(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-30
(45)【発行日】2022-04-07
(54)【発明の名称】反射板、測距装置、変位観測システム、測距方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20220331BHJP
G01B 21/32 20060101ALI20220331BHJP
G01B 11/16 20060101ALI20220331BHJP
G01C 15/04 20060101ALI20220331BHJP
G01C 15/06 20060101ALI20220331BHJP
【FI】
G01C15/00 102Z
G01C15/00 105Z
G01B21/32
G01B11/16 Z
G01C15/04
G01C15/06 T
(21)【出願番号】P 2021164782
(22)【出願日】2021-10-06
【審査請求日】2021-10-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591130319
【氏名又は名称】東京パワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】上村 竜一
(72)【発明者】
【氏名】原田 伸二
(72)【発明者】
【氏名】松下 義昭
(72)【発明者】
【氏名】大竹 浩和
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特許第6869416(JP,B1)
【文献】特許第4231930(JP,B2)
【文献】特開2007-064800(JP,A)
【文献】特開2015-169475(JP,A)
【文献】英国特許出願公開第02576519(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01C 15/04
G01C 15/06
G01B 11/16
G01B 21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電磁波を、当該電磁波の照射源に反射させる反射板であって、
棒体の端部に形成された反射面と、
面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直であって、かつ、前記棒体の外周側面に方位に応じて固着された少なくとも4面以上の反射面と
を備え、
前記
少なくとも4面以上の反射面の前記電磁波の照射方向の厚みが、前記照射源から照射される電磁波を反射できない程度に圧縮され、
また、前記照射源から見た平面視において、
前記棒体の反射面が前記反射板の中心部に位置し、
前記
少なくとも4面以上の反射面が、前記棒体の周りに渦巻状に配設され、かつ、前記電磁波の照射源から各反射面までの略垂直な距離が順次異なるように、形成されることを特徴とする反射板。
【請求項2】
前記少なくとも4面以上の反射面が、少なくとも2以上の段差区分に分類され、
段差区分と段差区分との間隔が、同一の段差区分に属する反射面と反射面の段差よりも長く設定されることを特徴とする請求項1に記載の反射板。
【請求項3】
前記
少なくとも4面以上の反射面が、前記電磁波が照射されてから所定の受信装置において受信されるまでに計測される時間より、一意的に特定される程度に、段差区分と段差区分との間隔が、同一の段差区分に属する反射面と反射面の段差よりも長く設定されることを特徴とする請求項2に記載の反射板。
【請求項4】
前記反射板は、変位の観測対象とする構造物に、前記照射源に対して対向させて設置され、
前記構造物が斜めに傾いた場合であっても、
同一の段差区分に属する反射面が、前記照射源の電磁波の照射方向から見た平面視において、反射面と反射面との間に隙間ができないように形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の反射板。
【請求項5】
前記少なくとも4面以上の反射面が、前記照射源の電磁波の照射方向から見た平面視において、扇形で形成され、
前記少なくとも4面以上の反射面のうち、複数の反射面が属する同一の段差区分において、当該複数の反射面のうち、前記電磁波の照射源から遠ざかる方向に隣り合う少なくとも2つの反射面に関して、当該反射面を形成する扇形の中心角が、前記電磁波の照射源から遠ざかる方向に従って、大きくなるように設定されることを特徴とする請求項4に記載の反射板。
【請求項6】
反射板と、
前記反射板に所定の電磁波を照射する照射手段と、
前記反射板により反射された電磁波を受信する受信手段と、
前記照射手段により電磁波を照射してから、前記受信手段により電磁波が受信されるまでの時間を計測する計測手段と、
前記計測された時間に基づいて、所定の距離を基準とした場合の前記照射手段から前記反射板までの距離を算出する算出手段と
を備え、
前記反射板は、
棒体の端部に形成された反射面と、
面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直であって、かつ、前記棒体の外周側面に方位に応じて固着された少なくとも4面以上の反射面と
を有し、
前記
少なくとも4面以上の反射面の前記電磁波の照射方向の厚みが、前記照射手段から照射される電磁波を反射できない程度に圧縮され、
また、前記照射手段から見た平面視において、
前記棒体の反射面が前記反射板の中心部に位置し、
前記
少なくとも4面以上の反射面が、前記棒体の周りに渦巻状に配設され、かつ、前記照射手段から各反射面までの略垂直な距離が順次異なるように、形成されることを特徴とする測距装置。
【請求項7】
測距装置と、当該測距装置と所定の通信回線を介して接続される情報処理装置とを備えた変位観測システムであって、
前記測距装置は、
構造物に設置され、所定の電磁波を照射する照射手段と、
前記照射手段により照射される所定の電磁波を反射させる反射板と、
前記反射板により反射された電磁波を受信する第1の受信手段と、
前記照射手段により電磁波を照射してから、前記第1の受信手段により電磁波が受信されるまでの時間を計測する計測手段と、
前記計測された時間に基づいて、前記照射手段から前記反射板までの距離を算出する算出手段と、
前記算出された距離を、所定の判定テーブルと照合することで、前記構造物の変位方位及び変位度を判定する判定手段と、
前記情報処理装置に、前記算出された距離、並びに前記構造物の変位方位及び変位度を送信する第1の送信手段と
を備え、
前記情報処理装置は、
前記第1の送信手段により送信された、前記算出された距離、並びに前記構造物の変位方位及び変位度を受信する第2の受信手段と、
表示装置に、前記算出された距離、並びに前記構造物の変位方位及び変位度の少なくともいずれかに基づいて、前記構造物の変位状態を表示させる表示制御手段と
を備え、
前記測距装置の反射板は、
棒体の端部に形成された反射面と、
面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直であって、かつ、前記棒体の外周側面に方位に応じて固着された少なくとも4面以上の反射面と
を備え、
前記少なくとも4面以上の反射面の前記電磁波の照射方向の厚みが、前記照射源から照射される電磁波を反射できない程度に圧縮され、
また、前記照射源から見た平面視において、
前記棒体の反射面が前記反射板の中心部に位置し、
前記少なくとも4面以上の反射面が、前記棒体の周りに渦巻状に配設され、かつ、前記電磁波の照射源から各反射面までの略垂直な距離が順次異なるように形成されることを特徴とする変位観測システム。
【請求項8】
反射板を備える測距装置における測距方法であって、
前記反射板に、照射装置により所定の電磁波を照射する照射ステップと、
前記反射板により反射された電磁波を受信する受信ステップと、
前記照射ステップにおいて電磁波を照射してから、前記受信ステップにおいて電磁波を受信するまでの時間を計測する計測ステップと、
前記計測された時間に基づいて、所定の距離を基準とした場合の前記照射装置から前記反射板までの距離を算出する算出ステップと
を含み、
前記反射板は
棒体の端部に形成された反射面と、
面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直であって、かつ、前記棒体の外周側面に方位に応じて固着された少なくとも4面以上の反射面と
を有し、
前記
少なくとも4面以上の反射面の前記電磁波の照射方向の厚みが、前記照射装置から照射される電磁波を反射できない程度に圧縮され、
また、前記照射装置から見た平面視において、
前記棒体の反射面が前記反射板の中心部に位置し、
前記
少なくとも4面以上の反射面が、前記棒体の周りに渦巻状に配設され、かつ、前記照射装置から各反射面までの略垂直な距離が順次異なるように、形成されることを特徴とする測距方法。
【請求項9】
コンピュータを、請求項6に記載の測距装置の各手段として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄塔構造物や高層ビル等の構造物の変位を観測する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物は、鉄骨支柱、コンクリート等の複数の材料や部材により構成されており、また、これらの材料や部材は気象条件(例えば、突風、豪雨、土砂崩れ、地震等の気象上の災害)に起因して変位するため、構造物の安全性を確保する上で、構造物の変位を観測することが行われている。
【0003】
従来、この構造物の変位を観測する方法として、衛星測位システムを用いて観測する方法が知られている(例えば、特許文献1)。この特許文献1に開示された方法では、構造物を鉄塔構造物として、GPS(Global Positioning System)信号を用いて取得した地上設置装置の位置データと、鉄塔構造物を構成する鉄塔材のボルト頂部に取り付けられた計測器から電波が発信された時刻及びその電波を地上設置装置において受信した時刻に関する時刻データとに基づいて計測器の設置箇所情報(位置情報)を演算し、それを設計値と比較することで、計測器が取り付けられた設置箇所の変位を観測している。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された計測(観測)方法では、位置情報の測位にGPS信号(衛星信号)を用いており、この衛星信号を用いた測位では、その精度が高精度なものでもセンチメータ級であることに関連して、構造物の微小な変位を検出することが困難であり、精確に変位を観測することができないという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題に対応するために(即ち、構造物の微小な変位を精確に観測するために)、反射板にレーザ装置よりレーザ光を照射し、その照射してから受信するまでの時間(レーザ装置から反射板までの距離)に基づいて、構造物の微小な変位を観測する方法が開示されている(特許文献2)。
【0006】
特許文献2では、構造物の微小な変位を観測する上で、
図8に示されるような丸型の反射板を用いており、この丸型の反射板は、その中心部に位置する中心円形反射面であるNo.0の面と、No.0の面の周りに渦巻状に形成され、かつ、レーザ装置から面方向に略垂直な距離が、渦巻き方向内周側から外周側に向かって段階的に異なるように形成された外周渦巻反射面であるNo.1からNo.12までの面とで形成され、また、No.0からNo.12までの面が、レーザ装置から照射されたレーザ光を入射方向に反射させるように形成されている(即ち、面方向がレーザ光の照射方向に略垂直な段差面を有する段差構造になるように形成されている)。
【0007】
このように、特許文献2の反射板では、レーザ照射装置から面方向に垂直な距離が各々の面で異なるように、丸型の反射板を段差構造に(即ち、レーザ光を照射してから、反射板により反射されたレーザ光を受光するまでの時間を、各々の面で異なる時間として計測されるように)形成させることで、例えば、設置時(鉄塔が変位していないとき等の正常時)において、レーザ装置からのレーザ光がNo.0の面で反射されるように反射板を設置していた場合であって、その後に、鉄塔が変位すると、レーザ装置からのレーザ光がNo.0の面以外の面で反射されることになり、結果、レーザ装置から反射板までの距離が、設置時よりも、長く計測されることになり(異なって計測されることになり)、鉄塔の変位を確認することができる(
図9)。
【0008】
但し、特許文献2の反射板は、構造物が水平方向に移動することを前提に、変位を確認するものであり、構造物は、実際には、傾きをもって変位する。そのため、構造物(反射板)が傾きをもって変位すると、各段差側面(例えば、
図10に示されるように、No.1の反射面とNo.5の反射面の段差側面)にレーザ光が照射される可能性があり、実際に、段差側面にレーザ光が照射されると、レーザにより計測される距離は、その段差側面の中央値として計測されることとなる(例えば、No.1の反射面とNo.5の反射面の段差側面にレーザ光が照射されると、その段差側面の中央値、即ち、No.3の反射面として検出されることとなる)。
【0009】
この場合(即ち、No.3の反射面として検出されてしまった場合)、変位の度合いに関しては、No.1の反射面にレーザ光が照射された場合と同様に判定され、場合によっては、そのように判定しても許容することができるが、変位の方位(方角)に関しては、No.1の反射面、又はNo.5の反射面にレーザ光が照射された場合の方位(西:W)と、No.3の反射面にレーザ光が照射された場合の方位(東:E)とでは、判定される方位が異なる結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2007-78602号公報
【文献】特許第6869416号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題に鑑みてなされたものであって、その課題は、構造物の変位(変位度)及び変位方位を精確に観測できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の反射板は、所定の電磁波を、当該電磁波の照射源に反射させる反射板であって、棒体の端部に形成された反射面と、面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直であって、かつ、前記棒体の外周側面に方位に応じて固着された少なくとも4面以上の反射面とを備え、前記反射面の前記電磁波の照射方向の厚みが、前記照射源から照射される電磁波を反射できない程度に圧縮され、また、前記照射源から見た平面視において、前記棒体の反射面が前記反射板の中心部に位置し、前記反射面が、前記棒体の周りに渦巻状に配設され、かつ、前記電磁波の照射源から各反射面までの略垂直な距離が順次異なるように、形成されることを特徴とする。
【0013】
本発明の測距装置は、反射板と、前記反射板に所定の電磁波を照射する照射手段と、前記反射板により反射された電磁波を受信する受信手段と、前記照射手段により電磁波を照射してから、前記受信手段により電磁波が受信されるまでの時間を計測する計測手段と、前記計測された時間に基づいて、所定の距離を基準とした場合の前記照射手段から前記反射板までの距離を算出する算出手段とを備え、前記反射板は、棒体の端部に形成された反射面と、
面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直であって、かつ、前記棒体の外周側面に方位に応じて固着された少なくとも4面以上の反射面とを有し、前記反射面の前記電磁波の照射方向の厚みが、前記照射源から照射される電磁波を反射できない程度に圧縮され、また、前記照射源から見た平面視において、前記棒体の反射面が前記反射板の中心部に位置し、前記反射面が、前記棒体の周りに渦巻状に配設され、かつ、前記電磁波の照射源から各反射面までの略垂直な距離が順次異なるように、形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明の変位観測システムは、測距装置と、当該測距装置と所定の通信回線を介して接続される情報処理装置とを備えた変位観測システムであって、前記測距装置は、構造物に設置され、所定の電磁波を照射する照射手段と、前記照射手段により照射される所定の電磁波を反射させる反射板と、前記反射板により反射された電磁波を受信する第1の受信手段と、前記照射手段により電磁波を照射してから、前記第1の受信手段により電磁波が受信されるまでの時間を計測する計測手段と、前記計測された時間に基づいて、前記照射手段から前記反射板までの距離を算出する算出手段と、前記算出された距離を、所定の判定テーブルと照合することで、前記構造物の変位方位及び変位度を判定する判定手段と、前記情報処理装置に、前記算出された距離、並びに前記構造物の変位方位及び変位度を送信する第1の送信手段とを備え、前記情報処理装置は、前記第1の送信手段により送信された、前記算出された距離、並びに前記構造物の変位方位及び変位度を受信する第2の受信手段と、表示装置に、前記算出された距離、並びに前記構造物の変位方位及び変位度の少なくともいずれかに基づいて、前記構造物の変位状態を表示させる表示制御手段とを備え、前記測距装置の反射板は、面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直な反射面を少なくとも5面以上含み、前記反射面は、前記電磁波の照射手段から面方向に垂直な距離が各々の面で異なるように、段差構造により形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、構造物の変位(変位度)及び変位方位を精確に観測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】測距装置を備える変位観測システムの概略ブロック図である。
【
図2】測距装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】測距装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】常時観測における測距装置の処理の手順を示すフローチャートである。
【
図7】気象連動観測における測距装置の処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8】従来技術における反射板(丸型)を示す図である。
【
図9】従来技術における判定用テーブルを示す図である。
【
図10】従来技術における反射板の段差側面にレーザ光が照射された場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれ、また、以下の実施形態の一部を適宜組み合わせることもできる。
【0018】
また、本発明は、上述のように、構造物の変位を観測する技術に関するものであるが、以降では、構造物として、鉄塔構造物(以下、鉄塔と称する)を例に説明する。
【0019】
図1は、測距装置100を備える変位観測システム10の概略ブロック図である。測距装置100は、
図1に示されるように、反射板110と、地上に固定されたレーザ装置120を備える。反射板110は、レーザ装置120から照射されたレーザ光を反射させ、レーザ装置120に返す装置である。レーザ装置120は、所定のトリガに従って、レーザ光を反射板110に照射し、そのレーザ光を照射してから反射板110により反射されたレーザ光を受光(受信)するまでの時間を計測することで、所定の距離を基準とした場合のレーザ装置120から反射板110までの距離を距離情報として取得する。このように、測距装置100は、所定の距離を基準とした場合のレーザ装置120から反射板110(即ち、反射板110が設置された鉄塔の位置)までの距離を測定する。
【0020】
なお、ここでは、測距装置100により測距する上で、レーザ光(波長が380nm~750nmの電磁波)を用いて説明しているが、直進性を有し、反射板110からの反射波を受信でき、それにより反射板110までの距離を計測できる電磁波であれば、必ずしもレーザ光を用いなくてもよい。
【0021】
また、測距装置100は、情報処理装置200と所定の通信回線を介して接続され、さらに、気象観測装置300とLAN(Local Area Network)等の有線及びWi-SUN等の無線を介して接続されることで、変位観測システム10を構成する。この変位観測システム10は、その構成により、常時観測システムや気象連動観測システムとして機能する。以下、これらの機能について、順に説明する。
【0022】
常時観測システムは、上記構成のうち、測距装置100及び情報処理装置200で機能する。ここで、常時観測は、台風や地震等の影響で鉄塔が動いて戻らない場合のズレ量(移動量)を観測するものであり、また、常時観測として、例えば、所定の時間間隔での観測、所定の日時における定時観測、情報処理装置200の作業者からの計測指示に従った観測等がある。
【0023】
この常時観測において、測距装置100は、上述の手順に従って測定されたレーザ装置120から反射板110までの距離を所定の距離を基準に距離情報として換算し、さらに、内部の記憶装置に記憶された所定の判定テーブルを参照することで、反射板110(鉄塔)の変位方位及び変位度(階級)を判定する。測距装置100は、判定結果を、内部の記憶装置に記憶するとともに、距離情報、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、所定の通信回線を介して情報処理装置200に送信する。
【0024】
情報処理装置200は、例えば、外部のサーバ装置等であり、測距装置100より送信された、距離情報、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、計測条件と関連付けて、内部の記憶装置に記憶する。情報処理装置200の作業者は、情報処理装置200の表示装置(表示画面)に、鉄塔の変位方位及び変位度に基づいて、二次元又は三次元で鉄塔の変位状態(即ち、鉄塔が移動して、元の位置に戻らない状態(恒久的な変位))を表示等、可視化することで、鉄塔の状態を分析し、必要に応じて外部の携帯情報端末等と連携させることもできる。なお、ここでは、測距装置100において鉄塔の変位方位及び変位度を判定する仕様としているが、情報処理装置200の記憶装置に所定の判定テーブルを記憶させ、情報処理装置200が、計測条件及び距離情報に基づいて鉄塔の変位方位及び変位度を判定する仕様としてもよい。
【0025】
気象連動観測システムは、言うなれば、外部要因連動観測システムであり、上記構成のうち、測距装置100、情報処理装置200、及び気象観測装置300で機能する。ここで、気象連動観測は、台風や地震等の影響で鉄塔が揺れて戻る場合の揺れ幅(どの程度、揺れるか)等の動態を観測するものであり、また、気象連動観測として、例えば、風速等に連動させた観測等がある。
【0026】
この気象連動観測において、測距装置100は、気象観測装置300から計測指示及び気象観測値を受信すると、先ず、その観測対象としている気象に応じて設定された計測条件に従ってレーザ装置120から反射板110までの距離を測定する。次に、測距装置100は、その測定した距離を、所定の距離を基準に距離情報として換算し、さらに、内部の記憶装置に記憶された所定の判定テーブルを参照することで、反射板110(鉄塔)の変位方位及び変位度を判定する。測距装置100は、判定結果を、内部の記憶装置に記憶するとともに、気象観測値、距離情報、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、所定の通信回線を介して情報処理装置200に送信する。
【0027】
情報処理装置200は、測距装置100より送信された、気象観測値、距離情報、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を、内部の記憶装置に記憶する。情報処理装置200の作業者は、情報処理装置200の表示装置(表示画面)に、鉄塔の変位方位及び変位度に基づいて、二次元又は三次元で時系列的に鉄塔の変位状況(即ち、鉄塔が揺れて戻る場合の揺れ幅(一時的な変位))を表示等、可視化することで、鉄塔の状況を分析し、必要に応じて外部の携帯情報端末等と連携させることもできる。なお、鉄塔の変位方位及び変位度の判定に関して、常時観測の場合と同様に、情報処理装置200の記憶装置に所定の判定テーブルを記憶させ、情報処理装置200が、計測条件及び計測した距離情報に基づいて鉄塔の変位方位及び変位度を判定する仕様としてもよい。
【0028】
気象観測装置300としては、例えば、風向風速センサ、振動センサ、加速度センサ、雨量センサ、土中水分量センサ、ワイヤ式センサ等の各種センサが想定され、また、気象観測装置300に関して、上述では測距装置100の外部に設置するものとして説明したが、測距装置100の内部に実装できるものは、内部に実装してもよい(即ち、測距装置100は、気象観測装置300を含んでもよい。)
【0029】
気象観測装置300には、各々、コンパレータ等で構成された閾値設定用の基盤が気象観測装置300の内部に実装、又は気象観測装置300の外部に接続(設置)され、その基盤において、気象観測装置300により観測された値(気象観測値)が設定された閾値以上であると判定されると、気象観測装置300又は閾値設定用の基盤は、測距装置100に対して計測指示及び気象観測値を送信する。なお、この閾値に関して、情報処理装置200の作業者は、気象観測値、距離情報、計測条件、鉄塔の変位方位及び変位度等を確認することで、観測対象とする気象に応じて調整することもできる。また、以降の変位観測システム10に関する説明では、閾値設定用の基盤が気象観測装置300の内部に実装されているものとして説明し、気象観測装置300として風向風速センサを例に説明する。
【0030】
補足として、
図1には、図示していないが、鉄塔には撮像装置が設置され、撮像装置は、気象観測値、また、変位度(所定の変位度以上になると判定されたこと)に応じて連動させることができる。例えば、基礎周辺ののり面の崩壊が危惧される鉄塔であれば、「のり面の画像」を撮像し、鉄塔の基礎(コンクリート)部分を観測したい場合であれば、「鉄塔の基礎部分の画像」を撮像し、また、風によるギャロッピングが懸念される鉄塔であれば、「鉄塔の腕金部分の部材や電線保持箇所の画像」等、鉄塔において異常の発生しやすい部位を撮像する。これにより、作業者の点検作業、保守作業を省力化することやリアルタイムの画像モニタリング(監視)が可能となる。
【0031】
また、上述のように、気象観測装置300として雨量センサを用いることからして、変位観測システム10による観測では、雨天時に鉄塔の変位を観測することも当然に行われる。但し、降雨量によっては、レーザ装置120から照射されるレーザ光が(レーザの照射方向と降雨方向が略逆であることに関係して)雨に反射されることで散乱してしまうことや雨に当たることで、減衰してしまうことが想定される。加えて、降下物や粉塵等の多い時期や環境下では、レーザ装置120のレーザ照射部をそれらが塞いでしまうことも想定される。このような場合、レーザ光が反射板に上手く照射されず、結果、鉄塔の変位及び変位方位を精確に観測することができなくなることが懸念される。
【0032】
そこで、このような懸念を回避するために、反射板110とレーザ装置120の位置を入れ換えることもできる。即ち、レーザ装置120を鉄塔に設置し、地上に固定された反射板110に対してレーザ光を照射することで、鉄塔の変位を観測するようにしてもよい。その他、測距装置100の外部には太陽光パネルが設置され、測距装置100は、商用電源での運用以外に、自立電源での運用も可能としている。
【0033】
図2は、測距装置100のハードウェア構成を示すブロック図である。測距装置100は、
図2に示されるように、反射板110及びレーザ装置120を備える。レーザ装置120は、その主な構成として、制御装置131、レーザ照射装置132、受光装置133、計測装置134、記憶装置135、インタフェース136、通信装置137等を備える。
【0034】
制御装置131は、所定のプロセッサを搭載したコンピュータであり、レーザ装置120から反射板110までの距離を測定(計測)する測定制御、その測定された距離を、所定の距離を基準に距離情報として計算する計算制御、また、その距離情報に基づいて、記憶装置135に記憶されている変位方位及び変位度を判定するための判定テーブルを参照することで、鉄塔の変位方位及び変位度を判定する判定制御を行う。その他、制御装置131は、変位度に応じて撮像装置(カメラ)400に対して、撮像指示を行ったり、情報処理装置200の作業者からの命令に従って、記憶装置135に記憶されているファームウェアの更新等を行ったりする。
【0035】
これ以外に、制御装置131は、各種データの取得制御として、例えば、インタフェース136を介して、気象観測装置300から計測指示及び気象観測値、撮像装置400から画像データを取得するように制御する。また、制御装置131は、記憶制御として、記憶装置135に、各種取得したデータ、各種処理の結果、各種設定(例えば、定時観測時における計測条件等)を記憶するように制御する。また、制御装置131は、各種データの送信制御として、通信装置137を介して、常時観測において、距離情報、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信するように制御し、気象連動観測において、気象観測値、距離情報、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信するように制御する。
【0036】
レーザ照射装置132は、レーザの照射源であり、レーザ光を発振するレーザ発振器と、レーザ発振器により発振されたレーザ光を焦点に集める集光レンズを備え、上述のように、情報処理装置200の作業者又は気象観測装置300の計測指示等をトリガとして、反射板110にレーザ光を照射する。受光装置133は、反射板110により反射されたレーザ光を受光(受信)する装置である。計測装置134は、レーザ照射装置132から照射されたレーザ光が反射板110により反射され、受光装置133により受光されるまでの時間を計測する。
【0037】
記憶装置135は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SDカード等であり、常時観測において、距離情報、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を記憶し、気象連動観測において、距離情報、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を記憶する。その他、変位方位及び変位度を判定するための判定テーブル、気象観測値等の各種取得したデータ、各種処理の実行に用いられるプログラム等を記憶する。
【0038】
また、インタフェース136は、RS(Recommended Standard)232、LAN等の有線及びEnOcean、LoRa、Wi-SUN等の無線を介して、気象観測装置300からのアナログ入力又はデジタル入力、及び気象観測装置300やその他の機器へのデジタル出力を行うインタフェースである。通信装置137は、モバイル通信(例えば、通信規格としてLTE(Long Term Evolution)を用いた通信等)用のアンテナである。
【0039】
反射板110は、
図4を用いて詳述するが、変位する方位(即ち、東西南北の方角)を確認する上で、面方向がレーザ光の照射方向に略垂直な反射面(羽根)を少なくとも4面以上備えるものであり、レーザ照射装置132から面方向に垂直な距離が各々の反射面で異なるように、段差構造により形成される。なお、この場合、鉄塔が変位していないと判定するための反射面(後述の
図4のNo.0の反射面)を含めると、反射板は、少なくとも5面以上の反射面を備えることになる。その他、反射板110の素材としては、例えば、樹脂又は金属(鉄、アルミ)等、レーザ光を反射する素材であれば、どのような素材でも用いることができる。
【0040】
図3は、測距装置100の機能構成を示すブロック図である。測距装置100は、
図3に示されるように、その機能として、受信部141、記憶部142、計測条件設定部143、距離情報取得部144、判定部149、送信部150を備える。
【0041】
受信部141は、気象観測装置300から送信される計測指示及び気象観測値、また、情報処理装置200の作業者から送信される計測指示等を受信する。記憶部142は、受信部141において受信した気象観測値等の各種取得したデータ、変位方位及び変位度を判定するための判定テーブル、各種処理の実行に用いられるプログラム、各種処理の実行結果(例えば、常時観測において、距離情報、並びに鉄塔の変位方位及び変位度、気象連動観測において、距離情報、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度等の実行結果)を記憶する。
【0042】
計測条件設定部143は、気象連動観測において、受信部141により計測指示及び気象観測値が受信されると、その気象観測値に基づいて、鉄塔の距離情報を取得する上での条件(計測条件)を設定する。距離情報取得部144は、計測条件設定部143により設定された計測条件に従って、レーザ装置120から反射板110までの距離を測定(計測)し、さらに、その測定された距離を、所定の距離を基準に距離情報として換算(取得)する。距離情報取得部144は、
図3に示されるように、レーザ照射部145、受光部146、計測部147、距離情報算出部148を備える。
【0043】
レーザ照射部145は、受信部141により計測指示が受信されると、反射板110にレーザ光を照射する。受光部146は、反射板110により反射されたレーザ光を受光(受信)する。計測部147は、レーザ照射部145によりレーザ光が照射されてから、反射板110により反射され、受光部146により受光されるまでの時間を計測する。距離情報算出部148は、三角測距方式や位相差距離方式等の演算処理により、レーザ装置120から反射板110までの距離を測定し、さらに、その測定した距離を、所定の距離を基準に距離情報として算出(換算)する。
【0044】
判定部149は、距離情報取得部144より取得された距離情報を、変位方位及び変位度を判定するための判定テーブルと照合することで、変位方位及び変位度を判定する。送信部150は、情報処理装置200に対して、常時観測において、距離情報、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信し、気象連動観測において、距離情報、気象観測値、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信する。また、送信部150は、情報処理装置200の作業担当者より気象観測値に関する閾値の調整指示(命令)があった場合に、その調整指示を気象観測装置300に送信する。
【0045】
図4は、反射板110を示す図である。
図4(A)は反射板110の正面図、
図4(B)は反射板110の平面図であり、また、
図4(C)の表は、No.0の反射面から反射板110を構成する各々の反射面(以下、羽根又は単に「面」と称することもある)までの距離を高さとして示したものである。
【0046】
反射板110は、円柱棒体と、その円柱棒体に固着されたNo.1からNo.12までの反射面により構成される。なお、No.0の反射面は、
図4(A)において、円柱棒体の上端面として示される。
【0047】
図4(A)の正面図に示されるように、反射板110は、鉄塔(構造物)が斜めに傾いた際に、羽根の側面でレーザ光が反射されることがないように、羽根の側面を圧縮している(羽根の厚み部分を限りなく薄くしている)。加えて、各々の段差区分において、レーザ照射側から見て羽根と羽根との間に隙間ができないように(反射板の斜めからレーザ光が照射されたとしても、いずれかの羽根(反射面)でレーザ光を反射させることができるように)、例えば、1枚目の羽根は、中心角が90度の扇形、2枚目及び3枚目の羽根は、中心角が105度、4枚目の羽根は、中心角が120度の扇形に設定される。即ち、同一の段差区分において、レーザ照射装置132から遠ざかる方向に隣り合う少なくとも2つの反射面(ここでは、1枚目の羽根と2枚目の羽根、3枚目の羽根と4枚目の羽根)に関しては、その反射面を形成する扇形の中心角が、レーザ照射装置132から遠ざかる方向に従って、大きくなるように設定される。
【0048】
また、反射板110において、No.1からNo.4までの反射面、No.5からNo.9までの反射面、No.9からNo.13までの反射面の各々で、段差のグループ(段差区分)を形成させ、鉄塔がどのように傾いても、変位度がどの段差区分とも重複して判定されないように(変位度が誤って判定されないように)段差区分の間隔を同じ段差区分に属する羽根と羽根との段差よりも広く設定している。この点、
図4(C)の表からも明らかなように、第1の段差区分に属ずるNo.1からNo.4までの反射面に関して、その段差を10mmに設定しているが、段差区分間の間隔(第1の段差区分と第2の段差区分の間隔)を70mmに設定している。
【0049】
図4(B)の平面図を参照すると(即ち、レーザ照射装置132から見た平面視において)、反射板110は、その中心部に位置する中心円形反射面であるNo.0の面と、No.0の面の周りに渦巻状に形成(配設)され、かつ、渦巻き方向内周側から外周側に向かって低くなるように形成させることで、レーザ装置120から面方向に略垂直な距離が順次異なるように形成された反射面であるNo.1からNo.12までの面とで形成される(即ち、レーザ光を照射してから、反射板110により反射されたレーザ光を受光するまでの時間を、各々の面で異なる時間として計測されるようにする)。
【0050】
これにより、例えば、設置時(鉄塔が変位していないとき等の正常時)において、レーザ装置120からのレーザ光がNo.0の面で反射されるように反射板110を設置していた場合であって、その後に、鉄塔が変位すると、レーザ装置120からのレーザ光がNo.0の面以外の面で反射されることになり、結果、レーザ装置120から反射板110までの距離が、設置時よりも、長く計測されることになり(異なって計測されることになり)、鉄塔の変位を確認することができる。また、補足として、上述の略垂直とは、レーザ光の照射方向と反射面の面方向の成す角度が必ずしも90度である必要はなく、反射面により反射されたレーザ光が、受光装置133において受光され得るように設定される、レーザ光の照射方向と反射面の面方向の成す角度として示される。
【0051】
なお、
図4では、同じ段差区分に属する反射面の段差を10mm、段差区分間の間隔を70mmに設定した場合を、その一例として示しているが、レーザ装置120の測距精度(略1mm程度)以上であれば、段差の間隔を任意に設定することができる。そのため、同じ段差区分に属する各々の反射面に関して、段差を略1mm程度で設定し、反射板110を円形のスロープ状に形成させることもできる。また、鉄塔の変位(異常)を確認するだけであれば、鉄塔の許容変位に応じたサイズで形成された面(正常時の測距に用いる面)と、その面と高さが異なる段差面を有する段差構造により形成させればよく、加えて、鉄塔の変位する方位(東:E、西:W、北:N、南:S)も確認するのであれば、円柱棒体にNo.1からNo.4までの羽根を固着して反射板110を構成させればよい。
【0052】
その他、反射板110の羽根の形状は、鉄塔が、どの方向に、どれくらい変位したかを確認することができれば、どのような形状で形成してもよい(最低限、異常を検知できる形状であれば(どれくらい変位したかを確認できる形状であれば)、どのような形状で形成してもよい)。なお、どの程度の変位を「異常」とするかは、鉄塔(構造物)の大きさ、種別、設置状態、及び変位態様(想定変位の大きさや方向)等の少なくともいずれか、また、目的精度で異なる。そのため、それらの条件に合わせて、反射板の形状、大きさ(サイズ)、段差区分の数及び間隔、段差区分における羽根の数及び羽根の間隔を設計するものとし、これにより、距離情報と羽根が1対1で関連付けられるように設計される。詰まりは、構造物がどのような態様で変位したとしても、1つの羽根が特定されるように設計される。
【0053】
図5は、鉄塔の変位方位及び変位度を判定するための判定用テーブル(簡単には、鉄塔の異常を判定するための判定用テーブル)を示す図であり、また、この判定テーブルでは、反射板110のNo.0の反射面とレーザ装置120との距離を基準距離0mとしている。
【0054】
判定用テーブルにおいて、第1列の「No」は、反射板110を構成する面の番号として示され、第2列の「中央値」は、レーザ装置120の測距精度に誤差がないものと仮定した場合であって、かつレーザ装置120から反射板110のNo.0の面までの距離を基準とした場合のレーザ装置120から反射板110を構成する各々の面までの距離として示される。また、第3列の「レーザ測距値」は、測距装置100で計測される距離であり、(レーザ装置120から反射板110のNo.0の面までの距離を基準とした場合の)レーザ装置120から反射板110を構成する各々の面までの距離(「中央値」)に、レーザ装置120の測距誤差(ここでは、区分の都合上、-4.9mm以上、+5.1mm未満として設定)を含めたものとして示される。例えば、「中央値」が70mmである場合、「レーザ測距値」は、レーザ装置120の測距誤差及び区分の範囲(都合)を考慮して、65.1mm以上 ~ 75.1m未満で設定される。
【0055】
さらに、第4列の「変位方位」は、反射板110(鉄塔)の変位する方位(東:E、西:W、北:N、南:S)として示され、また、第5列の「変位度(階級)」は、反射板110のNo.0の中心からの変位の度合いとして示される。なお、「変位度(階級)」に関して、例えば、「階級0」は異常がないレベルであること、「階級1」は変位があるが、要監視レベルであること、「階級2」以上は変位があり、異常レベルであることを示すものとして定義される。
【0056】
加えて、第6列の「変位」は、反射板110のNo.0の中心から遠心方向への距離として示される。上述の
図4の反射板110において、反射板110のNo.0の面の直径を20mm、また、方位(方角)を西:Wとして、No.1の反射面の円柱棒体の断面中心からNo.5側までの間隔(半径)を30mm、No.5の反射面の円柱棒体の断面中心からNo.9側までの間隔(半径)を60mm、No.9の反射面の円柱棒体の断面中心から外縁までの間隔(半径)を90mmに設定している。
【0057】
なお、この場合、レーザ装置120の照射方向から反射板110を見ると(上述の平面図(
図4(B))、反射板110のNo.0の面の中心から外側に、No.0の面とNo.1の面の境界までの距離は10mm、No.1の面とNo.5の面の境界までの距離は20mm、No.5の面とNo.9の面の境界までの距離は30mm、No.9の面の外側境界までの距離は30mmとなる。また、これらの点に関して、反射板110のNo.0の面の中心から外側に、西:W以外の方角に関しても同様である。
【0058】
測距装置100は、レーザ装置120から反射板110までの距離を計測し、レーザ装置120から反射板110のNo.0の面までの距離を基準とした場合の距離を算出すると、その算出された距離が判定用テーブル内の「レーザ測距値」のどの範囲に含まれるかを判定し、その範囲に紐づけられた「変位方位」及び「変位度(階級)」を導出する。なお、この判定用テーブルの数値は、反射板110の形状、大きさ(サイズ)、段差区分の数及び間隔、段差区分における羽根の数及び羽根の間隔、レーザ装置120と反射板110の距離、どの程度の変位を異常として判定するか、どの程度の変位を観測するか等によって設定され、かつ、構造物がどのような態様で変位したとしても、距離情報と羽根が1対1で関連付けられるように(即ち、1つの羽根が特定されるように)設定される。
【0059】
図6は、常時観測における測距装置100の処理の手順を示すフローチャートであり、ここでは、常時観測として、情報処理装置200より送信された計測指示及び計測条件を受信してから、情報処理装置200に変位方位及び変位度を送信するまでの手順を例示する。なお、以下において、フローチャートの説明における記号「S」は、ステップを表すものとする。即ち、ここでは、フローチャートの各処理ステップS61~ステップS66をS61~S66と略記する。また、この点、後述の
図7に示すフローチャートにおいても同様とする。
【0060】
図6の常時観測における測距装置100の処理は、上述のように、情報処理装置200から計測指示及び計測条件を受信すると(S61)、開始される。受信部141により計測指示及び計測条件が受信されると、判定部149は、記憶部142から、その構造物(鉄塔)に応じて設定された判定用テーブルを読み込む(S62)。
【0061】
距離情報取得部144は、受信部141により計測指示及び計測条件が受信されると、計測条件に従って、レーザ光を反射板110に照射し、そのレーザ光を照射してから、反射板110により反射されたレーザ光を受光するまでの時間を計測することで、レーザ装置120から反射板110までの距離を算出する。さらに、その算出された距離より、レーザ装置120から反射板110のNo.0の面までの距離を基準とした場合の距離を、距離情報として取得する(S63)。なお、距離情報取得部144は、記憶部142に取得した距離情報を記憶する。
【0062】
そして、距離情報を取得すると、判定部149は、取得した距離情報を判定用テーブルと照合する(S64)。判定部149は、照合の結果、導出された変位方位及び変位度を記憶部142に記憶する(S65)。そして、送信部150は、記憶部142に変位方位及び変位度が記憶されると、送信処理の設定(即ち、即時に送信する設定、又はバッチ処理により送信する設定のいずれに設定されているか)を判定し(S66)、即時に送信する設定である場合には、情報処理装置200に、距離情報、変位方位及び変位度を送信する(S67)。
【0063】
なお、S62の処理とS63の処理の順序は、必ずしもこの順序に限定されず、S63の処理をS62の処理よりも先に実行してもよく、また、S62の処理とS63の処理を並列に実行してもよい。また、補足として、情報処理装置200の作業者は、変位方位及び変位度を受信すると、所定のアプリケーションを用いて、鉄塔の変位状態を表示させる(具体的には、変位度(階級)に応じて、「階級0」を黒色(異常なし)、「階級1」を青色(要監視)、「階級2」を黄色(異常あり)、「階級3」を赤色(異常あり)、「階級4」を紫色(異常あり)等で表示させる)。
【0064】
図7は、気象連動観測における測距装置100の処理の手順を示すフローチャートである。即ち、測距装置100において、気象観測装置300より送信された計測指示及び気象観測値を受信してから、情報処理装置200に変位方位及び変位度を送信するまでの手順を示すフローチャートである。
【0065】
図7の気象連動観測における測距装置100の処理は、上述のように、気象観測装置300から計測指示及び気象観測値を受信すると(S71)、開始される。受信部141により計測指示及び気象観測値が受信されると、計測条件設定部143は、観測対象としている気象及び気象観測値に基づいて、レーザ装置120から反射板110までの距離を計測する条件(計測条件)を設定する(S72)。また、判定部149は、記憶部142から、その構造物(鉄塔)に応じて設定された判定用テーブルを読み込む(S73)。
【0066】
距離情報取得部144は、計測条件設定部143により計測条件が設定されると、その計測条件に従って、レーザ光を反射板110に照射し、そのレーザ光を照射してから、反射板110により反射されたレーザ光を受光するまでの時間を計測することで、レーザ装置120から反射板110までの距離を算出する。さらに、その算出された距離より、レーザ装置120から反射板110のNo.0の面までの距離を基準とした場合の距離を、距離情報として取得する(S74)。なお、距離情報取得部144は、記憶部142に取得した距離情報を記憶する。
【0067】
そして、距離情報を取得すると、判定部149は、取得した距離情報を判定用テーブルと照合する(S75)。判定部149は、照合の結果、導出された変位方位及び変位度を記憶部142に記憶する(S76)。送信部150は、送信処理の設定(即ち、即時に送信する設定、又はバッチ処理により送信する設定のいずれに設定されているか)を判定し(S77)、即時に送信する設定である場合には、情報処理装置200に、気象観測値、距離情報、計測条件、並びに鉄塔の変位方位及び変位度を送信する(S78)。その後、計測終了の条件を充足するか否かを判定し(S79)、計測を継続するようであれば、処理をS74に返し、計測を終了するようであれば、
図7のフローチャートに示される処理を終了する。
【0068】
次に、
図7に示される気象連動観測において、気象観測装置300から測距装置100に対して送信される計測指示と、測距装置100においてレーザ装置120から反射板110までの距離を計測する条件(計測条件)について説明を補足する。
【0069】
上述の説明では、その観測対象を「風(風光及び風速)」として(即ち、気象観測装置300を「風向風速センサ」として)説明したが、上述のように、観測対象としては、「風(風光及び風速)」以外の気象条件も想定されるため、その他の気象条件を観測(計測)する気象観測装置300についても併せて説明する。
【0070】
具体的には、気象観測装置300(センサ)として、(1)風向風速センサ以外に、(2)「振動センサ」及び「加速度センサ」(地震に関するセンサ)、(3)「雨量センサ」、(4)「土中水分量センサ」、(5)「ワイヤ式センサ」があり、ここでは、これらのセンサの各々に関して設定される(a)検出対象、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値、(c)計測条件について説明する。
【0071】
(1)「風向風速センサ」
「風向風速センサ」は、(a)検出対象を「風向」及び「風速」とするセンサである。(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関しては、「風向」に応じた「風速」が閾値として設定される。
【0072】
ここで、「風向」は鉄塔が風を受ける方向のことであり、鉄塔においては、風を受ける方向によって風圧(風圧荷重)が異なり、取り分け、角度鉄塔においては、「風速」だけではなく、「風向」も、倒壊に至るような大きな変位に影響を及ぼす要因となる。そこで、ここでは、「風向」別(例えば、8方向別等)に、倒壊に至るような大きな変位に影響を及ぼす「風速(最大瞬間風速)」を閾値として設定する。具体的には、ある「風向」において、倒壊等の異常に寄与しないようであれば、閾値としての「風速」を高く設定し、また、その逆の場合には、閾値としての「風速」を低く設定する。
【0073】
また、(c)計測条件に関しては、異常を有効に検知できるように設定される。例えば、ある「風向」において、「風速」が40m以上であって、かつ42.5m未満であれば、閾値と比較する上での鉄塔の変位を算出する上で、「1秒間に10回計測(観測)する」ように設定される。また、より詳細な動静を把握するためには「1秒間に200回計測(観測)する」ように設定することも可能である。
【0074】
(2)「振動センサ」及び「加速度センサ」
「振動センサ」及び「加速度センサ」は、「地震」を検知するためのセンサである(即ち、(a)検出対象を「地震」とするセンサである)。加えて、「振動センサ」及び「加速度センサ」において、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関して、「震度5弱以上」、又は「震度4かつ降雨中」として設定され、また、(c)計測条件に関して、「例えば、1分間隔等で計測(観測)する」ように設定される。
【0075】
(3)「雨量センサ」
「雨量センサ」は、(a)検出対象を「降雨」とするセンサである。加えて、「雨量センサ」において、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関して、例えば、『気象庁が発表している「大雨警報(土砂災害)の危険度分布(土砂災害警戒判定メッシュ情報)」の「非常に危険(警戒レベル4相当)」が1時間以上、継続した場合』等として設定され、また、(c)計測条件に関して、「例えば、1分間隔等で計測(観測)する」ように設定される。
【0076】
(4)「土中水分量センサ」
「土中水分量センサ」は、(a)検出対象を、鉄塔の基礎周辺の崩壊が危惧される斜面等とするセンサである。加えて、「土中水分量センサ」において、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値に関して、「降雨量20mm/h以上」として設定され、また、(c)計測条件に関して、「例えば、10分間隔等で計測(観測)する」ように設定される。なお、(4)「ワイヤ式センサ」に関しては、(3)「土中水分量センサ」と同様である。
【0077】
このように、各々のセンサにおいて、(a)検出対象、(b)測距装置100に計測指示を送信する上での閾値、(c)計測条件を適切に設定することで、鉄塔の変位方位及び変位度を適切に検知することができる。
【0078】
以上、説明したように、本発明によれば、構造物の変位(変位度)及び変位方位を精確に観測することができる。なお、気象連動観測において、計測条件を、その観測対象としている気象に応じて設定するように説明したが、構造物の変位(異常)を検知する上で十分な時間間隔(例えば、1秒間隔)であれば、その時間間隔を予め計測条件として設定して、その時間間隔に基づいて構造物の距離情報を取得するようにしてもよい。
【0079】
なお、変位(変位度)及び変位方位の観測を補完する上で、構造物に、構造物の傾斜角を検出する傾斜センサを設置してもよい。また、上述の説明では、構造物を鉄塔として、レーザ装置及び反射板を鉄塔の中心線上に配置する例について説明したが、構造物を高層ビルとする場合等、構造物の中心線上にレーザ装置及び反射板を配置することができない場合には、構造物(高層ビル)の側壁に反射板を所定の角度で傾けて設置し、さらに、レーザ装置を反射板に対して対向させて配置すればよい。この場合、測定された距離、及び反射板の設置角度等から、三平方の定理等、所定の演算式を適用することで、構造物の変位を確認することができる。
【0080】
加えて、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出し、実行する処理でも実現可能である。
【符号の説明】
【0081】
10 変位観測システム
100 測距装置
110 反射板
120 レーザ装置
200 情報処理装置
300 気象観測装置
【要約】
【課題】構造物の変位(変位度)及び変位方位を精確に観測できるようにする。
【解決手段】本発明の反射板は、所定の電磁波を、当該電磁波の照射源に反射させる反射板であって、棒体の端部に形成された反射面と、面方向が前記電磁波の照射方向に略垂直であって、かつ、前記棒体の外周側面に方位に応じて固着された少なくとも4面以上の反射面とを備え、前記反射面の前記電磁波の照射方向の厚みが、前記照射源から照射される電磁波を反射できない程度に圧縮され、また、前記照射源から見た平面視において、
前記棒体の反射面が前記反射板の中心部に位置し、前記反射面が、前記棒体の周りに渦巻状に配設され、かつ、前記電磁波の照射源から各反射面までの略垂直な距離が順次異なるように、形成される。
【選択図】
図4