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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ロックタイプ双方向クラッチ
(51)【国際特許分類】
   F16D 41/08 20060101AFI20220331BHJP
   F16D 41/10 20060101ALI20220331BHJP
   F16H 35/00 20060101ALI20220331BHJP
   F16D 63/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
F16D41/08 A
F16D41/10
F16H35/00 C
F16D63/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019016647
(22)【出願日】2019-02-01
(65)【公開番号】P2020056492
(43)【公開日】2020-04-09
【審査請求日】2020-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2018186580
(32)【優先日】2018-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-158994(JP,A)
【文献】特開2014-178005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 35/00
F16D 41/00-41/10
F16D 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転不能のハウジングと、共通の回転軸の回りに回転可能な入力歯車及び出力歯車とを備え、前記入力歯車からの正・逆方向の回転は前記出力歯車に伝達するとともに、前記出力歯車からの前記入力歯車への回転の伝達は、前記出力歯車を回転不能にさせて遮断するロックタイプ双方向クラッチであって、
前記ハウジングには固定歯車が固着され、前記ハウジングの内側には、共に前記回転軸に対して偏心し且つ軸方向に並列して配置された作動歯車体及び制御歯車体と、前記制御歯車体に対する前記作動歯車体の公転を規制する規制部材とが設置され、
前記作動歯車体には第一の作動歯車及び第二の作動歯車が同軸に固着されると共に、前記制御歯車体には第一の制御歯車及び第二の制御歯車が同軸に固着され、前記第一の作動歯車の歯数と前記第一の制御歯車の歯数は同一であり、
前記第一の作動歯車及び前記第一の制御歯車が共通して前記入力歯車と噛み合うと共に、前記第二の作動歯車が前記出力歯車と噛み合い、前記第二の制御歯車が前記固定歯車と噛み合う、ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項2】
前記作動歯車体及び前記制御歯車体は、軸方向に間隔をおいて配置されている、請求項1に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項3】
前記規制部材は円筒形状である、請求項1又は2に記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項4】
前記ハウジング内に配置された全ての歯車の歯形はトロコイド歯形であって、前記第二の作動歯車と前記出力歯車との歯数の差、及び、前記第二の制御歯車と前記固定歯車との歯数の差は共に1である、請求項1乃至3のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【請求項5】
前記入力歯車及び前記出力歯車の一方は外歯歯車であって、他方は内歯歯車である、請求項1乃至4のいずれかに記載のロックタイプ双方向クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸と出力軸との間の動力伝達状態を変更するクラッチ装置、特に、入力軸(駆動側)からの正・逆回転の動力を伝達するとともに、出力軸(従動側)からの動力伝達は、出力軸を回転不能として遮断するロックタイプ双方向クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
モーターなどの駆動源から作業機器等を駆動する動力伝達系、例えば、モーターにより物品を上下に移送する昇降装置では、物品が所定の位置となったとき、モーターを停止すると物品が自動的にその位置を保持するような作動が求められる場合がある。そのため、入力軸(入力軸)及び出力軸(出力軸)を備えたロックタイプの双方向クラッチを用いて、入力軸を正・逆回転可能なモーターに連結するとともに、出力軸の回転により物品を昇降させる装置が知られている。この装置の双方向クラッチでは、モーターにより入力軸を正・逆回転したときは、出力軸が連動して正・逆回転し物品を昇降させる一方、出力軸を正・逆回転しようとすると、出力軸がロックされた状態となって物品の落下を防止する。
【0003】
ロックタイプの双方向クラッチを利用する昇降装置の概要と、双方向クラッチの構造の一例とを図9図10により説明する。図9は、ベルト及びプーリによって物品を上下する昇降装置と、その駆動装置に備えられる双方向クラッチのA-A断面構造を表すものであり、図10(a)は、出力軸が入力軸と連動して物品を昇降する状態のA-A断面を、(b)は、出力軸がロックされて物品の落下を阻止する状態のA-A断面を示す。
図9の昇降装置は、上下に配置したプーリP1、P2の間にベルトBを掛け渡し、ベルトBに移送する物品Wを固着した装置であって、上方のプーリP1には、これを回転駆動する正・逆回転可能なモーターMが、双方向クラッチDCを介して連結されている。双方向クラッチDCは、モーターMに連なる入力軸IS、プーリP1に連なる出力軸OS及び固定のハウジングHGを有している。
【0004】
A-A断面図に示されるように、双方向クラッチDCのハウジングHG内では、入力軸ISが複数の扇形部に分割され、扇形部の内側に出力軸OSが嵌め込まれる。出力軸OSには、入力軸ISの隣接する扇形部の間に入り込む突起部が設けてあり、この突起部の先端に形成したV字状凹所とハウジングHGとの間には、ローラRが介在されている。
【0005】
図10(a)に示すように、モーターMにより入力軸ISが回転するときは、入力軸ISの扇形部の側面と出力軸OSの突起部の側面とが当接し、出力軸OSは、入力軸ISに押される形で同一方向に同一速度で回転する。入力軸ISが逆方向に回転するときも同様であって、図9の昇降装置において、モーターMを正・逆回転すると、ベルトBに固着した物品Wを上昇又は下降させることができる。
これに対し、出力軸OSが回転したときは、図10(b)に示されるように、ローラRがV字状凹所の斜面に押し上げられて外方に移動し、ハウジングHGと出力軸OSの突起部との間に挟み込まれる。これにより、出力軸OSがロックされてその位置で停止し、入力軸ISに回転が伝達されることはない。つまり、図9の昇降装置では、モーターMによる駆動を停止しても、物品Wが自重により落下するのを自動的に阻止することができる。このようなロックタイプの双方向クラッチは、本出願人の創案に係る特許第4850653号公報に開示されている。
【0006】
ロックタイプの双方向クラッチは、例えば、複写機のフィニッシャーにおいて、用紙を載せた用紙テーブルを移送する昇降装置、あるいは、建築物の窓のブラインドを昇降する昇降装置に適用することができる。そして、これを利用すると簡易な装置による自動的な動力伝達の制御が可能となって、例えば、電磁クラッチにより制御する場合のような、電力等の使用が不必要となるとともに、出力軸側から不測の逆入力があった場合に、駆動源のモーターを保護することも可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4850653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、図9のロックタイプ双方向クラッチは、コンパクトであって確実に動力伝達を制御可能な機械部品であるけれども、用途によっては未だ改良すべき余地が残されている。本発明は、双方向クラッチの以下に述べるような課題を解決するものである。
【0009】
図9の構造の双方向クラッチでは、その機能を達成するには、入力軸ISの扇形部と出力軸OSの突起部との間などに間隙を設ける必要があり、作動中に衝撃音が発生する。また、双方向クラッチを図9の昇降装置に適用した場合、モーターMを正転させて物品Wを上昇するときは問題ないが、モーターMを逆転させ物品Wを下降するときに、物品Wの重力に起因して出力軸OSの速度が細かな変動を繰り返し、振動や異音を生じることがある。これは、次の理由による。
物品Wを下降させるためモーターMを逆回転させた場合に、物品Wに作用する重力により、出力軸OSが入力軸ISよりも速く回転(オーバーラン)することがあり、オーバーランが起こると、図10(b)の状態となってローラRとハウジングHGとが噛み合い、出力軸OSがロックする。このロック状態は、入力軸ISの回転でローラRが押されたときに解除されるが、噛み込みと解除の繰り返しは、出力軸OSの速度に細かな変動を与えることとなる。なお、ロック状態の解除には、ローラに働く摩擦力に打ち勝つトルク(モーメント)を付与する必要があるが、この点は、停止状態にある物品Wを上昇させるときも同じであって、モーターMには、物品Wを上昇させる負荷トルクに加えて噛み込み解除のためのトルクも要求される。
【0010】
さらに、図9のロックタイプの双方向クラッチでは、出力軸OSの回転数は常に入力軸ISの回転数と等しいとともに、出力軸OSの回転方向も入力軸ISの回転方向と等しい。図9の双方向クラッチ自体では、回転方向や回転速度を変更する変速作動が不可能であり、そのため、入出力軸間でトルクを増減することもできず、出力軸OSに作用する負荷トルクが大きいときは、それに見合うトルクを発生する大型のモーターを駆動源として用意する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み、本発明は、噛み込み用ローラを用いることなく、複列の歯車機構を用いてロックタイプ双方向クラッチを構成し、作動に伴う異音等の発生を防止するとともに、出力軸を停止させるときはロック状態を確実に保持するようにしたものである。すなわち、本発明は、
「回転不能のハウジングと、共通の回転軸の回りに回転可能な入力歯車及び出力歯車とを備え、前記入力歯車からの正・逆方向の回転は前記出力歯車に伝達するとともに、前記出力歯車からの前記入力歯車への回転の伝達は、前記出力歯車を回転不能にさせて遮断するロックタイプ双方向クラッチであって、
前記ハウジングには固定歯車が固着され、前記ハウジングの内側には、共に前記回転軸に対して偏心し且つ軸方向に並列して配置された作動歯車体及び制御歯車体と、前記制御歯車体に対する前記作動歯車体の公転を規制する規制部材とが設置され、
前記作動歯車体には第一の作動歯車及び第二の作動歯車が同軸に固着されると共に、前記制御歯車体には第一の制御歯車及び第二の制御歯車が同軸に固着され、前記第一の作動歯車の歯数と前記第一の制御歯車の歯数は同一であり、
前記第一の作動歯車及び前記制御歯車が共通して前記入力歯車と噛み合うと共に、前記第二の作動歯車が前記出力歯車と噛み合い、前記第二の制御歯車が前記固定歯車と噛み合う」
ことを特徴とするロックタイプ双方向クラッチとなっている。
【0012】
前記作動歯車体及び前記制御歯車体は、軸方向に間隔をおいて配置されているのが好ましい。
前記規制部材は円筒形状であるのが好ましい。
前記ハウジング内に配置された全ての歯車の歯形はトロコイド歯形であって、前記第二の作動歯車と前記出力歯車との歯数の差、及び、前記第二の制御歯車と前記固定歯車との歯数の差は共に1であってもよい。
前記入力歯車及び前記出力歯車の一方は外歯歯車であって、他方は内歯歯車であるのが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のロックタイプ双方向クラッチでは、共に共通の回転軸に対して偏心し且つ軸方向に並列して配置された作動歯車体及び制御歯車体と、制御歯車体に対する作動歯車体の公転を規制する規制部材とがハウジングの内側に配置される。作動歯車体には第一の作動歯車及び第二の作動歯車が同軸に固着され、制御歯車体には第一の制御歯車及び第二の制御歯車が同軸に固着される。このとき、第一の作動歯車の歯数と第一の制御歯車の歯数は同一に設定される。そして、第一の作動歯車及び第一の制御歯車は入力歯車に共通して噛み合うと共に、第二の作動歯車は出力歯車に噛み合い、第二の制御歯車は固定歯車に噛み合う。
【0014】
入力軸が回転すると、これと一体の入力歯車が自転する。このとき、制御歯車体にあっては、中心軸は共通の回転軸に対して偏心し、その周りを回動可能であって、第一の制御歯車が入力歯車と噛み合い第二の制御歯車が固定歯車と噛み合っているから、制御歯車体は入力歯車の自転方向と同一方向に公転しながらその反対方向に自転する。作動歯車体では、第一の作動歯車が第一の制御歯車と共通して入力歯車と噛み合うと共に、両方の歯車の歯数が同一であり、さらに、規制部材によって制限歯車体に対する公転が規制されてこれと同一回転数で公転することから、作動歯車体と制御歯車体とは同一の作動をする。ここで、作動歯車体は、その第二の作動歯車が出力歯車と噛み合っており、上述したとおり、作動歯車体が入力歯車の回転により入力歯車の自転方向と同一方向に公転しながらその反対方向に自転する。このことから、第二の作動歯車と噛み合う出力歯車も回転され、入力軸から出力軸へ回転が伝達される。
【0015】
出力軸が回転しようとすると、出力歯車がこれと噛み合う第二の作動歯車と一体の第一の作動歯車を介して入力歯車を回転させようとする。このとき、入力歯車には同一の歯数を有する第一の作動歯車及び第一の制御歯車が共通して噛み合っていると共に、第一の制御歯車と一体の第二の制御歯車が固定歯車と噛み合っていることに起因して、第一の作動歯車が入力歯車を回転させようとするとねじれが生じ、入力軸の回転がロックされた状態となり、出力軸は回転不能となる。
【0016】
このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、複列の歯車機構を利用して、入力軸から出力軸へ回転動力を伝達するとともに、反対向きへの伝達は遮断する。出力軸からの回転伝達の遮断は、入力歯車に共通して噛み合う第一の作動歯車及び第一の制御歯車との間のねじれによって入力軸をロック状態とすることにより摩擦力を利用しないで行われるから、出力軸の停止の保持が摩擦力により制限されることはない。さらに、歯車機構のロック状態は、出力軸側から駆動しようとすると直ちに生じるので、図9の双方向クラッチとは異なり、作動中に衝撃音が発生することはない。また、ローラの噛み込みと解除の繰り返しに起因する出力軸の速度変動の発生がないとともに、ローラの噛み込みの解除のために余分なトルクを付与する必要も生じない。さらにまた、入力軸と出力軸とは歯車機構により接続されていることから、入力軸と出力軸との間で回転方向や回転速度を適宜変更することか可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第1実施形態を示す図である。
図2図1の双方向クラッチのハウジング等を単体で示す図である。
図3図1の双方向クラッチを構成する主要な部品を単体で示す図である。
図4図1の双方向クラッチにおいて、入力軸を反時計方向に回転させた時の作動を説明する図である。
図5図1の双方向クラッチにおいて、出力軸を時計方向に回転させた時の作動を説明する図である。
図6】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第2実施形態を示す図である。
図7】本発明のロックタイプ双方向クラッチの第2実施形態の変形例を示す図である。
図8図7に示すロックタイプ双方向クラッチの入力歯車と入力軸部との結合を示す図である。
図9】従来のロックタイプ双方向クラッチの一例を示す図である。
図10図9のロックタイプ双方向クラッチの作動を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づき、本発明のロックタイプ双方向クラッチについて説明する。まず、本発明の双方向クラッチの第1実施形態の全体的な構造を図1に示し、その単品部品図を図2及び図3に示す。図4及び図5は、図1の実施形態の双方向クラッチの作動を示すものである。
【0019】
図1の縦断面図に示すように、第1実施形態の双方向クラッチは、固定のハウジング2を備えている。ハウジング2の内側には、共通の回転軸oの周りに回転可能な入力歯車4及び出力歯車6と、回転軸oに対して偏心し且つ軸方向に並列して配置された作動歯車体8及び制御歯車体10(両歯車体の中心軸をo´とする)と、制御歯車体10に対する作動歯車体8の公転を規制する規制部材12とが設置されている。
【0020】
図1と共に図2を参照して説明すると、ハウジング2は、略正方形の端板16と、端板16の外周縁部からこれに対して垂直に延出する筒状の側壁18とを備えたカップ形状である。ハウジング2の内周面には内歯歯車である固定歯車20が形成されている。ハウジング2の開口端部(つまり側壁18の自由端縁部)には、蓋体22がボルトの如き適宜の固定具によって固定されてシールドされている。蓋体22は端板16と同一形状であって、両者とも中央には円形の貫通穴が形成されている。
【0021】
図1と共に図3を参照して説明すると、本実施形態においては、入力歯車4は外歯歯車であって、これには軸方向に延びる入力軸部24が同軸上に固着されている。一方、出力歯車6は内歯歯車であって、これにも軸方向に延びる出力軸部26が同軸上に固着されている。作動歯車体8は円板形状の中央仕切壁28を備え、この中央仕切壁28を挟んでその両側には、内歯歯車である第一の作動歯車30及び外歯歯車である第二の作動歯車32が同軸に夫々固着されている。一方、制御歯車体10はリング状であって、これには、内歯歯車である第一の制御歯車34と外歯歯車である第二の制御歯車36とが同軸に固着されている。そして、第一の作動歯車30と第一の制御歯車34の歯数は同一に設定されている。また、作動歯車体8の外周縁部には円環形状の段部38が形成されていると共に、制御歯車体10には円環形状の溝40が形成されている。
【0022】
図1を参照して説明すると、上述した各構成部材は、ハウジング2の内側において、第一の作動歯車30及び第一の制御歯車34が共通して入力歯車4と噛み合うと共に、第二の作動歯車32が出力歯車6と噛み合い、第二の制御歯車36が固定歯車20と噛み合うようにして組み合わされる。このとき、作動歯車体8に形成された段部38及び制歯車体10に形成された溝40は軸方向において相互に対向し、共通して円筒形状である規制部材12が嵌め合わされる。そして、作動歯車体8及び制御歯車体10は、軸方向に間隔をおいて配置される。
【0023】
続いて、図4及び図5を参照して、図1の実施形態の双方向クラッチの作動について説明する。
図4の中央縦断面図において矢印で示すとおり、入力軸(入力軸部24)が、例えば駆動源のモーターにより回転軸oの周りを反時計方向(軸方向の右方から見て)に回転したときは、まず、A-A断面図において矢印で示すとおり、入力軸部24と一体の入力歯車4が回転軸oの周りを反時計方向に回転する。そうすると、制御歯車体10にあっては、中心軸o´は共通の回転軸oに対して偏心し、その周りを回動可能であって、第一の制御歯車3が入力歯車4と噛み合い第二の制御歯車3が固定歯車20と噛み合っていることから、制御歯車体10は入力歯車4の自転方向と同一方向(つまり反時計方向)に公転しながらその反対方向(つまり時計方向)に自転する。また、作動歯車体8にあっては、第一の作動歯車30が第一の制御歯車34と共通して入力歯車4と噛み合うと共に、両方の歯車の歯数が同一であり、さらに、規制部材12によって制御歯車体10に対する公転が規制されてこれと同一回転数で公転することから、作動歯車体8と制御歯車体10とは同一の作動をする。ここで、作動歯車体8は、その第二の作動歯車32が出力歯車6と噛み合っており、上述したとおり、作動歯車体8が入力歯車4の回転により入力歯車4の自転方向と同一方向(つまり反時計方向)に公転しながらその反対方向(つまり時計方向)に自転する。このことから、第二の作動歯車32と噛み合う出力歯車6も回転され、入力歯車4から出力歯車6へ回転が伝達される。
【0024】
これに対して、図5の中央縦断面図に示すとおり、出力軸(出力軸部26)を回転軸oの回りに時計方向(軸方向の右方から見て)に回転させようとすると、まず、C-C断面図において破線の矢印で示すとおり、出力軸部26と一体の出力歯車6が時計方向に回転しようとする。そうすると、出力歯車6との噛み合いによって第二の作動歯車32は中心軸o´の回りを出力歯車6の回転方向と同一方向(つまり時計方向)に自転しようとすると共に、第二の作動歯車32と一体である第一の作動歯車30との噛み合いによって入力歯車4は回転軸oの回りを出力歯車6の回転方向と同一方向(つまり時計方向)に自転しようとする。このとき、入力歯車4には同一の歯数を有する第一の作動歯車30及び第一の制御歯車34が共通して噛み合っていると共に、第一の制御歯車34と一体の第二の制御歯車36が固定歯車20と噛み合っていることに起因して、第一の作動歯車30が入力歯車4を回転させようとすると、入力歯車4は第一の作動歯車30及び第一の制御歯車34から大きさは同じであるが相互に反対方向に作用する回転トルクを受けることとなってねじれが生じ、入力歯車4(入力軸)の回転がロックされることとなる。従って、出力軸(出力歯車6)は回転不能となる。このとき、図示の実施形態のように、入力歯車4及び出力歯車6の一方が外歯歯車であって、他方が内歯歯車である場合には、作動歯車体8が自転しようとする方向と規制部材12が公転しようとする方向とが反対方向となるため上記ロックがより確実に作用することとなる。
【0025】
このように、本発明のロックタイプ双方向クラッチにおいては、複列の歯車機構を利用して、入力軸から出力軸へ回転動力を伝達するとともに、反対向きへの伝達は遮断する。出力軸からの回転伝達の遮断は、入力歯車4に共通して噛み合う第一の作動歯車30及び第一の制御歯車34との間のねじれによって入力軸をロック状態とすることにより摩擦力を利用しないで行われるから、出力軸の停止の保持が摩擦力により制限されることはない。さらに、歯車機構のロック状態は、出力軸側から駆動しようとすると直ちに生じるので、図9の双方向クラッチとは異なり、作動中に衝撃音が発生することはない。また、ローラの噛み込みと解除の繰り返しに起因する出力軸の速度変動の発生がないとともに、ローラの噛み込みの解除のために余分なトルクを付与する必要も生じない。さらにまた、入力軸と出力軸とは歯車機構により接続されていることから、入力軸と出力軸との間で回転方向や回転速度を適宜変更することか可能となる。
【0026】
図6には、本発明のロックタイプ双方向クラッチの第2実施形態を示す。以下においては、第1実施形態と同じ構成については番号に「´」を付して説明する。
第2実施形態では、基本的な構造及び作動は第1実施形態のロックタイプ双方向クラッチと変わるものではないが、ハウジング2´内に配置された全ての歯車において内歯歯車と外歯歯車との関係が入れ替わっている。図示の実施形態においては、出力歯車6´の内側にはベアリング42´が嵌め込まれており、かかるベアリング42´には入力歯車4´の中心において入力軸部24´と同軸上に延びる突出部44´が相対回転可能に嵌め込まれている。これにより、入力歯車4´及び出力歯車6´が一体となって回転する際の両者間の芯ぶれが防止される。さらに、第2実施形態では、ハウジング2´内に配置された全ての歯車の歯形をトロコイド歯形とし、第二の作動歯車32´と出力歯車6´の歯数の差、及び、第二の制御歯車36´と固定歯車20´の歯数の差を共に1としている。このように、ハウジング2´内に配置された全ての歯車の歯形をトロコイド歯形とすることで、上述したとおり相互に噛み合う2つの歯車における歯数の差を小さくすることが可能となり、装置全体をコンパクトにすることが可能となる。所望ならば、図7に示す変形例のように、第一の作動歯車30´と第二の作動歯車32´とを軸方向に変位させると共に、入力歯車4´と入力軸部24´とを別体で構成することもできる。入力歯車4´と入力軸部24´とは、図8に示すとおり、入力歯車4´が内周面に配設された円筒壁46´の軸方向端部に形成された円弧状の切欠き48´と、入力軸部24´が固着された入力円板50´の外周縁部に形成された円弧状の突起52´との係合により結合される。図示の変形例においては、切欠き48´及び突起52´は共に周方向に等間隔をおいて3個ずつ形成されている。
【符号の説明】
【0027】
2:ハウジング
4:入力歯車
6:出力歯車
8:作動歯車体
10:制御歯車体
12:規制部材
20:固定歯車
30:第一の作動歯車
32:第二の作動歯車
34:第一の制御歯車
36:第二の制御歯車
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10