(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】pn接合素子用の複合鉄酸化物薄膜および光触媒活性物質用の複合鉄酸化物薄膜
(51)【国際特許分類】
C01G 49/00 20060101AFI20220331BHJP
H01F 10/20 20060101ALI20220331BHJP
C01G 49/06 20060101ALI20220331BHJP
B01J 23/78 20060101ALI20220331BHJP
B01J 23/835 20060101ALI20220331BHJP
B01J 23/85 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
C01G49/00 A
H01F10/20
C01G49/06 A
C01G49/06 B
B01J23/78 M
B01J23/835 M
B01J23/85 M
(21)【出願番号】P 2018145344
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-06-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 世嗣
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-212480(JP,A)
【文献】特開2015-151572(JP,A)
【文献】特開2001-176045(JP,A)
【文献】特開2008-91602(JP,A)
【文献】特開2006-162522(JP,A)
【文献】特開2007-39780(JP,A)
【文献】特開平10-116587(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-49/08
B01J 21/00-38/74
H01F 10/00-10/32
H01F 41/14-41/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式L
1-x-yFe
xO
y(但し、0.90≦x+y<1.0、0.27≦x≦0.67、0.37≦y≦0.67、L:Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選択される一種以上の元素)で表わされ、かつ、マグネタイト結晶相またはマグヘマイト結晶相により構成されている第1鉄酸化物層と、
一般式L
1-u-vFe
uO
v(但し、0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされ、かつ、ヘマタイト結晶相により構成されている、前記第1鉄酸化物層とヘテロ構造を構成する表面層としての第2鉄酸化物層と、を備えていることを特徴とするpn接合素子用の複合鉄酸化物薄膜。
【請求項2】
請求項1記載のpn接合素子用の複合鉄酸化物薄膜において、
前記第1鉄酸化物層が、一般式Ge
1-x-yFe
xO
y(但し、0.90≦x+y<1.0、0.33≦x≦0.53、0.47≦y≦0.67)で表わされ、かつ、マグネタイト結晶相により構成され、
前記第2鉄酸化物層が、一般式Ge
1-u-vFe
uO
v(0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされ、かつ、ヘマタイト結晶相により構成されていることを特徴とするpn接合素子用の複合鉄酸化物薄膜。
【請求項3】
一般式L
1-x-yFe
xO
y(但し、0.90≦x+y<1.0、0.27≦x≦0.67、0.37≦y≦0.67、L:Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選ばれる一種以上の元素)で表わされ、かつ、マグネタイト結晶相またはマグヘマイト結晶相により構成されている第1鉄酸化物層と、
一般式L
1-u-vFe
uO
v(但し、0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされ、かつ、ヘマタイト結晶相により構成されている、前記第1鉄酸化物層とヘテロ構造を構成する表面層としての第2鉄酸化物層と、を備えていることを特徴とする光触媒活性物質用の複合鉄酸化物薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pn接合素子として用いられる材料および光触媒活性物質として用いられる材料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉄は、酸化するにつれてウスタイト(Fe1-xO)からマグネタイト(Fe3O4)、マグヘマイト(γ-Fe2O3)、そして最終的にはヘマタイト(α-Fe2O3)へと相転移するため、半金属、フェリ磁性および半導体特性を示す。Fe3O4は、八面体BサイトにおけるFe2+と、四面体Aサイトおよび八面体Bサイトの両方におけるFe3+と、を有する逆スピネル構造を形成する。この状況は、120Kを超える温度で電子がFe2+とFe3+との間を移動するため(Verwey遷移)電気抵抗率が比較的低く(例えば、非特許文献1参照)、かつ、そのフェリ磁性挙動は850Kまで存在する(例えば、非特許文献2参照)。これらの特性は、スピントロニクスデバイス(例えば、非特許文献3参照)、ガスセンサ(例えば、非特許文献4参照)、抵抗性ランダムアクセスメモリ(例えば、非特許文献5参照)などへの適用可能性がある。
【0003】
Fe3O4を含有するデバイスまたは素子の性能を維持し、他のアプリケーションでの使用を拡大するためには、Fe3O4の転移温度を上昇させる必要がある。粉末Fe3O4内の相転移は、熱処理温度および結晶サイズに依存し(例えば、非特許文献6~17参照)、温度が493Kを超えると、300nm以下のサイズの結晶がγ-Fe2O3に変化する(例えば、非特許文献11参照)。これは、粒径が小さくなるにつれて、相転移の活性化エネルギーが減少するために起こる(例えば、非特許文献14参照)。Mn、Co、Ni、Zn、Cu、Al、VおよびCrのうち少なくとも一種が添加された場合、転移温度は773Kから923Kまで上昇する。Fe3O4コアを酸化から保護するため、SnO2(例えば、非特許文献18参照)およびリン酸炭素材料(例えば、非特許文献19参照)のシェルを有するコア-シェル構造を形成することなど、鉄酸化物のナノ粒子に関する代替技術が提案されている。薄膜として形成された場合、573K~603Kの温度で空気中において無添加Fe3O4がγ-Fe2O3に相転移するが(例えば、非特許文献20参照)、金属添加Fe3O4薄膜に耐酸化性をもたせる方法は不明である。
【0004】
本発明者により、金属添加Fe3O4薄膜が熱処理されることにより、表面層にヘマタイト層が形成されて当該薄膜の耐酸化性の向上が図られることが報告されている(例えば、非特許文献21参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】E, J. Verwey, P. W. Haayman, and F. C. Romeijn, J. Chem. Phys. 15 (1947) 181.
【文献】G. A. Samara, A. A. Giardini, Phys. Rev. 186 (1969)578.
【文献】K. I. Aoshima and S. X. Wang, J. Appl. Phys. 93 (2003) 7954.
【文献】M. Aronniemi, J. Saino and J. Lahtinen, Thin Solid Films 516 (2008) 6110.
【文献】K. Kinoshita, T.Tamura, M. Aoki, Y. Sugiyama and H. Tanaka, Appl.Phys. Lett. 89 (2006) 103509.
【文献】M. S. Cresser and N. T. Livesev, Analyst 109 (1984) 219.
【文献】B. Gillot, A. Rouset and G. Dupre, J. Solid State Chem. 25 (1978) 263.
【文献】C. E. Mvllins, J. SoilSci. 28 (1977) 223.
【文献】R. Ven'ch and E. Schmiobauer, J. Mag. Mag. Mat. 37 (1983) 63.
【文献】S. Nasrazadani and A . Raman, Corrosion Science 34 (1993) 1355.
【文献】K. J. Gallagher, W. Feitknecht, and U. Mannweiler, Nature (London) 217 (1968) 1118.
【文献】P. S. Sidhu, Clays Clay Miner. 36 (1988) 31-38.
【文献】J. Lai, K. V. P. M. Shafi, K. Loos, A. Ulman, Y. Lee, T. Vogt, and C. Estournes, J. Am. Chem. Soc. 125 (2003) 11470.
【文献】G. Gnanaprakash, S. Ayyappan, T. Jayakumar, J. Philip and B. Raj, Nanotechnology 17 (2006) 5851.
【文献】S. S. Pati, S. Gopinath, G. Panneerselvam, M. P. Antony, and J. Philip, J. Appl. Phys. 112 (202) 054320.
【文献】S. S. Pati and J. Philip, J. Appl. Phys. 113 (2013) 044314.
【文献】A. Jafari, S. FarjamiShayesteh, M. Salouti, K. Boustani, J. Mag. And Mag. Mat. 379 (2015) 305.
【文献】X. Xu, M. Ge, C. Wang, and J. Z. Jiang, Appl. Phys. Lett. 95 (2009) 183112.
【文献】T. Muthukumaran and J. Philip, J. Appl. Phys. 115 (2014) 224304.
【文献】S. Hattori, Y. Ishii, M. Shinohara and T. Nakagawa, IEEE Transactions on Magnetics, MAG-15 (1979) 1549-1552.
【文献】S. Abe “Ge-doped magnetite thin films with an enhanced resistance to oxidation”, Journal of Magnetism and Magnetic Materials 465 (2018) 25-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マグネタイト結晶相により構成されている第1鉄酸化物層と、第1鉄酸化物とヘテロ構造をなす表面層としてのヘマタイト結晶層により構成されている第2鉄酸化物層と、を備えている複合鉄酸化物薄膜の適用範囲の拡張を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のpn接合素子用の複合鉄酸化物薄膜は、一般式L1-x-yFexOy(但し、0.90≦x+y<1.0、0.27≦x≦0.67、0.37≦y≦0.67、L:Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選択される一種以上の元素)で表わされ、かつ、マグネタイト結晶相またはマグヘマイト結晶相により構成されている第1鉄酸化物層と、一般式L1-u-vFeuOv(但し、0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされ、かつ、ヘマタイト結晶相により構成されている、前記第1鉄酸化物層とヘテロ構造を構成する表面層としての第2鉄酸化物層と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
本発明の光触媒活性物質用の複合鉄酸化物薄膜は、一般式L1-x-yFexOy(但し、0.90≦x+y<1.0、0.27≦x≦0.67、0.37≦y≦0.67、L:Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選ばれる一種以上の元素)で表わされ、かつ、マグネタイト結晶相またはマグヘマイト結晶相により構成されている第1鉄酸化物層と、一般式L1-u-vFeuOv(但し、0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされ、かつ、ヘマタイト結晶相により構成されている、前記第1鉄酸化物層とヘテロ構造を構成する表面層としての第2鉄酸化物層と、を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選ばれる一種以上の金属元素Lが添加された、本発明に係る複合鉄酸化物薄膜は、pn接合素子または光触媒活性物質として用いられる。これにより、当該複合鉄酸化物薄膜の応用範囲の拡張が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物薄膜の構成説明図。
【
図2】本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物薄膜の電気特性測定方法に関する説明図。
【
図3A】Geが添加された複合鉄酸化物薄膜の電気特性に関する説明図。
【
図3B】Moが添加された複合鉄酸化物薄膜の電気特性に関する説明図。
【
図3C】Wが添加された複合鉄酸化物薄膜の電気特性に関する説明図。
【
図3D】Mgが添加された複合鉄酸化物薄膜の電気特性に関する説明図。
【
図4】第1鉄酸化物層X1に対する照射光の波長と、Geが添加された複合鉄酸化物薄膜のエタノールガスの分解能との関係に関する説明図。
【
図5】GeおよびMgのそれぞれが添加された複合鉄酸化物薄膜のそれぞれの、AM1.5の光の照射時間とエタノールガスの分解能との関係に関する説明図。
【
図6】W添加複合鉄酸化物薄膜の、AM1.5の光の照射時間とアセトアルデヒドガスの分解能との関係に関する説明図。
【
図7】MoおよびWのそれぞれが添加された複合鉄酸化物薄膜の、AM1.5の光の照射時間とアセトアルデヒドガスの分解能との関係に関する説明図。
【
図8】G本発明の複合鉄酸化物薄膜により構成されている光触媒活性物質のほか、代表的な光触媒活性物質としてのTiO
2およびWO
3のそれぞれが触媒活性を示す光波長帯に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(構成)
本発明の一実施形態としての複合鉄酸化物薄膜(Fe
3O
4/α-Fe
2O
3薄膜)は、
図1に模式的に示されているように、第1鉄酸化物層X1と、表面層としての第2鉄酸化物層X2と、を有している。第1鉄酸化物層X1は、マグネタイト(Fe
3O
4)結晶相またはマグヘマイト(γ-Fe
2O
3)結晶相により構成されている。第2鉄酸化物層X2は、ヘマタイト(α-Fe
2O
3)結晶相により構成されている。
【0013】
第1鉄酸化物層X1と第2鉄酸化物層X2とはヘテロ構造を有している。ここで「ヘテロ構造」とは、2つの層がヘテロ接合されたかのような境界面を有し、一体不可分的な形態で積み重なっている構造を意味する。第2鉄酸化物層X2の表面は平坦度が低く、粗さ曲線が不規則的であり、表面粗さRaは200nm以下の範囲に含まれている。
【0014】
第1鉄酸化物層X1は、一般式L1-x-yFexOy(但し、0.90≦x+y<1.0、0.27≦x≦0.67、0.37≦y≦0.67、L:Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選択される一種以上の元素)で表わされる。第2鉄酸化物層X2は、一般式L1-u-vFeuOv但し、0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされる。
【0015】
第1鉄酸化物層X1が、一般式Ge1-x-yFexOy(但し、0.90≦x+y<1.0、0.33≦x≦0.53、0.47≦y≦0.67)で表わされ、かつ、マグネタイト結晶相により構成され、第2鉄酸化物層X2が、一般式Ge1-u-vFeuOv(0.99≦u+v≦1.0、0.39≦u≦0.41、0.59≦v≦0.61)で表わされ、かつ、ヘマタイト結晶相により構成されていてもよい。
【0016】
(製造方法)
マグネタイト(Fe3O4)のターゲットに添加対象となる金属元素のチップが配置された複合ターゲットが、薄膜製造装置(例えば、スパッタリング装置)に設置される。金属添加濃度としては、金属添加Fe3O4薄膜の磁化が最大化されるような濃度、すなわちGeの場合は3.4at.%、Mgの場合は5.1at.%が採用された。そのうえで、例えばコーニング社製#7059ガラス基板等の基板が適当な時間にわたりスパッタエッチングされた後、交流電圧がターゲットに印加されて、Arガス等の雰囲気中で当該金属が添加されたFe3O4薄膜の成膜が行われる(例えば、非特許文献21参照)。この際、基板付近におけるバイアス電圧などの特殊な処理を施すことなく当該薄膜が作製される。
【0017】
次に、金属添加Fe3O4薄膜が、例えば673~973Kの温度範囲に含まれる所定の熱処理温度で空気中において、例えば10分~500日の範囲に含まれる所定の熱処理期間にわたり熱処理された。これにより、金属添加Fe3O4薄膜の表面層が第2鉄酸化物層X2に変化し、当該表面層より基板側にあって当該薄膜の構造がほぼそのまま維持されている第1鉄酸化物層X1が構成されて本発明の複合鉄酸化物薄膜が作製される。
当該複合鉄酸化物薄膜は、チャンバの内部が窒素などの適当なガスによりパージされたうえで、当該チャンバから取り出される。
【0018】
(pn接合素子としての複合鉄酸化物薄膜)
図2に示されているように、第2鉄酸化物層X2の間隙を介して第1鉄酸化物層X1に接するように電極Y(例えばAg電極)が取り付けられ、当該電極および第2鉄酸化物層X2のそれぞれに第1電極Y1および第2電極Y2のそれぞれを接触させた状態で、第1電極Y1および第2電極Y2を介して複合鉄酸化物薄膜の電気特性が測定された。
【0019】
図3A~
図3Dのそれぞれには、Ge、Mo、WおよびMgのそれぞれが添加された4種類の複合鉄酸化物薄膜のそれぞれの電圧-電流特性が示されている。第1電極Y1に正電圧が印加された場合が正電圧に定義され、第2電極Y2に正電圧が印加された場合が負電圧に定義されている。
【0020】
図3Aに示されているように、Geが添加されている複合鉄酸化物薄膜に負電圧(逆方向バイアス電圧)が印加された場合、第1電極Y1および第2電極Y2の間に電流はほとんど流れない。その一方、Geが添加されている複合鉄酸化物薄膜に正電圧(順方向バイアス電圧)が印加された場合、当該印加電圧が増大していく過程で閾値を超えてから第1電極Y1および第2電極Y2の間に流れる電流が急激に増加する。これは、第1鉄酸化物層X1および第2鉄酸化物層X2のそれぞれがp型半導体およびn型半導体の伝導型を有しており、第1鉄酸化物層X1および第2鉄酸化物層X2の界面がpn接合界面を構成していることを示している。
【0021】
その一方、
図3B~
図3Dのそれぞれに示されているように、Mo、WおよびMgのそれぞれが添加された複合鉄酸化物薄膜のそれぞれに負電圧が印加された場合も正電圧が印加された場合も第1電極Y1および第2電極Y2の間に電流はほとんど流れない。これは、第1鉄酸化物層X1として形成される物質が、マグネタイト(Fe
3O
4)ではなくマグヘマイト(γ-Fe
2O
3)であることに起因する。すなわち、マグヘマイトは絶縁体であるため所定の電圧を印可しても電流はほとんど流れないのに対し、マグネタイトは電気抵抗が比較的低いため、
図3Aのような結果が得られる。他方、マグヘマイトはp型の伝導型を有することは広く知られており、整流性が観測されない、Mo添加複合鉄酸化物薄膜(
図3B参照)、W添加複合鉄酸化物薄膜(
図3C参照)およびMg添加複合鉄酸化物薄膜(
図3D参照)においてもpn接合を形成していると考えられる。
【0022】
よって、Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選択される1種以上の元素が添加されている複合鉄酸化物薄膜は、pn接合ダイオードのように、pn接合素子として用いられる。
【0023】
(光触媒活性物質としての複合鉄酸化物薄膜)
図4には、エタノールガスの赤外吸収スペクトルとAM1.5の光の照射時間との関係が示されている。試料として
図3Aの電流-電圧特性を発現するGe添加複合鉄酸化物薄膜を用いた。波数2800~3100cm
-1の範囲に観測されるピークがエタノールガスに起因し、照射時間の増加と共にピーク強度は減少する傾向を示す。すなわち、光照射によりエタノールガスが分解されることがわかる。前記のように粗構造(ランダム構造)を有している第2鉄酸化物層X2は、粗構造を有しない場合と比較して比表面積の増大が図られており、雰囲気との接触面積の増大、ひいてはエタノールの分解能の向上が図られている。
【0024】
図5には、GeおよびMgのそれぞれが添加された複合鉄酸化物薄膜のそれぞれの、AM1.5の光の照射時間とエタノールガスの分解能との関係が示されている。
図5から、Mgが添加された複合鉄酸化物薄膜の吸光度は比較的緩やかに変化するのに対し、Geが添加された複合鉄酸化物薄膜の吸光度は比較的大きく減少することがわかる。すなわち、Ge添加試料のエタノールガスの分解能力が比較的高いことがわかる。これは、第1鉄酸化物層X1として形成される鉄酸化物が異なること(Ge添加試料ではマグネタイト結晶相、Mg添加試料ではマグヘマイト結晶相)、および第1鉄酸化物層X1と第2鉄酸化物層X2のヘテロ構造組織が異なることに起因すると考えられる。
【0025】
図6には、Wが添加された複合鉄酸化物薄膜の、AM1.5の光の照射時間とアセトアルデヒドガスの赤外吸収スペクトルとの関係が示されている。波数2600~3200cm
-1の範囲に観測されるピークがアセトアルデヒドガスに起因し、照射時間の増加と共にピーク強度は減少する傾向を示す。すなわち、光照射によりアセトアルデヒドガスが分解されていることがわかる。
【0026】
図7には、MoおよびWのそれぞれが添加された複合鉄酸化物薄膜の、AM1.5の光の照射時間とアセトアルデヒドガスの赤外吸収ピーク強度との関係が示されている。MoおよびWのそれぞれが添加された複合鉄酸化物薄膜の吸光度の減少傾向は比較的類似し、光照射時間が6時間経過後ではほぼ両者は近い値を示す。すなわち、MoおよびW添加試料のアセトアルデヒドガスの分解能力がほぼ同等であることがわかる。これは、第1鉄酸化物層X1として形成される鉄酸化物が共にマグヘマイト(γ-Fe
2O
3)であることに起因すると考えられる。
【0027】
よって、Ge、Mo、WおよびMgからなる群から選択される一種以上の元素が添加されている複合鉄酸化物薄膜は、AM1.5の光または0.56μmの波長帯の光に応答してエタノールまたはアセトアルデヒドなどの有機物の分解能を有する光触媒活性物質として用いられる。
図8には、本発明の複合鉄酸化物薄膜により構成されている光触媒活性物質のほか、代表的な光触媒活性物質としてのTiO
2およびWO
3のそれぞれが触媒活性を示す光波長帯が示されている。本発明の複合鉄酸化物薄膜により構成されている光触媒活性物質は、可視光波長帯においても触媒活性を示すことが示されている。
【符号の説明】
【0028】
X1‥第1鉄酸化物層、X2‥第2鉄酸化物層。