(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】電気化学セル用電解質膜、その製造方法、及び、電気化学セル
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1016 20160101AFI20220331BHJP
H01M 8/1044 20160101ALI20220331BHJP
H01M 8/1058 20160101ALI20220331BHJP
H01B 1/06 20060101ALI20220331BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
H01M8/1016
H01M8/1044
H01M8/1058
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021116427
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2021-07-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 真央
(72)【発明者】
【氏名】藤崎 真司
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-282095(JP,A)
【文献】特開2011-096633(JP,A)
【文献】特表2015-527722(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
C25B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスと樹脂との混合物からなる電気化学セル用電解質膜であって、
セラミックスによって構成されるイオン伝導体と、
樹脂によって構成される支持体と、
を備え、
セラミック粒子同士の粒界の総長さL1と、セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2と、を求めたとき、式(1)で定義されるセラミックス粒界存在率Rは、20%以上である、
電気化学セル用電解質膜。
セラミックス粒界存在率R={セラミック粒子同士の粒界の総長さL1/(セラミック粒子同士の粒界の総長さL1+セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2)}×100 (1)
【請求項2】
セラミックスによって構成されるイオン伝導体と、
イオン伝導性において絶縁性であり、樹脂によって構成される支持体と、
を備え、
セラミック粒子同士の粒界の総長さL1と、セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2と、を求めたとき、式(1)で定義されるセラミックス粒界存在率Rは、20%以上である、
電気化学セル用電解質膜。
セラミックス粒界存在率R={セラミック粒子同士の粒界の総長さL1/(セラミック粒子同士の粒界の総長さL1+セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2)}×100 (1)
【請求項3】
前記セラミックス粒界存在率Rは、60%以下である、
請求項1
又は請求項2に記載の電気化学セル用電解質膜。
【請求項4】
前記イオン伝導体は、プロトン伝導性である、
請求項1
~請求項3のいずれか1項に記載の電気化学セル用電解質膜。
【請求項5】
前記イオン伝導体の含有量は、35~65体積%である、
請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載の電気化学セル用電解質膜。
【請求項6】
前記支持体は、絶縁性である、
請求項
1に記載の電気化学セル用電解質膜。
【請求項7】
前記支持体は、フッ素樹脂によって構成される、
請求項1~請求項
6のいずれか1項に記載の電気化学セル用電解質膜。
【請求項8】
請求項1~請求項
7のいずれか1項に記載の電気化学セル用電解質膜と、
アノードと、
カソードと、
を備える、電気化学セル。
【請求項9】
セラミックスと樹脂と有機溶剤とを混合して混合物を準備する混合工程と、
前記混合物を乾燥させて、気孔率が35%以上の中間体を製造する中間体製造工程と、
を備える、電気化学セル用電解質膜の製造方法。
【請求項10】
80~130℃の温度かつ200%以上の圧縮率で、前記中間体を緻密化させる緻密化工程、
をさらに備える、請求項
9に記載の電気化学セル用電解質膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル用電解質膜、その製造方法、及び、電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学セルの一種である燃料電池は、一般的に、電気化学セル用電解質膜(以下、単に電解質膜ともいう)と、一対の電極とを有している。電解質膜は、一対の電極間に配置されている。特許文献1には、シリカ微粒子等によって構成されたイオン伝導体と、樹脂によって構成された支持体と、を複合化させた電解質膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の燃料電池において、電解質膜の導電率が低い場合がある。
【0005】
本発明は、高い導電率を有する電気化学セル用電解質膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気化学セル用電解質膜は、イオン伝導体と、支持体と、を備える。イオン伝導体は、セラミックスによって構成される。支持体は、樹脂によって構成される。セラミック粒子同士の粒界の総長さL1と、セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2と、を求めたとき、式(1)で定義されるセラミックス粒界存在率Rは、20%以上である。
セラミックス粒界存在率R={セラミック粒子同士の粒界の総長さL1/(セラミック粒子同士の粒界の総長さL1+セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2)}×100 (1)
【0007】
この構成によれば、イオン伝導性を有するセラミック粒子同士の粒界が多いため、電気化学セル用電解質膜の導電率が高まる。
【0008】
好ましくは、セラミックス粒界存在率Rは、60%以下である。この場合、電気化学セル用電解質膜の強度を十分保つことができる。
【0009】
好ましくは、イオン伝導体は、プロトン伝導性である。
【0010】
好ましくは、イオン伝導体の含有量は、35~65体積%である。この場合、十分なイオン伝導性が得られる。
【0011】
好ましくは、支持体は、絶縁性である。
【0012】
好ましくは、支持体は、フッ素樹脂によって構成される。
【0013】
本発明の電気化学セルは、上記いずれかの燃料電池用電解質膜と、アノードと、カソードと、を備える。
【0014】
本発明の電気化学セル用電解質膜の製造方法は、混合工程と、中間体製造工程と、を備える。混合工程では、セラミックスと樹脂と有機溶剤とを混合して混合物を準備する。中間体製造工程では、混合物を乾燥させて、気孔率が35%以上の中間体を製造する。
【0015】
この製造方法では、気孔率が35%以上の中間体を製造することにより、電気化学セル用電解質膜において、イオン伝導性を有するセラミック粒子同士の粒界を多くすることができる。その結果、電気化学セル用電解質膜の導電率が高まる。
【0016】
好ましくは、本発明の電気化学セル用電解質膜の製造方法は、緻密化工程をさらに備える。緻密化工程では、80~150℃の温度かつ200%以上の圧縮率で、中間体を緻密化させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高い導電率を有する電気化学セル用電解質膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る電気化学セル用電解質膜を用いた直接メタノール形燃料電池の構成の一例を示す模式図である。
【
図2】実施形態に係る電気化学セル用電解質膜の断面の拡大模式図である。
【
図3】従来の電気化学セル用電解質膜の中間体の断面の模式図である。
【
図4】従来の電気化学セル用電解質膜の断面の模式図である。
【
図5】実施形態に係る電気化学セル用電解質膜の中間体の断面の模式図である。
【
図6】実施形態に係る電気化学セル用電解質膜の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態に係る電気化学セル用電解質膜(以下、単に電解質膜という)10を含む電気化学セルの一種であるDMFC(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)100について図面を参照しつつ説明する。
【0020】
[DMFC100]
図1に示すように、DMFC100は、プロトンをキャリアとする燃料電池の一種である。DMFC100は、電解質膜10、アノード20、及び、カソード30を備える。電解質膜10は、アノード20及びカソード30の間に配置される。DMFC100は、燃料供給部21及び酸化剤供給部22をさらに有する。
【0021】
DMFC100は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃~250℃)で発電することが好ましい。下記の電気化学反応式では、燃料としてメタノールが用いられている。
【0022】
・アノード20:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
・カソード30:6H++3/2O2+6e-→3H2O
・ 全体 :CH3OH+3/2O2→CO2+2H2O
【0023】
燃料供給部21は、DMFC100の作動中、メタノール(CH3OH)を含む燃料を後述するアノード20に供給する。燃料に含まれるメタノールは、気相状態、液相状態、気相及び液相の混合状態のいずれであってもよい。燃料供給部21は、供給管21a、供給空間21b及び排出管21cを有する。供給管21aから導入される燃料は、供給空間21bにおいてアノード20に供給される。アノード20において消費されなかった燃料とアノード20において発生する二酸化炭素(CO2)及び水(H2O)は、排出管21cから外部に排出される。
【0024】
酸化剤供給部22は、カソード30に酸素(O2)を含む酸化剤を供給する。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。酸化剤供給部22は、供給管22a、供給空間22b及び排出管22cを有する。供給管22aから導入される酸化剤は、供給空間22bにおいてカソード30に供給される。カソード30において消費されなかった酸化剤は、排出管22cから外部に排出される。
【0025】
[アノード20]
アノード20は、一般に燃料極と呼ばれる陰極である。DMFC100の発電中、アノード20には、メタノールを含む燃料が燃料供給部21から供給される。アノード20は、内部にメタノールを拡散可能な多孔質体である。アノード20の気孔率は特に制限されない。アノード20の厚みは特に制限されないが、例えば10~500μmとすることができる。
【0026】
アノード20は、公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。また、アノード触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。アノード20の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0027】
アノード20の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダと混合してペースト状混合物を調製し、このペースト状混合物を電解質膜10のアノード側表面に塗布することにより形成することができる。
【0028】
[カソード30]
カソード30は、一般に空気極と呼ばれる陽極である。DMFC100の発電中、カソード30には、酸素(O2)を含む酸化剤が酸化剤供給部22から供給される。カソード30は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード30の気孔率は特に制限されない。カソード30の厚みは特に制限されないが、例えば10~200μmとすることができる。
【0029】
カソード30は、公知の空気極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8~10族元素(IUPAC形式での周期表において第8~10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’-ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。カソード30における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05~10mg/cm2、より好ましくは、0.05~5mg/cm2である。カソード触媒はカーボンに担持させるのが好ましい。カソード30の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0030】
カソード30の作製方法は特に限定されないが、例えば、空気極触媒及び所望により担体をバインダと混合してペースト状混合物を調製し、このペースト状混合物を電解質膜10のカソード側表面に塗布することにより形成することができる。
【0031】
[電解質膜10]
電解質膜10は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。電解質膜10の厚みは特に制限されないが、例えば5~100μmである。
【0032】
図2に示すように、電解質膜10は、イオン伝導体12と、支持体13と、を含む。
【0033】
[イオン伝導体12]
イオン伝導体12は、支持体13中に分散されている。イオン伝導体12は、支持体13によって支持される。
【0034】
イオン伝導体12は、プロトン伝導性である。DMFC100の発電中、電解質膜10は、主にイオン伝導体12によって、アノード20からカソード30側にプロトン(H+)を伝導する。
【0035】
イオン伝導体12のプロトン伝導率は特に制限されないが、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、さらに好ましくは1.0mS/cm以上である。イオン伝導体12のプロトン伝導率は、高いほど好ましく、その上限値は特に制限されないが、例えば10mS/cmである。
【0036】
イオン伝導体12は、セラミックスによって構成される。イオン伝導体12としては、プロトン伝導性を有する周知の親水性のセラミック材料を用いることができる。このようなセラミック材料は例えば、プロトン伝導性を有する金属酸化物水和物、硫酸修飾金属酸化物などを用いることができる。このような金属酸化物水和物としては、酸化ジルコニウム水和物、一水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化タングステン水和物、酸化スズ水和物、ニオブをドープした酸化タングステン、酸化ケイ素水和物、酸化リン酸水和物、ジルコニウムをドープした酸化ケイ素水和物、タングストリン酸、モリブドリン酸などである。硫酸修飾金属酸化物としては、硫酸修飾チタニアなどである。
【0037】
電解質膜10におけるイオン伝導体12の含有量は、35~65体積%とすることができる。なお、電解質膜10は、実質的にイオン伝導体12、支持体13のみによって構成されており、その他の物質は無視できる程度である。電解質膜10におけるイオン伝導体12の含有量は、好ましくは40体積%以上であり、さらに好ましくは50体積%以上である。
【0038】
イオン伝導体12の含有量は、電解質膜10の断面をSEM(走査電子顕微鏡)で観察して、SEM画像上において樹脂より輝度が高く表示されるイオン伝導体12の面積率を画像解析にて算出することによって得られる。より具体的には、SEM画像上においてイオン伝導体12を特定し、その視野におけるイオン伝導体12の面積を視野内の電解質膜10全体の面積で除することにより、イオン伝導体12の面積率を算出する。本明細書においては、画像解析にて算出したイオン伝導体12の面積率を、イオン伝導体12の体積率と考える。
【0039】
イオン伝導体12を構成するセラミック粒子の平均粒径は、円相当径で0.5~5.0μmとすることができる。イオン伝導体12を構成するセラミック粒子の比表面積は、1~200m2/cm3とすることができる。
【0040】
イオン伝導体12の平均粒径は、電解質膜10の断面をSEM又はTEM(透過型電子顕微鏡)で観察して、観察画像上において無作為に選択した20個のイオン伝導体12の円相当径を算術平均することによって得られる。円相当径は、イオン伝導体12の各々の粒子の面積を求め、求めた面積から計算する。
【0041】
イオン伝導体12の比表面積は、イオン伝導体12の平均粒径から平均表面積及び平均体積を算出して、平均表面積を平均体積で割ることによって算出される。
【0042】
[支持体13]
支持体13は、イオン伝導体12を支持する。詳細には、支持体13がイオン伝導体12を支持することによって、電解質膜10の形状を維持している。
【0043】
支持体13は、プロトン伝導性を有しない樹脂によって構成される。つまり、支持体13は、イオン伝導性において絶縁性である。例えば、支持体13は、絶縁性を有する周知の樹脂によって構成されている。詳細には、支持体13のイオン伝導率は、0.01mS/cm以下である。
【0044】
支持体13は、例えば、疎水性の特性を有するフッ素樹脂である。支持体13を構成する材料は例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はその誘導体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はその誘導体、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペン(FEP)、ETFE(エチレン-テトラフルオロエチレン)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、コポリマー、特に、PVDF-HFP(ヘキサフルオロプロピレン)又はPVDF-POE、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)、ポリスルフォン(PSU)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリベンゾイミダゾール(PBI)などである。好ましくは、支持体13は、PVDFである。
【0045】
[セラミックス粒界存在率R]
図2に示すように、電解質膜10には、セラミック粒子同士の粒界12Aと、セラミック粒子と樹脂との界面12Bと、が存在する。本実施形態の電解質膜10に対して、セラミック粒子同士の粒界12Aの総長さL1と、セラミック粒子と樹脂との界面12Bの総長さL2と、を求める。この場合、式(1)で定義されるセラミックス粒界存在率Rは、20%以上である。
セラミックス粒界存在率R={セラミック粒子同士の粒界12Aの総長さL1/(セラミック粒子同士の粒界12Aの総長さL1+セラミック粒子と樹脂との界面12Bの総長さL2)}×100 (1)
【0046】
セラミックス粒界存在率Rの観察は、次の方法で実施する。電解質膜10からサンプルを採取する。具体的には、電解質膜10の中心を通るように、膜面に対して垂直に電解質膜10を切断する。観察面の中央位置が、切断面の中央位置に相当するように、サンプルを作製する。作製したサンプルの観察面に対して、研磨する。研磨後、SEM(走査電子顕微鏡)を用いて、10000倍の倍率で、研磨された観察面の任意の3視野(100μm×100μm)の反射電子像を取得する。
【0047】
取得した反射電子像において、セラミック粒子と樹脂の明暗差は異なっており、セラミック粒子は“灰白色”、樹脂は“灰色”で表示される。MVTec社(ドイツ)製の画像解析ソフトHALCONを用いて画像の輝度を256階調に分類し2値化することで、セラミック粒子同士の粒界12A、及び、セラミック粒子と樹脂との界面12Bを区別する。ただし、同様の結果が得られるのであれば、画像解析ソフトの種類は問わない。各視野において、セラミック粒子同士の粒界12Aの総長さL1と、セラミック粒子と樹脂との界面12Bの総長さL2と、を測定する。各視野において、上記式(1)により、セラミックス粒界存在率Rを求める。
【0048】
3つの視野のセラミックス粒界存在率Rの平均を、電解質膜10のセラミックス粒界存在率Rと定義する。
【0049】
本実施形態の電解質膜10では、上記式(1)で定義されるセラミックス粒界存在率Rは、20%以上である。そのため、セラミック粒子が樹脂に被覆されずに、セラミック粒子同士が接触している部分が多い。この場合、イオン伝導性を有するセラミック粒子同士が接触しているため、導電性を有する経路である導電パスが多くなる。その結果、電解質膜10において、導電率が高くなる。
【0050】
セラミックス粒界存在率Rは、好ましくは60%以下である。セラミックス粒界存在率Rが60%以下であれば、電解質膜10の強度を十分に得られる。
【0051】
セラミックス粒界存在率Rは、好ましくは25%以上であり、より好ましくは40%以上である。セラミックス粒界存在率Rは、より好ましくは55%以下であり、さらに好ましくは50%以下である。
【0052】
[電解質膜10の製造方法]
次に、電解質膜10の製造方法について説明する。以降に説明する電解質膜10の製造方法は、本実施形態の電解質膜10の製造方法の一例である。したがって、上述の構成を有する電解質膜10は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の電解質膜10の製造方法の好ましい一例である。
【0053】
本実施形態の電解質膜10の製造方法は、混合工程と、中間体製造工程と、緻密化工程と、を備える。以下、各工程について説明する。
【0054】
[混合工程]
混合工程では、セラミックスと樹脂と有機溶剤とを混合して混合物を準備する。混合物を準備する方法は特に限られないが、例えば、以下に説明する単純分散法を用いることができる。
【0055】
まず、支持体13とする有機高分子を溶媒に溶解させることによってワニスを調製する。溶媒は、有機高分子を溶解可能で、膜化後に蒸発させられるものであればよい。溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒、あるいはエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒、i-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール等のアルコールを用いることができる。
【0056】
次に、調製したワニスにイオン伝導体12を混合することによって混合物を調製する。ワニス、イオン伝導体12の混合方法としては、例えば、スターラ法、ボールミル法、ジェットミル法、ナノミル法、超音波などを用いることができる。
【0057】
[中間体製造工程]
中間体製造工程では、混合物を乾燥させて、中間体を製造する。
図3に示すように、中間体は気孔14を有し、気孔14の存在割合である気孔率は35%以上である。具体的には、ワニス、イオン伝導体12の混合物に対して、増孔剤を添加する。増孔剤を添加した混合物を基板上に膜化することで、中間体を得る。基板は、膜化後に混合物を剥がすことができるものであればよく、例えば、ガラス板、ポリテトラフルオロエチレンシート、ポリイミドシートなどを用いることができる。混合物の膜化方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などを用いることができる。
【0058】
気孔率は、以下のようにして算出する。乾燥後の中間体をΦ10mmに打ち抜き、マイクロメータで膜厚を測定する。測定した膜厚から、膜体積bを算出する。また、膜重量を測定する。膜重量を混合比率からセラミックス重量と樹脂重量に切り分け、それぞれの比重からセラミックス体積dと樹脂体積eを算出する。気孔率は、次の式(2)で定義される。
(膜体積b-セラミックス体積d-樹脂体積e)/膜体積b×100 (2)
【0059】
中間体を製造する際、機械的に気体を混入する方法や、増孔剤を化学的に分解させるなどの方法で中間体の気孔率を35%以上としてもよい。
【0060】
図3に示すような気孔率が35%未満の中間体を用いて電解質膜10を作製すると、
図4に示すようにイオン伝導体12の表面の多くが支持体13に被覆される。一方、
図5に示すような気孔率が35%以上の中間体を用いて電解質膜10を作製する場合、
図6に示すように、イオン伝導体12の表面が支持体13に被覆されていない領域を多く得られる。つまりイオン伝導性を有するセラミック粒子同士の粒界12Aが多くなる。そのため、導電パスを多く得ることができる。その結果、電解質膜10の導電率が高まる。
【0061】
好ましくは、中間体の気孔率は、80%以下である。この場合、次工程の緻密化が容易になる。
【0062】
[緻密化工程]
緻密化工程では、80~130℃の温度かつ200%以上の圧縮率で、中間体を緻密化させる。130℃以下の温度で中間体を緻密化した場合、電解質膜10の抵抗を高くすることがなく、導電性の低下を防ぐことができる。なお、緻密化装置内にルミラー(登録商標)2枚と、2枚のルミラー(登録商標)の間に中間体を配置したとき、圧縮率は、緻密化工程前の中間体膜厚をa、ルミラー(登録商標)厚をb、緻密化設備の中間体を挟む隙間の寸法をcとしたとき、次の式(3)で定義される。
圧縮率=(緻密化工程前の中間体膜厚a+ルミラー(登録商標)厚b×2-緻密化設備の中間体を挟む隙間の寸法c)/緻密化工程前の中間体膜厚a×100 (3)
【0063】
緻密化の方法は特に限定されないが、例えばロールプレスである。ロールプレスの場合、緻密化設備の中間体を挟む隙間の寸法cは2つのロールのギャップである。
【0064】
[実施形態の変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0065】
上記実施形態では、燃料電池の一種であるDMFCに電解質膜10を適用したが、これに限られない。電解質膜10は、電気化学セル全般に適用できる。例えば、電解質膜10は、電解セルに適用できる。
【実施例】
【0066】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例には限定されない。
【0067】
[電解質膜10の作製]
以下のようにして、試験番号1~28に係る電解質膜10を作製した。
【0068】
まず、表1に示すイオン伝導体12を準備した。
【0069】
次に、表1に示す絶縁性の支持体13をN-メチル-2-ピロリドンに溶解させることによってワニスを調製した。
【0070】
次に、調製したワニスにイオン伝導体12をスターラ法で混合することによって混合物を調製した。
【0071】
次に、イオン伝導体12と支持体13との含有量が表1に示す値になるようにワニス、イオン伝導体12との混合物を調製した。混合物に対して、増孔剤を添加したものを膜化し、中間体を製造した。中間体の気孔率は、表1に示すとおりであった。中間体に対して表1に示すとおりの温度及び圧縮率で、ロールプレスを施した。これによって、電解質膜10が完成した。
【0072】
【0073】
なお、試験番号20~28については、中間体を製造せずに、調製した混合物をドクターブレード法で剥離フィルム上に膜化した後、乾燥処理(80℃、1時間)を施すことによってN-メチル-2-ピロリドンを蒸発させた。
【0074】
[膜抵抗の測定]
電解質膜10の膜抵抗を、以下のとおり測定した。
【0075】
電解質膜10の抵抗を、バッテリーハイテスタBT3562を使用して2端子法にて測定した。測定温度は25℃とした。
【0076】
表1の基準値に対し膜抵抗比が0.99以下のものを電解質膜10の導電率が高い(表1の◎)とした。膜抵抗比が0.99を超えるものを電解質膜10の導電率が低い(表1の×)とした。なお、基準値は、試験番号1~7、11~13、21及び22については、試験番号20の膜抵抗を基準値とした。試験番号8については、試験番号23の膜抵抗を基準値とした。試験番号9については、試験番号24の膜抵抗を基準値とした。試験番号10については、試験番号25の膜抵抗を基準値とした。試験番号14、15については、試験番号26の膜抵抗を基準値とした。試験番号16、17については、試験番号27の膜抵抗を基準値とした。試験番号18、19については、試験番号28の膜抵抗を基準値とした。
【0077】
[電解質膜10の強度の測定]
電解質膜10の強度を、以下のとおり評価した。JISZ1707の試験方法に準拠して、Φ10mmの穴が空いた板に電解質膜10をはさみ、Φ1.0mmの針で穴の真ん中を突き刺して割れたときの最大破断荷重を測定した。表1では、基準値に対し最大荷重比が0.6以上であったサンプルを強度に優れる(表1の◎)と評価した。最大荷重比が0.6より小さく、0.3以上であってサンプルを十分な強度であると(表1の〇)と評価した。最大荷重比が0.3より小さかったサンプルを強度不足(表1の△)と評価した。なお、基準値は、試験番号1~7、11~13、21及び22については、試験番号20の強度を基準値とした。試験番号8については、試験番号23の強度を基準値とした。試験番号9については、試験番号24の強度を基準値とした。試験番号10については、試験番号25の強度を基準値とした。試験番号14、15については、試験番号26の強度を基準値とした。試験番号16、17については、試験番号27の強度を基準値とした。試験番号18、19については、試験番号28の強度を基準値とした。
【0078】
[評価結果]
試験番号2~6及び8~19では、いずれの試験番号においても、セラミックス粒界存在率Rが20%以上であった。そのため、電解質膜10の導電率が高かった。
【0079】
試験番号2~5、8、9、11~13では、セラミックス粒界存在率Rが60%以下であった。そのため、試験番号6よりも、電解質膜10の強度が高かった。
【0080】
また、試験番号2~5、8、9、11~13では、イオン伝導体12の含有量が65体積%以下であった。そのため、試験番号10よりも、電解質膜10の強度が高かった。
【0081】
一方、試験番号1、7及び20~28では、セラミックス粒界存在率Rが20%未満であった。そのため、電解質膜10の導電率が低かった。
【符号の説明】
【0082】
10 電解質膜
12 イオン伝導体
12A セラミック粒子同士の粒界
12B セラミック粒子と樹脂との界面
13 支持体
【要約】
【課題】高い導電率を有する電気化学セル用電解質膜を提供する。
【解決手段】電気化学セル用電解質膜110は、イオン伝導体と、支持体と、を備える。イオン伝導体は、セラミックスによって構成される。支持体は、樹脂によって構成される。セラミック粒子同士の粒界の総長さL1と、セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2と、を求めたとき、式(1)で定義されるセラミックス粒界存在率Rは、20%以上である。
セラミックス粒界存在率R={セラミック粒子同士の粒界の総長さL1/(セラミック粒子同士の粒界の総長さL1+セラミック粒子と樹脂との界面の総長さL2)}×100 (1)
【選択図】
図2