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特許7050242躯体表面構造の施工方法、躯体表面施工用布地およびボード
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】躯体表面構造の施工方法、躯体表面施工用布地およびボード
(51)【国際特許分類】
   E04F 13/04 20060101AFI20220401BHJP
   E04F 13/14 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
E04F13/04 107
E04F13/14 103F
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2015238272
(22)【出願日】2015-12-07
(65)【公開番号】P2017106167
(43)【公開日】2017-06-15
【審査請求日】2018-12-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】397064405
【氏名又は名称】有限会社小川節夫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(72)【発明者】
【氏名】左海 正
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-158216(JP,A)
【文献】特開2008-223406(JP,A)
【文献】特開2000-080541(JP,A)
【文献】特開平03-202551(JP,A)
【文献】実公昭51-001323(JP,Y1)
【文献】特開平08-158215(JP,A)
【文献】特開平10-169147(JP,A)
【文献】特開2001-329677(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0196336(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/00-13/30
D04B 21/00-21/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地が埋設された水硬性組成物層を躯体表面に形成する工程を有する躯体表面構造の施工方法であって、
前記躯体表面構造は、前記布地に水硬性組成物を含浸させた未硬化湿布状であるタイル圧着用の下地層であり、
前記布地が埋設された水硬性組成物層を躯体表面に形成する工程は、(1)前記躯体表面に前記布地を機械的手段により固定する工程と、湿式工法により前記布地を前記水硬性組成物に埋設する工程、または、(2)前記布地が予め埋設されている前記水硬性組成物からなる躯体表面施工用ボードを躯体表面に固定する工程であり、
前記布地は、基布表面の少なくとも片面に輪奈が形成されている輪奈織物または前記輪奈の先端が切断されている織物であり、これら織物が前記輪奈および基布により形成される空隙部を残して、接合樹脂によりコーティングされており、
前記基布を形成する糸と、前記輪奈を形成する糸とが、これらの間で形成される前記空隙部を有しつつ、これらが交差する部分で前記接合樹脂により相互に接合されていることを特徴とする躯体表面構造の施工方法。
【請求項2】
請求項1記載の施工方法に使用される布地であって、
前記布地は、基布表面の少なくとも片面に輪奈が形成されている輪奈織物または前記輪奈の先端が切断されている織物であり、これら織物が前記輪奈および基布により形成される空隙部を残して、接合樹脂によりコーティングされており、
前記基布を形成する糸と、前記輪奈を形成する糸とが、これらの間で形成される前記空隙部を有しつつ、これらが交差する部分で前記接合樹脂により相互に接合されていることを特徴とする躯体表面施工用布地。
【請求項3】
前記織物の表面が凹凸模様を形成してなることを特徴とする請求項記載の躯体表面施工用布地。
【請求項4】
躯体表面に下地層を形成する工程と、この下地層にタイルを圧着で貼り付ける工程とを有するタイル貼り付け工法であって、
前記下地層が請求項1記載の施工方法により施工される躯体表面構造であることを特徴とするタイル貼り付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は躯体表面構造の施工方法、この施工方法に用いる躯体表面施工用布地、およびボードに関する。
【背景技術】
【0002】
2020年東京オリンピック開催にむけて安心安全な都市づくりを目指して建設工事が行なわれようとしている。地震対策や老朽化対策として建築物の壁面補強化が盛んに行なわれており、主流はネット壁面補強工法である。このネット壁面補強工法はモルタルおよびコンクリートの欠損部にネットを張りその上にモルタルを塗布する工法である。しかし、この工法は、欠損部の面に対して水平方向の補強しか出来ず垂直方向においては補強以前よりモルタル接着性能が低下する場合がある。
【0003】
モルタルなどの水硬性材料を構造物やプリプレグ材などに強固に接着させておくことができ、しかも硬化した水硬性材料の強度を向上させることのできる、水硬性材料用の補強材として、目の粗いメッシュ構造に編成した地組織を有するラッシェル編地であって且つ該地組織の一方または両方の面に多数の立体的なループパイルを形成したラッシェル編地が知られている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、ラッシェル編地は編物の一種であり、たて糸とよこ糸を相互に一定角度で直線状に交錯させて布地とした織物に比較して、水硬性材料の補強材として機械的強度が十分でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-80541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
織物の一種であるタオル地を用いた場合、以下に説明するように、モルタルなどの水硬性材料の補強材として使用が困難であるという問題がある。
図7(a)~(c)は、タオル地を水硬性材料の補強材として使用したときの問題点を説明する図である。
図7(a)において、(a-1)はタオル地を表し、(a-2)はB部拡大図であり、(a-3)は使用時の状態を示す図である。(a-1)に示すように、タオル地はパイル地組織を形成する繊維糸1’と輪奈(以下、ループともいう)を形成する繊維糸2’とから構成されている。(a-2)に示すように、繊維糸1’と繊維糸2’との重なり部分で繊維同士が摩擦で切れやすくなったりして、機械的強度が維持できなくなる。また、(a-3)に示すように、輪奈を形成する繊維2’が切断面や引っ掛かり等で抜けたりし易くなる。
【0007】
図7(b)に示すように、躯体6’の表面に繊維糸1’と繊維糸2’とからなるタオル地を固定して補強材とし、砂7c’が含まれているモルタル7’などを塗布すると、モルタル7’に含まれている水分7d’がタオル地の毛細管現象、表面張力によりタオル地側に吸水されてしまい、モルタル7’とタオル地との接着面がドライアウトする。その結果、モルタル7’の硬化不良、強度不良が生じる。また、モルタル7’が硬くなり、タオル地の表面から裏面に通らなくなる。
さらに、図7(C)に示すように、施工時にモルタル7’を鏝などで力を加えて押さえ込むと(7'’の状態)、タオル地の輪奈部分2'’がつぶれてしまい、タオル地の厚さ方向の補強効果がなくなる。また、タオル地が1枚の布地になるので、モルタル層が2層になり、より剥がれ易くなる。
特に、セメントやモルタルの強アルカリ、混和剤として使用される増粘剤の「ぬめり」と、充填剤として使用される「砂粒」がタオル地の繊維にヤスリ状に付着することで、モルタル硬化後に躯体6’の振動等による応力で繊維が摩擦により切れやすい状態となるため、タオル地の補強効果が得られなくなる。
【0008】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、タオル地などに特定の処理をすることにより、モルタルなどを用いて処理してもタオル地の厚さ方向の補強効果を維持することで、施工が容易であり、施工後の表面モルタル層に剥離や亀裂が生じることのない、耐震性、耐久性、防火、耐水性に優れた躯体表面構造の施工方法およびこの工法に用いることができる布地、ボードの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の躯体表面構造の施工方法は、布地が埋設された水硬性組成物層を躯体表面に形成する工程を有する躯体表面構造の施工方法である。この施工方法に使用される布地は、基布表面の少なくとも片面に輪奈が形成されている輪奈織物または上記輪奈の先端が切断されている織物であり、これら織物が輪奈および基布により形成される空隙部を残して、接合樹脂によりコーティングされている布地であることを特徴とする。
【0010】
また、上記布地が埋設された水硬性組成物層を躯体表面に形成する工程は、上記躯体表面に上記布地を機械的手段により固定する工程と、湿式工法により上記布地を水硬性組成物に埋設する工程であることを特徴とする。
また、上記布地が埋設された水硬性組成物層を躯体表面に形成する他の工程は、上記布地が予め埋設されている水硬性組成物からなる躯体表面施工用ボードを躯体表面に固定する工程であることを特徴とする。特に、上記躯体表面施工用ボードが上記布地に上記水硬性組成物を含浸させた未硬化湿布状のボードであることを特徴とする。
【0011】
本発明の躯体表面構造の施工方法に使用される、躯体表面施工用布地は、基布表面の少なくとも片面に輪奈が形成されている輪奈織物または上記輪奈の先端が切断されている織物であり、これら織物が上記輪奈および基布により形成される空隙部を残して、接合樹脂によりコーティングされていることを特徴とする。特に、上記織物の表面が凹凸模様を形成してなることを特徴とする。
【0012】
本発明の躯体表面施工用ボードは、水硬性組成物の内部に布地が一体化されたボードであって、使用される布地が上記本発明の躯体表面施工用布地であることを特徴とする。
【0013】
本発明のタイル貼り付け工法は、躯体表面に下地層を形成する工程と、この下地層にタイルを貼り付ける工程とを有し、上記下地層が上記本発明の施工方法により施工される躯体表面構造であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の躯体表面構造の施工方法は、使用される布地が基布表面の少なくとも片面に輪奈が形成されている輪奈織物または上記輪奈の先端が切断されている織物であり、これら織物が輪奈および基布により形成される空隙部を残して、接合樹脂によりコーティングされているので以下の効果がある。
(1)織物を構成する繊維の抜け、ほぐれ、捩れが発生しなくなり、また布地切断等の加工性が向上する。また織目同士の摩擦により繊維が弱くなり切れることもなくなる。
(2)コーティングされていることにより、織物全体としての表面積が小さくなる。また、特に接合樹脂としてエマルジョンを用いると乾燥時の収縮により繊維の毛羽立ちを集束するのでモルタル等の水が毛細管現象や表面張力により吸収されなくなる。また、耐薬品性に優れた接合樹脂を用いることによりモルタル・セメント等との接着性が向上する。
(3)接合樹脂がコーティングされていることにより、繊維にハリやコシが出るので、輪奈部分の立体構造がモルタル施工時の鏝押さえ等による圧力で潰れなくなる。このため、織物によりモルタル層が分離せず一体化した表面構造となる。
(4)接合樹脂によりコーティングされている繊維自身の機械的強度も向上するので、表面構造の補強効果が上がる。
【0015】
本発明の躯体表面施工用布地は、輪奈および基布により形成される空隙部を残して、接合樹脂によりコーティングされているので、輪奈部分の立体構造を保持できる。このため、立体の凹凸模様を形成しやすく伝統的地場産業製品であるタオル布地の新たな用途展開ならびに新規市場開拓につながる。
【0016】
本発明の躯体表面施工用ボードは、上記躯体表面施工用布地が水硬性組成物の内部に一体化されているので、躯体表面構造の施工が容易にできる。
【0017】
本発明のタイル貼り付け工法は、躯体表面に下地層を形成する工程と、この下地層にタイルを貼り付ける工程とを有し、上記下地層が上記本発明の施工方法により施工される躯体表面構造であるので、タイル施工性、安全性、耐久性の優れたタイル面が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】樹脂コーティングされたパイル織物または糸の状態を示す図である。
図2】表面模様を有するループ織物の一断面を表す図である。
図3】湿式工法によりループ織物を埋設する場合の例を説明する図である。
図4】表面模様を有するループ織物を用いた場合の断面図である。
図5】躯体表面施工用ボードを躯体表面に固定する工程の一例を示す図である。
図6】タイル圧着工法の下地層として用いた場合の一例を示す図である。
図7】タオル地を補強材として使用したときの問題点を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に使用できる、基布表面の少なくとも片面に輪奈が形成されている輪奈織物は、いわゆるパイル織物といわれ、地経糸に地緯糸を絡ませて製織したパイル地組織の片面または両面に、パイル経糸を織り込んでループが形成してある。また、このループの先端が切断されている織物も使用できる。このようなパイル織物は、タオル地反物として広く使用されている。
【0020】
パイル織物のパイル経糸および緯糸には、綿、麻、レーヨンおよび絹などの天然繊維または再生繊維、ビニロン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンまたはアクリルなどの合成繊維、炭素繊維またはガラス繊維などの無機繊維からなる紡績糸を単糸または双糸で用いることができる。地経糸にはこれらの紡績糸のなかで、機械的強度に優れた紡績糸が好ましく使用できる。
【0021】
パイル織物は接合樹脂により表面がコーティングされる。コーティングは樹脂溶液または樹脂エマルジョン液に含浸後乾燥することでなされるが、輪奈および基布により形成される空隙部を残して、コーティングするためには樹脂エマルジョン液またはポリビニルアルコール、デンプン等の合成のり、天然のり等を塗布することが好ましい。樹脂エマルジョン液は、含浸時には経糸および緯糸の繊維内部まで浸透し、乾燥時には水などの分散媒が最初に蒸発するので、経糸および緯糸全体を一体に接合しやすくなる。
【0022】
樹脂エマルジョン液は、耐アルカリ性、耐酸性など耐薬品性に優れ、モルタル、セメントなどの水硬性組成物との親和性に優れた樹脂エマルジョン液が好ましい。樹脂エマルジョン液としては、アクリル酸エステルやメタクリル酸エステルを共重合させた純アクリルエマルジョンあるいはスチレンまたはシリコーンを導入したスチレンアクリルエマルジョンなどのアクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、ウレタン樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル・ベオバ共重合樹脂系エマルジョン、スチレン-ブタジエン樹脂系エマルジョン等が挙げられる。樹脂エマルジョン液の分散媒としては水系媒体が好ましい。水系媒体とすることにより、水硬性組成物との結合が強固になる。水系媒体としては、水単独または水と親水性有機溶媒との混合物が挙げられる。水性エマルジョンは、保護コロイド、界面活性剤、顔料、顔料の湿潤剤、粘度調整剤、凍結融解安定剤、消泡剤、防カビ剤等を含んでいてもよい。また、樹脂溶液には、エポキシ樹脂や溶剤系樹脂等を使用してもよい。
【0023】
図1は、樹脂コーティングされたパイル織物または糸の状態を示す図である。
図1(a)は、パイル地組織を形成する糸と、ループを形成する糸との樹脂コーティングの様子を示す。図1(a)に示すように、パイル地組織を形成する糸1およびループを形成する糸2の表面にエマルジョン樹脂3がコーティングされている。パイル地組織を形成する糸1とループを形成する糸2とが交差する部分4で樹脂3によりコーティングされることで相互に接合される。長繊維の糸1を網目となる交差する部分4で接合するので、相互のほぐれ、捩れの発生を抑制できる。また糸同士の摩擦により繊維が弱くなり切れることもなくなる。また、糸1と糸2とで形成される空隙部5aを有しているので、水硬性組成物が通過し易くなる。
【0024】
図1(b)は、毛羽立ちのある糸表面に樹脂コーティングするときの状態を示す図である。パイル地組織を形成する糸1またはループを形成する糸2の表面には繊維の毛羽立ち1aまたは2aが見られる場合がある(b-1)。この毛羽立ちを覆うようにエマルジョン3aが塗布される(b-2)。その後、乾燥されることにより、エマルジョン樹脂3がコーティングされる(b-3)。エマルジョン3aの乾燥収縮で毛羽立ちのある糸が集束する。その結果、モルタル等の水が毛細管現象や表面張力によりパイル織物に吸収されなくなる。
【0025】
図1(c)は、パイル地組織を形成する糸1同士が交差する部分4aの状態を示す図である。(c-2)は(c-1)のA部拡大図である。
交差する部分4aがエマルジョン樹脂3によりコーティングされるので、パイル地組織の表面積が小さくなる。その結果、モルタル等の水が毛細管現象や表面張力により吸収されなくなる。
【0026】
図2は表面模様を有するループ織物の一断面を表す図である。ループ織物5は、その表面に凹凸模様を形成するために、パイル地組織を形成する糸1に対して、ループを形成する糸2の長さを変えることにより、凹凸模様をつけている。ループ織物5はループおよびパイル地組織により形成される空隙部を残して、接合樹脂により表面コーティングされている。
【0027】
使用する水性エマルジョン液の特性は、対象となるパイル織物の材質、糸の太さ、織り方等によって異なるが、固形分1~60質量%で、粘度が水の粘度から30000mPa・s の範囲であることが好ましい。より好ましい範囲は、固形分5~45質量%で、粘度3000mPa・s以下の範囲である。固形分が1質量%未満であると糸または交差する部分での接合が十分でなく、固形分が60質量%および粘度が30000mPa・sを超えるとパイル織物のループおよび基布により形成される空隙部5aを塞いでしまうおそれがある。
【0028】
樹脂コーティングされるパイル織物における樹脂量は、パイル織物の材質、糸の太さ、織り方、使用箇所等によって異なるが、5~2000g/m2の範囲が好ましく、より好ましい範囲は10~1000g/m2である。この範囲であると、パイル織物のループおよび基布により形成される空隙部を塞ぐことなく全体を一体化できる。
【0029】
水性エマルジョン液3aの塗布方法は、パイル織物の表面に均一に塗布できる方法であれば、特に制限なく使用できる。たとえば、塗布方法として、はけ塗り、スプレー塗装、流し塗り、浸漬塗り、ローラー塗りなどを挙げることができる。本発明に好適な塗布方法としては、均一塗布できる浸漬塗り、またはエアスプレー塗装を挙げることができる。
【0030】
本発明に使用できる水硬性組成物は、水と反応することにより硬化する無機化合物であれば使用できる。たとえばセメント単体、無機混和剤または有機混和剤を1種または2種以上配合したセメント、軽量モルタル、ポリマーモルタル、砂モルタルなどのモルタル、エトリンジャイト、石こう等を使用できる。また、これらの水硬部材に繊維を配合して、繊維含有モルタルとして使用できる。
セメントとしては、ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、焼き石こうなどの水硬性セメント類、高炉セメントや高硫酸塩スラグセメント、石灰スラグセメント、キーンスセメントなどの潜在水硬性セメント類、シリカセメントやフライアッシュセメント、石灰シリカセメント、ケイ酸アルカリ、オキシクロライドセメント、リン酸セメントなどの混合セメント類などを挙げることができる。
モルタル類としては、上記セメント類に、細骨材としての砂などを質量比で(セメント/砂)の割合が(1/2~1/3)にしてこれに水を練り混ぜて得られるものであれば使用できる。また、モルタル類には、軽量骨材、弾性骨材、ポリマー、木片、繊維、無機混和剤、有機混和剤等を配合できる。
また、モルタルは、モルタル全体に対して、含水率10~50質量%であることが好ましい。モルタルの含水率が10質量%未満であると、強度が不足し、流動性が低下し、50質量%を超えると、乾燥後の体積収縮が大きくなり、ひびやクラックが生じやすくなる。
【0031】
躯体表面構造の施工方法において、布地が埋設された水硬性組成物層を躯体表面に形成する工程は、(1)躯体表面に樹脂コーティングされたループ織物を固定した後、湿式工法によりループ織物を水硬性組成物に埋設する工程であるか、または(2)樹脂コーティングされたループ織物が予め埋設されている水硬性組成物からなるボードを躯体表面に固定する工程である。
【0032】
躯体としては、モルタル、コンクリート、石、木、金属、陶磁器、プラスチック、樹脂、発泡樹脂などが挙げられ、これら躯体は単独でも組み合わせられたものでもよい。また、躯体表面は曲面または平面構造であってもよい。
【0033】
樹脂コーティングされた布地を躯体に固定して、湿式工法によりループ織物を埋設する場合、躯体表面に水硬性組成物からなる下塗り層を設けることが好ましい。下塗り層は湿式工法により形成される表面を形成する水硬性組成物と同一であることが好ましい。下塗り層と表面層とがループ織物を介して強固に結合して耐久性に優れた躯体表面構造が得られる。
【0034】
図3は湿式工法によりループ織物を埋設する場合の例を説明する図である。
サイディング、モルタル、コンクリート等で形成される躯体6の表面にモルタルなどの下塗り層7aを形成し、その表面に樹脂コーティングされたループ織物5を固定する。固定時期は下塗り層7aが硬化する前が好ましい。また、固定方法は、例えば、釘、ビス、ステープル等の物理的アンカー8をループ織物5の表面より未硬化の下塗り層7aを介して躯体6の内部まで打ち付けることが好ましい。このようにループ織物5を機械的手段により躯体6に固定することでループ織物5のループ面が下塗り層7aの内部に埋め込まれることで立体的補強効果が図れる。
【0035】
固定されたループ織物5の表面に上塗り層7bとなるモルタル層を鏝などにより形成する。ループ織物5が樹脂コーティングされているので、ループ部分に張りやコシがでる。そのため、鏝などによる押さえに対しても潰れなくなる。このことはループ織物5がループおよび基布により形成される空隙部を残しているので、モルタルがこの空隙部を通過して下塗り層7aと一体となり、ループの立体形状が下塗り層7aおよび上塗り層7b内で維持される。
【0036】
図4は、表面模様を有するループ織物5を用いた場合の断面図である。躯体6の表面にモルタルなどの下塗り層7aを形成し、接合樹脂により表面コーティングされているループ織物5を固定する。その後上塗り層7bを鏝塗り等により上塗りする。上塗り層7bの層厚さを少なくすることで、ループ織物5の凹凸模様が浮き出ることになり、意匠性に優れた躯体表面構造が施工できる。
【0037】
図5は、樹脂コーティングされたループ織物が予め埋設されている水硬性組成物からなる躯体表面施工用ボードを躯体表面に固定する工程の一例を示す図である。
図5(a)~(c)はボード10の製造工程を示し、図5(d)はボード10が躯体表面に固定された状態を示す図である。
図5(a)に示すように、合板などの型枠9に樹脂コーティングされたループ織物5を物理的アンカー8で仮止めする。その後、図5(b)に示すように、ループ織物5を埋設するようにモルタル、コンクリート等の水硬性組成物7b’を打設する。最後に、図5(C)に示すように、型枠9を取り外すことにより躯体表面施工用ボード10が完成する。
また、図5(d)に示すように、この躯体表面施工用ボード10を用いて、モルタルなどの下塗り層7aを形成した躯体6の表面に固定することで躯体表面構造が得られる。
【0038】
躯体表面施工用ボード10を躯体表面に固定する工程において、躯体表面施工用ボード10は、ループ織物5に水硬性組成物を含浸させて未硬化湿布状の布地状態で、躯体6の表面に貼り付け固定し、その後、硬化させることができる。
【0039】
本発明の施工方法によって得られる躯体表面構造は、それ自体としてループ織物による凹凸形状等に基づく意匠性に優れた表面構造である。さらに、ループ織物が埋設されている躯体表面構造を、例えば、タイル圧着工法の下地層とすることができる。
図6は、タイル圧着工法の下地層として用いた場合の一例を示す図である。
ループ織物5に水硬性組成物を含浸させた未硬化湿布状の布地を、躯体6の表面に物理的アンカー8で固定する。その後、未硬化湿布状の布地上表面にタイル11を圧着しながら貼り進める。タイル面の目地部分はループ織物5が圧着されていないので、ループ部分2cが目地部分内部でタイル側面11a側に存在することにより、目地の亀裂、剥落を防止し、タイル11の落下を防ぐことができる。また、タイル裏面11b側に存在するループ部分2dはタイルにより圧縮され緻密になるので、タイルの補強や密着性が向上し、タイルの亀裂、剥落を防止できる。ループ織物5自身は物理的アンカー8で固定されているので、タイル面の耐久性が向上する。このように、未硬化湿布状の布地をタイル圧着工法の下地層として用いることにより、ループ織物のループ部分による拘束力と弾性力により、躯体に印加される水平・垂直応力からなる3次元応力と、タイルに加わる応力を同時に減衰させ、タイルの亀裂を防止できる。また、施工性、安全性、耐久性の全てが向上する。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の外壁構造の施工方法は、1回の塗工ですむため施工が容易であり施工後の表面モルタル層に剥離や亀裂の生じることのない、耐久性に優れた外壁構造が得られるので、建築物の外壁に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 パイル地組織を形成する糸
2 ループを形成する糸
3 エマルジョン樹脂
4 交差する部分
5 ループ織物
6 躯体
7 水硬性組成物層
7a 下塗り層
7b 上塗り層
8 物理的アンカー
9 型枠
10 躯体表面施工用ボード
11 タイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7