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特許7050050ニトロ化スチレンフルオロポリマーの製造方法
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  • 特許-ニトロ化スチレンフルオロポリマーの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】ニトロ化スチレンフルオロポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/30 20060101AFI20220331BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
C08F8/30
G02B5/30
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019507751
(86)(22)【出願日】2017-08-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-10
(86)【国際出願番号】 US2017046548
(87)【国際公開番号】W WO2018031909
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-08-06
(31)【優先権主張番号】62/374,247
(32)【優先日】2016-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/374,242
(32)【優先日】2016-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513071182
【氏名又は名称】アクロン ポリマー システムズ,インク.
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】特許業務法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】フー、ラン
(72)【発明者】
【氏名】デン、リウ
(72)【発明者】
【氏名】リー、ウェンタオ
(72)【発明者】
【氏名】シャーペ、ロバート
(72)【発明者】
【氏名】チェルヴォ、エドゥアルド
(72)【発明者】
【氏名】クオ、サウミン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ビン
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス、アラン
(72)【発明者】
【氏名】ツェン、シャオリアン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ペイヤオ
(72)【発明者】
【氏名】ツァン、ドン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ゲルムロス、テッド
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03573253(US,A)
【文献】米国特許第07737308(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F6/00-246/00;301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン環上ニトロ基の平均置換度(DS)が0.2~1の範囲にあるニトロ化スチレンフルオロポリマーの製造方法であって、
i.以下のスチレン単位を有するスチレンフルオロポリマーを提供する工程と、
【化1】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R、R及びRのうち少なくとも1つはフッ素原子であり、Rは水素またはスチレン環上の置換基である)
ii.前記スチレンフルオロポリマーを有機溶媒と任意に混合する工程と、
iii.(i)又は(ii)の前記スチレンフルオロポリマーを、スチレン単位当たり0.2~5モルの量の硝酸とスチレン単位当たり1~20モルの量の硫酸の組合せと混合する工程と、
iv.(iii)の前記混合物を一定期間反応させることにより、ニトロ基の平均DSが0.2~1であるニトロ化スチレンフルオロポリマーを得る工程とを含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
カルボン酸を前記反応させた混合物に添加して、前記反応終了後に、前記ニトロ化スチレンフルオロポリマー生成物を沈殿させる工程をさらに含む、方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記カルボン酸は、プロピオン酸、酢酸及びギ酸からなる群から選択される1つ以上である、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)である、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、
前記スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)であり、硝酸の量は、スチレン単位当たり0.2モル~3.5モルであり、硫酸対硝酸のモル比は2:1~3.5:1である、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)であり、硝酸の量は、スチレン単位当たり0.2モル~0.5モルであり、前記ニトロ化スチレンフルオロポリマーの前記DSは、0.2~0.5である、方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、
前記スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)であり、硝酸の量は、スチレン単位当たり0.51モル~2.5モルであり、前記ニトロ化スチレンフルオロポリマーの前記DSは、0.5~0.8である、方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、
前記スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)であり、硝酸の量は、スチレン単位当たり2.51モル~3.5モルであり、前記ニトロ化スチレンフルオロポリマーの前記DSは、0.8~0.9である、方法。
【請求項9】
請求項6~8のいずれかに記載の方法であって、
硫酸対硝酸のモル比は、2:1~2.5:1である、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、
前記得られたニトロ化スチレンフルオロポリマーのポリマー溶液(メチルエチルケトン中15重量%)のヘーズ値は、10mの経路長のセルを用いて測定したとき、3%未満である、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、
前記反応は、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン又はこれらの混合物中で実施される、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、
前記反応は、有機溶媒が存在しない状態で実施される、方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、
前記反応は、4時間~8時間にわたって50℃~60℃で実施される、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、
前記硝酸及び前記硫酸は、前記スチレンフルオロポリマーと混合される前に予備混合される、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記予備混合された硝酸および硫酸は、30分~3時間にわたって前記スチレンフルオロポリマーに添加され混合される、方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願を相互参照
本出願は、2016年8月12日出願の米国仮出願第62/374,242号及び2016年8月12日出願の米国仮出願第62/374、247号の優先権及び利益を主張するものであり、内容を参照することにより組み込まれる。
【0002】
本発明は、様々な置換度を有するニトロ化スチレンフルオロポリマーを製造する方法に関する。より具体的には、本発明は、0.02から0.036の範囲の非常に高い複屈折を提供することができる様々なニトロ化度を有するニトロ化スチレンフルオロポリマーの製造に関する。さらに、光学補償フィルム用途の要件を満たすために、スチレン環上のニトロ基の置換度(DS)を変化させることにより複屈折を調整することができる。より詳細には、本発明の光学補償フィルムは、面内スイッチングLCD(IPS-LCD)及びOLED表示装置で使用するためのものである。
【背景技術】
【0003】
特許文献1には、400nm<λ<800nmの波長範囲にわたって0.002より大きいポジティブ面外複屈折を有し、以下の基を有するポリマー溶液から基材にキャストされたポリマーフィルム(ポジティブCプレート)が開示されている。
【化1】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、OASUは円盤状の基又はメソゲンで、単一の共有結合を介してポリマー主鎖に結合している)
【0004】
円盤状OASUを有する最も一般的なポリマーはポリスチレンであり、その溶液キャストフィルムは、概して、0.001~0.002の複屈折を有する。特許文献1には、ベンゼン環にブロモ基又はニトロ基等の複屈折増強置換基(BES)を組み込むことにより、ポリスチレンの複屈折を増大させることができることが開示されている。例えば、ポリ(ニトロスチレン))は、約0.016という高い複屈折を有し、ポリ(ブロモスチレン)は、約0.007という高い複屈折を有するとされている。
【0005】
さらに、特許文献2には、ポリスチレン分子の主鎖にフッ素原子を導入することにより、ポリスチレンフィルムの複屈折を大幅に増加させることができることが開示されている。このようなポリマーフィルムの複屈折は、約0.015~0.02と高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第8,304,079号明細書
【文献】米国特許第8,802,238号明細書
【文献】米国特許第9,096,719号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スチレンポリマーフィルムの複屈折を増大させることにおいては、多くが達成されてきたものの、当該技術分野においては、さらに高い複屈折が尚求められている。例えば、OLED表示技術に基づくモバイル装置は、LCD表示技術に基づくものをはるかに上回る。OLEDデバイスにおいては、1/4波長板(QWP)と組み合わせた偏光子を用いて、視野品質を向上させるための周囲光を低減している。OLED構成で使用されるQWPは、IPS-LCD構成で使用されるAプレートよりも補償に必要な面外の位相差が高いことが多い。このように、画像品質を最良のものとするために、OLED構成で使用されるQWPを補償する、極めて高い面外複屈折を有するポジティブCプレートが求められている。0.02より大きい複屈折を有するポリマーフィルムが、特許文献3に開示されている。しかしながら、このようなポリマーフィルムは、複雑な合成スキームを必要とするため、工業的用途において費用効果がない。スチレンポリマーに基づく光学補償フィルムは、製造の容易さ及び費用効果の点で、特に望ましい。したがって、0.02より大きい複屈折を有するスチレン重合体は、この要望を満たすための理想的な解決策として認識されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、スチレン環上のニトロ基が約0.2~約1の範囲の平均置換度(DS)を有するニトロ化スチレンフルオロポリマーの製造方法を提供するものであり、
i.以下のスチレン単位を有するスチレンフルオロポリマーを提供する工程と、
【化2】
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R、R及びRのうち少なくとも1つはフッ素原子であり、Rは水素またはスチレン環上の置換基である)
ii.スチレンフルオロポリマーを有機溶媒と任意に混合する工程と、
iii.(i)又は(i)のスチレンフルオロポリマーを、スチレン単位当たり約0.2~約5モルの量の硝酸とスチレン単位当たりの約1~約20モルの量の硫酸の組合せと混合する工程と、
iv.(iii)の混合物を一定期間反応させることにより、ニトロ基の約0.2~約1の平均DSを有するニトロ化スチレンフルオロポリマーを得る工程とを含む。
【0009】
本方法のある実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)であり、硝酸の量は、スチレン単位当たり約0.2モル~約3.5モルであり、硫酸対硝酸のモル比は約2:1~約3.5:1である。
【0010】
他の実施形態において、本方法は、カルボン酸を反応混合物に添加して、反応終了後に、ニトロ化スチレンフルオロポリマー生成物を沈殿させる工程をさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)フィルムの面外複屈折対置換度(DS)のグラフである。
図2】ニトロ化PTFSフィルムの屈折率対DSのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
当該技術分野で公知の通り、溶液キャストにより製造されたポリマーフィルムの複屈折は、ポリマーの固有複屈折及びフィルムキャストの際のオーダーパラメーターに応じて異なる。固有複屈折は、ポリマーの固有複屈折はポリマーの化学構造に依存し、オーダーパラメーターは、フィルム形成中の分子配向に依存する。固有複屈折及びオーダーパラメーターは両方共、スチレンポリマーの骨格上の置換基及びフェニル環上の置換基に影響を受ける可能性がある。これらの置換基は相互作用して、ポリマーフィルムの複屈折を強化又は低減することができる。面外複屈折が0.02より大きいスチレン重合体が尚、必要とされている。
【0013】
様々なニトロ化度を有するニトロ化スチレンフルオロポリマーから製造されたポリマーフィルムは、0.02~0.036の範囲の非常に高い複屈折を提供することができることが判明した。さらに、複屈折は、光学補償フィルム用途の要件を満たすために、スチレン環上のニトロ基の置換度(DS)を変化させることにより複屈折を調整することができる。例えば、携帯電話デバイスでは、厚みを薄くするために極薄のフィルムが望ましく、適切な補償のために極めて高い複屈折を有する補償フィルムを必要とする。逆に、いくつかの光学的構成では、極めて高い複屈折は必要とされない。このように、様々な用途のために広範囲の複屈折を有する光学フィルムを提供するために、容易に調整できるプロセスがあると有利である。
【0014】
このように、本発明は、スチレン環上の約0.2~約1の範囲のニトロ基の平均置換度(DS)を有するニトロ化スチレンフルオロポリマーの製造方法を提供するものであり、
i.以下のスチレン単位を有するスチレンフルオロポリマーを提供する工程と、
【化3】

(式中、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R、R及びRのうち少なくとも1つはフッ素原子であり、Rは水素またはスチレン環上の置換基である)
ii.スチレンフルオロポリマーを有機溶媒と任意に混合する工程と、
iii.(i)又は(i)のスチレンフルオロポリマーを、スチレン単位当たり約0.2~約5モルの量の硝酸とスチレン単位当たりの約1~約20モルの量の硫酸の組合せと混合する工程と、
iv.(iii)の混合物を一定期間反応させることにより、約0.2~約1のニトロ基の平均DSを有するニトロ化スチレンフルオロポリマーを得る工程とを含む。
【0015】
一態様において、スチレン単位のR、R及びRのうち少なくとも2つはフッ素原子である。他の態様において、スチレン単位のR、R及びRは全てフッ素原子である。
【0016】
スチレンフルオロポリマー(i)は、ホモポリマー又はコポリマーであってもよい。下記の構造を有する含フッ素モノマーの重合により、ホモポリマーを製造することができる。
【化4】

式中、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、置換アルキル基又はハロゲンであり、R、R及びRのうち少なくとも1つはフッ素原子であり、Rは水素又はスチレン環上の置換基である。スチレン環上の置換基Rとしては、アルキル、置換アルキル、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシル、アルコキシ、アミノ、スルホネート、フォスフェート、アシル、アシルオキシ、フェニル、アルコキシカルボニル、シアノ等が挙げられる。
【0017】
このような含フッ素モノマーとしては、限定されるものではないが、α,β,β-トリフルオロスチレン、α,β-ジフルオロスチレン、β,β-ジフルオロスチレン、α-フルオロスチレン及びβ-フルオロスチレンが挙げられる。
【0018】
一実施形態において、スチレンフルオロポリマーはホモポリマーである。例示のホモポリマーとしては、限定されるものではないが、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)、ポリ(α,β-ジフルオロスチレン)、ポリ(β,β-ジフルオロスチレン)、ポリ(α-フルオロスチレン)及びポリ(β-フルオロスチレン)が挙げられる。一実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)である。
【0019】
コポリマーは、1つ以上の含フッ素モノマーを1つ以上のエチレン性不飽和モノマーと共重合させることにより製造することができる。エチレン性不飽和モノマーの例としては、これらに限定されるものではないが、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、イソプレン、アクリル酸オクチル、メタクリル酸オクチル、アクリル酸イソ-オクチル、メタクリル酸イソ-オクチル、トリメチロールプロピルトリアクリレート、スチレン、α-メチルスチレン、ニトロスチレン、ブロモスチレン、ヨードスチレン、シアノスチレン、クロロスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-メチルスチレン、ビニルビフェニル、ビニルトリフェニル、ビニルトルエン、クロロメチルスチレン、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸、テトラフルオロエチレン(その他のフルオロエチレン)、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸カルボジイミド、C1-C18アルキルクロトネート、マレイン酸ジ-n-ブチル、マレイン酸ジ-オクチル、マレイン酸アリル、マレイン酸ジ-アリル、マロン酸ジ-アリル、メチルオキシブテニルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ヒドロキシブテニルメタクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルアクリレート、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、エチレンカーボネート、エポキシブテン、3,4-ジヒドロキシブテン、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メタクリルアミド、アクリルアミド、ブチルアクリルアミド、エチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ブタジエン、ビニルエステルモノマー、ビニル(メタ)アクリレート、イソプロペニル(メタ)アクリレート、脂環式エポキシ(メタ)アクリレート、エチルホルムアミド、4-ビニル-1,3-ジオキソラン-2-オン、2,2-ジメチル-4ビニル-1,3-ジオキソラン、3,4-ジ-アセトキシ-1-ブテン、モノビニルアジペート、t-ブチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、2-t-ブチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、N-(2-メタクリロイルオキシ-エチル)エチレン尿素及びメタクリルアミドエチルエチレン尿素が例示される。さらなるモノマーは、The Branson Associates、第2版、1992、ニューハンプシャー州、マリメック及びPolymers and Monomers、1996~1997カタログ、Polysciences,Inc.,アメリカ合衆国、ペンシルベニア州、ワーリントンを参照されたい。
【0020】
一実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、α,β,β-トリフルオロスチレンと、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸、メタクリル酸、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、ビニルビフェニル、アクリロニトリル及びイソプレンからなる群から選択される1つ以上のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーである。
【0021】
重合は、バルク、溶液、乳化又は懸濁重合のような当該技術分野で公知の方法によって行うことができる。反応は、遊離基、カチオン性、アニオン性、双性イオン性、Ziegler-Natta又は原子移動ラジカル型の重合であってよい。乳化重合は、特に高分子量が望ましい場合の重合方法である。高分子量ポリマーは、より良好なフィルム品質及びより高いポジティブ複屈折をもたらすことができる。モノフルオロ-、ジフルオロ-及びトリフルオロスチレンのホモポリマー及びコポリマーの調製方法は、その内容が本明細書中において参考として援用される、Progress in Polymer Science、第29冊(2004)、75-106頁、Elsevier Ltd.,アメリカ合衆国ミズーリ州にある。
【0022】
本発明は、硝酸と硫酸の組み合わせを使用して、ニトロ化スチレンフルオロポリマーを製造する方法を開示している。本方法は、一般に、ニトロ化として知られており、ニトロ基がスチレン環に置換されている。環上に置換基を有するスチレンフルオロポリマーもまた、環上に既に置換基を有するスチレンモノマー、例えば、3-ニトロ-α,β,β-トリフルオロスチレンを重合することによって調製することができる。それにもかかわらず、ニトロ置換スチレンモノマーの製造は、最初にビニル基でニトロ化が起こるので、容易に実現可能ではない。環上のニトロ化は、ビニル基を保護及び脱保護することによって可能であるが、これは複雑な合成スキームを含み、コスト的に効果的ではない。
【0023】
ニトロ化スチレンフルオロポリマーは、ニトロモノマーから容易に調製できないため、スチレン環上のニトロ基の置換度(DS)を制御することでこれに対処している。本発明は、所望のDS、例えば、約0.2~約1の平均DSまで、ニトロ化を制御する方法を提供するものである。
【0024】
本発明者らは、粉末スチレンフルオロポリマーのニトロ化方法を、有機溶媒を用いずに行えることを意外にも見出した。これは、分離、回収及び廃棄等の反応で使用される有機溶媒の処理に必要な工程を省略する上で有利である。このようにして、ニトロ化は、有機溶媒を用いて、又は用いず行うことができ。有機溶媒を用いて、スチレンフルオロポリマーを溶解させて反応を促進させることができるが、本発明の方法には必要ではない。本明細書に開示される方法で使用することができる適切な有機溶媒としては、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ニトロベンゼン、ニトロトルエン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン及びこれらの混合物が挙げられる。
【0025】
ニトロ化工程において、硝酸及び硫酸を、スチレンフルオロポリマー自体又は有機溶媒中のスチレンフルオロポリマーのいずれかに添加する前に予備混合してもよい、あるいは、別々に添加してもよい。例えば、硝酸を反応混合物に最初に添加してから、硫酸を時間をかけて添加する、又は硫酸を最初に添加してから、硝酸を添加してもよい。好ましい方法は、混合酸を添加することである。酸は、混合するにせよ、別々に添加するにせよ、例えば、5分~2時間、好ましくは30分~3時間にわたって添加することができる。
【0026】
反応は、25℃~80℃の範囲の温度、好ましくは、40℃~70℃、50℃~60℃で行うことができる。反応は、所望のDS(すなわち、約0.2~約10の平均DS)を得るのに十分な時間、例えば、1時間~48時間、望ましくは2時間~20時間、3時間~10時間、4時間~8時間又は5時間~6時間にわたって行われる。
【0027】
水又は水と氷の混合物のいずれかを添加することによって反応物を冷却することができる。反応後、当該技術分野で公知の手順に従って、混合物を処理することができる。例えば、メタノール中に注いで粉末状のポリマーを得ることができ、これを単離し、例えば、水及びメタノールで繰り返し洗浄することができる。得られた精製ポリマーは、当該技術分野で公知の方法によって、例えば、減圧下で高温で乾燥させることができる。しかしながら、反応混合物中に存在する未反応の硝酸が、高爆発性であることが知られている硝酸メチルを潜在的に形成する可能性があることに留意すべきである。したがって、ポリマー生成物を沈殿させるためのメタノール又は他のアルコールの使用は望ましくなく、代替的な方法を見出すことが求められている。本発明者らは、カルボン酸、例えば、プロピオン酸又は酢酸を反応混合物に添加することにより、この沈殿工程を効果的に行うことができることを、意外にも見出した。このようにして製造された粉末状ポリマー生成物は、より効果的に分離精製することができる。
【0028】
したがって、他の実施形態において、本発明の方法は、カルボン酸を反応混合物に添加して、反応の完了後にニトロ化スチレンフルオロポリマー生成物を沈殿させる工程をさらに含む。この代わりに、反応混合物をカルボン酸に注いで、ポリマー生成物を沈殿させることもできる。この工程に適したカルボン酸としては、これらに限定されないが、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、酪酸及びこれらの混合物が挙げられる。特定の実施形態において、反応の完了後にニトロ化スチレンフルオロポリマー生成物を沈殿させるために使用されるカルボン酸は、プロピオン酸を含む。特定の実施形態において、反応の完了後にニトロ化スチレンフルオロポリマー生成物を沈殿させるために使用されるカルボン酸は、酢酸を含む。特定の実施形態において、反応の完了後にニトロ化スチレンフルオロポリマー生成物を沈殿させるために使用されるカルボン酸は、ギ酸を含む。特定の実施形態において、反応の完了後にニトロ化スチレンフルオロポリマー生成物を沈殿させるために使用されるカルボン酸は、プロピオン酸、酢酸及びギ酸を含む。
【0029】
さらに、約0.1~約0.3のニトロのDSを有するポリマー生成物を沈殿させるために、例えば、ヘプタンのようなアルカンを用いることができることも見出された。約0.1~約0.3のニトロのDSを有するポリマー生成物を沈殿させるための好適なアルカンとしては、これらに限定されるものではないが、ヘキサン、ヘプタン及びこそれらの混合物が挙げられる。
【0030】
本発明のニトロ化スチレンフルオロポリマーにおいて、各スチレン基は置換されていても置換されていなくてもよい(が、少なくとも1つは置換されている)。ポリマー中のスチレン基上の置換基の平均数は、約0.2~約1の範囲であり、ここでは、これを、ポリマー中のニトロ基の置換度(DS)と称す。
【0031】
反応に用いられる硝酸の量を変化させることにより、ニトロ基のDSを制御することができることが判明した。硝酸の量が多いほど、ニトロ基のDSが高くなる。硫酸は、反応媒体及び酸触媒の両方として機能する。反応に用いる硫酸の量は特に限定されない。硫酸の量を増加させることにより、反応を促進させることができ、従って、反応時間を短縮し、及び/又はニトロのDSを増加させることができる。さらに、意外なことに、硫酸と硝酸とのモル比が、製造されるポリマーの溶液の透明性にかなり影響し得ることが判明した。例えば、硫酸対硝酸のモル比が約2:1~約3.5:1であると、10%未満のヘーズ値(%)となり、硫酸対硝酸のモル比が約2:1~約3:1であると、5%未満のヘーズ値(%)となり、硫酸対硝酸のモル比が約2:1~約2.5:1であると、3%未満のヘーズ値となり、硫酸対硝酸のモル比が約2:1~約2.3:1であると、1%未満のヘーズ値(%)となる。十分な光学的透明性を有するポリマーフィルムの形成を確実にするために、光学フィルム用途には低いヘーズが望ましい。このような用途には、典型的には3%未満のヘーズ値が必要である。ヘーズ値(%ヘーズ)は、実施例5に記載した手順に従って、拡散透過モードでHunterlab Ultrascan VIS(アメリカ合衆国、バージニア州のHunterlabから入手可能)を用いることによって得られた。測定用の試料は、ポリマーをメチルエチルケトンに溶解して、重量基準で15%のポリマー溶液を得ることにより調製される。セル路長は10mmである。
【0032】
ある実施形態において、反応に使用される硝酸の量は、スチレン単位当たり0.2~3.5モル、あるいはスチレン単位当たり0.2~0.5、0.51~2.5、2.51~3.5、又は1.8~2.5モルである。
【0033】
ある実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)であり、硝酸の量は、スチレン単位当たり約0.2~約3モル、硫酸対硝酸のモル比は約2:1~約3.5:1、又は約2:1~約2.5:1である。
【0034】
さらなる実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)であり、硝酸の量は、スチレン単位当たり約0.2~約0.5モルであり、ニトロ化スチレンフルオロポリマーのDSは約0.2~約0.5であり、硝酸の量は約0.51~約2.5モルであり、DSは約0.5~約0.8であり、硝酸の量は約2.5~約3.5モルであり、DSは約0.76~約0.8である。一態様において、発煙硫酸(例えば、硫酸に溶解した10~30%遊離SO)を使用して、濃硫酸を置換して、約0.9~約1のDSを達成する。この態様において、硝酸の量は、スチレン単位当たり約1.8~2.5モルである。
【0035】
ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)におけるスチレン単位は、化学式量が158g/モルのCFCF(C)の式を有する。反応に用いられる硝酸の量は、下記の計算に従って、スチレン単位当たりのモル数として表される。
硝酸のモル=硝酸/HNOの化学式量(63g/モル)のグラム
スチレン単位のモル=PTFS/スチレン単位の化学式量(158g/モル)のグラム
スチレン酸のモル当たりの硝酸のモル=硝酸のモル/スチレン単位のモル
【0036】
スチレン単位当たりの硫酸(HSO)のモル数は、上記の硝酸のモル数の計算と同様にして計算することができる。発煙硫酸(>100%)または発煙硝酸(>100%)を使用しない場合は、実施例で使用した硝酸及び硫酸の濃度は、それぞれ69重量%及び95重量%~98重量%であることに留意すべきである。これは、計算を行う際に考慮される必要がある。硫酸の平均濃度(96.5%)を用いて計算する。
【0037】
また、PTFSのニトロ化に、硫酸の代わりに発煙硫酸(無水SOを含む)を用いると、ニトロ基のより高いDS(例えば、0.9)が得られることも判明した。
【0038】
ポリマーフィルムは、本発明の方法により調製されたニトロ化スチレンフルオロポリマーを適切な溶媒中で溶液キャストすることによって製造することができる。このようにして製造されたポリマーフィルムは、ポジティブ面外複屈折を有し、一般にポジティブCプレートと呼ばれる。ポジティブ面外複屈折(Δn)は、nz>(nx+ny)/2で定義され、nxとnyは面内屈折率を表し、nzはフィルムの厚み方向の屈折率を表す(すなわち、Δn=nz-(nx+ny)/2)。
【0039】
複屈折(Δn)は、約400nm~約800nmの波長範囲にわたって、フィルムの複屈折を、異なる増分で求めることにより測定される。あるいは、フィルムの複屈折は、当技術分野で慣用されているように、633nmで測定してよい。通常、633nmにおけるΔnを参照する。というのは、<633nmの波長における複屈折は、ポジティブ複屈折を有するフィルムについて633nmにおける複屈折よりも高く、>633nmの波長における複屈折は、一般に、633nmにおける複屈折と同じか又はわずかに低いからである。したがって、633nmにおける複屈折は、当該技術分野では、400nm<λ<800nmにわたる複屈折が、633nmにおける複屈折より大きい又はほぼ同一であることを示している。
【0040】
一実施形態において、ポリマーフィルムは、400nm<λ<800nmの波長範囲にわたって、0.02より大きい、0.021より大きい、0.022より大きい、0.023より大きい、0.025より大きい、0.027より大きい、0.028より大きい、0.029より大きい、0.03より大きい、0.031より大きい、0.032より大きい、0.033より大きい、0.034より大きい、0.035より大きい又は0.0358より大きいポジティブ複屈折を有する。特定の実施形態において、ポリマーフィルムは、400nm<λ<800nmの波長範囲にわたって、0.02~0.2のポジティブ複屈折を有し、例えば、0.021~0.2、0.022~0.2、0.023~0.2、0.025~0.2、0.027~0.2、0.028~0.2、0.029~0.2、0.03~0.2、0.031~0.2、0.032~0.2、0.033~0.2、0.034~0.2、0.035~0.2、0.0358~0.2の範囲である。
【0041】
特定の実施形態において、NO基のDSが約0.3のとき、複屈折は約0.023である。特定の実施形態において、NO基のDSが約0.45のとき、複屈折は約0.027である。特定の実施形態において、NO基のDSが約0.6のとき、複屈折は約0.03である。特定の実施形態において、NO基のDSが約0.85のとき、複屈折は約0.035である。
【0042】
基板上へのポリマー溶液のキャスティングは、例えば、スピンコーティング、スプレーコーティング、ロールコーティング、カーテンコーティング又は浸漬コーティングといった当技術分野で公知の方法によって行うことができる。基板は当該技術分野で公知であり、その例として、トリアセチルセルロース(TAC)、環状オレフィンポリマー(COP)、ポリエステル、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、ガラス及びLCD又はOLEDデバイスに一般的に使用される他の材料が挙げられるがこれらに限られるものではない。
【0043】
本発明の他の実施形態において、スチレンフルオロポリマーは、トルエン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、塩化メチレン、1,2-ジクロロエタン、メチルアミルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソアミルケトン及びこれらの混合物に可溶である。溶液フィルムキャスティングは、ニトロ化スチレンフルオロポリマー溶液又はニトロ化スチレンフルオロポリマーと他のポリマーとのブレンドを含む溶液で行うことができる。ポリマー溶液は、可塑剤のような他の添加剤をさらに含むことができる。可塑剤は、フィルムの性質を改善するためにフィルム形成に使用される一般的な添加剤である。
【0044】
本発明に適した可塑剤の例としては、イーストマンケミカル社(テキサス州、キングスポート)から入手可能なアビトールE(水素添加ガムロジン)、パーマリン3100(ペンタエリスリトールのトール油ロジンエステル)、パーマリン2085(グリセロールのトール油ロジンエステル))、パーマリン6110(ペンタエリスリトールのゴムロジンエステル)、フォラリン110(ペンタエリスリトールの水素化ガムロジンエステル)、アドメックス523(二塩基酸グリコールポリエステル)及びオプティフィルムエンハンサー400(自社低VOC、低臭気造膜助剤)、ユニテックスケミカル社(ノースカロライナ州、グリーンズボロー)から入手可能なユニプレックス552(ペンタエリスリトールテトラベンゾエート)、ユニプレックス280(スクロースベンゾエート)、ユニプレックス809(ジ-2-エチルヘキサン酸PEG)、トリフェニルホスフェート、トリ(エチレングリコール)ビス(2-エチルヘキサノエート))、トリ(エチレングリコール)ビス(n-オクタノエート)並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
他の実施形態において、ポリマー溶液は、トリフェニルホスフェート、トリ(エチレングリコール)ビス(2-エチルヘキサノエート)、トリ(エチレングリコール)ビス(n-オクタノエート)、イーストマンケミカル社(テキサス州キングスポート)から入手可能なオプティフィルムエンハンサー400、アビトールE及びアドメックス523並びにユニテックスケミカル社(ノースカロライナ州、グリーンズボロー)から入手可能なユニプレックス552、ユニプレックス809及びユニプレックス280からなる群から選択される1種類以上の可塑剤をさらに含む。
【0046】
本発明の独特な特徴は、置換スチレンフルオロポリマーの溶液キャストから得られるフィルムの高い面外複屈折(Δn=nz-(nx+ny)/2)である。これにより、基板上に薄いコーティングフィルムをキャストして、所望の面外位相差(Rth)を有する補償フィルムを得ることができる。当該技術において一般的に知られているように、光学フィルムの位相差は、R=Δn×dと定義され、dはフィルムの厚さである。一実施形態において、光学フィルム用の基板上のコーティングの厚さは、約1μm~約15μm(これらに限定されるものではないが、例えば、1μm、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μm、8μm、9μm、10μm、11μm、12μm、13μm、14μm又は15μm)であり、他の実施形態においては、基板上のコーティングの厚さは、約1μm~約12μmである。
【0047】
他の実施形態において、補償フィルムは、面内スイッチング液晶表示装置を含む液晶表示装置に使用される。液晶表示装置は、携帯電話、タブレット、コンピュータ又はテレビのための画面として使用することができる。
【0048】
OLEDデバイスにおいて、1/4波長板(QWP)と組み合わせた偏光子が、周囲光を低減するために使用される。OLED構成で使用されるQWPは、補償に必要な面外位相差が高いことが多い。
【0049】
本発明のポジティブ複屈折ポリマーフィルムでコートされたQWPを、直線偏光子と組み合わせて、円偏光子を得ることができる。したがって、本発明は、直線偏光子及び本発明のコートされたQWPを含む円偏光子を提供する。他の実施形態において、本発明の円偏光子を含むOLED表示装置が提供される。この円偏光子は、3Dメガネにも使用することができる。
【0050】
他の実施形態において、補償フィルムはOLE表示装置において使用される。OLED表示装置は、携帯電話、タブレット、コンピュータ又はテレビのための画面として使用することができる。
【実施例
【0051】
以下の実施例は、本明細書に記載されたポリマー、ポリマー溶液、ポリマーフィルム及び方法の例示的な実施形態を説明及び実証する。例示的な実施形態は、例示の目的のためにのみ提供され、本開示を限定するものとは解釈されず、本開示の技術思想及び範囲から逸脱することなく、その多くの変形が可能である。
【0052】
実施例1 ポリマーフィルム製造及び複屈折測定
ニトロ化スチレンフルオロポリマーの試料を、例えば、塩化メチレン7重量%又はメチルエチルケトン12重量%のような適切な溶媒に溶解した。この溶液を、所望のギャップ、例えば、4ミル(100μm)のギャップを有するブレードキャスティング法を用いて平坦なガラス基板に塗布した。フィルムを空気中で一晩乾燥させ、続いて80℃の真空オーブンに8時間入れた。乾燥後、フィルムを剥離した。自立ポリマーフィルムの複屈折を、633nmの波長における単一フィルムモードを使用するメトリコンモデル2010/Mプリズムカプラーによって測定した。
【0053】
実施例2 種々の置換度を有するニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)(ポリマー1)の合成
材料:固有(IV)が1.10dL/gであるポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)は、未処理で用いられた内部生成物であった。ジクロロメタン(DCM)は、SiOに通して精製されたアクロス製であった。HNOは、未処理で用いられたアクロス製であった(68%~70%)。HSOは、シグマアルドリッチ製のもの(95.0%~98.0%)であった。発煙HSOは、Alfa Aeaser(18%~24%、SOフリー)のものを、そのまま用いた。
【0054】
窒素インレット/アウトレット及びメカニカルスターラーを備えた1リットル三口丸底フラスコに、ジクロロメタン(DCM)中PTFS(IV、1.10dL/g)溶液(200g、5重量%)を入れた。別途、濃硫酸(13.6g)を硝酸(1.64g)に添加して混合酸溶液を調製した。フラスコを室温(例えば、20℃~30℃)で水浴中に入れた。フラスコ中の攪拌されたPTFS溶液に、混合酸を10分間かけて添加した。反応混合物を室温で21時間反応させた後、脱イオン水/氷(450ml)を添加することにより急冷した。上部の水相をデカントし、有機相を脱イオン水で繰り返し洗浄して酸を除去した。得られた有機層をメタノール(約1リットル)に沈殿させ、高速ブレンダー中で粉砕して粉末懸濁液を得た。次いで、粉末を濾過し、水及びメタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で80℃で一晩乾燥させた。N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤として用い、30℃で、キャノン(登録商標)自動毛管粘度計により測定されたポリマーの固有粘度(IV)は1.20dL/gであった。生成物中のニトロ基の置換度(DS)は、元素分析(EA)により0.27と求められた。
【0055】
同じ方法を用いることにより、様々な置換度(DS)を有するニトロ化PTFSポリマー(ポリマー1~6)を表1に示すように製造した。なお、発煙硫酸(硫酸に溶解した20%フリーSO)を用いなかった場合は、用いた硝酸と硫酸の濃度は、それぞれ、69重量5と95~98重量%であった。計算を行ったとき、これを考慮に入れた。硫酸の平均濃度(96.5%)を計算に用いた。
【表1】
【0056】
実施例3 様々な置換度を有するニトロ化PTFSフィルムの光学的性質
表2のフィルム1~6は、MEKをキャスティング溶媒として使用して、表1のポリマー(ポリマー1~6)から製造された薄膜であった。フィルムは全て、比較のために4.0μm~5.0μmの厚さに制御された。表2の結果に基づいて、複屈折及び屈折率をそれぞれ図1及び図2の置換度に対してプロットした。2つの特性は、DSの増加とともに増加している。
【表2】
【0057】
実施例4 低ヘーズのDS=0.72のニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(N-PTFS3)の合成
材料:ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS、IV、1.10dL/g)(1.2kg)を、19Lのリアクターにて窒素雰囲気下で、1,2-ジクロロエタン(13.8kg)と混合した。混合物を撹拌しながら、50℃まで加熱した。固体を溶解させた後、混合物を55℃までさらに加熱した次いで、得られた溶液に硫酸(98%、2.89kg)と硝酸(69%、1.12kg)の混合物を2.5時間で添加した。次いで、混合物を60℃に加熱し、4時間保持した。プロピオン酸(13.3kg)を添加して生成物を沈殿させ、混合物を室温に冷却した(例えば、20℃~30℃)。得られた懸濁液を濾過し、粗粉体をまずプロピオン酸で2回、次いでメタノールで繰り返し洗浄した。得られた生成物を減圧下で60℃で乾燥させて、1.3kgの粉末生成物を得た。生成物中のニトロ基の置換度(DS)は元素分析(EA)により0.72と求められた。生成物をメチルエチルケトンに溶解させて、15重量%のポリマー溶液を製造した。実施例5に記載の方法を用いて、ポリマー溶液のヘーズを測定したところ、0.23%であった。
【0058】
実施例5 ポリマー溶液調製及び%ヘーズ測定
ガラス瓶中の攪拌されたメチルエチルケトン(MEK、141.6g)溶媒に、PTFS粉末(25.0g)を添加した、得られた混合物をポリマー溶液が得られるまで攪拌した。ポリマー溶液のヘーズ(15重量%))を、以下の手順に従って、Hunterlab Ultrascan VIS拡散透過モード(アメリカ合衆国、バージニア州のHunterlabから入手可能)を用いて測定した。
a.ガラス又は石英セル(10mmセル経路長)に100%MEKを入れる。
b.100%MEKのヘーズを測定し(平均値を得るために10回)、値が0.5%を超える場合は、0.5%より低い値になるまで、セルを洗浄し、繰り返し再測定する。
c.セルからMEKを取り出し、ポリマー溶液に変える。
d.ヘーズを10回測定して平均値を得る。
e.ポリマー溶液の最終ヘーズ値=ポリマー溶液の平均ヘーズ-100%MEKの平均ヘーズ
【0059】
比較例1:ニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン(N-PTFS3)高ヘーズ)の合成
300mLのジャケット付き樹脂ケトルリアクターは、メカニカルスターラー、熱電対、添加漏斗及び凝縮器を備えていた。リアクター内には、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)(IV 1.32dL/g、21.75g)を1、2-ジクロロエタン(250.57g)と混合した後、攪拌しながら50℃まで加熱した。固体を溶解させた後、この混合物を55℃までさらに加熱した。得られた溶液に、30分で、硫酸(98%、56.02g)と硝酸(69%、12.54g)の混合物を添加した。混合物を60℃まで加熱し、3時間保持した。この混合物をプロピオン酸に浸して、繊維状ポリマーを得た。これを、ホモジナイザーを用いてブレンドした。得られた懸濁液を濾過し、粗固体生成物をイソプロパノールで繰り返し洗浄し、次いで減圧下で60℃で乾燥して23.2gのフレーク生成物を得た。ニトロ化度は元素分析に基づいて0.72と求められた。生成物をメチルエチルケトンに溶解させて、15重量%のポリマー溶液を製造した。ポリマー溶液のヘーズは、実施例5に記載の方法を用いて、16.5%と測定された。
【0060】
実施例6 ニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)のヘーズに対する酸比の効果の考察
PTFS(IV 1.32dL/g)の一連のニトロ化反応を、実施例4の方法に従って、硝酸と硫酸の量を変えて実施し、生成物のヘーズに対する影響を検討した。表3に示すように、酸比(硝酸のモル数に対する硫酸のモル数)は、4:1及び3.2:1であり、生成物のヘーズ値は、それぞれ14%及び9.4%である。意外にも、酸比が2.5:1まで減じると、ヘーズは2.6%まで大幅に低下したことが判明したが、これは光学フィルム用途の許容可能な値内にある。しかしながら、生成物のDSは、同じ量の硝酸(スチレン単位当たり1モル)を使用すると、0.49まで低下した。硝酸の量を増加させることにより、DSを0.77まで戻すことができることが判明した、一方、低い酸比(すなわち、2.3)を維持すると、さらに低いヘーズ(0.2%)が達成された。
【表3】
【0061】
実施例7 有機溶媒(不均一反応)を含まないニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)の合成
300mLのジャケット付き樹脂ケトルリアクターは、メカニカルスターラー、熱電対、添加漏斗及び凝縮器を備えていた。室温で、硫酸(98%、221.22g)を窒素雰囲気下で添加した後、ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)(IV 1.18dL/g、37.33g)を添加した。硝酸(69%、93.36g)を40分間徐々に添加した。得られた不均一混合物を、攪拌しながら水-氷(1:1)混合物に注ぐ前に、8時間攪拌した。その後、混合物を濾過した。粗固体生成物をエタノール(320mL)と混合し、攪拌し、濾過した。エタノールを用いたこの洗浄工程を3回さらに繰り返し、得られた固体生成物を、減圧下で60℃で乾燥して、粉末生成物(38.5g)を得た。ニトロ基のDSは0.70と求められた。
【0062】
実施例8 発煙硝酸を用いた、有機溶媒を含まないニトロ化ポリ(α,β,β-トリフルオロスチレン)(PTFS)の合成(不均一反応)
発煙硝酸(99%)はSigmaAldrichから購入した。300mLのジャケット付き樹脂ケトルリアクターは、メカニカルスターラー、熱電対、添加漏斗及び凝縮器を備えていた。50℃で、硫酸(98%、147.11g)を窒素雰囲気下で添加した後、PTFS(IV 1.18dL/g、25.20g)を添加した。発煙硝酸(99%、43.13g)を30分間徐々に添加した。不均一混合物を3時間攪拌し、混合物の約半分を攪拌しながら水-氷(1:1)混合物に添加した。混合物の残りを、新たな水-氷(1:1)混合物に注ぐ前に、さらに3時間攪拌した。2つの別箇の混合物を別々に濾過し精製した。粗固体生成物をエタノール(320mL)と混合し、攪拌し、濾過した。エタノールを用いたこの洗浄工程を3回さらに繰り返し、得られた固体生成物を、減圧下で60℃で乾燥して、粉末生成物(それぞれ、10.78gと17.45g)を得た。ニトロ基のDSは、第1の生成物については0.73、第2の生成物については0.83と求められた。
【0063】
本明細書に記載された用語は、実施形態の説明のためのものであり、全体として本開示を限定するものとして解釈されるべきではない。特に断りのない限り又は、言及がなされた文脈に反すると明らかに示されない限りは、本開示の単一の特徴又は限定についての言及は全て、対応する複数の特徴又は限定を含むものとする。その逆も同様である。特に断りのない限り、「1つ」及び「少なくとも1つ」等は区別なく用いられる。さらに、明細書及び特許請求の範囲で使用される単数形は、文脈上、明らかに別の意味を示していない限り、複数形を含む。
【0064】
本明細書で用いられる全てのパーセンテージ、部及び比率は、特に指定されない限り、全組成物の重量基準である。列挙された成分に関連する全てのそのような重量は、活性レベルに基づいており、したがって、特に断りのない限り、市販されている材料中に含まれ得る溶媒又は副生成物は含まなれない。
【0065】
全ての範囲及びパラメータは、本明細書に開示されたパーセンテージ、部及び比率に限定されず、想定内及び包含される全ての下位範囲が含まれるものと考えられる。例えば、「1~10」という指定範囲には、1以上の最小値で始まり、10以下の最大値で終わる全ての下位範囲(例えば、1~6.1又は2.3~9.4)及びその範囲内の各整数(1、2、3、4、5、6、7、8、9及び10)が含まれるものと考えられる。
【0066】
本明細書で使用される方法又はプロセスステップの任意の組み合わせは、特に断らない限り又は参照された組み合わせが行われる文脈に反すると明らかに示されない限りは、任意の順序で実施することができる。
【0067】
「含む(include, includes, including)」という用語を明細書又は請求項で用いる場合、請求項における移行句として用いるときの解釈と同じ「含む(comprising)」と解釈されるものとする。さらに、「又は」を用いる場合(例えば、A又はB)、「A又はBあるいはAとBの両方」を意味するものとする。出願人が、「A又はBのみで、両方ではない」ことを示すことを意図しているときは、「A又はBのみで、両方ではない」という文言を用いる。したがって、本明細書における「又は」という用語の使用は包括的であり、排他的でない。本開示において、「1つの」という用語には、単数と複数の両方が含まれるものとする。逆に、複数の項目に対する任意の参照には、適宜、単数が含まれるものとする。
【0068】
特定の実施形態において、様々な本発明の概念を互いに組み合わせて利用することが可能である(例えば、1つ又は複数の様々な実施形態を互いに組み合わせて利用することができる)。さらに、具体的に開示された実施形態に関して記載された任意の特定の要素は、特定の要素の組み込みが実施形態の表現用語と矛盾しない限り、開示された全ての実施形態で使用できるものと解釈すべきである。当業者には、さらなる利点及び修正が容易に明らかになるであろう。したがって、本開示は、そのより広い態様において、提示された特定の詳細、代表的な装置又は図示され説明された例示的な実施例に限定されない。したがって、本発明の技術的思想又は範囲から逸脱することなく、その詳細を変更することができる。
図1
図2