔82,82を、貫通孔83を挟んでアンビル4の軸心を中心とした点対称位置に一対設けて、各孔82にピン55をそれぞれ挿入した場合も、アンビル4に大きなトルクが加わってアンビル4が
図13(D)に示すように先端部47の位置Pで折損することがあっても、ピン55,55は変形しつつ折損を免れる。よって、折損した先端部47の一部は、圧入されたピン55,55によって分離することなくソケット60と共に元の位置で保持され、落下を防止することができる。
この場合、ピン55,55はアンビル4よりも強度を高くするのが望ましい。
【0027】
なお、ピン55が2本の場合も全体的な圧入に限らず、
図14に示すように、各孔82の後端部分82aのみをピン55の外径と略同径として部分的に圧入させ、頭部56を大径とした開口部84に係合させるようにしてもよい。
また、
図15に示すように、ピン55の全体を孔82に遊挿させて後端に外装したリングスプリング57を孔82の内面に押圧させて抜け止めを図ってもよい。
さらに、ピン55の長さも、アンビル4の後端に前有底孔58がなければさらに長くしてもよいし、孔82及びピン55の数を3つ以上として同心円上に配置することもできる。
【0028】
一方、ソケットの落下防止としては横断面円形のピンに限らず、横断面角形や多角形、平板状の部材とする等、アンビルが折損しても工具本体から分離しないようにするための分離防止手段としての分離防止部材を採用することは可能である。この場合、アンビルの外周から分離防止部材で固定して分離不能としたり、アンビルとハウジング(ハンマケースやバンパも含む)との間を分離防止部材で接続して分離不能としたりすることが考えられる。
【0029】
そして、アンビル4が
図11,12のように前有底孔58と貫通孔83とを備える場合、ピンを2本設ける上記変更例の他、
図16に示すような変更例も考えられる。
ここではアンビル4の軸心に軸心孔53を設けて、その軸心孔53に、連結部材としてのワイヤ90を挿入している。ワイヤ90の後端は、前有底孔58に設けられた軸心孔53の直径よりもよりも大径の拡径部としてのスチールボール91にかしめ固定されている。一方、軸心孔53の前方で貫通孔83内には、軸心孔53の直径よりも大径に形成された拡径部としてのOリング92が同軸で配置されて、ワイヤ90の前端は、貫通孔83内でOリング92を貫通係止している。Oリング92を貫通係止したワイヤ90の前端は、軸心孔53内へ折り返されて、ワイヤ90の中間部に沿って挿入される折り返し部93となっている。貫通孔83内には、
図17に示すように、軸心孔53の前方でOリング92を保持する保持溝94がリング状に形成されており、ここに保持されるOリング92の内径は、貫通孔83の内径と等しくなっている。このOリング92の内径は、後述する抜け止めピン67が貫通できればよいため、貫通孔83の内径とは多少の相違があってもよい。
【0030】
よって、
図18に示すように、アンビル4の先端部47にソケット60を嵌合させて直交孔66と貫通孔83とに跨がって抜け止めピン67を挿入し、凹溝65にOリング68を外装させれば、ソケット60が装着される。このとき貫通孔83内では、
図19にも示すように、抜け止めピン67がOリング92を貫通しているので、ワイヤ90の前端は、Oリング92及び抜け止めピン67を介して後方側への抜け止めがなされる。また、ワイヤ90の後端はスチールボール91によって前方側への抜け止めがなされる。このため、先端部47が例えばOリング92より後方の位置(
図18(A)に示す位置P1)で折損することがあっても、前後端が抜け止めされるワイヤ90の存在により、先端部47が分離することがなく、ソケット60も分離しない。また、貫通孔83の位置(
図18(B)に示す位置P2)で折損することがあっても、Oリング92を貫通する抜け止めピン67によりソケット60は分離しないため、先端部47も分離することはない。
【0031】
このように、
図16に示す変更例によれば、軸心孔53の内部に、基端部46と先端部47とに跨がってアンビル4の軸線方向に延びる連結部材(ワイヤ90)が設けられていると共に、ワイヤ90における基端部46側の端部と先端部47側の端部とに、軸心孔53の直径よりも大きい拡径部(スチールボール91、Oリング92)がそれぞれ一体的に設けられているので、アンビル4が折損することがあっても、ワイヤ90の存在により先端部47が分離することがない。よって、ソケット60の本体部2からの分離及び落下を防止することができる。
【0032】
特にここでは、先端部47側で貫通孔83内に設けられるOリング92を、貫通孔83の内径と同径としているので、Oリング92を設けても抜け止めピン67を支障なく挿通できる。
また、抜け止めピン67はOリング92を貫通するので、抜け止めピン67を利用したワイヤ90の抜け止め(ソケット60の分離及び落下防止)が行える。
さらに、連結部材をワイヤ90とし、リング状の拡径部を、ワイヤ90の端部が係止するOリング92としたことで、先端部47の分離及び落下の防止が簡単に行える。
そして、基端部46側に設けられる拡径部を、前有底孔58内でワイヤ90に連結されるスチールボール91としたことで、前有底孔58を利用したワイヤ90の抜け止めが簡単に行える。
【0033】
なお、上記変更例では、先端部47側の拡径部をOリングとしているが、これに限らず、金属製や樹脂製のリング体を設けてワイヤを係止させてもよい。また、
図20,21に示すように、ワイヤ90の前端をリング状に折り曲げて拡径部95を形成し、この拡径部95を保持溝94に保持させて折り返し部93を軸心孔53に挿入させて抜け止めを図ることもできる。
このようにリング状の拡径部95をワイヤ90の端部を折り曲げて形成すれば、抜け止めが簡単に行える。
一方、基端部側の拡径部もスチールボール以外にピン等の他の部材を採用してもよいし、他の部材を用いずにワイヤの後端をリング状やフック状に折り曲げて拡径部としてもよい。
【0034】
また、孔はアンビルの軸心に設ける場合に限らず、偏心位置に設けて連結部材及び拡径部で抜け止めを図ってもよいし、孔を複数設けてそれぞれに連結部材及び拡径部を設けてもよい。なお、孔を複数設ける場合は、例えば軸心を挟む左右に一対の孔を設けて一本のワイヤを挿通させ、ワイヤの前部を貫通孔の保持溝に沿って周回させて拡径部を形成することも考えられる。
但し、連結部材としてはワイヤに限らず、金属製や樹脂製のピン等も採用できる。この場合の拡径部も別体の部材で形成したり、一体に形成したりすればよい。
【0035】
その他、インパクト工具としては、モータがブラシレスでないものや、バッテリーパックでなく交流電源を使用するものでもよいし、インパクトレンチに限らず、アンビルをスピンドルに対して直角に設けたアングルインパクトレンチや、インパクトドライバ、アングルインパクトドライバ等であっても本発明は採用可能である。例えばインパクトドライバでは、ビットを差込装着するためにアンビルの軸心に設けられた装着孔の径方向外側に、1又は2本のピンを配置することが考えられる。
【符号の説明】
【0036】
1・・インパクトレンチ、2・・本体部、3・・ハンドル、4・・アンビル、6・・バッテリーパック、7・・本体ハウジング、8・・ハンマケース、12・・ブラシレスモータ、13・・スピンドル、14・・打撃機構、22・・回転軸、37・・ハンマ、43・・軸受部、46・・基端部、47・先端部、48・・アーム、53・・軸心孔、53a・・後端部分、55・・ピン、56・・頭部、57・・リングスプリング、60・・ソケット、67・・抜け止めピン、82・・孔、82a・・後端部分、83・・貫通孔、90・・ワイヤ、91・・スチールボール、92・・Oリング、95・・拡径部、P,P1,P2・・折損位置。