(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の有効成分含有量が高い錠剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/202 20060101AFI20220331BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/10 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220331BHJP
A61K 35/60 20060101ALI20220331BHJP
A61K 35/618 20150101ALI20220331BHJP
A61K 35/612 20150101ALI20220331BHJP
A61K 36/55 20060101ALI20220331BHJP
A61K 36/30 20060101ALI20220331BHJP
A61K 36/02 20060101ALI20220331BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20220331BHJP
A61K 36/31 20060101ALI20220331BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20220331BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220331BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220331BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220331BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220331BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220331BHJP
A23L 33/12 20160101ALI20220331BHJP
A23L 33/175 20160101ALI20220331BHJP
【FI】
A61K31/202
A61K9/20
A61K47/18
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/26
A61K35/60
A61K35/618
A61K35/612
A61K36/55
A61K36/30
A61K36/02
A61K36/185
A61K36/31
A61K36/48
A61K31/7048
A61K31/19
A61K31/198
A61K38/02
A61K47/32
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/44
A61P9/00
A61P3/06
A23L33/12
A23L33/175
(21)【出願番号】P 2020506331
(86)(22)【出願日】2018-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2018072138
(87)【国際公開番号】W WO2019034698
(87)【国際公開日】2019-02-21
【審査請求日】2020-04-13
(32)【優先日】2017-08-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ゴットスタイン
(72)【発明者】
【氏名】ミハエル シュヴァルム
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター クナウプ
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05750572(US,A)
【文献】特開平02-004746(JP,A)
【文献】国際公開第2016/102323(WO,A3)
【文献】特表2015-528450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00-9/72
A61K 35/00-35/768
A61K 36/00-36/9068
A61K 38/00-38/58
A61P 9/00
A61P 3/06
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数のオメガ-3脂肪酸アミノ酸塩および可塑剤を含む組成物を含む錠剤であり、前記アミノ酸は
、リジンであり、オメガ-3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、およびそれらの混合物から選択され、前記オメガ-3脂肪酸の含有量は、前記組成物の総重量に対し、合計で40重量%以上であり、前記可塑剤は、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸であり、
前記組成物のガラス転移温度Tgは、110℃未満であり、
前記組成物中、前記可塑剤の含有量が、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の総量に対し、少なくとも2重量%を超えることを特徴とする、錠剤。
【請求項2】
前記組成物のガラス転移温度Tgは、100℃未満である、請求項1記載の錠剤。
【請求項3】
前記可塑剤が、前記オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩と共晶系を形成することを特徴とする、請求項1又は2記載の錠剤。
【請求項4】
前記組成物中、前記可塑剤の含有量が、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の総量に対し、少なくとも2.5重量%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項5】
前記組成物中、前記可塑剤の含有量が、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の総量に対し、少なくとも3重量%であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項6】
オメガ-3脂肪酸の含有量が、前記組成物の総重量に対し、合計で50重量%以上であることを特徴とする、請求項1~
5のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項7】
オメガ-3脂肪酸のソースが、魚油、イカ油、オキアミ油、アマニ油、ルリヂサ種子油、藻類油、麻種子油、菜種油、亜麻仁油、キャノーラ油、大豆油の少なくとも1つから選択されることを特徴とする、請求項1~
6のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項8】
アントシアニン、ビタミン、ミネラル、繊維、脂肪酸、アミノ酸、およびタンパク質から選択される1つまたは複数の追加活性成分をさらに含むことを特徴とする、請求項1~
7のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項9】
ポリ(メタ)アクリレート、アルギン酸塩、酢酸ヒプロメロース酢酸塩(HPMCAS)、シェラック、ペクチン、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーの層で、完全にコーティングされていることを特徴とする、請求項1~
8のいずれか一項記載の錠剤。
【請求項10】
前記オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が、必要に応じて1つまたは複数のバインダー、および/または1つまたは複数の造形物質とともに、錠剤へ圧縮されることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか一項記載の錠剤の調製方法。
【請求項11】
前記錠剤への圧縮の前に、前記オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が圧縮されることを特徴とする、請求項1
0に記載の方法。
【請求項12】
前記錠剤への圧縮前かつ必要に応じて前記オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の圧縮前に、前記オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が、溶媒または溶媒混合物で造粒されることを特徴とする、請求項1
0又は1
1記載の方法。
【請求項13】
前記オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が、水溶液またはアルコール水溶液からの沈殿によって得られることを特徴とする、請求項1
0~1
2のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
前記オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が、水溶液またはアルコール水溶液の噴霧乾燥によって得られることを特徴とする、請求項1
0~1
3のいずれか一項記載の方法。
【請求項15】
栄養補助食品または医薬品としての請求項1~
9のいずれか一項記載の錠剤の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
オメガ-3脂肪酸、特にエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)は、心血管系、炎症性疾患、脳の発達および機能、中枢神経系の破壊、およびその他の領域に対する数多くの健康へのプラスの影響に関係している(非特許文献1)。したがって、オメガ-3脂肪酸の摂取は、規制機関らの言明によって裏付けられている。たとえば、EFSA(欧州食品安全機関)は、成人に、250mgのEPA+DHAを毎日摂取することを推奨している(非特許文献2)。AHA(アメリカ心臓協会)は、心臓血管疾患と診断されていない人には多脂魚の食事を少なくとも週に2回摂取すること、心臓血管疾患と診断されている人には魚または栄養補助食品から1日あたり約1gのEPA+DHAを摂取すること、および上昇した血中脂質値の治療のために1日あたり2~4gのEPA+DHAを摂取することを推奨している(非特許文献3)。さらに、該機関らは、臨床研究に基づいて特定されたオメガ-3脂肪酸の栄養機能表示を明示的に承認している(非特許文献4)。したがって、オメガ-3脂肪酸(特に、魚油だけでなく、他の植物や微生物源からのオメガ-3脂肪酸)は、栄養補助食品、食品添加物、および医薬品としてますます使用されている。
【背景技術】
【0002】
標準的な命名法によると、多価不飽和脂肪酸は、二重結合の数と位置に従って分類される。脂肪酸のメチル末端に最も近い二重結合の位置に応じて、2つのシリーズまたはファミリーがある。オメガ-3シリーズには3番目の炭素原子に二重結合が含まれているが、オメガ-6シリーズには6番目の炭素原子まで二重結合がない。よって、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、22個の炭素原子の鎖長と、メチル末端から3番目の炭素原子で始まる6つの二重結合と、を有し、「22:6n-3」(すべてのシス-4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸)と呼ばれる。別の重要なオメガ-3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)であり、これは「20:5n-3」(すべてのシス-5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸)と呼ばれる。
【0003】
市場に導入されるオメガ-3脂肪酸製品のほとんどは、約30%のオメガ-3脂肪酸を含む魚油から、90%以上のEPAもしくはDHA、またはこれら2つのオメガ-3脂肪酸の混合物を含む濃縮物まで、のオイルの形態で提供される。使用される製剤は、主にソフトゼラチンカプセルである。加えて、マイクロカプセル化や粉末製剤など、さらに多くの製品形態が記載されている(非特許文献5および特許文献1)。化学的には、これらは通常、さまざまな濃度のオメガ-3脂肪酸を含むトリグリセリドまたは脂肪酸エチルエステルである。一方、例えば、水溶性ではないカリウム、ナトリウム、アンモニウム(特許文献6)、カルシウム、およびマグネシウム(非特許文献6および特許文献7)、アミノアルコール(特許文献8)、ピペラジンなどのアミン化合物(特許文献9)、メトホルミンなどのグアニジン化合物(特許文献10~13)とともに、リン脂質(例えば、オキアミ油としての遊離脂肪酸)(特許文献2~5)および脂肪酸のさまざまな塩も知られている。人体に対する、種々のオメガ-3誘導体の生物学的利用能は非常に多様である。モノアシルグリセリドと一緒に、遊離脂肪酸としてのオメガ-3脂肪酸が小腸で吸収されるため、遊離オメガ-3脂肪酸の生物学的利用能は、トリグリセリドまたはエチルエステルよりも優れている。なぜなら、これらはまず、消化管内で遊離脂肪酸に分解される必要があるためである(非特許文献7)。酸化に対する安定性も、オメガ-3誘導体によって大きく異なる。遊離オメガ-3脂肪酸は、酸化に非常に敏感であると言われている(非特許文献7)。固体オメガ-3形態での使用は、液体製品に比べて安定性が高いと予想されている(非特許文献8)。
【0004】
さらに、リジンやアルギニンなどの多様なアミノ酸を含むオメガ-3脂肪酸の調製物は、混合物(特許文献14)または塩(特許文献15~20および非特許文献9~12)として知られている。噴霧乾燥によるオメガ-3アミノアルコール塩の調製も言及されている(特許文献21)。一般的な形態において、DHAアミノ酸塩の調製は、高真空かつ低温下での蒸発乾燥または凍結乾燥によって記載されている(特許文献22および23)。結果として得られる製品は、非常に濃厚で透明なオイルであり、低温において、ワックス状の見た目の粘稠性の固体に変化する。
【0005】
最後に、オメガ-3アミノ酸調製物の錠剤への加工は、原理上知られている。 調製物中のアミノ酸の存在、および補助剤(バインダー、離型剤、造形物質など)の追加使用により、完成した錠剤中のオメガ-3脂肪酸の濃度は、実施例に記載されている式に従って、オメガ-3アミノ酸塩の場合、最大38%であり(特許文献22および23、実施例15)、またはオメガ-3脂肪酸アミノ酸混合物の場合、最大34.6%である(特許文献24)。腸溶性コーティングによるオメガ-3ソフトゲルカプセルのコーティングも記載されている。
【0006】
しかし、広範な先行技術にもかかわらず、すべての既知の製品形態には、さらなる改善が必要な1つまたは複数の欠点がある。例えば、最も一般的なオメガ-3トリグリセリドおよびエチルエステル油は、遊離オメガ-3脂肪酸よりも容易に生物学的に利用できない。これらは、酸化に対して特に敏感である。軟ゼラチンカプセルとして確立された製剤は、固体の単純な錠剤化よりも、より複雑で、より高価で、より欠陥を起こしやすい。さらに、多くの消費者は、宗教やその他の理由につき動物由来のゼラチンの消費に反対している。これまでにマイクロカプセル化/結合油、アミノ酸との混合物、または塩として記載された固体オメガ-3製剤には、他の重大な欠点がある。例えば、アルカリ金属塩は、水溶液中で強アルカリ性であるのに対し、アルカリ土類金属塩は、実質的に水不溶性であり、生物学的利用能を制限する。アミノ酸との混合物または塩は可溶性であり、したがって容易に生物学的に利用できるはずであるが、記載されている錠剤は、オメガ-3脂肪酸含有量が、オメガ-3脂肪酸とアミノ酸の塩に対して最大で38%、オメガ-3脂肪酸とアミノ酸の混合物に対して最大で34.6%と、まだ比較的低い。これは、安定した錠剤の調製に用いられる大量の補助剤(離型剤、バインダー、および造形物質など)に左右される。しかし、オメガ-3脂肪酸の含有量が少ないと、消費者は、推奨される1日あたりの摂取量に達するために、対応する製品を頻繁かつ比較的大量に摂取する必要があり、それは、国や健康状態に応じて、1日あたり数百ミリグラムから数グラムになり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】T.-L. Torgersen, J. Klaveness, A. H. Myrset, US 2012/0156296 A1
【文献】T. J. Maines, B. N. M. Machielse, B. M. Mehta, G. L. Wisler, M. H. Davidson, P. R. Wood, US 2013/0209556 A1
【文献】M. H. Davidson, G. H. Wisler, US 2013/0095179 A1
【文献】N. J. Duragkar, US 2014/0018558 A1
【文献】N. J. Duragkar, US 2014/0051877 A1
【文献】H. J. Hsu, S. Trusovs, T. Popova, US 8203013 B2
【文献】G. K. Strohmaier, N. D. Luchini, M. A. Varcho, E. D. Frederiksen, US 7,098,352 B2
【文献】P. Rongved, J. Klaveness, US 2007/0213298 A1
【文献】B. L. Mylari, F. C. Sciavolino, US 2014/0011814 A1
【文献】M. Manku, J. Rowe, US 2012/0093922 A1
【文献】B. L. Mylari, F. C. Sciavolino, US 2012/0178813 A1
【文献】B. L. Mylari, F. C. Sciavolino, US 2013/0281535 A1
【文献】B. L. Mylari, F. C. Sciavolino, WO 2014/011895 A2
【文献】P. Literati Nagy, M. Boros, J. Szilbereky, I. Racz, G. Soos, M. Koller, A. Pinter, G. Nemeth, DE 3907649 A1
【文献】B. L. Mylari, F. C. Sciavolino, WO 2014/011895 A1
【文献】T. Bruzzese, EP 0699437 A1
【文献】T. Bruzzese, EP 0734373 B1
【文献】T. Bruzzese, US 5750572
【文献】H. Shibuya, US 2003/0100610 A1
【文献】P. Rongved, J. Klaveness, US 2007/0213298 A1
【文献】T. Bruzzese, EP0734373 B1
【文献】US 5750572
【文献】P. Literati Nagy, M. Boros, J. Szilbereky, I. Racz, G. Soos, M. Koller, A. Pinter, G. Nemeth, DE 3907649 A1
【0008】
【文献】C. H. S. Ruxton, S. C. Reed, M. J. A. Simpson, K. J. Millington, J. Hum. Nutr. Dietet 2004, 17, 449
【文献】EFSA Panel on Dietetic Products, Nutrition and Allergies, EFSA Journal 2010, 8 (3), 1461
【文献】P. M. Kris-Etherton, W. S. Harris, L. J. Appel, Circulation 2002, 106, 2747
【文献】EU Register on Nutrition and Health Claims; see also: EFSA Journal 2011, 9 (4), 2078
【文献】C. J. Barrow, B. Wang, B. Adhikari, H. Liu, Spray drying and encapsulation of omega-3 oils, in: Food enrichment with omega-3 fatty acids (Eds.: C. Jacobsen, N. S. Nielsen, A. Frisenfeldt Horn, A.-D. Moltke Soerensen), pp. 194-225, Woodhead Publishing Ltd., Cambridge 2013, ISBN 978-0-85709-428-5
【文献】J. A. Kralovec, H. S. Ewart, J. H. D. Wright, L. V. Watson, D. Dennis, C. J. Barrow, J. Functional Foods 2009, 1, 217
【文献】J. P. Schuchhardt, A. Hahn, Prostaglandins Leukotrienes Essent. Fatty Acids 2013, 89, 1
【文献】J. A. Kralovec, H. S. Ewart, J. H. D. Wright, L. V. Watson, D. Dennis, C. J. Barrow, J. Functional Foods 2009, 1, 217
【文献】J. Torras et al., Nephron 1994, 67, 66
【文献】J. Torras et al., Nephron 1995, 69, 318
【文献】J. Torras et al., Transplantation Proc. 1992, 24 (6), 2583
【文献】S. El Boustani et al., Lipids 1987, 22 (10), 711
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
記載されている欠点により、錠剤として容易かつ費用効果的に製剤化でき、生物学的利用能が高く、標準の液体製剤よりも安定であり、さらに、1日あたりの摂取量を可能な限り低く抑えるために、オメガ-3脂肪酸が高濃度に含まれている固体オメガ-3脂肪酸調製物が必要である。
【0010】
通常の条件下では、純粋なオメガ-3アミノ酸塩を錠剤に圧縮できない。混合物の凝集力は、金型から取り出す際の錠剤の破壊を回避するほどには十分でない。圧縮時に高い圧力を加えると、(過剰な圧縮により)錠剤が破壊される。したがって、組成物中に多量の賦形剤を必要とせずに直接錠剤に圧縮可能な、オメガ-3脂肪酸塩を多く含む組成物を提供する必要がある。
【0011】
驚くべきことだが、1つまたは複数のオメガ-3脂肪酸アミノ酸塩を含む組成物を含む錠剤は、該組成物のガラス転移温度(Tg)が<110℃、好ましくは<100℃である場合、圧縮可能であることが見出された。
【0012】
本発明によれば、錠剤に圧縮されるべき組成物を軟化させ、該組成物の凝集性を改善する。組成物の凝集性は、ガラス転移温度を臨界値以下に下げることにより改善される。驚くべきことだが、ガラス転移温度を110℃以下に下げることにより、さらなる添加剤を必要とせずに、オメガ-3アミノ酸塩の錠剤化が可能であることが見出された。
【0013】
したがって、本発明は、第一の態様において、「アミノ酸が塩基性アミノ酸、好ましくはリジン、アルギニン、オルニチン、ヒスチジン、シトルリンおよびそれらの混合物から選択される1つまたは複数のオメガ-3脂肪酸アミノ酸塩を含み、かつガラス転移温度が<110℃、好ましくは<100℃である組成物」を含む錠剤に関する。
【0014】
材料のガラス転移温度(Tg)は、このガラス転移が起こる温度範囲を特徴付ける。それは、ガラス転移が生じる場合、材料の結晶状態の融解温度(Tm)よりも常に低くなる。ガラス転移とは、アモルファス材料(または半結晶材料内のアモルファス領域)における、温度上昇に伴う、硬く比較的脆い「ガラス状」状態から粘性状態またはゴム状状態への可逆的転移である。
【0015】
本発明のさらに好ましい実施形態では、ガラス転移温度(Tg)は、90℃未満、好ましくは80℃未満、より好ましくは70℃未満に低下する。
【0016】
別の実施形態では、組成物は、「オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩と共晶系を形成し、かつそれにより可塑剤として作用する少なくとも1つの物質」を含む。可塑剤の含有量は、組成物中のオメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の総量に対し、少なくとも2重量%、好ましくは少なくとも2.5重量%、より好ましくは少なくとも3重量%であることが好ましい。
【0017】
オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩と共晶系を形成する物質が可塑剤として作用し得ることは、驚くべき発見であった。
【0018】
有利な構成では、可塑剤は、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸エステル、およびポリエチレングリコール、好ましくはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリルフマル酸ナトリウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、パルミトステアリン酸グリセリル、ベヘン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセリル、安息香酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸スクロース、およびポリエチレングリコール(MW>1,500g/ mol)から選択される。
【0019】
通常、これらの物質は潤滑剤として使用され、組成物の総重量に対し3重量%を超える濃度で適用される場合、圧縮を完全に防ぐ。一般に、これらの物質は、組成物の総重量に対し、0.5~1重量%の最大量で使用される。例えば、ステアリン酸マグネシウムは、しばしば、組成物の総重量に対し0.5~1重量%の範囲の量で、医療用錠剤、カプセル、および粉末の製造における付着防止剤として使用される。この点に関し、本物質は、潤滑特性を有しており、粉末組成物を固体錠剤に圧縮する際に成分が製造装置に付着するのを防ぐので、有用である。実際、ステアリン酸マグネシウムは、錠剤に最も一般的に使用される潤滑剤である。
【0020】
驚くべきことだが、ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤は、本発明に従って記載された量で使用される場合、可塑剤として作用し、ステアリン酸マグネシウムに対するオメガ-3アミノ酸塩の濃度が70:30と高濃度であっても、錠剤化を可能にすることが見出された。
【0021】
本願組成物の圧縮性により、オメガ-3脂肪酸の含有量がより高い錠剤を提供することが可能となった。十分に高濃度のEPAまたはDHA出発物質またはEPA/DHA混合物から調製されたオメガ-3脂肪酸アミノ酸塩を使用する場合、得られる錠剤のオメガ-3脂肪酸含有量は、合計で40%を超える場合がある。このような高オメガ-3脂肪酸含有量の場合、オメガ-3脂肪酸の推奨1日摂取量に達するためには、1日あたり数錠、おそらく1日1錠のみで十分である。
【0022】
したがって、本発明の有利な構成では、オメガ-3脂肪酸の含有量は、組成物の総重量に対し、合計で40重量%以上、好ましくは50重量%以上である。
【0023】
特に驚くべきは、「オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩と共晶系を形成し、可塑剤として作用し、それによってガラス転移温度を110℃未満に低下させる物質」のみが添加されたオメガ-3脂肪酸アミノ酸塩を、直接錠剤に圧縮できるという発見であった。最後に、直接圧縮による錠剤の調製は、一般に、硫酸カルシウム、リン酸水素カルシウム、(微結晶)セルロース、乳糖または他の糖、および糖誘導体などの少数の物質についてのみ記載されているが、オメガ-3脂肪酸またはそれらの誘導体については記載されていない(Pharmazeutische Hilfsstoffe [Pharmaceutical Auxiliaries], Peter C. Schmidt, Siegfried Lang, p. 131f., GOVI-Verlag, ISBN 978-3-7741-1222-3)。
【0024】
本発明による方法において個々にまたは任意の組み合わせで使用され得るオメガ-3脂肪酸は、例えば、α-リノレン酸(ALA):(n-3)(シス、シス、シス-9,12,15-オクタデカトリエン酸)=18:3、ステアリドン酸(SDA):(n-3)(全シス-6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸)=18:4、エイコサトリエン酸(ETE):(n-3)(全シス-11,14,17-エイコサトリエン酸)=20:3、エイコサテトラエン酸(ETA):(n-3)(全シス-8,11,14,17-エイコサテトラエン酸)=20:4、ヘネイコサペンタエン酸(HPA):(n-3)(全シス-6,9,12,15,18-ヘンイコサペンタエン酸)=21:5、ドコサペンタエン酸(クルパノドン酸)(DPA):(n-3)(全シス-7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸=22:5、テトラコサペンタエン酸:(n-3)(全シス-9,12,15,18,21-テトラコサペンタエン酸)=24:5、テトラコサヘキサエン酸(ナイシン酸):(n-3)(全シス-6,9,12,15,18,21-テトラコサヘキサエン酸)=24:6を含む。
【0025】
本発明の錠剤の製造に使用可能な多価不飽和オメガ-3脂肪酸は、任意の適切な出発材料から得ることができ、さらに任意の適切な方法で処理することができる。典型的な出発材料には、魚の死骸、野菜、その他の植物のすべての部分、さらに微生物発酵または藻類発酵からの材料が含まれる。そのような出発材料の典型的な処理方法は、とりわけ、原油抽出のための方法(出発材料の抽出および分離など)、および原油精製のための方法(堆積、脱ガム、脱酸、漂白および脱臭など)(例えば、「EFSA Scientific Opinion on Fish Oil for Human Consumption」を参照)である。亜麻仁油、藻油、大麻種子油、菜種油、ルリヂサ種子油、亜麻仁油、キャノーラ油、大豆油などの種々の植物油を、出発材料として使用することが好ましい。さらなる処理方法としては、とりわけ、オメガ-3脂肪酸エステルを、対応する遊離オメガ-3脂肪酸またはその無機塩に少なくとも部分的に転化するための方法がある。
【0026】
本発明のさらに好ましい実施形態では、オメガ-3脂肪酸のソースは、少なくとも以下:魚油、イカ油、オキアミ油、亜麻仁油、ルリヂサ種子油、藻油、麻種子油、菜種油、亜麻仁油、キャノーラ油、大豆油、の1種から選択される。
【0027】
オメガ-3脂肪酸はまた、オメガ-3脂肪酸エステルを開裂させ、続いてそれにより放出されたアルコールを、主にオメガ-3脂肪酸エステルからなる組成物から除去することにより得られる。エステル開裂は、好ましくは塩基性条件下で実施される。エステル開裂の方法は、先行技術から周知である。
【0028】
本発明の文脈において、使用される好ましいオメガ-3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(「EPA」)およびドコサヘキサエン酸(「DHA」)である。エイコサペンタエン酸(「EPA」)とドコサヘキサエン酸(「DHA」)の混合物を使用することがさらに好ましい。
【0029】
本発明による錠剤の安定性は、脂肪酸成分が、例えば、EPAまたはDHA濃縮物の加水分解物であるか、EPA/DHA半濃縮物の加水分解物であるか、または魚油であるかどうかに左右されない。
【0030】
本発明の有利な構成では、オメガ-3脂肪酸は、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、およびそれらの混合物から選択される。
【0031】
有利な構成では、錠剤は、アントシアニン、ビタミン、ミネラル、繊維、脂肪酸、アミノ酸、およびタンパク質から選択される1つまたは複数の追加の有効成分をさらに含む。
【0032】
オメガ-3脂肪酸とアミノ酸の塩は、消化管で溶解される。その際、体内での直接吸収に適した遊離オメガ-3脂肪酸が放出され、魚油中のオメガ-3トリグリセリドまたはそれから調製されたオメガ-3脂肪酸エチルエステルの場合のような、事前の化学的開裂または酵素的開裂は不要となる。腸溶性コーティングで錠剤をコーティングすることにより、オメガ-3脂肪酸は、小腸(消化管からの脂肪酸を実際に吸収する体内の場所)でのみ放出される。その結果、オメガ-3脂肪酸は、好ましい遊離形態で即時吸収され得る。それにより、胃内のオメガ-3脂肪酸油の放出と通常関連して生じることが多い影響(逆流や不快な吐き戻しなど)が回避される。
【0033】
本発明の有利な構成では、本発明による錠剤は、ポリ(メタ)アクリレート、アルギン酸塩、酢酸ヒプロメロース酢酸塩(HPMCAS)、シェラック、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるポリマーの層で完全にコーティングされている。
【0034】
本発明のさらに有利な構成では、本発明による錠剤は、「該錠剤を0.1N塩酸に2時間浸漬させる際に、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の含有量の10重量%未満を放出するのに適した物質」で完全にコーティングされている。
【0035】
消化管で錠剤を崩壊させるために、崩壊剤を組成物に加える。それらは、湿潤時に膨張して溶解し、消化管で錠剤をばらばらにし、吸収のための活性成分を放出する。それらは、錠剤が水と接触した際、錠剤が急速に小さな破片に分解されることを確保し、溶解を促進する。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩を、必要に応じて1つまたは複数のバインダー、および/または1つまたは複数の造形物質と共に圧縮することを特徴とする、本発明による錠剤の製造方法に関する。
【0037】
好ましい構成では、本発明による方法は、錠剤への圧縮(compression)の前に、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が圧縮(compaction)されることを特徴とする。オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の圧縮は、例えば、15~20kN(30.5~40.7MPa)の圧縮力で、25mm二平面パンチを備えたエキセントリックタブレットプレスを使用して実施され得る。結果として得られた製品は、1mmふるいを通って再度砕かれてもよい。
【0038】
さらに好ましい構成では、本発明の方法は、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が、錠剤への圧縮前かつ必要に応じてオメガ-3脂肪酸アミノ酸塩の圧縮前に、好ましくは溶媒(例えば、水またはエタノール)または溶媒混合物(例えば、水/エタノール混合物)で、造粒されることを特徴とする。
【0039】
オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩は、原理的には公知である。冒頭で述べたように、これらは、これまでに述べたこれらの物質のワックス状の粘稠度とは有利に異なる、水性もしくは水性アルコール媒体からの沈殿、または噴霧乾燥により、微細な実質的に無色の粉末として得られる。
【0040】
好ましい構成では、本発明による方法は、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が水溶液またはアルコール水溶液からの沈殿によって得られることを特徴とする。
【0041】
さらに好ましい構成では、本発明による方法は、オメガ-3脂肪酸アミノ酸塩が、水溶液またはアルコール水溶液の噴霧乾燥によって得られることを特徴とする。
【0042】
さらなる態様では、本発明は、栄養補助食品または医薬品としての本発明による錠剤の使用に関する。
【0043】
本発明の文脈において、医薬品は、本明細書に記載のオメガ-3脂肪酸に加えて、薬学的に許容される助剤および医薬品有効成分(スタチンなど)の両方、抗高血圧薬、抗糖尿病薬、抗認知症薬、抗うつ薬、抗肥満剤、食欲抑制剤、ならびに記憶および/または認知機能改善薬を含んでいてもよい。
【0044】
さらなる態様では、本発明は、錠剤に圧縮した時に色の変化を示す、オメガ-3リジン塩と可塑剤の混合物に関する。色の変化率は、可塑剤の量に左右され、可塑化が不十分な状態から圧縮可能な状態への変化率は0.57以下、好ましくは0.3以下である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】圧縮時の仕事、フォースパスデータの分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、以下の非限定的実験により詳細に説明される。
実施例1:混合物のガラス転移温度(Tg)の分析
【0047】
【0048】
300gの混合物を、1L容量の粉末フラスコに入れ、約2分間手動で混合した。融解ピークとガラス転移温度を、DIN-ISO_11357-2に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を使用して測定した。
【0049】
ステアリン酸マグネシウムとステアリン酸の両方が可塑剤として良好に作用し、ガラス転移温度を100℃未満に低下させた。これらの実験では、ガラス転移温度を65℃未満の値まで下げることさえできた。
【0050】
ガラス転移温度が100℃未満の組成物は、錠剤に簡単かつ直接圧縮(45-60MPa)でき、柔らかい(55-70N)が弾力性のある錠剤となる。
【0051】
可塑剤としてステアリン酸マグネシウムとステアリン酸を使用する場合、最大含有量95%のオメガ3脂肪酸リジン塩で錠剤を圧縮することができる。
【0052】
融解ピーク値は、塩の転化が起こらないことを確認した。しかし、可塑剤が7.5%未満の測定では、DSC測定で融解ピークを検出できなかった。融解ピークの消失は、測定限界の下限を示す。この装置は、混合物中の可塑剤含有量が7.5%未満の融解ピークを測定することはできないが、システム全体のDSCの変化を検出できる。したがって、別の検出方法が必要となった。
【0053】
DSCの効果の重大さにつき、観察された効果を他の方法で説明することが有益である。圧縮中の色の変化は、錠剤を均一な背景(紙など)に置けば、肉眼で観察できる。この観察は、画像分析によって定量化できる。さらに、技術水準のタブレットプレスは、圧縮時のパンチ位置と加えられた力を記録する。
【0054】
実施例2:フォースパス(force-path)データの分析
本発明による組成物に関する可塑剤含有量の下限を測定するために、フォースパスデータを分析した。これらのフォースパス図から、必要な仕事を計算し、摩擦、変形、弾性緩和に分ける。
【0055】
また、観察された共晶挙動は、混合物の軟化をもたらすため、効果が現れ始めると、摩擦の減少と変形の増加によって検出できるはずである。混合物がさらに可塑化されると(Tgの低下)、弾性挙動が増加するため、変形が低下し、弾性緩和が増加するはずである。
【0056】
分析のために、実施例1に示すように、オメガ3-リジン塩を、種々の量のステアリン酸マグネシウムと混合した。再現可能な結果を得るために、0.5%w/wのシリカを混合物に加えた。これにより、たとえ染料が充填されても、流動性が確保される。摩擦、変形、弾性緩和に分けられた仕事を
図1に示す。
図1は、圧縮時の仕事を示す。ステアリン酸Mg(オメガ-3-リジン塩を指す)含有量(%w/w)はx軸に記載され、摩擦力、塑性変形および弾性緩和の割合(%)はy軸に記載されている。
【0057】
図1に示すように、錠剤を圧縮する仕事では、オメガ3-リジン塩に含まれる0~2%w/wのステアリン酸Mgの影響はない。ステアリン酸Mg2.5%w/wで、摩擦の大幅な低下と塑性変形の増加が起こり、混合物は圧縮可能になる。ステアリン酸Mgをさらに増加させると、塑性変形が減少し、弾性緩和が増加する。
【0058】
このデータは、毎分20錠の速度での、円形(直径25mm)の二方向パンチを備えたXP1エキセントリック錠剤プレス(Korsch社製)を用いたオメガ3リジン塩-ステアリン酸Mg混合物の圧縮から生成されたものである。充填深さは8.5mmであり、22kNの圧縮力を加えた結果、44.8MPaの圧力になった。
【0059】
Korsch社製のファーマリサーチ(Pharma Research)ソフトウェアを使用してデータを記録し、Korsch社製のソフトウェア「Extended Data analysis」を使用して分析した。
【0060】
実施例3:色の変化の評価
プレス上で、オメガ3-リジン塩とステアリン酸Mgの粉末ブレンドを圧縮すると、2つのことが同時に起こる:ステアリン酸Mgの増加により、混合物全体が白くなること(=RGB色空間を使用したRGB積の増加)、および材料が圧縮されるにつれて、境界面の数が減少すること。既存の空洞/裂け目が消失し、回折が少なくなり、それにより既存の色の彩度が増加する。
【0061】
したがって、材料挙動の変化を適切に説明するには、色の3次元空間、混合物中のステアリン酸Mgの量、および圧力を利用する必要がある。
【0062】
次のデータセットは、前述したものと同じ機器設定を使用して作成された。以前の試験では流動性が十分ではなかったので、レシピに1%w/wのシリカが加えられた。オメガ3-リジン塩は、鮭のような赤味がかった色をもつので、RGB色空間の赤色部分を使用した。
【0063】
各混合物と圧力のRGB値を取得するために、黒い背景の前で、4つの圧縮サンプルをスキャンした(反射光、300dpi、24ビット、Adobe RGB)。これには、すべての獲得パラメータ、RGB色空間、ロスフリー(loss-free)ファイル形式「TIF」を定義可能なフラットベッドスキャナーEpson V850 Pro(ソフトウェア:Epson Scan バージョン3.9.3)を使用した。これにより、各色(赤、緑、青=RGB)の8ビットの色彩強度情報を持つ評価可能な画像となる。これにより、0~255の数値が得られる。凝縮されたサンプルごとに、関心領域を規定し、ソフトウェア「Image Pro Plus(バージョン7.01)」を使用して、平均色を測定した。関心領域(AOI)は、機械的欠陥(エッジの欠けなど)のない、凝縮サンプルにおける可能な最大の円であった。すべてのサンプルについて、少なくとも4つのAOI(各直径:23mm/面積:415mm2)を平均して、色の値を評価した。赤いサンプルの場合、赤色の量が増える。赤色の値は、赤色のサンプルで上昇し、一方青色と緑色の値は低下する(逆も同様である)。スキャンシステムを黒い背景と白い背景でチェックし、機能を確認した。黒いサンプル(背景)のRGB値は、(各色に関し)30未満であった。白い背景では240超であった。すべての色のサンプルは、この範囲内にある。明度を乗算する(RGB積、3×8ビット=24ビット)ことにより、輝度を評価および比較できる。
以下のデータが得られた。
【0064】
【0065】
混合物が十分に可塑化されると、赤色に対するステアリン酸Mgの顕著な効果が観察される。つまり、色彩強度が弱まる。
【0066】
各プレーンのデータポイントを介して曲面をあてはめることにより、Umetrics AB社製Modde(バージョン9.1.1)を使用して次の回帰モデルを得る:
【表3】
【0067】
図2は、圧縮時の種々のステアリン酸Mg含有量(
図2a)の赤値と圧縮時の種々のステアリン酸Mg含有量(
図2b)のRGB積の曲線を示す。予想どおり、RGB積は、主効果にも示されているように、ステアリン酸Mg含有量に対して実質的に作用する(
図2bと比較)。
【0068】
反対に、赤色に対するステアリン酸Mgの効果は線形ではない。
図2aに示すように、0~2%のステアリン酸Mgと1~3%のステアリン酸Mgの勾配の変化は非常にわずかであるが、3~5%のステアリン酸Mgの勾配は急激に変化している。したがって、圧縮向上が発現するのは、オメガ-3-リジン塩に対して2~3%のステアリン酸Mgである。対応する勾配を
図2cに示す。これは、約2.5%のステアリン酸Mgでの交点を明確に示している。勾配の差は6.83から11.9であり、0.57の係数に相当する。この場合、色の変化率は、可塑剤の量に左右され、可塑化が不十分な状態から圧縮可能な状態までの変化率は0.57倍である。
【0069】
実施例4:
種々の量のオメガ-3脂肪酸塩を含む錠剤を調製した。50.00重量%のオメガ-3脂肪酸リジン塩を含む錠剤を調製できた。使用されるステアリン酸マグネシウムの量は、塩の量に対し5重量%に相当する。
【0070】
【0071】
すべての例で、オメガ-3脂肪酸リジン塩をタンブリングミキサー(Willy A. Bachofen AG社製Turbula T-10)を使用して他の成分と混合した。
【0072】
すべての例で、シングルパンチタブレットプレス機XP1(Korsch社製)を使用して、目標質量800mgの21×9mm長円形パンチで、錠剤を圧縮できた。崩壊テスター(Pharma Test Apparatebau AG社製PTZ Auto 4 EZ)のpH6.8の緩衝液中で、溶解/崩壊を試験した。崩壊時間は1時間未満であった。
【0073】
まとめると、錠剤化は、比較的低い圧力の回転プレスおよびエキセントリックプレスの両方で可能であった。これは予想外であり、可塑剤として少量のステアリン酸マグネシウムを使用した場合に、組成物がいかに良好にくっつき合うかを示した。
【0074】
実施例5:
50.00重量%のオメガ-3脂肪酸リジン塩を含む錠剤を調製した。ステアリン酸マグネシウムの含有量は、オメガ-3脂肪酸リジン塩の量に対し、5重量%に相当した。
【0075】
【0076】
崩壊時間をpH6.8の緩衝液中で分析し、崩壊時間は、3kNの圧縮力で7:38分、5kNの圧縮力で約45分であった。
【0077】
実施例6:
40.00重量%のオメガ-3脂肪酸リジン塩を含む錠剤を調製した。ステアリン酸マグネシウムの含有量は、オメガ-3脂肪酸リジン塩の量に対し、6.25重量%に相当した。
【0078】
【0079】
崩壊時間をpH6.8の緩衝液中で分析し、崩壊時間は、3kNの圧縮力および5kNの圧縮力で1時間未満であった。FeSSIFでの崩壊時間の分析は、3kNの圧縮力で約15分、5kNの圧縮力で約15~10分と測定された。
【0080】
実施例7:
40.00重量%のオメガ-3脂肪酸リジン塩を含む錠剤を調製した。ステアリン酸マグネシウムの含有量は、オメガ-3脂肪酸リジン塩の量に対し、6.25重量%に相当した。
【0081】
【0082】
崩壊時間をpH6.8の緩衝液中で分析し、崩壊時間は、5kNの圧縮力で約26分であった。錠剤硬度は76.8Nと測定された。