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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ビタミン類を含有する容器詰乳飲料
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/38 20210101AFI20220331BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220331BHJP
   A23C 9/158 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A23L2/38 P
A23L2/00 B
A23C9/158
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018228751
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2020089308
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2019-12-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブページ「商品情報 牛乳、乳飲料『1日分のビタミンミルク』」 ウェブサイト:https://www.chichiyasu.com/products/milk/milk_010.html 掲載日:平成30年10月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(73)【特許権者】
【識別番号】506108789
【氏名又は名称】チチヤス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】越智 貴之
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 卓也
(72)【発明者】
【氏名】花崎 健一
(72)【発明者】
【氏名】夢川 琢也
(72)【発明者】
【氏名】太田 志穂
(72)【発明者】
【氏名】竹本 正治
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102613294(CN,A)
【文献】特開2006-320222(JP,A)
【文献】七訂 食品成分表 2016,初版第1刷,2016年04月01日,p.184-185
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/38
A23L 2/00
A23C 9/158
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミン類を含有する容器詰乳飲料であって、
前記ビタミン類を30~150mg/100g含有し、
無脂乳固形分を8.0~15.0質量%含有し、
糖質を4.0~8.5質量%含有し、
前記糖質に対する前記無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/糖質)が1.2~1.8である
ことを特徴とする容器詰乳飲料。
【請求項2】
香料が添加されていないことを特徴とする請求項1に記載の容器詰乳飲料。
【請求項3】
pHが5.5~7.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載の容器詰乳飲料。
【請求項4】
前記ビタミン類が、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンEおよび葉酸からなる群より選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の容器詰乳飲料。
【請求項5】
前記ビタミン類に含まれるビタミンCがL-アスコルビン酸2-グルコシドであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の容器詰乳飲料。
【請求項6】
前記糖質におけるオリゴ糖の割合が2.5~30.0質量%であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の容器詰乳飲料。
【請求項7】
乳脂肪分を0.50~1.50質量%含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の容器詰乳飲料。
【請求項8】
ビタミン類を含有する容器詰乳飲料の製造方法であって、
前記ビタミン類を30~150mg/100gに調整し、
無脂乳固形分を8.0~15.0質量%に調整し、
糖質を4.0~8.5質量%に調整し、
前記糖質に対する前記無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/糖質)を1.2~1.8に調整する
ことを特徴とする容器詰乳飲料の製造方法。
【請求項9】
ビタミン類を30~150mg/100g含有する容器詰乳飲料のビタミン臭味抑制方法であって、
無脂乳固形分を8.0~15.0質量%に調整し、
糖質を4.0~8.5質量%に調整し、
前記糖質に対する前記無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/糖質)を1.2~1.8に調整する
ことを特徴とする容器詰乳飲料のビタミン臭味抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミン類を含有する容器詰乳飲料及びその製造方法、並びに、ビタミン類を含有する容器詰乳飲料のビタミン臭味抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢者人口の増加、健康寿命の延長に伴い、高齢者向けのサプリメントの需要が高まっている。
【0003】
一方、動物から得られるミルクは、栄養素密度が高く、少ないカロリーで効率よく必要とされる栄養素をとることができ、幼児や児童、若者だけでなく、食事に制限があったり、食事の量が少ない高齢者にも適した飲食品である。実際に、効率的な栄養補給の観点から、高齢者向けの粉ミルク型サプリメント等も上市されている。
【0004】
容器詰飲料(所謂RTD)が広く普及しているのにも係らず、容器詰飲料の形態で販売されるミルクサプリメントは広く上市されていない。容器詰飲料であれば、飲用する際に粉末を溶解する手間もなく、リキャップによる持ち運びも容易であり、かつ長期間保存することも可能であることから、高齢者などからのニーズは高く、容器詰乳飲料に対しても栄養強化型のバリエーションが強く求められている。このような中、鉄やカルシウム等を添加した乳飲料が提案されている(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-016164号公報
【文献】特開2012-100615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、前述した鉄やカルシウム等の他、ビタミン等の栄養成分を添加した容器詰乳飲料も望まれている。しかし、容器詰乳飲料の中でも、香料や果汁を添加せず、牛乳に近しい風味を有する白物乳飲料は、香味や色調がデリケートであるため、ビタミン等の栄養成分を添加すると、栄養成分由来の臭味が際立ち、品質が著しく損なわれてしまう。よって、白物乳飲料においては、乳本来の風味を活かした上で、消費者ニーズに対応する栄養成分を配合することは容易ではなく、容器詰乳飲料において臭味が目立つビタミン類を添加することは困難であった。
【0007】
そこで本発明の課題は、ビタミン類を含有する容器詰乳飲料において、ビタミン由来の臭味が抑制された容器詰乳飲料を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題を解決すべく研究を行った結果、無脂乳固形分、糖質およびこれらの比を調整することで、ビタミン類を含有する容器詰乳飲料であっても、ビタミン由来の臭味を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のとおりである。
【0009】
〔1〕 ビタミン類を含有する容器詰乳飲料であって、
無脂乳固形分を6.5~15.0質量%含有し、
糖質を4.0~8.5質量%含有し、
前記糖質に対する前記無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/糖質)が1.2~1.8である
ことを特徴とする容器詰乳飲料。
〔2〕 香料が添加されていないことを特徴とする〔1〕に記載の容器詰乳飲料。
〔3〕 pHが5.5~7.5であることを特徴とする〔1〕〔2〕に記載の容器詰乳飲料。
〔4〕 前記ビタミン類が、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンEおよび葉酸からなる群より選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする〔1〕~〔3〕に記載の容器詰乳飲料。
〔5〕 前記ビタミン類に含まれるビタミンCがL-アスコルビン酸2-グルコシドであることを特徴とする〔1〕~〔4〕に記載の容器詰乳飲料。
〔6〕 前記糖質におけるオリゴ糖の割合が2.5~30.0質量%であることを特徴とする〔1〕~〔5〕に記載の容器詰乳飲料。
〔7〕 乳脂肪分を0.50~1.50質量%含有することを特徴とする〔1〕~〔6〕に記載の容器詰乳飲料。
〔8〕 ビタミン類を含有する容器詰乳飲料の製造方法であって、
無脂乳固形分を6.5~15.0質量%に調整し、
糖質を4.0~8.5質量%に調整し、
前記糖質に対する前記無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/糖質)を1.2~1.8に調整する
ことを特徴とする容器詰乳飲料の製造方法。
〔9〕 ビタミン類を含有する容器詰乳飲料のビタミン臭味抑制方法であって、
無脂乳固形分を6.5~15.0質量%に調整し、
糖質を4.0~8.5質量%に調整し、
前記糖質に対する前記無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/糖質)を1.2~1.8に調整する
ことを特徴とする容器詰乳飲料のビタミン臭味抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る容器詰乳飲料は、ビタミン類を含有するものでありながら、ビタミン由来の臭味が抑制されたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、ビタミン類を含有するとともに、無脂乳固形分、糖質などを含有するものである。
【0012】
前述したとおり、容器詰乳飲料として、ビタミン等の栄養成分を添加したものも望まれていたが、従来の容器詰乳飲料は、香味や色調がデリケートであるため、ビタミン等の栄養成分を添加すると、栄養成分由来の臭味が際立ち、品質が著しく損なわれてしまうという問題がある。このような傾向は、香料や果汁を添加せず、牛乳に近しい風味を有する白物乳飲料において、特に顕著である。そのため、乳本来の風味を活かした上で、消費者ニーズに対応する栄養成分を配合することは容易ではなかった。
これらに対し、本発明者らは、無脂乳固形分や糖質含有量などを調整することで、ビタミン類を含有しながらも、ビタミン由来の臭味を抑制できることを見出した。
【0013】
さらに本発明者らは、ビタミン由来の臭味を抑制しようとして無脂乳固形分や糖質を多く含有させると、メイラード反応や経時によって液色が褐色に変化してしまうといった問題が生じ得ることを見出した。かかる褐色変化は、特に白物乳飲料において問題となる。かかる問題に対しても、無脂乳固形分や糖質含有量などを調整することで、ビタミン由来の臭味が抑制されつつ、褐色変化をも抑制できることを見出した。
以下、本実施形態の構成について詳述する。
【0014】
(容器詰乳飲料)
本実施形態において「乳飲料」とは、生乳、牛乳もしくは特別牛乳またはこれらを原料として製造した食品を主要原料とした飲料であって、重量百分率で乳固形分3.0%以上の成分を含有するものをいう。また、「容器詰乳飲料」とは、容器に充填した乳飲料をいう。
乳飲料の主要原料としては、加工乳、調整乳、乳飲料、牛乳由来の成分などが挙げられる。より具体的には、各種液状乳類(例えば牛乳、やぎ乳、加工乳、脱脂乳、乳飲料)や、粉乳類(例えば全粉乳、脱脂粉乳、調整粉乳)、練乳類(例えば無糖練乳、加糖練乳)、クリーム類、発酵乳(例えば全脂無糖ヨーグルトや脱脂加糖ヨーグルトやドリンクタイプ・ヨーグルト等のヨーグルト、乳酸菌飲料)、チーズ類(例えば各種ナチュラルチーズ、プロセスチーズ)、アイスクリーム類(例えばアイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、ソフトクリーム)、シャーベットやこれらを含む組成物等を適宜用いることができる。好ましくは乳および脱脂粉乳を適宜単独または組み合わせて使用することができる。
【0015】
本実施形態の乳飲料は、いわゆる「白物乳飲料」であることが好ましい。ここで本実施形態において「白物乳飲料」とは、乳飲料であって、外観が白色であり牛乳風味を有する飲料を意味する。「白物乳飲料」には、コーヒー乳飲料、イチゴ味乳飲料といった牛乳以外の風味を有するいわゆる「色物乳飲料」は含まれない。
本実施形態においては、ビタミン由来の臭味が抑制されつつ、さらに褐色変化をも抑制できるため、白物乳飲料にも好適に適用することができる。
【0016】
(無脂乳固形分)
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、無脂乳固形分(SNF)を含有する。ここで、無脂乳固形分は、乳飲料の上記乳由来原料に由来するものであり、乳飲料において表示が義務付けられているものである。
本実施形態においては、無脂乳固形分が6.5質量%以上であることが好ましく、7.0質量%以上であることがさらに好ましく、8.0質量%以上であることが特に好ましい。上記下限値以上の無脂乳固形分を含有することで、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することができる。さらに、無脂乳固形分に由来する風味が十分に優れコクとのバランスがより良好なものとなるという効果も奏する。
また、上記無脂乳固形分は、15.0質量%以下であることが好ましく、12.5質量%以下であることがさらに好ましく、11質量%以下であることがとりわけ好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。無脂乳固形分が上記上限値以下となることで、乳飲料の褐色変化を効果的に抑制することができるとともに、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することができ、さらに無脂乳固形分に由来する風味が過度にならず乳飲料の風味が良好なものとなる。また無脂乳固形分が多すぎると、無脂乳固形分の過度な風味(例えば、苦味、雑味等)とビタミン類に由来する臭味が相まって、不快な臭味をより感じやすくなる場合があるが、無脂乳固形分が上記上限値以下であるとこのような不快な臭味がほとんど感じられないものとなる。
【0017】
(乳脂肪分)
本実施形態に係る容器詰乳飲料において、乳脂肪分(MF)の量は特に限定されないが、例えば、0.5質量%以上であることが好ましく、0.6質量%以上であることがさらに好ましい。乳脂肪分が上記下限値以上であると、乳脂肪分に由来する風味が十分に優れコクとのバランスがより良好なものとなり好ましい。
乳脂肪分の上限値も特に限定されないが、例えば、1.5質量%以下であることが好ましく、1.2質量%以下であることが特に好ましい。ここで、乳脂肪分が多すぎるとビタミン類に由来する臭味がかえって強調されたり、褐色変化を促進してしまう場合があるが、乳脂肪分が上記上限値以下であると、ビタミン類に由来する臭味や乳飲料の褐色変化をより効果的に抑制することができ、好ましい。
【0018】
なお、上記無脂乳固形分および乳脂肪分は、乳由来成分を適宜配合することにより調整可能である。無脂乳固形分および乳脂肪分の調整は原料の選択、配合や無脂乳固形分および乳脂肪分の添加などの種々の方法で可能であり、さらには濾過工程や吸着工程等の製造加工工程でも調整することができる。好ましくは乳、乳原料の添加量により調整する。
【0019】
(糖質)
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、糖質を含有する。ここで、容器詰乳飲料に含まれる糖質には、上記無脂乳固形分に由来するものの他、乳由来成分とは別の原料に由来する糖質も含まれる。
無脂乳固形分に由来する糖質としては、例えば、ラクトース、グルコース及びガラクトース等が挙げられる。一方、乳由来成分とは別の原料に由来する糖質としては、スクロース、グルコース、フルクトース、マルトースなどが挙げられ、さらに、オリゴ糖などの多糖類、糖アルコール、トレハロース、デキストリンなどを用いてもよい。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも、糖質としてオリゴ糖を含有させる態様は、本実施形態の特に好ましい態様の一つである。
【0020】
本実施形態の容器詰乳飲料は、糖質含有量が4.0質量%以上であることが好ましく、4.5質量%以上であることがさらに好ましく、5.0質量%以上であることが特に好ましい。糖質含有量が上記下限値以上であることで、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することができる。さらに、糖質に由来する甘味と濃度により風味がより良好なものとなるという効果も奏する。
また、上記糖質含有量は、8.5質量%以下であることが好ましく、7.0質量%以下であることがさらに好ましく、6.0質量%以下であることが特に好ましい。糖質含有量が上記上限値以下であることで、乳飲料の褐色変化を効果的に抑制することができるとともに、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することができ、さらに乳に由来する風味を損なわず風味が良好なものとなる。また糖質が多すぎると、糖質の過度な風味とビタミン類に由来する臭味が相まって、不快な臭味をより感じやすくなる場合があるが、糖質含有量が上記上限値以下であるとこのような不快な臭味がほとんど感じられないものとなる。
なお、糖質含有量は、例えば、原料の選択、原料の配合や糖類の添加など、種々の方法で調整可能である。
【0021】
また、前述したとおり、本実施形態においては糖質としてオリゴ糖を含有させることが好ましい。オリゴ糖は、甘味が控えめでありながら、ビタミン類の臭味抑制効果に優れるとともに、乳飲料の褐色変化を起こしにくいため、本実施形態の糖質として特に好適である。
容器詰乳飲料におけるオリゴ糖の含有量は、0.1~2.0質量%であることが好ましく、0.3~1.0質量%であることが特に好ましい。オリゴ糖含有量が上記範囲にあると、ビタミン類の臭味抑制効果に優れ、かつ乳飲料の褐色変化を起こしにくいといったオリゴ糖の効果がより一層顕著なものとなる。また、オリゴ糖含有量が上記上限値以下であることで、オリゴ糖に由来する甘味が過度とならずに乳の風味を感じやすくなる。
糖質含有量の合計に対するオリゴ糖の割合(オリゴ糖/糖質)は、2.5~30.0質量%であることが好ましく、4.0~25.0質量%であることがさらに好ましく、5.0~16.0質量%であることが特に好ましい。糖質含有量の合計に対するオリゴ糖の割合が上記範囲にあることで、乳飲料の褐色変化の抑制とビタミン類に由来する臭味の抑制とを両立させることがより容易になる。また、オリゴ糖の割合が上記上限値以下であると、乳に由来する風味を良好に保ちつつ、ビタミン類の臭味抑制を効果的に抑制することができる。
なお、オリゴ糖の割合は、オリゴ糖の添加などにより調整可能である。
【0022】
(無脂乳固形分/糖質)
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、糖質に対する無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/糖質)が1.2~1.8であることが好ましく、1.3~1.75であることがさらに好ましく、1.4~1.7であることが特に好ましい。無脂乳固形分/糖質が上記範囲にあることで、乳飲料の褐色変化を抑制しつつ、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することができる。
ここで、本発明者らの知見によれば、ビタミン類に由来する臭味には、無脂乳固形分により抑制し得る臭味(例えば、臭い、不快味等)と、糖質により抑制し得る臭味(例えば、苦味)とで、異なっているものと認められる。そのため、ビタミン類に由来する臭味を抑制するためには、無脂乳固形分と糖質とのバランスが重要であり、無脂乳固形分/糖質が上記範囲にあることで、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することができるものと考えられる。ただし、本実施形態の効果はかかる作用機序に限定されるものではない。
また、無脂乳固形分や糖質が多すぎると、無脂乳固形分の過度な風味(例えば、苦味、雑味等)や糖質の過度な風味(甘味等)と、ビタミン類に由来する臭味とが相まって、不快な臭味をより感じやすくなる場合があるが、無脂乳固形分/糖質が上記範囲にあると、このような相乗的に感じられやすくなる不快な臭味は、ほとんど感じられないものとなる。
【0023】
また、本実施形態に係る容器詰乳飲料において、オリゴ糖に対する無脂乳固形分の質量比率(無脂乳固形分/オリゴ糖)は、5.0~50.0であることが好ましく、7.0~35.0であることが特に好ましい。無脂乳固形分/オリゴ糖が上記範囲にあることで、オリゴ糖の効果が発揮されやすくなり、すなわち乳飲料の褐色変化を抑制しつつ、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することがより容易となる。
【0024】
(たんぱく質,ミネラル,カルシウム)
本実施形態に係る容器詰乳飲料において、たんぱく質量は特に限定されないが、例えば、1.5~8質量%とすることができ、2.5~5質量%とすることができる。
また、カルシウム量も特に限定されないが、例えば、50~250mg/100gとすることができ、80~150mg/100gとすることができる。
さらに、ミネラル量も特に限定されないが、例えば、0.2~0.8質量%とすることができ、0.3~0.6質量%とすることができる。
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、ビタミン類由来の臭味が抑制され好ましい風味を備えるものであるが、たんぱく質量、ミネラル量、カルシウム量などが上記範囲にあれば、乳由来の好ましい生理活性を発揮しやすくなり、また乳由来の好ましい風味がより一層感じられやすくなる。
【0025】
(ビタミン類)
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、ビタミン類を含有するものである。
本実施形態における「ビタミン類」とは、食品表示基準において栄養強調表示が可能なビタミン類をいい、具体的には、ナイアシン、パントテン酸、ビオチン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、および葉酸をいう。なお、本実施形態のビタミン類は、上記ビタミン類として添加物表示が可能な誘導体も含む概念である。これらのビタミン類は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、これらの中でも、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンEおよび葉酸の7種からなる群より選択される1種または2種以上を含むことが好ましく、これら7種を全て含むことが特に好ましい。
【0026】
ここで、ビタミン類を添加するとこれらに由来する臭味が際立ち、品質が著しく損なわれてしまうという問題があり、香味や色調がデリケートである容器詰乳飲料(中でも白物乳飲料)については、ビタミン類を添加することは困難であった。これに対し、本実施形態によれば、無脂乳固形分や糖質含有量などを調整することで、ビタミン類に由来する臭味を効果的に抑制することができる。
【0027】
また、上記ビタミンCは、L-アスコルビン酸2-グルコシドであることが好ましい。L-アスコルビン酸2-グルコシドは、中性域における水溶液中で安定性が高いため、乳飲料の着色が抑えられ、特に好ましい。
【0028】
本実施形態の容器詰乳飲料において、ビタミン類の含有量は特に制限されないが、例えば、30~150mg/100gであってよく、また35~130mg/100gであってよく、さらには40~100mg/100gであってよい。ビタミン類の含有量が上記範囲にあると、栄養成分としてのビタミン類が発揮されやすくなる。また、上記含有量であっても、本実施形態によれば、ビタミン類の臭味を効果的に抑制することができる。ビタミン類の含有量は、ビタミン類の添加量によって適宜調整することができ、ビタミン類の添加量としては、ビタミン類の含有量と同様の値を例示することができる。
【0029】
また、前述した好ましいビタミンの各含有量は、例えば、以下のような値を例示することができる。
ビタミンB1の含有量は、例えば、0.3~2mg/100gであってよく、また0.5~1.5mg/100gであってよい。
ビタミンB6の含有量は、例えば、0.3~1.8mg/100gであってよく、また0.5~1.2mg/100gであってよい。
ビタミンB12の含有量は、例えば、0.5~3μg/100gであってよく、また0.8~2μg/100gであってよい。
ビタミンCの含有量は、例えば、20~150mg/100gであってよく、また30~100mg/100gであってよい。
ビタミンDの含有量は、例えば、1~8μg/100gであってよく、また1.5~5μg/100gであってよい。
ビタミンEの含有量は、例えば、1.5~10mg/100gであってよく、また2.5~6mg/100gであってよい。
葉酸の含有量は、例えば、50~300μg/100gであってよく、また80~200μg/100gであってよい。
【0030】
(香料)
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、香料が添加されていないことが好ましい。
ここで、本実施形態において「香料」とは、食品の製造又は加工の工程で、香気を付与または増強するため添加される添加物およびその製剤をいい、食品表示基準において香料または合成香料として一括名表示されるものをいう。香料が添加されていない場合、乳由来の風味が良好に感じられる容器詰乳飲料とすることができ、特に好ましい。
【0031】
(添加剤)
本実施形態の容器詰乳飲料は、本実施形態の効果を阻害しない範囲において、乳化剤、安定剤、酸化防止剤、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、保存料、調味料、酸味料、果汁エキス類、野菜エキス類、花蜜エキス類、pH調整剤等の添加剤を使用してもよい。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
(pH)
本実施形態の容器詰乳飲料は、pHが5.5~7.5であることが好ましく、6.0~7.0であることがさらに好ましい。なお、本実施形態に係る容器詰乳飲料のpHは殺菌後に測定されるものである。
本実施形態に係る容器詰乳飲料においては、pHが上記範囲にあることで、乳に由来する成分の安定性が良好なものとなり、凝集物やゲル状沈殿などが発生し難くなる。また、pHが上記範囲にあると、容器詰乳飲料の褐色変化がより一層抑制されやすくなる。
pHの調整は、必要に応じてpH調整剤を添加することにより行うことができる。pH調整剤としては、例えばクエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、乳酸、フィチン酸およびグルコン酸等の有機酸;リン酸等の無機酸;重曹等のアルカリ金属塩;などが挙げられ、これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
(容器)
本実施形態における乳飲料は、容器に充填されて提供される。本実施形態において使用し得る容器としては、流通や小売りに一般的に用いられているものであれば特に制限されず、例えば、紙製、プラスチック製、ガラス製、金属製、陶器製或いはその複合材料からなる容器を用いることができる。また、容器は、通常の手段により密封包装して流通等を行うことが好ましい。金属缶、PETボトル、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常用いられる飲料用容器であればよい。
なお、本実施形態の容器詰乳飲料は、通常は希釈せずにそのまま飲用できるもの(所謂RTD)であるが、これに限定されるものではない。
【0034】
(製造方法)
本実施形態に係る容器詰乳飲料は、一般的な乳飲料の製造工程において前述した成分調整を行うことにより製造することができる。例えば、水に、生乳や脱脂粉乳等の無脂乳固形分および糖質を含む組成物を添加し、またビタミン類を添加し、所望によりさらに糖質などのその他の成分を添加して撹拌し、必要に応じてpHの調整を行い、飲料原液を調製する。そして、その後均質化して殺菌処理を行い、容器に充填する工程により製造することができる。
殺菌は、乳等省令により規定している乳飲料の殺菌方法、「保持式により摂氏63度で30分間加熱殺菌する方法又はこれと同等以上の殺菌効果を有する方法により殺菌すること」に基づき実施し充填することができる。また、缶容器に充填する場合は、充填後に上記に基づく殺菌をレトルトにて実施してもよい。
【0035】
以上述べた実施形態に係る容器詰乳飲料は、ビタミン類を含有するものでありながら、無脂乳固形分や糖質含有量などが調整されていることで、ビタミン由来の臭味が抑制されたものとなる(本発明に係る容器詰乳飲料のビタミン臭味抑制方法に該当)。
また、上記実施形態に係る容器詰乳飲料は、無脂乳固形分や糖質含有量などが調整されていることにより、液色の褐色変化も抑制されたものとなる。
【0036】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0037】
以下、製造例・試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の製造例・試験例等に何ら限定されるものではない。
【0038】
(試料1)
水に、生乳150質量部、予め水に溶解した脱脂粉乳145質量部、予め水に溶解したビタミン製剤(配合は表1を参照)を添加し、さらにメイオリゴG(明治フードマテリア社製)5質量部を添加して混合した。さらに重炭酸ナトリウム0.42質量部を添加し、さらに水を加え全量が1000質量部になるように調製した。次に、70℃まで昇温させて15MPaの条件で均質化を行った。さらに、105℃・1分殺菌を行い、20℃以下に冷却し、容器詰乳飲料を得た。
【0039】
(試料2~19)
脱脂粉乳、糖質(メイオリゴGまたはショ糖)の配合量を表1に示す量に変更した以外は試料1と同様にして容器詰乳飲料を製造した。
【0040】
なお、試料1~19の製造に用いた成分の詳細は以下のとおりである。
生乳:無脂乳固形分8.6質量%,乳脂肪分3.7質量%,糖質4.7質量%,無脂乳固形分/糖質1.83
脱脂粉乳:無脂乳固形分95.2質量%,乳脂肪分1.0質量%,糖質53.3質量%
メイオリゴG:明治フードマテリア社製,糖質含有量76質量%(フラクトオリゴ糖含有量55%)
【0041】
<ビタミン類>
葉酸製剤:三菱商事フードテック社製,葉酸含有量1.0質量%
ビタミンB1 2号:金剛薬品社製,ビタミンB1含有量56.3質量%
ピリドキシン塩酸塩(ビタミンB6):金剛薬品社製,ビタミンB6含有量98.0質量%
ビタミンB12 水溶性粉末:金剛薬品社製,ビタミンB12含有量0.1質量%
ドライビタミンD3:三菱ケミカルフーズ社製,ビタミンD3含有量0.5質量%
ビタミンE-アルファー50(A):理研ビタミン社製,ビタミンE含有量5.7質量%
アスコフレッシュ:林原社製,L-アスコルビン酸2-グルコシド含有量98.0質量%
【0042】
(評価基準)
pH測定、色差および黄色度(YI)測定、ならびに官能評価試験(ビタミンの味の抑制,ビタミンの臭いの抑制,褐色変化)を実施した。
pH測定は、各試料を殺菌後に室温(25℃)に戻したのち、pHメーターを用いて測定した。
色差および黄色度(YI)は、分光色差計(日本電色工業社製,測色色差計ZE-2000)を用いてLabおよび黄色度(YI)を測定した。
結果を表1に示す。
【0043】
官能評価試験は、飲料の開発を担当する訓練された5人のパネラーに委託して行った。各試料を殺菌後に直ちに室温(25℃)まで冷却し、以下の基準に沿って、陽性対照および陰性対照と対比して評価した。
陽性対照としては、上記試料の製造に用いた生乳をそのまま上記試料と同様に殺菌し保管したものを用いた。また、陰性対照としては、試料1と同量のビタミン製剤を生乳に添加して殺菌し保管したものを用いた。
【0044】
<ビタミンの味の抑制>
5:ほとんど感じない(変化しない)、非常に良好。陽性対照と同等。
4:少し感じるが(少し変化するが)、陰性対照よりも弱く、良好。
3:陰性対照と同程度感じる(同程度の変化)、あまり良くない。
2:陰性対照よりも感じる(変化している)、良くない。
1:陰性対照よりも非常に強く感じる(変化が大きい)、非常に良くない。
<ビタミンの臭いの抑制>
5:ほとんど感じない(変化しない)、非常に良好。陽性対照と同等。
4:少し感じるが(少し変化するが)、陰性対照よりも弱く、良好。
3:陰性対照と同程度感じる(同程度の変化)、あまり良くない。
2:陰性対照よりも感じる(変化している)、良くない。
1:陰性対照よりも非常に強く感じる(変化が大きい)、非常に良くない。
<褐色変化>
5:ほとんど感じない(変化しない)、非常に良好。陽性対照と同等。
4:少し感じるが(少し変化するが)、陰性対照よりも弱く、良好。
3:陰性対照と同程度感じる(同程度の変化)、あまり良くない。
2:陰性対照よりも感じる(変化している)、良くない。
1:陰性対照よりも非常に強く感じる(変化が大きい)、非常に良くない。
【0045】
各評価項目に対するパネラーの評点の平均値を表1に示す。また、総合評価として、各評価項目の評点平均値について、これら3項目の平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すとおり、本発明の要件を満たす容器詰乳飲料は、ビタミン類の臭味が抑制されていた。さらに、経時保管後であっても褐色変化が抑制されていた。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る容器詰乳飲料は、ビタミン類を含有しながらも、ビタミン由来の臭味が抑制されたものとなるため、風味・香味に優れつつビタミン類を手軽に摂取できる容器詰乳飲料として非常に有用である。さらに、本発明に係る容器詰乳飲料によれば、褐色変化が抑制されたものとなるため、例えば香味や色調がデリケートな白物乳飲料に対しても好適に適用することができる。