(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】血管修復パッチ
(51)【国際特許分類】
A61L 31/12 20060101AFI20220331BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20220331BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20220331BHJP
A61L 15/64 20060101ALI20220331BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20220331BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20220331BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
A61L31/12
A61L15/26 200
A61L15/42 200
A61L15/64 200
A61L31/04 100
A61L31/10
A61L31/14
(21)【出願番号】P 2020564707
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 EP2019056358
(87)【国際公開番号】W WO2019175288
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-11-17
(32)【優先日】2018-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520353053
【氏名又は名称】インスティテュート キミセ デ サリア セツ ファンダシオ プリバーダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロペス、ジョルディ マルトレル
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス、サルバドール ボロス
(72)【発明者】
【氏名】パラシ、ノエミ バラ
(72)【発明者】
【氏名】カンプス、メルセデス バルセルス
【審査官】小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502426(JP,A)
【文献】特表2002-523186(JP,A)
【文献】特表2016-509880(JP,A)
【文献】特表2008-505728(JP,A)
【文献】Journal of Materials Chemistry B,2017年,Vol.5,p.3758-3764
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 31/12
A61L 15/26
A61L 15/42
A61L 15/64
A61L 31/04
A61L 31/10
A61L 31/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を含む、血管壁の損傷を修復するための血管修復パッチであって、前記基材が少なくとも以下を含むもの:
(i)平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含む、前記第1の主要面に隣接する第1のポリマーフィラメント
層;及び
(ii)ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む、前記第2の主要面に隣接する第2のポリマーフィラメント層、ここで
血管修復パッチは、血管内に配置して血管障害の処置のために用いられ、
血管修復パッチは、使用時に、第2のポリマーフィラメント層が血管壁に向かって立体配置され、
血管修復パッチは、使用時に、第1のポリマーフィラメント層
の複数のポリマーフィラメントが、血管を通る血流に平行に配向するように立体配置される。
【請求項2】
ポリマー基材が生体吸収性である、請求項1に記載の血管修復パッチ。
【請求項3】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが、1つ以上の生体吸収性ポリマーを含む、請求項2に記載の血管修復パッチ。
【請求項4】
1つ以上の生体吸収性ポリマーが、ポリ乳酸(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-DL-ラクチド(PDLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリグリコリド(PG)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(グリコリド-コ-カプロラクトン)(PGCL)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボナート
)(PGA-
co-TMC)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ-(L-ラクチド-コ-カプロラクトン)(PLLA-コ-CL)、ポリ-(D-ラクチド-コ-カプロラクトン)(PDLA-コ-CL)、ポリ-(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン
)(PDLLA-
co-CL)から選択される、請求項3に記載の血管修復パッチ。
【請求項5】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントが、PCL若しくはPGLAを含むか又はそれからなり、前記PGLAが80:20~20:80のラクチド:グリコリド比を有する、請求項4に記載の血管修復パッチ。
【請求項6】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントが、少なくとも50wt%のPCLを含む、請求項5に記載の血管修復パッチ。
【請求項7】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントが、少なくとも50wt%のPCL及び最大50wt%のPLA、PLLA、PDLA、PDLLA、PGA、PG、PLGA、PGCL、PLLA-コ-CL、PDLA-コ-CL又はPDLLA-コ-CLを含む、請求項6に記載の血管修復パッチ。
【請求項8】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが、1~20μmの平均フィラメント径を有する、請求項1~7のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項9】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のフィラメント径が、0.2~2μmの範囲の1つのピーク及び2.5~10μmの範囲の第2のピークを有する二峰性分布を形成する、請求項1~8のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項10】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが、電界紡糸フィラメントである、請求項1~9のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項11】
ポリマー基材が、0.5~3.0MPaの範囲のヤング率を、及び/又は1.0~3.0MPaの貯蔵弾性率を、有する、
請求項1~10のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項12】
第1のポリマーフィラメント層が36°以下の標準偏差で配向するか、及び/又は第2のポリマーフィラメント層のフィラメントが、少なくとも45°の標準偏差で配向する、請求項1~11のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項13】
第2のポリマーフィラメント層が、30~70%の平均多孔度を有する、請求項1~12のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項14】
第2のポリマーフィラメント層が、50~300μmの範囲の平均孔径を、好適に有する、請求項1~13のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項15】
実質的に二次元/平面の形態であり、第1及び第2の主要面の長さ及び幅は、パッチの厚さよりも実質的に大きい、請求項1~14のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項16】
第1のポリマーフィラメント層のフィラメントが、18°以下の標準偏差で配向する、請求項1~15のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項17】
血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層が、1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含む、請求項1~16のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項18】
生体適合性接着剤のコーティングが、ポリマー基材の第2の主要面上に配置される、請求項1~17のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項19】
ポリマー基材の第2の面が、血管修復パッチを血管壁に固定するために適合している物理的固定手段を含み、前記物理的固定手段が、複数のマイクロニードルを含む、請求項1~18のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項20】
ポリマー基材の第2のポリマーフィラメント層が、1つ以上の血栓形成剤を含む、請求項1~19のいずれかに記載の血管修復パッチ。
【請求項21】
以下を含む、請求項1~20のいずれかにおいて定義される血管修復パッチを作製する方法:
(a)(i)平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含む第1のポリマーフィラメント層;及び(ii)ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む第2のポリマーフィラメント層の少なくとも一つを形成することにより、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を提供すること。
【請求項22】
以下をさらに含む、請求項
21に記載の方法:
(b)1つ以上の細胞外マトリクス化合物をポリマー基材の第1の主要面に塗布すること;及び/又は
(c)1つ以上の血栓形成剤を前記ポリマー基材の第2の主要面に塗布すること。
【請求項23】
第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を含む、血管障害を処置する方法において用いるための血管修復パッチであって、前記基材が少なくとも以下を含むもの:
(i)平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含む、前記第1の主要面に隣接する第1のポリマーフィラメント層;及び
(ii)ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む、前記第2の主要面に隣接する第2のポリマーフィラメント層、ここで、前記方法は、
第1のポリマーフィラメント層は、血管壁に向かわないように配置され、及び
第2のポリマーフィラメント層は、血管壁に向かって配置されるように、
前記血管修復パッチを血管内に配置すること
を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、損傷がある脈管構造の修復に有用である組織修復装置に関する。より具体的には、本願は、損傷がある血管に接着して血管障害を被覆して補強し、血管再生を促進する、人工ポリマーパッチの形態の装置に関する。本発明はさらに、装置を作製する方法及び損傷がある脈管構造の修復、特に大動脈解離の修復のために本装置を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管壁は、異なる組成及び機能を持つ、血管外膜として知られている最大3層の別個の層を含有し得る。動脈壁の断面(110)の構造を
図1で示す。動脈壁の最も内側の層(101)は「内膜」であり、これは、繊細な結合組織からなる内皮下層により支持されている内皮と呼ばれる内皮細胞の単層(102)を含む。内膜は、「内弾性板」(103)として知られる弾性膜層で支持される。内弾性板は、内膜を次の層である「中膜」(104)から分離する。中膜は、コラーゲン及び他の弾性繊維の形で細胞外マトリクス(ECM)に埋め込まれた平滑筋細胞(105)を含有する厚い中間層である。平滑筋細胞はラメラ状に配置され、血管周囲で環状に配置される。中膜の平滑筋細胞の刺激により、血管が拡張及び収縮することが可能になる。「外弾性板」(106)として知られる別の弾性膜層は、血管壁の3番目の最外層である「外膜」(107)から中膜を分離する。外膜は主に線維芽細胞(109)及び神経を支持するコラーゲン組織(108)により構成される。大血管において、血管外膜は、中間部の外側部分にも浸透し、酸素及び栄養を血管壁に供給する小血管のネットワークである栄養血管も含有する。
【0003】
ECMは分子ネットワークであり、血管に対する支持ネットワークとして働く、活動的で、動力学的な構造である。コラーゲン及びエラスチンはECMの2つの主要構成成分であり、残りは、フィブロネクチン、無晶性又は可溶性プロテオグリカン、ロイシンリッチ糖タンパク質及びミクロフィブリルのような他の少量ではあるが関連する分子からなる。ECMとの細胞相互作用は、細胞接着、遊走、増殖及び組織構造などの主要な血管機能を調節する。タンパク質分布は壁全ての間で線形的ではなく;一部の構成成分は、線維芽細胞、平滑筋細胞及び内皮細胞によって分泌及び調整され、他の構成成分は特定の血管壁の層に依存する。
【0004】
コラーゲンは、血管膨張を制限する非常に硬いタンパク質である。I型及びII型コラーゲンは、健常及び損傷動脈壁の両方における中膜及び外膜層の主要なコラーゲンである。コラーゲンは血管細胞とも相互作用する。平滑筋細胞の場合、コラーゲンは、細胞分化、接着、遊走、増殖及びアポトーシスに関与する(重合コラーゲンは、活性MMP-1の産生を増加させることにより、平滑筋細胞アポトーシスを増加させる)。内皮細胞の場合、コラーゲンはこの細胞型の生成及び接着を妨げ、またコラーゲンは脈管形成における内皮細胞活動にも影響を与える。
【0005】
エラスチンは不溶性で疎水性のタンパク質である。その沈着は中間層に限定され、ECMの主要構成成分を形成し、血管壁の乾燥重量の50%を構成する。さらに、これは弾性繊維の最大構成成分である(~90%)。機械的完全性に加えて、弾性板は血管の弾性に寄与する。特に動脈は動脈圧によって誘発される大規模な機械的ストレスにさらされ、エラスチンは動脈壁の弾性収縮を可能にする。インビトロで、多くの細胞がトロポエラスチン、エラスチン分解産物及びエラスチンペプチドに応答して遊走及び増殖を示す。
【0006】
フィブロネクチンは、ECMの重要なタンパク質であるだけでなく、体内の血漿及び他の体液の豊富に存在する構成成分でもある、大きな糖タンパク質である。フィブロネクチンは、ジスルフィド結合の対によって共有結合される2個のほぼ同一のサブユニットから構成される。各単量体は、I型、II型及びIII型という3種類の反復単位からなる。フィブロネクチンの構造から、このタンパク質が多岐にわたる細胞相互作用に介在する理由が明らかになる。反復単位のセットは、インテグリンを通じて細胞表面に結合し、ヘパリン、コラーゲン/ゼラチン及びフィブリンなどの他の細胞外マトリクス分子にも結合する結合ドメインを構成する。フィブロネクチンは、インテグリン受容体ファミリーにおける数十種類の分子に対するリガンドである。これらは、フィブロネクチンを細胞内細胞骨格と連結し、細胞に構造的機能を付与する細胞表面ヘテロ二量体受容体である。フィブロネクチンの生物学的活性としては、細胞接着、増殖及び分化並びに胚形成及び創傷治癒への介在が挙げられる。
【0007】
ラミニンは、血管基底膜の主要構成成分の1つをなす高分子量タンパク質である。これらは、交差して他の細胞膜及び細胞外マトリクス分子に結合し得る十字構造を形成する、α、β及びγ鎖から構成される。ラミニンは、細胞遊走、生存、増殖及び分化を制御するシグナル伝達などの基底膜の生物学的機能に関与すると考えられる。これらの生物学的役割は、主にラミニンα鎖と細胞表面受容体との相互作用によるものである。
【0008】
ECM構成成分を含む血管壁の損傷は、血管の完全性を損ない、アテローム性動脈硬化症、血栓症、動脈瘤又は解離のようないくつかの血管疾患の発症を引き起こす。血管の損傷は、炎症過程、ECM分解過程又は外部損傷によって引き起こされ得る。従って、ECMの状態は、疾患進行に根本的に影響する。
【0009】
大動脈解離(AD)は、いわゆる急性大動脈症候群の最も頻繁であり壊滅的な症状である。これは、大動脈の内膜層の断裂又は大動脈壁内の出血によって引き起こされ、その結果、大動脈壁の層が分離(解離)する、生命にかかわる状態である。血流により大動脈壁の層が引き離され、その結果、層と層との間に偽腔として知られる経路が形成される。血液が充満した経路が大動脈壁の外側を通り抜けて破裂すると、この状態は致命的となり得る。
【0010】
大動脈解離の発生率は年間10,000人あたり約1人と推定され、男性に多く、67.5%を占める。大動脈解離を発症する最も頻繁な危険因子は、年齢、高血圧(患者の80%)、アテローム性動脈硬化症(患者の30%)、以前の心臓手術歴(患者の15%)及び以前のカテーテルに基づく手順による医原性の原因(患者の4%)である。マルファン症候群及びロイス-ディーツ症候群のような結合組織の遺伝性疾患は、大動脈解離と強く関連する。全ての大動脈解離は弾性繊維の断片化及び/又は平滑筋細胞核の喪失を呈し、解離前の内膜の機能不全が根底にあることが明らかに示される。
【0011】
ADは2つの主要な事象により引き起こされ得る。最も一般的であるのは、内膜断裂の形成であり、これによって血流が動脈壁を通過できるようになり、強引に層が分離され、内膜フラップが形成される。第2の事象は、栄養血管の破裂であり、これもまた内膜出血を引き起こし、最終的には大動脈解離の形成に至り得る。両状態は共存し得る。
【0012】
ADを修復するための処置は、他の血管処置とは異なる速度で進化してきた。最近まで、解離部分の外科的置換術(開胸修復術とも呼ばれる)が唯一の有効な処置であった。大動脈解離の外科的修復には、大動脈の損傷部分を人工血管で置き換えることが含まれ、殆どの重症例では、弁の交換も必要となる。手術は非常に困難で侵襲的であり、胸腔の開口、心肺バイパス及び体温低下を必要とするため、死亡率及び罹病率が高くなる。症例の30%前後は、手術成功後5~10年で再介入が必要となり、患者が手術から完全に回復したとしても、生涯にわたる降圧薬の投薬が必要である。介入の明白な侵襲性及び副作用にもかかわらず、これは依然として、複雑な解離に対する推奨処置である。
【0013】
ごく最近、大動脈解離の胸部血管内修復のための方法が開発された。大動脈解離の血管内修復は、植え込まれるステントを運ぶカテーテルが大腿動脈を通じて導入される、低侵襲性の介入である。カテーテルは、解離したセグメント上に配置するためにステントを誘導し、断裂を被覆し、血流を再び導く。血管内修復は、開胸手術と比較して、死亡率が低く、入院期間が短縮されるが、多くの制限がある。ステントは本来、大動脈瘤を処置するために設計されたものであり、大動脈解離にそれを使用することはほぼ適応外である。多くの患者において、植え込み物は患者の大動脈に完全には適合しない。ステントの拡張が不十分である場合、血栓が形成され得、及び/又は植え込み物が時間とともにずれ得る。ステントが過度に拡張すると、内腔に沿って微小な損傷が生じ、既に危険にさらされている血管をさらに傷付ける。どちらの場合も、長期的な再介入は本質的に避けられない。さらに、開胸又は血管内修復の両方で使用される植え込み物は機械的修復をもたらすが、偽腔の凝固及び再吸収を能動的に促進せず、血管リモデリング及び再生も促成しないので、内皮がその機能を完全に回復することはない。
【0014】
従って、その元の形態及び機能を回復させるために損傷血管組織の再生に焦点を当てる、大動脈解離及び他のタイプの血管損傷の処置のための装置及び方法が当技術分野で必要とされている。理想的には、このような方法は低侵襲性であり(即ち血管内配置に適切)、この装置は、血管障害を被覆して即時の構造修復をもたらし得、障害部分の被覆後に、治癒、細胞再生及び完全な血管回復を促進する。適切には、この装置は血管機能の完全な修復及び回復後に再吸収可能である。血管の細胞再生は、何らかの植え込み関連の副作用を防止するか又は最小限に抑え、それにより再介入率を低下させる。
【発明の概要】
【0015】
本発明の第1の態様によれば、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を含む血管修復パッチが提供され、この基材は少なくとも:
(i)平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含む第1の主要面に隣接する第1のポリマーフィラメント層と、
(ii)ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む第2の主要面に隣接する第2のポリマーフィラメント層と、
を含む。
【0016】
従って、血管修復パッチは、ポリマーフィラメントの2つの異なる層を有するポリマー基材を含む。ポリマーフィラメントの異なる配向の結果として、第1及び第2のポリマーフィラメント層は非常に異なる特性を有する。第1のポリマーフィラメント層は、平行に配向するポリマーフィラメントを含み、血管障害の修復のためにパッチが配置されるとき、パッチの内腔側を形成する(即ち血管壁に背を向ける)ことが意図される。第2のポリマーフィラメント層は、ランダムに配向するポリマーフィラメントを含み、パッチが血管障害の修復のために配置されるとき、パッチの非内腔側を形成する(即ち血管壁に向かって配置される)ことが意図される。血管障害の修復に対する以前のアプローチは、障害部分のみを被覆し、障害部分から離れて血流を再び導くだけである永久パッチの使用を含むが、一方で、本発明の血管修復パッチは、健常な脈管構造の修復及び再生を促進することが分かった。
【0017】
特に、ポリマーフィラメントの配向を通じて、第1及び第2のポリマーフィラメント層は、健常な血管壁の構造を修復するように、内皮細胞及び平滑筋細胞の遊走及び増殖をそれぞれ誘導し得ることが分かった。より具体的には、第1のポリマーフィラメント層の平行配向フィラメントは、パッチの非内腔側にわたる二次元内皮細胞遊走を促進し、介入のおよそ2~4週間後に内皮細胞単層がパッチ上に形成されるようになることが分かった。第2のポリマーフィラメント層のランダム配向フィラメントは、介入後12か月前後の期間にわたってフィラメントマトリクスへの三次元平滑筋細胞の遊走を促進することも分かった。従って、第1及び第2のポリマーフィラメント層のフィラメント配向を制御することにより、インビボでの血管修復パッチの性能が最適化される。
【0018】
本発明によるパッチは有利に、大動脈と同様の粘弾特性を有することが発見された。インビボで使用する場合、本発明のパッチは、パッチの性能を損ない得る、ずれの発生又はねじれ若しくは折れ曲がりの形成が起こらないように、大動脈の動きを補完する。さらに、本発明のパッチを大動脈に適用しても、大動脈の機械的特性に顕著な変化が生じず、粘弾性が失われることはなく、従って修復過程中に通常どおり機能し続け得る。これは、大動脈と同様の粘弾特性を持たない当技術分野の装置(例えば植え込みステント)とは対照的である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、ポリマー基材は、DMAによって測定されるとおり(実験の詳細については例を参照)、1~3MPa、例えば約2MPaの貯蔵弾性率を有する。これは、0.75~1.25MPa前後の範囲であり得る健康なヒト大動脈の弾性に匹敵する。本発明のパッチの弾性率は、ランダムに並んでいるか又は配向する繊維の何れかの単層を含む比較パッチよりもはるかに低いことが分かった。理論に縛られるものではないが、機械的特性がそのまま個々の層の構造から生じる単層パッチと比較して、本発明のパッチにおける2層間の界面の存在により、機械的挙動が改善すると考えられる。
【0020】
血管修復パッチは、例えばカテーテルを介した、低侵襲性の血管内法によって都合よく配置される。
【0021】
ポリマー基材は、好ましくは、第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが、1つ以上の生体吸収性ポリマーから形成され得る生体吸収性ポリマー基材である。第1のポリマーフィラメント層の生体吸収性ポリマーフィラメントは、第2のポリマーフィラメント層の生体吸収性ポリマーフィラメントと同じ生体吸収性ポリマーを含み得る。或いは、第1のポリマーフィラメント層の生体吸収性ポリマーフィラメントは、第2のポリマーフィラメント層の生体吸収性ポリマーフィラメントとは異なる生体吸収性ポリマーを含み得る。
【0022】
ポリマー基材が複数の生体吸収性ポリマーを含む場合、第1及び第2のポリマーフィラメント層は、異なる重量比又は同じ重量比の生体吸収性ポリマーの同じ組み合わせを含み得る。好ましくは、第1及び第2のポリマーフィラメント層のフィラメントは、使用される生体吸収性ポリマーのタイプ及び(適切な場合)その重量比の両方に関して、同じポリマー組成を有する。
【0023】
本発明の観点で、「生体吸収性」という用語は、ある期間にわたって身体によって安全に吸収され得るポリマー材料を指す。適切な生体吸収性ポリマーとしては、生体吸収性ポリエステル、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-DL-ラクチド(PDLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリグリコリド(PG)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(グリコリド-コ-カプロラクトン)(PGCL)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボナート(PGA-コ-TMC))、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ-(L-ラクチド-コ-カプロラクトン)(PLLA-コ-CL)、ポリ-(D-ラクチド-コ-カプロラクトン)(PDLA-コ-CL)、ポリ-(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン(PDLLA-コ-CL)の1つ以上から選択される生体吸収性ポリエステルが挙げられる。本明細書中で定義されるようなコポリマーは、ランダム、ブロック及び交互コポリマーを含む。
【0024】
ポリマーフィラメントが複数のタイプの生体吸収性ポリマーを含む場合、ポリマーフィラメントは好ましくはそれぞれ、生体吸収性ポリマーのブレンド物を含む。しかし、層内のポリマーフィラメントが、第1の生体吸収性ポリマー又はポリマーブレンド物を含む複数のフィラメント、及び第2の生体吸収性ポリマー又はポリマーブレンド物を含む別の複数のフィラメントを含み得ることは、除外されない。
【0025】
好ましい生体吸収性ポリマーは、PCL及びPGLAを含み、ここでPGLAは、80:20~20:80、好ましくは約50:50のラクチド:グリコリド比を含む。好ましい基材では、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、PCL又はPGLAを含むか又はそれからなる。より好ましくは、生体吸収性基材は、第1及び第2のポリマーフィラメント層の両方のポリマーフィラメントが、PCL若しくはPGLAを含むか又はそれからなるものである。さらにより好ましくは、第1及び第2のポリマーフィラメント層の両方のポリマーフィラメントが、PCLを含むか若しくはそれからなるか、又は第1及び第2のポリマーフィラメント層の両方のポリマーフィラメントが、PGLAを含むか若しくはそれからなる。
【0026】
一実施形態では、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも50wt%のPCL、より好ましくは少なくとも60wt%のPCL、より好ましくは少なくとも70wt%のPCL、より好ましくは少なくとも80wt%のPCLを含む。例えば、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも90wt%のPCL、少なくとも95wt%のPCL、少なくとも98wt%のPCL、少なくとも99wt%のPCL又は100wt%のPCLを含み得る。
【0027】
場合によっては、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも50wt%のPCL及び最大50wt%のPLA、PLLA、PDLA、PDLLA、PGA、PG、PLGA、PGCL、PLLA-コ-CL、PDLA-コ-CL又はPDLLA-コ-CLを含む。PCLとともに、ポリマーフィラメント中に少量の、PLA、PLLA、PDLA、PDLLA、PGA、PG、PLGA、PGCL、PLLA-コ-CL、PDLA-コ-CL又はPDLLA-コ-CLのうち1つ以上を含めることによって、PCL単独の場合と比較したとき、生体吸収性ポリマーの生体再吸収時間が短縮される。
【0028】
より好ましくは、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも50wt%のPCL及び最大50wt%のPLGA、より好ましくは少なくとも60wt%のPCL及び最大40wt%のPLGA、より好ましくは少なくとも70wt%のPCL及び最大30wt%のPLGA、より好ましくは少なくとも80wt%のPCL及び最大20wt%のPLGAを含む。上記のように、PLGAを含めることにより、PCL単独と比較した場合、生体吸収性ポリマーの生体再吸収時間を短縮するための好ましい方法が提供される。PLGAにおけるラクチド対グリコリド単量体の比は、好ましくは80:20~20:80、より好ましくは約50:50であるが、必要な生体再吸収特性に従って他の比が選択され得る。
【0029】
場合によっては、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも50wt%のPCL又はPGLA、より好ましくは少なくとも60wt%のPCL又はPGLA、より好ましくは少なくとも70wt%のPCL又はPGLA、より好ましくは約80wt%のPCL又はPGLA及びゼラチン、スクアレン及びクエン酸トリエチルの少なくとも1つのブレンド物を含む。
【0030】
例えば、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも70wt%のPCL又はPGLA及び最大30wt%のゼラチン、より好ましくは少なくとも80wt%のPCL又はPGLA及び最大20wt%のゼラチンのブレンド物を含み得る。例えば、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、80wt%のPCL又はPGLA及び20wt%のゼラチンを含み得る。
【0031】
或いは、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも80wt%のPCL又はPGLA及び最大20wt%のスクアレン、より好ましくは少なくとも85wt%のPCL又はPGLA及び最大15wt%のスクアレンのブレンド物を含む。例えば、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、85wt%のPCL又はPGLA及び15wt%のスクアレンを含み得る。ポリマーフィラメント中にスクアレンを含めると、PCL又はPGLA単独と比較した場合、硬化度が低下し、粘弾性が向上することが分かった。
【0032】
或いは、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、少なくとも80wt%のPCL又はPGLA及び最大20wt%のクエン酸トリエチル、より好ましくは少なくとも85wt%のPCL又はPGLA及び最大15wt%のクエン酸トリエチルのブレンド物を含む。例えば、第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントは、85wt%のPCL又はPGLA及び15wt%のクエン酸トリエチルを含み得る。ポリマーフィラメント中にクエン酸トリエチルを含めると、PCL又はPGLA単独と比較した場合、硬化度が低下し、さらに粘弾性が向上することも分かった。
【0033】
生体吸収性ポリマーは、生体吸収が外科的介入後1~2年の期間にわたってゆっくりと起こるように適切に選択される。このタイムスケールにより、血管障害の十分な修復が可能になり、パッチからのさらなる機械的支持が、障害部分を被覆し、再生血管壁を補強するためにもはや必要ではなくなることが分かった。
【0034】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントは、適切には、1~20μm、より好ましくは1~15μm、より好ましくは2~10μm、より好ましくは3~8μmの範囲の、より好ましくは約5μmの平均フィラメント径を有する。本明細書中で使用される場合、平均フィラメント径は、少なくとも25本のフィラメントの直径の平均数の平均(mean number average)を指し、フィラメント径は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像でのフィラメントの長軸に対して垂直に行う測定により決定される(実験の詳細については例を参照)。
【0035】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のフィラメント径は、場合によっては、0.2~2μmの範囲の1つのピーク及び2.5~10μmの範囲の第2のピークを有する二峰性分布を形成し得る。より小さな直径のフィラメントを含めることにより、平滑筋細胞の初期コロニー形成のためのマトリクスが改善されることが分かった。次に、これらの直径がより小さいフィラメントは、細胞外マトリクスが修復されるとすぐに生体吸収される。
【0036】
フィラメントは、好ましくは、最大直径の20%以下、好ましくは最大直径の10%以下の直径の変動で、その長さに沿って一貫した直径を有する。
【0037】
ポリマーフィラメントは、好ましくは電界紡糸フィラメントである。電界紡糸は、接地コレクターに向かって紡糸チップからポリマー溶液の帯電糸を引き出すために電気力を使用する、ポリマーフィラメントの製造方法である。接地コレクターは、紡糸チップとの電位差を生じさせ、紡糸チップからポリマー溶液を引き出すために接地される、導電性材料を含む。コレクターは、平面板(電界紡糸フィラメントのランダム配向ウェブを作製)又は回転ドラム(電界紡糸フィラメントの整列したウェブを作製、整列の程度はドラムの回転速度に依存する)など、多くの構造を有し得る。電界紡糸フィラメントの使用によって、血管修復パッチの、必要とされる平行配向及びランダム配向層を得る簡単な手段がもたらされる。さらに、ポリマーフィラメントを電界紡糸すると、パッチの硬化度が低下し、健常血管と同様の機械的特性を有するパッチが得られることが分かった。
【0038】
好ましい実施形態では、ポリマー基材は、0.5~3.0MPaの範囲のヤング率を有する。これは、人間の大動脈に対して約0.3~10MPa前後の範囲に匹敵する(0.3MPaの値は健常で若い大動脈に相当し、10MPaの値は老化して不健康な大動脈に相当)。
【0039】
平行配向PCL繊維のSEM画像を
図2で示し、ランダム配向PCLフィラメントのSEM画像を
図3で示す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「平行に配向」及び「平行配向」という用語は、第1のポリマーフィラメント層のフィラメントが36°以下(即ち180°の20%)、最も好ましくは18°以下(即ち180°の10%)の標準偏差で配向していることを意味する。
【0041】
本明細書で使用される場合、「ランダムに配向」及び「ランダム配向」という用語は、第2のポリマーフィラメント層のフィラメントが少なくとも45°(即ち180°の25%)、より好ましくは少なくとも54°(即ち180°の30%)、より好ましくは少なくとも63°(即ち180°の35%)、より好ましくは少なくとも72°(即ち180°の40%)、より好ましくは少なくとも81°(即ち180°の45%)、より好ましくは少なくとも90°(即ち180°の50%)の標準偏差で配向していることを意味する。
【0042】
好ましくは、第1のポリマーフィラメント層のフィラメントは、36°以下の標準偏差で配向し、第2のポリマーフィラメント層のフィラメントは、少なくとも45°、より好ましくは少なくとも54°、より好ましくは少なくとも63°、より好ましくは少なくとも72°の標準偏差で配向する。
【0043】
さらにより好ましくは、第1のポリマーフィラメント層のフィラメントは、18°以下の標準偏差で配向し、第2のポリマーフィラメント層のフィラメントは、少なくとも63°、より好ましくは少なくとも72°、より好ましくは少なくとも81°、より好ましくは少なくとも90°の標準偏差で配向する。
【0044】
本明細書中に記載のような各層のフィラメント配向は、標準のオープンソースImageJプラグインであるOrientationJを使用して決定される測定値を指し、これは配向分布出力を生成させる。例えば、ImageJ(v1.52i)を使用して測定値を決定し得る。
【0045】
第2のポリマーフィラメント層は、適切には、30~70%、好ましくは40~60%、より好ましくは50%前後の平均多孔度を有する。
【0046】
第2のポリマーフィラメント層は、適切には、50~300μm、より好ましくは100~250μm、より好ましくは150~200μmの範囲の平均孔径を有する。第2のポリマーフィラメント層のランダム配向ポリマーフィラメントにより形成される細孔構造は、平滑筋細胞の遊走及び成長のための複数のチャネル又は通路をもたらす。平滑筋細胞の側径は5~100μmの範囲であり、従って上記で設定される好ましい孔径を使用すると、各孔は通常、第2のポリマーフィラメント層のランダム配向したフィラメントネットワーク内の2~5個の相互接続した細胞のネットワークに適応し得る。
【0047】
本明細書中に記載のような多孔度及び孔径は、標準的なオープンソースImageJプラグインであるDiameterJを使用して決定される測定値を指し、これは孔径分布出力を生成させる。本明細書中で定義される場合、「多孔度」という用語は、面積に基づいて(細孔面積/総面積)計算される。例えば、ImageJ(v1.52i)を使用して測定値を決定し得る。
【0048】
第1及び第2のポリマーフィラメント層のそれぞれは、好ましくは独立して10μm~200μm、より好ましくは20μm~100μm、より好ましくは30μm~70μmの範囲、例えば約50μmの厚さを有する。
【0049】
本発明の血管修復パッチは、実質的に二次元/平面の形態であり、第1及び第2の主要面の長さ及び幅は、パッチの厚さよりも実質的に大きい。
【0050】
本発明の血管修復パッチの全体的厚さは、好ましくは20μm~500μm、より好ましくは50μm~200μm、より好ましくは50μm~150μmの範囲、例えば約100μmである。
【0051】
本発明の血管修復パッチの長さ及び幅は、好ましくは、それぞれ独立して、10~50mm、より好ましくは20~40mmの範囲である。例えば、本パッチは、25~35mmの長さ及び15~25mmの幅を有し得、大動脈修復のためのパッチの特に好ましい寸法は、長さ30mm及び幅20mmを含む。
【0052】
本発明の血管修復パッチは、血管障害を覆う配置に適した何らかの形状を有し得る。例えば、パッチは、正方形、長方形、円形又は楕円形であり得る。
【0053】
好ましい実施形態では、第1のポリマーフィラメント層のフィラメントは、血管修復パッチの長さ方向に実質的に平行に位置し、パッチの長さは、幅よりも大きく、例えば幅よりも少なくとも20%又は少なくとも50%大きい。この立体配置では、本パッチの内腔面は、パッチの配置後に損傷血管を通る血流に平行に配向し得るフィラメントを含む。この立体配置において、平行配向フィラメントは、血管修復パッチの表面にわたる血流に対する抵抗を最小限に抑え、これによりパッチのずれ又は剥離の可能性が低下する。
【0054】
血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層は、好ましくは、1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含む。上記のように、細胞外マトリクスは血管壁で見られる分子ネットワークであり、血管修復パッチの内腔面上に細胞外マトリクス化合物を提供することにより、パッチの非内腔側にわたる内皮細胞遊走が促進され、パッチの上に内皮細胞単層が形成されるようになることが分かった。細胞外マトリクス化合物は、適切には、コラーゲン(特にI型及びII型コラーゲン)、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、VE-カドヘリン、ビトロネクチン、インテグリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケタラン硫酸、ヒアルロン酸並びに、細胞接着及び遊走に最も関係するペプチド配列、例えばArg-Gly.-Asp(RGD)、Arg-Glu-Asp-Val(REDV)、Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)などの1つ以上を含む。血流による洗い流しを防止するために、細胞外マトリクス化合物を第1のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントに水素結合又は共有結合させ得る。
【0055】
好ましくは、細胞外マトリクス化合物は、フィブロネクチン、ラミニン(特にラミニン-511)及びVE-カドヘリンから選択される。特に好ましい細胞外マトリクス化合物はフィブロネクチンである。
【0056】
血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層は、好ましくは、本パッチの第1の面の表面積に基づいて0.5μg/cm2~100μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含む。より好ましくは、血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層は、パッチの第1の面の表面積に基づいて1μg/cm2~50μg/cm2、より好ましくは1.5μg/cm2~20μg/cm2、より好ましくは2μg/cm2~15μg/cm2、より好ましくは2.5μg/cm2~10μg/cm2、より好ましくは3μg/cm2~7μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)の1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含む。
【0057】
本血管修復パッチの第2の面には、血管壁へのパッチの確実な取り付けを容易にし、血流に耐えるようにするために、適切な生体適合性接着剤のコーティングが提供され得る。適切な生体適合性接着剤は、当技術分野で周知であり、合成接着剤(アクリラート、シアノアクリラート及びポリウレタンなど)及び天然ポリマー(ヒアルロン酸、セルロース及びアルギナートなど)が挙げられる。接着の機序は、接着剤と血管組織との間での共有結合及び/又は水素結合の形成を含み得る。本発明のいくつかの実施形態では、生体適合性接着剤は、シアノアクリル酸エチル、シアノアクリル酸エチル及びシリカ粒子の混合物又はシアノアクリル酸ブチルである。
【0058】
或いは、又はさらに、本血管修復パッチの第2の面には、血管壁へのパッチの確実な取り付けを容易にし、血流に耐えるようにするために、複数のマイクロニードルなど、物理的固定手段が提供され得る。マイクロニードルは、適切には、生体吸収性材料、例えば上記の生体吸収性ポリマー材料の1つ以上から形成される。
【0059】
第2のポリマーフィラメント層は、場合によっては1つ以上の血栓形成剤、特に凝固カスケードの1つ以上の構成成分、例えば組織因子(TF又は第III因子)、第VII因子、第X因子及びフィブリンを含み得る。好ましい血栓形成剤はTFである。血管修復パッチの第2のポリマーフィラメント層へのTFなどの血栓形成剤の組み込みにより、ランダム配向フィラメントマトリクスへの平滑筋細胞遊走が促進されることが分かった。
【0060】
血管修復パッチの第2のポリマーフィラメント層は、好ましくは、パッチの第2の面の表面積に基づいて0.5μg/cm2~100μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で1つ以上の血栓形成剤を含む。より好ましくは、血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層は、パッチの第1の面の表面積に基づいて1μg/cm2~50μg/cm2、より好ましくは1.5μg/cm2~20μg/cm2、より好ましくは2μg/cm2~15μg/cm2、より好ましくは2.5μg/cm2~10μg/cm2、より好ましくは3μg/cm2~7μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で1つ以上の血栓形成剤を含む。
【0061】
図4を参照して、本発明の第1の態様の血管修復パッチを概略的に説明する。
図4は、長さ(401)、幅(402)及び厚さ(403)を有するパッチを示し、ここで長さ及び厚さはそれぞれ、本パッチが実質的に二次元/平面の形態となるように、厚さよりも実質的に大きい。本パッチは、第1の主要面(405)に隣接する第1のポリマーフィラメント層(404)及び第2の主要面(407)に隣接する第2のポリマーフィラメント層(406)を有する。第1のポリマーフィラメント層は、複数の平行配向フィラメントを含み、第2のポリマーフィラメント層は、複数のランダム配向フィラメントを含む。
図5は、第2の主要面が複数のマイクロニードル(501)とともに提供されるパッチの改変を示す。
【0062】
本発明の第2の態様によれば、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を含む血管修復パッチが提供され、ポリマー基材は、第1の主要面に隣接する少なくとも1つのポリマーフィラメント層を含み;1つ以上の細胞外マトリクス化合物がポリマー基材の第1の主要面上に配置される。
【0063】
本発明の第2の態様によれば、細胞外マトリクス化合物は、適切には、コラーゲン(特にI型及びII型コラーゲン)、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、VE-カドヘリン ビトロネクチン、インテグリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケタラン硫酸、ヒアルロン酸、並びに、細胞接着及び遊走に最も関係するペプチド配列、例えばArg-Gly.-Asp(RGD)、Arg-Glu-Asp-Val(REDV)、Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)などのうち1つ以上から選択される。血流による洗い流しを防止するために、細胞外マトリクス化合物を第1のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントに共有結合させ得る。好ましくは、細胞外マトリクス化合物は、フィブロネクチン、ラミニン(特にラミニン-511)及びVE-カドヘリンから選択される。特に好ましい細胞外マトリクス化合物はフィブロネクチンである。
【0064】
少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、好ましくは、パッチの第1の面の表面積に基づいて0.5μg/cm2~100μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含む。より好ましくは、血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層は、パッチの第1の面の表面積に基づいて1μg/cm2~50μg/cm2、より好ましくは1.5μg/cm2~20μg/cm2、より好ましくは2μg/cm2~15μg/cm2、より好ましくは2.5μg/cm2~10μg/cm2、より好ましくは3μg/cm2~7μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)の1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含む。
【0065】
少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、好ましくは複数のポリマーフィラメントを含み、このポリマーフィラメントは平行に配向する。場合によっては、本パッチの長さは幅よりも大きく、例えば幅よりも少なくとも20%又は少なくとも50%大きく、第1のポリマーフィラメント層のフィラメントは、血管修復パッチの長さ方向に実質的に平行である。この立体配置では、本パッチの内腔面は、パッチの配置後に損傷血管を通る血流に平行に配向し得るフィラメントを含む。この立体配置において、平行配向フィラメントは、血管修復パッチの表面にわたる血流に対する抵抗を最小限に抑え、これによりパッチのずれ又は剥離の可能性が低下する。
【0066】
ポリマー基材は、好ましくは、少なくとも1つのポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが1つ以上の生体吸収性ポリマーから形成され得る、生体吸収性ポリマー基材である。本発明の第2の態様によれば、ポリマーフィラメントは、本発明の第1の態様に関連して記載される特性の何れかを有し得る。本発明の第1の態様の観点で「好ましい」と特定されるポリマーフィラメントの特徴は何れも、本発明の第2の態様の観点でも好ましい。
【0067】
少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、好ましくは、10μm~200μm、より好ましくは20μm~100μm、より好ましくは30μm~70μmの範囲、例えば約50μmの厚さを有する。
【0068】
本血管修復パッチの第2の面には、血管壁へのパッチの確実な取り付けを容易にし、血流に耐えるようにするために、適切な生体適合性接着剤のコーティングが提供され得る。適切な生体適合性接着剤は上に記載されている。或いは、又はさらに、本血管修復パッチの第2の面には、上記のような物理的固定手段が提供され得る。
【0069】
本発明の第1及び第2の態様によれば、本血管修復パッチは、平行配向フィラメントの配向方向を示すための標識とともに提供され得る。これらの標識は、印刷された標識又はパッチの表面におけるエンボス加工/刻み目の形態をとり得る。或いは、本血管修復パッチはパッケージ中で提供され得、このパッケージは、平行配向フィラメントの配向方向を示すための標識とともに提供される。
【0070】
本発明の第3の態様によれば、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を含む血管修復パッチが提供され、このポリマー基材は、第2の主要面に隣接する少なくとも1つのポリマーフィラメント層を含み;1つ以上の血栓形成剤がポリマー基材の第2の主要面上に配置される。
【0071】
1つ以上の血栓形成剤が、凝固カスケードの1つ以上の構成成分、例えば組織因子(TF又は第III因子)、第VII因子、第X因子及びフィブリンから選択され得る。好ましい血栓形成剤はTFである。
【0072】
少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、好ましくは、パッチの第2の面の表面積に基づいて0.5μg/cm2~100μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で1つ以上の血栓形成剤を含む。より好ましくは、血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層は、パッチの第1の面の表面積に基づいて1μg/cm2~50μg/cm2、より好ましくは1.5μg/cm2~20μg/cm2、より好ましくは2μg/cm2~15μg/cm2、より好ましくは2.5μg/cm2~10μg/cm2、より好ましくは3μg/cm2~7μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で1つ以上の血栓形成剤を含む。
【0073】
少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、好ましくは複数のポリマーフィラメントを含み、このポリマーフィラメントはランダムに配向する。
【0074】
ポリマー基材は、好ましくは、少なくとも1つのポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが1つ以上の生体吸収性ポリマーから形成され得る、生体吸収性ポリマー基材である。本発明の第3の態様によれば、ポリマーフィラメントは、本発明の第1の態様に関連して記載される特徴の何れかを有し得る。本発明の第1の態様の観点で、「好ましい」と特定されるポリマーフィラメントの特性は何れも、本発明の第3の態様の観点でも好ましい。
【0075】
少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、好ましくは、10μm~200μm、より好ましくは20μm~100μm、より好ましくは30μm~70μmの範囲、例えば約50μmの厚さを有する。
【0076】
本血管修復パッチの第2の面には、血管壁へのパッチの確実な取り付けを容易にし、血流に耐えるようにするために、適切な生体適合性接着剤のコーティングが提供され得る。適切な生体適合性接着剤は上に記載されている。或いは、又はさらに、本血管修復パッチの第2の面には、上記のような物理的固定手段が提供され得る。
【0077】
本発明の第1、第2及び第3の態様によれば、本血管修復パッチは、その第1及び第2の面を示すための標識とともに提供され得る。上記のように、本発明のパッチは、好ましくは、第1の面がパッチの内腔側を形成し、第2の面がパッチの非内腔側を形成するように配置される。或いは、本血管修復パッチはパッケージ中で提供され得、このパッケージは、平行配向フィラメントの配向方向を示すための標識とともに提供される。
【0078】
本パッチが平行配向フィラメントを含む場合、本パッチ又は本パッチに対するパッケージ上のこれらの標識は、平行配向フィラメントの配向方向の両方を同時に示し、本パッチの第1及び第2の面を区別し得る。
【0079】
場合によっては、本発明の第1、第2又は第3の態様による血管修復パッチは、移植後感染のリスクを低下させるために1つ以上の抗生物質でコーティングされ得る。
【0080】
本発明の第4の態様によれば、血管障害を処置する方法が提供され、この方法は、血管修復パッチが血管壁の内側に適合するように、血管障害全域にわたり本発明の第1、第2及び第3の態様の何れかによる血管修復パッチを配置することを含む。
【0081】
血管障害「全域にわたる」とは、一般に、本血管修復パッチが二次元で延びて血管障害を完全に被覆し、血管障害への血流を実質的に阻止することを意味する。本血管修復パッチが平行配向フィラメントを含む場合、本パッチの配置後、本パッチの内腔面に隣接する平行配向フィラメントが損傷血管を通る血流に平行に配向するように本パッチを配置することが好ましい。これにより、本血管修復パッチの表面にわたり血流に対する抵抗性が低下し、これによりパッチのずれ又は剥離の可能性が低下する。
【0082】
血管障害は、血管壁、例えば動脈又は静脈の壁の断裂であり得る。より好ましくは、血管障害は大動脈解離である。
【0083】
本発明の第4の態様によれば、本血管修復パッチは、好ましくは、例えば本血管修復パッチを配置するためにカテーテル又はガイドワイヤを使用して、血管内送達系によって配置される。この送達系は、血管障害全域にわたる血管壁へのパッチの固定を容易にするためにパッチに対して十分な力を加え、その後パッチを解放することが可能であるべきである。
【0084】
本血管修復パッチは、好ましくは、第1の面が本パッチの内腔側を形成し、第2の面が本パッチの非内腔側を形成するように配置される。通常、本血管修復パッチは、第2の面上の生体接着剤によって、及び/又は本血管修復パッチの第2の面上に形成される、複数のマイクロニードルなどの物理的固定手段によって適所で保持される。しかし、本パッチがステントなどの外部固定手段によって所定の位置で固定され得ることは除外されない。
【0085】
図6A~6Dを参照して本発明の方法を概略的に説明する。
図6Aは、矢印(602)によって表される血流の方向とともにインタクトな動脈(601)を表す。
図6Bは、血管障害(603)の形成及び偽腔(604)の形成を示す。
図6Cは、本発明による血管修復パッチ(606)を血管障害の部位まで運ぶカテーテル(605)を示し、
図6Dは、血管障害を覆うパッチの配置を示す。
【0086】
図7A~7Fを参照して、本発明の血管修復パッチの操作を概略的に説明する。
図7Aは、内皮(702)を含む、内膜の健常血管(701)、内膜及び、中膜の平滑筋細胞(703)を示す(外膜は示さない)。血流の方向を矢印(704)により示す。
図7Bは、血管障害(705)の形成及び血管壁の層と層との間に偽腔(707)を形成する動脈血(706)の進入を示す。
図7Cは、血管障害(705)上に配置される本発明による血管修復パッチ(708)を示し、本パッチは、平行である複数のポリマーフィラメントを含む第1のポリマーフィラメント層(709)を含み;第2のポリマーフィラメント層(710)はランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む。
【0087】
本パッチは、第1の基材層(709)の第1の主要(内腔)面が血管の内腔に面しており、第2の基材層の第2の主要(非内腔)面が血管壁に対して配置されたランダム配向フィラメントを含んで配置される。
図7Dは、外科的介入後2~4週間前後での本発明の血管修復パッチを示し、その時までに、上皮細胞の単層(711)が内腔面を覆うように形成される。
図7Eは、外科的介入後1~12か月前後での本発明の血管修復パッチを示し、その時までに平滑筋細胞(712)が本装置の第2のポリマーフィラメント層に遊走した。最後に、
図7Fは、血管壁の完全な細胞再生及び血管修復パッチの生体吸収後に形成される健常な再生血管を示す。
【0088】
本発明の第5の態様によれば、血管障害を処置する方法での使用のための細胞外マトリクス化合物が提供され、この細胞外マトリクス化合物は、本発明の第1又は第2の態様による血管修復パッチの形態であり、本方法は、本血管修復パッチが血管壁の内側に適合するように、血管障害全域にわたり本血管修復パッチを置くことを含む。
【0089】
細胞外マトリクス化合物は、コラーゲン(特にI型及びII型コラーゲン)、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、VE-カドヘリン、ビトロネクチン、インテグリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケタラン硫酸、ヒアルロン酸及び、例Arg-Gly.-Asp(RGD)、Arg-Glu-Asp-Val(REDV)、Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)から選択されるペプチド配列のうち1つ以上から選択され得る。
【0090】
好ましくは、細胞外マトリクス化合物は、フィブロネクチン、ラミニン(特にラミニン-511)及びVE-カドヘリンから選択される。より好ましくは、細胞外マトリクス化合物はフィブロネクチンである。
【0091】
本発明の第6の態様によれば、血管障害を処置する方法での使用のための血栓形成剤が提供され、この血栓形成剤は、本発明の第1又は第3の態様による血管修復パッチの形態であり、本方法は、本血管修復パッチが血管壁の内側に適合するように、血管障害全域にわたり本血管修復パッチを置くことを含む。
【0092】
血栓形成剤は、凝固カスケードの1つ以上の構成成分、例えば組織因子(TF又は第III因子)、第VII因子、第X因子及びフィブリンから選択され得る。好ましくは血栓形成剤はTFである。
【0093】
本発明の第7の態様によれば、本発明の第1の態様による血管修復パッチを作製する方法が提供され、この方法は、
(a)(i)平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含む第1のポリマーフィラメント層;及び(ii)ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも1つを形成させることにより、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を提供すること
を含む。
【0094】
本方法は、場合によっては、以下の段階:
(b)1つ以上の細胞外マトリクス化合物をポリマー基材の第1の主要面に塗布すること;及び/又は
(c)1つ以上の血栓形成剤をポリマー基材の第2の主要面に塗布すること
をさらに含み得る。
【0095】
本発明の第7の態様の方法は、本発明の第1の態様に関連して既に述べた好ましい/任意の特徴の何れかを有し得る。特に、ポリマーフィラメントのタイプ及び寸法並びに細胞外マトリクス化合物及び/又は血栓形成剤のタイプ及び量は、本発明の第1の態様に関して記載されるとおりであり得る。同様に、ポリマー基材は、本発明の第1の態様に関して記載される寸法、形状又は物理的特性の何れかを有し得る。
【0096】
段階(a)は、電界紡糸によって第1のポリマーフィラメント層及び/又は第2のポリマーフィラメント層を形成させることを含み得る。コレクターは、平面板(電界紡糸フィラメントのランダム配向ウェブを作製)又は回転ドラム(電界紡糸フィラメントの整列したウェブを作製、整列の程度はドラムの回転速度に依存する)など、多くの構造を有し得る。例えば、ポリマー(例えば上記のような生体吸収性ポリマー)は、5%~15%w/vの範囲の濃度で溶媒中で溶解され得る。
【0097】
適切な溶媒としては、クロロホルム、クロロホルムとジメチルホルムアミドとの混合液(例えば90vol%クロロホルム及び10vol%ジメチルホルムアミド)又はクロロホルムとジメチルスルホキシドとの混合液(例えば90vol%のクロロホルム及び10vol%のジメチルスルホキシド)が挙げられる。
【0098】
次に、ポリマー溶液をシリンジポンプに入れ、500~5,000μL/hの範囲の体積流量でコレクターに向かって推進する。シリンジポンプは通常、コレクターから15~30cmの距離に配置し、20~30kVの範囲の電位をシリンジとコレクターとの間にかける。このように形成された電界紡糸フィラメントウェブをコレクターから取り出す前に乾燥させる。
【0099】
第1及び第2のポリマーフィラメント層を場合によっては個別に形成し、その後一緒に合わせ得る。或いは、第1及び第2のポリマーフィラメント層を各層の連続的電界紡糸によって形成し得る。
【0100】
段階(b)及び/又は(c)の前に、細胞外マトリクス化合物及び/又は血栓形成剤のパッチへの接着を向上させ、これらの構成成分が血流によりパッチから洗い流されるのを防ぐために、ポリマー基材に対してプラズマ処理を行い得る。プラズマ処理は、大気圧コロナ放電を使用して、又は真空下で、空気、酸素、窒素、アルゴン及びそれらの組み合わせを含み得るガスを使用して、実行し得る。好ましいプラズマ処理は、酸素又は酸素とアルゴンとの混合物を約0.15mbarの圧力で使用する。
【0101】
細胞外マトリクス化合物及び/又は血栓形成剤は、何らかの適切な方法によってポリマー基材に塗布し得、例えば、スプレーアプリケーター、ローラーアプリケーターを使用して、又は基材の表面を細胞外マトリクス化合物及び/又は血栓形成剤の水溶液に浸すことによって、細胞外マトリクス化合物及び/又は血栓形成剤の水溶液を塗布する。
【0102】
好ましい一方法では、第1の基材層を1つ以上の細胞外マトリクス化合物の溶液に含浸するために、1つ以上の細胞外マトリクス化合物の約100μg/mLを含む水溶液にポリマー基材の第1の面を浸す。次に、第1の基材層において1つ以上の細胞外マトリクス化合物の分散を提供するために、含浸した基材を乾燥させる。
【0103】
別の好ましい方法では、第2の基材層を1つ以上の血栓形成剤の溶液に含浸するために、1つ以上の血栓形成剤の約100μg/mLを含む水溶液にポリマー基材の第2の面を浸す。次に、第2の基材層において1つ以上の血栓形成剤の分散を提供するために、含浸した基材を乾燥させる。
【0104】
本方法は、ポリマー基材の第2の面上に生体適合性接着剤のコーティングを提供することをさらに含み得る。適切な生体適合性接着剤は、本発明の第1の態様について記載のとおりである。
【0105】
本方法は、ポリマー基材の第2の面上に複数のマイクロニードルなどの物理的固定手段を提供することをさらに含み得る。
【0106】
本発明の第8の態様によれば、本発明の第2の態様による血管修復パッチを作製する方法が提供され、この方法は、
(a)少なくとも1つの、平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含むポリマーフィラメント層を形成させることにより、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を提供すること;及び
(b)1つ以上の細胞外マトリクス化合物をポリマー基材の第1の主要面上に塗布すること
を含む。
【0107】
本発明の第8の態様の方法は、本発明の第1の態様に関連して既に述べた好ましい/任意の特性の何れかを有し得る。特に、ポリマーフィラメントのタイプ及び寸法並びに細胞外マトリクス化合物のタイプ及び量は、本発明の第1の態様に関して記載されるとおりであり得る。同様に、ポリマー基材及び少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、本発明の第1の態様に関連して記載されるポリマー基材及び第1のポリマーフィラメント層に関して記載される寸法、形状又は物理的特性の何れかを有し得る。
【0108】
段階(a)は、本発明の第7の態様に関連して上で述べたように、電界紡糸によって少なくとも1つのポリマーフィラメント層を形成させることを含み得る。
【0109】
本発明の第7の態様に関連して上で述べたように、ポリマー基材に対して工程(b)の前にプラズマ処理を行い得る。
【0110】
細胞外マトリクス化合物は、何らかの適切な方法によってポリマー基材に塗布し得、例えば、スプレーアプリケーター、ローラーアプリケーターを使用して、又は基材の表面を細胞外マトリクス化合物の水溶液に浸すことによって、細胞外マトリクス化合物の水溶液を塗布し得る。
【0111】
好ましい一方法では、第1の基材層を1つ以上の細胞外マトリクス化合物の溶液に含浸するために、1つ以上の細胞外マトリクス化合物の約100μg/mLを含む水溶液にポリマー基材の第1の面を浸す。次に、第1の基材層において1つ以上の細胞外マトリクス化合物の分散を提供するために、含浸した基材を乾燥させる。
【0112】
本方法は、ポリマー基材の第2の面上に生体適合性接着剤のコーティングを提供することをさらに含み得る。適切な生体適合性接着剤は、本発明の第1の態様について記載のとおりである。
【0113】
本方法は、ポリマー基材の第2の面上に複数のマイクロニードルなどの物理的固定手段を提供することをさらに含み得る。
【0114】
本発明の第9の態様によれば、本発明の第3の態様による血管修復パッチを作製する方法が提供され、この方法は、
(a)少なくとも1つの、ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含むポリマーフィラメント層を形成させることにより、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を提供すること;及び
(b)1つ以上の血栓形成剤をポリマー基材の第2の主要面上に塗布すること
を含む。
【0115】
本発明の第9の態様の方法は、本発明の第1の態様に関連して既に述べた好ましい/任意の特性の何れかを有し得る。特に、ポリマーフィラメントのタイプ及び寸法並びに血栓形成剤のタイプ及び量は、本発明の第1の態様に関して記載されるとおりであり得る。同様に、ポリマー基材及び少なくとも1つのポリマーフィラメント層は、本発明の第1の態様に関連して記載されるポリマー基材及び第2のポリマーフィラメント層に関して記載される寸法、形状又は物理的特性の何れかを有し得る。
【0116】
段階(a)は、本発明の第7の態様に関連して上で述べたように、電界紡糸によって少なくとも1つのポリマーフィラメント層を形成させることを含み得る。
【0117】
本発明の第7の態様に関連して上で述べたように、ポリマー基材に対して工程(b)の前にプラズマ処理を行い得る。
【0118】
血栓形成剤は、何らかの適切な方法によってポリマー基材に塗布し得、例えば、スプレーアプリケーター、ローラーアプリケーターを使用して、又は基材の表面を血栓形成剤の水溶液に浸すことによって、血栓形成剤の水溶液を塗布し得る。
【0119】
好ましい一方法では、第2の基材層を1つ以上の血栓形成剤の溶液に含浸するために、1つ以上の血栓形成剤の約100μg/mLを含む水溶液にポリマー基材の第2の面を浸す。次に、第2の基材層において1つ以上の血栓形成剤の分散を提供するために、含浸した基材を乾燥させる。
【0120】
本方法は、ポリマー基材の第2の面上に生体適合性接着剤のコーティングを提供することをさらに含み得る。適切な生体適合性接着剤は、本発明の第1の態様について記載のとおりである。
【0121】
本方法は、ポリマー基材の第2の面上に複数のマイクロニードルなどの物理的固定手段を提供することをさらに含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【0123】
【0124】
【
図3】ランダム配向PCL繊維のSEM画像である。
【0125】
【
図4】本発明の第1の態様の血管修復パッチを概略的に示す。
【0126】
【
図5】第2の主要面が複数のマイクロニードル(501)とともに提供されるパッチの改変物を示す。
【0127】
【0128】
【
図7】説明される
図7A~7Fは、本発明の血管修復パッチの働きを示す。
【0129】
【
図8】本発明のパッチで使用される繊維層におけるヒト大動脈内皮細胞/ヒト平滑筋細胞の細胞密度を示すグラフである。データを表2で提供する。
【0130】
【
図9】本発明のパッチで使用される繊維層におけるヒト大動脈内皮細胞/ヒト平滑筋細胞の細胞速度を示すグラフである。データを表2で提供する。
【0131】
【
図10】対照実験に対するヒト大動脈内皮細胞/ヒト平滑筋細胞の細胞密度を示すグラフである。データを表2で提供する。
【0132】
【
図11】ヒト大動脈内皮細胞を使用して、例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像である。パッチは1層パッチであり、この層の繊維はランダム配向している。
【0133】
【
図12】ヒト大動脈内皮細胞を使用して、例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像である。パッチは2層パッチであり、両層の繊維は平行配向している。
【0134】
【
図13】ヒト大動脈内皮細胞を使用して、例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像である。パッチは2層パッチであり、両層の繊維はランダム配向している。
【0135】
【
図14】ヒト平滑筋細胞を使用して、例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像である。パッチは1層パッチであり、この層の繊維はランダム配向している。
【0136】
【
図15】ヒト平滑筋細胞を使用して、例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像である。パッチは2層パッチであり、両層の繊維は平行配向している。
【0137】
【
図16】ヒト平滑筋細胞を使用して、例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像である。パッチは2層パッチであり、両層の繊維はランダム配向している。
【0138】
【
図17】例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像であり、細胞密度の計算のための例となる領域を示す。
【0139】
【
図18】例2の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像であり、細胞速度の計算のための例となる長さを示す。
【0140】
【
図19】「対照実験」の方法に従って試験したパッチの落射蛍光顕微鏡画像である。
【0141】
【
図20】繊維が平行配向している1層パッチに対する動的粘弾性分析(DMA)データを示すグラフである。
【0142】
【
図21】繊維がランダム配向している1層パッチに対するDMAデータを示すグラフである。
【0143】
【
図22】繊維が平行配向している1つの層及び繊維がランダム配向している1つの層を含む、本発明のパッチに対するDMAデータを示すグラフである。
【0144】
例
以下の方法を使用して、本発明のパッチの本発明のパッチのSEM画像を得た。試料調製:本発明のパッチの試料を採取し、試料をホルダーに接着接合させるためにカーボンテープを使用して試料ホルダーに置いた。次に、試料を金スパッタリング系に入れ、圧力を0.05mPaに下げ、金とともに試料を20秒間スパッタする。次いで、チャンバーを周囲圧力まで満たし、試料を取り出す。SEM画像のキャプチャ:SEMチャンバーに対して通気し、周囲圧力にする。試料ステージ上に試料を導入し、試料区画を閉じ、排気する。SEM装置中のタングステンフィラメントに電気を通して(最大25μA)これを加熱する。次に、全試料に対して同じ条件を使用してSEM画像を撮影する:スポットサイズ=50%、電圧=10kV、距離=10mm、倍率=2000×。
【0145】
DMA TA-Instruments DMA Q-800を使用して、本発明のパッチの粘弾性を測定した。試料(パッチ)をクランプの間に挟み、試料に正弦波応力を加えた。1Hzの周波数、0.03Nのプレロード力(pre-load force)及び1.25xプレロード力(pre-load force)の振幅で全実験を行った。各時点での歪み/応力を測定することによって、弾性率及び損失弾性率を抽出した。
【0146】
TA-instruments DMA Q-800を使用して、本発明のパッチのヤング率を測定した。変形が生じるまで試料(パッチ)に張力をかける張力アッセイを行った。機器は、特定の歪みで各パッチが受ける応力を測定した。0.0010Nのプレロード力(preload force)、0.9%の初期歪み、10.0mの初期変位及び5.0%min
-1~30%min
-1の歪み勾配で全実験を実行した。本発明のパッチに対するヤング率を以下で提供する。
【表1】
【0147】
例1
1.20gのポリカプロラクトン(PCL)を10mLのクロロホルム中で溶解させ、12%w/vの濃度にする。一定であるが激しくならないように撹拌しながら、PCLペレットを少量ずつ溶媒に添加する。ペレット全てが溶解したら、混合物をすぐに使用できる。
【0148】
気泡形成を防ぐために、先端が細いシリンジによりPCL混合物を吸引する。溶媒を蒸発させずに既存の気泡を除去するために、ドラフト内でシリンジの先端を上に向けて置く。
【0149】
シリンジをシリンジポンプ系の上に置き、混合物を2000μL/hの体積流量で推進する。シリンジポンプをコレクターから24.5cm離して水平に配置する。シリンジポンプとコレクターとの間に25kVの電位をかける。およそ1時間、混合物をコレクターに蓄積させる。その後、パッチをおよそ1時間風乾する。
【0150】
直径15.6mmの環状パッチを電界紡糸面全体から切り取る。
【0151】
次に、パッチの表面に対してプラズマ処理を行い、ナノファイバーの親水性を高める。低温プラズマ発生器を使用する。純粋な酸素ガスに対して150Paの圧力で点火し、グロー放電を3分間点火する。この工程は、オープン・デューティ・サイクル(open duty cycle)及び70Wの電力を使用して行う。
【0152】
処理直後に、生体接着剤100μLを含有する24ウェルプレート上にパッチを置く。並行して、100μg/mLの濃度でリン酸生理食塩水緩衝液(PBS)中で溶解させた200μLのフィブロネクチンをパッチの上面に置く。5分後、パッチを24ウェルプレートから取り外す。
【0153】
6ウェルプレートに細胞100万個/cm2で播種したヒト大動脈内皮細胞の培養物の中央をプラスチック製細胞スクレーパーで傷付ける。パッチを損傷部位に置き、プレート表面に押し付ける。
【0154】
細胞を培養液中で48時間温置する。その後、4%パラホルムアルデヒドを使用して室温で20分間、細胞を固定する。PBSで10分間2回連続して洗浄した後、細胞を0.2%triton(PBS中)で10分間透過処理する。次に細胞をPBSで2回、1回の洗浄あたり10分間洗浄し、PBS-BSA(PBS、1%ウシ血清アルブミン)中の5%ヤギ血清で1時間ブロットする。細胞をファロイジン及びDAPIで1時間標識する。結合していない試薬を除去するために、PBSで10分間の洗浄をさらに2回行う。
【0155】
プレート及びパッチに沿って細胞を可視化し、蛍光顕微鏡を使用して遊走について調べる。画像解析ソフトウェアFijiを使用して、パッチの上部に向かって遊走した細胞の細胞密度を定量化する。
【0156】
例2
以下の実験は、本発明のパッチ内の細胞遊走に対する繊維配向及び/又は層数の影響を実証する。
【0157】
最初に、以下の条件を採用したことを除いて、例1と同じ手順を使用して、1層又は2層のPCLシートを電界紡糸した:電圧=18.6kV、コレクターまでの距離=18cm、流量=2000μL/h、体積=2mL。回転速度0rpmでコレクターを使用して層1を作製する。この層は繊維がランダム配向している。回転速度1000rpmでコレクターを使用して層2を作製する。この層の繊維は整列配向している。
【0158】
外科用メスを使用して2cm×1cmの寸法のパッチを切り出す。ポリ(アクリル酸ブチル:アクリル酸)ベースの接着剤(100μL)を15cmの距離から各パッチに噴霧し、各パッチを6ウェルの組織培養プレートに置く。5分間、2mLの細胞培養液を使用して、ウェルを3回洗浄する。使用される細胞培養液は、実験に使用したものと同じであり、5%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン入りの、内皮用のGrowth Medium-2 Complete(Promocell)を含む。
【0159】
100μg/mLのウシ血漿フィブロネクチン50μLを各パッチ上に沈着させる前に、各パッチをプラズマコロナで1分間処理する。その後、パッチを37℃で2時間放置する。
【0160】
次にフィブロネクチンを穏やかに取り除き、各パッチを2cm×1cm×1cmのシリコーンキャップで被覆する。次に、2.5mLの培養液中で懸濁したヒト大動脈内皮細胞又はヒト大動脈平滑筋細胞(細胞300,000個)をプレート上に播種し、プレートを5%CO2、37℃のインキュベーターに置いておく。
【0161】
12時間後、各パッチからシリコーンキャップを取り外し、培地を2.5mLの新鮮な細胞培養液と交換する。パッチをインキュベーターに戻し、24時間ごとに細胞培養液を交換する。シリコーンキャップを取り外してから72時間後に実験を終了する。
【0162】
組織培養プレートをPBSですすぎ、4%パラホルムアルデヒドにより室温で30分間固定する。その後、細胞をPBSで5分間、2回洗浄する。過剰なアルデヒドをPBS中のグリシンの溶液(0.2mol/L)で10分間クエンチし、PBSで5分間、2回洗浄した後、細胞をPBS中のX-100 Tritonの溶液(0.2%)で透過処理する。
【0163】
PBSで10分間、2回連続して洗浄した後、細胞をファロイジン-ローダミン1:100及びDAPI 1:1000で1時間標識して、細胞のアクチン及び核を染色する。
【0164】
2回連続してPBSで5分間洗浄した後、標本を6ウェルプレートから剥離し、2つの顕微鏡スライドに挟んで下向きに配置し、次いでNikon落射蛍光顕微鏡を使用して画像化する。
【0165】
4×及び10×で画像を撮影し、各パッチの細胞コロニー形成を定量化し、細胞による移動距離及び細胞密度、例えば単位面積あたりの細胞数、の両方を観察する。
図11~18は、本発明のパッチの落射蛍光画像である。
【0166】
顕微鏡のソフトウェアに組み込まれた顕微鏡のスケールを使用してピクセルと距離との比率を計算する。ソフトウェア「FIJI」を使用して、細胞数を定量化する。浸潤領域の細胞数を数え、領域のサイズで除することによって、細胞浸潤領域密度を計算した(例えば
図17参照)。細胞が移動した距離(例えば
図18参照)を実験時間により除したものとして、細胞速度を計算する。
【0167】
対照実験
例2に記載のものと同じ手順に従い対照実験を行ったが、各パッチをシリコーンキャップで被覆せずに、ヒト内皮細胞/平滑筋細胞でパッチを完全に被覆できるようにし、ヒト内皮細胞/平滑筋細胞は、それらが添加されたときに6ウェル組織培養プレートと同じように各パッチに接着し得る。
【0168】
従って、これらの実験から得られたデータは、72時間での「総」パッチコロニー形成に対する対照である。
図10は、ヒト内皮細胞及び平滑筋細胞に対する対照実験について得られたデータを示す(表2の「ADH」の項目を参照)。
【0169】
パッチは実験の最初から「コロニー形成」されるので、コロニー形成速度に対する対照は測定しなかった。
【0170】
この結果から、内腔層の繊維が整列している場合、繊維がランダムに配向する場合よりも、内皮細胞が高い細胞密度を示すことが確認される。さらに、内皮細胞は、層内の繊維が整列している場合、層内の繊維がランダムに配向する場合よりも、速く遊走する。
【0171】
パッチが2層の場合、1層の場合よりも平滑筋細胞が低い細胞密度を示す。さらに、平滑筋細胞は、層内の繊維が整列している場合、層内の繊維がランダムに配向する場合よりも細胞密度が低くなる。最後に、平滑筋細胞は、この層の繊維がランダムに配向する場合、この層の繊維が整列している場合よりも速く遊走する。繊維が整列していると、パッチを通じた平滑筋細胞の進行を遅らせると思われる。
【表2】
1L-R=繊維の配向がランダムな1層パッチ。
1L-A=繊維の配向が平行である(整列)1層パッチ。
2L-R=2層パッチ:非内腔側の面は繊維が平行に配向しており、内腔側の面は繊維がランダムに配向している。
2L-A=2層パッチ:非内腔側の面は繊維がランダムに配向しており、内腔側の面は繊維が平行に配向している。
ADH=接着-陽性対照
図8及び9は、表2で示される非対照データをグラフで表示する。
【0172】
この結果から、本発明のパッチの特異的な構造特性が、どのように、インビボでの性能が最適化された改良パッチをもたらすかが示される。従って、本発明の装置は2つの層を含み;第1の層は平行に配向したポリマーフィラメントを含み、第2の層はランダムに配向したポリマーフィラメントを含む。使用時、即ちインビボでは、第2の層は非内腔層(即ち平滑筋細胞と接触する層)であり、一方で第1の層は内腔層(即ち血流と接触する層)である。繊維の整列により、内皮細胞が最初の(内腔)層を迅速に通過してコロニーを形成するようになり、血流と接触している層のより速い再内皮化を促進する。さらに、第2の(非内腔)層における繊維のランダムな配向により、平滑筋細胞が第2の層を迅速に通過してコロニーを形成するようになる。
【0173】
しかし、平滑筋細胞は整列した第1の(内腔)層(
図9参照)を迅速に移動し得ず、従って本発明のパッチの第1の層は平滑筋細胞に対する障壁を効果的に提供し、平滑筋細胞が主に第2の(非内腔)層に存在するようになる。
【0174】
例3
発明者らは、パッチの大動脈への流れに対する抵抗を評価するエクスビボ試験を開発した。この試験では、ブタ下行大動脈(直径1.5cm)、加圧空気で作動する膜ポンプ、PVCチューブ、本発明の接着パッチ及び水(室温)を利用する。
【0175】
最初に外科用パンチを使用して、大動脈に2~4mmの断裂を作製した。次に、ケーブルタイを使用して大動脈をPVCチューブに接続した。PVCチューブを膜ポンプに接続した。
【0176】
膜ポンプの加圧空気は2bargで安定させた。この圧力で、ポンプは6L/min及び1Hzで拍動性の水流を送り、大動脈がさらされている生理的な血流をエミュレート(emulating)する。
【0177】
ポンプが有効になったら、ウォータージェットの断裂部からの放出が観察されたことを確認するために、断裂部を調べた。ウォータージェットが観察されない場合、ポンプを停止し、大動脈を通じて十分に拡大していることを確認するために断裂部を調べた。必要に応じて、断裂部を拡大し、ウォータージェットが断裂部から放出されていることが観察されるまでチェックを繰り返した。
【0178】
チェックが完了したら、膜ポンプを停止させ、大動脈の内側から断裂部を被覆するために、請求項に記載の接着パッチを手作業で導入した。パッチのサイズは2cm×1cmであった(例2と同様)。接着剤には、シアノアクリル酸エチル(50μL)、シアノアクリル酸エチル(100μL)及びシリカ粒子(4%)の混合物並びにシアノアクリル酸ブチル(20μL)が含まれた。大動脈へのパッチの接着を確実にするために、パッチに5秒間圧力をかけた。パッチを取り付けたら、膜ポンプを再びオンにして、水が大動脈を通じて流れるようにする。
【0179】
ポンプを作動させ、パッチの性能を視覚的に評価した。パッチが大動脈から剥離すると、パッチは系から排出され、断裂部からの漏水が観察される。接着剤が大動脈に取り付けられたパッチを保持する場合、漏水は観察されない。上記のように試験したパッチは、実験の持続時間にわたって大動脈に接着したままであり、漏水は観察されなかったことが分かった。
【0180】
上記は、当業者が特許請求の範囲で定義されるように本発明を実施するのを助けるための本発明の詳細な説明である。本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書中に記載の本発明の特定の実施形態に様々な修正及び変更を加え得る。別段の定めがない限り、本明細書中で使用される技術及び科学用語は全て、本発明が属する技術分野の熟練者により一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書中で特定された全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参考文献は、それらの全体において参照により組み込まれる。
陳述
以下の番号が付けられた陳述を参照して本発明をさらに説明する。
1.第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を含む血管修復パッチであって、前記基材が、少なくとも:
(i)平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含む前記第1の主要面に隣接する第1のポリマーフィラメント層と、
(ii)ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む前記第2の主要面に隣接する第2のポリマーフィラメント層と、
を含む、血管修復パッチ。
2.血管修復パッチの第1のポリマーフィラメント層が1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含み、場合によっては:
(a)前記1つ以上の細胞外マトリクス化合物が、コラーゲン(特にI型及びII型コラーゲン)、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、VE-カドヘリン、ビトロネクチン、インテグリン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケタラン硫酸、ヒアルロン酸及び、例Arg-Gly.-Asp(RGD)、Arg-Glu-Asp-Val(REDV)、Tyr-Ile-Gly-Ser-Arg(YIGSR)から選択されるペプチド配列から選択され;及び/又は
(b)前記第1のポリマーフィラメント層が、前記パッチの第1の主要面の表面積に基づいて0.5μg/cm2~100μg/cm2、好ましくは1μg/cm2~50μg/cm2、より好ましくは1.5μg/cm2~20μg/cm2、より好ましくは2μg/cm2~15μg/cm2、より好ましくは2.5μg/cm2~10μg/cm2、より好ましくは3μg/cm2~7μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で1つ以上の細胞外マトリクス化合物を含む、
陳述1に記載の血管修復パッチ。
3.ポリマー基材の第2のポリマーフィラメント層が1つ以上の血栓形成剤を含み、場合によっては、
(a)前記1つ以上の血栓形成剤が組織因子(TF又は第III因子)、第VII因子、第X因子及びフィブリンから選択され;及び/又は
(b)第2のポリマーフィラメント層が、パッチの第2の主要面の表面積に基づき、0.5μg/cm2~100μg/cm2、好ましくは1μg/cm2~50μg/cm2、より好ましくは1.5μg/cm2~20μg/cm2、より好ましくは2μg/cm2~15μg/cm2、より好ましくは2.5μg/cm2~10μg/cm2、より好ましくは3μg/cm2~7μg/cm2のエリアル・アマウント(areal amount)で前記1つ以上の血栓形成剤を含む、陳述1又は陳述2に記載の血管修復パッチ。
4.ポリマー基材が生体吸収性であり、場合によっては、第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが、1つ以上の生体吸収性ポリマーを含み、場合によっては前記1つ以上の生体吸収性ポリマーが、ポリ乳酸(PLA)、ポリ-L-ラクチド(PLLA)、ポリ-D-ラクチド(PDLA)、ポリ-DL-ラクチド(PDLLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリグリコリド(PG)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリ(グリコリド-コ-カプロラクトン)(PGCL)、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボナート(PGA-コ-TMC)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ-(L-ラクチド-コ-カプロラクトン)(PLLA-コ-CL)、ポリ-(D-ラクチド-コ-カプロラクトン)(PDLA-コ-CL)、ポリ-(DL-ラクチド-コ-カプロラクトン(PDLLA-コ-CL)から選択される、陳述1~3の何れかに記載の血管修復パッチ。
5.第1及び第2のポリマーフィラメント層の一方又は両方のポリマーフィラメントがPCL若しくはPGLAを含むか又はそれからなり、前記PGLAが80:20~20:80のラクチド:グリコリド比を有し、場合によっては、前記第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントが、少なくとも50wt%のPCL、好ましくは少なくとも60wt%のPCL、より好ましくは少なくとも70wt%のPCL、より好ましくは少なくとも80wt%のPCLを含む、陳述4に記載の血管修復パッチ。
6.第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントが、少なくとも50wt%のPCL及び最大50wt%のPLA、PLLA、PDLA、PDLLA、PGA、PG、PLGA、PGCL、PLLA-コ-CL、PDLA-コ-CL又はPDLLA-コ-CLを含み、場合によっては、前記第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のポリマーフィラメントが、少なくとも50wt%のPCL及び最大50wt%PLGA、好ましくは少なくとも60wt%のPCL及び最大40wt%PLGA、より好ましくは少なくとも70wt%のPCL及び最大30wt%PLGA、より好ましくは少なくとも80wt%のPCL及び最大20wt%PLGAを含む、陳述5に記載の血管修復パッチ。
7.(a)第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが、1~20μm、より好ましくは1~15μm、より好ましくは2~10μm、より好ましくは3~8μm、より好ましくは約5μmの範囲の平均フィラメント径を有し;及び/又は
(b)前記第1及び第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも一方のフィラメント径が、0.2~2μmの範囲の1つのピーク及び2.5~10μmの範囲の第2のピークを有する二峰性分布を形成し;及び/又は
(c)前記第1及び第2のポリマーフィラメント層のポリマーフィラメントが、電界紡糸フィラメントであり;及び/又は
(d)前記第1のポリマーフィラメント層のフィラメントが、36°以下、好ましくは18°以下の標準偏差で配向し;及び/又は
(e)前記第2のポリマーフィラメント層のフィラメントが、少なくとも45°、好ましくは少なくとも54°、より好ましくは少なくとも63°、より好ましくは少なくとも72°、より好ましくは少なくとも81°、より好ましくは少なくとも90°の標準偏差で配向する、
陳述1~6の何れかに記載の血管修復パッチ。
8.ポリマー基材が、0.5~3.0MPaの範囲のヤング率を有する、陳述1~7の何れかに記載の血管修復パッチ。
9.第2のポリマーフィラメント層が、30~70%、好ましくは40~60%、より好ましくは50%前後の平均多孔度及び/又は50~300μm、より好ましくは100~250μm、より好ましくは150~200μmの範囲の平均孔径を有する、陳述1~8の何れかに記載の血管修復パッチ。
10.第1及び第2のポリマーフィラメント層のそれぞれが、独立して、10μm~200μm、より好ましくは20μm~100μm、より好ましくは30μm~70μmの範囲、例えば約50μmの厚さを有する、陳述1~9の何れかに記載の血管修復パッチ。
11.(a)20μm~500μm、より好ましくは50μm~200μm、より好ましくは50μm~150μmの範囲、例えば約100μm、の全体的厚さ;及び/又は
(b)独立して、10~50mm、より好ましくは20~40mmの範囲である長さ及び幅
を有する、陳述1~10の何れかに記載の血管修復パッチ。
12.第1のポリマーフィラメント層のフィラメントが、血管修復パッチの長さ方向に実質的に平行であり、前記パッチの長さが幅よりも大きく、好ましくは前記パッチの長さが前記幅よりも少なくとも20%又は少なくとも50%大きい、陳述1~11の何れかに記載の血管修復パッチ。
13.生体適合性接着剤のコーティングがポリマー基材の第2の主要面に配置され、場合によっては前記生体適合性接着剤が、合成接着剤(アクリラート、シアノアクリラート及びポリウレタンなど)及び天然ポリマー(ヒアルロン酸、セルロース及びアルギナートなど)から選択される、陳述1~12の何れかに記載の血管修復パッチ。
14.ポリマー基材の第2の面が、血管修復パッチを血管壁に固定するために適合している物理的固定手段を含み、場合によっては前記物理的固定手段が、複数のマイクロニードルを含み、場合によっては前記複数のマイクロニードルが生体吸収性材料から形成される、陳述1~13の何れかに記載の血管修復パッチ。
15.陳述1~14の何れかで定義されるような血管修復パッチを作製する方法であって、
(a)(i)平行に配向する複数のポリマーフィラメントを含む第1のポリマーフィラメント層;及び(ii)ランダムに配向する複数のポリマーフィラメントを含む第2のポリマーフィラメント層のうち少なくとも1つを形成させることにより、第1及び第2の主要面を有するポリマー基材を提供すること
を含み、場合によっては次の段階:
(b)前記ポリマー基材の前記第1の主要面上に1つ以上の細胞外マトリクス化合物を塗布すること;及び/又は
(c)前記ポリマー基材の前記第2の主要面上に1つ以上の血栓形成剤を塗布すること
をさらに含む、方法。
【配列表フリーテキスト】
【0181】
配列表1~3 <223>細胞接着及び遊走に対するペプチド配列
【配列表】