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特許7050204高濃度有機物含有排水の排水処理設備および排水処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】高濃度有機物含有排水の排水処理設備および排水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/30 20060101AFI20220331BHJP
【FI】
C02F3/30 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021117045
(22)【出願日】2021-07-15
【審査請求日】2021-09-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599049794
【氏名又は名称】株式会社 イージーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】近藤 治郎
(72)【発明者】
【氏名】三宅 晃裕
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-296436(JP,A)
【文献】特開平08-001193(JP,A)
【文献】特開昭60-075396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理するための排水処理設備であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で好気性処理する好気性処理槽と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下で嫌気性処理する嫌気性処理槽と、
を備え、
前記好気性処理槽で前記低濃度有機物含有排水を好気性処理した後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理槽から、嫌気性処理後の嫌気性処理水および嫌気性処理後の活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、
前記嫌気性処理槽から抜出された前記嫌気性処理後の活性汚泥を前記好気性処理槽に環流させるように構成されていると共に、前記嫌気性処理槽に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位を測定するための装置および混合浮遊物濃度を測定するための装置を備え
前記装置の測定値に基づき、前記好気性処理後の活性汚泥の酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲、かつ混合浮遊物濃度が10000~25000mg/Lの範囲になるように、前記高濃度有機物含有排水、前記硝酸態窒素類および前記好気性処理後の活性汚泥のうち少なくとも1つの前記嫌気性処理槽への供給量を制御する、排水処理設備。
【請求項2】
前記好気性処理槽の前段に、前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理する脱窒槽と、
前記脱窒槽と、前記嫌気性処理槽との間に、第2の酸化還元電位を測定するための装置および第2の混合浮遊物濃度を測定するための装置と、
を備え、
前記脱窒槽から前記嫌気性処理槽へ活性汚泥を連続的または間欠的に供給する、請求項1に記載の排水処理設備。
【請求項3】
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理するための排水処理設備であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で脱窒処理する脱窒槽と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下で嫌気性処理する嫌気性処理槽と
前記脱窒槽から供給される排水を活性汚泥の存在下で好気性処理する好気性処理槽と、を備え、
前記脱窒槽で前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理した後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理槽から、嫌気性処理後の嫌気性処理水および嫌気性処理後の活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、
前記嫌気性処理槽から抜出された前記嫌気性処理後の活性汚泥を前記脱窒槽に環流させるように構成されていると共に、前記嫌気性処理槽に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位を測定するための装置および混合浮遊物濃度を測定するための装置を備え
前記装置の測定値に基づき、前記脱窒処理後の活性汚泥の酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲、かつ混合浮遊物濃度が10000~25000mg/Lの範囲になるように、前記高濃度有機物含有排水、前記硝酸態窒素類および前記脱窒処理後の活性汚泥のうち少なくとも1つの前記嫌気性処理槽への供給量を制御する排水処理設備。
【請求項4】
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理する排水処理方法であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で、好気性処理槽内で好気性処理する好気性処理工程と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下、嫌気性処理槽内で嫌気性処理する嫌気性処理工程と、
前記嫌気性処理槽に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する測定工程と、
を含み、
前記好気性処理工程後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理工程後の嫌気性処理水および活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、抜出された活性汚泥を前記好気性処理槽に環流させ、
前記測定工程の測定値に基づき、前記好気性処理工程後の活性汚泥の酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲、かつ混合浮遊物濃度が10000~25000mg/Lの範囲になるように、前記高濃度有機物含有排水、前記硝酸態窒素類および前記好気性処理工程後の活性汚泥のうち少なくとも1つの前記嫌気性処理槽への供給量を制御する、高濃度有機物含有排水の排水処理方法。
【請求項5】
前記好気性処理工程の前に、前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理する脱窒処理工程と、
前記脱窒処理工程と、前記嫌気性処理工程との間に、前記脱窒処理工程後の活性汚泥の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する第2の測定工程と、
をさらに含む、請求項に記載の排水処理方法。
【請求項6】
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理する排水処理方法であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で脱窒処理する脱窒処理工程と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下、嫌気性処理槽内で嫌気性処理する嫌気性処理工程と、
前記嫌気性処理工程に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する測定工程と
前記脱窒処理工程後の排水を活性汚泥の存在下で好気性処理する好気性処理工程と、
を含み、
前記脱窒処理工程で前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理した後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理工程後の嫌気性処理水および活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、抜出された活性汚泥を前記脱窒処理工程に環流させ、
前記測定工程の測定値に基づき、前記脱窒処理工程後の活性汚泥の酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲、かつ混合浮遊物濃度が10000~25000mg/Lの範囲になるように、前記高濃度有機物含有排水、前記硝酸態窒素類および前記脱窒処理工程後の活性汚泥のうち少なくとも1つの前記嫌気性処理槽への供給量を制御する、高濃度有機物含有排水の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高濃度有機物含有排水の排水処理設備および排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機態炭素を含む排水Aを活性汚泥Bにより排水処理する方法としては、例えば、図4に示すような好気性処理槽2を備えた排水処理設備1aを用い、好気性処理槽2内部で空気と十分に接触させる好気性雰囲気下に、排水Aを活性汚泥Bと接触させる方法が一般的である(非特許文献1:「水質汚濁防止技術と装置4.生物学的水理処理技術と装置」(社)化学工学協会編集、(株)培風館、昭和53年10月20日初版発行、第114頁~第116頁)。このような方法によれば、排水A中の有機態炭素を活性汚泥Bにより分解して、排水処理することができる。
【0003】
しかし、このような従来の排水処理方法は、好気性処理槽2の単位容積あたり、単位時間あたりに分解し得る有機態炭素の量を示す容積負荷が低い。排水Aとして、TOC(Total Organic Carbaon)が20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水AHを排水処理するには、大容積の好気性処理槽2を用いたり、排水処理に長時間を掛ける必要があった。
【0004】
そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、低いTOCを示す低濃度有機物含有排水(以下、「低TOC排水」と称することがある)ALを好気性処理槽2で好気性処理した後の活性汚泥B1は、嫌気性雰囲気下、硝酸態窒素類Cの存在下に高い容積負荷で有機態炭素を分解しうることを見出し、高濃度有機物含有排水(以下、「高TOC排水」と称することがある)の処理技術を完成させた(特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「水質汚濁防止技術と装置4.生物学的水理処理技術と装置」(社)化学工学協会編集、(株)培風館、昭和53年10月20日初版発行、第114頁~第116頁
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-296436号公報(平成19年11月15日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載された技術においては、硝酸態窒素類Cの存在下に有機態炭素を分解する処理の安定化および処理能力の観点からさらなる改善の余地があった。
【0008】
本発明の一態様は、高い容積負荷で、高TOC排水AHを排水処理すると共に、硝酸態窒素類Cの存在下に有機態炭素を分解する処理の安定化および処理能力を向上させることができる排水処理設備および排水処理方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る排水処理設備は、
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理するための排水処理設備であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で好気性処理する好気性処理槽と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下で嫌気性処理する嫌気性処理槽と、
を備え、
前記好気性処理槽で前記低濃度有機物含有排水を好気性処理した後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理槽から、嫌気性処理後の嫌気性処理水および嫌気性処理後の活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、
前記嫌気性処理槽から抜出された前記嫌気性処理後の活性汚泥を前記好気性処理槽に環流させるように構成されていると共に、前記嫌気性処理槽に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位を測定するための装置および混合浮遊物濃度を測定するための装置を備えている。
【0010】
前記排水処理設備は、前記好気性処理槽の前段に、前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理する脱窒槽と、前記脱窒槽と、前記嫌気性処理槽との間に、第2の酸化還元電位を測定するための装置および第2の混合浮遊物濃度を測定するための装置と、を備え、前記脱窒槽から前記嫌気性処理槽へ活性汚泥を連続的または間欠的に供給するようになっていてもよい。
【0011】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る排水処理設備は、
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理するための排水処理設備であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で脱窒処理する脱窒槽と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下で嫌気性処理する嫌気性処理槽と
前記脱窒槽から供給される排水を活性汚泥の存在下で好気性処理する好気性処理槽と、
を備え、
前記脱窒槽で前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理した後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理槽から、嫌気性処理後の嫌気性処理水および嫌気性処理後の活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、
前記嫌気性処理槽から抜出された前記嫌気性処理後の活性汚泥を前記脱窒槽に環流させるように構成されていると共に、前記嫌気性処理槽に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位を測定するための装置および混合浮遊物濃度を測定するための装置を備えている。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る排水処理方法は、
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理する排水処理方法であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で、好気性処理槽内で好気性処理する好気性処理工程と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下、嫌気性処理槽内で嫌気性処理する嫌気性処理工程と、
前記嫌気性処理槽に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する測定工程と、
を含み、
前記好気性処理工程後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理工程後の嫌気性処理水および活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、抜出された活性汚泥を前記好気性処理槽に環流させる。
【0013】
前記排水処理方法では、前記測定工程における測定値に基づき、前記好気性処理工程後の活性汚泥の酸化還元電位が-350mV~-50mVの範囲、かつ混合浮遊物濃度が10000~25000mg/Lの範囲になるように、前記高濃度有機物含有排水、前記硝酸態窒素類および前記好気性処理工程後の活性汚泥のうち少なくとも1つの前記嫌気性処理槽への供給量を制御してもよい。
【0014】
前記排水処理方法は、前記好気性処理工程の前に、前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理する脱窒処理工程と、前記脱窒処理工程と、前記嫌気性処理工程との間に、前記脱窒処理工程後の活性汚泥の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する第2の測定工程と、をさらに含んでいてもよい。
【0015】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る排水処理方法は、
TOCが20000mg/L以上の高濃度有機物含有排水を活性汚泥により生物学的に処理する排水処理方法であり、
TOCが前記高濃度有機物含有排水の0.05倍以下の低濃度有機物含有排水を活性汚泥の存在下で脱窒処理する脱窒処理工程と、
前記高濃度有機物含有排水を、活性汚泥により硝酸態窒素類の存在下、嫌気性処理槽内で嫌気性処理する嫌気性処理工程と、
前記嫌気性処理工程に供給される前の活性汚泥の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する測定工程と
前記脱窒処理工程後の排水を活性汚泥の存在下で好気性処理する好気性処理工程と、

を含み、
前記脱窒処理工程で前記低濃度有機物含有排水を脱窒処理した後の活性汚泥を、前記高濃度有機物含有排水および硝酸態窒素類と共に前記嫌気性処理槽に連続的または間欠的に供給し、
前記嫌気性処理工程後の嫌気性処理水および活性汚泥を連続的または間欠的に抜出し、抜出された活性汚泥を前記脱窒処理工程に環流させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、高い容積負荷で、高TOC排水AHを排水処理すると共に、硝酸態窒素類Cの存在下に有機態炭素を分解する処理の安定化および処理能力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る排水処理設備を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る排水処理設備を模式的に示す図である。
図3】本発明の変形例に係る排水処理設備を模式的に示す図である。
図4】従来の排水処理設備を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態1〕
以下、本発明の実施の形態に関して詳細に説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ記載された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態に関しても、本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0019】
<排水処理設備1>
本発明の一態様に係る排水処理設備1について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の一態様に係る排水処理設備1を示す模式図である。図1に示すように、排水処理設備1は、好気性処理槽2と、嫌気性処理槽3と、酸化還元電位(Oxidation-Reduction Potential:ORP)測定装置5と、混合浮遊物(Mixed Liquor Suspended Solids :MLSS)測定装置6とを備える。排水処理設備1において、好気性処理槽2で好気性処理した後の活性汚泥B1は嫌気性処理槽3に供給され、嫌気性処理槽3で嫌気性処理した後の活性汚泥B2は、好気性処理槽2に戻される。好気性処理槽2と、嫌気性処理槽3との間には、ORP測定装置5と、MLSS測定装置6とが設置されている。
【0020】
本発明の一態様に係る排水処理設備1に適用される高TOC排水AHは、TOCが20000mg/L以上、好ましくは30000mg/L以上、好ましくは40000mg/L以上、100000mg/L以下の排水である。かかるTOC排水AHに含まれる有機態炭素としては、例えば、メタノール、酢酸等のような、活性汚泥Bの活性を阻害しない非活性阻害性有機態炭素が挙げられる。また、例えばホルムアルデヒド(HCHO)などのような、活性汚泥Bの活性を阻害する活性阻害性有機態炭素を含んでいてもよい。
【0021】
排水処理設備1において活性汚泥B1は、TOCが、高TOC排水AHの0.05倍以下、好ましくは0.04倍以下、100mg/L以上、好ましくは200mg/L以上の低TOC排水ALを好気性処理槽2において好気性処理した後のものである。かかる低TOC排水ALに含まれる有機態炭素としては、上記と同様の非活性阻害性有機態炭素が挙げられ、上記と同様の活性阻害性有機態炭素を含まないことが好ましい。
【0022】
[好気性処理槽2]
好気性処理槽2では、低TOC排水ALを活性汚泥の存在下に好気性処理する。好気性処理槽2は、例えば、図1に示すように、内部に曝気機(エアレーター21)を備えてもよい。この曝気機21により、空気Dを吹き込みながら、連続的または間欠的に低TOC排水ALを供給し、この低TOC排水ALに含まれる有機態炭素を活性汚泥Bにより分解する。好気性処理槽2としては、通常の好気性処理槽を用いてもよい。
【0023】
好気性処理は、活性汚泥Bの活性の観点より、水素イオン濃度pH6~pH8の中性領域で行われてもよい。水素イオン濃度が上記範囲を外れる場合、例えば、硫酸、塩酸等の酸、あるいは水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウム等のアルカリのような水素イオン濃度調整剤Eを加えて水素イオン濃度を上記範囲に調整しながら好気性処理が行われてもよい。水素イオン濃度調整剤Eは通常、混合槽(中和槽)22で、低TOC排水ALと予め混合してから好気性処理槽2に供給されてもよい。
【0024】
好気性処理は、活性汚泥の活性の観点より、25℃以上で行われてもよく、好ましくは30℃以上で行われ、38℃以下で行われてもよく、好ましくは32℃以下の温度で行われる。
【0025】
好気性処理槽2における活性汚泥Bの使用量は、低TOC排水ALのTOC量、有機態炭素の種類などにより異なるが、低TOC排水ALのTOC量と、懸濁浮遊物質(MLSS)換算の活性汚泥Bの使用量との質量比(TOC/MLSS)で0.5kg-TOC/(kg-MLSS・日)以下であってもよい。また、好気性処理槽2の容積を小さくしうる観点より、0.1kg-TOC/(kg-MLSS・日)以上であってもよい。
【0026】
好気性処理槽2で、低TOC排水ALを好気性処理した後の活性汚泥B1は、好気性処理後の好気性処理水AL1に懸濁された状態で好気性処理槽2から抜出される。抜出された活性汚泥B1は、好気性処理水AL1に懸濁された状態のままで嫌気性処理槽3に供給されてもよく、沈降分離槽(シックナー)23で好気性処理水AL1から分離されてから嫌気性処理槽3に供給されてもよい。
【0027】
[嫌気性処理槽3]
嫌気性処理槽3における活性汚泥B1の使用量は、高TOC排水AHのTOC量、有機態炭素の種類などにより異なるが、高TOC排水AHのTOC量と、MLSS換算の活性汚泥の使用量との質量比(TOC/MLSS)で0.5kg-TOC/(kg-MLSS・日)以下であってもよい。また、嫌気性処理槽3の容積を小さくしうる観点より、0.15kg-TOC/(kg-MLSS・日)以上であってもよい。好気性処理槽2から抜出された活性汚泥B1は、全部が嫌気性処理槽3に供給されてもよく、その一部が嫌気性処理槽3に供給されてもよい。
【0028】
硝酸態窒素類Cは、硝酸態窒素であってもよいし、亜硝酸態窒素であってもよい。硝酸態窒素としては、例えば硝酸イオン(NO )を含む硝酸化合物が挙げられ、亜硝酸態窒素としては、例えば亜硝酸イオン(NO )を含む亜硝酸化合物が挙げられる。硝酸化合物としては、例えば硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの硝酸アルカリ金属塩、硝酸カルシウムなどの硝酸アルカリ土類金属塩などのような硝酸塩などが挙げられる。亜硝酸化合物としては、例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウムなどの亜硝酸アルカリ金属塩、亜硝酸カルシウムなどの亜硝酸アルカリ土類金属塩などのような亜硝酸塩などがそれぞれ挙げられる。これら硝酸態窒素類Cは、それぞれ単独で用いられてもよいし、2種以上を組合わせて用いられてもよい。
【0029】
硝酸態窒素類Cは、水に溶解された硝酸態窒素類水溶液として用いられてもよく、上記で列挙した硝酸態窒素類Cを水に溶解したものが用いられてよい。
【0030】
硝酸態窒素類Cの使用量は、高TOC排水AHのTOC量と、硝酸態窒素類Cの窒素原子換算の使用量との比(TOC/N)で、2~10であってよく、好ましくは2~5である。
【0031】
図1に示すように、高TOC排水AH、活性汚泥B1および硝酸態窒素類Cは、それぞれ独立して嫌気性処理槽3に供給してもよく、これらのうちの2つまたは全部を予め混合して嫌気性処理槽3に供給してもよい。
【0032】
嫌気性処理槽3としては、例えば脱窒素細菌による硝酸態窒素類Cの脱窒素処理に通常用いられるものを用いることができる。嫌気性処理における系内の塩化銀電極を基準とした酸化還元電位(ORP)は-100mV以下であってもよく、好ましくは-200mV以下であってもよい。
【0033】
嫌気性処理は、攪拌機31などにより撹拌しながら行われ、活性汚泥B1の活性の観点より、30~48℃の温度範囲で行われてもよい。また、高TOC排水AHのTOCが変動しても安定して嫌気性処理できる観点より、水素イオン濃度はpH6.5以上pH9.0以下であってよく、好ましくはpH7.0以上pH8.5以下の中性領域であってもよい。水素イオン濃度がこの範囲を外れる場合は、例えば硫酸、塩酸などの酸または水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウムなどの水素イオン濃度調整剤Eを添加することにより水素イオン濃度を調整しながら行われてもよい。水素イオン濃度調整剤Eは、混合槽(中和槽)32で高TOC排水AHと予め混合してから嫌気性処理槽3に供給してもよく、高TOC排水AHとは独立して嫌気性処理槽3に供給してもよい。
【0034】
高TOC排水AHを活性汚泥B1および硝酸態窒素類Cと共に嫌気性処理槽3に供給することにより、活性汚泥Bにより、硝酸態窒素類Cの存在下に高TOC排水AHが嫌気性処理される。
【0035】
活性汚泥B1中には、嫌気性雰囲気下に、硝酸態窒素類Cを、水素供与体が分解して生成する水素Hと式(1)
NO +2H→NO +HO (1)
および式(2)
NO +3H→1/2N+HO+OH (2)
に従って反応させて窒素Nに還元する脱窒素菌が含まれている。本発明の一態様に係る排水処理設備1では、高TOC排水AHに含まれる有機態炭素が、この水素供与体として働くことにより分解されるものと考えられる。例えば、高TOC排水AHが有機態炭素として酢酸CHCOOHを含む場合には、この酢酸が水素供与体となり、下記式(3)
CHCOOH+2HO→2CO+8H (3)
に従い分解して、水素Hを生成する。
【0036】
[ORP測定装置5およびMLSS測定装置6]
嫌気性処理槽3に供給される前の活性汚泥B1は、ORP測定装置5によって酸化還元電位(ORP)を測定され、MLSS測定装置6によって混合浮遊物(MLSS)濃度を測定される。ORP測定装置5およびMLSS測定装置6は、好気性処理後の好気性処理水AL1に懸濁された活性汚泥B1または沈降分離槽で好気性処理水AL1から分離された活性汚泥B1などを輸送するための槽と槽とを接続する輸送管内に設置されてもよく、別途計測槽を設けて、計測槽内に設置されてもよい。インライン測定ができる観点からは、輸送管に設置されることが好ましい。
【0037】
ORP測定装置5およびMLSS測定装置6は、図1に示すように好気性処理槽2と、嫌気性処理槽3との間に設置される。図1では、ORP測定装置5が好気性処理槽2側に、MLSS測定装置6が嫌気性処理槽3側に設置されているが、各装置が設置される順は特に限定されない。嫌気性処理槽3に供給される前の活性汚泥B1のORP値、MLSS濃度を早い段階で取得出来るという観点より、ORP測定装置5、およびMLSS測定装置6は、嫌気性処理槽3よりも好気性処理槽2に近い場所に設置されてもよい。
【0038】
ORP測定装置5が嫌気性処理槽3の前に設置されることにより、嫌気性処理槽3に供給される活性汚泥B1のORP値を取得することができ、該ORP値から活性汚泥B1が嫌気性処理および脱窒菌の反応に適しているか否かを判断することが可能になる。
【0039】
ORP測定装置5としては、酸化還元電位を測定できる装置であれば特に限定されず、公知のORP計を使用してもよい。ORP測定装置5が測定するORP値の範囲は、-350~-50mVであってよく、好ましくは-250~-50mVであり、さらに好ましくは-200~-100mVである。ORP値が上記範囲であれば、活性汚泥B1を好適に嫌気性処理に使用することができる。
【0040】
通常、ORP値が-300mV以下の汚泥は、絶対嫌気領域の汚泥であるため、脱窒反応には適さない。しかし、本発明の一態様に係る排水処理設備1では、ORP値を測定する場所が嫌気性処理槽3内ではなく、嫌気性処理槽3の前である。また、嫌気性処理槽3には、活性汚泥B1、高TOC排水AH、および硝酸態窒素類Cが連続的または間欠的に供給されるため、測定されたORP値に基づき、活性汚泥B1、高TOC排水AH、および硝酸態窒素類Cの供給量を総合的に調節することができる。そのため、活性汚泥B1のORP値が通常適用し得ない-300mV以下の値であっても、好適に嫌気性処理に使用することができる。
【0041】
MLSS測定装置6が嫌気性処理槽3の前に設置されることにより、嫌気性処理槽3に供給される活性汚泥B1のMLSS濃度を測定することができる。
【0042】
MLSS測定装置6としては、MLSS濃度を測定できる装置であれば特に限定されず、公知のMLSS計を使用してもよい。MLSS測定装置6が測定するMLSS濃度の範囲は、沈降分離槽23で好気性処理水AL1から分離された活性汚泥B1の値を測定する場合は、10000~25000mg/Lであってよい。また、MLSS濃度は、好ましくは15000~25000mg/Lであり、さらに好ましくは20000~25000mg/Lである。MLSS濃度が上記範囲であれば、活性汚泥B1を好適に嫌気性処理に使用することができる。
【0043】
[その他の計器]
本発明の一態様に係る排水処理設備1は、ORP測定装置5およびMLSS測定装置6以外の計器を備えてもよい。計器としては、例えばpH計、溶存酸素(DO)計などが挙げられる。計器が設置される場所は、ORP測定装置5およびMLSS測定装置6と同様に、好気性処理槽2と、嫌気性処理槽3との間の輸送管内、または好気性処理槽2と嫌気性処理槽3との間に備えられた計測槽内であることが好ましい。pH計を備えることにより、嫌気性処理槽3に供給される活性汚泥B1のpHを測定することができる。例えば、脱窒素細菌はpH7~9程度において好適に生育できるため、pHを測定することにより、脱窒素細菌の活性の高さを評価することができる。また、DO計を備えることにより、嫌気性処理槽3に供給される活性汚泥B1の溶存酸素濃度を測定することができる。例えば、嫌気性処理槽3においては、溶存酸素が存在しない状態で好適に嫌気性処理が行われるため、溶存酸素濃度の測定が求められる。また、これらの計器を嫌気性処理槽3ではなく、輸送管内または計測槽内に備えることにより、嫌気性処理槽3に供給される前のpH、DOなどを測定することができ、嫌気性処理槽3へ供給する高TOC排水AHの供給量を予め制御することが可能になる。
【0044】
<排水処理方法(その1)>
本発明の一態様に係る排水処理方法は、好気性処理工程と、測定工程と、嫌気性処理工程とを含む方法である。
【0045】
[好気性処理工程]
好気性処理工程は、[好気性処理槽2]で説明した、好気性処理槽2内で行われる好気性処理である。
【0046】
[測定工程]
測定工程は、[ORP測定装置5およびMLSS測定装置6]で説明したように、ORP測定装置5およびMLSS測定装置6によって嫌気性処理槽3に供給される前の活性汚泥B1のORP値およびMLSS濃度を測定する工程である。測定工程において、ORPおよびMLSS濃度の他に、pH、DOが測定されてもよい。
【0047】
また、測定工程において測定された測定値に基づき、好気性処理工程後の活性汚泥B1のORP値が-350mV~-50mVの範囲、かつMLSS濃度が10000~25000mg/Lの範囲になるように下記のうち少なくとも1つを制御してもよい。
・嫌気性処理槽3への高TOC排水AHの供給量。
・嫌気性処理槽3への硝酸態窒素類Cの供給量。
・嫌気性処理槽3への活性汚泥B1の供給量。
【0048】
例えば、MLSS濃度が低い場合は、高TOC排水AHおよび硝酸態窒素類Cの供給量を低下させ、活性汚泥B1の供給量を増加させるよう制御してもよい。
【0049】
これによれば、測定された値に基づいて、好気性処理後の活性汚泥B1の供給量を調節することにより、嫌気性処理工程に供給される活性汚泥B1のORP値およびMLSS濃度を制御することができる。また、測定された値に基づいて、嫌気性処理槽3への高TOC排水AHおよび硝酸態窒素類Cの供給量を調節することができる。
【0050】
[嫌気性処理工程]
嫌気性処理工程は、[嫌気性処理槽3]で説明した、嫌気性処理槽3内で行われる嫌気性処理である。
【0051】
嫌気性処理により高TOC排水AH中の有機態炭素を分解処理した後の活性汚泥B2は、嫌気性処理後の嫌気性処理水AH1と共に、懸濁された状態で嫌気性処理槽3から連続的または間欠的に抜出される。このとき、嫌気性処理水AH1および活性汚泥B2は、嫌気性処理槽3内部に滞留する高TOC排水A量が一定となるように抜出されることが好ましい。
【0052】
嫌気性処理槽3への高TOC排水AH、活性汚泥Bおよび硝酸態窒素類Cの供給と、嫌気性処理槽3からの嫌気性処理後の嫌気性処理水AH1および活性汚泥B2の抜出しは、それぞれ連続的または間欠的に行われる。嫌気性処理槽3内の液量(V)と高TOC排水(A)の供給速度(U)との比で示される滞留時間(θ=V/U)は、十分な嫌気性処理が行える観点より、0.5時間以上であってよく、嫌気性処理槽3の容積をより小さくしうる観点より、5時間以下であってよい。
【0053】
嫌気性処理槽3から抜出された活性汚泥B2は、多くの場合、低TOC排水ALを好気性処理するのに十分な活性を示すものである。そのため、活性汚泥B2を好気性処理槽2に環流させることにより、活性汚泥B2を好気性処理槽2における低TOC排水ALの好気性処理に再使用することができ、有効利用できる。このような構成によれば、余剰汚泥の発生量を低減でき、これにより、例えば、目標14「持続可能な開発のために、海・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する」等の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献できる。
【0054】
嫌気性処理槽3から抜出された活性汚泥B2は、図1で示すように、嫌気性処理水AH1から分離することなく、混合状態のままで還流させてもよく、嫌気性処理水AH1から分離して環流させてもよい。活性汚泥B2と嫌気性処理水AH1との分離は、通常用いうる沈降分離槽(シックナー)により行うことができる。沈降分離槽にて分離された後の活性汚泥B2は、その一部または全部が好気性処理槽2に環流されてよい。
【0055】
本発明の排水処理方法によれば、高TOC排水AHを活性汚泥B1により高い容積負荷で排水処理できるので、高TOC排水AHの排水処理に要する時間を短くでき、また設備を比較的小規模とすることができる。また、高TOC排水AHの排水処理を嫌気性処理槽3で行うため、曝気に要するエアーの供給が不要であり、少ない活性汚泥Bで排水処理することができる。
【0056】
また、本発明の処理方法によれば、活性汚泥B1を嫌気性処理槽3に供給する前の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を適正に制御することができる。
【0057】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0058】
<排水処理設備1b>
図2は、本実施形態に係る排水処理設備1bを示す模式図である。図2に示すように、排水処理設備1bは、実施形態1の排水処理設備1と同様に、好気性処理槽2、嫌気性処理槽3、ORP測定装置5およびMLSS測定装置6を備える。排水処理設備1bは、好気性処理槽2の前段に脱窒槽4をさらに備え、脱窒槽4と嫌気性処理槽3との間にORP測定装置5aおよびMLSS測定装置6aをさらに備えてもよい。
【0059】
実施形態1の排水処理設備1では低TOC排水ALは好気性処理槽2に供給されていたが、本実施形態の排水処理設備1bでは、低TOC排水ALは好気性処理槽2に供給される前に、脱窒槽4にて脱窒処理されてもよい。また、実施形態1の排水処理設備1では、好気性処理槽2で好気性処理された後の活性汚泥B1が(場合によっては沈降分離槽23によって沈降分離された後)、嫌気性処理槽3へ供給される。これに対し、本実施形態の排水処理設備1bでは、好気性処理され、場合によっては沈降分離後の活性汚泥B1に加え、脱窒槽4で脱窒処理した後の活性汚泥B3も嫌気性処理槽3へ供給されてもよい。
【0060】
より好ましくは、本実施形態の排水処理設備1bでは、好気性処理され、沈降分離後の活性汚泥B1と、脱窒槽4で脱窒処理した後の活性汚泥B3とが嫌気性処理槽3へ供給される。このように、好気性処理槽2の後段の沈降分離槽23と、脱窒槽4とから活性汚泥を供給することにより、沈降分離槽23を経由し濃縮された菌体量の多い活性汚泥B1と、脱窒槽4からの脱窒菌を多く含む活性汚泥B3とを嫌気性処理槽3へ供給することができる。これによれば、2槽(沈降分離槽23、脱窒槽4)からの活性汚泥の供給量を調節することにより、嫌気性処理槽3の活性汚泥のMLSS濃度の制御が容易になる。すなわち嫌気性処理槽3における脱窒反応を好適に制御することができ、嫌気性処理槽3での排水処理能力を向上させることができる。
【0061】
嫌気性処理槽3から抜出された活性汚泥B2は、脱窒槽4へ環流されてもよい。図2で示すように、嫌気性処理槽3から抜出された活性汚泥B2は、嫌気性処理水AH1から分離することなく、混合状態のままで還流させてもよい。
【0062】
[脱窒槽4]
脱窒槽4は、低TOC排水ALを脱窒処理する。脱窒槽4は、〔実施形態1〕において説明した嫌気性処理槽3とは、別の槽である。
【0063】
脱窒槽4に供給される低TOC排水ALのTOCは、高TOC排水AHのTOCの0.05倍以下、好ましくは0.04倍以下、通常は100mg/L以上、好ましくは200mg以上であってよい。
【0064】
脱窒槽4における脱窒処理は、活性汚泥の活性の観点より、20℃以上で行われてもよく、好ましくは30℃以上で行われ、45℃以下で行われてもよく、好ましくは40℃以下の温度で行われる。
【0065】
脱窒槽4における活性汚泥Bの使用量は、低TOC排水ALのTOC量、有機態炭素の種類などにより異なるが、低TOC排水ALのTOC量と、懸濁浮遊物質(MLSS)換算の活性汚泥Bの使用量との質量比(TOC/MLSS)で0.5kg-TOC/(kg-MLSS・日)以下であってもよい。また、脱窒槽4の容積を小さくしうる観点より、0.2kg-TOC/(kg-MLSS・日)以上であってもよい。
【0066】
脱窒槽4としては、例えば脱窒素細菌による硝酸態窒素類Cの脱窒素処理に通常用いられるものを用いることができる。脱窒処置における系内の塩化銀電極を基準とした酸化還元電位(ORP)は-100mV以下であってもよく、好ましくは-200mV以下であってもよい。
【0067】
脱窒処理は、攪拌機41などにより撹拌しながら行われ、活性汚泥Bの活性の観点より、20~45℃の温度範囲で行われてもよい。また、低TOC排水ALのTOCが変動しても安定して脱窒処理できる観点より、水素イオン濃度はpH6以上pH9.5以下であってよく、好ましくはpH7以上pH9以下の中性領域であってもよい。水素イオン濃度がこの範囲を外れる場合は、例えば硫酸、塩酸などの酸または水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カルシウムなどの水素イオン濃度調整剤Eを添加することにより水素イオン濃度を調整しながら行われてもよい。水素イオン濃度調整剤Eは、混合槽(中和槽)22で低TOC排水ALと予め混合してから脱窒槽4に供給してもよく、低TOC排水ALとは独立して脱窒槽4に供給してもよい。
【0068】
[ORP測定装置5、5aおよびMLSS測定装置6、6a]
本実施形態に係る排水処理設備1bは、実施形態1の排水処理設備1と同様に、好気性処理槽2(沈降分離槽23)と嫌気性処理槽3との間にORP測定装置5およびMLSS測定装置6を備えてもよい。また、脱窒槽4と嫌気性処理槽3との間にORP測定装置5aおよびMLSS測定装置6aをさらに備えてもよい。ORP測定装置5と5aとは同じ装置であってよく、MLSS測定装置6と6aとは同じ装置であってよい。
【0069】
このように、ORP測定装置5、5aおよびMLSS測定装置6、6aを設けることにより、(場合によっては沈降分離槽23を介して)好気性処理槽2から供給される活性汚泥B1と、脱窒槽4から供給される活性汚泥B3とのORP値およびMLSS濃度を測定することができる。
【0070】
本実施形態のようにORP測定装置5aが脱窒槽4と、嫌気性処理槽3との間に設置される場合、ORP測定装置5aが測定するORP値の範囲は、ORP測定装置5と同じ範囲の数値であることが好ましい。
【0071】
本実施形態のようにMLSS測定装置6aが脱窒槽4と、嫌気性処理槽3との間に設置される場合は、活性汚泥は沈降分離槽23を通過後の活性汚泥と比べて、MLSS濃度は低くなる。そのため、MLSS測定装置6aが測定するMLSS濃度の範囲は、2000~8000mg/Lであってもよく、好ましくは3000~8000mg/Lであってもよく、さらに好ましくは5000~8000mg/Lであってもよい。
【0072】
<排水処理方法(その2)>
本実施形態に係る排水処理方法は、実施形態1の排水処理方法の好気性処理工程、嫌気性処理工程、測定工程に加え、脱窒処理工程と、第2の測定工程とを含んでもよい。
【0073】
[脱窒処理工程]
脱窒処理工程は、好気性処理工程の前に、低TOC排水を脱窒処理する工程であり、[脱窒槽4]で説明した、脱窒槽4内で行われる脱窒処理である。
【0074】
[測定工程]
測定工程は、実施形態1の測定工程と同様に、ORP測定装置5およびMLSS測定装置6によって嫌気性処理槽3に供給される前の活性汚泥B1のORP値およびMLSS濃度を測定する工程である。
【0075】
本実施形態に係る排水処理方法では、測定工程の測定値に基づいて、嫌気性処理槽3への高TOC排水AH、硝酸態窒素類Cおよび好気性処理後の活性汚泥B1のうち少なくとも1つの供給量を制御してもよい。この時、酸化還元電位が-350~-50mV、好ましくは-250mV~-50mV、さらに好ましくは-200mV~-100mVになるように制御してもよい。また、混合浮遊物濃度が10000~25000mg/L、好ましくは15000~25000mg/L、さらに好ましくは20000~25000mg/Lとなるように制御してもよい。
【0076】
これによれば、測定された値に基づいて、嫌気性処理工程前の活性汚泥B1の供給量を調節することができ、嫌気性処理工程における活性汚泥のMLSS濃度の制御が容易になる。すなわち嫌気性処理工程における脱窒反応を好適に制御することができ、嫌気性処理工程における排水処理能力を向上させることができる。
【0077】
[第2の測定工程]
第2の測定工程は、脱窒処理工程と、嫌気性処理工程との間に、脱窒処理工程後の活性汚泥B3の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する工程である。第2の測定工程は、[ORP測定装置5、5aおよびMLSS測定装置6、6a]で説明した、ORP測定装置5aおよびMLSS測定装置6aによって活性汚泥B3の酸化還元電位および混合浮遊物濃度を測定する工程である。このように、測定工程を含むことにより、脱窒処理工程後の活性汚泥B3のORP値およびMLSS濃度を測定することができる。
【0078】
また、第2の測定工程の測定値に基づいて、嫌気性処理槽3への高TOC排水AH、硝酸態窒素類Cおよび脱窒処理後の活性汚泥B3のうち少なくとも1つの供給量を制御してもよい。この時、酸化還元電位が-350mV~-50mV、好ましくは-250mV~-50mV、さらに好ましくは-200mV~-100mVになるように制御してもよい。また、混合浮遊物濃度が2000~8000mg/L、好ましくは3000~8000mg/L、さらに好ましくは5000~8000mg/Lとなるように制御してもよい。
【0079】
これによれば、測定された値に基づいて、嫌気性処理工程前の活性汚泥B3の供給量を調節することができ、嫌気性処理工程における活性汚泥のMLSS濃度の制御が容易になる。すなわち嫌気性処理工程における脱窒反応を好適に制御することができ、嫌気性処理工程における排水処理能力を向上させることができる。
【0080】
また、本実施形態に係る排水処理方法では、前記測定工程と、前記第2の測定工程との両方の測定値に基づいて、嫌気性処理槽3への高TOC排水AH、硝酸態窒素類Cおよび脱窒処理後の活性汚泥B3のうち少なくとも1つの供給量を制御してもよい。これによれば、測定された値に基づいて、嫌気性処理槽3の活性汚泥のMLSS濃度をさらに好適に制御することができる。すなわち嫌気性処理槽3における脱窒反応を好適に制御することができ、嫌気性処理槽3での排水処理能力を向上させることができる。
【0081】
〔変形例〕
本発明の変形例について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、上記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0082】
<排水処理設備1c>
本変形例に係る排水処理設備1cは、TOCが20000mg/L以上の高TOC排水AHを活性汚泥により生物学的に処理するための排水処理設備である。図3は、本変形例に係る排水処理設備1cの模式図である。図3に示すように、排水処理設備1cは、実施形態2の排水処理設備1bと同様に、好気性処理槽2、嫌気性処理槽3、脱窒槽4、ORP測定装置5a、およびMLSS測定装置6aを備える。しかし、排水処理設備1cは、好気性処理後の活性汚泥B1が嫌気性処理槽3に供給されないという点で排水処理設備1bとは異なる。
【0083】
本変形例に係る排水処理設備1cは、実施形態2の排水処理設備1bと同様に、脱窒槽4と嫌気性処理槽3との間にORP測定装置5aおよびMLSS測定装置6aを備えてもよい。
【0084】
このように、ORP測定装置5aおよびMLSS測定装置6aを設けることにより、脱窒槽4から供給される活性汚泥B3のORP値およびMLSS濃度を測定することができる。これによれば、測定された値に基づいて、脱窒槽4からの活性汚泥B3の供給量を調節することにより、嫌気性処理槽3の活性汚泥B3のORP値およびMLSS濃度を制御することができる。また、測定された値に基づいて、嫌気性処理槽3への高TOC排水AHおよび硝酸態窒素類Cの供給量を調節することができる。
【0085】
<排水処理方法(その3)>
本変形例に係る排水処理方法は、実施形態2の排水処理方法と同様に、脱窒処理工程、嫌気性処理工程、好気性処理工程、および測定工程を含むが、好気性処理工程後の活性汚泥B1が嫌気性処理槽3に供給されないという点で実施形態2の排水処理方法とは異なる。
【0086】
脱窒処理工程、嫌気性処理工程、および好気性処理工程は、上述の排水処理設備1cの脱窒槽4、嫌気性処理槽3、および好気性処理槽2において行われる工程である。
【0087】
また、測定工程は、ORP測定装置5aおよびMLSS測定装置6aによって測定される工程である。このように、測定工程を含むことにより、脱窒処理工程後の活性汚泥B3のORP値およびMLSS濃度を測定することができる。
【0088】
また、本変形例に係る排水処理方法は、前記測定工程の測定値に基づいて、嫌気性処理槽3への高TOC排水AH、硝酸態窒素類Cおよび脱窒処理後の活性汚泥B3のうち少なくとも1つの供給量を制御してもよい。この時、酸化還元電位が-350mV~-50mV、好ましくは-250mV~-50mV、さらに好ましくは-200mV~-100mVになるように制御してもよい。また、混合浮遊物濃度が2000~8000mg/L、好ましくは3000~8000mg/L、さらに好ましくは5000~8000mg/Lとなるように制御してもよい。
【0089】
これによれば、測定された値に基づいて、脱窒処理工程後の活性汚泥B3の供給量を調節することにより、嫌気性処理工程に供給される活性汚泥B3のORP値およびMLSS濃度を制御することができる。また、測定された値に基づいて、嫌気性処理槽3への高TOC排水AHおよび硝酸態窒素類Cの供給量を調節することができる。
【0090】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、高濃度有機物含有排水処理に利用することができる。
【符号の説明】
【0092】
1、1b、1c 排水処理設備
2 好気性処理槽
3 嫌気性処理槽
4 脱窒槽
5、5a ORP測定装置
6、6a MLSS測定装置
AH 高濃度有機物含有排水
AH1 嫌気性処理水
AL 低濃度有機物含有排水
AL1 好気性処理水
B、B1、B2、B3 活性汚泥
C 硝酸態窒素類
【要約】
【課題】高い容積負荷で、高TOC排水AHを排水処理すると共に、有機態炭素を分解する処理の安定化および処理能力を向上させる。
【解決手段】低TOC排水を好気性処理する好気性処理槽(2)と、高TOC排水を嫌気性処理する嫌気性処理槽(3)とを備え、嫌気性処理後の活性汚泥(B2)を好気性処理槽(2)に環流させ、嫌気性処理槽(3)前にORP測定装置(5)およびMLSS測定装置(6)を備えている、排水処理設備。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4