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特許7050044ポックスウイルスベクターを用いて増強された免疫応答を誘導するための組成物及び方法ベクター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ポックスウイルスベクターを用いて増強された免疫応答を誘導するための組成物及び方法ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20220331BHJP
   C12N 7/04 20060101ALI20220331BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220331BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220331BHJP
   C12N 15/117 20100101ALN20220331BHJP
【FI】
C12N7/01
C12N7/04
A61K35/76
A61P37/04
C12N15/117 Z ZNA
【請求項の数】 23
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019235645
(22)【出願日】2019-12-26
(62)【分割の表示】P 2016534624の分割
【原出願日】2014-11-25
(65)【公開番号】P2020072693
(43)【公開日】2020-05-14
【審査請求日】2020-01-23
(31)【優先権主張番号】13005541.1
(32)【優先日】2013-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509296443
【氏名又は名称】バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ハウスマン・ユルゲン
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルファーシュテッター・ミヒャエル
【審査官】宮岡 真衣
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-531133(JP,A)
【文献】米国特許第07744900(US,B2)
【文献】特表2002-542263(JP,A)
【文献】WILLIS K.L. et al.,J. Biol. Chem.,Vol.286, No.10 (2011),p.7765-7778
【文献】MUNIR M. et al.,Virulence,4:1 (2013 Jan),p.85-89
【文献】MEISINGER-HENSCHEL C. et al.,J. Virol.,Vol.84, No.19(2010),p.9907-9919
【文献】LYNCH H.E. et al.,Virology,391(2009),p.177-186
【文献】OSTERTAG D. et al.,J. Virol.,Vol.81, No.2(2007),p.503-513
【文献】LANTERMANN M. et al.,Virus Research,126 (2007),p.1-8
【文献】BAYLISS C. D. et al.,Virology,194 (1993),p.254-262
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00-7/04
A61K 35/76
A61P 37/04
C12N 15/117
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
感染初期に過剰な二本鎖RNA(dsRNA)を発現する天然ポックスウイルス配列の核酸を含んでなる突然変異または組換えポックスウイルスであって、dsRNAを生成する前記の天然ポックスウイルス配列の核酸が、部分的にまたは完全に相補的なRNA転写物をコードする配列を含んでなり、相補的なRNA転写物をコードする前記配列の発現は、各々、初期もしくは即時初期ポックスウイルスプロモータによって指令され、前記RNA転写物の相補的部分が転写後にアニールしてdsRNAを形成し、前記RNA転写物の相補的部分が550を超えるヌクレオチドで重なり、前記ポックスウイルスがワクシニアウイルスである、前記突然変異または組換えポックスウイルス。
【請求項2】
更に、1以上の細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、寄生虫抗原または腫瘍抗原をコードする異種配列を含んでなる、請求項1に記載のポックスウイルス。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポックスウイルスであって、更に、TRICOM(B7-1、ICAM-1、及びLFA-3)である1以上の共刺激分子をコードする異種配列を含んでなる前記ポックスウイルス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のポックスウイルスであって、前記ポックスウイルスは、ワクシニアウイルス・ウェスタンリザーブ、ワクシニアウイルス・コペンハーゲン、ドライワックス(Dryvax:ワクシニアウイルス・ワイス(Wyeth)としても知られる)、ワクシニアウイルス・リスター、ワクシニアウイルス・アカンビス(Acambis)2000及び3000、家兎痘ウイルス、修飾ワクシニアウイルス・アンカラ(MVA)、漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラ(CVA)及び修飾ワクシニアウイルス・アンカラ・ババリアンノルディック(MVA-BN)からなる群から選択される前記ポックスウイルス。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のポックスウイルスであって、前記相補的なRNA転写物が、タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)または非タンパク質をコードする遺伝子を含んでなる前記ポックスウイルス。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポックスウイルスであって、前記RNA転写物の前記相補的部分が600を超える、650を超えるヌクレオチド、または700を超えるヌクレオチドで重なる、前記ポックスウイルス。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポックスウイルスであって、前記RNA転写物の前記相補的部分600~1000または700~1000重なる、前記ポックスウイルス。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポックスウイルスであって、前記RNA転写物の前記相補的部分が700を超えるヌクレオチドを含む前記ポックスウイルス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポックスウイルスであって、センス及びアンチセンスRNAが、天然のポックスウイルス配列の両方の鎖から転写される前記ポックスウイルス。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の初期dsRNAの発現により、標準的な複製能力をもつワクシニアウイルス株を弱毒化させるin vitroの方法。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスと、医薬的に許容可能な担体または賦形剤を含有する医薬組成物。
【請求項12】
医薬を製造するための、請求項1~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスの使用。
【請求項13】
ポックスウイルスにより媒介される状態の治療または予防のための医薬の製造のための、請求項1~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスの使用。
【請求項14】
異種疾患関連抗原により媒介される状態の治療または予防のための医薬の製造のための、請求項2~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスの使用。
【請求項15】
新生物状態の治療または予防のための医薬の製造のための、請求項2~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスの使用。
【請求項16】
前記新生物状態が癌である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
自然免疫の活性化を増強するための請求項11に記載の医薬組成物であって、前記の自然免疫の活性化が、脊椎動物対象に前記医薬組成物を投与することを含み;前記投与が、前記対象におけるI型インターフェロン(I型IFN)、サイトカイン及びケモカインの産生を高める、医薬組成物。
【請求項18】
I型IFNの産生は、インターフェロン-β(IFN-β)をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)の転写を含んでなり、該IFN-β mRNAの転写が少なくとも2倍、少なくとも10倍または少なくとも50倍増加する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
I型IFNの産生はIFN-βタンパク質の分泌を含んでなり、該IFN-βタンパク質の分泌が少なくとも2倍、少なくとも4倍または少なくとも10倍増加する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
請求項1~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスを含む、ポックスウイルスにより媒介される状態の治療または予防のための医薬。
【請求項21】
請求項2~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスを含む、異種疾患関連抗原により媒介される状態の治療または予防のための医薬。
【請求項22】
請求項2~9のいずれか1項に記載のポックスウイルスを含む、新生物状態の治療または予防のための医薬。
【請求項23】
前記新生物状態が癌である、請求項22に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに提供される発明は、感染初期において、二本鎖RNA(dsRNA)を形成する相補的RNAをコードする異種核酸を含んでなる組換えポックスウイルスに関する。初期dsRNAは、組換えポックスウイルスの天然遺伝子の両方の鎖を転写することによって生成させることができる。本明細書で提供される組換えポックスウイルスは更に、1以上の共刺激分子をコードする異種核酸、及び/または1以上の感染症関連抗原または腫瘍関連抗原をコードする異種核酸を含んでもよい。これらの組換えポックスウイルスは、初期dsRNAを発現する異種核酸を欠失した同一の組換えポックスウイルスと比較して、被験対象における自然免疫及び獲得免疫の活性化を強化する。ここに提供される組換えポックスウイルスの何れかを含む医薬組成物、並びにそのような組換えポックスウイルスの方法及び使用もまた、本明細書において提供される。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、病原体関連分子パターン(PAMP)を検出するパターン認識受容体(PRR)によって、ウイルスを含む様々な病原体を認識する。PRRには、Toll様受容体(TLR)、RIG様ヘリカーゼ(RLH)、NOD様受容体(NLR)の科、及びこれまで十分に明らかにされていない他のPRRが包含される(Iwasaki(2012),Annu.Rev.Microbiol.66:177-196;Desmet&Ishii(2012),Nat.Rev.Immunol.12:479-491;Melchjorsen(2013),Viruses.5:470-527)。PRRの活性化は、樹状細胞(DC)を含む種々の免疫細胞の活性化、並びに自然免疫応答及び適応免疫応答の最終的な誘導をもたらす。PRRの活性化はまた、IFN-アルファ(IFN-α)及びIFN-ベータ(IFN-β)を含むI型インターフェロン(IFN)の誘導及び作用を介して、並びに未だ感染していない宿主細胞に警告し免疫応答を調整する他のサイトカイン及びケモカインの誘導及び作用を介して、非免疫細胞における抗ウイルス状態の誘導を導く。I型IFNは、例えばDCのMHCクラスI及びIIの発現、の交差提示及び活性化をアップレギュレートすることによって、自然病原体抵抗性のメカニズム、並びに抗体産生及びT細胞の活性化を含む免疫応答の多くの側面を調節する(Iwasaki&Medzhitov(2010),Science 327:291-295;Desmet&Ishii(2012),Nat.Rev.Immunol. 12:479-491)。
【0003】
生物がウイルスの存在を検出する重要な方法は、正常細胞及び免疫細胞の両方によるウイルスRNAまたはDNAの認識である。TLR3、TLR7/8、TLR9及びTLR13は、それぞれ、二本鎖RNA(dsRNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、DNA、リボソームRNA(rRNA)のための受容体として同定されている。ヘルペスウイルス、アデノウイルス及びポックスウイルスのような二本鎖DNA(dsDNA)ゲノムを有するウイルスは、TLR9依存性及びTLR9非依存性の経路によって認識される(Hochrein et al.(2004),Proc.Natl.Acad.Sci. U.S.A 101:11416-11421;Samuelsson et al.(2008),J.Clin.Invest 118:1776-1784)。以前の研究によって、ポックスウイルスは、TLR9依存性及びTLR9非依存性の両方の二本鎖dsDNA認識経路を強力に阻害することが示されている。
【0004】
TLR9を介した免疫細胞によるポックスウイルスDNAの検出は、I型インターフェロン(即ち、IFN-α/β)及びIII型インターフェロン(即ち、IFN-λ)、並びに他のサイトカイン及びケモカインの産生をもたらす(Lauterbach et al.(2010),J.Exp.Med. 207:2703-2717; Samuelsson et al.(2008),J.Clin.Invest 118:1776-1784)。形質細胞様樹状細胞DC(pDC)は、TLR7/8またはTLR9依存性刺激に応答して、大量のIFN-I及びIFN-IIIを産生することが選択的に可能である。pDCにおいて、TLR9依存性の刺激はIFN-I及びIFN-IIIの産生を導く。DNA及び他のウイルスの核酸の両方が、感染細胞の細胞質内で認識され、それによってこれらの細胞に対して、他のサイトカインの中でもIFN-I及びIFN-IIIを生産するように警告を与える。ポックスウイルス認識のTLR9非依存性経路は主に、従来の樹状細胞(cDC)の種々のサブセットによって採用されている(Hochrein & O’Keeffe(2008),Handbook Exp Pharmacol 183:153-179)。
【0005】
ウイルス感染のもう一つの重要なサインはdsRNAであり、これはRNAウイルスによる細胞の感染の際に生成されるだけでなく、dsDNAゲノムを有するポックスウイルスによる感染によっても生成される。ポックスウイルス感染におけるdsRNAは、二本鎖dsDNAゲノムの上部鎖及び下部鎖の両方に位置する遺伝子からの転写を重ね合わせることにより生成される。特に、中間及び後期遺伝子の転写の終結は厳密には調節されておらず、長さが不均一な長い3’非翻訳領域(3’UTR)を備えたウイルスmRNAを導く(Cooper,Wittek,and Moss(1981),J.Virol. 39:733-745;Xiang et al.(1998),J.Virol. 72:7012-7023)。このような転写物が反対向きの二つの隣接する遺伝子から生じる(即ち、相互に相向かって転写される)とき、転写は、相互のアニール、または初期転写物とのアニールにより、dsRNAを形成する重なった相補的mRNAストレッチを生じる(Boone,Parr,and Moss (1979),J Virol.30:365-374)。ウイルスdsRNAの産生は、ポックスウイルス複製サイクルの後期に大きく限定されるようである(Colby&Duesberg(1969),Nature 222:940-944;Duesberg & Colby(1969),Proc.Natl.Acad.Sci U.S.A 64:396-403;Moss(2007),5:2905-2945)。ウイルス転写からのdsRNAが感染初期に見られることが、以前に報告されている(Boone,Parr,and Moss(1979),J Virol. 30:365-374;Lynch et al.(2009),Virology 391:177-186;Willis et al.(2009),Virology 394:73-81;Willis,Langland,and Shisler(2011),J.Biol.Chem. 286:7765-7778)。しかし、例えば、反対方向に転写される隣接した初期遺伝子転写の効率的な転写終結を確保することにより、細胞認識系をトリガーするための十分な量の初期dsRNAの生成を防止する選択圧が存在するように思える(Smith,Symons,and Alcami(1998),Seminars in Virology 8:409-418)。ポックスウイルスは、この配列の20~50ヌクレオチド下流の早期転写を終結させる、コード鎖上の配列TTTTTNTを伴った特定の早期終了信号を進化させてきた(Yuen & Moss(1987),Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A 84:6417-6421)。相互に対向して転写される初期遺伝子は、典型的には複数の終結信号を含んでおり、感染初期において相補的RNAの生産を回避するためには、このような遺伝子の即時の初期転写終結の厳密な制御が、ウイルス適応性にとって重要であると思われることを示している。
【0006】
宿主細胞及び生物は、ウイルス感染を検出するための種々のdsRNA認識受容体を考案してきた。TLR3は主に免疫細胞で発現され、細胞外のdsRNAを感知できるが、RIG-I、MDA-5、DDX1/DDX21/DHX36、プロテインキナーゼR(PKR)、及び2’-5’-オリゴアデニレートシンテターゼ(2’-5’-OAS)のような殆どの他のdsRNAセンサーは、宿主の器官及び細胞型において遍在的に発現され、細胞質中に局在する。I型IFN誘導に関して、RIG-I及びMDA-5は、ウイルス感染を検出するための最も重要な細胞質ゾルdsRNAセンサーを表すと考えられている(Melchjorsen(2013),Viruses. 5:470-527)。もう一つの重要なdsRNAセンサー、即ち、dsRNA活性化プロテインキナーゼR(PKR)は、主に細胞及びウイルスの翻訳停止をもたらす翻訳伸長因子elF2αのリン酸化を介して抗ウイルス的役割を発揮し、それによってウイルス複製を制限すると考えられている。(Garcia et al.(2006),Microbiol.Mol.Biol.Rev.70:1032-1060;Williams(1999),Oncogene 18:6112-6120)。I型IFNの誘導においては、PKRが役割を有するとの証拠も存在する。(Barry et al.(2009),J Gen.Virol. 90:1382-1391;Gilfoy & Mason(2007),J Virol. 81:11148-11158)。
【0007】
dsRNAによりトリガーされる抗ウイルス作用を阻害するために、ポックスウイルスは、少なくとも二つのタンパク質であるE3及びK3を、重要なdsRNAセンサーPKRの阻害に捧げてきた。これら両方のウイルスタンパク質は広く研究されてきた。なかでもE3は中心的である思われる。E3はdsRNAに結合して隔離し、PKRの活性化を阻害する。E3L遺伝子(VACV-ΔE3L)を欠失したワクシニアウイルス(VACV)変異体は、限定された宿主範囲を有していて、多くの細胞型においてアポトーシスを誘導し(Hornemann et al.(2003),J. Virol. 77:8394-8407;Kibler et al.(1997),J Virol. 71:1992-2003)、PKR媒介アポトーシスがVACV感染細胞におけるPKR活性化の主要な結果であることを示唆している。しかし、IFNI処理に対するVACV-ΔE3Lのより高い感度(Beattie,Paoletti,and Tartaglia(1995),Virology 210:254-263)、及びE3欠失VACV突然変異体で感染されたプレアポトーシス細胞におけるより高いIFN-α/β誘導もまた報告されている(Hornemann et al.(2003),J. Virol. 77:8394-8407)。ここでは、修飾ワクシニアウイルス・アンカラ(MVA)及び漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラ(CVA)を感染させた細胞において、検出可能な細胞死またはアポトーシスを誘導することなく、しかしIFN-α/β及び他のケモカイン及びサイトカインの大量の放出をトリガーして、PKR活性化を誘導する方法を説明する。これは、DNA複製の開始前の感染初期にdsRNAを発現させることによって達成された。dsRNAの安定な発現は、組換え遺伝子の2つの独立した挿入物からの2つの相補的mRNAの転写によって達成された。CVAの場合、I型IFN誘導はマウスにおいて殆ど非病原性感染を導き、その結果は、機能的なI型IFNシステムの存在に依存した。
【0008】
MVAは、完全な複製能を持った天然痘ワクチン株である漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラ(CVA)の、ニワトリ胚線維芽細胞での570世代を超える継代によって開発された(Meisinger-Henschel et al.(2007),J.Gen.Virol.88:3249-3259)。複製能力のあるCVAは、IFN-I誘導性に乏しいのに対して、複製が制限されたMVAはむしろ効率的にIFN-Iを誘導することが示された(Samuelsson et al.(2008),J.Clin.Invest 118:1776-1784)。IFN-I産生のCVA阻害は、B19R遺伝子によりコードされるポックスウイルスのIFN-I結合タンパク質(IFN-IR)によって、部分的に媒介された。B19タンパク質はIFN-αに結合し、従ってその生物活性を阻害する。加えて、I型インターフェロンへのB19の結合はまた、抗体ベースの分析技術によるIFN-α/βの検出を妨げ、B19タンパク質もまたヒトIFN-βに結合することを示す。ヒトシステムとは対照的に、B19はマウスIFN-βに結合しない。B19RORFによりコードされるポックスウイルスIFN-I結合タンパク質の相同体は、多くのポックスウイルス種に存在しており、IFN-Iの活性を阻害するためのこの機構が、ポックスウイルスにおいてより一般的に保存されていることを示唆する。例えば、図17参照。
【0009】
B19のI型IFN結合活性は、IFN-Iエフェクター機能または誘導を抑制するために、ポックスウイルスが用いる唯一の阻害機構ではない。ポックスウイルスは、その宿主のインターフェロンI型システムを破壊する多くの因子をコードする。インターフェロンは、それらがIFN受容体を発現する細胞において抗ウイルス状態を誘導し、宿主の自然免疫応答及び適応免疫応答を調節するので、抗ウイルス防御において極めて重要である。インターフェロン系に対抗する既知のポックスウイルス因子の中には、それぞれ、I型及びII型インターフェロンに結合して中和する分泌された受容体様タンパク質B19及びB8がある。VACV E3、K7、C6、N1、C7、K1、K3及びH1のような他のポックスウイルスタンパク質は、I型インターフェロンの誘導を阻害し、またはインターフェロンシグナリング及びエフェクター経路を遮断する。ポックスウイルスが、インターフェロン系に対抗するためのこのような多数のタンパク質をコードするという事実は、感染した宿主生物によるポックスウイルスの抑制及び最終的なクリアランスのための、この自然免疫防御のシステムの重要性を強調している。インターフェロン系とは別に、オルソポックスウイルスは、IL-1β、IL-18のようなサイトカイン、及びVACV B16R、WR013、C23L/vCCIを含むケモカインの誘導、または機能を妨害する他の免疫調節タンパク質をコードする。これらのサイトカインは、病原体の拡散を制限し、深刻な病原体に誘導された損傷からホストを保護する上で重要である。パターン認識経路を破壊するポックスウイルスタンパク質は、IFN、並びに他のサイトカイン及びケモカインの誘導を阻止する上で普遍的に有効である。
【0010】
従って、本発明の主要な目的は、細胞性dsRNAセンサによるポックスウイルスの認識を高めること、並びに、MVAにより誘導される自然免疫の活性化を増大させることである。本明細書に開示されるのは、ゲノム内の2つの別々の場所に2つの部分的に同一のDNAを挿入することにより、感染初期にdsRNAを生成するように加工された組換えポックスウイルスである。これらのDNAは、一方のDNAが「センス」転写物を産生し、他方が相補的な「アンチセンス」転写物を産生するように指向された強い初期プロモーターに動作可能に連結されている。これら部分的にまたは完全に相補的な二つの転写物は、その後にアニールしてdsRNAを生成する。IFN-β、即ち、自然免疫活性化の重要なマーカーの効率的な誘導が、広いサイズ範囲に亘り初期dsRNAを用いて観察されたが、相補的な転写物が50塩基対まで短縮化されるときには効率低下が伴った。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、感染初期に過剰な二本鎖RNA(dsRNA)を発現する異種核酸を含んでなる組換えポックスウイルスを包含する。一つの実施形態において、本発明は、脊椎動物被験対象に組換えポックスウイルスを投与することを含んでなる自然免疫活性化を増強する方法であって、前記投与は、前記被験対象におけるI型インターフェロン(I型IFN)、サイトカイン及びケモカインの産生を増強する方法を包含する。
【0012】
更なる実施形態において、前記組換えポックスウイルスは天然のポックスウイルス配列、好ましくは初期遺伝子、より好ましくは即時初期遺伝子の両方の鎖から、センス及びアンチセンスRNAを転写する。
【0013】
更なる実施形態において、前記組換えポックスウイルスは、異種配列の両方の鎖から、センス及びアンチセンスRNAとして異種核酸を転写する。
【0014】
更なる実施形態において、本発明は、過剰な早期dsRNAの発現によって、チョルドポックスウイルス亜科由来の標準の複製能を有するワクシニアウイルス株及び他の種を弱毒化させる方法を包含する。
【0015】
種々の実施形態において、ポックスウイルスは更に、1以上の共刺激分子をコードする異種配列を含んでいる。
【0016】
種々の実施形態において、ポックスウイルスは、1以上の細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、または腫瘍抗原をコードする異種配列を含んでいる。
【0017】
種々の実施形態において、ポックスウイルスは、オルソポックスウイルス、パラポックスウイルス、ヤタポックスウイルス、アビポックスウイルス、レポリポックスウイルス、スイポックスウイルス、カプリポックスウイルス、セルビドポックスウイルス(cervidpoxvirus)、またはモルシポックスウイルスである。オルソポックスウイルスは、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、及びサル痘ウイルスからなる群から選択することができる。ワクシニアウイルスは、改変されたワクシニアウイルス・アンカラ(MVA)、例えば、改変されたワクシニアウイルス・アンカラ・ババリアンノルディック(MVA-BN)であってよい。
【0018】
種々の実施形態において、dsRNAを生じる異種もしくは内因性の核酸は、部分的もしくは完全に相補的なRNA転写物をコードする配列を含み、該RNA転写物の相補的な部分は転写後にアニールしてdsRNAを形成する。
【0019】
種々の実施形態において、完全にまたは部分的に相補的なRNA転写物をコードする異種核酸は、相補的領域内において同一であるか、または相補的な領域内において99%超、95%超、90%超、80%超、または70%超の類似性を有している。
【0020】
本発明の追加の目的及び利点は、一部は以下の説明に記載され、また一部は該説明から明らかになるか、または本発明の実施によって知ることができるであろう。本発明の目的及び利点は、添付の特許請求の範囲で特に指摘される要素及び組み合わせによって、実現及び達成されるであろう。
【0021】
上記の一般的説明及び以下の詳細な説明は、何れも例示であって説明に過ぎず、特許請求の範囲に記載の本発明を限定するものでないことが理解されるべきである。
【0022】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部をなす添付の図面は、本発明の一つまたは幾つかの実施形態を例示しており、前記説明と共に本発明の原理を説明するために役立つものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】初期dsRNAを過剰産生するCVA変異体と、対応する対照突然変異体の概略的表現を図示している。ボックスは、ORFのB14RとB20Rの間のゲノム領域におけるCVA・ORFを表しており、一定の縮尺では描かれていない。B15・ORFのCVAバージョンを表すボックスは黒で示されているのに対して、B15RのMVAバージョンはダイヤモンドパターンにより示されている。斜線のボックスは、B19R・ORFを表す。他の全てのORFは灰色ボックスとして示される。種々の欠失変異体においてCVA・ORFを置換する細菌選択マーカー(neo及びzeo)が、特定のマーカーの表示と共に小さいボックスとして示されている。
図2】BALB/cマウスにおけるCVA-dsneo-ΔB15変異体及び関連のCVA変異体の病原性を示している。6~8週齢の3~5匹の雌BALB/cマウスの群を、示されたCVA変異体の精製株5×10(A、B右パネル)または10(B左パネル、C)のTCID50を含有する50μlの接種菌液で鼻腔内感染させた。A)及びB)は異なる組のCVA変異体を用いた独立の実験結果を示している。動物は毎日検査され、指示された日に計量された。体重データは、第0日の初期平均体重からの各々の群の平均体重+/-SEMのパーセンテージとして表される。ダガーはそれぞれの日に死んだ動物の数を示している。C)10TCID50の指示されたウイルスの精製株で鼻腔内感染させた6~8週齢の雌BALB/cマウスの肺を、感染後6日目に回収した。肺をホモジナイズし、CV-1細胞を用いた標準的なTCID50アッセイによってウイルス力価を決定した。示されているのは、ウイルス当たり合計8匹のマウスを用いた2つの独立した実験での、肺における総ウイルス力価の平均である。***はp<0.001(スチューデントのt検定による)である。
図3】IFNAR0/0マウスにおける、CVA-dsneo-ΔB15の病原性を示している。A)9~18週齢の雄及び雌の両方の表示された数のC57BL/6-IFNAR0/0のマウスを、2×10TCID50の粗製ウイルス株、またはCVA及びCVA-dsneo-ΔB15の10TCID50の精製株を含有する50μL接種菌液で鼻腔内感染させた。動物は毎日検査され、指示された日に計量された。体重データは、第0日の初期平均体重からのそれぞれの群の平均体重+/-SEMのパーセンテージとして表される。B)Aに示したマウスの生存率。
図4】CVA-dsneo-ΔB15による、DCにおけるIFN-α及びIFN-λの誘導を示している。野生型C57BL/6マウス由来のFL-DCを、18時間に亘り、指定されたMOIにおいて指示されたウイルスで感染させた。IFN-α及びIFN-λについて、DC培養上清をELISAにより分析した。CVA及びCVA-ΔΒ15は、検出可能な量のIFN-αを誘導しなかった。
図5】neoカセット挿入物による、A31細胞でのCVA-dsneo-ΔB15によるIFN-β・mRNA誘導の動力学と、neoカセット挿入物の役割を示している。A)マウスBALB/3T3 A31細胞はモック感染され、或いはBAC由来のMVAまたはCVA野生型の精製株、並びにCVA変異体であるCVA-dsneo-ΔB15及びCVA-ΔB15の精製株で、10のMOIで指示された時間に亘って感染された。細胞を溶解し、該細胞溶解物からQIAGEN・RNeasyキットを使用してRNAを調製した。ゲノムDNA混入物をQIAGEN社のDNA除去(gDNA)カラムを使用して除去し、続いて37℃で1時間、ターボDNAse(Ambion社)で追加のDNAse処理を行い、その後、65℃で10分間、DNAseの熱不活性化を行った。IFN-β・mRNAレベルを、マウスIFN-βのための商業的遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems,Darmstadt,Germany)を用いて決定した。モック感染細胞におけるIFN-β・mRNAのレベルと比較したときのIFN-β・mRNAの増加倍数として表現された、感染細胞におけるIFN-β転写物のレベルが示されている。B)A31細胞は、10のMOIで6時間に亘りモック感染され、またはCVA及び指定されたCVA変異体の粗製株(概要については図1を参照のこと)で感染された。IFN-β・mRNAの定量のRNA調製は、A)に記載したようにして行った。IFN-β・mRNAの増加倍数として表現された、モック感染細胞におけるIFN-β・mRNAのレベルと比較したときの、感染細胞におけるIFN-β転写物のレベルが示されている。1:CVA;2:CVA-dsneo-ΔB15/B19;3:CVA-dsneo-ΔB15;4:CVA-ΔB15;5:CVA-zeo-ΔΒ15;6:CVA-ΔpB15-neo-ΔB15;7:モック。
図6】dsRNAを産生するMVA変異体のEGFP及びneo挿入物の概略図を示している。pS、pHybまたはpB15Rプロモータによって制御されるneo及びEGFPコード配列の転写方向(黒矢印)が示されている。ORF及び他の全ての要素は一定の縮尺で描かれてはいない。A)neo・ORFは、BACカセット(Meisinger 2010)内のneo-IRES-EGFP選択カセットの一部である。後者は、遺伝子間領域(IGR)I3L/I4L(MVA064/065)の中に挿入される。neo-IRES-EGFPカセットは、pSプロモータ(矢印で示す)の制御下で転写されるのに対して、B15R遺伝子座におけるneo/rpsLカセットは、B15Rプロモータの制御下に逆向きに転写される。一MVA構築物内のneo・ORFは、単一のミスマッチを伴って、792nt(グレーのボックスによって示される)だけ重複する。MVA-dsneo-ΔΒΙ5/ΔΒΑCにおいて、IGR・I3L/I4L内の完全なBACカセットは、Cre/lox組換えを介して削除された。B)ここでの全てのMVA-dsEGFP構築物はMVA組換え体に基づいており、該組換え体からはBACカセット内のneo-IRES-EGFPカセットが削除されていた。MVA-EGFPでは、neo-IRES-EGFPカセットがneo遺伝子に置き換えられた。MVA-EGFPにおいてセンス方向で転写されたEGFP・ORFは、ORFのA25LとA26Lの間(MVA136/137)でIGRに挿入されるのに対して、アンチセンスで転写されたEGFP・ORFは、IGR・J2R/J3R(MVA086/087)に挿入される。重複する相補的なEGFP転写物によって形成される潜在的dsRNAストレッチは、灰色のバーで示されている。MVA-EGFP及びMVA-dsEGFPについては、隣接するORFのみが示されている。アンチセンスEGFP転写物の3’末端におけるlacZα配列はMVA-dsEGFPに単独で挿入され、MVA-dsneo-ΔB15中の相補的neo転写物の集団に一致するように、非相補的な3’オーバーハングとして働く。MVA-EGFPには、EGFP・ORFの下流の細菌プロモータの制御下にあるFRT部位に隣接した、追加のneo挿入物が含まれている。FLP/FRT組換えにより、全てのMVA-dsEGFP構築物においてこの選択マーカーは除去された。
図7】dsRNAを産生するMVAの変異体によるマウスA31細胞でのIFN-β・mRNA及びタンパク質の発現の誘導を示している。マウスBALB/3T3 A31細胞は、MVA-wtの粗製ウイルス標本、またはneo(A、B)もしくはEGFP(C、D)の単一または重複転写物を発現する指定されたMVAの変異体で、モック感染または感染された。A)及びC)における細胞は、IFN-βの転写産物の分析のための回収前に、5時間(黒棒)及び7時間(灰色のバー)感染された。CVA-dsneo-ΔB15感染によるIFN-β遺伝子の誘導が、A)において示されている。細胞溶解物からQIAGEN・RNeasyキットを使用してRNAを調製した。ゲノムDNA混入物をQIAGEN社のDNA除去(gDNA)カラムを使用して除去し、続いて37℃で1時間、ターボDNAse(Ambion社)で追加のDNAse処理を行い、その後、65℃で10分間、DNAseの熱不活性化を行った。IFN-β・mRNAレベルを、マウスIFN-βのための商業的な遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)を用いて、RT-qPCRにより決定した。RT反応においてRT酵素が省略されたときに、混入DNAが存在しないことは、RT-qPCRのネガティブな結果によって実証された。モック感染細胞におけるIFN-β・mRNAのレベルと比較したときの、感染細胞におけるIFN-β転写物のレベルが示されている。IFN-βのCt値は、細胞の18S・rRNAについてのCt値を用いて正規化された。IFN-βタンパク質レベルが、18時間(B)または23時間(D)感染された細胞の上清中で測定された。上清を回収し、市販のELISA(PBL)を使用して、マウスIFN-βについて検査した。実験A及びCに示した感染は一つの実験に由来するのに対して、実験B)及びD)は独立したものであった。A)1:MVAwt、2:MVA-dsneo-ΔB15;3、MVA-dsneo-ΔB15/-ΔBac、4:MVA-ΔB15、5:CVA-dsneo-ΔB15、6:モック。B)1:MVA wt、2:MVA-dsneo-ΔΒ15、3:MVA-ΔΒ15、4:モック、5:培地。C)1:MVA-EGFP、2:MVA-dsEGFP、3:モック。D)1:MVA-EGFP、2:MVA-dsEGFP、3:モック。
図8】dsRNA発生のタイミングに応じた、MVA-dsEGFPによるIFN-β・mRNA発現の誘導を示している。「IFN-β・mRNAの増加倍数」として表現された、モック感染細胞におけるIFN-β・mRNAのレベルと比較したときの感染細胞におけるIFN-β転写物のレベルが示されている。A)wt-MEFはモック感染され、またはMVA-EGFP(センス転写物を生じる唯一のEGFP挿入物を含む参照ウイルス)、陽性対照としてのMVA-dsEGFP-2、またはMVA-ΔE3L(ウイルスdsRNA結合性タンパク質E3をコードする遺伝子を欠失している)の精製株で5時間、10のMOIにて感染された。細胞は、未処理のまま残されるか(黒棒)、または最終濃度40μg/mLのシトシンアラビノシド(AraC、白棒)で処理され、これは初期段階におけるウイルスDNAの複製を妨げて感染を阻止する。図7の凡例に示したようにして、RT-qPCRにより細胞溶解物からRNAを調製し、IFN-β・mRNAレベルを分析した。B)wt-MEFをモック感染させ、またはMVA-EGFP、MVA-dsEGFPもしくはMVA-dsEGFP-後期の粗製株(これはババリアンノルディックが開発した強力かつ排他的な後期プロモータ(SSL)の制御下で、アンチセンスEGFPカセットを発現する)で5時間感染させた。図7の凡例に示したようにして、RT-qPCRにより細胞溶解物からRNAを調製し、IFN-β・mRNAレベルを分析した。
図9】A31細胞における、MVA-dsneo-ΔB15及びMVA-dsEGFPによるPKRの活性化を示している。マウスA31細胞が播種後の第1日に、10のMOIにおいて、指示されたウイルスの粗製株で感染された。感染後の示された時間に調製された細胞溶解物中におけるelF2aのリン酸化(P-elF2a)が、1:1000希釈のelF2aのホスホ-エピトープSer51に対する抗体(抗体#9721、Cell Signaling Technology Inc.,Danvers,MA,USA)を用いたイムノブロットによって分析された。ローディング対照として、イムノブロット膜の別々の部分を、マウスβチューブリンアイソタイプIを検出する抗体を用いて現像した。
図10】MEFにおいてMVA-dsEGFPによるIFN-β・mRNAの増大した誘導がPKRに依存することを示している。wt-MEF及びPKR欠乏(PKR0/0)MEFを、10のMOIで5時間、MVA-EGFPまたはMVA-dsEGFPの精製株を用いて感染させ、またはモック感染させた。市販のセンダイウイルス(SeV)の1:100希釈標本1mLを、PKRに依存しないがdsRNAに依存するIFN-β誘導のための陽性対照として使用した。A)図7の凡例に示したようにして、RT-qPCRにより細胞溶解物からRNAを調製し、IFN-β・mRNAのレベルを分析した。「IFN-β・mRNAの増加倍数」と表現された、モック感染細胞でのIFN-β・mRNAレベルに対するIFN-β転写物のレベルが示されている。1:MVA、2:MVA-EGFP、3:MVA-dsEGFP、4:センダイウイルス、5:モック。B)IFN-βタンパク質レベルが、24時間感染させた細胞の上清中で測定された。上清を回収し、市販のELISA(PBL)を使用することによりマウスIFN-βについて検査した。1:MVA、2:MVA-EGFP、3:MVA-dsEGFP、4:センダイウイルス、5:モック。
図11】dsRNAを産生するMVA組換え体による、IFN-βのPKR依存性誘導の長さ要件を示している。wt-MEF及びPKR0/0-MEFは、10のMOIで37℃において5時間(A,C)または24時間(B)、MVA-EGFPまたは次第に短縮されたEGFP・ORF重複を有する指定されたEGFP-dsRNA変異体(図6B参照)の粗製株を用いて感染され、またはモック感染された。市販のセンダイウイルス(SeV)の1:100希釈標本1mLを、dsRNAに依存するがPKRに依存しないIFN-β誘導のための陽性対照として使用した。モックに対するIFN-β・mRNAの誘導倍率は、図7の凡例で記載したようにして細胞から単離された全RNAを使用して、RT-qPCRにより決定された。IFN-β・mRNAについてのCt値は、内因性の対照として働く18S・rRNAのCt値で補正された。B)IFN-βタンパク質レベルが、指示されたMVA組換え体で24時間感染させたwtMEF及びPKR0/0-MEFの上清中で測定された。上清を回収し、市販のELISA(PBL)を使用して、マウスIFN-βについて検査した。MVA-ΔB15は、追加の参照として含められた。A)1:MVA、2:MVA-EGFP、3:MVA-dsEGFP、4:MVA-dsEGFP-2、5:MVA-dsEGFP-3、6:MVA-dsEGFP-4、7:MVA-dsEGFP-5、8:センダイウイルス、9:モック、B)1:MVA、2:MVA-EGFP、3:MVA-ΔB15、4:MVA-dsEGFP、5:MVA-dsEGFP-2、6:MVA-dsEGFP-3、7:MVA-dsEGFP-4、8:MVA-dsEGFP-5、9:センダイウイルス、10:モック、C)1:MVA-EGFP、2:MVA-dsEGFP、3:MVA-dsEGFP-6、4:モック。
図12】MVA-dsEGFPの複製及び表現型の安定性を示している。A)MVA-EGFP及びMVA-dsEGFPの複製挙動の分析のために、10の二次CEF細胞の単層に、これらのウイルスを0.025のMOIで三重に感染させた(マルチサイクル分析)。示された時間でのウイルスの出力がプロットされており、各データ点は、3つの独立したウエルからの結果を表す。B)10のヒトHeLa細胞及びHaCaT細胞、及びサルCV-1細胞の単層に、MVA-EGFPまたはMVAds-EGFPを、0.025のMOIで三重に感染させた。感染後3日におけるウエル当たり5×10 TCID50の入力に対するウイルス出力の比率がプロットされている。各データ点は、3つの独立したウェルからの単回の滴定結果を表す。C)本文中に記載されているように、二次CEF細胞の単層に、DF-1細胞中で1回(P1)または10回(P10)継代された指示されたウイルスを、10のMOIで5時間感染させた。感染細胞におけるIFN-β・mRNAのモックに対する誘導倍率が、図7の凡例に記載の細胞から単離した全RNAを用いたRT-qPCRにより決定した。1:MVA-EGFP-P1、2:MVA-EGFP-P10、3:MVA-dsEGFP P1、4:MVA-dsEGFP P10、5:モック。
図13】C57BL/6wt、IPS-10/0及びPKR0/0マウスおける、変異体MVA-dsEGFPによるサイトカイン発現の誘導を示している。8~12週齢の、示された株の5匹のマウスの群(B6=C57BL/6wt)は、マウス当たり10TCID50の用量で、示されたウイルスを静脈内感染させた。動物は感染後6時間で採血され、血清より、ベンダー・メドシステムズ社(Bender Medsystems)から入手したビーズベースのフローサイトメトリーアッセイを用いて、指定されている選択されたサイトカインの濃度を分析した。A)IFN-α。B)IFN-γ。C)IL-6。D)IL-18。E)CXCL1。F)CCL2。G)CCL5。
図14】マウスにおける、MVA-EGFP及び変異体MVA-dsEGFPによるMVA特異的CD8T細胞の誘導を示している。A)8週齢のC57BL/6マウス3~5匹のグループが、10TCID50/マウスの用量で静脈内において1回(A)、示されたウイルスで感染された。感染後7日に脾臓を採取し、B820-27エピトープ特異的デキストラマーを使用したMHCクラスIデキストラマー染色によりMVA特異的CD8T細胞を定量するために、単一細胞脾臓細胞懸濁液を使用した。2つの独立した実験からの組み合わされた結果が示されている。星印は、対応のないスチューデントの両側t検定におけるp値<0.05を示している。
図15】MVA-dsEGFP変異体による、ヒトMRC-5細胞でのIFN-β・mRNA発現の誘導を示している。6ウェルプレート中のMRC-5細胞(ヒト二倍体肺線維芽細胞)が、MVAwtに対応するMVA-EGFP及び次第に短くなるEGFP・ORF重なりを備えた指定された組み換えMVA-dsEGFPの粗製株で感染またはモック感染された。これに加えてMVA-dsneo-ΔB15及びMVA-ΔB15を使用し、図7の凡例に示したように、感染5時間後の細胞から単離された全RNAを用いたRT-qPCRによりIFN-β・mRNAのモックに対する誘導倍数を測定した。IFN-βのCt値は、内因性の対照として働く細胞性18S・rRNAについてのCt値を用いて正規化した。示されているのは、「IFN-β・mRNAの誘導倍率」と表現されたモック感染細胞におけるIFN-β・mRNAのレベルと比較した、感染細胞におけるIFN-β転写物のレベルである。1:MVA、2:MVA-EGFP、3:MVA-dsneo-ΔB15、4:MVA-ΔB15、5:MVA-dsEGFP、6:MVA-dsEGFP-2、7:MVA-dsEGFP-3、8:MVA-dsEGFP-4、9:MVA-dsEGFP-5、10:モック。
図16】MVA-dsE3L及びMVA-dsE3LによるIFN-β遺伝子誘導の概略図を示している。A)変異体MVA-dsE3Lの模式図。ネイティブpE3L及び挿入されたpH5mプロモータによるE3Lコード配列の転写方向(黒矢印)が示されている。初期転写終結シグナル(ETTS’s)は垂直灰色バーで示されている。灰色の矢じりは、ETTSが潜在的にアクティブである転写方向を示している。E3L・ORFにおけるアンチセンスETTSは、E3のアミノ酸配列を変更することなく、コドン内の不安定位置の部位特異的突然変異誘発により不活性化された。二つの相補的E3L転写物によって形成される潜在的dsRNAストレッチが、灰色のバーで示されている。B)6ウェルプレートでのMEFは、10のMOIで、指示されたウイルスの粗製株で感染され、またはモック感染された。MVA-EGFPはMVAwtに相当する。モックに対するIFN-β・mRNAの誘導倍率が、感染後5時間において、細胞から単離された全RNAを用いたRT-qPCRにより決定された。IFN-β・mRNAのCt値は、内因性の対照として働く18S・rRNAについてのCt値で補正された。1:MVA-EGFP、2:MVA-dsEGFP、3:MVA-dsEGFP-5、4:MVA-dsEGFP-後期、5:MVA-dsE3L。
図17】B19R遺伝子のアミノ酸配列が、多くのポックスウイルスに亘って保存されていることを示している。A)、B)、C)及びD):デフォルト設定のClustalO,v.1.2.0により作成されたサル痘ウイルス(配列番号1)、ワクシニアウイルス・ウエスタンリザーブ(「ワクシニア-WR」)(配列番号2)、ワクシニアウイルス・コペンハーゲン(配列番号3)、漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラ(「CVA」)(配列番号4)、エクトロメリアウイルス(配列番号5)、牛痘ウイルス(配列番号6)、ラクダ痘ウイルス(配列番号7)、豚痘ウイルス(配列番号8)、及びタナポックスウイルス(配列番号9)によってコードされるB19R遺伝子及び/またはその相同体のアミノ酸配列アラインメント。E)は、パートA)、B)、C)及びD)において整列されたB19R配列及び/またはその相同体のための対でのアミノ酸配列同一性を示す表。(配列の簡単な説明)
【0024】
配列番号:1[登録番号Q5IXK2:IFN-α/β受容体様の分泌糖タンパク質;サル痘ウイルス]:
MMKMKMMVRIYFVSLSLLLFHSYAIDIENEITEFFNKMRDTLPAKDSKWLNPVCMFGGTMNDM AALGEPFSAKCPPIEDSLLSHRYKDYVVKWERLEKNRRRQVSNKRVKHGDLWIANYTSKFSNR RYLCTVTTKNGDCVQGVVRSHVWKPSSCIPKTYELGTYDKYGIDLYCGILYAKHYNNITWYKDN KEINIDDFKYSQAGKELIIHNPELEDSGRYDCYVHYDDVRIKNDIVVSRCKILTVIPSQDHRFKLIL DPKINVTIGEPANITCSAVSTSLFVDDVLIEWKNPSGWIIGLDFGVYSILTSRGGITEATLYFENVT EEYIGNTYTCRGHNYYFDKTLTTTVVLE
【0025】
配列番号:2[登録番号P25213:可溶性インターフェロンα/β受容体B19; ワクシニアウイルス・ウエスタンリザーブ株]:
MTMKMMVHIYFVSLLLLLFHSYAIDIENEITEFFNKMRDTLPAKDSKWLNPACMFGGTMNDIAAL GEPFSAKCPPIEDSLLSHRYKDYVVKWERLEKNRRRQVSNKRVKHGDLWIANYTSKFSNRRYL CTVTTKNGDCVQGIVRSHIRKPPSCIPKTYELGTHDKYGIDLYCGILYAKHYNNITWYKDNKEINI DDIKYSQTGKELIIHNPELEDSGRYDCYVHYDDVRIKNDIVVSRCKILTVIPSQDHRFKLILDPKIN VTIGEPANITCTAVSTSLLIDDVLIEWENPSGWLIGFDFDVYSVLTSRGGITEATLYFENVTEEYIG NTYKCRGHNYYFEKTLTTTVVLE
【0026】
配列番号:3[登録番号Q5CAD5:IFN-α-β受容体様の分泌糖タンパク質; ワクシニアウイルス・コペンハーゲン株]:
MTMKMMVHIYFVSLLLLLFHSYAIDIENEITEFFNKMRDTLPAKDSKWLNPACMFGGTMNDIAAL GEPFSAKCPPIEDSLLSHRYKDYVVKWERLEKNRRRQVSNKRVKHGDLWIANYTSKFSNRRYL CTVTTKNGDCVQGIVRSHIKKPPSCIPKTYELGTHDKYGIDLYCGILYAKHYNNITWYKDNKEINI DDIKYSQTGKKLIIHNPELEDSGRYNCYVHYDDVRIKNDIVVSRCKILTVIPSQDHRFKLILDPKIN VTIGEPANITCTAVSTSLLIDDVLIEWENPSGWLIGFDFDVYSVLTSRGGITEATLYFENVTEEYIG NTYKCRGHNYYFEKTLTTTVVLE
【0027】
配列番号:4[登録番号A9J168:可溶性及び細胞表面インターフェロンα/β受容体; ワクシニアウイルス・アンカラ株(CVA)]:
MKMTMKMMVHIYFVSLLLLLFHSYAIDIENEITEFFNKMRDTLPAKDSKWLNPACMFGGTMNDI AALGEPFSAKCPPIEDSLLSHRYKDYVVKWERLEKNRRRQVSNKRVKHGDLWIANYTSKFSNR RYLCTVTTKNGDCVQGIVRSHIKKPPSCIPKTYELGTHDKYGIDLYCGILYAKHYNNITWYKDNK EINIDDIKYSQTGKKLIIHNPELEDSGRYNCYVHYDDVKIKNDIVVSRCKILTVIPSQDHRFKLILDP KINVTIGEPANITCTAVSTSLLIDDVLIEWENPSGWLIGFDFDVYSVLTSRGGITEATLYFENVTEE YIGNTYKCRGHNYYFEKTLTTTVVLE
【0028】
配列番号:5[登録番号Q9JFS5:IFN-α/β結合タンパク質;エクトロメリアウイルス]:
MMKMTMKMMVRIYFVSLSLSLSLLLFHSYAIDIENEITEFFNKMRDTLPAKDSKWLNPSCMFGG TMNDMAALGEPFSAKCPPIEDSLLSHRYNDKDNVVNWEKIGKTRRPLNRRVKNGDLWIANYTS NDSHRRYLCTVTTKNGDCVQGIVRSHIRKPPSCIPETYELGTHDKYGIDLYCGILYAKHYNNITW YKNNQELIIDGTKYSQSGQNLIIHNPELEDSGRYDCYVHYDDVRIKNDIVVSRCKILTVIPSQDHR FKLILDPKINVTIGEPANITCTAVSTSLLVDDVLIDWENPSGWIIGLDFGVYSILTSSGGITEATLYF ENVTEEYIGNTYTCRGHNYYFDKTLTTTVVLE
【0029】
配列番号:6[登録番号Q5CAC3:可溶性インターフェロンα/β受容体; 牛痘ウイルス]:
MKMTMKMMVHIYFVSLSLSLSLLLFHSYAIDIENEITEFFNKMKDTLPAKDSKWLNPACMFGGT MNDMAAIGEPFSAKCPPIEDSLLSHRYKDKDNVVNWEKIGKTRRPLNRRVKNGDLWIANYTSN DSRRRYLCTVITKNGDCIQGIVRSHVRKPSSCIPEIYELGTHDKYGIDLYCGIIYAKHYNNITWYK DNKEINIDDIKYSQTGKELIIHNPALEDSGRYDCYVHYDDVRIKNDIVVSRCKILTVIPSQDHRFKLI LDPKINVTIGEPANITCTAVSTSLLVDDVLIEWENPSGWLIGFDFDVYSVLTSRGGITEATLYFEN VTEEYIGNTYKCRGHNYYFEKTLTTTVVLE
【0030】
配列番号:7[登録番号Q5CA87:可溶性インターフェロンα/β受容体;ラクダ痘ウイルス]:
MKMTMKMMVHIYFVSLSLSLLLFHSYAIDIENEITDFFNKMKDILPTKDSKWLNPACMFGGTTND MAAIGEPFSAKCPPIEDSLLSHRYKNKDNVVNWEKIGKTKRPLNRRVKNGDLWIANYTSNDSR RRYLCTAITKNGDCIQGIIRSHVRKPSSCIPEIYELGTHDKYGIDLYCGIIYAKHYNNITWYKDNKEI NIDDIKYSQTGKELIIHNPALEDSGRYDCYVHYDDVRIKNDIVVSRCKILTVTPSQDHRFKLILDPK INVTIGEPANITCTAVSTSLLVDDVLIEWENPSGWLIGFDFDVYSVLTSRGGITEATLYFENVTEE YIGNTYKCRGHNYYFEKTLTTTVVLE
【0031】
配列番号:8[登録番号Q8V3G4:IFN-α/β様結合性タンパク質;豚痘ウイルス、豚/ネブラスカ/17077-99/1999株]:
MISIKKYNILLFIISFIYCSADNDIDSLYEGYKEFLDPKLKQFLNDNCTYRGYRDFFLYNEEPANIKC PLLNDILLRQKYHNYTILWKKLGERSSRLLNTHGSIFLDFFPYKSELRGSVYECMIILNNTCDQFIL KLNDIRSNPVCYHNDYKVHTNIEIFCNVINLQYDYITWYKNNSEIIIDGYKYSNQSRRLLVYNTTY NDSGIYYCNAYTTHGKNTYISRRCSSVSIHSHSYYDFYIEHINNITYIDPDSENTQIYCKAISYSNS SYILIYWEDEYGGYIYDNGIYQYDNITLIGNEKVYMSILVLEKSAYYRYVNNTFTCLATSVYVEKK TTTTLVIKKT
【0032】
配列番号:9[登録番号A7XCS4:I型IFN受容体; タナポックス(Tanapox)ウイルス]:
MKITYIILLICKEIICDNSGDDMYDYIANGNIDYLKTIDNDIINLVNKNCSFREIKTTLAKENEVLMLK CPQLDNYILPWKYMNRSEYTVTWKNISNSTEYNNTRIENNMLMFFPFYNLQAGSKYLCTVSTN KSCDQSVVIVKKSFYSNNCMLSEAKENDNFEIYCGILHAKYNTIKWFKEEKEITNNYKYYTKLGG YVKGINNVTYSDSGKYVCEGYYIDVLKNITYTAKRCVNLTVIPNTYYDFFIVDIPNVTYAKNNKKL EVNCTSFVDINSYDYILTSWLYNGLYLPLGVRIYQLYSTDIFFENFIYRTSTLVFENVDISDDNKTF ECEALSVTLKKIKYTTIKVEK
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、その例が添付図面に示される例示的実施形態を詳細に参照する。
【0034】
<定義>
特に注記しない限り、本明細書における技術用語は、分子生物学の当業者の従来の用法に従って使用される。分子生物学における共通の用語については従来の用法は標準的な教科書、例えば、オックスフォード大学出版によって発行されたBenjamin LewinによるGenes V、1994(ISBN 0-19-854287-9);Kendrew等(編)のブラックウェルサイエンス社によって発行されたThe Encyclopedia of Molecular Biology、1994(ISBN 0-632-02182-9);及びMolecular Biology and Biotechnology: a Comprehensive Desk Reference:VCH出版社が発行したRobert A. Meyers編、1995(ISBN 1-56081-569-8)に見出すことができる。
【0035】
本明細書で使用される場合、特に文脈が明らかに示さない限り、単数形の不定冠詞及び定冠詞は複数への言及を含むものである。従って、例えば「一つのエピトープ」への言及は1以上のエピトープへの言及を含み、また「前記方法」へ言及は、本明細書に提供される方法のために改変されまたは置換され得る、当業者に既知の等価な複数の工程及び複数の方法への言及を含むものである。
【0036】
別途明記しない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」の用語は、この一連の全ての要素を指すものと理解されるべきである。当業者は、本明細書で提供される本発明の一定の実施形態に対する多くの均等物を、日常的な実験のみを用いて認識し、または確認することができるであろう。このような均等物は、本発明に包含される。
【0037】
本明細書及び以下の特許請求の範囲を通して、別途明記しない限り、単語「含んでなる」、並びにその三人称単数形及び現在進行形等の変化形は「含む」を意味し、従って、述べられた一つの整数もしくはステップ、または複数の整数もしくは工程のグループを含むものであり、他の任意の整数もしくは工程、または複数の整数もしくは工程を排除する。本明細書において使用するとき、「含んでなる」の用語は、「包含する」「含んでいる」または「有する」の用語で置き換えることができる。本発明の態様または実施形態の文脈において本明細書中で使用されるときはいつでも、前述の用語(含んでなる、包含する、含んでいる、有する)の何れかは、「からなる」の用語で置換することができる。
【0038】
本明細書中で使用される場合、「からなる」という用語は、特許請求の範囲において特定されていない任意の要素、ステップ、または成分を除外する。本明細書で使用する場合、「本質的にからなる」の用語は、特許請求の範囲の残りの部分で定義された製品または方法の「基本的かつ新規な特徴に影響を与えるであろう」如何なるの材料または工程をも除外する。ウォーターテックス社(Corp.)対カルコ社(Ltd.)、7 U.S.P.Q.2d 1097、1102(連邦巡回控訴裁判所、1988年)。
【0039】
本明細書中で使用される、記載された複数の要素の間の接続語「及び/または」は、個々及び組み合わせたオプションの両方を包含すると理解される。例えば、二つの要素が「及び/または」によって結ばれている場合、最初のオプションは、第二の要素を伴わない最初の要素の適用を指す。二番目のオプションは、第一の要素を伴わない第二の要素の適応を指称する。第三のオプションは、第一及び第二の要素を共に適用することを言う。これらのオプションの何れも、本明細書中で使用される意味の範囲内に収まるものと理解され、従って、ここで用いられる「及び/または」の用語の要件を満たすものと理解される。該オプションの複数の同時適用もまた、この意味の範囲内に収まるので、「及び/または」の用語の要件を満たすものと理解される。
【0040】
本明細書で述べる全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、その全体が本明細書の一部として援用される。矛盾する場合には、すべての定義を含めて、本明細書が支配する。
【0041】
アジュバント:抗原性を高めるために使用される担体。アジュバントは、(1)抗原が吸着された鉱物(ミョウバン、水酸化アルミニウム、またはリン酸)の懸濁液;(2)鉱物油中に抗原溶液が乳化された油中水エマルジョン(フロイント不完全アジュバント)、抗原の分解阻害及び/またはマクロファージの流入、及び/または免疫細胞の活性化により抗原性を更に高めるように、時には死滅したマイコバクテリアが含められる(フロイント完全アジュバント);(3)例えばCpGモチーフを含むもの等の免疫刺激性オリゴヌクレオチドを、アジュバントとして使用することができる(例えば、米国特許第6,194,388号;及び米国特許第6,207,646号参照);及び(4)共刺激分子のような精製または組換えタンパク質。例示的なアジュバントには、B7-1、ICAM-1、LFA-3、及びGM-CSFが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
抗原;抗原決定基;エピトープ:動物において抗体の産生またはCD4+またはCD8+T細胞応答を刺激することができる化合物、組成物、または物質であって、動物に注射または吸収される組成物を含む。抗原は免疫系と反応して、抗原特異的な体液性または細胞性免疫応答を生じさせる。「抗原」という用語は、特定の化合物、組成物または物質のすべての関連エピトープを含む。「エピトープ」または「抗原決定基」の用語は、単独で、または別のタンパク質、例えば主要組織適合遺伝子複合体(「MHC」)タンパク質またはT細胞受容体と一緒に、B細胞及び/またはT細胞が応答する抗原上の部位を指称する。T細胞エピトープは、8~20のアミノ酸の連続的ストレッチから形成される。B細胞エピトープは、タンパク質の二次および/または三次折畳みに並置された連続的アミノ酸または非連続的アミノ酸の両方から形成することができる。連続的アミノ酸から形成されたB細胞エピトープは、典型的には変性溶媒への露出に際して保持されるのに対して、三次元折畳みにより形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒での処理に際して失われる。B細胞エピトープは、典型的には、固有の空間的立体構造で、少なくとも5、6、7、8、9、10以上のアミノ酸、一般には20未満のアミノ酸を含んでいる。エピトープの空間的立体構造を決定する方法には、例えば、X線結晶学及び2次元核磁気共鳴が含まれる。例えば、Molecular BiologyのMethodsにおける“Epitope Mapping Protocols”, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996)を参照されたい。
【0043】
抗原は、組織特異的(または組織関連)抗原、または疾患特異的(または疾患関連)抗原であることができる。組織特異的抗原はまた疾患特異的抗原でもあり得るので、これらの用語は相互に排他的ではない。組織特異的抗原は、限られた数の組織で発現される。組織特異的抗原には、例えば、前立腺特異抗原(「PSA」)が含まれる。疾患特異的抗原は疾患プロセスと同時に発現され、ここでの抗原の発現は特定の疾患の発生と相関し、または該疾患の発症を予測させるものである。疾患特異的抗原には、例えば、特定の種類の乳癌と関連したHER-2、または前立腺癌と関連したPSAが含まれる。疾患特異的抗原は、T細胞またはB細胞によって認識される抗原であることができる。組織及び/または疾患特異的抗原は、細菌抗原、真菌抗原、寄生虫抗原、もしくは腫瘍関連抗原、またはウイルス抗原を含むことができるが、それらに限定されない。
【0044】
細菌抗原:1種以上の細菌種またはその株に由来する抗原、例えば、炭疽菌、百日咳菌、ボレリア・ブルグドルフェリ、ウシ流産菌、ブルセラカニス、ブルセラ・メリテンシス、ブルセラ・スイス、カンピロバクター・ジェジュニ、肺炎クラミジア、トラコーマクラミジア、クラミジアオウム病、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシレ、ウェルシュ菌、破傷風菌、コリネバクテリウム・ジフテリエ、エンテロコッカスフェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、病原性大腸菌、大腸菌157:H7、野兎病菌、ヘモフィルス・インフルエンザ、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、レプトスピラ・インターロガンス、リステリア菌、らい菌、結核菌、肺炎マイコプラズマ、淋菌、髄膜炎菌、緑膿菌、リケッチア・リケッチア、チフス菌、ネズミチフス菌、赤痢菌ソンネ、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・サプロフィチカス、ストレプトコッカス・アガラクティエ、肺炎球菌、化膿連鎖球菌、梅毒トレポネーマ、コレラ菌、及びペスト菌に由来する抗原。
【0045】
真菌抗原:1種以上の真菌種または株に由来する抗原、例えば、アスペルギルス・クラバタス、アスペルギルス・フラバス、アスペルギルス・フミガーツス、アスペルギルス・ニデュランス、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・テレウス、ブラストミセスデルマティティディス、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・ドゥブリニエンシス、カンジダ・グラブラタ、カンジダ・パラプシロシス、カンジダ・ルゴサ、カンジダ・トロピカリス、クリプトコッカス・アルビダス、クリプトコッカス・ガッティ、クリプトコッカスラウレンティ、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ヒストプラズマ・カプスラーツム、犬小胞子菌、カリニ肺炎、ニューモシスチス・ジロベシ、スポロトリックス・シェンキー、スタキボトリス・カルタルム、白癬性毛瘡、頭部白癬、体部白癬、股部白癬、顔面白癬、異型白癬、白癬黒質、白癬玉虫色、トリコフィトンルブルム及びトリコフィトン・トンズランスに由来する抗原。
【0046】
寄生虫抗原:1種以上の寄生虫の種または株に由来する抗原、例えば、アニサキス属、バベシア属、アライグマ回虫、クリプトスポリジウム属、シクロスポラ・カイエタネンシス、裂頭条虫属、メジナ虫、赤痢アメーバ、十二指腸鞭毛虫(Giardia・duodenalis)、腸鞭毛虫、ランブル鞭毛虫、リーシュマニア属、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium・falciparum)、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫、日本住血吸虫、テニア属、トキソプラズマ原虫、旋毛虫、及びクルーズトリパノソーマに由来する抗原。
【0047】
腫瘍関連抗原:特定の腫瘍タイプで過剰発現され、または優勢に発現された抗原例えば、5-α-レダクターゼ、α-フェトプロテイン(「AFP」)、AM-1、APC、April、B黒色腫抗原遺伝子(「BAGE」)、β-カテニン、Bcl12、bcr-abl、ブラキュリ、CA-125、カスパーゼ8(「CASP-8」、「FLICE」としても知られている)、カテプシン、CD19、CD20、CD21/補体受容体2(「CR2」)、CD22/BL-CAM、CD23/FεRII、CD33、CD35/補体受容体1(「CR1」)、CD44/PGP-1、CD45/白血球共通抗原(「LCA」)、CD46/膜補因子タンパク質(「MCP」)、CD52/CAMPATH-1、CD55/崩壊促進因子(「DAF」)、CD59/プロテクチン、CDC27、CDK4、癌胎児性抗原(「CEA」)、c-myc、シクロオキシゲナーゼ-2(「cox-2」)、結腸直腸癌に欠失している遺伝子(「DCC」)、DcR3、E6/E7、CGFR、EMBP、Dna78、ファルネシルトランスフェラーゼ、線維芽細胞増殖因子-8a(「FGF8a」)、線維芽細胞増殖因子-8b(「FGF8b」)、FLK-1/KDR、葉酸受容体、G250、G黒色腫抗原遺伝子ファミリー(「GAGE-family」)、ガストリン17、ガストリン放出ホルモン、ガングリオシド2(「GD2」)/ガングリオシド3(「GD3」)/ガングリオシドモノシアル酸-2(「GM2」)、ゴナドトロピン放出ホルモン(「GnRH」)、UDP-GlcNAc:RMan(α1-6)R[GlcNAc to Man(α1-6)]β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(「GnT V」)、GP1、gp100/Pme117、gp-100-in4、gp15、gp75/チロシン関連タンパク質-1(「gp75/TRP-1」)、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(「hCG」)、ヘパラナーゼ、Her2/neu、ヒト乳房腫瘍ウイルス(「HMTV」)、70キロダルトン熱ショックタンパク質(「HSP70」)、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(「hTERT」)、インスリン様増殖因子受容体1(「IGFR-1」)、インターロイキン13受容体(「IL-13R」)、誘導型一酸化窒素合成酵素(「iNOS」)、Ki67、KIAA0205、K-ras、H-ras、N-ras、KSA、LKLR-FUT、黒色腫抗原コード化遺伝子1(「MAGE-1」)、黒色腫抗原コード化遺伝子2(「MAGE-2」)、黒色腫抗原コード化遺伝子3(「MAGE-3」)、黒色腫抗原コード化遺伝子4(「MAGE-4」)、マンマグロビン、MAP17、メラン-A/T細胞―1により認識される黒色腫抗原(「MART-1」)、メソテリン、MIC A/B、MT-MMP、ムチン、精巣特異抗原NY-ESO-1、オステオネクチン、p15、P170/MDR1、p53、p97/メラノトランスフェリン、PAI-1、血小板由来増殖因子(「PDGF」)、μΡΑ、PRAME、プロバシン、プロジェニポエチン(progenipoietin)、前立腺特異抗原(「PSA」)、前立腺特異的膜抗原(「PSMA」)、RAGE-1、Rb、RCAS1、SART-1、SSXファミリー、STAT3、STn、TAG-72、トランスフォーミング増殖因子α(「TGF-α」)、トランスフォーミング増殖因子β(「TGF-β」)、チモシンβ-15、腫瘍壊死因子α(「TNF-α」)、TP1、TRP-2、チロシナーゼ、血管内皮増殖因子(「VEGF」)、ZAG、p16INK4、及びグルタチオンSトランスフェラーゼ(「GST」)に由来する抗原。
【0048】
ウイルス抗原:1以上のウイルス型またはその単離体に由来する抗原、例えば、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、サイトメガロウイルス(「CMV」)、デング熱ウイルス、エボラウイルス、エプスタイン-バーウイルス(「EBV」)、グアナリトウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(「HSV-1」)、単純ヘルペスウイルス2型(「HSV-2」)、ヒトヘルペスウイルス8型(「HHV-8」)、A型肝炎ウイルス(「HAV」)、B型肝炎ウイルス(「HBV」)、C型肝炎ウイルス(「HCV」)、D型肝炎ウイルス(「HDV」)、E型肝炎ウイルス(「HEV」)、ヒト免疫不全ウイルス(「HIV」)、インフルエンザウイルス、フニンウイルス、ラッサ熱ウイルス、マチュポウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ムンプスウイルス、ノーウォークウイルス、ヒトパピローマウイルス(「HPV」)、パラインフルエンザウイルス、パルボウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(「RSV」)、ライノウイルス、ロタウイルス、風疹ウイルス、サビアウイルス、重症急性呼吸器症候群ウイルス(「SARS」)、中東呼吸器症候群コロナウイルス(「MERS-CoV」)、水痘帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、西ナイルウイルス、及び黄熱病ウイルスに由来する抗原。
【0049】
cDNA(相補的DNA):内部の非コード化セグメント(イントロン)、並びに転写の開始及び終止のタイミングと場所を決定する調節配列を欠失したDNA断片。cDNAは、細胞から抽出されたメッセンジャーRNA(「mRNA」)の逆転写によって実験室で合成することができる。
【0050】
保存的変異体:「保存的」変異体は、タンパク質またはその抗原性エピトープの活性または抗原性に実質的に影響せず、または低下させない1以上のアミノ酸置換を有する変異体タンパク質またはポリペプチドである。一般に、保存的置換は、特定のアミノ酸が同一または類似の化学特性を有する別のアミノ酸で置換されたものである。例えば、リジンのような塩基性アミノ酸を、アルギニンまたはグルタミンのような別の塩基性アミノ酸で置換することは保存的置換である。保存的変異体の用語はまた、置換ポリペプチドに対して生じた抗体もまた非置換ポリペプチドと免疫反応し、及び/または置換ポリペプチドが非置換ポリペプチドの機能を保持することを条件に、非置換の親アミノ酸の代わりに置換アミノ酸の使用を含む。非保存的置換は、特定のアミノ酸を異なる化学的特性を有するアミノ酸に置換するものであり、典型的にはタンパク質またはその抗原性エピトープの活性または抗原性を低下させる。
【0051】
保存的置換の具体的且つ非限定的な例には、以下の例が含まれる。
【0052】
元の残基 保存的置換
Ala Ser
Arg Lys
Asn Gln、His
Asp Glu
Cys Ser
Gln Asn
Glu Asp
His Asn;Gln
Ile Leu;Val
Leu Ile;Val
Lys Arg;Gln;Glu
Met Leu;Ile
Phe Met;Leu;Tyr
Ser Thr
Thr Ser
Trp Tyr
Tyr Trp;Phe
Val Ile;Leu
【0053】
CD4:分化因子集団4、MHCクラスII分子との相互作用を媒介するT細胞表面タンパク質の集団。CD4を発現する細胞は「CD4+」細胞と称され、多くの場合はヘルパーT(例えば、「T」、「T1」、または「T2」)細胞である。
【0054】
CD8:分化因子集団8、MHCクラスI分子との相互作用を媒介するT細胞表面タンパク質の集団。CD8を発現する細胞は「CD8+」細胞と称され、多くの場合は細胞傷害性T(「CTL」)細胞である。
【0055】
共刺激分子:T細胞活性化は、典型的には、T細胞受容体(「TCR」)のペプチドMHC複合体との結合、並びに共刺激分子のそのリガンドとの相互作用を介して与えられるセカンドシグナルを必要とする。共刺激分子は、それらのリガンドに結合したときに、T細胞の活性化に必要なセカンドシグナルを提供する分子である。T細胞で最もよく知られている共刺激分子はCD28であり、これはB7-1またはB7-2の何れかに結合する。T細胞の活性化に必要なセカンドシグナルを提供できる他の共刺激分子には、細胞内接着分子-1(「ICAM-1」)、細胞内接着分子-2(「ICAM-2」)、白血球機能関連抗原1(「LFA-1」)、白血球機能関連抗原2(「LFA-2」)、及び白血球機能関連抗原3(「LFA-3」)が含まれる。B7-1、ICAM-1、及びLFA-3の組み合わせは、「共刺激分子の三つ組」のための「TRICOM」と呼ばれる。
【0056】
樹状細胞(DC):樹状細胞は、一次免疫応答に関与する主要な抗原提示細胞(「APC」)である。樹状細胞は、形質細胞様樹状細胞と骨髄様樹状細胞が含まれる。それらの主な機能は、組織中の抗原を得てリンパ器官に遊走し、T細胞を活性化するために抗原を提示することである。未熟樹状細胞は、骨髄に由来し、未熟細胞として末梢中に存在する。
【0057】
二本鎖RNA(dsRNA):本発明の任意の実施形態によれば、増大した数または量のdsRNAを発現する(例えば、過剰のdsRNAを発現する)異種または天然の核酸を含む組換えポックスウイルスは、サイトカイン、ケモカイン、エフェクター分子の放出、及び/または共刺激分子の増大した発現をトリガーし、または1以上のパターン認識受容体(複数可)(PRR)を活性化し、及び/または細胞(例えば、樹状細胞、マクロファージ、B細胞または他のタイプの免疫細胞)を活性化して、好ましくは、増強された自然免疫応答をトリガーし、または誘導する。過剰なdsRNAは、何れかの適切な方法によって、好ましくは、増強された自然免疫応答を測定する方法を使用して、または実施例に記載の方法、好ましくは実施例16による方法を使用して測定することができる。好ましくは、過剰なdsRNAは、本発明の組換えポックスウイルスベクターを使用するときに、増強された自然免疫応答を生じさせる感染初期におけるdsRNAの量として定義できる。更に好ましくは、過剰のdsRNAは、対照と比較したときに、dsRNAを発現または生成する異種核酸を含む組換えポックスウイルスを用いて、ウイルス感染初期段階の際に転写されたdsRNAの量として定義することができる。過剰なdsRNAは、初期活性(例えば即時初期、初期、または初期/後期ポックスウイルスプロモータ)を有するポックスウイルスプロモータを使用することによって、好ましくは長さが少なくとも100塩基対の、同一または重複する配列ストレッチを有するセンス及びアンチセンスRNAの転写を駆動することによって生成することができる。過剰なdsRNAを測定する別の方法は、1以上のPRR(複数可)の増大した活性化、例えば実施例7に示すように、PKR基質(例えば、位置セリン51でのelF2a)のリン酸化の増加によって特定されるPKRを側定することである。好ましくは、PKR基質(例えば、位置セリン51におけるelF2a)の増大したリン酸化は、対照に比較して少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも15倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍以上増加する。
【0058】
感染初期:ポックスウイルスの遺伝子発現は、カスケード様式で調節される。ウイルス遺伝子の初期転写は、ウイルス粒子で新たに感染した細胞内に運ばれたウイルス転写機構によって駆動され、初期ウイルス転写複合体により認識される初期ウイルスプロモータの制御下にある。ビリオンと宿主膜が融合してウイルスコアが細胞質に放出されたら、内因性RNAポリメラーゼ、及びウイルス遺伝子発現を含むキャプシド化された転写因子は、初期プロモータの制御下で、ウイルスmRNAを合成する初期ウイルス遺伝子発現の最初のカスケードを開始することが周知である。通常、感染における初期、例えば初期段階は、ゲノム複製に先立って約1~2時間持続する。好ましくは、初期感染における初期は、ウイルス粒子(例えば、組換えポックスウイルス)の宿主細胞への結合と、ウイルスゲノムの複製(例えば、組換えポックスウイルスゲノムの複製)の開始の間の期間である。初期のタンパク質の中には、ウイルスのdsDNAゲノムの複製のため、及びウイルスゲノム複製の開始後にだけ開始できる中間体と称される次の転写段階のための転写因子がある。好ましくは、感染初期は、感染の30分、1時間もしくは2時間以内、または接種後、好ましくはウイルスコアが細胞の細胞質に放出された後である。
【0059】
発現制御配列:それらが動作可能に連結された異種核酸配列の発現を調節する核酸配列。発現制御配列は、該発現制御配列が核酸配列の転写及び/または翻訳を制御及び調節するときに、核酸配列に対して動作可能に連結される。従って、「発現制御配列」の用語は、プロモータ、エンハンサー、転写ターミネーター、開始コドン、イントロンのスプライシング信号、及び停止コドンを包含する。「制御配列」の用語は、最低でも、その存在が異種核酸配列の転写及び/または翻訳に影響を与えることができる構成要素を含み、また、その存在が有利である追加の構成要素、例えばリーダー配列及び融合パートナー配列を含むことができる。
【0060】
「発現制御配列」の用語は、プロモータ配列を包含する。プロモータは、同種または異種遺伝子の転写を指示するのに十分な最小限の配列である。また、プロモータ依存性遺伝子発現を、細胞特異的、組織特異的にするために十分なこれらのプロモータ要素、または外部のシグナルまたは薬剤によって誘導可能にするために十分なプロモータ要素が含まれる;このような要素は、当該遺伝子の5’または3’領域に位置することができる。「プロモータ」の用語は、構成的プロモータ及び誘導性プロモータの両方を包含する。例えば文献(Bitter et al.,Methods in Enzymology 153:516-544(1987))を参照されたい。典型的なプロモータ配列としては、レトロウイルスの長い末端反復配列(「LTR」)、アデノウイルス主要後期プロモータ、ワクシニアウイルス7.5Kプロモータ(「Pr7.5」)、ワクシニアウイルス合成初期/後期プロモータ(「sE/L」)、PrSynllmプロモータ、PrLE1プロモータ、PrH5mプロモータ、PrSプロモータ、ハイブリッド初期/後期プロモータ、または牛痘ウイルスATIプロモータが含まれるが、これらに限定されない。他の適切なプロモータには、SV40初期プロモータ、アデノウイルス主要後期プロモータ、ヒトCMV即時初期Iプロモータが含まれるが、これらに限定されず、また限定されるものではないが、以下のワクシニアウイルスまたはMVAに由来するプロモータを含む種々のポックスウイルスプロモータが含まれる:30Kプロモータ、I3プロモータ、sE/Lプロモータ、Pr7.5Kプロモータ、40Kプロモータ、C1プロモータ、PrSynllmプロモータ、PrLE1プロモータ、PrH5mプロモータ、PrSプロモータ、ハイブリッド初期/後期プロモータPrHyb、PrS5Eプロモータ、PrA5Eプロモータ、Pr13.5長プロモータ、及びPr4LS5Eプロモータ;牛痘ウイルスATIプロモータ、または以下の鶏痘由来のプロモータ:Pr7.5Kプロモータ、I3プロモータ、30Kプロモータ、または40Kプロモータ。
【0061】
異種:別々の遺伝源または種を起源とする。修飾ワクシニアウイルス・アンカラ(「MVA」)ゲノム内に含まれていない核酸を起源とする、MVAに対して異種であるポリペプチド、例えば、細菌抗原、真菌抗原、寄生虫抗原、腫瘍関連抗原、またはウイルス抗原。この用語は、通常はMVAゲノムによりコードされないRNAまたはタンパク質をコードする非天然の核酸、またはそのような非天然の核酸によってコードされる任意の非天然タンパク質を包含するように広く解釈される。
【0062】
相同体;変異体:「相同体」または「変異体」の用語は、遺伝子またはタンパク質配列を指称するときは、問題の遺伝子またはタンパク質の天然のアミノ酸配列、宿主において未だ免疫反応を誘発できるタンパク質断片、並びに例えばグリコシル化されたタンパク質またはポリペプチドを含むタンパク質及びタンパク質断片の相同体または変異体を包含する。従って、タンパク質及びポリペプチドは、特定の天然アミノ酸配列に限定されるものではなく、天然配列と同一の配列、並びに欠失、付加、挿入及び置換のような天然配列の改変を包含する。好ましくは、そのような相同体または変異体は、参照タンパク質またはポリペプチドに対して、少なくとも約80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、または89%、少なくとも約90%、91%、92%、93%、94%、少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%、または約100%のアミノ酸配列の同一性を有している。相同体または変異体の用語はまた、短縮、欠失、または他の修飾されたヌクレオチドまたはタンパク質配列を包含する。
【0063】
相同体または変異体の用語は、天然の配列の縮重変異体をも包含する。縮重変異体は、天然のまたは野生型の遺伝子配列とは異なるが同じアミノ酸配列を特定するコドンを含んだ配列を含む、タンパク質またはその断片をコードするポリヌクレオチドである。遺伝子コードは、その殆どが複数のコドンによってコードされる20の天然アミノ酸を特定する。従って、それは冗長または縮重したコードである。縮重ポリヌクレオチドによりコードされるタンパク質のアミノ酸配列が変化しないまま残ることを条件として、総ての縮重ヌクレオチド配列が本開示に包含される。
【0064】
アミノ酸配列間の配列同一性を決定するための技術は、当該技術分野で知られている。2以上の配列は、それらの「パーセント同一性」を決定することによって比較することができる。2配列のパーセント同一性は、2つの整列された配列間の正確な一致数を短い方の配列の長さで割り、100を乗じたものである。
【0065】
本明細書に記載のタンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、抗原及びエピトープに対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列を整列し且つ必要であれば最大のパーセント配列同一性を達成するためにギャップを導入した後、如何なる保存的置換も配列同一性の一部として考慮せずに、参照配列(即ち、それが由来するタンパク質、ポリペプチド、抗原性タンパク質断片、抗原またはエピトープ)におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定するための整列は、BLAST、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアのような公的に入手可能なコンピュータソフトウエアを使用して、例えば、当業者の技術レベルの範囲内にある種々の方法で達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0066】
宿主細胞:その中でベクターを増殖させ、そのDNAを発現できる細胞。細胞は、原核生物(例えば、細菌)または真核生物(例えば、哺乳動物またはヒト)であってよい。この用語は、複製中に起こる突然変異が存在し得るので、全ての子孫が親細胞と同一でないとしても、元の宿主細胞の子孫を包含するものである。
【0067】
免疫応答:刺激に対する、B細胞、T細胞、または単球等の免疫系細胞の適応応答。適応応答は、特定の抗原に対する応答であり、従って「抗原特異的」と記載される。適応免疫応答は、B細胞、CD4ヘルパーT細胞によるT細胞補助により、特定の抗原に対する抗体産生を含むことができ、抗原特異的CD8T細胞(細胞傷害性Tリンパ球、「CTL」)の集団、特定の抗原を発現する細胞に対して指向されるCD8T細胞の細胞障害活性、または更に別のタイプの抗原特異的な免疫応答を増大させることができる。
【0068】
免疫原性組成物:明細書で使用する場合、「免疫原性組成物」の用語は、初期二本鎖RNA(dsRNA)を発現する異種核酸を含んだ組換えポックスウイルスを含有する組成物を言う。この用語はまた、初期dsRNAを発現する異種核酸、及び異種疾患関連抗原をコードする核酸配列を含んだ組換えポックスウイルスを包含する。一定の実施形態において、前記異種疾患関連抗原は、感染疾患関連抗原または腫瘍関連抗原である。一定の実施形態において、前記疾病関連抗原は感染症抗原である。一定の実施形態において、該感染症抗原は、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、または寄生虫抗原である。該組換えポックスウイルスは、必要に応じて、例えば本明細書の他の箇所に記載の1以上の共刺激分子をコードする追加の核酸を含むことができる。このような組成物は、必要に応じて、1以上の医薬的に許容可能な担体と共に製剤化された組換えポックスウイルスを含むことができる。
【0069】
「それを必要とする」:本明細書中に提供される免疫応答を増強する方法、並びに組換えポックスウイルス、免疫原性組成物、及び医薬組成物の使用に関連して使用する場合、「それを必要とする」被験対象とは、例えば、ウイルス、細菌、真菌、または寄生虫感染症から生じる医学的状態、または新生物状態(即ち、癌)と診断され、または該状態について以前に治療された個体であり得る。予防に関しては、それを必要とする被験対象はまた、医学的状態を発症するリスクのある被験対象であり得る(例えば、該状態の家族歴、該状態のリスク等を示すライフスタイル因子を有する)。
【0070】
リンパ球:身体の免疫防御に関与している白血球の一種。B細胞及びT細胞はリンパ球の2つの主要なタイプである。
【0071】
主要組織適合性遺伝子複合体(「MHC」): ヒト白血球抗原(「HLA」)を含む異なる種に記載の組織適合抗原系を包含することを意味する総称。
【0072】
哺乳類:この用語は、ヒト及び非ヒト哺乳動物の両方を含む。同様に、「被験対象」という用語は、ヒト及び獣医学的被験対象を含む。
【0073】
オープンリーディングフレーム(「ORF」):翻訳されてポリペプチドを産生できる中間の停止コドンを伴わない一連のアミノ酸、または翻訳されてリボゾームRNA(rRNA)または転移RNA(tRNA)のようなRNA分子を産生できる中間の停止コドンを伴わない一連のヌクレオチドコドンを特定する真核生物開始コドン(ATG)の後に続く一連のヌクレオチドコドン。
【0074】
動作可能に連結された:第一の核酸配列が第二の核酸配列と機能的な関係に置かれたときに、第一の核酸配列は第二の核酸配列に動作可能に連結される。例えば、プロモータは、それがコード配列の転写を指示できる位置に配置されている場合に、コード配列に対して動作可能に連結されている。一般に、動作可能に連結されたDNA配列は連続しており、必要な場合には、同じリーディングフレーム内で2つのタンパク質コード領域を結合する。
【0075】
医薬的に許容可能な担体:ここで使用される「医薬的に許容可能な担体」または「医薬的に適切な担体」等の用語は、抽出物と有害に反応しない経腸または非経口での適用に適した医薬賦形剤、例えば医薬的、生理学的に許容可能な有機または無機の担体物質を言う。E.W.MartinによるRemington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Co.,Easton,PA,15th Edition(1975)は、本明細書に開示されるベクター及び組成物の投与に適した,従来の医薬的に許容される担体を用いた組成物及び製剤を記載している。一般的に用いられる担体の性質は、使用される特定の投与様式に依存する。例えば、非経口製剤は通常、担体として医薬的または生理学的に許容可能な液体、例えば水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロール等を含む注射可能な流体を含有する。固体組成物(例えば、散剤、丸剤、錠剤、またはカプセル剤)については、従来の非毒性の固体担体には、例えば、医薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、またはステアリン酸マグネシウムが含まれる。医薬組成物は、微量の非毒性の助剤物質、例えば、酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートのような湿潤剤もしくは乳化剤、防腐剤、pH緩衝剤等を含有することもできる。
【0076】
「医薬的有効量」、「治療的有効量」、「有効量」:本明細書で使用される場合、これらの用語(及びその同義語)は、指定された状態(例えば、医学的状態、疾患、感染、または障害)もしくは1以上のその症状についての望ましい薬理学的及び/または生理学的効果をもたらし、及び/または前記状態もしくはその症状の発生を完全にもしくは部分的に予防し、及び/または前記状態及び/または該状態に起因する有害な作用を部分的にもしくは完全に治癒する点において治療的である量を言う。「医薬的有効量」または「治療的有効量」は、投与される組成物、治療/予防される状態、治療もしくは予防されるべき状態の重篤度、個体の年齢及び相対的健康、投与の経路及び形態、担当の医師または獣医師の判断、並びに本明細書で与えられる教示を考慮して当業者が評価できる他の因子に応じて変化するであろう。
【0077】
ポリヌクレオチド;核酸:ポリヌクレオチドの用語は、リボヌクレオチド(即ち、RNA)またはデオキシリボヌクレオチド(即ち、DNAまたはcDNA)から構成される少なくとも長さ300塩基の核酸ポリマーを意味し、ポリペプチドまたはタンパク質をコードでき、またはコードできない。この用語には、一本鎖または二本鎖の形態のDNAが含まれる。
【0078】
ポリペプチドまたはタンパク質:ポリペプチドまたはタンパク質の用語は、長さが少なくとも100アミノ酸、一般的には長さが30アミノ酸よりも長いポリマーを意味する。
【0079】
ポックスウイルス:「ポックスウイルス」の用語は、ポックスウイルス科の2つの亜科、即ち、チョルドポックスウイルス亜科及びエントモポックスウイルス亜科の何れかを意味する。チョルドポックスウイルス亜科のメンバーは、脊椎動物に感染する。エントモポックスウイルス亜科のメンバーは、昆虫(即ち、無脊椎動物)に感染する。用語「ポックスウイルス」はまた、増殖性であるか否かに拘わらず、ヒトに感染する可能性のある4つ(オルソポックスウイルス、パラポックスウイルス、ヤタポックスウイルス、及びモルシポックスウイルス)を含め、チョルドポックスウイルスの属の何れかのメンバー(例えば、アビポックスウイルス、カプリポックスウイルス、レポリポックスウイルス、モルシポックスウイルス、オルソポックスウイルス、パラポックスウイルス、スイポックスウイルス、及びヤタポックスウイルス)を指称するが、好ましくはオルソポックスウイルス及び/またはアビポックスウイルスを指称する。「ポックスウイルス」の用語はまた、エントモポックスウイルスの属(例えば、α-エントモポックスウイルス、β-エントモポックスウイルス、及びγ-エントモポックスウイルス)の何れかのメンバーを指す。
【0080】
アビポックスウイルスには、カナリア痘ウイルス、鶏痘ウイルス、ムクドリ痘ウイルス、鳩痘ウイルス、及びクアイル(quail)痘ウイルスが含まれる。カプリポックスウイルスには、羊痘ウイルス、ヤギ痘ウイルス、及びランピースキン病ウイルスが含まれる。前記レポリポックスウイルスには、粘液腫ウイルス、ショープ線維腫ウイルス(ウサギ線維腫ウイルスとしても知られる)、ノウサギ線維腫ウイルス、及びリス線維腫ウイルスが含まれる。モルシポックスウイルスには、伝染性軟属腫ウイルスが含まれる。オルトポックスウイルスには、バッファロー痘ウイルス、ラクダ痘ウイルス、牛痘ウイルス、エクトロメリアウイルス、サル痘ウイルス、アライグマ痘ウイルス、天然痘ウイルス(痘瘡ウイルスとしても知られる)、及びワクシニアウイルスが含まれる。「ワクシニアウイルス」の用語は、野生型ワクシニアウイルス及び何れかの様々な弱毒化株の両方、またはその後に単離された単離株を指し、例えば、ワクシニアウイルス・ウエスタンリザーブ、ワクシニアウイルス・コペンハーゲン、ドライワックス(Dryvax:ワクシニアウイルス・ワイス(Wyeth)としても知られる)、ACAM2000、漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラ(CVA)、修飾ワクシニアウイルス・アンカラ(MVA)、及び修飾ワクシニアウイルス・アンカラ・ババリアンノルディック(「MVA-BN」)が含まれる。パラポックスウイルスには、ウシ丘疹性口内炎ウイルス、ORFウイルス、ニュージーランドアカシカのパラポックスウイルス、及び偽牛痘ウイルスが含まれる。スイポックスウイルスには豚痘ウイルスが含まれる。ヤタポックスウイルスには、タナポックスウイルス及びヤバサル腫瘍ウイルスが含まれる。
【0081】
「修飾ワクシニアウイルス・アンカラ」または「MVA」の用語は、ニワトリ胚線維芽細胞上において、皮膚ワクシニア株アンカラの570超の連続継代により生成されたウイルスを意味する[漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラウイルス(CVA):レビューのために、Mayr et al.(1975),Infection 3:6-14を参照のこと]。CVAは、長年にわたって、トルコ、アンカラのVaccination Instituteで維持され、ヒトのワクチン接種のための基礎として使用されてきた。しかし、ワクシニアウイルスに関連した頻繁な重篤なワクチン接種後合併症のため、より弱毒化された、より安全な天然痘ワクチンを生成するための幾つかの試みがなされた。
【0082】
1974年から1960年の期間に亘って、Anton Mayr教授は、CEF細胞における570超の連続継代によって、CVAの弱毒化に成功した[Mayr et al.(1975)]。これは、種々の動物モデルにおいて、結果として得られるMVAが非病原性であることを示した[Mayr,A. & Danner,K.(1978)、Dev.Biol.Stand.41:225-234]。プレ天然痘ワクチンとしてMVAの早期開発の一環として、ワクシニア由来の有害反応のリスクにある被験対象において、Lister Elstreeと組み合わせてMVA-517を使用した臨床試験があった[Stickl(1974)、Prev.Med.3:97-101;Stickl及びHochstein-Mintzel(1971)、Munich Med.Wochenschr.113:1149-1153]。1976年に、MVA-571種株由来のMVA(第571継代に相当)が、二段階非経口天然痘ワクチン接種プログラムにおけるプライマーワクチンとして、ドイツで登録された。その後、MVA-572が約12万人の白人個体において使用されたが、子供の過半数は1歳から3歳であり、被験対象の多くはワクシニアに関連する合併症のリスクが高い集団であったにもかかわらず、重篤な副作用は報告されてなかった(Mayr et al.(1978)、Zentralbl.Bacteriol.(B)167:375-390)。MVA-572は、ECACC V94012707として、European Collection of Animal Cell Culturesに寄託された。
【0083】
MVAを弱毒化するために使用された継代の結果、CEF細胞における継代数に応じて、そこには多くの異なる株または単離体が存在した。例えば、MVA-572は、天然痘根絶プログラムの実行中にドイツで使用され、またMVA-575は広く家畜ワクチンとして使用された。MVA-575は、2000年12月7日に、寄託番号V00120707でEuropean Collection of Animal Cell Cultures(ECACC)に寄託された。弱毒化されたCVA-ウイルスMVA(修飾ワクシニアウイルス・アンカラ)が、初代ニワトリ胚線維芽細胞上でのCVAの連続増殖(570超の継代)によって得られた。
【0084】
Mayrと彼の同僚が、1970年代に、MVAは高度に弱毒化されており、ヒト及び哺乳動物において非病原性であることを実証したにも関わらず、一定の研究者は、残留複製がこれらの細胞で発生する可能性があるので、MVAが哺乳動物及びヒト細胞株において完全には弱毒化されていないと報告している[Blanchard et al.(1998)、J.Gen.Virol.79:1159-1167;Carroll & Moss(1997)、Virology 238:198-211。米国特許番号第5,185,146号;Ambrosini et al.(1999)、J. Neurosci.Res.55:569]。使用されるウイルスは本質的に、特に様々な細胞株におけるそれらの成長挙動におけるそれらの特性が異なるので、これらの刊行物に報告された結果は、MVAの様々な既知の株で得られたものと思われる。このような残留複製は、ヒトでの使用に関連した安全性の懸念など、種々の理由で望ましくない。
【0085】
ワクチンや医薬品等、より安全な製品開発のための強化された安全性プロファイルを持つMVAの株が、ババリアンノルディック社によって開発されてきた:MVAは、ババリアンノルディック社によって更に継代され、MVA-BNと命名されている。MVAと同様にMVA-BNは、先祖のCVAウイルスに比較してゲノムの約13%(主に6つの領域から26.6kb)を欠失している。欠失は、多くの病原性及び宿主域遺伝子、並びにA型封入体を形成するのに必要な遺伝子に影響を与える。第583継代に対応するMVA-BNのサンプルが、2000年8月30日に、番号V00083008の下でEuropean Collection of Cell Cultures(ECACC)に寄託された。
【0086】
MVA-BNは人細胞に付着して侵入することができ、そこではウイルスにコードされた遺伝子は非常に効率的に発現する。しかし、子孫ウイルスの組立及び放出は生じない。MVA-BNは初代ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)に強く適合されており、ヒト細胞中では複製されない。ヒト細胞ではウイルス遺伝子が発現され、感染性ウイルスは産生されない。MVA-BNは、米国の疾病管理予防センター(CDC)によると、バイオ安全性レベル1の生物として分類されている。MVA-BN及びその誘導体の製剤は、多くの種類の動物、及び免疫不全の個体を含む4000以上のヒト被験対象に投与されている。全ての予防接種は、一般的に安全で且つ忍容性が良好であることが証明されている。その高度の弱毒化及び低下された毒性にもかかわらず、前臨床試験において、MVA-BNは、ワクシニアに対して、及びMVAゲノムにクローニングされた遺伝子によりコードされる異種遺伝子産物に対して、体液性及び細胞性の両方の免疫応答を誘発することが示されている[E.Harrer et al.(2005),Antivir.Ther.10(2):285-300;A.Cosma et al.(2003),Vaccine 22(1):21-9;M.Di Nicola et al.(2003),Hum.Gene Ther. 14(14):1347-1360;M.Di Nicola et al.(2004),Clin.Cancer Res.,10(16):5381-5390]。
【0087】
MVAの「誘導体」または「変異体」の用語は、本明細書に記載されているMVAと本質的に同じ複製特性を示すが、そのゲノムの1以上の部分における相違を示すウイルスを意味する。MVA-BN、並びにMVA-BNの誘導体または変異体は、ヒト及びマウスにおいて、更に重症免疫抑制マウスにおいてさえも、インビボでの増殖複製に失敗した。より詳細に言えば、MVA-BN、またはMVA-BNの誘導体または変異体は、好ましくは、ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)においても増殖の複製能力を有するが、ヒトケラチノサイト細胞株HaCat[Boukamp等(1988),J.Cell.Biol.106:761-771]、ヒトの骨骨肉腫細胞株143B(ECACC番号91112502)、ヒト胚腎臓細胞株293(ECACC番号85120602)、及びヒト子宮頸部腺癌細胞株HeLa(ATCC番号CCL-2)においては増殖の複製能力がない。更に、MVA-BNの誘導体または変種は、Hela細胞及びHaCaT細胞株において、MVA-575より少なくとも2倍未満、より好ましくは3倍未満のウイルス増幅率を有している。MVA変異体のこれらの性質についての試験及び検定はWO02/42480(US2003/0206926)及びWO03/048184(US2006/0159699)に記載されており、これら両者を本明細書の一部として援用する。
【0088】
ウイルスの増幅または複製は、通常は、まず前記細胞を感染させるために最初に用いられたウイルス量(入力)に対する、感染された細胞から産生されたウイルス(出力)の比として表され、「増幅率」と称される。増幅率「1」は、感染細胞から産生されたウイルスの量が、該細胞を感染させるために最初に用いられた量と同じである増幅状態を定義し、感染された細胞がウイルス感染及び複製を許容することを意味する。対照的に、1未満の増幅率、即ち、入力レベルと比較した出力の低下は、増殖的複製の欠如、従ってウイルスの減衰を示している。
【0089】
MVAに基づくワクチンの利点には、その安全性プロファイル、並びに大規模なワクチン生産のための利用可能性が含まれる。前臨床試験により、MVA-BNは、他のMVA株(WO02/42480)と比較して優れた弱毒化及び有効性を示すことが明らかになった。MVA-BN株の追加の特性は、DNAプライム/ワクシニアウイルスブーストレジメンと比較したときに、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブーストレジメンにおいて実質的に同じレベルの免疫を誘導する能力である。
【0090】
組換えMVA-BNウイルス、即ち、本明細書に記載の最も好ましい実施形態は、哺乳動物細胞での明確な複製欠損及び十分に確立された非病原性の故に安全と考えられている。更に、その有効性に加えて、工業的規模の生産の実現可能性は、有益であり得る。また、MVAに基づくワクチンは、複数の異種抗原を送達し、体液性免疫及び細胞性免疫の同時誘導を可能にすることができる。
【0091】
もう一つの態様では、組換えウイルスを生成するのに適したMVAウイルス株は、株MVA-572、MVA-575または任意の同様の弱毒化MVA株であってよい。また、欠失された漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラ(dCVA)のような変異体MVAも適切であり得る。dCVAは、欠失I(delI)、欠失II(delII)、欠失III(delIII)、欠失IV(delIV)、欠失V(delV)、及び削除VI(delVI)と称する、MVAゲノムの6つの欠失部位を含んでいる。欠失部位は、特に複数の異種配列の挿入に有用である。dCVAは、ヒト細胞株(例えば、ヒト293、143B、及びMRC-5細胞株)において増殖的に(10を超える増幅率で)複製することができ、次いで、これはウイルスに基づくワクチン接種戦略のために有用な、更なる突然変異または弱毒化による最適化を可能にする(例えば、WO2011/092029参照)。
【0092】
プライム・ブーストワクチン接種:「プライム・ブーストワクチン接種」の用語は、特定の抗原を標的とするワクチンの最初のプライミング注射の後に、間隔を置いて、同じワクチン抗原での1回以上のブースト注射を用いるワクチン接種戦略を言う。プライム・ブーストワクチン接種は、ワクチン抗原を送達するワクチンモダリティー(RNA、DNA、タンパク質、ベクター、ウイルス様粒子)に対して同種または異種であり得る。相同プライム・ブーストワクチン接種は、プライミング注射及び1以上のブースト注射の両方に、同じ免疫原及びベクターを含むワクチンを使用する。異種プライム・ブーストワクチン接種は、プライミング注射及び1以上のブースト注射のための同じ免疫源を含むが、プライミング注射及び1以上のブースト注射のための異なるベクターを含むワクチンを使用する。例えば、相同プライム・ブーストワクチン接種は、プライミング注射及び1以上のブースト注射の両方のために、免疫原及びTRICOMを発現する核酸を含んだMVAベクターを使用することができる。対照的に、異種プライム・ブーストワクチン接種は、プライミング注射のために免疫原及びTRICOMを発現する核酸を含むMVAベクターを使用し、また1以上のブースト注射のためには、免疫原及びTRICOMを発現する核酸を含む鶏痘ベクターを使用することができる。異種プライム・ブーストワクチン接種はまた、プライミング注射では免疫源をコードするプラスミドを使用し、且つ1以上のブースト注射では同じ免疫源をコードするポックスウイルスベクターを使用すること、或いは、プライミング注射では組換えタンパク質免疫源を使用し、且つ1以上のブースト注射では同じタンパク質免疫源をコードするプラスミドもしくはポックスウイルスベクターを使用する等の、種々の組み合わせを包含するものである。
【0093】
組換え;組換え核酸;組換えベクター;組換えポックスウイルス:核酸、ベクター、ポックスウイルスなどに適用される「組換え」の用語は、2以上の他の異種セグメントの核酸配列の人工的な組み合わせにより作製される核酸、ベクター、またはポックスウイルス、或いは、斯かる2以上の他の異種セグメントの核酸配列の人工的な組み合わせを含んでなる核酸、ベクター、またはポックスウイルスを意味する。この人工的な組み合わせは、最も一般的には、十分に確立された遺伝子工学的手法を用いて、核酸の単離セグメントを人工的に操作することにより達成される。
【0094】
配列同一性:「配列同一性」の用語は、核酸またはアミノ酸配列間の同一性の程度を言う。配列同一性は、屡々、パーセント同一性(多くの場合、配列「類似性」または「相同性」と記載する)の観点で測定される。パーセント配列同一性が高いほど、その二つの配列は類似している。標準的な方法を用いて整列させたときに、タンパク質免疫原のホモログまたは変異体は、比較的高い配列同一性を有するであろう。
【0095】
比較のために配列を整列させる方法は、当該分野において周知である。種々のプログラム及び整列アルゴリズムが次の文献に記載されている:Smith and Waterman,Adv.Appl.Math.2:482,1981;Needleman and Wunsch,J.Mol.Biol.48:443,1970;Higgins and Sharp,Gene 73:237,1988;Higgins and Sharp,CABIOS 5:151,1989;Corpet et al.,Nucl.Acids Res. 16:10881,1988;Pearson and Lipman,Proc.Nat’l Acad.Sci.USA 85:2444,1988。加えて、文献Altschul et al.,Nature Genet.6:119,1994は、配列整列の方法及び相同性計算の詳細な考察を提供している。配列分析プログラムBLASTP、BLASTN、BLASTX、TBLASTN及びTBLASTXに関連して使用するための、NCBI・Basic・Local・Alignment・Search・Tool(BLAST)(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403,1990)は、国立バイオテクノロジー情報センター(NCBI,Bethesda,MD;http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiも参照のこと)を含むいくつかの供給源から入手可能である。
【0096】
タンパク質免疫原の相同体及び変異体は、デフォルトのパラメータに設定されたblastpを使用して、NCBI・Blast v2.0で調製された野生型免疫源のアミノ酸配列との、典型的には少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%のアミノ酸配列同一性を全長整列に亘って有している。約30アミノ酸よりも大きいアミノ酸配列の比較のために、デフォルトのパラメータに設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックス(11のギャップ存在コスト、1の残基当たりのギャップコスト)を使用して、Blast2配列関数が用いられる。
【0097】
被験対象:例えばヒト、非ヒト哺乳動物及び鳥類を含む、生きた多細胞脊椎動物。「被験対象」の用語は、本明細書において、「哺乳動物」または「動物」の用語と互換的に使用され得る。
【0098】
T細胞:適応性免疫応答に不可欠なリンパ球または白血球。T細胞には、CD4T細胞及びCD8T細胞が含まれるが、これらに限定されない。CD4T細胞は、その表面上に分化抗原群4(「CD4」)として知られるマーカーを有する免疫細胞である。また、ヘルパーT細胞としても知られるこれらの細胞は、抗体応答及びCTL応答の両方を含んだ免疫応答の調整を補助する。CD8T細胞は、「分化抗原群8」(「CD8」)マーカーを担持する。CD8T細胞は両方のCTL、即ち、メモリCTL及びサプレッサーT細胞の両方を含んでいる。
【0099】
治療的に活性なポリペプチド:臨床反応(例えば、CD4T細胞、CD8T細胞、またはB細胞の増加、タンパク質発現レベルの増加、腫瘍サイズの測定可能な減少、または転移数の減少)によって測定される、生物学的効果及び/または適応性免疫応答を誘発するタンパク質等のアミノ酸からなる薬剤。また、治療的に活性な分子は核酸から、例えば、発現制御配列に動作可能に連結されたタンパク質またはタンパク質免疫源をコードする核酸を備えたポックスウイルスベクターのような核酸から作製することもできる。
【0100】
治療的有効量:「治療的有効量」とは、治療される被験対象において望ましい治療的もしくは臨床的効果を達成するために十分な、組成物または細胞の量である。例えば、発現制御配列に動作可能に連結されたタンパク質またはタンパク質免疫原をコードする核酸を含むポックスウイルスベクターの治療的有効量は、生物学的応答または抗原特異的免疫応答を誘発するか、または疾患または障害を有する患者または患者集団における感染または他の疾患の臨床徴候または症状を減少させ、または排除するのに十分な量であろう。ポックスウイルスベクター及びここで提供されるポックスウイルスベクターを含む組成物の治療的有効量は、標的抗原を発現する細胞に対して免疫応答を上昇させるのに十分な量である。免疫応答は、目標である障害をもった患者または患者集団において、疾患の臨床徴候や症状を軽減または排除するために十分な大きさでなければならない。
【0101】
形質導入または形質転換:「形質導入」または「形質転換」の用語は、組換え核酸が、標準的な分子生物学的方法により導入された細胞を指称する。本明細書で使用するとき、形質導入の用語は、ウイルスベクターによる感染、プラスミドベクターによる形質転換、並びにエレクトロポレーション、リポフェクション、またはパーティクルガン加速による裸のDNAの導入を含む、核酸分子がそのような細胞に導入され得る全ての技術を包含するものである。
【0102】
TRICOM:抗原特異的免疫応答を増大させるために、特定の抗原を発現する組換えウイルスベクター(例えば、ポックスウイルスベクター)に通常含められる、B7-1(またCD80としても知られる)、細胞内接着分子-1(ICAM-1、またCD54としても知られる)、及びリンパ球機能関連抗原-3(LFA-3、またCD58としても知られる)からなる三つ組の共刺激分子(Triad of COstimlatory Molecules)。TRICOMの個々の成分は、同じかまたは異なるプロモータの制御下にあることができ、特定の抗原と同じベクター上に、または別のベクター上に提供することができる。典型的なベクターは、二つの文献[Hodge et al.,“A Triad of Costimulatory Molecules Synergize to Amplify T-Cell Activation”,Cancer Res.59:5800-5807(1999);及び米国特許番号第7,211,432B2号]に開示されており、これらの両者を本明細書の一部として援用する。
【0103】
ベクター:興味ある核酸分子を宿主細胞に導入し、それによって形質導入または形質転換された宿主細胞を産生する担体。ベクターは、一般に、宿主細胞中でその複製を可能する複製起点のような核酸配列、並びに1以上の選択可能なマーカー遺伝子、発現制御配列、制限エンドヌクレアーゼ認識配列、プライマー配列及び当該技術分野で知られた種々の他の遺伝子要素を含んでいる。普通に使用されるベクターの種類には、細菌(例えば、大腸菌)または酵母(例えば、S.セレビシエ)の中での発現のためのプラスミド、組換えポックスウイルス、コスミド、細菌人工染色体、酵母人工染色体を構築するためのシャトルベクター、及びウイルスベクターが含まれる。ウイルスベクターには、とりわけ、ポックスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、及びポリオウイルスベクターが含まれる。
【0104】
ポックスウイルスベクターとしては、限定されるものではないが、上記で更に詳細に定義したように、オルソポックスウイルス、アビポックスウイルス、パラポックスウイルス、ヤタポックスウイルス、及びモルシポックスウイルスが含まれ、好ましくは、オルソポックス及び/またはアビポックスウイルスである。オルソポックスウイルスには、天然痘ウイルス(痘瘡ウイルスとしても知られる)、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、及びサル痘ウイルスが含まれる。アビポックスウイルスには、カナリア痘ウイルス及び鶏痘ウイルスが含まれる。「ワクシニアウイルス」の用語は、野生型ワクシニアウイルス及び何れかの様々な弱毒化株の両方、またはその後に単離された単離株を指し、例えば、ワクシニアウイルス・ウエスタンリザーブ、ワクシニアウイルス・コペンハーゲン、Dryvax(ワクシニアウイルス・Wyethとしても知られる)、ACAM2000、修飾ワクシニアウイルス・アンカラ(MVA)、及び修飾ワクシニアウイルス・アンカラ・ババリアンノルディック(「MVA-BN」)が含まれる。
【0105】
組換えポックスウイルス:本明細書で提供される一態様は、初期二本鎖RNA(dsRNA)を発現する異種核酸を含んだ組換えポックスウイルスである。一定の実施形態において、組換えポックスウイルスは、感染後1または2時間以内に過剰のdsRNAを発現する異種核酸を含んでいる。本明細書に提供される一定の実施形態においては、組換えポックスウイルスのゲノム複製に先立って、初期もしくは過剰のdsRNAを発現する異種核酸を含んでなる組換えポックスウイルスが提供される。一定の実施形態において、組換えポックスウイルスは、初期dsRNAを感染後1または2時間以内に発現する異種核酸を含む。一定の実施形態において、組換えポックスウイルスは、両方の鎖が転写され、初期dsRNAを産生する単一の異種核酸を含むことができる。一定の実施形態において、組換えポックスウイルスは、初期に転写される天然のポックスウイルス遺伝子の早期アンチセンス転写を指令して、初期dsRNAを発現する追加のプロモータを含むことができる。一定の実施形態において、初期dsRNAを生じる前記組換えポックスウイルスは、更に、異種の疾患関連抗原をコードする核酸配列を含むことができる。一定の実施形態において、当該組換えポックスウイルスは、1以上の共刺激分子をコードする核酸配列を含んでいる。一定の実施形態において、1以上の共刺激分子は、TRICOM(即ち、B7-1、ICAM-1及びLFA-3)である。一定の実施形態において、前記異種の疾患関連抗原は感染症関連抗原または腫瘍関連抗原である。一定の実施形態において、前記異種の疾患関連抗原は感染症抗原である。一定の実施形態において、前記感染症抗原は、ウイルス抗原、細菌抗原、真菌抗原、または寄生虫抗原である。
【0106】
一定の実施形態において、前記感染症抗原はウイルス抗原である。一定の実施形態において、該ウイルス抗原は、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、デング熱ウイルス、エボラウイルス、エプスタイン-バーウイルス(EBV)、グアナリトウイルス、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8)、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D型肝炎ウイルス(HDV)、E型肝炎ウイルス(HEV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、インフルエンザウイルス、フニンウイルス、ラッサウイルス、マチュポウイルス、マールブルグウイルス、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、ノーウォークウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)、パラインフルエンザウイルス、パルボウイルス、ポリオウイルス、狂犬病ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、ライノウイルス、ロタウイルス、風疹ウイルス、サビアウイルス、重症急性呼吸器症候群ウイルス(SARS)、水痘帯状疱疹ウイルス、天然痘ウイルス、西ナイルウイルス、及び黄熱病ウイルスからなる群から選択されるウイルスに由来する。
【0107】
一定の実施形態において、前記感染症抗原は細菌抗原である。一定の実施形態において、該細菌抗原は、炭疽菌、百日咳菌、ボレリア・ブルグドルフェリ、ウシ流産菌、ブルセラカニス、ブルセラ・メリテンシス、ブルセラ・スイス、カンピロバクター・ジェジュニ、肺炎クラミジア、トラコーマクラミジア、クラミジアオウム病、ボツリヌス菌、クロストリジウム・ディフィシル、ウェルシュ菌、破傷風菌、コリネバクテリウム・ジフテリエ、エンテロコッカスフェカリス、エンテロコッカス・フェシウム、大腸菌、腸管毒素原性大腸菌、病原性大腸菌、大腸菌157:H17、野兎病菌、ヘモフィルス・インフルエンザ、ヘリコバクター・ピロリ、レジオネラ・ニューモフィラ、レプトスピラ・インターロガンス、リステリア菌、らい菌、結核菌、肺炎マイコプラズマ、淋菌、髄膜炎菌、緑膿菌、リケッチア・リケッチア、チフス菌、ネズミチフス菌、赤痢菌ソンネ、黄色ブドウ球菌、表皮ブドウ球菌、スタフィロコッカス・サプロフィティクス(Staphylococcus・saprophyticus)、ストレプトコッカス・アガラクティエ、肺炎球菌、化膿連鎖球菌、梅毒トレポネーマ、コレラ菌、及びペスト菌からなる群から選択される細菌に由来する。
【0108】
一定の実施形態において、前記感染症抗原は真菌抗原である。一定の実施形態において、前記真菌抗原は、アスペルギルス・クラバタス、アスペルギルス・フラバス、アスペルギルス・フミガーツス、アスペルギルス・ニデュランス、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・テレウス、ブラストミセスデルマティティディス、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・ドゥブリニエンシス、カンジダ・グラブラタ、カンジダ・パラプシロシス、カンジダ・ルゴサ、カンジダ・トロピカリス、クリプトコッカス・アルビダス、クリプトコッカス・ガッティ、クリプトコッカスラウレンティ、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ヒストプラズマ・カプスラーツム、犬小胞子菌、カリニ肺炎、ニューモシスチス・ジロベシ、スポロトリックス・シェンキー、スタキボトリス・カルタルム、白癬性毛瘡、頭部白癬、体部白癬、股部白癬、顔面白癬、異型白癬、白癬黒質、白癬玉虫色、トリコフィトンルブルム及びトリコフィトン・トンズランスからなる群から選択される真菌に由来する。
【0109】
一定の実施形態において、前記感染症抗原は寄生虫抗原である。一定の実施形態において、前記寄生虫抗原は、アニサキス属、バベシア属、アライグマ回虫、クリプトスポリジウム属、シクロスポラ・カイエタネンシス、裂頭条虫属、メジナ虫、赤痢アメーバ、十二指腸鞭毛虫(Giardia・duodenalis)、腸鞭毛虫、ランブル鞭毛虫、リーシュマニア属、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium・falciparum)、マンソン住血吸虫、ビルハルツ住血吸虫、日本住血吸虫、テニア属、トキソプラズマ虫、旋毛虫、及びクルーズトリパノソーマからなる群から選択される寄生虫に由来する。
【0110】
一定の実施形態において、前記異種疾患関連抗原は腫瘍関連抗原である。一定の実施形態において、前記腫瘍関連抗原は、5-α-レダクターゼ、α-フェトプロテイン(AFP)、AM-1、APC、April、B黒色腫抗原遺伝子(BAGE)、β-カテニン、Bcl12、bcr-abl、ブラキュリ、CA-125、カスパーゼ8(CASP-8、FLICEとしても知られている)、カテプシン、CD19、CD20、CD21/補体受容体2(CR2)、CD22/BL-CAM、CD23/FcεRII、CD33、CD35/補体受容体1(CR1)、CD44/PGP-1、CD45/白血球共通抗原(LCA)、CD46/膜補因子タンパク質(MCP)、CD52/CAMPATH-1、CD55/崩壊促進因子(DAF)、CD59/プロテクチン、CDC27、CDK4、癌胎児性抗原(CEA)、c-myc、シクロオキシゲナーゼ-2(cox-2)、結腸直腸癌に欠失している遺伝子(DCC)、DcR3、E6/E7、CGFR、EMBP、Dna78、ファルネシルトランスフェラーゼ、線維芽細胞増殖因子-8a(FGF8a)、線維芽細胞増殖因子-8b(FGF8b)、FLK-1/KDR、葉酸受容体、G250、G黒色腫抗原遺伝子ファミリー(GAGE-family)、ガストリン17、ガストリン放出ホルモン、ガングリオシド2(GD2)/ガングリオシド3(GD3)/ガングリオシドモノシアル酸-2(GM2)、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、UDP-GlcNAc:RMan(α1-6)R[GlcNAc to Man(α1-6)];β1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼV(GnT V)、GP1、gp100/Pme117、gp-100-in4、gp15、gp75/チロシン関連タンパク質-1(gp75/TRP-1)、ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)、ヘパラナーゼ、Her2/neu、ヒト乳房腫瘍ウイルス(HMTV)、70キロダルトン熱ショックタンパク質(HSP70)、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、インスリン様増殖因子受容体1(IGFR-1)、インターロイキン13受容体(IL-13R)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)、Ki67、KIAA0205、K-ras、H-ras、N-ras、KSA、LKLR-FUT、黒色腫抗原コード化遺伝子1(MAGE-1)、黒色腫抗原コード化遺伝子2(MAGE-2)、黒色腫抗原コード化遺伝子3(MAGE-3)、黒色腫抗原コード化遺伝子4(MAGE-4)、マンマグロビン、MAP17、メラン-A/T細胞―1により認識される黒色腫抗原(MART-1)、メソテリン、MIC A/B、MT-MMP、ムチン、精巣特異抗原NY-ESO-1、オステオネクチン、p15、P170/MDR1、p53、p97/メラノトランスフェリン、PAI-1、血小板由来増殖因子(PDGF)、μΡΑ、PRAME、プロバシン、プロジェニポエチン(progenipoietin)、前立腺特異抗原(PSA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、RAGE-1、Rb、RCAS1、SART-1、SSXファミリー、STAT3、STn、TAG-72、トランスフォーミング増殖因子α(TGF-α)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)、チモシンβ-15、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、TP1、TRP-2、チロシナーゼ、血管内皮増殖因子(VEGF)、ZAG、p16INK4、及びグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)からなる群から選択される。
【0111】
一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスは、チョルドポックスウイルス亜科及びエントモポックスウイルス亜科のメンバーである。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスは、チョルドポックスウイルス亜科のメンバーである。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはアビポックスウイルス、カプリポックスウイルス、レポリポックスウイルス、モルシポックスウイルス、オルソポックスウイルス、パラポックスウイルス、スイポックスウイルス、及びヤタポックスウイルスからなる群から選択されるチョルドポックスウイルスの属のメンバーである。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはアビポックスウイルスである。一定の実施形態において、該アビポックスウイルスは、カナリア痘ウイルス、鶏痘ウイルス、ムクドリ痘ウイルス、鳩痘ウイルス、及びクアイル(quail)痘ウイルスからなる群から選択される。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはカプリポックスウイルスである。一定の実施形態において、該カプリポックスウイルスは羊ポックスウイルス、ヤギ痘ウイルス、及びランピースキン病ウイルスからなる群から選択される。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはレポリポックスウイルスである。一定の実施形態において、該レポリポックスウイルスは粘液腫ウイルス、ショープ線維腫ウイルス(ウサギ線維腫ウイルスとしても知られる)、ノウサギ線維腫ウイルス、及びリス線維腫ウイルスからなる群から選択される。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはモルシポックスウイルスである。一定の実施形態において、モルシポックスウイルスは、伝染性軟属腫ウイルスである。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスは、オルソポックスウイルスである。一定の実施形態において、該オルソポックスウイルスはバッファロー痘ウイルス、ラクダ痘ウイルス、牛痘ウイルス、エクトロメリアウイルス、サル痘ウイルス、アライグマ痘ウイルス)、天然痘ウイルス(痘瘡ウイルスとしても知られる)、及びワクシニアウイルスからなる群から選択される。一定の実施形態において、前記オルソポックスウイルスはワクシニアウイルスである。一定の実施形態において、該ワクシニアウイルスは、ワクシニアウイルス、ウェスタンリザーブ、ワクシニアウイルス・コペンハーゲン、Dryvax(ワクシニアウイルスWyethとしても知られる)、ACAM2000、漿尿膜ワクシニアウイルス・アンカラ(「CVA」)、修飾ワクシニアウイルス・アンカラ(「MVA」)、及び修飾ワクシニアウイルス・アンカラ・ババリアンノルディック(「MVA-BN」)からなる群から選択される。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはパラポックスウイルス属である。一定の実施形態において、該パラポックスウイルス属は、ウシ丘疹性口内炎ウイルス、ORFウイルス、ニュージーランドアカシカのパラポックスウイルス、及び偽牛痘ウイルスからなる群から選択される。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはスイポックスウイルスである。一定の実施形態において、該スイポックスウイルスは豚痘ウイルスである。一定の実施形態において、前記組換えポックスウイルスはヤタポックスウイルスである。一定の実施形態において、該ヤタポックスウイルスはタナポックスウイルス及びヤバサル腫瘍ウイルスからなる群から選択される。
【0112】
一定の実施形態において、初期dsRNAを発現する異種核酸は相補的RNA転写物をコードする配列を含んでおり、ここでの相補的RNA転写物は、転写後にアニールしてdsRNAを生成する。一定の実施形態において、前記相補的RNA転写物は、タンパク質をコード化するオープンリーディングフレーム(ORF)または非タンパク質コード化遺伝子を含んでいる。一定の実施形態において、前記相補的RNA転写物またはRNA転写物の相補的部分は、50、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、または1000ヌクレオチドだけ重なる。一定の実施形態において、前記相補的RNA転写物は、50ヌクレオチド超、100ヌクレオチド超、150ヌクレオチド超、200ヌクレオチド超、250ヌクレオチド超、300ヌクレオチド超、350ヌクレオチド超、400ヌクレオチド超、450ヌクレオチド超、500ヌクレオチド超、550ヌクレオチド超、600ヌクレオチド超、650ヌクレオチド超、700ヌクレオチド超、750ヌクレオチド超、800ヌクレオチド超、850ヌクレオチド超、900ヌクレオチド超、950ヌクレオチド超、または1000ヌクレオチド超だけ重なる。一定の実施形態において、前記相補的RNA転写物は、100~1000ヌクレオチド、200~1000ヌクレオチド、300~1000ヌクレオチド、400~1000ヌクレオチド、500~1000ヌクレオチド、600~1000ヌクレオチド、700~1000ヌクレオチド、800~1000ヌクレオチド、900~1000ヌクレオチド、200~900ヌクレオチド、300~800ヌクレオチド、400~700ヌクレオチド、300~750ヌクレオチド、300~730ヌクレオチド、または500~600ヌクレオチドだけ重複する。
【0113】
一定の実施形態において、異種核酸は、相補的な核酸または好ましくは50、60、70、80、90、100%相補的な配列の相補的配列で、RNAに転写される。一定の実施形態において、相補的RNA転写産物をコードする異種核酸は、二つの相補的配列を含む。一定の実施形態において、前記相補的配列は、1以上の必須のウイルス遺伝子または非相補的核酸によって分離される。一定の実施形態において、部分的にまたは完全に相補的な転写物をコードする同一または非常に類似した配列は、1以上の必須のウイルス遺伝子によって分離される。一定の実施形態において、相補的RNA転写物をコードする異種核酸は、別個の転写物または核酸上に2つの相補的配列を含む。一定の実施形態において、センスメッセンジャーRNA(mRNA)は一方の相補配列から転写され、アンチセンスmRNAは他方の相補的配列から転写される。一定の実施形態において、センスメッセンジャーRNA(mRNA)は、二つの同一または非常に類似した配列の一方から転写され、アンチセンスmRNAは、他方の同一または非常に類似した配列から転写される。一定の実施形態において、重複する相補的なRNA転写物をコードする配列の発現は、1以上のポックスウイルスプロモータによって指令される。一定の実施形態において、この1以上のポックスウイルスプロモータは、初期プロモータまたは即時初期プロモータである。
【0114】
一定の実施形態において、相補的RNA転写物または該RNA転写物の一部は、異なる核酸分子上のヌクレオチドを含む。一定の実施形態において、前記RNA転写物の相補的部分は、siRNA以外の核酸、または例えば21~23塩基対のような短いストレッチの相補的RNA転写物を含む。
【0115】
一定の実施形態において、前記ポックスウイルスプロモータは初期プロモータである。一定の実施形態において、該初期プロモータはPr7.5プロモータ及びPrSプロモータからなる群から選択される。一定の実施形態において、前記ポックスウイルスプロモータは、即時初期プロモータである。一定の実施形態において、この即時初期プロモータは、I3Lプロモータ、30Kプロモータ、40Kプロモータ、PrHybプロモータ、PrS5Eプロモータ、Pr4LS5Eプロモータ、及びPr13.5長プロモータからなる群から選択される。
【0116】
<組成物>
もう一つの態様において、ここでは、本明細書で与えられる二本鎖RNA(dsRNA)を発現する異種核酸を含んだ何れかの組換えポックスウイルスと、必要に応じて医薬的に許容可能な担体または賦形剤を含有する免疫原性組成物が提供される。一定の実施形態において、該免疫原性組成物は、本明細書で与えられるdsRNAを発現する異種核酸を含む何れかの組換えポックスウイルスを含有し、更に、本明細書中に提供される何れかの異種疾患関連抗原をコードする核酸配列、及び任意に医薬的に許容可能な担体もしくは賦形剤を含有するものである。
【0117】
もう一つの態様において、ここでは、本明細書に提供される初期の二本鎖RNA(dsRNA)を発現する異種核酸を含む何れかの組換えポックスウイルス、及び医薬的に許容可能な担体または賦形剤を含有する医薬組成物が提供される。一定の実施形態において、該医薬組成物は、本明細書で提供されるdsRNAを発現する異種核酸を含む何れかの組換えポックスウイルスを含有し、更に、本明細書で提供される何れかの異種疾病関連抗原をコードする核酸配列及び医薬的に許容可能な担体または賦形剤を含有する。
【0118】
本明細書で提供される免疫原性組成物及び医薬組成物を調製するために使用される組換えポックスウイルスは、10~10TCID50/mL、10~5×10TCID50/mL、10 ~10TCID50/mL、または10~10TCID50/mLの濃度範囲を有する組換えポックスウイルス粒子の懸濁液または溶液を含む。一定の実施形態において、該組成物は、10~10TCID50を含有し、または10TCID50、10TCID50、10TCID50または5×10TCID50を含有する単一用量として製剤化される。文献[H.Stickl et al.,Dtsch.med.Wschr.99:2386-2392(1974)]に記載されるように、本明細書に開示された組換えポックスウイルスは、例えば、天然痘に対するワクチン接種のために使用されるポックスウイルスワクチンの製造における経験に基づいて、生理的に許容される形態で提供される。例えば、精製されたポックスウイルスは、5×10TCID50/mLの力価で-80℃において保存し、pH 7.7で約10mMのトリス、140mMの塩化ナトリウム中に処方することができる。一定の実施形態において、ポックスウイルス調製物、例えば10~10または10~10ポックスウイルス粒子は、2%(w/v)ペプトン及び1%(w/v)ヒト血清アルブミン(HSA)の存在下に100mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で凍結乾燥し、またガラス製または他の適切な材料で作られたアンプルに保存することができる。
【0119】
或いは、凍結乾燥したポックスウイルス粒子製剤は、例えば、pH7.7の10mMトリス、140mMのNaCl、またはPBSプラス2%(w/v)ペプトン及び1%(w/v)HSA等の溶液中で処方されたポックスウイルスの懸濁液を段階的に凍結乾燥することによって調製することができる。一定の実施形態において、該溶液はマンニトール、デキストラン、糖、グリシン、ラクトースまたはポリビニルピロリドンのような1以上の追加の添加剤を含有する。一定の実施形態において、前記溶液は、インビボ投与に適した酸化防止剤もしくは不活性ガス、安定剤または組換えタンパク質(例えば、ヒト血清アルブミンまたはHSA)等の他の補助剤を含有する。次いで、該溶液は、例えばガラスアンプル等の適切な貯蔵容器に等分され、該貯蔵容器は密封される。一定の実施形態において、免疫原性組成物及び/または医薬組成物は、4℃~室温で数ヶ月間保存される。一定の実施形態において、前記貯蔵容器は-20℃未満、-40℃未満、-60℃未満、または-80℃未満の温度で保存される。
【0120】
一定の実施形態において、医薬的に許容可能な担体または賦形剤は、1種以上の添加剤、抗生物質、防腐剤、アジュバント、希釈剤及び/または安定剤を含む。このような補助物質は、水、生理食塩水、グリセロール、エタノール、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などであることができる。一般的に、使用される担体の性質は、用いられる特定の投与様式に依存する。例えば、非経口製剤は通常、水、生理食塩水、平衡塩類溶液、水性デキストロース、グリセロール等のような医薬的及び生理学的に許容される液体を媒体として含有する注射可能な液体を包含する。適切な担体は、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、重合アミノ酸、アミノ酸コポリマー、脂質凝集物等の大きな徐々に代謝される分子である。
【0121】
<方法及び使用>
もう一つの態様において、ここでは、自然免疫活性化を増強する方法であって、本明細書に提供される医薬組成物または組換えポックスウイルスの何れか一つを、それを必要としている被験者に投与することを含んでなり、ここでの医薬組成物または組換えポックスウイルスは、被験者に投与されたときに自然免疫活性化を増強することを特徴とする方法が提供される。もう一つの態様において、ここでは、ポックスウイルスにより媒介されまたは異種疾患関連抗原によって媒介される状態の治療または予防のための医薬の製造における、本明細書で提供される医薬組成物または組換えポックスウイルスの何れか一つの使用が提供される。もう一つの態様において、ここでは、医薬として使用するための、本明細書で提供されるポックスウイルスまたは医薬組成物の何れか一つが提供される。もう一つの態様において、ここでは、自然免疫活性化の増強に使用するための、またはポックスウイルスによって媒介され、または異種疾患関連抗原により媒介される状態の治療または予防のための、本明細書に提供される医薬組成物の何れかのポックスウイルスが提供される。もう一つの態様において、ここでは、ポックスウイルスによって媒介され、または異種疾患関連抗原によって媒介される状態の治療または予防のための、本明細書に提供される医薬組成物の何れかの使用が提供される。一定の実施形態において、前記被験対象は脊椎動物である。一定の実施形態において、該脊椎動物は哺乳動物である。一定の実施形態において、該哺乳動物はヒトである。
【0122】
一定の実施形態において、本明細書で提供される異種疾患関連抗原をコードする核酸配列を更に含む組換えポックスウイルスを含有する医薬組成物の何れかは、被験対象に投与されたときに、過剰な初期dsRNAを発現する異種核酸を欠失した組換えポックスウイルスを含有する同一の医薬組成物に比較して、自然免疫の活性化を増強する(前記組換えポックスウイルスが異種疾患関連抗原をコードする核酸配列を更に含むか否かに拘わらず)。一定の実施形態において、前記被験対象は脊椎動物である。一定の実施形態において、該脊椎動物は哺乳動物である。一定の実施形態において、該哺乳動物はヒトである。
【0123】
一定の実施形態において、本明細書で提供される医薬組成物は何れも、当業者に既知の任意の適切な投与経路によって前記被験対象に投与される。一定の実施形態において、前記医薬組成物は、凍結乾燥物として提供される。一定の実施形態において、該凍結乾燥は水溶液中に溶解される。一定の実施形態において、該水溶液は生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、または生理的pHのトリス緩衝液である。一定の実施形態において、前記医薬組成物は、全身的投与される。一定の実施形態において、該医薬組成物は、局所的に投与される。一定の実施形態において、本明細書に提供される医薬組成物の何れかは、皮下、静脈内、筋肉内、皮内、鼻腔内、経口、局所、非経口的に、または当業者に知られている他の任意の投与経路によって投与される。投与経路、用量、及び治療プロトコルは、当業者によって最適化することができる。
【0124】
一定の実施形態において、本明細書において提供される任意の医薬組成物は、単回用量で被験対象に投与される。一定の実施形態において、本明細書に提供される医薬組成物の何れかは、複数回用量で被験対象に投与される。一定の実施形態において、医薬組成物の何れかは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25回以上の用量で被験対象に投与される。一定の実施形態において、本明細書に提供される医薬組成物の何れかは、最初のプライミング用量に続いて、1以上の追加のブースト用量が用投与される(即ち、「プライム・ブースト」ワクチン接種プロトコルで投与される)。一定の実施形態において、該「プライム・ブースト」ワクチン接種プロトコルは、相同プライム・ブーストプロトコルである。一定の実施形態において、該「プライム・ブースト」プロトコルは、異種プライム・ブーストプロトコルである。一定の実施形態において、前記最初の用量またはプライミング用量は、10~10TCID50のここに提供される何れかの組換えポックスウイルスを含んだ本明細書で提供される医薬組成物の何れかの用量を含有する。一定の実施形態において、2回目以降のブースト用量は、10~10TCID50のここに提供される何れかの組換えポックスウイルスを含んだ本明細書で提供される医薬組成物の何れかの用量を含有する。一定の実施形態において、二回目の用量またはブースト用量は、最初のまたはプライミング用量の投与後1、2、3、4、5、6、または7日以上たってから投与される。一定の実施形態において、二回目の用量またはブースト用量は、最初のまたはプライミング用量の投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12週以上たってから投与される。一定の実施形態において、二回目の用量またはブースト用量は、最初のまたはプライミング用量の投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12月以上たってから投与される。一定の実施形態において、二回目の用量またはブースト用量は、最初のまたはプライミング用量の投与後1、2、3、4、または5年以上たってから投与される。一定の実施形態において、後続のブースト用量は、最初のブースト用量の投与後1、2、3、4、5、6、または7日以上たってから投与される。一定の実施形態において、後続のブースト用量は、最初のブースト用量の投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12週間以上たってから投与される。一定の実施形態において、後続のブースト用量は、最初のブースト用量の投与後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、または12ヶ月以上たってから投与される。一定の実施形態において、後続のブースト用量は、最初のブースト用量の投与後、1、2、3、4、または5年以上たってから投与される。
【0125】
一定の実施形態において、前記増強された自然免疫応答は、I型インターフェロン(I型IFN)、サイトカイン及びケモカインの増強された産生を含む。
【0126】
一定の実施形態において、前記増強された自然免疫応答は、I型IFNの産生増強を含む。一定の実施形態において、I型IFNの産生増強は、インターフェロン・ベータ(IFN-β)をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)の増強された転写を含む。一定の実施形態において、IFN-βをコードするmRNAの転写は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増大する。一定の実施形態において、I型IFNの産生増強は、IFN-βタンパク質の分泌増強を包含する。一定の実施形態において、IFN-βタンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、または少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍以上増大する。
【0127】
一定の実施形態において、I型IFNの産生増強は、インターフェロン・アルファ(IFN-α)をコードするmRNAの増強された転写を含み、IFN-αをコードするmRNAの転写は、少なくとも2倍、少なくとも4、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。一定の実施形態において、I型IFNの産生増強は、IFN-αタンパク質の分泌増強を含み、IFN-αタンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増大する。
【0128】
一定の実施形態において、I型IFNの産生増強は、インターフェロン・ガンマ(IFN-γ)をコードするmRNAの転写増強を含み、IFN-γをコードするmRNAは、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増大する。一定の実施形態において、I型IFNの産生増強は、IFN-γタンパク質の分泌増大を含み、IFN-タンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増大する。
【0129】
一定の実施形態において、自然免疫応答の増強は、サイトカインの産生増強を含んでいる。一定の実施形態において、サイトカインの産生増強は、インターロイキン-6(IL-6)をコードするmRNAの転写増強を含み、IL-6をコードするmRNAの転写は、少なくとも1.8倍、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍以上増大する。一定の実施形態において、このサイトカインの産生増強はIL-6タンパク質の分泌増強を含み、IL-6タンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍以上増加する。
【0130】
一定の実施形態において、サイトカインの産生増強は、インターロイキン-18(IL-18)をコードするmRNAの転写増強を含み、IL-18をコードするmRNAの転写は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。一定の実施形態において、サイトカインの産生増強はIL-18タンパク質の分泌増強を含み、IL-18タンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40-倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。
【0131】
一定の実施形態において、自然免疫応答の増強は、ケモカイン産生増強を含む。一定の実施形態において、ケモカインの産生増強はCXCL1をコードするmRNAの転写増強を含み、CXCL1をコードするmRNAの転写は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。一定の実施形態において、ケモカインの産生増強はCXCL1タンパク質の分泌増強を含み、CXCL1タンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。
【0132】
一定の実施形態において、前記ケモカインの産生増強はCCL2をコードするmRNAの転写増強を含み、CCL2をコードするmRNAの転写は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。一定の実施形態において、ケモカインの産生増強はCCL2タンパク質の分泌増強を含み、CCL2タンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。
【0133】
一定の実施形態において、ケモカインの産生増強はCCL5をコードするmRNAの転写増強を含み、CCL5をコードするmRNAの転写は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する。一定の実施形態において、ケモカインの産生増強はCCL5タンパク質の分泌増強を含み、CCL5タンパク質の分泌は、少なくとも2倍、少なくとも4倍、少なくとも6倍、少なくとも8倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍以上増加する
なお、本願は、特許請求の範囲に記載の発明に関するものであるが、他の態様として以下も包含し得る。
1.感染初期に過剰な二本鎖RNA(dsRNA)を発現する異種核酸を含んでなる組換えポックスウイルス。
2.上記1に記載の組換えポックスウイルスであって、更に、1以上の共刺激分子をコードする異種配列を含んでなる前記組換えポックスウイルス。
3.上記2に記載の組換えポックスウイルスであって、前記1以上の共刺激分子がTRICOM(B7-1、ICAM-1、及びLFA-3)である前記組換えポックスウイルス。
4.上記1~3の何れか1項に記載の組換えポックスウイルスであって、更に、1以上の細菌抗原、ウイルス抗原、真菌抗原、寄生虫抗原、または腫瘍抗原をコードする異種配列を含んでなる前記組換えポックスウイルス。
5.上記1~4の何れか1項に記載の組換えポックスウイルスであって、前記ポックスウイルスがオルソポックスウイルス、パラポックスウイルス、ヤタポックスウイルス、アビポックスウイルス、レポリポックスウイルス、スイポックスウイルス、カプリポックスウイルス、セルビドポックスウイルス、またはモルシポックスウイルスである前記組換えポックスウイルス。
6.上記5に記載の組換えポックスウイルスであって、前記オルソポックスウイルスは、ワクシニアウイルス、牛痘ウイルス、及びサル痘ウイルスからなる群から選択される前記組換えポックスウイルス。
7.上記6に記載の組換えポックスウイルスであって、前記ワクシニアウイルスは、ワクシニアウイルス・ウェスタンリザーブ、ワクシニアウイルス・コペンハーゲン、ドライワックス(Dryvax:ワクシニアウイルス・ワイス(Wyeth)としても知られる)、ワクシニアウイルス・リスター、ワクシニアウイルス・アカンビス(Acambis)2000及び3000、家兎痘ウイルス、バッファロー痘ウイルス、修飾ワクシニアウイルス・アンカラ(MVA)、及び修飾ワクシニアウイルス・アンカラ・ババリアンノルディック(MVA-BN)からなる群から選択される前記組換えポックスウイルス。
8.上記1~7の何れか1項に記載の組換えポックスウイルスであって、dsRNAを生成する前記異種核酸は、部分的にまたは完全に相補的なRNA転写物をコードする配列を含んでなり、前記RNA転写物の相補的部分は、転写後にアニールしてdsRNAを形成する前記組換えポックスウイルス。
9.上記8に記載の組換えポックスウイルスであって、前記相補的なRNA転写物は、タンパク質をコードするオープンリーディングフレーム(ORF)または非タンパク質をコードする遺伝子を含んでなる前記組換えポックスウイルス。
10.上記9に記載の組換えポックスウイルスであって、前記RNA転写物の前記相補的部分は50以上のヌクレオチドを含んでなる前記組換えポックスウイルス。
11.上記10に記載の組換えポックスウイルスであって、前記RNA転写物の前記相補的部分は、50~700のヌクレオチドを含んでなる前記組換えポックスウイルス。
12.上記10に記載の組換えポックスウイルスであって、前記RNA転写物の前記相補的部分は、700を超えるヌクレオチドを含んでなる前記組換えポックスウイルス。
13.上記10に記載の組換えポックスウイルスであって、完全にまたは部分的に相補的なRNA転写産物をコードする前記異種核酸は、前記相補的な領域内において同一であるか、または前記相補的な領域内において99%超、95%超、90%超、80%超、または70%超の類似性を有する前記組換えポックスウイルス。
14.上記13に記載の組換えポックスウイルスであって、部分的または完全に相補的な転写物をコードする前記二つの同一または非常に類似した配列が、1以上の必須のウイルス遺伝子によって分離されている前記組換えポックスウイルス。
15.上記14に記載の組換えポックスウイルスであって、センスメッセンジャーRNA(mRNA)は前記二つの同一または非常に類似した配列の一方から転写され、及びアンチセンスmRNAは他方の同一または非常に類似した配列から転写される前記組換えポックスウイルス。
16.上記15に記載の組換えポックスウイルスであって、センス及びアンチセンスRNAが、前記同じ異種配列の挿入物の両方の鎖から転写される前記組換えポックスウイルス。
17.上記15に記載の組換えポックスウイルスであって、センス及びアンチセンスRNAは、天然ポックスウイルス配列、好ましくは初期遺伝子、より好ましくは即時初期遺伝子の両方の鎖から転写される前記組換えポックスウイルス。
18.上記15~17の何れか1項に記載の組換えポックスウイルスであって、相補的なRNA転写物をコードする前記配列の発現は、各々ポックスウイルスプロモータによって指令される前記組換えポックスウイルス。
19.上記16に記載の組換えポックスウイルスであって、前記ポックスウイルスプロモータは、初期プロモータまたは即時初期プロモータである前記組換えポックスウイルス。20.上記1~19に記載の初期dsRNAの発現により、標準的な複製能力をもつワクシニアウイルス株及びチョルドポックスウイルス亜科由来の他の種を弱毒化させる方法。21.自然免疫の活性化を増強する方法であって、脊椎動物被験対象に上記19に記載の組換えポックスウイルスを投与することを含んでなり;前記投与は、前記被験対象におけるI型インターフェロン(I型IFN)、サイトカイン及びケモカインの産生を高める方法。
22.上記21に記載の方法であって、I型IFNの産生は、インターフェロン-β(IFN-β)をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)の転写を含んでなり、該IFN-β・mRNAの転写が少なくとも2倍増加する前記方法。
23.上記22に記載の方法であって、IFN-βをコードするmRNAの転写が少なくとも10倍増加する前記方法。
24.上記23に記載の方法であって、IFN-βをコードするmRNAの転写が少なくとも50倍増加する前記方法。
25.上記21に記載の方法であって、I型IFNの産生はIFN-βタンパク質の分泌を含んでなり、該IFN-βタンパク質の分泌が少なくとも2倍増加する前記方法。
26.上記25に記載の方法であって、IFN-βタンパク質の分泌が少なくとも4倍増加する前記方法。
27.上記26に記載の方法であって、IFN-βタンパク質の分泌が少なくとも10倍増加する前記方法。
28.上記21に記載の方法であって、前記投与は、サイトカインIFN-α、IFN-γ、IL-6、及びIL-18の産生を増強する前記方法。
29.上記21に記載の方法であって、前記投与は、ケモカインCXCL1、CCL2及びCCL5の産生を増強する前記方法。
30.上記21に記載の方法であって、前記投与は、ベクター特異的CD8T細胞の産生を、少なくとも10%、好ましくは25%、より好ましくは50%超増強する前記方法。31.上記19に記載のポックスウイルスであって、ニワトリ線維芽細胞株DF-1(ATCC(登録商標)CRL-12203)において産生される前記ポックスウイルス。
【実施例
【0134】
実施例1.B15を欠失した追加のneoカセットを含むCVAの変異体は高度に弱毒化される
我々は、細菌人工染色体(BAC)としてクローニングされたCVAゲノムに基づく組換えシステムを使用して、高度に弱毒化されたCVAの変異体を同定し、ここではneo/rpsLカセットがCVA-BACの突然変異誘発の際に正/負の選択の目的で働いた(Meisinger-Henschel et al.,2010)。CVA野生型ウイルスは、細菌中において、BACとしての環状ゲノムの増殖を可能にするために、ORFI3LとI4Lの間の遺伝子間領域に、BAC制御配列及び更なるマーカーの挿入を含んでいる。これらの配列は、ポックスウイルスのpSプロモータ下で発現されたneo-IRES-EGFPカセットを含んでいる。このBAC由来のCVAは、野生型のプラーク精製CVAと区別できない特性を有することが、以前に実証されている(Meisinger 2010)。従って、BAC由来CVAは野生型CVAと区別できないと看做され、以下の実施例ではCVAwtと称される。
【0135】
驚くべきことに、B15R・ORFの代わりにneo/rpsL選択カセットを保有する変異体CVA(CVA-dsneo-ΔB15、図1参照)は、BALB/cマウスの鼻腔内感染時に著しく弱毒化されたのに対して、neo/rpsL選択カセットを持たないCVA-ΔB15欠失変異体は中程度に弱毒化されたに過ぎない(図2A)。5×10TCID50の用量でマウスを鼻腔内接種した後でさえも、CVA-dsneo-ΔB15は検出可能な体重減少を生じさせず(図2A及び2B)、また他の疾患徴候も生じさせなかった(データは図示せず)のに対して、野生型CVAはこの用量において殆ど致命的であった(図2A及び図2B)。B15RのCVAバージョンがB15RのMVAのバージョンで置き換えられたときは、その後の変異体CVA-B15MVAの弱毒化もまた中程度であり(図2B)、CVA-ΔB15について観察された弱毒化(図2B)に匹敵していた。CVA-B15MVAによって発現されたB15タンパク質は、そのCVAホモログよりもSDS-PAGEで僅かに速く移動し、CVA-B15MVAが、6個のアミノ酸を欠失したMVA由来の適正なB15バージョンを発現したことを確認した(データは示さず)。これらの結果は、6アミノ酸ストレッチの内部欠失を有するB15のMVAバージョンは、非機能的であるとの最近公開された観察(McCoy et al.(2010), J.Gen.Virol.91:2216-2220)と一致している。このように、CVA-B15MVAは、おそらくB15ヌル変異体に相当する。
【0136】
ワクシニアウイルス弱毒化のための基準として、我々は分泌されたオルソポックスウイルスのI型IFN受容体をコードするB19R遺伝子を欠失させた。CVA-ΔB19は、CVA-ΔB15より僅かに強く弱毒化されたが、CVA-dsneo-ΔB15よりも有意に低く弱毒化された(図2B)。
【0137】
マウスの肺における感染性ウイルス力価が、1×10TCID50の用量での鼻腔内感染の後に分析された。CVA-dsneo-ΔB15に感染したマウスは、感染後6日に肺に1×10TCID50未満の非常に低いウイルス力価を示したのに対して、CVA感染マウスの肺におけるウイルス力価は、1×10TCID50を超えた(図2C、スチューデントのt検定によるp<0.001)。CVA-ΔB19及びCVA-B15MVAに感染したマウスの肺におけるウイルス力価は、CVA(図2C)のそれに比べて概ね一桁低下し(p<0.001)、減少はしたが、未だ有意なこれらウイルスの病原性を反映した(図2B)。従って、鼻腔内感染後の肺における感染性ウイルスの力価は、CVA変異体の観察された病原性パターンと非常によく相関し、CVA-dsneo-ΔB15の強い減衰が確認された。
【0138】
その強い弱毒化の原因としてのCVA-dsneo-ΔB15における不要な変異を排除するために、我々はCVA-dsneo-ΔB15(202,615ヌクレオチド)及びCVA-ΔB15(201,296ヌクレオチド)の完全なコード領域の塩基配列を決定した。両ウイルスは、意図的にそのコード領域に導入されていた予想された変異のみを含んでいた。従って、CVA-dsneo-ΔB15の驚くほど強い弱毒化は、neo/rpsLカセットの存在に依存するように見えた。
【0139】
実施例2.IFN-α/β受容体欠損(IFNAR0/0)マウスにおけるCVA-dsneo-ΔB15の毒性
I型IFNシステムは、マウスにおけるCVA-dsneo-ΔB15の強い弱毒化に寄与したかどうかを調査するために、機能的IFNα/β受容体を欠損したIFNAR0/0マウスを、段階的な用量のCVA及びCVA-dsneo-ΔB15で感染させた。5×10TCID50の高用量において、CVA-dsneo-ΔB15は、IFNAR0/0マウスにとって一様に致死的であった(データは示さず)。IFNAR0/0マウスのサブセットは、1×10CVA-dsneo-ΔB15の中間的用量で感染させた後にも生存し、また2×10TCID50の用量で感染させたときにも、全てのマウスが生存した(図3A及びB)。野生型CVAに感染したIFNAR0/0マウスは、2×10TCID50の最も低い用量でさえ一様に死亡した(図3A及びB)。特に、CVA-dsneo-ΔB15は、20%以上の有意な体重減少によって証明されるように(図3A)、2×10TCID50の使用した最低用量でさえも、IFNAR0/0マウスにとっては未だ高病原性であった。
【0140】
このように、I型IFNシステムは、CVA-dsneo-ΔB15の強い弱毒化に関与する重要な因子であると思われる。野生型CVAに感染したIFNAR0/0マウスは全て死亡したのに対して、2×10及び1×10TCID50の用量のCVA-dsneo-ΔB15に感染したIFNAR0/0マウスは部分的または完全に生存したという事実は、I型IFNに依存しない因子がCVA-dsneo-ΔB15の弱毒化に僅かに寄与することを示唆している。B15は、VACV感染細胞におけるNFκB活性化の阻害剤であることが以前に報告されている(Chen et al.(2008),PLoS.Pathog.4:e22-)。そのため、B15の欠乏による増強されたNFκB活性化の抗ウイルス効果は、IFNAR0/0マウスにおけるCVAに比較して、CVA-dsneo-ΔB15の適度な弱毒化の原因である可能性がある。同様に、より効率の低いNFκB阻害はまた、野生型マウスにおけるCVA-ΔB15の中程度の弱毒化(B15を欠失しているので)についての説明を提供できるかもしれない(図2)。しかし、それはまた、CVA-dsneo-ΔB15の弱毒化の殆どの原因であるneo/rpsLカセットを欠失しているので、CVA-dsneo-ΔB15よりも遥かに少なく弱毒化される。
【0141】
実施例3.CVA-dsneo-ΔB15による、樹状細胞(DC)でのIFN-α及びIFN-λの誘導
DCは、I型及びIII型IFN、並びに他のサイトカインの効率的な産生体なので、我々は、fms様チロシンキナーゼ3リガンド(flt3-LまたはFL)培養システムを使用して生成されたマウス骨髄由来のDCにおいて、本明細書に提供される種々のCVA構築物がこれらIFNを誘導する能力を評価した。マウスIFN-βではなくマウスIFN-αが、オルトポックスウイルスB19によって結合される。この結合は、IFN-α特異的ELISAにおけるIFN-αの検出を、部分的または完全に妨げる(データは示さず)。CVA-dsneo-ΔB15によるIFN-α誘導の解析を容易にするために、ゼオシン耐性遺伝子でB19R遺伝子を置換することにより、追加の欠失が導入された(図1)。得られたCVA-dsneo-ΔB15/B19二重欠失変異体の弱毒化は、感染したマウスの肺におけるそのウイルス力価が感染後6日目でさえも低かったことを除き、BALB/c疾患モデルにおけるCVA-dsneo-ΔB15のものと区別できなかった(データは示さず)。IFN-αは、予想通りCVAに感染したFL-DCの上清中には検出されなかったが、CVA-ΔB19は検出可能な量のIFN-αを誘導し(図4)、それにより、野生型CVAは中程度のIFN-αを誘導できるが、これは、B19によるELISAベースの検出からはマスクされることが実証された。二重欠失変異体のCVA-dsneo-ΔB15/B19は、FL-DCにおいてCVA-ΔB19よりも有意に高いレベルのIFN-αを誘導し、これはMVAにより誘導されたものに匹敵した(図4)。このことは、neo-ΔB15変異体が、より高いインターフェロン誘導能をCVAに与えることを実証した。CVA-ΔB15は検出可能なIFN-βを誘導しなかったので、B15はこの効果には寄与せず、従ってCVA wtと同様に挙動した。
【0142】
オルトポックスウイルスは、IFN-λのための結合タンパク質を発現しないので、我々は、FL-DCによるIFN-λ分泌を誘導する能力について、変異体CVA-dsneo-ΔB15を直接分析することができた。CVA-dsneo-ΔB15は、CVAまたはCVA-ΔB15よりも、FL-DCの上清中において有意に高いIFN-λレベルを誘導した(図4)。CVA-dsneo-ΔB15によって誘導されるIFN-λレベルは、MVAによって誘発されるものと非常に類似していた。総合的に考慮すると、上記の結果は、CVA-dsneo-ΔB15が、多くの免疫調節因子を欠失したMVA(Antoine et al.(1998),Virology 244:365-396;Meisinger-Henschel et al.(2007),J.Gen. Virol.88:3249-3259)に匹敵するIFN-α及びIFN-λの強力な誘導物質であり、その祖先CVA(Samuelsson et al.(2008),J.Clin.Invest 118:1776-1784)に比べて増大したDC活性化をもたらすことを示している。
【0143】
実施例4.CVA及びCVA-dsneo-ΔB15による、マウス細胞株でのIFN-βの誘導
CVA-dsneo-ΔΒ15の増強されたI型IFN誘導能がDCに限られたものであるかどうかを明らかにするために、マウスBALB/3T3クローンA31(A31)線維芽細胞を様々なCVA構築物に感染させ、定量的逆転写酵素PCR(RT-qPCR)によってIFN-β・mRNAレベルを決定した。CVA及びCVA-ΔB15は非常に低いIFN-β遺伝子発現しか誘導しないが、CVA-dsneo-ΔB15の感染は、A31細胞において増大したレベルのIFN-β転写産物を刺激した(図5A)。感染後4時間でのCVA-dsneo-ΔB15によるIFN-β・mRNAの誘導は、この時点においてMVAで得られたものと同様であった(図5A)。MVAに感染したA31細胞におけるIFN-β転写産物のレベルは、通常は、感染の4時間後に減少したのに対して、CVA-dsneo-ΔB15により誘導されたIFN-β・mRNAは更に増加し、感染後6時間以降にMVAによって誘発されるレベルを明らかに超えた(図5A)。これらのデータは、IFNAR0/0マウスにおけるCVA-dsneo-ΔB15の弱毒化の概ね完全な反転と併せて、野生型マウスにおけるこのウイルス変異体の非病原性が、強く増強されたI型IFNの誘導によって引き起こされたらしいことを強く示唆する。
【0144】
CVA-dsneo-ΔB15のB15R遺伝子座におけるneo・ORFが欠失され(CVA-ΔB15)、またはゼオシン(zeo)耐性カセットで置き換えられたときに(CVA-zeo-ΔB15)、得られた変異ウイルスのIFN-β刺激能力は概ね完全に存在しなかった(図5B)。B15R・ORFの代わりにネオマイシンORFが挿入されて、強力な初期B15Rプロモータ(pB15)がそのまま残されたので、我々は、CVA-dsneo-ΔB15からpB15を欠失させた。得られた変異体CVA-ΔpB15-neo-ΔΒ15は、CVAwtレベルのIFN-β転写物のみを誘導した(図5B)。このように、CVA-dsneo-ΔB15変異体におけるneo・ORFの転写は、IFN-β刺激能のために必須であると思われた。CVA-dsneo-ΔB15に感染したA31細胞におけるneoカセット転写は、neo/rpsL挿入物のrpsL部分を標的とするRT-qPCR分析により確認された(データは示さず)。neo及びrpsL・ORFが、B15プロモータに対して逆相補的な方向で挿入されおり、このアンチセンスRNAが翻訳機構によって使用されるとすれば、非常に短いORFだけが該neoカセットから翻訳されると予測される。
【0145】
CVA-dsneo-ΔB15変異体は、BAC骨格中のEGFP/neoカセットから、初期/後期プロモータの制御下でセンス方向に第二のneo転写物を発現するので、2つの部分的に相補的な転写物内の該neo配列は、部分的に二本鎖のRNA(dsRNA)を形成する可能性がある。このdsRNAは、恐らくは感染細胞において追加のPAMPとして作用し、I型及びIII型のIFNの増強された誘導を導いたと思われる。
【0146】
実施例5.外来挿入物対の相補的なRNAを発現するMVAベクターは、マウス細胞においてIFN-βを誘導する
MVAに対するdsRNAの適用可能性の原理を実証するために、neoまたはEGFP遺伝子の何れかの二つの相補的転写物を発現する2対の組換えMVAベクターを構築した。これは、各々がポックスウイルス初期/後期プロモータの制御下にある、MVAゲノム内の互いに離れた部位において、neoまたはEGFP・ORFの2つのコピーを挿入することにより達成された。BAC由来の野生型MVAは、既に、BAC骨格挿入物内にneo/EGFPカセットの一つのコピーを含んでいた(図6A)。neo/EGFPカセットを含むBACカセットは、MVAの特性を変化させず、従って野生型MVAと同等であることが以前に示されている(Meisinger-Henschel et al.(2010),J.Virol.84:9907-9919)。MVA-dsneo-ΔB15は、第二のneo・ORFを、neo/rpsLカセットの一部として、内因性B15Rプロモータに対して逆向きでB15R遺伝子座に含んでいた(図6A)。従って、MVA-dsneo-ΔB15は、上記のCVA-dsneo-ΔB15変異体におけるneo挿入物の配置を正確に再現した。MVA-dsEGFPの構築のために、最初に、neo/EGFPカセットをMVA野生型BAC挿入物から削除した。次いで、組換えMVA-dsEGFPを得るために、EGFP・ORFを、センスまたはアンチセンスのEGFP・RNAの何れかの転写を指示する初期/後期プロモータの制御下にある離れた部位においてMVAゲノムに二度挿入し、720塩基対のdsRNAの形成を可能にした(図6B)。単一のEGFP挿入(MVA-EGFP)からのセンスEGFP転写物のみを発現するMVA構築物は、MVA-dsEGFP構築物の全体のための参照として働いた(図6B)。
【0147】
2つの挿入されたneo抗原(MVA-dsneo-ΔB15)の相補的転写物を生成するMVAに感染したマウスA31細胞は、単一のneoカセットを備えたBAC由来のMVAwtウイルスに比較して、増強されたIFN―β遺伝子転写を示した(図7A)。FRTに基づく組換えにより、MVA-dsneo-ΔB15からセンスneo・ORFを含む全体のBACカセットが削除されたときには、得られたMVA-neo-ΔB15/ΔBACは、野生型レベルのIFN-β・mRNAを誘導したに過ぎなかった(図7A)。B15R遺伝子の欠失(MVA-ΔB15)を有し、且つBAC骨格におけるセンスneoカセットのみを含有するMVAウイルスもまた、野生型IFN-β・mRNAレベルを誘導した(図7A)。このことは、IFN-βを誘導するMVA-dsneo-ΔB15の増強された能力が、センス及びアンチセンスの両方のneo発現カセットの存在に依存しており、B15R削除自体に起因するものではないことを証明した。MVA-dsneo-ΔB15並びにCVA-dsneo-ΔB15は、感染の5時間後に、IFN-β・mRNAを大量に誘導した(図7A)。MVA-dsneo-ΔB15により誘導されたIFN-β・mRNA発現は、感染の5~7時間後に減少したのに対して、CVA-dsneo-ΔB15により誘導されるIFN-β・mRNAレベルは、感染の7時間後でも高いままであった(図7A)。従って、MVA-dsneo-ΔB15により誘発されるIFN-βのレベルは、全ての更なる実験において、感染の5時間後に決定された。MVA-dsneo-ΔB15に感染したA31細胞の培養上清は、MVAwtまたは単一のneoカセットMVA構築物と比較したときに、感染の18時間後には増大した量のIFN-βを含有しており(図7B)、IFN-β・mRNAの解析の結果が確認された。
【0148】
上記の結果は、2つの別々のEGFP挿入物からの相補的な初期転写物の生成を指令する一組のMVA組換え体を用いて再現された。強力な初期プロモータの制御下にある一つのEGFP・ORFは、センスEGFP-mRNAの発現を指令し、またIGR136/137に挿入された。対応する単一挿入のMVA組換えMVA-EGFPは、EGFPを発現し、またマウスA31細胞において、野生型レベルのIFN-β・mRNAを誘導した(図7C)。pSプロモータの制御下にアンチセンスEGFP転写物の初期/後期発現を駆動するIGR86/87の中に挿入された追加のEGFPカセットを含むMVA(Chakrabarti,1997)は、強く増加した量のIFN-β・mRNAを誘導した(図7C)。従って、MVAゲノム中の異種DNA挿入物から誘導された初期dsRNAは、該挿入物の配列とは独立したIFN-βの分泌を刺激した。
【0149】
後者の観察は、タンパク質レベルでのIFN-β誘導の分析によって確認された。MVA-dsneo-ΔB15と同様に、MVA-dsEGFPは、対応するMVA-EGFPよりも有意に高い量のIFN-βの培養上清中への分泌を刺激した(図7D)。様々なMVA組換え体に感染したA31細胞の上清中におけるIFN-βの量は、恐らくは継代数、細胞密度及び細胞の状態の変化により、実験間でかなり変化した。
【0150】
実施例6.初期ウイルス転写は、MVA・dsRNA変異体により増強されたIFN-βレベルを誘導するのに十分である
dsRNAに媒介されたIFN-βの誘導は、感染初期に生成されるdsRNAに主に依存するであろうと仮定された。MVA-dsEGFP-2に感染したマウス胚線維芽細胞(MEF)を、ウイルスゲノムの複製及び結果的には複製後(中間及び後期)の遺伝子発現を阻止するAraCで処理することは、増強されたIFN-β遺伝子発現を低下させず(図8A)、dsRNAの初期転写が増強されたIFN-β誘導のために十分であることを示した。AraCで処理されたMVAwt感染MEFにおける、IFN-βの中程度の増加(図8A)の理由は不明である。dsRNAを認識から隠蔽するdsRNA結合タンパク質をコードするE3L遺伝子が欠失されたMVA変異体は、CEF及び(Hornemann et al.(2003),J.Virol.77:8394-8407)で以前に公表された観察から予測されるように、MEFにおけるIFN-β誘導をある程度増強した。AraCでMVA-ΔE3L感染細胞を処理することは、明らかに、IFN-β誘導を減少させた(図8A)。ウイルスdsRNAのかなりの量が、感染後~2時間以降から、ポックスウイルスのライフサイクルの複製後の段階でのみ自然に生成されるので、これは予測されたことである。この概念に一致して、AraC処理されたMVA-E3Lは、後期遺伝子発現がAraC処理によってブロックされたときには、wtMVAよりも多くのIFN-β・mRNAを誘導しなかった(図8A)。
【0151】
後期プロモータpSSL(MVA-dsEGFP-後期)の制御化にあるアンチセンスEGFP転写物を発現するMVA変異体は、MVAwtと同様のIFN-β・mRNAのレベルを誘導した(図8B)。このことは、DNA複製開始前の感染初期におけるdsRNAの形成が、MVA-dsEGFPのIFN誘導剤表現型の前提条件であり、またMVA-dsneo-ΔB15についてもその可能性が高いことの更なる証拠を提供する。従って、MVAによるdsRNAの初期発現は、感染細胞においてIFN-βを誘導するのに必要かつ十分である。この同じ原理が、CVA-dsneo-ΔΒΙ5の増大した自然免疫刺激能力の根底にある可能性が非常に高い。
【0152】
実施例7.MVA-dsneo-ΔB15及びMVA-dsEGFPは、プロテインキナーゼR(PKR)を活性化する。
PKRは、不活性なキナーゼとして、細胞内において中程度のレベルで構成的に合成され、dsRNAに結合することによって活性化される。PKRの発現は、I型IFNによってアップレギュレートされる。活性化されたPKRの1つの主要な基質は、PKRによってリン酸化される翻訳開始因子サブユニットelF2αである。感染時におけるelF2αのリン酸化(P-elF2α)は、抗ウイルス対策として、感染細胞における翻訳不全を導くと共に、PKRに媒介されたアポトーシス誘導に関与している可能性がある。elF2αのリン酸化は、マウスA31細胞において、dsRNAによるPKRの活性化の指標として分析された。ワクシニアウイルスPKR阻害剤E3(これはdsRNAに結合してこれを隔離する)の遺伝子を欠失したMVA変異体(MVA-ΔE3L)を、正の対照として用いた。MVA-dsneo-ΔB15及びMVA-dsEGFPは、A31細胞の感染後1時間と早期にPKRを活性化したのに対して、MVAwtは感染の全体を通してPKRを検出可能な程度に活性化しなかった(図9)。P-elF2αの量は、neo及びEGFPベースの初期dsRNA産生変異体の両方に感染した細胞中においては、感染後4時間まで更に増加した(図9)。感染後6時間において、MVA-dsneo-ΔB15及びMVA-dsEGFP感染細胞におけるP-elF2αの量は減少し始め、MVA-dsneo-ΔB15については感染後8時間の時点でP-elF2αは殆ど検出不能であったのに対して、MVA-dsEGFP感染細胞では、この時点で未だ弱く検出可能であった(図9)。加えて、MVA-dsneo-ΔB15感染細胞に比較して、MVA-dsEGFP感染細胞については、P-elF2α信号は感染の最初の6時間に亘って一貫して強く(図9)、MVA-dsneo-ΔB15と比較して、MVA-dsEGFPのやや強いPKR活性化作用を示唆した。
【0153】
この初期dsRNA産生変異体とは対照的に、MVA-ΔE3Lによって誘発されたP-elF2α信号は、感染後2時間までは検出不能であり、また感染後2時間~3時間の間に非常に急激に増加し、感染後8時間までの残りの観察期間は高いままであった(図9)。MVA-ΔE3Lは、感染後4時間以降から、全ての変異体の最も強いP-elF2α信号を誘導した(図9)。これらの動力学は、dsRNAが、中間及び後期ウイルス遺伝子からの部分的に相補的な転写物のアニールにより、MVA感染の際の感染後期に形成されることと一致している。E3不足のために、この後期dsRNAにより誘導されるPKR活性化は阻止されなかった。これとは対照的に、neo-またはEGFP-dsRNAを生成するMVA組換え体によるPKRの活性化の動力学は、感染細胞における非常に初期の刺激量のdsRNAの存在と一致している。これらの組換え体はE3タンパク質を発現するので、十分なE3タンパク質が感染細胞内に蓄積したときには、PKR活性化は感染の後期にダウンレギュレートされると思われる。
【0154】
実施例8.PKRは、増強されたIFN-β・mRNAの誘導及び細胞上清中のIFN-βの蓄積のために必要とされる。
wtMEFにおいて、MVA-EGFPは、予想されたようにwtMVAと同様に、非常に類似した量のIFN-β転写物を誘導したのに対して、MVA-dsEGFPは増強されたIFN-β・mRNA合成を誘導した(図10A)。これとは対照的に、MVA-dsEGFPは、PKR欠損したMEFにおいて増強されたIFN-β遺伝子発現を誘導しなかった(図10A)。MVA-dsEGFPに感染したMEFによるIFN-βタンパク質の分泌は、同様に、機能的PKRに強く依存した(図10B)。センダイウイルス(SeV)、即ち、PKR非依存性経路を介してIFN-βを誘導することが知られているマイナス鎖RNAウイルスは、IFN-βを分泌するPKR欠損MEFの能力についての陽性対照として用いられた。興味深いことに、wtMEFは、センダイウイルスの感染に応答して、ごく僅かな量のIFN-βのみを分泌したのに対して、SevはIFN-β・mRNA及びタンパク質をPKR0/0MEFにおいて効率的に誘導し、PKT0/0MEFはIFN-βを生成し且つ分泌する完全な能力を有することが確認された(図10A及びB)。総合すると、PKRは、MVA-dsEGFPによるIFN-βの誘導増強に関与する重要な細胞センサであるように思われた。wtMEFにおける、MVA及びMVA-EGFP(wtMVAに対応)によるIFN-β遺伝子の誘導はPKRにも部分的に依存し(図10A)、少なくともMEFにおいて、MVAによる自然免疫活性化のための該dsRNAセンサの一般的役割を示唆した。総合すると、MVA-dsEGFPによるIFN-βの誘導増大は、dsRNAセンサーPKRに完全に依存しており、このことは、MVA-dsEGFPによって生成されるdsRNAが、自然免疫活性化において観察された増加の原因であるとの更なる証拠を提供した。
【0155】
実施例9.初期dsRNAの刺激効果についての長さ要件
最初のMVA-dsEGFP構築物は、アンチセンスEGFP転写物の3’末端において、細菌のβ-ガラクトシダーゼ(β-gal)遺伝子由来の非相補的オーバーハングを含む、MVA-dsneo-ΔB15構築物を模倣するように設計された。増強されたIFN-β誘導のためのdsRNAの長さ要件を更に特徴付けるために、720~50bpの間の次第に短くしたEGFP・ORF重なりを有する変異体のネストされた組が構築された(図6B)。MVA-dsEGFP-2及び他のすべてのdsEGFP変異体は、アンチセンス転写物において余分な3’オーバーハングを欠いていた(図6B)。wt-MEFにおいて、EGFP重なり長さが減少する相補的EGFP転写物を発現するMVAは、減少する量のIFN-β・mRNA及びタンパク質を誘導した(図11A及びB)wtMEFにおいて、β-galの由来の3’オーバーハングは、IFN-β増強効果のために必須ではなかった(図11A)。100塩基のEGFP転写物の重なり(MVA-dsEGFP-5)は、MVA-dsEGFPより明らかに少なくIFN-βを刺激したが、参照MVA-EGFPと比較すると、やはりIFN-β応答を増強した(図11A及びB)。ここでも再度、PKR0/0MEFにおいては、IFN-β・mRNA及びIFN-βは種々のMVA組換え体によって誘導されなかった(図11A及びB)。50bpのEGFP挿入体重なりを有する組換えMVAは、検出可能な過剰なIFN-β刺激能力を有していなかった。
【0156】
このように、50~100bpの2つの相補的組換え転写物の最小重なりは、MEFにおける増大したIFN-β誘導のために必要であった(図11C)。
【0157】
実施例10.MVA-dsEGFP複製特性及び誘導因子表現型の安定性
バルク精製MVA-dsEGFP調製物を得るための、二次ニワトリ胚繊維芽細胞(CEF)におけるMVA-dsEGFPの増殖は、MVAwtの範囲内での正常なウイルス収量を明らかにした(データは示さず)。多段階増殖の分析により、MVA-dsEGFPは、ヒト及びマウスの細胞(図12B)における複製制限された表現型を保持したが、MVAwtのようにCEFにおいてはわずかに低い効率で複製されることが示された(図12A)。この僅かに損なわれた複製は、CEF細胞から得たMVA-dsEGFPのウイルス株の平均収率がMVA-EGFPの収率に関連しているときにも観察された。MVA-dsEGFP/MVA-EGFPの収率の比率は約0.5であったが(表1)、MVA-EGFPの収率をMVA-5及びMVA-6のものと比較したときには、約0.1へと更に低下した(表1)。MVA-dsEGFP-5及び-6は、僅かに多くのIFN-を誘導しただけなので、ウイルス複製に対する効果は、おそらく可溶性I型IFNを介しては媒介されなかった。ニワトリDF-1細胞をウイルス株の産生のために用いたときは、短いEGFP-dsRNAが発現された場合の収率低下の傾向は存在しなかった(表1)。従って、DF-1細胞は、初期dsRNAを過剰生産するMVA変異体の増殖のために、CEF細胞よりも適した細胞型を表す。
【0158】
MVA-dsEGFPの増強されたIFN-β刺激能力が反復継代させた後にも保存されるかどうかを評価するために、我々は約0.01の低い多重感染(MOI)を用いて、インターフェロン能を有するニワトリ細胞株DF-1において、MVA-EGFP及びMVA-dsEGFPの10継代を行った。DF-1細胞上で10継代されたMVA-dsEGFPは、DF-1細胞で一度だけ継代された開始MVA-dsEGFPウイルスに匹敵する増強されたIFN-β応答を誘導した(図12C)。MVA-EGFPの基礎的なIFN-β誘導性は、DF-1での10継代後にも変化しなかった(図12C)。このように、MVA-dsEGFPの増強されたインターフェロン刺激能は、DF-1細胞内での複数の継代後にも維持された。MVAも、またMVA-dsEGFPまたはMVA-dsneo-ΔB15も、DF-1細胞またはCEF細胞においてIFN-β遺伝子の発現を誘導しなかった(データは示さず)。このことは、DF-1細胞中では強い反選択圧が働かず、MVA-dsEGFP複製の際に増強されたI型IFN誘導を再制限するとの見解を指示し、IFN-β誘導因子表現型の観察された安定性のための議論を提供した。MVA-dsEGFP変異体の損なわれない収率と総合して考察すると、DF-1細胞はCEF細胞よりも、初期dsRNAを過剰発現するMVA変異体の増殖のために更に適した細胞型を表す。
【0159】
実施例11.インビボにおける増大されたサイトカインの誘導
MVA-dsEGFPでのC57BL/6マウスの感染に応答した全身のサイトカインレベルが、感染の6時間後に分析された。MVA-dsEGFP感染後の血中のIFN-αのレベルは、インビトロでの観察(図9及び10)と同様に、対照群よりも有意に高かった(図13A)。IFN-γ、炎症性サイトカインIL-18及びIL-6、並びにケモカインCXCL1、CCL2、及びCCL5のレベルもまた、MVA-dsEGFP感染マウスにおいて有意に増加した。この応答は、dsRNA認識受容体RIG-I及びMDA-5を介したI型IFN及びサイトカイン誘導のために必要とされる、シグナル伝達アダプター分子IPS-1の存在に少なくとも部分的に依存した(図13)。これとは対照的に、IFN-α、IFN-γ、IL-6、IL-18、CXCL1、CCL2及びCCL5を含むサイトカイン及びケモカインの誘導においては、全ての観察された増加がPKRに依存していた。MVA-EGFPによるIFN-α、CXCL1及びCCL2の基礎誘導は、PKR欠乏によって強く影響はされなかったのに対して、IFN-γ、IL-6、IL-18及びCCL5の基礎レベルは、PKR欠損マウスで減少しているように見えた(図13)。これらの結果は、MVAによる初期dsRNA産生は、培養細胞においてだけでなく、インビボでも培養細胞におけるような同様の類似したパターン認識分子の活性化に基づいて、I型IFN応答並びに炎症性サイトカイン誘導を増強したことを示している。PKR、並びにIPS-1を介してシグナル伝達する認識受容体は、インビボでのMVA-dsEGFPによる増強されたI型IFN発現の媒介に関与していた。
【0160】
実施例13.マウスにおいてMVA-dsEGFPにより増強されたCD8T細胞応答
C57BL/6マウスをMVA-dsEGFPを用いて異なる経路で免疫感作し、核株のバックグラウンドにおける免疫優性エピトープに対するCD8T細胞応答を、デキストラマー(dextramer)染色を用いて測定した。ワクシニアウイルスの免疫優性なB8Rエピトープに向けられた、C57BL/6マウスの脾臓におけるCD8T細胞の数は、MVA-EGFPに比較して、MVA-dsEGFPでの静脈内免疫感作の7日後には有意に増加した(図14)(対応のないスチューデント両側t検定によるp=0.048)。
【0161】
実施例14.ヒト細胞においてMVA-dsEGFPにより増強されたIFN-β遺伝子誘導
組換えMVAによって生成された初期dsRNAの刺激効果は、マウス細胞に限定されるものではないことを実証するために、ヒト二倍体肺線維芽細胞株MRC-5の培養物を、初期dsRNAを生成するMVA組換え体で感染させた。MVA-EGFPによる基底IFN-β遺伝子の誘導は、ヒトMRC-5細胞においては時々検出不能であった(図15、データは示さず)のに対して、MVA-dsneo-ΔB15及びMVA-dsEGFPは、ヒトMRC-5細胞においてIFN-β・mRNAの発現を効率的に誘導した(図15)。IFN-β遺伝子の誘導の効率は、マウス細胞を用いて得られた結果と類似して、EGFP・ORF重なりが次第に短くなると共に減少した(図15)。EGFP・ORFの重複を300及び100ntに短縮することは、それぞれの組換え体MVA-dsEGFP-4及びMVA-dsEGFP-5のIFN-β刺激活性を激しく減少させた(図15)。従って、MVAでの感染初期に生成されたdsRNAによる増強されたIFN-β誘導は、マウス細胞に限定されず、少なくともヒト細胞においても顕著であり、従って、相補的なRNA転写物を発現する組換えポックスウイルスをワクチン接種した初代のヒト細胞及び組織、並びにヒト被験対象においても起きる可能性が非常に高い。
【0162】
実施例15.天然MVA遺伝子から初期dsRNAを生成するMVA-dsE3Lよる、増強されたIFN-β誘導
我々は、アンチセンスE3L RNAの早期発現を指令するMVAの天然初期E3L・ORFの下流に、強力な初期成分を有する初期/後期H5mプロモータを挿入した(Wyatt et al.(1996),Vaccine 14:1451-1458)(図16A)。該E3L・ORFは、オルトポックスウイルス初期転写終結シグナル(ETTS)のTNTコンセンサス配列を含んだアンチセンス鎖の中に、ホモポリマーTストレッチを含んでいる。E3L・ORF中のこのアンチセンスETTSは、恐らく、初期アンチセンス転写物の長さを、完全なE3L転写物の完全な~650ヌクレオチドの代わりに約250~300ヌクレオチドに限定するであろう。従って、我々は、E3のコードされたアミノ酸配列を変更することなく、T残基をAに交換することによって、このETTSを変異させた(図16A)。初期の完全長アンチセンスE3転写物の終結に適したアンチセンスETTS配列は、E3L/E4L遺伝子間領域中に天然に存在していた(図16A)。
【0163】
得られた変異MVA-dsE3LはMEFにおいて高レベルのIFN-β・mRNAを誘発したが(図16B)、これは利用可能な最善のdsRNAベースの誘導因子、即ち、陽性対照としてのトランスフェクトされたポリ(I:C)のものに匹敵した(データは示さず)。MVA-dsE3Lは、MVA-dsEGFPよりも明らかに高いIFN-β・mRNAレベルを誘導するように見えた(図16B)。MVA-dsEGFP-5及びMVA-dsEGFP-後期は、参照ウイルスMVA-EGFPと共に、IFN-β・mRNA誘導のための陰性対照として用いた(図16B)。従って、MVAベクターからの初期dsRNAの生成はまた、二つの部分的にまたは完全に同一な異種配列を挿入する代わりに、天然の初期MVA遺伝子から早期に発現されたアンチセンス転写物の発生によっても達成することができる。
【0164】
実施例16.EGFP・dsRNA形成
MVA-dsEGFP-720(o)感染細胞において、EGFP遺伝子のセンス及びアンチセンス転写物からのdsRNAの形成を実証するために、我々はTrizol(登録商標)法を用いて、AraC処理された(40μg/mL)BALB/3T3-A31細胞のウイルス当たり二つの6ウエルから全RNAを単離し、組み合わせた。DNaseで処理された全RNAサンプルを、一本鎖特異的リボヌクレアーゼA及びT1(Ambion社)を用いて、またはRNaseA/T1プラスdsRNA特異的リボヌクレアーゼV1(Ambion社)を用いて、20μLの総容量で37℃において1時間消化した。消化されたRNAサンプル及び未処理の対照試料(未消化)を、RNA Clean&Concentratorキット(Zymo Research,Freiburg,Germany)を用いて精製し、95℃で3分間変性させた。市販のEGFP・TaqMan(登録商標)アッセイ(Mr04329676_mr,Life Technologies)を用い、上記のようにして逆転写及び定量的PCRを行った。未消化のRNAサンプルの二重のqPCR反応から、モックに対するEGFP・RNA誘導倍率の平均値を計算し、100%に設定した。残りのEGFP・RNAのパーセンテージを、MVA-EGFP及びMVA-dsEGFP-720(o)感染細胞から得られた、A/T1及びA/T1/V1消化後のEGFP・RNA誘導倍率値を用いて算出した。
【0165】
実施例17.細胞及びウイルス
IFNAR0/0及びIPS-10/0マウス胚線維芽細胞(MEF)は、標準的な手順により、15日齢のC57BL/6-IFNAR0/0及び14日齢のC57BL/6-IPS-10/0胚から、並びにPKR0/0MEF及び対応するPKRが十分な対照MEFから調製された。全ての細胞株は、10%ウシ胎児血清(FCS,Pan Biotech,Aidenbach,Germany)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco/lnvitrogen,Darmstadt,Germany)において培養された。初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)は、11日齢の発育鶏卵から調製し、ウイルスストックの産生のためにはVP-SFM(Gibco)中で、また複製分析のためには10%FCSを補充したDMEM中で培養した。GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)依存性の樹状細胞(GM-DC)は、組換えマウスGM-CSF(tebu-bio,Offenbach,Germany)を用いて培養することにより、新たに調製したマウス骨髄から生成された。
【0166】
MVA野生型(MVA)及びMVA変異体は、文献に記載のTCID50法(45:Meisinger-Hentschel et al.,2007.J Gen Virol.84:3249-3259)を使用して、二次CEFまたはDF-1細胞上で増殖され、CEF細胞で滴定した。CVA野生型(CVA)及びCVA変異体はVero細胞上で増殖され、TCID50法によりCV-1細胞上で滴定された。ショープ線維腫ウイルスをATCC(VR-364)から入手し、ウサギ角膜SIRC細胞で増殖し、滴定した。センダイウイルス株Cantellは、2000HA単位/mLでチャールズ・リバー・ラボラトリーズから入手した。動物実験で使用されるすべてのウイルスは、36%蔗糖クッションを通して2回精製された。
【0167】
実施例18.BAC組換え及び感染性ウイルスの再活性化
CVA及びMVA-BACの構築は、以前に記載されている(Lee and Esteban,1994.Virology 199:491-496)。センス及びアンチセンスEGFP・mRNA及び対応する全ての対照を発現するMVA組換え体を生成するために、これらの構築物のBAC骨格中のneo-IRES-EGFPカセットを、細菌のテトラサイクリン耐性カセットで置換した。該MVA-EGFP組換え体は、強力な初期/後期pHybプロモータの制御下にあるEGFP・ORFの下流に、細菌のカナマイシン耐性カセット(NPT I)を含んでいた。MVA-ΔE3Lは、大腸菌における相同組換えにより、NPT Iカナマイシン耐性カセットでヌクレオチド42697~43269(ORF・MVA050L)を置き換えることにより得られた。
【0168】
感染性ウイルスの再活性化のために、Fugene(登録商標)HD(Promega,Mannheim,Germany)を用いて、106 BHK-21細胞に3μgのBAC DNA形質導入し、その60分後にショープ線維腫ウイルスに感染させて必要とされるヘルパー機能を与えた。再活性化されたウイルスが単離され、以前に記載したようにしてヘルパーウイルスが取り出された(Meisinger-Henschel et al.(2007),J. Gen.Virol.88:3249-3259)。
【0169】
実施例19.マウスの感染実験
マウス当たり50μLの最終容積までPBS中で希釈した2×10、1×10、及び5×10TCID50のCVA及びCVA変異体でマウスを鼻腔内感染させる前に、該マウスをケタミン/キシラジン注射により麻酔した。動物を2週間毎日秤量して検査し、病気の兆候について0~4の任意の尺度で採点した。全身のサイトカインレベルを分析するために、マウスに、200μLのそれぞれのウイルス希釈物を静脈注射し、尾静脈から6時間後に採血した。
【0170】
実施例20.サイトメトリービーズアッセイによる全身サイトカインレベルの分析
静脈内感染の6時間後に抜き取ったマウス血清中のサイトカイン濃度を、製造業者の指示に従い、指示されたマウスサイトカインについて、ビーズに基づくFlowCytomix検査(eBioscience,Frankfurt,Germany)によって決定した。治療群間の統計的有意差は、非パラメトリックなマンホイットニーU検定を用いて解析された。全体的な有意水準(0.05)は、群の数(例えば、B6129SF2/Jマウスにおいて試験された11のサイトカイン及びケモカイン)で除算することにより、ボンフェローニ補正された。即ち、全体のボンフェローニ補正レベルは、B6129SF/2治療群の間での比較のために、0.05/11=0.00455に設定された。
【0171】
本発明の他の実施形態は、明細書及びここに開示された本発明の実施を考慮することにより、当業者には明らかであろう。本明細書及び実施例は単なる例示とみなされるべきものであり、本発明の真の範囲及び精神は以下の特許請求の範囲によって示されるものである。
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【配列表】
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