(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-31
(45)【発行日】2022-04-08
(54)【発明の名称】脱硝触媒成型体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/22 20060101AFI20220401BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220401BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220401BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20220401BHJP
【FI】
B01J23/22 A
B01J37/08 ZAB
B01J37/02 301Z
B01D53/86 222
(21)【出願番号】P 2021554375
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002437
【審査請求日】2021-09-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】清永 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和広
(72)【発明者】
【氏名】盛田 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】村山 徹
(72)【発明者】
【氏名】猪股 雄介
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-182067(JP,A)
【文献】特開2005-144299(JP,A)
【文献】特開2004-081995(JP,A)
【文献】特開平05-154351(JP,A)
【文献】国際公開第2018/047378(WO,A1)
【文献】RULIANG,Ning, et al.,Applicability of V2O5-WO3/TiO2 Catalysts for the SCR Denitrification of Alumina Calcining Flue Gas,Catalysts,2019年,vol.9,p.220, 1-11,DOI:10.3390/catal9030220
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱硝触媒が担持されてなる脱硝触媒成型体であって、
前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを主成分として、第2の金属を含有し、
前記第2の金属Mが、Li、Na、K、Mg、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種であ
り、
前記酸化バナジウムは、V
2
O
5
であり、前記脱硝触媒中に50wt%以上含まれ、
前記第2の金属は、前記V
2
O
5
に対するモル比が0.16~0.66である、脱硝触媒成型体。
【請求項2】
脱硝触媒が担持されてなる脱硝触媒成型体であって、
前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを主成分として、第2の金属を含有し、
前記酸化バナジウムは、V
2
O
5
であり、前記脱硝触媒中に50wt%以上含まれ、
前記第2の金属Mは、Naであり、
Na
0.33
V
2
O
5
結晶相を含む、脱硝触媒成型体。
【請求項3】
前記第2の金属は、Li、Na、Kのうち少なくとも何れかであ
る、請求項1に記載の脱硝触媒成型体。
【請求項4】
拡散反射UV-Visスペクトルにおける400nmの吸収強度で規格化される、400nmの吸収強度に対する700nmの吸収強度の比(400nm:700nm)が、1:0.45~1:0.88である、請求項1~3いずれかに記載の脱硝触媒成型体。
【請求項5】
前記脱硝触媒、及び前記脱硝触媒の前駆体のうち、少なくともいずれかを含む、請求項1~4いずれかに記載の脱硝触媒成型体の製造に用いられる脱硝触媒塗布液。
【請求項6】
バインダー成分としてTiを含む、請求項5に記載の脱硝触媒塗布液。
【請求項7】
請求項1~4いずれかに記載の脱硝触媒成型体の製造方法であって、
前記脱硝触媒又は前記脱硝触媒の前駆体を担体に塗布する塗布工程と、
前記脱硝触媒又は前記脱硝触媒の前駆体が塗布された前記担体を焼成する焼成工程と、を含む、脱硝触媒成型体の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程における焼成温度は、260℃~400℃である、請求項7に記載の脱硝触媒成型体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝触媒成型体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料の燃焼により大気中に排出される汚染物質の一つとして、窒素酸化物(NO,NO2,NO3,N2O,N2O3,N2O4,N2O5)が挙げられる。窒素酸化物は、酸性雨、オゾン層破壊、光化学スモッグ等を引き起こし、環境や人体に深刻な影響を与えるため、その処理が重要な課題となっている。
【0003】
上記の窒素酸化物を取り除く技術として、アンモニア(NH3)を還元剤とする選択的触媒還元反応(NH3-SCR)が知られている。特許文献1に記載のように、選択的触媒還元反応に用いられる触媒としては、酸化チタンを担体とし、酸化バナジウムを担持した触媒が広く使用されている。酸化チタンは硫黄酸化物に対して活性が低く、また安定性が高いため最も良い担体とされている。
【0004】
一方で、酸化バナジウムはNH3-SCRにおいて主要な役割を果たすものの、SO2をSO3に酸化するので、触媒中に酸化バナジウムを1wt%程度以上担持できなかった。また、従来のNH3-SCRでは、酸化チタン担体に酸化バナジウムを担持させた触媒が低温ではほとんど反応しないので,350-400℃という高温で使用せざるを得なかった。
【0005】
その後、本発明者らは、五酸化バナジウムが43wt%以上存在し、BET比表面積が30m2/g以上であり、200℃以下での脱硝に用いられる脱硝触媒を見出した(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-275852号公報
【文献】国際公開第2018/047356号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載された脱硝触媒は、200℃以下で好ましい脱硝率を得ることができるが、実際に脱硝触媒が用いられる条件は水蒸気が共存するケースが多く、水蒸気存在下における脱硝率に未だ改善の余地があった。本発明者らは、上記特許文献2に開示された脱硝触媒の更なる改良を試みて鋭意検討した結果、特に200℃以下かつ水蒸気存在下における好ましい脱硝率が得られる脱硝触媒成型体を見出した。
【0008】
本発明は、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、低温かつ水蒸気存在下における脱硝率に優れた脱硝触媒成型体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明は、脱硝触媒が担持されてなる脱硝触媒成型体であって、前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを主成分として、第2の金属を含有し、前記第2の金属Mが、Li、Na、K、Mg、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種である、脱硝触媒成型体に関する。
【0010】
(2) 前記酸化バナジウムは、V2O5であり、前記第2の金属は、Li、Na、Kのうち少なくとも何れかであり、前記第2の金属は、前記酸化バナジウムに対するモル比が0.16~0.66である、(1)に記載の脱硝触媒成型体。
【0011】
(3) 前記脱硝触媒は、Na0.33V2O5結晶相を含む、請求項1又は2に記載の脱硝触媒成型体。
【0012】
(4) 前記脱硝触媒は、拡散反射UV-Visスペクトルにおける400nmの吸収強度で規格化される、400nmの吸収強度に対する700nmの吸収強度の比(400nm:700nm)が、1:0.45~1:0.88である、(1)~(3)いずれかに記載の脱硝触媒成型体。
【0013】
(5) 前記脱硝触媒、及び前記脱硝触媒の前駆体のうち、少なくともいずれかを含む、(1)~(4)いずれかに記載の脱硝触媒成型体の製造に用いられる脱硝触媒塗布液。
【0014】
(6) バインダー成分としてTiを含む、(5)に記載の脱硝触媒塗布液。
【0015】
(7) (1)~(4)いずれかに記載の脱硝触媒成型体の製造方法であって、前記脱硝触媒又は前記脱硝触媒の前駆体を担体に塗布する塗布工程と、前記脱硝触媒又は前記脱硝触媒の前駆体が塗布された前記担体を焼成する焼成工程と、を含む、脱硝触媒成型体の製造方法。
【0016】
(8) 前記焼成工程における焼成温度は、260℃~400℃である、(7)に記載の脱硝触媒成型体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、低温かつ水蒸気存在下における脱硝率に優れた脱硝触媒成型体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第2金属として各金属元素を含む脱硝触媒の脱硝率を示すグラフである。
【
図2】各脱硝触媒の脱硝率と脱硝温度との関係を示すグラフである。
【
図3】脱硝触媒の組成比と脱硝率との関係を示すグラフである。
【
図4】脱硝触媒の組成比と結晶相との関係を示すXRDチャートである。
【
図5】脱硝触媒の組成比とBET比表面積との関係を示すグラフである。
【
図6】脱硝触媒の焼成温度と脱硝率との関係を示すグラフである。
【
図7】脱硝触媒の焼成温度と結晶相との関係を示すXRDチャートである。
【
図8】脱硝触媒のTG-DTA測定結果を示すグラフである。
【
図9】脱硝触媒の焼成温度と拡散反射UV-Visスペクトルとの関係を示すグラフである。
【
図10】
図9から規格化される吸収強度の比(400nm:700nm)と脱硝率との関係を示すグラフである。
【
図11】各実施例に係る脱硝触媒の触媒重量と脱硝率との関係を示すグラフである。
【0019】
<脱硝触媒成型体>
本実施形態に係る脱硝触媒成型体は、脱硝触媒がハニカム基材等の担体に担持されてなる。上記担体としては、特に制限されず、従来公知のハニカム基材等の担体を用いることができる。例えば、アルミニウム、スズ、ステンレス等からなる金属製ハニカム基材を用いてもよいし、酸化チタン、コージェライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ゼオライト等を主成分とするセラミックス製ハニカム基材を用いてもよい。
【0020】
<脱硝触媒>
本実施形態に係る脱硝触媒は、酸化バナジウムを主成分として、第2の金属を含有する。上記第2の金属は、Li、Na、K、Mg、及びCaからなる群から選ばれる少なくとも一つである。本実施形態に係る脱硝触媒は、従来用いられている脱硝触媒と比較して、低温環境下かつ水蒸気存在下でも高い脱硝率を発揮する。
【0021】
以下の説明において、脱硝率をNO転化率として表現する場合がある。NO転化率は、以下の式(1)で示される。
NO転化率(%)=(脱硝反応前のNO濃度-脱硝反応後のNO濃度)/(脱硝反応前のNO濃度)×100 (1)
【0022】
(酸化バナジウム)
本実施形態に係る脱硝触媒に用いられる酸化バナジウムとしては、例えば、酸化バナジウム(II)(VO)、三酸化バナジウム(III)(V2O3)、四酸化バナジウム(IV)(V2O4)、及び五酸化バナジウム(V)(V2O5)が挙げられる。酸化バナジウムとしては、五酸化バナジウムであることが好ましい。五酸化バナジウムのV原子は、脱硝反応中、5価、4価、3価、又は2価の価数を有してもよい。
【0023】
酸化バナジウムは、脱硝触媒中に五酸化バナジウム換算で50wt%以上含まれることが好ましく、60wt%以上存在することがより好ましい。
【0024】
(第2の金属)
本実施形態に係る脱硝触媒に用いられる第2の金属は、Li、Na、K、Mg、及びCaからなる群から選ばれる少なくとも一つである。酸化バナジウムを主成分とする脱硝触媒に上記第2の金属が含まれることにより、従来の脱硝触媒と比較して、低温環境下かつ水蒸気存在下でも高い脱硝率を発揮できる。
【0025】
[第2の金属の含有量]
第2の金属は、酸化バナジウムとして五酸化バナジウム(V)(V2O5)を用いた場合の五酸化バナジウム(V)(V2O5)に対するモル比が、0.16~0.66であることが好ましく、0.33~0.66であることがより好ましい。第2の金属の五酸化バナジウム(V)(V2O5)に対するモル比が、0.16~0.66であることが好ましい理由としては、上記モル比とすることにより、第2の金属と五酸化バナジウム(V)(V2O5)とが特定の結晶相を形成し、この結晶相が特に低温かつ水蒸気存在下における高い脱硝率に寄与するものと考えられる。
【0026】
[脱硝触媒の結晶相]
第2の金属としてのNaと、五酸化バナジウム(V)(V2O5)とが形成する結晶相としては、Na0.33V2O5結晶相を含むことが好ましい。Na0.33V2O5結晶相は、C2/mに帰属される単斜晶型の結晶構造である。他にNaと、五酸化バナジウム(V)(V2O5)とが形成する結晶相としては、P21/mに帰属される単斜晶型の結晶構造を有する、Na1.2V3O8結晶相が挙げられる。
【0027】
[脱硝触媒の比表面積]
脱硝触媒は、その比表面積が大きいほど反応サイトが増大し、高い脱硝率が得られることが期待される。しかし、本実施形態に係る脱硝触媒は、比表面積が単に大きいというだけでなく、脱硝触媒が上記好ましい結晶相を含むことがより重要である。
【0028】
[脱硝触媒の焼成温度]
本実施形態に係る脱硝触媒は、詳細は後述するが、例えば、酸化バナジウムと第2の金属とを含む前駆体を焼成することで得られる。上記焼成時の温度は、260~400℃であることが好ましく、300~400℃とすることがより好ましい。
【0029】
脱硝触媒の焼成温度を260℃以上とすることで、酸化バナジウムと第2の金属とを含む前駆体が分解されて、Na0.33V2O5結晶相が生成すると考えられる。また、脱硝触媒の焼成温度が上がるにつれて、V2O5からOが脱離し、脱硝触媒中のV4+の割合が増加する。脱硝反応はV5+とV4+の酸化還元サイクルで進行するため、好ましいV5+とV4+の割合が存在するものと考えられる。脱硝触媒の焼成温度を400℃以下とすることで、V5+とV4+の割合が好ましい割合になるものと推察される。
【0030】
[拡散反射UV-Visスペクトル]
脱硝触媒中に存在するV5+とV4+の割合は、公知の方法により測定できる拡散反射UV-Visスペクトルにより推定できる。拡散反射UV-Visスペクトルの400nmにおける吸収強度は、脱硝触媒中のV5+の量に相当する。同様に、拡散反射UV-Visスペクトルの700nmにおける吸収強度は、脱硝触媒中のV4+の量に相当する。従って、拡散反射UV-Visスペクトルの400nmの吸収強度で規格化される、400nmにおける吸収強度と700nmにおける吸収強度との比(400nm:700nm)により、脱硝触媒中の好ましいV5+とV4+の割合を示すことができる。上記吸収強度の比(400nm:700nm)は、1:0.45~1:0.88であることが好ましい。
【0031】
(他の物質)
本実施形態に係る脱硝触媒は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の物質を含有していてもよい。例えば、本実施形態に係る脱硝触媒は、上記以外に更に炭素を含有することが好ましい。脱硝触媒が不純物として炭素を含むことで、上述した酸化バナジウムの結晶構造において結晶格子中の線や面にひずみが生じることにより、低温環境下における高い脱硝率を発揮できると考えられる。炭素の含有量は、脱硝触媒中において0.05wt%以上3.21wt%以下であることが好ましい。上記炭素の含有量は、0.07wt%以上3.21wt%以下であることがより好ましい。上記炭素の含有量は、0.11wt%以上3.21wt%以下であることがより好ましい。上記炭素の含有量は、0.12wt%以上3.21wt%以下であることがより好ましい。上記炭素の含有量は、0.14wt%以上3.21wt%以下であることがより好ましい。上記炭素の含有量は、0.16wt%以上3.21wt%以下であることがより好ましい。上記炭素の含有量は、0.17wt%以上3.21wt%以下であることがより好ましい。上記炭素の含有量は、0.70wt%以上3.21wt%以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態に係る脱硝触媒は、350℃以下の脱硝反応に用いられることが好ましい。また、反応温度300℃以下での脱硝反応においても高い脱硝率が得られるため好ましい。反応温度200℃以下での脱硝反応においては、SO2からSO3への酸化が発生しないため好ましい。上記反応温度は100~250℃であることがより好ましく、上記反応温度は160~200℃であることが更に好ましい。上記反応温度は80~150℃であってもよい。また、脱硝触媒として五酸化バナジウム(V)(V2O5)のみを含有する脱硝触媒は、反応温度を300℃以上とした場合、比表面積が低下する等、触媒自体が変化してしまい、反応温度を300℃以上にすることができない。第2の金属を有する本実施形態に係る脱硝触媒は、反応温度を300℃以上とした場合であっても高い脱硝率を維持できる。
【0033】
<脱硝触媒塗布液>
上記脱硝触媒をハニカム基材等の担体に担持させる際には、上記脱硝触媒成分を含む脱硝触媒塗布液が用いられる。脱硝触媒塗布液としては、脱硝触媒の粉体及びバインダーを水に分散させたものを用いてもよいし、脱硝触媒の前駆体の濃厚溶液を用いてもよい。
【0034】
脱硝触媒と共に脱硝触媒塗布液に含まれるバインダー成分は、脱硝触媒を後述する担体上に固着させて担持させる。バインダー成分は、Tiを含むことが好ましい。バインダー成分としてTiが含まれることで、脱硝触媒の触媒活性を好ましく維持できる。
【0035】
バインダー成分として含まれるTiは、例えば、酸化物、複合酸化物、窒化物、有機及び無機塩等の化合物として含まれていてもよい。Tiは、二酸化チタン(TiO2)としてバインダー成分に含まれることが好ましい。二酸化チタン(TiO2)の結晶構造は、ルチル型、アナターゼ型及びブルッカイト型のうちいずれであってもよい。二酸化チタン(TiO2)の粒子径は、特に制限されないが、例えば5~50nmであることが好ましい。
【0036】
バインダー成分としては、Ti以外の無機成分が含まれていてもよい。例えば、本発明の効果を阻害しない範囲で、Al、Zr、Si等の無機成分が含まれていてもよい。これらの無機成分は、特に制限されず、酸化物、複合酸化物、窒化物、有機及び無機塩等の化合物として含まれていてもよい。上記以外に、バインダー成分には、粘度調整用に有機成分が含まれていてもよい。例えば、有機成分として、エチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸のうち少なくともいずれかが含まれていてもよい。
【0037】
《脱硝触媒の製造方法》
本実施形態に係る脱硝触媒は、例えば、以下のようにして製造できる。まず、脱硝触媒に含まれる各成分を含有する前駆体を調製する。脱硝触媒に含まれる酸化バナジウムは、例えば、バナジン酸塩の水溶液として前駆体中に含有される。上記バナジン酸塩としては、例えば、メタバナジン酸アンモニウム、バナジン酸マグネシウム、バナジン酸ストロンチウム、バナジン酸バリウム、バナジン酸亜鉛、バナジン酸鉛、バナジン酸リチウム等を用いてもよい。
【0038】
脱硝触媒における第2の金属は、例えば、各金属の硝酸塩、塩化物、硫酸塩、キレート錯体、水和物、アンモニウム化合物、リン酸化合物を上記バナジン酸の水溶液に混合させることで前駆体中に含有される。キレート錯体としては、例えば、シュウ酸やクエン酸等の錯体が挙げられる。
【0039】
上記調整した脱硝触媒の前駆体溶液を蒸発乾固することで、脱硝触媒の前駆体の粉体が得られる。上記前駆体の粉体を所定の温度及び時間で焼成する焼成工程により、脱硝触媒の粉体が得られる。焼成工程における焼成温度は、上記したように260~400℃であることが好ましく、300~400℃とすることがより好ましい。
【0040】
《脱硝触媒塗布液の調製方法》
本実施形態に係る脱硝触媒塗布液は、上記脱硝触媒と、バインダー成分とを混合することで調製される。又は、脱硝触媒塗布液として、上記調整した脱硝触媒の前駆体溶液の水分の一部を蒸発させて調製した、濃厚溶液を用いることもできる。これにより、脱硝触媒の焼成工程を省略することができるため、脱硝触媒成型体の製造にかかるコストを低減できる。
【0041】
脱硝触媒におけるTiを含むバインダー成分は、例えば二酸化チタン等のチタン化合物の粉体を用いて脱硝触媒塗布液に混合してもよいし、Tiを含む化合物のゾルやスラリー等の分散体又は流動体を用いて脱硝触媒塗布液に混合してもよい。例えば、二酸化チタン(TiO2)を分散質として含むゾルとしては、水を分散媒とし、塩酸や硝酸等の強酸を分散安定剤として用いたもの、又はシリカ、アルミニウム化合物、リン酸塩等による表面処理により液性が中性で分散安定性が付与されたもの等が挙げられる。
【0042】
脱硝触媒塗布液を調製する際に、上記以外の成分を含有させてもよい。例えば、ケッチェンブラックや、エチレングリコール、含酸素官能基を有するポリマー等の炭素成分を含有させてもよい。含酸素官能基を有するポリマーとしては、例えば、ポリアクリル酸等が挙げられる。上記以外に、脱硝触媒塗布液に、キレート化合物を含有させてもよい。キレート化合物としては、例えば、シュウ酸やクエン酸等の複数のカルボキシル基を有する化合物、アセチルアセトナート、エチレンジアミン等の複数のアミノ基を有する化合物、エチレングリコール等の複数のヒドロキシル基を有する化合物等が挙げられる。また、脱硝触媒塗布液のpHを調整するため、硝酸等の酸成分やアンモニア等のアルカリ成分を含有させてもよい。
【0043】
《脱硝触媒成型体の製造方法》
本実施形態に係る脱硝触媒成形体の製造方法は、上記調製した脱硝触媒塗布液をハニカム基材等の担体に塗布する塗布工程と、脱硝触媒塗布液が塗布されたハニカム基材等の担体を乾燥させる乾燥工程と、脱硝触媒塗布液が塗布されたハニカム基材等の担体を焼成する焼成工程と、を含む。
【0044】
塗布工程は、脱硝触媒塗布液をハニカム基材等の細孔内部を含む担体表面に均一に塗り広げる工程である。塗布工程としては、特に制限されない。例えば、ハニカム基材等の担体を上記調製された脱硝触媒塗布液に浸漬させる方法や、スプレーによる塗布等、触媒塗布の方法として公知の方法を広く用いることができる。
【0045】
乾燥工程は、触媒塗布液に含有される水等の溶媒を蒸発させて乾燥させる工程である。乾燥温度は特に制限されず、例えば120℃とすることができる。
【0046】
焼成工程は、脱硝触媒塗布液が塗布されたハニカム基材等の担体を所定の温度で焼成する工程である。焼成温度は、例えば260℃~400℃とすることが好ましく、300~400℃とすることがより好ましい。
【0047】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0049】
<脱硝触媒の調製>
バナジン酸アンモニウム(NH4VO3)とシュウ酸((COOH)2)とを純水に溶解させ、前駆体錯体溶液を合成した。この前駆体錯体溶液に対し、第2の金属であるNaの硝酸塩を、組成式でNa0.66V2O5となる量添加して混合し、脱硝触媒の前駆体溶液を得た。上記前駆体溶液を蒸発乾固させ、大気中で300℃の温度で4時間、2回焼成することにより、実施例に係る脱硝触媒を得た。第2の金属として、他の金属を含む実施例、Naの組成比を変更した実施例及び、第2の金属を添加しない比較例についても上記と同様の手順で脱硝触媒を調製した。
【0050】
[第2金属の有無と脱硝率]
図1は、五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)を主成分とし、第2の金属として、Li、Na、K、Mg、又はCaをそれぞれ用いた各実施例に係る脱硝触媒と、五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)のみを用いた比較例に係る脱硝触媒(none)の脱硝率を比較するグラフである。
図1の縦軸はNO転化率を示す。第2の金属として、アルカリ金属であるLi、Na又はKを用いた脱硝触媒は、第2の金属をMとした場合における組成式でM
0.66V
2O
5となる量用いた。第2の金属として、アルカリ土類金属であるMg、又はCaを用いた脱硝触媒は、第2の金属をMとした場合における組成式でM
0.33V
2O
5となる量用いた。触媒量は0.375gとし、反応温度を150℃とした。反応ガスとして、
図1における「Dry」の場合、NO(250ppm)、NH
3(250ppm)、4体積%O
2、Arガス中とし、ガス流量を250ml/minとした。
図1における「Wet」の場合、「Dry」の反応ガスに対して更に10体積%のH
2Oを含む反応ガスとした。
【0051】
図1に示すように、酸化バナジウムを主成分とし、第2の金属としてLi、Na、K、Mg、又はCaをそれぞれ用いた各実施例に係る脱硝触媒は、酸化バナジウムのみを含む比較例に係る脱硝触媒と比較して、特に水蒸気存在下における高いNO転化率を示すことが明らかである。
【0052】
[第2金属の種類及び反応温度と脱硝率]
図2は、五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)を主成分とする実施例及び比較例に係る脱硝触媒の、反応温度と脱硝率(NO転化率)との関係を示すグラフである。
図2中、「VO」は、五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)のみを含有する比較例を示す。「V-W/TiO
2」は、工業触媒を模した比較例であり、1wt%V
2O
5、5wt% WO
3/TiO
2の組成を有する。「Na-V」及び「Mg-V」は、五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)を主成分とし、それぞれ第2の金属としてNa及びMgを含有する、
図1と同様の組成を有する実施例に係る脱硝触媒を示す。
図2中の「Dry」及び「Wet」の反応ガス条件は
図1と同一であり、反応温度を変更したこと以外は、
図1と同じ条件でNO転化率を測定した。
【0053】
図2に示すように、酸化バナジウムを主成分とし、第2の金属として、Na又はMgをそれぞれ用いた脱硝触媒は、比較例に係る脱硝触媒と比較して、特に120℃以下の低温時における高いNO転化率を示すことが明らかである。また、五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)のみを含有する比較例は反応温度を300℃以上にすることが不可能であったが、実施例に係る脱硝触媒は、反応温度を300℃以上、350℃程度とした場合であっても、80%以上の高いNO転化率を示すことが確認された。
【0054】
[第2の金属の含有量]
図3は、酸化バナジウムとして五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)を用い、第2の金属としてNaを用いた場合における脱硝触媒の組成とNO転化率との関係を示すグラフである。
図3における横軸は、五酸化バナジウムに対するNaのモル比を示し、
図3における縦軸は、NO転化率を示す。
図3における「Dry」及び「Wet」の条件は、
図1における条件と同一である。
図3に示すように、五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)に対するNaのモル比が、0.16~0.66の範囲内であることで、高いNO転化率が得られることが明らかである。
【0055】
[脱硝触媒の結晶相]
図4は、第2の金属としてNaを用い、Naの五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)に対するモル比を変化させた場合におけるXRDチャートを示すグラフである。
図3に示すように、脱硝触媒の組成をそれぞれV
2O
5、Na
0.33V
2O
5、Na
1.00V
2O
5、とした場合に観察されるピークはそれぞれV
2O
5(1)、Na
0.33V
2O
5(2)、Na
1.2V
3O
8(3)の単相の結晶相に帰属するピークである。一方、脱硝触媒の組成をNa
0.16V
2O
5とした場合は上記(1)と(2)の結晶相に帰属するピークがいずれも観察された。また、脱硝触媒の組成をNa
0.46V
2O
5又はNa
0.66V
2O
5とした場合は上記(2)と(3)の結晶相に帰属するピークがいずれも観察された。従って、
図3の結果と併せて考察すると、上記(2)のNa
0.33V
2O
5結晶相が脱硝触媒に含まれることによって、高い脱硝率が得られているものと推察される。
【0056】
[脱硝触媒の比表面積]
図5は、脱硝触媒の比表面積と組成との関係を示すグラフである。
図5の縦軸は脱硝触媒のBET比表面積(m
2/g)を示し、
図5の横軸は、酸化バナジウムとして五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)を用い、第2の金属としてNaを用いた場合における脱硝触媒の組成を示す。
図5から、Naの割合を増大させると共に脱硝触媒の比表面積が低下することが明らかである。一方で、
図5と
図3の結果を照合すると、比表面積とNO転化率の関係は、特にNaの五酸化バナジウム(V)(V
2O
5)に対する割合が0.66以下である場合において、比例関係にないことが明らかである。従って、脱硝触媒が、単に大きな比表面積を有することよりも、(2)のNa
0.33V
2O
5結晶相を含むことが、高い脱硝率により寄与することが明らかである。
【0057】
[脱硝触媒の焼成温度]
図6は、脱硝触媒の焼成温度とNO転化率との関係を示すグラフである。
図6の縦軸はNO転化率を示し、
図6の横軸は脱硝触媒の焼成温度(℃)を示す。
図6から、脱硝触媒の焼成温度を300~400℃とすることで、脱硝触媒の高いNO転化率が得られることが明らかである。
【0058】
図7は、脱硝触媒の焼成温度を変化させた場合におけるXRDチャートを示すグラフである。
図7において、脱硝触媒としては組成をNa
0.33V
2O
5としたものを用いた。
図7の結果から、いずれの焼成温度においても上記(2)のNa
0.33V
2O
5結晶相に帰属するピークが観察された。このため、焼成温度が異なることによるNO転化率の相違は、結晶相の種類に起因するものではないことが明らかである。
【0059】
図8は、組成がNa
0.33V
2O
5である脱硝触媒前駆体の加熱による重量変化を、TG-DTA(熱重量・示差熱同時分析)によって測定した結果を示すチャートである。
図8中、実線がTG(熱重量分析)曲線を示し、破線がDTA(示唆熱分析)曲線を示す。
図8の左縦軸はTG曲線に対応する初期重量に対する重量割合(%)を示し、右縦軸はDTA曲線に対応する基準物質との温度差(μV)を示す。
図8の横軸は温度(℃)を示す。
図8のTG曲線の結果から、260℃~300℃にかけて、顕著な重量減少が発生していることが明らかである。DTA曲線の結果から、300℃付近で大きな発熱ピークが観察された。従って、前駆体の焼成温度を260℃以上とした場合に、Na
0.33V
2O
5結晶相が形成されることが推察される。
【0060】
図9は、組成がNa
0.33V
2O
5である脱硝触媒前駆体の焼成温度を、それぞれ300℃、400℃、500℃、600℃とした脱硝触媒の拡散反射UV-Visスペクトルを、波長400nmの吸収強度で規格化したグラフである。
図9の縦軸は、定量分析に用いられるK-M関数を示し、横軸は波長(nm)を示す。拡散反射UV-Visスペクトルは、紫外可視近赤外分析光度計(UV-3100PC、島津製作所製)で測定した。
図9から算出される、400nmの吸収強度に対する700nmの吸収強度の相対強度の比(400nm:700nm)は、焼成温度を300℃とした脱硝触媒において1:0.45であった。同様に、焼成温度が400℃の場合には(400nm:700nm)は1:0.88であり、焼成温度が500℃の場合には(400nm:700nm)は1:1.35であり、焼成温度が600℃の場合には(400nm:700nm)は1:1.69であった。
【0061】
図10は、
図9の結果と
図6の結果を照合したグラフである。
図10の縦軸はNO転化率(%)を示し、横軸は波長400nmの吸収強度に対する700nmの吸収強度の相対強度の割合(700nm/400nm)を示す。
図10の結果から、好ましい(400nm:700nm)は1:0.45~1:0.88であることが明らかである。
【0062】
図11は、各実施例にかかる脱硝触媒成型体の触媒担持量と、NO転化率との関係を示すグラフである。
図11縦軸はNO転化率(%)を示し、横軸は触媒担持量(g)を示す。各実施例にかかる脱硝触媒成型体は組成がNa
0.33V
2O
5である脱硝触媒及びバインダー成分、並びに脱硝触媒前駆体の濃厚溶液をそれぞれ脱硝触媒塗布液とし、ハニカム成形体(5×5×50mm)に塗布して乾燥乾固させ、大気中で300℃の温度で4時間焼成することで得た。
図11においてNO転化率(%)を測定した際の条件は、ガス流量を150ml/minとしたこと以外は
図1と同様とした。触媒担持量は、脱硝触媒塗布液の塗布及び蒸発乾固を繰り返す回数により調整した。各実施例に係る脱硝触媒塗布液の構成は、以下の表1に示す通りである。
【0063】
【0064】
表1中、バインダー成分の「TKS202」は、二酸化チタンゾル(テイカ株式会社)を示し、「KB」はケッチェンブラックを示し、「EG」はエチレングリコールを示す。実施例5の脱硝触媒塗布液は、脱硝触媒のみで、バインダー成分を添加しなかった。実施例6の脱硝触媒塗布液は、組成がNa0.33V2O5である脱硝触媒前駆体水溶液(V換算の濃度0.83mol/L)を体積が約1/5となるまで濃縮した濃厚溶液を用いた。
【0065】
図11に示す結果から、各実施例に係る脱硝触媒成型体のNO転化率は、触媒担持量にほぼ比例することが明らかとなった。従って、脱硝触媒塗布液としてバインダー成分を用いない実施例や、脱硝触媒塗布液として脱硝触媒前駆体の濃厚溶液を用いた実施例についても、他の実施例に係る脱硝触媒成型体と同等のNO転化率が得られることが明らかである。
【要約】
アンモニアを還元剤とする選択的触媒還元反応の際、低温かつ水蒸気存在下における脱硝率に優れた脱硝触媒成型体を提供する。
脱硝触媒が担持されてなる脱硝触媒成型体であって、前記脱硝触媒は、酸化バナジウムを主成分として、第2の金属を含有し、第2の金属が、Li、Na、K、Mg、及びCaからなる群より選ばれる少なくとも1種である、脱硝触媒成型体。第2の金属として、上記アルカリ金属又はアルカリ土類金属を用いることで、低温かつ水蒸気存在下における脱硝率に優れた結晶相を有する化合物が生成する。